説明

金属光造形用金属粉末

【課題】金属光造形用金属粉末において、再利用のために金属粉末をメッシュに通すふるいがけを行っても、比重の小さな粉末成分が飛散せずに、配合成分が変動しない。
【解決手段】金属光造形用金属粉末は、鉄系粉末と、ニッケル及びニッケル系合金粉末の両方又はいずれか一方と、銅及び銅系合金粉末の両方又はいずれか一方と、黒鉛粉末と、を組成とする粉末から成り、メカニカルアロイング法によって合金化されている。このように、全ての金属が積み重なった状態の粉末となり、比重の小さい黒鉛粉末も他の金属と一体化にされているので、ふるいがけを行なって再利用する場合においても黒鉛粉末が飛散することがなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末に光ビームを照射して三次元形状造形物を得る金属光造形用金属粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属粉末の粉末層に光ビーム(例えばレーザ光のような指向性エネルギービーム)を照射して焼結層を形成し、この焼結層の上に新たな粉末層を敷いて光ビームを照射し焼結層を形成する、ということを繰り返して三次元形状造形物を製造する金属光造形技術が知られている。この技術によれば、複雑な三次元形状造形物を短時間で製造することができる。エネルギー密度の高い光ビームを照射することにより金属粉末を完全に溶融させた後に固化させることにより、焼結密度がほぼ100%の状態となり、この高密度の造形物の表面を仕上げ加工して滑らかな面とすることにより、プラスチック成形用金型などに適用することができる。
【0003】
しかし、このような三次元形状造形物を金属光造形によって得るにあたっては、圧縮成形してから焼結するような他の粉末焼結に用いられる金属粉末とは異なった特性の金属粉末が必要となる。
【0004】
例えば、金属粉末の粒子径は、光ビームが照射される粉末層の厚みよりも小さくする必要がある。粒子径は、細かい方が粉末の充填密度が高く、造形時の光ビーム吸収率も良いので焼結密度も高くすることができると共に、造形物の表面粗さも小さくすることができる。また、粉末が細かすぎて凝集を起こしてしまうと、逆に粉末の充填密度は小さくなり、粉末層を薄く均一に敷けなくなってしまう。
【0005】
また、造形物の強度を高くするためには、形成する新たな焼結層と、その下層にある固化している焼結層との接合面積が広く、かつ、その密着強度が高くなければならないと同時に、隣接する固化している焼結層との接合面積も広く、密着強度も高いものである必要がある。
【0006】
更に、新たな焼結層の上面があまり大きく盛り上がってはならない。次の層を形成するために次の粉末層を敷く際に、盛り上がり量が粉末層の厚み以上となると、粉末層の形成そのものが困難となってしまう。
【0007】
そして、光ビームが照射された金属粉末は、その一部又は全部が一旦溶融し、その後急冷凝固されて焼結層となるが、この溶融した時の濡れ性が大きいと、隣接する焼結層との接合面積が大きくなり、流動性が大きければ盛り上がりが小さくなることから、溶融した時の流動性が大きく、かつ、濡れ性も大きいことが望まれる。
【0008】
また、金属光造形で製造される三次元形状造形物は、その造形物表面に金属粉末が付着して表面粗さを悪くしている。この三次元形状造形物を高精度なプラスチック射出成形金型等として使用するためには、造形物表面に付着した金属粉末を除去しなければならず、切削仕上げ等の加工を行う時の加工性が良いことが望まれる。
【0009】
また、造形物の外観に大きな割れが生じてはならないし、射出成形金型などの内部に流体(冷却水)を流す場合のことなども考慮すると、内部組織にマイクロクラックが無いことが望まれる。
【0010】
次に、金属粉末の組成に関して説明する。金属粉末を鉄系粉末のみにしてレーザを照射して高密度な三次元形状造形物を製造することは困難である。これは、先に形成された鉄の焼結層に、次の焼結層を隙間なしに一体化することが困難であるからである。鉄系粉末としてクロムモリブデン鋼粉末を用いても、クロムモリブデン鋼自体は硬度が高く機械的強度に優れているが、クロムモリブデン鋼粉末のみでは、焼結層を隙間なしに作ることができず、レーザ照射をして得られる三次元形状造形物の焼結密度は低くその強度も弱い。
【0011】
鉄系粉末がニッケル成分を多く含む合金の場合は、粉末の表面に形成されている強固な酸化膜が、鉄系粉末同士の融着一体化を阻害するため、上述の焼結層の隙間の問題が甚だしくなる。鉄系金属にニッケルを含有させることは、その鉄系金属の靭性や強度および耐食性を向上できるという利点があるが、レーザ照射による三次元形状造形物の製造に使用した場合には、その利点が全く発揮できない。粉末の表面の酸化膜の障害を除くために、レーザ照射のエネルギーを大きくすると、クロムモリブデン鋼やニッケル成分を含む鉄系粉末でも、十分に融着一体化することができるが、レーザの照射装置が大掛かりになり、過大な電力が必要になって、製造コストが高くなる。また、レーザの走査速度を高められないため、製造能率も低下し、また、過大な照射エネルギー量で作られた造形物は、熱応力により反りや変形を起こし易くなる。
【0012】
銅は、溶融された時にその流動性が良く、溶融状態で鉄系材料との濡れ性が良く、かつ、鉄系材料と合金化された場合でも特性の劣化がほとんど無い。鉄系粉末と、銅又は銅合金粉末とからなる金属粉末にレーザを照射すると、この銅又は銅合金が先に溶融し、鉄系粉末間の隙間を埋めると同時に、これが結合材となって融着一体化する。レーザの照射エネルギーが高い場合は、金属粉末を形成する鉄系粉末と、銅又は銅合金粉末とが溶融し合金となる。溶融金属の流動性は、溶融時の温度と融点の差が大きいほど良くなるので、同じエネルギーで照射した場合の流動性は、融点が低いリン銅合金やマンガン銅合金の方が純銅よりも良い。
【0013】
ニッケルが、鉄系粉末に含有されているのではなく、ニッケル粉末として銅又は銅合金粉末と共に混合された場合には、これらの粉末同士の融着一体化は良好になる。そして、鉄系成分とニッケルと銅又は銅合金成分からなる硬化層は、その焼結密度は高く、その結果、靭性や強度の高いものとなる。
【0014】
また、できあがった造形物のマイクロクラックを低減するために、鉄系粉末に黒鉛粉末を添加することが極めて有効である。黒鉛粉末が造形物に与える影響について、図4乃至図8を参照して説明する。図4は、黒鉛を0.3重量%まで添加したときの金属光造形物の曲げ強度と、曲げ弾性率と、ねばさの結果を示す。曲げ強度、曲げ弾性率、ねばさとも、黒鉛粉末の添加量が多い程、良好な結果となっている。なお、ねばさの値は、黒鉛粉末の添加量が0.3重量%のときのシャルピー衝撃試験における吸収エネルギーの値を1として示している。図5乃至図8は、黒鉛粉末がそれぞれの添加量のときの造形物の断面の写真を示す。黒鉛の添加量が少ない程、矢印Aで示すマイクロクラックが発生している。金属光造形用の鉄系粉末に黒鉛粉末が配合されていると、レーザ照射によって金属粉末が溶融凝固する際に発生する収縮現象と、炭素が鉄中に固溶する際に発生する膨張現象との釣り合いが取れて内部応力が小さくなり、マイクロクラックの発生が低減するものと考えられる。
【0015】
このような観点から、本出願人は特許文献1に示されるように、鉄系粉末(クロムモリブデン鋼)と、ニッケルまたは及びニッケル系合金の粉末と、銅または及び銅系合金の粉末と黒鉛粉末からなる金属光造形用金属粉末を提案した。クロムモリブデン鋼はその強度や靭性の点から、銅及び銅系合金粉末は濡れ性及び流動性の点から、ニッケル及びニッケル系合金粉末は強度及び加工性の点から、黒鉛粉末は光ビームの吸収率及びマイクロクラック低減の点から採用している。
【0016】
そして、金属光造形では、レーザ照射されなかった未焼結の金属粉末を、回収して再利用するが、造形時に発生した溶解屑や、金属光造形の装置内での造形物表面の切削加工により発生した切り粉が金属粉末の中に入っているために、金属粉末をメッシュに通すふるいがけを行い、溶解屑や切り粉を除去しなければならない。
【0017】
しかしながら、ふるいがけを行う時に、軽い金属粉末、特に比重の小さな黒鉛粉末が飛散して減少するという問題がある。図9は、金属光造形後に回収した金属粉末を示す。金属粉末中に矢印Bによって示す切削切り粉が混入している。
【特許文献1】特開2004−277877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたものであり、再利用のためのふるいがけを行っても、比重の小さな粉末成分が飛散せずに、配合成分が変動しない金属光造形用金属粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、金属粉末からなる粉末層に光ビームを照射して焼結層を形成すると共に、前記焼結層を積層することで三次元形状造形物を得る金属光造形に用いられる金属光造形用金属粉末であって、鉄系粉末と、ニッケル及びニッケル系合金粉末の両方又はいずれか一方と、銅及び銅系合金粉末の両方又はいずれか一方と、黒鉛粉末と、を組成とする粉末(以下、組成粉末という)から成り、前記組成粉末をメカニカルアロイング法によって合金化したものである。
【0020】
請求項2の発明は、金属粉末からなる粉末層に光ビームを照射して焼結層を形成すると共に、前記焼結層を積層することで三次元形状造形物を得る金属光造形に用いられる金属光造形用金属粉末であって、鉄系粉末と、ニッケル及びニッケル系合金粉末の両方又はいずれか一方と、銅及び銅系合金粉末の両方又はいずれか一方と、黒鉛粉末と、を組成とする粉末(以下、組成粉末という)から成り、前記組成粉末の内の2種類以上の粉末をメカニカルアロイング法によって合金化した粉末と、前記組成粉末の内の1種類以上の粉末とを、混合して成るものである。
【0021】
請求項3の発明は、請求項2に記載の金属光造形用金属粉末において、前記メカニカルアロイング法によって合金化される2種類以上の粉末の内の1つに、黒鉛粉末が含まれるものである。
【0022】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の金属光造形用金属粉末において、金属粉末からなる粉末層に光ビームを照射して焼結層を形成する工程と、前記焼結層の積層により形成した造形物の表面部及び不要部分の両方又はいずれか一方の切削除去を行う工程と、を繰り返すことにより三次元形状造形物を得る金属光造形に用いられるものである。
【0023】
請求項5の発明は、請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載の金属光造形用金属粉末において、前記組成粉末の内のメカニカルアロイング法によって合金化された金属粉末、及びメカニカルアロイング法によって合金化されていない金属粉末のそれぞれの平均粒子径が10〜40μmであるものである。
【0024】
請求項6の発明は、請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載の金属光造形用金属粉末において、前記組成粉末の内のメカニカルアロイング法によって合金化された金属粉末の平均粒子径がメカニカルアロイング法によって合金化されていない金属粉末の平均粒子径よりも大きく、メカニカルアロイング法によって合金化された金属粉末が50〜80重量%であり、メカニカルアロイング法によって合金化されていない金属粉末が20〜50重量%であるものである。
【0025】
請求項7の発明は、請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載の金属光造形用金属粉末において、前記組成粉末の内のメカニカルアロイング法によって合金化された金属粉末の平均粒子径がメカニカルアロイング法によって合金化されていない金属粉末の平均粒子径よりも小さく、メカニカルアロイング法によって合金化された金属粉末が20〜50重量%であり、メカニカルアロイング法によって合金化されていない金属粉末が50〜80重量%であるものである。
【発明の効果】
【0026】
請求項1の発明によれば、金属光造形に用いられる金属光造形用金属粉末を、全てメカニカルアロイング法によって合金化することにより、全ての金属が積み重なった状態の粉末となり、比重の小さい黒鉛粉末も他の金属と一体化にされているので、ふるいがけを行なって再利用する場合においても、黒鉛粉末が飛散することがなく、配合成分が変動しない。
【0027】
請求項2の発明によれば、金属光造形に用いられる金属光造形用金属粉末の内の2種類以上の粉末をメカニカルアロイング法により合金化するので、ふるいがけを行なって再利用する場合においても、合金化された金属の粉末が飛散せず、配合成分が変動しない。
【0028】
請求項3の発明によれば、黒鉛粉末を他の金属粉末とメカニカルアロイング法により合金化するので、ふるいがけを行なって再利用する場合においても、比重が小さい黒鉛粉末が飛散せず、配合成分が変動しない。
【0029】
請求項4の発明によれば、金属光造形複合加工においても金属光造形における効果と同様の効果が得られる。
【0030】
請求項5の発明によれば、金属粉末の平均粒子径が同等であるので、金属粉末の流動性が良くなり、50μmの厚みで粉末層を敷く際にも、均一な密度で敷くことができ、金属粉末の充填密度が安定し、焼結欠陥が少ない造形物を作ることができる。
【0031】
請求項6の発明によれば、平均粒子径が異なる2種類の金属粉末を混合しているので、金属粉末の充填密度が高くなり、焼結密度が高い造形物を作ることができる。
【0032】
請求項7の発明によれば、平均粒子径が異なる2種類の金属粉末を混合しているので、金属粉末の充填密度が高くなり、焼結密度が高い造形物を作ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る金属光造形用金属粉末を使用する金属光造形複合加工について図1を参照して説明する。図1は、金属光造形複合加工を行なう金属光造形複合加工機1の構成を示す。金属光造形複合加工機1は、金属粉末を所定の厚みの層に敷く粉末層形成手段2と、光ビームLを発し、光ビームLを任意の位置に照射する焼結層形成手段3と、造形物の周囲を削る除去手段4とを備えている。粉末層形成手段2は、上下に昇降する昇降テーブル20と、昇降テーブル20の上に配され造形物の土台となる図示していない造形用ベースと、造形用ベースに金属粉末の粉末層22を敷くスキージング用ブレード23とを有している。焼結層形成手段3は、光ビームLを発する光ビーム発信器30と、光ビームLを粉末層22の上にスキャニングするガルバノミラー31とを有している。除去手段4は、造形物の周囲を削るミーリングヘッド40と、ミーリングヘッド40を切削箇所に移動させるXY駆動機構41とを有している。
【0034】
金属光造形複合加工機1の動作を図2及び図3を参照して説明する。図2は、金属光造形複合加工機1の動作のフローを示し、図3は、金属光造形複合加工機1の動作を示す。金属光造形複合加工機1の動作は、金属粉末を敷く粉末層形成ステップ(S1)と、粉末層22に光ビームLを照射して焼結層24を形成する焼結層形成ステップ(S2)と、造形物の表面を切削する除去ステップ(S3)とから構成されている。粉末層形成ステップ(S1)では、最初に昇降テーブル20を矢印Z方向にΔt1下げる(S11)。造形用ベース21に金属粉末を供給し(S12)、スキージング用ブレード23を、矢印A方向に移動させ、供給された金属粉末を造形用ベース21上にならして、所定厚み矢印Δt1の粉末層22を形成する(S13)。次に、焼結層形成ステップ(S2)に移行し、光ビーム発信器30から光ビームLを発し(S21)、光ビームLをガルバノミラー31によって粉末層22上の任意の位置にスキャニングし(S22)、金属粉末を溶融し、焼結させて造形用ベース21と一体化した焼結層24を形成する(S23)。
【0035】
焼結層24の厚みがミーリングヘッド40の工具長さ等から求めた所定の厚みになるまで粉末層形成ステップ(S1)と焼結層形成ステップ(S2)とを繰り返し、焼結層24を積層する。
【0036】
そして、積層した焼結層24の厚みが所定の厚みになると、除去ステップ(S3)に移行し、ミーリングヘッド40を駆動する(S31)。XY駆動機構41によってミーリングヘッド40を矢印X及び矢印Y方向に移動させ、焼結層24が積層した造形物の表面を切削する(S32)。そして、三次元形状造形物の造形が終了していないと、粉末層形成ステップ(S1)へ戻る。こうして、S1乃至S3を繰り返して焼結層24を積層することで、三次元形状造形物を製造する。
【0037】
焼結層形成ステップ(S2)における光ビームLの照射経路と、除去ステップ(S3)における切削加工経路は、予め三次元CADデータから作成しておく。この時、等高線加工を適用して加工経路を決定する。そして、除去ステップ(S3)に移行する焼結層24の厚みは、造形物の形状に応じて変動させる。造形物の形状が傾斜しているときは所定の厚みより薄い時点において、除去ステップ(S3)に移行することで、滑らかな表面が得られる。
【0038】
次に、本実施形態に係る金属光造形用金属粉末について説明する。ふるいがけによって黒鉛粉末が飛散して、黒鉛粉末が減少することを防止し、また、各金属が均一に分散するように各粉末をメカニカルアロイング法により合金化する。金属粉末は、それぞれの平均粒子径が100μmのクロムモリブデン鋼(SCM440)粉末とニッケル(Ni)粉末と銅マンガン合金(CuMnNi)粉末と、フレーク状の黒鉛(C)粉末を用いる。配合組成は(70重量%SCM440−20重量%Ni−9重量%CuMnNi−0.3重量%C)である。
【0039】
これらの配合組成において、全ての金属粉末をボールミルによるメカニカルアロイングを行い、全ての金属粉末の粒子径を約30μmにする。ボールミル用容器内の雰囲気はArガス雰囲気であり、ミリングに用いるボールは直径10mmの鋼製ボールで、運転時間は48時間である。作成した金属光造形用金属粉末を金属光造形複合加工機1に用い、未焼結の金属粉末をふるいがけを行なって再利用する。
【0040】
各金属がメカニカルアロイング法により、積み重ねられた状態の粉末に合金化されており、比重の小さい黒鉛粉末も他の金属と一体化にされているので、ふるいがけを行なって再利用する場合においても、軽い金属粉末、特に黒鉛粉末が飛散することがなく、配合成分が変動しない。また、全ての金属粉末の粒子径及び比重がほぼ同じであり、かつ、黒鉛粉末が他の粉末と一体化されているので粉末の流動性が良くなり、金属光造形複合加工機1において50μmの厚みに粉末層22を敷く際にも、均一な密度で敷くことができ、金属粉末の充填密度が安定し、焼結欠陥も少ない造形物となる。また、有機の接着剤等を用いることなく、黒鉛粉末を機械的に他の金属粉末に結合するので、焼結密度が高くなり、かつ、レーザ照射時の有機接着剤の蒸発によるヒューム発生量が無く、装置内のレンズの汚染量が少ない。
【0041】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る金属光造形用金属粉末について説明する。本実施形態では、第1の実施形態と同じ配合組成の金属粉末を用いるが、金属粉末の粒子径とメカニカルアロイング法により合金化する金属粉末の種類が異なる。金属粉末は、平均粒子径100μmのクロムモリブデン鋼粉末と平均粒子径30μmのニッケル粉末と平均粒子径30μmの銅マンガン合金粉末と、フレーク状の黒鉛粉末を用いる。
【0042】
70重量%分のクロムモリブデン鋼粉末と0.3重量%分の炭素粉末のみをメカニカルアロイング法により合金化を行い、平均粒子径30μmの金属粉末とする。このメカニカルアロイングを行なった金属粉末と、残りの20重量%分のニッケル粉末と9重量%分の銅マンガン合金粉末を、スクリュー式ミキサーにより混合を行い、金属光造形用金属粉末とする。
【0043】
第1の実施形態に係る金属光造形用金属粉末と比べ、一部の金属粉末のみをメカニカルアロイング法により合金化しているので、合金化していない金属の配合量の変動を防ぐ効果は無いが、他の効果は第1の実施形態に係るものと同様である。特に、メカニカルアロイングを行なった金属粉末の粒子径とメカニカルアロイングを行なっていない金属粉末の粒子径を同じにしているので、粉末の流動性も良い。また、メカニカルアロイングを行なう回数が少ないので、コストを低くすることができる。
【0044】
クロムモリブデン鋼粉末と炭素粉末とのメカニカルアロイングにおいて、全てのクロムモリブデン鋼粉末を合金化せずに、一部のクロムモリブデン鋼粉末と炭素粉末とを合金化してもよい。全てのクロムモリブデン鋼粉末を合金化するのと同様の効果が得られ、しかも、メカニカルアロイングを行なう回数を減らせられるのでコストを削減することができる。ただし、その場合はメカニカルアロイングを行わない残りのクロムモリブデン鋼粉末の粒子径を30μm程度としておかなければならない。
【0045】
また、黒鉛粉末をニッケル粉末や銅合金粉末とメカニカルアロイングしてもよい。クロムモリブデン鋼とメカニカルアロイングを行なったのと同様の効果がある。ただし、メカニカルアロイングする粉末は粒子径を100μmのものを用い、メカニカルアロイングしない粉末は、粒子径30μmのものを用いる。
【0046】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る金属光造形用金属粉末について説明する。本実施形態では、第1の実施形態と同じ配合組成の金属粉末を用いるが、金属粉末の粒子径とメカニカルアロイング法により合金化する金属粉末の種類が異なる。クロムモリブデン鋼粉末とニッケル粉末と銅マンガン合金粉末と、の内の2種類以上の粉末をメカニカルアロイング法により合金化する。メカニカルアロイング法により、合金化する金属粉末は、平均粒子径が100μmのものを用い、メカニカルアロイングを行なわない金属粉末は平均粒子径が30μmのものを用いる。メカニカルアロイングにより、30μmに合金化された金属粉末とメカニカルアロイングを行なっていない金属粉末とを混合し、金属光造形用金属粉末とする。
【0047】
第1の実施形態に係る金属光造形用金属粉末と比べ、黒鉛粉末をメカニカルアロイング法により他の金属粉末と合金化していないので、ふるいがけ時の黒鉛粉末の減少を防止できないが、他の効果は第1の実施形態に係るものと同様であり、また、メカニカルアロイングを行なう回数が少ないので、コストを低くすることができる。
【0048】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態に係る金属光造形用金属粉末について説明する。本実施形態では、第1の実施形態と同じ配合組成の金属粉末を用いるが、金属粉末の粒子径が異なる。平均粒子径が100μmのクロムモリブデン鋼粉末と、平均粒径が10μmのニッケル粉末と、平均粒径が10μmの銅マンガン合金粉末と、フレーク状の黒鉛粉末を用いる。
【0049】
70重量%分のクロムモリブデン鋼粉末と0.3重量%分の炭素粉末のみをメカニカルアロイングを行い、30μmの合金粉末とする。メカニカルアロイングをした粉末と、20重量%分のニッケル粉末と9重量%分の銅マンガン合金粉末を混合し、金属光造形用金属粉末とする。約70重量%が平均粒子径30μmの粉末であり、約30重量%が平均粒子径10μmの粉末である金属粉末となる。平均粒子径が異なる2種類の金属粉末を混合することにより、金属粉末の充填密度が高くなり、造形物の焼結密度も高くなる。
【0050】
2種類の金属粉末の平均粒子径は、大きい方が25〜35μmで、小さい方が5〜15μmでもよい。また、平均粒子径の大きい方の金属粉末の割合が全体の50〜80重量%で、小さい方の金属粉末の割合が全体の20〜50重量%でもよい。
【0051】
平均粒子径が異なる2種類の金属粉末を混合することにより、充填密度が高くなる効果と、金属粉末の金属の種類とは関係が無く、例えば、平均粒子径の大きい金属粉末がクロムモリブデン鋼粉末とニッケル粉末とをメカニカルアロイングにより合金化したものであり、平均粒子径の小さい金属粉末がクロムモリブデン鋼粉末と銅マンガン合金粉末でもよい。
【0052】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態に係る金属光造形用金属粉末について説明する。本実施形態は、第4の実施形態において、メカニカルアロイング法によって合金化した金属粉末を平均粒子径が小さい方の金属粉末とするものである。
【0053】
それぞれの平均粒子径が30μmのクロムモリブデン鋼粉末とニッケル粉末と銅マンガン合金粉末と、フレーク状の黒鉛粉末を用いる。30重量%分のクロムモリブデン鋼粉末と0.3重量%分の炭素粉末のみをメカニカルアロイングを行い、10μmの合金粉末とする。メカニカルアロイングの条件は、ボールミル用容器内の雰囲気がArガス雰囲気であり、ミリングに用いるボールが直径5mmの鋼製ボールであり、運転時間が72時間である。ミリングに用いるボールの直径を小さくし、運転時間を長くすることで細かくすることができる。
【0054】
メカニカルアロイングをした粉末と、40重量%分のクロムモリブデン鋼粉末と20重量%分のニッケル粉末と9重量%分の銅マンガン合金粉末を混合し、金属光造形用混合粉末とする。約70重量%が平均粒子径30μmの粉末で、約30重量%が平均粒子径10μmの粉末からなる混合粉末となる。平均粒子径が異なる2種類の金属粉末を混合することにより、金属粉末の充填密度が高くなり、造形物の焼結密度も高くなる。
【0055】
第4の実施形態と同様に平均粒子径は、大きい方が25〜35μmで、小さい方が5〜15μmでもよい。また、平均粒子径の大きい方の金属粉末の割合が全体の50〜80重量%で、小さい方の金属粉末の割合が全体の20〜50重量%でもよい。また、平均粒子径の大きい方と小さい方の金属の種類についても、第4の実施形態と同様に何れの金属でもよい。
【0056】
第1乃至第5の実施形態において、金属粉末の配合組成を(70重量%SCM440−20重量%Ni−9重量%CuMnNi−0.3重量%C)として行なったが、第1乃至第5の実施形態に係るメカニカルアロイング法の効果は、金属粉末の配合組成(70重量%SCM440−20重量%Ni−9重量%CuMnNi−0.3重量%C)に拘らずに効果がある。
【0057】
特に、鉄系粉末の配合量が60〜90重量%、ニッケル及びニッケル系合金の両方又はいずれか一方の粉末の配合量が5〜35重量%、銅及び銅系合金の両方又はいずれか一方の粉末の配合量が5〜15重量%である金属粉末に、黒鉛粉末を0.2〜0.8重量%配合することで、強度が強く、内部にマイクロクラックが無い造形物を作ることができ、更に、鉄系粉末をクロムモリブデン鋼粉末、又は急冷によりマルテンサイト組織になって硬度が高くなり、焼き戻しにより硬度が低下する工具鋼、例えば炭素工具鋼、ダイス鋼、高速度工具鋼等の粉末とすることで、高強度・高硬度であり、かつ、表面の切削性も良好な造形物とすることができる。
【0058】
なお、本発明は、上記各種実施形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、本実施形態では金属光造形複合加工機1に用いたが、金属光造形により三次元形状造形物の全体を製造してから、造形物の表面を切削加工する金属光造形に用いてもよい。また、メカニカルアロイング法の条件も各種実施形態の条件に拘らず、金属粉末が合金化され、所定の粒子径が得られる条件であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態に係る金属光造形複合加工を行なう金属光造形複合加工機の構成図。
【図2】金属光造形複合加工機の動作のフローチャート。
【図3】金属光造形複合加工機の動作を示す図。
【図4】従来の金属光造形物での黒鉛粉末添加量と曲げ試験結果との関係を示す図。
【図5】黒鉛粉末を添加していない従来の金属光造形物の断面組織の写真。
【図6】黒鉛粉末を0.1重量%添加した従来の金属光造形物の断面組織の写真。
【図7】黒鉛粉末を0.2重量%添加した従来の金属光造形物の断面組織の写真。
【図8】黒鉛粉末を0.3重量%添加した従来の金属光造形物の断面組織の写真。
【図9】金属光造形複合加工機から回収した従来の金属粉末のSEM写真。
【符号の説明】
【0060】
22 粉末層
24 焼結層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末からなる粉末層に光ビームを照射して焼結層を形成すると共に、前記焼結層を積層することで三次元形状造形物を得る金属光造形に用いられる金属光造形用金属粉末であって、
鉄系粉末と、ニッケル及びニッケル系合金粉末の両方又はいずれか一方と、銅及び銅系合金粉末の両方又はいずれか一方と、黒鉛粉末と、を組成とする粉末(以下、組成粉末という)から成り、
前記組成粉末をメカニカルアロイング法によって合金化したことを特徴とする金属光造形用金属粉末。
【請求項2】
金属粉末からなる粉末層に光ビームを照射して焼結層を形成すると共に、前記焼結層を積層することで三次元形状造形物を得る金属光造形に用いられる金属光造形用金属粉末であって、
鉄系粉末と、ニッケル及びニッケル系合金粉末の両方又はいずれか一方と、銅及び銅系合金粉末の両方又はいずれか一方と、黒鉛粉末と、を組成とする粉末(以下、組成粉末という)から成り、
前記組成粉末の内の2種類以上の粉末をメカニカルアロイング法によって合金化した粉末と、前記組成粉末の内の1種類以上の粉末とを、混合して成ることを特徴とする金属光造形用金属粉末。
【請求項3】
前記メカニカルアロイング法によって合金化される2種類以上の粉末の内の1つに、黒鉛粉末が含まれることを特徴とする請求項2に記載の金属光造形用金属粉末。
【請求項4】
金属粉末からなる粉末層に光ビームを照射して焼結層を形成する工程と、前記焼結層の積層により形成した造形物の表面部及び不要部分の両方又はいずれか一方の切削除去を行う工程と、を繰り返すことにより三次元形状造形物を得る金属光造形に用いられることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の金属光造形用金属粉末。
【請求項5】
前記組成粉末の内のメカニカルアロイング法によって合金化された金属粉末、及びメカニカルアロイング法によって合金化されていない金属粉末のそれぞれの平均粒子径が10〜40μmであることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載の金属光造形用金属粉末。
【請求項6】
前記組成粉末の内のメカニカルアロイング法によって合金化された金属粉末の平均粒子径がメカニカルアロイング法によって合金化されていない金属粉末の平均粒子径よりも大きく、
メカニカルアロイング法によって合金化された金属粉末が50〜80重量%であり、メカニカルアロイング法によって合金化されていない金属粉末が20〜50重量%であることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載の金属光造形用金属粉末。
【請求項7】
前記組成粉末の内のメカニカルアロイング法によって合金化された金属粉末の平均粒子径がメカニカルアロイング法によって合金化されていない金属粉末の平均粒子径よりも小さく、
メカニカルアロイング法によって合金化された金属粉末が20〜50重量%であり、メカニカルアロイング法によって合金化されていない金属粉末が50〜80重量%であることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載の金属光造形用金属粉末。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−50671(P2008−50671A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230327(P2006−230327)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】