説明

金属微粒子−複合体顔料

【課題】透明高分子媒体中に金属微粒子を凝集させることなく、任意の微粒子密度で、簡便に製造することができ、水ならびに有機溶媒に対して溶解性を持たない高分子−金属微粒子複合体顔料の製造方法を提供する。
【解決手段】窒素を含有する高分子により安定化された金属微粒子と、窒素と相互作用する透明高分子からなる金属微粒子−高分子複合体溶液、及び窒素を含有する高分子により安定化された金属微粒子における、窒素を含有する高分子が、ポリエチレンイミンであることを特徴とする上記の金属微粒子−高分子複合体顔料溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水や油に対しても色落ちせず、強い耐久性を有し、彩度が高いことを特徴とする顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
金等の貴金属のコロイドは化学的に非常に安定であり、各コロイド特有の色を発色することが知られている。この特性を活かして、従来からベネチアガラスやステンドグラス等の着色に利用されている。
【0003】
金などの金属コロイドによる発色は、電子のプラズマ振動に起因し、局在プラズモン(LPR)吸収と呼ばれる発色機構によるものである。このLPR吸収による発色は、金属中の自由電子が光電場により揺さぶられることにより粒子表面に電荷が現れ、非線形分極が生じるためであるとされている。この金属コロイドによる発色は、彩度や光線透過率が高く、耐久性等に優れている。このような金属コロイドによる発色は、粒径が数nm〜数十nm程度の、いわゆるナノ粒子において見られるものであり、着色材としては、粒径分布が狭いコロイドであることが有利である。
【0004】
金属粒子によるLPR吸収は、金属粒子の種類と粒径により決定される。ところが、金属微粒子、特にナノ粒子においては、単独で放置した場合には凝集により粒子成長を起こし、粒径が大きくなる事が知られている。したがって、通常は高分子もしくは強く配位する分子などを保護剤として金属微粒子の安定化が図られている。保護剤として多く用いられている物質として以下のものが挙げられる。高分子では、水溶性の高分子であるポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等が挙げられる。強く配位する分子としてはS−H結合を含む分子が挙げられる。
【0005】
このため、金属微粒子を高分子中に分散させる方法が色々と提案されている。例えば、特許文献1(特開平1―168762号公報)には、重合可能なモノマーを非水溶媒で希釈溶液とし、金属をコロイド化した後に重合し、金属コロイドを含むポリマーを単離する方法が提案されている。また、特許文献2(米国特許第2,947,646号明細書)には、プラスチックパウダー上に金属を蒸着し、このパウダーに添加剤、可塑剤を混合する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3(特公平5−47587号公報)には、液状モノマーに金、銀又はパラジウムの化合物を溶解し、重合後に加熱する方法が示されている。さらに非特許文献1(Japanese Journal of Applied Physics,33号,L331頁(1994年))には、重合体と金又は銀の化合物を有機溶剤中に溶解したのち、乾固して加熱する方法、および非特許文献2(Journal of Materials Science Letters,10号,477頁(1991年))に重合体表面に金、銀又は銅を蒸着させたのち、加熱処理する方法などが提案されている。
【0007】
それ以外にも、特許文献4(特許3062748号)においてガラス状態にある高分子化合物に重金属を昇華性又は揮発性金属化合物の蒸気を接触させる方法が提案されている。
【0008】
さらに、高分子物質からなる高分子含有層に上記高分子物質を膨潤させることができる溶媒に微粒子が分散した微粒子分散液と上記高分子含有層とを接触させる方法がある。
特に、顔料親和性基を主鎖及び若しくは複数の側鎖を有し、かつ、溶媒和部分を構成する複数の側鎖を有する櫛形構造の高分子、又は、主鎖中に顔料親和性基からなる複数の顔料親和部分を有する高分子を顔料分散剤として用いた、貴金属又は銅のコロイド粒子の固体ゾルが提案されている。
【0009】
しかし、分散させている高分子の性質により金属微粒子−高分子複合体顔料は水もしくは有機溶媒に溶解するため、金属微粒子の凝集を防ぐことは困難である。また、水、有機溶媒の双方に関して溶解性を示さない金属微粒子−高分子複合体顔料は、まだ報告されていない。
【0010】
【特許文献1】特開平1―168762号公報
【特許文献2】米国特許第2,947,646号明細書
【特許文献3】特公平5−47587号公報
【特許文献4】特許3062748号
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics,33号,L331頁(1994年)
【非特許文献2】Journal of Materials Science Letters,10号,477頁(1991年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高分子媒体中に金属微粒子を凝集させることなく、幅広い微粒子密度で簡便に製造することができ、水ならびに有機溶媒に対して溶解性を持たない高分子−金属微粒子複合体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
高分子媒体中に金属微粒子が分散しており、該金属微粒子の平均粒径が5nm〜1000nmからなる金属微粒子−高分子複合体であることを特徴とする顔料に関する。
【0013】
金属微粒子が含窒素高分子で保護されていることを特徴とする上記の金属微粒子−高分子複合体顔料に関する。
【0014】
高分子媒体中の高分子が、カルボキシル基を持つモノマーと疎水性透明高分子の原料モノマーとの共重合体であることを特徴とする、上記の金属微粒子−高分子複合体顔料
に関する。
【0015】
含窒素高分子が、ポリエチレンイミンであることを特徴とする、上記の金属微粒子−高分子複合体顔料に関する。
【0016】
該カルボキシル基を持つモノマーがアクリル酸、もしくはメタクリル酸であることを特徴とする上記の金属ナノロッド−高分子複合体。
【0017】
疎水性透明高分子のモノマーが、スチレン、もしくはメタクリル酸メチルであることを特徴とする、上記の金属微粒子−高分子複合体顔料に関する。
【0018】
上記の金属微粒子−高分子複合体のうち、該金属微粒子が金、銀、銅またはそれらの複合体からなる微粒子であることを特徴とする金属微粒子−高分子複合体顔料に関する。
【0019】
水及び有機溶媒のいずれにも溶解しないことを特徴とする上記の金属微粒子−高分子複合体顔料に関する。
【0020】
含窒素高分子で保護された金属微粒子と、アクリル酸含有高分子とを溶液状態で混合することを特徴とする上記の金属微粒子―高分子複合体顔料の製造方法に関する。
【0021】
アクリル酸含有高分子溶液の溶媒としてドナー数が25以上である溶媒を使用することを特徴とする上記の金属微粒子―高分子複合体顔料の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の金属微粒子−高分子複合体顔料は、常温常圧で安定に存在させることができ、空気中で放置した場合でも高分子の凝集を起こさない。水中、および有機溶媒中において溶解を起こすことなく安定に存在させることができる。さらに、製法は非常に簡便であり、安価に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明において、上記目的を実現するため、高分子媒体中に金属微粒子が取り込まれた構造の金属微粒子―高分子金属複合体を、以下の手順で製造する。窒素を含有する高分子により保護された金属微粒子溶液を調製する。次に該金属微粒子溶液を、アクリル酸と疎水性透明高分子の原料モノマーの共重合体溶液に混合する。その結果、該共重合体に金属微粒子が取り込まれた構造の金属微粒子―高分子複合体が形成される。
【0024】
本発明で用いられる金属微粒子−高分子複合体において、金属微粒子に保護作用のある高分子として、含窒素高分子から構成されることが好ましい。
【0025】
含窒素高分子の具体例としては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルピリジン、ポリアニリン等が挙げられる。
【0026】
また、高分子媒体中の高分子として、アクリル酸もしくはメタクリル酸と、疎水性透明高分子の原料モノマーの共重合体から構成されることが好ましい。
【0027】
疎水性透明高分子の原料モノマーの具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0028】
窒素を含有する高分子により保護された金属微粒子の製造方法としては、クエン酸、タンニン酸などの低分子で保護された金属コロイドの保護基を変換する方法がある。さらに、窒素を含有する高分子存在下で金属含有イオンを水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いて還元して金属粒子を作製する方法や窒素を含有する高分子存在下で金属含有イオンを高分子の還元力により還元する方法等もある。
【0029】
本発明で用いられる溶媒としては、ドナー数25以上となる有機溶媒が望ましい。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド(26.6)、N,N−ジメチルアセトアミド(27.8)、ジメチルスルホオキシド(29.8)、ピリジン(33.1)、N−メチル−2−ピロリドン(27.3)、エチレンジアミン(55)、ピペリジン(51)等が挙げられる。
【0030】
ドナー数とは、溶媒分子がルイス塩基として作用する際の電子対供与性を表す尺度の一つである。1,2−ジクロロエタン中で10−3mol/lのSbClと、溶媒分子とが反応する際のエンタルピーをkcal/mol単位で表したときの絶対値である。
【0031】
本発明で用いられる金属微粒子−高分子複合体において、金属微粒子の金属としては、可視光領域でLPRを起こす金属が好ましい。具体的には、金、銀、銅またはそれらの複合体等の貴金属が挙げられる。特に、金を用いることが好ましい。
【0032】
金属微粒子の粒径は、5〜1000nmが良く、特に10〜100nmが好ましい。
【0033】
顔料の色は、金属の種類およびサイズの双方によって変化させることが出来る。特に金属粒子のサイズが数ナノ〜数十ナノの範囲では、金は赤色になる。数十ナノを超えるサイズになると金は青に変化させることが可能である。
【0034】
上記の金属微粒子−高分子複合体は、水にも有機溶媒にも溶解しない。有機溶媒の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロパノール、ヘキサノールなどのアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、へプタン、オクタンなどの飽和炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、ジエチルケトンなどのケトン類、ジメチルスルホキシド、ジメルホルムアミドなどの非プロトン極性溶媒、ピリジン、アニリン、アルキルアミン類などがあげられる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
塩化金(III)酸 0.05gを、5重量%ポリエチレンイミン(PEI)のジメチルホルムアミド(DMF)溶液3gに溶解させたのち、さらに50gのDMFで希釈した。該溶液を70℃で2時間還流することにより、暗赤色のPEI保護金ナノ粒子DMF溶液を調製した。該PEI保護金ナノ粒子DMF溶液10gをメタクリル酸メチル−アクリル酸ランダム共重合体の5重量%DMF溶液10gを混合すると、暗赤色の溶液となった。該溶液を、ロータリーエバポレーターを用いて水を除去した後、赤紫色のゲル状の物質が析出した。真空乾燥を行い、粉砕することで、赤紫色の粉末を得た。
【0036】
実施例1において、透過型電子顕微鏡写真を図1に示す。図中の金粒子が10nmの粒径であり、また金粒子の分散が良いことが示される。
【0037】
(実施例2)
実施例1により作製した金粒子―高分子複合体顔料を、水中に浸漬させ、1週間放置したところ、安定に存在し、溶解しなかった。
【0038】
(実施例3)
実施例2と同様に、メタノール中に浸漬させ1週間放置した。メタノール中に浸漬させたものは若干膨潤したが、溶解しなかった。2−プロパノール、1−ヘキサノールに関しては、変化しなかった。
(実施例4)
実施例2と同様に、2−プロパノール中に浸漬させ1週間放置した。メタノール中に浸漬させたものは若干膨潤したが、溶解しなかった。2−プロパノール、1−ヘキサノールに関しては、変化しなかった。
(実施例5)
実施例2と同様に、1−ヘキサノール中に浸漬させ1週間放置した。メタノール中に浸漬させたものは若干膨潤したが、溶解しなかった。2−プロパノール、1−ヘキサノールに関しては、変化しなかった。
【0039】
(実施例6)
実施例2と同様に、トルエン中に浸漬させ1週間放置したところ、安定に存在し、溶解しなかった。
(実施例7)
実施例2と同様に、ヘキサン中に浸漬させ1週間放置したところ、安定に存在し、溶解しなかった。
(実施例8)
実施例2と同様に、シクロヘキサン中に浸漬させ1週間放置したところ、安定に存在し、溶解しなかった。
(実施例9)
実施例2と同様に、アセトン中に浸漬させ1週間放置したところ、安定に存在し、溶解しなかった。
(実施例10)
実施例2と同様に、メチルエチルケトン中に浸漬させ1週間放置したところ、安定に存在し、溶解しなかった。
(実施例11)
実施例2と同様に、アセチルアセトン中に浸漬させ1週間放置したところ、安定に存在し、溶解しなかった。
(実施例12)
実施例2と同様に、ジエチルケトン中に浸漬させ1週間放置したところ、安定に存在し、溶解しなかった。
(実施例13)
実施例2と同様に、DMFに浸漬させ1週間放置した。若干膨潤したが、溶解しなかった。
(実施例14)
実施例2と同様に、ピリジンに浸漬させ1週間放置した。若干膨潤したが、溶解しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1について、透過型電子顕微鏡写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子媒体中に金属微粒子が分散しており、該金属微粒子の平均粒径が5nm〜1000nmからなる金属微粒子−高分子複合体であることを特徴とする顔料
【請求項2】
金属微粒子が含窒素高分子で保護されていることを特徴とする請求項1に記載の金属微粒子−高分子複合体顔料
【請求項3】
高分子媒体中の高分子が、カルボキシル基を持つモノマーと疎水性透明高分子の原料モノマーとの共重合体であることを特徴とする、請求項1に記載の金属微粒子−高分子複合体顔料
【請求項4】
含窒素高分子が、ポリエチレンイミンであることを特徴とする、請求項2に記載の金属微粒子−高分子複合体顔料
【請求項5】
該カルボキシル基を持つモノマーがアクリル酸、もしくはメタクリル酸であることを特徴とする請求項3に記載の金属ナノロッド−高分子複合体。
【請求項6】
疎水性透明高分子のモノマーが、スチレン、もしくはメタクリル酸メチルであることを特徴とする、請求項3に記載の金属微粒子−高分子複合体顔料
【請求項7】
請求項1に記載の金属微粒子−高分子複合体のうち、該金属微粒子が金、銀、銅またはそれらの複合体からなる微粒子であることを特徴とする金属微粒子−高分子複合体顔料
【請求項8】
水及び有機溶媒のいずれにも溶解しないことを特徴とする請求項1に記載の金属微粒子−高分子複合体顔料
【請求項9】
含窒素高分子で保護された金属微粒子と、アクリル酸含有高分子とを溶液状態で混合することを特徴とする請求項1に記載の金属微粒子―高分子複合体顔料の製造方法
【請求項10】
アクリル酸含有高分子溶液の溶媒としてドナー数が25以上である溶媒を使用することを特徴とする請求項9に記載の金属微粒子―高分子複合体顔料の製造方法

【図1】
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【公開番号】特開2006−104254(P2006−104254A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−290073(P2004−290073)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】