説明

金属成品の瞬間熱処理法

【課題】金属成品の表面粗さを向上させ,表面層に均一なナノスケールの微細組織を確実に形成し,前記表面に摩耗によって消滅しない強固な表面層を形成する。
【解決手段】金属成品の表面に対し,近似粒度3種以上のショットを混合して高い噴射密度で間欠的に衝突させることで金属成品表面の急速な加熱と急冷を瞬時に繰り返し行い,金属成品の表面付近に均一な微細組織を形成させると共に,金属表面に微小径のディンプルを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工具類,機械部品などの金属成品の表面に対して行われる表面処理に関する。より詳細には金属成品の表面に対し近似粒度3種以上の研磨材ないし研掃材(本明細書において「ショット」という)を混合して高い噴射密度で間欠的に衝突させることで金属成品表面の急速な加熱と急冷を瞬時に繰り返し行い,金属成品の表面付近に均一な微細組織を形成させると共に,金属表面に微小径のディンプルを形成する効果を同時に得る金属成品の瞬間熱処理法に関する。
なお,本明細書において,粒度とは,平均粒子径の範囲を示す。
【背景技術】
【0002】
一般に,金属成品の表面を目的に適した性質にするために,種々の表面処理法が用いられている。
【0003】
特に,摩耗が激しい金属成品の摺動部,駆動部及びシール部,そして金属成品のうち特に摩耗しやすい刃具及び金型においては,該摺動部等の金属成品の表面の摩耗を防止するために,焼き入れ,浸炭,窒化等の熱処理方法によって金属成品の素材の硬度を向上させること,また,旋盤,フライス盤等の工作機械による切削,研削,研磨等の機械加工を施して金属成品の表面粗さを向上させていた。さらに,油浴法,飛沫法,滴下法,循環法,噴霧法等の給油法により,金属成品の摺動部等の表面に油膜を形成し,前記摺動部等の摩耗を防止しているが,これらの給油法において金属成品の表面に効果的に油膜を形成する方法を開発したり,あるいは油膜切れを防止するために潤滑油の成分を向上させたり,種々の開発が行なわれている。
【0004】
〔金属組織の微細化〕
金属成品の表面に対して上述した従来の焼入れにより高い表面硬度を得る表面熱処理について,最近では,金属成品の表面に対して瞬時に急加熱急冷を行うことで金属成品の表面内部の組織を微細化させ,金属成品の機械的強度を飛躍的に高める瞬間熱処理方法が提案されている。なお,金属の変形は転位の運動によって起こるが,金属の結晶粒を微細化するほど結晶粒界が増え,転位の動きを阻害するので硬くなることは知られている。
【0005】
前記金属表面に対する瞬間熱処理方法として,パルス焼入れが提案されている。これによると,薄い表面層が非常に短い時間(msオーダー)にγ化温度に加熱され,それに引続き周辺の材料により熱が奪われるので,特に冷却剤を用いなくても急速に冷却され,非常に微細な硬化組織を得ることができる。この他,鋳鉄を用いて潤滑摩擦を行い,摩擦熱により局部的に溶融した部分が急冷凝固することで相変態を経て,微細構造が得られることが確認されている。また,レーザ熱処理によれば,加熱冷却過程が急加熱急冷のため均一で細かなマルテンサイト組織が得られることが確認されている。さらに,高周波誘導加熱を利用して950〜1000℃×2秒で急加熱後,急冷する高周波焼き入れによって結晶粒を微細化することが提案されている。
【0006】
また,上述したパルス焼き入れによる瞬間熱処理の他に,金属成品の表面層の組織を微細化する瞬間熱処理として,金属の表面にショットを噴射し,ショットの衝突により金属成品の表面を瞬時に加熱すると共に常温への自己急冷作用により金属表面の組織をナノサイズまで微細化させる方法はすでに知られている。
【0007】
純鉄に対し,ショットの条件を粒径が50μm,噴射速度を毎秒190m,処理時間10秒としてショットピーニング処理することにより,表面から数μm〜数十μmの深さにおいて結晶粒径が100nm以下のナノ結晶に変化することが確認されている。SCr420浸炭焼入れ鋼に対して平均粒径が45μmのSKH59製粒子を空気圧0.5MPaで30秒投射することにより,表面近郊にナノ結晶組織が生成することが確認されている。
【0008】
また,純鉄に対して,粒径が50μmのショットを空気圧0.8MPaで処理時間100秒投射することで,表面近郊にナノ結晶が形成されることが確認されている。
【0009】
〔ディンプル形成〕
さらに,上述したショットの噴射による表面処理は,摩耗防止のために前述の金属成品の表面に効果的に油膜を形成させる方法として採用されている。詳しくは,金属成品の摺動部の表面に,金属成品の硬度と同等以上の硬度を有し且つ略球状を成すショットを噴射し,前記金属成品の摺動部の表面に油膜切れが生じにくい微小な略断面円弧状を成す無数の凹部(ディンプル)から成る油溜り(ミクロプール)を形成させる金属成品の摺動部の摩耗防止方法が提案されている(特許文献1)。
【0010】
また,ショットピーニングは,上述した結晶組織の微細化及びディンプル形成の他に,金属成品の表面にショットを噴射させたときの衝突による塑性変形により圧縮残留応力の発生に伴う成品表面の硬化,疲労強度の増加といった効果が得られることは知られている。
【0011】
また,上述したもの以外にも,金属成品の表面を改質する表面処理法として,素材金属に耐摩耗性を与えるために鏡面仕上げが行われている。また,耐酸化性,耐熱性,耐摩耗性,耐食性を与えるために,メッキ,セラミックスコーティングが行われている。最近では表面仕上げ後,PVD,CVDによるセラミックスコーティング,DLCコーティング等も利用されている。
【0012】
この発明の先行技術文献としては次のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3212433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら,前述した摩耗による劣化が激しい金属成品の摺動部,駆動部及びシール部,そして金属成品のうち摩耗しやすい刃具及び金型につき,従来の表面処理法では以下の問題点があった。
【0015】
金属成品の摺動部につき,摺動抵抗を下げるために鏡面仕上げにすると,油膜切れによりリンギング(鏡面接着現象)が発生して大きな抵抗となり,ノッキング(打音)が発生するという問題点があった。ここで,リンギングとは,ブロックゲージなどの端面が平滑な平面であるものを向き合わせて互いにすべらせながら押しつけると密着して容易には分離できない現象をいう。
【0016】
また,金属成品の摺動部の表面に対して効果的に油膜を形成させるために,前述のショットの噴射による微少(マイクロ)ディンプル形成によって油溜まり潤滑効果(ミクロプール効果)を付与しようにも,摺動速度の高速化や省エネ対策として低燃費化による油の粘度低下が油膜形成を困難なものとしている。
【0017】
金属成品の駆動部につき,浸炭焼入等を行った後,ショットピーニングを行って高強度化が可能となってきている。しかしながら,前述の低燃費の問題から油の粘度が下がり,油膜形成が困難となり,寿命の低下,音及び振動の発生等が大きな問題となっている。
【0018】
金属成品のシール部につき,特にシール面を構成するために接触する2面が回転運動や往復運動する場合,液体,気体等の漏れを防止するためには,接触する2面によって構成されるシール面における密閉性及び応答性が求められる。また,ネジ部やメタルタッチ部については,すきま腐食防止が求められている。従来は,前述のシール面を構成する2面について鏡面仕上げを行い,場合によっては前記鏡面仕上げ後にメッキやコーティングを施すことが行われていた。しかし,鏡面仕上げのため,リンギングが発生することでシール面を構成する2面間の応答性が悪化して,音が発生する問題がある。また,ネジ部やメタルタッチの場合,すきま腐食が発生して,ネジを緩めることができなかったり,バルブが錆ついて作動しなかったり,作動しても,元に戻らない問題が発生している。
【0019】
刃具においては,環境の問題から,切削油の水溶性化,使用量の低減や乾式加工が求められているが,これに伴い寿命の低下が問題となっている。一方,金型においては,燃費向上の目的から軽量化が求められている。そのため,鉄にマンガンやシリコンなどを加え,冷却工程で強度を強めた鋼板,所謂ハイテン材の使用量が多くなり,これにより金型の寿命低下がますます問題となっている。いずれもセラミックコーティングを施すことが一般的になっているが,コーティングだけでは剥離の問題もあり,限界となっている。
【0020】
〔金属組織の微細化〕
また,熱処理による金属組織の微細化につき,上述した瞬間熱処理法では,以下の問題点があった。
【0021】
まず,パルス焼き入れによる表面熱処理は,鋼種により得手不得手があるため用途が限定されてしまう。例えば,高周波表面焼入れは,主に炭素鋼に用いられるが,ステンレス鋼には逆効果となる。レーザ焼入れについても,特殊部品に限定される。
【0022】
これに対し,ショットの噴射による熱処理は鋼種を選ばない。しかし,処理対象成品が柔らかい場合,処理条件によってはナノ組織が形成されても表面が荒れてしまい実用化が困難となる。また,処理表面層全体の組織が均一にナノ組織化するとは限らないという問題点がある。
【0023】
なお,ショットピーニングにより比較的高硬度のSCr420浸炭焼入鋼の表面層にナノ結晶を形成する手段も提案されているが,表面から0.5μmの深さにおいて結晶粒が均一でないため,強さ(引張強さや降伏点)と靱性(伸び,絞り,衝撃値)等の機械的性質の向上が得られないという問題点がある。
【0024】
一方,上述した低燃費の問題から油の粘度低下により,前述の特許文献1に開示されている従来のショットの噴射により金属成品の表面に凹部からなる油溜りを形成しても油膜切れが生じることがあり,結果としてリンギングや,寿命の低下,音及び振動が発生することがあった。また,互いに摺動する面は初期の段階で大きく摩耗すること(以下,「初期馴染み」という。)が知られているが,従来のショットの噴射により処理された金属成品の表面はその表面粗さが比較的大きくなるため,この初期馴染みに時間を要し,さらに初期馴染みによる寸法変化が大きくなる場合があり,精度及び効率が悪くなることが確認されている。
【0025】
また,特許文献1に開示された従来のショット噴射によっても,金属成品の表面層の組織を微細化することができる(特許文献1「0017」欄)が,この微細組織の均一化が不十分で表面層において強固でない場合があるため摩耗によりディンプル形状が変形し時間経過により消滅することで,油膜を保持できないという問題点も生じ得ることが確認されている。
【0026】
これに対し,本発明は,上記従来技術における欠点ないし弱点を解消するためになされたものである。工程は,処理対象の金属成品に対し同等以上の硬度を有したショットを近似粒度3種以上混合し高い噴射密度で該金属成品の表面に対し間欠的に噴射させるという簡潔な工程である。その結果,表面粗さを向上させつつ,該金属成品の表面層に均一なナノスケールの微細組織を確実に形成させ,さらに,該金属成品の表面に摩耗によって消滅しない強固な無数の微小凹部を相対的に大きいものから小さいものまでランダムに形成させる(以下,「混合マイクロディンプル」という。)ことを可能とする。これにより,初期馴染みに要する時間を短縮して精度及び効率を高め,さらに,前記混合マイクロディンプルのうち特に小さいマイクロディンプルによる毛管作用により油の保持をより強力なものとし長期に渡って油膜切れを起こさず,金属成品について飛躍的に長寿命化,リンギング発生の防止等の効果を得ることができる瞬間熱処理法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
以下に,課題を解決するための手段を,実施形態の用語と共に記載する。これは,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0028】
上記目的を達成するために,本発明の瞬間熱処理法は,
研磨材として被加工物の母材硬度より高い硬度の略真球状の(JIS R6001) #100〜#800(平均粒径:149μm〜20μm),好ましくは,#280〜(#320,#360,#400)〜#500(平均粒径:73.5μm〜31μm)の範囲内で,3種以上の,近似するが,異なる粒度のショットを混合して,
実施形態では,4.8rpmで回転するバレル内の被加工物に対し,圧縮空気との混合流体として,噴射圧力0.3〜0.6MPa,噴射速度100〜200m/秒,噴射距離100mm〜250mmで,0.1〜1秒の間欠噴射をする。すなわち,0.1〜1秒の噴射を,好ましくは,0.5秒〜5秒の間隔をおいて反復噴射して,前記被加工物の表面に直径0.1〜5μmの無数の略円形の底面を有する微小凹部をランダムに形成することを特徴とする。
【0029】
前記間欠噴射は,少なくとも0.5秒〜1秒経過毎であることが好ましい。
【0030】
ショットの真球度は高いほど目的達成効果は高いが,略真球状であれば足りる。
【0031】
噴射圧力及び噴射距離は,前記粒度のショットが効率よく,前記噴射速度を得られる。前記被加工物の表面粗さを1μm(Ra;算術平均粗さ)以下に形成することができる。
【0032】
なお,算術平均粗さ(Ra)とは,粗さ曲線から,その平均線の方向に基準長さlだけ抜き取り,この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し,平均した値であり,以下の式で求める。
【数1】

【0033】
前記噴射圧力及び噴射距離は,前記近似粒度の3種のショットが効率よく,前記噴射速度を得られる。
【0034】
さらに,前記3種以上の,近似するが異なる粒度のショットは,ショット混合比が,それぞれ1:1:1が好適である。
【発明の効果】
【0035】
上述した瞬間熱処理法によれば,1秒以下の噴射によっても,粒度3種以上の混合ショットにより得られる高い噴射密度での衝撃力によって金属成品の摺動部の表面層の温度が瞬時に上昇して,摺動部の表面に無数の微小凹部が相対的に大きいものから小さいものまでランダムに形成される(混合マイクロディンプル)。そして,非噴射時間に前記加熱された金属表面が瞬時に空冷され表面層の組織はナノサイズまで微細化し,加えて上述の凹部形成により内部応力が高くなり高硬度で靱性に富む組織となる。さらに,高い噴射密度による間欠噴射を繰り返し行うことにより,処理表面全体で瞬時に急熱急冷が繰り返し行われ,表面層の組織がナノサイズまで均一に微細化される。
【0036】
また,前記微小凹部について,その底面は略円形を成し,径が0.1μm〜5μmに形成された。そして,処理品の表面粗さは,1μm(Ra)以下に形成された。
【0037】
従って,本発明による処理が施された金属成品の表面は従来よりも金属組織が均一に微細化したことから,該表面の強度及び靱性が向上し,耐摩耗性に優れ,耐食性についても著しく向上し,すきま腐食も発生しなくなる。
【0038】
また,本発明による処理により,金属成品の表面に,潤滑剤の他,固体,液体,気体溜りとして作用する微小な略断面円弧状を成す無数の径の異なるランダムな凹部(混合マイクロディンプル)が形成された。
【0039】
また,被加工物の表面粗さが1μm(Ra)以下に形成されることから,初期馴染みを短時間とし,寸法変化が少なく従来に比べ精度が高く,効率も良い。
【0040】
また,本発明により形成された混合マイクロディンプルは,前記凹部の底面が略円形を成し,径が0.1μm〜5μmであることから,潤滑剤,固体,液体,気体溜りとしての機能を発揮するだけでなく,前記混合マイクロディンプルのうち特に小さいマイクロディンプルによる毛管作用により潤滑油の保持をより強力なものとし油膜切れを防止する。また,シール部においては前記混合マイクロディンプルによるラビリンス効果により,漏れも無く,前出リンギングも発生しないので摺接動作も円滑である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施例の重力式ブラスト加工装置の全体図である。
【図2】本発明のブラスト加工処理中のショットが衝突する瞬間についてその処理断面を示す模式図である。
【図3】本発明のブラスト加工処理をした処理品の表面のディンプルの形状の模式図である。
【図4】本発明のブラスト加工処理をした処理品の断面形状の模式図である。
【図5】比較例1のブラスト加工処理中のショットが衝突する瞬間についてその処理断面を示す模式図である。
【図6】比較例1のブラスト加工処理をした処理品のディンプルの表面の形状の模式図である。
【図7】従来のブラスト加工処理をした処理品の断面形状の模式図である。
【図8】毛管半径と上昇高さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下,本発明の金属成品の瞬間熱処理法につき,詳細に説明する。
【0043】
〔噴射装置〕
本発明の瞬間熱処理法は,既知のブラスト装置によりショットを噴射して金属成品の表面に衝突させるものである。
【0044】
この空気式のブラスト装置としては各種の型式のものを使用することができるが,例えばショットの投入されたタンク内に圧縮空気を供給し,該圧縮空気により搬送されたショットを別途与えられた圧縮空気の空気流に乗せてブラストガンより噴射する直圧式のブラスト装置,タンクから落下したショットを圧縮空気に乗せて噴射する重力式のブラスト装置,圧縮空気の噴射により生じた負圧によりショットを吸引して圧縮空気と共に噴射するサクション式のブラスト装置等の各種のブラスト装置を使用することができる。
【0045】
〔ショット〕
本発明において使用されるショットは,処理対象の金属成品に対し同等以上の硬度を有し,JIS研磨材粒度が♯100〜♯800(平均粒径:149μm〜20μm)の範囲で目的に応じて近似粒度3種以上を混合したものを使用する。近似粒度とは,上記範囲内の粒度を言う。
【0046】
尚,本発明において使用するショットの,JIS R 6001に基づく粒度分布を以下に示す。粗粒の粒度は以下の表1による。
【0047】
【表1】

【0048】
拡大写真試験法による微粉の粒度分布は以下の表2による。
【0049】
【表2】

【0050】
さらに,本発明で使用するショットの規格の詳細を以下の表3−1及び表3−2に示す。
【0051】
【表3−1】

【0052】
【表3−2】

【0053】
〔噴射方法〕
噴射方法については,噴射圧力0.3MPa以上で,0.1〜1秒の噴射を好ましくは0.5秒〜5秒,より好ましくは,0.5〜1秒経過後毎に繰り返す間欠噴射を行う。
【0054】
以下,図面を参照して本願発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0055】
〔ブラスト装置〕
後述実施例1で使用する微粉用ブラスト装置は,微粉の研磨材をブラストする装置である。微粉はJIS規格(JIS R 6001)では#240〜#3000(平均粒径4.7〜87.5μm)の研磨材をいい,普通粒度の研磨材とは異なり,円錐形の山に積み上げてもさらさらと山の裾野へ流れていくことがなく,極端な場合には垂直に近い角度に積み上げられるほどに微粉同士の吸着性を有するものである。微粉用ブラスト装置は,タンク内の微粉をエアバイブレータによって撹拌と同時に振動を与えるなどして一定量の微粉が平均して噴射ノズルへ供給されるようにし,基本的には既知のブラスト装置とほぼ同じ構造を持つ噴射装置である。
【0056】
以下に,微粉用ブラスト装置について説明するために,図1の重力式ブラスト装置30について説明する。
【0057】
ブラスト装置30は被加工物Wたる金属成品を出し入れする出入口35を備えたキャビネット31内にショット等の研磨材を噴出するノズル32が設けられ,このノズル32に圧縮気体供給管44を連結し,この圧縮気体供給管44は図示せざる圧縮機に連通しており,この圧縮機から圧縮空気が供給される。キャビネット31の下部にはホッパ38が設けられ,ホッパ38の最下端は導管43を介してキャビネット31の上方に配置された回収タンク33の上方側面に連通し,回収タンク33の下端はショット供給管41を介して前記ノズル32へ連通される。回収タンク33内の研磨材は重力あるいは所定の圧力を受けて回収タンク33から落下し,前記圧縮気体供給管44を介してノズル32へ供給された圧縮空気と共にキャビネット31内へ噴射される。
【0058】
噴射された研磨材及びこのとき発生した粉塵は,キャビネット31の下部のホッパ38に落下し,導管43内に生じている上昇気流によって上昇して回収タンク内に送られ,研磨材が回収される。回収タンク33内の粉塵は回収タンク33内の気流によって回収タンク33の上端から排出管42を介して図示せざるダストコレクタへ導かれ,図示せざるダストコレクタの底部に集積され,清浄な空気が図示せざるダストコレクタの上部に設けられた図示せざる排風機から放出される。
【実施例1】
【0059】
直径4mm,長さ50mmの減速機用ニードルローラの金属成品に対して,ブラスト加工を施した。実施例1のブラスト加工装置及び該装置で実施したブラスト加工条件は,表4−1のとおりである。
【0060】
【表4−1】

【0061】
比較例1は,粒度♯300(63μm〜52μm)のアルミナシリカビーズのショット一種のみを使用し,固定したノズルで連続噴射処理を実施したものである(他は実施例1と同条件)。比較例1のブラスト加工装置及び該装置で実施したブラスト加工条件を以下の表4−2に示す。
【0062】
【表4−2】

【0063】
比較例1においては,ノズルを固定することにより,同じ箇所に1秒以上噴射することとなるため,熱保持され,常温までの急冷ができない。
【0064】
回収タンク33内には,研磨材として被加工物Wたる減速機用ニードルローラの母材硬度より高い硬度である約800Hvのアルミナシリカビーズで成るショットを用い,JIS研磨材粒度♯300〜♯400(粒径:63μm〜38μm)の範囲内で異なる粒度3種以上を前記表4−1のとおりの混合比にて,投入されている。なお,この研磨材は,略真球状で,真球に近ければ近いほど効果的である。
【0065】
400個の金属成品の減速機用ニードルローラを出入口35からキャビネット31内のバレル(容器,槽)中に投入し,該バレルを毎分4.8回転の速度で回転させ,前記混合ショットをノズル32より噴射圧力0.45MPa,噴射速度150m/秒,噴射距離200mmにおいてバレル内で反転する減速機用ニードルローラへ噴射する。
【0066】
なお,バレルは横断面8角形を成す篭状の容器である。また,噴射に際し,前記ノズル32を移動させる。このノズルの移動は,ノズルを噴射方向左右に100mm/分の振幅で往復移動させ,ノズルの1往復の移動を1回として,この移動を60回/分として左右に行う。ノズルの移動及び移動速度,バレルの回転及び回転速度から間欠的な噴射となる。
【0067】
また,噴射については,実施例1では,0.5秒の噴射を,0.5秒の非噴射時間を介在させて,間欠的に反復して行う。なお,超硬チップの場合は,一定の治具に任意の超硬チップを固定して,図示せざる前記圧縮機からノズル32に連通する圧縮気体供給管44に設けた図示せざる電磁弁の開閉動作を制御するタイマー機構などにより,自動制御するなど既知の手段を採用して,このような間欠噴射を実施することができる。
【0068】
上記の条件でブラスト加工された減速機用ニードルローラの摺動部の表面付近の温度は上昇し,金属成品の摺動部の表面に略断面円弧状の無数の微小凹部が相対的に大きいものから小さいものまでランダムに形成され,且つ摺動部の表面層の組織についてその結晶粒がナノサイズまで均一に微細化し内部応力が高く高硬度で靱性に富む組織を得た。
【0069】
実施例1においては,後述する実施例1と比較例1の対比(表4−3)に示すように良好な結果が得られた。すなわち,ショットの衝突前と衝突後の速度の変化は,金属成品及びショットの硬度により異なるが,衝突後の速度は低下する。この速度の変化はエネルギー不変の法則により,音以外にその大部分は熱エネルギーに変換される。熱エネルギーは衝突時に衝突部が変形することによる内部摩擦と考えられるが,ショットの衝突した変形部分のみで熱交換が行われるので部分的には高温になる。
【0070】
つまり,ショットにより変形して温度上昇する部分の重量は,ショットの衝突前の速度に比例して大きくなるが,金属成品の全体重量に対する比率は小さいものであるので,温度上昇は金属成品の表面付近に局部的に生じることになる。
【0071】
本実施例1の場合,1秒以下の噴射によっても,粒度3種以上の混合ショットによる高い噴射密度での衝撃力によって金属成品の摺動部の表面層の温度が瞬時に上昇して,金属成品が高炭素クロム鋼などの鉄−炭素系鋼は母材のA3変態点以上に達し,金属成品の摺動部の表面層の金属組織に対し,ほぼ球状を成す異なる粒度3種以上の混合ショットの衝突により,摺動部の表面に無数の微小凹部が相対的に径の大きいものから小さいものまでランダムに形成される。そして,金属表面は加熱されているので,非噴射時間に瞬時に空冷され表面層の粗大組織はナノサイズまで微細化し,加えて上述の凹部形成により内部応力が高くなり高硬度で靱性に富む組織となる。さらに,このような高い噴射密度による間欠噴射を繰り返し行うことにより,処理表面全体で瞬時に急熱急冷が繰り返し行われ,表面層の組織が均一にナノサイズまで微細化される。
【0072】
図2は,前記実施例1の表面に対しショットが衝突する瞬間を示す断面図で,図3はショット後の前記実施例1の表面のディンプルの形状を示すものである。また,図5は前記比較例1の表面に対しショットが衝突する瞬間を示す断面図で,図6はショット後の前記比較例1の表面のディンプルの形状を示すものである。
【0073】
実施例1と比較例1を比較すると,異なる粒度3種以上が混合されたショットを投射した実施例1による処理の方が高い噴射密度が得られていることが分かる。これは,相対的に粒径が大きいショット同士の隙間に相対的に粒径が小さいショットが入り込むことで可能となっている。
【0074】
上述のようにJIS研磨材粒度分布3種類以上を混合して噴射することにより高い噴射密度で衝突すると,瞬時に最表面が急熱となる。そして,この混合ショットの噴射について1秒以下の噴射を0.5秒〜5秒の非噴射時間,より好ましくは,0.5秒〜1秒の経過後毎に反復して行うと,急熱急冷が瞬時に繰り返し行われ,表面組織を均一にナノ結晶化することが可能となる。
【0075】
また,図4は前記実施例1の表面に対するショット噴射後の断面図を示すもので,図7は前記比較例1の表面に対するショット噴射後の断面図を示すものである。
【0076】
比較すると,実施例1の表面には略断面円弧状の無数の微小凹部が相対的に大きいものから小さいものまでランダムに形成され(混合マイクロディンプル),加えて,比較例1と比較し表面粗さが向上している。前記混合マイクロディンプルの形成は,JIS研磨材粒度分布3種類以上のショットを混合して噴射することによる。
【0077】
なお,実施例1の表面には略断面円弧状の無数の微小凹部が相対的に大きいものから小さいものまでランダムに形成されていることは図3からも確認でき,前記凹部の長辺は略円形を成し,径は0.1μm〜5μmとなっている。後述するディンプルによる毛管作用については,図8のグラフに示すように,液体が毛管現象により毛管を上昇する上昇高さは毛管半径に反比例する。特に,毛管半径が1μm〜0.1μmの間にかけて,上昇高さが著しく増加する。
【0078】
また,実施例1の表面粗さが比較例と比べて向上した理由は,混合ショットのうち小さいショットによるピーニング加工により研磨作用が働き,結果として,良質な表面層を得ることができたものと考えられる。また,所定時間間隔をおいた極短時間の噴射時間の反復噴射により過度に表面を荒らすことがないこともその一因と考えられる。
【0079】
ここで,実施例1に形成されたディンプルの作用について詳述すると,通常,略断面円弧状の無数の微小凹部が形成された金属の表面に潤滑油を給油すると,潤滑油は表面張力により前記断面円弧状の各凹部の表面で油玉となる。そして,金属の表面には微小な断面円弧状の凹部が無数に形成されているので,各凹部の隣接する油玉が互いに連結し,全体として摺動部全面に安定した油膜が形成される。
【0080】
しかし,表面粗さが大きく,潤滑油が低粘度油であるほど,摺動の際に表面に加わる面圧によって凹部から潤滑油が流出しやすく,油膜を維持することができない。
【0081】
これに対し,実施例1の表面粗さは比較例に比べ改善されており,さらに実施例1の表面に形成された大から小までの混合マイクロディンプルのうち小マイクロディンプルにおいては毛管作用が働くことで,潤滑油の油膜を長期に渡って保持することができる。したがって,実施例についてその摺動部を摺動し面圧をかけても各凹部から潤滑油が流出せずに,長時間の摺動に対しても油膜切れが生じにくくなる。
【0082】
また,実施例1は表面粗さが向上していること及び表面層が強固な均一微細組織であることから前記初期馴染みが短時間で行われるので寸法変化が少なく精度が高く,効率も良く,さらに,摩耗によって前記混合マイクロディンプルが消滅しない。
【0083】
一方,比較例1は,図4と図7を比較すると分かるように,実施例1に比べ表面が粗く,さらに,比較例1は,実施例1のように大から小まで混合マイクロディンプルが形成されずそのうちの小マイクロディンプルによる毛管作用が得られないことから,油の低粘度化により,表面を摺動し面圧をかけた場合,各凹部から潤滑油が流出し油膜切れが発生し,これに伴うノッキング,リンギングが起こりやすくなる。
【0084】
また,比較例1については,図2と図5を比較すると分かるように,粒度が1種類のショット噴射では噴射密度に限界があり,局所的に再結晶温度以上に加熱することは可能であっても,再結晶温度以上に加熱されない部分においては粗大な結晶粒が残存してしまう。また,比較例に対しては,ショットの噴射を連続して行うので,処理表面の一部組織では,再結晶温度以上に加熱されても瞬時の急冷が行われずに,放冷の間に再結晶により新たに生成された結晶粒が成長し粗大化する。従って,比較例1の処理表面の一部において瞬時の急熱急冷による再結晶が行われないことから粗大な結晶粒が残存し,表面組織全体が安定して均一にナノ結晶化しない。
【0085】
以上より,比較例1は,表面組織の強度が低く,さらに上述した通り表面が粗いために,初期馴染みの寸法変化が大きく精度が悪くなるうえ,馴染むのに時間を要することから効率も悪い。さらに,表面組織が強固でないためディンプルの形状が摩耗により変形し時間経過により消滅すると,油膜を維持することがより困難となる。
【0086】
実施例1の処理が非常に効果的であることは,減速機用ニードルローラの比較例と実施例とを比較することにより明確である。両者の比較を表4−3に示す。
【0087】
実施例1の条件〔表4−1〕で実施したものと,ショットについて粒度♯300(63μm〜52μm)のショット一種のみを使用し,所定時間間隔をおいた反復噴射をせずに,ノズルを固定して連続噴射処理を実施した比較例1(他は実施例1と同条件)を比較すると,それぞれの摺動部の表面層の組織状態は,ともに表面層の組織が微細化されているものの,実施例1においてはその表面層の組織がナノサイズまで均一に微細化されているが,比較例1においては微細化が均一に行われていないことが認められる。また,表面については,ともに微小凹部(ディンプル)が形成されているが,実施例1においては無数の微小凹部が直径0.1μm〜0.5μmにおいて,相対的に大きいものから小さいものまでランダムに形成され,さらに表面粗さが向上していることが認められる。比較例1と実施例1の比較結果を以下の表4−3に示す。
【0088】
【表4−3】

【0089】
なお,摩耗試験方法は,比較例1と実施例1をそれぞれ実際の機械に装着し,3800rpmの回転速度で回転した。潤滑油は,低粘度マシンオイルである。
【0090】
表4−3の摩耗試験の結果をみると,実施例1は表面粗さが向上され,表面硬度及び表面内部応力が比較例1に対して高く,比較例1は200時間の摩耗試験で異常摩耗となったが,実施例1は400時間経過しても摩耗していなかった。つまり,実施例1については均一なナノ結晶組織が表面を強固なものとし,長時間におよぶ摩耗試験においても混合マイクロディンプルの形状が維持され,さらに混合マイクロディンプルの中でも比較的小さいディンプルによる毛管作用によって油膜維持が長期間なされたことを裏付けている。
【0091】
これに対し,比較例1は表面が粗く,また微小ディンプルによる毛管作用が発生しないので,低粘度マシンオイルでは,表面の油膜を保持することができない。加えて,噴射密度に限界があり,さらに所定時間間隔をおいた反復噴射が行われないことから,比較例1の処理表面の一部において瞬時の急熱急冷による再結晶が行われず粗大な結晶粒が残存し,表面組織全体が安定して均一に微細化しないために表面組織が強固でないことからディンプルの形状が摩耗し,油膜維持がなされなかったことが,異常摩耗の発生原因となったことが分かる。
【0092】
また,実施例1は油温の上昇も比較例1に比較して5℃低く,試験中も音が静かであった。このことからも,実施例1は初期馴染みによる熱の発生が少なく,さらに混合マイクロディンプルの形状も最後まで維持され油膜が保持されていたことを裏付けている。
【0093】
また,実施例1の表面粗さは比較例1の表面粗さよりも向上されている。従って,実施例1は十分実用的であることが分かる。
【0094】
以下,他の実施例について,ブラスト加工装置及び該装置で実施したブラスト加工処理条件と,各比較例についての比較を次表以下に示す。
【実施例2】
【0095】
実施例2では,直径50mm,長さ600mmの工作機械スプライン軸の金属成品に対して,1工程にてブラスト加工を実施した。なお,噴射処理に際し,ここでは,ターンテーブルを12回転/分の速度で回転させた。実施例2のブラスト加工装置及び該装置で実施したブラスト加工条件は以下の表5−1のとおりである。
【0096】
尚,以下の表における「1方向」とは,X軸の任意の一直線の軌跡の1往復を意味する。実施例2ではこのX軸に対して120°異なる角度で3方向に噴射する。
【0097】
【表5−1】

【0098】
一方,比較例2はショットについてハイスビーズ;粒度♯300(74μm〜53μm)のショット一種のみを使用し,処理は所定時間間隔をおいた反復噴射ではない,連続噴射処理を直圧式ブラスト装置,重力式ブラスト装置の2段加工により行った。比較例2のブラスト加工装置及び該装置で実施したブラスト加工条件を以下の表5−2に示す。
【0099】
【表5−2】

【0100】
比較例2では,ノズル移動が10往復/分,ターンテーブルの回転速度が3回転/分であることにより,同じ箇所に1秒以上噴射することとなるため,熱保持され,常温までの急冷ができない。
【0101】
比較例2と実施例2の比較結果を以下の表5−3に示す。
【0102】
【表5−3】

【0103】
摩耗試験方法は比較例2と実施例2をそれぞれ実際の機械に装着し,300mmの距離を800mm/秒の速度で往復作動させた。また,潤滑油としてマシンオイルを使用した。
【0104】
結果は表5−3の通りである。比較例2は300時間経過後,スプライン軸の表面に異常摩耗が発生したが,本実施例2は400時間経過しても摩耗しなかった。
【0105】
上述したように工作機械は高速化が求められているが,高速とした本摩耗試験において比較例2は,初期馴染みに時間を要し,焼付が発生し,異常摩耗が発生したものと考えられる。一方,実施例2は表面粗さを比較例2に対しRaで0.1μm良くしたことが初期馴染み時間を短くし,さらにマイクロディンプルによる毛管作用も発生して油膜が切れなかったものと考えられる。また,比較例よりも,最表面の組織が微細化し,緻密化することにより耐摩耗性が向上したものと考えられる。
【実施例3】
【0106】
実施例3では,直径100mm,厚み30mmのエンジン用ギヤに1工程にてブラスト加工を実施した。噴射処理の際,ターンテーブルを6回転/分の速度で回転させた。実施例3のブラスト加工装置及び該装置で実施したブラスト加工条件は以下の表6−1のとおりである。
【0107】
【表6−1】

【0108】
一方,比較例3は,1段目は直圧ブラストで圧力0.5MPa,スチールビーズ♯300(74μm〜53μm),2段目は重力ブラスト機で圧力0.5MPa,アルミナシリカビーズ♯300(63μm〜52μm)の2段加工を行った。なお,所定時間間隔をおいた反復噴射をせずに連続噴射処理を行っている。比較例3のブラスト加工装置及び該装置で実施したブラスト加工条件を以下の表6−2に示す。
【0109】
【表6−2】

【0110】
比較例3では,ノズル移動が30回/分,ターンテーブルの回転速度が3回転/分であることにより,同じ箇所に1秒以上噴射することとなるため,熱保持され,常温までの急冷ができない。
【0111】
比較例3と実施例3の比較結果を,以下の表6−3に示す。
【0112】
【表6−3】

【0113】
本摩耗試験方法は,比較例3と実施例3をそれぞれ実際のエンジンに装着し,6000rpmの回転速度で回転した。また潤滑油は,従来のものより粘度を低くしたミッションオイルである。
【0114】
比較例3は100時間経過後表面にピッチングが発生し摩耗していたが,実施例3は200時間経過してもピッチングがなく摩耗していなかった。また,実施例3の表面には初期馴染み後の微細な混合マイクロディンプルが形成されたまま残っていたことから毛管作用が発生して油膜が切れなかったものと考えられる。
【実施例4】
【0115】
実施例4では直径20mm,厚み3mmの圧力調整弁にブラスト加工を実施した。なお,実施例4は研磨後にブラスト加工を行った。また,噴射に際し,ターンテーブルを40回転/分の速度で回転させた。実施例4のブラスト加工装置及び該装置で実施したブラスト加工条件は以下の表7−1のとおりである。
【0116】
【表7−1】

【0117】
一方,比較例4は,実施例4で使用したものと同様の圧力調整弁に,研磨後,ラップ盤を使用してラップ仕上げを行ったものである。
【0118】
比較例4と実施例4の比較結果を,以下の表7−2に示す。
【0119】
【表7−2】

【0120】
摩耗試験の結果は,比較例4は,寿命の問題と,環境の悪い状況ではすきま腐食による作動不良の問題等が発生していたことはすでに知られている。この比較例4は,10万回で摩耗した。実施例4は10万回では摩耗しなかった。引き続き,実施例4では100万回実施したが,摩耗は発生しなかった。また,反応性も比較例より良好で音も静かであった。また,キャス試験(JIS H8502 7.3に準拠)を行ったところ,耐食についても良好であった。これは,最表面の組織の微細化により耐食性が向上したことを裏付けている。
【実施例5】
【0121】
実施例5では,直径50mm,高さ30mmのプリン用金型にブラスト加工を実施した。また,噴射の際,ターンテーブルは12回転/分の速度で回転させた。実施例5のブラスト加工装置及び該装置で実施したブラスト加工条件は以下の表8−1のとおりである。
【0122】
【表8−1】

【0123】
一方,比較例5は,実施例5と同様のプリン用金型を手磨きで研磨したものである。
【0124】
比較例5と実施例5の比較結果を,以下の表8−2に示す。
【0125】
【表8−2】

【0126】
初期馴染み後しばらく支障はないが,すぐに離型性が悪くなり型寿命となり,不良品が出ていた。実施例5は最初から離型性が良く,従来の2倍の時間経過後も,離型性も良好で耐食性も良好であった。本実施例は研磨無しで,ブラスト加工のみで良好な結果となった。
【実施例6】
【0127】
実施例6では,転造で製造した長さ20mmのM8ステンレスボルトにブラスト加工を実施した。なお,噴射に際し,バレルカゴを4.8回/分の速度で回転させた。実施例6のブラスト加工装置及び該装置で実施したブラスト加工条件は以下の表9−1のとおりである。
【0128】
【表9−1】

【0129】
一方,比較例6として,転造のみで製造したステンレスボルトを用いた。
【0130】
比較例6と実施例6の比較結果を,以下の表9−2に示す。
【0131】
【表9−2】

【0132】
従来の転造のみで製造したステンレスボルトである比較例6及び上記の通りブラスト加工を実施したステンレスボルトである実施例6を屋外のステンレスポンプに使用した。約1年位でメンテナンスのため分解しようとすると,転造のみの比較例6については,すきま腐食が発生しているため分離が困難であった。本実施例では,1年後にはまったくサビの発生が認められなかった。メンテナンス終了後,再度ステンレスボルトの使用が可能となった。これは,本実施例の表面組織が微細化し耐食性が向上したことを裏付けている。
【実施例7】
【0133】
実施例7では,直径250mm,厚み1mmのメタルソーHSSにブラスト加工を実施した。噴射に際して,ターンテーブルを3回転/分の速度で回転させた。実施例7のブラスト加工装置及び該装置で実施したブラスト加工条件は以下の表10−1のとおりである。
【0134】
【表10−1】

【0135】
なお,比較例7については,♯300(63μm〜52μm)のアルミナシリカビーズを,固定したノズルで連続噴射する他は,実施例7と同じ噴射条件である。比較例7のブラスト加工装置及び該装置で実施したブラスト加工条件を以下の表10−2に示す。
【0136】
【表10−2】

【0137】
比較例7では,ノズルを固定することにより,同じ箇所に1秒以上噴射することとなるため,熱保持され,常温までの急冷ができない。
【0138】
比較例7と実施例7の比較結果を,以下の表10−3に示す。
【0139】
【表10−3】

【0140】
耐久試験は,高速度鋼(SKH)製の油圧ポンプのブレードの切断にて行った。比較例7は1000個の切断で切れなくなったが,実施例7は1,500個の切断が可能であった。刃先の摩耗も少ない為再研磨回数が3〜4倍になった。実施例7は研磨バリの除去が良好で,表面粗さは,比較例7と同等であるが,表面の内部応力が高くなっているのは,組織の微細化によるものと考えられる。また,表面粗さでは差がないが,表面を手で触った感触は,実施例7の方が,滑りが良く感じられた。
【実施例8】
【0141】
実施例8では,直径20mm,長さ200mmの絞りパンチにブラスト加工を実施した。なお,本実施例は研磨後,ブラスト処理を行い,さらにペーパーラップ後,PVDコーティングを行った。また,噴射に際し,ターンテーブルを12回転/分の速度で回転させた。実施例8のブラスト加工装置及び該装置で実施したブラスト加工条件は以下の表11−1のとおりである。
【0142】
【表11−1】

【0143】
一方,比較例8は,実施例8と同様の絞りパンチを手動バフ仕上げで研磨し,ペーパーラップ後,PVDコーティングを行った。
【0144】
比較例8と実施例8の比較結果を以下の表11−2に示す。
【0145】
【表11−2】

【0146】
摩耗試験は,パイプの絞り加工を行った。比較例8は,30,000個で焼き付きが発生し,パンチが異常摩耗する。実施例8は330,000個加工可能となり焼き付きの発生が少なく,溶着部を再研磨して使用可能となり,大幅なコストダウンができた。また,表面の内部応力が2倍以上になっていることから超硬の表面組織の微細化による効果と,コーティングとの密着力の効果,また,表面に均一に形成された混合マイクロディンプルが潤滑剤の保油性に大きく影響したものと考えられる。
【符号の説明】
【0147】
30 重力式ブラスト装置
31 キャビネット
32 ノズル
33 回収タンク
35 出入口
38 ホッパ
41 ショット供給管
42 排出管
43 導管
44 圧縮気体供給管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の母材硬度より高い硬度の略真球状の#100〜#800(平均粒径:149μm〜20μm)の範囲内で,3種以上の異なる近似粒度のショットを混合して,被加工物に対し,圧縮空気との混合流体として,噴射圧力0.3〜0.6MPa,噴射速度100〜200m/秒,噴射距離100mm〜250mmで,0.5秒〜5秒経過毎に,0.1〜1秒間欠噴射し,前記被加工物の表面に直径0.1〜5μmの無数の略円形の底面を有する微小凹部をランダムに形成することを特徴とする金属成品の瞬間熱処理法。
【請求項2】
前記間欠噴射は,0.5秒〜1秒経過毎である請求項1記載の金属成品の瞬間熱処理法。
【請求項3】
前記被加工物の表面粗さが1μm(Ra)以下である請求項1又は2記載の金属成品の瞬間熱処理法。
【請求項4】
前記ショットは,略真球状を成す請求項1〜3いずれか1項記載の金属成品の瞬間熱処理法。
【請求項5】
前記3種以上の異なる粒度のショットは,ショット混合比が,同率である請求項1〜4いずれか1項記載の金属成品の瞬間熱処理法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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