説明

金属基複合材料

【課題】強化材である窒化物セラミックス粉末の酸化を防止するとともに、金属と複合化して得られる複合材料の反り、クラックおよび未含侵等の問題を解消し、熱伝導性、機械的強度等に優れた金属基複合材料を提供する。
【解決手段】セラミックス粉末の成形体に大気加熱を伴う高圧含侵により金属を含侵させた金属基複合材料であって、窒化物セラミックス粉末からなる強化材と、前記強化材の表面を被覆した酸化物セラミックス粉末からなる被覆層と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるマトリックス金属とを備え、前記被覆層は、開気孔に前記マトリックス金属が浸透した浸透層と、前記強化材に密着し、前記マトリックス金属が浸透していない非浸透層とからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス粉末の成形体に高圧含侵法により金属を含侵させた金属基複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス粉末またはセラミックス繊維と金属との複合材料の製造方法には、鋳造法、高圧鋳造法、高圧含浸法、非高圧含侵法、粉末冶金法等の方法がある。そのうち高圧含侵法は、セラミックス粉末またはセラミックス繊維の成形体に溶融したアルミニウムを含侵させる方法である。アルミニウムと複合化する際に高圧をかけて含侵させることによりアルミニウムが固化する際に発生するいわゆる「ひけす」の問題も解消することができ、良好な組織の金属基複合材料を作製することが出来る。
【0003】
この製造方法では、アルミナ、炭化珪素等の酸化物セラミックスまたは炭化物セラミックスが多く用いられており、窒化物セラミックスはほとんど用いられていなかった。これは溶融アルミニウムを直接注ぎ込む際にセラミックス粉末の成形体を事前に高温まで予熱する必要があるため、大気中で高温に加熱すると酸化し易い窒化物セラミックスには適しないからである。
【0004】
しかしながら窒化物セラミックスは、熱伝導性や機械的強度において優れた特性を持つことから、高圧含侵を用いた金属との複合化も試みられている。窒化物セラミックスを用いた高圧含侵の例としては、特許文献1や特許文献2が挙げられる。
【0005】
【特許文献1】特開平11−228261号公報
【特許文献2】特開2006−117491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、酸化を防ぐために窒素中で含侵を行っているが、大型の非酸化雰囲気炉を要するため、設備コストがかかる問題があった。また、特許文献2では、セラミックス粉末の表面酸化層の残留を抑えるためにMgを含むアルミニウム合金を用いて高圧含侵を行っているが、Mgを多く含んでいると湯流れ性が悪くハンドリングが困難な上に、Al合金の凝固温度範囲が広くなるため、得られる金属基複合材料のマトリックス金属組成が不均質になり反りやクラックが生じるといった問題があった。
【0007】
一方、酸化を防ぐために、予熱温度を下げたり時間を短くしたりして予熱が不十分であると、流し込んだ溶融アルミニウムが成形体全体に含侵する前に固まってしまい、アルミニウムの未含浸が発生するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、これらの問題点を解決するため、窒化物セラミックス粉末の表面に酸化物セラミックス粉末を被覆し、窒化物セラミックスが大気中の熱処理で酸化しない状態として高温で予熱し、高圧含侵により金属基複合材料とすることを見出した。すなわち本発明は、セラミックス粉末の成形体に大気加熱を伴う高圧含侵により金属を含侵させた金属基複合材料であって、窒化物セラミックス粉末からなる強化材と、前記強化材の表面を被覆した酸化物セラミックス粉末からなる被覆層と、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるマトリックス金属とを備え、前記被覆層は、開気孔に前記マトリックス金属が浸透した浸透層と、前記強化材に密着し、前記マトリックス金属が浸透していない非浸透層とからなることを特徴とする金属基複合材料を提供する。
【0009】
酸化物セラミックス粉末からなる被覆層は、マトリックス金属が浸透した浸透層と、浸透していない非浸透層からなる。被覆層は、含侵前の予熱の際に窒化物セラミックスが著しく酸化することを防ぐものであることから、より緻密質であることが好ましいが、被覆層を緻密化させることは困難である。そこで、被覆層の厚さを調整して酸化を防止し、かつ熱伝導率等の諸特性において優れた複合材料が得られる方法を見出し、本発明に至った。含侵後の被覆層の外周部分にマトリックス金属が浸透して浸透層が形成され、被覆層の強化材に接した部分に非浸透層が形成された構成であれば、熱伝導や強度において優れた特性を有する金属基複合材料を得ることができる。
【0010】
被覆層の厚さは、1〜10μmが好ましい。この範囲であれば、上記のように浸透層と非浸透層を形成することができる。被覆層の厚さが小さい場合、被覆層に亀裂が生じ、そこから酸化が始まって窒化物セラミックス粉末の特性が劣化し易くなる。逆に厚さが大きい場合は、複合材料の熱伝導性や曲げ強度等の特性が低下する問題が生じる。
【0011】
さらに、本発明では、窒化物セラミックス粉末の表面酸化によって強化材に形成された酸化層の割合は、10質量%以下とすることができ、この範囲に抑えることにより熱伝導等の特性に優れた金属基複合材料となる。
【0012】
強化材の窒化物セラミックス粉末は、窒化アルミニウムまたは窒化珪素が望ましい。窒化アルミニウムは、熱伝導性が優れており、窒化珪素は機械的特性が優れているため、マトリックス金属との複合化により熱伝導性や機械的強度に優れた複合材料を得ることができる。
【0013】
被覆層の酸化物セラミックス粉末は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、または酸化亜鉛が好ましく、これらのゾル状の物質もしくはサブミクロンの粉末として存在するものが望ましい。酸化物セラミックス粉末の平均粒径は0.5μm以下が望ましい。それより粒径が大きいと窒化物セラミックス粉末の表面に酸化物セラミックスが均等に被覆されず、酸化防止機能が損なわれる。
【発明の効果】
【0014】
強化材である窒化物セラミックス粉末の酸化を防止するとともに、金属と複合化して得られる複合材料の反り、クラックおよび未含侵等の問題を解消し、熱伝導性、機械的強度等に優れた金属基複合材料を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
強化材である窒化物セラミックス粉末としては、平均粒径が10〜100μmのものを用いることが好ましい。粉末の粒径がこの範囲であれば、粒径に対して被覆層の厚さを適正な範囲に形成し易く、複合材料において窒化物セラミックスの特性を発揮できる。また、含侵不良が発生し易くなったり、複合材料を加工する際に切り込み幅を小さくする必要が生じたりといった問題が生じない。
【0016】
セラミックス粉末の成形体としては、型枠にセラミックス粉末を充填して成形した成形体、または、セラミックス粉末に水、無機バインダもしくは有機バインダを添加して成形し、焼成して得られるプリフォームといわれる成形体のいずれでも良い。成形体の粉末充填率は、強化材及び被覆層の酸化物セラミックスとからなるセラミックス粉末の充填率で50〜70体積%が好ましい。50体積%よりも小さい充填率ではセラミックスの特性が発現され難く、70体積%よりも大きいと含侵不良が発生するなどの問題が生じ易い。粉末の充填率は、粉末の粒径、成形時のプレス圧等によって調整できる。
【0017】
酸化物セラミックス粉末としては、上記したように、ゾル状の物質もしくはサブミクロンの粉末として存在するものであれば良く、平均粒径は0.5μm以下が望ましい。
【0018】
強化材を酸化物セラミックス粉末で被覆する方法としては、乾式法または湿式法を用いることができる。乾式法としては機械的に粉末を被覆するメカノケミカル法を適用できる。湿式法としてはゾル状の物質、またはサブミクロンの粉末に溶媒を加えてスラリー化したものを窒化物セラミックス粉末と混合し、その後乾燥する方法を採用することができる。
【0019】
被覆層の厚さの制御は、メカノケミカル法を用いた乾式法では粉末の投入量や攪拌時間、攪拌の回転数などを調整して行うことができる。湿式法では、酸化物の添加量や混合時間を調整することにより行うことができる。具体的には、酸化物セラミックス粉末の添加量は、窒化物セラミックス粉末100質量部に対して1〜10質量部とすることが望ましい。混合時間は、24〜36時間が好ましい。
【0020】
高圧含侵前の予熱は、大気中500〜800℃で行うことができる。上記のように予熱が不十分では、流し込んだ溶融金属が成形体全体に含侵する前に固まってしまい、マトリックス金属の未含浸が発生し易くなる。本発明では、酸化物セラミックス粉末により被覆層を形成しているため、予熱時に窒化物セラミックス粉末の酸化を防ぐことができるので、十分な予熱が可能となる。
【0021】
予熱によって強化材の表面に形成される酸化層の割合は、10質量%以下に抑える必要がある。これは、窒化物セラミックス粉末が酸化されることによる特性の劣化が顕著になるためである。しかも、10質量%を超える場合は、マトリックス金属を含侵した後の金属基複合材料中の窒化物セラミックス粉末の周囲を観察するとマトリックス金属が酸化物セラミックス粉末の被覆層を破って窒化物セラミックスに達するまで浸透している様子が認められた。
【0022】
このように、非浸透層が形成されずに、全て浸透層となった場合は、マトリックス金属の浸透が進んでいるので、熱伝導性等の特性が向上するかに思われたが、実際には非浸透層が形成されている場合と比べて劣ることが分かった。これは、被覆層に亀裂が生じることによる窒化物セラミックス粉末の酸化及び機械的強度の低下によるものと思われる。また、被覆層の厚さに対する浸透層の厚さは30〜60%が好ましく、この範囲内であれば、被覆層を形成したことによる熱伝導率や強度の低下はほとんど見られない。
【0023】
マトリックス金属はアルミニウムまたはアルミニウム合金を用いることができる。ここで、アルミニウム合金としては、例えばAC3A(Mg:0〜0.15質量%含有 JIS規格合金)等を用いることができる。高圧含侵により作製する場合、Mgを多く含んでいると湯流れ性が悪くハンドリングが困難な上に、アルミニウム合金の凝固温度範囲が広くなるため、得られる金属基複合材料のマトリックス金属が不均質になり反りやクラックといった問題が発生する。したがって、マトリックス金属中のMgの含有量は0.5質量%よりも少ないことが好ましい。
【0024】
成形体へのマトリックス金属の含侵は、型枠と成形体とをそれぞれ別々に加熱した後成形体を型枠にセットするか、または、型枠にセットした成形体を型枠ごと加熱するか、いずれかの方法で予熱した後、そこに溶融したマトリックス金属を注入し、10〜80MPaの圧力で加圧して行う。
【0025】
以下、実施例と比較例を示して、本発明を説明する。
[実施例1〜10、比較例1〜4]
強化材として市販品の窒化アルミニウム粉末を分級したもの(平均粒径D50:43μm)を用いた。酸化物セラミックス粉末による被覆は、窒化アルミニウム粉末100質量部に酸化物セラミックス粉末を1〜10質量部、有機バインダとしてポリビニルアルコールを7質量部添加し、これにイソプロビルアルコール等の溶媒を加えてスラリー状とした。このスラリーを24時間混合し、その後100〜120℃で乾燥させた。酸化物セラミックスのゾルを添加する場合には、窒化アルミニウム粉末100質量部に対して固形分換算で1〜5質量部添加した。なお、セラミックス粉末(ゾルを含む)の平均粒径は、レーザー回折法(堀場製作所社製、LA−300)により測定したD50を用いた。
【0026】
得られたセラミックス粉末とバインダの混合物を、金型を用いて熱プレス(条件:150℃−1時間)し、プリフォームを得た。プレス圧は5〜60MPaとして成形体の充填率を調整した。
【0027】
次にこのプリフォームを型枠内に設置し850℃-大気中で2時間予熱した後、800℃の溶融アルミニウム(AC3A)を流し込み、15MPaの圧力で含侵した。
【0028】
セラミックス粉末の充填率は、プリフォームについてアルキメデス法で気孔率を測定して求めた。また、予熱時の窒化物セラミックス粉末に占める酸化層の割合は、予熱工程と同条件で加熱したときのプリフォームの重量増加を測定することにより算出した。被覆層並びに浸透層及び非浸透層の厚さについては、得られた金属基複合材料を切断して強化材の周囲の組織を観察し、切断面に現れた任意の10個の窒化アルミニウム粉末について、それぞれ任意の5箇所の被覆層等の厚さを測定し、平均を求めた。熱伝導率は、試験片を切り出し、レーザーフラッシュ法にて測定した。結果を表1に示す。なお、表に非浸透層厚さは示していないが、被覆層厚さと浸透層厚さとの差から求めることができる。
【0029】
【表1】

【0030】
本発明の範囲内である実施例1〜10の熱伝導率は141〜167W/(m・K)であり、本発明の範囲外である比較例1〜4の103〜115W/(m・K)と比べて高い値を示した。
【0031】
[実施例11〜20、比較例11〜14]
次に強化材として市販品の窒化珪素粉末を分級したもの(平均粒径D50:59μm)を用い、窒化アルミニウムの例と同条件で作製した。曲げ強度は、試験片を切り出し、4点曲げ強度試験(JISR1601)にて測定した。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
本発明の範囲内である実施例11〜20の曲げ強度は420〜540MPaであり、本発明の範囲外である比較例11〜14の280〜340MPaと比べて高い値を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粉末の成形体に大気加熱を伴う高圧含侵により金属を含侵させた金属基複合材料であって、
窒化物セラミックス粉末からなる強化材と、
前記強化材の表面を被覆した酸化物セラミックス粉末からなる被覆層と、
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるマトリックス金属とを備え、
前記被覆層は、
開気孔に前記マトリックス金属が浸透した浸透層と、
前記強化材に密着し、前記マトリックス金属が浸透していない非浸透層とからなることを特徴とする金属基複合材料。
【請求項2】
前記被覆層は、1〜10μmの厚さを有する請求項1記載の金属基複合材料。
【請求項3】
窒化物セラミックス粉末の表面酸化によって前記強化材に形成された酸化層の割合は、10質量%以下である請求項1または2記載の金属基複合材料。
【請求項4】
前記強化材の窒化物セラミックス粉末は、窒化アルミニウムまたは窒化珪素である請求項1〜3記載の金属基複合材料。
【請求項5】
前記被覆層の酸化物セラミックス粉末は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、または酸化亜鉛である請求項1〜4記載の金属基複合材料。

【公開番号】特開2010−7149(P2010−7149A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169726(P2008−169726)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】