説明

金属ベルト式無段変速機用潤滑油組成物

【課題】金属ベルト式無段変速機に用いた場合に、ベルト−プーリー間の高い金属間摩擦係数を達成できる一方、変速特性にも優れた新規な金属ベルト式無段変速機用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】鉱油系基油及び/又は合成系基油からなる潤滑油基油に、(A)下記一般式(1)で表される少なくとも1種のリン系化合物又はその誘導体を、組成物全量基準でリン元素量として0.005〜0.1質量%、含有してなる金属ベルト式無段変速機用潤滑油組成物。


(式(1)中、R及びRは、それぞれ個別に、炭素数11〜20の直鎖型アルキル基を示し、Rは水素原子または炭素数11〜20の直鎖型アルキル基を示し、X、X及びXは、それぞれ個別に、酸素原子又は硫黄原子を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属ベルト式無段変速機用潤滑油組成物に関する。詳しくは、特定構造のリン系化合物を含有し、ベルト−プーリー間の高い金属間摩擦係数を達成できる一方、変速特性にも優れた新規な金属ベルト式無段変速機用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ベルト式無段変速機は、金属でできたベルトとプーリー間の摩擦によりトルクを伝達し、またプーリーの半径比を変えることにより変速を行うという機構を有する変速機であり、変速によるエネルギー損失が小さいという点から、近年、自動車用変速機として脚光を浴びるようになってきた。この金属ベルト式無段変速機に用いられる潤滑油としては、金属ベルトと金属プーリー間の摩擦特性や潤滑特性に優れることが極めて重視されるほか、トルクを取り出すギヤやそれらを支えるベアリング用の潤滑油としての性能や、変速比を決定するための油圧制御用媒体としての性能、即ち油圧作動油としての性能も要求される。また、この無段変速機が前後進切り替え湿式クラッチやトルクコンバーターのロックアップシステムを備えている場合には、上記の性能に加えて、湿式クラッチの摩擦特性を制御する性能も要求される。このように、金属ベルト式無段変速機用潤滑油には様々な性能が要求されるため、一般には自動変速機油(ATF)が使用されている。しかしながら、ATFを金属ベルト式無段変速機用潤滑油として用いた場合には、油圧作動油としての性能や湿式クラッチの摩擦特性を制御する機能には優れるものの、ベルトとプーリーの金属間摩擦係数が十分ではない。従って、ATFを使用した従来の金属ベルト式無段変速機は伝達トルク容量に限界があり、小型自動車にしか搭載できないという問題があった。
また最近における燃費向上要求の加速に伴い、一段と高いトルク伝達容量が求められる一方、乗心地の面から変速特性(シャダー防止性)を向上させることも求められており、高いトルク伝達容量を維持しながら変速特性を向上させるという相反する要求を両立させることが課題となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属ベルト式無段変速機に用いた場合に、ベルト−プーリー間の高い金属間摩擦係数を達成できる一方、変速特性にも優れた新規な金属ベルト式無段変速機用潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、潤滑油基油に特定の添加剤を特定量含有する潤滑油組成物が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、鉱油系基油及び/又は合成系基油からなる潤滑油基油に、(A)一般式(1)で表される少なくとも1種のリン系化合物又はその誘導体を、組成物全量基準でリン元素量として0.005〜0.1質量%、含有してなることを特徴とする金属ベルト式無段変速機用潤滑油組成物に関する。
【化1】

(式(1)中、R及びRは、それぞれ個別に、炭素数11〜20の直鎖型アルキル基を示し、Rは水素原子または炭素数11〜20の直鎖型アルキル基を示し、X、X及びXは、それぞれ個別に、酸素原子又は硫黄原子を示す。)
【発明の効果】
【0006】
本発明の金属ベルト式無段変速機用潤滑油組成物を用いることにより、ベルト−プーリー間のトルク伝達容量を高く維持するとともに、変速特性を向上することができ、大型自動車への搭載も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の内容をさらに詳細に説明する。
本発明の金属ベルト式無段変速機用潤滑油組成物(以下、本発明の潤滑油組成物という。)に含まれる潤滑油基油としては、特に制限されず、通常の潤滑油に使用される潤滑油基油が使用できる。具体的には、鉱油系潤滑油基油、合成油系潤滑油基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の潤滑油基油を任意の割合で混合した混合物等が使用できる。
【0008】
鉱油系潤滑油基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、GTLワックス(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油等が例示できる。
【0009】
合成油系潤滑油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0010】
潤滑油基油の動粘度は特に制限されないが、潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは50mm2/s以下、より好ましくは40mm2/s以下、更に好ましくは20mm2/s以下、特に好ましくは10mm2/s以下である。潤滑油基油の100℃における動粘度が50mm2/sを超えると、低温粘度特性が不十分となる傾向にある。また、
潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは1mm2/s以上、より好ましくは
2mm2/s以上である。潤滑油基油の100℃における動粘度が1mm2/s未満の場合には、潤滑部位における油膜形成が不十分となって潤滑性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油の蒸発損失量が増加する傾向にある。
【0011】
また、潤滑油基油の粘度指数は特に制限されないが、低温粘度特性の観点から、80以上であることが好ましい。また、低温から高温までの幅広い温度領域において優れた粘度特性が得られる観点から、潤滑油基油の粘度指数は100以上であることがより好ましく、110以上であることが更に好ましく、120以上であることが特に好ましい。
【0012】
また、潤滑油基油の硫黄分含有量は特に制限されないが、0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましく、0.005質量%以下、特に実質的に含有しない(0.001質量%以下)ものが最も好ましい。なお、本発明でいう「硫黄分含有量」とは、JIS K 2541−4「放射線式励起法」(通常、0.01〜5質量%の範囲)又はJIS K 2541−5「ボンベ式質量法、附属書(規定)、誘導結合プラズマ発光法」(通常、0.05質量%以上)に準拠して測定された値を意味する。
【0013】
また、潤滑油基油の全芳香族含有量は特に制限されないが、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。潤滑油基油の全芳香族含有量が30質量%を超えると、酸化安定性が不十分となる傾向にある。なお、本発明でいう「全芳香族含有量」とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、及びこれらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、又はピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物等が含まれる。
【0014】
また、潤滑油基油のNOACK蒸発量については特に制限されないが、好ましくは2〜70質量%であり、より好ましくは5〜60質量%、さらに好ましくは20〜50質量%、特に好ましくは25〜50質量%である。なお、本発明でいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800−95に準拠して測定された蒸発損失量を意味する。
【0015】
本発明の潤滑油組成物における(A)成分は、一般式(1)で表される少なくとも1種のリン系化合物又はその誘導体である。
【0016】
【化2】

【0017】
式(1)中、R及びRは、それぞれ個別に、炭素数11〜20の直鎖型アルキル基を示し、Rは水素原子または炭素数11〜20の直鎖型アルキル基を示し、X、X及びXは、それぞれ個別に、酸素原子又は硫黄原子を示す。
式(1)中、R及びRは、炭素数11〜20の直鎖型アルキル基であるが、好ましくは炭素数12〜18の直鎖型アルキル基である。炭素数11〜20の直鎖型アルキル基としては、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−イコシル基から選ばれる。式(1)中、Rは、水素原子および前記したものと同じ炭素数11〜20の直鎖型アルキル基から選ばれる。式(1)中、X、X及びXは、それぞれ個別に、酸素原子又は硫黄原子、好ましくは酸素原子を示している。本発明の(A)成分としては、R、R及びRが上述のように限られた構造を有する基であることが重要であり、R、R又はRが規定した基以外の場合は、ベルト−プーリー間の金属間摩擦特性が悪化するため好ましくない。
【0018】
また、式(1)で表されるリン系化合物の誘導体としては、具体的には例えば、前記式(1)においてR3が水素原子である水素化亜リン酸エステル(ハイドロジェンホスファイト)又は水素化チオ亜リン酸エステル(ハイドロジェンチオホスファイト)等のリン系化合物に、アンモニアや炭素数1〜8の炭化水素基又は水酸基含有炭化水素基のみを分子中に含有するアミン化合物等の含窒素化合物を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和した塩等が挙げられる。この含窒素化合物としては、具体的には例えば、アンモニア;モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、モノペンチルアミン、モノヘキシルアミン、モノヘプチルアミン、モノオクチルアミン、ジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、ジプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルブチルアミン、プロピルブチルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン等のアルキルアミン(アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良い);モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノブタノールアミン、モノペンタノールアミン、モノヘキサノールアミン、モノヘプタノールアミン、モノオクタノールアミン、モノノナノールアミン、ジメタノールアミン、メタノールエタノールアミン、ジエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン、エタノールプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、メタノールブタノールアミン、エタノールブタノールアミン、プロパノールブタノールアミン、ジブタノールアミン、ジペンタノールアミン、ジヘキサノールアミン、ジヘプタノールアミン、ジオクタノールアミン等のアルカノールアミン(アルカノール基は直鎖状でも分枝状でも良い);及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0019】
(A)成分としては、ベルト−プーリーの金属間摩擦特性がより優れる点から、前記式(1)においてR3が水素である酸性亜リン酸エステル(ハイドロジェンホスファイト)や酸性チオ亜リン酸エステル、又は上述したようなこれらリン系化合物のアミン塩、アルカノールアミン塩等がより好ましく用いられる。(A)成分としては、具体的には、ジ−n−ウンデシルハイドロジェンホスファイト、ジ−n−ドデシルハイドロジェンホスファイト、ジ−n−トリデシルハイドロジェンホスファイト、ジ−n−テトラデシルハイドロジェンホスファイト、ジ−n−ペンタデシルハイドロジェンホスファイト、ジ−n−ヘキサデシルハイドロジェンホスファイト、ジ−n−ヘプタデシルハイドロジェンホスファイト、ジ−n−オクタデシルハイドロジェンホスファイト、ジ−n−ノナデシルハイドロジェンホスファイト、ジ−n−イコシルハイドロジェンホスファイト等のジアルキルハイドロジェンホスファイト;トリ−n−ウンデシルハイドロジェンホスファイト、トリ−n−ドデシルハイドロジェンホスファイト、トリ−n−トリデシルハイドロジェンホスファイト、トリ−n−テトラデシルハイドロジェンホスファイト、トリ−n−ペンタデシルハイドロジェンホスファイト、トリ−n−ヘキサデシルハイドロジェンホスファイト、トリ−n−ヘプタデシルハイドロジェンホスファイト、トリ−n−オクタデシルハイドロジェンホスファイト、トリ−n−ノナデシルハイドロジェンホスファイト、トリ−n−イコシルハイドロジェンホスファイト等のトリアルキルハイドロジェンホスファイト;若しくはこれらの上述したようなアミン塩、アルカノールアミン塩、又はこれらリン系化合物の混合物等が例示できる。
【0020】
本発明の潤滑油組成物において(A)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準でリン元素量として0.005質量%以上であることが必要であり、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.015質量%以上であり、一方、(A)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準でリン元素量として0.1質量%以下であることが必要であり、好ましくは0.08質量%以下、より好ましくは0.07質量%以下である。(A)成分の含有量が潤滑油組成物全量基準でリン元素量として0.005質量%に満たない場合は、ベルト−プーリー間の金属間摩擦係数の向上効果に乏しく、一方、含有量が潤滑油組成物全量基準でリン元素量として0.1質量%を超える場合は、潤滑油組成物の酸化安定性が低下したり、またシール材や樹脂材等の耐久性に悪影響を及ぼすおそれがあるため、それぞれ好ましくない。
【0021】
本発明の潤滑油組成物には、さらにその性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤(または極圧剤)、摩擦調整剤、腐食防止剤、防錆剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0022】
金属系清浄剤としては、アルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネートまたはアルカリ土類金属フェネート、およびアルカリ金属サリシレートまたはアルカリ土類金属サリシレート等の正塩、塩基性塩または過塩基性塩等が挙げられる。本発明では、これらからなる群より選ばれる1種または2種以上のアルカリ金属系清浄剤またはアルカリ土類金属系清浄剤、特にアルカリ土類金属系清浄剤を好ましく使用することができる。特にマグネシウム塩および/またはカルシウム塩が好ましく、カルシウム塩がより好ましく用いられる。
【0023】
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられるアルケニルコハク酸イミド、ベンジルアミン、アルケニルポリアミン等任意の無灰分散剤が使用できる。例えば、イミド化に際してポリアミンの一端に炭素数40〜400の直鎖もしくは分枝状のアルキルまたはアルケニル無水コハク酸が付加した式(2)で示すモノコハク酸イミド、またはポリアミンの両端に付加した式(3)で示すビスコハク酸イミドを挙げることができる。
【0024】
【化3】

【0025】
式(2)及び式(3)中、R、R及びRは、それぞれ独立に炭素数40〜400、好ましくは炭素数60〜350の、直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を示す。aは1〜10、好ましくは2〜5の整数、bは0〜10、好ましくは1〜5の整数を示す。
あるいはコハク酸イミドに、ホウ酸(オルトホウ酸、メタホウ酸又はテトラホウ酸等)、ホウ酸塩又はホウ酸エステル等のホウ素化合物等を作用させたホウ素変性コハク酸イミド等を用いることもできる。
上記コハク酸イミドの製法は特に制限はなく、例えば、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を、無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得られる。
ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンが例示できる。
【0026】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、亜鉛系、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N'−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクチル−3−(3−メチル−5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が好ましく挙げられる。これらは二種以上を混合して使用してもよい。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、芳香族アミン化合物、アルキルジフェニルアミン、アルキルナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン等の潤滑油用として一般に使用されている公知のアミン系酸化防止剤が挙げられる。
【0027】
摩耗防止剤(または極圧剤)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。
【0028】
本発明の潤滑油組成物においては、シャダー防止性を向上させるために無灰摩擦調整剤をさらに含有させることができる。無灰摩擦調整剤としては、潤滑油用の無灰摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜30のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基または直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤等が挙げられる。また下記一般式(4)および(5)で表される窒素含有化合物およびその酸変性誘導体からなる群より選ばれる1種以上の化合物や、国際公開第2005/037967号パンフレットに例示されている各種無灰摩擦調整剤が挙げられる。
【0029】
【化4】

【0030】
一般式(4)において、Rは炭素数1〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基、好ましくは炭素数10〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数10〜30の炭化水素基、より好ましくは炭素数12〜20のアルキル基、アルケニル基または機能性を有する炭化水素基、特に好ましくは炭素数12〜20のアルケニル基であり、RおよびRは、それぞれ個別に、炭素数1〜30の炭化水素基、機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基または水素、好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基、機能性を有する炭素数1〜10の炭化水素基または水素、さらに好ましくは炭素数1〜4の炭化水素基または水素、より好ましくは水素であり、Xは酸素または硫黄、好ましくは酸素を示す。
【0031】
【化5】

【0032】
一般式(5)において、R10は炭素数1〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基であり、好ましくは炭素数10〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数10〜30の炭化水素基、より好ましくは炭素数12〜20のアルキル基、アルケニル基または機能性を有する炭化水素基、特に好ましくは炭素数12〜20のアルケニル基であり、R11〜R13は、それぞれ個別に、炭素数1〜30の炭化水素基、機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基または水素、好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基、機能性を有する炭素数1〜10の炭化水素基または水素、より好ましくは炭素数1〜4の炭化水素基または水素、さらに好ましくは水素を示す。
【0033】
一般式(5)で表される窒素含有化合物としては、具体的には、炭素数1〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基を有するヒドラジドおよびその誘導体である。R10が炭素数1〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基、R11〜R13が水素の場合、炭素数1〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基を有するヒドラジド、R10およびR11〜R13のいずれかが炭素数1〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基であり、R11〜R13の残りが水素である場合、炭素数1〜30の炭化水素基または機能性を有する炭素数1〜30の炭化水素基を有するN−ヒドロカルビルヒドラジドである。
【0034】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、またはイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0035】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、または多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0036】
粘度指数向上剤としては、通常の一般的な非分散型または分散型ポリ(メタ)アクリレート、非分散型または分散型エチレン−α−オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリイソブチレンまたはその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体を、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体およびポリアルキルスチレン等を更に含有することができる。これらの粘度指数向上剤の重量平均分子量は、通常800〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000である。
【0037】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、またはβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0038】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000〜10万mm/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0039】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、それぞれその含有量は組成物全量基準で、0.01〜20質量%が好ましい。
【0040】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度については特に制限はないが、好ましくは3.8〜21.9mm/s、より好ましくは4.1〜16.3mm/s、特に好ましくは5.6〜12.5mm/sである。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0042】
(実施例1〜5および比較例1〜3)
表1に示すように、本発明の潤滑油組成物(実施例1〜5)、比較用の潤滑油組成物(比較例1〜3)をそれぞれ調製した。
【0043】
(1)基油
基油A:水素化分解鉱油(100℃動粘度:2.6mm/s、粘度指数:105、S量:0.1質量%以下、NOACK蒸発量:52質量%)
基油B:水素化分解鉱油(100℃動粘度:4.0mm/s、粘度指数:125、S量:0.1質量%以下、NOACK蒸発量:16質量%)
(2)添加剤
(a)本願(A)成分
リン系摩耗防止剤A(X〜X:酸素、R、R、R:直鎖C18
リン系摩耗防止剤B(X〜X:酸素、R、R、R:直鎖C12
リン系摩耗防止剤C(X〜X:酸素、R、R:直鎖C18、R:H)
(b)(A)成分以外のリン系摩耗防止剤
リン系摩耗防止剤D(X〜X:酸素、R、R、R:直鎖+分枝C
リン系摩耗防止剤E(X〜X:酸素、R、R、R:直鎖C10
リン系摩耗防止剤F(X〜X:酸素、R、R、R:分枝C13
リン系摩耗防止剤G(リン系化合物を含有する混合物からなる市販品)
(c)その他
添加剤H:摩擦調整剤、酸化防止剤、無灰分散剤、金属系清浄剤、腐食防止剤、防錆剤、粘度指数向上剤、金属不活性剤および消泡剤を含有。
【0044】
調製した各組成物について、以下の2つの試験を行った。
(1)金属間摩擦係数測定
金属ベルト式無段変速機のベルト−プーリー間の金属間摩擦特性を評価するため、ASTM D2714−94に規定する“Standard Test Method for Calibration and Operation of Falex Block-on-Ring Friction and Wear Testing Machine"に準拠して以下に示す条件でLFW−1摩擦試験を行い、各すべり速度において計測された摩擦力から摩擦係数を算出し、比較例1を基準とした摩擦係数向上率として表1に示した。
[試験条件]
リング :Falex S-10 Test Ring (SAE 4620 Steel)
ブロック :Falex H-60 Test Block (SAE 01 Steel)
試験油温 :80℃
すべり速度:18cm/s
試験荷重 :100lb
【0045】
(2)変速特性
変速特性はJASO M348−95「自動変速機油摩擦特性試験方法」に準拠してSAE No.2試験機で実施し、3000サイクル経過時の動摩擦試験にて測定されるμoとμd(1800rpm時のμ)の比μo/μdを測定し、結果を同じく表1に示した。
【0046】
試験結果を表1に示すが、直鎖アルキル基で、炭素数が11〜20のリン系化合物を適正量添加した実施例1〜5の組成物は、分枝アルキル基を有するあるいは炭素数が上記範囲外のリン系化合物を用いた比較例1〜3の組成物と比べて、金属間摩擦係数が高く、また変速特性も優れている。
【0047】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油系基油及び/又は合成系基油からなる潤滑油基油に、(A)一般式(1)で表される少なくとも1種のリン系化合物又はその誘導体を、組成物全量基準でリン元素量として0.005〜0.1質量%、含有してなることを特徴とする金属ベルト式無段変速機用潤滑油組成物。
【化1】

(式(1)中、R及びRは、それぞれ個別に、炭素数11〜20の直鎖型アルキル基を示し、Rは水素原子または炭素数11〜20の直鎖型アルキル基を示し、X、X及びXは、それぞれ個別に、酸素原子又は硫黄原子を示す。)

【公開番号】特開2009−286831(P2009−286831A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138012(P2008−138012)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】