説明

金属含有共重合体の製造方法

【課題】溶剤溶解性や得られる塗膜の外観に優れた固形の金属含有共重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】金属含有エチレン性不飽和単量体(A)とエチレン性不飽和単量体(B)を水性媒体中に分散して重合する金属含有共重合体の製造方法であって、金属含有エチレン性不飽和単量体(A)が、無機金属化合物(a1)と、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)と前記化合物(a1)に対して0.15〜0.8モル当量の非重合性有機酸(a3)を前記単量体(a2)以外のエチレン性不飽和単量体(B)中で反応させたものである金属含有共重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属含有共重合体の製造方法に関する。より詳しくは、有機溶剤への溶解性や耐ブロッキング性に優れる固形の金属含有共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子内に金属原子を含有する共重合体(以下、金属含有共重合体)は、その特徴的な性能から様々な用途への適用が進められている。中でも、加水分解性等の特徴を生かした防汚塗料への適用は多数報告されている。
【0003】
防汚塗料は、水中構造物や船舶の浸水部分に、フジツボ、フナクイムシ、藻類等の海中生物が付着することを防止し、被塗物の腐食防止や船舶の低燃費化を目的として塗装される。また、養殖用魚網には、網目の閉塞による魚介類の窒息防止を目的として同様の防汚塗料が塗装されている。
【0004】
一般に、金属含有共重合体は有機溶剤への溶解性に乏しく、防汚塗料等の塗料用途に使用する場合、多量の有機溶剤が必要とされる。
【0005】
一方、近年、塗料業界では環境負荷低減を目的として、塗料の低VOC(Volatile Organic Compound)化が進められており、塗料中の有機溶剤量の削減が求められている。そこで、有機溶剤への溶解性に優れる金属含有共重合体や、有機溶剤を含まない金属含有共重合体が各種提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、アルコール系溶剤を含む特定の有機溶剤中で、無機金属化合物とカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体及び非重合性有機酸とを反応させ、金属含有エチレン性不飽和単量体を合成し、その後、他のエチレン性不飽和単量体と重合させることにより、一般的な有機溶剤に可溶な金属含有共重合体が得られることが開示されている。
【0007】
また、特許文献2では、特定の構造を有する金属含有重合性単量体とその他の重合性単量体とを重合させることにより、金属エステル結合を含む架橋点を有する樹脂粒子が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−194270号公報
【特許文献2】特開昭63−56510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1記載の金属含有共重合体は、依然としてアルコール系溶剤等の有機溶剤を多量に含有するため、近年のVOC削減要求に十分に対応できず、更なる改善が求められている。また、該公報に記載の金属含有ラジカル重合性単量体についても、アルコール系溶剤等の有機溶剤を多量に含有するため、これを水性媒体中に分散して重合を行うと、分散安定性が低位であり、安定に金属含有共重合体を製造することができず、更なる改善が求められている。
【0010】
また、特許文献2記載の金属含有樹脂粒子は、有機溶剤に不溶であり、塗膜形成能を持たないため、これを塗料用のビヒクルとして使用することは出来なかった。
【0011】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、溶剤溶解性に優れた固形の金属含有共重合体を安定に製造することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る金属含有共重合体の製造方法は、金属含有エチレン性不飽和単量体(A)とエチレン性不飽和単量体(B)を水性媒体中に分散して重合する金属含有共重合体の製造方法であって、金属含有エチレン性不飽和単量体(A)が、無機金属化合物(a1)と、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)と前記化合物(a1)に対して0.15〜0.8モル当量の非重合性有機酸(a3)を前記単量体(a2)以外のエチレン性不飽和単量体(B)中で反応させる製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、アルコール系溶剤等の有機溶剤を使用することなく、貯蔵安定性が良好な金属含有エチレン性不飽和単量体(A)を製造することができ、これとエチレン性不飽和単量体(B)を水性媒体中に分散し、重合することで、耐ブロッキング性や溶剤溶解性に優れた金属含有共重合体を安定に製造することができる。また、得られた金属含有共重合体は、有機溶剤を含有しないため、輸送や貯蔵時における安全性が高く、これらに掛かる費用の削減にも有効である。更には、該金属含有共重合体を用いて得られた塗膜は、外観が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明に係る金属含有共重合体の製造方法は、無機金属化合物(a1)、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)及び前記無機金属化合物(a1)に対して0.15〜0.8モル当量の酸となる量の非重合性有機酸(a3)を、前記カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)以外のエチレン性不飽和単量体(B)中で反応させて金属含有エチレン性不飽和単量体(A)を得た後、得られた金属含有エチレン性不飽和単量体(A)とエチレン性不飽和単量体(B)を水性媒体中に分散し、重合する。
【0016】
本発明においては、エチレン性不飽和単量体(B)中で、無機金属化合物(a1)、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)及び非重合性有機酸(a3)を反応させ、金属含有エチレン性不飽和単量体(A)を製造する。これにより、アルコール系溶剤等の有機溶剤を用いずに、貯蔵安定性の良好な金属含有エチレン性不飽和単量体(A)を調製することができる。また、得られる金属含有エチレン性不飽和単量体(A)とエチレン性不飽和単量体(B)は、その後両者を単量体として水性媒体中で重合することができるため、有機溶剤を含まず簡便に金属含有共重合体を製造することができる。更に、該金属含有共重合体は安全性が高く、塗膜に用いた場合にも外観が良好である。
【0017】
〔無機金属化合物(a1)〕
無機金属化合物(a1)は、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)及び非重合性有機酸(a3)と反応して金属塩を形成する化合物であれば、特に限定されない。例えば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マンガン(II)、酸化銅(II)、酸化亜鉛等の金属酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マンガン(II)、水酸化銅(II)、水酸化亜鉛等の金属水酸化物;塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化マンガン(II)、塩化銅(II)、塩化亜鉛等の金属塩化物等が挙げられる。これらは一種以上を適宜選択して使用することができる。中でも、得られる金属含有エチレン性不飽和単量体(A)の溶液透明性や貯蔵安定性、及び、得られる金属含有共重合体の溶剤溶解性が向上する傾向にある亜鉛化合物やマグネシウム化合物が好ましく、酸化亜鉛がより好ましい。
【0018】
〔カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)〕
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)は、分子内に少なくとも1つのカルボキシル基又はカルボン酸無水物基を含有するエチレン性不飽和単量体であれば、特に限定されない。例えば、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルテトラヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロフタル酸、5−メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルシュウ酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルシュウ酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ソルビン酸等のカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体;無水イタコン酸、無水マレイン酸等のカルボン酸無水基含有エチレン性不飽和単量体;イタコン酸モノアルキル(例えば、メチル、エチル、ブチル、2−エチルヘキシル等)、マレイン酸モノアルキル(例えば、メチル、エチル、ブチル、2−エチルヘキシル等)等のジカルボン酸モノエステル類等が挙げられる。これらは一種以上を適宜選択して使用することができる。中でも、エチレン性不飽和単量体(B)、後述するエチレン性不飽和単量体(C)との共重合性が良好な(メタ)アクリル酸が好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸又はメタクリル酸」を、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル又はメタクリロイル」をそれぞれ意味する。
【0019】
〔非重合性有機酸(a3)〕
非重合性有機酸(a3)は、分子内に重合性官能基を持たない有機酸であれば、特に限定されない。例えば、酢酸、モノクロロ酢酸、モノフルオロ酢酸、プロピオン酸、オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、バーサチック酸、イソステアリン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、パルミチン酸、クレソチン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸、リシノール酸、リシノエライジン酸、ブラシジン酸、エルカ酸、α−ナフトエ酸、β−ナフトエ酸、安息香酸、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、キノリンカルボン酸、ニトロ安息香酸、ニトロナフタレンカルボン酸、プルビン酸等が挙げられる。これらは一種以上を適宜選択して使用することができる。中でも、得られる金属含有エチレン性不飽和単量体(A)の溶液透明性や貯蔵安定性、及び、得られる金属含有共重合体の溶剤溶解性が向上する傾向にあるオクチル酸が好ましい。
【0020】
非重合性有機酸(a3)の使用量は、無機金属化合物(a1)に対して0.15〜0.8モル当量である。該使用量は0.2〜0.7モル当量であることが好ましく、0.25〜0.5モル当量であることがより好ましい。該使用量が0.15モル当量未満である場合、得られる金属含有エチレン性不飽和単量体(A)の溶液透明性や貯蔵安定性、及び、得られる金属含有共重合体の溶剤溶解性やこれを用いて得られる塗膜の外観が低下する。一方、該使用量が0.8モル当量をこえる場合、金属含有共重合体製造時の分散安定性や得られる金属含有共重合体の耐ブロッキング性が低下する。
【0021】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)と非重合性有機酸(a3)の合計使用量は、特に限定されないが、無機金属化合物(a1)に対して0.8〜1.2モル当量であることが好ましい。該使用量は、0.9〜1.1モル当量であることがより好ましく、1モル当量であることが特に好ましい。該合計使用量が0.8モル当量以上であれば、得られる金属含有エチレン性不飽和単量体(A)の溶液透明性や貯蔵安定性、及び、得られる金属含有共重合体の溶剤溶解性やこれを用いて得られる塗膜の外観が向上する傾向にある。一方、合計使用量が1.2モル当量以下であれば、得られる塗膜の耐水性が向上する傾向にある。
【0022】
なお、前記非重合性有機酸(a3)の使用量、前記カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)と非重合性有機酸(a3)の合計使用量において、無機金属化合物(a1)に対する酸のモル当量は、下記式(2)より算出される。
(酸のモル当量)={(酸のモル数)×(酸の官能基数)}/{(無機金属化合物(a1)のモル数)×(無機金属化合物(a1)中の金属の酸化数)}・・・(2)
例えば、無機金属化合物(a1)として金属の酸化数が+2の酸化亜鉛を1モル使用する場合は、一塩基酸の使用量が2モルの時、1モル当量となる。
【0023】
〔エチレン性不飽和単量体(B)〕
エチレン性不飽和単量体(B)は、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)以外のエチレン性不飽和単量体であって、無機金属化合物(a1)とは反応しない化合物である。したがって、エチレン性不飽和単量体(B)は、金属含有エチレン性不飽和単量体(A)を製造する工程においては溶媒であり、金属含有エチレン性不飽和単量体(A)とエチレン性不飽和単量体(B)の重合によって金属含有共重合体を製造する工程においては、その構成成分である単量体の一つとして使用される。該製造方法によれば、金属含有エチレン性不飽和単量体(A)は、余分な揮発性有機溶剤を含まないため、水性媒体中で重合を行う懸濁重合、乳化重合、分散重合、水溶液重合等への適用が可能である。更に、得られた金属含有共重合体は、塗料の低VOC化や水性化にも好適に使用される。
【0024】
エチレン性不飽和単量体(B)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、o−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、m−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、p−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エチルヘキサオキシ)エチル(メタ)アクリレート、1−メチル−2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、4−メトキシブチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、o−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、m−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、p−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体とエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、γ−ブチロラクトン又はε−カプロラクトン等との付加物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の二量体又は三量体;グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシブチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体;(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−(メトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−(ブトキシメチル)(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール等のビニル系単量体;アリルグリコール、ポリエチレングリコールアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、ブトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、ポリプロピレングリコールアリルエーテル、メトキシポリプロピレングリコールアリルエーテル、ブトキシポリプロピレングリコールアリルエーテル等のアリル基含有単量体等が挙げられる。これらは一種以上を適宜選択して使用することができる。中でも、エチレン性不飽和単量体(B)、後述するエチレン性不飽和単量体(C)との共重合性が良好であり、得られる金属含有エチレン性不飽和単量体(A)の溶液透明性や貯蔵安定性が向上する傾向にあるメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレートが好ましい。なお、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート又はメタクリレート」を、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸又はメタクリル酸」を、「(メタ)アクリルアミド」は「アクリルアミド又はメタクリルアミド」をそれぞれ意味する。
【0025】
エチレン性不飽和単量体(B)の含有量は、特に限定されないが、金属含有エチレン性不飽和単量体(A)及びエチレン性不飽和単量体(B)の合計質量100質量%に対して、3〜95質量%であることが好ましく、10〜70質量%であることがより好ましい。エチレン性不飽和単量体(B)の含有量が3質量%以上であれば、得られる金属含有エチレン性不飽和単量体(A)の溶液透明性や貯蔵安定性、及び、得られる金属含有共重合体の溶剤溶解性やこれを用いて得られる塗膜の外観が向上する傾向にある。一方、95質量%以下であれば、得られる塗膜の加水分解性が向上する傾向にある。
【0026】
〔金属含有エチレン性不飽和単量体(A)の製造方法〕
エチレン性不飽和単量体(B)の中で、無機金属化合物(a1)をカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)及び非重合性有機酸(a3)と反応させる際の反応温度は、特に限定されないが、20〜180℃であることが好ましく、40〜140℃であることがより好ましく、60〜100℃であることが更に好ましい。反応温度が20℃以上であれば、反応速度が向上し、生産性が向上する傾向にある。一方、180℃以下であれば、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)及びエチレン性不飽和単量体(B)の重合反応が抑制される傾向にある。
【0027】
金属含有エチレン性不飽和単量体(A)を製造する際、前記反応の系内に水を添加することが好ましい。水の添加量は、特に限定されないが、無機金属化合物(a1)1モルに対して、0.01〜50モルであることが好ましく、0.1〜10モルであることがより好ましい。水の添加量が0.01モル以上であれば、得られる金属含有エチレン性不飽和単量体(A)の溶液透明性や貯蔵安定性が向上する傾向にある。一方、50モル以下であれば、金属含有エチレン性不飽和単量体(A)の生産性が向上する傾向にある。なお、無機金属化合物(a1)とカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)及び非重合性有機酸(a3)との反応によって生成される水は、前記水の添加量には含まれないものとする。
【0028】
〔金属含有共重合体の製造方法〕
本発明においては、金属含有エチレン性不飽和単量体(A)と前記金属含有エチレン性不飽和単量体(A)を製造する際に使用されるエチレン性不飽和単量体(B)を水性媒体中に分散し、重合することにより金属含有共重合体を製造する。なお、金属含有エチレン性不飽和単量体(A)及びエチレン性不飽和単量体(B)以外にも、必要に応じて、その他のエチレン性不飽和単量体(C)を混合して使用することができる。
【0029】
その他のエチレン性不飽和単量体(C)は、特に限定されないが、具体的には、エチレン性不飽和単量体(B)の具体例として挙げた前記単量体の中から、一種以上を適宜選択して使用することができる。その他のエチレン性不飽和単量体(C)の使用量としては、金属含有エチレン性不飽和単量体(A)とエチレン性不飽和単量体(B)とその他のエチレン性不飽和単量体(C)の合計量を100質量%とした場合、3〜95質量%が好ましい。より好ましくは、10〜90質量%である。エチレン性不飽和単量体(C)の含有量が3質量%以上であれば、得られる金属含有共重合体の溶剤溶解性やこれを用いて得られる塗膜の外観が向上する傾向にある。一方、95質量%以下であれば、得られる塗膜の加水分解性が向上する傾向にある。
【0030】
本発明に係る金属含有共重合体の製造方法は、水性媒体中に分散し、重合する方法であれば特に限定されないが、例えば、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法等の公知の重合方法が挙げられる。中でも、重合後に濾過、洗浄、脱水、乾燥するだけで容易に固形の重合体を得ることができる懸濁重合法が好ましい。
【0031】
懸濁重合法で製造する際の具体的な方法としては、例えば、水性媒体中に単量体混合物、分散剤、重合開始剤、連鎖移動剤等を添加して懸濁化し、その懸濁液を加熱して重合させ、重合後の懸濁液を濾過、洗浄、脱水、乾燥することによって、粒状の重合体を製造することができる。
【0032】
〔分散剤〕
懸濁重合法で製造する際に使用される分散剤は、特に限定されない。例えば、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩、(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、ポリスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩とスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、あるいはこれら単量体の組み合わせからなる共重合体や、ケン化度70〜100%のポリビニルアルコール、メチルセルロース等が挙げられる。これらは一種以上を適宜選択して使用することができる。中でも、懸濁重合時の分散安定性が良好な(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体が好ましい。
【0033】
分散剤の使用量は、特に限定されないが、単量体混合物100質量部に対して、0.005〜5質量部であることが好ましく、0.01〜1質量部であることがより好ましい。分散剤の使用量が0.005質量部以上であれば、懸濁重合時の分散安定性が向上する傾向にある。一方、5質量部以下であれば、重合体粒子の脱水性や乾燥性及び得られる塗膜の耐水性が向上する傾向にある。
【0034】
また、懸濁重合法で製造する際、懸濁重合時の分散安定性の向上を目的として、無機電解質を併用することができる。無機電解質としては、特に限定されないが、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マンガン等が挙げられる。これらは1種以上を適宜選択して使用することができる。
【0035】
〔重合開始剤〕
本発明の金属含有共重合体の製造方法において、金属含有エチレン性不飽和単量体(A)及びエチレン性不飽和単量体(B)との重合の際に使用される重合開始剤は、特に限定されない。例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩等のアゾ化合物;クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物等が挙げられる。これらは一種以上を適宜選択して使用することができる。中でも、重合安定性が向上する傾向にある1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートが好ましい。
【0036】
重合開始剤の使用量は特に限定されないが、単量体混合物100質量部に対して、0.05〜10質量部であることが好ましく、0.1〜5質量部であることがより好ましい。重合開始剤の使用量が0.05質量部以上であれば、反応速度が向上し、生産性が向上する傾向にある。一方、10質量部以下であれば、重合発熱が緩和され、重合温度の制御が容易となる傾向にある。
【0037】
〔連鎖移動剤〕
本発明の金属含有共重合体の製造方法においては、重合体の分子量調整を目的として、連鎖移動剤を使用することができる。連鎖移動剤としては、特に限定されない。例えば、ビス(ボロンジフルオロジメチルジオキシイミノシクロヘキサン)コバルト(II)、ビス(ボロンジフルオロジメチルグリオキシメイト)コバルト(II)、ビス(ボロンジフルオロジフェニルグリオキシメイト)コバルト(II)、ビシナルイミノヒドロキシイミノ化合物のコバルト(II)錯体、テトラアザテトラアルキルシクロテトラデカテトラエンのコバルト(II)錯体、N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)錯体、ジアルキルジアザジオキソジアルキルドデカジエンのコバルト(II)錯体、コバルト(II)ポルフィリン錯体等のコバルト錯体;n−ブチルメルカプタン、sec−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類;チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸メトキシブチル、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)等のチオグリコール酸エステル類;β−メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシル、β−メルカプトプロピオン酸3−メトキシブチル、トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート)等のメルカプトプロピオン酸エステル類;α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン等が挙げられる。これらは一種以上を適宜選択して使用することができる。中でも、鎖移動能が高く、得られた金属含有共重合体の耐ブロッキング性などの物性への影響が少ないことから、コバルト錯体が好ましい。
【0038】
特に、本発明においては連鎖移動剤として下記式(1)
【0039】
【化1】

【0040】
(式(1)中、R1〜R4はそれぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基及びアリール基からなる群から選択される基を示し、Xはそれぞれ独立して、F原子、Cl原子、Br原子、OH基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキル基、シクロアルキル基及びアリール基からなる群から選択される基を示す)で表されるコバルト錯体を使用することが、より高い連鎖移動能を示す観点から好ましい。
【0041】
1〜R4のアルキル基としては、炭素数が1〜12個のアルキル基が挙げられ、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。好ましくは炭素数が1〜4個のアルキル基であり、特にメチル基であることが好ましい。R1〜R4のシクロアルキル基としては、炭素数が6〜14個からなるシクロアルキル基等が挙げられる。R1〜R4のアリール基としては、炭素数が6〜14個のアリール基等が挙げられる。
【0042】
Xのアルコキシ基としては、炭素数が1〜12個のアルコキシ基等が挙げられる。Xのシクロアルコキシ基としては、炭素数が6〜14個のシクロアルコキシ基等が挙げられる。Xのアリールオキシ基としては、炭素数が6〜14個のアリールオキシ基等が挙げられる。Xのアルキル基としては、炭素数が1〜12個のアルキル基等が挙げられる。Xのシクロアルキル基としては、炭素数が6〜14個のシクロアルキル基等が挙げられる。Xのアリール基としては、炭素数が6〜14個のアリール基が挙げられる。
【0043】
前記式(1)で示されるコバルト錯体としては、具体的には、ビス(ボロンジフルオロジメチルグリオキシメイト)コバルト(II)、ビス(ボロンジフルオロジシクロヘキシルグリオキシメイト)コバルト(II)、ビス(ボロンジフルオロジフェニルグリオキシメイト)コバルト(II)、ビス(ボロンジクロロジメチルグリオキシメイト)コバルト(II)、ビス(ボロンジクロロジシクロヘキシルグリオキシメイト)コバルト(II)、ビス(ボロンジクロロジフェニルグリオキシメイト)コバルト(II)等が挙げられる。中でも、水性媒体中でも安定なビス(ボロンジフルオロジフェニルグリオキシメイト)コバルト(II)がより好ましい。
【0044】
前記コバルト錯体の使用量は、特に限定されないが、重合に用いる単量体混合物、すなわち金属含有エチレン性不飽和単量体(A)、エチレン性不飽和単量体(B)およびその他のエチレン性不飽和単量体(C)の合計量100質量部に対して、0.0005〜0.1質量部であることが好ましく、0.001〜0.05質量部であることがより好ましく、0.005〜0.02質量部であることが更に好ましい。前記コバルト錯体の使用量が0.0005質量部以上であれば、共重合体の分子量が効率よく低下する傾向にある。一方、0.1質量部以下であれば、コバルト錯体による共重合体の着色が低減する傾向にある。
【0045】
前記コバルト錯体以外の連鎖移動剤の使用量は、特に限定されないが、重合に用いる単量体混合物100質量部に対して、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.1〜8質量部であることがより好ましく、0.5〜5質量部であることが更に好ましい。連鎖移動剤の使用量が0.01質量部以上であれば、共重合体の分子量が効率よく低下する傾向にある。一方、10質量部以下であれば、連鎖移動剤による臭気が低減する傾向にある。
【0046】
〔重合温度〕
本発明の金属含有共重合体の製造方法において、金属含有エチレン性不飽和単量体(A)及びエチレン性不飽和単量体(B)とを重合する際の重合温度は、特に限定されないが、30〜150℃であることが好ましく、50〜130℃であることがより好ましい。重合温度が30℃以上であれば、重合速度が向上し、生産性が向上する傾向にある。一方、重合温度が150℃以下であれば、重合発熱が緩和され、重合温度の制御が容易となる傾向にある。
【0047】
〔金属含有共重合体の分子量〕
本発明における金属含有共重合体の質量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、2000〜50000であることが好ましく、3000〜30000であることがより好ましい。金属含有共重合体の質量平均分子量が2000以上であれば、得られる塗膜の耐水性が向上する傾向にある。一方、質量平均分子量が50000以下であれば、溶剤溶解性や得られる塗膜の外観が向上する傾向にある。
【0048】
〔有機溶剤〕
本発明に係る方法により製造される金属含有共重合体を防汚塗料等の塗料用途に使用する場合は、該金属含有共重合体を有機溶剤に溶解し、溶液とする必要がある。
【0049】
金属含有共重合体を溶解する有機溶剤は、特に限定されない。例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン等の芳香族系溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、i−オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールモノアセテート、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール系溶剤;プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、1−ブトキシエトキシプロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のプロピレングリコール系溶剤;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルi−ブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸アミル、プロピオン酸エチル、乳酸n−ブチル等のエステル系溶剤等が挙げられる。これらは一種以上を適宜選択して使用することができる。中でも、金属含有共重合体の溶解性が良好であり、溶液の透明性や得られる塗膜の外観が向上する傾向にあるプロピレングリコール系溶剤が好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルがより好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の記載において「部」は「質量部」を表す。また、本実施例及び比較例における各物性の測定及び評価は以下の方法で行った。
【0051】
(1)金属含有エチレン性不飽和単量体(A)及びエチレン性不飽和単量体(B)を含む混合物(M)の溶液透明性
得られた混合物(M)を直径5cmのガラス瓶に入れ、20℃に設定した恒温水槽内で2時間保持した後、溶液の透明性を目視にて観察し、以下の基準により判定した。
○:透明である。
×:白濁している。
【0052】
(2)金属含有エチレン性不飽和単量体(A)及びエチレン性不飽和単量体(B)を含む混合物(M)の貯蔵安定性
得られた混合物(M)を直径5cmのガラス瓶に入れ、25℃に設定した恒温水槽内で1週間保持した後、不溶解物の発生の有無を目視にて観察し、以下の基準により判定した。
○:不溶解物は全く発生していない。
×:多量の不溶解物が発生している。
【0053】
(3)分散安定性
金属含有エチレン性不飽和単量体(A)、エチレン性不飽和単量体(B)の重合後に、重合装置内壁、撹拌翼、温度計等に付着した金属含有共重合体の二次凝集物の質量を測定し、仕込み単量体質量に対する比率を算出し、以下の基準により判定した。
◎:5質量%未満である。
○:5質量%以上、10質量%未満である。
△:10質量%以上、15質量%未満である。
×:15質量%以上である。
【0054】
(4)耐ブロッキング性
金属含有エチレン性不飽和単量体(A)、エチレン性不飽和単量体(B)の重合後に得られた金属含有共重合体を含む水性懸濁液を目開き45μmのナイロン製濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄し、遠心脱水機で脱水した。得られた金属含有共重合体の濾過物を40℃の乾燥機に入れ、16時間保持した後、金属含有共重合体のブロッキング状態を目視及び指触にて観察し、以下の基準により判定した。
◎:全くブロッキングなく、全て一次粒子である。
○:部分的にブロッキングしているが、容易に一次粒子に解砕できる。
△:全体的にブロッキングしているが、容易に一次粒子に解砕できる。
×:全体的に強固にブロッキングしており、一次粒子に解砕できない塊がある。
【0055】
(5)金属含有共重合体の溶剤溶解性
得られた金属含有共重合体をプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)に溶解し、固形分30質量%の溶液を調製した。該溶液を直径5cmのガラス瓶に入れ、20℃に設定した恒温水槽内で2時間保持した後、溶液の透明性を目視にて観察し、以下の基準により判定した。なお、本評価に用いたPGMは、金属含有共重合体の溶解性に比較的優れたアルコール系の有機溶剤である。
◎:透明である。
○:極僅かに濁りがある。
△:半透明である。
×:白濁している。
【0056】
(6)塗膜外観
前記(5)の溶剤溶解性試験で得られた固形分30質量%のPGM溶液をガラス板にバーコーターNo.44で塗布し、室温で30分間保持した後、90℃で1時間乾燥して塗膜を得た。得られた塗膜の外観を目視にて観察し、以下の基準により判定した。
○:ブツがなく、光沢が良好である。
△:ブツが僅かにあり、光沢がやや劣る。
×:ブツが多く、光沢が劣る。
【0057】
(7)分子量
ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)(商品名:HLC−8220、東ソー(株)製)を用いて測定した。カラムは、TSKgelα−M(商品名、東ソー(株)製、7.8mm×30cm)、TSKguardcolumnα(商品名、東ソー(株)製、6.0mm×4cm)を使用した。検量線は、F288/F128/F80/F40/F20/F2/A1000(商品名、東ソー(株)製、標準ポリスチレン)、及びスチレンモノマーを使用して作成した。ポリマーを0.4質量%溶解したN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を調製し、調製したDMF溶液を100μl使用して、40℃で測定を行った。標準ポリスチレン換算にて質量平均分子量(Mw)を算出した。
【0058】
〔金属含有エチレン性不飽和単量体(A)及びエチレン性不飽和単量体(B)を含む混合物(M1)の製造〕
撹拌機、温度計、冷却管、滴下ロートを備えた反応装置中に、メチルメタクリレート124部、酸化亜鉛81部を加え、撹拌しながら75℃に昇温した。次に、滴下ロートからメタクリル酸69部、アクリル酸58部、オクチル酸58部、水12部からなる混合物を3時間かけて等速滴下し、更に75℃で2時間撹拌した後、室温に冷却して、透明な金属含有エチレン性不飽和単量体(A)及びエチレン性不飽和単量体(B)を含む混合物M1を得た。結果を表1に示す。
【0059】
〔金属含有エチレン性不飽和単量体(A)及びエチレン性不飽和単量体(B)を含む混合物(M2〜M5、M7及びM8)の製造〕
表1に示す原料に変更したこと以外は、前記混合物M1と同様にして反応を行い、透明な混合物M2〜M5、M7及びM8を得た。結果を表1に示す。
【0060】
〔金属含有エチレン性不飽和単量体(A)及びエチレン性不飽和単量体(B)を含む混合物(M6)の製造〕
撹拌機、温度計、冷却管、滴下ロートを備えた反応装置中に、メチルメタクリレート111部、酸化亜鉛81部を加え、撹拌しながら75℃に昇温した。次に、滴下ロートからメタクリル酸86部、アクリル酸72部、水12部からなる混合物を3時間かけて等速滴下し、更に75℃で2時間撹拌した後、室温に冷却して、金属含有エチレン性不飽和単量体(A)及びエチレン性不飽和単量体(B)を含む混合物M6を得た。しかし、該混合物M6は、白濁しており、更に、貯蔵安定性試験後に多量の不溶解物が発生したため、以降の試験を中止した。結果を表1に示す。
【0061】
〔金属含有エチレン性不飽和単量体(A)を含む混合物(M9)の製造〕
撹拌機、温度計、冷却管、滴下ロートを備えた反応装置中に、プロピレングリコールモノメチルエーテル130部、酸化亜鉛81部を加え、撹拌しながら75℃に昇温した。次に、滴下ロートからメタクリル酸60部、アクリル酸50部、オクチル酸87部、水12部からなる混合物を3時間かけて等速滴下し、更に75℃で2時間撹拌した後、室温に冷却して、透明な金属含有エチレン性不飽和単量体(A)を含む混合物M9を得た。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表中の略号は以下の通りである。
【0064】
ZnO:酸化亜鉛
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
OA:オクチル酸
MMA:メチルメタクリレート
PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル。
【0065】
〔連鎖移動剤1の製造〕
撹拌機、温度計、冷却管を備えた反応装置中に、窒素雰囲気下で、酢酸コバルト(II)四水和物1.00g、ジフェニルグリオキシム1.93g、予め窒素バブリングにより脱酸素したジエチルエーテル80mlを加え、室温で30分間攪拌した。次に、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体10mlを加え、更に室温で6時間攪拌した後、室温に冷却した。得られた混合物を濾過し、濾過物をジエチルエーテルで洗浄し、15時間真空乾燥して、赤褐色固体である連鎖移動剤1(ビス(ボロンジフルオロジフェニルグリオキシメイト)コバルト(II))を2.12g得た。
【0066】
〔分散剤1の製造〕
撹拌機、温度計、冷却管を備えた重合装置中に、脱イオン水900部、メタクリル酸2−スルホエチルナトリウム60部、メタクリル酸カリウム10部、メチルメタクリレート12部を加えて撹拌し、重合装置内を窒素置換し、50℃に昇温した。続いて、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩0.08部を添加し、更に60℃に昇温した。該重合開始剤の添加と同時に、滴下ポンプを使用して、メチルメタクリレートを0.24部/分の速度で75分間連続的に滴下し、60℃で6時間撹拌した後、室温に冷却して、固形分10%の透明なポリマー水溶液である分散剤1を得た。
【0067】
〔実施例1〕〔金属含有共重合体の製造〕
撹拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水170部、硫酸ナトリウム0.2部、分散剤1(固形分10%)0.8部を加えて撹拌し、均一な水溶液とした。次に、混合物M1 32.4部(金属含有エチレン性不飽和単量体(A)20部、メチルメタクリレート10部、水2.4部)、n−ブチルメタクリレート40部、2−エトキシエチルメタクリレート30部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート1.5部、連鎖移動剤1 0.01部を加えて撹拌し、重合装置内を窒素置換し、80℃に昇温して1時間反応させた。次に、重合率を上げるため、90℃に昇温して1時間反応させた後、40℃に冷却して、金属含有共重合体を含む水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を目開き45μmのナイロン製濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄、脱水し、40℃で16時間乾燥して、真球状の金属含有共重合体を得た。この金属含有共重合体の質量平均分子量(Mw)は17,600であった。結果を表2に示す。
【0068】
〔実施例2〜6、比較例1、2〕〔金属含有共重合体の製造〕
表2に示す単量体、開始剤、連鎖移動剤を使用したこと以外は、実施例1と同様にして金属含有共重合体を得た。結果を表2に示す。
【0069】
〔比較例3〕〔金属含有共重合体の製造〕
表2に示す単量体、開始剤、連鎖移動剤を使用したこと以外は、実施例1と同様にして重合を行ったが、重合中に金属含有共重合体が二次凝集し、系全体が固化したため、以降の試験を中止した。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
表中の略号は以下の通りである。
【0072】
BMA:n−ブチルメタクリレート
ETMA:2−エトキシエチルメタクリレート
パーオクタO:1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(日油株式会社製)
MSD:α−メチルスチレンダイマー。
【0073】
表2に示すように、実施例1〜6では、分散安定性、耐ブロッキング性、溶剤溶解性及び得られた塗膜の外観は良好であった。また、連鎖移動剤として、コバルト錯体である連鎖移動剤1を使用した実施例2は、MSDを使用した実施例6に比べ、金属含有共重合体の耐ブロッキング性が良好であった。
【0074】
これに対し、比較例1では、非重合性有機酸(a3)の使用量が少ない単量体混合物(M7)を使用したため、金属含有共重合体の溶剤溶解性が低位であり、溶液は白濁した。更に、得られた塗膜は、ブツが多く、光沢が劣っていた。
【0075】
また、比較例2では、非重合性有機酸(a3)の使用量が多い単量体混合物(M8)を使用したため、重合時の分散安定性が低位であり、重合装置内に多量の二次凝集物が付着した。更に、40℃で乾燥後の金属含有共重合体は、全体的に強固にブロッキングしており、一次粒子に解砕出来ない塊があった。
【0076】
また、比較例3では、エチレン性不飽和単量体(B)の代わりにアルコール系溶剤であるPGMを用いて合成した単量体混合物(M9)を使用したため、重合時の分散安定性が著しく低位であり、重合中に金属含有共重合体が二次凝集し、系全体が固化した。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の製造方法によれば、アルコール系溶剤等の有機溶剤を使用することなく、貯蔵安定性が良好な金属含有エチレン性不飽和単量体(A)を製造することができる。また、金属含有エチレン性不飽和単量体(A)とエチレン性不飽和単量体(B)を水性媒体中に分散し、重合することで、耐ブロッキング性や溶剤溶解性に優れた固形の金属含有共重合体を安定に製造することができる。また、該金属含有共重合体を用いて得られた塗膜は、外観が良好であり、工業上極めて有益なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属含有エチレン性不飽和単量体(A)とエチレン性不飽和単量体(B)を水性媒体中に分散して重合する金属含有共重合体の製造方法であって、
金属含有エチレン性不飽和単量体(A)が、
無機金属化合物(a1)と、
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)と
前記化合物(a1)に対して0.15〜0.8モル当量の非重合性有機酸(a3)を
前記単量体(a2)以外のエチレン性不飽和単量体(B)中で反応させたものである金属含有共重合体の製造方法。
【請求項2】
下記式(1)で表されるコバルト錯体の存在下で、
金属含有エチレン性不飽和単量体(A)とエチレン性不飽和単量体(B)の重合を行う請求項1記載の金属含有共重合体の製造方法。
【化1】

(式(1)中、R1〜R4はそれぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基及びアリール基からなる群から選択される基を示し、Xはそれぞれ独立して、F原子、Cl原子、Br原子、OH基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキル基、シクロアルキル基及びアリール基からなる群から選択される基を示す)
【請求項3】
前記式(1)で表されるコバルト錯体のR1〜R4がフェニル基であり、XがF原子である請求項2に記載の金属含有共重合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法により製造される金属含有共重合体。

【公開番号】特開2011−241260(P2011−241260A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112540(P2010−112540)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】