説明

金属微粉末の製造方法

【課題】爆薬の爆轟によって発生した衝撃波(含む圧力)によって金属同士を衝突させることで発生した金属ジェットを利用することにより、金属粉末を製造する方法を提供する。
【解決手段】爆薬を用いて金属体同士を衝突させることで発生した金属ジェットを、冷却された液体に投入する金属微粉末の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子分野を始めとした様々な分野で、機能性の高い金属微粉末の需要が急速に増加している。金属微粉末としては、ニッケル、銅、モリブデン、亜鉛、コバルト、タンタル、タングステン、銀、ニオブ、アルミ等の純金属の微粉末や銅やアルミ等の合金の微粉末、アルミナ等の金属化合物の微粉末が製造されており。その製造方法としては、メカニカル法、化学的気相法、金属細線爆発法等がある。
【0003】
一方、爆薬を利用した爆発加工としては、爆発成形、爆発圧着、爆発圧搾(固化)、爆発合成などがあり、また爆薬と金属を利用することで金属ジェットを生成させることが知られている。従来、金属ジェットは、廃船解体の切断(特許文献1)や、粉体合成のための圧力媒体(特許文献2)として利用されているものの、金属ジェット自体を主原料として金属微粉末を製造した例は知られていない。
【0004】
【特許文献1】特願平3−148944
【特許文献2】特願2001−115420
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の様に、爆薬の爆轟によって発生した衝撃波(含む圧力)を利用するのではなく、衝撃波によって金属同士を衝突させることで発生した金属ジェットを利用することにより、金属粉末を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、金属ジェットを液体窒素等の液体中に直接投入することで、金属微粉末を製造することが可能であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
即ち、本発明の金属微粉末の製造方法は、爆薬を用いて金属体同士を衝突させることで発生した金属ジェットを、冷却された液体に投入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属ジェット自体を主原料として、微細な金属粉末を製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明について、以下具体的に説明する。
【0010】
本発明の金属微粉末の製造方法は、爆薬の力によって一方の金属体を飛翔あるいは変形させて他方の金属体と衝突させることで発生した金属ジェットを、液体に投入するものである。
【0011】
本発明で用いられる爆薬とは爆轟波を発生する火薬類であり、火薬類取締法第1章第2条の2に定義された爆薬である。例えば、通常爆発圧着等に使用される程度の爆速を有する爆薬が用いられ、爆速が1,000m毎秒以上の爆薬を用いることが望ましく、3,000m毎秒以上の爆薬を用いることが更に望ましい。具体的には硝酸エステル類のPETN(ペンタエリスリトールテトラナイトレート)やニトログリセリン、ニトロ化合物のTNT(トリニトロトルエン)、ニトラミンのシクロトリメチレントリニトラミンやシクロテトラメチレンテトラニトラミンなどが挙げられる。爆薬はこれらの単独を用いてもよく、2種以上の混合物を用いても良い。
【0012】
金属板を飛翔させる場合、爆薬の量は、飛翔させる金属板の質量のおよそ0.5倍以上であれば金属板は飛翔し、他の金属体に衝突したとき金属ジェットも発生することが知られている。本発明において、金属板を飛翔させる場合には、金属板の質量と同程度以上の量の爆薬を用いることが望ましい。
【0013】
本発明で用いられる金属体とは、鉄、アルミ、銅、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、マグネシウム、ニオブ、タングステン、タンタル、クロム、銀等の純金属またはそれらの合金、金属化合物からなる部材である。製造する微粉末にあわせた金属材料の組合せが必要であり、製造する微粉末が純金属の場合には金属体同士は同じ金属であることが好ましく、合金または金属化合物の場合には、初めから合金または金属化合物の同じ金属体同士あるいは衝突後に合金あるいは金属化合物になるように異なる金属体を組み合わせることもできる。
【0014】
金属体の形状は特に限定されないが、例えば、金属板と、回転対称な錐形の凹面を有する金属部材との組み合わせが挙げられる。
【0015】
金属板と凹面を有する金属部材の一方は、通常の爆発圧着に用いられる金属板のように、飛翔し得る薄さを持つことが望ましい。また、他方は、大きな質量を有し、又は、大きな質量を有する土台等の上に置かれることが望ましい。例えば、金属板を飛翔するものとし、凹面を有する金属部材は大きな質量を有するブロック部材とすることが実用的である。
【0016】
金属板を飛翔させる時、その厚さは、少なくとも2mmであることが望ましい。2mmよりも薄い場合は飛翔速度が内部圧力によって低下する恐れがある。特に、飛翔させる金属板が箔のように薄い金属板よりなる場合には、例えばその上に爆薬を配するとき、爆薬の質量負荷に耐えることができない。しかし、その場合にも、金属箔を補強板に接着しておき、その補強板で爆薬の質量負荷に耐えるものとすることができる。
【0017】
本発明で用いられる液体としては、金属ジェットと反応できる及び/または金属ジェットを冷却できるものであれば、特に限定されない。好ましくは25℃以下、より好ましくは−100℃以下に冷却された液体である。具体的には、液体ヘリウム、液体窒素、液体酸素、液体水素等の極低温液体、純水等が挙げられる。特に、極低温液体であれば、金属ジョット形成時の超急速昇温と極低温液体による超急速冷却の効果が得られ、より効率的に微粉末を製造できる。また、これらの液体は、金属細線から発生したジェットと反応し、合金あるいは金属化合物を製造する効果も有する。
【0018】
次に、図1を用いて、本発明の具体的な手順の一例を説明する。
【0019】
図1は、本発明を実施するための装置の一例を示す図であり、中心軸を通る断面図である。図1の装置では、爆薬の爆轟と同時に金属板を飛翔させ、その飛翔した金属板が回転対称な錐形の凹面を有する金属部材の凹面と衝突することで金属ジェットを発生し、その金属ジェットを冷却された液体に直接投入し、金属の微細粉末を製造する。
【0020】
図1において、液体5が充填された容器6の上部に、直円錐凹面を有する金属製のブロック部材4が配置され、その上部に円形の金属板3が配置され、金属板3の表面に爆薬2が配置され、爆薬2の中央に雷管1がセットされている。
【0021】
雷管1の起爆によって、爆薬2が爆轟し、その爆轟と同時に金属板3が飛翔し、ブロック部材4の円錐凹面の外周部から円錐凹面の深部へと順次衝突していく。その衝突の際に生成された金属ジェットを、凹面の最深の中央部、即ち最下部となる頂角部に設けた開口部7から液体5に直接投入する。
【0022】
金属ジェットは、液体5と反応し及び/または液体5により冷却され、金属板3を構成する金属成分と、ブロック部材4を構成する金属成分を含有する金属微粉末が得られる。この時、金属板3を構成する金属成分と、ブロック部材4を構成する金属成分が異なる場合には、合金の微粉末が得られ、液体5が金属ジェットと反応する場合には金属化合物の微粉末を得られる。
【0023】
爆薬2は、ブロック部材4の凹面に対して、金属板3を介して、全面を覆って配置することが望ましく、また、ブロック部材4の回転軸上に回転対称に配することが望ましい。
【0024】
金属板3の直径は、ブロック部材4の凹面の開口直径を覆うのに十分な寸法であることが望ましい。
【0025】
ブロック部材4の凹面と金属板3とのなす角(凹面の底角)θは、金属ジェットが発生する角度であれば良く、θ=1°〜40°が好ましく、θ=5〜30°が更に好ましい。また、凹面の開口直径は、50mmの実験室レベルのものから大量のジェットを発生させるための1m程度のものもあり得る。
【0026】
容器6については、材質に特別な制限はなく、金属ジェットの投入時に破壊しない強固なものであれば良く、金属製の容器が好ましい。
【実施例】
【0027】
本発明を実施例に基づいて説明する。
【0028】
[実施例1]
図1に示す装置において、金属板3、ブロック部材4共にチタン製のものを用い、液体5として液体窒素を用い、TiN微粉末を製造した。
【0029】
円形の金属板3(厚さ3mm)を、直円錐凹面を有するブロック部材4(円錐底角θ30°、円錐開口直径5mm)の上に、円形開口部を覆って載せた。この時、金属板3の回転軸線とブロック部材4の凹面の円錐軸線とを一致させた。爆薬2としてペンスリット系爆薬(商品名:SEP/旭化成ケミカルズ社製、密度1310kg/m3、爆速6900m/s)を円板状に厚さ5mmに成形し、金属板3上に密着して載せた。爆薬2の中心には雷管1をセットした。
【0030】
雷管1を起爆させることで金属板3をブロック部材4に衝突させ、発生したチタンの金属ジェットを、ブロック部材4の開口7(直径54mm)より、液体窒素が充填された容器6に投入し、微粉末を製造した。
【0031】
得られた微粉末は、電子顕微鏡観察から直径約10nmであり、X線解析からTiN組成であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、爆薬の力によって金属体同士を衝突させることで発生した金属ジェットを冷却された液体に投入することで、前記金属体の金属成分を有する金属微粉末を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明を実施するための装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 雷管
2 爆薬
3 金属板
4 ブロック部材
5 液体
6 容器
7 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
爆薬を用いて金属体同士を衝突させることで発生した金属ジェットを、液体に投入することを特徴とする金属微粉末の製造方法。
【請求項2】
前記液体が、液体ヘリウム、液体窒素、液体酸素、液体水素または純水であることを特徴とする請求項1に記載の金属微粉末の製造方法。
【請求項3】
前記金属体が、金属板と、回転対称な錐形の凹面を有する金属部材であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属微粉末の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−209417(P2009−209417A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54298(P2008−54298)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人日本機械学会 刊行物名 日本機械学会創立110周年記念2007年度年次大会講演論文集 該当頁 第621−622頁 発行日 平成19年9月7日
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】