説明

金属又は半金属酸化物微粒子の製造方法

【課題】凝集が抑制された高分散性の金属又は半金属の酸化物微粒子を含む高濃度の分散液を直接製造する方法を提供すること。
【解決手段】金属又は半金属のイオンを含む水溶液と、該水溶液のpHを上昇又は降下させ得る剤とを混合して、該金属又は半金属を含む含酸素化合物を生じさせ;水と有機分散媒とを溶媒置換して、前記含酸素化合物を含む有機分散液を得;前記有機分散液を加熱する工程を含む金属又は半金属酸化物微粒子の製造方法である。含酸素化合物を含む有機分散液を加熱するときに、下記の(イ)又は(ロ)の条件を採用する。
(イ)有機分散媒中に酢酸を存在させ、酢酸/金属原子のモル比を10超とする。
(ロ)有機分散媒中に炭素数3以上の有機カルボン酸を存在させ、有機カルボン酸/金属原子のモル比を5以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属や半金属の酸化物の微粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性金属塩の水溶液とアルカリとを混合し、それによって生成した金属水酸化物を有機溶媒中で加熱処理することで、金属酸化物のナノ粒子を含む分散液を製造する方法が知られている。例えば、ITOナノ粒子の分散液の製造方法として、(a)インジウム化合物及びスズ化合物の混合水溶液と塩基性水溶液とを反応させゲルを生成する工程、(b)前記生成ゲルから溶媒置換により水分を取り除き、酢酸を含むアルコール類中に分散させる工程、及び(c)前記生成分散物を150〜300℃で加熱処理する工程からなる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
別のITOナノ粒子の分散液の製造方法として、スズを含有するインジウム水酸化物を、テトラエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等からなる有機溶媒中で240℃以上350℃以下の温度で加熱処理をすることによりITOを得る方法も提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−123403号公報
【特許文献2】特開2007−269617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術に従って直接得られるITOナノ粒子の分散液においては、ITOナノ粒子の濃度が高々数パーセントであり、高濃度の分散液を得ることが困難である。高濃度の分散液を直接得ようとすると、ITOナノ粒子の凝集が生じてしまう。そこで、分散液の製造後にその濃度を高めることを目的として、例えば特許文献1には、分散液の製造後に限外濾過やロータリーエバポレータを用いた濃縮操作を行うことが提案されている。しかしそのような付加的な操作は製造工程を煩雑にするものである。
【0006】
発明の目的は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る金属又は半金属酸化物微粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、1種又は2種以上の金属又は半金属のイオンを含む水溶液と、該水溶液のpHを上昇又は降下させ得る剤とを混合して、該金属又は半金属を含む含酸素化合物を生じさせ、
水と有機分散媒とを溶媒置換して、前記含酸素化合物を含む有機分散液を得、
前記有機分散液を加熱する工程を含む金属又は半金属酸化物微粒子の製造方法であって、
前記含酸素化合物を含む前記有機分散液を加熱するときに、下記の(イ)又は(ロ)の条件を採用することを特徴とする金属又は半金属酸化物微粒子の製造方法するものである。
(イ)有機分散媒中に酢酸を存在させ、酢酸/金属原子のモル比を10超とする。
(ロ)有機分散媒中に炭素数3以上の有機カルボン酸を存在させ、有機カルボン酸/金属原子のモル比を5以上とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、凝集が抑制された分散性の高い金属及び/又は半金属の酸化物微粒子を含む高濃度の分散液を直接製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の製造方法は、(i)金属及び/又は半金属のイオンを含む水溶液と、該水溶液のpHを上昇又は降下させ得る剤とを混合して、該金属及び/又は該半金属を含む含酸素化合物を生じさせる工程、及び(ii)該含酸素化合物を分散媒中で加熱する工程の2つに大別される。これらの工程を行うことで、数nmないし数十nmという極めて微粒の金属及び/又は半金属の酸化物粒子が高分散状態で含まれた高濃度(例えば5重量%以上)の分散液を直接得ることが可能となる。以下、それぞれの工程について説明する。
【0010】
(i)の工程においては、1種又は2種以上の金属イオン及び/又は半金属を用いることができる。金属としては、典型元素の金属及び遷移元素の金属のいずれも用いることができる。特に好ましい金属及び/又は半金属は、酸化物が電子伝導性を示す金属である。そのような金属及び半金属としては、例えばアルカリ金属及びアルカリ土類金属を除く典型元素の金属及び半金属が挙げられる。好ましくは周期律表の第12属ないし第15属の金属及び半金属が挙げられ、特に好ましくはインジウム、錫、亜鉛、アンチモン、アルミニウム、ガリウム、又はカドミウムが挙げられる。
【0011】
上述した金属及び/又は半金属は水溶性塩の状態で用いられ、これを水に溶解することで水溶液が調製される。水溶液中の金属及び/又は半金属イオンの濃度は0.01〜5.0mol/L、特に0.1〜2.0mol/Lに設定することが、微粒の含酸素化合物を容易に得られる点及び工業量産性の点から好ましい。金属イオン及び/又は半金属イオンを2種以上用いる場合には、すべての金属イオン及び半金属イオンの合計の濃度が前記の範囲内となることが好ましい。なお、前記の水溶性塩には、目的とする金属又は半金属の他に、アルカリ金属やアルカリ土類金属等の導電性発現に寄与し難い金属が含まれる場合があるところ、そのような金属は、前記の濃度の算出には含まれない。
【0012】
上述した水溶性金属塩としては、金属及び半金属の種類に応じて適切なものが選択される。例えば金属がインジウムである場合には、硝酸インジウムや三塩化インジウム等が用いられる。金属が錫である場合には、二塩化錫や四塩化錫等が用いられる。また、後述するSnCl3やNa2SnO3を用いることもできる。金属が亜鉛である場合には、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛等が用いられる。
【0013】
前記の水溶液と混合する剤としては、該水溶液のpHを上昇又は降下させ得るものが用いられる。pHを上昇させ得る剤を用いるか、あるいはpHを降下させ得る剤を用いるかは、水溶液に含まれる金属及び/又は半金属のイオンの種類に応じて適切なものが用いられる。例えば金属又は半金属のイオンの含酸素化合物が、pHの上昇によって生成する場合、例えば金属としてインジウムを用いる場合には、アルカリを用いることができる。また、金属としてアンチモンを用い、アンチモンをSbCl3の濃HCl溶液の状態で用いる場合には、水を添加するだけの操作でpHが上昇して錫の含酸素化合物であるSb23又はSb25が生成する。金属として錫を用いる場合には、pHを降下させても含酸素化合物を生成させることができる。例えば錫酸ナトリウム(Na2SnO3)の水溶液を用いた場合には、pHを降下させる剤として酸を用いることで、SnO2が生成する。
【0014】
pHを上昇させ得る剤としてアルカリを用いる場合には、例えばアルカリ金属の水酸化物及びアルカリ土類金属の水酸化物や、アンモニアを用いることができる。添加するアルカリの濃度は、工業的量産性の点から、0.05〜15mol/L、特に0.1〜10mol/Lであることが好ましい。アルカリの添加量は、前記の水溶液中に、目的とする含酸素化合物が生成するような量であればよく、目的とする含酸素化合物が生成する限り、過剰量のアルカリを添加することは妨げられない。例えば、金属及び/又は半金属の種類にもよるが、金属及び/又は半金属のイオンをそれらの水酸化物、オキシ水酸化物及び/又は酸化物として生成させるための当量の90%以上添加することが好ましい。
【0015】
pHを降下させ得る剤として酸を用いる場合には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸及びシュウ酸等に代表されるブレンステッド酸を用いることができる。これらの酸の濃度は、工業的量産性の点から、0.05〜18mol/L、特に0.1〜12mol/Lであることが好ましい。
【0016】
前記の水溶液と前記の剤との反応は、水溶液中に前記の剤を添加して開始させてもよく、あるいは前記の剤中に水溶液を添加して開始させてもよい。
【0017】
前記の水溶液と前記の剤とが反応することによって、液中には主として前記の金属及び/又は半金属の水酸化物、オキシ水酸化物若しくは酸化物又はそれらの含水物からなる含酸素化合物が反応生成物として生じる。どのような含酸素化合物が生じるかは、(i)の工程における反応条件や、使用する金属及び/又は半金属の種類等によって決定される。金属が例えばインジウムである場合には、一般に水酸化物又はオキシ水酸化物が生成する。一方、金属が例えば錫である場合には、一般に酸化物が生成する。金属が例えば亜鉛である場合には、反応条件に応じて水酸化物又は酸化物が生成する。なお、以下の説明では、これらの含酸素化合物のことを、説明の便宜上、「前駆体」と呼ぶこととする。
【0018】
前駆体は一般に水不溶性のものである。したがって、前駆体は液中において沈殿した状態になるか、又は液中に分散した状態となる。この状態の液を、デカンテーション等の手段を用いて洗浄して、不純物を除去し、前駆体を含む水分散液を得る。この水分散液における前駆体の濃度(250℃で1時間加熱したときの固形分濃度)は1〜50重量%、特に5〜20重量%とすることが、後工程である(ii)の工程における有機溶媒中での加熱処理において、水を留去するために要するエネルギー量の節減と、前駆体の流動性(取扱い性)の向上とのバランスの点から好ましい。
【0019】
前記の洗浄においては、前駆体の分散及び凝集状態を制御することを目的として、水分散液中に酸又はアルカリを添加してpHを調整してもよい。酸としては、無機酸や有機酸を用いることができる。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アンモニア等の水溶液を用いることができる。
【0020】
前記の水分散液中における前駆体は、一次粒子径が好ましくは1〜100nm、更に好ましくは2〜10nmの粒子が単分散した状態であるか、又は該粒子が若干凝集して二次凝集体となった状態である。一次粒子径が前記の範囲となる前駆体を得るためには、例えば前記の水溶液と前記の剤との反応において、金属及び/又は半金属のイオンの水溶液か、あるいは前記の剤のいずれか一方をフィード液とし、残る一方を母液として、フィード液を母液中に徐々に添加することが好ましい。フィード速度は、例えば後述する実施例のスケールで実施する場合には、フィード液を0.2〜5.0時間かけて添加するような速度であることが好ましい。
【0021】
このようにして得られた水分散液を用い、これを上述した(ii)の工程に供する。(ii)の工程では、上述したとおり有機分散媒が用いられる。これに対して、前記の水分散液は水を分散媒とするものなので、これを(ii)の工程に供するためには分散媒の置換を行う必要がある。そこで、前記の水分散液に、相溶剤を加え、また前駆体の分散剤を加え、更に有機分散媒を加える。これらが加えられた液を攪拌しながら加熱することで、水及び相溶剤を蒸発によって除去する。これによって、前駆体が、分散剤を含む有機分散媒に分散してなる加熱用分散液が得られる。
【0022】
前記の相溶剤としては、水及び有機分散媒の双方に可溶な物質を用いることができる。そのような物質としては、有機分散媒の種類に応じて適切なものが選択される。一例として、沸点が水の沸点よりも高く、かつ(ii)の工程での加熱温度未満の有機化合物(例えば沸点が100℃超170℃未満の有機化合物)を用いることができる。有機分散媒が例えば後述するアルコール類からなる場合には、相溶剤として、2−エトキシエタノール、2−メトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−メトキシメトキシエタノール、1−エトキシ−2−プロパノール等を用いることができる。相溶剤の使用量は、有機分散媒の重量に対して5〜200重量%、特に10〜100重量%とすることが好ましい。
【0023】
有機分散媒としては、常温で液体であり、かつ高沸点のものを用いることが、(ii)の工程中に該有機分散媒が蒸発によって減少することや熱分解することを抑制できる点から好ましい。例えば1気圧における沸点が150℃以上、特に170℃以上の有機化合物を用いることが好ましい。
【0024】
上述の沸点を有する有機化合物のうち、特にアルコールを用いることが、(ii)の工程において、目的とする金属酸化物微粒子を首尾良く得ることができる点で好ましい。アルコールとしては、一価アルコール及び多価アルコールのいずれも用いることができる。例えば、α−テルピネオール、2−フェノキシエタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ポリエチレングリコール、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、2−ヘキシルオキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、ペンタンジオール、トリプロプレングリコール、ブタンジオール、ブテンジオール、2−メトキシメチルエトキシプロパノール、2−[(2−エトキシエトキシ)エトキシ]エタノール、2−[(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エタノール、2−(2−プロポキシエトキシ)エタノール等を用いることができる。
【0025】
特に、アルコールとしてエチレンオキサイド単位、すなわち−(CH2−CH2−O)−単位を2以上有するアルコールを用いることが、目的とする金属酸化物微粒子を一層首尾良く得ることができる点で好ましい。そのようなアルコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ポリエチレングリコール、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−ヘキシルオキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、2−[(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エタノール、2−[(2−エトキシエトキシ)エトキシ]エタノール、2−(2−プロポキシエトキシ)エタノールなどが挙げられる。
【0026】
エチレンオキサイド単位を2以上有するアルコールのうち、特に好ましいものは、以下の式(A)で表される片末端のみに水酸基を有する一価アルコールである。
R−(CH2CH2O)n−H (A)
式(A)中、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、nは2〜5の整数を表す。
【0027】
前記の式(A)で表されるアルコールを分散媒として用いることで、(ii)の工程において、目的とする金属酸化物微粒子を一層首尾良く得ることができる。このようなアルコールの例としては、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール、2−(2−プロポキシエトキシ)エタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、2−ヘキシルオキシエタノール、2−[(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エタノール、2−[(2−エトキシエトキシ)エトキシ]エタノールなどが挙げられる。
【0028】
有機分散媒とともに添加される分散剤としては、(i)の工程で得られた前駆体を、有機分散媒中で安定して単分散可能な物質が用いられる。本発明においては、かかる分散剤として(a)酢酸又は(b)炭素数3以上の有機カルボン酸を用いる。炭素数3以上の有機カルボン酸としては、飽和脂肪酸を用いることが好ましく、特に直鎖の飽和脂肪酸を用いることが好ましい。そのような有機カルボン酸の例としては、プロピオン酸、酪酸、吉草酸などの炭素数3〜5の直鎖低級飽和脂肪酸が挙げられる。
【0029】
分散媒の置換によって得られた加熱用分散液に含まれる前駆体の量は、分散媒の重量に対して0.1〜60重量%、特に0.5〜30重量%であることが、高分散性の酸化物微粒子を得る点、及び経済性の点から好ましい。
【0030】
以上のようにして得られた加熱用分散液を(ii)の工程において用いる。本工程においては、加熱用分散液を加熱することで、目的とする金属及び/又は半金属の酸化物の微粒子を得る。(i)の工程において得られた前駆体が水酸化物又はオキシ水酸化物である場合には、(ii)の工程において、これらの化合物から酸化物が生成する。(i)の工程において得られた前駆体が既に酸化物である場合には、(ii)の工程において、該酸化物の粒子の微粒化及び/又は高分散化が起こる。なお、上述した溶媒置換の工程において系を加熱する場合には、前駆体の一部が先行して酸化物になったり、粒子の微粒化が起こったりすることがある。このことは、本発明において何らの支障も来さない。
【0031】
(ii)の工程においては、加熱用分散液に含まれる2つの成分、すなわち分散剤の量と、(i)の工程において得られた前駆体の量との比率を調整することが重要であることが本発明者らの検討の結果判明した。詳細には、分散剤として前記の(a)のカルボン酸を用いる場合には、〔(a)のカルボン酸/前駆体中の金属原子の総量〕のモル比を10超、好ましくは11〜200、更に好ましくは11〜100に調整することで、目的とする微粒の金属酸化物が高分散状態で含まれる高濃度の分散液を直接得ることが可能となる。一方、分散剤として前記の(b)のカルボン酸を用いる場合には、〔(b)のカルボン酸/前駆体中の金属原子の総量〕のモル比を5以上、好ましくは5〜100、更に好ましくは5〜20に調整することで、目的とする微粒の金属酸化物が高分散状態で含まれる高濃度の分散液を直接得ることが可能となる。なお、前記のモル比の算出に関し、(i)の工程において得られた前駆体中に2種以上の金属が含まれている場合には、分母の金属原子のモル数とは、すべての金属原子のモル数の合計量を意味する。
【0032】
(ii)の工程における分散液の加熱は、大気中において、大気圧下に行うことが簡便である。尤もオートクレーブ等を用いた加圧下に加熱を行うことは妨げられない。本工程においては、加熱温度が低いことが特徴の一つである。具体的には、金属水酸化物等から酸化物を得るために従来行われてきた焼結工程の場合には、加熱温度を高くする必要があるところ、湿式での加熱を行う本工程においては、それよりも加熱温度を低く設定しても酸化物を得ることができる。例えばインジウム及び錫を含む水酸化物を大気中で焼結して錫ドープ酸化インジウムを得る場合には、加熱温度を250℃程度に設定する必要があるのに対し、本工程においては170〜200℃程度の加熱温度でも錫ドープ酸化インジウムを得ることができる。
【0033】
加熱時間は、金属及び/又は半金属の種類に応じて適切な値が選択され、大気圧下の加熱の場合、好ましくは150〜250℃、更に好ましくは170〜230℃であれば、満足すべき品質の金属及び/又は半金属の酸化物微粒子を得ることができる。加熱時間は、本発明において臨界的ではなく、例えば1〜50時間、特に1〜10時間であることが好ましい。
【0034】
以上の各工程を行うことで、金属及び/又は半金属の酸化物の微粒子を含む有機分散液が得られる。具体的な酸化物としては、錫ドープ酸化インジウム(以下「ITO」ともいう。)、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛などの電子伝導性を有する金属酸化物が好適である。また、金属及び半金属の双方を含む電子伝導性酸化物であるアンチモンドープ酸化錫も好適である。本製造方法によれば、金属酸化物の粒子を、従来行われてきた焼成工程を経ることなく、全工程湿式処理で得ることができる。したがって、本製造方法によれば、焼成工程を行う場合の不都合である焼結凝集に起因する粗大粒子の生成の懸念がなく、分散性の高い微粒子を得ることができる。具体的には、分散液中における金属及び/又は半金属の酸化物の微粒子は、その一次粒子平均粒径が1〜30nm、特に3〜10nmという極めて小さなものである。そのような小さな粒子であるにもかかわらず、該粒子は分散状態が極めて良好である。また、この高分散状態は長期間安定に維持される。
【0035】
更に、得られた有機分散液は、高分散状態の酸化物の微粒子を、例えば5重量%以上の高濃度で含むものである。換言すれば、本製造方法によれば、酸化物の微粒子を含む高濃度の有機分散液を直接製造することができる。したがって、本発明の製造方法によれば、金属及び/又は半金属の微粒子の生産性を従来よりも高めることが可能となる。ここでいう金属及び/又は半金属の酸化物の微粒子の濃度とは、(ii)の工程の直後のものであり、(ii)の工程が完了した後に、何らの操作も行っていない状態で測定された有機分散液中の酸化物の微粒子の濃度を意味する。また、直接製造するとは、(ii)の工程が完了した後に、何らの操作(例えば濃縮等)も行わずに目的とする有機分散液を得ることをいう。なお、その後、限外濾過膜等を使用して濃縮し、分散状態を維持したまま、高濃度化することも可能である。
【0036】
このようにして得られた有機分散液は、これに種々の成分を添加することで、又は他の分散媒と置換することで、例えばインクジェット印刷用インクを始めとする各種のインクとなすことができる。また、ペーストとなすこともできる。金属酸化物が電子伝導性を有する場合、これらのインクやペーストを用いることで、例えば液晶ディスプレー、プラズマディスプレーパネル、太陽電池、タッチパネル等の透明電極を形成することができる。また、透明な帯電防止膜や電磁波遮蔽膜を形成することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0038】
〔実施例1〕
In含有量が310g/Lの硝酸インジウム水溶液45mLと、35%四塩化錫5水和物水溶液9.305gとを、1400mLの純水に添加し、よく混合して水溶液を得た。この水溶液を室温で攪拌しながら、そこに8.3%アンモニア水溶液を、pHが5.0〜6.0の間になるまで、約30分かけて一定速度で添加した。添加終了後、室温で1時間攪拌を続けた。その結果、主として、インジウム及び錫を含む水酸化物の水分散液が得られた。この水分散液の上澄みの導電率が100μS/cm以下になるまで、純水でデカンテーション洗浄を繰り返した。最後に、上澄みを除去し、250℃で1時間加熱したときの固形分濃度(ITO濃度)が、約15%になるよう調整した。
【0039】
ガラス製の300ml三ツ口フラスコに、相溶剤としての2−エトキシエタノール46.6gと、分散剤としての酢酸108g(1.8mol)を入れ、そこに、ITOとして2.51g(In及びSnの合計モル数=0.018mol)に相当する量の、主として水酸化物を含む前記水分散液を添加した。更に、分散媒としての2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールを47.7g加えた。これらを十分に攪拌しながらオイルバスで加温して、水と2−エトキシエタノールを留去し、主として、インジウム及び錫を含む水酸化物が分散した加熱用分散液を得た。
【0040】
次いで加熱用分散液を200℃に保ちながら5時間大気中で加熱した。これによって前記の反応生成物から酸化物(ITO)を生成させた。このようにしてITOの微粒子が分散してなる有機分散液を得た。
【0041】
〔実施例2〕
実施例1で用いた酢酸に代えて、プロピオン酸を6.67g(0.09mol)加えた以外は実施例1と同様にして、ITOの微粒子が分散してなる有機分散液を得た。
【0042】
〔実施例3〕
実施例1で用いた酢酸に代えて、プロピオン酸を13.3g(0.18mol)加えた以外は実施例1と同様にして、ITOの微粒子が分散してなる有機分散液を得た。
【0043】
〔実施例4〕
実施例1で用いた酢酸に代えて、吉草酸を18.4g(0.18mol)加えた以外は実施例1と同様にして、ITOの微粒子が分散してなる有機分散液を得た。
【0044】
〔実施例5〕
実施例1で用いた酢酸に代えて、プロピオン酸を13.3g(0.18mol)加え、かつ2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールに代えて、2−フェノキシエタノールを47.7g加えた以外は実施例1と同様にして、ITOの微粒子が分散してなる有機分散液を得た。
【0045】
〔実施例6〕
実施例1で用いた酢酸に代えて、プロピオン酸を13.3g(0.18mol)加え、かつ2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールに代えて、トリエチレングリコールを47.7g加えた以外は実施例1と同様にして、ITOの微粒子が分散してなる有機分散液を得た。
【0046】
〔実施例7〕
実施例1で用いた酢酸に代えて、プロピオン酸を13.3g(0.18mol)加え、かつ2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールに代えて、ポリエチレングリコール(平均分子量=200)を47.7g加えた以外は実施例1と同様にして、ITOの微粒子が分散してなる有機分散液を得た。
【0047】
〔実施例8〕
塩化インジウム41.9gと四塩化錫五水和物7.38gとを、180mLの純水に溶解し、混合水溶液を得た。別の容器において、炭酸水素アンモニウム81.5gを620gの純水に溶解し、炭酸水素アンモニウム水溶液を得た。炭酸水素アンモニウム水溶液を室温で攪拌しながら、約60分かけて、前記の混合水溶液を一定速度で添加した。添加終了後、室温で1時間攪拌を続けた。その結果、主として、インジウム及び錫を含む水酸化物の水分散液が得られた。この水分散液の上澄みの導電率が100μS/cm以下になるまで、純水でデカンテーション洗浄を繰り返した。最後に、上澄みを除去し、250℃で1時間加熱したときの固形分濃度(ITO濃度)が、約15%になるよう調整した。
【0048】
ガラス製の300ml三ツ口フラスコに、相溶剤としての2−エトキシエタノール46.6gと、分散剤としてのプロピオン酸13.3g(0.18mol)を入れ、そこに、ITOとして2.51g(In及びSnの合計モル数=0.018mol)に相当する量の、主として水酸化物を含む前記水分散液を添加した。更に、分散媒としての2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールを47.7g加えた。これらを十分に攪拌しながらオイルバスで加温して、水と2−エトキシエタノールを留去し、主として、インジウム及び錫を含む水酸化物が分散した加熱用分散液を得た。次いで加熱用分散液を200℃に保ちながら5時間大気中で加熱し、有機分散液を得た。
【0049】
〔比較例1〕
実施例8で用いたプロピオン酸に代えて、酢酸を3.6g(0.06mol)加え、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールに代えて、2−フェノキシエタノールを用い、かつITOとして0.84g(In及びSnの合計モル数=0.006mol)に相当する量の、主として水酸化物を含む実施例8と同じ水分散液を添加した以外は、実施例8と同様にして、有機分散液を得た。
【0050】
〔比較例2〕
比較例1で用いた酢酸の添加量を3.12g(0.052mol)とした以外は比較例1と同様にして、有機分散液を得た。
【0051】
〔比較例3〕
比較例1で用いた酢酸の添加量を1.08g(0.018mol)とした以外は比較例1と同様にして、有機分散液を得た。
【0052】
〔比較例4〕
実施例1においてプロピオン酸を添加しなかった以外は実施例2と同様にして、有機分散液を得た。
【0053】
〔比較例5〕
実施例3において、分散媒の置換をするときの水分散液の添加量を、ITOとして0.47g(金属モル数=0.0034mol)に相当する量とし、かつプロピオン酸に代えてn−ヘキシルアミンを3.44g(0.034mol)添加した以外は実施例3と同様にして、有機分散液を得た。
【0054】
〔比較例6〕
比較例5で用いたn−ヘキシルアミンに代えて、n−ブチルアミンを2.49g(0.034mol)加えた以外は比較例5と同様にして、有機分散液を得た。
【0055】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた有機分散液について、以下の方法でXRD測定用の試料を調製し、有機分散液中の粒子を同定した。更に、有機分散液中の粒子の分散性(製造直後及び25℃、60RH%の環境下に2ヶ月間保存した後)を、該有機分散液の目視観察で評価した。それらの結果を以下の表1及び表2に示す。また、実施例8で得られた有機分散液中の粒子のTEM像を図1に示す。更に、実施例8及び比較例2で得られた有機分散液中の粒子のXRDチャートを図2に示す。更に、実施例8で得られた有機分散液について、それに含まれる粒子の一次粒子平均粒径を以下の方法で測定したところ、3〜5nmの大きさであることが確認された。
【0056】
〔XRD測定用の試料の調製法〕
有機分散液10mLに、1%食塩水2mLを加えて粒子を沈殿させ、遠心分離により固液分離した。そこに、メタノールを10mL添加し、超音波を照射して粒子を完全に分散させた後に、再度、遠心分離により固液分離した。沈殿物を60℃で2時間大気乾燥した後、乳鉢で解砕して粉末XRD測定用の試料を調製した。
【0057】
〔一次粒子平均粒径の測定方法〕
有機分散液と等量のメタノールを加え、遠心分離(6000rpm×20分)により固液分離した。上澄みを除去して、再度、同量のメタノールを加え、超音波を照射し、粒子を完全に分散させた後、該粒子のTEM観察を実施した。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表1及び表2に示す結果から明らかなように、本発明の方法に従い得られた各実施例の有機分散液においては、ナノオーダーのITO粒子が高濃度であるにもかかわらず高分散状態になっていることが判る。そして、その高分散状態が長期間維持されていることが判る。これに対して、分散剤/金属原子のモル比が、本願発明の範囲外の条件で製造された各比較例の有機分散液を用いた場合は、前駆体の濃度が各実施例よりも低いにもかかわらず、これを加熱しても、前駆体は水酸化物の状態のままであるか、オキシ水酸化物までしか酸化されず、酸化物粒子を得ることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、実施例8で得られた有機分散液中の粒子のTEM像である。
【図2】図2は、実施例8及び比較例2で得られた有機分散液中の粒子のXRDチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種又は2種以上の金属又は半金属のイオンを含む水溶液と、該水溶液のpHを上昇又は降下させ得る剤とを混合して、該金属又は半金属を含む含酸素化合物を生じさせ、
水と有機分散媒とを溶媒置換して、前記含酸素化合物を含む有機分散液を得、
前記有機分散液を加熱する工程を含む金属又は半金属酸化物微粒子の製造方法であって、
前記含酸素化合物を含む前記有機分散液を加熱するときに、下記の(イ)又は(ロ)の条件を採用することを特徴とする金属又は半金属酸化物微粒子の製造方法。
(イ)有機分散媒中に酢酸を存在させ、酢酸/金属原子のモル比を10超とする。
(ロ)有機分散媒中に炭素数3以上の有機カルボン酸を存在させ、有機カルボン酸/金属原子のモル比を5以上とする。
【請求項2】
金属及び又は半金属として、その酸化物が電子伝導性を有するものを用いる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記水溶液のpHを上昇させ得る剤としてアルカリ又は水を用い、pHを降下させ得る剤として酸を用いる請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
有機分散媒がアルコールである請求項1ないし3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
アルコールが、エチレンオキサイド単位を2以上有するアルコールである請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
アルコールが、片末端にのみ水酸基を有する一価アルコールである請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
有機カルボン酸が飽和脂肪酸である請求項1ないし6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
飽和脂肪酸が直鎖のものである請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
直酸飽和脂肪酸が炭素数2〜5のものである請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
直酸飽和脂肪酸がプロピオン酸又は吉草酸である請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
金属又は半金属のイオンが、インジウム、錫、亜鉛、アンチモン、アルミニウム、ガリウム、又はカドミウムのイオンである請求項2ないし10のいずれかに記載の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−126376(P2010−126376A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300012(P2008−300012)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】