説明

金属担持繊維状活性炭及びその製造方法、並びにそれを用いた脱硫器、及び炭化水素油の脱硫方法

【課題】灯油等の炭化水素油の流れに生じるムラの発生を低減でき、脱硫器内の空間を有効利用することも可能な金属担持繊維状活性炭の製造方法を提供する。
【解決手段】比表面積が800〜4,000m/gで且つ全細孔容積が0.5〜1.5cm/gである繊維状活性炭に、金属成分を含む含浸液を浸透させ、0〜40℃で12〜36時間放置し、その後に該金属成分が浸透した繊維状活性炭を焼成することを特徴とする金属担持繊維状活性炭の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属担持繊維状活性炭及び該金属担持繊維状活性炭の製造方法、並びに該金属担持繊維状活性炭を用いた脱硫器及び該脱硫器を用いた炭化水素油の脱硫方法に関し、特には、金属担持繊維状活性炭を吸着脱硫剤の一部又は全体として用いて、例えば灯油等の炭化水素油から硫黄化合物を吸着除去することが可能な脱硫器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスであるCOガスや、NO等の自動車排出ガスの排出量を削減する観点から、燃料内に含まれる硫黄分の一層の低減が、社会から強く望まれている。我が国では既に、軽油は2007年から、ガソリンは2008年から硫黄分が10質量ppm以下に規制されている。一方、昨今の燃料電池の技術革新には目を見張るものがある。水素源を石油系燃料に求めた場合、燃料油中に含まれる硫黄分をppbレベルまで低減しなければ、燃料電池の改質器及び電極部の触媒が硫黄分により被毒され、燃料電池システムの機能が低下し、所望する寿命が得られない。このような背景から、超低硫黄分の石油系燃料油を得る脱硫技術が盛んに研究されている。
【0003】
従来の水素化脱硫方法で除去が難しい難脱硫化合物の大部分は、チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類である。灯油の場合、特にチオフェン類及びベンゾチオフェン類の割合が大きく、全硫黄化合物に対するチオフェン類及びベンゾチオフェン類の割合は、硫黄分として70%以上であることが多い。しかしながら、含有量の少ないジベンゾチオフェン類の方が除去は困難であり、特にアルキル基を多く有するアルキルジベンゾチオフェン類の除去が非常に困難である。一方で、簡単な操作で、容易に効率的に脱硫できる方法が求められており、例えば、還元処理や水素を必要とせず、また、加圧を必要としないで、かつ室温から150℃程度までの比較的低い温度下で、ジベンゾチオフェン類を効率的に除去できる脱硫剤が熱望されている。
【0004】
特定の細孔構造を有する活性炭、特に繊維状活性炭は、軽油や灯油に含まれるジベンゾチオフェン類に対して高い除去性能を有することが報告されている(特許文献1参照)。しかしながら、繊維状活性炭は綿状であるために充填密度を高くできないため、単位容積当たりの吸着性能が高くないという課題や、製造工程が複雑で製造コストが極めて高く経済的ではないという課題が存在する。
【0005】
また、銅成分及び銀成分を含有する炭化水素油脱硫剤は、室温から150℃程度までの温度で、チオフェン類やベンゾチオフェン類を効率的に除去することができることも報告されている(特許文献2参照)。しかしながら、ジベンゾチオフェン類の吸着除去性能は限定的であるという課題が存在する。
【0006】
更に、チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類よりなる群から選ばれる少なくとも1つの硫黄化合物を含む炭化水素油と、或いは更に芳香族炭化水素を含む炭化水素油と、固体酸及び/又は遷移金属酸化物が担持された活性炭とを接触して脱硫する炭化水素油の脱硫方法(特許文献3参照)、並びにベンゾチオフェン類とジベンゾチオフェン類を含む炭化水素油を、固体酸系脱硫剤と活性炭系脱硫剤とを組み合わせて脱硫処理する炭化水素油の脱硫方法(特許文献4参照)も報告されている。しかしながら、家庭用等の定置式燃料電池システムにおける灯油の脱硫器として適用しようとすると、1年程度の寿命を確保するために必要な脱硫剤の体積が大きくなり過ぎることから、流通する灯油の線速度は小さくなり、灯油の流れにムラが生じるという課題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2003/097771号
【特許文献2】国際公開第2007/020800号
【特許文献3】国際公開第2005/073348号
【特許文献4】国際公開第2007/015391号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、家庭用等の定置式燃料電池システムにおける炭化水素油の脱硫器に好適で、灯油等の炭化水素油の流れに生じるムラの発生を低減でき、また脱硫器内の空間を有効利用することも可能な金属担持繊維状活性炭及び該金属担持繊維状活性炭の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、該金属担持繊維状活性炭を用いた、灯油等の炭化水素油中の硫黄化合物を効率的に吸着除去することが可能な脱硫器、例えば、家庭用等の定置式燃料電池システムに好適な脱硫器、及び該脱硫器を用いた炭化水素油の脱硫方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、繊維状活性炭を容器に入れ、金属成分を含む含浸液を散布し、常温で12〜36時間放置した後に、乾燥、焼成することで、金属成分が均一に担持された金属担持繊維状活性炭が得られることを見出し、更には、脱硫器の炭化水素油流入口近傍に該金属担持繊維状活性炭を充填することで、炭化水素油の流れに生じるムラの発生を低減でき、脱硫器内の空間を有効利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1) 比表面積が800〜4,000m/gで且つ全細孔容積が0.5〜1.5cm/gである繊維状活性炭に、金属成分を含む含浸液を浸透させ、0〜40℃で12〜36時間放置し、その後に該金属成分が浸透した繊維状活性炭を焼成することを特徴とする金属担持繊維状活性炭の製造方法。
(2) 前記繊維状活性炭は、比表面積が2,000〜3,000m/gで、全細孔容積が1.0〜1.3cm/gで、平均太さが5〜30μmで、且つ、平均長さが0.1〜200mmであることを特徴とする上記(1)に記載の金属担持繊維状活性炭の製造方法。
(3) 前記金属成分を含む含浸液が、該含浸液1kg当たり0.1〜50gの金属成分を含有する水溶液であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の金属担持繊維状活性炭の製造方法。
(4) 前記金属成分が、銅であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属担持繊維状活性炭の製造方法。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法により得たことを特徴とする金属担持繊維状活性炭。
(6) 内部に炭化水素油を流して該炭化水素油を脱硫する脱硫器であって、該脱硫器の内部に上記(5)に記載の金属担持繊維状活性炭が充填されていることを特徴とする脱硫器。
(7) 前記金属担持繊維状活性炭が、少なくとも前記炭化水素油の流入口近傍に配置されていることを特徴とする上記(6)に記載の脱硫器。
(8) 前記炭化水素油が、灯油又は軽油であることを特徴とする上記(6)に記載の脱硫器。
(9) 更に、固体酸系吸着剤が充填された脱硫器であって、前記炭化水素油を前記金属担持繊維状活性炭と接触させ、その後に前記固体酸系吸着剤と接触させることで、該炭化水素油から硫黄化合物を吸着除去することを特徴とする上記(6)に記載の脱硫器。
(10) 上記(6)〜(9)のいずれかに記載の脱硫器を用いた炭化水素油の脱硫方法であって、前記炭化水素油が該脱硫器内を流通する温度が−30〜100℃の範囲であることを特徴とする炭化水素油の脱硫方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属担持繊維状活性炭の製造方法によれば、繊維状活性炭が担持する金属成分のムラが少なく、均一に担持されるため、灯油等の炭化水素油の流れに生じるムラの発生を低減でき、また脱硫器内の空間を有効利用することが可能な金属担持繊維状活性炭を提供することができる。また、かかる金属担持繊維状活性炭を用いた、灯油等の炭化水素油中の硫黄化合物を効率的に吸着除去することが可能な脱硫器、例えば、家庭用等の定置式燃料電池システムに好適な脱硫器、及び該脱硫器を用いた炭化水素油の脱硫方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来の脱硫器の一例の断面図である。
【図2】従来の脱硫器の他の例の断面図である。
【図3】本発明の脱硫器の一例の断面図である。
【図4】本発明の脱硫器の他の例の断面図である。
【図5】銅含有率と度数割合の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔繊維状活性炭〕
繊維状活性炭は、PAN(ポリアクリロニトリル)繊維、強力レーヨン、石油ピッチ、石炭ピッチ等を溶融紡糸したピッチ繊維等の炭素繊維を活性炭原料として用いることで得られるものであり、粒状活性炭と比較した場合、吸着速度が非常に大きく、布状やフェルト状等の多様な形状に加工可能である等の利点を有する。繊維状活性炭は、10μm前後の細い繊維である上に、脱硫器に充填した場合、その充填密度が0.05〜0.3g/ml程度となり、粒状活性炭と比べて充填密度が低いため、脱硫器内を通過する炭化水素油の流れのムラを低減することができる。また、繊維状活性炭は、それ自身でもジベンゾチオフェン類に対する吸着脱硫性能を有するが、金属を担持すると、ジベンゾチオフェン類に対する吸着脱硫性能が更に向上できる上、メルカプタン類、チオフェン類、ベンゾチオフェン類に対する吸着脱硫性能を追加することも可能となる。
【0014】
本発明で用いる繊維状活性炭は、吸着脱硫剤としての高い性能を確保するため、比表面積が800〜4,000m/gであり、特に好ましくは2,000〜3,000m/gである。ここで、比表面積が800m/g未満では、硫黄化合物の吸着サイトが著しく少ないため、繊維状活性炭の吸着脱硫性能を十分に確保できない。一方、比表面積が4,000m/gを超えると、密度が著しく低いため、飛散等によりその取扱いが容易でない。また、本発明で用いる繊維状活性炭は、全細孔容積が0.5〜1.5cm/gであり、特に好ましくは1.0〜1.3cm/gである。ここで、全細孔容積が0.5cm/g未満では、炭化水素油中の硫黄化合物が吸着サイトまで拡散する経路が狭くなり、吸着速度が低下する。一方、全細孔容積が1.5cm/gを超えると、密度が著しく低いため、飛散等によりその取扱いが容易でない。
【0015】
本発明で用いる繊維状活性炭において、平均太さは5〜30μmが好ましく、特に6〜15μmが好ましい。ここで、平均太さが5μmよりも細いと、充填時の弾力性が高すぎるため、充填部分が脱硫器内を移動する可能性が高くなる。一方、平均太さが30μmよりも太いと、活性炭表面から中心部までの距離が長くなるため、硫黄化合物が中心部まで拡散するのに時間を要し、吸着速度が低下する場合がある。また、本発明で用いる繊維状活性炭において、平均長さは0.1〜200mmが好ましく、特に1〜20mmが好ましい。ここで、平均長さが0.1mm未満では、活性炭が脱硫器の下流側へ移動し、差圧上昇が発生する原因となり得る。一方、平均長さが200mmを超えると、活性炭同士が絡み合って、単一での取扱いが容易でなく、布状等に成形することが必要となり得る。特に、短繊維(平均長さが0.1〜200mmの繊維状活性炭)は、金属を担持させる工程において取扱い易く、また、脱硫器への均一充填が容易であるので好ましい。布状やフェルト状に成形された繊維状活性炭は、脱硫器の直径に合わせて円形に切断して充填するか、又は脱硫器の直径と同じ太さに丸めて使用することができる。
【0016】
なお、比表面積及び全細孔容積は、通常、窒素吸着法により測定される。窒素吸着法は、簡便で、一般に用いられており、様々な文献に解説されている。かかる文献としては、例えば、鷲尾一裕,島津評論,48(1),35-49(1991)、ASTM(American Society for Testing and Materials)Standard Test Method D 4365−95等が挙げられる。また、平均太さは、例えば、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)等で観察することにより測定され、平均長さは、例えば、任意に100本を採取して長さを測り、平均値を求めることにより測定される。
【0017】
〔含浸液〕
本発明で用いる含浸液は、金属成分を含み、上記繊維状活性炭に該金属成分を浸透させることを特徴とする。なお、金属成分は、含浸液中に溶解していてもよいし、分散していてもよい。また、本発明において、金属成分を含む含浸液は、該含浸液1kg当たり、好ましくは0.1〜50g、更に好ましくは0.5〜20gの金属成分を含有する水溶液であることが好ましい。ここで、含浸液1kg当たりの金属成分の含有量が0.1g未満では、金属担持繊維状活性炭としての金属担持量が少なすぎるため、金属担持による吸着脱硫性能の改善効果が十分に得られない場合がある。また、繊維状活性炭は吸水率が高いため、含浸液1kg当たりの金属成分の含有量が50gを超えると、含浸液の使用量が高すぎる場合、繊維状活性炭の金属担持量が多くなり過ぎ、細孔が閉塞して、硫黄化合物の拡散を阻害し、吸着脱硫性能の改善効果が十分に得られない場合がある。一方で、含浸液の使用量が少ない場合には、含浸ムラによって、金属が担持されている部分と担持されていない部分が生じることがあり、この場合、均一な吸着脱硫性能が得られない。
【0018】
上記含浸液に含まれる金属成分としては、銅、銀、マンガン、亜鉛、ニッケル等が挙げられ、特に銅が好ましい。また、これらの金属成分は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、銅は、安価で比較的安全性が高い上、常温付近から300℃程度の広い温度範囲で、また該銅が一価又は二価の酸化状態、例えば、酸化銅(CuO)又は亜酸化銅(CuO)である場合でも還元処理を行わずに該酸化状態のままで、更には水素非存在下であっても、硫黄化合物の吸着に優れた性能を示す。該銅としては、酸化銅(CuO)又は亜酸化銅(CuO)が好ましい。また、上記含浸剤に含まれる金属成分は、単体金属や酸化物の他、金属塩類の形態で使用することもでき、該金属塩としては、水溶性塩類であれば特に限定されず、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、有機酸塩類等が挙げられる。残留成分の影響が少ないことから、硝酸塩の水溶液が好ましい。
【0019】
また、上記金属成分を含浸液中に溶解又は分散させる成分としては、特に限定されず、水、メタノール等が挙げられる。安全であることや取扱いが容易であることから、水が好ましい。
【0020】
〔金属担持繊維状活性炭の製造方法〕
本発明の金属担持繊維状活性炭の製造方法は、上記繊維状活性炭に、上記金属成分を含む含浸液を浸透させ、0〜40℃で12〜36時間放置し、その後に該金属成分が浸透した繊維状活性炭を焼成することを特徴とし、これにより、金属成分が均一に担持された繊維状活性炭(即ち、金属担持繊維状活性炭)が得られる。なお、本発明において、常温とは、0〜40℃の範囲の温度を意味しており、0〜40℃での放置は、常温での放置と同義である。また、含浸液を繊維状活性炭に均一に浸透させるための放置時間は、12〜36時間であるが、16〜24時間が好ましい。ここで、放置時間が12時間より短いと、金属成分が均一に浸透しないので、担持ムラが生じる。一方、放置時間を36時間より長くしても、金属成分を均一に浸透させる効果が少ない上、製造に要する時間が長くなり効率的ではない。本発明の金属担持繊維状活性炭の製造方法において、含浸液の浸透手段は、特に限定されるものではないが、例えば、繊維状活性炭に含浸液を散布させる手法が好適であり、具体的には、繊維状活性炭を容器に入れ、含浸液を均一に滴下する手法が挙げられる。また、本発明の製造方法においては、金属成分を繊維状活性炭に強固に付着させるため、該繊維状活性炭を焼成することが必要である。ここで、焼成は、既知の方法により行うことができるが、窒素ガス雰囲気下で行うことが好ましく、また、焼成温度は、300〜500℃が好ましく、350〜450℃が更に好ましく、焼成時間は、0.5〜3時間が好ましく、0.7〜2時間が更に好ましい。なお、本発明の製造方法においては、金属成分を含浸液中に溶解又は分散させる成分を除去するため、焼成工程の前に、金属成分が浸透した繊維状活性炭を乾燥させてもよい。ここで、乾燥温度は、100〜150℃が好ましく、120〜140℃が更に好ましく、乾燥時間は、12〜36時間が好ましく、16〜30時間が更に好ましい。
【0021】
〔金属担持繊維状活性炭〕
本発明の金属担持繊維状活性炭は、上述の製造方法により得られることを特徴とし、金属成分が均一に担持されているため、炭化水素油の流れに生じるムラの発生を低減し、優れた吸着脱硫性能を発揮することが可能である。本発明において、金属担持繊維状活性炭に担持されている金属成分の量は、特に限定されるものではなく、金属成分の種類によっても異なるが、仕上がりの金属担持繊維状活性炭に対する金属元素基準で、0.1〜10質量%が好ましく、特に0.3〜5質量%が好ましい。該金属の担持量が0.1質量%未満では、担持効果が十分に得られず、一方、10質量%を超えると、担体である活性炭との結合が弱い金属が多くなることから、金属成分が脱離する可能性がある。なお、金属担持繊維状活性炭の金属担持量は、試料をアルカリ融解したものを酸性溶液中に溶解し、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)によって測定できる。また、上記金属担持繊維状活性炭の比表面積、全細孔溶液、平均太さ、平均長さ等の物性については、原料である上記繊維状活性炭と同様のことがいえるが、本発明の製造方法により得た金属担持繊維状活性炭であれば、原料である繊維状活性炭と同程度の物性を有している。
【0022】
〔脱硫器〕
本発明の脱硫器は、内部に炭化水素油を流して該炭化水素油を脱硫する脱硫器であり、該脱硫器の内部に上述の金属担持繊維状活性炭が充填されていることを特徴とする。ここで、本発明の脱硫器によれば、炭化水素油の流れに生じるムラの発生を低減しつつ、優れた吸着脱硫性能を示す金属担持繊維状活性炭が充填されているため、炭化水素油中の硫黄化合物を効率的に吸着除去することが可能であり、家庭用等の定置式燃料電池システムに好適である。
【0023】
〔脱硫器への金属担持繊維状活性炭の充填位置〕
一般に、脱硫器内に充填された吸着脱硫剤を通過する炭化水素油の流れを均一にするためには、図1に示されるように、脱硫器1における炭化水素油の流入口2近傍に吸着脱硫剤3を充填しない部分4を設けたり、また図2に示されるように、脱硫器1の角を丸めて炭化水素油の流入口2近傍を狭めた部分5を設けたりすることで、脱硫器流入時の炭化水素油を脱硫器の長さ方向と垂直な方向へ分散させる手法が知られている。しかしながら、家庭用等の定置式燃料電池システムは、極限までコンパクト化させることが要求されており、従来型の脱硫器のように、吸着脱硫剤3を充填しない部分4を設けたり、脱硫器1の角を丸めて狭めた部分5を設けたりすることは、脱硫器内(延いては、燃料電池システム内)の体積を無駄に使用することになり、燃料電池システムのコンパクト化を阻害するおそれもある。そこで、本発明の脱硫器の好適な実施態様においては、上述の金属担持繊維状活性炭が、少なくとも炭化水素油の流入口近傍に配置されている。上述のように、本発明の金属担持繊維状活性炭は、炭化水素油中の硫黄化合物を吸着除去できることに加えて、炭化水素油の流れに生じるムラの発生を低減できるため、該金属担持繊維状活性炭を通過する炭化水素油の流れを均一に維持することも可能であり、上述のような無駄な体積を省き、脱硫器内の空間を有効利用することができる。即ち、本発明の脱硫器としては、図3に示されるように、炭化水素油供給ライン6を介して炭化水素油を内部に流して該炭化水素油を脱硫する脱硫器1であって、少なくとも炭化水素油の流入口2近傍に金属担持繊維状活性炭7が配置されている脱硫器1が好ましい。また、図3に示す脱硫器1は、金属担持繊維状活性炭7より炭化水素油の流れ方向からみて下流側に充填された該金属担持繊維状活性炭以外の吸着脱硫剤8が配置されている。なお、本発明において、炭化水素油の流入口近傍とは、炭化水素油の流入口2から流出口9までの距離をDとした場合、炭化水素油の流入口からの距離が(1/4)Dまでの領域を意味する。
【0024】
また、本発明の脱硫器において、金属担持繊維状活性炭層(金属担持繊維状活性炭を充填する部分)の高さは、炭化水素油の1秒間当たりの移動距離の500〜50,000倍が好ましく、特に1,000〜10,000倍が好ましい。なお、炭化水素油の1秒間当たりの移動距離は、(見掛けの)線速度[m/秒]と呼ばれ、流量[m/秒]を流れに垂直な断面積[m]で割った値で表される。
【0025】
本発明の脱硫器の形状は、炭化水素油の分散を考慮して角を丸める必要が無く、円柱や四角柱などで良い。また、脱硫器内の炭化水素油の流れ方向は、均一な流れをより確実にするため、下から上(アップフロー)が好ましい。更に、脱硫器に設ける炭化水素油の入口(流入口2)は、脱硫器の下部であれば、その方向や位置は問わない。従って、図3に示されるように、流入口2が脱硫器1の底部に位置する必要は無く、例えば図4に示されるように、脱硫器下部の側面部に位置してもよい。
【0026】
〔金属担持繊維状活性炭以外の吸着脱硫剤〕
本発明の脱硫器は、上記金属担持繊維状活性炭の他、更に該金属担持繊維状活性炭以外の吸着脱硫剤(以下、単に吸着脱硫剤ともいう)を充填することができ、金属担持繊維状活性炭より炭化水素油の流れ方向からみて下流側に吸着脱硫剤を充填することが好ましい。このような構造の脱硫器であれば、炭化水素油を金属担持繊維状活性炭と接触させ、その後に、吸着脱硫剤と接触させることで、該炭化水素油から硫黄化合物を吸着除去することができる。即ち、脱硫器における炭化水素油の流入口より流入した炭化水素油は、まず金属担持繊維状活性炭層で脱硫器の長さ方向と垂直な方向へ分散し、次いで脱硫器の長さ方向へ流れるため、該金属担持繊維状活性炭層の下流側に位置する吸着脱硫剤層と均一に接触することになる。従って、上記吸着脱硫剤には、金属担持繊維状活性炭よりも単位体積当たりの吸着脱硫性能が高い吸着脱硫剤を使用することができ、固体酸系吸着剤が好ましく、特には、本発明者らが提案している固体酸系脱硫剤と活性炭系脱硫剤を組み合わせてなる吸着脱硫剤が好ましい(国際公開第2007/015391号参照)。
【0027】
固体酸系吸着剤としては、固体超強酸を含有する吸着剤が特に好ましい。固体超強酸とは、ハメット(Hammett)の酸度関数Hが−11.93である100%硫酸よりも酸強度が高い固体酸をいい、具体的には、珪素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデン、鉄等の水酸化物又は酸化物、或いはグラファイト、イオン交換樹脂等からなる担体に、硫酸根、五フッ化アンチモン、五フッ化タンタル、三フッ化ホウ素等を付着又は担持したもの、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化第二スズ(SnO)、チタニア(TiO)又は酸化第二鉄(Fe)等に酸化タングステン(WO)を担持したもの、更にはフッ素化スルホン酸樹脂等を例示することができる(国際公開第2005/073348号参照)。これらの中でも、本発明者らが提案した硫酸根アルミナが好ましい(国際公開第2009/031613号参照)。また、該硫酸根アルミナに、銅、銀、ガリウム等を担持した吸着剤も好適に使用される。
【0028】
〔炭化水素油の脱硫方法〕
本発明の炭化水素油の脱硫方法は、上述の脱硫器を用いて、該脱硫器内を流通する炭化水素油を金属担持繊維状活性炭と接触させることにより、該炭化水素油から硫黄化合物を吸着除去することを特徴とし、好ましくは、第一に炭化水素油を金属担持繊維状活性炭と接触させることにより該炭化水素油に含有される硫黄化合物を吸着除去し、次いで、吸着脱硫剤と接触させることにより炭化水素油中に残留する硫黄化合物を吸着除去する。金属担持繊維状活性炭により炭化水素油の流れが均一になっているため、吸着脱硫剤により効率良く硫黄化合物を吸着除去するこができる。これにより、脱硫器から流出される炭化水素油中の硫黄分を20質量ppb以下にすることも可能となる。
【0029】
炭化水素油を金属担持繊維状活性炭と接触させる条件(吸着脱硫剤を用いる場合は、炭化水素油を吸着脱硫剤と接触させる条件も含む)としては、圧力は、常圧〜1.0MPaGが好ましく、常圧〜0.1MPaGがより好ましく、特には0.001〜0.03MPaGが好ましい。流量は、液空間速度(LHSV)で0.001〜100hr−1が好ましく、0.01〜10hr−1がより好ましい。見掛けの線速度は、1×10−7〜1×10−1m/秒、更には5×10−7〜1×10−2m/秒、特には1×10−6〜1×10−3m/秒が好ましい。見掛けの線速度が大きいと、吸着速度(液相から固相への移動速度)に比べて液相自体が吸着剤の充填層を通過する移動速度が速くなり、液相が吸着層出口に到達するまでに吸着質が除去しきれず、除去されない吸着質を含有したまま炭化水素油は出口から流出されてしまうといった問題が生じやすくなる。逆に見掛けの線速度が小さいと、吸着剤層の断面積が相対的に大きくなることから、炭化水素油の分散状態が不良となり、吸着剤層の流れ方向と直角な断面を通過する炭化水素油の流速(流量)にムラが生じやすく、吸着剤層の断面において吸着した吸着質に分布(ムラ)が生じやすいため、吸着剤への負荷が不均一になり、やはり十分効率的に脱硫することができない。
【0030】
本発明の炭化水素油の脱硫方法において、炭化水素油が脱硫器内を流通する温度、即ち吸着脱流を行う温度又は炭化水素油を金属担持繊維状活性炭と接触させる温度(吸着脱硫剤を用いる場合は、炭化水素油を吸着脱硫剤と接触させる温度も含む)は、−30〜100℃が好ましく、特に0〜80℃が好ましい。該温度が−30℃未満では、吸着される物質(吸着質)の炭化水素油中の拡散速度が著しく小さく、吸着されるまでに長時間を要する。また、炭化水素油の粘性が高くなるため、脱硫器内での圧力損失が大きくなり、脱硫器入口圧力を高くする必要がある。一般的に、0℃以上が特に好ましい。一方、該温度が100℃を超えると、ジベンゾチオフェン類の吸着は物理吸着であるため、平衡時の吸着量が著しく減少する。温度が高いほど、吸着速度は向上することになるが、平衡時のジベンゾチオフェン類の吸着量が少なくなるため、80℃以下が特に好ましい。
【0031】
〔炭化水素油〕
本発明の脱硫器が適用対象とする炭化水素油としては、チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類からなる群から選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含む炭化水素油を挙げることができる。具体的には、灯油、軽油などが挙げられ、特には高度に(深度に)脱硫する必要のある燃料電池用の灯油が挙げられる。
【0032】
これらの硫黄化合物の定性及び定量分析には、ガスクロマトグラフ(Gas Chromatograph:GC)−炎光光度検出器(Flame Photometric Detector:FPD)、GC−原子発光検出器(Atomic Emission Detector:AED)、GC−硫黄化学発光検出器(Sulfur Chemiluminescence Detector:SCD)、GC−誘導結合プラズマ質量分析装置(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer:ICP−MS)などを用いることができるが、質量ppbレベルの分析にはGC−ICP−MSが最も好ましい(特開2006−145219号公報参照)。
【0033】
灯油は、炭素数12〜16程度の炭化水素を主体とし、密度(15℃)0.79〜0.85g/cm、沸点範囲150〜320℃程度の油である。パラフィン系炭化水素を多く含むが、芳香族系炭化水素を0〜30容量%程度含み、多環芳香族も0〜5容量%程度含む。一般的には、灯火用及び暖房用・ちゅう(厨)房用燃料として日本工業規格JIS K2203に規定される1号灯油が対象となる。品質として、引火点40℃以上、95%留出温度270℃以下、硫黄分0.008質量%以下、煙点23mm以上(寒候用のものは21mm以上)、銅板腐食(50℃、3時間)1以下、色(セーボルト)+25以上の規定がある。通常、硫黄分を数質量ppmから80質量ppm以下、窒素分を数質量ppmから10質量ppm程度含む。
【0034】
軽油は、炭素数16〜20程度の炭化水素を主体とし、密度(15℃)0.82〜0.88g/cm、沸点範囲140〜390℃程度の油である。パラフィン系炭化水素を多く含むが、芳香族系炭化水素も10〜30容量%程度含み、多環芳香族も1〜10容量%程度含む。硫黄分を数質量ppmから100質量ppm以下、窒素分を数質量ppmから数10質量ppm程度含む。
【0035】
チオフェン類は、1個以上の硫黄原子を異原子として含む複素環式化合物のうち、複素環が五員環又は六員環で且つ芳香性をもつ(複素環に二重結合を2個以上有する)硫黄化合物及びその誘導体であり、該複素環同士が縮合した化合物も含む。チオフェンは、チオフランとも呼ばれ、分子式C44Sで表わせる、分子量84.1の硫黄化合物である。その他の代表的なチオフェン類としては、メチルチオフェン(チオトレン、分子式C56S、分子量98.2)、チオピラン(ペンチオフェン、分子式C56S、分子量98.2)、チオフテン(分子式C642、分子量140)、テトラフェニルチオフェン(チオネサル、分子式C2020S、分子量388)、ジチエニルメタン(分子式C982、分子量180)及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0036】
ベンゾチオフェン類は、1個以上の硫黄原子を異原子として含む複素環式化合物のうち、複素環が五原子環又は六原子環で且つ芳香性をもち(複素環に二重結合を2個以上有し)、さらに複素環が1個のベンゼン環と縮合している硫黄化合物及びその誘導体である。ベンゾチオフェンは、チオナフテン、チオクマロンとも呼ばれ、分子式CSで表わせる、分子量134の硫黄化合物である。その他の代表的なベンゾチオフェン類としては、メチルベンゾチオフェン、ジメチルベンゾチオフェン、トリメチルベンゾチオフェン、テトラメチルベンゾチオフェン、ペンタメチルベンゾチオフェン、ヘキサメチルベンゾチオフェン、メチルエチルベンゾチオフェン、ジメチルエチルベンゾチオフェン、トリメチルエチルベンゾチオフェン、テトラメチルエチルベンゾチオフェン、ペンタメチルエチルベンゾチオフェン、メチルジエチルベンゾチオフェン、ジメチルジエチルベンゾチオフェン、トリメチルジエチルベンゾチオフェン、テトラメチルジエチルベンゾチオフェン、メチルプロピルベンゾチオフェン、ジメチルプロピルベンゾチオフェン、トリメチルプロピルベンゾチオフェン、テトラメチルプロピルベンゾチオフェン、ペンタメチルプロピルベンゾチオフェン、メチルエチルプロピルベンゾチオフェン、ジメチルエチルプロピルベンゾチオフェン、トリメチルエチルプロピルベンゾチオフェン、テトラメチルエチルプロピルベンゾチオフェンなどのアルキルベンゾチオフェン、チアクロメン(ベンゾチア−γ−ピラン、分子式CS、分子量148)、ジチアナフタリン(分子式C、分子量166)及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0037】
ジベンゾチオフェン類は、1個以上の硫黄原子を異原子として含む複素環式化合物のうち、複素環が五原子環又は六原子環で且つ芳香性をもち(複素環に二重結合を2個以上有し)、さらに複素環が2個のベンゼン環と縮合している硫黄化合物及びその誘導体である。ジベンゾチオフェンは、ジフェニレンスルフィド、ビフェニレンスルフィド、硫化ジフェニレンとも呼ばれ、分子式C12Sで表わせる、分子量184の硫黄化合物である。4−メチルジベンゾチオフェンや4,6−ジメチルジベンゾチオフェンは、水素化脱硫における難脱硫化合物として良く知られている。その他の代表的なジベンゾチオフェン類としては、トリメチルジベンゾチオフェン、テトラメチルジベンゾチオフェン、ペンタメチルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルジベンゾチオフェン、ヘプタメチルジベンゾチオフェン、オクタメチルジベンゾチオフェン、メチルエチルジベンゾチオフェン、ジメチルエチルジベンゾチオフェン、トリメチルエチルジベンゾチオフェン、テトラメチルエチルジベンゾチオフェン、ペンタメチルエチルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルエチルジベンゾチオフェン、ヘプタメチルエチルジベンゾチオフェン、メチルジエチルジベンゾチオフェン、ジメチルジエチルジベンゾチオフェン、トリメチルジエチルジベンゾチオフェン、テトラメチルジエチルジベンゾチオフェン、ペンタメチルジエチルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルジエチルジベンゾチオフェン、ヘプタメチルジエチルジベンゾチオフェン、メチルプロピルジベンゾチオフェン、ジメチルプロピルジベンゾチオフェン、トリメチルプロピルジベンゾチオフェン、テトラメチルプロピルジベンゾチオフェン、ペンタメチルプロピルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルプロピルジベンゾチオフェン、ヘプタメチルプロピルジベンゾチオフェン、メチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、ジメチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、トリメチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、テトラメチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、ペンタメチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルエチルプロピルジベンゾチオフェンなどのアルキルジベンゾチオフェン、チアントレン(ジフェニレンジスルフィド、分子式C12、分子量216)、チオキサンテン(ジベンゾチオピラン、ジフェニルメタンスルフィド、分子式C1310S、分子量198)及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0038】
燃料電池などの水素源として炭化水素油を用いる場合、炭化水素油に含まれる硫黄は、水素製造過程で改質触媒の触媒毒であるから厳しく除去する必要がある。本発明の脱硫器は、硫黄化合物を極めて微量濃度まで低減することができる。したがって、本発明の脱硫器を用いれば、水素製造用の改質触媒を被毒することなく水素を製造して燃料電池に供給することができる。また、本発明の脱硫器を備える燃料電池システムは、定置式であっても良いし、可動式(例えば、燃料電池自動車など)であってもよい。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
〔金属担持繊維状活性炭の調製−1〕
繊維状活性炭として、クラレケミカル社製FR−25(比表面積2,749m/g、全細孔容積0.96cm/g、平均太さ10μm、平均長さ8mm)を使用した。
硝酸銅(II)三水和物2.2gをイオン交換水69.1gに溶解し、含浸液Aを71.3g調製した。含浸液Aの1kg当たり、8.1gの銅が含有されていた。
上記繊維状活性炭10gを容器に入れ、含浸液Aの全量を均一に散布し、常温(約25℃)で24時間放置し、その後、130℃で12時間乾燥し、金属成分が浸透した繊維状活性炭を得た。これを21分割して、各画分の銅含有率を分析した。なお、繊維状活性炭の銅含有率は、試料をアルカリ融解したものを酸性溶液中に溶解し、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)によって測定された。
次に、窒素ガスを4L/分の流量で流しながら、温度を400℃まで1時間で昇温させて、金属成分が浸透した繊維状活性炭を400℃にて1時間焼成し、実施例1の金属担持繊維状活性炭Aを得た。
【0041】
〔金属担持繊維状活性炭の調製−2〕
硝酸銅(II)三水和物2.2gをイオン交換水33.4gに溶解し、含浸液Bを35.6g調製した。含浸液Bの1kg当たりに16.2gの銅が含有されていた。
含浸液Aに代えて含浸液Bを用いた以外は〔金属担持繊維状活性炭の調製−1〕と同様の方法で調製し、金属担持繊維状活性炭B(実施例2)を得た。なお、金属成分が浸透した焼成前の繊維状活性炭を21分割して、各画分の銅含有率を分析した。
【0042】
〔金属担持繊維状活性炭の調製−3〕
含浸液Aの全量を均一に散布した後、常温での放置を全く行わず、すぐに130℃で12時間乾燥させた以外は〔金属担持繊維状活性炭の調製−1〕と同様の方法で調製し、金属担持繊維状活性炭C(比較例1)を得た。なお、金属成分が浸透した焼成前の繊維状活性炭を21分割して、各画分の銅含有率を分析した。
【0043】
〔金属担持繊維状活性炭の調製−4〕
含浸液Bの全量を均一に散布した後、常温での放置を全く行わず、すぐに130℃で12時間乾燥させた以外は〔金属担持繊維状活性炭の調製−2〕と同様の方法で調製し、金属担持繊維状活性炭D(比較例2)を得た。なお、金属成分が浸透した焼成前の繊維状活性炭を21分割して、各画分の銅含有率を分析した。
【0044】
〔銅含有率の分布〕
実施例1〜2及び比較例1〜2の金属担持繊維状活性炭について、金属の分布を評価するため、焼成前の繊維状活性炭における各画分の銅含有率を0.5質量%刻みに分類し、各分類の度数分布を求めた。銅含有率と度数割合との関係を図5に示す。常温で24時間放置した実施例1及び実施例2の場合、銅含有率4.5〜5.5質量%の度数割合が最も高く、分布の広がりも少なく、繊維状活性炭に銅が均一に担持されたことが分かる。また、常温での放置を全く行わなかった比較例1及び比較例2の場合、銅含有率が広く分布しており、銅の担持ムラが発生したことが分かる。なお、含浸液Aと含浸液Bとでは顕著な差が認められなかったことから、繊維状活性炭への金属成分の均一な担持には、含浸液中の金属成分の濃度では無く、放置温度及び放置時間による影響が大きいことが分かる。以上のことから、実施例1〜2の金属担持繊維状活性炭は、金属成分を均一に担持するため、灯油等の炭化水素油の流れに生じるムラの発生を低減できることが分かる。
【符号の説明】
【0045】
1 脱硫器
2 炭化水素油の流入口
3 吸着脱硫剤
4 吸着脱硫剤を充填しない部分
5 炭化水素油の流入口近傍を狭めた部分
6 炭化水素油供給ライン
7 金属担持繊維状活性炭
8 金属担持繊維状活性炭以外の吸着脱硫剤
9 炭化水素油の流出口
D 炭化水素油の流入口から流出口までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が800〜4,000m/gで且つ全細孔容積が0.5〜1.5cm/gである繊維状活性炭に、金属成分を含む含浸液を浸透させ、0〜40℃で12〜36時間放置し、その後に該金属成分が浸透した繊維状活性炭を焼成することを特徴とする金属担持繊維状活性炭の製造方法。
【請求項2】
前記繊維状活性炭は、比表面積が2,000〜3,000m/gで、全細孔容積が1.0〜1.3cm/gで、平均太さが5〜30μmで、且つ、平均長さが0.1〜200mmであることを特徴とする請求項1に記載の金属担持繊維状活性炭の製造方法。
【請求項3】
前記金属成分を含む含浸液が、該含浸液1kg当たり0.1〜50gの金属成分を含有する水溶液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属担持繊維状活性炭の製造方法。
【請求項4】
前記金属成分が、銅であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属担持繊維状活性炭の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得たことを特徴とする金属担持繊維状活性炭。
【請求項6】
内部に炭化水素油を流して該炭化水素油を脱硫する脱硫器であって、該脱硫器の内部に請求項5に記載の金属担持繊維状活性炭が充填されていることを特徴とする脱硫器。
【請求項7】
前記金属担持繊維状活性炭が、少なくとも前記炭化水素油の流入口近傍に配置されていることを特徴とする請求項6に記載の脱硫器。
【請求項8】
前記炭化水素油が、灯油又は軽油であることを特徴とする請求項6に記載の脱硫器。
【請求項9】
更に、固体酸系吸着剤が充填された脱硫器であって、前記炭化水素油を前記金属担持繊維状活性炭と接触させ、その後に前記固体酸系吸着剤と接触させることで、該炭化水素油から硫黄化合物を吸着除去することを特徴とする請求項6に記載の脱硫器。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれかに記載の脱硫器を用いた炭化水素油の脱硫方法であって、前記炭化水素油が該脱硫器内を流通する温度が−30〜100℃の範囲であることを特徴とする炭化水素油の脱硫方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−178625(P2011−178625A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45424(P2010−45424)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】