説明

金属ナノ粒子の製造方法

【課題】安全かつ安価に金属ナノ粒子の懸濁液を製造し、この懸濁液から夾雑物を効率よく除去して高純度の金属ナノ粒子を製造する方法を提供する。
【解決手段】本実施例の金属ナノ粒子の製造方法は、一般式(1)で示されるモノヒドロシラン化合物を用いて標準酸化還元電位が0V以上の金属イオンを溶液中で還元することにより金属ナノ粒子の懸濁液を製造することを特徴とする。
【化1】


(R、R、Rは各々独立の有機基であり、炭素数の合計は12以下である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中で金属塩を還元して金属ナノ粒子の懸濁液を製造する方法に係り、特に、懸濁液から余剰還元剤等の夾雑物を効率よく除去して金属ナノ粒子の純度を容易に高めることが可能な金属ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒径がおよそ数nm〜数100nm程度の金属の微粒子のことを金属ナノ粒子という。金属ナノ粒子は、このように粒径が小さいことに起因する種々の特性を有しており、従来、様々な分野で利用されている。例えば、マトリクス表示液晶ディスプレイ等においては、液晶セルに充填された液晶に金属ナノ粒子を添加することにより、液晶素子の応答が高速化することが知られている。また、金属ナノ粒子は、通常のサブミクロン以上の塊状の金属に比べて焼結温度が低いことから、配線材料としてプリント配線板と電子部品の接続等に用いられている。
【0003】
金属ナノ粒子の製造方法としては、例えば、坩堝に入れて加熱した原料固体から発生した蒸気に対して不活性ガスの分子等を衝突させて急冷することにより微粒子化するガス中蒸発法が知られている。この方法によれば、高濃度かつ高純度の金属ナノ粒子を得ることができる。しかしながら、原料固体から蒸気を発生させるための設備が必要であるため、金属ナノ粒子を安価に製造することができないという課題があった。そこで、このような特別な設備を必要としないものとして、溶液中で金属塩を還元して金属ナノ粒子を製造する方法が注目されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、「高濃度金属微粒子分散液の製造方法」という名称で、有機酸の存在下で有機金属塩を還元することにより、金属微粒子分散液を製造する方法に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明である金属微粒子分散液の製造方法は、有機金属塩を炭素数10以下の有機酸が有機金属塩と等モル以上含有された溶媒に溶解させて、金属換算濃度が少なくとも1質量%となるように調製された有機金属塩溶液をジオール又はヒドラジン又はヒドロキシルアミンで還元することを特徴としている。
上記製造方法によれば、高濃度の有機金属塩溶液が生成されるとともに、還元剤により、この有機金属塩溶液に対し強い還元作用が発揮される。また、還元後に金属イオンが残留し難いという作用を有する。したがって、高濃度の金属微粒子分散液を容易に製造することができる。
【0005】
特許文献2には、「金属ナノ粒子及び金属ナノ粒子分散液の製造方法」という名称で、高価な設備を必要とせずに高濃度の金属ナノ粒子分散液を簡便且つ安価に連続して得ることのできる金属ナノ粒子及び金属ナノ粒子分散液の製造方法に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明である金属ナノ粒子及び金属ナノ粒子分散液の製造方法は、少なくとも1種の金属イオンと有機分子からなる保護剤が混合された溶液を溶媒下で還元するとともに、有機分子で保護された金属ナノ粒子集合体を沈降させて回収するものである。
上記製造方法によれば、生成された金属ナノ粒子は有機分子で保護されているため、溶媒に対する親和性が低下して集合体となって沈降するという作用を有する。これにより、金属ナノ粒子集合体を連続して回収することができる。
【0006】
特許文献3には、「金属コロイド溶液の製造方法」という名称で、均一な粒子径を有する金属コロイド微粒子が単分散した溶液を容易に製造可能な方法に関する発明が開示されている。
特許文献3に開示された発明である金属コロイド溶液の製造方法は、標準水素電極電位が−0.8〜+1.2eVの範囲にある金属塩、安定化剤及び溶媒を混合して調製した金属コロイド溶液調製用母液を、10〜95℃の温度に調整し、さらに、標準水素電極電位が−0.2〜+1.5eVの範囲にあり、かつ上記金属塩を構成する金属よりも標準水素電極電位が高い金属塩を添加するとともに、還元剤を用いてこれら2種類の金属塩を還元することを特徴としている。
このような製造方法によれば、標準水素電極電位が−0.8〜+1.5eVの範囲にある金属からなる核微粒子の表面に、この核微粒子よりも標準水素電極電位が高く、かつ標準水素電極電位が−0.8〜+1.2eVの範囲にある金属が析出した複合金属微粒子が分散したコロイド溶液が生成される。そして、このコロイド溶液中には、粒径分布が狭く、大きさが揃った金属コロイド微粒子が単分散している。すなわち、本製造方法によれば、均一な粒子径を有する金属コロイド微粒子が単分散した溶液を製造することが可能である。
【0007】
【特許文献1】特開2004−232012号公報
【特許文献2】特開2005−220435号公報
【特許文献3】特開2002−180110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の従来技術である特許文献1に開示された発明においては、還元剤としてジオールを用いた場合、反応させる際の温度を100℃以上にしなければならず、そのための設備を必要とする。また、ヒドラジンやヒドロキシルアミンは刺激臭を有するため、取扱いが容易でないという課題があった。
【0009】
また、特許文献2及び特許文献3に開示された発明においては、水素化ホウ素ナトリウムを還元剤として利用するため、夾雑物が塩となる。この場合、脱塩操作を行うための設備が必要となり、製造コストが高くなるという課題があった。
【0010】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、安全かつ安価に金属ナノ粒子の懸濁液を製造し、この懸濁液から夾雑物を効率よく除去して高純度の金属ナノ粒子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である金属ナノ粒子の製造方法は、金属イオンに還元剤を反応させて金属ナノ粒子を製造する方法において、金属イオンの標準酸化還元電位は0V以上であり、還元剤は一般式(1)で示されるモノヒドロシラン化合物であることを特徴とするものである。
【0012】
【化1】

(R、R、Rは各々独立の有機基であり、炭素数の合計は12以下である。)
【0013】
このような製造方法によれば、標準酸化還元電位が0Vよりも小さいヒドロシラン化合物が金属イオンを還元し、金属ナノ粒子の懸濁液を生成するという作用を有する。なお、ヒドロシラン化合物はほとんど無臭であり、刺激臭がないため、安全である。また、金属イオンが還元される際に、沸点の低い有機ケイ素化合物が生成されるという作用を有する。さらに、還元剤として使用される上記モノヒドロシラン化合物は蒸発し易いという特性を有する。従って、懸濁液中に残留する有機ケイ素化合物や余剰還元剤などの夾雑物は、蒸発によって容易に除去される。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の金属ナノ粒子の製造方法において、モノヒドロシラン化合物に含まれる有機基は、無置換のアルキル基であることを特徴とするものである。
無置換のアルキル基を有機基として含むモノヒドロシラン化合物は製造性及び取扱い性に優れている。従って、このようなモノヒドロシラン化合物を還元剤として使用する上記製造方法によれば、還元剤の調達が容易であるとともに、製造工程における作業効率が向上する。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の金属ナノ粒子の製造方法において、金属イオンは金属塩からの電離によって生成され、この金属塩から金属イオンともに電離する陰イオンは、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするものである。
このような製造方法においては、金属イオンが還元される際に、加水分解し難く、空気中の湿気に対して強いケイ素化合物が生成されるという作用を有する。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明の請求項1に記載の金属ナノ粒子の製造方法によれば、還元剤の取扱いが容易であるため、安全かつ効率的に製造作業を行うことができる。また、有機ケイ素化合物や余剰還元剤などの夾雑物を蒸発により容易に除去することができる。従って、懸濁液中の金属ナノ粒子の純度を効率よく高めることができる。
【0017】
本発明の請求項2に記載の金属ナノ粒子の製造方法においては、材料コスト及び製造コストの削減を図ることが可能である。
【0018】
本発明の請求項3に記載の金属ナノ粒子の製造方法においては、製造環境を無水条件に設定する必要がないため、乾燥設備の設置等による余分な設備費用が発生しない。従って、金属ナノ粒子を安価に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の最良の実施の形態に係る金属ナノ粒子の製造方法の実施例について説明する。
【実施例】
【0020】
本実施例の金属ナノ粒子の製造方法は、ヒドロシラン化合物によって金属イオンを溶液中で還元し、金属ナノ粒子の懸濁液を製造することを特徴とする。
ヒドロシラン化合物は、ケイ素原子(Si)の有する4つの結合手のうち、少なくとも1つの結合手に水素原子(H)が直接結合したものであり、この水素原子の数によって区別され、それぞれモノヒドロシラン(Hが1つ)、ジヒドロシラン(Hが2つ)、トリヒドロシラン(Hが3つ)と呼ばれている。そして、ヒドロシラン化合物はほとんど無臭であり、刺激臭を伴わないため、取扱いが容易である。従って、ヒドロシラン化合物を還元剤として用いることによれば、金属ナノ粒子を安全かつ効率よく製造することができる。
このように、上記3種類のヒドロシラン化合物はいずれも還元剤として優れた特性を有している。しかし、ジヒドロシラン化合物及びトリヒドロシラン化合物を還元剤として使用する場合、モノヒドロシラン化合物を還元剤として使用する場合と比べると、金属ナノ粒子と同時に生成されるケイ素化合物が蒸発し難いものとなる。従って、本願発明の金属ナノ粒子の製造に用いる還元剤としてはモノヒドロシラン化合物の方がより好ましい。なお、本実施例では、特に、以下の一般式(1)で示されるモノヒドロシラン化合物を用いている。
【0021】
【化1】

(R、R、Rは各々独立の有機基であり、炭素数の合計は12以下である。)
【0022】
一般式(1)において、モノヒドロシラン化合物の製造性及び取扱い性が容易であるという理由から、有機基は無置換のアルキル基を有するものであることが望ましい。この場合、還元剤の調達が容易となるとともに、製造工程における作業効率が向上する。従って、材料コスト及び製造コストの削減を図ることができる。
なお、アルキル基とは、炭素原子が1列に結合した、いわゆる脂肪族炭化水素から1個の水素原子(H)を取り去った原子団の総称のことである。このようなアルキル基としては、メチル基(−CH)、エチル基(−C)、プロピル基(−C)、ブチル基(−C)、ペンチル基(−C11)、ヘキシル基(−C13)、フェニル基(−C)、シクロヘキシル基(−C11)などが例示される。なお、ケイ素化合物自体の安定性を損なわないものであれば、これらの有機基以外にも、例えば、ハロゲン原子(周期表の17族のフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)の4元素を含む化合物の総称)、アルコキシ基(アルコールの水酸基から水素を取り除いた官能基)、シアノ基(−CN)等の各種官能基やヘテロ原子(水素と炭素以外の原子)又は不飽和結合を有するものを用いても良い。また、ハロゲン原子で置換された、フルオロメチル基(−CHF)、クロロメチル基(−CHCl)、2−クロロエチル基(−CCl)等のアルキル基やアルコキシ基で置換された、メトキシメチル基(−CHOCH)、メトキシエチル基(−CHCHOCH)、2−エトキシエチル基(−COC)等のアルキル基を用いることもできる。
【0023】
なお、合成の容易さ及び金属イオンとの反応生成物の沸点の低さ(蒸発除去の容易さ)等の理由から、一般式(1)のR、R、Rの炭素数は1乃至8よりも1乃至4である方がさらに望ましい。このようなものとしては、例えば、トリメチルシラン、ジメチルエチルシラン、ジエチルメリルシラン、トリエチルシラン、ビニルジメチルシラン、ジビニルメチルシラン、トリビニルシラン、ジメチルプロピルシラン、ジプロピルメチルシラン、トリプロピルシラン、ジメチルイソプロピルシラン、ジイソプロピルメチルシラン、トリイソプロピルシラン、ブチルジメチルシラン、ジブチルメチルシラン、ブチルジエチルシラン、ジブチルエチルシラン、ブチルジプロピルシラン、ブチルジイソプロピルシラン、ジブチルプロピルシラン、ジブチルイソプロピルシラン、ブチルエチルメチルシラン、ブチルエチルプロピルシラン、ブチルエチルイソプロピルシラン、ブチルメチルイソプロピルシラン、トリブチルシラン、sec−ブチルジメチルシラン、ジsec−ブチルメチルシラン、sec−ブチルジエチルシラン、ジsec−ブチルエチルシラン、sec−ブチルジプロピルシラン、sec−ブチルジイソプロピルシラン、ジsec−ブチルプロピルシラン、ジsec−ブチルイソプロピルシラン、sec−ブチルエチルメチルシラン、sec−ブチルエチルプロピルシラン、sec−ブチルエチルイソプロピルシラン、sec−ブチルメチルイソプロピルシラン、トリsec−ブチルシラン、tert−ブチルジメチルシラン、ジtert−ブチルメチルシラン、tert−ブチルジエチルシラン、ジtert−ブチルエチルシラン、tert−ブチルジプロピルシラン、tert−ブチルジイソプロピルシラン、ジtert−ブチルプロピルシラン、ジtert−ブチルイソプロピルシラン、tert−ブチルエチルメチルシラン、tert−ブチルエチルプロピルシラン、tert−ブチルエチルイソプロピルシラン、tert−ブチルメチルイソプロピルシラン、トリtert−ブチルシランなどがある。なお、これらのモノヒドロシラン化合物の標準酸化還元電位はおよそ−0.4〜0Vである。したがって、これらのモノヒドロシラン化合物によって還元されるべき金属イオンは標準酸化還元電位が0V以上のものでなければならない。なお、金属塩からの電離によって生成される金属イオンの標準酸化還元電位は、サイクリックボルタンメトリー等の測定法により測定することができる。
【0024】
金属イオンとは、単数あるいは複数の電子を失った金属原子のことであり、一般に、金属と酸の反応等の化学的な方法や電気分解等の電気的な方法あるいは金属塩を水若しくは有機溶媒に溶解させる方法によって生成される。本実施例においては、金属イオンの供給源として塩化金(AuCl)等の金塩、塩化白金酸(HPtCl・6HO)等の白金塩、酢酸パラジウム(Pd(CHCOO))、塩化パラジウム(PdCl)等のパラジウム塩、酢酸銀(CHCOOAg)、トリフルオロ酢酸銀(CFCOOAg)等の銀塩等を用いている。同様に、塩化白金(IV)(PtCl)の白金(IV)塩、塩化銅(I)(CuCl)、酢酸銅(Cu(CHCOO))等の銅塩等を用いることも可能である。
これらの金属塩は溶液中で金属イオンと陰イオンに電離する。そして、金属イオンとして、パラジウムイオン(Pd2+)、白金イオン(Pt2+、Pt4+)、金イオン(Au3+)、銅イオン(Cu、Cu2+)等が生成される。なお、本願発明に用いる金属イオンは、既に述べたように標準酸化還元電位が0V以上であり、モノヒドロシラン化合物と還元反応するものであればよく、その元素および価数は本実施例に示す場合に限定されるものではない。
【0025】
上記金属塩から電離する陰イオンとしては、例えば、水酸化物イオン(OH)、酢酸イオン(CHCOO)、硝酸イオン(NO)、トリフルオロ酢酸イオン(CFCOO)、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、フッ化物イオン(F)などがあげられる。これらの陰イオンは、多くの場合、モノヒドロシラン化合物と反応して新たな化合物を形成する。例えば、酢酸イオン(CHCOO)と金属イオンの溶液にトリメチルシラン((CHSiH)を加えると、酢酸トリメチルシリル((CHSiCHCOO)が生成される。また、塩化物イオン(Cl)を含む溶液の場合は、クロロシラン化合物が生成される。なお、酢酸トリメチルシリル((CHSiCHCOO)及びクロロシラン化合物は沸点が低く、蒸発し易いという特性を有している。また、陰イオンとしてトリフルオロ酢酸イオン(CFCOO)、臭化物イオン(Br)及びヨウ化物イオン(I)を用いた場合にも、やはり蒸発し易い特性を有する化合物が生成される。しかし、臭化物イオン(Br)若しくはヨウ化物イオン(I)とモノヒドロシラン化合物との反応によって生成されるブロモシラン又はヨードシランは加水分解性が強いため、それらの取扱いは無水状態で行う必要がある。すなわち、製造工程における取扱い等の作業性を考慮すると、酢酸イオン(CHCOO)、トリフルオロ酢酸イオン(CFCOO)又は塩化物イオン(Cl)、フッ化物イオン(F)を陰イオンとして含む金属塩を使用することが望ましい。この場合、モノヒドロシラン化合物と陰イオンとの反応により生成されるケイ素化合物は比較的安定なものとなるため、製造環境を厳密な無水条件に設定する必要がない。従って、乾燥設備の設置等による余分な設備費用は発生しない。
【0026】
なお、金属イオンとモノヒドロシラン化合物を反応させる際には、溶媒や添加剤等を共存させても良い。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、シクロへキサノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ビニルベンゼン、フェニルアセチレン、トラン等の炭化水素類、フルオロベンゼンクロロベンゼン、クロロホルム、ジクロロメタン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トリエチルアミン、アニリン、ピリジン等のアミン類、アセトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、安息香酸メチル、γ―ブチロラクトン、エチレンカーボート、プロピレンカーボネート等のエステル類等、N−メチル−2−ピロリドン、アセトアニリド等のアミド類、ベンゾニトリル、4−シアノ−4’−ペンチルビフェニル、4−シアノ−4’−ペンチルオキシビフェニル、等のニトリル化合物類、ニトロベンゼン等のニトロ化合物類、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール等のチオール類および水等の溶媒から単独あるいは混合して用いることができる。また、カルボン酸塩、アルキルスルホン酸塩等の界面活性剤類、ポリ(N−ビニルピロリドン)、オレイン酸等のカルボン酸類等の酸類、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリ(ジメチルシロキサン)等の高分子類を添加しても良い。なお、本願発明で使用可能な溶媒は本実施例に示すものに限定されるものではない。すなわち、モノヒドロシラン化合物による金属イオンの還元反応を阻害しないものであれば、上記溶媒以外の溶媒であっても良い。
【0027】
金属イオンとモノヒドロシラン化合物を反応させる際に溶媒を用いる場合、反応温度は、溶媒の還流温度以下であることが望ましい。ただし、これに限定されるものではなく、溶媒の沸点以上とすることもできる。また、金属イオンとモノヒドロシラン化合物とを、溶媒を蒸発させながら反応させても良い。なお、金属イオンとモノヒドロシラン化合物とを反応させる際には、反応を均一に進行させる必要があるため、磁気攪拌子やスリーワンモーター等の攪拌機で溶液を攪拌することが好ましい。また、撹拌機は、得られる金属ナノ粒子の均一性を高めるため、せん断速度が0.5m/秒以上となるように設定することが望ましい。
【0028】
金属イオンとモノヒドロシラン化合物との反応時間は、反応温度や溶媒等により異なるが、反応の終点についてはイオンクロマトグラフィー等で残留する金属イオンを定量することで調べることができる。なお、反応の終点は、生成される金属ナノ粒子と原料の金属イオンとで可視−紫外領域の吸収スペクトルが異なるという現象を利用することによっても調べることができる。
また、金属イオンとモノヒドロシラン化合物を反応させるときの圧力は、特に限定されるものではないが、少なくとも反応に使用する容器の耐圧限界以下で行う必要がある。
【0029】
金属イオンとモノヒドロシラン化合物との反応濃度は特に限定されるものではなく、適宜変更可能である。すなわち、金属ナノ粒子の用途に応じて、懸濁液中の金属含有量が所望の値となるように、溶媒等の添加や濃縮等で反応濃度を調整すると良い。例えば、金属ナノ粒子を液晶に添加する場合には、懸濁液中の金属含有量が100ppm以上10%未満となるように反応濃度を設定し、また、金属ナノ粒子を配線材料として利用する場合には、懸濁液中の金属含有量が5%以上95%未満となるように反応濃度を設定することが望ましい。
なお、金属イオンに対するモノヒドロシラン化合物の添加量が少ない場合には、生成された懸濁液中の金属イオン濃度が低くなるため、本実施例においてはモノヒドロシラン化合物の添加量を金属イオンが完全に金属に還元される理論値の1乃至10倍に設定している。
【0030】
上記方法によって製造した金属ナノ粒子の懸濁液は、還元剤であるモノヒドロシラン化合物に由来するケイ素化合物が含まれている。例えば、酢酸銀(CHCOOAg)とトリエチルシラン((CSiH)の反応では、酢酸トリエチルシリル((CSiCHCOO)が生成される。このように、還元反応後に生成されるケイ素化合物は、とくに不都合がなければ取り除く必要はないが、一般には金属ナノ粒子の高純度化のため、分離・除去する必要がある。
本実施例で示した方法によって生成されるケイ素化合物は沸点が低く、蒸発し易いという特性を有している。また、還元剤として使用されるモノヒドロシラン化合物自体も蒸発し易い物質である。すなわち、本願発明の金属ナノ粒子の製造方法においては、金属ナノ粒子の懸濁液中に残留する有機ケイ素化合物や余剰還元剤などの夾雑物が蒸発によって容易に除去され得るという作用を有する。
なお、これらの夾雑物を蒸発させる際の条件は、とくに限定されるものではないが、例えば、気圧は1013hPa以下とし、温度は0℃以上150℃以下にすると良い。ただし、金属ナノ粒子を高温に曝すと焼結が進行するため、温度については0℃以上100℃以下とすることがより好ましい。
【0031】
以上説明したように、本実施例の製造方法によれば、金属ナノ粒子を製造する過程でモノヒドロシラン化合物と金属塩の陰イオンの反応によって生成されるケイ素化合物及び懸濁液中に残留する余剰還元剤を蒸発により安全かつ効率よく除去することが可能である。これにより、懸濁液中の金属ナノ粒子の純度を効率よく高めることができる。そして、このように懸濁液中の夾雑物を蒸発によって除去することによれば、高価な設備が不要であるため、設備コストの削減を図ることができる。従って、金属ナノ粒子を安価に製造することが可能である。
【0032】
次に、本願発明について具体的に実施例を挙げて説明する。なお、各実施例においては、金属ナノ粒子の粒径をX線小角散乱法により測定した。また、H−NMRスペクトルの測定により、ケイ素由来の化合物を検出した。
【0033】
(実施例1)
エチレングリコール(HOCHCHOH)10g、オクチルアミン(C17NH)3.0g、酢酸銀(CHCOOAg)1.0gの混合物に攪拌しながらトリエチルシラン((CSiH)0.7gを加えて室温で1時間攪拌することで、褐色の銀ナノ粒子の懸濁液を得た。このとき、銀ナノ粒子の平均粒径は3.5nmであった。
本実施例は、一般式(1)で示されるヒドロシラン化合物に該当するトリエチルシラン((CSiH)を還元剤として使用することで、銀ナノ粒子が生成されたことを示している。
【0034】
(実施例2)
水50gにポリ(N−ビニルピロリドン)2.0g、酢酸銀(CHCOOAg)0.2gを溶解し、攪拌しながらトリエチルシラン((CSiH)0.2gを加えて室温で1時間攪拌することで、黄褐色の銀ナノ粒子の懸濁液を得た。このとき、銀ナノ粒子の平均粒径は7.4nmであった。
本実施例においても、トリエチルシラン((CSiH)を還元剤として使用しており、銀ナノ粒子が確かに生成されている。
【0035】
(実施例3)
トルエン(CCH)10g、オクチルアミン(C17NH)1.5g、酢酸銀(CHCOOAg)0.5gの混合物に攪拌しながらトリエチルシラン((CSiH)0.4gを加えて室温で1時間攪拌することで、褐色の銀ナノ粒子の懸濁液を得た。このとき、銀ナノ粒子の平均粒径は3.8nmであった。さらに、エバポレータで濃縮すると銀ナノ粒子が黒褐色の固体として得られた。得られた固体を重水素化溶媒に分散させてH−NMRスペクトルを測定すると、ケイ素由来の化合物は含まれていないことがわかった。なお、エバポレータとは、固体または液体を減圧して蒸発させる機能をもつ装置である。
本実施例は、トリエチルシラン((CSiH)を還元剤として使用することで、銀ナノ粒子が生成されるとともに、蒸発により夾雑物が除去されたことを示している。
【0036】
(実施例4)
トルエン(CCH)10g、オクタンチオール(CH(CHSH)2g、塩化金(AuCl)0.1gの混合物に攪拌しながらトリエチルシラン((CSiH)0.4gを加えて室温で1時間攪拌することで、暗赤色の金ナノ粒子の懸濁液を得た。このとき、金ナノ粒子の平均粒径は3.8nmであった。
本実施例は、トリエチルシラン((CSiH)を還元剤として使用することで、金ナノ粒子が生成されたことを示している。
【0037】
(実施例5)
水50gにポリ(N−ビニルピロリドン)2.0g、酢酸パラジウム(Pd(CHCOO))0.2gを溶解し、攪拌しながらトリエチルシラン((CSiH)0.4gを加えて室温で1時間攪拌することで、暗褐色のパラジウムナノ粒子の懸濁液を得た。このとき、パラジウムナノ粒子の平均粒径は13.2nmであった。
本実施例は、トリエチルシラン((CSiH)を還元剤として使用することで、パラジウムナノ粒子が生成されたことを示している。
【0038】
(実施例6)
水50gにポリ(N−ビニルピロリドン)2.0g、塩化白金酸(HPtCl・6HO)0.1gを溶解し、攪拌しながらトリエチルシラン((CSiH)0.5gを加えて室温で1時間攪拌することで、黒色の白金ナノ粒子の懸濁液を得た。このとき、白金ナノ粒子の平均粒径は7.9nmであった。
本実施例においても、トリエチルシラン((CSiH)を還元剤として使用しており、白金ナノ粒子が確かに生成されている。
【0039】
(実施例7)
テトラヒドロフラン(CO)44gに4−シアノ−4’−ペンチルビフェニルを41mg、酢酸銀(CHCOOAg)3mg、酢酸パラジウム(Pd(CHCOO))4mg加えて溶解し、トリエチルシラン((CSiH)10mgを加えて攪拌することで、銀/パラジウムナノ粒子の懸濁液を得た。このとき、銀/パラジウムナノ粒子の平均粒径は6.5nmであった。
本実施例は、トリエチルシラン((CSiH)を還元剤として使用することで、銀/パラジウムナノ粒子が生成されたことを示している。
【0040】
(実施例8)
エチレングリコール(HOCHCHOH)10g、オクチルアミン(C17NH)3.0g、酢酸銀(CHCOOAg)1.0gの混合物に攪拌しながらデシルジメチルシラン(C1021(CHSiH)0.7gを加えて室温で1時間攪拌することで、褐色の銀ナノ粒子の懸濁液を得た。このとき、銀ナノ粒子の平均粒径は3.5nmであった。
本実施例は、一般式(1)で示されるヒドロシラン化合物に該当するデシルジメチルシラン(C1021(CHSiH)を還元剤として使用することで、銀ナノ粒子が生成されたことを示している。
【0041】
(比較例1)
エチレングリコール(HOCHCHOH)10g、オクチルアミン(C17NH)3.0g、酢酸銀(CHCOOAg)1.0gの混合物にフェニルシラン(CSiH)0.3gを加えて室温で1時間攪拌したところ、黒色の銀が沈殿するのみで分散液は得られなかった。
フェニルシラン(CSiH)はベンゼン環を有しており、一般式(1)で示されるモノヒドロシラン化合物に該当しない。すなわち、本実施例は、モノヒドロシラン化合物であっても一般式(1)で示される構造を有していないため、銀ナノ粒子が生成されないことを示している。
【0042】
(比較例2)
エチレングリコール(HOCHCHOH)10g、オクチルアミン(C17NH)3.0g、酢酸銀(CHCOOAg)1.0gの混合物にフェニルメチルシラン(CCHSiH)0.5gを加えて室温で1時間攪拌したところ、黒色の銀が沈殿するのみで分散液は得られなかった。
フェニルメチルシラン(CCHSiH)もベンゼン環を有しており、一般式(1)で示されるモノヒドロシラン化合物に該当しないことから、本実施例においても、銀ナノ粒子が生成されないことが分かる。
【0043】
(比較例3)
トルエン(CCH)10g、オクチルアミン(C17NH)1.5g、酢酸銀(CHCOOAg)0.5gの混合物にドデシルジメチルシラン(C1225(CHSiH)0.9gを加えて室温で1時間攪拌することで、褐色の銀ナノ粒子の懸濁液を得た。このとき、銀ナノ粒子の平均粒径は4.5nmであった。さらに、エバポレータで濃縮すると銀ナノ粒子が黒褐色の固体として得られた。得られた固体を重水素化溶媒に分散させてH−NMRスペクトルを測定するとドデシルジメチルシラン(C1225(CHSiH)由来のピークを確認した。
ドデシルジメチルシラン(C1225(CHSiH)は有機基の炭素数の合計が12よりも多いため、蒸発し難いという特性を有する。従って、本実施例に示すように、銀イオンの還元により銀ナノ粒子は生成されるものの、余剰還元剤が蒸発せずに懸濁液中に残留することになる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
請求項1乃至請求項3に記載された発明は、電子部品の配線材料や液晶表示装置等、各種分野で使用される金属ナノ粒子に対して適用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンに還元剤を反応させて金属ナノ粒子を製造する方法において、前記金属イオンの標準酸化還元電位は0V以上であり、前記還元剤は一般式(1)で示されるモノヒドロシラン化合物であることを特徴とする金属ナノ粒子の製造方法。
【化1】

(R、R、Rは各々独立の有機基であり、炭素数の合計は12以下である。)
【請求項2】
前記モノヒドロシラン化合物に含まれる前記有機基は、無置換のアルキル基であることを特徴とする請求項1記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記金属イオンは金属塩からの電離によって生成され、この金属塩から前記金属イオンともに電離する陰イオンは、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属ナノ粒子の製造方法。


【公開番号】特開2009−35781(P2009−35781A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201910(P2007−201910)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、都市エリア産学官連携促進事業の委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(391016082)山口県 (54)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】