説明

金属多孔質板およびその製造方法

【課題】面方向に空隙率分布を有し、強度が高く流通性に優れた金属多孔質体を提供する。
【解決手段】金属焼結体の骨格により辺が構成されてなる複数の多面体状の空隙が相互に連続状態に形成されている金属多孔質板10であって、表裏面の最外面が前記骨格の側面で形成されており、前記骨格が密集した高密度部分10bとこの高密度部分10bよりも前記骨格の密集度が小さい低密度部分10aとが面方向に分散して配置されているとともに、前記骨格の間に形成される前記空隙による空隙率が前記金属多孔質板全体において50%以上98%以下の範囲内にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面方向に密度分布を有する金属多孔質板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池において、空気極側での反応で生じる水が滞留して空気(酸化剤ガス)の流通を妨げることにより反応効率が低下したり停止したりすること(いわゆるフラッディング)を防止するために、燃料電池内の水を速やかに排出できる構造が検討されている。
【0003】
たとえば特許文献1では、発泡焼結金属によって形成した集電板に複数の貫通孔を設けることにより、空気電極層側において発生した水(生成水)を発泡空孔で毛管現象により吸引するとともに、貫通孔を通じて酸化剤ガスを電解質膜に供給することが提案されている。この場合、発泡空孔で吸引された生成水は貫通孔内で蒸発して、余分の酸化剤ガスとともにこの貫通孔を通じて集電板から排出される。
【0004】
特許文献2では、金属質の多孔質体の板材に対して型彫り放電加工による除去加工を行って板厚の異なる部分を形成し、板厚が大きい部分を圧延することにより高密度化することが提案されている。この場合、金属多孔質体の面方向に任意の空隙率分布を形成できる。
【特許文献1】特開2004−63097号公報
【特許文献2】特許3396737号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の集電板では、酸化剤の供給量を増大させる場合は多くの貫通孔を設けなければならないため、強度が低下するおそれがある。特許文献2の方法では、金属多孔質体に対して除去加工を行っているため、加工層の生成による目詰まり等により多孔質材の流通性を低下させるおそれがあるとともに、表面が荒れるために接触する相手部材(たとえば特許文献1における電解質膜)を損傷するおそれがある。また、放電加工等の除去加工は手間がかかり、製造コストが増大するという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、面方向に空隙率分布を有し、強度が高く、流体の流通性に優れた金属多孔質体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属焼結体の骨格により辺が構成されてなる複数の多面体状の空隙が相互に連続状態に形成されている金属多孔質板であって、表裏面の最外面が前記骨格の側面で形成されており、前記骨格が密集した高密度部分とこの高密度部分よりも前記骨格の密集度が小さい低密度部分とが面方向に分散して配置されているとともに、前記骨格の間に形成される前記空隙による空隙率が前記金属多孔質板全体において50%以上98%以下の範囲内にある。
【0008】
この金属多孔質板によれば、密度の異なる部分が面方向に分散して配置されているので、たとえば吸水性を有する液体流路と通気性を有する気体流路とを面方向に分散して備えることができる。また、最外面が金属焼結体の骨格の側面で形成されているので、この面に接触する他部材を損傷しにくい。空隙率を50%以上としたのは内部の流体の流通性を確保するためであり、空隙率を98%以下としたのは金属多孔質板の強度を確保するためである。
【0009】
この金属多孔質板において、前記骨格の密集度が前記低密度部分よりも大きく前記高密度部分よりも小さい中間密度部分が、前記面方向に分散して配置されていてもよい。中間密度部分は、たとえば高密度部分の空隙が閉塞するなどによりその流通性が損なわれた場合には、比較的密度が高いため、高密度部分の流通性を補完できる。また、低密度部分が損傷した場合には、中間密度部分は金属多孔質板の形状維持に寄与するとともに、比較的密度が低いため、低密度部分の流通性を補完できる。
【0010】
また本発明は、金属焼結体の骨格により辺が構成されてなる複数の多面体状の空隙が相互に連続状態に形成されている金属多孔質板の製造方法であって、金属粉末と発泡剤とを含有する発泡性スラリーを板状に成形し、発泡させた後に焼結することにより、前記骨格の間に形成される前記空隙による空隙率がそれぞれ60%以上99%以下である金属多孔質材からなる複数枚の板部品を制作し、これら板部品を部分的に積層して所定厚さとなるまで厚さ方向に圧縮することにより相互に接合するとともに全体において空隙率が50%以上98%以下の範囲内とし、高密度部分と低密度部分とが面方向に分散して配置された金属多孔質板を形成する。
【0011】
この製造方法によれば、部分的に積層した状態の複数の多孔質板部品を任意の厚さに圧縮することにより、部分的に密度が異なる金属多孔質体を形成できる。この場合、積層する板部品をそれぞれ任意の形状とするとともにそれらの空隙率および厚さと圧縮後の厚さとを適宜調節することにより、任意の空隙率を有する高密度部分および低密度部分を任意の位置に設けることができる。また、焼結後の板部品の表裏面に除去加工を施していないので、表面に荒れがなく、隣接する部材を損傷しない金属多孔質板を製造することができる。
なお、この板部品における空隙率は、65%以上99%以下であることがより好ましい。65%以下では圧縮に過大な力が必要となり、99%を超えると強度不足のため圧縮時に破損するおそれがあるからである。
【0012】
この製造方法において、前記板部品は所定の形状を有する基板とこの基板よりも小さい小板とを含み、前記基板上に複数の前記小板を分散して配置した状態で全体を圧縮することにより、前記小板が積層された部分を前記高密度部分とすることができる。
または、前記板部品はそれぞれ所定の形状を有し、これら板部品を互いに位置をずらして部分的に積層するように配置した状態で全体を圧縮することにより、この積層部分を前記高密度部分とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、面方向に分散して配置された密度が異なる部分を有する金属多孔質板を、機械加工や複雑な工程等を経ることなく、容易に得ることができる。この金属多孔質板は、高密度部分と低密度部分とにおいてそれぞれ孔径が異なる流路が厚さ方向に連通していることから液体流路および気体流路を同時に備えることができ、また隣接する部材を損傷しないので、燃料電池の空気極部材に好適である。また、この金属多孔質板を断熱材や伝熱部材として用いた場合、面方向の密度分布を熱伝導率の分布として利用することにより、温度分布を制御することができる。また、金属多孔質板は極めて軽量で脆弱な部材であるが、その一部を高密度化された高強度部分とできるので、この部分を他の部材に固定したりして、負荷を受け持つ部分とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る金属多孔質板およびその製造方法の実施形態について説明する。
本発明の金属多孔質板10は、図1に示すように、低密度部分10a、高密度部分10b、および中間密度部分10cが面方向に分散して配置されている。この金属多孔質板10は、図2に示すように、金属焼結体の骨格11により辺が構成されてなる複数の多面体状の空隙12が相互に連続状態に形成されていて、表裏面の最外面が前記骨格の側面で形成されている。
【0015】
すなわち、この金属多孔質板10において、骨格11間には空隙12が形成されている。空隙12は、骨格11により辺が構成された複数の多面体状のポアが相互に連続するように形成されており、金属多孔質板10の体積中、50%以上98%以下を占めている。以下、この空隙12の体積割合を空隙率と呼ぶ。空隙率は、同形の中実体の重量に対する実測重量から算出することができる。本実施形態の金属多孔質板10においては、骨格11の密集度が低い低密度部分10aの空隙率が80%、密集度が高い高密度部分10bの空隙率が60%、密集度が低密度部分10aよりも高く高密度部分10bよりも低い中間密度部分10cの空隙率が70%となっている。
【0016】
空隙12は、表面に開口する複数の開口部12aを有しており、その開口面積は表面の面積のうち5%以上99%以下(本実施形態では50%)を占めている。以下、この表面における空隙12の開口面積の割合を開口率と呼ぶ。開口率は、金属多孔質板10の表面を撮影した25〜100倍顕微鏡写真を用いて、視野面積Aと、この視野中の最外面の全ての開口部12aの面積和Apとを測定し、次の式によって算出する。
開口率(%)=Ap/A×100
また、この開口部12aの平均開口サイズは、開口部12aを円形とみなした場合の直径であり、以下、これを平均開口径と呼ぶ。平均開口径は、25〜100倍顕微鏡写真において、視野中の最外面の各開口部12aの面積を測定して算出した各円相当径の算術平均である。本発明の金属多孔質板10の平均開口径は、30μm以上1mm以下(本実施形態では120μm)である。
【0017】
次に、この金属多孔質板10の製造方法について説明する。
金属多孔質板10は、それぞれ空隙率が60%以上99%以下(本実施形態ではいずれも90%)である金属多孔質材の矩形の基板(板部品)40および帯状の小板(板部品)41を複数枚用いて製造される。図3に示すように、基板40の上に3枚の小板41を互いに間隔をおいて配列積層し、これらの小板41に交差するように3枚の小板41を互いに間隔をおいて配列積層し、さらにその上に基板40を積層する。これらの基板40および小板41は、いずれも空隙率90%、厚さ0.3mmである。このように、2層から4層に積層した基板40および小板41を厚さ方向に圧縮すると、隣接する基板40および小板41の骨格同士が互いの開口部12aを通じて入り込み、絡み合うように変形することにより、隣接する基板40および小板41同士が一体に接合される。
【0018】
このように全体が所定厚さ(本実施形態では0.3mm)となるように厚さ方向に圧縮して形成されることにより、2層の基板40が積層された空隙率80%の低密度部分10a、2層の基板40および1層の小板41が積層された空隙率70%の中間密度部分10c、および2層の基板40および2層の小板41が積層された空隙率60%の高密度部分10bが格子状に分散して配置された金属多孔質板10が得られる(図1)。
【0019】
ここで、金属多孔質材の板部品を積層して厚さ方向に圧縮した際の厚さおよび空隙率の変化について説明する。
まず、空隙率の等しい板部品を積層して圧縮した場合について、図4を参照して説明する。図4(a)に示すように空隙率90%、厚さ20mmの金属多孔質材の板部品42を2枚積層し、図4(b)に示すように厚さ40mmから厚さ24.8mmまで圧縮すると各板部品42の空隙率はいずれも84%となり、さらに図4(c)に示すように厚さ20mmとなるまで圧縮すると、各板部品42の空隙率はいずれも80%となる。つまり、空隙率の等しい板部品を積層して厚さ方向(積層方向)に圧縮した場合、それら板部品は同率で圧縮される。なお、図中の円および楕円は、圧縮により変化する空隙率を模式的に示すものである。
【0020】
次に、空隙率の異なる板部品を積層して圧縮した場合について、図5を参照して説明する。図5(a)に示すように空隙率90%、厚さ20mmの板部品43Aと空隙率80%、厚さ10mmの板部品43Bとを積層し、これを厚さ方向(積層方向)に圧縮すると、まず空隙率が高い低密度の板部品43Aだけが圧縮される。すなわち、図5(b)に示すように、これら板部品43A,43B全体を板部品43Aの厚さが15mmとなるまで厚さ方向に圧縮すると、板部品43Aの空隙率は86.7%となるが、板部品43Bの厚さおよび空隙率は変化しない。さらに、図5(c)に示すようにこれらを圧縮すると、板部品43Aは厚さが10mm、空隙率が80%となり、板部品43Bと同等の厚さおよび空隙率となる。つまり、空隙率の異なる板部品を積層して圧縮した場合、各板部品の空隙率が同等になるまでは低密度の板部品のみが圧縮される。
【0021】
したがって、任意の空隙率および厚さを有する板部品を複数枚積層し、これらを任意の厚さに圧縮することにより、所望の空隙率および厚さとすることができるので、任意の空隙率を有する高密度部分および低密度部分を任意の形状で形成することができる。また、図5(b)に示すように空隙率の異なる板部品を積層して適宜圧縮することにより、厚さ方向に密度分布を有する金属多孔質板を形成することもできる。
【0022】
次に、板部品42,43A,43B(基板40および小板41)の製造方法について、図6を参照して説明する。板部品40,41は、金属粉末と発泡剤とを含有する発泡性スラリーを板状に成形し、発泡させた後に焼結して形成される。
〈発泡性スラリー作成工程〉
まず、金属粉末と発泡剤とを含有する発泡性スラリーSを作成する。発泡性スラリーSは、骨格11を形成する金属粉末、バインダ(水溶性樹脂結合剤)、発泡剤および水と、必要に応じて界面活性剤および/または可塑剤とを混合することにより作成される。より具体的には、まず金属粉末、バインダおよび水を含有するスラリーを作成した後、このスラリーに発泡剤を添加し、ミキサーなどの攪拌装置で攪拌する。
【0023】
金属粉末としては、特に限定されないが、耐食性等の点から、Ni,Cu,Ti,Al,Ag,ステンレス鋼等が好ましい。また、この金属粉末は平均粒径0.5μm以上30μm以下が好ましい。このような粉末は、水アトマイズ法,プラズマアトマイズ法などのアトマイズ法、酸化物還元法,湿式還元法,カルボニル反応法などの化学プロセス法によって製造することができる。
【0024】
バインダ(水溶性樹脂結合剤)としては、メチルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロース,カルボキシメチルセルロースアンモニウム,エチルセルロース,ポリビニルアルコールなどを使用することができる。
【0025】
発泡剤は、ガスを発生してスラリーに気泡を形成できるものであればよく、揮発性有機溶剤、例えば、ペンタン,ネオペンタン,ヘキサン,イソヘキサン,イソペプタン,ベンゼン,オクタン,トルエンなどの炭素数5〜8の非水溶性炭化水素系有機溶剤を使用することができる。この発泡剤の含有量としては、発泡性スラリーSに対して0.1〜5重量%とすることが好ましい。
【0026】
界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩,α‐オレフィンスルホン酸塩,アルキル流酸エステル塩,アルキルエーテル硫酸エステル塩,アルカンスルホン酸塩等のアニオン界面活性剤,ポリエチレングリコール誘導体,多価アルコール誘導体などの非イオン性界面活性剤および両性界面活性剤などを使用することができる。
【0027】
可塑剤は、スラリーを成形して得られる成形体に可塑性を付与するために添加され、例えばエチレングリコール,ポリエチレングリコール,グリセリンなどの多価アルコール、鰯油,菜種油,オリーブ油などの油脂、石油エーテルなどのエーテル類、フタル酸ジエチル,フタル酸ジNブチル,フタル酸ジエチルヘキシル,フタル酸ジオクチル,ソルビタンモノオレート,ソルビタントリオレート,ソルビタンパルミテート,ソルビタンステアレートなどのエステル等を使用することができる。
【0028】
さらに、スラリーの特性や成形性を向上させるために任意の添加成分を加えてもよい。例えば、防腐剤を添加してスラリーの保存性を向上させたり、結合助材としてポリマー系化合物を加えて成形体の強度を向上させたりすることができる。
【0029】
このように作成した発泡性スラリーSから、図6に示す成形装置20を用いて、グリーンシートを形成する成形工程および発泡乾燥工程を行う。
〈成形工程〉
成形装置20は、ドクターブレード法を用いてシートを形成する装置であり、発泡性スラリーSが貯留されるホッパ21、ホッパ21から供給された発泡性スラリーSを移送するキャリヤシート22、キャリヤシート22を支持するローラ23、キャリヤシート22上の発泡性スラリーSを所定厚さに成形するブレード(ドクターブレード)24、発泡性スラリーSを発泡させる恒温・高湿度槽25、および発泡したスラリーを乾燥させる乾燥槽26を備えている。なお、キャリヤシート22の下面は、支持プレートPによって支えられている。
【0030】
成形装置20においては、まず、発泡性スラリーSをホッパ21に投入しておき、このホッパ21から発泡性スラリーSをキャリヤシート22上に供給する。キャリヤシート22は図の右方向へ回転するローラ23および支持プレートPによって支持されており、その上面が図の右方向へと移動している。キャリヤシート22上に供給された発泡性スラリーSは、キャリヤシート22とともに移動しながらブレード24によって薄板状に成形される。
【0031】
〈発泡乾燥工程〉
次いで、薄板状の発泡性スラリーSは、所定条件(例えば温度30℃〜40°、湿度75%〜95%)の恒温・高湿度槽25内を、例えば10分〜20分かけて移動しながら発泡する。続いて、この恒温・高湿度槽25内で発泡したスラリーSは、所定条件(例えば温度50℃〜70℃)の乾燥槽26内を例えば10分〜20分かけて移動し、乾燥される。これにより、スポンジ状のグリーンシートが得られる。
【0032】
〈焼結工程〉
このようにして得られたグリーンシートを脱脂・焼結することにより、薄板状の金属多孔質材を形成する。具体的には、例えば真空中、温度550℃〜650℃、25分〜35分の条件下でグリーンシート中のバインダ(水溶性樹脂結合剤)を除去(脱脂)した後、さらに真空中、温度1200℃〜1300℃、60分〜120分の条件下で焼結する。この金属多孔質材を任意の形状に切断することにより、本発明の金属多孔質板を構成する板部品を製造することができる。このように形成された板部品は、厚さ方向に積層して圧縮することにより、互いに接合することができる。
【0033】
また、表裏面に除去加工が施されていないので、表面の荒れや目詰まりがない。この金属多孔質板10の表面が親水性である場合、他の部分に比較して孔径の小さい高密度部分10bにおける毛管作用が強い。すなわち、高密度部分10bにおける吸水性を利用して、高密度部分10bを液体流路、低密度部分10aを気体流路とすることができる。なお、ステンレス等の金属は一般に親水性であり、焼結後の金属多孔質材は親水性であるが、たとえば大気中300℃で20分間酸化処理を行ったり、シリカ等の親水性材料を塗布したりすることによって、金属多孔質板10の表面に親水性を付与することもできる。
【0034】
なお、金属多孔質板10の表面が撥水性である場合には、液体は孔径の小さい高密度部分10bには進入しにくく、孔径の大きい低密度部分10aに進入しやすいので、低密度部分10aを液体流路、高密度部分10bを気体流路とすることができる。
【0035】
この金属多孔質板10を電極部材33に用いた固体高分子型の燃料電池30を、図7に示す。燃料電池30の単セルは、電解質膜31と、この電解質膜31の両面にそれぞれ触媒層32を介在させて積層された空気側の電極部材33および燃料極側の電極部材34を備えている。図示の燃料電池30においては、面方向に密度分布を有する金属多孔質板10を空気極側の電極部材33とし、一様な密度を有する金属多孔質板を燃料極側の電極部材34としているが、燃料極側においても本発明の金属多孔質板10を電極部材としてもよい。
【0036】
金属多孔質板10からなる電極部材33はガス拡散層として機能し、空気極においては、低密度部分10aの空隙12を通じて酸化剤ガスである空気が触媒層32に供給される。空気極側の触媒層32における反応によって生じた生成水は、高密度部分10bの空隙12に毛管現象によって吸い上げられ、電極部材33の内部に拡散して蒸発し、電極部材33から排出される。
【0037】
つまり、電極部材33には、面方向に分散して低密度部分10a、高密度部分10b、および中間密度部分10cが配置されているので、開口径の大きさの違いにより、液体を高密度部分10bに流通させ、液体が吸収されにくい低密度部分10aおよび中間密度部分10cに気体を流通させることができる。
また、目詰まりが生じた場合等、この高密度部分10bにおける生成水の吸収が困難になった場合には、低密度部分10aにおいて空気を流通させるとともに、この低密度部分10aと比較して密度の高い中間密度部分10cにおいて生成水を吸収させることができる。
【0038】
このように金属多孔質板10を燃料電池の空気極におけるガス拡散層として用いる場合、高密度部分10bの空隙率を60%以上70%以上とすることが好ましい。空隙率がこの範囲内にあるとき、毛管現象による水の液面高さ(毛管高さ)、すなわち液体の吸収しやすさが最大となるので、空気極における反応による生成水を効率よく排出することができる。
【0039】
前述した発泡性スラリーSを用いて製造した金属多孔質材における空隙率と毛管高さ(蒸留水)との関係を図8に示す。空隙率が小さすぎると流動抵抗の増大により、また、空隙率が大きすぎると毛管力の不足により、毛管高さが低くなる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の金属多孔質板10によれば、固体高分子型の燃料電池30において空気極の電極部材33として用いられることにより、空気極における生成水を触媒層32近傍から円滑に取り除くことができる。したがって、空気極において円滑に空気(酸化剤ガス)を流通させ、フラッディングの発生を防止し、効率の良い発電が可能な燃料電池を実現できる。
【0041】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
たとえば、前記実施形態では複数の板部品を積層して圧縮するだけでこれらを接合しているが、積層、圧縮後にさらに拡散接合を行ってこれらの板部品同士をより強固に接合してもよい。拡散接合は、たとえば真空中、温度700℃〜1300℃、10〜60分の条件下での熱処理により行われる。
【0042】
また前記実施形態では、矩形の基板40に対して帯状の小板41を格子状に積層して圧縮することにより、低密度部分10a、高密度部分10b、および中間密度部分10cが面方向に分散した配置された金属多孔質板10を形成したが、矩形の基板(板部品)44A上に円板状の小板(板部品)44Bを分散して配置してもよい(図9)。この場合、低密度部分44aに対して円板状の高密度部分44bが面方向に分散して配置された金属多孔質板44を形成することができる。
【0043】
また、図10に示すように、複数の円形の穴部45aが形成された矩形の板部品45Aを、矩形の板部品45B上に積層してもよい。この場合、円形の低密度部分45bが高密度部分45cに対して面方向に分散して配置された金属多孔質板45を形成することができる。
【0044】
また、図11(a)に示すように、矩形の板部品46Aを互いに位置をずらして配置することにより、縞状の積層部分46aを形成して圧縮してもよい。この場合、積層状態の板部品46Aを所定の厚さに圧縮することにより、図11(b)に示すように、高密度部分46bと低密度部分46cとが縞状に分散して配置された金属多孔質板46を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の金属多孔質板を示す平面図である。
【図2】本発明の金属多孔質板および板部品の表面を示す拡大図である。
【図3】本発明の金属多孔質板の製造方法において、基板(板部品)に小板(板部品)を積層した状態を示す斜視図である。
【図4】本発明の金属多孔質板を製造する際の圧縮による板厚および空隙率の変化を示す断面模式図である。
【図5】本発明の金属多孔質板を製造する際の圧縮による板厚および空隙率の変化について、図4とは異なる例を示す断面模式図である。
【図6】本発明の金属多孔質板を構成する金属多孔質材の製造方法の一例を示す側面模式図である。
【図7】本発明の金属多孔質板を備える固体高分子型燃料電池を示す断面模式図である。
【図8】本発明の金属多孔質板における空隙率と毛管高さとの関係を示すグラフである。
【図9】本発明の金属多孔質板の他の実施形態を示す平面図である。
【図10】本発明の金属多孔質板のさらに他の実施形態を示す平面図である。
【図11】本発明の金属多孔質板の製造方法に係る他の実施形態による金属多孔質板(板部品)の圧縮前(a)および圧縮後(b)を示す断面図ある。
【符号の説明】
【0046】
10,44,45,46 金属多孔質板
10a,44a,45b 低密度部分
10b,44b,45c,46b 高密度部分
10c 中間密度部分
11 骨格
12 空隙
12a 開口部
20 成形装置
21 ホッパ
22 キャリヤシート
23 ローラ
24 ブレード
25 恒温・高湿度槽
26 乾燥槽
28 凹凸形成ローラ
40,44A 基板(板部品)
41,44B 小板(板部品)
42,43A,43B 板部品
45A,45B,46A 板部品
45a 穴部
46a 積層部分
30 燃料電池
31 電解質膜
32 触媒層
33,34 電極部材
S 発泡性スラリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属焼結体の骨格により辺が構成されてなる複数の多面体状の空隙が相互に連続状態に形成されている金属多孔質板であって、
表裏面の最外面が前記骨格の側面で形成されており、
前記骨格が密集した高密度部分とこの高密度部分よりも前記骨格の密集度が小さい低密度部分とが面方向に分散して配置されているとともに、前記骨格の間に形成される前記空隙による空隙率が前記金属多孔質板全体において50%以上98%以下の範囲内にあることを特徴とする金属多孔質板。
【請求項2】
前記骨格の密集度が前記低密度部分よりも大きく前記高密度部分よりも小さい中間密度部分が、前記面方向に分散して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の金属多孔質板。
【請求項3】
金属焼結体の骨格により辺が構成されてなる複数の多面体状の空隙が相互に連続状態に形成されている金属多孔質板の製造方法であって、
金属粉末と発泡剤とを含有する発泡性スラリーを板状に成形し、発泡させた後に焼結することにより、前記骨格の間に形成される前記空隙による空隙率がそれぞれ60%以上99%以下である金属多孔質材からなる複数枚の板部品を制作し、
これら板部品を部分的に積層して所定厚さとなるまで厚さ方向に圧縮することにより相互に接合するとともに全体において空隙率が50%以上98%以下の範囲内とし、高密度部分と低密度部分とが面方向に分散して配置された金属多孔質板を形成することを特徴とする金属多孔質板の製造方法。
【請求項4】
前記板部品は、所定の形状を有する基板と、この基板よりも小さい小板とを含み、
前記基板上に複数の前記小板を分散して配置した状態で全体を圧縮することにより、前記小板が積層された部分を前記高密度部分とすることを特徴とする請求項3に記載の金属多孔質板の製造方法。
【請求項5】
前記板部品はそれぞれ所定の形状を有し、
これら板部品を互いに位置をずらして部分的に積層するように配置した状態で全体を圧縮することにより、この積層部分を前記高密度部分とすることを特徴とする請求項3に記載の金属多孔質板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−77490(P2010−77490A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246974(P2008−246974)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】