説明

金属含有ナノ層複合材及びその用途

小型の直線状ポリペプチドを含むペプチド−金属複合材料が開示され、但しこの場合、前記直線状ポリペプチドの少なくともいくつかが、それらの側鎖で酸又は塩基に配位した希土類金属を持つこと特徴とする。その結果得られる複合材は分子寸法のものよりも遥かに長い距離スケールにわたってスメクチック様の列を成して結晶化する。その結果、結晶(1-2 mg)は絶縁性であり、可視スペクトルにおいて透明である。前記の希土類は、当該のオリゴペプチドの線形寸法により決定される分離距離を持つ半二次元シートを形成する。磁化率M(B、T)は、2 Kまで、そしてSQUID磁力計を用いて電界では5.5 Tまで決定された。試料はすべて常磁性であった。磁化率の結晶性電界修飾が、ジスプロシウム(Dy)ベースの複合材では等温M(B)で明白であった。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、引用をもってその全文をここに援用することとする、2003年12月23日出願の米国仮特許出願一連番号60/532、322号に基づく優先権を主張するものである。
【0002】
政府支援
本発明は、米国科学基金からの助成金BES-972740、空軍MURI からのF49620-00-1-0283、及びNASAからの助成金NAG8-1699の提供による支援を受けてなされた。従って政府は本発明において特定の権利を有するものである。
【0003】
発明の背景
生物秩序は材料科学者を魅了する。生物石灰化組織及び構造は、デザインされた材料及び複合材のパターン及び秩序を制御する手段を示唆する。あるアプローチは、ペプチドを用いて結晶化を制御するものであり、このとき、ペプチドは結晶中の成長面/平面に選択的に吸着することで、これらの面の相対的成長速度を変え、形状を制御する。もう一つは、ミセル構造を用いて無機粒子の大きさ及び形状を制御するものである。三番目のアプローチとして、ペプチドによる化学的テンプレートを無機物(又は核酸塩に付着させて結晶を配向し)、他方、このペプチド分子の形状及び相互作用が無機ドメインの大きさ及び形状を形づくるものも想到することができる。この制御レベルを達成するには、予測可能なジオメトリで結びつかせる強力な「組込み」駆動力を持つ非対称のペプチド構造が必要である。コラーゲン、シルク又はケラチンなどの天然で生ずる材料で見られる線維性の直線状たんぱく質は、潜在的に有用な強力な直線状有機分子材料を合成するためのガイドの役目をすることができる。現代のバイオテクノロジの技術を用い、これらの生物学的に活性な材料をヒントにして、いくつかの直線状鎖状オリゴペプチド分子が開発されてきた。これらのオリゴペプチドは、溶液中では自己集合してスメクチック液晶様の構造を形成する傾向がある。当該オリゴペプチドの末端に酸性の基を持つアミノ酸を導入することにより、磁気陽イオンを酸化希土類の酸性溶液から付着させることができる。より重要なことに、これらの酸含有オリゴペプチドの純脱イオン水溶液は、酸化希土類を溶解させて、このオリゴペプチドに希土類イオンと錯体を形成させるためには充分に酸性である。乾燥させても、それらはそのスメクチック構造や、長さ規模での秩序、即ち、>>4-10nmの線形分子寸法、を保持している。希土類を付着させることにより、磁性の弱い結晶化オリゴペプチドも強力に常磁性となり、また外部からの磁界の印加に対して応答性となる。
【0004】
金属性磁気成分としての遷移金属と、長鎖脂肪酸とを用いた多様な層状材料が、Drillon らにより調査されている。4 nm (Cu2(OH)3(n-CmH2m+1CO2)・zH2O)といった大きな層間間隔を持つCuベースの系の一つの場合、この系は、約20K未満の自発的な磁気秩序に対しては不安定である。一般的に、これらの遷移金属ベースの系の3D秩序は、間隔に応じて反強磁性であるか、強磁性であるかのいずれかである。対照的に、希土類イオンは高スピンになり得るため、高スピンの磁気材料では貴重であり、これらにはナノ磁気材料においても用途があると考えられる。
【0005】
分子磁石へのアプローチは、固有のスピン系となる複雑な分子を生じさせるために有機金属化学に大きく依存してきた。分子間カップリングは、これらの複雑な分子を結晶又は他の秩序ある構成にすることに大きく依存している。カップリングの種類は、結晶の幾何学構造及び電子構造に依ると考えられる。好ましい磁気特性を達成するには、ナノドメイン(層)で強磁性のカップリングを行わせるか、あるいは、他の鎖に強磁的にカップリングできる大きな正味の双極子を磁気鎖に発生させることが必要である。一次元性の鎖の場合、キラル環境及び強力な局所的磁界が必要である。層間カップリングの場合、イオン同士の間の強力な強磁性相互作用が必要である。これらの制約により、探索することのできる分子磁気材料の化学的特長及び磁気特性に大きな限界ができている。
【0006】
発明の概要
ある実施態様では、本発明は、自己集成性らせん配列、及び、N末端、C末端又は両末端に官能基を含む配列を含むロッド形状のポリペプチド、並びに金属を含む秩序ある生体高分子材料に関し、この場合、前記金属は前記官能基に配位し、そして前記ロッド形状のポリペプチド自体は一連の層になるように配向し、但し前記ロッド形状のポリペプチドの軸は、前記層の平面に対して垂直である。
【0007】
更なる実施態様では、当該の線維性たんぱく質は、シルク、コラーゲン、ケラチン、アクチン、及びコリオンから成る群より選択される。更なる実施態様では、当該の線維性たんぱく質はシルクである。
【0008】
更なる実施態様では、当該の秩序ある生体高分子材料の自己集成性らせん配列、は、アラニン、グリシン、プロリン、又はセリン、あるいはこれらの組合せを含む。更なる実施態様では、当該ポリペプチドのN末端、C末端、又は両末端に官能基を含む配列は、グルタミン酸、リジン、ヒスチジン、システイン、及びアスパラギンから成る群より選択されるアミノ酸を含む。
【0009】
更なる実施態様では、本発明の秩序ある生体高分子材料は希土類金属である。更なる実施態様では、前記金属は、Gd、Dy、Pr、Ce、Er、Ho、又はこれらの混合物である。更なる実施態様では、前記金属はGd、Dy、又はこれらの混合物である。
【0010】
更なる実施態様では、本発明の秩序ある生体高分子材料は、当該の秩序ある生体高分子材料の層間間隔内に金属を含む。更なる実施態様では、当該の金属は遷移金属である。更なる実施態様では、前記の遷移金属は第二列遷移金属である。更なる実施態様では、前記の遷移金属は第三列遷移金属である。更なる実施態様では、前記の金属はCr、Mo、Co、Ni、Cu、Fe、Hg、Au、Ta、W、Pt、Ag、Pd、及びこれらの混合物から成る群より選択される。
【0011】
更なる実施態様では、本発明の秩序ある生体高分子材料は更にメタロイドを含む。更なる実施態様では、前記のメタロイドはSi、Ge 又はこれらの混合物である。
【0012】
更なる実施態様では、前記自己集成性らせん配列、と、官能基を含む配列とは、組み合わせたときに、以下の配列:
E3(GAGAGS)4E3
E5(GAGAGS)4E5
E6(GAGAGS)4E6
E3(GSPGPP)6E3
E5(GSPGPP)6E5
E6(GSPGPP)6E6
E2(GAGAGS)(1-6)E4
E4(GAGAGS)(1-6)E2
EEEAAAKEEE、
EECCAKEECE、
EEEGAGAGSEEE、
NNECACKCCNE、
EAAKEAAAK、
CCEAAAKDAAHC、
HCAAEAAAKCH、
NGCGN(GPAGPP)2NGCGN、
NGCGN(GAGAGA)NGCGN、
C(N)3(GGAGVA)6(N)3C、
N2 (GAGAGA)(GPCGPP)
(GAGAGA)N2
NGCGN(GSHGGS)(GAGAGA)
N5
N2 H
(GCAGAA)(GAAGAG) N2
N2
GCPGPP (GAAGPGAAG)GPPGPH(N)3
N5
GPCGHP GCPGPH (GPAGPP) (N)5
NGCGN(らせん配列)NGCGN、
NGCGN(らせん配列)H(らせん配列) N5
L4 H
GC(らせん配列)L5
(GL)5
GC(らせん配列)H(GL)5、又は
(LV)5
GPCGHP GCPGPH (らせん配列)(LV)5
のうちの一つを含む。
【0013】
更なる実施態様では、本発明の秩序ある生体高分子材料は、約10nm以下のロッド形状のポリペプチドの層を含む。更なる実施態様では、前記の層は約5nm以下である。更なる実施態様では、前記の層は約1nm以下である。
【0014】
別の実施態様では、本発明は、
a)凍結乾燥したオリゴペプチド粉末の水溶液を調製するステップと、
b)金属をステップa)の水溶液に加えるステップと、
c)選択的に、ステップb)からの混合物を攪拌するステップと、
d)選択的に、ステップb)又はc)からの混合物を加熱するステップと、
e)ステップb)、c)、又はd)からの混合物を約1時間乃至約24時間、放置するステップと、
f)ステップe)からの混合物から、いずれかの懸濁した金属を分離するステップと、
g)ステップf)からの溶液を乾燥させるステップと
を含む、本発明の秩序ある生体高分子材料を調製する方法に関する。
【0015】
更なる実施態様では、本発明の秩序ある生体高分子材料を調製する方法における金属は希土類金属であり、粉末酸化物の形である。更なる実施態様では、該金属は希土類金属であり、希塩酸溶液中の塩化物の形である。
【0016】
別の実施態様では、本発明は、
a)両親媒性又は剛性あるいは両者である、金属結合基を含有するペプチドを金属に配合して混合物を生じさせるステップと、
b)前記混合物から溶媒の一部分を除去して、液晶材料を生じさせるステップと、
c)前記液晶材料の温度を調節するステップと、
d)前記液晶材料から溶媒の一部分を除去するステップと
を含む、構成されたペプチド−金属錯体材料を調製する方法に関する。
【0017】
更なる実施態様では、当該のペプチドは:
E3(GAGAGS)4E3
E5(GAGAGS)4E5
E6(GAGAGS)4E6
E3(GSPGPP)6E3
E5(GSPGPP)6E5
E6(GSPGPP)6E6
E2(GAGAGS)(1-6)E4
E4(GAGAGS)(1-6)E2
EEEAAAKEEE、
EECCAKEECE、
EEEGAGAGSEEE、
NNECACKCCNE、
EAAKEAAAK、
CCEAAAKDAAHC、
HCAAEAAAKCH、
NGCGN(GPAGPP)2NGCGN、
NGCGN(GAGAGA)NGCGN、
C(N)3(GGAGVA)6(N)3C、
N2
(GAGAGA)(GPCGPP) (GAGAGA)N2
NGCGN(GSHGGS)(GAGAGA)
N5
N2
H (GCAGAA)(GAAGAG) N2
N2
GCPGPP (GAAGPGAAG)GPPGPH(N)3
N5
GPCGHP GCPGPH (GPAGPP) (N)5
NGCGN(らせん配列)NGCGN、
NGCGN(らせん配列)H(らせん配列) N5
L4
H GC(らせん配列)L5
(GL)5
GC(らせん配列)H(GL)5、及び
(LV)5
GPCGHP GCPGPH (らせん配列)(LV)5
から成る群より選択される配列を含む。
【0018】
更なる実施態様では、該金属は希土類金属である。更なる実施態様では、該金属はGd、Dy、Pr、Cs、Er、Ho、又はこれらの混合物である。更なる実施態様では、該金属はGd、Dy、又はこれらの混合物である。更なる実施態様では、該金属は遷移金属である。更なる実施態様では、該金属は第一列遷移金属である。更なる実施態様では、該金属は第二列遷移金属である。更なる実施態様では、該金属は第三列遷移金属である。更なる実施態様では、該金属はCr、Mo、Co、Ni、Cu、Au、Fe、Hg、Ta、W、Pt、Ag、Pd、及びこれらの混合物から成る群より選択される遷移金属である。更なる実施態様では、該金属は、陰イオン性ポリオキソメタレート、多核陽イオン性種、及びキラル錯体から成る群より選択される錯体の形の遷移金属である。更なる実施態様では、該陰イオン性ポリオキソメタレートは、イソポリモリブデート、ヘテロポリモリブデート、イソポリタングステート、及びヘテロポリタングステートから成る群より選択され;該多核陽イオン性種は、Ta6Cl122+、Ta6Br122+、W6Cl84+、及びW6Br84+から成る群より選択され;そして該キラル錯体はtris-ビピリジルルテニウム(II) 及び tris(テトラミンジヒドロキソコバルト(III)コバルト(III)陽イオン(原語:tris(tetramminedihydroxocobalt(III))cobalt(III)
cation)から成る群より選択される。
【0019】
別の実施態様では、本発明は、自己集成性らせん配列、を含むロッド形状のポリペプチドを含む、秩序ある生体高分子材料に関し、但しこの場合、前記自己集成性らせん配列、は:
EEEAAAKEEE、
EECCAKEECE、
EEEGAGAGSEEE、
NNECACKCCNE、
EAAKEAAAK、
CCEAAAKDAAHC、及び
HCAAEAAAKCH
から成る群より選択され、また前記ロッド形状のポリペプチドは、ある一つの層の一成分であり、前記ロッド形状のポリペプチドの軸は前記層の平面に対して垂直である。
【0020】
別の実施態様では、本発明は:
EEEAAAKEEE、
EECCAKEECE、
EEEGAGAGSEEE、
NNECACKCCNE、
EAAKEAAAK、
CCEAAAKDAAHC、及び
HCAAEAAAKCH
から成る群より選択されるペプチド配列に関する。
【0021】
更なる実施態様では、本発明は:
EEEAAAKEEE、
EECCAKEECE、
EEEGAGAGSEEE、
NNECACKCCNE、
EAAKEAAAK、
CCEAAAKDAAHC、及び
HCAAEAAAKCH
から成る群より選択されるペプチド配列を含む高分子に関する。
【0022】
別の実施態様では、本発明は、自己集成性らせん配列、と、N末端又はC末端又は両者の金属結合基とを含む、ロッド形状のポリペプチドに関し、但しこの場合、前記自己集成性らせん配列、は:
E3(GAGAGS)4E3
E5(GAGAGS)4E5
E6(GAGAGS)4E6
E3(GSPGPP)6E3
E5(GSPGPP)6E5
E6(GSPGPP)6E6
E2(GAGAGS)(1-6)E4
E4(GAGAGS)(1-6)E2
EEEAAAKEEE、
EECCAKEECE、
EEEGAGAGSEEE、
NNECACKCCNE、
EAAKEAAAK、
CCEAAAKDAAHC、
HCAAEAAAKCH、
NGCGN(GPAGPP)2NGCGN、
NGCGN(GAGAGA)NGCGN、
C(N)3(GGAGVA)6(N)3C、
N2
(GAGAGA)(GPCGPP) (GAGAGA)N2
NGCGN(GSHGGS)(GAGAGA)
N5
N2
H (GCAGAA)(GAAGAG) N2
N2
GCPGPP (GAAGPGAAG)GPPGPH(N)3
N5
GPCGHP GCPGPH (GPAGPP) (N)5
NGCGN(らせん配列)NGCGN、
NGCGN(らせん配列)H(らせん配列) N5
L4
H GC(らせん配列)L5
(GL)5
GC(らせん配列)H(GL)5、及び
(LV)5
GPCGHP GCPGPH (らせん配列)(LV)5
から成る群より選択される。
【0023】
別の実施態様では、本発明は、本発明の秩序ある生体高分子材料を含むフィルムに関する。
【0024】
別の実施態様では、本発明は、本発明の秩序ある生体高分子材料を含む磁石に関し、但しこの場合、当該磁石は、常磁性、反強磁性、スピングラス、超常磁性、強磁性、フェリ磁性、又は反フェリ磁性である。
【0025】
別の実施態様では、本発明は、秩序ある生体高分子材料を含む磁石に関し、但しこの場合、当該磁石は感圧性であり、そして当該磁石は常磁性、反強磁性、スピングラス、超常磁性、強磁性、フェリ磁性、又は反フェリ磁性である。
【0026】
発明の詳細な説明
定義
便宜上、本発明を更に解説する前に、本明細書、実施例及び付属の請求項で用いられるいくつかの用語をここに集める。これらの定義は、本開示のその他を鑑みて読まれ、当業者が理解する通りに理解されねばならない。他に定義しない限り、ここで用いられる全ての技術用語及び科学用語は、当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。
【0027】
冠詞「一つの(原語:「a」)」及び「一つの(原語:「an」)は、ここでは、一つ又は一つを超える(即ち少なくとも一つ)、この冠詞の文法上の目的語を言うために用いられている。一例を挙げると、「一つの要素」とは、一つの要素又は一つを超える要素を意味する。
【0028】
用語「含む(原語:「comprise」)及び「含む(原語:comprising)」は、広い意味で包括的に、付加的な要素が含まれる場合があることを意味する。
【0029】
用語「含む(原語:「including」)は、「限定はしないが含む」ことを意味するために用いられている。「含む(原語:including)」及び「限定しないが含む」は交換可能に用いられている。
【0030】
用語「スメクチック」は当業で公知であり、分子が、異なる連なりの層になって密に整列しており、このときの分子の軸は、層の平面に対して垂直であるような液晶の中間相を言う。
【0031】
用語「ゲル」は当業で公知であり、分散相が分散媒と組み合わさって半固体の物質を生じているコロイドを言う。
【0032】
用語「ヒドロゲル」は当業で公知であり、粒子が外側又は分散相(原語:dispersion phase)にあり、水が内側又は分散相内にあるようなコロイドをいう。
【0033】
用語「アミノ酸」は当業で公知であり、天然又は合成に関係なく、アミノ酸類似体及び誘導体を含め、アミノ官能基及び酸官能基の両者を含む全ての化合物を言う。用語「アミノ酸残基」及び「ペプチド残基」は当業で公知であり、そのカルボキシル末端の-OHのないアミノ酸又はペプチド分子を言う。用語「アミノ酸残基」は、更に、ここで言及されるいずれか特定のアミノ酸の類似体、誘導体及び同種や、(例えばN末端又はC末端保護基で修飾されたものなど)C末端又はN末端を保護されたアミノ酸誘導体も包含する。天然アミノ酸の名称はここではIUPAC-IUBの推奨に従って省略されている。
【0034】
用語「ポリペプチド」は当業で公知であり、ペプチド又は修飾ペプチド結合により互いに接合させた二つ以上のアミノ酸を含むいずれかのペプチド又はたんぱく質を言う。「ポリペプチド」とは、通常はペプチド、オリゴペプチド及びオリゴマと言及される短鎖と、一般にたんぱく質と言及される長鎖の両者を言う。ポリペプチドは遺伝子にコードされた20種のアミノ酸以外のアミノ酸を含む場合がある。「ポリペプチド」には、プロセッシングや他の翻訳後修飾など、天然のプロセスか、又はさらに化学的な修飾技術で修飾されたものが含まれる。このような修飾は基本的な教本及びより詳細な単行本や、多数の研究文献によく解説されており、また当業者に公知である。ある一つのポリペプチドに、同じ種類の修飾が同じ又は異なる程度、複数の部位に存在する場合があることは理解されよう。更に、ある一つのポリペプチドが、多種の修飾を含む場合もある。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、及びアミノもしくはカルボキシル末端を含め、修飾はポリペプチドのどこでも起き得る。修飾には、例えばアセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチド又はヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質又は脂質誘導体の共有結合、ホスホチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合による架橋の形成、システインの形成、ピログルタミン酸の形成、ホルミル化、ガンマ-カルボキシル化、GPIアンカーの形成、水酸化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、たんぱく質分解によるプロセッシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ体化、糖鎖付加、脂質の結合、硫酸化、グルタミン酸残基のガンマ-カルボキシル化、水酸化及びADP-リボシル化、セレノイル化、硫酸化、例えばアルギニル化及びユビキチン化など、トランスファーRNAにより媒介されるアミノ酸のたんぱく質への追加、がある。例えばPROTEINS - STRUCTURE AND MOLECULAR PROPERTIES、 2nd Ed.、 T. E. Creighton、 W. H. Freeman
and Company、 New York (1993) and Wold、 F.、 Posttranslational Protein Modifications: Perspectives and Prospects、 pgs. 1-12 in POSTTRANSLATIONAL COVALENT MODIFICATION OF PROTEINS、 B. C. Johnson、 Ed.、 Academic Press、 New York (1983); Seifter et al.、 Meth.
Enzymol. 182:626-646 (1990) and Rattan et al.、 Protein
Synthesis: Posttranslational Modifications and Aging、 Ann.
N.Y. Acad. Sci. 663: 48-62 (1992)を参照されたい。ペプチドは分枝状でも、又は、分枝があってもなくてもよい環状でもよい。環状、分枝状、及び分枝環状のポリペプチドは、翻訳後の天然のプロセスで生じるものでも、また完全に合成法により作製されたものでもよい。
【0035】
用語「遷移金属」は、以下の元素を含む、当業で公知の用語である: Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、及びHg。遷移金属はしばしば、周期表のうちでそれが記載された列で分類される。用語「第一列遷移金属」には以下の元素が含まれる:Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及び Zn。 用語「第二列遷移金属」には、以下の元素が含まれる:Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、及びCd。用語「第三列遷移金属」には、以下の元素が含まれる:La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、及びHg。
【0036】
用語「メタロイド」は、以下の元素を含む、当業で公知の用語である:B、Si、Ge、As、Sb、Te、及びPo。
【0037】
用語「脂肪族の」は、当業で公知の用語であり、直線状、分枝状、及び環状のアルカン、アルケン、又はアルキンを含む。いくつかの実施態様では、本発明における脂肪族の基は直線状又は分枝状であり、1個乃至約20個の炭素原子を有する。
【0038】
用語「アルキル」は当業で公知であり、直鎖アルキル基、分枝鎖アルキル基、シクロアルキル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、及びシクロアルキル置換アルキル基を含め、飽和脂肪族の基を包含する。いくつかの実施態様では、直鎖又は分枝鎖アルキルは約30個以下の炭素原子をその骨格(例えば直鎖の場合C−C30に、分枝鎖の場合C−C30)に有し、そして代替的には、約20個以下を有する。同様に、シクロアルキルは約3個乃至約10個の炭素原子をそれらの環構造に有し、そして代替的には5個、6個、7個の炭素をその環構造に有する。
【0039】
炭素数を他に明示しない限り、「低級アルキル」とは、上に定義した通りの、しかし一個乃至約10個の炭素、代替的には1個乃至約6個の炭素原子を、その骨格構造に有するアルキル基を言う。同様に、「低級アルケニル」及び「低級アルキニル」は同様の鎖長を有するものである。
【0040】
用語「アラルキル」は当業で公知であり、一個のアリール基(例えば芳香族又はヘテロ芳香族の基)で置換されたアルキル基を包含する。
【0041】
用語「アルケニル」及び「アルキニル」は当業で公知であり、長さ及び可能な置換の点で上述したアルキルに同様であるが、それぞれ少なくとも一個の二重又は三重結合を含有する不飽和脂肪族の基を包含する。
【0042】
用語「ヘテロ原子」は当業で公知であり、炭素又は水素以外のあらゆる元素の原子を包含する。ヘテロ原子の例には硼素、窒素、酸素、リン、硫黄及びセレン、そして選択的には酸素、窒素又は硫黄が含まれる。
【0043】
用語「アリール」は当業で公知であり、5−、6−及び7−員環の単一環芳香族の基を包含し、この基にはゼロから4個のヘテロ原子が含まれていてもよく、例えばベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン及びピリミジン等である。環構造内にヘテロ原子を有するようなアリール基はさらに「アリールヘテロ環」又は「ヘテロ芳香族」と言及される場合もある。芳香族の環は、一つ又はそれ以上の環位で、例えばハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホネート、ホスフィネート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族又はヘテロ芳香族の部分、−CF、−CN等、上述したような置換基で置換されていてもよい。「アリール」という用語には、さらに、二つ又はそれ以上の炭素が二つの隣り合った環に共通である(これらの環が「縮合環」である)二つ又はそれ以上の環を有すると共に、環のうちの少なくとも一つが芳香族であり、例えばその他の環がシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、及び/又は、ヘテロシクリルであるような、多環式の系が含まれる。
【0044】
オルトメタ及びパラという用語は当業で公知であり、それぞれ1、2-、1、3-、及び1、4-二置換ベンゼンを言う。例えば1、2-ジメチルベンゼン及びオルト-ジメチルベンゼンという名称は同義である。
【0045】
「ヘテロシクリル」又は「ヘテロ環式の基」という用語は当業で公知であり、環構造が1個から4個のヘテロ原子を含むような、例えば3員環乃至から約7員環などの3員環から約10員環構造を包含する。ヘテロ環はまた多環であってもよい。ヘテロシクリル基には、例えば、チオフェン、チアントレン、フラン、ピラン、イソベンゾフラン、クロメン、キサンテン、フェノキサチイン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イソチアゾール、イソキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドリジン、イソインドール、インドール、インダゾール、プリン、キノリジン、イソキノリン、キノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、チノリン、プテリジン、カルバゾール、カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、ピリミジン、フェナントロリン、フェナジン、フェナルサジン、フェノチアジン、フラザン、フェノキサジン、ピロリジン、オキソラン、チオラン、オキサゾール、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、ラクトン、アゼチジノン及びピロリジノンなどのラクタム、スルタム、スルトン等がある。ヘテロ環式の環は、一つ又はそれ以上の位置で、上述したような置換基、例えばハロゲン、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホネート、ホスフィネート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、ケトン、アルデヒド、エステル、一個のヘテロシクリル、一個の芳香族又はヘテロ芳香族の部分、−CF、−CN等で置換されていてもよい。
【0046】
「ポリシクリル」又は「多環式の基」という用語は、当業で公知であり、複数の環が「縮合環である」など、二つ又はそれ以上の炭素が二つの隣り合った環に共通であるような二つ又はそれ以上の環(例えばシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、及び/又はヘテロシクリル、など)を持つ構造を包含する。例えば三つ以上の原子が両方の環に共通であるなど、隣り合っていない原子を通じて接合された環は「架橋」環と呼ばれる。多環の環のそれぞれは、例えばハロゲン、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホネート、ホスフィネート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、ケトン、アルデヒド、エステル、一個のヘテロシクリル、一個の芳香族又はヘテロ芳香族の部分、−CF、−CN等といった上述したような置換基で置換されてもよい。
【0047】
「炭素環」という用語は当業で公知であり、環の各原子が炭素であるような芳香族又は非芳香族の環を包含する。以下の当業で公知の用語は以下の意味を有する:「ニトロ」は−NOを意味し、用語「ハロゲン」は、−F、−Cl、−Br又は−Iを指し;用語「スルフヒドリル」は−SHを意味し;「ヒドロキシル」という用語は−OHを意味し、そして「スルホニル」という用語は−SO−を意味する。
【0048】
「アミン」及び「アミノ」という用語は、当業で公知であり、置換されていない及び置換されたアミンの両方を包含し、例えば、一般式:
【0049】
【化1】

【0050】
(但し式中、R50、R51及びR52はそれぞれ個別に一個の水素、一個のアルキル、一個のアルケニル、−(CH−R61を表すか、又はR50及びR51は、これらが結合したN原子と一緒になって、環構造内に4個から8個の原子を有するヘテロ環を完成するものであり、R61は一個のアリール、一個のシクロアルキル、一個のシクロアルケニル、一個のヘテロ環、又は一個の多環を表し、そしてmはゼロか、又は1から8までの間の一整数である)で表すことができる部分である。いくつかの実施態様では、R50又はR51の一方のみが、一個のカルボニルであってもよく、例えばR50、R51及びこの窒素が一緒になって一個のイミドを形成していなくともよい。他の実施態様では、R50及びR51(及び選択に応じてR52)はそれぞれ個別に一個の水素、一個のアルキル、一個のアルケニル、又は−(CH−R61を表す。このように、「アルキルアミン」という用語は、置換された又は置換されていない一個のアルキルをそれに結合させて有する、即ちR50及びR51の少なくとも一方がアルキル基であるような、上に定義した通りのアミン基を包含する。
【0051】
用語「アシルアミノ」は当業で公知であり、一般式:
【0052】
【化2】

【0053】
(但し式中、R50は上に定義した通りであり、そしてR54は一個の水素、一個のアルキル、一個のアルケニル、又は、−(CH−R61(但し式中、m及びR61は上に定義した通りである)を表す)で表すことのできる部分を包含する。
【0054】
「アミド」という用語はアミノ置換カルボニルとして当業で公知であり、一般式:
【0055】
【化3】

【0056】
(但し式中、R50及びR51は上に定義した通りである)によって表すことのできる部分を包含する。本発明のアミドのいくつかの実施態様には不安定な可能性のあるイミドは含まれないであろう。
【0057】
「アルキルチオ」という用語は、当業で公知であり、それに硫黄ラジカルを結合させて有した、上に定義した通りのアルキル基を包含する。いくつかの実施態様では、「アルキルチオ」部分は、−S−アルキル、−S−アルケニル、−S−アルキニル、及び−S−(CH−R61(但し式中、m及びR61は上に定義したとおりである)のうちの一つで表される。代表的なアルキルチオ基には、メチルチオ、エチルチオ等がある。
【0058】
「カルボニル」という用語は当業で公知であり、一般式:
【0059】
【化4】

【0060】
(但し式中、X50は一個の結合であるか、又は一個の酸素もしくは一個の硫黄を表し、そしてR55は一個の水素、一個のアルキル、一個のアルケニル、−(CH−R61、又は薬学的に許容可能な塩を表し、R56は一個の水素、一個のアルキル、一個のアルケニル又は−(CH−R61(但しこの式中、m及びR61は上に定義したとおりである)を表す)で表すことのできるような部分を包含する。X50が一個の酸素であり、そしてR55又はR56が水素でない場合、この式は一個の「エステル」を表すことになる。X50が一個の酸素であり、R55が上に定義した通りである場合、この部分はここではカルボキシル基と言及されており、特にR55が一個の水素である場合、この式は「カルボン酸」を表すものである。X50が一個の酸素であり、そしてR56が水素である場合、この式は「ギ酸塩」を表すことになる。一般的には、上の式の酸素原子が硫黄に置換された場合、この式は「チオールカルボニル」基を表すことになる。X50が一個の硫黄であり、R55又はR56が水素でない場合、この式は「チオールエステル」を表すものである。X50が一個の硫黄であり、R55が水素であれば、この式は「チオールカルボン酸」を表すことになる。X50が一個の硫黄であり、R56が水素であれば、この式は「チオールホルマート」を表すことになる。他方、X50が一個の結合であり、そしてR55が水素でない場合、上の式は一個の「ケトン」基を表すものである。X50が一個の結合であり、そしてR55が水素である場合、上の式は「アルデヒド」基を表す。
【0061】
用語「アルコキシル」又は「アルコキシ」は当業で公知であり、一個の酸素ラジカルをそれに結合させて有する、上に定義した通りのアルキル基を包含する。代表的なアルコキシル基には、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、t−ブトキシ等がある。「エーテル」は一個の酸素によって共有結合した二つの炭化水素である。従って、アルキルをエーテルにするようなアルキルの置換基は、例えば、−O−アルキル、−O−アルケニル、−O−アルキニル、−O−(CH−R61(但し式中、m及びR61は上に説明した通りである)のうちの一つで表すことができるものなど、アルコキシルであるか、又はアルコキシルに似ている。
【0062】
「スルホネート」という用語は当業で公知であり、一般式:
【0063】
【化5】

【0064】
(但し式中、R57は一個の電子対、水素、アルキル、シクロアルキル、又はアリールである)で表すことができる部分を包含する。
【0065】
「スルフェート」という用語は当業で公知であり、一般式:
【化6】



【0066】
(但し式中、R57は上に定義したとおりである)によって表すことができる部分を包含する。
【0067】
「スルホンアミド」という用語は当業で公知であり、一般式:
【0068】
【化7】

【0069】
(但し式中、R50及びR56は上に定義した通りである)で表すことのできる部分を包含する。
【0070】
「スルファモイル」という用語は当業で公知であり、一般式:
【0071】
【化8】

【0072】
(但し式中、R50及びR51は上に定義した通りである)で表すことのできる部分を包含する。
【0073】
「スルホニル」という用語は当業で公知であり、一般式:
【0074】
【化9】

【0075】
(但し式中、R58は以下:水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール又はヘテロアリールのうちの一つである)で表すことのできる部分を包含する。
【0076】
用語「スルホキシド」は当業で公知であり、一般式:
【0077】
【化10】

【0078】
(但し式中、R58は上に定義した通りである)で表すことのできる部分を包含する。
【0079】
「ホスホールアミジト」は当業で公知であり、一般式:
【0080】
【化11】

【0081】
(但し式中、Q51、R50、R51及びR59は上に定義した通りである)で表すことのできる部分を包含する。
【0082】
用語「ホスホンアミジト」は当業で公知であり、一般式:
【0083】
【化12】



【0084】
(但し式中、Q51、R50、R51及びR59は上に定義した通りであり、そしてR60は一個の低級アルキル、又は一個のアリールを表す)で表すことのできる部分を包含する。
【0085】
アルケニル基及びアルキニル基には、同じような置換を行って、例えばアミノアルケニル、アミノアルキニル、アミドアルケニル、アミドアルキニル、イミノアルケニル、イミノアルキニル、チオアルケニル、チオアルキニル、カルボニル置換アルケニル又はアルキニルなどを生成させることができる。いずれかの構造において2箇所以上あるような、例えばアルキル、m、n等の各表現の定義は、そうでないと明示しないか、あるいは文脈から明らかでない限り、同じ構造の他の箇所でのその定義とは独立であることが意図されている。
【0086】
本発明の目的のために、化学元素は、ハンドブック・オブ・ケミストリー・アンド・フィジックス、第67版、1986−87、表紙内側のCASバージョンの元素周期表に基づいて同定されている。
【0087】
概観
希土類イオンは比較的に無毒性であり、磁気共鳴による医療用撮像でコントラストを高めるための磁性「染料」として用いられてきた。生体材料の構造を制御するための希土類磁気タグの使用は、ナノ層複合材にとって重要な用途である。更に、たんぱく質及びペプチド科学により、プロセッシング中に構成分子の形状及び物理的化学的特徴を変更する道が開けた。従って、このような構成分子は、ターンキー化学合成法を用いてナノ層状のナノ複合材の形態を制御するためには柔軟かつ操作可能な鋳型である。
【0088】
いくつかの実施態様では、本発明のオリゴペプチド材料は、生体高分子であるが、これらは従来の折り畳まれたたんぱく質のようには挙動しない。大半のたんぱく質は折り畳まれて、分子内相互作用により安定となるコンパクトな球状の構造となる。対照的に、これらのオリゴペプチド材料は、強力な分子間相互作用が起きるのに好都合であるため、スメクチック液晶相で部分的な秩序形成が起き、充分な熱安定性、強靭性、及び強さを持つ分子固体ができる。本分子の非対称構造、特異性の高い希土類(又は他の無機化合物)、結合位置、及び層状のミクロ構造を形成する傾向が、すべて協働して、付着してきた部分が、結晶学的なパッキングがまだらであるために分散していくのではなく、確実に本材料内で連続したミクロ構造に構成されていくのだと考えられる。
【0089】
本発明のオリゴペプチドは、ナノ-、ミクロ-及び更にはメソ-スケールでパターン形成していく材料の自己集合を促進するという、その液晶挙動を利用できるようなモデル分子としてデザインされた。このアプローチの特徴には、分離していき、ナノスケールの長距離秩序のあるパターンを熱力学的に好ましい状態として形成するような分子材料をデザインすることがある。この形成は、しばしば、分子化学的複雑性が組み込まれていることを通じて起きるが、その結果、熱力学的「フラストレーション」を生じてしまう。生体高分子を鋳型分子として用いることで、これらの拘束のうちのいくつかがなくなり、他方、潜在的にプロセッシング可能な材料の幅が広くなる。
磁気イオンの「鎖」は、その境界が明確かつ予測可能である。なぜなら、それは、あまり予測も制御もできないような複雑な低分子同士の結合ではなく、共有結合した巨大分子を用いて境界が決定されるからである。生体高分子は本来キラルであり、キラル中心とキラル二次構造との組合せにより、磁気イオンのすべてが確実にキラル環境に来る。本分子の液晶性により、強力な局所的磁界を生むと共に、好ましい磁気軸を整列させるために必要な整列及び秩序が確実に生ずる。最後に、生体高分子系の該化学的パターン及び単一分散度により、スメクチック層構造は安定になるであろう。
【0090】
具体的には、希土類イオン及び錯体形成した塩化希土類と組み合わされた多様なペプチド有機材料が現在、開示されている。これらのペプチドのうちで最大のものは、コラーゲンの挙動を模倣するようにデザインされており、約10nmの厚さの層を持つ材料ができると予測される。もう一つのペプチドは、シルクの線維状たんぱく質に似ているがより短く、約4.5nmの予測線形寸法を持つものである。更に別のペプチドはシルク様の配列を持ち、約4.7nmの予測線形寸法を持つようにデザインされた。
【0091】
これらのペプチドのうちいずれも、両末端に酸性のアミノ酸配列を持つことで、ガドリニウム及びジスプロシウムなどの付加的な金属イオンの結合部位を提供させてもよい。コラーゲン様のオリゴペプチドには、各鎖の各末端に5つの酸を持たせて、三重らせんのそれぞれ完全にイオン化した酸性末端に15の負の電荷があるようにしてもよい(コラーゲンは三つの鎖が撚り合わされて一つの安定した三重らせんとなった状態を採る)。これらの二つのイオンは、それらの調製が容易であることと、それらの磁気的特性が基本的に異なるために選択された。ガドリニウムのフント則による基底状態はS状態(S=7/2、L=0)であるため、2J+1=8重の縮重は、一次までは周囲環境の結晶電界(CEF)による影響を受けない。しかしジスプロシウムイオンの基底状態は S状態 (S=5/2、 L=5、 J=15/2) ではないため、縮重は、結晶磁界効果エネルギ-レベルの分裂により部分的に持ち上げられるであろう。該オリゴペプチドはスメクチックに自己集合する傾向があるため、希土類イオンは、この分子の長さで分離した厚さ1-2nmの二次元状シートになって並ぶ。下に概略したものと同様な合成プロトコルを用いると、幅広い種類の磁性及び非磁性希土類及び/又は遷移金属をこれらの準二次元層に取り込ませられよう。図1aに示すように、当該オリゴペプチドのアミノ酸配列と、液晶を形成するサブ配列又は「ブロック」の長さが、これらの材料中の希土類層間の分離を決定すると考えられる。
【0092】
これらの研究で用いられた直線状のオリゴペプチドは、スメクチックな液晶相を形成することが観察されているが、このスメクチックな液晶相は、それらの偏光した光学的「指紋」を文献でよく見られる他のスメクチック構造や指紋と比較することにより、容易に特定される(我々のグループ、未公開データ)。該オリゴペプチドは図1aに示すように化学的に別個の領域をそれらの分子配列中に含有し、各オリゴペプチドの主要な体積分率は、剛性のロッドとして作用する二次もしくは超二次構造を形成することができる。この分子上の化学的性質に変化があると、繋がれてまとまっていなければ相分離を起こすであろう分子サブドメイン又は「ブロック」ができ、その結果起きる熱力学的フラストレーションが、規則的な層構造の形成を促すと思われる。このように、これが長距離秩序のある構成、特に、スメクチック液晶などの層状の構成で充填されていれば、化学的に別個の層状ドメインが、図1bに概略的に示すような分子配列中に特定された化学的パターンの整列により、この秩序ある材料内で定義される。
【0093】
オリゴペプチド・テンプレートは、高濃度のときに剛性の異方性構造を形成して、この分子を可溶性かつ容易に加工される柔軟な分子として溶解させて、溶媒(純水)を乾燥させて飛ばしたときに剛性構造を形成するようにデザインすることができる。その結果得られる材料はしばしばガラス質であるが、配向のある微小構造など、液晶に典型的な長距離秩序のある形体を保持する。本発明のコラーゲン様のオリゴペプチドはこの特徴を有する。室温の希薄溶液中では、各オリゴペプチド分子は柔軟である。低温及び高濃度のとき、これらの分子は凝集して剛性の三重らせんのロープになり、多様な液晶相を示す。これらの異方性の高い分子形状のために、最も近い隣り合った三重らせんロープ同士間の充填可能性に制限ができ、特に、整列したロープ又は「ロッド」からなる材料が確実に得られる。スメクチック液晶相の挙動により、化学的パターン間の記録がロッドに書き込まれる結果、層状のペプチド及び希土類が豊富に含まれた微小構造が出来上がる。その結果、当該材料全体にわたって、ペプチド及び希土類豊富な層のパターンが予測可能になる。反対に、ガラス質の材料では、異方性の低い形状を有する異方性のオリゴペプチド・テンプレート分子を用いた実験では、層構造の証拠は何ら観察されない。
【0094】
当該のペプチド・マトリックスは変形可能であるため、高密度の位置ずれを導入することなく、磁気的な秩序形成及び相互作用を原因とするペプチド層の構造の局部的な変化が可能であり、また疲労を原因とする材料の潜在的な破損も減る。弾性のナノ構造材料をデザインすることができる。液晶状態又は粘弾性のある「ゲル」状態においては、当該ペプチド相中の剛性ロッド分子は大きな再配向に耐えることができ、また伴う潜熱も取るに足らない。この特徴を利用して、小さな温度及び圧力変化又は勾配に晒されたときに、著しく、かつ可逆的な機械的変化を示す(非磁性)ペプチド「ゲル」がデザインされてきた。このように、生体を模倣したペプチド・マトリックスを用いることにより、我々は、調整可能な感知材料、多機能材料等に用途があるであろう固有の機械的特性を備えた磁性材料を考案及び創出することができる。
【0095】
デザインされたオリゴペプチドは、それらのナノ構造を、それらが分解する時点であるほぼ300乃至300℃(研究される特定の配列及びコンホメーションに依る)まで保持する。より高分子量の分子はより強靭な材料となる。配列デザイン及びコンホメーション選択のプロセスは、当該分子の配列全般に十分な制御が可能であれば、いずれのオリゴマ又はポリマの化学的性質に対しても一般化できるもののはずである。このように、幅広い非ペプチド・オリゴマが可能であり、幅広い材料特性がその結果得られるであろう。ペプチド化学法はよく進んでおり、幅広い分子量のペプチド・ポリマの配列制御がなされており、また合成スケール・アップ法もよく解明されている。従って、これらの分子により、自己集合及び他の容易な集合技術を通じてナノパターン上のポリマ・マトリックスを製造する一般的な方法の開発が可能になるであろう。
【0096】
オリゴペプチド希土類錯体に関して、オリゴペプチド成分の錯体形成レベルを次第に上昇させたX線データには、異なる種類のナノ複合材が形成されていることを示す興味深い傾向がある。例えば、各末端に三つの酸を持つ短いオリゴペプチドをテンプレート(EEEGAGAGSEEE−完全にイオン化した場合にはこれから6電荷をマイナス)して用いた場合、希土類イオン濃度が増すにつれ、異なる回折上のテクスチャが観察される。純粋なペプチドは非晶質であり、弱いX線反射が、分子の列により規定される「層」で見られる。TEMでは、コントラストがほとんどないか、あるいは形態学的特徴がほとんど認められない。希土類イオンを添加すると、配向した材料がX線回折を通じて観察され、層のコントラストも高いが、TEMではやはり、光素子が優勢になることが原因でコントラストはほとんどない。ペプチド対希土類イオンの比が増すにつれ、長距離の配向が失われ、TEMではっきりと見える大変粒子状の構造に取って代わられる。酸/希土類下層領域での立体効果が結晶粒子の広がりを制限している可能性がある。TEM画像を注意深く調べると、個々の粒子の内部が、この粒子全体にわたってパターンになって存在する粒子境界の名残であるテクスチャを有し、欠損相を示している。塩化希土類をこのオリゴペプチドに錯体形成させると、塩化物が低濃度のときには何の構造も観察されず、より高濃度にすると、研究されたペプチド種の全てについて塩化物の格子が回折パターンの大半を占める。これらの結果を全てまとめると、塩化物は、材料内で長距離秩序に乏しく、また境界のはっきりしていない層構造を有するナノ視的層に存在することが分かる。塩化物及び配位した水が存在すると、ペプチドが層を形成する傾向が損なわれる可能性がある。存在するものの中でオリゴペプチドが主要な成分であるような材料においてですら、オリゴペプチドの格子が実際に消失し、オリゴペプチドにあるはずの非晶質散乱が消失したことは、オリゴペプチドの単位格子及び結晶格子が、塩化物と錯体形成したオリゴペプチドの単位格子及び結晶格子に置き換えられたことを示唆するものである。
【0097】
磁気測定では常磁性が示され、低温では弱い抗反強磁性傾向も見られるが、この傾向は、塩化物なしで調製された材料や、大変薄い層を持つ材料についてはより強い。試料間で観察されるこの小さな違いは、ナノ層環境中における希土類同士の相互作用の長さスケール及び性質を少なくとも定性的に判定できる可能性があることを示すものである。
【0098】
短いシルク様のペプチドを用いたペプチド/希土類イオン錯体材料においては、三重らせんオリゴペプチド二次構造及び側鎖の対称性(「シルクIII」構造)を含む結晶型が観察される。これはオリゴペプチドに予測される主な結晶多形性ではなく、各三価の希土類イオン近傍に三つの酸性側鎖が必要であることが、前記のオリゴペプチド二次構造の選択に役立っていると考えられることを示唆している。この観察が他のペプチドで裏付けられれば、線維性たんぱく質におけるイオン相互作用及び二次構造選択の密接な関係があるのであろう。
【0099】
注目すべきことに、磁性ナノ構造材料、希土類結合組織模倣性オリゴペプチドが解説されている。長い直線状のオリゴペプチドがスメクチックな配列に自己集合していくと、希土類は1-2nmの厚さの層を形成する。そのペプチドアミノ酸配列が層間の距離をコントロールする。データでは、ほぼ完全な希土類の常磁性挙動が大変幅広い温度範囲にわたって見られるが、最も低い温度では、おそらくは層間の相関関係がより大きいために、ジスプロシウムイオン同士で前駆体の秩序形成があることが、しかし短い(4nm)層分離にのみ、証拠がいくつか見られる。周囲イオンからの結晶電界の影響があることが、コラーゲン様材料及びシルク様材料の両方で、ジスプロシウム層材料とガドリニウム層材料で挙動に違いがあることで明白である。
【0100】
希土類酸化物及び希土類塩化物と錯体形成したオリゴペプチド
純粋なオリゴペプチドや、希土類酸化物と錯体形成したオリゴペプチド、そして希土類塩化物と錯体形成したオリゴペプチドはすべて、乾燥させてガラス質の硬いフィルムを形成させると、特徴付け実験に向くフレークに砕くことができる。このフレーク中、層分離の証拠は、光学顕微鏡で到達可能な長さスケールでは観察されない。硬い平らなフレークは純粋なペプチド材料とほとんど同一の外観も有する。純粋なオリゴペプチドや、希土類酸化物をオリゴペプチドド及び水溶液に直接溶解させることにより調製されたオリゴペプチドは、単相混合物として乾燥した。大過剰の希土類塩酸溶液で調製された希土類塩化物の場合、液体がまだ存在するうちに硬いフレークが形成する。過剰な希土類塩化物は、この溶液が更に乾燥するときに、別の相中で結晶化する。
【0101】
前記の平らなフレークは、偏光顕微鏡では複屈折性であり、良好に配向して見えた。(フレークの平らな側を顕微鏡の載物台に平行にした状態で)試料を偏光顕微鏡で回転させると、複屈折の二回の消失が観察され、この消失は各試料フレークのすべてで起きた。フレークをより小さな片に破砕して、フレークの平らな側が試料の載物台に対して垂直になるように向きを変えると、より強い複屈折が観察された。前記の垂直な配向からほぼ10度の角度にすると、複屈折が最も強くなった。これらの結果は、試料内の配向の程度が高いことを示しており、また前に調製された他のスメクチックな秩序のある固体でも典型的である。希土類イオンを含有する試料や、希土類塩化物を含有する試料では、より強い複屈折が観察された。希土類イオンが錯体形成した試料では、酸化物を溶解させるためにより長時間をかけた試料で、複屈折の増加が観察された。
【0102】
構造上の特徴
当該のアミノ酸配列デザインに特有の特徴は、金属結合層間で剛性のスペーサを形成させるために短いアミノ酸モチーフを用いることである。短い、安定なα-へリックス配列と、β-シート結晶化可能な配列が、特にこの目的のために用いられる。1.5nmを超える距離で分離される金属ドメイン及び金属豊富なドメインについては、これらの公知のモチーフは、ある一定のパターンになった金属結合部位を提供するように選択される別個のエンドキャップ配列と組み合わされる。前記のへリックス又は結晶化可能な配列は、パターンになった金属結合配列に、化学的不均衡及び/又は側鎖サイズの不均衡が生じるように選択されるため、化学的及び物理的に非対応のモノマ/セグメントの熱力学的な混合不良を原因とする、異なるドメイン同士の間の層形成及びはっきりとした分離が同じ材料ドメイン中に起きる。この物理的プロセスは、強度に分離されたブロック・コポリマ中のミクロ相分離を引き起こすものと実質的に同じである。
【0103】
用途によっては、特に金属層間の結合を高めたい場合には、大変短い(1.5nm未満)ペプチドらせん(又は結晶)層が必要である。これらの場合、一つの金属層から隣への電子の量子トンネル効果は、介在する非導電性ペプチド層の厚さの影響を強く受ける。トンネル効果は、軟質の磁性材料を作製したり、そして介在するペプチドの層の状態(コンホメーション、熱膨張、局部的な異常、水又は分析物の吸収、特異的結合)の変化に対して感受性のあるバルクナノ複合材材料において電子的、光学的、及び磁気的変化を生じさせたりする上で有用であろう。このような材料を操作して、ペプチド・ドメインの直接的な電子的読み取り値を提供するようにすることができ、この場合のペプチド・ドメインは、検知を行ったり、あるいは化学的及び生物学的なアナログ計算機能を行ったりするようにデザインしてもよい。
【0104】
金属パターン形成ドメインと、自己集合性の剛性ペプチドの両方を組み合わせて大変薄い層にするには、金属結合ドメインのうちの数部分をらせん形成パターンと重複させられるような配列モチーフを選択しなければならない。例えば、公知のα-へリックスを生じるモチーフ「E
A A A K」の場合、酸性のグルタミン酸(E)及び塩基性のリジン(K)が三つの疎水性アミノ酸(アラニン−A)によって分離されて形成された酸塩基架橋がある。アルファ-へリックスのコンホメーションでは、5-モノマ配列全体でも、1nm長より僅かに小さい。このへリックスの末端を、異なる塩基性アミノ酸であるニッケル結合性ヒスチジン(H)に置換すると、遷移金属をらせん領域の端に来させることができる。同様に、疎水性のシステイン(C)にアラニンを置換することができる。その結果できる配列E A A C H はまだ尚、α-へリックスの層状構造を形成することができるが、金属イオン/原子間の最も遠い距離はほぼ6オングストロームに減らされている。このα-へリックスのコンホメーションは、一個の金属原子よりも著しく大きな側鎖や、あるいは、金属原子を結合させた、小から中間の大きさの側鎖まで対応できることが知られている。こうして金属は、当該構造や材料内でできる層構造をそれらが大きく損なわないであろうへリックス中の区域に(金属結合性側鎖により)局在することになるであろう。α-へリックス配列の他のいくつかの例には:
EEEAAAKEEE、
EECCAKEECE、
EEEGAGAGSEEE、
NNECACKCCNE、
EAAKEAAAK、
CCEAAAKDAAHC、及び
HCAAEAAAKCH
がある。
【0105】
キラル・オリゴマ分子−剛性のロッド・コポリマ(この場合はペプチド)が、パターンになった結合性官能基をN末端、C末端、又は両末端に取り入れた自己集合性のらせん剛性ロッド配列を取り入れてデザインされた。このオリゴマ・ブロックの剛性ロッドの挙動は、(結合性配列でパターンになった)中心部分と末端区域との間の化学的(熱関数的)及び構造(剛性−熱力関数的)上の不均衡と相まって、ナノ層状構造の形成にとって有利であり、この場合、各層の合計厚さはオリゴマの長さ(分子量)によって決定される。化学的及び機械的にそれぞれ別個である下層領域は、当該配列のうちで中心の剛性ロッドを形成している部分の長さと、金属結合ドメインを含むアミノ酸の大きさとで決定される。金属結合領域では剛性ロッドの何らかの構造上の破壊、ひいては異なるコンホメーションが起きるであろうと予測される。なぜなら、「ロッド様の」二次構造を生じているアミノ酸のパターンが破壊されるためであり、また、数多くの剛性のロッド・コンホメーションは、相互作用(例えば水素結合)が不十分であることが原因で、この配列の末端では安定性が小さいからである。この層内の分子間パッキング相互作用、従ってジオメトリ及び距離は、大まかに言って剛性ロッド・コンホメーションの選択によって決定される。剛性ロッドにより充分な秩序が生じれば、分子全体が結晶化することができるか、あるいは、特定の下層内に配置された無機もしくは有機金属添加剤と共結晶化することができる。代替的には、非剛性の中心配列を、鎖間水素結合(例えばβ-シート構造)により安定化するコンホメーションを採るようにデザインすることもできる。
【0106】
中心の結晶化可能なドメインと、パターンになった金属結合ドメインを含有する領域との間の化学的及び側鎖の大きさの上での不均衡の結果、結合ドメインと、結合した金属とが、当該ペプチド結晶化可能な配列の結晶層間に挟まれた層になってきちんと並ぶことになるであろう。官能化された末端が、自己集成を通じて層間領域に運ばれ、そこに配置される。この自己集成は、質量、モル、又は体積分率が最高である付着成分の最低エネルギ配置により概ね決定される平衡状態を、フラストレーションのある熱力学が生むプロセスである。二番目の成分である、この場合、パターンになった金属結合ドメインは、拘束のある配置に強制されるため、金属イオンの吸収及び結合が大変活発となり、また他の特有の特性がもたらされる。共結晶化した複合材においては、当該ペプチド配列の結晶化可能な部分と、金属官能化結合ドメインの両者が結晶化することで、配列デザイン・レベルで「中にプログラムされた」モノマによる三次元秩序パターンができあがる。こうして、特定の材料下層に局在した、これらのプログラムされたモノマのパターンを用いて、添加された金属、無機、又は有機金属分子及びイオンを局在させることができ、精確に明示されたパターンを作り出すことができる。(塩基性金属塩のための)酸性アミノ結合ドメインとの希土類イオンの共結晶化が実証され、高程度の下層局在及び層内秩序形成が観察される。遷移金属とも結合するオリゴペプチド・パターンとの希土類イオンの共結晶化も、新規な金属間錯体を作製する方法として想到される。最も簡単な結合部位は、例えばニッケルの場合のヒスチジンや金の場合のシステインなど、公知の元素特異的結合親和性を持つアミノ酸である。アミノ酸の短い組合せを用いて、幅広い金属、半導体、並びに有機金属及び無機相に結合させられよう。このような配列をペプチド液晶に取り入れることにより、我々は、結合成分を秩序立て、配向させてナノパターン状の材料アレイにする方法を提供する。
【0107】
本オリゴマ分子は、(当該オリゴペプチドを構成するモノマの点で)自己集成性部分のモノマのモル分率が、機能的なパターン状末端のモノマのモル比率よりも(少なくとも1.5の因数で)有意に大きいようにデザインされる。大きな自己集成性単位と、より小さな可溶性/機能的末端とから成るような分子デザインの結果、この分子全体の熱力学的に好ましい状態が、自己集成性又は結晶化可能なペプチド領域にとっての熱力学的に好ましい状態と同様になるであろう。結合パターンの存在が原因で、特に剛性のロッド及びパターン及び結合パターンが一つのモチーフを共有し、重複するような場所では、構造上の犠牲があるかも知れない。しかしながら、これらの構造上の犠牲は予測可能であり、また、金属原子及びイオンが分離して、分断され、境界がはっきりした層(ペプチドにより分離されている)に分離されることに悪影響を及ぼすとは見出されていない。遥かに強い構造上の犠牲が金属結合及びパターン形成領域で予測される。本複合材にとっての結晶又は分子パッキング・ジオメトリは、剛性のロッド又は結晶化可能なペプチド部分同士の間の相互作用によって支配され、鎖の末端を含有する領域(金属パターン形成及び結合領域)中の局部的なパッキングは、熱力学的なフラストレーションが原因でしばしば大きく拘束されるであろう。鎖の末端は典型的に、ポリマ又はオリゴマの別個の部分として挙動する。なぜなら、これらは異なる結合トポロジ及び異なる固有立体配置エントロピを有するからである。末端にとって理想的な熱力学的に好ましいジオメトリが、(当該分子の大半を成す)自己集成性又は結晶化可能な領域にとって好ましいパッキングと相容れなければ、そのパターン状の末端領域は、それらの(局部的)熱力学的理想とは程遠い状態に強制されるため、フラストレーションをためるであろう。従って、本発明は、フラストレーションのかかったスメクチックな秩序のある固体及び層状の「複合材」結晶固体のデザインを可能にするものであり、この場合、層間領域内の密度及び相互作用挙動は、同じ組成のバルク材料又はフラストレーションのない表面に対して強く摂動するであろう。
【0108】
スメクチック形成性(そして結晶化可能な鎖間を安定化させた)「自己集成性」配列、オリゴマの分子量及び関連する液体から固体への遷移、並びにナノ視的にデザインされたフラストレーションのある層間領域(末端領域からの物理的及び化学的な差)を用いることで、ナノスケールの流体チャネルを持つ分子デザインされた材料を構築することができる。これらのチャネルは、基本的には多層状のスメクチックに生じた又は層状の結晶構造中の鎖末端(パターン状の金属結合)領域である。剛性のロッド又は鎖間安定性の高い結晶化可能な領域に対して、金属(スペーサ分子)に特異的に結合せず、またパターン形成もしない末端中のモノマを特定するために用いられるモノマの特性のミスマッチを操作することにより、多様な特性を当該チャネル中にデザインにより取り込ませられよう。問題の領域は鎖の末端を含有するため、これらの受ける拘束は、当該分子及び自己集成後の材料の他の部分よりも幾分小さい。
【0109】
層間領域内に突出する鎖末端は分子スケールで小競り合いを生じる。材料内に吸収された分子は、層間領域に優先的に移動するであろう:なぜなら
(1)層間領域はより密度が低く、またより用意に膨張する;
(2)層間領域は局部的に熱力学的に不安定な状態にある;
(3)剛性のロッド、又は鎖間を安定化させた結晶化可能な分子構造(従って当該配列の数部分)は、それらの全長にわたって相互作用する;当該分子のこれらの部分からなる層領域は添加剤に対して寛容性がより低い;そして
(4)化学的相互作用を、可溶化性かつ金属パターン形成性の末端配列に、ひいては層間領域に、分子配列レベルでデザインにより取り入れることができ、こうして、第二(金属)の成分の拡散及び結合を促進することができる。例えば:塩基性金属を誘引、局在化及び結合させるための酸性アミノ酸の使用。
【0110】
デザインされる相互作用には、塩基性の溶質を誘引して局在化させるために酸性のアミノ酸を金属パターン形成領域に、層間体積及び密度と均衡する、あるいは金属パターン形成配列−溶質疎水性/親水性相互作用の適合と均衡する、溶質分子を誘引するためにスペーサ様の低アミノ酸体積を金属パターン形成領域又はドメインに、含めてもよい。重要なのは、金属パターン形成領域/ドメインにデザインされる「溶質局在化」特性は、性質上、完全に熱関数的(化学的相互作用)である必要はなく、熱力関数ベースのデザインという発想(堆積、分子形状、柔軟性)を含めることもできることに留意することである。
【0111】
本ペプチド及び向き(又は有機金属)成分の希薄溶液を用いて薄膜を調製することができる。薄膜を鋳込むために用いる固体表面の化学的特徴により、当該材料中のナノスケール層の配向がコントロールされるであろう。この化学的コントロールの鍵となる特徴は、当該ペプチドのペプチド末端基、ロッド様部分の末端のアミノ酸、及び固体表面間を繋ぎ止める相互作用である。これらの相互作用は、モデル、多様な化学基の表面繋ぎ止めに関する文献データ、及び、我々自身の実験結果の内挿/外挿
に基づいてデザインすることができる。
【0112】
剛性のロッド様部分のアミノ酸側鎖の選択により、材料内にキラルな造作を取り入れたり、あるいは消したりすることができる。ペプチド剛性ロッドの全ては、アミノ酸の簡単な反復パターン又は「モチーフ」に基づく。しかしながら、同様な化学的性質を持つ異なるアミノ酸を、モチーフの数多くの点で置換して、側鎖の大きさのバリエーションをデザインできるようにすることができる。環状の横断面を有する滑らかな剛性ロッドは、簡単な円筒のようにパッキングするであろう。側鎖の大きさ及び形状に大きなバリエーションを取り入れたり、あるいは対称性のより小さな基本形を有する剛性ロッドを用いたりすると、ねじれのある層ができあがる。ペプチド複合材材料の析出層のねじれを制御することにより、我々は、当該表面上にナノスケール金属ドメインの予測可能なパターンを創り出すことができ、このパターンは、簡単(線、格子、網状)でも、又は複雑(貫通するドメイン、ねじれたブロックになった層、三次元パターン)にもすることができる。膜を鋳込むために用いる固体表面の化学的性質、ペプチドを繋ぎ止める相互作用、及び分子デザイン中にデザインされるねじれを起こす傾向といった、材料をデザインするために柔軟に調節することのできる三つのパラメータが我々にはある。ペプチド複合材の多くを表面上にペイントすることができ、また、乾燥させれば、予測可能なパターンのある金属(又は有機金属)ドメインを持つ高度に秩序のある材料になるであろう。
【0113】
合成
希土類金属ペプチド・マトリックス・ナノ複合材
希土類ペプチドが層になった複合材は、酸性の末端ブロックと組み合わされた剛性ロッドの中心ブロックを持つ一種以上のペプチドを含むであろう。当該分子は生合成(安価な度量可能なプロセス)によっても、又は化学的にも、作製することができる。構成され、デザインされたペプチドを、典型的には酸化物を弱い塩酸に溶解させることにより調製された塩基性希土類イオンの溶液と混合する。得られる秩序ある複合材の種類は、混合液の乾燥時間及び温度を制御することにより制御され、また、エーテル及びアルコールなどの沈殿剤を添加することでも変えることができる。
【0114】
剛性ロッドの配列の長さは、当該材料のペプチド層の厚さを決定する。末端配列の長さは、金属化層の厚さを決定する。大半の酸性アミノ酸は完全にイオン化させたときに-1の電荷を持つ。完全に取り込まれた希土類の濃度は、末端ブロックの長さに応じて変化したが、この長さは、層間領域の大きさと、ペプチド及び金属イオン間の潜在的イオン性結合相互作用数の数を決定するものである。本複合材に完全に取り込ませることのできる希土類の濃度は、末端が完全にイオン化した状態のペプチド・ロッドの持つ電荷の点で説明できよう。このように、当該ペプチド上の可能な総電荷のいくらかのパーセンテージは、最大に取り込ませたときの希土類により平衡がとられる。ジスプロシウム及びガドリニウム・イオンの場合、120%の希土類取り込みが、第二相を観察することなく測定された。約200%を超える取り込みレベルも可能に違いない。観察される磁性は、ペプチド相の結晶構造及び化学的構造、用いる希土類イオン、及び、異なる層の厚さ及び希土類豊富度に依る。厚いペプチド層(焼成していない)を取り込んだ複合材では、大きな温度範囲にわたってキュリー常磁性が観察される。より薄いペプチド層(4nm未満)のある試料では結晶場効果及び磁気的相互作用が観察される。希土類の多くは技術的に有用な光学特性や、それらの磁性を有する。
【0115】
剛性のロッド部分は約5-60アミノ酸長のα-へリックス配列であってもよい。α-へリックス配列は、短い配列は安定な層状構造を形成し、ナノスケールの長さスケールに到達できるようになるため、特に興味深い。金属層状複合材で我々のグループが達成した最も薄い秩序あるペプチド層は、α-へリックス配列を持つ約0.8nmだった。α-へリックスはまた、このへリックス(剛性ロッド)の長手軸に基本的に平行な大変強い分子電子双極子を有する。この双極子は、へリックスを整列させるため、そして電界中の結晶により形成される四角い格子パターンなどの複雑なテクスチャを生じさせるために用いることができる。α-へリックス型の剛性ロッドは、ごく弱くキラルである(ねじれを起こす傾向がない)。
【0116】
酸性の末端ブロックは1アミノ酸長からαへリックス配列に等しい長さまでの範囲だった。サブナノメートルの希土類層及びペプチド層までの範囲に渡る層状構造を、上に解説した簡単な技術を用いて集成させた。金属を取り込んだ材料の層の間隔を示すコントラストの増強が、金属化させた材料及びペプチド単独材料を比較したX線研究で観察される。α-へリックス構造は残っている。大きな非結晶質の均一に配向したドメインが得られた。乾燥時間を遅くすることで大きな切子型の単結晶が得られるが、典型的には複数回の核形成があると、互いに対して僅かに(1-2°)誤配向したいくつかの大型の平らな結晶ができるであろう。
【0117】
当該ペプチドの剛性ロッド部分は、三重らせん形成性配列であってよく、即ちそれらはコラーゲン様であってもよい。ペプチド複合材を、上述した通りに、しかし、三重らせん融解点よりも低い温度で調製する。コラーゲン・モデル配列(溶液中)の場合の三重らせん融解点は文献でよく書面化されており、普通のアミノ酸及び6つのアミノ酸モチーフに関して経験的に得られた公知の公式から計算することができる。三重らせん形成性配列は、配列が少なくとも6アミノ酸長であったときに溶液中で安定な構造を形成する。約20アミノ酸より大きな配列は、周囲及び近周囲温度で(溶液中で)安定な三重らせんである。三重らせんはα-へリックスよりも弱い双極子を有するが、やはり界(電界、磁界)中で配向させることができる。それはα-へリックスよりも剛性であり、α-へリックスほど滑らかではなく、従って、ねじれを起こす傾向がより高い必要のある、より硬質な材料及びパターンを作製するために用いることができる。金属イオンを取り込ませた場合には三重らせんはα-へリックスよりも少し容易に結晶化し、固体状態では充分な熱安定性を有する。固体状態では、三重らせんは約150%℃を超える温度まで保持され、また、当該の層状ナノ構造は、(約200℃よりも高い)より高温まで保持される。このように、このペプチド相を焼成すれば、新しいクラスの強固な乾燥固体材料を作製できよう。
【0118】
剛性ロッドは、天然のシルクを由来とする一つの配列又は配列モチーフに基づいていてもよい。典型的には、これらは、約33乃至約60%のグリシンを含有する配列と、1、2個のアミノ酸種が大変規則的に交互になったパターン含有する配列である。これらの配列により形成される剛性ロッドは、球状たんぱく質のβ-ドメインに似たねじれたヘアピンか、又はねじれた扇型構造である、折り畳まれた構造である。これらの剛性ロッド・ドメインは、ねじれたリボンの全体形状を有し、従ってねじれを起こす傾向が高い。この場合、当該のペプチド相は結晶化して、ペプチド剛性ロッドのコンホメーション及びパッキングの違いで区別される、多様な結晶多系を形成する傾向がある。約12のアミノ酸よりも大きなロッド・ドメイン長を持つ配列は、折り畳まれた剛性構造になる能力を有する。荷電した末端基が当該ペプチドアミノ組成の40%を超えていれば、剛性構造への折り畳みは阻害される。大変短いシルク様の配列は、剛性ロッドを形成することなくまっすぐなステムとして結晶化するであろう。すべての場合において、ペプチド相は分子間水素結合により安定化し、熱的(約200℃を超える)及び機械的安定性が高く、また、複合材の自己集合プロセスの熱力学を完全に占める。化学的及び物理的操作(アルコール、エーテル、酸、塩基の添加、温度変化、濃度変化、印加ストレス、印加界、乾燥速度、表面鋳込み等)を用いて、結晶ペプチド相の構造を操作することで、層間領域の金属、無機、又は有機金属相のパッキングを制御することができる。
【0119】
用いられる希土類金属には、限定はしないが、Gd、Dy、Pr、Ce、Er、Ho等がある。これらの金属は、酸化物を塩酸に溶解させることにより、3+酸化状態のイオンとして、溶液中に取り込まれる。他のイオン状態及び溶液種を用いてもよい。
【0120】
本複合材を、約50乃至約170℃の温度で真空炉内で焼成して、希土類層の結合した水を取り除いてもよい。より高温では、ペプチド相を加熱変性させて、多様な炭素質/希土類層状複合材を形成させることができる。
【0121】
希土類−遷移金属ペプチド・マトリックス・ナノ複合材
上記の方法を用いて複合材を調製してもよいが、この場合、ペプチド・デザインには遷移金属結合部位が含まれる。これらの部位は、ペプチドの末端近傍にも、末端ブロック内にも、剛性ロッド・ドメインの末端近傍にも局在させることができるが、あるいは、剛性ロッド・ドメインにパターン形成して、ペプチド・マトリックス中に多様な金属間希土類及び遷移金属パターンを生じさせることもできる。遷移金属はペプチドに、薄いペプチド・フィルム上への蒸着を行い、その後、希土類又は他の二次無機(又は有機金属)成分を加える前に化学的錯体形成を通じて表面拡散させることで添加することも、多層静電的蒸着プロセスで蒸着させることもでき、あるいは、金属を、薄いテクスチャのあるナノパターン状金属−ペプチド複合フィルム上に蒸着させてもよく、この場合、余分な分を数時間後にすすぎ落とす(それにより表面拡散及び結合を可能にする)。これらの材料は、新規な光学的、電気的、及び磁気的特性を有すると期待されており、また、非常な熱及び音響エネルギ伝達を特徴とするであろう。この用途で有用ないくつかのペプチド配列には、以下のものがある:
NGCGN(GPAGPP)2NGCGN、
NGCGN(GAGAGA)NGCGN、
C(N)3(GGAGVA)6(N)3C、
N2 (GAGAGA)(GPCGPP) (GAGAGA)N2
NGCGN(GSHGGS)(GAGAGA) N5
N2 H (GCAGAA)(GAAGAG) N2
N2 GCPGPP (GAAGPGAAG)GPPGPH(N)3
N5 GPCGHP GCPGPH (GPAGPP) (N)5
NGCGN(らせん配列)NGCGN、
NGCGN(らせん配列)H(らせん配列) N5
L4 H GC(らせん配列)L5
(GL)5 GC(らせん配列)H(GL)5 及び
(LV)5 GPCGHP GCPGPH (らせん配列)(LV)5
【0122】
相対的に重い(電子的に密な)無機添加剤は、これらが、集成後の複合材中の電子密度(及び従って屈折率、電気的特性、熱特性等)の強力な周期的変化のために、特有の光学的及び電子的特性を当該複合材材料に付与すると考えられるため、興味深い。いくつかの実施態様では、金属はスメクチック層自体に取り込まれるのではなく、層間間隙に限定されるであろう。予備データでは、付加的な荷電成分が、オリゴペプチドの結晶化を高めることで、共結晶、鋳込まれた無機−有機結晶、および他の種の近分子複合材を形成させることができることが示されている。観察される現象は静電学に基づくものである。選択されたペプチドは、荷電した末端基を有するため、調査対象に選ばれた荷電種との相互作用にとって有利であろう。配置に加え、荷電した無機種の存在は、スメクチック層と結晶化ペプチドの層との間のクーロン又はイオンによる強力な結合を促進することで、自己集合して三次元秩序を有するアレイになる傾向を高めるはずである。サイズ適合に向けて適宜選択されれば、ペプチドのらせんの大きさ又は結晶化可能な配列や無機種に対してほぼ一対一の対応ができ、スメクチック層を互いに固定した関係に係止するために好ましい条件を与えることができる。
【0123】
試料の無機種には、陽イオン性及び陰イオン性の種の、強力な可視吸収を有する物質や、
可視スペクトル中で概ね透明である物質、強力なキラリティを有する物質やアキラルな物質、そして、容易に酸化及び還元して迅速な電子交換を行う物質、がある。すべては、たんぱく質性ラメラ層に比較して相対的に電子密である。最も軽い材料は、少なくとも1種の第二列遷移金属を有し、他のものは最高12種の第三列遷移金属を有するであろう。
【0124】
適した無機材料の例には以下のものがある:1)陰イオン性ポリオキソメタレート、主にイソポリ-及びヘテロポリ-モリブデート並びにタングステート;2)クラスタ陽イオンTa6Cl122+及びW6Cl84+及びそれらのブロミド類似体などの多核陽イオン種;並びに3)二つの異なる立体異性体型で付加することで、調査中の本来キラルなペプチドを持つジアステレオマの組み合わせを生じさせることのできるキラル錯体。
【0125】
1)陰イオン性ポリオキソメタレート、主にイソポリ-及びヘテロポリ-モリブデート並びにタングステート。これらの材料は耕地であり、中性に近いpHの条件下で加水分解上安定である。最も興味が持たれるイオンは1単位12個のモリブデン又はタングステン原子を有するため、電子密度が非常に高い層を生じ、X線及び電子散乱密度の両方で強力な調節を行い、それらの構造のTEM及びX線調査が容易となり、また当該複合材材料の屈折率の強力なナノ規模での調節も容易となるであろう。2)クラスタ陽イオンTa6Cl122+及びW6Cl84+又はそれらのブロミド類似体などの多核陽イオン種。これらの種はそれぞれ、それらが荷電しているために静電相互作用を有することに加え、付加的な配位子のための付加的な配位部位を6箇所、有する。これらはポリオキソメタレートよりも僅かに小さいが、やはり非常に高い電子密度を有するため、上記と同じ利点を有する。3)二つの異なる立体異性型で付加することで、調査中の本来キラルなペプチドを持つジアステレオマの組み合わせを生じさせることのできるキラル錯体。原則的に、分離させた錯体を開始点として調製しなくとも、当該効果を観察することさえ、可能なはずである。これらの材料は、無機成分のキラリティ、ペプチド層、及び巨視的な光学特性間の関係を調査するための優れた機会をもたらすと期待される。最初の選択には、トリス-ビピリジルルテニウム(II)
及び/又は関連する種や、伝統的なすべての無機のトリス-(テトラミンジヒドロキソコバルト(III))コバルト(III) 陽イオンがある。前者が選ばれるのは、それが、偏光するはずの強力な蛍光特性を有するからであり、後者は、それがナトリウムのD線で約47、500°という、これまでに記録された中で最大のモル旋光度を有し、従って当該複合材材料の回転特性に劇的に寄与すると思われるからである。
【0126】
ケイ酸塩及びゲルマニウム化合物は、ファージ・ディスプレイ技術(空軍)を通じて発見されたペプチド配列により特異的に核形成して結合することが知られている。これらはまた、付加的な無機物で官能化させることができる。
【0127】
磁性の希土類金属(ランタノイド族の大半)及び磁性遷移金属のパターン状の組み合わせを、薄いものから準薄い層状材料(1nm乃至ほぼ4nm未満の絶縁層)中に軟質の磁性ドメイン構造を生じさせるために用いてもよい。これらの材料は、書き込み可能な記憶成分としての用途を有するであろう。磁性ドメインのカップリングの程度、従って磁気的「軟性」及び安定性は、例えば以下のものの一つ以上などにより、調節することができる:
(a)磁性の希土類イオンを、非磁性遷移金属と組み合わせる;
(b)層中の金属濃度を低下させる;
(c)二次元金属層をより薄く又はより厚くする;
(d)金属原子とイオンとの間の距離を増す;
(e)複合材を処理して、(それを金属ハライドの膜プレートのように展開させて)金属クラスタを生じさせる;
(f)異なる金属イオンの相対的濃度を変える;
(g)遷移金属の異なる酸化状態を選択する;
(h)磁性遷移金属を非磁性希土類と組み合わせる;
(i)金属パターン形成性配列中のスペーサ・アミノ酸を変えて、磁気モーメント中の結晶場効果減少を増加又は減少させる;
(j)「純粋なペプチド」ドメイン中の配列を変えて、結晶場効果の強さを変える;
(k)非導電性の「純粋なペプチド層」の厚さを変える;及び/又は
(l)金属化ドメインを分離する、短い領域の導電性ポリマを取り入れたキメラ・コンストラストに切り換える、あるいは、金属層間のスペーサとなる(ことも知られている)チューブ及びチャネル形成性ペプチド配列を用いる。これらを用いて、金属又は導電性ポリマのいずれかの半導体ナノワイヤをケージ(原語:cage)し、金属層同士の間のトンネル効果の程度を増加させることができる。
【0128】
形態
前記のオリゴペプチド−塩化希土類の錯体である材料をX線回折研究すると、過剰な希土類イオンがあると、当該ナノ複合材中の塩化希土類が、純粋な塩化希土類と同じ単位格子を持つ特徴的な結晶微小構造を(このナノ複合材フレーク中に)形成することが分かる。多結晶質性の回折パターンが高度に配向しており、このパターンの見かけ上の経線か、又は見かけ上の赤道のいずれでも、すべての反射があることから、二次元性の結晶修正があることご示唆される(図2)。図面において、やや強い低反射角が観察され、当該オリゴペプチドによりもたらされる層間距離と一致する。このオリゴペプチドに典型的な反射が、塩化物ピークの肩として観察される。過剰な塩化物分が減少すると、結晶性の証拠も減少し、幅広い非晶質性の散乱ハローが、希土類3+(塩化物由来)及び(酸性の末端が完全にイオン化している場合には、1分子当り6の電荷を有する)オリゴペプチドについて化学量論的に2:1の比で観察される。弱い回折点が非晶質性のハローに加えて時折、観察される。
【0129】
純粋なオリゴペプチド材料は、配向していない多結晶質のテクスチャを有し、2-12nmでは強い反射を、そしてほぼ3.7では、中間から弱い、幾分、広汎な回折リングがある。これらの材料から得られる回折パターンは、ポリグリシンII及びポリ(アラニルグリシン)IIの延びた3重らせんの変形であるシルクIII構造に近いものだった。観察されるd-距離及び相対的輝度は、本オリゴペプチドをデザインするために用いられたたんぱく質配列であるB. モリ(B. Mori)シルクたんぱく質の膜間フィルムで観察されるポリ(アラニルグリシン)IIへリックスであるシルクIII水和構造と一致した。3.7nmでのより低い角でのリングは、分子層の厚さを現し、実験誤差内で12個のアミノ酸による「シルクIII」へリックスの長さに等しい(12個のアミノ酸*0.306nm/オリゴペプチド一つ当りのシルクIII中のアミノ酸=3.67nm)。
【0130】
酸化希土類を酸性ペプチドの水溶液に直接溶解させることにより希土類イオンと錯体形成させたオリゴペプチドは、ペプチド及び希土類イオンのみを含有すると予測される。これらの錯体から形成された材料においては、結合した水和水も存在するかも知れない。酸化希土類を酸性のオリゴペプチド溶液に直接溶解させて調製した試料のいずれでも、回折による酸化希土類相の証拠が見られなかった。酸化希土類を完全には乾燥させなかった試料では、高度に配向した多結晶性のテクスチャが観察され、その格子間距離及び相対的輝度はシルクIIIと同様だった。低角での「層」間距離は、錯体を形成していない試料よりもより強く、またより高度に配向していた。該試料中のこのような高い配向度は、経線{hk0}及び赤道{001}反射をはっきりと観察できたパターンを得るには十分なものであったことから、シルクIII構造のジオメトリが裏付けられた(図3)。{hkl}反射が観察されるのは、このパターンの赤道軸及び経線軸方向のみであることは注目に値する。このことは、層間にほとんど位置的相関関係のない二次元性の結晶層の「格子」を示すものである。
【0131】
希土類濃度が高い場合、酸化物の粉末を一晩放置して完全に溶解させた場合、強く配向した多結晶質のテクスチャはもはや存在しない。配向のない結晶性の反射が観察され、そのときのd-距離はやはり、シルクIII(水和物)の格子と適合し、より拡散した配向のないリングが、当該オリゴペプチドの予想上の層厚に適合する低角で観察される。純粋な(配向のない)オリゴペプチド・ペプチドを、希土類との錯体形成度の高いオリゴペプチドと比較した場合、反射の相対輝度に著しい変化がある。図4では、純粋なオリゴペプチド材料と、希土類含有量の高いオリゴペプチド材料の回折パターンのリング中の輝度の積分を用いて、相対輝度の比較が可能なように、回折線を作成した。低角のリング(ほぼ4nm)はこれらの線では明確に観察できないが、その輝度は、希土類と錯体形成した材料では高められている。加えて、この回折パターンには相対的輝度の向上が観察される領域が二つあり、両者は、当該結晶の分子層に対して平行な一揃いの平面と、当該結晶中の分子層に対してほぼ平行な平面とに相当する。0.45nm及び0.35nm近くでの反射の組は、比較的に弱い。これらの反射は、当該ペプチド・へリックスの分子間パッキング距離に相当する。これらの特徴はすべて、希土類が、この材料中の特定の層に集中していることを示すものである。
【0132】
TEMデータは、X線回折で観察される形態上の傾向を裏付けている。純粋なオリゴペプチド材料のTEMデータは概ね特徴がなく、これらの材料の低結晶性と、光素子だけから成る材料で予想される低コントラストを示している(図5a)。塩化物ナノ複合材は長距離秩序の証拠を示さず、しかし、境界のはっきりした積層平面が観察される小さな局所的区域があり、その周期性は、この分子の予想上の長さと、WAXS研究で観察される低角反射に対応するものである。シルク様分子ベースの塩化物ナノ複合材材料のTEMを図5bに示す。ローパス・フーリエ変換フィルタを用いて高周波の検出器ノイズを取り除くと、ほぼ4-5nmの拡散縞が明白となり、ほぼ10nmの長さスケールの明暗領域の大きな無秩序のテクスチャも見られる。
【0133】
対照的に、塩化物イオンなしで調製された大量の錯体形成した希土類を有する試料では、大変くっきりとした明暗の縞がほぼ3nmの周期となった粒子を観察することができ、交互になったバンド又は層で電子が密になった材料の濃縮を示している(図6a、b)。
【0134】
磁性上の挙動
塩化ガドリニウム層状コラーゲン様オリゴペプチド、E5(GSPGPP)6E5 の磁化率(χ(T)=M/H、ただし 2<T<300 K)を図6に示す。データは、印加磁場に対する磁化が温度範囲全体にわたって直線状となるのに十分低い1000G(0.1T)で採られた。χ(T)の最大点又はキンクで現れるはずの、ガドリニウム・イオン間の磁性カップリング相互作用の指標は何もなく、この系は常磁性であるようである。
【0135】
図7aの太線は、修正されたキュリー・ワイスの法則:
χ(T)=χο+C/(T-Θ)、(1)
に対する適合度であり、但し式中、χοは、磁化率の温度非依存部分(この場合は、絶縁材としては我々はパウリの常磁性を予測しないため核反磁性)を表し、C(=NpefB2/3k)はキュリー定数である。キュリー・ワイス温度は、磁性成分間の強磁性又は反強磁性相互作用の尺度である。この適合度は、温度範囲全体についてはほぼ完全であり、その適合値はΘ=0.07K及びχο=2.26×10-8emu/Oeである。図7aの囲み図は、2<T<200Kの場合の-1(T)対Tである)。(正のχοは超伝導磁力計で試料を封入するために用いたゲル・キャップの背景を反映している)。
【0136】
材料中に結合水が残る可能性があるために、最初の溶液中と、得られる最終的な固体材料中とで、ペプチド重量が不確定となり、希土類及びペプチドの相対的比率が不確定となる。図7aに示したものなど、磁化率の測定値を等式. 1に適合させると、試料中の希土類イオン数を計算して、この場合はガドリニウム濃度を判定する替わりのアプローチとなる。ガドリニウムの遊離イオン値である Peff=7.94を用い、そして当該ペプチドの分子量(質量分析法では4200Da)を知ると、11.7というガドリニウム/ペプチド分子の比が得られる。これは、当該ペプチドの末端にある酸−塩基の数よりも高く、塩化物陰イオンと結びつけた付加的なガドリニウムのX線観察を裏付けている。
【0137】
Bに対する等温磁化率M(B)=Tでの5T、が図7bで分かり、等式2を用いて計算され、T=5KでのS=7/2常磁性体の磁化率を表すブリュアン関数が点線で示されている。
M(B)=MsatB7/2(x)=(8/7)cosh(8x/7)-(1/7)cosh(x/7)、(2)
但し式中、x=7μB/kBTである。ここで飽和モーメントMsat=NgJμB=0.106 emuは、図7aのデータを用いてガドリニウムの濃度により固定されている。従って、この曲線の判定において調節可能なパラメータはない。計算された曲線は、MsatB7/2(x)と一致し、充分に実験誤差の範囲内である5%未満の差で、実験データの下に来る。
【0138】
図7a及び7bのものと同様なデータを、相当する(塩酸溶液を用いて調製された)コラーゲン様ジスプロシウム層状ペプチドE5(GSPGPP)6E5について図8a及び8bに示す。ジスプロシウムは重希土類クラマース・イオン(奇数の非対4f電子)であり、いずれの磁気イオンの中でも最大の総角運動量J=15/2を有する。ジスプロシウムの飽和モーメントは10μB/Dyであり、有効常磁性モーメント=10.65である。やはりχ(T)に磁気秩序の証拠はない(図4a)。上記と同様な分析では、5.9のジスプロシウム/ペプチドの比が出ることから、塩化物の存在は電荷の平衡にとって必要ではないことが示唆される。
【0139】
ガドリニウム−オリゴペプチドで観察されたブリュアン関数と、測定された等温磁化との間のM(B)の良好な一致とは違い、この一致はジスプロシウム−オリゴペプチドではあまり良好ではない。図8bに見られるように、測定された飽和モーメントは、約25%低すぎる。我々はこれを、周囲のイオン、即ちジスプロシウム及び/又はペプチド・イオンから結晶電場効果による、 2J+1=16重の縮重のDy3+フント法則の基底状態のゼロ電界修飾の証拠と考える。これは、ガドリニウムと錯体形成したオリゴペプチド材料では起きない。なぜなら、Gd3+は、その軌道の角運動量が総角運動量に寄与しないS状態イオンだからである。従って、ガドリニウム・ベースの系の磁気特性及び他の特性に対するCEFは第一次近似値になるまで消失する。ジスプロシウムでは、このCEFはゼロ電界での縮重を持ち上げて、いくらかより高いライイング・レベル(原語:lying level)をT=5Kの込み合っていない状態にし、観察された通りに飽和モーメントをその10μB/Dy値未満に低下させるであろう。
【0140】
図8b及び8cでは、シルク様のアミノ酸配列と約4nmの長さしかない、塩酸溶液から調製された異なるジスプロシウム層状オリゴペプチド E5(GAGAGS)4E5 のχ(T)及びM(B)が見られる。図8cの矢印はこの針様の試料の長手軸に対する電界の方向を示す。大変似たデータが、該長手軸に対して垂直なBで見られた。これらのデータを上述したように分析したところ、計算されたジスプロシウム含有量は6.0 Dy/分子である。同様なガドリニウム・オリゴペプチド錯体(同じオリゴペプチド)であるガドリニウム層状のシルク様系(データは図示せず)とは違い、小さいが有意な差が最低温度で見られる。同じ試料の長手軸に対してBを平行、対、Bを垂直にした場合の、B=5000GのときのM/Bの比較を図8dに示す。約T=3Kのときには二つのデータ組間で交差がある。データは単に、小さな定誤差で説明できそうな互いの倍数ではないため、我々は、この異方性は有意であり、かつ、CEFが磁気特性の及ぼす影響の異方性の証拠であると考える。これは、初期磁気秩序であるジスプロシウム原子同士の間の前駆的な相関関係を示すものかも知れない。充分に低温であるか、あるいはジスプロシウム濃度が高い場合には、同様な線形の寸法(ほぼ4nm)を持つ銅ベースの層状表面系におけるDrillonらの場合と同様に、秩序形成が現れると期待していいかも知れない。
【0141】
水性の薄膜
実施例1に従って純水及びペプチドによる水溶液から成長させた薄膜は、くっきりと縞状になって見えた区域を断続的に持つ特徴のないドメインで特徴付けられた(図9)。TEMで倍率をより高くして分解能をより高くすると、この縞のうちのいくつかが化合物の端部を有するようであることが分かる。一連の通し焦点で、これらが単なる縞ではなく、構造物を形成していたことが確認された。これらの構造を慎重に測定すると、一連の長いバンド及び短いバンドが明らかになったが、そのサイズは、おそらくは当該ペプチド配列のシルク様部分の長さに応じて様々である。二番目のテクスチャのある小さな区域を観察できた縞状ドメインの多くで、大変微細なフィンガープリントテクスチャがあり、キラルなスメクチック液晶を示唆していた。
【0142】
Na+EDTA−を塩基として用いた薄膜
実施例2に従ってNa+EDTAを用いて成長させた薄膜は、TEMの格子をより均一に網羅し、TEMでは比較的に高いコントラストをもたらしたことから、純水で形成されるよりも厚い膜であることが示唆された。良好な膜がSpidV及びFib2aで得られた。やはり縞のあるテクスチャが観察され、膜の形態は、受理された凍結乾燥させたフレークで見られたものと同様だったが、それほどは組織だっていなかった。ランダムな網様の構造を持つ沈殿物がFib 2b、Fib6a、及びFib6bで得られた。これらの沈殿物の顕微鏡写真では、層状構造(段形成、位置特異性の高いバンド・パターン)の弱い証拠が見られたが、長距離秩序パターンのある膜は観察されなかった。FibV は、僅かにねじれた板又は繊維の束に見える、大変微細な構造の沈殿物を生じたが、長距離秩序のある構造はやはり観察されなかった。
【0143】
FibCは、長く(数百ミクロン)延びたバンド状又は縞状のパターンを持つ薄膜を生じた(図10)。暗い縞は「編み組まれた」外観を有しており、この外観は、FESEM及びTEM画像の両方でより高倍率にするとはっきりと見える、複数の材料層が積層され、ねじられて複雑なパターンになった結果である。非染色高分解エネルギ・フィルタ低温(-167℃)TEM画像
では、ねじれ糸(矢印)近傍の、より滑らかな膜領域がコントラストの鋭い変化を示し、この変化は段階的に増すことが明白である。これは、膜表面に対してほぼ平行に配向した、別個の材料層を示すものである。同様な特徴は、FESEM画像でも観察することができる。ねじれたバンドのテクスチャを散在させた前記の滑らかな膜区域において、格子又は網様の外観を持つかすかなコントラストのパターンを観察することができる。この編み組まれた縞は、FESEM画像では、より厚い高くなった区域として顕著に見ることができるが、他方、この網状パターンは可視ではなく、干渉性回折領域の配向変化など、異なる形態のコントラストが前記のTEMのテクスチャの理由である可能性を示唆している。図面のうちいくつかで、より組織性の高い凍結乾燥させたフレークを比較のために示している。空気−水の界面膜と、(大変異なる化学条件下で生じさせた)凍結乾燥させたフレークの両方で前記のテクスチャが存在することは、編み組まれた膜構造の外観は、厚いスメクチック層形成の確固とした結果であり、化学的環境に対しては比較的に感受性がないことを示唆している。
【0144】
SpidV EDTA溶液では、界面膜が生じ、この膜もやはり、縞状のパターンを含有していたが、この場合、当該の縞はマックスウェル・デモンのスニーカープリントの名残の小さなグループを成して整列していた(図10)。細かく調べると、各縞は、より小さな波状のバンドの領域から成る(図10)。これらのバンドを詳細に調査すると、バンドが再配向するときに微細な端部として周期的に現れる大変微細なナノスケールのパターンが数回、繰り返されていることが分かる(図10)。この大変微細なナノスケールの層パターンを測定すると、4-5nmの層と、最高1nmの層が互いに交互になっていることが分かる。これらの寸法は、ヘアピンの配置で層状に並んだSpidV分子について予測された寸法と大変、一致する。
【0145】
単結晶
前記のペプチドのすべての単結晶を、EDTAで結晶化させるか、あるいは、凍結乾燥させたペプチド粉末を80%エタノール/20%水などの貧溶媒で攪拌することにより、得ることができた。多くの場合、得られる結晶の質は悪く、電子回折実験での反射もほとんどなかった。注目すべき例外は、両方の結晶化法で高品質のラメラを生じたSpidVだった。EDTA不純物が問題とはならない貧溶媒で結晶化させたSpidVを用いた実験では、ペプチドのヘアピンの寸法及び層厚への更なる洞察が得られた。あるラメラの回折傾斜の連なり(図12)は、相互の格子が、レルロッド(原語:relrod)、即ち各格子点での輝度の長いチューブ、からなることを示す。更に、これらのレルロッドは。それらの長手軸を、ゼロ傾斜状態でエワルトの平面に対して垂直にした状態で配向している。回折パターン中のレルロッドは、平面構造が積層した結果であり、レルロッドの配向は、実空間構造の平面が支持膜の表面に対して平行であり、――平面の直角線が電子ビームに対して平行である、ことを示す。最高4nmの層間距離が、各レルロッドに沿った高輝度のノードの距離から得られる。当該の標本は完全に90°には傾けられないため、4nmの層間距離は、(001)平面に対して幾分の(小さな)角度にある平面に相当するとともに、結晶子の真の層間距離を表す、001という寸法よりも小さな平面間距離を有すると予測される。
【0146】
バルク研究
EDTA及びDy塩で調製された複合材料において、X線回折パターンは、0.4乃至0.46nmの範囲での強力な反射を含め、シルク様ペプチド及びたんぱく質に関して典型的に予測されるであろう特徴を含有する。Dy塩を持つペプチドに対しては詳細な研究がなされており、シルク及びシルク様の反射での強力な{hk0}反射とほぼ同じ位置に強い反射を示す。しかしながら、{001}反射はシルク様ではなく、代わりに、4.2nmでの強い小角反射と、4.2nmの層間距離の次数として指数付けすることのできる弱い反射とから成る。選択的に(より確率の高い)hk0又は001反射として指数付けすることのできない{hk1}反射の証拠はほとんどない。配向したバルク材料において、回折した輝度の分布は、経線中心の縞と赤道中心の縞という驚くべき組み合わせであり、見かけのオフセット反射はなかったことから、やはり、{hk0}及び{001}反射のみが存在したことが示された。強力な{001}反射があることは、良好な秩序のある層構造を示すものであり、他方、{hk0}反射の存在は、個々の層内の結晶性の証拠である。真の三次元結晶性があれば、層同士の間の相関関係が起き、続いて回折パターン中に{hk0}反射が現れるはずである。これらは観察されなかった。
【0147】
実施例
本発明を概略的に解説したところで、以下の実施例を参照されればより容易に理解されよう。但し以下の実施例は、単に本発明の特定の局面及び実施態様の描写を目的として含まれたのであり、本発明を限定するものとは意図されていない。
【0148】
分光法: 結晶化後の試料純度をFTIR分光法及びFTIR顕微鏡法により、FTIR顕微鏡を取り付けたBruker Equinox 55 Spectrometerを用いて調べた。FTIR顕微鏡法のために、平均300回のスキャンをバックグラウンド及び試料データの採集の両方に行い、4cm-1の分解能を用いた。材料は偏光光学顕微鏡法、TEM、及びSEMを用いて特徴付けられた。Nikon社の偏光光学顕微鏡を透過モードで用いて材料を分析した。TEMを、染色していない試料に対し、LEO 922 エネルギ・フィルタリングTEMを200 kVで作動させ、100kVで作動させたPhilips CM10 TEM上で低温試料載物台を用い、標準的な試料操作を用いて行った。酢酸ウラニルで染色した試料も、Philips CM10で調べた。薄膜の高分解能SEMを、0.6 − 1 KVで作動させたLEO 1550 電界放出 SEMを用いて得た。GADDS X線回折計を取り付けた Bruker D8 Discover を用いてWAXS 及び中程度の角度のSAXS データ(小さな層厚はWAXSパターンで現れるであろう)を得た。前記の回折計は銅放射を用い、 40 kV 及び20 mAで作動した。パターンは、8.14cmのカメラ長を用いてマルチワイヤ検出器で検出された。
【0149】
バルク結晶の、及びEDTAと錯体形成させたシルク様オリゴペプチドのナノ複合材の薄膜: 無機/ペプチド静電的錯体形成及び自己集合の原則の証左として、同様な錯体形成及び自己集合実験を、シルク様「ヘアピン型」オリゴペプチド及び有機塩基 Na+EDTA-を用いて行った。この有機塩基はこのアミノ酸に対して大きさ及び形状の点で同様であり、また同様な可溶性を有するため、フォースト(原語:foirst)のシリーズの検査用の好例である。
【0150】
七つのペプチドを研究した:
SpidV: (Glu)5(Gly-Asp-Val-Gly-Gly-Ala-Gly-Ala-Thr-Gly-Gly-Ser)2(Glu)5
FibV: (Glu)5(Ser-Gly-Ala-Gly-Val-Gly-Arg-Gly-Asp-Gly-Ser-GlyVal-Gly-Leu-Gly-Ser-Gly-Asn-Gly)2(Glu)5
FibC1: (Glu)5(Gly-Ala-Gly-Ala-Gly-Ser)4(Glu)5
FibC2: (Glu)6(Gly-Ala-Gly-Ala-Gly-Ser)3(Glu)6
FibA1: (Glu)5(Gly-Ala-Gly-Ala-Gly-Tyr)4(Glu)5、及び
FibA2: (Glu)6(Gly-Ala-Gly-Ala-Gly-Tyr)3(Glu)6
【0151】
合成及び調製 − ペプチドはボストンのタフツ・プロテイン・コア・ファシリティで合成・精製された。当該ペプチドは、標準的なFmoc合成法を用いて合成され、トリフルオロ酢酸を溶媒としたHPLCにより精製された。質量分析法を用いて当該ペプチドの分子量及び純度を評価したが、このペプチドは、測定精度内で、計算された分子量の0.01%まで単分散であった。ペプチドは凍結乾燥粉末として現れた。該ペプチドは、50mg/ml過剰の濃度まで純水(17MΩミリポアで濾過した水)中で可溶性だった。結晶化、バルク・スメチック形成、及び界面膜形成はすべて、当該ペプチドのグルタミン酸末端を中和することにより、促進された。数多きの塩基が当該ペプチドのグルタミン酸(Glu)末端上の荷電を効果的に中和し、材料への自己集合を促す。成功裏に用いられたものの中には、Na+ EDTA-、ビピリジルトリスRuII クロリドヘキサヒドレート、及び数多くの金属塩基があった。
【0152】
純水に溶解させたペプチドと、Na+EDTA-で処理したペプチドの水溶液に溶解させたペプチドから得られた一連の界面膜を研究した。溶解させたペプチドの水溶液を由来とする薄膜を、受理されたばかりの凍結乾燥フレーク(この場合、溶媒精製プロセスにより厚い界面膜が促進されると考えられる)とも比較した。単結晶もこれらのペプチド水溶液から成長させた。結晶は、NA+EDTA-をペプチド溶液に加えて鎖の末端を中和した後、エタノールで結晶化させることにより、当該ペプチドから調製された。結晶化は肉眼により観察された。TEM試料は、混濁溶液(結晶核及び小さな微結晶を含有する)を、炭素で被覆したTEMグリッドに滴下することにより、得られた。結晶化プロセスのうちで異なる段階の結晶を採集し、FTIR顕微鏡法(Bruker
equinox 55)を用いて調べて、ペプチド(特徴的なたんぱく質アミドのバンド)の相対的量及びEDTA含有量を判定した。溶液を長時間(30分間を超えて)結晶化させた場合、結晶化は、数分(10分未満)後に著しく鈍化することが観察されたが、二回目の遅い結晶化プロセスの結果、EDTAリッチな相がペプチド結晶に混入した結晶ができるであろう。結晶化プロセスの第一相で早期に溶液から取り出されたバルク微結晶は、見とめられる量の混入EDTAは含有していなかった。バルク層状非結晶性構造は、ジスプロシウム(Dy)の塩からも得られた。これらの層状の非結晶性材料のうちで、塩基性のイオンはX線散乱実験でコントラスト増強剤として作用(ジスプロシウムは数多くの電子及び大きな散乱断面を有する)すると共に、当該ペプチドの末端上の荷電を中和する。従って、これらの材料は、バルク層状材料を調べ、それらのナノスケールの特徴を薄膜のものと比較する上で大変、有用である。
【0153】
実施例1
シルク様オリゴペプチドをEDTAと錯体形成させた薄膜: 上記のリストのペプチドを、加熱せずに脱イオン水に溶解させた。個々のペプチドの可溶性に応じて、10mg/ml乃至100mg/mlの溶液濃度を用いた。ペプチド及びEDTAの両方の完全なイオン化を想定して、電荷平衡を得るためにEDTAナトリウム溶液(pHは8以上)をペプチド溶液に加えてペプチド/EDTA錯体の溶液を調製した。薄い硬質の膜が、3乃至30分後にペプチド溶液の表面に形成され(図9)、この膜を採集し、調べた。空気−溶液の界面で長時間経った後に得られた膜は厚くなる傾向があった。
【0154】
実施例2
シルク様オリゴペプチドをEDTAと錯体形成させたバルク結晶: 前記のペプチド溶液は、EDTAと錯体形成したペプチド結晶と、ペプチドEDTA有機/有機層状ナノ複合材を結晶化させるためにも用いることができた。EDTA溶液及びペプチド溶液は実施例1の通りに調製された。アルコール(メタノール、エタノール及びプロパノール)を用いて該溶液から錯体を沈殿させた。アルコールを、ペプチドEDTA溶液に、少なくとも2:1のアルコール対ペプチド/EDTA溶液過剰にして加えた。大変低いEDTA含有量(FTIRを用いてほぼ10%未満)を有するペプチド結晶が即座に観察され、これらの結晶はほぼ3分間、成長した。該結晶はラメラ状であり、積層したラメラの外観を有していた。時間(5分未満)経過後、ペプチド/EDTA/アルコール及び水の溶液は不安定になり、二番目の核結晶化事象が観察された。この二回目の事象で出た沈殿物は、より高い比率のEDTAを含有し、多結晶性であり、そして積層したナノ層状の外観を有していた(図10)。
【0155】
実施例3
酢酸ウラニルと錯体形成したシルク様ペプチド: 酢酸ウラニルはポリマ中の酸性領域と錯体形成することが知られている有機金属化合物であり、しばしば、電子顕微鏡で酸感受性の陰性染料として用いられる。パターン状のペプチド薄膜を用いた酢酸ウラニルの制御された核形成。実施例1で解説されたシルク様ヘアピン・ペプチド配列を用いた。精製プロセス中、これらのペプチドをトリフルオロ酢酸に溶解させ、凍結乾燥させる。このプロセスの結果、実施例1の薄膜調製で得られるものと同様なテクスチャのあるフレークが生じる(図9a)。これらのフレークを、酢酸ウラニルを水/エタノールに溶かした塩基性溶液(pHはほぼ8を超える)に浸すと、パターン状の無機(酢酸ウラニル)結晶核が、膜上で、膜のテクスチャの畝がある位置に相当する位置に生じる(図11)(そして酸性の基は露出している)。フレークを1日目から1週間、陰性染色法で用いたものと同一のウラニル酸溶液を用いて浸した。結晶核は、より長時間、浸すにつれて成長していくことが観察された。
【0156】
実施例4
Rubipy(ビピリジルトリスRu(II)クロリドヘキサヒドレート)と錯体形成させたシルク様ペプチド: 「Rubipy」は、通常は染料としては用いられないが、塩基性でもあり、遊離酸と錯体形成するはずである。テクスチャのあるシルク様(ヘアピン−実施例1の配列)ペプチド・フレークを、実施例3の通りに得/調製した。水及び水アルコール(エタノール、メタノール)混合液を用いて5mg/ml過剰の濃度のRubipy溶液を作製した。このペプチド・フレークを、Rubipy溶液に3日間、浸した。テクスチャ中の畝のRubipyによる選択的「染色」を光学顕微鏡で観察した。
【0157】
実施例5
ナノ複合材研究でのコラーゲンの配列: E5(GAPGPA)6E5; E5(GAPGPP)6E5;
E5(GPAGPP)6E5; E5(GSPGPP)6E5;
E5(GVPGPP)6E5: 折り畳まれていないコラーゲン・ペプチドをEDTAと錯体形成させ、結晶化させた。コラーゲン・ペプチドを室温の水に溶解させて、水1ミリリットル当たり100mgペプチド以下の濃度を得た。EDTAナトリウの水溶液(pH8)を該オリゴペプチド溶液に加えて、電荷平衡(感染にイオン化した酸性の基及び塩基を想定して)又はEDTA過剰を得た。アルコール(エタノール、メタノール又はプロパノール)を体積で該ペプチドEDTA溶液に少なくとも2:1のアルコール水溶液過剰になるように加えた。約1分後に結晶核が即座に現れ、溶液から濾過し、そして直径で数百ミクロンのラメラに成長させることができた。結晶ラメラ(図12)をアルコールですすいで水を取り除いた。湿潤した、すすいでいない結晶を得、この結晶周囲の液体からアルコールを優先的に蒸発させると共に再溶解させた。アルコール添加から5分を越えて放置したペプチド及びEDTAの溶液は、二回目の核形成事象を起こした。
【0158】
実施例6
コラーゲンはEDTAと一緒に厚い膜となって乾燥した: コラーゲン・ペプチドを通常の緩衝塩と混合し、三重らせんが安定であり、かつ、スメクチックな液晶相が純粋なコラーゲンで観察される温度で乾燥させた。コラーゲン・ペプチド(上記の配列を参照されたい)を水、及び塩基性EDTA、並びにトリスEDTA緩衝液に溶解させた。その結果できた溶液を、マルチウェル・プレート又はマルチウェル包埋鋳型内の形のウェル内に入れた。液体溶液を含有するこのプレート又は鋳型を、制御された温度冷却チャンバ内に入れた。試料を3乃至7日間、1乃至3℃の範囲の温度で乾燥させた。厚膜及びフレークを得、ウェル・プレート及び包埋鋳型から慎重に取り出した。これらの膜を光学顕微鏡で観察すると、ペプチドが塩のパターンになっていることが分かる(図13)。
【0159】
実施例7
コラーゲン−Rubipy層状複合体: コラーゲン・ペプチドを50乃至100mg/mlの濃度に水に溶解させた。Rubipyをこのコラーゲン溶液に加えた。いくつかの溶液では、過剰なペプチド(この場合、いずれの成分も過剰でないことは、完全にイオン化させたペプチドと、完全にイオン化させたRubipyの電荷平衡で定義される)を残した。いくつかの場合では、過剰なRubipyを用いた。いくつかの場合では、電荷平衡を試みた。溶液は、丸底を持つ小さなエッペンドルフ・チューブ内に入れた。溶液を1℃、3℃、及び10℃でこのエッペンドルフ・チューブ中で乾燥させた。コントロール溶液を同じペプチド濃度で調製し、同じ温度(及び同じ容器内)で乾燥させた。乾燥させた材料の異なる部分のRubipy含有量の定量的評価をその固体の色を用いて行った。Rubipyは強く染色するオレンジ色の化合物である。白色(純粋なペプチド又は大変低いRubipy含有量)で軟質の無秩序の積層した固体と、明るい色から暗い色のオレンジの咬合した積層した固体が、しばしば乾燥した溶液を含む同じものの混合物の状態で得られた。乾燥したペプチドと、Rubipyペプチドと錯体形成した材料を、X線技術及びSEMを用いて調べた。Rubipy含有量の多いフレークでは、多層になり、増強されたビーム安定性及び増強されたコントラストが観察された。X線データ(図14a、b、c、d)は、Rubipyの薄い結晶層が当該ペプチドに散在した複合構造を示す。ペプチド乾燥温度は、Rubipy回折パターンの秩序の程度や、存在するペプチド・シグナルに強く影響する。
【0160】
実施例8
ペプチドRubipy層状液晶: コラーゲン様ペプチド(上記の配列)を水に100mg/ml過剰の濃度になるように溶解させた。少量のRubipy粉末(コラーゲン・ペプチドのモル過剰を保持して)をこれらの溶液に加え、溶解するのを観察した。その結果できたペプチド/Rubipy溶液は、非偏光下では明るいオレンジ色だった。このペプチド溶液をガラス製の顕微鏡用スライド上に載せ、ガラス製カバースリップで覆った。スライド上のこのガラス製カバースリップは、カバースリップの端部で水がゆっくりと蒸発できるように密閉しなかった。ガラス製スライド上の溶液を3℃の制御された温度チャンバ内に入れ、一晩、放置した。そのガラス製スライドを取り出し、偏光顕微鏡下で観察した。3℃での個々のペプチド配列に典型的な液晶のテクスチャを観察した。偏光での複屈折が大きく高められ(図15、16、及び17)、当該のテクスチャは紫色からターコイズ・ブルーに見えた。純粋なコラーゲン・ペプチドのテクスチャでは白色が観察される(図15a)。青色の複屈折領域内の偏光減光は、ペプチド様液晶パターン通りであり、この青色は、ペプチド様のテクスチャと同じ秩序あるドメインに由来することが示唆された(図17)。この結果は、Rubipyが配向しており、当該スメクチック構造の酸性領域内でペプチド層に挟まれていることを強く示唆するものである。
【0161】
実施例9
コラーゲン様ペプチドの液晶球晶及び「ダイレクト・レッド」キラル染料(非線形の光学素子で用いられる): 用いられたコラーゲン配列は E5(GPAGPP)6E5
及びE5(GAOGPO)6E5
だった。コラーゲン溶液は実施例8の通りに調製された。過剰なダイレクト・レッド粉末染料をこのペプチド溶液に加えた。染料及びペプチドの溶液をガラス製の光学顕微鏡用スライド上に載せ、ガラス製カバースリップで覆った。スライドとカバースリップとの間の隙間を密閉せず、水がゆっくりと蒸発して溶液の濃縮が可能なようにした。覆われたガラス製スライドを一晩、3℃で冷却した。コラーゲン中のスメクチックC*相の挙動に典型的に関係する球晶のテクスチャを観察した。球晶の複屈折性の純粋なコラーゲンでは大きく、増強された。配列 E5(GPAGPP)6E5 は、球晶のテクスチャを、純粋なペプチドを水溶液にした場合に可能なよりも高温で、染料添加により形成した。このことは、液晶のコラーゲンとキラル染料との間で何らかの類の分子レベルの結合があることを示している。観察された球晶は、当該ペプチドにとって(複屈折の増強を除いて)典型的だった。巨視的な相分離の証拠は何もなく、密なナノ構造複合体を示唆していた。
【0162】
実施例10
酸化希土類と錯体形成したオリゴペプチド: 凍結乾燥させた(有機溶媒溶液から凍結乾燥させた)オリゴペプチド粉末を純粋な脱イオン水に混合し、次に微細な粉末状の酸化希土類を加えることにより、希土類を当該オリゴペプチド材料に化学的に取り入れた。イオン含有量が制御可能かどうかを判定するために、僅かに異なる調製プロトコルを用いて、異なる予測上の希土類含有量を有する複合材を作製した。これらの混合物のうちのいくつかを素早く振盪し、1時間放置して酸化物を溶解させた。他の混合物は攪拌し、1時間加熱してから、一晩、放置した。酸化物を溶解させるために割り当てた時間の経過後、酸化物粉末が懸濁した溶液を11、000 RPMで15分間、遠心分離して、溶解していない酸化物粉末を懸濁液から取り除いた。清澄な上清溶液を清潔なシリコーン製ウェルにピペットで入れ、数日間にわたって3℃で乾燥させた。
【0163】
実施例11
塩化物と錯体形成させたオリゴペプチド: 塩化物複合体を調製するために、凍結乾燥させた(有機溶媒溶液から凍結乾燥させた)オリゴペプチド粉末を、GdCl3及びDyCl3を希塩酸に溶かした0.1モル溶液に混合して、所望の比のオリゴペプチド及び希土類を得ることにより、希土類を当該オリゴペプチド材料に化学的に取り入れた。前記の水性の希土類イオン/オリゴペプチドの溶液を空気乾燥させてガラス製バイアルの底に薄膜を得ることにより、少量(ほぼ1mg)の固体試料を溶液から形成させた。コラーゲン様オリゴペプチドの場合、配列、溶液を3℃で乾燥させて、安定なコラーゲン様三重へリックスの形成を促進した。乾燥後の試料は、電気的に絶縁性であり、可視領域において透明だった。
【0164】
偏光顕微鏡を用いて、試料中の全体的な配向及びドメイン構造を、Nikon偏光光学顕微鏡を透過モードで用いて評価した。多結晶性のテクスチャのデータは、GADDSを付けたBruker D8 Discover 回折計を銅放射を用いて作動させ、カメラ長を8.1 cmにして得られた。積分された輝度図をPSF-2粉末回折ファイルから得た希土類塩粉末回折パターンと比較して、希土類の酸化物、塩化物、又は可能性のある水和物あるいは錯体の分離相が存在するかどうかを判定した。GATANエネルギ・フィルタを付けたJEOL 2010 TEMを用いて高分解能TEM画像及び電子回折データを得た。感度がほぼ10-5emuのQuantum Design MPMS SQUID磁力計を用いて磁気測定のすべてを行った。5.5Tまでの磁界を印加した。
【0165】
実施例12
短いペプチド(配列E3GAGAGSE3)に直接、錯体形成させた、Dy2O3由来の高濃度のDy3+イオンを用いた磁性蛍光ナノ複合材: ペプチド粉末(凍結乾燥させたもの)及び粉末状Dy2O3 をモル比で1:2 ペプチド:酸化物になるように一緒に混合した。水をこの混合物に加えて溶液中のペプチド濃度を50mg/ml未満にした。該酸化物粉末とペプチド溶液の混合物をほぼ2分間、振盪した。振盪後の混合物を80℃のオーブンに入れ、このオーブン内で一晩、空気乾燥させた。この熱い乾燥後の材料に水を加え、再度、振盪して(ほぼ2分間)、酸化物及びペプチド成分を再度混合した。その混合物をオーブンに戻し、一晩、乾燥させた。熱乾燥、再水和、振盪及び再乾燥を4サイクル、上述したように行った。3サイクル後、(その高密度のために容器の底に沈殿する)酸化物粉末上方にある当該材料は見とめられる明るいレモン・イェローの色合いに変わり始めた。5サイクルの後、酸化物粉末と、錯体形成したペプチド溶液との混合物をオーブンから取り出し、再度2分間、振盪し、密封し、無粉塵のフード内に入れて一晩、静置した。混合物を一晩、静置した後、過剰な酸化物粉末が容器の底に観察され、明るい黄緑色の上清溶液を当該粉末の上方に見ることができた。この明るい黄緑色の上清を取り出し、別の容器で乾燥させた。
【0166】
引用による援用
ここで言及されたすべての公開文献及び特許は、下に挙げるものを含め、各個々の公開文献又は特許を具体的かつ個別に引用をもって援用するかのごとく、引用をもってそれらの全文をここに援用するものである。矛盾がある場合、ここでのあらゆる定義を含め、本出願を上位とする。
【0167】
P.
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均等物
当業者であれば、ごく慣例的な実験を用いるのみで、ここに解説された本発明の具体的な実施態様の均等物を数多く認識するか、あるいは確認できることであろう。このような均等物は以下の請求の範囲の包含するところと意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】図1(a)は、本オリゴペプチド分子配列中の化学的に異なる領域の図である。図1(b)は、スメクチック液晶様の長距離秩序のある層状構造の概略図である。層状のドメインを分子配列中で明示する。
【図2】図2(a)は、スメクチックに並んだ直線状分子を原因とするパターン形成を示す、最高4nmの層状構造を持つ、自己集合したシルク様オリゴペプチド E5(GAGAGS)4E5、のTEM顕微鏡写真である。図2(b)は、10nmのコラーゲン様層状オリゴペプチドの電界放出SEM顕微鏡写真である。
【図3】図3は、オリゴペプチド試料と、希土類が錯体形成したオリゴペプチドナノ複合材の多結晶性X線回折のテクスチャを示す。(a)は、塩化物を持つ中距離シルク様ペプチドを示す。差込図 − 低角回折リングはオリゴペプチドに観察されるが、錯体形成したナノ複合材では鮮明かつ強力である。(b)酸化希土類の(天然の酸性ペプチド溶液中への)直接的溶解による、希土類イオンを10%付加した短いペプチド。
【図4】図4は、積分後の輝度トレースを示す。(a)では、塩化物と錯体形成したオリゴペプチドナノ複合材が、ペプチドを原因とする組織な一連の肩と、ペプチドの層形成を原因とする低角反射とを持つ配向した塩化物回折パターンを有する。(b)では、希土類イオンとオリゴペプチドが錯体形成したナノ複合材が、このペプチド複合層に対して低角の平面に関係する反射の著しい増強のあるペプチド様格子を有する。単位格子の異方性が高いために層のパッキングに関係する平面と、分子間パッキングに関係する平面が、回折トレースの異なる領域に集まっている。
【図5】図5は、秩序の乏しい材料のTEM画像を示す。(a)では、純粋なオリゴペプチドの画像から、非晶質の材料に伴う変動以外にほとんどコントラストがないことが分かる。(b)では、塩化物を含有するペプチド(短いペプチド)も概ね非晶質であるが、小さく弱い秩序のある領域が、X線研究で観察される層距離と一致するパターンで存在する(矢印)。
【図6】図6は、高率のGdイオンと錯体形成した短いオリゴペプチドのTEM画像を示す。(a)では、低い倍率画像で、粒子性の高い構造と、粒子内部の粒子境界様の欠損を示し、欠損相を示す。(b)では、粒子のより高倍率の画像を示し、X線回折で測定された距離に相当する強い層コンストラストを示す。
【図7】図7の(a)は、Gdで接着したコラーゲン様オリゴペプチドの磁化率を示す。囲み図は、キュリーの法則の挙動を強調するχ(T)-1対Tを示す。(b)は、T=5.0Kのときの等温磁化を示す。破線のブリュアン関数はどんな自由パラメータも有さない。
【図8】図8の(a)では、Dyで接着したコラーゲン様オリゴペプチドの磁化率を示す。(b)は、T=5.0Kのときの等温磁化を示す。結晶の電界効果があるために、飽和磁化は、図3aのデータを用いて得られるブリュアン関数よりも遥かに低い。(c)は、Dyで接着した長さ4nmのシルク様オリゴペプチドの磁化率を示す。電界は結晶化した試料の長手軸方向に印加されている。(d)は、結晶化した試料の長手軸に対して平行及び垂直な電界による、Dyで接着したシルク様オリゴペプチドの低温での磁化の比較を示す。
【図9】図9は、「(Glu)5(Gly-Ala-Gly-Ala-Gly-Ser)4(Glu)5」の膜を示す。(a)は、受理したばかりの凍結乾燥したペプチドの200kVでのTEM画像を示す。規則的な7ミクロンの縞パターンを持つ領域が、より秩序のない領域間に介在している。(b)EDTAと錯体形成した界面膜の1kVでのFESEMを示す。同じ縞のテクスチャのより秩序のない形が観察されるが、規則的な縞秩序が保たれた領域(例が丸で囲んである)がいくつかある。
【図10】図10は、EDTA含有量の高いオリゴペプチド沈殿物を示す。
【図11】図11は、酢酸ウラニル結晶の秩序ある列を核形成するために用いられた配列(Glu)5(Gly-Ala-Gly-Ala-Gly-Ser)4(Glu)5を持つペプチド・フレークを示す。左側:偏光画像。右側:通常光の画像。
【図12】図12は、ペプチド/EDTA溶液から得られるコラーゲン様ペプチドのラメラ結晶を示す。
【図13】図13は、塩と錯体形成した、三重らせんコンホメーション状態でスメクチックな長距離秩序相のコラーゲン・ペプチドの典型的なテクスチャを示す。過剰な塩はスメクチック液晶中の組織欠損部へ移動する。
【図14】図14の左側a)は、純粋なペプチド・フレーク (3℃で乾燥させたE5[GSPGPP]6E5 )の横断面を通るビーム通路を示す。右側のb)は、フレークの面を通るビーム通路を示す。パターン全体にわたる相対的輝度の変化に注目されたい(図面の左側の最も内側の環では、キャプトンポリイミド取付フィルムによるバックグラウンド寄与がある)。(c)は、Rubipyと一緒に3℃で乾燥させた E5(GSPGPP)6E5 ペプチドのフレーク横断面を示す。やはり、最も内側の反射にキャプトン取付テープによるバックグラウンドのリングがあるが、弧状のRubipy及びペプチド反射(配向を示す)を高角(より大きな半径)で見ることができる。d)は、1℃でのペプチド+Rubipyを示す。この場合、かすかな特徴が中心近傍で見え、rel-ロッドの結晶性格子のように、多くの秩序がある(パターンの右下部分の染みのような点)。やはり典型的なペプチド反射(リング)があり、その多くは配向を示す弧状に見える。X線パターンのロッド型の反射は、平面型の回折格子 − 層状の配置、を示すものである。
【図15】図15のa)は、特徴的な球晶構造を典型的な由来とする六角形の液晶相の純粋なコラーゲン・ペプチドを示す。これらの構造は弱複屈折性であり、偏光顕微鏡下では白に見える。b)は、ペプチド E5(GAPGPP)6E5 のスメクチックなバトネット(原語:batonet)は、純粋なペプチド液晶中のこの配列で観察される白い弱複屈折性のテクスチャを模倣することを示す。c)は、当該材料の内部にもスメクチックなバトネットテクスチャが続くことを示す。d)は、スメクチックなC球晶が、これらの条件下でE5(GAOGPO)6E5に典型的に観察されることを示す。純粋なペプチドの液晶では、これらの構造は偏光顕微鏡下では白色である。
【図16】図16は、コラーゲン・ペプチドRubipy錯体で観察される複屈折性のバトネットテクスチャの詳細な顕微鏡写真を示す。画像間の色彩変化は、液晶が乾燥するときの層の再配向が原因である。
【図17】図17は、コラーゲン・ペプチドRubipy錯体から得られるスメクチックなC球晶液晶のテクスチャの詳細を示す。二つの画像は、偏光顕微鏡で異なる相対的試料回転を用いて得られた。テクスチャ(試料)を偏光顕微鏡で回転させるにつれ、明るい青色の複屈折パターンが、ペプチド様球晶構造の輪郭をなぞる。この結果は、液晶内でのペプチドRubipyの錯体形成を強く示唆するものである。
【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】

【図3A】

【図3B】

【図4A】

【図4B】

【図5A】

【図5B】

【図6A】

【図6B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己集成性らせん配列、及び、N末端、C末端又は両末端にある金属結合基を含むロッド形状のポリペプチド並びに金属を含む秩序ある生体高分子材料であって、但し前記金属はN末端又はC末端の官能基に配位し、そして前記ロッド形状のポリペプチドは一つの層の一成分であり、但し前記ロッド形状のポリペプチドの軸は、前記層の平面に対して垂直である、秩序ある生体高分子材料。
【請求項2】
前記ロッド形状のポリペプチドの前記自己集成性らせん配列が、シルクらせん配列、コラーゲンらせん配列、ケラチンらせん配列、アクチンらせん配列、及びコリオンらせん配列から成る群より選択される、請求項1に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項3】
前記ロッド形状のポリペプチドの前記自己集成性らせん配列がシルクらせん配列である、請求項1に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項4】
前記ロッド形状のポリペプチドの前記自己集成性らせん配列がアラニン、グリシン、プロリン、又はセリンを含む、請求項1に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項5】
N末端又はC末端又は両者の前記金属結合基が、グルタミン酸、リジン、ヒスチジン、システイン、及びアスパラギンから成る群より選択される、請求項1に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項6】
前記金属が希土類金属である、請求項1に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項7】
前記金属がGd、Dy、Pr、Ce、Er、Ho、又はこれらの混合物である、請求項1に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項8】
前記金属がGd、Dy、又はこれらの混合物である、請求項1に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項9】
第二金属を更に含む、請求項1に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項10】
前記第二金属がSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、及びHgから成る群より選択される遷移金属である、請求項9に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項11】
前記第二金属が、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、及びCdから成る群より選択される第二列遷移金属である、請求項9に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項12】
前記第二金属が、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、及びHgから成る群より選択される第三列遷移金属である、請求項9に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項13】
前記第二金属が、Cr、Mo、Co、Ni、Cu、Au、Fe、Hg、Ta、W、Pt、Ag、Pd、及びこれらの混合物から成る群より選択される、請求項9に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項14】
B、Si、Ge、As、Sb、Te、及びPoから成る群より選択されるメタロイドを更に含む、請求項1に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項15】
前記メタロイドがSi、Ge又はこれらの混合物である、請求項14に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項16】
自己集成性らせん配列と、N末端又はC末端又は両者にある官能基とを含む前記ロッド形状のポリペプチドが:
E3(GAGAGS)4E3
E5(GAGAGS)4E5
E6(GAGAGS)4E6
E3(GSPGPP)6E3
E5(GSPGPP)6E5
E6(GSPGPP)6E6
E2(GAGAGS)(1-6)E4
E4(GAGAGS)(1-6)E2
EEEAAAKEEE、
EECCAKEECE、
EEEGAGAGSEEE、
NNECACKCCNE、
EAAKEAAAK、
CCEAAAKDAAHC、
HCAAEAAAKCH、
NGCGN(GPAGPP)2NGCGN、
NGCGN(GAGAGA)NGCGN、
C(N)3(GGAGVA)6(N)3C、
N2 (GAGAGA)(GPCGPP)
(GAGAGA)N2
NGCGN(GSHGGS)(GAGAGA) N5
N2 H (GCAGAA)(GAAGAG)
N2
N2 GCPGPP
(GAAGPGAAG)GPPGPH(N)3
N5 GPCGHP GCPGPH
(GPAGPP) (N)5
NGCGN(らせん配列)NGCGN、
NGCGN(らせん配列)H(らせん配列) N5
L4 H GC(らせん配列)L5
(GL)5 GC(らせん配列)H(GL)5、及び
(LV)5 GPCGHP GCPGPH (らせん配列)(LV)5
から成る群より選択される、請求項1に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項17】
前記層の前記厚さが約10nm以下である、請求項1に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項18】
前記層の前記厚さが約5nm以下である、請求項1に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項19】
前記層の前記厚さが約1nm以下である、請求項1に記載の秩序ある生体高分子材料。
【請求項20】
a)凍結乾燥させたオリゴペプチドを含む水溶液を調製するステップであって、前記オリゴペプチドが自己集成性らせん配列及び金属結合基を含む、ステップと、
b)金属をステップa)の水溶液に加えるステップと、
c)選択的に、ステップb)の混合物を攪拌するステップと、
d)選択的に、ステップb)又はc)の混合物を高温で加熱するステップと、
e)ステップb)、c)又はd)の混合物を約1時間乃至約24時間、放置するステップと、
f)ステップe)の混合物からいずれかの懸濁した金属を分離するステップと、
g)ステップf)でできた溶液を乾燥させるステップと
を含む、 請求項1に記載の秩序ある生体高分子材料を調製する方法。
【請求項21】
前記自己集成性らせん配列がシルクらせん配列、コラーゲンらせん配列、ケラチンらせん配列、アクチンらせん配列、及びコリオンらせん配列から成る群より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記自己集成性らせん配列がシルクらせん配列である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記自己集成性らせん配列がアラニン、グリシン、プロリン、又はセリンを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記自己集成性らせん配列が:
E3(GAGAGS)4E3
E5(GAGAGS)4E5
E6(GAGAGS)4E6
E3(GSPGPP)6E3
E5(GSPGPP)6E5
E6(GSPGPP)6E6
E2(GAGAGS)(1-6)E4
E4(GAGAGS)(1-6)E2
EEEAAAKEEE、
EECCAKEECE、
EEEGAGAGSEEE、
NNECACKCCNE、
EAAKEAAAK、
CCEAAAKDAAHC、
HCAAEAAAKCH、
NGCGN(GPAGPP)2NGCGN、
NGCGN(GAGAGA)NGCGN、
C(N)3(GGAGVA)6(N)3C、
N2 (GAGAGA)(GPCGPP)
(GAGAGA)N2
NGCGN(GSHGGS)(GAGAGA) N5
N2 H (GCAGAA)(GAAGAG)
N2
N2 GCPGPP
(GAAGPGAAG)GPPGPH(N)3
N5 GPCGHP GCPGPH
(GPAGPP) (N)5
NGCGN(らせん配列)NGCGN、
NGCGN(らせん配列)H(らせん配列) N5
L4 H GC(らせん配列)L5
(GL)5 GC(らせん配列)H(GL)5、及び
(LV)5 GPCGHP GCPGPH (らせん配列)(LV)5
から成る群より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記金属結合基が、グルタミン酸、リジン、ヒスチジン、システイン、及びアスパラギンから成る群より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記金属が粉末状の酸化希土類金属である、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記金属が塩化希土類金属である、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
前記塩化希土類金属が希塩酸に溶解させてある、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記金属がGd、Dy、Pr、Ce、Er、 Ho、又はこれらの混合物である、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
前記金属がGd、Dy、又はこれらの混合物である、請求項20に記載の方法。
【請求項31】
a)金属結合基を含有する両親媒性又は剛性又は両者であるペプチドを金属と混合して混合物を生成させるステップと、
b)前記混合物から溶媒部分を取り除いて液晶材料を作製するステップと、
c)前記液晶材料の温度を調節するステップと、
d)前記液晶材料から溶媒部分を取り除くステップと
を含む、構造化されたペプチド−金属錯体材料を調製する方法。
【請求項32】
ペプチドが:
E3(GAGAGS)4E3
E5(GAGAGS)4E5
E6(GAGAGS)4E6
E3(GSPGPP)6E3
E5(GSPGPP)6E5
E6(GSPGPP)6E6
E2(GAGAGS)(1-6)E4
E4(GAGAGS)(1-6)E2
EEEAAAKEEE、
EECCAKEECE、
EEEGAGAGSEEE、
NNECACKCCNE、
EAAKEAAAK、
CCEAAAKDAAHC、
HCAAEAAAKCH、
NGCGN(GPAGPP)2NGCGN、
NGCGN(GAGAGA)NGCGN、
C(N)3(GGAGVA)6(N)3C、
N2 (GAGAGA)(GPCGPP)
(GAGAGA)N2
NGCGN(GSHGGS)(GAGAGA) N5
N2 H (GCAGAA)(GAAGAG)
N2
N2 GCPGPP
(GAAGPGAAG)GPPGPH(N)3
N5 GPCGHP GCPGPH
(GPAGPP) (N)5
NGCGN(らせん配列)NGCGN、
NGCGN(らせん配列)H(らせん配列) N5
L4 H GC(らせん配列)L5
(GL)5 GC(らせん配列)H(GL)5、及び
(LV)5 GPCGHP GCPGPH (らせん配列)(LV)5
から成る群より選択される配列を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記金属が希土類金属である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記金属がGd、Dy、Pr、Cs、Er、Ho、又はこれらの混合物である、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記金属がGd、Dy、又はこれらの混合物である、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記金属がSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、及びHgから成る群より選択される遷移金属である、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記金属が Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnから成る群より選択される第一列遷移金属である、請求項31に記載の方法。
【請求項38】
前記金属がY、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、及びCdから成る群より選択される第二列遷移金属である、請求項31に記載の方法。
【請求項39】
前記金属がLa、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、及びHgから成る群より選択される第三列遷移金属である、請求項31に記載の方法。
【請求項40】
前記金属が Cr、Mo、Co、Ni、Cu、Au、Fe、Hg、Ta、W、Pt、Ag、Pd、及びこれらの混合物から成る群より選択される遷移金属である、請求項31に記載の方法。
【請求項41】
前記金属が陰イオン性ポリオキソメタレート、多核性陽イオン種、及びキラル錯体から成る群より選択される錯体の形である、請求項31に記載の方法。
【請求項42】
前記陰イオン性ポリオキソメタレートがイソポリモリブデート、ヘテロポリモリブデート、イソポリタングステート、及びヘテロポリタングステートからなる群より選択され;前記多核性陽イオン種が Ta6Cl122+、 Ta6Br122+、 W6Cl84+、及びW6Br84+ から成る群より選択され;そしてキラル錯体がトリス-ビピリジルルテニウム(II)
及びトリス(テトラミンジヒドロキソコバルト(III))コバルト(III) 陽イオンから成る群より選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
自己集成性らせん配列を含むロッド形状のポリペプチドを含む秩序ある生体高分子材料であって、前記自己集成性らせん配列が:
EEEAAAKEEE、
EECCAKEECE、
EEEGAGAGSEEE、
NNECACKCCNE、
EAAKEAAAK、
CCEAAAKDAAHC、及び
HCAAEAAAKCH
から成る群より選択され;そして前記ロッド形状のポリペプチドが一つの層の一成分であり;前記ロッド形状のポリペプチドの軸が前記層の平面に対して垂直である、秩序ある生体高分子材料。
【請求項44】
EEEAAAKEEE、
EECCAKEECE、
EEEGAGAGSEEE、
NNECACKCCNE、
EAAKEAAAK、
CCEAAAKDAAHC、及び
HCAAEAAAKCH
から成る群より選択されるペプチド配列。
【請求項45】
請求項44に記載のペプチド配列を含む高分子。
【請求項46】
自己集成性らせん配列、及び、N末端又はC末端又は両者にある金属結合基を含むロッド形状のポリペプチドであって、前記自己集成性らせん配列が:
E3(GAGAGS)4E3
E5(GAGAGS)4E5
E6(GAGAGS)4E6
E3(GSPGPP)6E3
E5(GSPGPP)6E5
E6(GSPGPP)6E6
E2(GAGAGS)(1-6)E4
E4(GAGAGS)(1-6)E2
EEEAAAKEEE、
EECCAKEECE、
EEEGAGAGSEEE、
NNECACKCCNE、
EAAKEAAAK、
CCEAAAKDAAHC、
HCAAEAAAKCH、
NGCGN(GPAGPP)2NGCGN、
NGCGN(GAGAGA)NGCGN、
C(N)3(GGAGVA)6(N)3C、
N2 (GAGAGA)(GPCGPP)
(GAGAGA)N2
NGCGN(GSHGGS)(GAGAGA) N5
N2 H (GCAGAA)(GAAGAG)
N2
N2 GCPGPP
(GAAGPGAAG)GPPGPH(N)3
N5 GPCGHP GCPGPH
(GPAGPP) (N)5
NGCGN(らせん配列)NGCGN、
NGCGN(らせん配列)H(らせん配列) N5
L4 H GC(らせん配列)L5
(GL)5 GC(らせん配列)H(GL)5、及び
(LV)5 GPCGHP GCPGPH (らせん配列)(LV)5
から成る群より選択される、ロッド形状のポリペプチド。
【請求項47】
請求項1又は請求項43に記載の秩序ある生体高分子材料を含む膜。
【請求項48】
請求項1又は請求項43に記載の秩序ある生体高分子材料を含む磁石であって、常磁性、反強磁性、スピングラス、超常磁性、強磁性、フェリ磁性、又は反フェリ磁性である、磁石。
【請求項49】
請求項1又は請求項43に記載の秩序ある生体高分子材料を含む磁石であって、圧力感受性であり、また、常磁性、反強磁性、スピングラス、超常磁性、強磁性、フェリ磁性、又は反フェリ磁性である、磁石。

【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図14D】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2007−523890(P2007−523890A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547510(P2006−547510)
【出願日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/043745
【国際公開番号】WO2005/101993
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(503387477)トラスティーズ オブ タフツ カレッジ (3)
【氏名又は名称原語表記】TRUSTEES OF TUFTS COLLEGE
【住所又は居所原語表記】136 Harrison Avenue, Boston, MA 02111 (US)
【Fターム(参考)】