説明

金属微粒子の製造方法

【課題】金属イオンを電解還元して金属微粒子を製造する際に粒子径のバラツキが少なく金属微粒子のデンドライト状の形成を抑制し、均一な金属微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】金属(A)のイオンと金属(B)のイオンを含む電解水溶液中で電解還元により金属(B)を析出させると共に金属(A)の微粒子を析出させる金属微粒子の製造方法において、金属(B)のイオンと金属(A)のイオンのモル濃度比(B/A)が0.5以下で、かつ金属(B)のイオンが金属(A)のイオンの析出電位よりも貴な電位で析出するイオンであり、該電解水溶液中の陽極と陰極間に、銀/塩化銀の参照電極に対し陰極電極電位が−1V以下の電位となるように印加することにより、該電解還元により陰極表面上に金属(B)を析出させて、より卑な金属である金属(A)の微粒子を前記析出した金属(B)上ないし金属(B)の近傍に析出させる、金属微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、スズ等の金属微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子は、ナノサイズ(1μm以下)まで粒子径が微細化すると融点が低減することが知られており、このようなナノサイズの金属微粒子の分散したコロイド溶液やナノサイズの金属微粒子を混練したペーストは200〜300℃の焼成温度で良好な導電膜を作ることが知られている。既に、インクジェットプリント技術を用いて、金属微粒子として銀微粒子を用いた微粒子インクによるプリント回路の作製が報告されている。
しかしながら、銀微粒子インクを用いてプリントされた焼成回路は単に原料コストが高いだけでなく、配線等に使用された銀が電気化学反応によりイオン化して溶け出すことによって起こるマイグレーションを発生し易い傾向があるために配線間での結線が起きるという致命的な問題を有している。このマイグレーションの起こり易さはイオン化の電気化学列の順序と異なり、Ag>Pb≧Cuの順であり、このようなマイグレーションに対する耐性の低い銀微粒子から、該耐性の高い銅微粒子、銀成分の少ない合金微粒子等の使用への移行が望まれており、該耐性の高い金属微粒子を低コストで製造できる製造方法が必要になっている。
【0003】
上記背景のもとに、電気化学的な手法を用いたナノサイズの金属微粒子の製造方法についての研究開発が積極的に行なわれている。
このようなナノサイズの金属微粒子を製造する方法として、主に気相合成法と液相合成法が知られている。該気相合成法は、気相中に導入した金属蒸気から固体の金属微粒子を形成する方法であり、一方、液相合成法は、溶液中に分散させた金属イオンを電解又は無電解還元により金属微粒子を析出させる方法である。無電解還元により金属イオンを還元するための還元方法としては、アルコール、ポリオール、アルデヒド、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム等を用いる方法、電解還元により電気化学的にカソード電極上で還元を行う方法とが知られている。特に、電気化学的に還元を行う方法は、その還元速度を電流量の調整により生成する金属微粒子の形状・サイズを制御することが可能であり、また電流量の調整により、複合(合金)微粒子の生成も可能であることから、近年大いに注目されている。
【0004】
還元剤を使用する方法として、特許文献1には、有機溶媒中に銅化合物と還元剤と保護剤とを添加して電解水溶液を調製し、該溶液を非酸化雰囲気下で加熱することによって還元して銅微粒子を析出する方法が提案されている。電気化学的にカソード電極上で還元を行う方法として、非特許文献1では、界面活性剤や金属配位子を添加した水溶液中において、目的金属からなる陽極と、炭素または白金からなる陰極間に通電することにより、金属粒子を作成する方法が提案されている。
本発明者らは、金属微粒子及び高分子分散媒を含む電解液中の金属イオンを電解還元することによる金属微粒子の製造技術について、下記特許文献2に示す、Ptめっき膜とUVインプリント法を用いて作製した400nmピッチの白金ナノドット電極をカソードとして電解めっきを行い、均一な金属微粒子の成長を実現できることを確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−281781号公報
【特許文献2】特開2007−327117号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A.Pietrikova et al., Metallic Materials, Vol.29, (1991), p262-272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の気相合成法では、一般に、CVD、レーザーアブレーション、スパッタリングなどにより金属蒸気が反応容器に供給されて、金属微粒子の生成が行われるが、これら反応装置は高価である上、歩留まりが悪く、製造コストが高いという問題点があり、更に得られる金属微粒子は、粒径分布が広いという問題点もあった。また、非特許文献1等に記載された電気化学的にカソード電極上で還元を行う方法では、還元されて得られた金属粒子がデンドライト(樹枝)状に成長するため、金属粒子の形状が不均一であるという問題点があった。特許文献1の還元剤を用いた還元方法では金属微粒子の粒子径の制御について更なる改良が望まれている。特許文献2に開示の方法では白金ナノドットを形成するための型作製にコスト、時間が費やされるという問題点があった。

本発明は、上記問題点を解決して金属イオンを電解還元して金属微粒子を製造する際に粒子径のバラツキが少なく金属微粒子がデンドライト状に析出されるのを抑制可能なナノサイズの金属微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以上の事情を背景としてなされたものであり、電解水溶液中に目的物である金属微粒子を形成する金属イオンと、該金属よりも貴な電位の他の金属のイオンの共存下に電解還元すると、ナノサイズの金属微粒子を容易に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。

即ち、本発明は、以下の〈1〉ないし〈9〉に記載する発明を要旨とする。〈1〉少なくとも金属(A)のイオンと金属(B)のイオンを含む電解水溶液中で陽極と陰極間に通電して、電解還元により金属(B)を析出させると共に金属(A)の微粒子を析出させる金属微粒子の製造方法において、
電解水溶液中で金属(B)のイオンと金属(A)のイオンのモル濃度比(B/A)が0.5以下であり、かつ金属(B)のイオンが金属(A)のイオンの析出電位よりも貴な電位で析出するイオンであり、
該電解水溶液中の陽極と陰極間に、銀/塩化銀の参照電極に対し陰極電極電位が−1V以下の電位となるように印加することにより、
該電解還元により陰極表面上に金属(B)を析出させて、より卑な金属である金属(A)の微粒子を前記析出した金属(B)上ないし金属(B)の近傍に析出させることを特徴とする、金属微粒子の製造方法。
〈2〉前記電解水溶液中で、金属(B)のイオン濃度が0.0001〜0.1(mol/L)であることを特徴とする、前記〈1〉に記載の金属微粒子の製造方法。
〈3〉前記電解水溶液中で、金属(B)のイオンと金属(A)のイオンのモル濃度比(B/A)が0.001から0.5であることを特徴とする、前記〈1〉又は〈2〉に記載の金属微粒子の製造方法。
〈4〉前記金属(B)が金、白金、パラジウム、イリジウム、銅、銀、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、及びスズから選択される1種であり、金属(A)が金を除く金属から選択される1種であり、かつ金属(B)のイオンの析出電位よりも卑な電位で析出するイオンを形成する金属であることを特徴とする、前記〈1〉から〈3〉のいずれかに記載の金属微粒子の製造方法。
【0009】
〈5〉前記金属(A)が銅であり、金属(B)が銀であることを特徴とする、前記〈1〉から〈4〉のいずれかに記載の金属微粒子の製造方法。
〈6〉前記電解水溶液中に有機分散剤が含有されていることを特徴とする、前記〈1〉から〈5〉のいずれかに記載の金属微粒子の製造方法。
〈7〉前記電解水溶液中の陽極と陰極間に、20mA/cm以上の電流密度で通電することを特徴とする、前記〈1〉から〈6〉のいずれかに記載の金属微粒子の製造方法。
〈8〉前記陰極表面に表面活性の大きい金属からなる下地材を使用することを特徴とする、前記〈1〉から〈7〉のいずれかに記載の金属微粒子の製造方法。
〈9〉前記下地材が銀から形成されていることを特徴とする、前記〈8〉に記載の金属微粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
(イ)前記〈1〉、〈2〉、及び〈3〉に記載の金属微粒子の製造方法において、
金属(B)のイオンを含む電解水溶液から電解析出によりナノサイズの金属(A)の微粒子を形成する際に、金属微粒子を形成する主成分となる金属(A)よりも貴な金属(B)のイオンを添加することにより、金属(A)の微粒子を容易に形成することができる。
この場合、貴な金属である金属(B)の粒子の電解析出に伴い、また金属(B)のイオンの存在により、金属(A)が析出する際の粒子の結晶成長を妨げるとともに陰極上の金属(B)の粒子が金属(A)の粒子生成の核となり、微細な粒子の生成を促進させるように作用する。
また、電解水溶液中の陽極と陰極間に、銀/塩化銀の参照電極に対し陰極電極電位が−1V以下の電位となるように印加することにより、陰極上に微粒子の形成が促進されて、めっき状に金属が析出するのを防止できる。
(ロ)上記〈4〉、及び〈5〉に記載の金属微粒子の製造方法において、貴な金属(B)として、金、白金、パラジウム、イリジウム、銅、銀、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、及びスズから選択される1種を使用し、卑な金属(A)として金を除く金属から選択される1種であり、かつ金属(B)のイオンの析出電位よりも卑な電位で析出するイオンを形成する金属を使用することにより、金属(A)の濃度の高い微粒子を電解還元により効率よく製造することが可能になる。金属(A)として銅を使用し、金属(B)として銀を使用すると、銅の微粒子を一層効率よく製造することができる。
【0011】
(ハ)上記〈6〉に記載の金属微粒子の製造方法において、電解水溶液中に有機分散剤を含有させと、有機分散剤は電解水溶液中で析出した金属微粒子の少なくとも一部の表面を覆うように存在して、金属微粒子の凝集を防止して分散性を良好に維持するように作用する。
(ニ)上記〈7〉に記載の金属微粒子の製造方法において、電解水溶液中の陽極と陰極間に、20mA/cm以上の電流密度で通電することにより、金属(A)の微粒子の析出が促進される。
(ホ)上記〈8〉、及び〈9〉に記載の金属微粒子の製造方法において、陰極表面に表面活性の大きい金属からなる下地材を使用することにより、金属(A)の微粒子が析出し易くなる。下地材として貴な金属の中でも銀を使用するとより粒子径の小さい金属(A)の微粒子を製造することができる。
本発明によって、電解還元により析出する金属(A)が膜状に析出したり、析出した微粒子がデンドライト状に成長するのを抑制して、比較的均一なナノサイズの金属(A)の微粒子を低コストで形成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例2の電解還元で陰極である銀下地材上に析出した銀粒子と銅微粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例2の電解還元で陰極である銀下地材上に析出した銀と銅の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3の電解還元で陰極である下地材(金、白金、銀)上にそれぞれ析出した銀粒子と銅微粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】比較例3の電解還元で陰極である下地材(金、白金、銀)上にそれぞれ析出した銀粒子と銅粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の「金属微粒子の製造方法」を説明する。
本発明の「金属微粒子の製造方法」は、少なくとも金属(A)のイオンと金属(B)のイオンを含む電解水溶液中で陽極と陰極間に通電して、電解還元により金属(B)を析出させると共に金属(A)の微粒子を析出させる金属微粒子の製造方法において、
電解水溶液中で金属(B)のイオンと金属(A)のイオンのモル濃度比(B/A)が0.5以下であり、かつ金属(B)のイオンが金属(A)のイオンの析出電位よりも貴な電位で析出するイオンであり、
該電解水溶液中の陽極と陰極間に、銀/塩化銀の参照電極に対し陰極電極電位が−1V以下の電位となるように印加することにより、
該電解還元により陰極表面上に金属(B)を析出させて、より卑な金属である金属(A)の微粒子を前記析出した金属(B)上ないし金属(B)の近傍に析出させることを特徴とする。
本発明の「金属微粒子の製造方法」において、少なくとも、電解還元が行われる電解水溶液中に、以下に記載する微粒子を析出する金属(A)のイオンと、金属(A)の微粒子の析出を促進する金属(B)のイオンを含み、また、電解水溶液中に有機物分散媒等の添加剤を含有させることが好ましい。このような電解還元により、金属(A)のイオンを還元して一次粒子の粒子径が1〜150nmの範囲にある金属(A)の微粒子を析出させることが可能である。
尚、以下、本発明の電解還元において還元反応が行われる溶液を電解水溶液という。
【0014】
(1)金属(A)と金属(B)
電解還元において、金属元素が溶解したり、析出したりする電位はそれぞれ異なる。電解水溶液中である金属板を正極とすると、ある電圧以上で該金属は溶解して(酸化されて)イオンとなる。一方、金属板を負極にすると、溶液中でイオン化していた金属はある電位以上で電子を受け取って(還元されて)金属原子となり該負極に析出する。このイオン化したり、還元したりする電位は金属によって異なり、この電位は標準電極電位といわれる。この順序はイオン化傾向といわれ、イオン化しやすい金属を卑な金属、イオン化しにくい金属を貴な金属という。電解還元において、卑な金属は相対的に大きなマイナスの電圧をかけなければ還元されて析出することはない、一方、貴な金属は相対的に小さいマイナス電圧で還元されて析出する。
本発明において、金属(B)は金属(A)より貴な金属であり、金属(B)の具体例として、金、白金、パラジウム、イリジウム、銀、銅、スズ、鉄、ニッケル、コバルト、亜鉛から選択される1種を例示することができる。金属(A)は金属(B)よりは卑な金属であり、上記例示中においては最も貴な金属である金を除く金属から選択される1種であり、かつ金属(B)のイオンの析出電位よりも卑な電位で析出するイオンを形成する金属から選択することができる。前記金属(B)の中でも金、銀、又は白金が好ましく、銀が特に好ましい。前記金属(A)としては実用上銅が好ましい。
【0015】
(2)電解水溶液
電解水溶液を形成する金属(A)のイオンと、金属(B)のイオン、及び任意の成分である有機物分散媒とアルカリ金属イオンについて説明する。
尚、電解水溶液は水溶液、該水溶液にメタノール、エタノール等の親水性化合物を添加した混合溶液、及び親水性溶液が使用可能であるが水溶液の使用が好ましい。
(2−1)金属(A)のイオン
電解水溶液中で金属(A)のイオンを形成するイオン性化合物として、酢酸塩、硫酸塩、ピロリン酸塩、硝酸塩、シアン化金属等が挙げられるが、これらの中でも酢酸塩、硫酸塩等の使用が好ましい。金属(A)として銅を使用する場合には、具体例として、酢酸銅、硫酸銅、硝酸銅、ピロリン酸銅、シアン化銅等が挙げられるが、実用上酢酸銅(II)の1水和物((CHCOO)Cu・1HO)又は硫酸銅の5水和物(CuSO・5HO)の使用が特に望ましい。
電解水溶液中の好ましい金属(A)のイオン濃度は、0.01〜4.0 mol/L(又はmol/dm)である。該イオン濃度が0.01(mol/L)未満では、金属(A)微粒子の生成量が低減し電解水溶液からの収率が低下するという不都合を生じ、4.0(mol/L)を超えると生成される粒子間での粗大な凝集がおこるおそれがある。よリ好ましい銅イオン濃度は、0.05〜0.5モル(mol/L)である。
【0016】
(2−2)金属(B)のイオン
金属(B)のイオンは電解水溶液中で、金(B)のイオンが電解還元されて金属粒子が析出する際、及び金属(B)のイオンの存在により、金属(A)が金属微粒子として析出する際の微粒子の結晶成長を妨げるとともに陰極上の金属(B)の粒子が金属(A)の粒子生成の核となり、微細な粒子の生成を促進させるように作用する。
電解水溶液中で金属(B)のイオンを形成するイオン性化合物として、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、ピロリン酸塩、シアン化金属等が挙げられるが、これらの中でも硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩等の使用が好ましい。
電解水溶液中の金属(B)のイオン濃度は0.0001(mol/L)から0.1(mol/L)であることが好ましい。該イオン濃度が0.0001(mol/L)未満では上記金属(A)の微粒子形成を促進する効果が十分でなく、一方、該イオン濃度が0.1(mol/L)を超えると金属(A)の微粒子中に含有される金属(B)の粒子が増加して好ましくない。
(2−3)金属(A)のイオンと金属(B)のイオンのモル濃度比
電解水溶液中で、金属(B)のイオンと金属(A)のイオンのモル濃度比(B/A)は0.5以下であり、0.001から0.5であることが好ましい。該モル濃度比(B/A)が0.5を超えると金属(A)の微粒子中に含有される金属(B)の粒子が増加して好ましくなく、該モル濃度比(B/A)が0.001未満では上記金属(A)の微粒子形成を促進する効果が十分でない。
【0017】
(3)添加剤
(3−1)有機物分散剤
本発明の電解還元により金属微粒子を形成する際に、電解水溶液中に有機物分散剤を添加することが好ましい。有機物分散剤は、水に対して溶解性を有していると共に、電解水溶液中で析出した金属微粒子の少なくとも表面の一部を覆うように存在して、金属粒子の微粒子化を促進すると共に分散性を良好に維持する作用を有する。
有機物分散剤の添加量は、電解水溶液から析出する金属微粒子の濃度にもよるが、電解水溶液中の金属原子100重量部に対して、0.1〜500重量部が好ましく、5〜100重量部がより好ましい。有機物分散剤の添加量が前記0.1重量部未満では微粒子化を促進する効果が十分に得られない場合があり、一方、前記500重量部を超える場合には、電解水溶液中での分散性に不都合がなくとも、金属(A)の微粒子分散溶液を塗布後、乾燥・焼成して導電性の焼結金属を得る際に、過剰の有機物分散剤が、金属微粒子の焼結を阻害して、焼結金属の緻密さが低下する場合があると共に、有機物分散剤の焼成残渣が、導電膜又は導電回路中に残存して、導電性を低下させるおそれがある。本発明の有機物分散剤は上記分散作用を奏するものであれば、特に制限されるものではない。
【0018】
前記有機物分散剤としては、その化学構造にもよるが分子量が100〜100,000程度の、水に対して溶解性を有し、かつ電解水溶液で金属イオンから還元反応で析出した金属粒子の微粒子化を促進させることが可能なもので、かつ炭素原子、水素原子、酸素原子、及び窒素原子から選択された2種以上の原子からなる化合物(高分子化合物も含む)の分散剤が好ましい。
上記有機物分散剤として好ましいのは、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン等のアミン系の高分子;ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等のカルボン酸基を有する炭化水素系高分子;ポリアクリルアミド等のアクリルアミド;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、更にはデンプン、及びゼラチンの中から選択される1種又は2種以上である。
上記例示した有機物分散剤化合物の具体例として、ポリビニルピロリドン(分子量:1000〜500、000)、ポリエチレンイミン(分子量:100〜100,000)、カルボキシメチルセルロース(アルカリセルロースのヒドロキシル基Na塩のカルボキシメチル基への置換度:0.4以上、分子量:1000〜100,000)、ポリアクリルアミド(分子量:100〜6,000,000)、ポリビニルアルコール(分子量:1000〜100,000)、ポリエチレングリコール(分子量:100〜50,000)、ポリエチレンオキシド(分子量:50,000〜900,000)、ゼラチン(平均分子量:61,000〜67,000)、水溶性のデンプン等が挙げられる。
【0019】
(3−2)アルカリ金属イオン
本発明の電解還元により金属微粒子を形成する際に、電解水溶液中にアルカリ金属イオンを添加することが好ましい。アルカリ金属イオンの存在下に電解還元を行うと得られる金属(A)の微粒子のデンドライト化を抑制する効果が発揮される。
該アルカリ金属イオンとしてはリチウムイオン、ナトリウムイオン、及びカリウムイオンから選択される1種又は2種以上が例示できる。このようなアルカリ金属イオンの供給源としてフッ化物、塩化物、臭化物、沃化物、酢酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、ピロリン酸塩、及びシアン化物から選択される1種又は2種以上が挙げられる。電解水溶液におけるアルカリ金属イオン濃度は0.002〜1.0(mol/L)が好ましい。
【0020】
(4)電極
本発明の電解水溶液中で使用する陰極材料としては、特に限定されるものではないが白金、カーボン等の棒状、板状電極等の電極が例示でき、陽極としては、Cu、カーボン、白金等の棒状・板状・網状の形状電極が例示できる。
尚、陰極表面には金属(A)の微粒子の形成を促進する、表面形状に基づく表面活性の大きい金属からなる下地材を使用することが好ましい。このような下地材を形成する金属として貴な金属である金、白金、銀等が好ましく、これらの中でも銀がより好ましい。
陰極表面をこのような下地材で覆うことにより、金属(A)の結晶核生成の駆動力が小さくて済むことが期待できる。
【0021】
(5)電解還元条件
本発明の電解還元は、電解水溶液中の陽極と陰極間に、銀/塩化銀の参照電極に対し陰極電極電位が−1V以下の電位となるように印加する。該陰極電極電位が−1V以下の場合に電解還元で金属(A)が微粒子状で析出するが、該陰極電極電位が−1Vを超える場合には電解還元で金属(A)が陰極表面にめっき状態で析出する場合が多い。
また、電解水溶液中の陽極と陰極間に、20mA/cm以上の電流密度で通電することが好ましく、25〜200mA/cmがより好ましい。電流密度が20mA/cm未満では金属(A)の微粒子金属の析出速度が遅くなり歩留まりが低下する問題があると共に析出形態が膜状となり、ナノサイズの金属微粒子の生成量は減少する。
電解還元温度は、10〜70℃が好ましく、10〜40℃がより好ましい。電解還元温度は高温になるほど電解還元速度は速くなり、低温になるほど析出する粒子の粒子径は小さくなる傾向がある。電解還元開始後数秒から数分でナノサイズの微粒子が生成し、生成した粒子はその後電解水溶液中に沈殿する。
【0022】
(6)析出金属微粒子
上記電解還元で得られる金属微粒子の一次粒子の平均粒径の制御は、使用する金属(A)のイオン、金属(B)のイオン、これらの濃度、有機物分散剤、アルカリ金属イオンの種類、かく拌速度、温度、時間、pH等の調整により行うことが可能である。上記した電解還元により得られる金属微粒子は、一次粒子の平均粒径が好ましくは500nm以下、より好ましくは1〜500nm程度の範囲にあり、その形状は凝集性の少ない微粒子状である。
ここで、一次粒子の平均粒径とは、二次粒子を構成する個々の金属微粒子の一次粒子の直径の意味である。該一次粒子径は、電子顕微鏡を用いて測定することができる。また、平均粒径とは、一次粒子の数平均粒径を意味する。
【0023】
(7)金属微粒子の回収
上記電解還元終了後に、電解水溶液中に下記の凝集促進剤を添加して有機物分散剤の分散作用を減じ、粗金属微粒子を該水溶液中で沈殿(スラリー状の濃縮も含む)させると共に必要により水、又はアルコール溶液等で洗浄して回収、又は粗金属微粒子を該水溶液中で沈殿させて回収後に必要により水、又はアルコール溶液等で洗浄して、その表面が有機物分散剤で覆われた金属微粒子を得ることが出来る。以下に、前記した凝集促進剤について説明する。
このような凝集促進剤としては、酸化性物質、又はハロゲン化合物を例示することができる。前記酸化性物質としては、酸素ガス、過酸化水素、硝酸等が例示できる。
前記ハロゲン化合物としては、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化エチル、1,1−ジクロルエタン、1,2−ジクロルエタン、1,1−ジクロルエチレン、1,2−ジクロルエチレン、トリクロルエチレン、四塩化アセチレン、エチレンクロロヒドリン、1,2−ジクロルプロパン、塩化アリル、クロロプレン、クロルベンゼン、塩化ベンジル、o−ジクロルベンゼン、m−ジクロルベンゼン、p−ジクロルベンゼン、α−クロルナフタリン、β−クロルナフタリン、ブロモホルム、及びブロムベンゼンの中から選択される1種又は2種以上が例示できる。
また、陰極表面付近に析出した粒子を脱離、回収するために陰極に超音波振動等の揺動を与えることが可能な構造とすることもできる。
【実施例】
【0024】
以下に、参考例、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
金属微粒子を形成する金属イオンとして酢酸銅を使用し、銅より貴な金属として銀を使用して、以下に示す電解条件で定電位での電解還元を行い、電解水溶液から銅微粒子を析出させた。
(1)電解還元の条件
電解水溶液中に、酢酸銅((CHCOO)Cu・HO)0.1(mol/L)、硝酸銀0.005(mol/L)、有機分散剤としてポリビニルピロリドン(平均分子量:3500)5(g/L)、アルカリ金属イオンとして酢酸ナトリウム(CHCOONa)0.01(mol/L)を添加して電解還元により、銅微粒子を析出させた。
電極として、陰極に銀膜付きSi基板、陽極にTi/Ptメッシュ基板を使用した。
銀/塩化銀の参照電極に対し陰極電極電位を−1.5(V)とし、電解還元の時間は10分とした。
(2)結果
陰極上に銀粒子が析出し、該銀粒子上に微細な銅微粒子が形成されていた。電解還元時間が10分を経過すると形成された銅微粒子が電解水溶液中に沈殿していくことが確認され、銅微粒子を容易に回収することができた。回収された銅微粒子は略球状で、平均粒子径は0.1μm以下で、粒子径のバラツキは少なく、デンドライト状の粒子は観察されなかった。得られた銅微粒子中には少量の銀粒子が含まれていた。
【0025】
[比較例1]
硝酸銀を添加しなかった以外は、実施例1に記載したと同様の条件で、電解還元を行い、電解水溶液から銅粒子を析出させた。電解還元の結果、析出した銅粒子の平均粒子径が0.3μm以上と大きくなり、またナノサイズの微粒子の生成量も実施例1と比較して1/5程度に減少した。
【0026】
[実施例2]
金属微粒子を形成する金属イオンとして硫酸銅を使用し、銅より貴な金属として銀を使用して、以下に示す電解条件で電解還元を行い、電解水溶液から銅微粒子を析出させた。
(1)電解還元の条件
水溶液中に、硫酸銅(CuSO・5HO)0.1(mol/L)、硝酸銀を0.005(mol/L)、有機分散剤としてポリビニルピロリドン(平均分子量:3500)5(g/L)、及びアルカリ金属イオンとして硫酸ナトリウム(NaSO)0.01(mol/L)を添加して定電位での電解還元により、銅微粒子を析出させた。
電極として、陰極に銀膜付きSi基板、陽極にTi/Ptメッシュ基板を使用した。
銀/塩化銀の参照電極に対し陰極電極電位を−1.5(V)とし、電解還元の時間は10分とした。
(2)結果
陰極上に銀粒子が析出し、該銀粒子上に微細な銅微粒子が形成されていた。電解還元時間が10分を経過すると形成された銅微粒子が電解水溶液中に沈殿していくことが確認され、銅微粒子を容易に回収することができた。
回収された銅微粒子は略球状で、平均粒子径は0.1μm以下で、粒子径のバラツキは少なく、デンドライト状の粒子は観察されなかった。得られた銅微粒子中には少量の銀粒子が含まれていた。陰極上に析出した銀粒子と銅微粒子の走査型電子顕微鏡の写真を図1に示す。
図1から、陰極の銀下地材上に、図1の右上部に存在する比較的大きな銀粒子(粒子径:300nm程度)と、銅の微粒子(粒子径:50〜100nm程度)が下地材前面に析出している状態が観察される。
【0027】
[比較例2]
硝酸銀を添加しなかった以外は、実施例2に記載したと同様の条件で、電解還元を行い、電解水溶液から銅を析出させた。
電解還元の結果、銅が陰極下地材の全面に膜状に析出して、還元された銅が微粒子として殆ど析出しなかった。陰極上に析出した銀と銅の走査型電子顕微鏡の写真を図2に示す。
【0028】
[実施例3]
金属微粒子を形成する金属イオンとして硫酸銅を使用し、銅より貴な金属として銀を使用して、以下に示す電解条件で電解還元を行い、電解水溶液から銅微粒子を析出させた。
以下に示す電解条件で電解還元を行い、電解水溶液から銅微粒子を析出させた。
(1)電解還元の条件
水溶液中に、硫酸銅(CuSO・5HO)0.1(mol/L)、硝酸銀を0.005(mol/L)、有機分散剤としてポリビニルピロリドン(平均分子量:3500)5(g/L)、及びアルカリ金属イオンとして硫酸ナトリウム(NaSO)0.01(mol/L)を添加して定電位での電解還元により、銅微粒子を析出させた。
電極として、陰極にSi基板、陽極にTi/Ptメッシュ基板を使用した。なお陰極表面は下地材として金(Au)、白金(Pt)、及び銀(Ag)をそれぞれ使用して、陰極表面を覆った。銀/塩化銀の参照電極に対し陰極電極電位を−1.2(V)とし、電解還元の時間は20秒とした。
(2)結果
陰極表面に下地材として、金(Au)、白金(Pt)、及び銀(Ag)を使用し、上記電位でこれらの下地材上に析出した銀粒子と銅微粒子の走査型電子顕微鏡の写真を図3に示す。
下地材として、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)等の貴な金属で表面活性の大きい金属を使用した場合には銅微粒子の結晶核生成の駆動力が小さくてすむので、多くの銅微粒子が析出していることが観察された。
【0029】
[比較例3]
実施例3における、銀/塩化銀の参照電極に対し陰極電極電位−1.2(V)の代わりに−0.2(V)とした以外は、実施例3と同様にして電解還元を行い、電解水溶液から銅粒子を析出させた。
(2)結果
陰極表面に下地材として、金(Au)、白金(Pt)、及び銀(Ag)を使用し、上記電位でこれらの下地材上に金属粒子が析出した状態を図4にそれぞれ示す。
下地材として銀以外はいずれも銅微粒子の析出が十分でなかった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金属(A)のイオンと金属(B)のイオンを含む電解水溶液中で陽極と陰極間に通電して、電解還元により金属(B)を析出させると共に金属(A)の微粒子を析出させる金属微粒子の製造方法において、
電解水溶液中で金属(B)のイオンと金属(A)のイオンのモル濃度比(B/A)が0.5以下であり、かつ金属(B)のイオンが金属(A)のイオンの析出電位よりも貴な電位で析出するイオンであり、
該電解水溶液中の陽極と陰極間に、銀/塩化銀の参照電極に対し陰極電極電位が−1V以下の電位となるように印加することにより、
該電解還元により陰極表面上に金属(B)を析出させて、より卑な金属である金属(A)の微粒子を前記析出した金属(B)上ないし金属(B)の近傍に析出させることを特徴とする、金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記電解水溶液中で、金属(B)のイオン濃度が0.0001〜0.1(mol/L)であることを特徴とする、請求項1に記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記電解水溶液中で、金属(B)のイオンと金属(A)のイオンのモル濃度比(B/A)が0.001から0.5であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記金属(B)が金、白金、パラジウム、イリジウム、銅、銀、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、及びスズから選択される1種であり、金属(A)が金を除く金属から選択される1種であり、かつ金属(B)のイオンの析出電位よりも卑な電位で析出するイオンを形成する金属であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記金属(A)が銅であり、金属(B)が銀であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記電解水溶液中に有機分散剤が含有されていることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記電解水溶液中の陽極と陰極間に、20mA/cm以上の電流密度で通電することを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記陰極表面に表面活性の大きい金属からなる下地材を使用することを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記下地材が銀から形成されていることを特徴とする、請求項8に記載の金属微粒子の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−12653(P2012−12653A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149456(P2010−149456)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】