説明

金属伸線用ダイス及びスチールコードの伸線方法

【課題】ダイヤモンドダイスの代わりに用いることで伸線コストの低下を図ることができ、かつ、ダイヤモンドダイス同様にスチールコード表面のめっき層の結晶組織を微細化することができる金属伸線用ダイスを提供する。
【解決手段】金属伸線用ダイス1は、炭化物粒11を主成分とする超硬合金よりなり、この炭化物粒11が粒径0.006mm以上0.01mm未満の粒径の小さな粒11aと、粒径0.01mm以上1mm以下の粒径の大きな粒11bとからなる。炭化物粒11は、炭化タングステン粒とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属伸線用ダイス及びスチールコードの伸線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤなどのゴム製品を補強するためのスチールコードは、ゴムとの密着性を向上させる銅合金、例えば黄銅がめっき処理により表面に形成されているコードであり、めっき処理に複数のダイスを用いた伸線工程を行い順次に縮径させる。このようなスチールコードの伸線工程には従来、ダイヤモンドダイスが用いられていた。その理由は、ダイヤモンドが超硬合金に比べて耐摩耗性に優れ、また、粒径0.1mm以上1mm以下程度のダイヤモンド粒を金属バインダーと共に焼結してなるダイヤモンドダイスは、伸線中にスチールコードを伸線するときに、スチールコード表面のめっき層の結晶組織を微細化することができるからである。スチールコード表面のめっき層の結晶組織を微細化できると、めっき層中の銅がゴム製品中の硫黄と、より強固に結合し、接着性が向上するので、例えばゴム製品がタイヤの場合は、タイヤ性能が向上する。
【0003】
しかしながら、ダイヤモンドダイスは高価であり、よって伸線コストの低下を図るときに、ダイヤモンドダイスの使用がコスト低減の制約になり得るものであった。
【0004】
ダイヤモンド以外の材料をダイスに用いる技術に関し、超硬合金よりなるダイスについて、溶接用ワイヤの冷間押し出し用ダイス(特許文献1)、継目無し管等の熱間押し用ダイス(特許文献2)及び線材の引き抜き加工時の表面酸化物切削用の皮剥きダイスがある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−15813号公報
【特許文献2】特開平6−99216号公報
【特許文献3】特開平8−39132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スチールコードの伸線工程に用いるダイヤモンドダイスは高価であった。また、特許文献1ないし3に記載のダイスはスチールコードの伸線に用いられているものではなく、また、スチールコード表面のめっき層の結晶組織を微細化するものではなかった。したがって、ダイヤモンドダイスの代わりに従来の超硬合金を用いた場合には、耐摩耗性が劣り、また、ダイヤモンドダイスを用いた場合と同様の、表面めっき層の結晶組織が微細化されたスチールコードを得ることができなかった。
【0007】
本発明は、上記の問題を有利に解決するものであり、伸線コストの低下を図ることができ、かつ、スチールコード表面のめっき層の結晶組織を微細化することができる金属伸線用ダイス及びスチールコードの伸線方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の金属伸線用ダイスは、炭化物粒を主成分とする超硬合金よりなり、この炭化物粒が粒径0.006mm以上0.01mm未満の粒径の小さな粒と、粒径0.01mm以上の粒径の小さな粒とからなることを特徴とする。
【0009】
この0.01mm以上の粒は、粒径0.01mm以上1mm以下であることが好ましく、また、粒径0.04mm以上1mm以下であることが、より好ましい。
【0010】
この炭化物粒は、好適には炭化タングステン粒とすることができる。
【0011】
炭化物粒における粒粒径の小さな粒の割合が60%以上70%以下、粒径の大きな粒の割合が30%以上40%以下の範囲であることが好ましい。
【0012】
本発明のスチールコードの伸線方法は、炭化物粒を主成分とする超硬合金よりなるダイスであって、この炭化物粒が粒径0.006mm以上0.01mm未満の粒径の小さな粒と、粒径0.01mm以上の粒径の大きな粒とからなる金属伸線用ダイスを用いて、銅合金層が表面に形成されたスチールコードを伸線することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属伸線用ダイスによれば、粒径の異なる炭化物粒を含む超硬合金からなることから、ダイヤモンドダイスを用いた場合と同様にめっき層の結晶組織の微細化を行うことができ、よってダイヤモンドダイスよりも低コストのダイスによりダイヤモンドダイスと同等のスチールコードの伸線を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】スチールコードを伸線するダイスの模式的な断面図である。
【図2】本実施形態のダイスの表面近傍の模式な拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の金属伸線用ダイスの実施形態を、図面を用いつつ具体的に説明する。
【0016】
図1に示す、本発明の一実施形態のダイスの模式的な断面図において、金属伸線用ダイス1は、金属を伸線するダイスであって、例えばスチールコード2を伸線して縮径する。この金属伸線用ダイス1により伸線されるスチールコード2は、鋼線21の表面上に亜鉛等の銅合金めっき層22が形成されている。
【0017】
金属伸線用ダイス1の表面近傍の模式的な拡大断面図を図2(a)に示すように、金属伸線用ダイス1は、高融点金属の炭化物粒11を主成分とし、この炭化物11と金属12とを焼結結合した超硬合金よりなる。この炭化物粒11は、粒径0.006mm以上0.01mm未満の粒の粒径の小さな11aと、粒径0.01mm以上の粒径の大きな粒11bとからなる。この金属は、1質量%以上10質量%以下の含有率で混合することが好ましい
【0018】
炭化物粒11は、好適には炭化タングステン(WC)粒とすることができ、金属12は、例えばコバルトとすることができる。もっとも、炭化物粒11は炭化タングステン粒に限定されず、この他にTiC、TaC、NbC、Cr及びMoCを用いることができる。金属12は、コバルトに限定されず、この他にニッケルを用いることができる。つまりスチールコードを伸線するダイス用の超硬合金として適用される炭化物粒、金属を用いることができる。
【0019】
従来のダイヤモンドダイスにおいて、スチールコードのめっき層の結晶組織を微細化できるのは、めっきされたスチールコードがダイヤモンドダイスを通過する際、ダイス表面からダイヤモンド粒の一部が脱落し、この脱落部分にスチールコードの表面のめっき金属が付着して、この付着しためっき金属とスチールコード表面のめっき金属とで摩擦を生じるためと考えられる。
【0020】
本実施形態の金属伸線用ダイス1は、炭化物粒11が、粒径0.006mm以上0.01mm未満の粒径の小さな粒11aと、粒径0.01mm以上1mm以下の粒径の大きな粒11bとからなることにより、上記のダイヤモンドダイスと同様にスチールコードのめっき層の結晶組織を微細化できる。これを詳細に述べると、一般に炭化物粒、例えば炭化タングステン粒の硬度と粒径とは反比例する関係にある。したがって、金属伸線用ダイス1の炭化物粒11が、粒径の小さな粒11aと、粒径の大きな粒11bとからなる本実施形態では、伸線中に粒径の大きな粒11bが粒径の小さな粒11aよりも早く摩耗し、この摩耗した部分にスチールコードの表面のめっき金属が付着する。この付着しためっき金属とスチールコード2表面のめっき金属22とで摩擦が生じる結果、スチールコードのめっき層の結晶組織を微細化できる。
【0021】
また、本実施形態の金属伸線用ダイス1は、炭化物粒11が、粒径の小さな粒11aと、粒径の大きな粒11bとからなることから、粒径の大きな粒11bが摩耗しても、その近辺に存在する粒径の小さな粒11aは摩耗し難いので、この粒径の小さな粒11aにより、金属伸線用ダイス1の硬さ、耐摩耗性を維持することができ、よって長寿命のダイスとすることが可能となる。
【0022】
本実施形態と比較するための図2(b)に示す従来の超硬合金よりなるダイス100は、粒径の小さな炭化物粒101と金属12とを焼結結合したものであり、この粒径の小さな炭化物粒101によりダイス100の硬さ、耐摩耗性は確保されていて、また、摩耗した部分にスチールコードの表面のめっき金属が付着するが、本実施形態のようなスチールコードのめっき層の結晶組織を微細化する効果は小さかった。
【0023】
本実施形態において炭化物粒11のうち粒径の大きな粒11bは、粒径0.01mm以上のものとする。好ましくは粒径0.01mm以上1mm以下のものとする。より好ましくは、粒径0.04mm以上1mm以下のものとする。ここにおいて、粒径とは、一粒を球と考えた場合の直径と定義できる。粒径の大きな粒11bの粒径が0.01mmよりも小さいと粒径の小さな粒11aとの区別ができず、また、粒径が0.04mmよりも小さいとめっきを十分に微細化できないという不利がある。また、粒径の大きな粒11bの粒径が1mmよりも大きいとスチールコードにキズが入るという不具合を招くおそれがある。したがって、粒径の大きな粒11bは、粒径0.01mm以上であって、好ましくは0.04mm以上であり、また、1mm以下であるのが好ましい。
【0024】
本実施形態において炭化物粒11のうち粒径の小さな粒11aは、粒径0.006mm以上0.01mm未満のものとする。粒径の定義は上述と同じである。粒径の小さな粒の粒径が0.006mmよりも小さいとコストが高いという不利があり、粒径の大きな粒の粒径が0.01mm以上では粒径が大きくなって耐摩耗性が劣るという不具合がある。したがって、粒径の小さな粒11aは、粒径0.006mm以上0.01mm未満の範囲のものとする。
【0025】
本実施形態の金属伸線用ダイスにおける、上記粒径の大きな粒11bと上記粒径の小さな粒11aとの割合は、粒径の小さな粒の割合が60%以上70%以下、粒径の大きな粒の割合が30%以上40%以下の範囲とすることができる。粒径の大きな粒11bの割合が多いと耐摩耗性が劣り、一方、粒径の小さな粒11aの割合が多いとめっき微細化にムラができるという傾向がある。したがって、粒径の小さな粒11aの割合を60%以上70%以下、粒径の大きな粒11bの割合を30%以上40%以下の範囲とすることが好ましい。
【0026】
本発明の伸線方法の実施形態は、上記実施形態の金属伸線用ダイス1を用いて銅合金層22が表面に形成されたスチールコード2を伸線するものである。本実施形態の伸線方法によれば、表面のめっき層22の組織が微細化されたスチールコード2を、安価な超硬合金ダイスを用いて伸線することができる。
【実施例】
【0027】
(実施例)
WC−Mo(炭化タングステン−モリブデン)系超硬合金において、WC粒を0.006mm以上0.01mm未満の粒の割合が65%、粒径0.04mm以上1mm以下の粒の割合が35%の範囲とした超硬ダイスを作製し、この超硬ダイスを用いて直径0.2mm、表面の銅めっき層厚さが0.001mmのスチールコードを伸線した。伸線後のスチールコードの表面を観察したところ、めっき層の組織が微細化されていることを確認できた。
【0028】
(比較例)
一方、比較例としてWC粒が0.008mmの粒径になる超硬ダイスを作製し、この粒径以外は上記実施例と同様の条件でスチールコードを伸線した。伸線後のスチールコードの表面を観察したところ、めっき層の組織の微細化は、十分には確認できなかった。
【0029】
以上、本発明の金属伸線用ダイスを、実施例を用いて具体的に説明したが、本発明の金属伸線用ダイスは、実施例の記載によって限定されるものではなく、当業者の技術常識を勘案して本願の明細書に記載された範囲内で幾多の変形が可能である。例えば、実施例においては、金属伸線用ダイスが、WC−Mo系の超硬合金であるが、この超硬合金には、ダイヤモンド粒子を有する超硬合金であってもよく、このようなダイヤモンド粒子を有する超硬合金からなる金属伸線用ダイスは、本発明の所期した効果を達成し得る。
【符号の説明】
【0030】
1 金属伸線用ダイス
2 スチールコード
11 炭化物粒
12 金属
21 鋼線
22 銅合金めっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化物粒を主成分とする超硬合金よりなり、この炭化物粒が粒径0.006mm以上0.01mm未満の粒径の小さな粒と、粒径0.01mm以上の粒径の小さな粒とからなることを特徴とする金属伸線用ダイス。
【請求項2】
前記粒径0.01mm以上の粒が、粒径0.01mm以上1mm以下の粒であることを特徴とする請求項1に記載の金属伸線用ダイス。
【請求項3】
粒径0.01mm以上の粒が、粒径0.04mm以上1mm以下の粒であることを特徴とする請求項1に記載の金属伸線用ダイス。
【請求項4】
前記炭化物粒が炭化タングステン粒であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属伸線用ダイス。
【請求項5】
前記炭化物粒における粒径の小さな粒の割合が60%以上70%以下、粒径の大きな粒の割合が30%以上40%以下の範囲であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の金属伸線用ダイス。
【請求項6】
炭化物粒を主成分とする超硬合金よりなるダイスであって、この炭化物粒が粒径0.006mm以上0.01mm未満の粒径の小さな粒と、粒径0.01mm以上の粒径の大きな粒とからなる金属伸線用ダイスを用いて、銅合金層が表面に形成されたスチールコードを伸線することを特徴とするスチールコードの伸線方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−173156(P2011−173156A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40323(P2010−40323)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】