説明

金属張積層体及び熱伝導性ポリイミドフィルム

【課題】熱伝導特性に優れ、接着層を設けなくても金属層と絶縁層との実用的接着強度を有し、更に耐熱性の良好な金属張積層体及び熱伝導性ポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】ポリイミド樹脂層(I)の片面又は両面に金属層を有し、このポリイミド樹脂層(I)は下記一般式(1)で表される構造単位を60モル%以上含有するポリイミド樹脂に熱伝導性フィラーが40〜80wt%の範囲内で含有されたポリイミド樹脂層(i)を有しており、ポリイミド樹脂層(i)の厚みは、ポリイミド樹脂層(I)の全体厚みの70%以上であり、ポリイミド樹脂層(I)全体のガラス転移温度は300℃以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導特性に優れる絶縁層を有し、放熱基板や回路基板に好適に使用される金属張積層体及び熱伝導性ポリイミドフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話に代表される電子機器の小型化、軽量化に対する要求が高まってきており、それに伴い機器の小型化、軽量化に有利なフレキシブル回路基板が電子技術分野において広く使用されるようになってきている。その中でもポリイミド樹脂を絶縁層とするフレキシブル回路基板は、その耐熱性、耐薬品性などが良好なことから従来から広く用いられている。
【0003】
ところで、最近の電子機器の小型化により、回路の集積度は上がってきており、情報処理の高速化とも相まって、機器内に生じる熱の放熱手段が注目されている。
【0004】
また、地球温暖化を始めとする環境問題への意識の高まりにより、環境負荷が低くかつ省エネルギーな製品が強く求められるようになっている。その代表例として、白熱灯に代わりLED照明の急速な普及が挙げられるが、LED照明の性能を充分に発揮させるためには、使用時に発生する熱を効率的に逃がすことが重要となっている。
【0005】
そこで、加工性に富み、放熱性に優れたフレキシブル回路基板を提供するために、絶縁層を構成するポリイミドフィルムに関し、厚み方向の熱伝導率を向上させる検討がなされている(特許文献1)。また、熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性ポリイミドフィルムに関して、シロキサンジアミンから誘導されるポリイミドに熱伝導性フィラーを分散させたポリイミドフィルム複合材料も提案されている(特許文献2)。
【0006】
しかし、上記従来技術のポリイミドフィルムの厚み方向の熱伝導率では、例えばLED照明に使用するには放熱基板としての性能が不足しており、改善の必要があった。また、一般に、銅箔などの金属層に樹脂層を積層して金属張積層体を作製する場合、通常、金属層と樹脂層との間にエポキシ系接着剤や熱可塑性樹脂による接着層を設ける必要がある。この接着層の介在は、金属層(導体層)に生じる熱の放熱をさらに低下させる要因になるばかりでなく、実用的な基板として使用する場合に求められる耐熱性、屈曲性などの諸特性の低下を招く。
【0007】
また、ポリイミド樹脂の熱伝導性を改善するため、熱伝導性フィラーを配合した特定の構造単位を有するポリイミド樹脂層と、このポリイミド樹脂層よりもガラス転移温度が低いポリイミド樹脂層を積層した熱伝導性ポリイミドフィルムが提案されている(特許文献3)。さらに、熱伝導性フィラーとして、平均長径が0.1〜15μmの板状フィラーと、平均粒径が0.05〜10μmの球状フィラーとを所定比率で組み合わせて配合した高熱伝導性ポリイミドフィルムの提案もなされている(特許文献4)。
【0008】
上記特許文献3で提案されたフレキシブル基板用積層体や熱伝導性ポリイミドフィルムは、熱伝導性を有するものであるが、金属層との接着強度を保つために、金属層との間に熱伝導性フィラーを配合していないポリイミド樹脂層を接着層として介在させている。そのため、接着層の厚みに応じて熱伝導性が低下していく懸念があり、その点で改善の余地が残されていた。また、特許文献4に示されているものも、熱伝導性フィラーを含有する樹脂層は本質的に金属層との接着力が十分でないため、これを確保するためには接着層を設けることが必要であった。
【0009】
なお、熱伝導性フィラーを配合した熱伝導性ポリイミド樹脂層の接着性を改善するため、熱伝導性ポリイミド樹脂層を主に熱可塑性樹脂によって形成することも考えられる。しかし、熱可塑性樹脂を主体とする場合、その熱膨張係数が大きいという特性から回路基板用途に求められる寸法安定性が得られなくなる可能性がある。また、熱可塑性樹脂は一般的に耐熱性も低いため、単に熱可塑性樹脂を適用するだけでは十分な耐熱性を確保することができず、高温環境で使用される放熱基板の主樹脂層としての適用には、技術常識に照らして不向きと考えられるため、これまで検討がされていなかった。
【0010】
そこで、接着層を必要とせずに、金属層と絶縁層との間の実用的接着強度を有し、かつ絶縁層の熱伝導性に優れた金属張積層体及び熱伝導性ポリイミドフィルムの提供が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−274040号公報
【特許文献2】特開2006−169533号公報
【特許文献3】国際公開WO 2009/110387
【特許文献4】国際公開WO 2010/027070
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、熱伝導特性に優れ、接着層を設けなくても金属層と絶縁層との実用的接着強度を有し、更に耐熱性も良好な金属張積層体及び熱伝導性ポリイミドフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、金属張積層体のポリイミド樹脂層の少なくとも1層又は熱伝導性ポリイミドフィルムを構成するポリイミド樹脂層の少なくとも1層を、高熱伝導性フィラーを含有するとともに、金属層に対して高い接着性を示す特定のポリイミド樹脂により形成することで上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の金属張積層体は、単層又は複数層から構成されるポリイミド樹脂層(I)と、
前記ポリイミド樹脂層(I)の片面又は両面に設けられた金属層と、
を備えた金属張積層体であって、
前記ポリイミド樹脂層(I)は、その全体の厚みの70%以上の厚みを有するポリイミド樹脂層(i)を有しており、かつ、前記ポリイミド樹脂層(I)全体のガラス転移温度が300℃以上であり、
前記ポリイミド樹脂層(i)が、下記一般式(1)で表される構造単位を60モル%以上含有するポリイミド樹脂によって構成されるとともに、熱伝導性フィラーを40〜80vol%の範囲内で含有するものであることを特徴とする[一般式(1)中、Ar1は芳香環を1個以上有する4価の有機基である。]。
【0015】
【化1】

【0016】
また、本発明の熱伝導性ポリイミドフィルムは、単層又は複数層から構成される熱伝導性ポリイミドフィルムであって、
前記熱伝導性ポリイミドフィルムの全体の厚みの70%以上の厚みを有するポリイミド樹脂層(i)を有しており、かつ、前記熱伝導性ポリイミドフィルム全体のガラス転移温度が300℃以上であり、
前記ポリイミド樹脂層(i)が、下記一般式(1)で表される構造単位を60モル%以上含有するポリイミド樹脂によって構成されるとともに、熱伝導性フィラーを40〜80vol%の範囲内で含有するものであることを特徴とする[一般式(1)中、Ar1は芳香環を1個以上有する4価の有機基である。]。
【0017】
【化2】

【0018】
本発明の好ましい実施の態様を次に示す。
1) ポリイミド樹脂層(i)の少なくとも一方の面が金属層と直接接している上記の金属張積層体。
2) 片面又は両面に金属層と直接張り合わされる粘着性貼着面を備えている上記の熱伝導性ポリイミドフィルム。
3) 熱伝導性フィラーがシリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素及びマグネシアから選ばれる少なくとも1種類以上のフィラーであり、平均粒子径が0.01〜25μmの範囲にある上記の金属張積層体又は上記の熱伝導性ポリイミドフィルム。
4) ポリイミド樹脂層(I)の熱伝導率が1.0W/mK以上であり、ポリイミド樹脂層(I)と金属層とのピール強度が0.5kN/m以上である上記の金属張積層体。
5) 熱伝導率が1.0W/mK以上である上記の熱伝導性ポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0019】
本発明の金属張積層体及び熱伝導性ポリイミドフィルムは、上記一般式(1)で表される構造単位を60モル%以上含有するポリイミド樹脂によって構成されるとともに熱伝導性フィラーを40〜80vol%の範囲内で含有するポリイミド樹脂層(i)が、ポリイミド樹脂層(I)又は熱伝導性ポリイミドフィルムの全体の厚みの70%以上の厚みで存在し、かつ、ポリイミド樹脂層(I)又は熱伝導性ポリイミドフィルムの全体のガラス転移温度が300℃以上であるため、熱伝導性と金属層への接着性に優れているとともに、十分な耐熱性を有する。従って、本発明の金属張積層体及び熱伝導性ポリイミドフィルムは、良好な放熱性が求められる電子機器、照明機器などの基板材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、本発明の第1の実施の形態として、金属張積層体について説明し、次に、本発明の第2の実施の形態として熱伝導性ポリイミドフィルムについて説明する。
【0021】
[第1の実施の形態]
金属張積層体:
本実施の形態の金属張積層体は、単層又は複数層からなるポリイミド樹脂層(I)と、このポリイミド樹脂層(I)の片面又は両面に設けられた金属層と、を備えている。以下、ポリイミド樹脂層(I)、金属層、金属張積層体の積層構造、金属張積層体の製造例及び金属張積層体の物性(ピール強度)の順に説明する。
【0022】
[ポリイミド樹脂層(I)]
ポリイミド樹脂層(I)は、単一の層のみからなるものであっても、複数層からなるものであってもよいが、少なくとも、上記一般式(1)で表される構造単位を60モル%以上含有するポリイミド樹脂によって構成され、かつ熱伝導性フィラーを40〜80vol%の範囲内で含有するポリイミド樹脂層(i)を有している。
【0023】
<ポリイミド樹脂層(i)>
(構成樹脂)
ポリイミド樹脂層(i)を構成するポリイミド樹脂は、一般式(1)で表される構造単位を60モル%以上含有することが必要であり、80モル%以上含有することが好ましい。一般式(1)で表される構造単位の含有量が60モル%未満であると、耐熱性、引裂き伝播抵抗及び金属層への接着性が低下する。
【0024】
一般式(1)中、Ar1は芳香環を1個以上有する4価の有機基である。Ar1は、ポリイミド原料である芳香族テトラカルボン酸の残基と見ることができるので、芳香族テトラカルボン酸の具体例を示すことにより、Ar1が理解される。
【0025】
芳香族テトラカルボン酸の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3'',4,4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3'',4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ペリレン-2,3,8,9-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-4,5,10,11-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-5,6,11,12-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1, 2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,9,10-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4'-オキシジフタル酸二無水物などが挙げられる。これらの中でも、ポリイミド樹脂に耐熱性、寸法安定性を付与する観点から、ピロメリット酸二無水物(PMDA)が好ましく、これを全酸無水物成分に対して60モル%以上、特には80モル%以上の割合で用いることが好ましい。
【0026】
また、一般式(1)で表される構造単位の原料となるジアミンとしては、2,2-ビス[4−(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)を用いることができる。ジアミンとしてBAPPを用いることで、ポリイミド樹脂層(i)に優れた接着性を付与することができる。また、全ジアミン成分に対して60モル%以上のBAPPと、全酸無水物成分に対して60モル%以上のピロメリット酸二無水物(PMDA)とを組み合わせて用いることによって、ポリイミド樹脂層(i)、さらには、これを含むポリイミド樹脂層(I)のガラス転移温度Tgを高くすることが可能であり、耐熱性を向上させることができる。
【0027】
ポリイミド樹脂層(i)中に含まれる、一般式(1)で表される構造単位以外の構造単位としては、ポリイミド原料である芳香族テトラカルボン酸の残基と芳香族ジアミンの残基とに分けて説明すると、芳香族テトラカルボン酸の残基としては、上記Ar1で説明したものと同様な芳香族テトラカルボン酸の残基を挙げることができる。
【0028】
芳香族ジアミンの残基としては、次に示すような芳香族ジアミンの残基を挙げることができる。すなわち、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレジアミン、2,4-ジアミノメシチレン、4,4'-メチレンジ-o-トルイジン、4,4'-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4'-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、2,4-トルエンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルプロパン、3,3'-ジアミノジフェニルプロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエタン、3,3'-ジアミノジフェニルエタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメトキシベンジジン、4,4'-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3'-ジアミノ-p-テルフェニル、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,7-ジアミノジベンゾフラン、1,5-ジアミノフルオレン、ジベンゾ-p-ジオキシン-2,7-ジアミン、4,4'-ジアミノベンジルなどが挙げられる。
【0029】
ポリイミド樹脂層(i)を構成するポリイミド樹脂を合成する場合、ジアミン、酸無水物はそれぞれ1種のみを使用してもよく、2種以上を併用することもできる。
【0030】
本発明では、ポリイミド樹脂層(i)に熱伝導性フィラーを含有するため、ポリイミド樹脂の優れた耐熱性や寸法安定性を維持しながら、その機械的強度を保持させる必要がある。そのような観点から、上記他のジアミンとしては、一般式(1)で表わされる構造単位を与えるジアミンより剛直な構造を有する芳香族ジアミンが適する。有利には、ジアミン成分に、例えば1,4-フェニレンジアミン、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、2,7-ジアミノフルオレン、3,7-ジアミノジベンゾフラン、3,8-ジアミノジベンゾピラノンから選択される少なくとも1種のジアミンを他のジアミンとして併用することがよい。他のジアミンの使用割合は0〜40モル%の範囲内が好ましく、0〜20モル%の範囲内が好ましい。
【0031】
(熱伝導フィラー)
ポリイミド樹脂層(i)中の熱伝導性フィラーの含有割合は、40〜80vol%の範囲内であることが必要であり、45〜70vol%の範囲内が好ましい。熱伝導性フィラーの含有割合が40vol%に満たないと、回路基板等の電子部品とした際の放熱特性が十分でなく、80vol%を超えると耐折性や耐屈曲性の低下が顕著となり、また、ポリイミド樹脂層の強度も低下する。熱伝導性フィラーとしては、高熱伝導性のフィラーが好ましく、具体的には、例えばアルミニウム、銅、ニッケル、シリカ、ダイヤモンド、アルミナ、マグネシア、ベリリア、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。これらの中でも、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素及びマグネシアから選ばれる少なくとも1種類のフィラーが好ましい。ポリイミド樹脂層は絶縁層として作用するので、その観点からはポリイミド樹脂層に配合されるフィラーは絶縁性であるものが適する。フィラー形状は、特に制限されるものではなく、例えば板状(燐片状を含む)、球状、針状、棒状のいずれでも良い。また、熱伝導性フィラーの含有量を高め、熱伝導性などの特性とのバランスを考慮すると異なる形状(例えば、板状と球状、板状と針状など)のフィラーを併用することも好ましい。
【0032】
熱伝導性フィラーの粒子サイズは、ポリイミド樹脂層(i)の厚み方向にフィラーを均一に分散させて熱伝導性を向上させる観点から、例えば、平均粒子径が0.01〜25μmの範囲内にあることが好ましく、1〜8μmの範囲内にあることがより好ましい。熱伝導性フィラーの平均粒子径が0.01μmに満たないと、個々のフィラー内部での熱伝導が小さくなり、結果としてポリイミド樹脂層(i)の熱伝導率が向上しないばかりでなく、粒子同士が凝集を起こしやすくなり、均一に分散させることが困難となる恐れがある。一方、25μmを超えると、ポリイミド樹脂層(i)への充填率が低下し、かつフィラー界面においてポリイミド樹脂層(i)が脆くなる傾向にある。
【0033】
なお、熱伝導フィラーとして、板状フィラーを用いる場合、本発明では、その粒子サイズは平均長径DLで表される。板状フィラーを用いる場合、平均長径DLの好ましい範囲は、例えば0.1〜15μmの範囲内であり、特に好ましくは0.5〜10μmの範囲内である。板状フィラーとしては窒化ホウ素が好ましく使用される。平均長径DLが0.1μmに満たないと、熱伝導率が低く、熱膨張係数が大きくなり、形状を板状とすることの効果が小さくなってしまう。一方、平均長径DLが15μmを超えると製膜時に配向させることが困難となる。ここで、平均長径DLとは板状フィラーの長手直径の平均値を意味する。平均径はメディアン径を意味し、モード径は上記範囲内で1つのピークであることがよく、これは球状フィラーについても同様である。
【0034】
<ポリイミド樹脂層(ii)>
ポリイミド樹脂層(I)中には、任意の層として、ポリイミド樹脂層(i)以外のポリイミド樹脂層(ii)を含むことができる。この場合、ポリイミド樹脂層(ii)は、1層に限らず、2層以上であってもよい。ポリイミド樹脂層(ii)を構成するポリイミド樹脂は、ポリイミド樹脂層(I)の熱伝導率をはじめとする物性を損なわない限り、特に限定されるものではなく、例えば、一般式(1)で表される構造単位以外の構造単位のポリイミド樹脂について例示した上記芳香族テトラカルボン酸及び芳香族ジアミンを原料にして製造できる。
【0035】
<ポリイミド樹脂層の厚み>
ポリイミド樹脂層(I)の全体厚みに対するポリイミド樹脂層(i)の厚みは70%以上であることが必要であり、80〜100%の範囲内が好ましい。ポリイミド樹脂層(I)の高熱伝導率化の観点からは100%(つまり、ポリイミド樹脂層(I)の全体がポリイミド樹脂層(i)により構成されていること)が好ましい。ポリイミド樹脂層(i)の厚みが70%未満であると、放熱性が十分でないばかりでなく、例えば、回路基板として使用する場合に寸法安定性が十分でなく、耐熱性も低いものとなる。また、ポリイミド樹脂層(I)の全体の厚みは、例えば10〜50μmの範囲内が好ましく、15〜40μmの範囲内がより好ましい。ポリイミド樹脂層(I)の厚みが10μmに満たないと、脆く破れ易くなり、一方で50μmを超えると耐折性や耐屈曲性が低下する傾向にある。
【0036】
<ポリイミド樹脂層(I)の物性>
次に、ポリイミド樹脂層(I)の物性について、ガラス転移温度、熱伝導率及び引裂き伝播抵抗を挙げて説明する。
【0037】
(ガラス転移温度)
ポリイミド樹脂層(I)は、その全体のガラス転移温度(Tg)が300℃以上であることが好ましく、Tgが310〜350℃の範囲内にあることがより好ましい。ポリイミド樹脂層(I)の全体のTgが300℃以上であることにより、金属張積層体に十分な耐熱性を付与できる。このように高いTgは、ポリイミド樹脂層(i)を構成するポリイミド樹脂に、一般式(1)で表される構造単位を60モル%以上含有させるとともに、ポリイミド樹脂層(i)の厚みを、ポリイミド樹脂層(I)の全体厚みの70%以上とすることによって実現できる。
【0038】
(熱伝導率)
ポリイミド樹脂層(I)は、その全体の熱伝導率が1.0W/mK以上であることが好ましく、1.2〜3.0W/mK以上であることがより好ましい。ポリイミド樹脂層(I)の全体の熱伝導率が1.0W/mK以上であることにより、金属張積層体の放熱特性が優れたものとなり、高温環境で使用される回路基板等への適用が可能になる。このように優れた熱伝導率は、ポリイミド樹脂層(i)への熱伝導性フィラーの添加量を40vol%以上にするとともに、ポリイミド樹脂層(i)の厚みを、ポリイミド樹脂層(I)の全体厚みの70%以上とすることによって実現できる。ポリイミド樹脂層(i)への熱伝導性フィラーの添加量が40vol%未満である場合、及び/又は、ポリイミド樹脂層(i)の厚みがポリイミド樹脂層(I)の全体厚みの70%未満である場合には、熱伝導率が1.0W/mK未満となり放熱特性が低下する。本実施の形態の金属張積層体では、特に、ポリイミド樹脂層(I)の厚みに占めるポリイミド樹脂層(i)の厚みの割合を100%とし、接着層を介在させないことによって、高い熱伝導率を得ることができる。なお、本明細書において、特に断りがない限り、熱伝導率は、層の厚み方向の熱伝導率(λzTC)を意味する。
【0039】
(引裂き伝播抵抗)
ポリイミド樹脂層(I)は、引裂き伝播抵抗が0.7〜1.0kN/mの範囲内にあることが好ましい。ポリイミド樹脂層(I)の引裂き伝播抵抗が0.7kN/mに満たないと回路基板にする際の加工時に樹脂が裂けたり、割れを生じる恐れがある。ポリイミド樹脂層(I)の引裂き伝播抵抗が1.0kN/mを超えるとポリイミド樹脂層(I)の熱膨張係数が大きくなり、寸法安定性が悪化する傾向にある。ポリイミド樹脂層(I)の引裂き伝播抵抗を0.7〜1.0kN/mの範囲内にするためには、ポリイミド樹脂層(i)における熱伝導性フィラーの種類や含有量を上記した適正範囲するとともに、一般式(1)で表される構造単位を60モル%以上含有させることがよい。
【0040】
なお、ポリイミド樹脂層(I)、(i)、(ii)中には、上記物性を損なわない限りにおいて、例えば加工助剤、抗酸化剤、光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、分散剤、沈降防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、熱伝導性以外の有機もしくは無機フィラーなどの任意成分を含むことができる。また、ポリイミド樹脂層(I)は、ポリイミド樹脂層(i)以外のポリイミド樹脂層(ii)に、熱伝導性フィラーを含有していてもよい。
【0041】
[金属層]
本実施の形態の金属張積層体において導体層となる金属層としては、例えば銅、アルミニウム、鉄、銀、パラジウム、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、亜鉛及びそれらの合金等の導電性金属箔を挙げることができ、これらの中でも銅箔又は銅を90%以上含む合金銅箔が好ましく用いられる。金属層の好ましい厚み範囲は、金属張積層体の用途によって異なり、例えば金属層が放熱基板のベース基板となる場合には、100μm〜3mmの範囲内が好ましい。また、フレキシブル回路基板として用いる場合には、例えば5〜75μmの範囲内が好ましく、8〜35μmの範囲内がより好ましい。
【0042】
[金属張積層体の積層構造]
本実施の形態の金属張積層体は、単層又は複数層からなるポリイミド樹脂層(I)と、このポリイミド樹脂層(I)の片面又は両面に設けられた金属層と、を備え、ポリイミド樹脂層(i)の厚みをポリイミド樹脂層(I)の全体厚みの70%以上とするものである。金属張積層体を構成するポリイミド樹脂層(I)中には、2層以上のポリイミド樹脂層(i)を設けてもよい。ただし、層を増やすことは工程数の増加につながるため、ポリイミド樹脂層(I)中に、1層のポリイミド樹脂層(i)を設けることが好ましい。この場合、ポリイミド樹脂層(I)の全体をポリイミド樹脂層(i)により形成することがより好ましい。すなわち、金属張積層体は、ポリイミド樹脂層(I)としてのポリイミド樹脂層(i)の片面又は両面に金属層を設けた積層構造であることによって、最も優れた熱伝導性が得られる。
【0043】
また、ポリイミド樹脂層(I)中のポリイミド樹脂層(i)の少なくとも一方の面が金属層と直接接するように金属層を配することが好ましい。ポリイミド樹脂層(I)の両面に金属層を設ける場合は、ポリイミド樹脂層(i)の両側に直接金属層を配してもよく、また、ポリイミド樹脂層(i)の片側に金属層を配し、もう片側に別のポリイミド樹脂層(ii)を設けてもよい。
【0044】
[金属張積層体の製造例]
上記ポリイミド樹脂層(i)は、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸溶液を、適当な支持体上に直接塗布し、乾燥及び硬化させることによって形成することができる。この場合、ポリイミド樹脂層(i)の上に、さらに同様の方法で、ポリイミド樹脂層(ii)を積層形成してもよい。ここで、支持体として放熱基板や回路基板の導体層となる上記した銅箔等の金属箔を用いれば、金属層と、少なくともポリイミド樹脂層(i)を有するポリイミド樹脂層(I)と、を備えた金属張積層体とすることができる。
【0045】
支持体へのポリアミド酸溶液の塗布は、公知の方法で行うことができ、例えば、バーコード方式、グラビアコート方式、ロールコート方式、ダイコート方式等から適宜選択して採用することができる。
【0046】
本発明をよりわかりやすく説明するために、ポリイミド樹脂層(I)の片面に金属層を有する金属張積層体の製造例を示す。ここでは、ポリイミド樹脂層(I)が、1層のポリイミド樹脂層(i)のみにより構成される場合を例に挙げて説明する。まず、金属張積層体の金属層を構成する銅箔などの金属箔を準備する。この金属箔上に熱伝導性フィラー入りのポリイミド樹脂層(i)を形成するためのポリアミド酸溶液を塗布し、例えば140℃以下の温度で乾燥し一定量の溶媒を除去する。その後、更に高温で熱処理してポリアミド酸をイミド化し、ポリイミド樹脂層(I)の片面に金属層を有する金属張積層体とする。ここで、イミド化のための熱処理は、例えば130〜360℃の範囲内の加熱温度で、段階的に15〜60分程度の時間をかけて行うことが好ましい。
【0047】
また、上記熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸溶液の調製は、例えば、予め重合して得られた溶媒を含むポリアミド酸溶液に熱伝導性フィラーを一定量添加し、攪拌装置などで分散させることで調製する方法や、溶媒中に熱伝導性フィラーを分散させながらジアミンと酸無水物を添加して重合を行い調製する方法が挙げられる。ここで、ポリアミド酸は、芳香族ジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸二無水物成分とを実質的に等モル使用し、溶媒中で重合する公知の方法によって製造することができる。すなわち、例えば窒素気流下でN,N−ジメチルアセトアミドなどの溶媒に上記芳香族ジアミン成分を溶解させた後、芳香族テトラカルボン酸二無水物を加えて、室温で3時間程度反応させることによりポリアミド酸が得られる。ポリイミド樹脂層(i)を形成する目的に適したポリアミド酸の好ましい重合度は、その粘度範囲で表したとき、例えば溶液粘度が5〜2,000Pの範囲内であることが好ましく、200〜300Pの範囲内がより好ましい。上記粘度範囲であれば、熱伝導性フィラーを配合しても均一な分散状態に保つことができる。溶液粘度の測定は、恒温水槽付のコーンプレート式粘度計によって行うことができる。なお、上記溶媒には、N,N−ジメチルアセトアミドの他、n-メチルピロリジノン、2-ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、これらを1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。
【0048】
[金属張積層体の物性(ピール強度)]
本実施の形態の金属張積層体において、ポリイミド樹脂層(I)と金属層とのピール強度は、例えば0.5kN/m以上であることが好ましく、0.7〜1.8kN/mの範囲内であることがより好ましい。このような高いピール強度は、ポリイミド樹脂層(i)中に含まれる一般式(1)で表される構造単位の比率によって制御できる。ポリイミド樹脂層(i)中に含まれる一般式(1)で表される構造単位が60モル%未満であると金属層とのピール強度が0.5kN/m未満となって金属層との密着力が不足する。また、ポリイミド樹脂層(i)が破れやすくなるため、うまく加工できないなどの諸問題が発生しやすくなる。
【0049】
以上のように、本実施の形態の金属張積層体では、熱伝導性フィラーの種類や含有量を適正範囲にし、また、使用するポリイミド原料を選択するとともに、ポリイミド樹脂層(I)におけるポリイミド樹脂層(i)の厚み比率を適正な範囲に設定している。これによって、接着層を介在させなくても金属層とポリイミド樹脂層(I)との実用的接着強度を有しており、ポリイミド樹脂層(I)全体のガラス転移温度が300℃以上で十分な耐熱性を有し、かつ熱伝導性に優れた金属張積層体が得られる。したがって、本実施の形態の金属張積層体は、例えば放熱基板や回路基板等の用途で使用するために適したものである。
【0050】
[第2の実施の形態]
熱伝導性ポリイミドフィルム:
本実施の形態の熱伝導性ポリイミドフィルムは、単層又は複数層から構成され、熱伝導性ポリイミドフィルムの全体の厚みの70%以上の厚みを有するポリイミド樹脂層(i)を有しており、かつ、熱伝導性ポリイミドフィルム全体のガラス転移温度が300℃以上である。ここで、ポリイミド樹脂層(i)は、第1の実施の形態におけるポリイミド樹脂層(i)と同様の構成である。すなわち、本実施の形態のポリイミド樹脂層(i)は、上記一般式(1)で表される構造単位を60モル%以上(好ましくは80モル%以上)含有するポリイミド樹脂によって構成されるとともに、熱伝導性フィラーを40〜80vol%(好ましくは45〜70vol%)の範囲内で含有するものである。本実施の形態のポリイミド樹脂層(i)を構成する樹脂や熱伝導性フィラーは、第1の実施の形態で説明したものを使用できる。
【0051】
また、本実施の形態の熱伝導性ポリイミドフィルムは、その全体がポリイミド樹脂層(i)によって構成されていてもよいし、ポリイミド樹脂層(i)以外に、第1の実施の形態と同様のポリイミド樹脂層(ii)を備えていてもよい。
【0052】
また、本実施の形態の熱伝導性ポリイミドフィルムは、その全体の熱伝導率が1.0W/mK以上であることが好ましく、1.2〜3.0W/mK以上であることがより好ましい。さらに、熱伝導性ポリイミドフィルムは、引裂き伝播抵抗が4〜30mNの範囲内にあることが好ましい。このように、本実施の形態の熱伝導性ポリイミドフィルムは、金属層と張り合わされていない点を除き、上記第1の実施の形態で説明したポリイミド樹脂層(I)と同様の構造及び物性を有している。そして、熱伝導性ポリイミドフィルムは、第1の実施の形態の金属張積層体におけるポリイミド樹脂層(I)と同様にして製造できる。
【0053】
本実施の形態の熱伝導性ポリイミドフィルムは、金属層に対して実用的接着強度を有しており、ガラス転移温度が300℃以上で十分な耐熱性を有し、かつ熱伝導性に優れている。この熱伝導性ポリイミドフィルムは、接着層を介在させなくても、金属層と張り合わせることができる。つまり、熱伝導性ポリイミドフィルムは、その片面又は両面に、接着層を必要とせずに金属層と直接張り合わせることが可能な粘着性貼着面を備えている。したがって、本実施の形態の熱伝導性ポリイミドフィルムは、例えば放熱基板や回路基板等の用途で金属層に積層して使用するために適したフィルムである。
【0054】
本実施の形態の熱伝導性ポリイミドフィルムの他の構成及び効果は、第1の実施の形態の金属張積層体におけるポリイミド樹脂層(I)と同様であるため説明を省略する。
【実施例】
【0055】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0056】
本実施例に用いた略号は以下の化合物を示す。
m−TB:2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル
TPE−R:1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン
BAPP:2,2-ビス[4−(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸
DSDA:3,3’4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
【0057】
また、実施例において評価した各特性については、下記評価方法に従った。
【0058】
[粘度の測定]
ポリアミド酸溶液の粘度は、恒温水槽付のコーンプレート式粘度計(トキメック社製)にて、25℃で測定した。
【0059】
[銅箔引剥し強度(ピール強度)]
積層体の銅箔層を幅1.0mm、長さ180mmの長矩形にパターンエッチングし、そのパターンが中央になるように、幅20mm、長さ200mmに試験片を切り抜き、IPC−TM−650.2.4.19(東洋精機製)により180°引剥し試験を行った。
【0060】
[厚み方向熱伝導率(λzTC)]
ポリイミドフィルムを30mm×30mmのサイズに切り出し、周期加熱法による厚み方向の熱拡散率(アルバック理工製FTC−1装置)、DSCによる比熱、水中置換法による密度をそれぞれ測定し、これらの結果をもとに熱伝導率(W/m・K)を算出した。
【0061】
[熱膨張係数(CTE)]
3mm×15mmのサイズのポリイミドフィルムを、熱機械分析(TMA)装置(セイコーインスツル社製)にて5gの荷重を加えながら一定の昇温速度(20℃/min)で30℃から260℃の温度範囲で引張り試験を行い、温度に対するポリイミドフィルムの伸び量から熱膨張係数(ppm/K)を測定した。
【0062】
[ガラス転移温度(Tg)]
ポリイミドフィルム(10mm×22.6mm)を動的熱器械分析装置(ティー・エイ・インスツルメント社製)にて20℃から500℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性を測定し、ガラス転移温度(tanδ極大値:℃)を求めた。
【0063】
[引裂き伝播抵抗(伝播抵抗)]
63.5mm×50mmのポリイミドフィルムを試験片とし、試験片に長さ12.7mmの切り込みを入れ、東洋精機製の軽荷重引裂き試験機を用い測定した。
【0064】
合成例1
ポリアミド酸Aを合成するため、攪拌装置を備えた500mlセパラブルフラスコ中の255gのDMAcに、28.9gのBAPPを窒素気流下で攪拌しながら加えて溶解させた後、攪拌を維持したまま、1.07gのBPDAと15.03gのPMDAを加えた。その後、室温で3.5時間攪拌を続けて重合反応を行い、ポリイミド前駆体となるポリアミド酸Aの粘稠な溶液を得た。
【0065】
合成例2
ポリアミド酸Bを合成するため、攪拌装置を備えた500mlセパラブルフラスコ中の255gのDMAcに、19.11gのm−TBと2.92gのTPE−Rを窒素気流下で攪拌しながら加えて溶解させた後、攪拌を維持したまま、5.79gのBPDAと17.17gのPMDAを加えた。その後、室温で3.5時間攪拌を続けて重合反応を行い、ポリイミド前駆体となるポリアミド酸Bの粘稠な溶液を得た。
【0066】
合成例3
ポリアミド酸Cを合成するため、攪拌装置を備えた500mlセパラブルフラスコ中の255gのDMAcに、22.25gのTPE−Rを窒素気流下で攪拌しながら加えて溶解させた後、攪拌を維持したまま、16.18gのDSDAと6.57gのPMDAを加えた。その後、室温で3.5時間攪拌を続けて重合反応を行い、ポリイミド前駆体となるポリアミド酸Cの粘稠な溶液を得た。
【0067】
上記各合成例によって得られたポリアミド酸の粘度とこれらポリアミド酸から得られたポリイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
実施例1
合成例1にて得られたポリアミド酸Aの溶液に平均粒子径1.1μmの球状窒化アルミニウムフィラーを添加し、均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを50vol%含有するポリアミド酸溶液イとした。次に、厚み18μmの銅箔(圧延銅箔、Rz=0.7μm)上に、ポリアミド酸溶液イを硬化後の厚みが25μmとなるように塗布し、120℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、130〜360℃の温度範囲で、段階的に30分かけて昇温加熱して、金属張積層体M1を作製した。なお、このときの銅箔上のポリイミド樹脂層の厚みは25μmであった。金属張積層体M1におけるポリイミド樹脂層の特性を評価するために銅箔をエッチング除去してポリイミドフィルムm1を作製し、CTE、熱伝導率、引裂き伝播抵抗をそれぞれ評価した。また、金属張積層体M1のポリイミド樹脂層と銅箔とのピール強度を評価した。結果を表2に示す。
【0070】
実施例2
合成例1にて得られたポリアミド酸樹脂Aに平均粒径1.1μmの球状窒化アルミニウムフィラーと平均長径2.2μmの板状窒化ホウ素フィラーを添加し、均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを55vol%(球状窒化アルミニウムフィラー:板状窒化ホウ素フィラー=9:1)含有するポリアミド酸溶液ロとした。その後は実施例1と同様にして、金属張積層体M2を作製した。なお、このときの銅箔上のポリイミド樹脂層の厚みは25μmであった。金属張積層体におけるポリイミド樹脂層の特性を評価するために銅箔をエッチング除去してポリイミドフィルムm2を作製し、CTE、熱伝導率、引裂き伝播抵抗をそれぞれ評価した。また、金属張積層体のポリイミド樹脂層と銅箔とのピール強度を評価した。結果を表2に示す。
【0071】
実施例3
合成例1にて得られたポリアミド酸樹脂Aの溶液に平均粒径1.1μmの球状窒化アルミニウムフィラーを添加し、均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを50vol%含有するポリアミド酸溶液ハとした。また、合成例1にて得られたポリアミド酸樹脂Aに平均粒径1.1μmの球状窒化アルミニウムフィラーを添加し、均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを20vol%含有するポリアミド酸溶液ニとした。次に、厚み18μmの銅箔(圧延銅箔、Rz=0.7μm)上に、ポリアミド酸樹脂ハの溶液を硬化後の厚みが20μmとなるように塗布し、120〜140℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。次に、その上にポリアミド酸樹脂ニの溶液を硬化後の厚みが5μmとなるように塗布し、120℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、130〜360℃の温度範囲で、段階的に30分かけて昇温加熱して、銅箔上に2層のポリイミド樹脂層からなる金属張積層体M3を作製した。なお、銅箔上のポリイミド樹脂層の厚みは、銅箔側から塗布されたポリアミド酸溶液ハ/ニの順に20μm/5μmであった。金属張積層体におけるポリイミド樹脂層の特性を評価するために銅箔をエッチング除去してポリイミドフィルムm3を作製し、CTE、熱伝導率、引裂き伝播抵抗をそれぞれ評価した。また、金属張積層体のポリイミド樹脂層と銅箔とのピール強度を評価した。結果を表2に示す。
【0072】
実施例4
実施例3と全く同様にして、銅箔上に2層のポリイミド樹脂層からなる金属張積層体M3を作製した。次に、金属張積層体の樹脂面に厚み18μmの銅箔(圧延銅箔、Rz=0.7μm)をバッチプレスにて温度385℃で積層し、両面金属張積層体M3’を作製した。両面金属張積層体におけるポリイミド樹脂層の特性を評価するために銅箔をエッチング除去してポリイミドフィルムm3’を作製し、CTE、熱伝導率、引裂き伝播抵抗をそれぞれ評価した。また、両面金属張積層体のポリイミド樹脂層と銅箔とのピール強度をそれぞれ評価した。結果を表2に示す。
【0073】
実施例5
合成例1にて得られたポリアミド酸樹脂Aに平均粒径1.5μmの球状アルミナフィラーを添加し、均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを50vol%含有するポリアミド酸溶液ホとした。その後は実施例1と同様にして、金属張積層体M4を作製した。なお、このときの銅箔上のポリイミド樹脂層の厚みは25μmであった。金属張積層体におけるポリイミド樹脂層の特性を評価するために銅箔をエッチング除去してポリイミドフィルムm4を作製し、CTE、熱伝導率、引裂き伝播抵抗をそれぞれ評価した。また、金属張積層体のポリイミド樹脂層と銅箔とのピール強度を評価した。結果を表2に示す。
【0074】
実施例6
合成例1にて得られたポリアミド酸樹脂Aに平均粒径1.5μmの球状アルミナフィラーと平均長径2.2μmの板状窒化ホウ素フィラーを添加し、均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを55vol%(球状アルミナフィラー:板状窒化ホウ素フィラー=9:1)含有するポリアミド酸溶液ヘとした。その後は実施例1と同様にして、金属張積層体M5を作製した。なお、このときの銅箔上のポリイミド樹脂層の厚みは25μmであった。金属張積層体におけるポリイミド樹脂層の特性を評価するために銅箔をエッチング除去してポリイミドフィルムm5を作製し、CTE、熱伝導率、引裂き伝播抵抗、をそれぞれ評価した。また、金属張積層体のポリイミド樹脂層と銅箔とのピール強度を評価した。結果を表2に示す。
【0075】
比較例1
合成例1にて得られたポリアミド酸樹脂Aに平均粒径1.1μmの球状窒化アルミニウムフィラーを添加し、均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを30vol%含有するポリアミド酸溶液トとした。その後は実施例1と同様にして、金属張積層体M6を作製した。なお、このときの銅箔上のポリイミド樹脂層の厚みは25μmであった。金属張積層体におけるポリイミド樹脂層の特性を評価するために銅箔をエッチング除去してポリイミドフィルムm6を作製し、CTE、熱伝導率、引裂き伝播抵抗をそれぞれ評価した。また、金属張積層体のポリイミド樹脂層と銅箔とのピール強度を評価した。結果を表2に示す。
【0076】
比較例2
合成例1にて得られたポリアミド酸樹脂Aに平均粒径1.1μmの球状窒化アルミニウムフィラーを添加し、均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを90vol%含有するポリアミド酸溶液チとした。その後は実施例1と同様にして、金属張積層体M7を作製した。なお、このときの銅箔上のポリイミド樹脂層の厚みは25μmであった。ところが、金属張積層体におけるポリイミド樹脂層の特性を評価するために銅箔をエッチング除去してポリイミドフィルムm7を作製したところ、フィルムが脆いため、CTE、熱伝導率、引裂き伝播抵抗の測定を実施することはできなかった。
【0077】
比較例3
合成例2にて得られたポリアミド酸樹脂Bに平均粒径1.1μmの球状窒化アルミニウムフィラーを添加し、均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを50vol%含有するポリアミド酸溶液リとした。その後は実施例1と同様にして、金属張積層体M8を作製した。なお、このときの銅箔上のポリイミド樹脂層の厚みは25μmであった。金属張積層体におけるポリイミド樹脂層の特性を評価するために銅箔をエッチング除去してポリイミドフィルムm8を作製し、CTE、熱伝導率、引裂き伝播抵抗をそれぞれ評価した。また、金属張積層体のポリイミド樹脂層と銅箔とのピール強度を評価した。結果を表2に示す。
【0078】
比較例4
合成例3にて得られたポリアミド酸樹脂Cに平均粒径1.1μmの球状窒化アルミニウムフィラーを添加し、均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを50vol%含有するポリアミド酸溶液ヌとした。その後は実施例1と同様にして、金属張積層体M9を作製した。なお、このときの銅箔上のポリイミド樹脂層の厚みは25μmであった。金属張積層体におけるポリイミド樹脂層の特性を評価するために銅箔をエッチング除去してポリイミドフィルムm9を作製し、CTE、熱伝導率、引裂き伝播抵抗をそれぞれ評価した。また、金属張積層体のポリイミド樹脂層と銅箔とのピール強度を評価した。結果を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
(実施例・比較例の評価)
表2に示す結果から、実施例1〜6の金属張積層体は、いずれも、厚み方向熱伝導率(λzTC)が1.0(W/mK)以上、ガラス転移温度(Tg)が300℃以上、引裂き伝播抵抗が0.7(kN/m)以上1.0kN/mの範囲内で、かつピール強度が0.5kN/m以上であった。従って、実施例1〜6の金属張積層体は、ポリイミド樹脂層の熱伝導性に優れ、しかも、耐熱性、機械強度及び金属層に対する接着性も良好で、これらの特性をバランスよく備えていた。これは、実施例1〜6の金属張積層体が、上記一般式(1)で表される構造単位を60モル%以上含有し、熱伝導性フィラーを40〜80vol%の範囲内で含有するポリイミド樹脂層を、ポリイミド樹脂層全体の厚みの70%以上の厚みで備えていたためである。
【0081】
それに対して、熱伝導性フィラーの配合量が40vol%を下回る比較例1では、引裂き伝播抵抗は大きいものの、厚み方向熱伝導率が十分でなく、また熱膨張係数が大きいことから、回路基板に求められる寸法安定性に劣ることが懸念された。また、熱伝導性フィラーの配合量が80vol%を超える比較例2では、ポリイミド樹脂層が著しく脆弱で諸特性の評価が不能であり、実用性を欠くものであった。さらに、一般式(1)で表される構造単位を含まないポリイミド樹脂を使用した比較例3、4では、熱伝導性は優れていたが、比較例3は引裂伝播抵抗及びピール強度が劣っており、比較例4は耐熱性及び引裂伝播抵抗の点で満足のいく特性が得られなかった。
【0082】
本発明によれば、熱伝導性に優れ、十分な耐熱性と金属層への接着性を有する金属張積層体及び熱伝導性ポリイミドフィルムを提供することができる。本発明の金属張積層体及び熱伝導性ポリイミドフィルムは、良好な放熱性を示し、金属層との接着性にも優れることから、これらの特性が求められる携帯電話や、ノートパソコンなどの小型電子機器、LED照明機器などにおける放熱基板や回路基板等の用途に好適に用いることができる。
【0083】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層又は複数層から構成されるポリイミド樹脂層(I)と、
前記ポリイミド樹脂層(I)の片面又は両面に設けられた金属層と、
を備えた金属張積層体であって、
前記ポリイミド樹脂層(I)は、その全体の厚みの70%以上の厚みを有するポリイミド樹脂層(i)を有しており、かつ、前記ポリイミド樹脂層(I)全体のガラス転移温度が300℃以上であり、
前記ポリイミド樹脂層(i)が、下記一般式(1)で表される構造単位を60モル%以上含有するポリイミド樹脂によって構成されるとともに、熱伝導性フィラーを40〜80vol%の範囲内で含有するものであることを特徴とする金属張積層体。
【化1】

[一般式(1)中、Ar1は芳香環を1個以上有する4価の有機基である。]
【請求項2】
前記ポリイミド樹脂層(i)の少なくとも一方の面が前記金属層と直接接している請求項1に記載の金属張積層体。
【請求項3】
前記熱伝導性フィラーが、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素及びマグネシアからなる群より選ばれる少なくとも1種類以上のフィラーであり、かつ、該フィラーの平均粒子径が0.01〜25μmの範囲内にある請求項1又は請求項2に記載の金属張積層体。
【請求項4】
前記ポリイミド樹脂層(I)の熱伝導率が1.0W/mK以上であり、ポリイミド樹脂層(I)と金属層とのピール強度が0.5kN/m以上である請求項1から3のいずれかに記載の金属張積層体。
【請求項5】
単層又は複数層から構成される熱伝導性ポリイミドフィルムであって、
前記熱伝導性ポリイミドフィルムの全体の厚みの70%以上の厚みを有するポリイミド樹脂層(i)を有しており、かつ、前記熱伝導性ポリイミドフィルム全体のガラス転移温度が300℃以上であり、
前記ポリイミド樹脂層(i)が、下記一般式(1)で表される構造単位を60モル%以上含有するポリイミド樹脂によって構成されるとともに、熱伝導性フィラーを40〜80vol%の範囲内で含有するものであることを特徴とする熱伝導性ポリイミドフィルム。
【化2】

[一般式(1)中、Ar1は芳香環を1個以上有する4価の有機基である。]
【請求項6】
片面又は両面に金属層と直接張り合わされる粘着性貼着面を備えている請求項5に記載の熱伝導性ポリイミドフィルム。
【請求項7】
熱伝導性フィラーがシリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素及びマグネシアから選ばれる少なくとも1種類以上のフィラーであり、平均粒子径が0.01〜25μmの範囲内にある請求項5又は6に記載の熱伝導性ポリイミドフィルム。
【請求項8】
熱伝導率が1.0W/mK以上である請求項5から7のいずれか1項に記載の熱伝導性ポリイミドフィルム。

【公開番号】特開2012−61793(P2012−61793A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209232(P2010−209232)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】