金属ナノワイヤの形態を制御する方法
本明細書では、ポリオール合成の反応条件を調節することによって、金属ナノワイヤの形態を制御する方法を記載する。特に、反応物を不活性気体でパージすることによって、バッチ間の一貫性を達成することができる。好ましい実施形態において、金属塩は銀塩であり、金属ナノワイヤは銀ナノワイヤである。他の実施形態において、特許請求される方法によって製造される複数の金属ナノ構造体は、少なくとも80%の金属ナノワイヤを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、米国特許法§119(e)の下、2009年8月25日に出願された米国仮特許出願第61/275,093号の利益を主張する。この仮出願は、その全体が本明細書において参照として援用される。
【0002】
背景
本出願は、金属ナノワイヤを、その収率および形態を制御しながら、溶液をベースにした合成で調製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
ナノサイズの材料(またはナノ材料)は、それらの類似のバルク材料と著しく異なる可能性がある。特に、ナノ材料の物理化学的特性は、それらのサイズ、形状および形態と強く相関している。結果として、材料科学者は、彼らの努力を、制御可能な形態(形状およびサイズを含む)を有するナノ材料を製作するための単純で実際的な方法を開発すること、それゆえそれらの特性に合わせて仕立てることに集中させてきた。
【0004】
溶液をベースにした合成(「ポリオール」合成とも呼ばれる)は、金属ナノ構造体の大規模製造においてかなり実際的である。例えば、非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;および特許文献1を参照されたい。ポリ合成は、ポリ(ビニルピロリドン)(「PVP」)の存在下でのポリオール(例えば、エチレングリコール)による金属ナノ構造体の前駆体(例えば、金属塩)の還元を伴う。典型的には、還元は、200℃を超えない温度で実施される。ポリオールは、典型的には、溶媒および還元剤として二重の機能の働きがある。典型的には、形成されるナノ構造体の形態(形状およびサイズを含む)は、PVPと金属塩との相対量、PVPおよび金属塩の濃度、反応時間、ならびに反応温度を含むパラメーターによって影響される。
【0005】
この方法によれば、ナノ立方体、ナノワイヤ、ナノ角錐、および多重双晶粒子を含む種々の形態の金属ナノ構造体が得られている。しかし、ポリ合成に共通の問題は、数種の形状のナノ構造体の混合物が生成することである。この問題は、合成成分中の痕跡量の汚染物質によってもたらされると思われる、その方法の不十分な再現性によってさらにひどくなる。例えば、非特許文献5を参照されたい。
【0006】
ポリ合成は、均一な形状およびサイズのナノ構造体を形成するための努力の中で改変されてきた。例えば、「ポリオール」法に痕跡量の塩化物を付加すると、単結晶性の切頂立方体および四面体が得られた。例えば、非特許文献5を参照されたい。「ポリオール」法において種晶材料(例えば、白金または銀のナノ粒子)を使用すると、高アスペクト比(約1000)の均一な銀ナノワイヤが生じた。非特許文献6。しかし、既存の方法には、混合ナノ構造体を生じるという問題が残存する(例えば、銀ナノワイヤには銀ナノ粒子の形成が伴う)。したがって、単分散性ナノ構造体を得るには、付加的な分離ステップが必須である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0056118号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sun, Y.ら、Science、298巻、2176頁、2002年
【非特許文献2】Sun, Y.ら、Nano Lett.、2巻、165頁、2002年
【非特許文献3】Sun, Y.ら、Adv. Mater.、14巻、833頁、2002年
【非特許文献4】Kim, F.ら、Angew. Chem. Int. Ed.、116巻、3759頁、2004年
【非特許文献5】Wiley, B.ら、Nano Lett.、4巻(9号)、1733〜1739頁、2004年
【非特許文献6】Sun, Y.ら、Chem. Mater.、14巻、4736〜4745頁、2002年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
当技術分野では、制御可能な形状およびサイズを有するナノ構造体を実際的で再現性のある方式で製作することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
簡単な要旨
本明細書では、ポリオール合成の反応条件を調節することによって、金属ナノワイヤの形態を制御する方法を記載する。特に、反応物を不活性気体でパージすることによって、バッチ間の一貫性を達成することができる。
【0011】
一実施形態において、
(a)反応容器中でポリオール溶媒、キャッピング試薬、およびイオン性添加物を合わせることによって第1の反応混合物を準備するステップ、
(b)第1反応混合物を不活性気体で、あるパージ時間の間パージするステップ、
(c)(b)の後に、第1の反応混合物を金属塩と合わせることによって第2の反応混合物を準備するステップ、および
(d)金属塩を還元することによって、金属ナノワイヤを第1の収率で含む複数の金属ナノ構造体を準備するステップ
を含む、金属ナノワイヤを調製する方法が提供される。
【0012】
一部の実施形態において、該方法は、(b)の前に、第1の反応混合物を所定の反応温度まで加熱することを含む。
【0013】
特定の実施形態において、第1の反応混合物をパージするステップは、反応容器をパージすること、および第1の反応混合物の上部表面上に不活性気体のブランケットを形成することを含む。他の実施形態において、第1の反応混合物をパージするステップは、第1の反応混合物をスパージすること(すなわち、第1の反応混合物中に不活性気体を直接的に注入すること)を含む。
【0014】
種々の実施形態において、複数の金属ナノ構造体を準備するステップは、第2反応混合物をパージしながら金属塩を還元することを含む。
【0015】
特定の実施形態において、ポリオール溶媒は、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、またはグリセロールであり、キャッピング試薬はポリ(ビニルピロリドン)であり、イオン性添加物(例えば、テトラアルキルアンモニウムクロリド)は、塩化物イオンを提供する。
【0016】
好ましい実施形態において、金属塩は銀塩であり、金属ナノワイヤは銀ナノワイヤである。他の実施形態において、特許請求される方法によって製造される複数の金属ナノ構造体は、少なくとも80%の金属ナノワイヤを含む。
【0017】
種々の実施形態において、パージ時間を調節することにより、異なる形態の金属ナノ構造体、および/または異なる収率の金属ナノワイヤが得られる。
【0018】
さらなる実施形態では、
(a)目標平均長、目標平均直径、または目標収率を有する、第1の複数の金属ナノワイヤを準備するステップであって、第1の複数の金属ナノワイヤは、不活性気体で第1のパージ時間の間パージすることを含む第1ポリオール合成によって、第1のポリオール溶媒中で調製され、第1のポリオール溶媒は、第1の製造業者ロットから提供される、ステップ、
(b)目標平均長、目標平均直径、または目標収率を有する、第2の複数の金属ナノワイヤを準備するステップであって、第2の複数の金属ナノワイヤは、不活性気体で第2パージ時間の間パージすることを含む第2のポリオール合成によって、第2のポリオール溶媒中で調製され、第2のポリオール溶媒は、第1のポリオール溶媒と化学的に同一であり、第2の製造業者ロットから提供される、ステップを含み、第1のパージ時間は第2のパージ時間と異なる、方法が提供される。
【0019】
種々の実施形態において、第1のポリオール合成および第2のポリオール合成は、その他の点では実質的に同一の条件で実施される。
【0020】
特定の実施形態において、目標平均長、目標平均直径、または目標収率を有する、第2の複数の金属ナノワイヤを提供するステップは、第2のポリオール溶媒中で1つまたは複数の試験ポリオール合成を実行することによって、第2のパージ時間を選択すること;各試験ポリオール合成から生じるそれぞれの金属ナノワイヤについての平均長、平均幅、または収率を得ること;および目標平均長、目標平均幅、または目標収率を有する金属ナノワイヤを生成する試験ポリオール合成に対応するものとして、第2のパージ時間を特定することを含む。
【0021】
特定の具体的実施形態において、第1のポリオール合成は、第2のポリオール合成よりも小さい反応規模を有する。
【0022】
図面において、同一の参照番号は、同様の要素または行為を指す。図面中の要素のサイズおよび相対的位置は、必ずしも正確な縮尺率で描かれているとは限らない。例えば、種々の要素の形状および角度は、正確な縮尺率で描かれておらず、これらの要素の一部は、図面の読取り性を改善するために自由裁量で拡大され配置されている。さらに、描かれている要素の個々の形状は、個々の要素の真の形状に関するなんらかの情報を伝達することを意図するものではなく、単に図面中での認識を容易にするために選択されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1A〜1Cは、ポリ合成における種々の形態のナノ構造体の核形成および成長を概略的に例示する。
【図2】図2は、標準的ポリオール合成による混合ナノワイヤおよびナノ粒子の反応生成物を示す。
【図3】図3は、キャッピング剤で援助されたナノワイヤの一次元成長を概略的に例示する。
【図4】図4A〜4Dは、改変ポリ合成において、種々の塩化物添加剤を使用する種々の実施形態を例示する。
【図5】図5A〜5Fは、異なる反応時点でのナノワイヤ形成の進行を示す。
【図6】図6は、イオン性添加物が存在しない実施形態での反応生成物を示す。
【図7】図7は、還元性溶媒として1,2−プロピレングリコールを使用した実施形態を示す。
【図8】図8は、還元性溶媒として1,3−プロピレングリコールを使用した実施形態を示す。
【図9A】図9Aは、ポリオール合成によって形成された銀ナノワイヤの平均幅のバッチ間変動、および窒素パージの効果を示す。
【図9B】図9Bは、ポリオール合成によって形成された銀ナノワイヤの平均長のバッチ間変動、および窒素パージの効果を示す。
【図9C】図9Cは、ポリオール合成によって形成された銀ナノワイヤの収率のバッチ間変動、および窒素パージの効果を示す。
【図9D】図9Dは、窒素パージなしのポリオール合成によって生成される複数のナノ構造体を示す。
【図10A】図10Aは、プロピレングリコールのロット間変動の、その他の点では同一であるポリオール合成の反応時間に及ぼす効果を示す。
【図10B】図10Bは、プロピレングリコールのロット間変動の、その他の点では同一であるポリオール合成によって生成されるナノワイヤの平均長に及ぼす効果を示す。
【図10C】図10Cは、窒素パージ時間の、固定されたプロピレングリコールロットを使用するポリオール合成によって生成された銀ナノワイヤの平均長に及ぼす効果を示す。
【図11】図11は、固定されたプロピレングリコールロットに関して、窒素パージ時間の、銀ナノワイヤ長分布に及ぼす効果を示す。
【図12A】図12Aは、窒素パージまたはスパージの、ポリオール合成によって生成された銀ナノワイヤの平均長に及ぼす効果を示す。
【図12B】図12Bは、窒素パージまたはスパージの、ポリオール合成によって生成された銀ナノワイヤの平均幅に及ぼす効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本明細書では、ポリオール合成で生成する場合にナノ構造体の形態を制御する方法を提供する。特に、種々の実施形態により、バッチ間の一貫性を伴って高収率でナノワイヤを製造する方法が提供される。
【0025】
ナノ構造体の形態
本明細書では、種々の形態のナノ構造体の混合物から特定形態のナノ構造体を単離、精製する方法を提供する。特に、精製された金属ナノ構造体は、実質的にすべてが10以上のアスペクト比を有する。
【0026】
本明細書中で使用する場合、「導電性ナノ構造体」または「ナノ構造体」は、一般に、導電性のあるナノサイズの構造体を指し、その少なくとも1つの寸法は、500nm未満、より好ましくは250nm未満、100nm、50nm、または25nmである。典型的には、ナノ構造体は、元素状金属(例えば、遷移金属)または金属化合物(例えば、酸化金属)などの金属性材料で作られる。金属性材料は、バイメタル材料、あるいは2種以上の金属を含む合金であってもよい。適切な金属としては、限定はされないが、銀、金、銅、ニッケル、金メッキされた銀、白金、およびパラジウムが挙げられる。
【0027】
ナノ構造体は、任意の形状またはジオメトリーを取り得る。所定のナノ構造体の形態は、ナノ構造体の直径に対する長さの比であるそのアスペクト比によって、単純化された方式で規定することができる。例えば、特定のナノ構造体は、等方的に形づくられる(すなわち、アスペクト比=1)。典型的な等方性ナノ構造体としては、ナノ粒子が挙げられる。好ましい実施形態において、ナノ構造体は、異方的に形づくられる(すなわち、アスペクト比≠1)。異方性ナノ構造体は、典型的には、その長さに沿った縦軸を有する。典型的な異方性ナノ構造体としては、本明細書中で定義されるようなナノワイヤ、ナノロッド、およびナノチューブが挙げられる。
【0028】
ナノ構造体は、中身が詰まっていても、中空でもよい。中身が詰まったナノ構造体としては、例えば、ナノ粒子、ナノロッド、およびナノワイヤが挙げられる。「ナノワイヤ」は、典型的には、10を超える、好ましくは50を超える、より好ましくは100を超えるアスペクト比を有する長く細いナノ構造体を指す。典型的には、ナノワイヤは、500nmを超える、1μmを超える、または10μmを超える長さである。「ナノロッド」は、典型的には、10を超えないアスペクト比を有する短く幅広の異方性ナノ構造体である。
【0029】
中空のナノ構造体としては、例えば、ナノチューブが挙げられる。典型的には、ナノチューブは、10を超える、好ましくは50を超える、より好ましくは100を超えるアスペクト比(長さ:直径)を有する。典型的には、ナノチューブは、500nmを超える、1μmを超える、または10μmを超える長さである。
【0030】
ナノ構造体が長いほど目標の導電率を達成するのに必要とされる構造体が少ないので、より高アスペクト比のナノ構造体(例えば、ナノワイヤ)は、より低アスペクト比(10を超えない)のナノ構造体に比較してとりわけ有利である。また、導電性フィルム中のナノ構造体が少ないほど、より高い光学的透明度およびより低いヘーズにつながり、双方のパラメーターは、ディスプレイ技術での広範な範囲の応用を見出す。さらに、ナノワイヤ幅は、また、フィルムの導電率に直接的に影響を及ぼし、すなわち、所定の金属装填レベルにおいて、ナノワイヤが細いほど、得られるフィルムは、導電性がより小さい。
【0031】
ナノワイヤはフィルムの極めて小さな分率を構成するので、ナノワイヤからなる導電性ネットワークは、光学的に透明である。特に、ナノワイヤは光を吸収、散乱するので、ナノワイヤ長およびナノワイヤ幅は、得られる透明導電体フィルムの光学的透明度および光拡散(ヘーズ)に影響を及ぼす。低アスペクト比のナノ構造体は導電率に効果的に寄与しない可能性があり、かつそれらの存在はヘーズに寄与する可能性があるので、その中でナノ構造体が導電性ネットワークを形成する透明導電体を形成するためには、ナノワイヤのそれに比べてより低アスペクト比を有するナノ構造体の量を減らすのが望ましい場合がある。本明細書中で使用する場合、「低アスペクト比のナノ構造体」としては、例えば、比較的幅広および/または短い(例えば、ナノ粒子、ナノロッド)および比較的小さいアスペクト比(<10)を有するナノ構造体が挙げられる。これらの低アスペクト比のナノ構造体の一部またはすべては、暗視野顕微鏡写真でのそれらの明るい外観のため、導電性フィルム中の「明るいオブジェクト」として認識される可能性がある。したがって、明るいオブジェクトは、導電性フィルムのヘーズを有意に増加させる可能性がある。
【0032】
標準的ポリオール合成および塩化物イオンを添加することによる改変
図1A〜1Cは、標準的ポリオール合成におけるナノ構造体の形成を概略的に例示している。初期段階(図1A)で、金属塩は、溶液相(10)中のポリオール溶媒(例えば、エチレングリコール)によって元素状金属原子まで還元される。一般に、金属原子は、均一核形成過程を経て小さな粒子状種晶(14)を最初に形成する。これらの粒子状種晶は、典型的には、1〜5nmの範囲の直径を有する。これらの種晶の一部は、溶液相(10)中で、無差別的にすべての次元で進行する成長に由来する等方性ナノ構造体(20)へ成長し始める。対照的に、一部の種晶は、横次元に沿った優先的成長に由来する異方性ナノ構造体(24)へ成長する。図1Cに示すように、等方性ナノ構造体(20)および異方性ナノ構造体(24)は、それらの基本的形態を維持しながらより大きな構造体に成長し続ける。ナノ粒子(30)およびナノワイヤ(34)が得られる。成長過程中に、より小さな粒子は、より安定性が低く、典型的には、自然に溶解し、より大きな粒子の成長に寄与することに留意されたい。例えば、米国特許出願公開第2005/0056118号を参照されたい。
【0033】
反応時間および温度などの反応条件を調節して、ナノワイヤの形成へ片寄せることができるが、標準的ポリオール法は、均一なナノワイヤを満足できる収率で生成させることができない。図2は、前駆体として硝酸銀を使用する標準的ポリオール法の反応生成物の画像である。示したように、ナノワイヤおよびナノ粒子の双方が存在する。
【0034】
前記反応混合物に塩化物イオンを提供する適切なイオン性添加物(例えば、テトラブチルアンモニウムクロリド)を添加すると、生じるナノワイヤの収率および単分散性が増加することが見出された。この改変ポリオール合成は、本出願人らの共有、同時係属の米国特許出願第11/766,552号中により詳細に記載されており、該出願はその全体で本明細書に組み込まれる。
【0035】
本明細書中で使用する場合、「金属塩」は、正に帯電した金属イオンおよび負に帯電した対イオンを有する中性化合物を指す。対イオンは無機性または有機性でよい。典型的な金属塩としては、限定はされないが、硝酸銀(AgNO3)、酢酸銀((CH3COO)2Ag)、過塩素酸銀(AgClO4)、過塩素酸金(Au(ClO4)3)、塩化パラジウム(PdCl2)、塩化白金(PtCl2)などが挙げられる。典型的には、金属塩は、還元性溶媒(例えば、エチレングリコール)に可溶であり、反対に帯電した金属イオンと対イオンとに解離する。典型的には、還元性溶媒中での金属塩の溶解度は、少なくとも0.001g/ml、少なくとも0.05g/ml、または少なくとも0.1g/mlである。
【0036】
前記反応混合物中での金属塩の還元は、対応する元素状金属を生成する。元素状金属は、一次元ナノ構造体(すなわち、ナノワイヤ)に結晶化するか、または成長する。したがって、適切な金属ナノワイヤとしては、限定はされないが、銀、金、銅、ニッケル、パラジウム、白金、および金メッキされた銀のナノワイヤが挙げられる。
【0037】
「キャッピング剤」は、成長するナノワイヤの側面と優先的に相互作用し、それに付着し、結果的に、キャッピング剤が、側面の成長を制限し、かつナノワイヤの横断面が結晶化することを促進するような化学薬剤を指す。図3は、成長しているナノワイヤ(36)の一次元成長を概略的に例示している。成長しているナノワイヤ(36)は、側面(37)および横断面(38)を含む。キャッピング剤(39)は、横断面(38)よりも側面(36)とより強く相互作用する。したがって、側面(36)は不動態化され、横断面(38)は、ナノワイヤを生成するためのさらなる結晶化に利用できる。キャッピング剤の例には、限定はされないが、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリアリールアミド、ポリアクリル、およびこれらの任意のコポリマーが含まれる。
【0038】
「還元性溶媒」は、金属塩、イオン性添加物、およびキャッピング剤が可溶性である極性溶媒を指す。加えて、還元性溶媒は、金属塩をその対応する元素状金属に変換するための還元剤として機能する。典型的には、還元性溶媒は、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む化学試薬である。還元性溶媒の例には、限定はされないが、ジオール、ポリオール、グリコール、またはこれらの混合物が含まれる。より具体的には、還元性溶媒は、例えば、エチレングリコール,1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、グリセリン、グリセロール、およびグルコースでよい。
【0039】
「イオン性添加物」は、カチオンおよびアニオンを含む塩の添加物を指す。カチオンおよびアニオンは、イオン相互作用によって会合し、水、アルコール、ジオール、およびポリオール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、グリセリン、グリセロール、およびグルコースを含む)などの極性溶媒中で解離する。カチオンは、有機性または無機性でよい。アニオンは、典型的には無機性である。典型的なアニオンとしては、ハロゲン化物イオン(Cl−、Br−、I−、F−)、リン酸イオン(PO43−)、硫酸イオン(SO42−)、硫酸水素イオン(HSO4−)、アリールおよびアルキルスルホン酸イオン(RSO3−)などが挙げられる。イオン性添加物は、その対応する酸をさらに含むことができ、すなわちカチオンがプロトンである。
【0040】
特定の実施形態において、イオン性添加物は、第四級アンモニウムクロリドである。本明細書中で使用する場合、「第四級アンモニウムクロリド」は、その中の4つの水素がすべて有機基で置き換えられている塩化アンモニウム(NH4+Cl−)を指す。したがって、第四級アンモニウムクロリドは、典型的には、式NR4+Cl−で表すことができ、ここで、各Rは、同一でも異なっていてもよく、独立に、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、またはアラルキルである。
【0041】
「アルキル」は、直線または分枝方式のどちらかで配置された1〜20個の間の炭素からなる一価の飽和炭化水素構造を指す。低級アルキルは、1〜5個の炭素原子からなるアルキル基を指す。低級アルキル基の例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、s−およびt−ブチルなどが含まれる。長鎖アルキル基の例には、オクチル(C8)、デシル(C10)、ドデシル(C12)、セチル(C16)などが含まれる。一定数の炭素を有するアルキル残基を命名する場合、その数の炭素を有するすべての幾何異性体が想定され、したがって、例えば、「ブチル」は、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、およびt−ブチルを包含し、プロピルは、n−プロピルおよびイソプロピルを包含することになる。
【0042】
そうでないことを明示しない限り、アルキルは、ハロゲン(F、Br、ClまたはI)、アルコキシ、アミンなどで場合によって置換されていてもよい。
【0043】
「アルケニル」は、2〜20個の間の炭素原子からなり、少なくとも1つの二重結合を有する一価の炭化水素構造を指す。例には、限定はされないが、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ブタジエニル、ペンタジエニルなどが含まれる。そうでないことを明示しない限り、アルキルは、ハロゲン(F、Br、ClまたはI)、アルコキシ、アミンなどで場合によって置換されていてもよい。
【0044】
「アルキニル」は、2〜20個の間の炭素原子からなり、少なくとも1つの三重結合を有する一価の炭化水素構造を指す。例には、限定はされないが、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、メチルプロピニル、4−メチル−1−ブチニル、4−プロピル−2−ペンチニルなどが含まれる。
【0045】
「アルコキシ」は、式−O−アルキルの基を指す。例には、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシなどが含まれる。低級アルコキシは、1〜5個の炭素を含む基を指す。
【0046】
「アリール」は、場合によって置換されているフェニルまたはナフチルを指す。アリールのための典型的な置換基としては、1つまたは複数のハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、メルカプトなどが挙げられる。
【0047】
「アラルキル」は、少なくともアリール基で置換されたアルキル残基を指す。アラルキルは、典型的には、式アリール−アルキル−で表することができる。典型的なアラルキルとしては、限定はされないが、フェニルメチル(すなわち、ベンジル)、またはフェニルエチル基が挙げられる。
【0048】
したがって、典型的なイオン性添加物としては、限定はされないが、テトラメチルアンモニウムクロリド(TMAC)、テトラブチルアンモニウムクロリド(TBAC)、セチルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)、C8〜C18アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド(すなわち、Aliquat336(登録商標))などが挙げられる。
【0049】
第四級アンモニウムイオン(NR4+)は、典型的にはそれらの環境のpHによって影響されない、恒久的に帯電したカチオンである。それらは、本明細書で定義されるような還元性溶媒に可溶である。さらに、それらは、存在する有機部分のため、キャッピング剤(例えば、PVPおよびそのコポリマー)と相溶性である。
【0050】
第四級アンモニウムイオンは、改変ポリオール法での銀ナノワイヤの形成に対するそれらの影響に関して無機カチオンと異なる。より具体的には、第四級アンモニウムをベースにしたイオン性添加物が存在すると、ナノ構造体の主に異方性の成長が促進され、比較的高い収率および比較的高い単分散性でナノワイヤが生成される。
【0051】
図4A〜4Dは、それぞれHCl、ZnCl2、MgCl2、およびTBACを含む種々の塩化物をベースにしたイオン性添加物を使用する銀ナノワイヤの形成に関する画像である。反応は、すべて、初めに0.1MのAgNO3、0.15MのPVPおよび0.001Mの塩化物を室温(25℃〜40℃)で混合することによって実施した。次いで、反応混合物を約160℃まで加熱した。典型的には、ナノ構造体(ナノワイヤおよび/またはナノ粒子)は、短い誘導時間(10〜30分)の後に急速に形成された。約30分後に生成物を集めた。
【0052】
図4A〜4Cは、銀ナノワイヤが、多様な度合いの他のナノ構造体(例えば、ナノ粒子)を伴って形成されたことを示している。比較すると、図4Dは、ナノ粒子の形成がないか、ほとんどなく、長さが3〜100μmの間の均一な銀ナノワイヤを示している。したがって、銀ナノワイヤの収率は、とりわけ、添加物としてTBACを使用して高い総括収率および高い単分散性で最適化されている。
【0053】
イオン性添加物中のアニオン(すなわち、塩化物)は、また、ナノワイヤの形成を制御することにおいて重要な役割を演じる。他のハライド(例えば臭化物)をベースにしたイオン性添加物は、塩化物をベースにしたイオン性添加物と同様の効果を有さないことが見出されている。例えば、セチルトリメチルアンモニウムクロリドの代わりにセチルトリメチルアンモニウムブロミドを使用すると、ナノ粒子だけが生成する。
【0054】
さらに、反応混合物中の成分濃度は、ナノ構造体の形成およびそれらの収率に対して一定の影響を及ぼすことが観察されている。例えば、反応混合物中の金属塩は、典型的には、ナノワイヤの最善の収率のためには約0.01M〜0.2M、より好ましくは0.05M〜0.1Mの範囲である。加えて、PVPの濃度は、典型的には、0.01M〜0.2M、より好ましくは0.05M〜0.15Mの範囲にある。
【0055】
種々の実施形態において、反応混合物中の第四級アンモニウムクロリドの濃度は、0.001M〜0.5Mの範囲にある。好ましくは、濃度は、沈殿を避けるために、0.1M未満である。典型的には、第四級アンモニウムクロリドと金属塩との間の相対モル比は、約0.1%〜10%、より好ましくは約0.5%〜1%である。
【0056】
反応温度は、形成される金属ナノワイヤの収率および長さに影響を及ぼす。典型的には、金属塩、PVP、およびイオン性添加物は、ポリオール溶媒(例えば、エチレングリコールまたはプロピレングリコール)中で、反応混合物を準備するための第1の温度で混合される。第1の温度は、約20℃〜40℃の範囲でよい。反応混合物は、それを第2の温度まで加熱する前に、徹底的に混合される。第2の温度は、典型的には、約50℃〜約200℃、より典型的には約150℃〜約160℃の範囲で維持される。170℃を超える温度では、より低い温度で形成されるナノワイヤに比較して、より短いナノワイヤが形成された。
【0057】
改変ポリオール法で生成された金属ナノワイヤの収率および長さは、反応時間によってさらに制御される。図5A〜5Fは、×100DFで可視化されたナノワイヤ形成の進行を例示している。サンプルは、示した反応時点で反応混合物から採取した。各サンプルは、ナノ構造体の成長を止めるために氷浴中で冷却した。図5Aは、最初の誘導時間(約7分)内に、微細粒子(40)(例えば、種晶)が形成されたことを示している。図5B〜5Dに示すように、次の3分で、ナノワイヤ(44)が急速に形をなした。反応15分の時点で、より長いナノワイヤ(48)が反応混合物中に存在した(図5E)。その後、さらなる5分でより多くのナノワイヤが生じた(図5F)。反応は30分以内に完結し、それによって、長い反応時間でもナノワイヤは形成されなかった。
【0058】
図6は、いかなるイオン性添加物も含まないエチレングリコール中での比較のポリオール合成を示す。示したように、ナノワイヤはほとんど形成されなかった。
【0059】
溶媒の選択も、ナノワイヤの形態に影響を及ぼし得る。例えば、1,2−プロピレングリコールは、エチレングリコールと比べてより急速なナノワイヤの成長につながり、一方、グリセロールはより遅い反応速度を示す。図7〜8(それぞれ、実施例8および9に対応する)は、1,2−プロピレングリコールおよび1,3−プロピレングリコール中での改変ポリオール合成の結果を示す。
【0060】
窒素パージ
上記の標準的および改変ポリオール合成を、双方とも空気の存在下で実施した。双方の方法とも、主としてナノワイヤを生成するように最適化することができるが、ナノワイヤ以外の少ないがかなりのナノ構造体集団が生じる。例えば、金属ナノワイヤの他に、ナノ粒子、ナノ立方体、ナノロッド、ナノ角錐、および多重双晶粒子を含む種々の形態の金属ナノ構造体も得られる可能性があった。この問題は、ナノワイヤの形態のバッチ間変動をもたらす該方法の不十分な再現性によっていっそうひどくなる。これは、少なくとも部分的には、空気の存在下での反応速度の不十分な制御のためである。例えば、改変ポリオール合成において、反応は、反応混合物をサンプリングすること、およびナノワイヤの形態を特徴付けることによって用手的に監視される。反応は、典型的には、ナノワイヤの形態が、長さおよび幅に関する特定の目標基準を満たす場合に、停止される。しかし、ナノワイヤの形態の視覚的特徴付けは、反応操作員の主観的評価に依拠し、バッチ間でのナノワイヤの形態および収率の不十分な再現性につながる。例えば、反応をあまりに早く停止すると、目標の形態は達成されなかった。一方、反応をあまりに遅く停止すると、明るいオブジェクトの集まりが形成される。いったん形成されると、これらの明るいオブジェクトは、主として質量の類似性のため、所望の形態のナノワイヤから分離するのが極めて困難である。本明細書中で考察するように、典型的には低アスペクト比を有するナノ構造体であるこれらの明るいオブジェクトは、最終導電性フィルムにおけるヘーズの増大を引き起こす可能性がある。
【0061】
したがって、このような用手的反応制御は、低アスペクト比のナノ構造体を形成する事態を低減しながら、目標のナノワイヤ形態に到達するためのその試みにおいて、有効性がより低いことが見出された。結果として、目標の形態を有するナノワイヤの収率は、バッチ間で異なり、一部の事例では25%のような低いものである可能性がある。
【0062】
一実施形態では、金属塩を還元するに先立って反応容器を不活性気体でパージすることによって、ポリオール合成におけるナノワイヤの形態を制御する方法が提供される。驚くべきことに、このような不活性気体でのパージは、ナノワイヤの形態および収率のバッチ間変動を低減または排除する。
【0063】
より具体的には、一実施形態では、
(a)反応容器中でポリオール溶媒、キャッピング試薬、およびイオン性添加物を合わせることによって第1の反応混合物を準備するステップ、
(b)第1の反応混合物を不活性気体で、あるパージ時間の間パージするステップ、
(c)(b)の後に、第1の反応混合物を金属塩と合わせることによって第2の反応混合物を準備するステップ、および
(d)金属塩を還元することによって、金属ナノワイヤを第1の収率で含む複数の金属ナノ構造体を準備するステップ
を含む、金属ナノワイヤを調製する方法が提供される。
【0064】
好ましい実施形態において、不活性気体は窒素である。窒素パージについて説明する場合、他の不活性気体またはアルゴンなどの貴ガスも使用できることを理解されたい。
【0065】
本明細書中で使用する場合、「パージ」は、ある種の反応雰囲気を別のもので置き換えることを指す。特に、ポリオール溶媒中で金属塩を還元することを含む本明細書に記載のポリオール合成において、パージは、還元反応に先立って、反応容器中に存在する空気を不活性気体で置き換えることを指す。例えば、窒素パージは、反応容器をパージすること、および金属塩以外のすべての反応物を含む第1の反応混合物の上部表面上に不活性気体のブランケットを形成することを含むことができる。他の実施形態において、窒素パージは、第1の反応混合物をスパージすることを含むことができる。本明細書中で使用する場合、「スパージ」は、不活性雰囲気を液相、例えば反応混合物中に向けるある種のパージを指す。典型的には、スパージは、不活性気体を反応混合物中に吹き込むことによって実施することができる。
【0066】
一部の実施形態において、該方法は、パージの前に、第1の反応混合物をさらに所定の反応温度まで加熱することを含む。典型的には、該温度は、約70℃〜140℃、または好ましくは80℃〜120℃である。
【0067】
他の実施形態において、初期パージ時間でパージした後に、金属塩を添加し、その後も反応の全期間にわたってパージを継続する。
【0068】
種々の実施形態において、ポリオール溶媒は、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、またはグリセロールである。キャッピング試薬は、ポリ(ビニルピロリドン)であり、イオン性添加物はテトラアルキルアンモニウムクロリドである。
【0069】
記載の実施形態のいずれにおいても、金属塩は好ましくは銀塩であり、金属ナノワイヤは銀ナノワイヤである。
【0070】
種々の実施形態において、金属ナノワイヤの収率は、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%である。本明細書中で使用する場合、「収率」は、金属塩の形態で反応混合物に添加された金属に対する金属ナノワイヤの量を指す。
【0071】
図9A〜9Cは、多くの異なる反応バッチ(合計80バッチ)におけるナノワイヤの形態に関する窒素パージの効果を示す。図9Aは、窒素パージなしの40の反応バッチ(1〜40)における平均ナノワイヤ幅、および窒素パージのある40の反応バッチ(41〜80)におけるそれを示す。上部管理限界(UCL)および下部管理限界(LCL)は、平均幅からそれぞれプラスおよびマイナス3の標準偏差として定義される。示したように、窒素パージなしでは、ナノワイヤの幅は、窒素パージを用いて得られたナノワイヤの幅の変動に比べてより大きい度合いで変化した(UCLとLCLとの間のより大きな差異)。同様に、図9Bは、長さのバッチ間変動も、窒素パージなしの反応バッチ(1〜40)のそれに比較して、窒素パージのある反応バッチ(41〜80)で大きく縮小することを示している。明らかに、図9Cは、窒素パージのある反応バッチ(41〜80)におけるナノワイヤの収率が、窒素パージなしの反応バッチ(1〜40)におけるそれと比較して実質的により高く、変動ははるかに小さいことを示している。
【0072】
比較として、図9Dは、不活性気体でパージせず、先行技術によるポリオール合成におけるナノ構造体の集合を示す。代わりに、還元反応を空気の存在下で行う。示したように、短く、かつ比較的低アスペクト比を有する明るいオブジェクト(60)が、長く細いナノワイヤ(70)の間にしばしば存在する。これらの明るいオブジェクトは、たぶん、許容できないほど高レベルのヘーズを有する導電性フィルムをもたらすと思われる。
【0073】
したがって、還元反応に先立って、不活性気体、例えば、窒素およびアルゴンでパージするポリオール合成は、はるかにより再現性のあるナノワイヤ形態、ナノワイヤのより高い収率、およびより少ない低アスペクト比のナノ構造体につながることが立証される。
【0074】
さらに、固定された時間、固定された流速で不活性気体をパージした場合でさえも、生じるナノワイヤの形態は、ポリオール溶媒(例えば、1,2−プロピレングリコール、またはPG)の個々の製造業者のロットに高度に依存することがさらに発見される。図10Aは、2つの別々の反応器において、所望のナノワイヤ形態に到達するための全反応時間が、PGのロット(A〜D)間で異なることを示す。PGの一部のロットは、より短い反応時間、およびより短くより細いナノワイヤをもたらし、一方、PGの他のロットは、より長い反応時間でより長いナノワイヤをもたらす。図10Bも参照されたい。
【0075】
図10Cは、PGのロットを固定した場合、金属塩の添加およびそれに続く反応開始に先立つ、異なる窒素パージ時間が、異なるナノワイヤ長をもたらすことを示している。特に、パージ時間が増加するにつれて、より短いがより均一なナノワイヤ長が得られた。したがって、一部の実施形態において、パージ時間の長さを調節すると、異なる形態の金属ナノ構造体が得られる。他の実施形態において、パージ時間を調節すると、金属ナノワイヤの異なる収率が得られる。
【0076】
図11は、また、パージ時間を調節すると、ナノワイヤ形態の異なるサイズ分布が得られることを示している。特に、パージ時間が長いほど、長さ分布がより狭く、パージ時間を操作して特定の目標形態(例えば、約10μmの長さ)を達成することができる。
【0077】
したがって、別の実施形態では、ナノワイヤ合成の原料のロット間変動を、不活性気体のパージ時間を調節することによって補償し、それによって、原料のロット間変動によるナノワイヤ形態に対する影響を低減または排除する方法が提供される。ポリオール溶媒(例えば、PG)は、その量が、他のすべての原料よりも有意により重いので、典型的には、変動の主要原因である。しかし、いずれの原料も、ある程度のロット間変動を持ち込む可能性があり、不活性気体のパージ時間を調節することによって、その変動に同様に対処することができる。
【0078】
より具体的には、該方法は、
(a)目標平均長、目標平均直径、または目標収率を有する、第1の複数の金属ナノワイヤを準備するステップであって、第1の複数の金属ナノワイヤは、不活性気体で第1のパージ時間の間パージすることを含む第1のポリオール合成によって、第1のポリオール溶媒中で調製され、第1ポリオール溶媒は、第1の製造業者ロットから提供される、ステップ、
(b)目標平均長、目標平均直径、または目標収率を有する、第2の複数の金属ナノワイヤを準備するステップであって、第2の複数の金属ナノワイヤは、不活性気体で第2のパージ時間の間パージすることを含む第2のポリオール合成によって、第2のポリオール溶媒中で調製され、第2のポリオール溶媒は、第1のポリオール溶媒と化学的に同一であり、第2の製造業者ロットから提供される、ステップを含み、第1のパージ時間は、第2のパージ時間と異なる。
【0079】
種々の実施形態において、第1のポリオール合成および第2ポリオール合成は、その他の点では、実質的に同一の条件で実施される。
【0080】
典型的には、金属ナノワイヤの目標形態は、金属ナノワイヤから形成される透明導電体の特定の仕様を満たすように前もって選択することができる。参照によりその全体で本明細書に組み込まれる、例えば、共有で同時係属の米国特許出願第11/871,053号には、ナノワイヤの形態とナノワイヤをベースにした透明導電体のシート抵抗との間の相関に関する詳細な分析が提供されている。
【0081】
第1および第2のポリオール溶媒は、それらが、同一の化学的特徴および特性を有することにおいて化学的に同一である。それらは、任意の所定製造業者のロットにおける程度の異なる不純物および溶存酸素レベルから生じる可能性のあるロット間変動の程度を互いに異にするだけである。例えば、図10Aおよび10Bに示すように、ロットA〜Dは、同一製造業者(Dow Chemical Company社、ミッドランド、ミシガン州)によって供給されたプロピレングリコールであり、さらにそれらは、同様に実行された反応から異なる形態のナノワイヤをもたらした。
【0082】
さらなる実施形態では、パージ時間の長さを決定するために、第2ポリオール溶媒中で1つまたは複数の試験的ポリオール合成を実行することによって目標のナノワイヤ形態を達成する方法が提供される。特に、第2ロットの第2ポリオール溶媒について、唯一の変数がパージ時間であるより小規模の反応を初めに実行することができ、生じたナノワイヤを分析することができる。目標形態のナノワイヤと結び付いたパージ時間を、大規模な反応を実行する際に使用することができる。
【0083】
インク組成物
ナノ構造体のネットワーク層を調製するには、ナノ構造体の液状分散液を基板上に堆積させ、それに乾燥または硬化工程が続くことができる。液状分散液は、「インク組成物」または「インク製剤」とも呼ばれる。インク組成物は、典型的には、複数のナノ構造体および液体担体を含む。
【0084】
高アスペクト比(例えば、10を超える)の異方性ナノ構造体は、効率的な導電性ネットワークの形成を促進するので、インク組成物中のナノ構造体は、均一に、10を超えるアスペクト比を有することが望ましい(例えば、ナノワイヤ)。しかし、特定の実施形態において、ナノワイヤ合成の副成物として10以下のアスペクト比を有する比較的少量のナノ構造体(ナノ粒子を含む)が存在する可能性がある。したがって、そうでないことを明示しない限り、導電性ナノ構造体は、ナノワイヤおよびナノ粒子を包含すると理解されたい。さらに、本明細書中で使用する場合、そうでないことを明示しない限り、インク組成物およびそれをベースにした導電性フィルム中の大部分のナノ構造体を表す「ナノワイヤ」は、10以下のアスペクト比を有する少量のナノ粒子またはその他のナノ構造体を伴っても、伴わなくてもよい。
【0085】
液体担体は、例えば、水、ケトン、アルコール、またはこれらの混合物を含む、任意の適切な有機または無機の溶媒または溶媒群でよい。ケトンをベースにした溶媒は、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどでよい。アルコールをベースにした溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコールなどでよい。
【0086】
インク組成物は、ナノ構造体の凝集または腐食を防止または低減し、かつ/または基板上へのナノ構造体の固定化を促進する1種または複数の薬剤をさらに含むことができる。これらの薬剤は、典型的には、非揮発性であり、界面活性剤、粘度改質剤、腐食抑制剤などが挙げられる。
【0087】
特定の実施形態において、インク組成物は、ナノ構造体の凝集を低減するのに役立つ界面活性剤を含む。適切な界面活性剤の代表例には、ZONYL(登録商標)FSN、ZONYL(登録商標)FSO、ZONYL(登録商標)FSA、ZONYL(登録商標)FSH(DuPont Chemicals、ウィルミントン、デラウェア州)をはじめとするZONYL(登録商標)界面活性剤、およびNOVEC(商標)(3M社、セントポール、ミネソタ州)などのフルオロ界面活性剤が含まれる。その他の典型的な界面活性剤としては、アルキルフェノールエトキシレートをベースにした非イオン性界面活性剤が挙げられる。好ましい界面活性剤としては、例えば、TRITON(商標)(×100、×114、×45)などのオクチルフェノールエトキシレート、およびTERGITOL(商標)(Dow Chemical Company、ミッドランド、ミシガン州)などのノニルフェノールエトキシレートが挙げられる。さらなる典型的な非イオン性界面活性剤としては、DYNOL(登録商標)(604、607)(Air Products and Chemicals,Inc.、アレンタウン、ペンシルヴェニア州)などのアセチレンをベースにした界面活性剤、およびn−ドデシルβ−D−マルトシドが挙げられる。
【0088】
特定の実施形態において、インク組成物は、基板上にナノ構造体を固定する結合剤として働く1種または複数の粘度改質剤を含む。適切な粘度改質剤の例には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、およびヒドロキシエチルセルロースが含まれる。
【0089】
個々の実施形態において、界面活性剤の粘度改質剤に対する比は、好ましくは約80〜約0.01の範囲にあり、粘度改質剤の金属ナノワイヤに対する比は、好ましくは約5〜約0.000625の範囲にあり、金属ナノワイヤの界面活性剤に対する比は、好ましくは約560〜約5の範囲にある。インク組成物の成分比は、使用される基板および塗布方法に応じて修正することができる。インク組成物に対して好ましい粘度範囲は、約1〜100cPの間である。
【0090】
導電性フィルム
ナノ構造体のネットワーク層は、インクの堆積に続いて、液体担体を少なくとも部分的に乾燥または蒸発させた後に形成される。ナノ構造体のネットワーク層は、したがって、無作為に分布され、互いに連結されたナノ構造体を含む。ナノ構造体のネットワーク層は、導電性ナノ構造体の直径のそれに類似した厚さを典型的には有する、薄いフィルムの形態を取ることが多い。ナノ構造体の数が浸透(percolation)閾値に達している場合、薄いフィルムは、導電性であり、「導電性フィルム」と呼ばれる。例えば、1種または複数の界面活性剤および粘度改質剤をはじめとするインク組成物中のその他の非揮発性成分は、導電性フィルムの一部を形成することができる。したがって、そうでないことを明示しない限り、本明細書中で使用する場合、「導電性フィルム」は、インク組成物中の任意の非揮発性成分と一緒にされたネットワーク形成性で浸透性のナノ構造体から形成されたナノ構造体のネットワーク層を指し、例えば、粘度改質剤、界面活性剤、および腐食抑制剤の1つまたは複数を含むことができる。特定の実施形態において、導電性フィルムは、前記のナノ構造体ネットワーク層およびオーバーコートまたは遮蔽層などの付加的層を含む複合フィルム構造体を指すこともある。
【0091】
典型的には、ナノ構造体が長いほど、浸透導電率を達成するのに必要とされるナノ構造体が少ない。ナノワイヤなどの異方性ナノ構造体の場合、電気浸透閾値または装填密度は、ナノワイヤ長の二乗に逆相関する。参照によりその全体で本明細書に組み込まれる同時係属で共有の米国特許出願第11/871,053号には、ナノ構造体のサイズ/形状と浸透閾値での表面装填密度との間の理論的および経験的関係が詳細に記載されている。
【0092】
導電性フィルムの導電率は、オーム/平方(または「Ω/□」)によって表される「フィルム抵抗率」または「シート抵抗」によって測定されることが多い。フィルム抵抗は、少なくともナノ構造体の表面装填密度、サイズ/形状、およびナノ構造体の構成要素の固有電気特性の関数である。本明細書中で使用する場合、薄いフィルムは、それが108Ω/□を超えないシート抵抗を有する場合に、導電性と見なされる。好ましくは、シート抵抗は104Ω/□、3,000Ω/□、1,000Ω/□、または100Ω/□を超えない。典型的には、金属ナノ構造体によって形成された導電性ネットワークのシート抵抗は、10Ω/□〜1000Ω/□、100Ω/□〜750Ω/□、50Ω/□〜200Ω/□、100Ω/□〜500Ω/□、100Ω/□〜250Ω/□、10Ω/□〜200Ω/□、10Ω/□〜50Ω/□、または1Ω/□〜10Ω/□の範囲にある。
【0093】
光学的には、導電性フィルムは、「光透過率」および「ヘーズ」によって特徴付けることができる。透過率は、媒質を通って伝達される放射光の百分率を指す。放射光は、約250nm〜800nmの間の波長を有する紫外(UV)または可視光を指す。種々の実施形態において、導電性フィルムの光透過率は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%である。導電性フィルムは、光透過率が少なくとも85%である場合に、「透明」と見なされる。ヘーズは、光拡散の指標である。それは、放射光から分離される、および透過中に散乱される光量の百分率を指す(すなわち透過ヘーズ)。主として媒質(例えば、導電性フィルム)の特性である光透過率と異なり、ヘーズは、製造に関するものであることが多く、典型的には、表面粗さおよび包埋粒子、または媒質組成の不均一性によってもたらされる。種々の実施形態において、透明導電体のヘーズは、10%を超えず、8%を超えず、5%を超えず、または1%を超えない。
【0094】
腐食抑制剤を含む、または含まないオーバーコートは、また、ナノワイヤ層を、温度および湿度、ならびに所定デバイスの正常稼動条件中に起こることのあるそれらの任意の変動の影響から保護するための物理的遮蔽を形成する。オーバーコートは、1つまたは複数の硬質被覆、反射防止層、保護フィルム、遮蔽層などでよく、そのすべては、同時係属の米国特許出願第11/871,767号および第11/504,822号中で広範に考察されている。適切なオーバーコートの例には、ポリアクリル、エポキシ、ポリウレタン、ポリシラン、シリコーン、ポリ(シリコ−アクリル)、等々などの合成ポリマーが含まれる。適切な防眩材料は、当技術分野で周知であり、限定はされないが、シロキサン、ポリスチレン/PMMAのブレンド、ラッカー(例えば、酢酸ブチル/ニトロセルロース/ワックス/アルキド樹脂)、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリウレタン、ニトロセルロース、およびアクリレートが挙げられ、そのすべては、コロイド状またはヒュームドシリカなどの光拡散性材料を含むことができる。保護フィルムの例には、限定はされないが、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリレート(AC)、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン、トリアセテート(TAC)、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルブチラール、金属イオン架橋エチレン−メタクリル酸コポリマー、ポリウレタン、セロファン、ポリオレフィンなどが含まれ、とりわけ好ましいのは、AC、PET、PC、PMMA、またはTACである。
【0095】
本明細書に記載の種々の実施形態は、以下の非限定的実施例によってさらに例示される。
【実施例】
【0096】
(実施例1)
改変ポリオール法−微小規模
10mlのバイアル瓶中で、0.5mlのAgNO3/エチレングリコール溶液(0.1M)を、0.5mlのPVP/エチレングリコール溶液(0.15M)および0.5mlのテトラブチルアンモニウムクロリド/エチレングリコール溶液(0.001M)と室温(25℃)で合わせた。反応を完結するため、バイアル瓶を油浴(190℃)中に20〜30分間浸漬した。灰色で真珠光沢の反応生成物を得た。顕微鏡(×100DF)下で可視化すると、均一のナノワイヤが形成されたことを示した。
【0097】
反応生成物を、バイアル瓶の底部に沈降させ、エチレングリコールを除去した。反応生成物を乾燥し、次いで、反応生成物を5mlの脱イオン水に再懸濁した。懸濁液を、焼結ガラス(細かさ、4〜6μm、Kontes)を通して濾過した。保持物(焼結物を通して濾過できなかったナノワイヤを含む)を乾燥して重さを計測した。
【0098】
反応生成物のさらなる分析は、それらが実質的にナノワイヤであり、ナノ粒子がないか極めて少ないことを示した。
【0099】
生成した銀ナノワイヤは、75±8nmの平均直径、および9.7±2.6μmの平均長を有した。
【0100】
本明細書に記載の微小規模での反応は、高い百分率の銀ナノワイヤを一貫してもたらす高い再現性があった。
【0101】
(実施例2)
イオン性添加物を使用しない
比較として、実施例1の反応を、テトラブチルアンモニウムクロリド添加物を使用しないで実施した。図6に示すように、ナノ粒子のみが得られた。
【0102】
(実施例3)
改変ポリオール法−大規模
1000mlのフラスコ中で、4.171gのPVP(MW=50,000、37.6mmol)、70mgのテトラブチルアンモニウムクロリド(0.25mmol)、および4.254gのAgNO3(25mmol)を500mlのエチレングリコール中で混合した。反応混合物を、室温(25℃)で15分間撹拌した後、フラスコを、200℃に設定した加熱マントルで加熱した。反応混合物の内部温度は、約150℃に制御した。30分以内に、反応混合物は、銀ナノワイヤの灰色で真珠光沢の懸濁液に変化した。生成した銀ナノワイヤは、62±7nmの平均直径、および8.5±1.9μmの平均長を有した。沈殿物もナノ粒子も形成されなかった(例えば、図4Dを参照されたい)。
【0103】
本明細書に記載の大規模反応は、高い再現性があった。
【0104】
(実施例4)
比較結果−標準的ポリオール法
比較の目的で、さらに、米国特許出願公開第2005/0056118号に記載の方法に従って銀ナノワイヤを調製した。より具体的には、5mlのエチレングリコールを160℃で予備加熱した。3mlのAgNO3/エチレングリコール溶液(0.085M)および3mlのPVP/エチレングリコール溶液(0.13M)を、予備加熱されたエチレングリコールに同時に添加した。反応混合物を、加熱し、160℃で40分間維持した。生じた生成物は、図2に示される、ナノワイヤとナノ粒子との混合物として観察された。
【0105】
(実施例5)
改変ポリオール法−大規模
5000mlのフラスコ中で、49.98gのPVP(MW=50,000、450mmol)、0.84gのテトラブチルアンモニウムクロリド(3mmol)、および51.02gのAgNO3(300mmol)を3000mLのエチレングリコール中で混合した。PVPを、高剪断ミキサーを用いて約1/3量のエチレングリコール中に徹底的に分散させた後、反応フラスコに添加した。反応混合物を室温(25℃)で15分間撹拌した後、フラスコを、200℃に設定した加熱マントルで加熱した。反応混合物の内部温度は約140℃に制御した。30分以内に、反応混合物は、銀ナノワイヤの灰色で真珠光沢の懸濁液に変化した。生成した銀ナノワイヤは、82.6±22.3nmの平均直径、および14.1±8.1μmの平均長を有した。形成されたナノ粒子はほとんどなかった。
【0106】
本明細書に記載の大規模反応は、高い再現性があった。
【0107】
(実施例6)
改変ポリオール法−より低温
100mlのフラスコ中で、0.42gのPVP(MW=50,000、3.76mmol)、0.07mlのテトラブチルアンモニウムクロリド(0.25mmol)、および0.43gのAgNO3(2.5mmol)を50mlのエチレングリコール中で混合した。反応混合物を室温(25℃)で15分間撹拌した後、フラスコを、80℃に設定したオーブン中で撹拌なしで加熱した。2週間以内に、反応混合物は、銀ナノワイヤの灰色で真珠光沢の懸濁液に変化した。生成した銀ナノワイヤは、62±18nmの平均直径、および43±20μmの平均長を有した。反応生成物は、主として長く細いナノワイヤであった。
【0108】
(実施例7)
改変ポリオール法−1,3−プロピレングリコール溶媒
1000mlのフラスコ中で、4.17gのPVP(MW=50,000、37.6mmol)、72mgのテトラブチルアンモニウムクロリド(0.25mmol)、および4.25gのAgNO3(25mmol)を500mlの1,2−プロピレングリコール中で混合した。反応混合物を室温(25℃)で15分間撹拌した後、フラスコを、200℃に設定した加熱マントルで加熱した。反応混合物の内部温度は約160℃に制御した。30分以内に、反応混合物は、銀ナノワイヤの灰色で真珠光沢の懸濁液に変化した。反応生成物は、主としてナノワイヤであった。
【0109】
(実施例8)
改変ポリオール法−1,2−プロピレングリコール溶媒
1000mlのフラスコ中で、0.417gのPVP(MW=50,000、3.76mmol)、7.2mgのテトラブチルアンモニウムクロリド(0.025mmol)、および0.425gのAgNO3(2.5mmol)を50mlの1,2−プロピレングリコール中で混合した。反応混合物を室温(25℃)で15分間撹拌した後、フラスコを、81℃に設定した加熱マントルで加熱した。2日以内に、反応混合物は、銀ナノワイヤの灰色で真珠光沢の懸濁液に変化した。反応生成物は、図7に示すように主としてナノワイヤであった。
【0110】
(実施例9)
改変ポリオール法−1,3−プロピレングリコール溶媒
100mlのフラスコ中で、0.42gのPVP(MW=50,000、3.76mmol)、0.07mlのテトラブチルアンモニウムクロリド(0.25mmol)、および0.43gのAgNO3(2.5mmol)を50mlの1,3−プロピレングリコール中で混合した。反応混合物を室温(25℃)で15分間撹拌した後、フラスコを、100℃に設定したオーブン中で撹拌なしで加熱した。12時間以内に、反応混合物は、銀ナノワイヤの灰色で真珠光沢の懸濁液に変化した。反応生成物は、図8に示すように主としてナノワイヤであった。
【0111】
(実施例10)
窒素パージおよびスパージ
図12Aおよび12Bは、さらに、ナノワイヤ反応混合物を窒素でパージすることまたはスパージすることの間の強い相関を示す。より具体的には、金属塩(硝酸銀)の添加に先立って窒素で、PGをスパージするか、あるいはPGおよびPVPの双方をスパージする、2つの小規模反応(0.5L PG)を実施した。反応条件は、他の点では同一であり、双方とも、全工程の間、十分な窒素パージにさらした。生じるナノワイヤの形態は、互いに類似しており、規模を大きくした反応(30L)に類似していた。窒素パージ/スパージを伴うすべての反応は、窒素パージのない合成によって生成されたものと劇的に異なる形態をもたらした。
【0112】
本明細書中で言及されるおよび/または出願データシート中に挙げられた前記の米国特許、米国特許出願公開、米国特許仮出願、外国特許、外国特許出願、および非特許刊行物のすべては、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる。
【0113】
例示の目的で本発明の具体的実施形態を本明細書中で説明してきたが、前記のことから、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、種々の改変形態をもたらし得ることを認識されよう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲によって限定される場合を除き、限定されない。
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、米国特許法§119(e)の下、2009年8月25日に出願された米国仮特許出願第61/275,093号の利益を主張する。この仮出願は、その全体が本明細書において参照として援用される。
【0002】
背景
本出願は、金属ナノワイヤを、その収率および形態を制御しながら、溶液をベースにした合成で調製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
ナノサイズの材料(またはナノ材料)は、それらの類似のバルク材料と著しく異なる可能性がある。特に、ナノ材料の物理化学的特性は、それらのサイズ、形状および形態と強く相関している。結果として、材料科学者は、彼らの努力を、制御可能な形態(形状およびサイズを含む)を有するナノ材料を製作するための単純で実際的な方法を開発すること、それゆえそれらの特性に合わせて仕立てることに集中させてきた。
【0004】
溶液をベースにした合成(「ポリオール」合成とも呼ばれる)は、金属ナノ構造体の大規模製造においてかなり実際的である。例えば、非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;および特許文献1を参照されたい。ポリ合成は、ポリ(ビニルピロリドン)(「PVP」)の存在下でのポリオール(例えば、エチレングリコール)による金属ナノ構造体の前駆体(例えば、金属塩)の還元を伴う。典型的には、還元は、200℃を超えない温度で実施される。ポリオールは、典型的には、溶媒および還元剤として二重の機能の働きがある。典型的には、形成されるナノ構造体の形態(形状およびサイズを含む)は、PVPと金属塩との相対量、PVPおよび金属塩の濃度、反応時間、ならびに反応温度を含むパラメーターによって影響される。
【0005】
この方法によれば、ナノ立方体、ナノワイヤ、ナノ角錐、および多重双晶粒子を含む種々の形態の金属ナノ構造体が得られている。しかし、ポリ合成に共通の問題は、数種の形状のナノ構造体の混合物が生成することである。この問題は、合成成分中の痕跡量の汚染物質によってもたらされると思われる、その方法の不十分な再現性によってさらにひどくなる。例えば、非特許文献5を参照されたい。
【0006】
ポリ合成は、均一な形状およびサイズのナノ構造体を形成するための努力の中で改変されてきた。例えば、「ポリオール」法に痕跡量の塩化物を付加すると、単結晶性の切頂立方体および四面体が得られた。例えば、非特許文献5を参照されたい。「ポリオール」法において種晶材料(例えば、白金または銀のナノ粒子)を使用すると、高アスペクト比(約1000)の均一な銀ナノワイヤが生じた。非特許文献6。しかし、既存の方法には、混合ナノ構造体を生じるという問題が残存する(例えば、銀ナノワイヤには銀ナノ粒子の形成が伴う)。したがって、単分散性ナノ構造体を得るには、付加的な分離ステップが必須である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0056118号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sun, Y.ら、Science、298巻、2176頁、2002年
【非特許文献2】Sun, Y.ら、Nano Lett.、2巻、165頁、2002年
【非特許文献3】Sun, Y.ら、Adv. Mater.、14巻、833頁、2002年
【非特許文献4】Kim, F.ら、Angew. Chem. Int. Ed.、116巻、3759頁、2004年
【非特許文献5】Wiley, B.ら、Nano Lett.、4巻(9号)、1733〜1739頁、2004年
【非特許文献6】Sun, Y.ら、Chem. Mater.、14巻、4736〜4745頁、2002年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
当技術分野では、制御可能な形状およびサイズを有するナノ構造体を実際的で再現性のある方式で製作することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
簡単な要旨
本明細書では、ポリオール合成の反応条件を調節することによって、金属ナノワイヤの形態を制御する方法を記載する。特に、反応物を不活性気体でパージすることによって、バッチ間の一貫性を達成することができる。
【0011】
一実施形態において、
(a)反応容器中でポリオール溶媒、キャッピング試薬、およびイオン性添加物を合わせることによって第1の反応混合物を準備するステップ、
(b)第1反応混合物を不活性気体で、あるパージ時間の間パージするステップ、
(c)(b)の後に、第1の反応混合物を金属塩と合わせることによって第2の反応混合物を準備するステップ、および
(d)金属塩を還元することによって、金属ナノワイヤを第1の収率で含む複数の金属ナノ構造体を準備するステップ
を含む、金属ナノワイヤを調製する方法が提供される。
【0012】
一部の実施形態において、該方法は、(b)の前に、第1の反応混合物を所定の反応温度まで加熱することを含む。
【0013】
特定の実施形態において、第1の反応混合物をパージするステップは、反応容器をパージすること、および第1の反応混合物の上部表面上に不活性気体のブランケットを形成することを含む。他の実施形態において、第1の反応混合物をパージするステップは、第1の反応混合物をスパージすること(すなわち、第1の反応混合物中に不活性気体を直接的に注入すること)を含む。
【0014】
種々の実施形態において、複数の金属ナノ構造体を準備するステップは、第2反応混合物をパージしながら金属塩を還元することを含む。
【0015】
特定の実施形態において、ポリオール溶媒は、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、またはグリセロールであり、キャッピング試薬はポリ(ビニルピロリドン)であり、イオン性添加物(例えば、テトラアルキルアンモニウムクロリド)は、塩化物イオンを提供する。
【0016】
好ましい実施形態において、金属塩は銀塩であり、金属ナノワイヤは銀ナノワイヤである。他の実施形態において、特許請求される方法によって製造される複数の金属ナノ構造体は、少なくとも80%の金属ナノワイヤを含む。
【0017】
種々の実施形態において、パージ時間を調節することにより、異なる形態の金属ナノ構造体、および/または異なる収率の金属ナノワイヤが得られる。
【0018】
さらなる実施形態では、
(a)目標平均長、目標平均直径、または目標収率を有する、第1の複数の金属ナノワイヤを準備するステップであって、第1の複数の金属ナノワイヤは、不活性気体で第1のパージ時間の間パージすることを含む第1ポリオール合成によって、第1のポリオール溶媒中で調製され、第1のポリオール溶媒は、第1の製造業者ロットから提供される、ステップ、
(b)目標平均長、目標平均直径、または目標収率を有する、第2の複数の金属ナノワイヤを準備するステップであって、第2の複数の金属ナノワイヤは、不活性気体で第2パージ時間の間パージすることを含む第2のポリオール合成によって、第2のポリオール溶媒中で調製され、第2のポリオール溶媒は、第1のポリオール溶媒と化学的に同一であり、第2の製造業者ロットから提供される、ステップを含み、第1のパージ時間は第2のパージ時間と異なる、方法が提供される。
【0019】
種々の実施形態において、第1のポリオール合成および第2のポリオール合成は、その他の点では実質的に同一の条件で実施される。
【0020】
特定の実施形態において、目標平均長、目標平均直径、または目標収率を有する、第2の複数の金属ナノワイヤを提供するステップは、第2のポリオール溶媒中で1つまたは複数の試験ポリオール合成を実行することによって、第2のパージ時間を選択すること;各試験ポリオール合成から生じるそれぞれの金属ナノワイヤについての平均長、平均幅、または収率を得ること;および目標平均長、目標平均幅、または目標収率を有する金属ナノワイヤを生成する試験ポリオール合成に対応するものとして、第2のパージ時間を特定することを含む。
【0021】
特定の具体的実施形態において、第1のポリオール合成は、第2のポリオール合成よりも小さい反応規模を有する。
【0022】
図面において、同一の参照番号は、同様の要素または行為を指す。図面中の要素のサイズおよび相対的位置は、必ずしも正確な縮尺率で描かれているとは限らない。例えば、種々の要素の形状および角度は、正確な縮尺率で描かれておらず、これらの要素の一部は、図面の読取り性を改善するために自由裁量で拡大され配置されている。さらに、描かれている要素の個々の形状は、個々の要素の真の形状に関するなんらかの情報を伝達することを意図するものではなく、単に図面中での認識を容易にするために選択されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1A〜1Cは、ポリ合成における種々の形態のナノ構造体の核形成および成長を概略的に例示する。
【図2】図2は、標準的ポリオール合成による混合ナノワイヤおよびナノ粒子の反応生成物を示す。
【図3】図3は、キャッピング剤で援助されたナノワイヤの一次元成長を概略的に例示する。
【図4】図4A〜4Dは、改変ポリ合成において、種々の塩化物添加剤を使用する種々の実施形態を例示する。
【図5】図5A〜5Fは、異なる反応時点でのナノワイヤ形成の進行を示す。
【図6】図6は、イオン性添加物が存在しない実施形態での反応生成物を示す。
【図7】図7は、還元性溶媒として1,2−プロピレングリコールを使用した実施形態を示す。
【図8】図8は、還元性溶媒として1,3−プロピレングリコールを使用した実施形態を示す。
【図9A】図9Aは、ポリオール合成によって形成された銀ナノワイヤの平均幅のバッチ間変動、および窒素パージの効果を示す。
【図9B】図9Bは、ポリオール合成によって形成された銀ナノワイヤの平均長のバッチ間変動、および窒素パージの効果を示す。
【図9C】図9Cは、ポリオール合成によって形成された銀ナノワイヤの収率のバッチ間変動、および窒素パージの効果を示す。
【図9D】図9Dは、窒素パージなしのポリオール合成によって生成される複数のナノ構造体を示す。
【図10A】図10Aは、プロピレングリコールのロット間変動の、その他の点では同一であるポリオール合成の反応時間に及ぼす効果を示す。
【図10B】図10Bは、プロピレングリコールのロット間変動の、その他の点では同一であるポリオール合成によって生成されるナノワイヤの平均長に及ぼす効果を示す。
【図10C】図10Cは、窒素パージ時間の、固定されたプロピレングリコールロットを使用するポリオール合成によって生成された銀ナノワイヤの平均長に及ぼす効果を示す。
【図11】図11は、固定されたプロピレングリコールロットに関して、窒素パージ時間の、銀ナノワイヤ長分布に及ぼす効果を示す。
【図12A】図12Aは、窒素パージまたはスパージの、ポリオール合成によって生成された銀ナノワイヤの平均長に及ぼす効果を示す。
【図12B】図12Bは、窒素パージまたはスパージの、ポリオール合成によって生成された銀ナノワイヤの平均幅に及ぼす効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本明細書では、ポリオール合成で生成する場合にナノ構造体の形態を制御する方法を提供する。特に、種々の実施形態により、バッチ間の一貫性を伴って高収率でナノワイヤを製造する方法が提供される。
【0025】
ナノ構造体の形態
本明細書では、種々の形態のナノ構造体の混合物から特定形態のナノ構造体を単離、精製する方法を提供する。特に、精製された金属ナノ構造体は、実質的にすべてが10以上のアスペクト比を有する。
【0026】
本明細書中で使用する場合、「導電性ナノ構造体」または「ナノ構造体」は、一般に、導電性のあるナノサイズの構造体を指し、その少なくとも1つの寸法は、500nm未満、より好ましくは250nm未満、100nm、50nm、または25nmである。典型的には、ナノ構造体は、元素状金属(例えば、遷移金属)または金属化合物(例えば、酸化金属)などの金属性材料で作られる。金属性材料は、バイメタル材料、あるいは2種以上の金属を含む合金であってもよい。適切な金属としては、限定はされないが、銀、金、銅、ニッケル、金メッキされた銀、白金、およびパラジウムが挙げられる。
【0027】
ナノ構造体は、任意の形状またはジオメトリーを取り得る。所定のナノ構造体の形態は、ナノ構造体の直径に対する長さの比であるそのアスペクト比によって、単純化された方式で規定することができる。例えば、特定のナノ構造体は、等方的に形づくられる(すなわち、アスペクト比=1)。典型的な等方性ナノ構造体としては、ナノ粒子が挙げられる。好ましい実施形態において、ナノ構造体は、異方的に形づくられる(すなわち、アスペクト比≠1)。異方性ナノ構造体は、典型的には、その長さに沿った縦軸を有する。典型的な異方性ナノ構造体としては、本明細書中で定義されるようなナノワイヤ、ナノロッド、およびナノチューブが挙げられる。
【0028】
ナノ構造体は、中身が詰まっていても、中空でもよい。中身が詰まったナノ構造体としては、例えば、ナノ粒子、ナノロッド、およびナノワイヤが挙げられる。「ナノワイヤ」は、典型的には、10を超える、好ましくは50を超える、より好ましくは100を超えるアスペクト比を有する長く細いナノ構造体を指す。典型的には、ナノワイヤは、500nmを超える、1μmを超える、または10μmを超える長さである。「ナノロッド」は、典型的には、10を超えないアスペクト比を有する短く幅広の異方性ナノ構造体である。
【0029】
中空のナノ構造体としては、例えば、ナノチューブが挙げられる。典型的には、ナノチューブは、10を超える、好ましくは50を超える、より好ましくは100を超えるアスペクト比(長さ:直径)を有する。典型的には、ナノチューブは、500nmを超える、1μmを超える、または10μmを超える長さである。
【0030】
ナノ構造体が長いほど目標の導電率を達成するのに必要とされる構造体が少ないので、より高アスペクト比のナノ構造体(例えば、ナノワイヤ)は、より低アスペクト比(10を超えない)のナノ構造体に比較してとりわけ有利である。また、導電性フィルム中のナノ構造体が少ないほど、より高い光学的透明度およびより低いヘーズにつながり、双方のパラメーターは、ディスプレイ技術での広範な範囲の応用を見出す。さらに、ナノワイヤ幅は、また、フィルムの導電率に直接的に影響を及ぼし、すなわち、所定の金属装填レベルにおいて、ナノワイヤが細いほど、得られるフィルムは、導電性がより小さい。
【0031】
ナノワイヤはフィルムの極めて小さな分率を構成するので、ナノワイヤからなる導電性ネットワークは、光学的に透明である。特に、ナノワイヤは光を吸収、散乱するので、ナノワイヤ長およびナノワイヤ幅は、得られる透明導電体フィルムの光学的透明度および光拡散(ヘーズ)に影響を及ぼす。低アスペクト比のナノ構造体は導電率に効果的に寄与しない可能性があり、かつそれらの存在はヘーズに寄与する可能性があるので、その中でナノ構造体が導電性ネットワークを形成する透明導電体を形成するためには、ナノワイヤのそれに比べてより低アスペクト比を有するナノ構造体の量を減らすのが望ましい場合がある。本明細書中で使用する場合、「低アスペクト比のナノ構造体」としては、例えば、比較的幅広および/または短い(例えば、ナノ粒子、ナノロッド)および比較的小さいアスペクト比(<10)を有するナノ構造体が挙げられる。これらの低アスペクト比のナノ構造体の一部またはすべては、暗視野顕微鏡写真でのそれらの明るい外観のため、導電性フィルム中の「明るいオブジェクト」として認識される可能性がある。したがって、明るいオブジェクトは、導電性フィルムのヘーズを有意に増加させる可能性がある。
【0032】
標準的ポリオール合成および塩化物イオンを添加することによる改変
図1A〜1Cは、標準的ポリオール合成におけるナノ構造体の形成を概略的に例示している。初期段階(図1A)で、金属塩は、溶液相(10)中のポリオール溶媒(例えば、エチレングリコール)によって元素状金属原子まで還元される。一般に、金属原子は、均一核形成過程を経て小さな粒子状種晶(14)を最初に形成する。これらの粒子状種晶は、典型的には、1〜5nmの範囲の直径を有する。これらの種晶の一部は、溶液相(10)中で、無差別的にすべての次元で進行する成長に由来する等方性ナノ構造体(20)へ成長し始める。対照的に、一部の種晶は、横次元に沿った優先的成長に由来する異方性ナノ構造体(24)へ成長する。図1Cに示すように、等方性ナノ構造体(20)および異方性ナノ構造体(24)は、それらの基本的形態を維持しながらより大きな構造体に成長し続ける。ナノ粒子(30)およびナノワイヤ(34)が得られる。成長過程中に、より小さな粒子は、より安定性が低く、典型的には、自然に溶解し、より大きな粒子の成長に寄与することに留意されたい。例えば、米国特許出願公開第2005/0056118号を参照されたい。
【0033】
反応時間および温度などの反応条件を調節して、ナノワイヤの形成へ片寄せることができるが、標準的ポリオール法は、均一なナノワイヤを満足できる収率で生成させることができない。図2は、前駆体として硝酸銀を使用する標準的ポリオール法の反応生成物の画像である。示したように、ナノワイヤおよびナノ粒子の双方が存在する。
【0034】
前記反応混合物に塩化物イオンを提供する適切なイオン性添加物(例えば、テトラブチルアンモニウムクロリド)を添加すると、生じるナノワイヤの収率および単分散性が増加することが見出された。この改変ポリオール合成は、本出願人らの共有、同時係属の米国特許出願第11/766,552号中により詳細に記載されており、該出願はその全体で本明細書に組み込まれる。
【0035】
本明細書中で使用する場合、「金属塩」は、正に帯電した金属イオンおよび負に帯電した対イオンを有する中性化合物を指す。対イオンは無機性または有機性でよい。典型的な金属塩としては、限定はされないが、硝酸銀(AgNO3)、酢酸銀((CH3COO)2Ag)、過塩素酸銀(AgClO4)、過塩素酸金(Au(ClO4)3)、塩化パラジウム(PdCl2)、塩化白金(PtCl2)などが挙げられる。典型的には、金属塩は、還元性溶媒(例えば、エチレングリコール)に可溶であり、反対に帯電した金属イオンと対イオンとに解離する。典型的には、還元性溶媒中での金属塩の溶解度は、少なくとも0.001g/ml、少なくとも0.05g/ml、または少なくとも0.1g/mlである。
【0036】
前記反応混合物中での金属塩の還元は、対応する元素状金属を生成する。元素状金属は、一次元ナノ構造体(すなわち、ナノワイヤ)に結晶化するか、または成長する。したがって、適切な金属ナノワイヤとしては、限定はされないが、銀、金、銅、ニッケル、パラジウム、白金、および金メッキされた銀のナノワイヤが挙げられる。
【0037】
「キャッピング剤」は、成長するナノワイヤの側面と優先的に相互作用し、それに付着し、結果的に、キャッピング剤が、側面の成長を制限し、かつナノワイヤの横断面が結晶化することを促進するような化学薬剤を指す。図3は、成長しているナノワイヤ(36)の一次元成長を概略的に例示している。成長しているナノワイヤ(36)は、側面(37)および横断面(38)を含む。キャッピング剤(39)は、横断面(38)よりも側面(36)とより強く相互作用する。したがって、側面(36)は不動態化され、横断面(38)は、ナノワイヤを生成するためのさらなる結晶化に利用できる。キャッピング剤の例には、限定はされないが、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリアリールアミド、ポリアクリル、およびこれらの任意のコポリマーが含まれる。
【0038】
「還元性溶媒」は、金属塩、イオン性添加物、およびキャッピング剤が可溶性である極性溶媒を指す。加えて、還元性溶媒は、金属塩をその対応する元素状金属に変換するための還元剤として機能する。典型的には、還元性溶媒は、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む化学試薬である。還元性溶媒の例には、限定はされないが、ジオール、ポリオール、グリコール、またはこれらの混合物が含まれる。より具体的には、還元性溶媒は、例えば、エチレングリコール,1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、グリセリン、グリセロール、およびグルコースでよい。
【0039】
「イオン性添加物」は、カチオンおよびアニオンを含む塩の添加物を指す。カチオンおよびアニオンは、イオン相互作用によって会合し、水、アルコール、ジオール、およびポリオール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、グリセリン、グリセロール、およびグルコースを含む)などの極性溶媒中で解離する。カチオンは、有機性または無機性でよい。アニオンは、典型的には無機性である。典型的なアニオンとしては、ハロゲン化物イオン(Cl−、Br−、I−、F−)、リン酸イオン(PO43−)、硫酸イオン(SO42−)、硫酸水素イオン(HSO4−)、アリールおよびアルキルスルホン酸イオン(RSO3−)などが挙げられる。イオン性添加物は、その対応する酸をさらに含むことができ、すなわちカチオンがプロトンである。
【0040】
特定の実施形態において、イオン性添加物は、第四級アンモニウムクロリドである。本明細書中で使用する場合、「第四級アンモニウムクロリド」は、その中の4つの水素がすべて有機基で置き換えられている塩化アンモニウム(NH4+Cl−)を指す。したがって、第四級アンモニウムクロリドは、典型的には、式NR4+Cl−で表すことができ、ここで、各Rは、同一でも異なっていてもよく、独立に、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、またはアラルキルである。
【0041】
「アルキル」は、直線または分枝方式のどちらかで配置された1〜20個の間の炭素からなる一価の飽和炭化水素構造を指す。低級アルキルは、1〜5個の炭素原子からなるアルキル基を指す。低級アルキル基の例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、s−およびt−ブチルなどが含まれる。長鎖アルキル基の例には、オクチル(C8)、デシル(C10)、ドデシル(C12)、セチル(C16)などが含まれる。一定数の炭素を有するアルキル残基を命名する場合、その数の炭素を有するすべての幾何異性体が想定され、したがって、例えば、「ブチル」は、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、およびt−ブチルを包含し、プロピルは、n−プロピルおよびイソプロピルを包含することになる。
【0042】
そうでないことを明示しない限り、アルキルは、ハロゲン(F、Br、ClまたはI)、アルコキシ、アミンなどで場合によって置換されていてもよい。
【0043】
「アルケニル」は、2〜20個の間の炭素原子からなり、少なくとも1つの二重結合を有する一価の炭化水素構造を指す。例には、限定はされないが、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ブタジエニル、ペンタジエニルなどが含まれる。そうでないことを明示しない限り、アルキルは、ハロゲン(F、Br、ClまたはI)、アルコキシ、アミンなどで場合によって置換されていてもよい。
【0044】
「アルキニル」は、2〜20個の間の炭素原子からなり、少なくとも1つの三重結合を有する一価の炭化水素構造を指す。例には、限定はされないが、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、メチルプロピニル、4−メチル−1−ブチニル、4−プロピル−2−ペンチニルなどが含まれる。
【0045】
「アルコキシ」は、式−O−アルキルの基を指す。例には、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシなどが含まれる。低級アルコキシは、1〜5個の炭素を含む基を指す。
【0046】
「アリール」は、場合によって置換されているフェニルまたはナフチルを指す。アリールのための典型的な置換基としては、1つまたは複数のハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、メルカプトなどが挙げられる。
【0047】
「アラルキル」は、少なくともアリール基で置換されたアルキル残基を指す。アラルキルは、典型的には、式アリール−アルキル−で表することができる。典型的なアラルキルとしては、限定はされないが、フェニルメチル(すなわち、ベンジル)、またはフェニルエチル基が挙げられる。
【0048】
したがって、典型的なイオン性添加物としては、限定はされないが、テトラメチルアンモニウムクロリド(TMAC)、テトラブチルアンモニウムクロリド(TBAC)、セチルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)、C8〜C18アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド(すなわち、Aliquat336(登録商標))などが挙げられる。
【0049】
第四級アンモニウムイオン(NR4+)は、典型的にはそれらの環境のpHによって影響されない、恒久的に帯電したカチオンである。それらは、本明細書で定義されるような還元性溶媒に可溶である。さらに、それらは、存在する有機部分のため、キャッピング剤(例えば、PVPおよびそのコポリマー)と相溶性である。
【0050】
第四級アンモニウムイオンは、改変ポリオール法での銀ナノワイヤの形成に対するそれらの影響に関して無機カチオンと異なる。より具体的には、第四級アンモニウムをベースにしたイオン性添加物が存在すると、ナノ構造体の主に異方性の成長が促進され、比較的高い収率および比較的高い単分散性でナノワイヤが生成される。
【0051】
図4A〜4Dは、それぞれHCl、ZnCl2、MgCl2、およびTBACを含む種々の塩化物をベースにしたイオン性添加物を使用する銀ナノワイヤの形成に関する画像である。反応は、すべて、初めに0.1MのAgNO3、0.15MのPVPおよび0.001Mの塩化物を室温(25℃〜40℃)で混合することによって実施した。次いで、反応混合物を約160℃まで加熱した。典型的には、ナノ構造体(ナノワイヤおよび/またはナノ粒子)は、短い誘導時間(10〜30分)の後に急速に形成された。約30分後に生成物を集めた。
【0052】
図4A〜4Cは、銀ナノワイヤが、多様な度合いの他のナノ構造体(例えば、ナノ粒子)を伴って形成されたことを示している。比較すると、図4Dは、ナノ粒子の形成がないか、ほとんどなく、長さが3〜100μmの間の均一な銀ナノワイヤを示している。したがって、銀ナノワイヤの収率は、とりわけ、添加物としてTBACを使用して高い総括収率および高い単分散性で最適化されている。
【0053】
イオン性添加物中のアニオン(すなわち、塩化物)は、また、ナノワイヤの形成を制御することにおいて重要な役割を演じる。他のハライド(例えば臭化物)をベースにしたイオン性添加物は、塩化物をベースにしたイオン性添加物と同様の効果を有さないことが見出されている。例えば、セチルトリメチルアンモニウムクロリドの代わりにセチルトリメチルアンモニウムブロミドを使用すると、ナノ粒子だけが生成する。
【0054】
さらに、反応混合物中の成分濃度は、ナノ構造体の形成およびそれらの収率に対して一定の影響を及ぼすことが観察されている。例えば、反応混合物中の金属塩は、典型的には、ナノワイヤの最善の収率のためには約0.01M〜0.2M、より好ましくは0.05M〜0.1Mの範囲である。加えて、PVPの濃度は、典型的には、0.01M〜0.2M、より好ましくは0.05M〜0.15Mの範囲にある。
【0055】
種々の実施形態において、反応混合物中の第四級アンモニウムクロリドの濃度は、0.001M〜0.5Mの範囲にある。好ましくは、濃度は、沈殿を避けるために、0.1M未満である。典型的には、第四級アンモニウムクロリドと金属塩との間の相対モル比は、約0.1%〜10%、より好ましくは約0.5%〜1%である。
【0056】
反応温度は、形成される金属ナノワイヤの収率および長さに影響を及ぼす。典型的には、金属塩、PVP、およびイオン性添加物は、ポリオール溶媒(例えば、エチレングリコールまたはプロピレングリコール)中で、反応混合物を準備するための第1の温度で混合される。第1の温度は、約20℃〜40℃の範囲でよい。反応混合物は、それを第2の温度まで加熱する前に、徹底的に混合される。第2の温度は、典型的には、約50℃〜約200℃、より典型的には約150℃〜約160℃の範囲で維持される。170℃を超える温度では、より低い温度で形成されるナノワイヤに比較して、より短いナノワイヤが形成された。
【0057】
改変ポリオール法で生成された金属ナノワイヤの収率および長さは、反応時間によってさらに制御される。図5A〜5Fは、×100DFで可視化されたナノワイヤ形成の進行を例示している。サンプルは、示した反応時点で反応混合物から採取した。各サンプルは、ナノ構造体の成長を止めるために氷浴中で冷却した。図5Aは、最初の誘導時間(約7分)内に、微細粒子(40)(例えば、種晶)が形成されたことを示している。図5B〜5Dに示すように、次の3分で、ナノワイヤ(44)が急速に形をなした。反応15分の時点で、より長いナノワイヤ(48)が反応混合物中に存在した(図5E)。その後、さらなる5分でより多くのナノワイヤが生じた(図5F)。反応は30分以内に完結し、それによって、長い反応時間でもナノワイヤは形成されなかった。
【0058】
図6は、いかなるイオン性添加物も含まないエチレングリコール中での比較のポリオール合成を示す。示したように、ナノワイヤはほとんど形成されなかった。
【0059】
溶媒の選択も、ナノワイヤの形態に影響を及ぼし得る。例えば、1,2−プロピレングリコールは、エチレングリコールと比べてより急速なナノワイヤの成長につながり、一方、グリセロールはより遅い反応速度を示す。図7〜8(それぞれ、実施例8および9に対応する)は、1,2−プロピレングリコールおよび1,3−プロピレングリコール中での改変ポリオール合成の結果を示す。
【0060】
窒素パージ
上記の標準的および改変ポリオール合成を、双方とも空気の存在下で実施した。双方の方法とも、主としてナノワイヤを生成するように最適化することができるが、ナノワイヤ以外の少ないがかなりのナノ構造体集団が生じる。例えば、金属ナノワイヤの他に、ナノ粒子、ナノ立方体、ナノロッド、ナノ角錐、および多重双晶粒子を含む種々の形態の金属ナノ構造体も得られる可能性があった。この問題は、ナノワイヤの形態のバッチ間変動をもたらす該方法の不十分な再現性によっていっそうひどくなる。これは、少なくとも部分的には、空気の存在下での反応速度の不十分な制御のためである。例えば、改変ポリオール合成において、反応は、反応混合物をサンプリングすること、およびナノワイヤの形態を特徴付けることによって用手的に監視される。反応は、典型的には、ナノワイヤの形態が、長さおよび幅に関する特定の目標基準を満たす場合に、停止される。しかし、ナノワイヤの形態の視覚的特徴付けは、反応操作員の主観的評価に依拠し、バッチ間でのナノワイヤの形態および収率の不十分な再現性につながる。例えば、反応をあまりに早く停止すると、目標の形態は達成されなかった。一方、反応をあまりに遅く停止すると、明るいオブジェクトの集まりが形成される。いったん形成されると、これらの明るいオブジェクトは、主として質量の類似性のため、所望の形態のナノワイヤから分離するのが極めて困難である。本明細書中で考察するように、典型的には低アスペクト比を有するナノ構造体であるこれらの明るいオブジェクトは、最終導電性フィルムにおけるヘーズの増大を引き起こす可能性がある。
【0061】
したがって、このような用手的反応制御は、低アスペクト比のナノ構造体を形成する事態を低減しながら、目標のナノワイヤ形態に到達するためのその試みにおいて、有効性がより低いことが見出された。結果として、目標の形態を有するナノワイヤの収率は、バッチ間で異なり、一部の事例では25%のような低いものである可能性がある。
【0062】
一実施形態では、金属塩を還元するに先立って反応容器を不活性気体でパージすることによって、ポリオール合成におけるナノワイヤの形態を制御する方法が提供される。驚くべきことに、このような不活性気体でのパージは、ナノワイヤの形態および収率のバッチ間変動を低減または排除する。
【0063】
より具体的には、一実施形態では、
(a)反応容器中でポリオール溶媒、キャッピング試薬、およびイオン性添加物を合わせることによって第1の反応混合物を準備するステップ、
(b)第1の反応混合物を不活性気体で、あるパージ時間の間パージするステップ、
(c)(b)の後に、第1の反応混合物を金属塩と合わせることによって第2の反応混合物を準備するステップ、および
(d)金属塩を還元することによって、金属ナノワイヤを第1の収率で含む複数の金属ナノ構造体を準備するステップ
を含む、金属ナノワイヤを調製する方法が提供される。
【0064】
好ましい実施形態において、不活性気体は窒素である。窒素パージについて説明する場合、他の不活性気体またはアルゴンなどの貴ガスも使用できることを理解されたい。
【0065】
本明細書中で使用する場合、「パージ」は、ある種の反応雰囲気を別のもので置き換えることを指す。特に、ポリオール溶媒中で金属塩を還元することを含む本明細書に記載のポリオール合成において、パージは、還元反応に先立って、反応容器中に存在する空気を不活性気体で置き換えることを指す。例えば、窒素パージは、反応容器をパージすること、および金属塩以外のすべての反応物を含む第1の反応混合物の上部表面上に不活性気体のブランケットを形成することを含むことができる。他の実施形態において、窒素パージは、第1の反応混合物をスパージすることを含むことができる。本明細書中で使用する場合、「スパージ」は、不活性雰囲気を液相、例えば反応混合物中に向けるある種のパージを指す。典型的には、スパージは、不活性気体を反応混合物中に吹き込むことによって実施することができる。
【0066】
一部の実施形態において、該方法は、パージの前に、第1の反応混合物をさらに所定の反応温度まで加熱することを含む。典型的には、該温度は、約70℃〜140℃、または好ましくは80℃〜120℃である。
【0067】
他の実施形態において、初期パージ時間でパージした後に、金属塩を添加し、その後も反応の全期間にわたってパージを継続する。
【0068】
種々の実施形態において、ポリオール溶媒は、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、またはグリセロールである。キャッピング試薬は、ポリ(ビニルピロリドン)であり、イオン性添加物はテトラアルキルアンモニウムクロリドである。
【0069】
記載の実施形態のいずれにおいても、金属塩は好ましくは銀塩であり、金属ナノワイヤは銀ナノワイヤである。
【0070】
種々の実施形態において、金属ナノワイヤの収率は、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%である。本明細書中で使用する場合、「収率」は、金属塩の形態で反応混合物に添加された金属に対する金属ナノワイヤの量を指す。
【0071】
図9A〜9Cは、多くの異なる反応バッチ(合計80バッチ)におけるナノワイヤの形態に関する窒素パージの効果を示す。図9Aは、窒素パージなしの40の反応バッチ(1〜40)における平均ナノワイヤ幅、および窒素パージのある40の反応バッチ(41〜80)におけるそれを示す。上部管理限界(UCL)および下部管理限界(LCL)は、平均幅からそれぞれプラスおよびマイナス3の標準偏差として定義される。示したように、窒素パージなしでは、ナノワイヤの幅は、窒素パージを用いて得られたナノワイヤの幅の変動に比べてより大きい度合いで変化した(UCLとLCLとの間のより大きな差異)。同様に、図9Bは、長さのバッチ間変動も、窒素パージなしの反応バッチ(1〜40)のそれに比較して、窒素パージのある反応バッチ(41〜80)で大きく縮小することを示している。明らかに、図9Cは、窒素パージのある反応バッチ(41〜80)におけるナノワイヤの収率が、窒素パージなしの反応バッチ(1〜40)におけるそれと比較して実質的により高く、変動ははるかに小さいことを示している。
【0072】
比較として、図9Dは、不活性気体でパージせず、先行技術によるポリオール合成におけるナノ構造体の集合を示す。代わりに、還元反応を空気の存在下で行う。示したように、短く、かつ比較的低アスペクト比を有する明るいオブジェクト(60)が、長く細いナノワイヤ(70)の間にしばしば存在する。これらの明るいオブジェクトは、たぶん、許容できないほど高レベルのヘーズを有する導電性フィルムをもたらすと思われる。
【0073】
したがって、還元反応に先立って、不活性気体、例えば、窒素およびアルゴンでパージするポリオール合成は、はるかにより再現性のあるナノワイヤ形態、ナノワイヤのより高い収率、およびより少ない低アスペクト比のナノ構造体につながることが立証される。
【0074】
さらに、固定された時間、固定された流速で不活性気体をパージした場合でさえも、生じるナノワイヤの形態は、ポリオール溶媒(例えば、1,2−プロピレングリコール、またはPG)の個々の製造業者のロットに高度に依存することがさらに発見される。図10Aは、2つの別々の反応器において、所望のナノワイヤ形態に到達するための全反応時間が、PGのロット(A〜D)間で異なることを示す。PGの一部のロットは、より短い反応時間、およびより短くより細いナノワイヤをもたらし、一方、PGの他のロットは、より長い反応時間でより長いナノワイヤをもたらす。図10Bも参照されたい。
【0075】
図10Cは、PGのロットを固定した場合、金属塩の添加およびそれに続く反応開始に先立つ、異なる窒素パージ時間が、異なるナノワイヤ長をもたらすことを示している。特に、パージ時間が増加するにつれて、より短いがより均一なナノワイヤ長が得られた。したがって、一部の実施形態において、パージ時間の長さを調節すると、異なる形態の金属ナノ構造体が得られる。他の実施形態において、パージ時間を調節すると、金属ナノワイヤの異なる収率が得られる。
【0076】
図11は、また、パージ時間を調節すると、ナノワイヤ形態の異なるサイズ分布が得られることを示している。特に、パージ時間が長いほど、長さ分布がより狭く、パージ時間を操作して特定の目標形態(例えば、約10μmの長さ)を達成することができる。
【0077】
したがって、別の実施形態では、ナノワイヤ合成の原料のロット間変動を、不活性気体のパージ時間を調節することによって補償し、それによって、原料のロット間変動によるナノワイヤ形態に対する影響を低減または排除する方法が提供される。ポリオール溶媒(例えば、PG)は、その量が、他のすべての原料よりも有意により重いので、典型的には、変動の主要原因である。しかし、いずれの原料も、ある程度のロット間変動を持ち込む可能性があり、不活性気体のパージ時間を調節することによって、その変動に同様に対処することができる。
【0078】
より具体的には、該方法は、
(a)目標平均長、目標平均直径、または目標収率を有する、第1の複数の金属ナノワイヤを準備するステップであって、第1の複数の金属ナノワイヤは、不活性気体で第1のパージ時間の間パージすることを含む第1のポリオール合成によって、第1のポリオール溶媒中で調製され、第1ポリオール溶媒は、第1の製造業者ロットから提供される、ステップ、
(b)目標平均長、目標平均直径、または目標収率を有する、第2の複数の金属ナノワイヤを準備するステップであって、第2の複数の金属ナノワイヤは、不活性気体で第2のパージ時間の間パージすることを含む第2のポリオール合成によって、第2のポリオール溶媒中で調製され、第2のポリオール溶媒は、第1のポリオール溶媒と化学的に同一であり、第2の製造業者ロットから提供される、ステップを含み、第1のパージ時間は、第2のパージ時間と異なる。
【0079】
種々の実施形態において、第1のポリオール合成および第2ポリオール合成は、その他の点では、実質的に同一の条件で実施される。
【0080】
典型的には、金属ナノワイヤの目標形態は、金属ナノワイヤから形成される透明導電体の特定の仕様を満たすように前もって選択することができる。参照によりその全体で本明細書に組み込まれる、例えば、共有で同時係属の米国特許出願第11/871,053号には、ナノワイヤの形態とナノワイヤをベースにした透明導電体のシート抵抗との間の相関に関する詳細な分析が提供されている。
【0081】
第1および第2のポリオール溶媒は、それらが、同一の化学的特徴および特性を有することにおいて化学的に同一である。それらは、任意の所定製造業者のロットにおける程度の異なる不純物および溶存酸素レベルから生じる可能性のあるロット間変動の程度を互いに異にするだけである。例えば、図10Aおよび10Bに示すように、ロットA〜Dは、同一製造業者(Dow Chemical Company社、ミッドランド、ミシガン州)によって供給されたプロピレングリコールであり、さらにそれらは、同様に実行された反応から異なる形態のナノワイヤをもたらした。
【0082】
さらなる実施形態では、パージ時間の長さを決定するために、第2ポリオール溶媒中で1つまたは複数の試験的ポリオール合成を実行することによって目標のナノワイヤ形態を達成する方法が提供される。特に、第2ロットの第2ポリオール溶媒について、唯一の変数がパージ時間であるより小規模の反応を初めに実行することができ、生じたナノワイヤを分析することができる。目標形態のナノワイヤと結び付いたパージ時間を、大規模な反応を実行する際に使用することができる。
【0083】
インク組成物
ナノ構造体のネットワーク層を調製するには、ナノ構造体の液状分散液を基板上に堆積させ、それに乾燥または硬化工程が続くことができる。液状分散液は、「インク組成物」または「インク製剤」とも呼ばれる。インク組成物は、典型的には、複数のナノ構造体および液体担体を含む。
【0084】
高アスペクト比(例えば、10を超える)の異方性ナノ構造体は、効率的な導電性ネットワークの形成を促進するので、インク組成物中のナノ構造体は、均一に、10を超えるアスペクト比を有することが望ましい(例えば、ナノワイヤ)。しかし、特定の実施形態において、ナノワイヤ合成の副成物として10以下のアスペクト比を有する比較的少量のナノ構造体(ナノ粒子を含む)が存在する可能性がある。したがって、そうでないことを明示しない限り、導電性ナノ構造体は、ナノワイヤおよびナノ粒子を包含すると理解されたい。さらに、本明細書中で使用する場合、そうでないことを明示しない限り、インク組成物およびそれをベースにした導電性フィルム中の大部分のナノ構造体を表す「ナノワイヤ」は、10以下のアスペクト比を有する少量のナノ粒子またはその他のナノ構造体を伴っても、伴わなくてもよい。
【0085】
液体担体は、例えば、水、ケトン、アルコール、またはこれらの混合物を含む、任意の適切な有機または無機の溶媒または溶媒群でよい。ケトンをベースにした溶媒は、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどでよい。アルコールをベースにした溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコールなどでよい。
【0086】
インク組成物は、ナノ構造体の凝集または腐食を防止または低減し、かつ/または基板上へのナノ構造体の固定化を促進する1種または複数の薬剤をさらに含むことができる。これらの薬剤は、典型的には、非揮発性であり、界面活性剤、粘度改質剤、腐食抑制剤などが挙げられる。
【0087】
特定の実施形態において、インク組成物は、ナノ構造体の凝集を低減するのに役立つ界面活性剤を含む。適切な界面活性剤の代表例には、ZONYL(登録商標)FSN、ZONYL(登録商標)FSO、ZONYL(登録商標)FSA、ZONYL(登録商標)FSH(DuPont Chemicals、ウィルミントン、デラウェア州)をはじめとするZONYL(登録商標)界面活性剤、およびNOVEC(商標)(3M社、セントポール、ミネソタ州)などのフルオロ界面活性剤が含まれる。その他の典型的な界面活性剤としては、アルキルフェノールエトキシレートをベースにした非イオン性界面活性剤が挙げられる。好ましい界面活性剤としては、例えば、TRITON(商標)(×100、×114、×45)などのオクチルフェノールエトキシレート、およびTERGITOL(商標)(Dow Chemical Company、ミッドランド、ミシガン州)などのノニルフェノールエトキシレートが挙げられる。さらなる典型的な非イオン性界面活性剤としては、DYNOL(登録商標)(604、607)(Air Products and Chemicals,Inc.、アレンタウン、ペンシルヴェニア州)などのアセチレンをベースにした界面活性剤、およびn−ドデシルβ−D−マルトシドが挙げられる。
【0088】
特定の実施形態において、インク組成物は、基板上にナノ構造体を固定する結合剤として働く1種または複数の粘度改質剤を含む。適切な粘度改質剤の例には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、およびヒドロキシエチルセルロースが含まれる。
【0089】
個々の実施形態において、界面活性剤の粘度改質剤に対する比は、好ましくは約80〜約0.01の範囲にあり、粘度改質剤の金属ナノワイヤに対する比は、好ましくは約5〜約0.000625の範囲にあり、金属ナノワイヤの界面活性剤に対する比は、好ましくは約560〜約5の範囲にある。インク組成物の成分比は、使用される基板および塗布方法に応じて修正することができる。インク組成物に対して好ましい粘度範囲は、約1〜100cPの間である。
【0090】
導電性フィルム
ナノ構造体のネットワーク層は、インクの堆積に続いて、液体担体を少なくとも部分的に乾燥または蒸発させた後に形成される。ナノ構造体のネットワーク層は、したがって、無作為に分布され、互いに連結されたナノ構造体を含む。ナノ構造体のネットワーク層は、導電性ナノ構造体の直径のそれに類似した厚さを典型的には有する、薄いフィルムの形態を取ることが多い。ナノ構造体の数が浸透(percolation)閾値に達している場合、薄いフィルムは、導電性であり、「導電性フィルム」と呼ばれる。例えば、1種または複数の界面活性剤および粘度改質剤をはじめとするインク組成物中のその他の非揮発性成分は、導電性フィルムの一部を形成することができる。したがって、そうでないことを明示しない限り、本明細書中で使用する場合、「導電性フィルム」は、インク組成物中の任意の非揮発性成分と一緒にされたネットワーク形成性で浸透性のナノ構造体から形成されたナノ構造体のネットワーク層を指し、例えば、粘度改質剤、界面活性剤、および腐食抑制剤の1つまたは複数を含むことができる。特定の実施形態において、導電性フィルムは、前記のナノ構造体ネットワーク層およびオーバーコートまたは遮蔽層などの付加的層を含む複合フィルム構造体を指すこともある。
【0091】
典型的には、ナノ構造体が長いほど、浸透導電率を達成するのに必要とされるナノ構造体が少ない。ナノワイヤなどの異方性ナノ構造体の場合、電気浸透閾値または装填密度は、ナノワイヤ長の二乗に逆相関する。参照によりその全体で本明細書に組み込まれる同時係属で共有の米国特許出願第11/871,053号には、ナノ構造体のサイズ/形状と浸透閾値での表面装填密度との間の理論的および経験的関係が詳細に記載されている。
【0092】
導電性フィルムの導電率は、オーム/平方(または「Ω/□」)によって表される「フィルム抵抗率」または「シート抵抗」によって測定されることが多い。フィルム抵抗は、少なくともナノ構造体の表面装填密度、サイズ/形状、およびナノ構造体の構成要素の固有電気特性の関数である。本明細書中で使用する場合、薄いフィルムは、それが108Ω/□を超えないシート抵抗を有する場合に、導電性と見なされる。好ましくは、シート抵抗は104Ω/□、3,000Ω/□、1,000Ω/□、または100Ω/□を超えない。典型的には、金属ナノ構造体によって形成された導電性ネットワークのシート抵抗は、10Ω/□〜1000Ω/□、100Ω/□〜750Ω/□、50Ω/□〜200Ω/□、100Ω/□〜500Ω/□、100Ω/□〜250Ω/□、10Ω/□〜200Ω/□、10Ω/□〜50Ω/□、または1Ω/□〜10Ω/□の範囲にある。
【0093】
光学的には、導電性フィルムは、「光透過率」および「ヘーズ」によって特徴付けることができる。透過率は、媒質を通って伝達される放射光の百分率を指す。放射光は、約250nm〜800nmの間の波長を有する紫外(UV)または可視光を指す。種々の実施形態において、導電性フィルムの光透過率は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%である。導電性フィルムは、光透過率が少なくとも85%である場合に、「透明」と見なされる。ヘーズは、光拡散の指標である。それは、放射光から分離される、および透過中に散乱される光量の百分率を指す(すなわち透過ヘーズ)。主として媒質(例えば、導電性フィルム)の特性である光透過率と異なり、ヘーズは、製造に関するものであることが多く、典型的には、表面粗さおよび包埋粒子、または媒質組成の不均一性によってもたらされる。種々の実施形態において、透明導電体のヘーズは、10%を超えず、8%を超えず、5%を超えず、または1%を超えない。
【0094】
腐食抑制剤を含む、または含まないオーバーコートは、また、ナノワイヤ層を、温度および湿度、ならびに所定デバイスの正常稼動条件中に起こることのあるそれらの任意の変動の影響から保護するための物理的遮蔽を形成する。オーバーコートは、1つまたは複数の硬質被覆、反射防止層、保護フィルム、遮蔽層などでよく、そのすべては、同時係属の米国特許出願第11/871,767号および第11/504,822号中で広範に考察されている。適切なオーバーコートの例には、ポリアクリル、エポキシ、ポリウレタン、ポリシラン、シリコーン、ポリ(シリコ−アクリル)、等々などの合成ポリマーが含まれる。適切な防眩材料は、当技術分野で周知であり、限定はされないが、シロキサン、ポリスチレン/PMMAのブレンド、ラッカー(例えば、酢酸ブチル/ニトロセルロース/ワックス/アルキド樹脂)、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリウレタン、ニトロセルロース、およびアクリレートが挙げられ、そのすべては、コロイド状またはヒュームドシリカなどの光拡散性材料を含むことができる。保護フィルムの例には、限定はされないが、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリレート(AC)、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン、トリアセテート(TAC)、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルブチラール、金属イオン架橋エチレン−メタクリル酸コポリマー、ポリウレタン、セロファン、ポリオレフィンなどが含まれ、とりわけ好ましいのは、AC、PET、PC、PMMA、またはTACである。
【0095】
本明細書に記載の種々の実施形態は、以下の非限定的実施例によってさらに例示される。
【実施例】
【0096】
(実施例1)
改変ポリオール法−微小規模
10mlのバイアル瓶中で、0.5mlのAgNO3/エチレングリコール溶液(0.1M)を、0.5mlのPVP/エチレングリコール溶液(0.15M)および0.5mlのテトラブチルアンモニウムクロリド/エチレングリコール溶液(0.001M)と室温(25℃)で合わせた。反応を完結するため、バイアル瓶を油浴(190℃)中に20〜30分間浸漬した。灰色で真珠光沢の反応生成物を得た。顕微鏡(×100DF)下で可視化すると、均一のナノワイヤが形成されたことを示した。
【0097】
反応生成物を、バイアル瓶の底部に沈降させ、エチレングリコールを除去した。反応生成物を乾燥し、次いで、反応生成物を5mlの脱イオン水に再懸濁した。懸濁液を、焼結ガラス(細かさ、4〜6μm、Kontes)を通して濾過した。保持物(焼結物を通して濾過できなかったナノワイヤを含む)を乾燥して重さを計測した。
【0098】
反応生成物のさらなる分析は、それらが実質的にナノワイヤであり、ナノ粒子がないか極めて少ないことを示した。
【0099】
生成した銀ナノワイヤは、75±8nmの平均直径、および9.7±2.6μmの平均長を有した。
【0100】
本明細書に記載の微小規模での反応は、高い百分率の銀ナノワイヤを一貫してもたらす高い再現性があった。
【0101】
(実施例2)
イオン性添加物を使用しない
比較として、実施例1の反応を、テトラブチルアンモニウムクロリド添加物を使用しないで実施した。図6に示すように、ナノ粒子のみが得られた。
【0102】
(実施例3)
改変ポリオール法−大規模
1000mlのフラスコ中で、4.171gのPVP(MW=50,000、37.6mmol)、70mgのテトラブチルアンモニウムクロリド(0.25mmol)、および4.254gのAgNO3(25mmol)を500mlのエチレングリコール中で混合した。反応混合物を、室温(25℃)で15分間撹拌した後、フラスコを、200℃に設定した加熱マントルで加熱した。反応混合物の内部温度は、約150℃に制御した。30分以内に、反応混合物は、銀ナノワイヤの灰色で真珠光沢の懸濁液に変化した。生成した銀ナノワイヤは、62±7nmの平均直径、および8.5±1.9μmの平均長を有した。沈殿物もナノ粒子も形成されなかった(例えば、図4Dを参照されたい)。
【0103】
本明細書に記載の大規模反応は、高い再現性があった。
【0104】
(実施例4)
比較結果−標準的ポリオール法
比較の目的で、さらに、米国特許出願公開第2005/0056118号に記載の方法に従って銀ナノワイヤを調製した。より具体的には、5mlのエチレングリコールを160℃で予備加熱した。3mlのAgNO3/エチレングリコール溶液(0.085M)および3mlのPVP/エチレングリコール溶液(0.13M)を、予備加熱されたエチレングリコールに同時に添加した。反応混合物を、加熱し、160℃で40分間維持した。生じた生成物は、図2に示される、ナノワイヤとナノ粒子との混合物として観察された。
【0105】
(実施例5)
改変ポリオール法−大規模
5000mlのフラスコ中で、49.98gのPVP(MW=50,000、450mmol)、0.84gのテトラブチルアンモニウムクロリド(3mmol)、および51.02gのAgNO3(300mmol)を3000mLのエチレングリコール中で混合した。PVPを、高剪断ミキサーを用いて約1/3量のエチレングリコール中に徹底的に分散させた後、反応フラスコに添加した。反応混合物を室温(25℃)で15分間撹拌した後、フラスコを、200℃に設定した加熱マントルで加熱した。反応混合物の内部温度は約140℃に制御した。30分以内に、反応混合物は、銀ナノワイヤの灰色で真珠光沢の懸濁液に変化した。生成した銀ナノワイヤは、82.6±22.3nmの平均直径、および14.1±8.1μmの平均長を有した。形成されたナノ粒子はほとんどなかった。
【0106】
本明細書に記載の大規模反応は、高い再現性があった。
【0107】
(実施例6)
改変ポリオール法−より低温
100mlのフラスコ中で、0.42gのPVP(MW=50,000、3.76mmol)、0.07mlのテトラブチルアンモニウムクロリド(0.25mmol)、および0.43gのAgNO3(2.5mmol)を50mlのエチレングリコール中で混合した。反応混合物を室温(25℃)で15分間撹拌した後、フラスコを、80℃に設定したオーブン中で撹拌なしで加熱した。2週間以内に、反応混合物は、銀ナノワイヤの灰色で真珠光沢の懸濁液に変化した。生成した銀ナノワイヤは、62±18nmの平均直径、および43±20μmの平均長を有した。反応生成物は、主として長く細いナノワイヤであった。
【0108】
(実施例7)
改変ポリオール法−1,3−プロピレングリコール溶媒
1000mlのフラスコ中で、4.17gのPVP(MW=50,000、37.6mmol)、72mgのテトラブチルアンモニウムクロリド(0.25mmol)、および4.25gのAgNO3(25mmol)を500mlの1,2−プロピレングリコール中で混合した。反応混合物を室温(25℃)で15分間撹拌した後、フラスコを、200℃に設定した加熱マントルで加熱した。反応混合物の内部温度は約160℃に制御した。30分以内に、反応混合物は、銀ナノワイヤの灰色で真珠光沢の懸濁液に変化した。反応生成物は、主としてナノワイヤであった。
【0109】
(実施例8)
改変ポリオール法−1,2−プロピレングリコール溶媒
1000mlのフラスコ中で、0.417gのPVP(MW=50,000、3.76mmol)、7.2mgのテトラブチルアンモニウムクロリド(0.025mmol)、および0.425gのAgNO3(2.5mmol)を50mlの1,2−プロピレングリコール中で混合した。反応混合物を室温(25℃)で15分間撹拌した後、フラスコを、81℃に設定した加熱マントルで加熱した。2日以内に、反応混合物は、銀ナノワイヤの灰色で真珠光沢の懸濁液に変化した。反応生成物は、図7に示すように主としてナノワイヤであった。
【0110】
(実施例9)
改変ポリオール法−1,3−プロピレングリコール溶媒
100mlのフラスコ中で、0.42gのPVP(MW=50,000、3.76mmol)、0.07mlのテトラブチルアンモニウムクロリド(0.25mmol)、および0.43gのAgNO3(2.5mmol)を50mlの1,3−プロピレングリコール中で混合した。反応混合物を室温(25℃)で15分間撹拌した後、フラスコを、100℃に設定したオーブン中で撹拌なしで加熱した。12時間以内に、反応混合物は、銀ナノワイヤの灰色で真珠光沢の懸濁液に変化した。反応生成物は、図8に示すように主としてナノワイヤであった。
【0111】
(実施例10)
窒素パージおよびスパージ
図12Aおよび12Bは、さらに、ナノワイヤ反応混合物を窒素でパージすることまたはスパージすることの間の強い相関を示す。より具体的には、金属塩(硝酸銀)の添加に先立って窒素で、PGをスパージするか、あるいはPGおよびPVPの双方をスパージする、2つの小規模反応(0.5L PG)を実施した。反応条件は、他の点では同一であり、双方とも、全工程の間、十分な窒素パージにさらした。生じるナノワイヤの形態は、互いに類似しており、規模を大きくした反応(30L)に類似していた。窒素パージ/スパージを伴うすべての反応は、窒素パージのない合成によって生成されたものと劇的に異なる形態をもたらした。
【0112】
本明細書中で言及されるおよび/または出願データシート中に挙げられた前記の米国特許、米国特許出願公開、米国特許仮出願、外国特許、外国特許出願、および非特許刊行物のすべては、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる。
【0113】
例示の目的で本発明の具体的実施形態を本明細書中で説明してきたが、前記のことから、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、種々の改変形態をもたらし得ることを認識されよう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲によって限定される場合を除き、限定されない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)反応容器中でポリオール溶媒、キャッピング試薬、およびイオン性添加物を合わせることによって第1の反応混合物を準備するステップ、
(b)前記第1の反応混合物を不活性気体で、あるパージ時間の間パージするステップ、
(c)(b)の後に、前記第1の反応混合物を金属塩と合わせることによって第2の反応混合物を準備するステップ、および
(d)前記金属塩を還元することによって、金属ナノワイヤを第1の収率で含む複数の金属ナノ構造体を準備するステップ
を含む、金属ナノワイヤを調製する方法。
【請求項2】
(b)の前に、前記第1の反応混合物を反応温度まで加熱するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の反応混合物をパージするステップが、前記反応容器をパージすること、および前記第1の反応混合物の上部表面上に不活性気体のブランケットを形成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の反応混合物をパージするステップが、前記第1の反応混合物をスパージすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の金属ナノ構造体を準備するステップが、前記第2の反応混合物をパージしながら前記金属塩を還元することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリオール溶媒が、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、またはグリセロールである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記キャッピング試薬がポリ(ビニルピロリドン)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記イオン性添加物が塩化物イオンを提供する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記イオン性添加物がテトラアルキルアンモニウムクロリドである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記金属塩が銀塩であり、そして前記金属ナノワイヤが銀ナノワイヤである、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記複数の金属ナノ構造体が、少なくとも80%の金属ナノワイヤを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記パージ時間を調節することにより、異なる形態の前記金属ナノ構造体が得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記パージ時間を調節することにより、異なる収率の前記金属ナノワイヤが得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
(a)目標平均長、目標平均直径、または目標収率を有する、第1の複数の金属ナノワイヤを準備するステップであって、前記第1の複数の金属ナノワイヤは、不活性気体で第1のパージ時間の間パージすることを含む第1のポリオール合成によって、第1のポリオール溶媒中で調製され、そして前記第1のポリオール溶媒は、第1の製造業者ロットから提供される、ステップ、および
(b)前記目標平均長、前記目標平均直径、または前記目標収率を有する、第2の複数の金属ナノワイヤを準備するステップであって、前記第2の複数の金属ナノワイヤは、不活性気体で第2のパージ時間の間パージすることを含む第2のポリオール合成によって、第2のポリオール溶媒中で調製され、そして前記第2のポリオール溶媒は、前記第1のポリオール溶媒と化学的に同一であり、および第2の製造業者ロットから提供される、ステップを含み、
前記第1のパージ時間は、前記第2のパージ時間と異なる、方法。
【請求項15】
前記第1のポリオール合成および前記第2のポリオール合成が、その他の点では実質的に同一の条件で実施される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記目標平均長、前記目標平均直径、または前記目標収率を有する、前記第2の複数の金属ナノワイヤを準備するステップが、前記第2のポリオール溶媒中で1つまたは複数の試験ポリオール合成を実行することによって前記第2のパージ時間を選択すること;各試験ポリオール合成から生じるそれぞれの金属ナノワイヤについて平均長、平均幅、または収率を得ること;および前記目標平均長、前記目標平均幅、または前記目標収率を有する金属ナノワイヤを生成する前記試験ポリオール合成に対応するものとして、前記第2のパージ時間を特定することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記試験ポリオール合成が、前記第2のポリオール合成よりも小さい反応規模を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリオール溶媒が、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、またはグリセロールである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記キャッピング試薬がポリ(ビニルピロリドン)である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記イオン性添加物が塩化物イオンを提供する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記イオン性添加物がテトラアルキルアンモニウムクロリドである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記金属塩が銀塩であり、そして前記金属ナノワイヤが銀ナノワイヤである、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
目標収率が、少なくとも80%である、請求項14に記載の方法。
【請求項1】
(a)反応容器中でポリオール溶媒、キャッピング試薬、およびイオン性添加物を合わせることによって第1の反応混合物を準備するステップ、
(b)前記第1の反応混合物を不活性気体で、あるパージ時間の間パージするステップ、
(c)(b)の後に、前記第1の反応混合物を金属塩と合わせることによって第2の反応混合物を準備するステップ、および
(d)前記金属塩を還元することによって、金属ナノワイヤを第1の収率で含む複数の金属ナノ構造体を準備するステップ
を含む、金属ナノワイヤを調製する方法。
【請求項2】
(b)の前に、前記第1の反応混合物を反応温度まで加熱するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の反応混合物をパージするステップが、前記反応容器をパージすること、および前記第1の反応混合物の上部表面上に不活性気体のブランケットを形成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の反応混合物をパージするステップが、前記第1の反応混合物をスパージすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の金属ナノ構造体を準備するステップが、前記第2の反応混合物をパージしながら前記金属塩を還元することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリオール溶媒が、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、またはグリセロールである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記キャッピング試薬がポリ(ビニルピロリドン)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記イオン性添加物が塩化物イオンを提供する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記イオン性添加物がテトラアルキルアンモニウムクロリドである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記金属塩が銀塩であり、そして前記金属ナノワイヤが銀ナノワイヤである、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記複数の金属ナノ構造体が、少なくとも80%の金属ナノワイヤを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記パージ時間を調節することにより、異なる形態の前記金属ナノ構造体が得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記パージ時間を調節することにより、異なる収率の前記金属ナノワイヤが得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
(a)目標平均長、目標平均直径、または目標収率を有する、第1の複数の金属ナノワイヤを準備するステップであって、前記第1の複数の金属ナノワイヤは、不活性気体で第1のパージ時間の間パージすることを含む第1のポリオール合成によって、第1のポリオール溶媒中で調製され、そして前記第1のポリオール溶媒は、第1の製造業者ロットから提供される、ステップ、および
(b)前記目標平均長、前記目標平均直径、または前記目標収率を有する、第2の複数の金属ナノワイヤを準備するステップであって、前記第2の複数の金属ナノワイヤは、不活性気体で第2のパージ時間の間パージすることを含む第2のポリオール合成によって、第2のポリオール溶媒中で調製され、そして前記第2のポリオール溶媒は、前記第1のポリオール溶媒と化学的に同一であり、および第2の製造業者ロットから提供される、ステップを含み、
前記第1のパージ時間は、前記第2のパージ時間と異なる、方法。
【請求項15】
前記第1のポリオール合成および前記第2のポリオール合成が、その他の点では実質的に同一の条件で実施される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記目標平均長、前記目標平均直径、または前記目標収率を有する、前記第2の複数の金属ナノワイヤを準備するステップが、前記第2のポリオール溶媒中で1つまたは複数の試験ポリオール合成を実行することによって前記第2のパージ時間を選択すること;各試験ポリオール合成から生じるそれぞれの金属ナノワイヤについて平均長、平均幅、または収率を得ること;および前記目標平均長、前記目標平均幅、または前記目標収率を有する金属ナノワイヤを生成する前記試験ポリオール合成に対応するものとして、前記第2のパージ時間を特定することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記試験ポリオール合成が、前記第2のポリオール合成よりも小さい反応規模を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリオール溶媒が、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、またはグリセロールである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記キャッピング試薬がポリ(ビニルピロリドン)である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記イオン性添加物が塩化物イオンを提供する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記イオン性添加物がテトラアルキルアンモニウムクロリドである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記金属塩が銀塩であり、そして前記金属ナノワイヤが銀ナノワイヤである、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
目標収率が、少なくとも80%である、請求項14に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【公表番号】特表2013−503260(P2013−503260A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526939(P2012−526939)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【国際出願番号】PCT/US2010/046643
【国際公開番号】WO2011/031483
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(510230746)カンブリオス テクノロジーズ コーポレイション (9)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【国際出願番号】PCT/US2010/046643
【国際公開番号】WO2011/031483
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(510230746)カンブリオス テクノロジーズ コーポレイション (9)
【Fターム(参考)】
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