説明

金属シリコンベース接合材料および接合体並びにその製造方法

【課題】 珪素系セラミックスを高い耐熱性を以て相互に接合できる接合材料、および高い耐熱性を有する珪素系セラミック接合体並びにその接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】 封着材56の主成分である珪素は窒化珪素の主構成元素であることから、この封着材56を用いて窒化珪素から成る多孔質円筒12およびエンドキャップ18を相互に接合するに際して、その相互間に介在させられた封着材56は、珪素および窒素の相互拡散によって、被接合体と一体化する。しかも、珪素は融点が高いことから、単独で接合材料として用いることは困難であるが、それよりも低融点であって珪素と固溶するゲルマニウムと共に用いると、封着材56の融点がその混合割合に応じて低下する。この結果、窒化珪素から成る両部材が高い気密性を以て接合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪素系セラミックスを相互に接合するための接合材料およびその接合材料により接合された接合体並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
珪素系セラミックス、例えば、窒化珪素セラミックスは、高強度で高い耐熱性および耐摩耗性を有することから、熱効率向上や軽量化等を目的として、内燃機関等の構造部品材料に使用されている。また、加圧流動床燃焼複合発電や石炭ガス化複合発電等の発電システム用途では、熱効率向上を目的として、例えば1000(℃)程度の或いはそれ以上の高温で使用できる除塵フィルタやガス分離フィルタ、使用温度が800(℃)以上になる溶融炭酸塩形燃料電池発電システム等のメンブレンリアクター等の開発が行われているが、このような用途では、処理能力向上のために大型化することも要求されている。
【0003】
ところで、セラミックスは硬く且つ脆いことから、加工できる形状の制限が大きく、しかも複雑な形状を得ようとすると加工費用が著しく増大する。セラミックスを耐熱性や耐摩耗性が特に要求される部分のみに用い、他の部分を金属等の他材料で構成して、これらを接合して一体化することも行われているが、接合される金属等の構造体やろう材の耐熱性等が利用上の制約となる。また、何れにしても、製造し得るのは比較的小さな構造物に限られていた。
【0004】
これに対して、セラミックスを相互に接合することにより、耐熱性や耐摩耗性が高く且つ大型或いは複雑な形状の構造体を得ることが提案されている(例えば、特許文献1,2等参照)。
【特許文献1】特開昭61-132569号公報
【特許文献2】特開平6-115009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1には、窒化珪素系セラミックスを相互に接合するために、珪素(Si)とカルシウム(Ca)またはマグネシウム(Mg)とを含む合金を用いることが記載されている。この合金において、CaおよびMgは合金すなわち接合材料の融点を低下させ、濡れ性を向上させる役割を果たしていると考えられる。また、上記特許文献2には、同一組成のセラミック焼結体を相互に接合するために、そのセラミック焼結体の構成成分である金属或いはその合金を用いることが記載されている。これらの接合方法によれば、突き合わせた界面を加圧しつつ加熱して拡散接合する方法や、熱膨張差を利用する嵌め合わせ方法に比較して、複雑な形状であっても接合が容易で、しかも、接合面の精密加工が無用な利点がある。セラミック焼結体相互の隙間に溶融した金属や合金が入り込むことから、接合面の平滑性は要求されないのである。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された接合方法では、耐熱性が未だ十分では無かった。珪素系セラミックスの耐熱性を有効に利用するためには、接合部に少なくとも800(℃)以上の耐熱性が求められるのである。一方、特許文献2に記載された接合方法では、接合部に介在させた金属を、接合されるセラミック焼結体と同質化することにより高温強度および耐熱性が高められているが、これに具体的に記載されているのは、窒化アルミニウムおよび酸化アルミニウムのみであり、珪素系セラミックスを接合するために如何なる金属或いは合金を用いるかについては何ら明らかにされていなかった。上記特許文献2には、例えば、アルミナ・セラミックスや窒化アルミニウム・セラミックスを接合する場合にはアルミニウム(Al)を用い、窒化珪素セラミックスを接合する場合には珪素(Si)を用いることが記載されている。ところが、融点が660(℃)と低いアルミニウムが用いられる場合には、接合が容易であると共に同質化処理によって高温強度や耐熱性を高める効果が認められるのに対し、珪素は融点が1430(℃)と極めて高いことから接合が困難であった。
【0007】
また、前記のような発電システム用途では加熱および冷却が繰り返されることから耐ヒートサイクル性が要求され、また、溶融炭酸塩形燃料電池発電システムでは、メタンの水蒸気改質反応が行われることから、耐ヒートサイクル性に加えて耐水蒸気性も要求される。しかしながら、前記特許文献1,2に記載された接合方法は、何れもこれらを満足するものでもなかった。例えば、カルシウムやマグネシウムを含む合金を用いる特許文献1に記載の接合方法では、これらが水との反応性が高い元素であり、接合時に生成される窒化マグネシウムも水と反応し易いことから、耐水蒸気性が著しく劣るのである。
【0008】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、珪素系セラミックスを高い耐熱性を以て相互に接合できる接合材料、および高い耐熱性を有する珪素系セラミック接合体、並びにその接合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
斯かる目的を達成するため、第1発明の金属シリコンベース接合材料の要旨とするところは、珪素系セラミックスを相互に接続するために用いられる接合材料であって、(a)珪素(Si)を30(重量%)以上含み、残部が実質的にゲルマニウム(Ge)で構成されたことにある。
【0010】
また、第2発明の接合体の要旨とするところは、珪素系セラミックスから成る2以上の部材が前記第1発明の接合材料で相互に接合されたことにある。
【0011】
また、第3発明の接合体の要旨とするところは、前記珪素系セラミックスは窒化珪素であることにある。
【0012】
また、第4発明の接合体の要旨とするところは、前記珪素系セラミックスから成る2以上の部材の少なくとも一つは多孔質体であることにある。
【0013】
また、第5発明の製造方法の要旨とするところは、珪素系セラミックスから成る2以上の部材の接合部に前記第1発明に記載された接合材料を配し、100(Pa)以下の真空下においてその接合材料の融点よりも高温で加熱してその接合材料を溶融させることにより前記2以上の部材を一体化させることにある。
【発明の効果】
【0014】
前記第1、第2発明によれば、珪素は珪素系セラミックスの主構成元素であることから、第1発明の接合材料を用いて珪素系セラミックスを相互に接合するに際して、その相互間やその近傍にその接合材料を配置して加熱すると、珪素系セラミックスの珪素との相互拡散によって、それら珪素系セラミックスおよび接合材料が一体化する。このとき、ゲルマニウムは珪素と全率固溶体を作ることから、接合材料の融点はその混合比に応じてゲルマニウムの融点である950(℃)から珪素の融点である1430(℃)の間で変化するので、接合しようとする珪素系セラミックスの焼成温度や耐熱性或いは使用温度等に応じた適宜の接合処理温度で接合処理を施し、珪素系セラミックス相互を気密に接合して一体化させることができる。しかも、上記のように全率固溶体である接合材料は、ゲルマニウムの融点よりも低温では液相が生じないため、接合後の熱処理や使用中に800(℃)程度の高温に曝されても劣化し難く、高い耐ヒートサイクル性を有する。したがって、珪素系セラミックスを高い耐熱性を以て接合可能な接合材料および高い耐熱性を有する珪素系セラミック接合体が得られる。なお、本発明において、珪素は接合部の機械的強度を確保するために必要な元素であり、接合材料全体の30(重量%)以上の割合で含まれることが必要である。一方、ゲルマニウムは僅かでも含まれていれば、その含有量に応じて融点を下げる効果があるから、その含有量は所望する接合処理温度に応じて定められるものであり、特に下限はない。
【0015】
また、第3発明によれば、接合される2以上の部材が窒化珪素から成ることから、熱的・化学的安定性が高く且つ高強度の接合体が得られる。
【0016】
また、第4発明によれば、接合体を構成する2以上の部材の少なくとも一つが多孔質体であるため、前記特許文献2に記載された従来の接合方法で接合した場合に比較して一層高い接合強度が得られる。すなわち、前記特許文献2に記載された接合方法では、接合後に接合材料を被接合物と同様な材料に変化させる同質化処理が必須である。例えば、窒化珪素セラミックスの接合では、珪素を主成分とする接合材料で接合した後、窒素雰囲気で熱処理を施すことによって接合材料を窒化珪素に変化させる。しかしながら、接合される珪素系セラミックスの少なくとも一方が多孔質体の場合には、多孔質体と接合材料との界面が気密に保たれないことから、多孔質体側から窒素が接合部に入り込んで多孔質体と接合材料との濡れ性が悪くなり、延いては接合強度が得られなくなる。そのため、多孔質体の接合には、このような同質化処理を含む接合方法を採用し得ないのである。しかも、多孔質体を接合するに際しては、その開気孔内に接合材料の一部が入り込むこととなるが、珪素およびゲルマニウムは何れも窒化珪素等の珪素系セラミックスと同程度の熱膨張係数を有することから、孔内に入った接合材料の膨張或いは収縮に起因するセラミック構造の破壊が生じ難い利点がある。
【0017】
なお、本願において、多孔質とは、気孔率が5(%)以上であることを、緻密質とは、気孔率が5(%)未満であることをそれぞれ意味するものとする。
【0018】
また、第5発明の製造方法によれば、100(Pa)以下の真空中において前記接合材料の融点よりも高温で加熱してろう付け処理を施すので、接合材料中の珪素およびゲルマニウムの酸化が好適に抑制され、延いては接合材料が好適に溶融させられる(すなわち、溶融不良が抑制される)と共に濡れ性が高められる。そのため、上述した接合作用が好適に発揮され、強固且つ気密に接合された珪素系セラミック接合体が得られる。すなわち、接合材料を十分に溶融させて珪素系セラミックスを相互に一体化させるためには、その接合材料の融点よりも高温で加熱する必要があるが、特に、珪素は酸化し易いことから、加熱雰囲気中の真空度が低いと溶けにくくなる。上記のような真空下で処理すれば、酸素が十分に減じられていることから、これらの酸化が好適に抑制されるのである。
【0019】
なお、本願において、「珪素系セラミックス」とは、珪素を主要な構成成分とするセラミックスであり、例えば、窒化珪素(Si3N4)、サイアロン(SiAlON)、炭化珪素(SiC)が挙げられる。この中でも、特に窒化珪素が好ましい。接合される珪素系セラミックスは、相互の熱膨張係数の差異が小さいことが望ましく、同材質で構成されることが好ましい。
【0020】
また、「実質的にゲルマニウムで構成された」とは、珪素の他は殆どがゲルマニウムであるが、その他に微量の他の元素や不可避不純物を、接合材料の耐熱性等が保たれる範囲で含むことを許容する意味である。また、珪素系セラミックスの一例である窒化珪素の熱膨張係数は3.0×10-6(/℃)程度、珪素のそれは2.6×10-6(/℃)程度であるが、ゲルマニウムは5.7×10-6(/℃)程度であるから、比較的近似する熱膨張係数を有する。しかも、ゲルマニウムは窒化珪素等の珪素系セラミックスとの濡れ性も良好であることから好ましい。上記の他の元素や不純物の量は、このような特性にも影響を与えない程度に留められることが好ましい。
【0021】
因みに、接合材料の融点を低下させるために珪素との間で共晶点を有する元素を混合すると、その共晶点は混合した元素の融点よりも低くなるが、本発明者等がこのような接合材料について特性を評価したところ、その共晶点よりも高温に繰り返し曝すと接合部の気密性や機械的強度が低下することが明らかになった。これは、共晶点よりも高温になると接合部の一部に液相が生じ、これが劣化の起点になるためと考えられる。例えば、珪素にアルミニウムを混合した接合材料では、これらの共晶点である600(℃)程度を超えるヒートサイクルを与えると、比較的短期間に接合部が劣化するのである。したがって、このような接合材料は、接合温度よりも著しく低い温度が使用限界温度になるものと考えられる。
【0022】
ここで、好適には、前記接合材料は、珪素を40(重量%)以上の割合で含むものである。このようにすれば、固溶体になる温度が1100(℃)以上、液相になる温度が1300(℃)以上になるため、800(℃)以上の高い耐ヒートサイクル性を有すると共に、1300(℃)以上の温度に一時的に曝されても劣化が生じ難い接合材料が得られる。一層好適には、前記接合材料は珪素を70(重量%)以下含むものである。このようにすれば、固溶体になる温度が1300(℃)程度以下、液相になる温度が1400(℃)よりも十分に低くなるため、良好な作業性が確保される。
【0023】
因みに、珪素の混合割合を多くするほど、接合処理温度が高くなる反面で耐熱性も高められるため、所望する使用温度および処理温度に応じて、珪素の混合割合は、使用温度よりも十分に高く且つ処理温度よりも十分に低い融点となるように定めればよい。十分に高い耐熱性等を得ようとすると、珪素の割合が40(重量%)以上であることが好ましく、処理温度を十分に低くしようとすると、珪素の割合を70(重量%)以下に留めることが好ましい。すなわち、珪素の含有量は、40〜70(重量%)の範囲が特に好ましい。なお、金属材料は、一般に、その融点よりも遙かに低い温度で軟化し始める。そのため、接合材料の融点は、使用温度よりも少なくとも200(℃)以上、望ましくは300(℃)以上高い温度にする必要がある。例えば、Siを40(重量%)以上含む場合は、固溶体温度が1100(℃)以上、液相出現温度が1300(℃)であるため、800(℃)で使用される珪素系セラミック接合体の接合に用いることができる。
【0024】
また、使用温度がそれほど高くない場合であっても、耐熱性を高めることにより、接合後の高温熱処理工程の効率を高め得る。例えば、ガス分離モジュール等に用いられる複数本の多孔質フィルタが緻密質の支持体で束ねられた構造体を製造するに際しては、1600(℃)以下で熱処理を施すことによりガスを分離するための多孔質フィルタを製造する工程と、1400(℃)以上で熱処理を施すことにより緻密質支持体を製造する工程と、これらを一体化させる接合工程とが実施される。しかも、多孔質フィルタは、目的ガスの分離に最適な細孔を形成するために、徐々に細孔径の小さくなる複数層を積層する必要があるので、高温焼成が繰り返される。そのため、接合部の耐熱性を十分に高くできれば、複数本の多孔質フィルタを支持体に接合して一体化させた後にその積層工程を実施できることから、焼成処理効率が高められるのである。
【0025】
また、好適には、前記接合材料は、珪素、ゲルマニウムおよび他の微量元素から成る合金または混合物である。ゲルマニウムを含有することによる融点低下効果は、合金であっても混合物であっても得られるため、接合材料はこれらの何れであっても差し支えない。また、接合材料の形態は、粉末、ペースト状、粉末プレス成形体、金属リング、金属箔(すなわちシート等)等、接合する珪素系セラミックスの形状や接合面の形状等に応じて適宜の形状とすることができる。ペースト状とする場合には、例えば、珪素やゲルマニウム等の混合粉体をエチルセルロースやアクリル、テレピン油等の適宜の樹脂結合剤およびターピネオール等の適宜の溶剤等に分散させる。
【0026】
また、好適には、前記第1発明の接合材料は、少なくとも一つが多孔質体である2以上の部材を接合するために用いられるものである。第1発明の接合材料は、珪素系セラミックスを相互に接合するに際して同質化処理を必要としないため、多孔質体を含む接合処理に好適に用いられる。しかも、接合材料を構成する珪素およびゲルマニウムは何れも窒化珪素等の珪素系セラミックスと同程度の熱膨張係数を有するため、多孔質体の接合に用いられる場合に接合材料が多孔質体の開気孔内に入っても、その接合材料の膨張或いは収縮に起因するセラミック構造の破壊が生じ難い利点もある。
【0027】
また、好適には、前記接合体は、緻密質の珪素系セラミックスと、多孔質の珪素系セラミックスとが接合されたものである。すなわち、第1発明の接合材料は、多孔質体相互、緻密質体相互の接合にも適用されるが、このような緻密質のものと多孔質のものとを接合する場合にも好適に適用される。例えば、多孔質のフィルタ用部材を製造するに際して、緻密質の支持体を接合する場合に、第1発明の接合材料は好適に適用される。なお、少なくとも一方が多孔質体で構成される場合には、接合材料との濡れが良すぎると細孔内に多量に染みこむことによって接合強度が得られなくなる。そのため、第1発明の接合材料は、そのような濡れすぎる現象が生じない組合せにおいて好適に用いられる。
【0028】
また、前記接合体の製造方法において、好適には、前記ろう付け処理の温度は、前記接合材料の融点よりも10〜200(℃)の範囲内の温度だけ高い温度である。すなわち、ろう付け処理のための熱処理温度は、例えば、1300〜1500(℃)の範囲内の温度である。
【0029】
また、好適には、前記接合体の製造方法は、前記ろう付け処理を施すに先立ち、所定濃度の水素(H2)を含む水素雰囲気下でそのろう付け処理の温度よりも十分に低い所定の前処理温度で処理する前処理工程を含むものである。このようにすれば、水素の還元作用によって、接合材料に含まれる金属の表面に酸化膜が生成されることが抑制されると共に既に生じている酸化膜が除去されることから、接合材料が一層容易に溶融させられる。
【0030】
一層好適には、前記前処理における水素雰囲気は、水素を窒素または稀ガスで希釈することにより構成されたものである。
【0031】
また、一層好適には、ろう付け処理は、同一の加熱室内において前記前処理に続いて連続的に実施されるものである。このようにすれば、前処理の後に空気中に取り出すことに起因して接合材料が再酸化されることが好適に抑制されるため、前処理を施す効果が一層顕著に得られる。
【0032】
また、一層好適には、前記接合材料は有機成分と混合したペーストの形態で用いられ、前記所定の前処理温度は、その有機成分の分解温度よりも十分に高い温度である。すなわち、前記前処理は脱脂処理を兼ねるものである。このようにすれば、水素の還元作用によって有機成分が分解およびガス化されて除去されることから、接合材料に有機成分が混合されて用いられると共に酸化によるその分解やガス化が期待できない真空中のろう付け処理であっても、その有機成分に由来するカーボンの残留が抑制され、延いてはこれに起因する接合材料の溶融不足が好適に抑制される。また、多数の接合体を一つの加熱室内で処理する場合のように、加熱室内が有機成分を含む雰囲気になることに起因してその分解およびガス化が阻害され得る処理条件においても、水素雰囲気で前処理を施すことによってカーボンの残留延いては接合不良が好適に抑制される。なお、上記有機成分は、好適には、接合材料に対して1〜10(重量%)の範囲内の割合で混合される。
【0033】
因みに、接合材料中に残留したカーボンは珪素粒子とゲルマニウム粒子との接触を阻害するので、これらの固溶体の生成(すなわち合金化)が妨げられ、延いては接合材料の融点の低下が妨げられる。すなわち、接合材料が溶融し難くなる。また、接合材料が溶融しても、残留カーボンが金属粒子間に入ると溶融した金属の一体化が妨げられる。この結果、珪素系セラミックスの接合が困難になる。
【0034】
一層好適には、前記水素雰囲気の所定濃度は、体積比(モル比)で1(%)以上である。このようにすれば、水素濃度が十分に高いため、一層強固且つ気密性の高い接合体が得られる。すなわち、水素濃度が低くなるほど還元作用が弱くなるので、酸化膜除去作用(酸化膜の生成抑制作用を含む。以下において同じ。)や有機物分解作用を十分に得るためには1(%)以上の濃度とすることが好ましいのである。なお、水素濃度は、例えば80(%)以下とすることが好ましい。
【0035】
また、好適には、前記所定の前処理温度は、250(℃)以上の温度である。このようにすれば、前処理の温度が十分に高いため、一層強固且つ気密性の高い接合体が得られる。すなわち、前処理温度が低くなるほど還元作用が弱くなるので、酸化膜除去作用や有機物分解作用を十分に得るためには250(℃)以上の温度とすることが好ましいのである。なお、前処理温度は、例えば450(℃)以下とすることが好ましい。
【0036】
因みに、金属が気体に接すると、その気体分子が金属表面で原子に解離し、活性吸着された後に原子状態のままその金属内部に拡散して溶解する。そして、数々の気体のうち水素は、多くの金属に最も多く溶解することが知られている。水素の溶解度は温度の上昇に伴って増大し、また、水素濃度が高くなるほど、水素分圧が高くなるので溶解度が増大する。しかしながら、気体の溶解は可逆的であるため、温度が下降して金属が凝固するときには、溶解度を超える量の気体が金属から放出される。これは脱ガス現象と称され、水素還元処理中に金属中に溶解した水素がこの現象に従って放出される際には、しばしば欠陥を生じさせる。このような欠陥発生は、金属中への水素の溶解を抑制することで抑制できるため、水素還元処理すなわち前処理における温度および水素濃度は、十分な還元性が得られる範囲で可及的に低くすること、すなわち前記上限値が好ましいのである。
【0037】
また、好適には、前記接合体の製造方法は、前記珪素系セラミックスの接合部に前記接合材料を設けた状態で、100〜0.001(Pa)の範囲内の真空下において、その接合材料の融点よりも十分に高い温度でろう付け処理を施すものである。珪素は酸化し易いことから表面に酸化被膜が形成され易く或いは既に形成されているため、加熱雰囲気中の還元性或いは真空度が低いと溶けにくくなる。一方、真空度が高すぎると、接合界面から金属成分(珪素やゲルマニウム等)が蒸発して欠陥が生じるため、接合部の気密性が失われ易くなる。なお、ろう付け処理の雰囲気は、真空が望ましく、アルゴン(Ar)等の不活性ガス雰囲気は好ましくない。接合するためには、珪素系セラミックスおよび接合材料の表面をある程度活性化することが必要であるためと考えられる。なお、一層好適には、ろう付け処理の雰囲気は、70〜0.007(Pa)の範囲内、更に好適には、7〜0.007(Pa)の範囲内の真空雰囲気である。
【0038】
本発明の接合材料および接合体は、高温耐久性に優れるため、例えば、加圧流動床燃焼複合発電や石炭ガス化複合発電等の1000(℃)程度の温度で使用される発電システム用除塵フィルタやガス分離用フィルタ、溶融炭酸塩形燃料電池発電システム等の800(℃)程度の温度で使用されるメンブレンリアクター、触媒担体、自動車等の内燃機関の摺動部品、熱風炉用耐摩耗性送風機のライニング部材等に用い得る。
【0039】
例えば、ガス分離用フィルタやメンブレンリアクター等の用途では、多孔質セラミック筒体が緻密質セラミック支持体に接合して用いられる。多孔質セラミック筒体は例えば一端が開放された有底筒状のもので構成され、例えばその開放端側が本発明の接合材料を用いて緻密質セラミック支持体の貫通孔に挿入された状態で接合される。或いは、両端が開放された筒状体で構成し、一端を緻密質セラミック支持体の貫通孔に挿入して接合すると共に、他端を緻密質セラミック支持体の有底穴または貫通孔に挿入して接合する。これらは接合体の一例であり、本発明は、その他の種々の態様で用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0041】
図1は、本発明の一実施例の接合材料により接合された、すなわち本発明の製造方法によって製造された接合体の一例である多孔質円筒モジュール(以下、モジュールという)10の全体を示す斜視図であり、図2は、その長手方向に沿った断面を示す図である。これらの図において、モジュール10は、複数本、例えば7本の多孔質円筒12と、それら多孔質円筒12の一端部に嵌め合わされたエンドキャップ18とを備えている。
【0042】
上記の多孔質円筒12は、例えば、外径が12(mm)程度、内径が9(mm)程度、長さ寸法が500(mm)程度の大きさを備えて断面が円環状を成し、一端20が例えば半球状の閉塞端に構成され且つ他端22が開放されたものである。また、この多孔質円筒12は、例えば気孔率が15(%)以上、例えば35(%)程度の多孔質の窒化珪素セラミックスから成るものである。多孔質円筒12には、微細な多数の細孔がその周壁24の表面26から内面28まで連通して形成されており、その周壁24を例えば窒素や水素等の気体が透過し得るように構成されている。なお、多孔質円筒12の外周面(表面)26には、図3に示されるように、その多孔質円筒12を含めて外周側に位置するものほど平均細孔径が小さくなるようにそれぞれ窒化珪素から成る複数層(図示の例では3層)の多孔質膜60,62,64が設けられており、その外周面26は、全く露出していない。この最上層の多孔質膜64における平均細孔径が例えば0.5(nm)程度とされることにより、多孔質膜60〜64を含む多孔質円筒全体の通気性が制御されている。
【0043】
また、前記のエンドキャップ18は、緻密質の窒化珪素セラミックスから成り、略円板状を成すものである。エンドキャップ18は、閉塞端20とは反対側の一面44から他面50に向かって厚み方向に貫通する例えば7個の貫通孔52,53を備えている。貫通孔52,53は、それぞれ一面44側における開口寸法が他面50側よりも小さくされることにより、内周側に向かって突き出した環状突部46を備えた段付き孔である。これら7個の貫通孔52、53は、1個(貫通孔53)がエンドキャップ18の中心に位置し、残る6個(貫通孔52)がその周囲の一円周上に一定の間隔で、すなわち例えば60度程度の間隔で配置されている。
【0044】
前記多孔質円筒12は、このように構成されたエンドキャップ18の貫通孔52,53にその他端22側が嵌め入れられ、その他端22が環状突部46に突き当てられた状態で、封着材(すなわち接合材料)56によって気密に固着されたものである。すなわち束ねられた状態で一体的に固定されている。そのため、上記の多孔質円筒12の例えば開放された他端22から流入させられた気体は周壁24を通して流れ出ることとなる。上記の封着材56は、例えば、70(重量%)程度の珪素と30(重量%)程度のゲルマニウムとから構成されている。
【0045】
以上のように構成されたモジュール10は、よく知られたセラミック製造技術を用いて、図4に要部である接合工程を示す製造工程に従って製造される。まず、混合工程P1においては、前記封着材56を構成するためのろう材、バインダー、および溶剤を混合して接合材料ペーストを調製する。ろう材は、例えば珪素粉末とゲルマニウム粉末とを70:30の質量比で混合したものである。珪素粉末としては、例えば平均粒径が15(μm)程度のもの等が用いられ、ゲルマニウム粉末としては、例えば平均粒径が20(μm)程度のもの等が用いられる。また、バインダーとしてはテレピン油系バインダーを、溶剤としてはターピネオールをそれぞれ用いた。ペーストを調製するに際しては、珪素粉末およびゲルマニウム粉末の混合粉末をテレピン油系バインダーと混合し、ターピネオールを加えて粘性を調節した。
【0046】
次いで、組付工程P2においては、予め製造した前述したような各特性を備えた緻密質のエンドキャップ18および多孔質円筒12に上記のペーストを塗布して、多孔質円筒12の開放端をエンドキャップ18の貫通孔52に差し込むことにより両者を組み付ける。エンドキャップ18は、例えば一軸加圧成形や等方加圧成形(例えばCIP成形、ラバープレス成形など)、および切削加工等によって成形され、多孔質円筒12は、例えば押出成形や等方加圧成形(例えばCIP成形、ラバープレス成形など)、および切削加工等によって成形される。また、原料は、所望とする気孔率に応じて焼結特性の異なるものや添加物を含むもの等が適宜用いられる。各部材の焼成温度は、緻密質のもの(すなわちエンドキャップ18)が例えば1700(℃)程度、多孔質のもの(すなわち多孔質円筒12)が1400(℃)程度であり、何れも例えばN2雰囲気下で焼成される。また、必要な寸法・形状精度を得るために、焼結後に適宜研削加工が施される。本実施例においては、所望の特性を備えた部品が得られるのであれば、その製法は問わない。
【0047】
そして、ろう付け処理工程P3においては、例えば焼成炉内で加熱処理を施すことにより、封着材56で相互に固着する。接合のための焼成処理条件は、例えば、0.01(Pa)以下の真空下において最高保持温度1400(℃)で30分程度の時間だけ加熱するものとした。この最高保持温度は、前記混合粉末の融点が1375(℃)程度であることから、これよりも十分に高い温度に定められている。本実施例においては、この混合粉末が請求の範囲に言う接合材料である。
【0048】
図5は、上記のろう付け処理(すなわち焼成処理)における接合原理を説明する模式図である。本実施例においては、被接合体である多孔質円筒12やエンドキャップ18が全てSi3N4で構成される一方、接合材料が珪素およびゲルマニウムの混合粉末で構成されることから、それらの界面においては珪素や窒素の相互拡散が生じる。しかも、封着材56側に拡散した窒素は、珪素と結合してSi3N4を形成する。そのため、接合界面における焼結が進み、多孔質円筒12およびエンドキャップ18が封着材56を介して相互に強固に接合される。そして、多孔質円筒12の表面26に前記の多孔質膜60〜64を順次に形成することにより(多孔質膜形成工程)、前記モジュール10が得られる。
【0049】
なお、上述したように、本実施例においては、接合工程の後に多孔質膜形成工程が実施される。この多孔質膜60〜64の形成工程では、一層毎に例えば900(℃)程度の最高保持温度で加熱する焼成処理が繰り返されるが、封着材56の融点は前述したように1375(℃)程度であると共に、共晶点の無い全率固溶体である。そのため、固相線の全体がゲルマニウムの融点よりも上側に位置することから、十分に高い耐熱性を有するので、この工程で何ら変質したり接合部から分離することはない。
【0050】
要するに、本実施例によれば、封着材56の主成分である珪素は窒化珪素の主構成元素であることから、この封着材56を用いて窒化珪素から成る多孔質円筒12およびエンドキャップ18を相互に接合するに際して、その相互間に介在させられた封着材56は、珪素および窒素の相互拡散によって、被接合体と一体化する。しかも、珪素は融点が高いことから、単独で接合材料として用いることは困難であるが、それよりも低融点であって珪素と固溶するゲルマニウムと共に用いると、接合材料(封着材56)の融点がその混合割合に応じて低下する。この結果、窒化珪素から成る両部材が高い気密性を以て接合される。このとき、封着材56中のSiの割合が70(重量%)と十分に多くされているので、その融点は1375(℃)程度と高くなる。したがって、窒化珪素から成る多孔質円筒12およびエンドキャップ18を高い耐熱性を以て相互に接合できる。
【0051】
しかも、ゲルマニウムは珪素と全率固溶体を作ることから、封着材56の融点はその混合比に応じてゲルマニウムの融点である950(℃)から珪素の融点である1430(℃)の間で変化するので、何れも窒化珪素から成る多孔質円筒12およびエンドキャップ18の焼成温度や耐熱性或いは使用温度等に応じた接合処理温度で接合処理を施し、これらを気密に接合して一体化させることができる。更に、全率固溶体である封着材56は、ゲルマニウムの融点よりも低温では液相が生じないため、接合後の熱処理や使用中に800(℃)程度の高温に曝されても劣化し難く、高い耐ヒートサイクル性を有する。したがって、窒化珪素から成る多孔質円筒12およびエンドキャップ18を高い耐熱性を以て接合することができ、延いては、高い耐熱性を有するモジュール10が得られる。
【0052】
上述した実施例では、組み付け後、直ちにろう付け処理を施す場合を説明したが、例えば、図6に示すように、ろう付け処理工程R4に先立ち、前処理工程R3を実施することもできる。なお、前処理工程R3の他の工程は、工程に付した符号は相違するが前記図4に示した各工程と同一である。
【0053】
上記の前処理工程R3では、組付工程R2において多孔質円筒12とエンドキャップ18とが組み付けられ且つ接合材料ペーストがそれらの接合部に配された組付け体を、例えばろう付け処理のための焼成炉の加熱室内に入れ、前処理を施す。この前処理は、例えば、200〜450(℃)程度の範囲内、例えば300(℃)程度の温度において、水素を含む雰囲気下、好適には1〜80(%)程度の濃度で水素を含み、残部が窒素または稀ガスである雰囲気下、例えば水素50(%)+窒素雰囲気で、適当な時間、例えば1時間程度の加熱処理を施すものである。ろう付け処理工程R4は、このような前処理を施した後、そのまま加熱室内に組付け体を入れたまま連続して実施される。処理条件は、例えば、0.05(Pa)、1400(℃)程度である。
【0054】
上記の前処理工程R3において、処理された組付け体は、加熱されることによって接合材料ペースト中の有機成分が分解されて除去される(例えば焼失させられる)と共に、還元性のある水素雰囲気によってその接合材料ペースト中の金属成分すなわち珪素およびゲルマニウムの酸化膜の生成が抑制され或いは既に生成されている酸化膜が除去される。これら接合材料の溶融や金属成分の一体化を阻害するものは、前記図4に工程が示される実施例においては、ろう付け処理工程P3の初期に除去されていたが、本実施例ではその前段階で除去されることになる。
【0055】
なお、上記処理温度は、接合材料ペーストに含まれる有機成分すなわちテレピン油系バインダーやターピネオールが確実に分解し得ると共に、水素の還元作用が十分に得られる範囲で可及的に低い値に定められている。すなわち、これら有機成分の分解温度である280(℃)程度よりも高い温度であるが、必要以上に高くすると珪素およびゲルマニウムに対する水素の溶解および放出に起因する欠陥が生じ易くなることから、上記のような上限値に定められるのである。
【実施例】
【0056】
以下、上記のように構成される封着材56すなわちSi-Ge接合材料の組成や接合処理条件等を種々変更して耐久性や接合強度等の評価を行った結果を説明する。下記の表1は、気密性の耐久性を評価した結果をSi-Al接合材料を用いた比較例と併せてまとめたものである。この評価試験は、下記のような試験用接合片1,2,3を用意し、緻密質の接合片1の内周側に多孔質の接合片2または緻密質の接合片3を挿入し、前記のようにバインダーおよび溶剤でペースト化した接合材料を用いて、それら内外周の接合片を相互に接合して、初期的な気密性および耐久試験後の気密性を評価したものである。接合に際しては、接合材料を接合部位に塗布した後、50(%)水素雰囲気において300(℃)で1時間の熱処理(前処理)を施し、その後、0.05(Pa)の真空下において1400(℃)で30分間の接合処理を施した。
接合片1:チューブ状の窒化珪素緻密質体(φ15×φ12.5×L15(mm))
接合片2:チューブ状の窒化珪素多孔質体(φ12×φ9×L13(mm)、気孔率35(%))
接合片3:円柱状の窒化珪素緻密質体(φ12×L30(mm))
【0057】
【表1】

【0058】
上記の表1において、接合材料の欄は接合材料の組成を表している。また、接合体組合せの欄は、接合片1〜3の組合せを表している。「緻密×多孔」は接合片1,2の組合せを、「緻密×緻密」は接合片1,3の組合せを意味する。また、リーク量は、窒素ガスを0.4(MPa)の圧力で流し込み、接合部分からの窒素ガスの透過量を石鹸膜流量計を用いて測定した。なお、多孔質の接合片2を用いた実施例1および比較例1では、測定前に接合片2の内周面および端面をエポキシ樹脂で目止めし、接合部分からのリーク量のみを測定可能とした。
【0059】
上記表1の測定結果のうち、「耐久試験前」は、接合後、何らの耐久試験を施していない接合体のリーク量を測定したものである。耐久試験前においては、実施例1〜3および比較例1〜3の何れにおいても、リークは認められなかった。
【0060】
また、「ヒートサイクル後」は、600(℃)の大気中におけるヒートサイクル処理を10回施した後のリーク量を測定したものである。Si-Ge接合材料を用いた実施例1〜3ではリークが認められないが、Si-Al接合材料を用いた比較例1〜3では僅かながらもリークが認められ、耐ヒートサイクル性が不十分である。
【0061】
また、「水蒸気曝露後」は、600(℃)の水蒸気・水素50(%)雰囲気中で24時間の曝露処理を行った後のリーク量を測定したものである。実施例1〜3では、この試験後にもリークが全く認められなかったが、比較例1〜3ではリークが生じ、耐水蒸気性も不十分であった。すなわち、珪素系接合材料の融点を低下させる添加物としてアルミニウムを用いると、耐ヒートサイクル性および耐水蒸気性が低下すると共に、アルミニウムの割合が多いほど耐久性が低下するが、ゲルマニウムを用いた場合には、これに比較して耐久性に優れることが明らかである。
【0062】
また、下記の表2は、Si-Ge接合材料の組成と接合強度との関係を評価したものである。実施例4〜7は、Si量が30(wt%)以上とされた本発明の範囲内の接合材料であり、比較例4,5は、Si量が30(wt%)未満の本発明の範囲外となるものである。また、この評価試験では、下記の接合片4,5を用い、それらの端面間にエチルセルロースおよびターピネオールでペースト化した接合材料を塗布して端面を突き合わせ、前記表1に示す評価の場合と同様な条件で接合処理を施した後、万能試験機を用いて接合体の接合部の剪断破壊強度を測定した。
接合片4:円柱状の窒化珪素緻密質体(φ10×L10(mm))
接合片5:円柱状の窒化珪素多孔質体(φ10×L10(mm)、気孔率35(%))
【0063】
【表2】

【0064】
上記の表2において、「緻密×緻密」は、接合片4同士を接合したものであり、「緻密×多孔」は、接合片4と接合片5とを接合したものである。珪素を30(wt%)以上含む実施例では、緻密質体同士を接合した場合には、接合部が65(MPa)以上の強度を有し、多孔質体と緻密質体とを接合すると、多孔質体の強度がそれよりも低いために多孔質体内で破壊されることが判る。
【0065】
これに対して、比較例4,5では、緻密質体同士を接合しているにも拘らず、多孔質体内で破壊された実施例7よりも低強度で緻密質体界面において破壊する。すなわち、接合強度が低下し、接合材料と緻密質体との一体性も不十分である。したがって、上記の結果によれば、珪素を30(wt%)以上含むことが必要であることが明らかである。
【0066】
下記の表3、表4は、接合条件すなわち接合処理温度および雰囲気と、接合材料の溶融状態との関係を評価した結果をまとめたものであり、表3には本発明の範囲内の実施例8〜13を、表4には、本発明の範囲外の比較例6〜11をそれぞれ示している。この評価に用いる試験片は、接合材料に適当なバインダーを添加し、例えばφ15×t1.5(mm)の円板状に15(MPa)程度の圧力でプレス成形して作製した。この試験片を窒化珪素緻密質体から成る基板上に載置して、50(%)水素雰囲気中において300(℃)で1時間の前処理を施した後、加熱処理を施して溶融状態を評価した。
【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
上記の表3,4において、「○」は接合材料の表面状態が金属光沢を以て溶融し、窒化珪素緻密質体に対し濡れ性を示したもの、「△」は接合材料は溶融しているが表面に金属光沢がないもの(これは多孔質体と密に一体化しない)、「×」は接合材料が溶けないか窒化珪素緻密質体に対して濡れ性を示さないものである。
【0070】
表3に示すように、処理温度が1300〜1450(℃)で0.5〜50(Pa)の真空下で処理を施したものは、何れも十分な溶融状態を示したが、表4に示すように、200(Pa)以上の真空、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、大気雰囲気、或いは1200℃の低温の処理条件では、十分な溶融状態を得ることができなかった。真空以外の雰囲気や低真空では、接合材料が雰囲気ガスとの表面反応を起こすため、十分に溶融しないものと考えられる。なお、上記表3,4のように珪素が30(wt%)以上の組成では、1250(℃)程度以上で液相になるため、少なくとも1300(℃)以上の処理温度にする必要がある。
【0071】
上記結果によれば、窒化珪素緻密質体に対して濡れ性を有し且つ気密に一体化させるためには、接合材料の融点以上の高温で処理すると共に、100(Pa)以下の十分な真空下で処理する必要があることが判る。なお、上記表3,4には示していないが、処理温度が高すぎると接合材料が蒸発する可能性があるため、処理温度は1500(℃)以下が好ましい。すなわち、接合処理温度は、1300〜1500(℃)の範囲内が好ましい。本発明の接合材料は、その組成や含まれ得る他の成分、或いは接合しようとする珪素系セラミックスの材質、気孔率や形状等に応じて適宜の条件で接合処理を施されるものであり、使用条件は特に限定されるものではないが、窒化珪素緻密質体を表3,4に示すような組成のものを用いて接合しようとする場合には、上記のような条件が好ましいのである。
【0072】
下記の表5,表6は、前記の前処理の効果を確かめるための試験結果をまとめたものであり、表5には本発明の範囲内の実施例14〜19を、表6には、本発明の範囲外の比較例12〜15をそれぞれ掲げている。この処理試験では、前記接合片4,5を用い、これらの端面間にエチルセルロースおよびターピネオールでペースト化した接合材料を塗布して、端面を突き合わせ、下記表5,6に示す条件で前処理を施した後、0.05(Pa)の真空下において1400(℃)で30分間の接合処理を行った。得られた接合体について、万能試験機で接合部の剪断破壊強度を評価した。
【0073】
【表5】

【0074】
【表6】

【0075】
上記表5,6において、結果欄の「○」は剪断破壊試験の破壊位置が多孔質体であって、十分な接合強度を有していると判断されるもの、「×」は破壊位置が接合材料内であって、接合材料の溶融不良で接合強度が得られなかったと判断されるものである。上記の評価結果によれば、水素雰囲気で300(℃)以上の温度の前処理を施した場合には、処理個数に拘らず十分な接合強度を得ることができた。また、処理個数が少ない場合(実施例6)では、前処理が無くとも接合が可能であったが、比較例15に示すように処理個数が多くなると、前処理無しでは接合強度が得られない。また、前処理は、水素雰囲気で300(℃)以上であることが必要であり、低温の比較例12や大気中で熱処理した比較例13,14では前処理の効果が得られない。
【0076】
なお、処理個数が少ない場合には、ろう付け処理の際にろう材から除去される有機成分の量が少ないことから、加熱室内における有機成分ガスの分圧が低い値に留まるので、有機成分が十分に分解し延いてはカーボンが確実に除去されるが、処理数が多くなると、加熱室内において有機成分ガスの分圧が上昇し、有機成分の分解延いてはカーボンの除去が阻害されるためと考えられる。
【0077】
下記の表7,8は、前記特許文献2に記載された同質化処理の影響を評価したものである。この評価試験では、前記接合片4同士または接合片4、5を接合し、同質化処理を施して強度の変化を調べた。なお、接合片5は、同一形状で気孔率が異なる4種を用意した。試験に際しては、珪素70(wt%)の接合材料をテレピン油系バインダーおよびターピネオールでペースト化し、接合片の端面に塗布して端面相互に突き合わせ、50(%)水素雰囲気中において300(℃)で1時間の前処理を施した後、0.05(Pa)の真空下において1400(℃)で30分間の接合処理を施して接合した。得られた接合体に、0.1(MPa)の窒素雰囲気中において、1400(℃)で2時間の加熱によって同質化処理を施し、処理前後の接合部の剪断破壊強度を万能試験機で評価した。
【0078】
【表7】

【0079】
【表8】

【0080】
上記の表7,8に示されるように、緻密質体を相互に接合した場合には、実施例20,25を対比すれば明らかなように、同質化処理の有無に拘らず破壊強度は同程度であり、同質化処理が何ら影響しないことが判る。
【0081】
しかしながら、緻密質体と多孔質体とを接合した場合には、同質化処理を施さない実施例21〜24と、これらに同質化処理を施した比較例16〜19とでは、破壊強度および破壊態様が著しく相違する。すなわち、実施例21〜24では、破壊強度が43〜48(MPa)程度で、破壊位置が多孔質体内であることから、接合部分の強度は母材すなわち多孔質体よりも強く、強固に一体化していることが判る。これに対して、比較例16〜19では、破壊強度が12〜30(MPa)に低下すると共に、破壊位置が多孔質体と接合材料との界面になる。すなわち、接合材料が、多孔質体との界面において劣化していることが明らかである。
【0082】
したがって、前記特許文献2に記載された同質化処理は、本発明の接合材料で接合した場合には無用であり、特に、接合片の少なくとも一方が多孔質体の場合には、却って悪影響を及ぼす。すなわち、多孔質体の接合には、特許文献2に記載の接合方法は適用し得ないことが明らかである。
【0083】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の接合体の一実施例の多孔質筒体モジュールの全体を示す斜視図である。
【図2】図1の多孔質筒体モジュールの縦断面を示す図である。
【図3】図1の多孔質筒体モジュールを構成する多孔質円筒の要部を拡大して断面構造を説明する図である。
【図4】図1の多孔質筒体モジュールの製造工程の要部を説明するための工程図である。
【図5】図1の多孔質筒体モジュールの接合工程における原理を説明する図である。
【図6】本発明の他の実施例の製造方法の要部を説明するための工程図である。
【符号の説明】
【0085】
10:多孔質円筒モジュール、12:多孔質円筒、18:エンドキャップ、20:一端、22:他端、24:周壁、26:表面、28:内面、44:一面、46:環状突部、50:他面、52,53:貫通孔、56:封着材(接合材料)、60,62,64:多孔質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素系セラミックスを相互に接続するために用いられる接合材料であって、
珪素(Si)を30(重量%)以上含み、残部が実質的にゲルマニウム(Ge)で構成されたことを特徴とする金属シリコンベース接合材料。
【請求項2】
珪素系セラミックスから成る2以上の部材が前記請求項1に記載された接合材料で相互に接合されたことを特徴とする接合体。
【請求項3】
前記珪素系セラミックスは窒化珪素であることを特徴とする請求項2に記載の接合体。
【請求項4】
前記2以上の部材の少なくとも一つは多孔質体であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の接合体。
【請求項5】
珪素系セラミックスから成る2以上の部材の接合部に前記請求項1に記載された接合材料を配し、100(Pa)以下の真空下においてその接合材料の融点よりも高温で加熱してその接合材料を溶融させることにより前記2以上の部材を一体化させることを特徴とする接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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