説明

金属微粒子分散膜、および金属微粒子分散膜の製造方法

【課題】金属微粒子を凝集させることなくシリコン酸化膜内に高密度に分散させた金属微粒子分散膜を製造する方法を提供する。
【解決手段】オルガノシランを、側鎖にヒドロキシル基もしくはアルコキシド基を残存させた加水分解および重縮合反応を行うことによりシリコン酸化膜を形成し、前記シリコン酸化膜を、酸性の塩化スズ水溶液と接触させ、次いで、前記シリコン酸化膜を金属キレートの水溶液と接触させることによって、シリコン酸化膜中に金属微粒子を分散させることを特徴とする金属微粒子分散膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子が高密度で分散された膜の製造方法に関するものである。
【0002】
本発明の方法によって得られた金属微粒子分散膜は、三次非線形光学膜やプラズモン導波路等の光学デバイスに好適に用いることができる。
【背景技術】
【0003】
近年のナノマテリアル技術の進歩とともに、様々なナノ粒子分散無機マトリックス複合材料についての研究が進められており、その応用分野は半導体から医療までと幅広い活用が期待されている。
【0004】
これまで、さまざまな金属ナノ粒子の作製方法が検討されてきた。その中でも古くから研究されてきた分野の一つとして、まず無電解めっきにおける触媒化処理用のPd等微粒子の非導電性物質表面への析出法が挙げられる。この技術は非導電性物質表面に、CuやNi等の金属めっき皮膜を形成するための方法であり、通常、以下の工程で行われる。
(1)洗浄工程
(2)表面調整工程
(3)触媒賦与工程
センシタイジング−アクチベーション処理、キャタリスト−アクセレータ処理、無電界めっき工程など。
【0005】
上記の技術において、工程(1)〜(3)を適用することによってシリカなどの無機物の表面に微細なPdやAg等の粒子を析出させることが可能である。しかし、これらの手法においては、Agイオンを含むアクチベータ液等にAgコロイド粒子を安定化させるための界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等)やAgコロイドを作製するための還元剤(水素化ホウ素ナトリウム、等)を添加する必要があり、試薬のコストや、安全性の確保、またこれら薬品の一部が不純物として残留するという問題がある。さらに、これの方法では、基板表面への粒子の析出現象を利用することから、基板表面に面状、すなわち2次元にしかAg粒子を存在させることができないという制限がある。
【0006】
一方において、無電解めっきの技術をコロイド化学と結びつけたナノ粒子作製技術の検討も行われている(非特許文献1)。ゾルゲル法によるいわゆるStoeber法と呼ばれる合成手法を用いて水溶媒中に直径200〜300nmのSiO2単分散コロイド粒子を予め作製する。この粒子の表面には未反応のOH基が存在する。コロイド溶液にSnCl2を酸と共に添加し、SiO2表面のOH基と反応させることで、Sn2+をSiO2単分散球の表面に化学吸着させる。これは先に述べた工程(3)におけるセンシタイジング処理に相当する。化学吸着させたSn2+を用いて、溶液中のAgイオンを還元する。これは上記工程(3)のアクチベーション処理に相当する。この方法によれば、低数密度であれば、数nmのAgナノ粒子をSiO2球の表面に作製することが可能である(非特許文献1)。
【0007】
また、すべての反応がコロイド溶液中で行われていることから、先に述べた工程(1)のような洗浄工程は必要ない。元々存在する未反応のOH基を適用することから上記(2)における表面調整工程も行う必要はない。さらにAgコロイドを作製するための還元剤や、安定化させるための界面活性剤も用いる必要がない。よってこの方法によれば、通常の無電解めっき工程を適用する場合と異なり、簡便な工程でAgナノ粒子を作製することが出来る。
【0008】
しかしながら、ゾルゲル法を用いる上述した方法においては、反応がSiO2球表面で進行するために、表面にしかAgナノ粒子を形成することができない。そのため、Ag析出量を増加させた場合は、Agナノ粒子同士の凝集が著しく起こるため、Ag粒子の直径が数十nm以上に達してしまうことを抑制できない。すなわち、これら従来の方法では、数nmのAgナノ粒子を高密度に分散させることは困難である。また、SiO2表面に2次元的にしかAgナノ粒子分散組織を形成することができない。
【0009】
さらに、特開2006−332046号公報(特許文献1)には、マトリックス材料中に金属ナノ粒子を含んだ光吸収層を備えた表示素子に関する技術が開示されており、金属ナノ粒子が光吸収層の容量の約5〜50%の量で存在する表示素子材料について記載されているが、その製造方法に着目すると、予め金属およびポリマーの溶液の分散液を形成し、次いでスピンコーティング等により基板に分散液を塗布する方法が記載されているだけである。
【特許文献1】特開2006−332046号公報
【非特許文献1】Y.Kobayashi, et al.,Chem.Mater.,13(2001)1630.
【非特許文献2】Y.Kobayashi, et al.,J.Colloid and Interf.Sci.,283(2005)601.
【非特許文献3】C.J.Brinker, G.W.Scherer, SOL-GEL SCIENCE The Physicals and Chemistry of Sol-Gel Processing, Academic Press. Inc. (1990)
【非特許文献4】作花済夫、「ゾル−ゲル法の化学−機能性ガラスおよびセラミックスの低温合成−」、アグネ承風社(1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、金属微粒子を凝集させることなくシリコン酸化膜内に金属微粒子を高密度に分散させた金属微粒子分散膜を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明に係る金属微粒子分散膜の製造方法は、オルガノシランを、側鎖にヒドロキシル基もしくはアルコキシド基を残存させた加水分解および重縮合反応を行うことによりシリコン酸化膜を形成し、前記シリコン酸化膜を、酸性の塩化スズ水溶液と接触させ、次いで、前記シリコン酸化膜を金属キレートの水溶液と接触させることによって、シリコン酸化膜中に金属微粒子を分散させることを特徴とする。
【0012】
本発明の好ましい態様においては、前記金属キレートの水溶液が、Ag(NH3)2キレート水溶液からなる。
【0013】
さらに、本発明の好ましい態様においては、前記オルガノシランが、テトラエトキシシラン(TEOS)からなり、前記シリコン酸化膜が、モル比で、TEOS:エタノール:HCl:H2O=1:10〜30:0.05〜0.2:5〜15を有する出発組成物を用いて製造される。
【0014】
さらに他の好ましい態様においては、本発明の製造方法は、上記の出発組成物からなる前駆体溶液をディップ法やスピンコート法で成膜した得られたシリコン酸化膜を、室温で24時間以上保持する工程を含む。
【0015】
さらに本発明の好ましい態様においては、前記塩化スズ水溶液が、トリフルオロ酢酸を含み、塩化スズとトリフルオロ酢酸のモル比が、1:2〜3であり、かつ、前記塩化スズ水溶液のpH値が3以下であり、さらに、前記銀塩とアンモニアのモル比が、1:2〜6であり、かつ、該Ag(NH3)2キレート水溶液が実質的に透明である。
【0016】
また、本発明の好ましい態様においては、上記本発明におけるすべての製造工程が実質的に非加熱下で行われる。
【0017】
本発明は、上記製造方法の他に、本発明の方法によって得られたAg微粒子分散膜であって、膜内にスズを含み、410nm〜430nmの範囲にプラズモン吸収のピークを有するAg微粒子分散膜を包含する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法によれば、金属微粒子を凝集させることなくシリコン酸化膜内に金属微粒子を分散させた金属微粒子分散膜を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
上述したように、本発明による金属微粒子分散膜の製造方法は、オルガノシランからゾルゲル法によって製造されたシリコン酸化膜であって、側鎖にヒドロキシル基もしくはアルコキシド基を残存させた加水分解および重縮合反応を行うことにより得られたシリコン酸化膜を用意し、前記シリコン酸化膜を、酸性の塩化スズ水溶液と接触させ、次いで、前記シリコン酸化膜を金属キレートの水溶液と接触させることによって、シリコン酸化膜中に金属微粒子を分散させることを特徴としている。
【0020】
金属微粒子を分散させるマトリクスとなるシリコン酸化膜はゾルゲル法によって調製されるが、この方法は一般にSiアルコキシドなどのオルガノシランを加水分解・重縮合反応によってシリコン酸化膜を得る方法である。
【0021】
本発明において、オルガノシランとしては、TEOS(テトラエトキシシラン)の他、TMOS(テトラメトキシシラン)やメチルトリメトキシシラン等のオルガノシランを用いることが可能である。このなかでも再現性のある安定した結果が得る観点からは、TEOSが最も好ましい。以下、TEOSを用いる場合を例にとって説明する。
【0022】
まず、石英ガラス等の基板上に酸触媒を用いてSiO2ゲル膜を形成する。出発原料組成物としては、モル比で、TEOS:エタノール:HCl:H2O=1:10〜30:0.05〜0.2:5〜15の範囲の組成物を用いることが特に望ましい。
【0023】
酸触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸等の酸が使用できるが、この中でも上記の組成で例示した塩酸がもっとも好ましい。まず、上記の組成範囲になるようにエタノールに純水および塩酸を加え、室温で10〜30分程度混合する。その後、TEOSを加え、室温で30分〜3時間ほど混合する。このようにして調製された前駆体溶液をディップあるいはスピンコートで、石英ガラス等の任意の基板表面に塗布する。
【0024】
塗布後、好ましくは、室温ないし常温下で24時間以上保持し、部分的な加水分解と重縮合反応を進行させる。酸触媒を用いて調製された膜は、塩基性触媒で調製した膜よりも細孔径が小さく緻密となる傾向がある。
【0025】
本発明においては、側鎖にOH基やOR基が多数残存した状態とすることが肝要である。一般に、塩基性触媒を用いた場合は加水分解が起こりにくいが、一旦反応が始まるとSi(OR)4は最後まで加水分解されてSi(OH)4となる。すなわち、図1(a)に示すように、重合可能な部位が4か所あり、よって重縮合は三次元的に進行し、架橋反応の著しい三次元重合体が生成しやすくなる。これに対して、酸触媒を用いた場合は、図1(b)に示すように、単量体が完全に加水分解を受ける前に重縮合が起こるので、架橋反応が生じる割合が少なく、線状の一次元的に発達した重合体が生成しやすくなる。本発明においては、酸触媒を用いるため、このような構造が形成されやすくなるものと推測される。
【0026】
このことに起因して、直線状の重合体が積層して膜を形成するために、膜に数nmの微細孔が発達し易い。この微細孔内部は、未反応のOH基やOR基が多数存在するために高い親水性を有することから、後述するSn2+を含む水溶液およびAg(NH3)2キレートを含む水溶液との接触によって、必要な成分がシリコン酸化膜中にすみやかに浸入することが可能となる。一方、上述したように、塩基性触媒を用いた場合は重縮合が三次元的に進む為に、架橋反応が進んだSiO2粒子内部のシロキサン骨格に存在するOH基やOR基の密度は、本発明のシリコン酸化膜内部と比べて少なくなり、そのために、上記の非特許文献2にみられるように、SiO2球内部でAgナノ粒子が多数析出するような挙動は認められない。また、三次元的にシロキサン結合が発達するため、塩基性触媒を用いた場合は丸みを帯びた粒子が生成しやすい。このように粒子状のゲルが積層された場合には、粒子間間隙に起因する比較的大きな細孔組織が発達しやすい傾向がある。
【0027】
このように、本発明の方法によれば、析出したAgナノ粒子は細孔内部に存在するために、表面と異なり容易に拡散することができず、結果として凝集が一層抑制される。
【0028】
上述したように、本発明の方法においては、上記出発組成物からなる前駆体溶液をディップ法やスピンコート法で基板上に成膜したのち、好ましくは、得られたシリコン酸化膜を、室温で24時間以上保持する。既に述べたように、本発明においては、側鎖にOH基やOR基が多数存在する構造を積極的に利用する。そのためには三次元的な構造が発達しないように重縮合反応速度を抑制するため、基板に作製したシリコン酸化物膜膜の熟成工程を室温、すなわち非加熱下で行うことが肝要である。一方、一次元的に発達した構造を形成させるためには、加水分解および重縮合反応もある程度進行させる必要があることから、そのために、熟成期間として、好ましくは24時間以上の室温での乾燥を行うことが好ましい。このような乾燥工程を進行させることによって、不要のアルコールや水が除去するとともに上述したような加水分解および重縮合反応を緩やかに進行させることができる。
【0029】
本発明においては、このようにして作製したシリコン酸化膜に酸性の塩化スズ水溶液を接触させることによって、膜にSn2+を化学吸着させる。出発原料は塩化スズでも塩化スズの水和物でもよい。塩化スズ水溶液には、トリフルオロ酢酸や塩酸等の強酸をSnイオンの解離率を促進させるために添加する。解離を促進させる目的のためには、強酸であるトリフルオロ酢酸が望ましい。この場合、塩化スズとトリフルオロ酢酸のモル比が、1:2〜3の範囲のものが好ましい。さらに、以下の反応を促進するために、pH値を、好ましくは3以下、特に好ましくはpH 2以下となるように水溶液を調製することが望ましい。
【化1】

【0030】
上記条件によってSn2+が効率的に生成するが、この時のSn2+濃度を0.15〜0.35mmol/Lとすることが特に好ましい。濃度がこれ以下の場合は、化学吸着すべきSn2+量が不足する傾向が生じ、一方、上限を超えると逆に目的としない反応が起こる可能性が生じる。
【0031】
次に、このようにして調製した水溶液中に基板ごと得られたシリコン酸化膜を浸漬する。これにより親水性の高い膜内の微細孔に作製した水溶液は容易に浸透し、壁面に多数存在するOH基等と反応することで、多数のSn2+が細孔壁に化学吸着する。このときの反応の模式図を図2に示す。接触(浸漬)に必要な時間は濃度や温度に依存するが、十分な反応が起こる為には5分〜3時間程度は必要である。化学吸着反応させた後、基板を取り出して水洗し、表面に付着した塩化スズ水溶液を完全に除去する。
【0032】
この場合、調製した塩化スズ水溶液を1日程度放置したままにすると、水溶液に劣化(酸化)が生じるので、同じ工程を同じ処理液を繰り返し用いて行う場合は、連続して行うことが好ましい。
【0033】
次いで、塩化スズ水溶液で処理したシリコン酸化膜を、さらに金属キレートの水溶液と接触させることによって、シリコン酸化膜中に金属微粒子を高密度に分散させる。
【0034】
分散させる金属は適宜目的に応じて、金、銀、白金、銅、ニッケル、コバルト、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、イリジウム等から選択され得る。本発明の好ましい態様においては、金属キレートの水溶液が、銀塩およびアンモニアを含む水溶液によって調製されたAg(NH3)2キレート水溶液からなる。以下、銀を分散析出させる態様について説明する。
【0035】
まず、この工程に用いるAg(NH3)2キレート水溶液を調製する。この場合の好ましい組成としては、蒸留水に銀およびアンモニアのモル組成比が1:2〜6となるように添加する。アンモニアの組成比がこれより少ない場合にはキレートとならずAgコロイドを生成する可能性がある。本発明者の知見によれば、水溶液が透明となりAgコロイドが生成しないアンモニア組成は最低でも1:2程度であることが確認されたが、組成比がこれ以下でもキレートが生成する限りにおいて、使用可能である。一方、1:6以上の高濃度にアンモニアを添加した場合には、副次生成物としてAgNH2,AgN3等、爆発性の物質が生成する可能性があるので好ましくない。Ag濃度は、0.25〜0.35mmol/Lの範囲に調製することが好ましい。この範囲より少ないと反応に時間がかかり、これ以上Ag量を多くしても反応は飽和しているので、経済的ではない。
【0036】
このようにして調製したAg(NH3)2キレート水溶液に、Sn2+を化学吸着させたシリコン酸化膜を浸漬させることによって両者を接触させる。先の工程と同様に、親水性の高いシリコン酸化膜内の細孔内に水溶液は容易に浸透し、下式に示すSn2+によりキレート化したAg+が還元される反応が起こる。このときの反応の模式図を図3に示す。
【化2】

【0037】
接触(浸漬)に必要な時間は濃度や温度に依存するが、十分な反応が起こるためには5分〜3時間程度は必要である。
【0038】
この反応より20nm以下、さらには、2〜8nm程度のAgナノ粒子がシリコン酸化膜の内部に多数析出することが確認された。なお、本処理液は、Agの析出反応が起こる限り繰り返して使用できるが、1日程度経過すると処理液の劣化が生じることから、同じ工程を同じ液を繰り返して用いて行う場合は、連続して行うことが望ましい。
【0039】
析出反応後、基板を水溶液から取り出し、表面に付着した水溶液を除去した後、乾燥することによって、図4の断面模式図に示すような、銀の微粒子1を凝集させることなくシリコン酸化膜2内に高密度に分散させた金属微粒子分散膜を効率的に得ることができる。
【0040】
上記二つの処理を行うことにより作成した本実施の形態の金属微粒子分散膜は、(1)図5に示すように、赤外分光法において3200〜3800cm−1および900〜1000cm−1にOH基によるピークが認められ、かつ(2)マトリクス膜には還元剤であるスズを含有することを特徴とする。さらに、触媒に起因するClが残存していることが好ましい。
【0041】
なお、3200〜3800cm−1および900〜1000cm−1における吸収は、下記非特許文献3および4に記述されているようにシラノール基或いは吸着水に起因するOH基の振動に起因するものである。
【0042】
図6を参照して後述するように、上記の工程によって得られたAg粒子分散膜は、410nm〜430nmの範囲にプラズモン吸収のピークを有することから、ナノレベルの銀微粒子が高密度かつ凝集することなく均一に分散されている。したがって、プラズモン導波路や非線形光学膜等の光学デバイスに好適に利用することができる。
【0043】
また、上述したように、本発明においては、すべての工程を非加熱下において行うことができるので、熱源による加熱やUV等の電離放射線の印加等の必要性がなく、エネルギー負荷の観点からも製造工程上すこぶる有利である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0045】
(実施例1)
まず、ゾルゲル法によってシリコン酸化膜を作製する。
【0046】
エタノール50mlに純水9.008g、および1mol/L塩酸水溶液5mlを、室温で30分程混合する。その後、TEOSを10.417g加え、3時間ほど混合する。本実施例の出発モル組成は、TEOS濃度が1M/Lエタノール溶液相当であり、他のモル組成はTEOS:H2O:HCl = 1:10:0.1である。
【0047】
(比較例1)
比較例として、塩基性触媒による前駆体溶液も調製した。エタノール50mlに純水1.8gおよび25%アンモニア水 4.1molを加え、室温で30分程混合した。次いで、TEOSを4.8g添加し、さらに3時間程度混合した。
【0048】
20×50×1tの石英ガラス基板は、水、エタノール、アセトンで洗浄した後、UVドライ洗浄を行ったあと、実験に供した。
【0049】
スピナーを使い、1000rpm×30sで調製した実施例1および比較例1の前駆体溶液を石英ガラス基板に塗布した。その後、室温で24h保持し、加水分解および縮重合反応を起こさせた。
【0050】
まず、Sn2+化学吸着処理用のSn水溶液を調製した。SnCl2・2H2O 0.05gを水10mlに溶解させた後、トリフルオロ酢酸を0.066g添加し1時間程度混合した。この溶液を0.2ml取り出し蒸留水19.8mlに加え30分ほど混合した。Snとトリフルオロ酢酸のモル比は1:2.5程度である。
【0051】
このSn水溶液20mlに石英ガラス上に作製した本発明および比較材のシリコン酸化膜を1時間ほど浸積した。膜に変色等の変化は認められなかった。
【0052】
試料を水溶液より取り出し、純水500ml中で水洗した後、更に1時間ほど純水中に浸積し、余分なSn水溶液を除去した。
【0053】
次いで、 Ag(NH3)2キレート水溶液を作製した。硝酸銀0.06gを純水10mlに溶解させた後、25%アンモニア水を3滴ほど滴下し、透明なAg(NH3)2キレート水溶液とした。この水溶液から0.2ml取り出し、蒸留水19.8mlに加えて10分ほど混合した。
【0054】
この水溶液にSn2+化学吸着処理を行った実施例1および比較例1のシリコン酸化膜を1時間ほど浸積した。5分ほどで膜は茶褐色に変色した。
【0055】
試料を水溶液より取り出し、純水500ml中で水洗した後、室温で24時間乾燥させた。乾燥後の本発明および比較材の外観観察図を行ったところ、明確に本発明の試料において、茶褐色の着色が強いことが観察された。これはAgナノ粒子の存在密度が多いことを示している。すなわち、Agナノ粒子の濃度が高くなることによって、吸収に起因する着色(茶褐色)が強くなることによるものである。一方、比較材は外観が非常に薄い茶色を呈しており、着色の程度が著しく小さいことから、Agナノ粒子の濃度が低いことがわかる。
【0056】
さらに、本発明によりシリコン酸化膜中に作製したAg粒子が、ナノサイズであるかをプラズモン吸収挙動から確認した。吸収スペクトル測定結果を図6に示す。有機溶媒中にコロイドとして存在する10nm程度のAgナノ粒子のプラズモン吸収は420nm程度にピークが観察されることが知られているが、本実施例においては410nm近傍に明確なプラズモン吸収が認められた。よって酸化物ではなく金属のAgナノ粒子が形成していると確認した。また、プラズモン吸収が410nmであることから、形成されているAgナノ粒子の粒径は、ほぼ球形であるならば直径10nm以下であると推察された。
【0057】
上記吸光スペクトルの測定は、JIS K0115に規定された吸光光度分析通則に従って行った。
【0058】
(実施例2)
実施例1と同様にして本発明のシリコン酸化膜を作製した。エタノール70mlに純水9.5g、および1mol/L硝酸水溶液6mlを、室温で30分程混合した。その後、TEOSを13g加え、3時間ほど攪拌した。
【0059】
20×50×1tの石英ガラス基板は、水、エタノール、アセトンで洗浄した後、UVドライ洗浄を行ったあと、実験に供した。
【0060】
スピナーを使い、1000rpm×30sで調製した本発明の前駆体溶液を石英ガラス基板に塗布した。その後、室温で48h保持し、加水分解および縮重合反応を起こさせた。
【0061】
次いで、Sn2+化学吸着用水溶液を調製した。SnCl2・2H2O 0.05gを水10mlに溶解させた後、トリフルオロ酢酸を0.08g添加し1時間程度混合した。この溶液を0.2ml取り出し蒸留水19.8mlに加え30分ほど混合した。
【0062】
このSn水溶液20mlに石英ガラス上に作製した本発明による膜を2時間ほど浸積した。膜に変色等の変化は認められなかった。
【0063】
試料を水溶液より取り出し、純水500ml中で水洗した後、更に1時間ほど純水中に保持し、余分なSn水溶液を除去した。
【0064】
次いで、 Ag(NH3)2キレート水溶液を調製した。硝酸銀0.08gを純水10mlに溶解させた後、25%アンモニア水を5滴ほど滴下し、透明なAg(NH3)2キレート水溶液とした。この水溶液から0.2ml取り出し、蒸留水19.8mlに加えて10分ほど混合した。
【0065】
この水溶液20mlにSn2+化学吸着処理をした本発明膜を2時間ほど浸積した。実施例1と同様に5分ほどで膜は茶褐色に変色した。この茶褐色の着色は上記実施例1の場合と同様であり、Agナノ粒子の存在密度が多いことを示していることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】使用する触媒の相違による重合体構造の相違を示す模式図。
【図2】シリコン酸化膜に形成された細孔内へのSn2+化学吸着反応の模式図。
【図3】シリコン酸化膜に形成された細孔内に化学吸着したSn2+がAg+を還元する反応の模式図。
【図4】本発明の実施形態におけるAgナノ粒子高密度分散シリコン酸化膜の断面模式図。
【図5】実施例におけるシリコン酸化膜の赤外分光法による測定結果。
【図6】実施例におけるAgナノ粒子高密度分散シリコン酸化膜の吸収スペクトル。
【符号の説明】
【0067】
1 銀微粒子
2 シリコン酸化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノシランを、側鎖にヒドロキシル基もしくはアルコキシド基を残存させた加水分解および重縮合反応させることによりシリコン酸化膜を形成し、
前記シリコン酸化膜を、酸性の塩化スズ水溶液と接触させ、
次いで、前記シリコン酸化膜を金属キレートの水溶液と接触させることによって、シリコン酸化膜中に金属微粒子を分散させることを特徴とする金属微粒子分散膜の製造方法。
【請求項2】
前記金属キレートの水溶液は、Ag(NH3)2キレート水溶液からなることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オルガノシランが、テトラエトキシシランからなり、前記シリコン酸化膜は、モル比で、テトラエトキシシラン:エタノール:HCl:H2O=1:10〜30:0.05〜0.2:5〜15を有する出発組成物を用いて製造されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記シリコン酸化膜の形成は、請求項3に記載の出発組成物からなる前駆体溶液をディップ法もしくはスピンコート法で成膜し、次いで前記シリコン酸化膜を、室温で24時間以上保持することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記塩化スズ水溶液が、トリフルオロ酢酸を含み、塩化スズとトリフルオロ酢酸のモル比が1:2〜3であり、かつ前記塩化スズ水溶液のpH値が3以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記Ag(NH3)2キレート水溶液は、前記銀塩とアンモニアのモル比が1:2〜6であり、かつ実質的に透明であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記金属微粒子は、金、白金、銅、ニッケル、コバルト、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、およびイリジウムからなる群から選択された少なくとも1種で形成されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
製造工程が非加熱下で行われることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
複数の金属微粒子と、
スズと、
互いに分散された前記金属微粒子、および前記スズを内部に含有するシリコン酸化物とを具備し、
赤外分光法において3200〜3800cm−1および900〜1000cm−1の範囲にピークを有することを特徴とする金属微粒子分散膜。
【請求項10】
前記シリコン酸化物は塩素を含有することを特徴とする請求項8に記載の金属微粒子分散膜。
【請求項11】
前記金属微粒子は銀で形成され、
410nm〜430nmの範囲にプラズモン吸収のピークを有することを特徴とする請求項8に記載の金属微粒子分散膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−239364(P2008−239364A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78838(P2007−78838)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】