説明

金属含有水の処理方法及び金属含有水の処理装置

【課題】遊離炭酸又は炭酸イオンを含む被処理水から金属イオンを除去する際に、スケール障害を低減させることのできる処理方法、及びそのような処理方法を行なうための処理装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、金属含有水から金属イオンを除去する金属含有水の処理方法であり、前記金属含有水を脱炭酸処理する脱炭酸工程S1と、前記脱炭酸工程を経た処理水にアルカリ剤を添加して、前記金属イオンを水に不溶の金属水酸化物に変換する金属水酸化物生成工程S2と、金属水酸化物生成工程S2を経た処理水に凝集剤を添加して、前記金属水酸化物を含む固形分を凝集させて凝集体を形成させる凝集工程S3と、凝集工程S3を経た処理水から前記凝集体を固液分離して沈殿体を形成する固液分離工程S4と、を備え、前記沈殿体の一部である第1返送物を、脱炭酸工程S1において前記金属含有水に添加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属含有水の処理方法及び金属含有水の処理装置に関し、さらに詳しくは、金属イオン及びカルシウムイオン並びに遊離炭酸若しくは炭酸イオンを含有する金属含有水から金属イオンを除去する金属含有水の処理方法及び金属含有水の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属イオンを含有する原水から金属イオンを除去する場合、原水にアルカリを添加することにより原水をアルカリ性にして、金属イオンを水に不溶の金属水酸化物に変換して固液分離する方法が採用される。
【0003】
ところで、原水が地下水等のように遊離炭酸や炭酸イオンを含む場合、その原水は酸性である。このような酸性の原水にそのままアルカリを添加してアルカリ性にしようとすると、原水に添加するアルカリの量が増加して処理コストが増大することになる。そのため、原水にアルカリを添加する前に、原水に対して曝気処理を施すことにより原水から遊離炭酸や炭酸イオンを除去し、原水を中性に近づける操作が行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、重金属等を含む排水の処理において、汚泥の含水率を低減させることにより汚泥の減容化を図る処理法として、高密度汚泥法(HDS法)が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。HDS法は、沈殿槽で固液分離された汚泥の一部にアルカリを添加してアルカリ性の汚泥とし、このアルカリ性の汚泥を沈殿槽よりも上流に位置する中和槽に返送して原水を中和する処理法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−1156号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】わかりやすい水処理設計、栗田工業株式会社監修、工業調査会(2003年)、p135−138
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
地下水等のように、遊離炭酸又は炭酸イオンを含有する原水から、例えばHDS法により金属イオンを除去する場合、特許文献1に記載されたように、原水にアルカリを添加する前に、原水に対して曝気処理を施すことが好ましい。しかし、曝気処理によって原水の遊離炭酸又は炭酸イオンの濃度が低下すると、pHが上昇し原水に含まれるカルシウムイオン(炭酸水素カルシウム等)が炭酸カルシウムとして析出する場合がある。析出した炭酸カルシウムは、スケールとして処理装置に付着して、処理装置の配管を閉塞させる等の障害の原因となる。このような問題は、カルシウムイオンを含有する地下水の処理において、特に顕著に発生する。
【0008】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、遊離炭酸又は炭酸イオンを含む被処理水から金属イオンを除去する際に、スケール障害を低減させることのできる処理方法、及びそのような処理方法を行なうための処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、処理水から遊離炭酸又は炭酸イオンを曝気により除去する脱炭酸工程において、沈殿槽で固液分離された汚泥(沈殿体)の一部を処理水に添加することにより、処理装置への炭酸カルシウム(スケール)の付着が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、(1)金属イオン及びカルシウムイオン並びに遊離炭酸若しくは炭酸イオンを含有する金属含有水から金属イオンを除去する金属含有水の処理方法であり、前記金属含有水を脱炭酸処理する脱炭酸工程と、前記脱炭酸工程を経た処理水にアルカリ剤を添加して、前記金属イオンを水に不溶の金属水酸化物に変換する金属水酸化物生成工程と、前記金属水酸化物生成工程を経た処理水に凝集剤を添加して、前記金属水酸化物を含む固形分を凝集させて凝集体を形成させる凝集工程と、前記凝集工程を経た処理水から前記凝集体を固液分離して沈殿体を形成する固液分離工程と、を備え、前記沈殿体の少なくとも一部である第1返送物を、前記脱炭酸工程において前記金属含有水に添加することを特徴とする。
【0011】
また本発明は、(2)前記沈殿体の一部である第2返送物にアルカリを添加して、前記第2返送物をアルカリ返送物に変換するアルカリ返送物作製工程を備え、前記アルカリ返送物を、前記金属水酸化物生成工程で添加されるアルカリ剤の一部又は全部とすることを特徴とする(1)項記載の金属含有水の処理方法である。
【0012】
また本発明は、(3)前記沈殿体の一部である第3返送物を、前記凝集工程において前記金属水酸化物生成工程を経た処理水に添加する(1)項又は(2)項記載の金属含有水の処理方法である。
【0013】
また本発明は、(4)金属イオン及びカルシウムイオン並びに遊離炭酸若しくは炭酸イオンを含有する金属含有水から金属イオンを除去するための金属含有水の処理装置であり、前記処理装置は、前記金属含有水に含まれる遊離炭酸又は炭酸イオンを除去する脱炭酸槽と、前記脱炭酸槽から流出した処理水にアルカリ剤を添加して、当該処理水に含まれる金属イオンを水に不溶の金属水酸化物に変換する反応槽と、前記反応槽から流出した処理水に凝集剤を添加して、当該処理水に含まれる前記金属水酸化物を凝集させて凝集体とする凝集槽と、前記凝集槽から流出した処理水に含まれる前記凝集体を固液分離して沈殿体とする沈殿槽と、を備え、さらに、前記沈殿槽で生じた前記沈殿体の少なくとも一部を、前記脱炭酸槽に返送する第1返送ラインを備えることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、(5)前記沈殿槽で生じた前記沈殿体の一部を、前記反応槽に返送する第2返送ラインを備え、さらに、前記第2返送ラインの途中には、前記第2返送ラインで返送される前記沈殿体にアルカリを添加するための化学反応槽を備えることを特徴とする(4)項記載の金属含有水の処理装置である。
【0015】
また本発明は、(6)前記沈殿槽で生じた前記沈殿体の一部を、前記凝集槽に返送する第3返送ラインを備える(4)項又は(5)項記載の金属含有水の処理装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、遊離炭酸又は炭酸イオンを含む被処理水から金属イオンを除去する際に、スケール障害を低減させることのできる処理方法、及びそのような処理方法を行なうための処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の金属含有水の処理装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】本発明の金属含有水の処理方法の一実施態様において、処理水及び固形分(汚泥)のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、金属含有水の処理方法及び金属含有水の処理装置に係るものである。以下、本発明の金属含有水の処理装置の一実施形態、及び本発明の金属含有水の処理装置の一実施態様について説明するが、本発明は、これらの実施形態及び実施態様に限定されるものではない。
【0019】
<金属含有水の処理装置>
まず、本発明の金属含有水の処理装置の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明における金属含有水の処理装置の一実施形態を示す模式図である。
【0020】
本実施形態の金属含有水の処理装置1は、金属イオン及びカルシウムイオン並びに遊離炭酸若しくは炭酸イオンを含有する金属含有水である処理水から金属イオンを除去するための装置であり、後に説明する本発明の金属含有水の処理方法の一実施態様において好ましく使用される。
【0021】
本実施形態の金属含有水の処理装置1は、脱炭酸槽10、反応槽20、凝集槽30、沈殿槽40及び化学反応槽50の各種処理槽と、上記各種処理槽を接続し、処理水の流路である処理水ライン70と、沈殿槽40で固液分離された汚泥を上記各種処理槽に返送する返送ライン60と、汚泥を脱水機へ移送する廃棄ライン64と、を備える。
【0022】
脱炭酸槽10は、金属含有水である処理水に含まれる遊離炭酸又は炭酸イオンを除去する脱炭酸処理に使用される処理槽である。脱炭酸槽10は、脱炭酸処理される処理水の入口15及び脱炭酸処理された処理水の出口16が処理水ライン70に接続され、撹拌装置11及び曝気装置12を備える。
【0023】
脱炭酸処理される処理水は、処理水ライン70から入口15に導かれ、脱炭酸槽10の内部へ投入される。脱炭酸槽10の内部に投入された処理水は、撹拌装置11により撹拌されるとともに、曝気装置12により曝気処理を受けて、その内部に含まれる遊離炭酸又は炭酸イオンが除去される。脱炭酸処理された処理水は、出口16を通過して脱炭酸槽10から流出し、処理水ライン70により反応槽20へ移送される。
【0024】
反応槽20は、処理水にアルカリ剤を添加して、処理水をアルカリ性にすることにより、処理水に含まれる金属イオンを金属水酸化物に変換する水酸化処理に使用される処理槽である。反応槽20は、水酸化処理される処理水の入口25及び水酸化処理された処理水の出口26が処理水ライン70に接続され、撹拌装置21及び曝気装置22を備える。
【0025】
水酸化処理される処理水は、処理水ライン70から入口25に導かれ、反応槽20の内部へ投入される。反応槽20の内部に投入された処理水は、撹拌装置21により撹拌されるとともに、後に説明する第2返送ライン62からアルカリ剤であるアルカリ返送物(図示せず)の投入を受ける。アルカリ返送物は、アルカリが添加された汚泥であり、アルカリ性の物質である。このため、アルカリ返送物(アルカリ剤)が添加された処理水は、アルカリ性となり、その内部に含まれている金属イオンが水に不溶の金属水酸化物に変換される。水酸化処理された処理水は、金属水酸化物等の固形分とともに、出口26を通過して反応槽20から流出し、処理水ライン70により凝集槽30へ移送される。
【0026】
なお、水酸化処理において、処理水に添加されるアルカリ剤は、後述するアルカリ返送物に限定されず、各種のアルカリをアルカリ剤として使用してもよい。このようなアルカリとしては、NaOH、KOH、Ca(OH)、Mg(OH)等が例示され、中でもNaOH、Ca(OH)等が好ましく使用される。各種のアルカリをアルカリ剤として処理水に添加する場合、反応槽20にアルカリ添加ライン(図示せず)を設ける。
【0027】
処理水にアルカリ剤を添加する際、除去対象となる金属の種類に応じて、処理水のpHが所定の範囲となるようにアルカリ剤を添加することが好ましい。この所定のpH範囲は、除去対象金属に応じて、例えば以下のような範囲となる。
Cr;pH5以上、好ましくはpH=5.5〜6.5
Cu;pH6以上、好ましくはpH=7〜8
Zn;pH9以上、好ましくはpH=9〜10
Ni;pH9以上、好ましくはpH=9〜10
Fe2+;pH9以上(ただしFe2+を空気酸化する場合はpH7以上、好ましくはpH=7.5〜8.5)
Fe3+;pH3以上、好ましくはpH=3.5〜4.5
Mn;pH10以上、好ましくはpH=10〜11
Cd;pH9以上、好ましくはpH=9.5〜10.5
処理水のpHを上記範囲とすることにより、処理水に含まれる金属イオンを十分に金属水酸化物に変換することができる。なお、処理水の好ましいpH範囲に上限を設けたのは、アルカリ剤の過剰添加等による無駄を除くためである。
【0028】
なお、反応槽20において処理水を水酸化処理する際、処理水中にFe2+が含有されている場合には、曝気装置22により曝気処理を受けることが好ましい。処理水がアルカリ性条件下で曝気処理を受けることにより、Fe2+がFe3+に変換され、その後、Fe3+が水に不溶のFe(OH)に変換される。このような作用により、処理水に含まれていたFe2+が固体として除去可能な状態になる。
【0029】
凝集槽30は、水に不溶の金属水酸化物を含む処理水に凝集剤を添加することにより、金属水酸化物等の固形分の凝集体を形成させる凝集処理に使用される処理槽である。凝集槽30は、凝集処理される処理水の入口35及び凝集処理された処理水の出口36が処理水ライン70に接続され、撹拌装置31及び凝集剤投入ライン33を備える。
【0030】
凝集処理される処理水は、処理水ライン70から入口35に導かれ、凝集槽30の内部へ投入される。凝集槽30の内部に投入された処理水は、撹拌装置31により撹拌されるとともに、凝集剤投入ライン33から凝集剤(図示せず)の添加を受ける。これにより、処理水の内部に含まれていた金属水酸化物等の固形分が凝集して凝集体を形成する。凝集処理された処理水は、凝集体とともに、出口36を通過して凝集槽30から流出し、処理水ライン70により沈殿槽40へ移送される。
【0031】
凝集剤としては、公知の凝集剤を特に制限なく使用することができる。このような凝集剤としては、アニオン性又はノニオン性の高分子凝集剤が例示され、中でもポリアクリルアミドの加水分解物、又はアクリルアミドとアクリル酸もしくはその塩との共重合物等が好ましく使用される。
【0032】
沈殿槽40は、先に説明した凝集処理によって生成した固体の凝集体を、沈殿により処理水から固液分離する沈殿処理に使用される処理槽である。沈殿槽40は、沈殿処理される処理水の入口45及び沈殿処理により固液分離された処理水の出口46が処理水ライン70に接続されている。また、沈殿槽40は、沈殿する凝集体をその底部に集め、沈殿した凝集体をラインにより排出するために、底部に近づくにつれて縮径した形状を有することが好ましい。
【0033】
沈殿槽40の底部には、凝集体が沈殿した沈殿体(汚泥)を沈殿槽40から排出するための返送ライン60及び廃棄ライン64が接続されている。返送ライン60及び廃棄ライン64は、一体のラインとして沈殿槽40の底部に接続され、その一体のラインは、沈殿槽40に接続される側と反対側の端部において、脱水機(図示せず)に接続された廃棄ライン64と返送ライン60とに分岐する。廃棄ライン64と返送ライン60との分岐点には、廃棄ライン64と返送ライン60とに分配される沈殿体(汚泥)の比率を調整するための弁が設けられることが好ましい。なお、この場合、タイマー弁の開閉を制御して分配比率を調整することができる。
【0034】
沈殿処理される処理水は、処理水ライン70から入口45に導かれ、沈殿槽40の内部へ投入される。沈殿槽40の内部に投入された処理水に含まれる凝集体は、重力により、沈殿槽40の底部に向けて沈降し、沈殿槽40の底部で凝集体の集合体である汚泥となる。その結果、沈殿槽40の上澄みである処理水から凝集体が除去され、固液分離が完了する。固液分離により凝集体が除去された処理水は、出口46を通過して沈殿槽40から流出し、処理水ライン70により、金属含有水の処理装置1の外部へと移送される。金属含有水の処理装置1の外部へと移送された処理水は、金属イオンが除去された処理水として各種用途に使用される。
【0035】
次に、返送ライン60について説明する。返送ライン60は、沈殿槽40で固液分離された汚泥の一部を、脱炭酸槽10、凝集槽30、及び化学反応槽50を経由して反応槽20に返送するためのラインである。返送ライン60は、沈殿槽40の底部で廃棄ライン64と分岐した後、第1返送ライン61、第2返送ライン62及び第3返送ライン63に分岐する。返送ライン60から、第1返送ライン61、第2返送ライン62及び第3返送ラインのそれぞれが分岐する箇所には、各返送ライン61、62、63に分配される沈殿体(汚泥)の比率を調製するための弁が設けられることが好ましい。
【0036】
なお、第1返送ライン61及び第2返送ライン62に分配される沈殿体(汚泥)の比率は、汚泥返送比(=返送汚泥量[kg]/原水の汚泥発生量[kg])が所定範囲となるように設定される。第1返送ライン61の好ましい汚泥返送比は5〜10程度であり、第2返送ライン62の好ましい汚泥返送比は除去対象とする金属種によって異なり、Feの場合は15〜25、好ましくは20程度であり、Cuの場合は40〜70、好ましくは50程度であり、その他金属では20〜30である。
第3返送ライン63によって返送される汚泥量は、凝集槽30内の汚泥濃度が1%以上となるように返送されることが好ましい。汚泥発生量が多く、第3返送ライン63による汚泥返送を行わなくても凝集槽30内の汚泥濃度が1%以上となる場合には、第3返送ライン63による汚泥返送は不要である。
【0037】
第1返送ライン61は、沈殿槽40で固液分離された汚泥の一部を脱炭酸槽10に返送するためのラインである。第1返送ライン61が存在することにより、脱炭酸処理される処理水に固形分である汚泥が供給される。
【0038】
既に述べたように、脱炭酸処理により処理水から遊離炭酸又は炭酸イオンが除去されると、処理水に含まれるカルシウムイオン(炭酸水素カルシウム)が水に不溶の炭酸カルシウムとなり、析出する。このとき、固形分である汚泥が処理水に含まれていると、炭酸カルシウムは、汚泥の粒子の表面に析出するので、析出した炭酸カルシウムが金属含有水の処理装置1の壁面にスケールとして付着することが抑制される。したがって、本実施形態の金属含有水の処理装置1が第1返送ライン61を備えることにより、スケール障害が抑制される。
【0039】
第3返送ライン63は、沈殿槽40で固液分離された汚泥の一部を凝集槽30に返送するためのラインである。第3返送ライン63が存在することにより、凝集処理される処理水に固形分である汚泥が供給される。
【0040】
既に述べたように、凝集処理は、処理水に含まれる金属水酸化物等の固形分を、凝集剤によって凝集体とする処理である。この処理を行なうに際して、処理水の中に固形分である汚泥を供給すると、供給された汚泥が凝集体を形成するための核となり、処理水に含まれる懸濁物を効率的に凝集することができ、清澄な処理水を得ることができる。
【0041】
第2返送ライン62は、沈殿槽40で固液分離された汚泥の一部を、化学反応槽50を経由して反応槽20に返送するためのラインである。第2返送ライン62が存在することにより、アルカリが添加された汚泥がアルカリ剤として反応槽20に供給される。
【0042】
化学反応槽50は、第2返送ライン62の途中に設けられ、第2返送ライン62によって返送された汚泥にアルカリを添加することで、その汚泥を、汚泥粒子の表面にアルカリが付着したアルカリ剤に変換するアルカリ処理に使用される処理槽である。化学反応槽50は、アルカリ処理される汚泥の入口55及びアルカリ処理された汚泥(アルカリ剤)の出口56が第2返送ライン62に接続され、撹拌装置51及びアルカリ投入ライン53を備える。
【0043】
アルカリ処理される汚泥は、第2返送ライン62から入口55に導かれ、化学反応槽50の内部へ投入される。化学反応槽50の内部に投入された汚泥は、撹拌装置51により撹拌されるとともに、アルカリ投入ライン53からアルカリ(図示せず)の添加を受ける。これにより、化学反応槽50の内部に存在する汚泥は、アルカリ剤となる。
【0044】
アルカリ処理に使用されるアルカリとしては、KOH、NaOH、Ca(OH)、Mg(OH)等が例示され、中でもNaOH、Ca(OH)等が好ましく使用される。また、アルカリ処理におけるアルカリの添加量は、反応槽20で設定された所定pH範囲に調整するのに必要な量とされることが好ましい。
【0045】
アルカリ処理された汚泥であるアルカリ剤は、出口56を通過して、化学反応槽50から流出し、第2返送ライン62により反応槽20へ移送される。
【0046】
反応槽20に移送されたアルカリ剤(汚泥)は、既に述べたように、反応槽20の内部に存在する処理水をアルカリ性にして、金属イオンを水に不溶の金属水酸化物を変換するために使用されるが、このように、表面にアルカリが付着した汚泥粒子をアルカリ剤として使用することにより、汚泥粒子が核となって、金属水酸化物の密な粒子を形成させる。その結果、汚泥の減容化につながることになる。
【0047】
本実施形態の金属含有水の処理装置1によれば、以下の効果が奏される。
【0048】
本実施形態の金属含有水の処理装置1は、沈殿槽40で生じた沈殿体(汚泥)の一部を、脱炭酸槽10に返送する第1返送ライン61を備える。そのため、脱炭酸処理により生じた炭酸カルシウムは、汚泥の粒子の表面に析出し、金属含有水の処理装置1の壁面にスケールとして付着することが抑制される。したがって、炭酸カルシウムの析出を原因とするスケール障害の発生が抑制される。
【0049】
また、本実施形態の金属含有水の処理装置1は、沈殿槽40で生じた沈殿体(汚泥)の一部を、反応槽20に返送する第2返送ライン62を備え、さらに、第2返送ライン62の途中には、第2返送ライン62で返送される沈殿体(汚泥)にアルカリを添加するための化学反応槽50を備える。そのため、第2返送ライン62で返送される沈殿体(汚泥)は、アルカリを含有するアルカリ剤として反応槽20に添加されることになり、このアルカリ剤が金属イオンを金属水酸化物に変換するとともに、アルカリ剤(汚泥)の粒子が核となって、金属水酸化物の密な粒子を形成させるため、汚泥の減容化につながることになる。
【0050】
また、本実施形態の金属含有水の処理装置1は、沈殿槽40で生じた沈殿体(汚泥)の一部を、凝集槽30に返送する第3返送ライン63を備える。そのため、凝集槽30に供給された汚泥が凝集体を形成するための核となり、処理水に含まれる懸濁物を効率的に凝集することができ、清澄な処理水を得ることができる。
【0051】
次に、本発明の金属含有水の処理方法の一実施態様について、図面を参照しながら説明する。図2は、本実施態様の金属含有水の処理方法において、処理水及び固形分(汚泥)のフローを示す図である。図2において、実線は、処理水のフローを示し、破線は、固形分(汚泥)のフローを示す。なお、以下の説明において、上記本発明の金属含有水の処理槽値の一実施形態の説明と重複する部分については説明を省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0052】
本実施態様の金属含有水の処理方法は、金属イオン及びカルシウムイオン並びに遊離炭酸若しくは炭酸イオンを含有する金属含有水から金属イオンを除去する処理方法であり、脱炭酸工程S1、金属水酸化物生成工程S2、凝集工程S3、固液分離工程S4及びアルカリ返送物作製工程S5を備える。
【0053】
本実施態様の金属含有水の処理方法が適用される処理水は、金属イオン及びカルシウムイオン並びに遊離炭酸若しくは炭酸イオンを含む。このような処理水としては、地下水、鉱山廃水等が例示されるが、特に限定されない。
【0054】
[脱炭酸工程S1]
まず、本実施態様の金属含有水の処理方法における脱炭酸工程S1について説明する。
この工程は、処理水(金属含有水)から遊離炭酸又は炭酸イオンを除去する脱炭酸処理を行なう工程である。本実施態様の金属含有水の処理方法では、アルカリ剤を処理水に添加することにより処理水をアルカリ性とし、処理水に含まれる金属イオンを金属水酸化物に変換して除去する。しかし、処理水に遊離炭酸又は炭酸イオンが含まれていると、処理水の緩衝性が強くなるため、これを中和するためのアルカリ剤が余分に必要になり、処理コストが増大する要因となる。そこで、本実施態様の金属含有水の処理方法では、処理水にアルカリ剤を添加するのに先立ち、処理水から遊離炭酸や炭酸イオンを除去する脱炭酸処理を行なう。
【0055】
処理水に含まれる遊離炭酸や炭酸イオンを除去するには、処理水を曝気装置により曝気する方法、処理水を強く撹拌する方法、処理水の上方から処理水の液面に向かって処理水を勢い良く噴射させる方法等が例示されるが、これらに限定されない。
【0056】
ここで、処理水の脱炭酸処理が進行すると、処理水のpHが上昇し、処理水に含まれるカルシウムイオンが水に不溶な炭酸カルシウムとして析出し、これが処理装置の壁面等に付着してスケール障害を引き起こす原因となる。そこで、本実施態様では、後に説明する固液分離工程S4で得られた汚泥(沈殿体)の少なくとも一部を、第1返送物として、脱炭酸工程S1における処理水に添加する。これにより、脱炭酸処理に伴って生じた炭酸カルシウムを汚泥の粒子の表面に析出させることができ、炭酸カルシウムが処理装置の壁面等に析出することが抑制される。その結果、スケール障害の発生が抑制される。なお、固液分離工程S4で得られた汚泥の「少なくとも一部」を第1返送物とする、とは、例えば、処理の開始時点などのように、固液分離工程S4で得られる汚泥が少ない場合等では、固液分離工程S4で得られた汚泥の全部を第1返送物とすることが好ましいが、そのように固液分離工程S4で得られた汚泥の全部を第1返送物とすることを排除しないという意味である。
【0057】
脱炭酸工程S1における処理水に、固液分離工程S4で得られた汚泥(第1返送物)を添加する量としては、汚泥返送比として3以上、好ましくは5〜10である。スケール抑制の点では返送汚泥量は多いほど好ましいが、実用上は返送汚泥比として10以下で十分な効果を得ることができる。
【0058】
脱炭酸工程S1の後、遊離炭酸又は炭酸イオンが除去された処理水、並びに脱炭酸工程S1で添加された第1返送物は、金属水酸化物生成工程S2に付される。
【0059】
[金属水酸化物生成工程S2]
次に、金属水酸化物生成工程S2について説明する。
この工程は、脱炭酸工程S1を経た処理水にアルカリ剤を添加して、処理水をアルカリ性にすることにより、処理水に含まれる金属イオンを水に不溶な金属水酸化物に変換する工程である。
【0060】
金属水酸化物生成工程S2では、処理水をアルカリ性にするために、処理水にアルカリ剤を添加する。アルカリ剤としては、水に溶解し、その水溶液をアルカリ性とすることのできるものであれば、特に制限なく使用することができる。このようなアルカリ剤としては、KOH、NaOH、Ca(OH)、Mg(OH)等が例示され、中でもNaOH、Ca(OH)等が好ましく使用される。処理水にアルカリ剤を添加する際には、アルカリ剤が処理水全体に行き渡るようにするために、処理水を撹拌することが好ましい。
【0061】
アルカリ剤は、固体のまま処理水に添加してもよいし、水溶液として添加してもよい。アルカリ剤の添加量は、除去対象となる金属の種類に応じて、処理水のpHが所定の範囲となるよう調整されることが好ましい。この所定のpH範囲は、除去対象金属に応じて、例えば以下のような範囲となる。
Cr;pH5以上、好ましくはpH=5.5〜6.5
Cu;pH6以上、好ましくはpH=7〜8
Zn;pH9以上、好ましくはpH=9〜10
Ni;pH9以上、好ましくはpH=9〜10
Fe2+;pH9以上(ただしFe2+を空気酸化する場合はpH7以上、好ましくはpH=7.5〜8.5)
Fe3+;pH3以上、好ましくはpH=3.5〜4.5
Mn;pH10以上、好ましくはpH=10〜11
Cd;pH9以上、好ましくはpH=9.5〜10.5
処理水のpHを上記範囲とすることにより、処理水に含まれる金属イオンを十分に金属水酸化物に変換することができる。なお、処理水の好ましいpH範囲に上限を設けたのは、アルカリ剤の過剰添加等による無駄を除くためである。
【0062】
ここで使用されるアルカリ剤は、その一部又は全部が、後に説明するアルカリ返送物作製工程S5で作製されたアルカリ返送物であることが好ましい。アルカリ返送物とは、後に説明する固液分離工程S4で得られた沈殿体(汚泥)の一部である第2返送物と、アルカリ水溶液とを混合して作製されたものであり、このようなアルカリ返送物に含まれる沈殿体(汚泥)の粒子の表面には、アルカリが付着している。このようなアルカリ返送物をアルカリ剤として使用することにより、処理水に含まれる金属イオンは、アルカリ剤である沈殿体(汚泥)粒子の表面での金属水酸化物に変換され、その後、その金属水酸化物が沈殿体(汚泥)の粒子の表面に析出する。そのため、金属水酸化物の析出物の体積が大きくなり、金属水酸化物の沈降速度を大きくすることができる。
【0063】
また、金属水酸化物生成工程S2では、処理水にFe2+が含有されている場合には、処理水に対して曝気処理を施すことが好ましい。処理水が地下水である場合、処理水には金属イオンとしてFe2+が含まれる場合があるが、このような場合には、曝気処理によりFe2+を酸化してFe3+に変換し、その後、水に不溶のFe(OH)に変換することができる。
【0064】
金属水酸化物生成工程S2の後、処理水、並びに脱炭酸工程S1で添加された第1返送物及び金属水酸化物生成工程S2で添加されたアルカリ返送物(第2返送物)は、凝集工程S3に付される。
【0065】
[凝集工程S3]
次に、凝集工程S3について説明する。
この工程は、金属水酸化物生成工程S2を経た処理水に凝集剤を添加して、金属水酸化物生成工程S2で生成した金属水酸化物を含む固形分を凝集させる工程である。
【0066】
凝集工程S3では、処理水に対して凝集剤を添加する。処理水に対して凝集剤を添加することにより、処理水に含まれる金属水酸化物等の固形分が凝集体となり、次に説明する固液分離工程S4で、その凝集体を重力で沈降させることができるようになる。処理水に添加される凝集剤としては、アニオン性又はノニオン性の高分子凝集剤が例示され、中でもポリアクリルアミドの加水分解物、又はアクリルアミドとアクリル酸もしくはその塩との共重合物等が好ましく使用される。処理水に凝集剤を添加する際には、凝集剤が処理水全体に行き渡るようにするために、処理水を撹拌することが好ましい。
【0067】
処理水に凝集剤を添加する量は、特に限定されないが、1〜10mg/Lであることが好ましく、2〜5mg/Lであることがより好ましい。
【0068】
本実施態様の凝集工程S3では、後に説明する固液分離工程S4で得られた沈殿体(汚泥)の一部を、第3返送物として凝集工程S3における処理水に添加することが好ましい。これにより、添加された第3返送物に含まれる沈殿体(汚泥)の粒子が凝集体を形成させる際の核となり、凝集効率を高めることができる。そのため、清澄な処理水を得ることができる。
【0069】
凝集工程S3における処理水に、第3返送物(固液分離工程S4で得られた沈殿体)を凝集工程S3における汚泥濃度が1%以上、好ましくは1.5〜4%となるよう添加することが好ましい。このように凝集工程S3における汚泥濃度を調整することにより、後段の固液分離工程S4において清澄な処理水を得ることができる。
【0070】
凝集工程S3の後、処理水、形成された凝集体、並びに脱炭酸工程S1で添加された第1返送物、金属水酸化物生成工程S2で添加されたアルカリ返送物(第2返送物)及び凝集工程S3で添加された第3返送物は、固液分離工程S4に付される。
【0071】
[固液分離工程S4]
次に、固液分離工程S4について説明する。
この工程は、凝集工程S3を経た処理水から、凝集工程S3で形成させた凝集体を固液分離して沈殿体を形成する工程である。すなわち、処理水に含まれる凝集体を重力により沈降させ、液体である処理水から固体である凝集体を分離する工程である。沈降した凝集体は沈降体を形成し、この沈降体は汚泥となる。
【0072】
固体である沈降体が分離された処理水は、金属イオンが除去された処理水として各種用途に使用される。また、処理水から分離された沈降体(汚泥)は、汚泥として脱水機により脱水されて廃棄処分される他、その一部が、既に述べたように、脱炭酸工程S1及び凝集工程S3でそのまま使用され、又は後に説明するアルカリ返送物作製工程S5を経て金属水酸化物生成工程S2で使用される。
【0073】
[アルカリ返送物作製工程S5]
次に、アルカリ返送物作製工程S5について説明する。
この工程は、固液分離工程S4で生成した汚泥の一部である第2返送物にアルカリを添加して、この第2返送物をアルカリ返送物に変換することで、アルカリ返送物を作製する工程である。作製されたアルカリ返送物は、既に述べたように、金属水酸化物生成工程S2で使用される。
【0074】
アルカリ返送物作製工程S5において、固液分離工程S4で生成した汚泥の一部である第2返送物は、そこに含まれる水分とともにアルカリと混合される。ここで使用されるアルカリの種類としては、先に説明した金属水酸化物生成工程S2で例示したアルカリと同様のものが挙げられる。アルカリは、水溶液として汚泥(第2返送物)に添加することが好ましいが、これに限定されない。汚泥とアルカリとを混合する際、撹拌機を使用することが好ましい。
【0075】
アルカリ返送物を作製する際に、汚泥(第2返送物)に添加するアルカリの量は、金属水酸化物生成工程S2において、処理水を所定のpH範囲に調整するのに必要な量であることが好ましい。金属水酸化物生成工程S2における処理水のpH範囲については、既に説明した通りである。
【0076】
アルカリ返送物作製工程S5で作製されたアルカリ返送物は、金属水酸化物生成工程S2におけるアルカリ剤として、処理水に添加される。
【0077】
本実施態様の金属含有水の処理方法によれば、以下の効果が奏される。
本実施態様の金属含有水の処理方法は、固液分離工程S4で作製された沈殿体(汚泥)の一部である第1返送物を、脱炭酸工程S1において、処理水である金属含有水に添加する。そのため、脱炭酸処理に伴って生じた炭酸カルシウムを汚泥の粒子の表面に析出させることができ、炭酸カルシウムが処理装置の壁面等に析出することが抑制される。その結果、スケール障害の発生が抑制される。
【0078】
<変形例>
以上、本発明の金属含有水の処理装置の一実施形態、及び本発明の金属含有水の処理方法の一実施態様について具体的に説明したが、本発明は、上記の実施形態及び実施態様に限定されず、本発明の構成の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0079】
例えば、本発明の金属含有水の処理装置の一実施形態では、処理水の脱炭酸を行なうために、脱炭酸槽10に曝気装置12を備えるが、曝気装置12の代わりに、強力な撹拌装置や、処理水の噴射装置を備え、これらを使用して脱炭酸を行なってもよい。また、上記金属含有水の処理槽値の一実施形態は、反応槽20に曝気装置22を備えるが、曝気装置22を備えなくてもよい。
【0080】
また、上記金属含有水の処理装置の一実施形態では、第2返送ライン62及び化学反応槽50、並びに第3返送ライン63を備えるが、これらを備えなくてもよいし、あるいは、第2返送ライン62及び化学反応槽50、又は第3返送ライン63のいずれかを備えてもよい。
【0081】
また、上記金属含有水の処理装置の一実施形態は、脱炭酸槽10、反応槽20、凝集槽30及び化学反応槽50に撹拌装置11、21、31、51を備えるが、これらの撹拌装置の一部又は全部を備えなくてもよい。
【0082】
また、上記金属含有水の処理装置の一実施形態では、返送ライン60及び廃棄ライン64が一体のラインとして沈殿槽40の底部に接続され、その一体のラインから返送ライン60及び廃棄ライン64が分岐するが、返送ライン60及び廃棄ライン64がそれぞれ沈殿槽40の底部に接続されてもよい。
【0083】
また、上記金属含有水の処理装置の一実施形態では、返送ライン60から第1返送ライン61、第2返送ライン62及び第3返送ライン63が分岐するが、第1返送ライン61、第2返送ライン62及び第3返送ライン63の一部又は全部が沈殿槽40の底部に接続されてもよい。
【0084】
また、上記金属含有水の処理装置の一実施形態では、反応槽20に、アルカリ返送物を添加するための第2返送ライン62を備えるが、反応槽20に他のアルカリを添加するためのラインを備えてもよい。
【0085】
また、上記金属含有水の処理装置の一実施形態、及び上記金属含有水の処理方法の一実施態様では、沈殿槽40(固液分離工程S4)で発生した汚泥を脱炭酸槽10(脱炭酸工程S1)等に返送するが、これら実施形態又は実施態様で発生した汚泥ではない汚泥、すなわち、外部で発生した汚泥を脱炭酸槽10(脱炭酸工程S1)等で使用してもよい。
【実施例】
【0086】
以下、本発明の金属含有水の処理方法について、実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0087】
[原水]
以下の実施例1及び比較例1〜2の金属含有水の処理方法において、処理の対象とした原水は、pH6.5、鉄(Fe2+)濃度60mg/L、アルカリ度250mg/L、カルシウム濃度500mg/Lである。
【0088】
[実施例1]
実施例1の金属含有水の処理方法は、脱炭酸工程S1、金属水酸化物生成工程S2、凝集工程S3、固液分離工程S4を備え、さらに、固液分離工程S4で生成した汚泥の一部にアルカリを添加するアルカリ返送物作製工程S5を備える。原水(処理水)の流量は、80L/hである。また、固液分離工程S4で生成した汚泥の一部を、脱炭酸工程S1及び凝集工程S3における処理水へ返送するとともに、アルカリ返送物作製工程S5におけるアルカリ返送物の作製のために返送し、アルカリ返送物作製工程S5で作製されたアルカリ返送物を金属水酸化物生成工程S2における処理水へ返送した。
脱炭酸工程S1では、撹拌装置及び曝気装置を備えた容量20Lの脱炭酸槽を使用して、曝気のために処理水へ導入される空気の流量が80L/hとなる条件で曝気を行なった。脱炭酸後の処理水のpHは、6.5である。また、金属水酸化物生成工程S2では、撹拌装置及び曝気装置を備えた容量20Lの反応槽を使用し、曝気を行いながら、アルカリ返送物を添加した。また、凝集工程S3では、撹拌装置を備えた容量5Lの凝集槽を使用し、凝集槽内部の処理水に対して、凝集剤としてアクリル酸とアクリルアミドとの共重合物を3mg/Lの割合で添加した。また、固液分離工程S4では、直径30cmの沈殿槽を使用した。さらに、アルカリ返送物作製工程S5では、撹拌装置を備えた容量0.5Lの化学反応槽を使用し、返送された汚泥に対して、そのpHが7.5となるになるように水酸化ナトリウムを添加し、混合した。その他、詳細な条件を表1に示す。
【0089】
[実施例2]
固液分離工程S4で生成した汚泥の一部を、凝集工程S3における処理水へ返送しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法にて、実施例2の金属含有水の処理を行った。詳細な条件を表1に示す。
【0090】
[比較例1]
脱炭酸工程S1を備えず、かつ凝集工程S3の処理水に対して、固液分離工程S4で生じた汚泥を返送しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法にて、比較例1の金属含有水の処理を行なった。詳細な条件を表1に示す。
【0091】
[比較例2]
脱炭酸工程S1を備えず、かつ固液分離工程S4で生じた汚泥の返送を一切行なわなかったこと以外は、実施例1と同様の方法にて、比較例2の金属含有水の処理を行なった。なお、固液分離工程で生じた汚泥の返送を一切行なわないので、アルカリ返送物作製工程S5も行なっていない。ここで、比較例2の汚泥は沈降速度が遅いとの理由から、比較例2の金属含有水の処理方法では、固液分離工程S4で使用した沈殿槽を直径40cmとした。詳細な条件を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
実施例1〜2及び比較例1〜2の金属含有水の処理方法により、原水を処理した結果を表2に示す。なお、表2に示す数値のうち、処理後の浮遊粒子量、汚泥の含水率、脱炭酸槽のスケール付着速度及び反応槽のスケール付着速度以外の数値は、処理を行なった原水1Lあたりの数値である。
また、表2におけるスケールの付着速度は、各槽に炭素鋼製テストピース(SPCC,30mm×50mm×1mm)を設置し、運転8日後のテストピースの重量変化より算出した。
【0094】
【表2】

【0095】
表2から、実施例1及び2では、比較例1及び2よりも汚泥発生量及びケーキ発生量が少なく、汚泥が減容化されていることがわかる。また、脱炭酸工程S1を有する実施例1及び2では、脱炭酸工程を有しない比較例1及び2に比べて水酸化ナトリウム使用量が少なくなることがわかる。このことから、本発明の金属含有水の処理方法を使用することにより、汚泥の減容化や処理コストの削減が可能なことが理解される。
また、凝集槽への汚泥の返送を行った実施例1では、凝集槽への汚泥の返送を行わなかった実施例2よりも、処理後の浮遊粒子量が少なく、かつ汚泥の含水率が少ない傾向だった。このことから、凝集槽への汚泥の返送を行うことにより、処理後の処理水がより清澄なものとなり、かつ汚泥の脱水処理が軽減されることが理解される。
さらに、実施例1及び2並びに比較例1と比較例2とを比較すると、アルカリ剤として、アルカリ返送物を使用することにより、反応槽へのスケール付着が抑制されることが理解される。
【符号の説明】
【0096】
1 金属含有水の処理装置
10 脱炭酸槽
20 反応槽
30 凝集槽
40 沈殿槽
50 化学反応槽
60 返送ライン
61 第1返送ライン
62 第2返送ライン
63 第3返送ライン
64 廃棄ライン
70 処理水ライン
S1 脱炭酸工程
S2 金属水酸化物生成工程
S3 凝集工程
S4 固液分離工程
S5 アルカリ返送物作製工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオン及びカルシウムイオン並びに遊離炭酸若しくは炭酸イオンを含有する金属含有水から金属イオンを除去する金属含有水の処理方法であって、
前記金属含有水を脱炭酸処理する脱炭酸工程と、
前記脱炭酸工程を経た処理水にアルカリ剤を添加して、前記金属イオンを水に不溶の金属水酸化物に変換する金属水酸化物生成工程と、
前記金属水酸化物生成工程を経た処理水に凝集剤を添加して、前記金属水酸化物を含む固形分を凝集させて凝集体を形成させる凝集工程と、
前記凝集工程を経た処理水から前記凝集体を固液分離して沈殿体を形成する固液分離工程と、を備え、
前記沈殿体の少なくとも一部である第1返送物を、前記脱炭酸工程において前記金属含有水に添加することを特徴とする金属含有水の処理方法。
【請求項2】
前記沈殿体の一部である第2返送物にアルカリを添加して、前記第2返送物をアルカリ返送物に変換するアルカリ返送物作製工程を備え、
前記アルカリ返送物を、前記金属水酸化物生成工程で添加されるアルカリ剤の一部又は全部とすることを特徴とする請求項1記載の金属含有水の処理方法。
【請求項3】
前記沈殿体の一部である第3返送物を、前記凝集工程において前記金属水酸化物生成工程を経た処理水に添加する請求項1又は2記載の金属含有水の処理方法。
【請求項4】
金属イオン及びカルシウムイオン並びに遊離炭酸若しくは炭酸イオンを含有する金属含有水から金属イオンを除去するための金属含有水の処理装置であって、
前記処理装置は、
前記金属含有水に含まれる遊離炭酸又は炭酸イオンを除去する脱炭酸槽と、
前記脱炭酸槽から流出した処理水にアルカリ剤を添加して、当該処理水に含まれる金属イオンを水に不溶の金属水酸化物に変換する反応槽と、
前記反応槽から流出した処理水に凝集剤を添加して、当該処理水に含まれる前記金属水酸化物を凝集させて凝集体とする凝集槽と、
前記凝集槽から流出した処理水に含まれる前記凝集体を固液分離して沈殿体とする沈殿槽と、を備え、
さらに、前記沈殿槽で生じた前記沈殿体の少なくとも一部を、前記脱炭酸槽に返送する第1返送ラインを備えることを特徴とする金属含有水の処理装置。
【請求項5】
前記沈殿槽で生じた前記沈殿体の一部を、前記反応槽に返送する第2返送ラインを備え、
さらに、前記第2返送ラインの途中には、前記第2返送ラインで返送される前記沈殿体にアルカリを添加するための化学反応槽を備えることを特徴とする請求項4記載の金属含有水の処理装置。
【請求項6】
前記沈殿槽で生じた前記沈殿体の一部を、前記凝集槽に返送する第3返送ラインを備える請求項4又は5記載の金属含有水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−177640(P2011−177640A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43729(P2010−43729)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】