説明

金属ナノワイヤーの合成方法

金属ナノワイヤーを合成する方法が提供される。有機金属層が、基板上に薄膜として堆積する。空気の存在下における有機金属薄膜の熱分解によって、金属ナノワイヤーが合成される。金属を変えることによって、異なる特性を有するナノワイヤーが製造可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明者は、ハルチュンヤン アヴェティックである。
【0002】
本出願は、金属ナノワイヤーの生成方法及び金属ナノワイヤーを用いたナノ構造体に関する。
【背景技術】
【0003】
ナノワイヤーは、一般的に、約1ナノメートル(nm)から約500nmの範囲の直径を有するワイヤーのことを指す。ナノワイヤーは、固体であり、アモルファス構造、グラファイト状構造又はヘリングボーン構造を有することができる。ナノワイヤーは、軸方向のみに周期的であり、それゆえ、他の平面においてエネルギー的に好適な秩序をとることができ、結果として結晶秩序が失われている。
【0004】
ナノワイヤーは、一般的に、金属材料又は半導体材料から製造されており、金属材料又は半導体材料の電子特性及び光学特性のいくつかは、大きいサイズにおける同一材料の同特性とは異なる。例えば、100nm以下の直径を有する金属ワイヤーは、伝導電子の位相情報の残存、電子波干渉効果の自明化等といった量子伝導現象を示す。半導体ナノワイヤー又は金属ナノワイヤーは、メゾスコピック研究における潜在的な用途、ナノデバイスの開発、ガスセンサ及び電界放出素子としての利用、及び、広大な表面積を有する構造体の潜在的な用途のため、大きな注目を集めている。例えば、Xu等による米国特許第5,973,444号明細書は、炭素繊維に基づく電界放出素子を開示しており、炭素繊維エミッタが、成長されて装置の一部として触媒金属膜上に保持されている。Xu等は、装置の一部を形成する繊維が、まっすぐな繊維の成長を促進する場としての磁場又は電場の存在下で成長可能であることを開示している。
【0005】
量子ワイヤーを製造する技術の一つは、有機金属化学気相成長法(MOCVD)の前に行われるマイクロリソグラフィ工程を利用する。この技術は、単一の量子ワイヤーすなわちヒ化アルミニウム(AlAs)バルク基板内に埋め込まれたヒ化ガリウム(GaAs)の列を生成するのに利用可能である。しかし、この技術に伴う問題点の一つとして、マイクロリソグラフィ工程及びMOCVDがGaAs及びそれに関連する材料に限定されてしまうということが挙げられる。さらに、この技術は、実用化に好適なワイヤのサイズの均一性を得ることができない。
【0006】
ナノワイヤー系を製造する他の方法としては、テンプレートとして多孔質基板を用い、基板に自然に発生したナノチャンネルすなわち微細孔の配列を対象の材料で充填することが挙げられる。しかし、微細孔の直径が小さくなると微細孔は分岐したり合流したりし、小さい直径を有する長い微細孔に所望の材料を充填することに関連する問題点のため、相対的に小さい直径を有する相対的に長く連続的なワイヤーを生成することは困難である。
【0007】
Krieger等による米国特許第6,838720号明細書は、活性層及び不動態層を有する記憶装置を開示している。イオンは、不動態層から活性層に移動することによって、ナノワイヤーの特性を形成する。有機層は、フタロシアニンであってもよいが、ナノワイヤーの合成は提供されない。
【0008】
Harutyunyan等によるAppl. Phys. lett. 82: 4974-4796 (2003)は、カーボンナノチューブの自己集合のための有機金属前駆体の熱分解を開示している。ナノワイヤーとは異なり、カーボンナノチューブは、各端部がフラーレン分子の半分で覆われた、中空のシームレスなチューブを形成する炭素原子の六角形網状構造である。カーボンナノチューブは、最初、アーク放電内で炭素を蒸着することによって複層同心チューブすなわち複層カーボンナノチューブを製造したSumio Iijimaによって1991年に報告された。現在、単層カーボンナノチューブ及び複層カーボンナノチューブを合成するための、三つの主要な取り組みが存在する。これらの取り組みは、カーボンロッドの電気アーク放電(Journet et al. Nature 388:756 (1997))、炭素のレーザ切断(Thess et al. Science 273:483 (1996))及び炭化水素の化学気相成長(Ivanov et al. Chem.Phys.Lett 223:329 (1994); Li et al. Science 274:1701 (1996))である。これらの手法は、ナノワイヤーの製造には好適ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、金属ナノワイヤーを合成し、さらには、基板上の予め選択された位置で金属ナノワイヤーを合成する方法が必要とされている。本方法は、基板上の予め選択された位置で、金属ナノワイヤーを制御された量だけ成長させることができることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、金属ナノワイヤー及びナノ構造体の合成のための方法及びプロセスを提供する。一態様において、ナノワイヤーの合成方法は、基板を提供するステップと、基板上に有機金属層を堆積させるステップと、有機金属層を有する基板を加熱することによって基板上にナノワイヤーを形成するステップと、を含む。基板は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ガラス、マイカ、シリコン、繊維ガラス、テフロン(登録商標)、セラミック、プラスチック、水晶又はこれらの混合物とすることができる。有機金属層は、鉄フタロシアニン、ニッケルフタロシアニン等といった金属フタロシアニンとすることができる。有機金属は、基板上に薄膜として堆積可能であり、空気の存在下で加熱されることによって、金属ナノワイヤーが形成される。
【0011】
他の態様において、ナノワイヤーの合成方法が提供される。本方法は、基板を提供するステップと、鉄フタロシアニン、ニッケルフタロシアニン又はこれらの混合物である有機金属層を基板上に堆積させるステップと、有機金属層を有する基板を加熱することによって基板上にナノワイヤーを形成するステップと、を含む。
【0012】
本発明の他の態様において、ナノワイヤーの合成方法は、基板を提供するステップと、鉄フタロシアニン、ニッケルフタロシアニン又はこれらの混合物である有機金属層を基板上に堆積させるステップと、有機金属層を有する基板を加熱することによって基板上にナノワイヤーを形成するステップと、を含み、有機金属層は、1:20から20:1の比率の金属フタロシアニン及び水素フタロシアニンからなる溶液を基板上に配置して加熱することによって薄膜を形成し、薄膜を有する基板を加熱することによって基板上にナノワイヤーが形成される。
【0013】
本発明は、基板上の標的位置での金属ナノワイヤーの合成方法及びプロセスを提供する。一態様において、マスク層が、基板の選択された部位を露出するように基板上に配置される。続いて、有機金属層が、基板上に堆積する。前駆体層を堆積させた後、マスク層が基板上から除去される。続いて、基板上に残った有機金属層が熱分解されることによって、金属ナノワイヤーが形成される。有機金属層は、鉄フタロシアニン、ニッケルフタロシアニン又はこれらの混合物からなるものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<1.定義>
特に指定しない限り、明細書及び特許請求の範囲を含む本出願において用いられる以下の用語は、以下で与えられる定義を有する。本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いられている単数形は、文脈が特に明確に指示しなくても、複数形を含むことに留意されたい。標準的な化学用語の定義は、Carey and Sundberg (1992) "Advanced organic Chemistry 3rd. Ed." Vols. A and B, Plenum Press, New York及びCotton et al. (1999) "Advanced Inorganic Chemistry 6th Ed." Wiley, New York を含む参考資料から入手可能である。
【0015】
「金属有機物」又は「有機金属」という用語は、交換可能に用いられ、有機化合物と、金属、遷移金属又は金属ハロゲン化物と、からなる配位化合物を指す。
【0016】
<2.概説>
本発明は、金属ナノワイヤーの合成のための方法、装置及びプロセス、並びに、金属ナノワイヤーからなる構造体を開示する。
【0017】
本発明の一態様において、基板が提供され、基板上には、有機金属層が堆積している。金属ナノワイヤーは、有機金属の熱分解によって合成される。金属ナノワイヤーの特性は、有機金属内の金属を選ぶことによって、選択的に変えられる。一般的に、金属フタロシアニンは、水素フタロシアニンで希釈され(1:10)、基板上に堆積し、500〜600℃で加熱されることによって、基板上に薄膜が形成される。薄膜で覆われた基板は、空気の存在下で約550℃まで加熱されることによって、金属ナノワイヤーが合成される。
【0018】
他の態様において、基板が提供され、その一表面は、マスクで覆われた領域と、覆われていない、すなわちマスキングされていない領域と、を有する。有機金属化合物層は、マスキングされていない領域に堆積し、加熱されることによって、基板上の特定の位置に薄層が形成される。表面上に形成された有機金属薄層を有する基板は、空気に露出され、加熱されることによって、金属ナノワイヤー及びナノ構造体が形成される。
【0019】
<3.基板>
基板は、ガラス、プラスチック、セラミック、金属、ゲル、膜、ビーズ、マイカ、繊維ガラス、テフロン(登録商標)、水晶等を含む様々な材料から製造される。好ましくは、基板は、後記する方法を用いた金属ナノワイヤーの合成中に担体として利用するのに好適な材料からなる。かかる材料としては、結晶シリコン、ポリシリコン、窒化ケイ素、タングステン、マグネシウム、アルミニウム及びこれらの酸化物が挙げられ、好ましくは、酸化ケイ素、酸化アルミニウム及び酸化マグネシウムが挙げられる。
【0020】
本発明の一態様において、基板が処理されることによって、金属ナノワイヤー及びナノ構造体の成長のための特定の場所が提供される。かかる処理としては、基板の表面をマスキングしてマスキングされていない領域を残すること、基板上の特定の一に独立した孔又は構造を製造することが可能な電気化学(EC)エッチング及び光電気化学(PEC)エッチング等が挙げられる。例えば、基板の上面は、除去可能なマスクで覆われた部位と、金属ナノワイヤーの合成の標的となる領域を表す、覆われていない、すなわちマスキングされていない部位と、を有する。
【0021】
マスクは、所望時に除去可能な任意の材料からなる。それゆえ、マスクは、例えば、物理的な除去、水中若しくは溶剤中での溶解、化学エッチング若しくは電気化学エッチング、又は、加熱による蒸発によって比較的容易に除去可能な材料で形成される。したがって、マスク材料としては、塩化ナトリウム、塩化銀、硝酸カリウム、硫酸銅、塩化インジウム等といった水溶性塩若しくは溶剤可溶塩、又は、砂糖、グルコース等といった可溶性有機材料が挙げられる。また、マスク材料としては、Cu、Ni、Fe、Co、Mo、V、Al、Zn、In、Ag、Cu−Ni合金、Ni−Fe合金、他の合金等といった化学エッチング可能な金属又は合金であってもよく、Al等といった塩基に溶解可能な金属が利用可能である。マスクは、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリアクリルアミド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン等といった可溶性ポリマーで形成可能である。あるいは、除去可能なマスクは、PMMAポリマー等といった揮発性の(蒸発可能な)材料とすることができる。これらの材料は、塩酸、王水、硝酸等といった酸に溶解可能であってもよく、水酸化ナトリウム、アンモニアなどといった塩基溶液に溶解可能であってもよい。除去可能な層すなわちマスクは、熱によって分解又は焼尽可能なZn等といった蒸発可能な材料とすることができる。マスクは、基板上に物理的に設置されることによって、電気めっき、化学めっき等といった化学析出によって、スパッタリング、蒸着、レーザー切断、イオンビーム蒸着等といった物理蒸着によって、又は、化学気相成長によって生成可能である。
【0022】
したがって、一態様において、マスクは、アルミ箔とすることができる。アルミ箔は、上部にカット又はエッチングされた構造を有することができる。かかる構造は、好ましくは、基板上の領域を露出し、合成される金属ナノワイヤー及びナノ構造体の位置、サイズ及び/又は向きを示す。例えば、構造は、特定の位置にナノワイヤーを得ることが可能な孔、V字形状の溝、Y字形状の溝、円、溝等とすることができ、所望の位置にナノ構造体が提供される。
【0023】
<4.金属及び有機金属>
本発明において用いられる金属は、Be、Mg等といった2A族金属及びこれらの混合物、Al等といった3A族金属及びこれらの混合物、Sn、Pb等といった4A族金属及びこれらの混合物、V、Nb等といったV族金属及びこれらの混合物、Cr、W、Mo等といったVI族金属及びこれらの混合物、Mn、Re等といったVII族金属、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等といったVIII族金属及びこれらの混合物、Ce、Eu、Er、Yb等といったランタノイド及びこれらの混合物、並びに、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Sc、Y、La等といった遷移金属及びこれらの混合物から選択可能である。好ましくは、金属は、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、モリブデン、銅又はこれらの混合物である。
【0024】
一態様において、金属は、有機質部分に結合されることによって、有機金属化合物が提供される。したがって、前記リストから選択された金属は、例えば、フタロシアニン、ポルフィリン、シクロペンチル等と結合されることによって、有機金属化合物が提供される。一般的に、有機金属化合物は、高い蒸気圧、高純度、高い堆積率、処理の容易さ、非毒性及び低コスト等といった特性を有するように選択される。様々な有機金属前駆体が、有機金属前駆体層を形成するために使用可能である。好適な有機金属材料の一つとして、鉄フタロシアニン(FePc)が挙げられる。FePcは、室温で固体であり、昇華によって容易に精製可能である。FePcサンプルを約480℃から約520℃の間の温度まで加熱することによって、物理堆積プロセスに好適な量のFePcが生成される。また、ニッケルフタロシアニン(NiPc)、又は、FePcとMoPcの混合物が、有機金属前駆体として利用可能である。好ましくは、鉄又はニッケルを含有する任意の有機金属化合物が利用可能である。かかる化合物の例としては、鉄ポルフィリンが挙げられる。
【0025】
<5.金属ナノワイヤーの合成>
本発明の一態様において、有機金属化合物は、基板上に薄膜として堆積可能である。薄膜は、任意の公知技術によって堆積可能である。例えば、有機金属化合物は、基板上に固体として堆積して加熱されることによって、薄膜を形成することが可能である。有機金属化合物は、DMSO、DMF、アセトン、キシレン等といった任意の有機溶剤に溶解可能である。一態様において、有機金属化合物は、金属フタロシアニンであり、約20:1から約1:20、好ましくは約1:1から約1:15、より好ましくは約1:5から約1:15の(重量)比で水素フタロシアニンに溶解可能である。金属フタロシアニン−水素フタロシアニン溶液は、基板上に配置可能である。
【0026】
上面に堆積した有機金属化合物を有する基板が加熱されることによって、薄膜が形成される。加熱は、好ましくは、有機金属化合物の分解温度未満で行われる。有機金属化合物が金属フタロシアニンである場合には、加熱は、好ましくは、約500℃から約600℃の温度まで、薄膜が形成されるまで行われる。加熱は、好ましくは約10分から約5時間の間、より好ましくは約15分から約60分の間、さらに好ましくは約30分から約45分の間行われる。任意事項として、加熱は真空下で行うことも可能である。従来の真空ポンプは、10−5〜760Torr(1.33×10−3〜1.01×10Pa)の範囲、好ましくは10−4〜10−3Torr(1.33×10−2〜1.33×10−1Pa)の範囲の減圧下で反応チャンバを稼動するために反応チャンバに接続可能である。このように形成された膜は、一般的に、約1μmから約100μmの厚み、好ましくは約1μmから約30μmの厚み、さらに好ましくは約1μmから約10μmの厚み、又はこれらの間の任意の厚みを有する。
【0027】
他の態様において、本発明のプロセスは、一以上の有機金属化合物を蒸発させ、蒸発した前駆体を輸送ガスを用いて基板表面に輸送し、化学反応を介して基板表面上に薄膜を形成することによって実行される。前記した物理蒸着は、比較的低温で実行可能であり、薄膜の構造及び堆積率が供給材料及び輸送ガスの量を変えることによって容易に制御可能であり、かつ、最終的に得られる薄膜が基板表面に損傷を生じることなく良好な均一性を示すという利点を有する。
【0028】
本発明の他の態様において、基板は、除去可能なマスクで覆われた部位を有することができる。物理蒸着プロセス中、有機金属前駆体層は、基板の露出した表面全体に形成される。したがって、有機金属層は、基板の露出した部位に加えて、マスクの上面にも形成される。有機金属層の一般的な厚みは、約1μmから約30μmの範囲である。しかし、物理蒸着は、所望であれば最大で50μm以上の有機金属層を生成するのに利用可能である。
【0029】
有機金属前駆体層の堆積後、マスクが基板から除去される。マスク除去の手法は、用いられたマスク層の種類に依存する。例えば、マスクがアルミ箔又は薄いプラスチックからなる場合には、マスクは、下にある基板から持ち上げて外される。かかる例において、マスクの物理的な除去は、マスクに堆積した部位の有機金属層も除去することとなる。したがって、有機金属層は、堆積標的(deposition target)にのみ残る。
【0030】
基板表面上の有機金属の薄膜は、酸化すなわち熱分解可能である。有機金属層の酸化すなわち熱分解によって、有機金属化合物の有機成分の酸化が生じる。有機金属薄膜を熱分解する一手法として、空気の存在下で約450℃から約650℃の間まで基板を加熱することが挙げられる。例えば、有機金属薄膜を有する基板が反応チャンバ内に配置され、ガス吸気口が空気供給源に接続されており、炉内の温度が空気を流している間に550℃まで上昇可能である。これらの加工条件が2〜4時間維持されることによって、有機金属層内の有機成分を熱分解することができ、基板上に金属ナノワイヤーが残る。
【0031】
本プロセスを用いて形成された金属ナノワイヤー及びナノ構造体のサイズ及び種類は、一つには堆積した有機金属層の厚みに依存する。特定の理論によって束縛されることなく、より厚い有機金属膜を基板上に形成することによって、より大きい直径の金属ナノワイヤー及びナノ構造体を合成することができると考えられる。例えば、1μmのFePc層の熱分解によって、長さ約10μm及び直径約1nmの金属ナノワイヤーを形成することができるであろう。同様の条件下で、5〜10μmのFePc層の熱分解によって、直径35nmの金属ナノワイヤーが製造される。
【0032】
前記した方法及びプロセスによって製造された金属ナノワイヤー及びナノ構造体は、電界放出素子、メモリ装置(高密度メモリアレイ、メモリ論理スイッチングアレイ)、ナノMEM、AFM撮像プローブ、分散型診断センサ、歪みセンサ等の用途に利用可能である。他の主要な用途としては、熱制御材料、超強力軽量補強材及びナノ複合材料、EMIシールド材、触媒用担体、ガス貯蔵材料、大表面積電極、軽量導体ケーブル及びワイヤー等が挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施するための特定の実施形態の例について説明する。これらの例は、説明のみを目的として言及されており、何らかのかたちで本発明の範囲を制限することを意図したものではない。用いられた数字(例えば、量、温度等)に関して正確さを保証する努力は行っているが、多少の実験誤差及び偏差は当然ながら許容されるべきである。
【0034】
<実施例1>
<有機金属試料の精製>
基板上に堆積させる前に、有機金属前駆体を精製することが望ましい。例えば、FePc試料は、多くの場合、他の材料を重量比で最大20%含有している。汚染は、合成方法の再現性及び信頼性に影響を与える薄膜の特性に悪影響を与えるおそれがある。かかる汚染の影響を低減させるために、有機金属前駆体試料は、例えば再結晶又は物理蒸着プロセスによって使用前に精製される。精製中には、精製すべき有機金属試料は、精製された有機金属材料を収集するための標的に沿うようにして反応室内に配置される。FePc試料は、約480℃から約520℃の間の温度まで加熱され、収集のための温度は、約200℃から約300℃の間の温度に設定される。精製のための物理蒸着プロセスは、圧力10−4Torr(1.33×10−2Pa)で実行される。真空ポンプは、反応チャンバ内の圧力を維持するだけでなく、反応チャンバ内において堆積標的に向かう流れを生成する。加工条件は、おおよそ10時間、すなわち精製すべき初期試料の全てが昇華するまで維持される。所望であれば、有機金属試料を複数回精製することによって、さらに高い結晶化度及び純度を実現することができる。
【0035】
<実施例2>
<金属ナノワイヤーの合成>
長さ4cm、幅4cm、奥行き0.5cmを有する矩形の酸化ケイ素が基板として選択された。鉄フタロシアニン(FeC3216)を水素フタロシアニン内に含有する溶液(重量比1:10)を、基板上面に堆積させた。続いて、基板を炉の反応チャンバ内に配置した。反応チャンバ内の圧力を真空ポンプによっておよそ10−4Torr(1.33×10−2Pa)まで下げ、反応チャンバ内の温度を約500℃から約600℃の間まで上昇させた。かかる温度を約30分間維持し、約2μmの厚みを有する有機金属薄膜を形成した。ここで、薄膜を有する基板は、取り出し可能である。あるいは、炉が空気供給源に接続可能である。続いて、炉の温度を、1000sccmの空気を流している間、約550℃に調節した。これらの加工条件はを、約2〜4時間維持することによって、有機金属層内の有機成分を熱分解し、基板上に残る金属ナノワイヤーを得た。このようにして得られた金属ナノワイヤーを有する基板は、反応チャンバから取り出し可能である。図1は、このようにして製造された金属ナノワイヤーのTEM画像を示す。図1(a)は、酸化ケイ素上に担持されたニッケルナノワイヤーを示し、図1(b)(c)は、それぞれ、低倍率及び高倍率での、酸化ケイ素上に担持された鉄ナノワイヤーを示す。
【0036】
以上、本発明について、特に好ましい実施形態及び様々な代替案としての実施形態を参照して説明したが、本発明の精神及び範囲を逸脱しない範囲で、形状及び細部において様々な変更が可能であることが、当業者にとって理解されるであろう。本明細書内で言及された全ての発行された特許及び刊行物が、参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の方法によって製造された金属ナノワイヤーのTEM画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノワイヤーを合成する方法であって、
基板を提供するステップと、
有機金属層を前記基板上に堆積させるステップと、
前記有機金属層を有する前記基板を加熱することによって、前記基板上に金属ナノワイヤーを形成するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記基板は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ガラス、マイカ、シリコン、繊維ガラス、テフロン(登録商標)、セラミック、プラスチック、水晶及びこれらの混合物からなる群から選択される
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基板は、酸化ケイ素である
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機金属層は、金属フタロシアニンである
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記金属は、V族金属、VI族金属、VII族金属、VIII族金属、ランタノイド、遷移金属及びこれらの混合物からなる群から選択される
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記金属は、Fe、V、Nb、Cr、W、Mo、Mn、Re、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Ce、Eu、Er、Yb、Ag、Au、Zn、Cd、Sc、Y、La及びこれらの混合物からなる群から選択される
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記金属は、Feである
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記金属は、Niである
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記有機金属層は、前記基板上に金属フタロシアニンの溶液を配置し、加熱して薄膜を形成することによって堆積する
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記溶液は、金属フタロシアニン及び水素フタロシアニンを、約1:20から約20:1の比で含有する
ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記加熱は、約500℃から約600℃の温度まで行われる
ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記加熱は、真空下で行われる
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記有機金属層は、約1μmから約30μmの間の厚みを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記基板上に堆積する前記有機金属層を加熱するステップは、約450℃から約500℃の間の温度で、前記有機金属層を空気に露出するステップを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
他のガスをさらに含有する
ことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記他のガスは、水素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノン及びこれらの混合物からなる群から選択される
ことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
金属ナノワイヤーを合成する方法であって、
基板を提供するステップと、
鉄フタロシアニン、ニッケルフタロシアニン又はこれらの混合物である有機金属層を前記基板上に堆積させるステップと、
前記有機金属層を有する前記基板を加熱することによって、前記基板上に金属ナノワイヤーを形成するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
前記基板は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ガラス、マイカ、シリコン、繊維ガラス、テフロン(登録商標)、セラミック、プラスチック、水晶及びこれらの混合物からなる群から選択される
ことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記基板は、酸化ケイ素である
ことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記有機金属層は、前記基板上に金属フタロシアニンの溶液を配置し、加熱して薄膜を形成することによって堆積する
ことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記溶液は、金属フタロシアニン及び水素フタロシアニンを約1:20から約20:1の比率で含有する
ことを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記加熱は、真空下で約500℃から約600℃の温度まで行われる
ことを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記有機金属層は、約1μmから約30μmの間の厚みを有する
ことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記基板上に堆積した前記有機金属層を加熱するステップは、約450℃から約500℃の間の温度で前記有機金属層を空気に露出するステップを含む
ことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項25】
水素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノン及びこれらの混合物からなる群から選択される他のガスをさらに含有する
ことを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
金属ナノワイヤーを合成する方法であって、
基板を提供するステップと、
鉄フタロシアニン、ニッケルフタロシアニン又はこれらの混合物である有機金属層を、約1:20から約20:1の比率の金属フタロシアニン及び水素フタロシアニンの溶液を前記基板上に配置し、加熱して薄膜を形成することによって前記基板上に堆積させるステップと、
前記薄膜を有する前記基板を加熱することによって、前記基板上に金属ナノワイヤーを形成するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項27】
前記基板は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ガラス、マイカ、シリコン、繊維ガラス、テフロン(登録商標)、セラミック、プラスチック、水晶及びこれらの混合物からなる群から選択される
ことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記基板は、酸化ケイ素である
ことを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記加熱は、真空下で約500℃から約600℃の温度まで行われる
ことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記薄膜は、約1μmから約30μmの間の厚みを有する
ことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記基板上に堆積した前記薄膜を加熱するステップは、約450℃から約500℃の間の温度で前記有機金属層を空気に露出するステップを含む
ことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項32】
水素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノン及びこれらの混合物からなる群から選択される他のガスをさらに含有する
ことを特徴とする請求項31に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−509037(P2009−509037A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531153(P2008−531153)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際出願番号】PCT/US2006/034002
【国際公開番号】WO2007/037906
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】