説明

金属微粒子の製造方法、金属微粒子分散液、およびその触媒としての使用

【課題】金属微粒子を極性溶媒に安定に分散可能であり、特に環境に優しい水系の溶媒を分散液に用いることができ、さらに硫黄、窒素も含有しない金属微粒子の製造方法、金属微粒子分散液、およびそれを用いた触媒と有機化合物の水和反応方法および還元方法を提供する。
【解決手段】下記式(I):


(式中、X1はそれぞれ独立に(CH2)nCOOHまたは(CH2)nOHを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。)で表されるジアゾニウム塩と、第9族または第10族の遷移金属化合物とを、還元剤の存在下に極性溶媒中で反応させて、共有結合および配位結合から選ばれるいずれかの相互作用を有する金属微粒子を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子の製造方法、金属微粒子分散液、およびその触媒としての使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、第9族、第10族の遷移金属化合物等の金属微粒子は不均一系触媒等として広範な分野において用いられているが(特許文献1参照)、近年では、化学物質の製造の際に、原料から副生成物に至るまで汚染原因となる化学物質を使用せず、発生させないことで環境汚染を未然に防止しようとするグリーンケミストリーに適した環境調和型の触媒が望まれている。
【0003】
このような環境への配慮の点からは、金属微粒子触媒は、水系での反応に使用できるものが望まれる。
【0004】
一方、第9族、第10族の遷移金属化合物等の金属微粒子分散液を金属基板等の基材に塗布して焼結し、焼結体として各種の分野において用いる場合、金属微粒子分散液としては環境への配慮から水系の溶媒が望まれ、また、金属微粒子は、焼結時においてSOx、NOx等の酸性ガスやハロゲン系ガスを発生しないものが望まれる。
【0005】
従来、一般に金属微粒子分散液を得る方法として、物理的方法、気相法や液相法等の化学的方法等が知られている。液相法では、チオール、アミン、アルコール、カルボン酸、PVA等の高分子等を保護剤に用いて金属微粒子を得る方法、長鎖アルキル基を有するジアゾニウム塩を原料に用いて金属微粒子を得る方法(非特許文献1、2参照)が知られている。また金粒子、銀粒子では水溶性のジアゾニウム塩を原料に用いて安定なナノ粒子水分散液が得られている(非特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−193212号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Mater.Chem., 2008, 18, 755-762
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc., 2006, 128, 7400-7401
【非特許文献3】日本化学会第89春季年会(2009)講演予稿集 2L3−13
【非特許文献4】ナノ学会第7回大会講演予稿集 226頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、物理的方法では一般に均一な粒径の金属微粒子を大量に合成するのは難しく、気相法では一般にコストが高くなる。また、従来の液相法に用いられる保護剤、換言すれば配位子は孤立電子対を持つ基を有しており、この基が金属と配位結合し、錯体を形成する。配位する基としてはチオール基、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、フォスフィノ基等があり、その配位原子は硫黄、窒素、酸素、リンであるが、チオールを保護剤に用いた方法では銀微粒子の焼結時にAg2SやSOxが発生し、アミンを用いた方法では焼結時にNOxが発生する。アルコールやカルボン酸を保護剤に用いた方法では、得られる金属微粒子分散液の安定性においてさらに改善の余地がある。PVA等の高分子を保護剤に用いた方法では、有機含有量が多く、また単分子膜とすることができない。
【0009】
また、長鎖アルキル基を有するジアゾニウム塩を原料に用いた方法では、微粒子製造時に溶剤を用いることを必須とし、水に分散しない。一方、非特許文献3、4では金粒子、銀粒子について安定なナノ粒子水分散液が得られているものの、第9族、第10族の遷移金属化合物への適用可能性については何ら検討されておらず、触媒としての可能性に関しても全く示唆されていない。
【0010】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、金属微粒子を極性溶媒に安定に分散可能であり、特に環境に優しい水系の溶媒を分散液に用いることができ、さらに硫黄、窒素も含有しない金属微粒子の製造方法、金属微粒子分散液、およびそれを用いた触媒と有機化合物の水和反応方法および還元方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0012】
第1:下記式(I):
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、X1はそれぞれ独立に(CH2)nCOOHまたは(CH2)nOHを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。)で表されるジアゾニウム塩と、第9族または第10族の遷移金属化合物とを、還元剤の存在下に極性溶媒中で反応させて、下記式(II):
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、X2はそれぞれ独立に、(CH2)nCOOHもしくはその塩、または対応するカルボキシレートイオン、あるいは、(CH2)nOHもしくはその塩、または対応するアルコキシドイオンを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。Mは第9族または第10族の遷移金属を示す。)で表される共有結合および配位結合から選ばれるいずれかの相互作用を有する金属微粒子を得ることを特徴とする金属微粒子の製造方法。
【0017】
第2:下記式(II):
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、X2はそれぞれ独立に、(CH2)nCOOHもしくはその塩、または対応するカルボキシレートイオン、あるいは、(CH2)nOHもしくはその塩、または対応するアルコキシドイオンを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。Mは第9族または第10族の遷移金属を示す。)で表される共有結合および配位結合から選ばれるいずれかの相互作用を有する金属微粒子が極性溶媒に分散されていることを特徴とする金属微粒子分散液。
【0020】
第3:上記第1の方法により製造された金属微粒子からなることを特徴とする触媒。
【0021】
第4:有機化合物の水和反応に用いられることを特徴とする上記第3の触媒。
【0022】
第5:有機化合物の還元反応に用いられることを特徴とする上記第3の触媒。
【0023】
第6:水を含有する上記第2の金属微粒子分散液中で、金属微粒子を触媒として二重結合または三重結合を有する有機化合物に水分子を付加することを特徴とする有機化合物の水和反応方法。
【0024】
第7:上記第2の金属微粒子分散液中で、二重結合または三重結合を有する有機化合物と水素とを接触させて金属微粒子を触媒として有機化合物を還元することを特徴とする有機化合物の還元方法。
【発明の効果】
【0025】
上記第1の発明の金属微粒子の製造方法によれば、第9族または第10族の遷移金属金属微粒子を極性溶媒に安定に分散可能であり、特に環境に優しい水系の溶媒を分散液に用いることができる。さらに金属微粒子は硫黄、窒素も含有せず、コスト、環境面に優れた金属微粒子を得ることができる。
【0026】
上記第2の発明の金属微粒子分散液によれば、第9族または第10族の遷移金属金属微粒子を極性溶媒に安定に分散可能であり、特に環境に優しい水系の溶媒を分散液に用いることができる。さらに金属微粒子は硫黄、窒素も含有しない。
【0027】
上記第3〜第7の発明の触媒と有機化合物の水和反応方法および還元方法によれば、反応基質の有機化合物を効率良く反応させることができる。また、極性溶媒を用いて触媒反応を行うことができ、特に、水を溶媒として用いて反応を行うことができるので、環境面に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0029】
本発明に用いられる式(I)で表されるジアゾニウム塩は、例えば、テトラフルオロほう酸水溶液に、対応するアミノフェニルカルボン酸またはアミノフェニルアルコールを添加、攪拌し、亜硝酸ナトリウム水溶液を滴下し熟成した後、ろ別、溶剤洗浄、再結晶等の精製を行うことにより得ることができる。
【0030】
本発明では、ジアゾニウム塩として、カルボキシル基または水酸基を有する式(I)の水溶性官能基X1を導入したものを用いたことを特徴としているが、これは経済性、極性溶剤への溶解性、合成の簡便性、および安定性を考慮したものである。しかも、このような官能基X1を有する構造の式(I)で表されるジアゾニウム塩は、非常に安定であり、例えば、遮光、5℃以下、不活性ガス雰囲気下等で酸素、水を除外した環境にて保存した場合、1ヶ月以上の保存が可能である。さらに製造時の仕込み時等においては、空気雰囲気下での取り扱いも可能である。
【0031】
本発明において、式(I)で表されるジアゾニウム塩と反応させる第9族または第10族の遷移金属化合物としては、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金等の第9族または第10族の遷移金属の塩、錯体等を用いることができ、極性溶媒に溶解できるものであれば特に限定されない。
【0032】
例えば、ロジウム化合物として、塩化ロジウム(III)、硝酸ロジウム(III)、硫酸ロジウム(III)、酢酸ロジウム(II)、酢酸ロジウム(III)、四酢酸二ロジウム(II)、ヘキサクロロロジウム(III)酸アンモニウム、ヘキサクロロロジウム(III)酸カリウム、ヘキサクロロロジウム(III)酸ナトリウム、ロジウム(III)アセチルアセトナート、ヘキサアミンロジウム(III)トリクロライド、ペンタアミンクロロロジウム(III)ジクロライド、ヘキサシアノロジウム(III)酸カリウム等を用いることができる。
【0033】
また、ニッケル化合物として、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、テトラシアノニッケル(II)酸カリウム、ニッケル(II)アセチルアセトナート、ヘキサアミンニッケル(II)ジクロライド、ヘキサアミンジニトロニッケル(II)、水酸化ニッケル(II)、安息香酸ニッケル(II)、スルファミン酸ニッケル(II)、過塩素酸ニッケル(II)、しゅう酸ニッケル(II)等を用いることができる。
【0034】
また、パラジウム化合物として、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、硝酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム、テトラクロロパラジウム(II)酸カリウム、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸アンモニウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸カリウム、パラジウム(II)アセチルアセトナート、ジクロロジアミンパラジウム(II)、テトラアミンパラジウム(II)ジクロライド、ジアミンジニトロパラジウム(II)、テトラシアノパラジウム(II)酸カリウム、水酸化パラジウム(II)等を用いることができる。
【0035】
また、白金化合物として、ヘキサクロロ白金(IV)酸、塩化白金(II)、テトラクロロ白金(II)酸アンモニウム、テトラクロロ白金(II)酸カリウム、テトラクロロ白金(II)酸ナトリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸アンモニウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム、白金(II)アセチルアセトナート、ジクロロジアミン白金(II)、テトラアミン白金(II)ジクロライド、ジアミンジニトロ白金(II)テトラシアノ白金(II)酸カリウム等を用いることができる。
【0036】
本発明では、式(I)で表されるジアゾニウム塩と、第9族または第10族の遷移金属化合物とを、還元剤の存在下に極性溶媒中で反応させて、式(II)で表される共有結合および配位結合から選ばれるいずれかの相互作用(式(II)中の点線で示される(アルキル)カルボキシフェニル基または(アルキル)アルコキシフェニル基と、第9族または第10族の遷移金属Mとの相互作用)を有する金属微粒子を合成する。反応は、100℃未満、好ましくは30℃以下の温度で行うことができる。
【0037】
より具体的には、例えば、式(I)で表されるジアゾニウム塩、および第9族または第10族の遷移金属化合物を極性溶媒に溶解、攪拌する。次いで還元剤を滴下し、これにより第9族または第10族の遷移金属化合物と式(I)で表されるジアゾニウム塩とを同時に還元し、熟成を行うことにより、式(II)で表される、フェニル基と金属とが直接に相互作用する金属微粒子が合成される。その後、必要に応じて水洗、溶剤洗浄、遠心分離、ろ過、電気透析等で精製を行い、窒素化合物、ハロゲン化合物等を除去し、式(II)で表される金属微粒子を得る。
【0038】
なお、式(II)においてX2はそれぞれ独立に、(CH2)nCOOHもしくはその塩、または対応するカルボキシレートイオン、あるいは、(CH2)nOHもしくはその塩、または対応するアルコキシドイオンを示し、塩としてはナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アミン塩等が挙げられる。なお、金属微粒子は、X2として(CH2)nCOOHとその塩との両方、あるいは(CH2)nOHとその塩との両方が混在するものであってもよい。また、金属微粒子がX2としてカルボキシレートイオンまたはアルコキシドイオンを有する場合としては、金属微粒子が分散液の状態である場合が挙げられる。
【0039】
また、Mは第9族または第10族の遷移金属を示す。このうちMがニッケルである場合、存在形態としてニッケル(0価)の他に酸化ニッケル(III)、酸化ニッケル(IV)があるが、合成時には、脱気操作と合成雰囲気に留意し、できる限り酸素を除外するのが好ましい。
【0040】
反応溶媒、分散溶媒として用いる極性溶媒としては、水、THF(テトラヒドロフラン)、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコールが挙げられる。中でも、水、メタノールが好ましい。
【0041】
還元剤は、ジアゾニウム塩と、第9族または第10族の遷移金属化合物とを同時に効率よく還元できるものを選択する必要がある。例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH3CN)、水素化トリエチルホウ素リチウム(LiBH(C2H5)3)、水素化ホウ素リチウム(LiBH4)、水素化ホウ素カリウム(KBH4)、水素化ホウ素テトラブチルアンモニウム((CH3(CH2)3)4NBH4)、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウム((CH3)4NBH4)等の水素化ホウ素塩系還元剤、ジボラン(B2H6)、アンモニアボラン(NH3-BH3)、トリメチルアンモニアボラン((CH3)3N-BH3)等のボラン系還元剤を用いることができるが、中でも水素化ホウ素ナトリウムが好ましく用いられる。
【0042】
本発明によれば、第9族または第10族の遷移金属微粒子の製造時の反応溶媒、また分散溶媒として極性溶媒を用いることができる。特に反応溶媒、分散溶媒として水を用いることができることから環境、コスト面において優れている。さらに、金属微粒子の分散状態を長期間安定に維持することができる。
【0043】
本発明の金属微粒子分散液は、例えば、不均一系触媒、導電性材料、水素吸蔵材料、電極材料等の用途に好適に用いることができる。
【0044】
例えば、この金属微粒子分散液を金属基板等の基材に塗布して焼結し、焼結体として各種の分野において用いることができる。この場合には、本発明により得られる金属微粒子は、硫黄、窒素を含有せず、焼結時のSOx、NOx等の酸性ガスの発生を抑制でき、またハロゲン系ガスも発生せず、各種の用途に応用できる良好な焼結体を得ることができる。
【0045】
また、不均一系触媒においては、極性溶媒を用いて触媒反応を行うことができ、特に、水系での触媒として用いることができ、環境に優しいグリーンケミストリーに適した反応系に用いることができる。
【0046】
本発明の金属微粒子分散液を用いた触媒反応としては、有機化合物の水和反応、還元反応が好適なものとして例示される。還元反応としては、水素添加反応が例示される。
【0047】
本発明の金属微粒子分散液を有機化合物の水和反応に用いる場合、反応基質の有機化合物としては、二重結合または三重結合を有する有機化合物、例えば、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合、炭素−ヘテロ原子二重結合、または炭素−ヘテロ原子三重結合を有する有機化合物等が挙げられる。
【0048】
炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合を有する有機化合物としては、例えば、オレフィン、芳香族炭化水素等が挙げられる。オレフィンとしては、例えば、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ブタジエン、イソプレン、シクロペンテン、ジシクロペンタジエン、シクロペンタジエン、オクタジエン等が挙げられる。芳香族炭化水素としては、ベンゼン、スチレン、α−メチルスチレン、インデン等が挙げられる。これらの有機化合物を水和することにより、対応するアルコール等を合成することができる。
【0049】
炭素−ヘテロ原子二重結合、または炭素−ヘテロ原子三重結合を有する有機化合物としては、例えば、ベンゾニトリル等の芳香族ニトリルおよびアクリロニトリル、メタクリロニトリル、クロトノニトリル、シアン化アリル、ベンゾニトリル等の不飽和ニトリル等のニトリル基を有する有機化合物、カルボニル基を有する有機化合物等が挙げられる。これらの有機化合物を水和することにより、対応するアミド、酸、アルコール等を合成することができる。
【0050】
これらの有機化合物を反応基質として水和反応を行う際には、本発明の金属微粒子分散液に反応基質の有機化合物を溶解または懸濁させ、必要に応じて温度を調整しながら行う。金属微粒子分散液の溶媒としては、極性溶媒、例えば水を含有する溶媒を用いることができ、好ましくは水が溶媒として用いられる。
【0051】
反応系に存在させる触媒としての金属微粒子の含有量、反応温度、反応圧力および反応時間等は、反応基質の有機化合物や金属微粒子の種類等に応じて適宜に設定して行うことができ、例えば、極性溶媒を用いた場合には、沸点未満の適宜の温度に設定して行うことができる。
【0052】
本発明の金属微粒子分散液を有機化合物の還元反応のうち水素添加反応に用いる場合、反応基質の有機化合物としては、二重結合または三重結合を有する有機化合物、例えば、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合、炭素−ヘテロ原子二重結合、または炭素−ヘテロ原子三重結合を有する有機化合物等が挙げられる。
【0053】
炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合を有する有機化合物としては、例えば、オレフィン、芳香族炭化水素等が挙げられる。オレフィンとしては、例えば、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ブタジエン、イソプレン、シクロペンテン、ジシクロペンタジエン、シクロペンタジエン、オクタジエン等が挙げられる。芳香族炭化水素としては、ベンゼン、スチレン、α−メチルスチレン、インデン等が挙げられる。これらの有機化合物を水添することにより、対応する炭素−炭素一重結合または炭素−炭素二重結合を有する有機化合物等を合成することができる。
【0054】
炭素−ヘテロ原子二重結合、または炭素−ヘテロ原子三重結合を有する有機化合物としては、例えば、アルデヒド基、カルボニル基を有する有機化合物等が挙げられる。これらの有機化合物を還元することにより、対応するアルコール等を合成することができる。
【0055】
また、ベンジルアルコールやベンジルエーテル等のC-O単結合を有する化合物を反応基質として加水素分解することができる。
【0056】
これらの有機化合物を反応基質として水素添加反応を行う際には、本発明の金属微粒子分散液に反応基質の有機化合物を溶解または懸濁させ、水素の存在下、必要に応じて温度を調整しながら行う。金属微粒子分散液の溶媒としては、極性溶媒、例えば水を含有する溶媒を用いることができ、好ましくは水が溶媒として用いられる。
【0057】
反応系に存在させる触媒としての金属微粒子の含有量、反応系に存在させる水素ガスの圧力、反応温度、反応圧力および反応時間は、反応基質の有機化合物や金属微粒子の種類等に応じて適宜に設定して行うことができ、例えば、極性溶媒を用いた場合には、沸点未満の適宜の温度に設定して行うことができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<参考例1>
下記式で表される化合物1を合成した。
【0059】
【化4】

【0060】
42%テトラフルオロほう酸水溶液(152.45g、0.73mol)に、4-アミノ安息香酸(50.02g、0.36mol)を添加、攪拌した。40%亜硝酸ナトリウム水溶液(62.89g、0.36mol)を10〜15℃下、30分で滴下し、10分間熟成した後、ろ別、再結晶等の精製を行うことにより、白色粉末を得た。
赤外線吸収スペクトル2291cm-1:N≡N+伸縮振動、1728cm-1:C=O伸縮振動、808 cm-1:C−H面外変角振動
<参考例2>
下記式で表される化合物2を合成した。
【0061】
【化5】

【0062】
42%テトラフルオロほう酸水溶液(15.24g、0.073mol)に、4-アミノフェネチルアルコール(5.01g、0.037mol)を添加、攪拌した。40%亜硝酸ナトリウム水溶液(6.28g、0.037mol)を10〜15℃下、30分で滴下し、10分間熟成した後、ろ別、溶剤洗浄、再結晶等の精製を行うことにより、赤色粉末を得た。
赤外線吸収スペクトル 2262cm-1:N≡N+伸縮振動、3431cm-1:O−H伸縮振動、824cm-1:C−H面外変角振動
<実施例1>
塩化ロジウム(III)3水和物(0.1500g、0.570mmol)をイオン交換水(40.0g)に溶解させ、N2を20分間フローし、脱気した。N2雰囲気下、化合物1(0.1344g、0.570mmol)を加え、5分間攪拌させた後、イオン交換水10.0gで溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(0.0216g、0.571mmol)を室温下、2時間で滴下した。滴下後、2時間熟成し、黒色分散液が得られた。得られた分散液を遠心分離、ろ過、水洗、溶剤洗浄等で精製し、ロジウム含有量656ppmの黒色水分散液が得られた。
紫外−可視吸収スペクトル 321nm
赤外線吸収スペクトル 1703cm-1:C=O伸縮振動、779 cm-1:C−H面外変角振動
<実施例2>
硝酸ニッケル(II)6水和物(0.3000g、1.032mmol)をイオン交換水(80.0g)に溶解させ、N2を20分間フローし、脱気した。N2雰囲気下、化合物1(0.4868g、2.063mmol)を加え、5分間攪拌させた後、イオン交換水20.0gで溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(0.0781g、2.064mmol)を室温下、2時間で滴下した。滴下後、2時間熟成し、茶色分散液が得られた。得られた分散液を遠心分離、ろ過、水洗、溶剤洗浄等で精製し、ニッケル含有量55ppmの茶色水分散液が得られた。
紫外−可視吸収スペクトル 281nm
赤外線吸収スペクトル 1690cm-1:C=O伸縮振動、781 cm-1:C−H面外変角振動
<実施例3>
硝酸パラジウム(II)2.4水和物(0.4909g、1.79mmol)をイオン交換水(110.0g)に溶解させ、N2を15分間フローし、脱気した。N2雰囲気下、化合物1(0.4232g、1.79mmol)を加え、5分間攪拌させた後、イオン交換水28gで溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(0.0679g、1.79 mmol)を室温下、2時間で滴下した。滴下後、2時間熟成し、黒色分散液が得られた。得られた分散液を遠心分離、ろ過、水洗、溶剤洗浄等で精製し、パラジウム含有量2289ppmの黒色水分散液が得られた。
紫外−可視吸収スペクトル 295、330nm
赤外線吸収スペクトル 1682cm-1:C=O伸縮振動、756 cm-1:C−H面外変角振動
<実施例4>
ヘキサクロロ白金(IV)酸6水和物(0.1500g、0.290mmol)をイオン交換水(35g)に溶解させ、N2を10分間フローし、脱気した。N2雰囲気下、化合物1(0.0683g、0.289mmol)を加え、5分間攪拌させた後、イオン交換水15gで溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(0.0110g、0.291mmol)を室温下、2時間で滴下した。滴下後、2時間熟成し、黒色分散液が得られた。得られた分散液を遠心分離、水洗等で精製し、白金含有量337ppmの黒黄色水分散液が得られた。
紫外−可視吸収スペクトル 323nm
赤外線吸収スペクトル 1693cm-1:C=O伸縮振動、770cm-1:C−H面外変角振動
<実施例5>
硝酸パラジウム(II)2.4水和物(0.2000g、0.731mmol)をイオン交換水(50g)に溶解させ、N2を15分間フローし、脱気した。N2雰囲気下、化合物2(0.1724g、0.731mmol)を加え、5分間攪拌させた後、イオン交換水15gで溶解させた水素化ホウ素ナトリウム(0.0277g、0.732mmol)を室温下、1時間で滴下した。滴下後、2時間熟成し、黒色分散液が得られた。得られた分散液を遠心分離、ろ過、水洗、溶剤洗浄等で精製し、パラジウム含有量3013ppmの黒色水分散液が得られた。
紫外−可視吸収スペクトル 356nm
赤外線吸収スペクトル 3204cm-1:O−H伸縮振動、669 cm-1:C−H面外変角振動
<実施例6>
実施例3で得られたパラジウム微粒子を用いてベンゾニトリルの水和反応を行った。ベンゾニトリルと0.5mol%のパラジウム微粒子を130〜140℃、3.5時間の条件で水中にて反応させた。その結果、51%のベンズアミドの生成をガスクロマトグラフィーで確認した。
<比較例1>
パラジウム微粒子を用いずに、それ以外は実施例6と同様にしてベンゾニトリルの水和反応を行ったところ、4%のベンズアミドが生成し、96%のベンゾニトリルが残留した。
<実施例7>
実施例3で得られたパラジウム微粒子を用いて1,5-シクロオクタジエンの水素添加反応を行った。1,5-シクロオクタジエンと0.5mol%のパラジウム微粒子を室温、常圧、水素雰囲気下、4時間水中にて反応させた。その結果、1,5-シクロオクタジエンが全て消失したことをガスクロマトグラフィーで確認した。
<比較例2>
実施例3で得られたパラジウム微粒子の代わりに、有機合成において触媒として一般に用いられているパラジウム/活性炭を添加し、それ以外は実施例7と同様にして1,5-シクロオクタジエンの水素添加反応を行ったところ、26%の1,5-シクロオクタジエンが残留した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(式中、X1はそれぞれ独立に(CH2)nCOOHまたは(CH2)nOHを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。)で表されるジアゾニウム塩と、第9族または第10族の遷移金属化合物とを、還元剤の存在下に極性溶媒中で反応させて、下記式(II):
【化2】

(式中、X2はそれぞれ独立に、(CH2)nCOOHもしくはその塩、または対応するカルボキシレートイオン、あるいは、(CH2)nOHもしくはその塩、または対応するアルコキシドイオンを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。Mは第9族または第10族の遷移金属を示す。)で表される共有結合および配位結合から選ばれるいずれかの相互作用を有する金属微粒子を得ることを特徴とする金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
下記式(II):
【化3】

(式中、X2はそれぞれ独立に、(CH2)nCOOHもしくはその塩、または対応するカルボキシレートイオン、あるいは、(CH2)nOHもしくはその塩、または対応するアルコキシドイオンを示し(n=0〜3)、mは1〜5の整数を示す。Mは第9族または第10族の遷移金属を示す。)で表される共有結合および配位結合から選ばれるいずれかの相互作用を有する金属微粒子が極性溶媒に分散されていることを特徴とする金属微粒子分散液。
【請求項3】
請求項1に記載の方法により製造された金属微粒子からなることを特徴とする触媒。
【請求項4】
有機化合物の水和反応に用いられることを特徴とする請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
有機化合物の還元反応に用いられることを特徴とする請求項3に記載の触媒。
【請求項6】
水を含有する請求項2に記載の金属微粒子分散液中で、金属微粒子を触媒として二重結合または三重結合を有する有機化合物に水分子を付加することを特徴とする有機化合物の水和反応方法。
【請求項7】
請求項2に記載の金属微粒子分散液中で、二重結合または三重結合を有する有機化合物と水素とを接触させて金属微粒子を触媒として有機化合物を還元することを特徴とする有機化合物の還元方法。

【公開番号】特開2011−1589(P2011−1589A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144656(P2009−144656)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】