説明

金属ナノ粒子集積構造体を利用した圧力検出装置、温度検出装置、圧力検出方法、および温度検出方法

【課題】局所的な領域における圧力あるいは温度の測定を可能にするための装置および方法を提供する。
【解決手段】圧力検出装置100は、光源101と、基板20に固定された金属ナノ粒子集積構造体10と、分光器105と、演算部106とを備える。金属ナノ粒子集積構造体10は、マイクロオーダーのサイズを有するビーズと、そのビーズの表面に固定化された金属ナノ粒子とを含む。圧力によるビーズの変形により、金属ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴による消衰スペクトルのピーク波長が変化する。これを利用して圧力を検出できる。同様に、温度によるビーズの変形により、局在表面プラズモン共鳴による消衰スペクトルのピーク波長が変化するので、これを利用して温度を検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子集積構造体を利用した圧力および温度の検出の手法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロ領域、あるいはナノ領域といった微小領域を対象とした研究が盛んに行なわれている。たとえば非特許文献1では、1μm以下の局所領域における温度を、蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy;FCS)を用いて測定する方法が提案されている。
【0003】
一方、金属ナノ構造体を利用した温度、圧力などの検出方法が提案されている。たとえば特許文献1では、金属ナノ粒子を、クロミック材料となるマトリックスと接触もしくは接近させて、クロモジェニック材料の光学変化を温度あるいは圧力などの外的刺激によって変化させる方法が開示されている。さらに特許文献1では、クロモジェニック材料の光学特性の変化を利用した圧力センサおよび温度センサ等の可能性が言及されている。
【0004】
特許文献2では、導電性表面を有するエラストマー粒子およびその粒子を備える圧力センサが開示されている。複数のエラストマー粒子は、2つの基板の間に挟まれた電極として用いられる。センサに圧力が印加されると、2つの基板が互いに向かって押されることによって電極が変形する。センサに印加される圧力に応じて電極同士の接触領域の大きさが変化する。接触領域の大きさの変化による圧力センサのインピーダンスを検出することでセンサに印加された圧力を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−170932号公報
【特許文献2】特表2010−517019号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"Application of Fluorescence Correlation Spectroscopy to the Measurement of Local Temperature in Solutions under Optical Trapping Condition", Syoji Ito, Takashi Sugiyama, Naoki Toitani, Genki Katayama, and Hiroshi, Miyasaka, J. Phys. Chem. B, Vol. 111, No.9, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された方法では、マトリックスの屈折率の温度による変化が利用される。このため、溶液全体の温度を検出することは可能であるものの局所的な温度を計測することは難しいと考えられる。また、特許文献2の方法は、微小領域での圧力あるいは温度の検出に向けられたものではない。
【0008】
本発明の目的は、局所的な領域における圧力あるいは温度の測定を可能にするための装置および方法を提供し、上記課題の解決に資することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある局面に従う圧力検出装置は、金属ナノ粒子集積構造体と、金属ナノ粒子集積構造体を固定するための基板と、分光器と、検出器とを備える。金属ナノ粒子集積構造体は、外部から印加された圧力によって変形するように構成されたビーズと、ビーズの表面に固定され、局在表面プラズモン共鳴を起こしうる金属ナノ粒子とを含む。分光器は、金属ナノ粒子に誘起された局在表面プラズモン共鳴の消衰スペクトルを測定する。検出器は、分光器によって測定された消衰スペクトルのピーク波長の変化に基づいて、金属ナノ粒子集積構造体に印加された圧力を検出する。
【0010】
消衰スペクトルとは、散乱スペクトルと吸収スペクトルとを足し合わせたものである。
好ましくは、圧力検出装置は、ビーズに印加された圧力によるビーズの変形によって、ビーズの直径以下の領域の圧力の変化を検出する。
【0011】
好ましくは、ビーズの直径以下の領域は、1μm以下の領域である。
好ましくは、圧力検出装置は、金属ナノ粒子集積構造体に白色光を照射する光源をさらに備える。
【0012】
好ましくは、圧力検出装置は、金属ナノ粒子集積構造体に実質的に、金属ナノ粒子集積構造体の局在表面プラズモン共鳴のピークの半値全幅の2倍に対応する、1またはいくつかの領域に係る、単色の光を照射する光源をさらに備える。
【0013】
好ましくは、圧力検出装置は、金属ナノ粒子集積構造体に圧力を印加するとともにプローブとして用いられる光ファイバをさらに備える。
【0014】
本発明の他の局面に従う温度検出装置は、金属ナノ粒子集積構造体と、分光器と、検出器とを備える。金属ナノ粒子集積構造体は、温度によって変形するように構成されたビーズと、ビーズの表面に固定され、局在表面プラズモン共鳴を起こしうる金属ナノ粒子とを含む。分光器は、金属ナノ粒子に誘起された局在表面プラズモン共鳴の消衰スペクトルを測定する。検出器は、分光器によって測定された消衰スペクトルのピーク波長の変化に基づいて、温度を検出する。
【0015】
好ましくは、温度検出装置は、温度によるビーズの変形によって、ビーズの直径以下の領域の温度の変化を検出する。
【0016】
好ましくは、ビーズの直径以下の領域は、1μm以下の領域である。
好ましくは、温度検出装置は、金属ナノ粒子集積構造体に白色光を照射する光源をさらに備える。
【0017】
好ましくは、温度検出装置は、金属ナノ粒子集積構造体に、金属ナノ粒子集積構造体の局在表面プラズモン共鳴のピークの半値全幅の2倍に対応する、1またはいくつかの領域に係る、実質的に単色の光を照射する光源をさらに備える。
【0018】
本発明のさらに他の局面に従う圧力検出方法は、外部から印加された圧力によって変形するように構成されたビーズと、ビーズの表面に固定され、局在表面プラズモン共鳴を起こしうる金属ナノ粒子とを含む金属ナノ粒子集積構造体の消衰スペクトルを測定するステップと、消衰スペクトルのピーク波長の変化に基づいて、金属ナノ粒子集積構造体に印加された圧力を検出するステップとを備える。
【0019】
本発明のさらに他の局面に従う温度検出方法は、温度によって変形するように構成されたビーズと、ビーズの表面に固定され、局在表面プラズモン共鳴を起こしうる金属ナノ粒子とを含む金属ナノ粒子集積構造体の消衰スペクトルを測定するステップと、消衰スペクトルのピーク波長の変化に基づいて、温度を検出するステップとを備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、局所的な領域における圧力あるいは温度の測定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に用いられる金属ナノ粒子集積構造体の模式的構造を示した図である。
【図2】金属ナノ粒子集積構造体の一例の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】基板に固定された金属ナノ粒子集積構造体の模式図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る金属ナノ粒子集積構造体10の消衰スペクトルの測定結果と、局在表面プラズモン共鳴の消衰スペクトルの計算結果とを示した図である。
【図5】局在表面プラズモン共鳴の消衰、散乱および吸収スペクトルを計算するためのモデルを示した図である。
【図6】図5に示された二次元モデルの粒子の個数Nを96に設定した場合における、局在表面プラズモン共鳴の消衰スペクトル、散乱スペクトルおよび吸収スペクトルを計算した結果を示した図である。
【図7】図5に示された二次元モデルの粒子の個数Nを288に設定した場合における、局在表面プラズモン共鳴の消衰スペクトル、散乱スペクトルおよび吸収スペクトルを計算した結果を示した図である。
【図8】図5に示された二次元モデルの粒子の個数Nを576に設定した場合における、局在表面プラズモン共鳴の消衰スペクトル、散乱スペクトルおよび吸収スペクトルを計算した結果を示した図である。
【図9】ビーズが異方的に圧縮された場合の計算モデルを示した図である。
【図10】ビーズが異方的に圧縮された場合(図9)における局在表面プラズモン共鳴の光吸収スペクトルの計算結果を示した図である。
【図11】ビーズが等方的に圧縮された場合の計算モデルを示した図である。
【図12】金属ナノ粒子が固定化されたビーズの三次元モデルを説明するための図である。
【図13】ビーズが等方的に圧縮された場合(図11)における局在表面プラズモン共鳴の光吸収スペクトルの計算結果を示した図である。
【図14】銀ナノ粒子固定化ビーズの三次元モデルを説明するための図である。(a)は、銀ナノ粒子固定化ビーズの電子顕微鏡写真である。(b)は、(a)に示した銀ナノ粒子固定化ビーズの計算モデルを示した図である。
【図15】銀ナノ粒子固定化ビーズの消衰スペクトルの測定結果と計算結果とを対比した図である。
【図16】クラスターおよび銀ナノ粒子の直径を20nmとし(各クラスターを構成する銀ナノ粒子は1個とする)、図14(b)に示した銀ナノ粒子固定化ビーズの直径を390nmから420nmまで10nm刻みで変化させたときの局在プラズモンの消衰スペクトルを計算した結果を示した図である。
【図17】図16に示したスペクトルの最も長波長のピーク(吸収端)および吸収端の付近の波長範囲のスペクトルの拡大図である。
【図18】本発明の第1の実施の形態に係る圧力センサの概略的構成を示したブロック図である。
【図19】第1の実施の形態に係る圧力検出方法を説明したフローチャートである。
【図20】金属ナノ粒子集積構造体に圧力を印加するための方法の1つの例を示した模式図である。
【図21】金属ナノ粒子集積構造体に圧力を印加するための方法の他の例を示した模式図である。
【図22】本発明の第2の実施の形態に係る温度センサの概略的構成を示したブロック図である。
【図23】第2の実施の形態に係る温度検出方法を説明したフローチャートである。
【図24】ポリNイソプロピルアクリルアミド(p−NIPA)のビーズの線膨張率の温度特性を評価した結果を示した図である。
【図25】図17に示されたビーズの直径と局在表面プラズモンの消衰スペクトルの吸収端の波長との関係を表わす関数を計算により求めた結果を示した図である。
【図26】銀ナノ粒子固定化ビーズの三次元モデルを用いた、吸収端の波長に対するビーズの直径および温度の関係を示した図である。
【図27】第2の実施の形態に係る検出装置の具体的構成を示した図である。
【図28】金属ナノ粒子集積構造体を固定する基板を保持するためのホルダの1つの例を示した分解図である。
【図29】図28に示したベース120Aと押さえ部材120Bとによって基板20を保持した状態を示した図である。
【図30】図29に示されたホルダ120の開口部付近の概略を示した拡大図である。
【図31】第3の実施の形態に係る感圧素子の模式的断面図である。
【図32】第4の実施の形態に係る感温素子の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下において、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0023】
本発明およびその実施の形態において、「金属ナノ粒子集積構造体」とは、複数の金属ナノ粒子が集積することによって形成された構造体である。「金属ナノ粒子」とは、ナノメートルのオーダーのサイズを有する金属粒子である。「ナノメートルのオーダー」とは1から数百ナノメートルの範囲を含み、典型的には1〜100nmの範囲であり、好ましくは、1〜50nmの範囲である。
【0024】
本発明およびその実施の形態において、「白色光」との用語は、可視域を含む紫外域〜近赤外域の波長範囲(たとえば200nm〜1100nmの波長範囲)を有する連続光、またはパルス光を意味する。
【0025】
本発明およびその実施の形態において、「単色光」との用語は、金属ナノ粒子集積構造体または金属ナノ構造体の局在表面プラズモン共鳴のピークの半値全幅の2倍に対応する領域内の波長を有する光である。局在表面プラズモン共鳴のピークの半値全幅の2倍に対応する領域の数は1つでもよく、複数でもよい。
【0026】
本発明およびその実施の形態において、「媒質」とは金属ナノ粒子集積構造体の存在する環境を意味する。
【0027】
<金属ナノ粒子集積構造体>
図1は、本発明の実施の形態に用いられる金属ナノ粒子集積構造体の模式的構造を示した図である。図2は、金属ナノ粒子集積構造体の一例の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0028】
図1および図2を参照して、金属ナノ粒子集積構造体10は、ビーズ11および金属ナノ粒子12を有する。金属ナノ粒子12はビーズ11の表面を覆い、かつビーズ11の表面に固定化される。これにより、金属ナノ粒子12の集積構造体が形成される。
【0029】
ビーズの平均粒径は、サブマイクロオーダーあるいはマイクロオーダーであり、たとえば0.1〜100μm、より好ましくは、0.1〜10μmである。
【0030】
ビーズ11は、樹脂粒子である。所望の粒径を有するとともに弾性変形可能な粒子を形成可能であれば、ビーズ11の材料は特に限定されない。圧力によって変形可能なビーズの表面に金属ナノ粒子を固定化することによって、圧力を検出するための感圧素子を形成することができる。同様に、温度によって変形可能なビーズの表面に金属ナノ粒子を固定化することによって、温度を検出するための感温素子を形成することができる。
【0031】
ビーズ11に使用される材料は、たとえばアクリル、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂であるがこれらに限定されない。圧力あるいは熱によって膨張および収縮しうる樹脂によってビーズ11を形成できる。
【0032】
樹脂を微粒子化する方法は、当該分野において使用されうる任意の方法が使用可能であり、たとえば、モノマーキャスティング、懸濁重合、溶融スピンコート、超遠心、超音波などの方法が樹脂の種類に応じて適宜選択される。
【0033】
金属ナノ粒子は、局在表面プラズモン共鳴を起こしうる金属ナノ粒子である。金属ナノ粒子としてたとえば金ナノ粒子が挙げられる。後に詳細に説明するように、金ナノ粒子に可視〜近赤外域の光を照射した場合、金ナノ粒子の表面では局在表面プラズモン共鳴が誘起される。局在表面プラズモン共鳴を起こしうる金属ナノ粒子であれば、金ナノ粒子以外の金属ナノ粒子も本発明に適用できる。そのような金属ナノ粒子の1つの他の例は、たとえば銀ナノ粒子である。この実施の形態では、これら金ナノ粒子および銀ナノ粒子を採用する。
【0034】
金属ナノ粒子の平均粒径は、サブナノオーダー〜ナノオーダー(約2nm〜1000nm)であり、たとえば2〜500nm、好ましくは、2〜100nm、より好ましくは、5〜50nmでありうる。
【0035】
ビーズ11の表面への金属ナノ粒子の固定は、ビーズ11表面に存在する金属ナノ粒子と相互作用し得る部位を介し得る。「相互作用」とは、化学結合、ファンデルワールス力、静電的相互作用、疎水性相互作用および吸着力などをいう。金属ナノ粒子が金ナノ粒子である場合には、金と相互作用し得る部位(基)としては、たとえばチオール基が挙げられるがこれに限定されるものではない。相互作用部位は、たとえばビーズ11の表面に予め形成させてもよく、金コロイドの表面に予め形成させてもよい。
【0036】
金属ナノ粒子をビーズの表面に固定化するための方法として、種々の公知の方法を用いることができる。たとえば金ナノ粒子をビーズの表面に固定化する場合には、ビーズを金ナノ粒子分散液に混合し、その金ナノ粒子分散液を攪拌または静置してもよい。金ナノ粒子分散液は、任意に有機バインダを含んでいてもよい。固定反応温度は、反応期間中に分散液が完全に凍結または蒸発しない温度であれば任意の温度でありうる。好ましくは、固定反応温度は、室温付近(たとえば10〜35℃)である。
【0037】
金ナノ粒子分散液は、市販品を用いてもよく、金イオン(金錯体イオン)含有溶液および還元剤を用いて溶液内還元反応によって製造してもよい。たとえば、塩化金酸溶液にクエン酸を加えてもよい。
【0038】
金属ナノ粒子集積構造体は基板上に固定されることが好ましい。金属ナノ粒子集積構造体が固定されることで、金属ナノ粒子集積構造体に圧力を印加することが容易になる。ただし、金属ナノ粒子集積構造体は媒質(たとえば液体)中に分散してもよい。また、温度を検出する場合にも、金属ナノ粒子集積構造体は基板に固定されてもよく、媒質中に分散してもよい。
【0039】
図3は、基板に固定された金属ナノ粒子集積構造体の模式図である。図3を参照して、基板20は、ガラス板22およびガラス板22の表面に形成されたポリジメチルシロキサン(PDMS)膜21を備える。PDMSは、シリコーンゴムの一種であり、型取りなどの手法によって、マイクロ構造を容易に形成可能である。したがって図3に示すように、金属ナノ粒子集積構造体10の粒径に適した溝構造がPDMS膜21に形成されて、その溝の中に金属ナノ粒子集積構造体10が配置される。
【0040】
また、基板20を、単一のガラス板のように、白色光に対して透明な材料で作成してもよい。好ましくは、基板20に用いられる材料は、たとえばシリコン、石英のように、局在表面プラズモン共鳴に影響を与えないとともに偏光に対して異方性を示さない材料である。単一のガラス板を基板20として用いる場合、たとえばシランカップリング剤を利用してメルカプト基またはアミノ基を導入する。これにより、金属ナノ粒子集積構造体10(ビーズ)が化学的または静電的に基板20上に捕捉される。
【0041】
図4は、本発明の実施の形態に係る金属ナノ粒子集積構造体10の消衰スペクトルの測定結果と、局在表面プラズモン共鳴の消衰スペクトルの計算結果とを示した図である。
【0042】
図4を参照して、「実験」と示されたグラフは、金属ナノ粒子集積構造体の消衰スペクトルの測定結果を示す。この測定結果は、直径6μmのビーズに固定された金ナノ粒子に誘起された局在表面プラズモン共鳴によるものである。このグラフに示されるように、消衰スペクトルのピーク波長は約650nmである。
【0043】
「計算」と示されたグラフは、局在表面プラズモン共鳴の消衰スペクトルの計算結果を示す。図5は、局在表面プラズモン共鳴の消衰、散乱および吸収スペクトルを計算するためのモデルを示した図である。
【0044】
図5を参照して、平面上に円環状に配列されたN個の粒子を計算モデルに用いた。ρは、N個の粒子を円環状に配列することで形成された円の半径であり、ビーズ11の半径に相当する。
【0045】
計算モデルでは、金属ナノ粒子の直径を30nmとし、隣接する2つの金属ナノ粒子の中心間距離を32nmとした。図5は、一例としてN=48に設定したモデルを示しているが、N=96、N=288およびN=576のモデルについて、消衰スペクトルおよび吸収スペクトルを計算した。N=96の場合における円の半径ρは500nmであり、N=288の場合における円の半径ρは1500nmであり、N=576の場合における円の半径ρは3000nmである。
【0046】
この計算モデルを用いて、Maxwell方程式を離散化積分方程式として解くことで、局在表面プラズモン共鳴の消衰スペクトルおよび吸収スペクトルを計算できる。光吸収(Cabs)は、電流J、電場E、および感受率χによって、以下の式(1)に従って表わされる。
【0047】
【数1】

【0048】
消衰スペクトルは、系全体に加わる光の伝播方向の散逸力から換算される。この散逸力は、光散乱および吸収に比例する(T. Iida, H. Ishihara "Nano-Optical Manipulation Using Resonant Radiation Force" Progress in Nano-Electro-Optics VI, M. Ohtsu 編集、Springer, Berlin 2008)。
【0049】
図6は、図5に示された二次元モデルの粒子の個数Nを96に設定した場合における、局在表面プラズモン共鳴の消衰スペクトル、散乱スペクトルおよび吸収スペクトルを計算した結果を示した図である。図7は、図5に示された二次元モデルの粒子の個数Nを288に設定した場合における、局在表面プラズモン共鳴の消衰スペクトル、散乱スペクトルおよび吸収スペクトルを計算した結果を示した図である。図8は、図5に示された二次元モデルの粒子の個数Nを576に設定した場合における、局在表面プラズモン共鳴の消衰スペクトル、散乱スペクトルおよび吸収スペクトルを計算した結果を示した図である。
【0050】
図6〜図8を参照して、消衰スペクトル、吸収スペクトルおよび散乱スペクトルの各々のピークの位置は、ビーズの直径が変化してもほとんど変化しないことが分かる。したがって、消衰スペクトル、吸収スペクトルおよび散乱スペクトルのいずれを検出してもよい。なお、図6〜図8に示した散乱スペクトルは、(消衰)=(吸収)+(散乱)の関係に従って計算されたものである。
【0051】
図4、図6〜図8の計算結果からも分かるように、局在表面プラズモンのスペクトル上のピーク位置は、消衰スペクトル、散乱スペクトル、吸収スペクトルのいずれにおいてもほぼ同じであるので、本発明では、消衰スペクトル、散乱スペクトル、吸収スペクトルのうち、いずれのスペクトルを検出してもよい。
【0052】
金属ナノ粒子は球状セルであると仮定する。応答光電場は、Maxwell方程式の積分形として表現できる。電場Eは以下の式(2)に従って表わされる。
【0053】
【数2】

【0054】
i,jは球状セルの粒子番号である。M,Lは自己相互作用に関連する量である。
個々の金属構造体の内部での感受率および電場分布は平坦であるとする。誘起分極Pi
は以下の式(3)に従って表わされる(O. J. F. Martin, N. B. Piller, Phys. Rev. E 58 3909 (1998))。
【0055】
【数3】

【0056】
個々の球状金属ナノ粒子内での感受率および電場分布は平坦であるとする。上記式(2)および式(3)を連立して、自己無撞着方程式を数値的に解いて得られる応答光電場および誘起分極の関数として、局在表面プラズモン共鳴の消衰、散乱および吸収のスペクトルが求められる。なお、感受率χにはDrudeモデルが適用される。感受率χは以下の式(4)に従って表わされる。
【0057】
【数4】

【0058】
χは背景(非共鳴部分)の感受率を表わし、ωはプラズマエネルギーを表わし、γは非輻射緩和定数を示し、Vはフェルミ面上における電子速度を示す。非輻射緩和定数は励起された電子から光以外(たとえば熱)への緩和を示す値である。また、aは粒子の半径を示す。
【0059】
計算では、ビーズ11および周囲の媒質の屈折率を、水の屈折率に近い1.33とした。また、非共鳴部分の比誘電率を11とした。プラズマエネルギーωpを8.958(eV)とした。非輻射緩和率γを72.3(meV)とした。フェルミ面上での電子速度Vfを0.922(nm・eV)とした。粒子の半径aを30(nm)とした。
【0060】
図4に戻り、N=96、N=288およびN=576のいずれの場合においても、「計算」と示されたグラフにおける消衰スペクトルのピーク波長は、約650nmである。このことは上記理論および計算に基づく結果が実験結果をよく再現していることを示している。
【0061】
また、この計算結果から、粒子間距離が一定であれば、ビーズ11の粒径(すなわち金属ナノ粒子集積構造体10のサイズ)が変化しても、消衰スペクトルのピーク波長がほとんど変化しないことが分かる。一方で、後で述べるように、粒子間距離(粒子密度)が狭まれば長波長シフトが大きくなり、粒子間距離が広がれば長波長シフトが小さくなる。
【0062】
なお、計算結果では、波長650nm付近だけでなく波長500nm付近にも消衰スペクトルのピークが生じているが、実験結果では、波長500nm付近には消衰スペクトルのピークは見られない。この理由は、金ナノ粒子がさまざまな粒子間距離で固定化されることによって、波長500nm付近から650nm付近までの様々な波長での消衰スペクトルのピークが重なりあったためと推測される。
【0063】
図9は、ビーズが異方的に圧縮された場合の計算モデルを示した図である。図9を参照して、ビーズが圧縮される前にはN個の金属ナノ粒子12によって真円が形成される。このモデルでは、N=48とし、真円の半径ρを265nmとし、金属ナノ粒子12の直径を30nmとし、隣接する金属ナノ粒子12の中心間距離は34.7nmとし、それら隣接する金属ナノ粒子12の最短の表面間距離は4.7nmとした。
【0064】
ビーズが圧縮される方向をビーズの短軸方向とし、その短軸方向に垂直な方向をビーズの長軸方向とする。図9においてx方向はビーズの短軸方向を示し、y方向はビーズの長軸方向を示している。ビーズが一方向に圧縮されるモデルでは、ビーズの中心点Oから金属ナノ粒子12までのx方向の長さ(短軸の1/2)を265nmから255nm,245nm,235nmと順に変化させた。なお長軸方向における中心点Oから金属ナノ粒子12までの距離は一定(265nm)である。
【0065】
N個の金属ナノ粒子12に照射される入射光5を直線偏光とした。入射光5の偏光方向は、ビーズの圧縮方向に平行な方向とした。
【0066】
図10は、ビーズが異方的に圧縮された場合(図9)における局在表面プラズモン共鳴の光吸収スペクトルの計算結果を示した図である。図9および図10を参照して、ビーズが圧縮されるにつれて光吸収スペクトルにおけるピーク波長が長波長側にシフトする。
【0067】
図11は、ビーズが等方的に圧縮された場合の計算モデルを示した図である。図11を参照して、N個の金属ナノ粒子12によって真円が形成される。図9に示したモデルと同じく、N=48とし、半径ρ=265nmとし、隣接する金属ナノ粒子12の中心間距離は34.7nmとし、それら隣接する金属ナノ粒子12の最短の表面間距離は4.7nmとした。
【0068】
次に、ビーズが等方的に圧縮されることにより、円の半径ρを265nmから255nm,245nmと順に変化させた。この場合、隣接する2つの金属ナノ粒子12の中心間距離は、34.7nmから33.4nm、32nmへと変化する。また、隣接する2つの金属ナノ粒子12の表面間の最短距離は4.7nmから3.4nm、2nmへと変化する。
【0069】
図12は、金属ナノ粒子が固定化されたビーズの三次元モデルを説明するための図である。図12を参照して、Dbは金属ナノ粒子集積構造体の直径である。Dcは、クラスター12Aの直径である。apはクラスター12Aを構成する銀ナノ粒子(金属ナノ粒子12)の直径である。dpは、クラスター12Aの間隔である。
【0070】
図13は、ビーズが等方的に圧縮された場合(図11)における局在表面プラズモン共鳴の光吸収スペクトルの計算結果を示した図である。図11および図13を参照して、円の半径ρが短くなるにつれて、光吸収スペクトルにおけるピーク波長が長波長側にシフトする。
【0071】
図10および図13から、ビーズが等方的に圧縮された場合およびビーズが異方的に圧縮された場合のいずれにおいても、局在表面プラズモン共鳴の光吸収スペクトルのピーク波長が長波長側にシフトすることが分かる。ビーズは、圧力により変形されるものと限定されず、温度(熱)によっても変形しうる。
【0072】
上記の計算モデルは二次元モデルであるが、より現実の姿に近い三次元モデルを用いて理論解析を行なった結果について次に説明する。なお、以下に説明する三次元モデルでは、銀ナノ粒子が固定化されたビーズを用いている。また、クラスターDDA(離散双極子近似)法による理論解析を実行した。
【0073】
図14は、銀ナノ粒子固定化ビーズの三次元モデルを説明するための図である。図14(a)は、銀ナノ粒子固定化ビーズの電子顕微鏡写真である。図14(b)は、図14(a)に示した銀ナノ粒子固定化ビーズの計算モデルを示した図である。図14を参照して、このモデルでは、銀ナノ粒子の集合体を球体のクラスター12Aとして取り扱う。銀ナノ粒子のビーズの直径は400nmであり、クラスターの直径は8nmである。クラスターの表面間距離は1nmであり、クラスター数は6175である。
【0074】
図15は、銀ナノ粒子固定化ビーズの消衰スペクトルの測定結果と計算結果とを対比した図である。図15を参照して、消衰スペクトルの測定結果(図15において「実験」と示される)では消衰スペクトルのピーク波長が約500nmであった。図14(b)に示したモデルを用いて消衰スペクトルを計算した結果(図15において「計算」と示される)においても消衰スペクトルのピーク波長が約500nmである。したがって、消衰スペクトルを計算した結果は、実験結果とよく一致している。
【0075】
なお、銀ナノ粒子の個数を推定したところ、1個のビーズあたりの銀ナノ粒子の総数は207,478個と見積もられた。これに対して、図14(b)に示した計算モデルでは、1個のビーズあたりの銀ナノ粒子の個数は202,342個と見積もられた。つまり、実際のビーズに固定化された銀ナノ粒子の個数に対する、計算モデルでの銀ナノ粒子の個数の誤差は、約−5136個である。実験結果と計算結果では、スペクトルのピーク強度がほぼ一致しているが、これは、銀ナノ粒子の個数の誤差が小さいことによる。
【0076】
図16は、クラスターおよび銀ナノ粒子の直径を20nmとし(各クラスターを構成する銀ナノ粒子は1個とする)、図14(b)に示した銀ナノ粒子固定化ビーズの直径を390nmから420nmまで10nm刻みで変化させたときの局在プラズモンの消衰スペクトルを計算した結果を示した図である。図17は、図16に示したスペクトルの最も長波長のピーク(吸収端)および吸収端の付近の波長範囲のスペクトルの拡大図である。吸収端は、局在表面プラズモンの集団モードの最も長波長のピークとして定義される。図16および図17を参照して、銀ナノ粒子固定化ビーズの直径が変化することによって、吸収端の波長が変化する。
【0077】
図17において、吸収スペクトルと破線との交点の位置に付された丸印は、吸収端を示している。ビーズの直径が大きくなるにつれて、吸収端の波長は短波長側にシフトする。このことは、ビーズが温度あるいは圧力によって膨張した場合、吸収端の波長は短波長側にシフトすることを表わしている。逆に、ビーズの直径が小さくなるにつれて、吸収端の波長は長波長側にシフトする。このことは、ビーズが温度あるいは圧力によって収縮した場合、吸収端の波長は長波長側にシフトすることを表わしている。図10および図13に示された二次元モデルでの計算結果だけでなく図16および図17に示された三次元モデルでの計算結果からも、ビーズが圧縮された場合に、金属ナノ粒子間距離が小さくなり、局在表面プラズモン共鳴の光吸収スペクトルのピーク波長が長波長側にシフトすることが導かれる。
【0078】
ビーズの直径が390nmから400nmへと変化した場合、吸収端の波長は約20nm短波長側にシフトする。ビーズの直径が400nmから410nmへと変化した場合、および410nmから420nmへと変化した場合、吸収端の波長は約10nm短波長側にシフトする。現行の分光器には、約10nmの波長のシフトを読み取り可能な分解能を有するものがある。たとえば後述するように、分解能が約2.47nmの分光器が存在する。したがって、現行の分光器を利用して、吸収端の波長のシフトを読み取ることができる。
【0079】
本発明では、ビーズの変形による金属ナノ粒子の消衰スペクトルのピーク波長の変化を利用することで、局所的領域における圧力あるいは温度を検出する装置および方法を実現できる。以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお本明細書において、「局所的領域」とは、ビーズの直径以下の領域であり、より好ましくは、1μm以下の領域である。
【0080】
消衰スペクトルは、散乱スペクトルと吸収スペクトルとを足し合わせたものである。したがって消衰スペクトルを測定することは、散乱スペクトルを測定すること、または吸収スペクトルを測定することと同じである。いずれの場合においても局在表面プラズモンのスペクトル上のピーク位置は同じである。なお、散乱スペクトルを測定してもよく、吸収スペクトルを測定してもよい。
【0081】
[実施の形態1]
第1の実施の形態では、局所的領域における圧力を検出するための装置および方法が説明される。
【0082】
図18は、本発明の第1の実施の形態に係る圧力センサの概略的構成を示したブロック図である。図18を参照して、圧力検出装置100は、光源101と、基板20に固定された金属ナノ粒子集積構造体10と、分光器105と、演算部106とを備える。
【0083】
光源101は、たとえば白色光を発する光源であり、たとえばハロゲンランプである。なお、光源101として、レーザ光源を用いることも可能である。ただし白色光源を用いることによって、圧力検出装置100を低コストで実現できる。光源101からの光(たとえば白色光)は、基板20に固定された金属ナノ粒子集積構造体10に照射される。金属ナノ粒子集積構造体10には、異方性圧力あるいは等方性圧力が印加される。金属ナノ粒子集積構造体10に圧力を印加するための方法の例は、後述する。
【0084】
光源101は、実質的に単色の光を発する光源であってもよい。単色光の波長は、金属ナノ粒子集積構造体に誘起される局在表面プラズモン共鳴の吸収端(複数あるピークのうちもっとも長波長側のピーク)の波長に対応する。局在表面プラズモン共鳴の吸収端のピークの半値全幅の2倍以内の領域に単色光の波長が位置すればよい。単色光源には、たとえばレーザ光源を用いてもよい。
【0085】
分光器105は、金属ナノ粒子の局在表面プラズモンによる消衰スペクトルを測定するとともに、その測定結果を示す信号を出力する。分光器105は、紫外域〜近赤外域(たとえば200nm〜1100nmの波長範囲)でスペクトルを測定可能な分光器であることが好ましい。また、ピーク波長の圧力による変化が明瞭に観測できるように、分光器105の波長分解能は、より小さいほど好ましい。たとえば分光器105の波長分解能は、10nm以下、5nm以下、2nm以下、または1nm以下であるが、これに限定されない。
【0086】
演算部106は、たとえばマイクロコンピュータ,パーソナルコンピュータ等によって実現される。演算部106は、分光器105からの信号(たとえば分光器105で検出された光の強度を示す信号)を受けて消衰スペクトルのピーク波長を検出する。ピーク波長を検出する方法としては、公知の種々の方法を利用できるのでここでは詳細な説明を繰り返さない。演算部106は、そのピーク波長に基づいて圧力を検出するとともに、その検出された圧力の値を示す信号を出力する。
【0087】
図18に示した構成では、基板20の上方に光源101が配置され、基板20の下方に分光器105が配置されているが、光源101と分光器105との配置が図18に示した配置と逆であってもよい。
【0088】
また、図18には示されていないが、光源101からの白色光を金属ナノ粒子集積構造体10に導くための光学部品(たとえばミラー、レンズ、光ファイバなど)が追加的に用いられてもよい。図27のように、同じく、金属ナノ粒子集積構造体10からの反射光を分光器に導くための光学部品(光ファイバなど)が追加的に用いられてもよい。
【0089】
この実施の形態では、たとえば金ナノ粒子をビーズに固定化した構造体を金属ナノ粒子集積構造体として用いる。金ナノ粒子は、たとえば以下の方法によってビーズに固定化される。まず、金ナノ粒子分散液およびビーズをバインダ液中に投入する。バインダ液は、たとえばアルキルチオールの水またはエタノール溶液である。この溶液を室温中で攪拌する。溶液の色は当初は赤色であるが、攪拌するにつれて透明(無色)に変化する。溶液が透明になった後も、所定の時間、攪拌を続ける。これにより、金ナノ粒子集積構造体が生成される。なお、金ナノ粒子に代えて銀ナノ粒子をビーズに固定化した構造体を金属ナノ粒子集積構造体として用いてもよい。
【0090】
図19は、第1の実施の形態に係る圧力検出方法を説明したフローチャートである。図18および図19を参照して、ステップS1において、光源101からの光(白色光あるいは単色光)を検出対象に照射する。ステップS2において、分光器105が、金属ナノ粒子に誘起された局在表面プラズモン共鳴の消衰スペクトルを測定する。
【0091】
ステップS3において、演算部106は、消衰スペクトルのピーク波長から、圧力値を算出する。これによって金ナノ粒子集積構造体に印加された圧力が測定される。
【0092】
たとえば予備的実験によって、ビーズ粒子に印加された圧力と金ナノ粒子の消衰スペクトルのピーク波長との関係が測定される。演算部106は、この関係を、たとえばテーブルとして予め記憶する。演算部106は、分光器105によって測定されたピーク波長と、予め記憶した圧力−ピーク波長の関係とに基づいて、ビーズ粒子に印加された圧力の値を算出する。予備的実験の結果に基づいて、ピーク波長から圧力値を導くための関数を決定し、演算部106は、その関数と、分光器105によって測定されたピーク波長とによって圧力値を算出してもよい。
【0093】
図20は、金属ナノ粒子集積構造体に圧力を印加するための方法の1つの例を示した模式図である。図20を参照して、金属ナノ粒子集積構造体10は基板20に固定されている。針30の先端を金属ナノ粒子集積構造体10に押し当てることで金属ナノ粒子集積構造体10(ビーズ11)が圧縮される。この場合、ビーズ11は異方性圧縮を受けることになる。
【0094】
針30は、たとえば金属製の針であってもよい。好ましくは、針30には、先端が細く加工された光ファイバを用いる。当該光ファイバは、探針として用いられて、金属ナノ粒子集積構造体10を圧縮するとともに光を伝播する。したがって、光ファイバを通じて金属ナノ粒子集積構造体10に照射する、あるいは分光器へと光を導くことができる。
【0095】
図21は、金属ナノ粒子集積構造体に圧力を印加するための方法の他の例を示した模式図である。図21を参照して、媒質32は水などの液体状の媒体であり、透明のプレート34、36(たとえばガラス基板)に挟まれる。金属ナノ粒子集積構造体10および基板20は、媒質32の中に存在する。基板20は、プレート36によって支持される。プレート34に圧力を印加した場合、液体状の媒質32を介して金属ナノ粒子集積構造体10に圧力が印加される。これにより金属ナノ粒子集積構造体10(ビーズ11)が圧縮される。この場合、ビーズ11は実質的には等方性圧縮を受ける。なお、金属ナノ粒子集積構造体10にはたとえば白色光が照射されるが、単色光が照射されてもよい。
【0096】
このように第1の実施の形態によれば、圧力検出装置100は、金属ナノ粒子集積構造体10の圧縮による、金属ナノ粒子集積構造体10の消衰スペクトルのピーク波長の変化を測定し、そのピーク波長の変化に基づいて圧力を検出する。金属ナノ粒子集積構造体10のサイズ(ビーズの粒径)をサブマイクロオーダーからマイクロオーダー(たとえば0.1〜10μmの範囲)に設定することで、マイクロ領域あるいはナノ領域といった局所的領域における圧力を検出することが可能になる。
【0097】
さらに第1の実施の形態によれば、光を用いることで、金属ナノ粒子集積構造体10に対して非接触で金属ナノ粒子集積構造体10に印加された圧力を検出することができる。
【0098】
なお、異方性圧縮の場合、圧縮方向に対して平行な偏光を金属ナノ粒子集積構造体に照射した場合には、粒子間距離が偏光の方向(すなわち圧縮方向)に小さくなるために長波長シフトが大きくなる。これに対して圧縮方向に対して垂直な偏光を金属ナノ粒子集積構造体に照射した場合には、偏光の方向での粒子間距離がほとんど変化しないために長波長シフト量が小さくなる。等方性圧縮の場合、いずれの偏光方向に対しても同程度の長波長シフト量となる。したがって、偏光方向を変化させた際に生じる、吸収スペクトル上の局在表面プラズモンの共鳴ピークの位置の変化を観測することによって、異方性圧縮および等方性圧縮の区別、ならびに異方性圧縮の場合の圧縮方向を検出することが可能になる。光の伝播方向は偏光方向に対して垂直であるので、圧縮方向に対して垂直方向の波数ベクトルの成分を有する光を金属ナノ粒子集積構造体に照射すればよい。また、たとえば回転可能なλ/4波長板と回転可能なλ/2波長板とを組み合わせた偏光コントローラのように、偏光方向を任意に変更可能な偏光コントローラを用いて、金属ナノ粒子集積構造体に照射される光の偏光方向を変えてもよい。
【0099】
[実施の形態2]
第2の実施の形態では、局所的領域における温度を検出するための装置および方法が説明される。
【0100】
図22は、本発明の第2の実施の形態に係る温度センサの概略的構成を示したブロック図である。図22を参照して、温度検出装置200は、光源101と、基板20に固定されることで媒質42中に導入される金属ナノ粒子集積構造体10と、分光器105と、演算部106とを備える。
【0101】
媒質42は、温度測定の対象となる物質であり、代表的には液体(たとえば水)である。光源101、分光器105および演算部106については、第1の実施の形態に係る圧力検出装置100の構成と同様であるので以後の説明は繰り返さない。
【0102】
図23は、第2の実施の形態に係る温度検出方法を説明したフローチャートである。図19および図23を参照して、図23に示したフローチャートでは、ステップS3の処理に代えてステップS4の処理が実行される。ステップS4において、演算部106は、金ナノ粒子に誘起された局在表面プラズモンの消衰スペクトルのピーク波長から温度値を算出する。これによって媒質42の温度が測定される。
【0103】
第1の実施の形態と同様に、ピーク波長と媒体の温度との関係が予め求められるとともに、演算部106はこの関係をテーブルまたは関数として記憶する。そして、演算部106は、その関係と、分光器105によって測定されたピーク波長とによって、媒質42の温度値を算出する。
【0104】
この実施の形態では、たとえば金ナノ粒子あるいは銀ナノ粒子をビーズに固定化した構造体を金属ナノ粒子集積構造体として用いる。ビーズとしては、たとえばアクリル系の樹脂からなるビーズ、一例では、ポリNイソプロピルアクリルアミド(p−NIPA)のゲル状マイクロ粒子を用いる。このゲル状マイクロ粒子の直径と温度との関係は、たとえば、非特許文献(S. Ito et al., Langmuir, 15, 4289 (1999)およびG. Romeo et al., Adv. Matt. 22, 3441 (2010))を参照して決定することができる。
【0105】
図24は、p−NIPAのビーズの線膨張率の温度特性を評価した結果を示した図である。図24を参照して、グラフの縦軸はビーズの線膨張率を示し、グラフの横軸は温度を示す。温度が25℃のときのビーズの直径を1としたときのビーズの線膨張率が示されるが、約25℃から約27度℃までの範囲において、線膨張率は温度に対してほぼ線形で低下する。
【0106】
図25は、図17に示されたビーズの直径と局在表面プラズモンの消衰スペクトルの吸収端の波長との関係を表わす関数を計算により求めた結果を示した図である。図25を参照して、グラフの縦軸は吸収端の波長を示し、グラフの横軸はビーズの直径を示す。吸収端の波長をy(nm)、ビーズの直径をx(nm)とすると、吸収端の波長とビーズの直径とは、y=−8.3333×10−04+1.0250×10+00−4.2117×10+02x+5.8390×10+04との式で近似できる。
【0107】
図26は、銀ナノ粒子固定化ビーズの三次元モデルを用いた、吸収端の波長に対するビーズの直径および温度の関係を示した図である。なお、図26は、図24および図25に示された計算結果に基づくものである。図26を参照して、ビーズ直径が小さくなるにつれて吸収端の波長は、長波長側にほぼ線形にシフトする。また、約25.0℃〜約27.0℃の温度範囲内において、温度が高くなるにつれて吸収端の波長が長波長側にほぼ線形にシフトする。温度と吸収端の波長との間の相関曲線に付されたエラーバー(横軸方向に伸びるエラーバー)は、分光器(後述)の分解能(2.47nm)を示す。図26に示した結果から、常温領域(図26の例では約25.0℃〜約27.0℃)で0.1℃程度の温度分解能を有する検出装置を実現できることが分かる。この実施の形態によれば、たとえば生体分子あるいは細胞の温度測定といった、常温の環境下に存在する微小構造体の温度測定が可能となる。
【0108】
図27は、第2の実施の形態に係る検出装置の具体的構成を示した図である。図27を参照して、光源101からの光は光プローブ107によって基板上の金属ナノ粒子集積構造体に照射される。金属ナノ粒子集積構造体からの反射光は光プローブ107によって分光器105へと導かれる。演算部106は、パーソナルコンピュータによって実現される。パーソナルコンピュータは分光器105からの信号を処理する。分光器105は、ポータブルタイプの分光器である。たとえばOcean Optics.Incの製品USB4000を分光器105として用いることができる。この分光器の波長分解能は、〜0.3−10.0nm(グレーティングの選択に依存)であり、典型的な値として2.47nmである。
【0109】
図28は、金属ナノ粒子集積構造体を固定する基板を保持するためのホルダの1つの例を示した分解図である。図28を参照して、ホルダ120は、ベース120Aと、押さえ部材120Bとを備える。開口部121Aおよび凹部122Aがベース120Aに形成される。開口部121Bおよび凸部122Bが押さえ部材120Bに形成される。ベース120Aと、押さえ部材120Bとは、金属(たとえばステンレスなど)によって形成される。このホルダは金属製であり熱伝導率が高いため、ホルダを加熱したり冷却したりすることで、たとえば、液体中の金属ナノ粒子集積構造体の近傍の温度を上げたり下げたりすることができる。
【0110】
図29は、図28に示したベース120Aと押さえ部材120Bとによって基板20を保持した状態を示した図である。図30は、図29に示されたホルダ120の開口部付近の概略を示した拡大図である。図29および図30を参照して、基板20はベース120Aの開口部121Aに装着される。カバーガラス24は、押さえ部材120Bの開口部121Bに装着される。カバーガラス24と基板20との間の隙間に、金属ナノ粒子集積構造体および媒質32(たとえば液体)が導入される。媒質32の漏出を防ぐために、カバーガラス24と基板20との間にパッキン123が設けられる。押さえ部材120Bの凸部122Bがベース120Aの凹部122Aに挿入される。凸部122Bの先端には磁石124が設置される。磁石124とベース120Aとが引き寄せあうことによって押さえ部材120Bが固定される。
【0111】
実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の作用によって、マイクロ領域あるいはナノ領域といった局所的領域における温度を検出することが可能になる。
【0112】
[実施の形態3]
第3の実施の形態では、金属ナノ粒子集積構造体を用いた感圧素子が説明される。
【0113】
図31は、第3の実施の形態に係る感圧素子の模式的断面図である。図31を参照して、感圧素子150は、基板20の上に配列された複数の金属ナノ粒子集積構造体10と、圧力が印加されるプレート34と、基板20とプレート34との間に存在する媒質32とを備える。複数の金属ナノ粒子集積構造体10は、圧力により変形可能なビーズ11およびそのビーズの表面に固定された複数の金属ナノ粒子12を含む。媒質32は、たとえば液体であり、たとえば水、アルコール、液晶等である。基板20およびプレート34は、透明であり、かつ、印加される圧力に対して適度の強度を有する材質によって形成される。たとえば基板20およびプレート34は、ガラス板である。
【0114】
感圧素子150にはたとえば白色光(単色光でもよい)が照射される。プレート34に圧力を印加すると、金属ナノ粒子集積構造体10(金属ナノ粒子12)の吸収スペクトルのピーク波長が変化するので、感圧素子150の色が変化する。
【0115】
感圧素子150は、たとえば表示装置に利用できる。たとえば、マトリクス状に配置した複数の画素の各々を感圧素子150によって構成する。たとえばピエゾ素子などの手段によって、画素(感圧素子150)に圧力が印加される。これにより、画素に圧力が印加されることで、その画素に含まれる金属ナノ粒子集積構造体の吸収スペクトルのピーク波長が変化する。すなわち画素の色が変化する。
【0116】
あるいは感圧素子150をタッチパネルに利用することができる。たとえば感圧素子150を透過した光をフィルタなどの波長選択手段に通過させる。波長選択手段による選択波長の範囲は、金属ナノ粒子集積構造体の吸収スペクトルのピーク波長に基づいて適切に定められる(たとえば、ピーク波長を含むように波長選択手段による選択波長の範囲が定められる)。波長選択手段を透過した光の強度をしきい値と比較することによって、圧力が印加されたかどうかを検出できる。
【0117】
このように実施の形態3によれば、金属ナノ粒子集積構造体を用いた感圧素子を実現できる。
【0118】
[実施の形態4]
第4の実施の形態では、金属ナノ粒子集積構造体を用いた感温素子が説明される。
【0119】
図32は、第4の実施の形態に係る感温素子の模式的断面図である。図32を参照して、感温素子250は、基板20の上に配列された複数の金属ナノ粒子集積構造体10を備える。複数の金属ナノ粒子集積構造体10は、温度により変形可能なビーズ11およびそのビーズの表面に固定された複数の金属ナノ粒子12を含む。媒質42は、たとえば、液体であり、たとえば水、アルコール、液晶等である。基板20およびプレート44は、透明な材質によって形成され、たとえばガラス板である。
【0120】
なお金属ナノ粒子集積構造体10が温度により変形可能であればよいので、媒質42は液体に限定されるものでなく、気体でもよい。
【0121】
第3の実施の形態に係る感圧素子と同様に、感温素子250には、たとえば白色光(単色光でもよい)が照射される。媒質42の温度が高くなる(あるいは低くなる)ことでビーズ11が収縮する。これにより金属ナノ粒子12の吸収スペクトルのピーク波長が変化するので、感温素子250の色が変化する。感温素子250の色を検出することで媒質42の温度を検出できる。
【0122】
このように実施の形態4によれば、金属ナノ粒子集積構造体を用いた感温素子を実現できる。
【0123】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内で全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0124】
5 入射光、10 金属ナノ粒子集積構造体、11 ビーズ、12 金属ナノ粒子、12A クラスター、20 基板、21 PDMS膜、22 ガラス板、24 カバーガラス、30 針、32,42 媒質、34,36,44 プレート、100 圧力検出装置、101 光源、105 分光器、106 演算部、107 光プローブ、120 ホルダ、120A ベース、120B 押さえ部材、121A,121B 開口部、122A 凹部、122B 凸部、123 パッキン、124 磁石、150 感圧素子、200 温度検出装置、250 感温素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から印加された圧力によって変形するように構成されたビーズと、前記ビーズの表面に固定され、局在表面プラズモン共鳴を起こしうる金属ナノ粒子とを含む金属ナノ粒子集積構造体と、
前記金属ナノ粒子集積構造体を固定するための基板と、
前記金属ナノ粒子に誘起された局在表面プラズモン共鳴の消衰スペクトルを測定する分光器と、
前記分光器によって測定された前記消衰スペクトルのピーク波長の変化に基づいて、前記金属ナノ粒子集積構造体に印加された圧力を検出する検出器とを備える、圧力検出装置。
【請求項2】
前記ビーズに印加された圧力による前記ビーズの変形によって、前記ビーズの直径以下の領域の圧力の変化を検出する、請求項1に記載の圧力検出装置。
【請求項3】
前記ビーズの直径以下の領域は1μm以下の領域である、請求項2に記載の圧力検出装置。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子集積構造体に白色光を照射する光源をさらに備える、請求項1に記載の圧力検出装置。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子集積構造体に、前記金属ナノ粒子集積構造体の局在表面プラズモン共鳴のピークの半値全幅の2倍に対応する、1またはいくつかの領域に係る、実質的に単色の光を照射する光源をさらに備える、請求項1に記載の圧力検出装置。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子集積構造体に前記圧力を印加するとともにプローブとして用いられる光ファイバをさらに備える、請求項1に記載の圧力検出装置。
【請求項7】
温度によって変形するように構成されたビーズと、前記ビーズの表面に固定され、局在表面プラズモン共鳴を起こしうる金属ナノ粒子とを含む金属ナノ粒子集積構造体と、
前記金属ナノ粒子に誘起された局在表面プラズモン共鳴の消衰スペクトルを測定する分光器と、
前記分光器によって測定された前記消衰スペクトルのピーク波長の変化に基づいて、前記温度を検出する検出器とを備える、温度検出装置。
【請求項8】
温度による前記ビーズの変形によって、前記ビーズの直径以下の領域の温度の変化を検出する、請求項7に記載の温度検出装置。
【請求項9】
前記ビーズの直径以下の領域は1μm以下の領域である、請求項8に記載の温度検出装置。
【請求項10】
前記金属ナノ粒子集積構造体に白色光を照射する光源をさらに備える、請求項7に記載の温度検出装置。
【請求項11】
前記金属ナノ粒子集積構造体に、前記金属ナノ粒子集積構造体の局在表面プラズモン共鳴のピークの半値全幅の2倍に対応する、1またはいくつかの領域に係る、実質的に単色の光を照射する光源をさらに備える、請求項7に記載の温度検出装置。
【請求項12】
外部から印加された圧力によって変形するように構成されたビーズと、前記ビーズの表面に固定され、局在表面プラズモン共鳴を起こしうる金属ナノ粒子とを含む金属ナノ粒子集積構造体の消衰スペクトルを測定するステップと、
前記消衰スペクトルのピーク波長の変化に基づいて、前記金属ナノ粒子集積構造体に印加された前記圧力を検出するステップとを備える、圧力検出方法。
【請求項13】
温度によって変形するように構成されたビーズと、前記ビーズの表面に固定され、局在表面プラズモン共鳴を起こしうる金属ナノ粒子とを含む金属ナノ粒子集積構造体の消衰スペクトルを測定するステップと、
前記消衰スペクトルのピーク波長の変化に基づいて、前記温度を検出するステップとを備える、温度検出方法。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2012−137485(P2012−137485A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−268900(P2011−268900)
【出願日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】