説明

金属接着用途向け接着剤

アクリレートモノマー若しくはメタクリレートモノマー又はそれらの混合物を有し且つ還元剤及び開始剤(たとえば過酸化物)を有する接着剤処方物。該処方物は、貯蔵安定性及び他の性質を改善するためにキレート化剤溶液を含み得る。更に、開始剤対還元剤のモル比は、硬化中の接着剤の重量損失を制御するために調整され得る。ポリビニルアセテート又はその誘導体もまた、硬化中の重量損失を低減するために接着剤処方物に用いられ得る。更に、該処方物の或る具体的態様は、−50℃(−58°F)より低いガラス転移温度(少なくとも1つのドメインの)を有する靱性化剤コポリマーを含む。これらの靱性化剤コポリマーは、比較的低い温度たとえば−40℃(−40°F)における硬化接着剤の衝撃強さ及び他の性質を改善する一方、比較的高い温度たとえば82℃(180°F)における硬化接着剤の性能を維持するために、接着剤処方物に添加され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、一般に、金属基材及び金属物体を接着するために用いられるものを含めてアクリレート/メタクリレート接着剤に関する。一層特には、本発明は、改善された貯蔵安定性、改善された靱性及び衝撃性並びに低減された硬化中の重量損失を有するかかる接着剤に関する。本接着剤は金属部品を接着することに向けられ得るけれども、本接着剤はまた非金属部品を接着するために用いられ得ることが強調されるべきである。
【0002】
このセクションは、下記に記載される及び/又は特許請求される本発明の様々な側面に関連づけられ得るところの技術の様々な側面に読者を案内するよう意図されている。この論考は、読者に背景情報を提供して本発明の様々な側面のより十分な理解を容易にするのに役立つと信じられる。従って、これらの記述は、この観点で読解されるべきでありそして先行技術の自認と読解されるべきでない、ということが理解されるべきである。
【0003】
アクリレート及びメタクリレート系接着剤は、カー、トラック、トレーラー、バス、ボート並びに他の製品及び構造体の組立て及び修理においてのように、部品を接着するために用いられる。典型的には、接着剤系の2つのパートが調製されそして貯蔵される(これらの2つのパートを混合して最終接着剤を与える前に)。或る処方物において、接着剤の一方のパートは接着剤部又は接着剤方と表示され得、そして他方のパートは活性剤部又は活性剤方と表示され得る。典型的には、接着剤部は、重合されるべきアクリレート及びメタクリレートモノマー、並びに還元剤を含む。活性剤部は、典型的には、過酸化物のような重合の開始剤を含む。
【0004】
混合された接着剤パートの硬化中、アクリレート及び/又はメタクリレートモノマーの反応又は重合は発熱的である。かくして、接着剤は、典型的には、ピーク発熱温度が達せられるまで温度増加を受ける。接着剤がそのピーク発熱温度に達した後、接着剤の温度は周囲温度に徐々に戻り得る。他方では、接着剤を周囲温度に戻るままにする前に、硬化しつつある接着剤に外部熱が適用され得る。接着剤の硬化特性又は硬化プロフィールは、ピーク発熱温度、ピーク発熱温度に達する時間、接着剤可使時間(又はオープンタイム)、接着剤固着時間、等を包含し得る。
【0005】
金属部品を接着するために用いられるもののようなアクリレート/メタクリレート系構造用接着剤に関する問題は、接着剤部及び/又は活性剤部の乏しい貯蔵安定性である。貯蔵不安定性は、接着剤の糸曳き(すなわち、接着剤の団塊又は糸の形成)、粘度増加、低減混合性、等を引き起こし得る。残念なことに、乏しい貯蔵安定性により引き起こされたかかる望ましくない性質は、接着剤の不適切な濡れ、不十分な又は一様でない付着及び他の問題をもたらすことになり得る。
【0006】
アクリレート/メタクリレート系接着剤に関する別の共通問題は、低温たとえば−40℃(−40°F)における硬化接着剤の低い衝撃強さである。硬化接着剤は一般に高温(82℃(180°F)のような)における望ましい性質(たとえば重ね剪断強さ)を有するけれども、低温における硬化接着剤の性能(たとえば衝撃強さ)は一般にこれらのタイプの接着剤についての弱点である。残念なことに、硬化接着剤の低温性能を改善する靱性化技術は、硬化接着剤の高温性能を有意に犠牲にし得る。一般に、これらの高温及び低温における接着剤特性の適切な組合わせが重要であり得、何故なら接着剤の取引先及び使用者は典型的な周囲範囲の範囲外になる比較的極端な温度における接着剤特性の要件を規定し得る(すなわち、たとえば設計余裕又は試験標準規格として)からである。更に、高温及び低温における接着剤特性の適切な組合わせは、一般に、広範囲の環境及び周囲温度において様々な重量及び力を受け得るアクリレート/メタクリレート系構造用接着剤で接着された部分を有する製品にとって重要である。
【0007】
最後に、金属の部品及び基材を接着するために用いられるものを含めてアクリレート/メタクリレート系構造用接着剤は、接着剤の硬化中過度の重量損失を受け得る。一般に、重量損失及び関連した悪臭は、モノマーのような接着剤成分の揮発から生じることになる。硬化中の接着剤の重量損失は、低い沸点及び低い引火点を有する比較的低分子量アクリレート/メタクリレートモノマーの使用により、並びに発熱重合(又は反応)及び高い発熱温度、等により激化されると信じられる。
【0008】
金属部品及び金属基材を接着するために用いられるものを含めてアクリレート/メタクリレート系構造用接着剤に関して、接着剤部/活性剤部の貯蔵安定性を改善する必要がある。高温性能を有意には犠牲にすることなく硬化接着剤の低温性能(たとえば衝撃強さ)を改善する必要がある。更に、硬化中の接着剤の重量損失を低減する必要がある。
【0009】
特定の具体的態様の詳細な説明
本発明の一つ又はそれ以上の例示的具体的態様が、下記に記載される。これらの具体的態様の簡潔な記載を提供しようと努力した結果、現実の実施のすべての特徴が本明細書に記載されているとは限らない。いかなる製品の発現においてのようないかなるかかる現実の実施の発現においても、発現者の特定の目標を達成するために、システムに関連した及びビジネスに関連した制約(実施ごとに変動し得る)の応諾のような数多くの実施上特定的な決定がなされねばならない、ということが認識されるべきである。更に、かかる発現努力は複雑で且つ時間がかかり得るが、しかしそれでも本開示の利益を受け取る当業者にとって設計、製作及び製造の日常的仕事である、ということが認識されるべきである。
【0010】
本技術の論考を容易にするために、本説明書は、諸セクションにて提供される。セクションIは、本技術の利益を紹介する。セクションIIは、本接着剤処方物の例示的成分を論考する。セクションIIIは、本接着剤の調製及び施用を簡潔に論考する。セクションIVは、本接着剤処方物の実施例を提供する。
【0011】
I.紹介
本技術は、アクリレート/メタクリレート系構造用接着剤の使用及び性能を改善することに向けられる。下記に論考されるように、本技術は、未硬化接着剤の貯蔵安定性を改善し得、硬化中の接着剤の重量損失を低減し得、また硬化接着剤の機械的性質を改善し得る。
【0012】
本接着剤処方物は、一般に、アクリレート及び/又はメタクリレートモノマー、靱性化剤(たとえばエラストマー)、衝撃改質剤(たとえばコア−シェル構造化コポリマー)、還元剤(たとえばアニリン、トルイジン、等)、抑制剤/遅延剤及び開始剤を有する二パート型接着剤である。接着剤はまた、付着促進剤、カルボン酸及び他の化合物を含み得る。多パート型(たとえば二パート型)接着剤は、典型的には、接着剤部及び活性剤部として調製される。接着剤部はモノマー及び還元剤を含み得、そして活性剤部は典型的には開始剤(たとえば過酸化物)を含む。活性剤部はまた、担体、増粘剤及び他の成分を含み得る。
【0013】
A.未硬化接着剤の貯蔵安定性
本技術は、貯蔵安定性を増加するために、接着剤処方物へのキレート化剤溶液の添加を備える。たとえば下記の表3が参照される。その結果として、糸曳き、高粘度及び乏しい混合性のような貯蔵安定性問題に関連した問題点は低減される。或る具体的態様について、改善は、下記の表3に示されたデータにより指摘されるように劇的である。
【0014】
水中のあるいはアルコール及び/又はグリコールを有する水中のエチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(EDTANa4)であるキレート化剤は、接着剤部の貯蔵安定性を改善するために、処方物の接着剤部に添加され得る。表3における一つの比較において、接着剤部中のEDTANa4溶液の量が0.94wt%から2wt%に増加され、しかして貯蔵安定性の著しい改善をもたらすことになる。この例示的比較において、43℃(110°F)にて10日間貯蔵された且つ0.94wt%しかキレート化剤溶液を含有しない接着剤方の場合には、接着剤方は過度の糸曳きに因り使用可能でない。2wt%までのキレート化剤溶液の増加添加の場合には同じ貯蔵条件下で、接着剤方は、目に見える糸曳きはなく、十分に使用可能である。
【0015】
一般に、EDTANa4溶液又はプレミックスのようなキレート化剤溶液は、接着剤部の1重量%より多く添加される。しかしながら、キレート化剤溶液は接着剤部に、たとえば処方物の他の成分のタイプ及び量に依存して、約0.2wt%から約3wt%、約0.5wt%から約2.5wt%、約1wt%から約2wt%、等の例示的範囲にて添加され得る。EDTANa4の例示的プレミックス又は溶液は、47.5wt%の水及び47.5wt%のエチレングリコール中の5wt%のEDTANa4である。下記の表1が参照される。最後に、追加的EDTANa4プレミックス(溶液)はまた、硬化接着剤の機械的性能を高め得る、ということが留意されるべきである。下記の実施例2及び表3が参照される。
【0016】
B.硬化接着剤の機械的性質
更に、本接着剤処方物の場合、硬化接着剤の衝撃強さは低温において改善される一方、高温における硬化接着剤の性能(たとえば重ね剪断強さ)は有意には犠牲にされない。たとえば、−91℃(−132°F)の少なくとも1つのドメインのガラス転移温度(Tg)を有する靱性化剤コポリマーの添加の場合、−40℃(−40°F)における硬化接着剤の衝撃強さは149インチ・lb/in2から199インチ・lb/in2に増加した一方、Al 6061に関して82℃(180°F)における重ね剪断強さは1046ポンド毎平方インチ(psi)から1017psiにわずかしか減少しなかった。表4が参照される。一般に、低温における硬化接着剤の衝撃強さ及び他の特性を与える一方、周囲温度及び高温たとえば82℃(180°F)における硬化接着剤の性質の有益な組合わせを実質的に維持するために、本技術は、弾性ポリマー靱性化剤(たとえばブロックコポリマー)間の及びかかる靱性化剤と衝撃改質剤(コア−シェル構造化ポリマー)との間の適切なバランスを維持する。周囲温度及び高温における興味あるかかる性質は、重ね剪断強さ、衝撃強さ、引張り強さ、循環疲労性能、等を包含し得る。
【0017】
或る具体的態様において、低温における硬化接着剤の性能を向上させるために、非常に低いガラス転移温度たとえば−50℃(−58°F)未満を有する靱性化剤が、接着剤処方物に添加され得る。指摘されたように、かかる靱性化剤は低温たとえば−40℃(−40°F)における硬化接着剤の脆性を低減しそして衝撃強さを増加する一方、比較的高い温度たとえば82℃(180°F)における性質を有意には犠牲にしない。これらの靱性化剤は、−50℃(−58°F)未満の少なくとも1つのドメインのTgを有するコポリマー(たとえばブロックコポリマー)を包含する。Tgの例示的範囲は、−50℃から−110℃(−58°Fから−166°F)である。これらの新規靱性化剤の具体的態様は、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)コポリマーを含む。かかるSBSコポリマーの市販用の例は、テキサス州ヒューストンのShell Chemical LPからのKraton(登録商標)D1116(Tg=−91℃,−132°F)及びKraton(登録商標)1184(Tg=−91℃,−132°F)である。また、Kraton(登録商標)D1116である非常に低いTgのSBSコポリマーの添加の場合の一つの例において、−40℃(−40°F)における硬化接着剤の衝撃強さは149から199インチ・lb/in2に有意に増加した一方、82℃(180°F)における硬化接着剤の重ね剪断強さは1046psiから1017psiにわずかしか減少しなかった。実施例3及び表4が参照される。
【0018】
C.硬化中の接着剤の重量損失
本技術は、重量損失を低減することにおいていくつかの手法及び処方物を備える。たとえば、重量損失を低減するために、ロウが接着剤処方物に添加され得る。一つの例示的接着剤処方物において、1wt%から2wt%への接着剤部の増加ロウ含有率は、硬化中の接着剤の重量損失を2.4%から1.4%に低減した。本技術はまた、接着剤の重量損失を低減するために、接着剤処方物へのポリビニルアセテート及び/又はその誘導体の添加を備える。たとえば、表5及び6に示されたデータに基づくと、接着剤部への10wt%のポリビニルアセテート(PVAc)の添加の場合、重量損失は少なくとも1%低減される。更に、本技術はまた、重量損失を低減するために、本処方物中の還元剤と酸化剤との間のモル比を調整することを備える。たとえば、開始剤対還元剤のモル比は、硬化中の接着剤の重量損失を低減するためにピーク発熱温度を低下するように減少され得る。有利には、或る具体的態様において、このモル比のかかる低下は、接着剤の硬化プロフィールの有意な変更なしに実行され得る。ある具体的態様において、単独開始剤ジベンゾイルペルオキシド(BPO)対還元剤の約3の係数のモル比減少はピーク発熱温度を278°Fから195°Fに減少しそして重量損失を1.18%から0.45%に低減した一方、発熱温度は同様なままであった。表2及び6が参照される。この重量損失の低減は、減少モル比を有する例示的処方物からポリビニルアセテートが省かれるとしても実現される。
【0019】
II.接着剤処方物の成分
論考されたように、接着剤部及び活性剤部における成分のタイプ、量及び比率は、これらのパートの貯蔵安定性を増加する、接着剤の硬化中の重量損失を規制する、硬化接着剤の機械的性質を改善する、等のために調整され得る。また、貯蔵安定性は、キレート化剤溶液の添加でもって改善される。重量損失は、ロウ並びに/あるいはポリビニルアセテート及び/又はその誘導体の添加でもって、並びに還元剤対酸化剤又は開始剤のモル比の制御により低減される。更に、指摘されたように、弾性ポリマー靱性化剤間の及び弾性ポリマー靱性化剤と衝撃改質剤(たとえばコア−シェル構造化ポリマー)との間の本バランスは、低温たとえば−40℃(−40°F)未満における硬化接着剤の重ね剪断強さ、衝撃強さ、引張り強さ及び循環疲労性能の組合わせを維持する一方、高温における性能を犠牲にしないように用いられ得る。本明細書において用いられる及び下記に論考される場合、靱性化剤は一般にブロックコポリマー及び他のエラストマーを指し、一方衝撃改質剤は一般にコア−シェルコポリマーを指す。
【0020】
また、本技術の接着剤は、典型的には、少なくとも2つのパートすなわち接着剤部及び活性剤部を含み、しかしてこれらのパートは接着剤の施用前に一緒に混合される。これらの2つのパートは、最終混合接着剤を与えるべきこれらの2つのパートの混合の前に製造業者又は最終使用者により貯蔵され得る。接着剤部(重合前の)について、例示的成分及びそれらの例示的範囲(接着剤部に対する重量パーセントにて)は、表1に与えられそして表1に続いて論考される。指摘されたように、表1に包含される接着剤部処方物は、一般に、物体を接着するために用いられそして活性剤部中の開始剤(たとえば過酸化物)と混合される。接着剤用途は、自動車、カー、乗用トラック、輸送トラック、家畜用トラック、トレーラー、バス、ボート、等のような輸送機関の組立て及び修理を包含し得る。無論、表1の例示的範囲内に入る接着剤部は、他の用途のために開始又は活性化され得る。
【0021】
【表1】

【0022】
A.アクリレート/メタクリレートモノマー
一般に、アクリレート及び/又はメタクリレートモノマーは、硬化過程中重合されるところの比較的高分子量(MW)及び比較的低分子量(MW)のアクリレート及びメタクリレートの組合わせを含む。比較的低MWモノマーは1から2個の炭素原子を有するところのエステル基のアルコール部分により特徴づけられ得、そして比較的高MWモノマーは3から20個の炭素原子を有するところのエステル基のアルコール部分により特徴づけられ得る。アクリレート及び/又はメタクリレートモノマー並びにそれらの混合物は、次の一般構造を有する。
【化1】

また、モノマーの大部分は、比較的低MWモノマー、一般にn≦2であるものそして普通はn=1であるもの(メチルアクリレート及びメチルメタクリレート(MMA)である)である。
【0023】
n>2普通はn=10〜18そして一層普通にはn=12〜16であるものである比較的高MWモノマーは、たとえば滑り止め性能を改善する、収縮を低減する、モノマー沸騰問題を回避すべくピーク発熱温度を低下する、等のために随意に用いられ得る。しかしながら、最終硬化接着剤の受容され得ない機械的性質及び乏しい耐薬品性を回避するために、これらの比較的高MWモノマーの量は、一般に、接着剤部を基準として15wt%を超えない。或る具体的態様において、この量は、接着剤部を基準として10wt%より少ない。他の具体的態様において、これらの比較的高MWモノマーの量は、接着剤部を基準として5wt%より少ない。本処方物に用いられるこれらの比較的高MWモノマーの市販用の例は、ペンシルベニア州エクストンのSartomer Company, Inc.からのC12、C14及びC16メタクリレートの混合物であるSR 313Bである。本技術に関して用いられるC12、C14及びC16メタクリレートの混合物の別の市販用の例は、スイス国バーゼルのCiba Specialty ChemicalsからのAGEFLEXTMFM246である。
【0024】
B.カルボン酸
随意に、カルボン酸のような1種又はそれ以上の有機酸が、基材又は部品への付着を高めるために及び耐熱性を増加するために、接着剤処方物に用いられ得る。例示的カルボン酸は、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マロン酸、等を包含する。これらの有機酸又はカルボン酸の追加的例は、アセチレンジカルボン酸、ジブロモマレイン酸シトラコン酸、メサコン酸及びシュウ酸である。1種又はそれ以上のカルボン酸特に強有機カルボン酸を本アクリレート及び/又はメタクリレート系接着剤組成物に添加することにより、その後に接着された構造部品及び部分への接着剤組成物の接着特性は改善される。カルボン酸の添加は、部分的には分子レベルにおける相互作用に因り、付着を促進するよう作用する、ということが信じられる。典型的には、本処方物は、10wt%より少ないカルボン酸を含有する。これらの酸を含有する組成物への水の添加は、明らかに部分溶解性又は高められた溶解性(それらの解離を助けると信じられる)によってそれらの効力を増加し得る、ということが更に発見された。これらの付着効果は、運輸工業におけるペイント焼付け過程のような、接着工程中及び/又は接着工程後の接着層の熱処理により更に高められ得る。
【0025】
C.キレート化剤溶液
六座配位子、二座配位子、三座配位子及び他の化合物のようなキレート化剤は、裸金属への接着剤の接触に関連した早期硬化を実質的に防止するために用いられ得る。EDTANa4(六座配位子)であるキレート化剤がその例である。一般に、キレート化剤は、接着剤中の金属の存在により引き起こされる早期硬化を低減し得る。そのような金属は、たとえば、接着剤の原料中の金属残留物に、製造中の金属接触に及び金属で作られた接着剤分与装置に由来し得る。一般に、接着剤の金属汚染は、接着剤の製造、輸送、貯蔵及び施用中に起こり得る。
【0026】
キレート化剤は、典型的には、接着剤処方物中へのキレート化剤の組込みを容易にするために、溶媒又は溶媒の混合物中に実質的に溶解される。キレート化剤溶液は、一般に、処方物の接着剤部に添加される。キレート化剤の溶液又はプレミックス中の溶媒は、水、並びにアルコール及び/又はグリコールを含み得る。EDTANa4の溶媒として用いられるグリコールは、エチレングリコール、プロピレングリコール及び他のグリコールを包含し得る。或る具体的態様において、溶媒(たとえば、水、グリコール、アルコール、等)は、キレート化剤に加えて又はその代わりに、接着剤の貯蔵安定性及び他の性質を改善し得る、ということが信じられる。
【0027】
論考されたように、例示的EDTANa4プレミックス(たとえば0.2wt%から3wt%)の添加は、接着剤部の安定性を増加する。下記の表4に見られ得るように、貯蔵安定性の改善は、接着剤部を基準として1wt%を超える接着剤部中のEDTANa4プレミックスの濃度について一層大きい。改善安定性のこの有益な効果は、接着剤処方物がネオプレンのようなポリクロロプレンである靱性化剤(下記に論考される)を含有する並びに/あるいは亜鉛及びモリブデンの金属酸化物のような腐食抑制剤(やはり下記に論考される)を含有する場合特に顕著であり得る、ということが留意されるべきである。更に、表4に示された機械的性質データは、EDTANa4プレミックスの添加はまた硬化接着剤の機械的性質を改善することを示す。最後に、EDTANa4以外のキレート化剤もまた用いられ得る、ということが強調されるべきである。実際、様々なキレート化剤溶液が、本接着剤処方物に用いられ得る。
【0028】
D.靱性化剤
靱性化剤は弾性ポリマーを含み、そして一般に−25℃(−13°F)未満そして有利には−50℃(−58°F)未満のガラス転移温度(Tg)を有する。更に、これらの靱性化剤は上記のモノマーに有益的には可溶であり得、また合成高重合体を含み得る。これらのエラストマーは接着剤又はセメント品種として商業的に供給され得、そしてネオプレン(ポリクロロプレン)、ブタジエンとスチレンのコポリマー、及びアクリロニトリル、アクリレート、メタクリレート、等の他のコポリマーを包含し得る。アクリレート/メタクリレート系接着剤を改質するために用いられる且つ−25℃から−50℃(−13°Fから−58°F)の範囲のTgを有する靱性化剤の市販用の例は、デラウェア州ウィルミントンのDuPont Dow Elastomers Companyからのネオプレン(Neoprene)AD10(約−13℃,−45°FのTgを有するポリクロロプレン製品)である。一般に、ネオプレンはアクリレート及び/又はメタクリレート系接着剤の靱性及び衝撃強さを改善するのみならず、良好な付着及び引裂き強さも与える。
【0029】
しかしながら、−25℃から−50℃(−13°Fから−58°F)の範囲のTgを有する靱性化剤で改質されたアクリレート及び/又はメタクリレート系接着剤は、低温において貧性能を示し得る。たとえば、記載されたように、硬化接着剤は、低温たとえば−40℃(−40°F)又はそれ以下において脆く(比較的低い衝撃強さ)なり得る。かくして、低温における衝撃強さを改善するために、本接着剤処方物に添加される靱性化剤は、アクリレート及び/又はメタクリレートモノマーに可溶であるところの非常に低いTgの弾性ポリマーを含み得る。これらの非常に低いTgのポリマー(たとえば約−50℃(−58°F)未満のTg)のタイプ及び量は、低温における衝撃強さを増加する一方、高温における性能を実質的には犠牲にしないように選択され得る。
【0030】
特に、約−50℃から約−110℃(−58°Fから−166°F)、約−65℃から約−105℃(−85°Fから−157°F)及び/又は約−80℃から約−100℃(−112°Fから−148°F)の範囲の少なくとも1つのドメインのTgを有する靱性化剤が、本接着剤処方物に添加される。それらの例は、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)コポリマーを包含する。これらのSBSポリマーのラジアル型が、靱性化剤として特に有益であり得る。挙げられたように、これらのSBSコポリマーの市販用の例は、テキサス州ヒューストンのShell Chemical LPからのKraton(登録商標)D1116(Tg=−91℃又は−132°F)及びKraton(登録商標)1184(Tg=−91℃又は−132°F)である。靱性化剤は、低温たとえば−40℃(−40°F)未満における硬化接着剤の靱性及び耐衝撃性を改善し得る一方、高温たとえば66℃から104℃(150°Fから220°F)における硬化接着剤の性能(たとえば重ね剪断強さ)に悪影響を及ぼさない。表1に指摘されているように、靱性化剤の総量は、一般に、本接着剤処方物の約1wt%から24wt%以内に入る。靱性化剤のなかで、−50℃(−58°F)より低いTgを有するこれらの非常に低いTgの靱性化剤は、接着剤部の約1〜8wt%普通は2〜6wt%そして一層普通には3〜5wt%である。或る具体的態様において、これらの非常に低いTgの靱性化剤の比較的少量が、接着剤処方物中にたとえば−50℃(−58°F)より高いTgを有する他の靱性化剤がある場合に添加され得る。
【0031】
E.衝撃改質剤
衝撃改質剤は、メタクリレート及び/又はアクリレートモノマー中で膨潤し得るコア−シェル構造化ポリマーを含む。衝撃改質剤が配合された接着剤は、多くの接着剤用途について望ましい性質を示す。たとえば、衝撃改質剤は、硬化接着剤の脆性を低減しそして衝撃強さを増加することにおいて、靱性化剤と同様な効果を硬化接着剤に及ぼす。衝撃改質剤はまた、未硬化接着剤における非垂れ性及びチキソトロープ性並びに滑り止め性能を改善し得る。本明細書において表現される場合、衝撃改質剤は、一般に、ゴム状「コア」及び硬質「シェル」を有するコア−シェルコポリマーと特徴づけられ得る且つメタクリレート及び/又はアクリレートモノマー組成物中で膨潤するがしかしそれらの中で溶解しないグラフトコポリマーを含む。コア−シェルコポリマーの例は、スチレン、アクリロニトリル又はメチルメタクリレートのような硬質「シェル」モノマーがブタジエン、ブチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプレン、等のポリマーから作られたゴム状「コア」上にグラフトされているものである。一つのタイプのコア−シェルポリマーは、ポリブタジエン又はポリブタジエンコポリマーゴムの存在下でメチルアクリレートを重合することにより作られたメタクリレートブタジエンスチレン(MBS)コポリマーである。かかるMBSコポリマーの市販用の例は、ペンシルベニア州フィラデルフィアのRohm and Haas CompanyからのPARALOID(登録商標)BTA−753及びテキサス州ヒューストンのKaneka Texas Companyのカネエース(KANE ACE)B−564である。表1に指摘されているように、衝撃改質剤(コア−シェルコポリマー)の量は、一般に、本処方物の接着剤部を基準として約10wt%から30wt%内に入る。
【0032】
F.付着促進剤
カルボン酸以外の付着促進剤は、メタクリルオキシエチル酸性ホスフェート、アクリルオキシエチル酸性ホスフェート、等のようなリン酸エステルを含む。これらの化合物は、様々な裸金属基材への付着を改善する。表1に列挙されているように、接着剤処方物中のかかる付着促進剤の量は、一般に、接着剤部を基準として約0.5wt%から約5wt%内に入る。付着促進剤として用いられるリン酸エステルの市販用の例は、日本国東京のキョウエイシャ化学株式会社からのライトエステル(Light Ester)P−2Mである。
【0033】
G.還元剤
還元剤は、一般に開始剤の分解速度を促進することにより、比較的広い温度範囲にわたってメタクリレート及び/又はアクリレート系接着剤の硬化を促進する。例示的還元剤は、アニリン、トルイジン、置換アニリン、置換トルイジン、それらの混合物、等を包含する。ジベンゾイルペルオキシド(BPO)のような過酸化物が開始剤として用いられる場合の還元剤の特定の例は、N,N−ジアルキルアニリン及びN,N−ジアルキルトルイジンである。接着剤処方物に用いられる還元剤の量は、一般に、接着剤部を基準として約0.1wt%から約2wt%内に入る。
【0034】
H.抑制剤/遅延剤
抑制剤/遅延剤は早期硬化を防止するために用いられ得、また所望硬化プロフィールを備えるようにレドックス系(開始剤/還元剤系)と共に用いられ得る。アクリレート及び/又はメタクリレート系用の例は、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、キノン(たとえばヒドロキノン、ベンゾキノン、等)、ニトロベンゼン、1,3,5−トリニトロベンゼン、硫黄、アニリン、フェノール、クロロニル、等を包含し得る。表1に与えられているように、抑制剤/遅延剤は、一般に、接着剤部の約0.001wt%〜0.15wt%内に入る。
【0035】
I.腐食抑制剤
腐食抑制剤は、金属基材の腐食を防止しそして金属基材を伴う接着層の耐久性を改善する(特に湿り環境又は腐食環境において)ために用いられ得る。例示的腐食抑制剤は、酸化亜鉛、モリブデン酸亜鉛及び他の化学物質を包含し得る。酸化亜鉛及びモリブデン酸亜鉛を有する抑制剤の市販用の例は、オハイオ州クリーブランドのMoly White Pigments GroupからのMOLY-WHITE(登録商標)101 ED Plusである。表1に指摘されているように、腐食抑制剤は、一般に、本処方物の約1wt%(接着剤部を基準として)より少ない。
【0036】
J.ロウ
ロウは、接着剤の施用中接着剤の表面からモノマーの蒸発を低減するために用いられ得る。利用されるロウの例示的融点範囲は、約43℃から77℃(110°Fから170°F)である。用いられるロウのカテゴリーは、石油炭化水素ロウである。かかる石油ロウの市販用の例は、両方共ニュージャージー州ブエナのIGI Inc.からのボラー(Boler)1977ロウ及びIGI 1230ロウである。一般に、接着剤部を基準として本処方物の約0.5から4wt%のみがロウである。過剰量のロウは、特に金属接着用途において、硬化接着剤の機械的性質及び付着に悪影響を及ぼし得る。それ故、追加的手法(たとえば、ポリビニルアセテートを添加する及び/又は還元剤対開始剤のモル比を低下する)が、モノマーの沸騰(及び重量損失)を低減する一方、他の性質を有意には犠牲にしないように、ロウ添加を補足し得る。
【0037】
K.金属ジ(メト)アクリレート
金属ジ(メト)アクリレートは、一般に、金属基材への接着剤の付着を改善する。かかる化合物はまた、硬化接着剤の機械的性質だけでなく、硬化接着剤の耐熱性及び耐薬品性も改善し得る。更に、金属ジ(メト)アクリレートは、一般に、米国特許第6,730,411号明細書(参照することにより本明細書に組み込まれる)に記載されているように、接着剤において教示された強度の発現を促進する。金属ジ(メト)アクリレートの市販用の例は、Sartomer Company, Inc.からのSR 708(亜鉛ジメタクリレート)である。
【0038】
L.ポリビニルアセテート(及び誘導体)
論考されたように、ビニルアセテートホモポリマー及び/又はそれらの誘導体並びに他の化合物は、硬化中の接着剤の重量損失を低減するために、メタクリレート及び/又はアクリレート系接着剤に用いられ得る。たとえば、ポリビニルアセテートは、重量損失を低減するために本接着剤に添加される(たとえば接着剤部の15wt%より少なく)。たとえば表1及び6が参照される。一つの例において、ポリビニルアセテートの添加は、重量損失を少なくとも1%低減した。ポリビニルアセテートはまた、収縮制御剤として利用され得る。ポリビニルアセテートの市販用の例は、オハイオ州クリーブランドのMcGean Rohco, Inc.からのPVA B−15である。
【0039】
M.開始剤
本接着剤の活性剤部は、一般に、過酸化物及び他の化合物のような開始剤を含む。例示的過酸化物は、ジベンゾイルペルオキシド(BPO)、クメンヒドロペルオキシド、等を包含する。或る具体的態様において、BPOは単独開始剤又は一次開始剤として用いられ得、そしてクメンヒドロペルオキシドのような比較的安定な過酸化物は共開始剤又は二次開始剤として用いられ得る。共開始剤は、たとえばより完全な初期転化を得るために(特に遅硬接着剤が所望される場合)用いられ得る。共開始剤対一次開始剤のモル比は、一般に0.5より小さい。このモル比の例示的範囲は、或る具体的態様において約0.1から0.4でありそして他の具体的態様において約0.2から0.3である。下記に論考されるように、活性剤部は、担体、増粘剤及び/又は他の化合物(たとえば着色剤)を含み得る。
【0040】
N.担体
開始剤は、担体と共に固体形態又は溶液、懸濁液、乳濁液、ペースト、等のような液体形態で商業的に入手可能であり得る。一般に、担体成分は、典型的貯蔵条件下で開始剤に対して不活性である。成分例は、水、可塑剤、界面活性剤、等を包含する。更に、担体成分の追加量が、開始剤の濃度、活性剤部の粘度及び比重、等を調整するために、活性剤部に添加され得る。合計して、担体の量は、一般に、総接着剤(接着剤方と活性剤方の総合重量)の20wt%より少なくそして普通は約10wt%より少ない。総接着剤を基準として例示的重量範囲は、約2%〜20%、4%〜15%及び6%〜10%である。
【0041】
O.増粘剤
更に、増粘剤が、両パートの混合性及び他の性質を改善するために並びに活性剤方の粘度、比重及びチキソトロープ性を改変するために用いられ得る。活性剤部に添加され得る増粘剤は、無機充填剤、有機充填剤、及び/又は溶解、膨潤若しくは懸濁され得る(たとえば担体中で)不活性ポリマーを含む。
【0042】
P.比率及び他の成分
連鎖移動剤、顔料、スペーサー、香料、充填剤、難燃剤、等のような他の成分が、本処方物の活性剤方及び/又は接着剤方中に添加され得る。更に、接着剤部中の様々な成分の全量又は部分量が、接着剤部から活性剤部へ移され得る。かかる成分は、或る靱性化剤、衝撃改質剤、抑制剤/遅延剤、連鎖移動剤、等を包含し得る。一般に、移転された成分は、活性剤部中の成分に対して実質的に不活性である。
【0043】
更に、接着剤部及び活性剤部は、非常に広い範囲のこれらの2つのパーツ間の様々な比率にて処方され得る。接着剤部対活性剤部の比率は、一般に、容量により100:1から2:1の範囲内にある。接着剤部対活性剤部の実際比率は、商業的に入手できる包装及び分与装置の故、容量により10:1である。更に、活性剤部中の単独/一次開始剤対接着剤部中の還元剤のモル比は、約0.5から10普通は約1から5の例示的範囲にあり得る。
【0044】
III.接着剤の調製及び施用
最初に、アクリレート/メタクリレート系接着剤の接着剤部及び活性剤部が調製される。指摘されたように、接着剤部対活性剤部の容量比は大きく変動し得る。更に、活性剤部中の単独/一次開始剤対接着剤部中の還元剤のモル比は調整され得る。
【0045】
調製中、接着剤部及び活性剤部を処方するために接着剤成分が一緒にされそして混合される順序は、たとえば靱性化剤のタイプ、衝撃改質剤の充填、等に依存して、有意に変動し得る。一般に、処方物の原料及び成分は、袋、運搬箱、ドラム、タンクトラック、貨車、パイプライン、等で配達され得る。原料は配給業者により又は接着剤製造業者により容器、倉庫、等にて現場で貯蔵され得、あるいはそれらが受け取られた時に接着剤製造業者により用いられ得る。
【0046】
接着剤部及び活性剤部の商業的調製は、成分の低速及び/又は高速混合、原液又はプレミックスの調製、中間及び最終工程において接着剤処方物の冷却、真空を用いて又は用いないでバッチの脱気、等を伴い得る。当業者により認識されるように、これらの2つのパートを処方する際に用いられ得る装置は、容器、パイプ、弁、移送ポンプ、真空ポンプ及びノズル、混合機(たとえば高速かき混ぜ機又はディスペンサー)、等を含む。接着剤部及び活性剤部は、比較的小さいカートリッジから55ガロンドラム、等に及ぶ種々のタイプの容器で最終使用者に配達され得る。
【0047】
接着剤の2つのパートの調製後、それらは接着剤製造業者、配給業者、最終使用者、等により在庫として貯蔵され得る。他方では、これらの2つのパートは、物体を接着するために、輸送後まもなく(中間貯蔵なしに)混合されそして施用され得る。接着剤を施用するために、接着剤部及び活性剤部(及び他のパート)は、論考されたように一緒にされる又は一緒に混合される。一緒にされた接着剤処方物は、次いで第1部品及び/又は第2部品に施用され得る。接着剤のかかる施用後、第1部品と第2部品は、施用接着剤によって互いに接着され得る。最後に、接着剤は、硬化するようにされる(一般に周囲温度又は室温にて)。
【0048】
IV.実施例
本技術の側面及び具体的態様が、次の例に関して記載される。これらの例は例示の目的のために提供され、しかして本技術の範囲を制限するように解釈されるようには意図されていない。
【0049】
実施例1
表2は、本接着剤処方物の活性剤部の組成例を提供する。一般に、挙げられたように、活性剤部は、単独開始剤を含み得る。他方では、活性剤部は、一次開始剤及び共開始剤を含み得る。共開始剤(用いられる場合)対一次開始剤のモル比の例示的範囲は、一般に0.5より小さい。
【0050】
実施例1において、活性剤部は、ペンシルベニア州フィラデルフィアのElf Atochem North America Inc.により商品名ルペルコ(LUPERCO)ANS下で販売されたペースト形態にあるBPOである単独開始剤を含む。この例において、BPOの担体は、可塑剤及び界面活性剤を含み得る。例示的可塑剤は、ジイソデシルアジペート(DIDA)である。更に、表2に指摘されているように、活性剤部は、増粘剤を含み得る。増粘剤の例は、EPON(登録商標)828、Paraloid(登録商標)BTA−753、及びKraton(登録商標)G1652を有する活性剤プレミックスである。活性剤部はまた、オハイオ州サンダスキーのAmerican Colors, Inc.からの製品VC10000M及びVC80000のような着色剤を含み得る。最後に、論考されたように、活性剤部は、用いられる開始剤に対して実質的に不活性であるところの接着剤部の或る成分のような他の成分を含み得る。
【0051】
【表2】

【0052】
実施例2
実施例2において、接着剤部中のEDTANa4プレミックスの存在は、接着剤部の貯蔵安定性を改善した。結果として、接着剤部の糸曳きは有意に低減される。更に、表3に指摘されているように、EDTANa4プレミックスはまた、硬化接着剤の機械的性質を改善した。
【0053】
【表3】

【0054】
a 47.5%の水及び47.5%のエチレングリコール中の5%のEDTANa4
b プレミックスは、15.35%のネオプレン(Neoprene)AD10、0.02%の1,4−NQ及び84.63%のMMAを含有する。
c NQプレミックスは、5wt%のサンチサイザー(Santicizer)278及び90wt%のメチルメタクリレート(MMA)中の5wt%のナフタキノンを含有する。
d MOLY-WHITE(登録商標)101 ED Plusプレミックスは、19.5%の活性剤プレミックス、0.5%のBYK 1142及び80%のMOLY-WHITE(登録商標)101 ED Plusを含有する。
e 引張り試料及び伸び試料は、Ex.2.4/1.1の試料(一晩硬化)以外は室温にて5日間硬化した。ASTM D638−99に従った。
f 基材に表面処理を適用しなかった。試料を室温にて一晩硬化した。接着剤層の厚さは、Ex.2.4/1.1の接着剤層の厚さ(0.032インチ)以外は0.012インチであった。ASTM D1002−99に従った。
g 破壊様態: CFは凝集破壊であり、そしてAFは接着破壊である。
h 基材に表面処理を適用しなかった。試料を室温にて一晩硬化しそして次いで180°Fにて30分間状態調整した後、それらを引っ張った。
i 0.5インチシングルオーバーラップ試料を室温にて一晩硬化し、そして次いで−40°Fにて16時間状態調整した。GM 9751Pに従って3ポンドハンマーでもってアイゾット衝撃試験機にて、試料に対して側方衝撃を行った。
【0055】
実施例3
表4における例は、比較的少量の非常に低いTgの弾性ポリマーが高温性能(たとえば高温における重ね剪断強さ)の有意な損失なしに低温性能を改善し得ることを実証している。この例において、接着剤部対活性剤部の混合比は、容量により10:1である。表4における結果は、82℃(180°F)における重ね剪断強さのわずかな損失のみでもって、−40℃(−40°F)における衝撃強さが増加したことを示している。
【0056】
【表4】

【0057】
実施例4
重量損失を低減するために、石油炭化水素ロウが多年用いられてきた。しかしながら、表5に示されているように、ロウレベルが約1〜1.5%に達するとき、効力は減少し始め、また硬化接着剤の或る性質は劣化し始める。硬化中の重量損失を低減するためにそしてその結果として接着剤から発せられるモノマー(たとえばMMA)の臭気を低減するために、様々な手法が開発された。一つのかかる手法は、硬化中の重量損失を低減するためにポリビニルアセテートを用いることである。別の手法は、発熱温度を低下する一方、硬化速度(発熱時間)を実質的に維持することにより硬化中の重量損失を制御するために、還元剤対開始剤のモル比を増加することである。表6は、これらの二つの手法を実証している。
【0058】
【表5】

【0059】
実施例5
【表6】

【0060】
本発明は様々な改変及び代替形態が可能であり得るけれども、特定の具体的態様が本明細書に例として示されそして詳細に記載されてきた。しかしながら、本発明は開示された特定の形態に限定されるようには意図されていない、ということが理解されるべきである。むしろ、本発明は、添付の請求項により定められる本発明の精神及び範囲内に入るすべての改変物、等価物及び代替物をカバーすべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤処方物であって、
開始剤を含む活性剤部、及び
接着剤部
を含み、しかも該接着剤部は
アクリレートモノマー若しくはメタクリレートモノマー又はそれらの組合わせ、及び
該接着剤部の少なくとも1重量パーセントを構成するキレート化剤溶液
を含む接着剤処方物。
【請求項2】
接着剤部が還元剤を含む、請求項1に記載の接着剤処方物。
【請求項3】
開始剤対還元剤のモル比が、約0.5から約10の範囲にある、請求項2に記載の接着剤処方物。
【請求項4】
還元剤が、アニリン若しくはトルイジン又はそれらの組合わせを含む、請求項2に記載の接着剤処方物。
【請求項5】
キレート化剤溶液中のキレート化剤が、六座配位子、二座配位子若しくは三座配位子又はそれらのいずれかの組合わせを含む、請求項1に記載の接着剤処方物。
【請求項6】
キレート化剤が、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(EDTANa4)を含む、請求項5に記載の接着剤処方物。
【請求項7】
キレート化剤溶液が、少なくとも一部が水である溶媒を含む、請求項1に記載の接着剤処方物。
【請求項8】
溶媒が更に、グリコール若しくはアルコール又はそれらの組合わせを含む、請求項7に記載の接着剤処方物。
【請求項9】
開始剤が過酸化物を含む、請求項1に記載の接着剤処方物。
【請求項10】
開始剤が、ジベンゾイルペルオキシド(BPO)若しくはクメンヒドロペルオキシド(CHP)又はそれらの組合わせを含む、請求項1に記載の接着剤処方物。
【請求項11】
開始剤が、一次開始剤又は単独開始剤を含む、請求項1に記載の接着剤系。
【請求項12】
活性剤部が、担体、増粘剤、着色剤若しくは二次開始剤又はそれらのいずれかの組合わせを含む、請求項1に記載の接着剤処方物。
【請求項13】
活性剤部が共開始剤を含む、請求項1に記載の接着剤処方物。
【請求項14】
共開始剤対開始剤のモル比が、約0.5より小さい、請求項13に記載の接着剤処方物。
【請求項15】
接着剤処方物であって、
アクリレートモノマー若しくはメタクリレートモノマー又はそれらの組合わせを含むモノマー、
過酸化物を含む開始剤、
還元剤、しかも単独開始剤又は一次開始剤対還元剤のモル比は約0.5から約10の範囲にあり、及び
該モノマーに実質的に可溶な靱性化剤であって、−50℃(−58°F)より低い少なくとも1つのドメインのガラス転移温度を有するコポリマーを含む靱性化剤
を含む接着剤処方物。
【請求項16】
靱性化剤が弾性ポリマーを含む、請求項15に記載の接着剤処方物。
【請求項17】
靱性化剤がブロックコポリマーを含む、請求項15に記載の接着剤処方物。
【請求項18】
靱性化剤が、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)コポリマーを含む、請求項15に記載の接着剤処方物。
【請求項19】
靱性化剤が、ラジアル型のポリマーを含む、請求項15に記載の接着剤処方物。
【請求項20】
衝撃改質剤を含む、請求項15に記載の接着剤処方物。
【請求項21】
衝撃改質剤が、コア−シェル構造化ポリマーを含む、請求項20に記載の接着剤処方物。
【請求項22】
衝撃改質剤が、メタクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS)コポリマーを含む、請求項20に記載の接着剤処方物。
【請求項23】
約−25℃から約−50℃(約−13°Fから約−58°F)の範囲の少なくとも1つのドメインのガラス転移温度を有する第2靱性化剤を含む、請求項15に記載の接着剤処方物。
【請求項24】
第2靱性化剤がポリクロロプレンを含む、請求項23に記載の接着剤処方物。
【請求項25】
ポリビニルアセテート若しくはその誘導体又はそれらの混合物を含む、請求項15に記載の接着剤処方物。
【請求項26】
ロウを含む、請求項15に記載の接着剤処方物。
【請求項27】
開始剤が、単独開始剤又は一次開始剤を含む、請求項15に記載の接着剤処方物。
【請求項28】
接着剤を製造する方法であって、
開始剤を含む活性剤部を調製し、そして
キレート化剤溶液と、アクリレートモノマー又はメタクリレートモノマーの少なくとも一方とを含む接着剤部を調製し、しかも該キレート化剤溶液は該接着剤部の少なくとも約1重量パーセントを構成する
ことを含む方法。
【請求項29】
接着剤部対活性剤部の容量比が、約100:1から約2:1の範囲にある、請求項28に記載の接着剤処方物。
【請求項30】
接着剤部又は活性剤部の少なくとも一方が、リン酸エステルを含む付着促進剤を含む、請求項28に記載の接着剤系。
【請求項31】
開始剤対還元剤の前もって決定されたモル比にて開始剤及び還元剤を含む既知接着剤より低い重量損失を有する接着剤を製造する方法であって、
還元剤を含む接着剤部を用意し、そして
該接着剤部とは別個である活性剤部を用意し、しかも該活性剤部は開始剤を含み、
しかも硬化中該接着剤が該既知接着剤より低い重量損失を有するように、該前もって決定されたモル比より小さい開始剤対還元剤のモル比にて該還元剤及び該開始剤を用意する
ことを含む方法。
【請求項32】
接着剤のピーク発熱温度が、既知接着剤のピーク発熱温度より低い、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
硬化中の接着剤のモノマー沸騰が、硬化中の既知接着剤のモノマー沸騰より少ない、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
開始剤対還元剤の前もって決定されたモル比にて開始剤及び還元剤を含む既知接着剤より低い重量損失を有する接着剤を用いる方法であって、
還元剤を含む接着剤部を用意し、
該接着剤部とは別個である活性剤部を用意し、しかも該活性剤部は開始剤を含み、
しかも硬化中該接着剤が該既知接着剤より低い重量損失を有するように、該前もって決定されたモル比より小さい開始剤対還元剤のモル比にて該還元剤及び該開始剤を用意し、そして
該接着剤部と該活性剤部を一緒にする
ことを含む方法。
【請求項35】
硬化中の接着剤の重量損失が、0.5重量パーセントより少ない、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
接着剤を製造する方法であって、
モノマー及び還元剤を含む接着剤部を調製し、
開始剤を含む活性剤部を調製し、そして
該接着剤の硬化中該接着剤の重量損失を低減するために、ポリビニルアセテート若しくはその誘導体又はそれらの組合わせを該接着剤部又は該活性剤部の少なくとも一方に添加する
ことを含む方法。
【請求項37】
ポリビニルアセテート若しくはその誘導体又はそれらの組合わせを添加することが、重量損失を少なくとも1重量パーセント低減する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
接着剤を製造する方法であって、
ポリマーでない開始剤を含む第1パートを調製し、そして
第1パートとは別個の第2パートであって、アクリレートモノマー若しくはメタクリレートモノマー又はそれらの組合わせを含む第2パートを調製し、
しかも第1パート又は第2パートの少なくとも一方は、靱性化剤の少なくとも1つのドメインの−50℃(−58°F)より低いガラス転移温度を有する靱性化剤を含む
ことを含む方法。
【請求項39】
開始剤が、単独開始剤又は一次開始剤を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
接着剤を用いる方法であって、
接着剤の第1パートを接着剤の第2パートと混合し、しかも第1パートはアクリレートモノマー若しくはメタクリレートモノマー又はそれらの組合わせ及び還元剤を含みそして第2パートは過酸化物を含み、
しかも第1パート若しくは第2パート又はそれらの組合わせは、−50℃(−58°F)未満の1つのドメインのガラス転移温度を有する靱性化剤を含み、
第1パートと第2パートの混合物を第1基材に施用し、そして
第2基材を第1基材に接着する
ことを含む方法。
【請求項41】
過酸化物が、ジベンゾイルペルオキシド(BPO)を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
2つの物体を接着する方法であって、
第1物体及び第2物体を用意し、
接着剤を第1物体に又は第1物体及び第2物体の両方に施用し、しかも該接着剤は活性剤部と接着剤部を一緒にすることにより作られ、
しかも該活性剤部は開始剤を含み、そして該接着剤部はキレート化剤溶液と、還元剤と、アクリレートモノマー又はメタクリレートモノマーの少なくとも一方とを含み、該キレート化剤溶液は該接着剤部の1重量パーセントより多くを構成し、そして
第1物体と第2物体を該接着剤によって付着させる
ことを含む方法。
【請求項43】
キレート化剤溶液が、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(EDTANa4)及び水を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
装置であって、接着剤で接着された部品を有する製品を含み、しかも実質的重合前の該接着剤の処方物が
アクリレートモノマー若しくはメタクリレートモノマー又はそれらの組合わせ、
還元剤、
過酸化物、及び
−50℃(−58°F)より低いガラス転移温度を含むコポリマー
を含む装置。
【請求項45】
製品であって、接着剤で接着された部品を含み、しかも施用前の該接着剤の処方物が
開始剤を含む活性剤部、及び
アクリレートモノマー若しくはメタクリレートモノマー又はそれらの組合わせ及び接着剤部の少なくとも1重量パーセントであるキレート化剤溶液を含む接着剤部
を含む製品。
【請求項46】
キレート化剤溶液が、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩(EDTANa4)及び水を含む、請求項45に記載の製品。
【請求項47】
キレート化剤溶液がエチレングリコールを含む、請求項46に記載の製品。
【請求項48】
活性剤部又は接着剤部の少なくとも一方が、ポリクロロプレン、ブタジエンとスチレンのコポリマー又はブタジエンとイソプレンのコポリマーの少なくとも一つを含む靱性化剤を含む、請求項47に記載の製品。

【公表番号】特表2008−540740(P2008−540740A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510236(P2008−510236)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【国際出願番号】PCT/US2006/017290
【国際公開番号】WO2006/119469
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(591203428)イリノイ トゥール ワークス インコーポレイティド (309)
【Fターム(参考)】