説明

金属円筒体の成形方法及び金属円筒体

【課題】ブランク材に過度な負荷をかけることなく打ち抜き加工又は絞り加工を連続して行うことのできる金属円筒体の成形方法を提供する。
【解決手段】平板状の薄板Bから底なしの円筒体を製造する金属円筒体26の成形方法であって、薄板の一部を打ち抜いて円形状の穴である円形打ち抜き部21を形成する打ち抜き工程と、薄板の上方に設置された上押さえ部材14を下降させて、円形打ち抜き部の外周縁22を上方向に押し上げて上押さえ部材14の内壁で拘束させながら押し拡げフランジ付き円筒部材23を形成させるフランジ付きの円筒部材形成工程と、円筒状ダイスを貫入させた前記フランジ付き円筒部材の円筒状基部24に円筒状カッター18の先端19を突接させて、円筒状基部に接続しているフランジ部25を切断する切り離し工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属円筒体の成形方法に関するものであり、詳しくは、その生産性や品質歩留まりを向上させた金属円筒体の成形加工方法及び金属円筒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属円筒体の成形方法としては、パイプを適宜な寸法で切断して多数個のリング状の金属円筒体を製造する方法が知られている。
また、板厚の薄い金属板素材から円筒などの継目のない無底の金属円筒体を製造する方法として、パンチ,ダイスを用いて深絞り加工によって、一旦、底付き円筒体を製造し、底部分を切断する方法が知られている。深絞り加工においては、油圧プレスやメカプレスによるプレス加工装置が用いられ、加工対象となる薄板のブランク材をプレス機械のダイス上にブランクホルダーで固定し、ブランクホルダーに押え力を加えながらパンチを下降させることにより、ブランク材を底付き円筒体に塑性変形させるものである。
【0003】
このような加工方法として、例えば、特許文献1(特開平6−561号公報)には、ブランクをプレス加工して、筒状部と、前記筒状部の開口の一方を閉塞する底部と、前記筒状部の他方に設けられ半径方向外側に拡がるフランジ部とを有する成形品を形成して、前記成形品の底部を除去するようにして、両端部が拡径された筒状部材を製造する方法が記載されている。
【0004】
さらに、特許文献2(特開平7−124672号公報)には、平板なリング体にプレス加工を施してリング部が斜めに立ち上がったテーパ体を形成し、該テーパ体の小径側から内側にポンチを押入し、小径側をテーパ体の大径側とほぼ同径まで拡径して立ち上がりリングを形成し、該立ち上がりリングの外周面をダイで規制するとともに、立ち上がりリングの内側にポンチを圧入して所定形状のパイプリングを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−561号公報
【特許文献2】特開平7−124672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の底付き円筒体の底部分を切断して底なしのリング状の金属円筒体を成形する方法は、切断した底部分の材料が無駄になり、工程も増えて、生産能率が低く、製品コストも高くつくという課題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載のパイプリングの製造方法では、リング体からテーパ体を形成するためのポンチと、このテーパ体の内側を拡径するためのポンチに加えて、パイプリングに整形するためのポンチとを交換して用いることが必要であるため、工程が煩雑になるとともに多くの制御要因が必要となるため生産能率が低く、製品コストも高くつくという課題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、打ち抜き加工及びそれに続く円筒部材形成加工を連続して行うことにより、生産性に優れてた金属円筒体の成形方法を提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、このような成形方法によって成形された金属円筒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の金属円筒体の成形方法は、平板状の薄板から底なしの円筒体を製造する金属円筒体の成形方法であって、
薄板の一部を打ち抜いて円形状の穴である円形打ち抜き部を形成する打ち抜き工程と、
前記薄板の上方に設置された上押さえ部材を下降させて、
前記円形打ち抜き部の外周縁を上方向に押し上げて上押さえ部材の内壁で拘束させながら押し拡げフランジ付き円筒部材を形成させるフランジ付きの円筒部材形成工程と、
前記円筒状ダイスを貫入させた前記フランジ付き円筒部材の円筒状基部に円筒状カッターの先端を突接させて、前記円筒状基部に接続しているフランジ部を切断する切り離し工程と、を有して構成される。
(2)本発明の金属円筒体の成形方法は、前記(1)において、
前記円筒状基部に接続しているフランジ部を切断する切り離し工程に続き、
上押さえ部材及び下押さえ部材を上昇させるとともに上金型を押し下げて、
上押さえ部材の内壁に拘束され、フランジ部が切り離された金属円筒体を上押さえ部材の内壁から抜き取ることを特徴とする。
(3)本発明の金属円筒体は、
薄板の一部を打ち抜いて円形状の穴である円形打ち抜き部を形成し、
前記薄板の上方に設置された上押さえ部材を下降させて、
前記円形打ち抜き部の外周縁を上方向に押し上げて上押さえ部材の内壁で拘束させながら押し拡げフランジ付き円筒部材を形成し、
前記円筒状ダイスを貫入させた前記フランジ付き円筒部材の円筒状基部に円筒状カッターの先端を突接させて、前記円筒状基部に接続しているフランジ部を切断してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、薄板の一部を打ち抜いて円形状の穴である円形打ち抜き部を形成する打ち抜き工程と、前記薄板の上方に設置された上押さえ部材を下降させて、
前記円形打ち抜き部の外周縁を上方向に押し上げて上押さえ部材の内壁で拘束させながら押し拡げフランジ付き円筒部材を形成させるフランジ付きの円筒部材形成工程と、
前記円筒状ダイスを貫入させた前記フランジ付き円筒部材の円筒状基部に円筒状カッターの先端を突接させて、前記円筒状基部に接続しているフランジ部を切断する切り離し工程と、を有して構成されるので、
打ち抜き加工及びそれに続く円筒部材形成加工を連続して行うことにより、生産性に優れた金属円筒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態の金属円筒体の成形方法の概略説明図((a)打ち抜き工程〜(c)フランジ付きの円筒部材形成工程)である。
【図2】実施形態の金属円筒体の成形方法の概略説明図((d)フランジ付き円筒部材〜(e)切り離し工程)である。
【図3】実施形態の金属円筒体の成形方法が適用される円筒体加工装置の全体概略図である。
【図4】実施形態の金属円筒体の成形方法の打ち抜き工程の縦左半断面概略説明図である。
【図5】実施形態の金属円筒体の成形方法のフランジ付きの円筒部材形成工程の初期段階の縦左半断面概略説明図である。
【図6】実施形態の金属円筒体の成形方法のフランジ付きの円筒部材形成工程の最終段階の縦左半断面概略説明図である。
【図7】実施形態の金属円筒体の成形方法の切り離し工程の縦左半断面概略説明図である。
【図8】実施形態の金属円筒体の成形方法の抜き取り工程の縦左半断面概略説明図である。
【図9】実施形態の金属円筒体の成形方法の抜き取り工程の縦左半断面概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る金属円筒体の成形方法を、図面を用いて具体的に説明する。
図1及び図2は金属円筒体の成形方法の概略説明図であり、図3は実施形態の金属円筒体の成形方法が適用される円筒体加工装置の全体概略図である。
図示するように、実施形態に係る金属円筒体の成形方法は、平板状の薄板から底なしの円筒体を製造する円筒体の成形方法であって、
薄板Bの一部を打ち抜いて円形状の穴である円形打ち抜き部21を形成する(図1(a))打ち抜き工程と、
前記薄板Bの上方に設置された上押さえ部材14及び下押さえ部材15を下降させて、
前記円形打ち抜き部21の外周縁22を上方向に押し上げて上押さえ部材14の内壁で拘束させながら押し拡げフランジ付き円筒部材23(図1(c))を形成させるフランジ付きの円筒部材形成工程と、
前記円筒状ダイス12を貫入させた前記フランジ付き円筒部材23(図2(d))の円筒状基部24に円筒状カッター18の先端19を突接させて、
前記円筒状基部24に接続しているフランジ部25を切断する(図2(e))切り離し工程と、を有して構成される。
【0013】
すなわち、打ち抜き工程は、円形断面のパンチ11と円筒状ダイス12を用いて、平板状の薄板Bの一部分を打ち抜いて円形状の穴(円形打ち抜き部21)を形成する工程である。
平板状の薄板Bとしては、例えば、低炭素鋼や低炭素合金鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金などの材質が挙げられる。薄板としては、例えば、厚み0.1〜5mmのものが挙げられる。円形状の穴(円形打ち抜き部21)としては、例えば、直径50〜700mmのものが挙げられる。
【0014】
フランジ付きの円筒部材形成工程は、前記円形打ち抜き部21の外周縁22の上方に設置された上押さえ部材14及び下押さえ部材15を下降させて、前記円形打ち抜き部21(円形状の穴)の外周縁22の薄板Bを上方向に押し上げて塑性変形させ、円筒状ダイス12の外壁及び上押さえ部材14の内壁で拘束させながら押し拡げフランジ付き円筒部材23を形成させる工程である。
円筒状ダイス12は円筒形状を有しており、その軸芯が打ち抜かれた円形打ち抜き部21と同軸となるように、上押さえ部材14の下方に配置されている。
また、円筒状ダイス12の先端側(上方)の外周面は、縦断面視において湾曲形状12bを形成しており、前記円形打ち抜き部21の外周縁22を上方向に押し上げて塑性変形させる際の抵抗を減少させることができるようになっている。
【0015】
そして、上方に設置された上押さえ部材14及び下押さえ部材15を下降させることで、前記円形打ち抜き部21(円形状の穴)の外周縁22を上方向に押し上げて塑性変形させる。
上方に設置された上押さえ部材14の下降に伴って、円形打ち抜き部21の外周縁22は、形成されるフランジ付き円筒部材23の円筒状基部24を起点として、上押さえ部材14の内壁に拘束されつつ、上方向に押し上げられるとともに押し拡げられてフランジ付き円筒部材23となる(図1(d))。
【0016】
切り離し工程は、前記フランジ付きの円筒部材形成工程で形成されたフランジ付き円筒部材23に円筒状ダイス12を貫入したままの状態で、フランジ付き円筒部材23の円筒状基部24に円筒状カッター18の先端19を突接させて、フランジ付き円筒部材23の底部に形成されたフランジ部25と、円筒状基部24から立設された金属円筒体26と、を切り離す工程である。
【0017】
以下、本発明の金属円筒体の成形方法について、成形装置とともにさらに詳細に説明する。
図3は、本発明の実施形態の金属円筒体の成形方法が適用される円筒体加工装置の全体概略図である。
図4は、本発明の実施形態の金属円筒体の成形方法の打ち抜き工程の概略説明図である。
図5は、本発明の実施形態の金属円筒体の成形方法のフランジ付きの円筒部材形成工程の初期段階の概略説明図である。
図6は、本発明の実施形態の金属円筒体の成形方法のフランジ付きの円筒部材形成工程の最終段階の概略説明図である。
図7は、本発明の実施形態の金属円筒体の成形方法の切り離し工程の概略説明図である。
図8は、本発明の実施形態の金属円筒体の成形方法の抜き取り工程の概略説明図である。
図9は、本発明の実施形態の金属円筒体の成形方法の抜き取り工程の概略説明図である。
【0018】
円筒体加工装置10は、図3に示すように、所定の円筒状ダイス12とパンチ11とを用いた打ち抜き工程により、コイルから巻き戻された平板状の薄板Bの中央部に、穴径Dbの円形打ち抜き部21を形成するともに、円形打ち抜き部21の外周縁22をさらに押し拡げた後、金属円筒体の切り離し及び抜き取りを行う装置である。
図示するように、円筒体加工装置10は、円形打ち抜き部21を形成するための、外径Ddを有するパンチ11と、内径Ddを有する円筒状ダイス12と、薄板Bを円筒状ダイス12との間で押さえるための上金型13と、を備えている。
また、円筒体加工装置10は、形成された円形打ち抜き部21の外周縁22を押し拡げて、フランジ付き円筒部材23を形成させるための装置部を備えている。
すなわち、貫入させる円筒状ダイス12により押し拡げられる外周縁22を外方から拘束する上押さえ部材14(前記外周縁22の上方に設けられている)と、
円形打ち抜き部21の外周縁22の外周面を上押さえ部材14との間で押圧して固定するためのリング状の下押さえ部材15と、
フランジ付き円筒部材23の底部に形成されたフランジ部25と円筒状基部24から立設された金属円筒体26とを切断するために、装置下方に上下動可能に設けられた円筒状カッター18と、を備えて構成されている。
【0019】
以上のように構成された円筒体加工装置10を用いて、本発明の実施形態の金属円筒体の成形方法は、
図4に示すように、まず、薄板Bの円形打ち抜き部21の予定部をパンチ11と円筒状ダイス12との間に配設し、円形打ち抜き部21の予定部の外周面を円筒状ダイス12と上金型13との間で押さえて固定するとともに、円形断面のパンチ11を円筒状ダイス12内に下降させ、平板状の薄板Bの一部分を打ち抜いて円形状の穴(円形打ち抜き部21)を形成する(打ち抜き工程)。
【0020】
次に、図5に示すように、上押さえ部材14及び下押さえ部材15を下降させることで、円筒状ダイス12を上押さえ部材14内に貫入させて、円形打ち抜き部21の外周縁22を、上押さえ部材14の内壁で拘束させつつ上方向に押し拡げる(フランジ付きの円筒部材形成工程)。
【0021】
さらに、図6に示すように、さらに上押さえ部材14及び下押さえ部材15を、外周縁22の内方側が円筒状ダイス12の湾曲形状12bから外れるまで下降させ、外周縁22を金属円筒体26に形成する。
そして、図7に示すように、円筒状ダイス12の外周に上下動可能に配設した円筒状の先端(刃先)19を有する円筒状カッター18を、フランジ付き円筒部材23の円筒状基部24に円筒状カッター18の先端19を突接させて、円筒状基部24に接続しているフランジ部25を切断する(切り離し工程)。
【0022】
最後に、図8に示すように上押さえ部材14及び下押さえ部材15を上昇させ、図9に示すように上金型13を押し下げて、上押さえ部材14の内壁に拘束されフランジ部25が切り離された金属円筒体26を、上押さえ部材14の内壁から抜き取る。
【0023】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした形態例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる形態で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、自動車部品をはじめ一般機械部品として広く適用が可能であり、加工工程を連続して効率的に行うことで生産性向上を図ることができ、産業上の利用可能性が極めて高い。
【符号の説明】
【0025】
B 薄板
10 円筒体加工装置
11 パンチ
12 円筒状ダイス
12b 湾曲形状
13 上金型
14 上押さえ部材
14a 内壁
15 下押さえ部材
18 円筒状カッター
19 先端(刃先)
21 円形打ち抜き部
22 円形打ち抜き部の外周縁
23 フランジ付き円筒部材
24 円筒状基部
25 フランジ部
26 金属円筒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の薄板から底なしの円筒体を製造する金属円筒体の成形方法であって、
薄板の一部を打ち抜いて円形状の穴である円形打ち抜き部を形成する打ち抜き工程と、
前記薄板の上方に設置された上押さえ部材を下降させて、
前記円形打ち抜き部の外周縁を上方向に押し上げて上押さえ部材の内壁で拘束させながら押し拡げフランジ付き円筒部材を形成させるフランジ付きの円筒部材形成工程と、
前記円筒状ダイスを貫入させた前記フランジ付き円筒部材の円筒状基部に円筒状カッターの先端を突接させて、前記円筒状基部に接続しているフランジ部を切断する切り離し工程と、を有することを特徴とする金属円筒体の成形方法。
【請求項2】
前記円筒状基部に接続しているフランジ部を切断する切り離し工程に続き、
上押さえ部材及び下押さえ部材を上昇させるとともに上金型を押し下げて、
上押さえ部材の内壁に拘束され、フランジ部が切り離された金属円筒体を上押さえ部材の内壁から抜き取ることを特徴とする請求項1に記載の金属円筒体の成形方法。
【請求項3】
薄板の一部を打ち抜いて円形状の穴である円形打ち抜き部を形成し、
前記薄板の上方に設置された上押さえ部材を下降させて、
前記円形打ち抜き部の外周縁を上方向に押し上げて上押さえ部材の内壁で拘束させながら押し拡げフランジ付き円筒部材を形成し、
前記円筒状ダイスを貫入させた前記フランジ付き円筒部材の円筒状基部に円筒状カッターの先端を突接させて、前記円筒状基部に接続しているフランジ部を切断してなることを特徴とする底なしの金属円筒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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