説明

金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルム

【課題】低分子化合物のブリードアウトが少なく、製膜性に優れ、金属板とラミネートする工程において該工程を汚染することなく、優れた金属板との密着性を示し、絞り加工等の製缶加工をする際に優れた成形加工性を示し、ラミネート後に光沢感を有するとともに、レトルト後の外観が良好な金属缶を製造し得る金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルムを提供する。
【解決手段】融点が230〜260℃のポリエチレンテレフタレート(a)からなるポリエステル層Aと、この層Aに接しポリブチレンテレフタレート(b1)および融点が210〜260℃のポリエチレンテレフタレート(b2)からなるポリエステル層Bとから構成される二軸延伸された積層フィルムであって、ポリエステル層Aが非球状の粒子を0.01〜1.0重量%含有し、ポリエステル層Bが非球状の粒子を0.01〜1.0重量%含有することを特徴とする、金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属缶には内外面の腐蝕防止として一般に塗装が施されているが、最近、工程簡素化、衛生性向上、公害防止の目的で、有機溶剤を使用せずに防錆性を得る方法の開発が進められ、その一つとして熱可塑性樹脂フィルムによる金属缶の被覆が試みられている。すなわち、ブリキ、ティンフリースチール、アルミニウム等の金属板に熱可塑性樹脂フィルムをラミネートした後、絞り加工等により製缶する方法の検討が進められている。
【0003】
ポリエチレンテレフタレートフィルムは、バランスのとれた特性を有するフィルムとして注目され、これをベースとした幾つかの提案がされている。例えば、特開平11−151752号公報、特開平11−151791号公報では、特定の融点と特定の面配向係数を有するポリエステルフィルムが提唱されている。
【0004】
また、特開平10−195210号公報、特許第2882985号公報では、ポリエステルフィルムをラミネートした金属板を缶の形状に成形加工を施し内容物を充填した後に実施するレトルト殺菌処理工程においても白濁しないフィルムとして、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートとからなるポリエステルフィルムが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−151752号公報
【特許文献2】特開平11−151791号公報
【特許文献3】特開平10−195210号公報
【特許文献4】特許第2882985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、金属缶の外観の高級感つまり金属板に張り合わせた際の外観、特に光沢感が重要視されるようになっている。また、ポリエステルオリゴマーなどの、食品衛生上好ましくない低分子化合物が内容物と接触したり内容物に含有しなことも求められる。しかし、従来の技術では、金属缶の外観に光沢を与えつつ、低分子化合物のブリードアウトを十分に低減することができなかった。
【0007】
本発明の目的は、低分子化合物のブリードアウトが少なく、製膜性に優れ、金属板とラミネートする工程において該工程を汚染することなく、優れた金属板との密着性を示し、絞り加工等の製缶加工をする際に優れた成形加工性を示し、ラミネート後に光沢感を有するとともに、レトルト後の外観が良好な金属缶を製造し得る金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、融点が230〜260℃のポリエチレンテレフタレート(a)からなるポリエステル層Aと、この層Aに接しポリブチレンテレフタレート(b1)および融点が210〜260℃のポリエチレンテレフタレート(b2)からなるポリエステル層Bとから構成される二軸延伸された積層フィルムであって、ポリエステル層Aが非球状の粒子を0.01〜1.0重量%含有し、ポリエステル層Bが非球状の粒子を0.01〜1.0重量%含有することを特徴とする、金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低分子化合物のブリードアウトが少なく、製膜性に優れ、金属板とラミネートする工程において該工程を汚染することなく、優れた金属板との密着性を示し、絞り加工等の製缶加工をする際に優れた成形加工性を示し、ラミネート後に光沢感を有するとともに、レトルト後の外観が良好な金属缶を製造し得る金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
[ポリエステル層A]
本発明におけるポリエステル層Aは、フィルムを金属板と貼り合わせた際に非金属側となる層である。ポリエステル層Aを構成するポリエステルは、融点が230〜260℃のポリエチレンテレフタレート(a)であり、好ましくは実質的に共重合成分を含まないポリエチレンテレフタレートである。このポリエチレンテレフタレート(a)を用いることにより、金属板にラミネートする際、ラミネートロールに起因する欠点を抑制することができる。つまり、ラミネートロールに異物が付着しているような場合においても、ポリエステル層Aを構成するポリエステルが硬いため異物の転写を抑制することができ、ポリエステル層Aは転写による凹凸が少ない平坦な表面を形成し、金属板に貼り合せたときに光沢感に優れたものとなる。さらに、ポリエステル層Bに不可避的に含有されるオリゴマー等の低分子化合物がポリエステル層Aを通り抜けて、金属貼り合わせ成形加工用フィルムの表面にブリードアウトすることを防ぐことができる。これは、金属缶の内面に本発明のフィルムが使われたとときに、低分子化合物が金属缶の内容物に含有されることを防ぐことができることを意味する。例えば、ポリエステル層Bが着色顔料や着色染料などを含有している場合や、ポリエステル層Bがポリエチレンテレフタレートのオリゴマーなどを含有している場合において、ポリエステル層Aを構成するポリエステルを、ポリエチレンテレフタレート(a)とすることで、これらの低分子化合物が内容物側へブリードアウトしてしまうのを抑制することができる。ポリエチレンテレフタレート(a)の融点が230℃未満であると、後述するラミネートロール上の異物などに起因する転写を抑制することが困難であり、表面に凹凸が多く、光沢感が損なわれる。融点が260℃を越えるとポリマーの結晶性が大きすぎて成形加工性が損なわれる。
【0012】
本発明の金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルムを金属缶に用いる場合、本発明の金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルムを金属板に貼り合わせ、これを缶の形態に加工する。通常はフィルムが外側になるようにするが、フィルムが内側になるように加工する場合もある。この場合、ポリエステル層Aは内容物と接触する層となるので、食品衛生上、ポリエステル層Aには着色剤を含有させてないことが好ましい。のみならず、金属板とのラミネート工程において、ラミネートロールを汚染してしまう問題が生じるため、ポリエステル層Aには着色剤を添加しないことが好ましい。
【0013】
[ポリエステル層B]
本発明におけるポリエステル層Bは、フィルムを金属板と貼り合わせた際に金属板側になる層である。ポリエステル層Bは、ポリブチレンテレフタレート(b1)と 融点が210〜260℃のポリエチレンテレフタレート(b2)から成るポリエステル組成物から構成される。ポリエチレンテレフタレート(b2)の融点は、好ましくは215〜260℃、さらに好ましくは220〜260℃である。融点が210℃未満では耐熱性が劣ることになり、融点が260℃を越えるとポリマーの結晶性が大きすぎて金属板への密着性と成形加工性が損なわれる。
【0014】
このポリエステル組成物は、ポリブチレンテレフタレート(b1)とポリブチレンテレフタレート(b2)の配合比が30/70〜70/30重量%であることが好ましい。配合比が70/30を超えるとポリブチレンテレフタレート(b1)の含有量が多すぎ、樹脂としての融点が低すぎ、耐熱性に劣るものとなってしまい好ましくない。混合比が30/70未満であるとポリブチレンテレフタレート(b1)の混合量が少なすぎ、金属板との密着性が劣るものとなってしまうほか、殺菌処理工程などにおいて125℃でのレトルト処理を施した際にフィルムが白化してしまい、レトルト処理後の外観が損なわれて好ましくない。
【0015】
なお、レトルト処理後にフィルムが白化することを防ぐことを目的として、リン化合物に代表される公知の安定剤を添加し、ポリブチレンテレフタレート(b1)とポリエチレンテレフタレート(b2)のエステル交換反応を抑制し、結晶化速度を向上させてもよい。リン化合物としては、例えばトリメチルホスフェート、トリエチレンホスフェート、トリーnーブチルホスフェート、正リン酸を挙げることができる。
【0016】
ポリエステル層Bには、本発明の目的を損なわない範囲において、必要に応じ、他の添加剤例えば着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤を添加してもよい。特に、外観上の高級感を得るために着色を施す、特にゴールド色とする場合が有り、この目的のためにフィルムに着色剤、特に黄色着色剤を添加することができる。黄色着色剤としては、アンスラキノン系、イソインドリノン系、ベンズイミダゾロン系、キノフタロン系、縮合アゾ系が好ましい。着色剤としては色調を調整するために、他の成分を併用しても良いが、耐熱性の良好なものが好ましく、またその用途上食品衛生面での安全性が認められているものが好ましい。
【0017】
着色剤は、原料樹脂の重合工程にて含有させてもよく、高濃度のマスターチップを例えば二軸押出機を用いて製造しておき、着色剤未含有のチップと混合することにより、所望の濃度の着色剤を含有する樹脂組成物を得てもよい。また、例えばスクリューフィーダーを用いて、製膜工程の押出機に着色剤を粉体のままで直接含有させてもよい。
【0018】
[ポリエチレンテレフタレート]
本発明におけるポリステルA層のポリエチレンテレフタレート(a)およびポリエステルB層のポリエチレンテレフタレート(b2)は、テレフタル酸をジカルボン酸成分、エチレングリコールをジオール成分としてなるポリエステルである。これらのポリエステルには、本発明の効果が損なわれない範囲で他の成分を共重合してもよく、共重合成分は酸成分でもアルコール成分でもよい。共重合ジカルボン酸成分として、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸の如き芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸を例示することができる。また共重合ジオール成分として、ブタンジオール、ヘキサンジオールの如き脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオールを例示することができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0019】
ポリエチレンテレフタレート(a)の共重合成分の割合は、結果としてポリマー融点が230〜260℃の範囲になる割合である。この条件を満たすポリエチレンテレフタレート(a)を得るためには、ポリエチレンテレフタレートのホモポリマーを用いるか、ジカルボン酸成分として例えばイソフタル酸成分1〜3モル%を共重合成分として含む共重合ポリエチレンテレフタレートを用いればよい。ポリエチレンテレフタレート(b2)の共重合成分の割合は、結果としてポリマー融点が210〜260℃の範囲になる割合である。この条件を満たすポリエチレンテレフタレート(b2)を得るためには、ジカルボン酸成分としてイソフタル酸成分を1〜15モル%、好ましくは1〜10モル%、さらに好ましくは1〜5モル%を共重合成分として含む共重合ポリエチレンテレフタレートを用いればよい。イソフタル酸を前記範囲で共重合することにより、金属板との密着性を更に良好なものとすることができる。イソフタル酸成分が15モル%を越えるとレトルト後にフィルムが白化しやすくなり、レトルト後の外観が損なわれる場合があり好ましくない。
【0020】
ポリエチレンテレフタレート(a)とポリエチレンテレフタレート(b2)の固有粘度はいずれも、好ましくは0.50〜0.80、さらに好ましくは、0.54〜0.70、特に好ましくは0.57〜0.65である。固有粘度が0.50未満では実用に供することのできる機械的強度を有したフィルムが得られず、後述するラミネートロール上の異物に起因する転写を抑制することが困難となるほか、低分子成分が内容物側へブリードアウトし易くなるなどの問題を生じて好ましくない。0.80を超えると成形加工性が損なわれて好ましくない。
【0021】
なお、ポリエステルの融点は、示差走査熱量計TA Instruments mDSCを用い、昇温速度20℃/分で融解ピークを求める方法により得られる融点である。サンプル量は約10mgとする。また、ポリエステルの固有粘度は、ο−クロロフェノールに溶解後、35℃での測定値から求めた値である。
【0022】
[ポリブチレンテレフタレート]
本発明におけるポリエステルB層のポリブチレンテレフタレート(b1)は、テレフタル酸をジカルボン成分、1,4−ブタンジオールをジオール成分としてなるポリエステルである。このポリエステルは、好ましくは溶融重合反応後に固相重縮合反応されたものを用いる。
【0023】
ポリブチレンテレフタレートには、本発明の効果が損なわれない範囲で他成分を共重合してもよく、共重合成分はジカルボン酸成分でもジオール成分でもよい。共重合ジカルボン酸成分としてはイソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸の如き芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸を例示することができる。これらの中、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジガルボン酸、アジピン酸が好ましい。また共重合ジオール成分として、エチレングリコール、ヘキサンジオールの如き脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオールを例示することができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0024】
共重合成分の割合は、その種類にもよるが、結果としてポリマー融点が180〜223℃、好ましくは200〜223℃、さらに好ましくは210〜223℃の範囲になる割合である。ポリマー融点が180℃未満ではポリエステルとしての結晶性が低く、結果としてフィルムの耐熱性が低下する。なお、ポリブチレンテレフタレートホモポリマーの融点は223℃であることから223℃が融点の上限となる。
【0025】
ポリブチレンテレフタレート(b1)の固有粘度は、好ましくは0.60〜2.00、さらに好ましくは0.80〜1.70、特に好ましくは0.85〜1.50である。固有粘度が0.6未満では実用に供することのできる機械的強度を有したフィルムが得られず好ましくない。原料ポリエステル樹脂およびフィルムの生産性の面で、固有粘度の上限は2.0である。
【0026】
[粒子]
ポリエステル層Aは、非球状の粒子を0.01〜1.0重量%、好ましくは0.02〜0.5重量%、さらに好ましくは0.03〜0.1重量%含有する。このポリエステル層Aは金属と貼り合わせる際に非金属側となる層である。0.01重量%未満であると、フィルムを製膜する工程もしくはフィルムをラミネートした金属板を搬送して加工する工程において搬送性が劣り、フィルム表面にスクラッチが入るなどの問題を生じる。また、ラミネートした金属板を成形する際に、成形型とフィルムの摩擦が大きくなりすぎ、フィルムが成形型によって削られてしまう問題や、成形型に疵がついてしまう、成形型が磨耗してしまうなどの問題が生じ、結果として成形速度を上げることができず、生産性が劣るものとなってしまう。1.0重量%を超えると、フィルムの透明性が低く、金属板にラミネートした際に好ましい光沢感を得難くなる。
【0027】
ポリエステル層Aは、実質的に球状の粒子を含有しないことが好ましい。球状の粒子は非球状の粒子に比べてフィルムから脱落しやすく、これが多く含まれていると、金属板と貼り合わせるラミネート工程においてポリエステル層Aと接するラミネートロールが汚れやすくなる問題を生じる。更に、球状の粒子を含有するポリエステルフィルムを延伸すると、粒子の周りにボイドが発生してしまう。これにより、フィルムの透明性が損なわれるばかりでなく、ポリエステル層Bが含有するブリードアウト性を有する低分子化合物(例えば着色剤やポリエステルオリゴマーなど)がポリエステル層Aを通り抜けてブリードアウトする問題が生じる。例えば、フィルムをラミネートした金属板において、ポリエステル層Aが内容物と接触するような場合は、ポリエステル層Bからブリードアウトした低分子化合物がポリエステル層Aを通り抜けて内容物と接触してしまう問題が生じる。また、殺菌工程などにおいてレトルト処理を行う場合においても、同様にポリエステル層Bからポリエステル層Aを通りぬけて低分子化合物がポリエステル層Aの表面に析出してしまい、光沢感が損なわれる、外観が劣るなどの問題を生じる。
【0028】
ポリエステル層Bは、非球状の粒子を0.01〜1.0重量%、さらに好ましくは0.02〜0.5重量%、特に好ましくは0.03〜0.1重量%含有する。このポリエステル層Bは金属側となる層である。非球状の粒子が0.01重量%未満であるとフィルムを製膜する工程において搬送性が劣るものとなってしまう。1.0重量%を超えるとフィルムの透明性が低くなりすぎ、金属板にラミネートした際に金属板の金属光沢が損なわれる。そのうえ、金属板にラミネートする際には、表面が粗すぎるためにラミネート性に劣り、金属板とフィルムの密着力が劣るものとなってしまう。
【0029】
ポリエステル層Bは、さらに球状の粒子を含有することが好ましい。含有量は、好ましくは0.005〜0.1重量%、さらに好ましくは0.005〜0.05重量%である。この範囲で球状の粒子を含有することで、レトルト処理により白化しにくいフィルムとすることができる。球状の粒子が0.1重量%を超えると、フィルムを延伸した際に粒子の周辺にボイドが発生し、ポリエステル層Bに含有される低分子化合物が表面にブリードアウトしやすくなり好ましくない。フィルムと金属板をラミネートする工程において、ポリエステル層Bの表面に低分子化合物がブリードアウトして付着していた場合、金属板とのラミネート性、密着性が劣ったものとなる。
【0030】
なお、本発明においては、以下の定義によって定める粒径比が1.0〜1.2のものを球状の粒子といい、粒径比が1.2より大きいものを非球状の粒子という。
粒径比=粒子の平均長径/該粒子の平均短径
【0031】
粒子の平均長径と平均短径は、次のように求める。フィルムの横方向の断面を透過型電子顕微鏡にて観察し、個々の粒子あるいは凝集タイプの粒子である場合はその凝集体を一つの粒子とみなし、フィルム中に存在する各粒子の長径と短径を求める。これを、少なくとも100個以上の粒子について値を求め、その平均値をそれぞれ平均長径、平均短径とする。
【0032】
非球状の粒子は無機粒子であってもよく有機粒子であってもよい。無機粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウムを例示することができる。有機粒子としては、架橋ポリスチレン粒子、シリコーン樹脂粒子を例示することができる。いずれの場合も、平均粒子径は好ましくは1.0〜3.0μm、さらに好ましくは1.1〜2.5μmである。平均粒径が1.0μm未満であるとフィルムの搬送性すなわち滑り性を得るために添加量を多くせねばならず透明性が損なわれて好ましくない。3.0μmを超えると粗大粒子のため、フライスペックが増加し、それを起点にピンホールとなる、フィルムが切断してしまうなどの問題を生じて好ましくない。
【0033】
ここで、粒子の平均粒径は、先ず粒子表面に金属を蒸着してのち電子顕微鏡にて例えば1万〜3万倍に拡大した像から、面積円相当径を求め、次いでこれらを次式にあてはめることによって算出される。
平均粒径=測定粒子の面積円相当径の総和/測定粒子の数
【0034】
非球状の粒子として好ましいものは、一次粒子の凝集粒子である多孔質シリカ粒子である。多孔質シリカ粒子はフィルムの延伸時に粒子周辺にボイドが発生しにくいため、フィルムの透明性と光沢感を向上させる特長を有しており好ましい。
【0035】
多孔質シリカ粒子を構成する一次粒子の平均粒径は、好ましくは0.001〜0.1μmである。一次粒子の平均粒径が0.001μm未満であるとスラリー段階で解砕により極微細粒子が生成し、これが凝集体を形成して、透明性や光沢感低下の原困となり好ましくない。0.1μmを超えると粒子の多孔性が失われ、その結果、ボイド発生が少ないという特徴が失われて好ましくない。
【0036】
多孔質シリカ粒子を用いる場合、その細孔容積は、好ましくは0.5〜2.0ml/g、さらに好ましくは0.6〜1.8ml/gである。細孔容積が0.5ml/g未満であると粒子の多孔性が失われ、ボイドが発生し易くなり、透明性が低下して好ましくない。2.0ml/gを超えると解砕、凝集が起こり易く、粒径の調整を行うことが困難であり好ましくない。
【0037】
多孔質シリカ粒子を用いる場合、その平均粒径は、好ましくは1.0〜3.0μm、さらに好ましくは1.1〜2.5μmである。平均粒径が1.0μm未満であるとフィルムの搬送性すなわち滑り性を得るために添加量を多くせねばならず透明性が損なわれて好ましくない。3.0μmを超えると粗大粒子のためフライスペックが増加しこれを起点にピンホールとなり、フィルムが切断してしまうなどの問題を生じて好ましくない。
【0038】
球状の粒子、非球状の粒子は、ポリエステルを製造するための反応時、例えばエステル交換法による場合、エステル交換反応中ないし重縮合反応中の任意の時期、または直接重合法による場合の任意の時期に、反応系中に添加(好ましくはグリコール中のスラリーとして)して配合すればよい。特に、重縮合反応の初期、例えば固有粘度が約0.3に至るまでに多孔質シリカ粒子を反応系中に添加するのが好ましい。
【0039】
層Bに用いることが好ましい球状の粒子は、無機粒子、有機粒子のいずれでもよいが、無機粒子が好ましい。無機粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウムを例示することができ、好ましくは、真球状シリカ、真球状酸化チタン、真球状ジルコニウムを用いる。有機粒子としては、架橋ポリスチレン粒子、架橋シリコーン樹脂粒子を例示することができ、好ましくは真球状シリコーン粒子を用いる。
【0040】
球状の粒子は、いずれの平均粒子径も、好ましくは0.01〜2.5μmである。粒子の平均粒子径が2.5μmを超えると成形加工により変形した部分の粗大粒子(例えば10μm以上の粒子)が起点となり、ピンホールを生じたり、破断したりする問題が生じて好ましくない。粒子径は、非球状粒子の場合と同様に求める。
【0041】
[層構成]
本発明の金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(a)からなるポリエステル層Aと、この層Aに接しポリブチレンテレフタレート(b1)およびポリエチレンテレフタレート(b2)からなるポリエステル層Bとから構成される二軸延伸された積層フィルムである。金属板と積層する際には、ポリエステルA層を非金属側に、ポリエステルB層を金属に接する側に配置する。ポリエステル層Aの厚みTaとポリエステル層Bの厚みTbとの比Ta/Tbは、1/10〜1/5であることが好ましい。Ta/Tbが1/10未満であるとポリエステル層Aが薄すぎ、金属板とラミネートする際にラミネートロール上の異物などがフィルムに転写し、フィルム表面に凹凸を形成してしまいやすくなり好ましくない。また、ポリエステル層Bにブリードアウト性のある低分子化合物が含有される場合において、低分子化合物がポリエステル層Aを通り抜け、内容物と接触してしまう問題が生じて好ましくない。1/5を超えるとポリエステル層Aが厚すぎ、ラミネート工程における密着性が損なわれるほか、製缶工程における成型加工性が損なわれるなどの問題が生じて好ましくない。また、フィルムのカールも大きくなり好ましくない。
【0042】
[ラミネート]
本発明の金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルムは、ポリエステル層Aが最外層になるように金属板にラミネートされる。本発明の金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルムは、好ましくは厚み6〜55μm、さらに好ましくは8〜45μm、特に好ましくは10〜30μmである。厚みが6μm未満では成形加工時に破れ等が生じやすくなり好ましくなく、55μmを超えると過剰品質であって不経済であり好ましくない。
【0043】
本発明の金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルムを貼り合わせる対象となる金属板としては、例えば製缶用金属板であり、具体的には、例えばブリキ、ティンフリースチール、ティンニッケルスチール、アルミニウムの板が適切である。金属板へのポリエステルフィルムの貼り合わせは、金属板をフィルムの融点以上に加熱しておいてフィルムを貼り合わせた後冷却し、金属板に接するフィルムの表層部(薄層部)を非晶化して密着させる方法で、また、フィルムにあらかじめ接着剤をプライマーコートしておき、この面と金属板を貼り合わせる方法で行なうことができる。なお、接着剤としては公知の樹脂接着剤、例えばエポキシ系接着剤、エポキシ−エステル系接着剤、アルキッド系接着剤を用いることができる。また、この接着剤に白色顔料や黄色顔料を分散させることにより着色外観を有するフィルムとしてもよい。
【0044】
[製造方法]
ポリエチレンテレフタレート(a)、ポリブチレンテレフタレート(b1)およびポリエチレンテレフタレート(b2)は、従来公知の方法で製造することができる。例えば、テレフタル酸、エチレングリコールおよび共重合成分をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させて共重合ポリエステルとする方法、或いはジメチルテレフタレート、エチレングリコールおよび共重合成分をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させて共重合ポリエステルとする方法で製造することができる。必要に応じて、他の添加剤、例えば蛍光増白剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤を配合してもよい。
【0045】
本発明の金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルムは、上記のポリエステルを用い、従来公知の共押出製膜法に準拠して製造することができる。例えば次のようにすればよい。先ず、前述の各ポリエステル原料を必要に応じて乾燥した後、複数台の押出し機、複数層のマルチマニホールドダイまたはフィードブロックを使用し、それぞれのポリエステルを積層してスリット状のダイから溶融シートを押出し、冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるため、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高める必要があり、静電印加密着法または液体塗布密着法が好ましく採用される。本発明においては必要に応じ両者を併用してもよい。つぎに、得られた未延伸シートを二軸方向に延伸して二軸配向する。すなわち、先ず、ロールまたはテンター方式の延伸機により、前記の未延伸シートを長手方向に延伸する。延伸温度は、40〜110℃、好ましくは50〜100℃であり、延伸倍率は2.5〜4.5倍、好ましくは3.0〜4.0倍である。次いで、テンター方式の延伸機により、幅方向に延伸を行う。延伸温度は50〜100℃、好ましくは60〜90℃であり、延伸倍率は2.5〜4.5倍、好ましくは3.0〜4.0倍である。さらに引続き90〜210℃、好ましくは100〜200℃の範囲の温度で20%以内の弛緩下で熱処理を行ない、二軸延伸フィルムされた本発明の金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルムを得ることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を掲げて本発明をさらに説明する。なお、フィルムの特性は以下の方法で測定、評価した。
【0047】
(1)融点
示差走査熱量計TA Instruments製 DSC 2920 Modulated DSCを用い、昇温速度20℃/分で融解ピーク温度を求めた。なお、サンプル量は約20mgとした。
【0048】
(2)固有粘度
フィルムをο−クロロフェノールに溶解後、遠心分離機により酸化チタン等のフィラーを取り除き、35℃の温度にて測定した。なお、固有粘度は未延伸フィルムの値である。
【0049】
(3)フィルムのレトルト耐性
フィルムを125℃、90分間レトルト殺菌処理し、レトルト処理前後のフィルムのヘーズを日本電色工業製ヘーズメーターNDH2000型により測定し、レトルト処理前後でのヘーズ変化量(ΔHz)(単位:%)を算出した。
ΔHz=(レトルト処理後のヘーズ)−(レトルト処理前のヘーズ)
○:ΔHzが10以下
△:ΔHzが10〜15
×:ΔHzが15以上
【0050】
(4)カール
JIS K 7619(1988)(写真フィルムのカールの測定方法)に基づいて測定した。1辺100mmの正方形のフィルムに対して曲率半径を求め、次の式によりカール度(単位:1/m)を算出した。
カール度(1/m)=1/フィルムの曲率半径[m]
尚、評価は以下の通りとした。
○:カール度が250(1/m)以下
×:カール度が250(1/m)より大きい
【0051】
(5)深絞り加工性
サンプルフィルムを、230℃に加熱した板厚0.25mmのティンフリースチールの両面に貼り合わせ、水冷した後、150mm径の円板状に切り取り、絞りダイスとポンチを用いて4段階で深絞り加工し、55mm径の側面無継目容器(以下、缶と略す)を作成した。これらの缶について以下の観察および試験を行ない、各々下記の基準で評価した。
缶の加工状況について観察した結果を以下の基準で目視評価した。
○:フィルムに異状なく加工され、フィルムに白化や破断が認められない。
△:フィルムの缶上部に白化が認められる。
×:フィルムの一部にフィルム破断が認められる。
【0052】
(6)光沢感
前記(5)にて深絞り成型が良好であった缶の光沢感を目視評価した。
○:光沢感が優れており、高級感がある。
△:光沢感はあるが、高級感が不足している。
×:光沢感が無い
【0053】
(7)レトルト後外観
前記(5)にて深絞り成型が良好であった缶に水を一杯まで充填した後、レトルト釜に入れ、スチームが直接サンプルに当らないようにして125℃の加圧水蒸気で90分間レトルト処理を施し、深絞り缶の底の部分におけるポリエステル樹脂層の表面外観の変化を目視評価した。
○:変化なし。
△:やや白濁した。
×:著しく斑点状に乳白色に変化した。
【0054】
[実施例1]
表1に示すポリエステル層Aとポリエステル層Bのポリエステル組成物を常法により乾燥し、ポリエステル層Aを成すポリエステル組成物を280℃、ポリエステル層Bを成すポリエステル組成物を270℃で別々に溶融した後、フィードブロックを使用して二層に積層し、ダイから押出して冷却固化し、未延伸フィルムを作成した。ここで、ポリエステル層Bには、ポリエステルのジカルボン酸成分100モル%に対してリンの量として0.03モル%となるように正リン酸を添加した。次いで、この未延伸フィルムを68℃で3.2倍に縦延伸した後、78℃で3.7倍に横延伸し、185℃で熱固定して二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの厚みは12μmであった。また、二軸配向積層フィルムにおける各層の厚みは、溶融押し出し機の吐出量を調整することで、ポリエステル層Aの厚みが1.5μm、ポリエステル層Bの厚みが10.5μmとなるようにした。
【0055】
なお、得られた二軸配向積層フィルムにおいて、ポリエステル層Aは滑剤として平均粒子径2.3μmの凝集シリカ(非球状)を0.1重量%含有しており、ポリエステル層Bは滑剤として平均粒径2.3μmの凝集シリカ(非球状)を0.1重量%、平均粒径1.5μmの真球状シリカ(球状)を0.01重量%含有している。
得られた二軸配向積層フィルムは、表2に示す通り、金属板貼り合わせ用フィルムとして優れた性能を有するものであった。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
[実施例2]
得られた二軸配向積層フィルムにおいて、ポリエステル層Aは滑剤として平均粒子径2.3μmの凝集シリカ(非球状)を0.05重量%含有しており、ポリエステル層Bは滑剤として平均粒径2.3μmの凝集シリカ(非球状)を0.05重量%、平均粒径1.5μmの真球状シリカ(球状)を0.01重量%含有している以外は実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの厚みは12μmであり、表2に示す通り金属板貼り合わせ用フィルムとして優れた性能を有するものであった。
【0059】
[実施例3]
ポリエステル層Aとポリエステル層Bのポリエステル組成物を表1に示す通りとし、得られた二軸配向積層フィルムにおいて、ポリエステル層Aは滑剤として平均粒子径2.3μmの凝集シリカ(非球状)を0.05重量%含有しており、ポリエステル層Bは滑剤として平均粒径2.3μmの凝集シリカ(非球状)を0.05重量%含有している以外は実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの厚みは12μmであり、表2に示す通り金属板貼り合わせ用フィルムとして優れた性能を有するものであった。
【0060】
[比較例1]
ポリエステル層Aとポリエステル層Bのポリエステル組成物を表1に示す通りとする以外は実施例2と同様にして二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの厚みは12μmであり、表2に示す通りフィルムと金属板をラミネートする工程において、ラミネートロールの汚れがひどく、さらにポリエステル層Aの表面には、該汚れに起因する転写が数多くあり、そのために深絞り加工にて得られた缶の外観の光沢感が劣っており、金属板貼り合わせ用フィルムとして性能の劣るものであった。
【0061】
[比較例2]
得られた二軸配向積層フィルムにおいて、ポリエステル層Aは滑剤として平均粒子径1.5μmの真球状シリカ(球状)を0.1重量%含有しており、ポリエステル層Bは滑剤として平均粒径1.5μmの真球状シリカ(球状)を0.1重量%含有している以外は実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの厚みは12μmであり、表2に示す通りフィルムと金属板をラミネートする工程において、ラミネートロールの汚れがひどく、更にポリエステル層Aの表面には、該汚れに起因する転写が見られ、そのために深絞り加工にて得られた缶の外観の光沢感が好ましくなく、金属板貼り合わせ用フィルムとして性能の劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の金属板貼り合わせ成形加工用フィルムは、飲料や食物を充填するための金属缶の缶胴部や蓋材部、特に缶外面に貼り合わせて用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が230〜260℃のポリエチレンテレフタレート(a)からなるポリエステル層Aと、この層Aに接しポリブチレンテレフタレート(b1)および融点が210〜260℃のポリエチレンテレフタレート(b2)からなるポリエステル層Bとから構成される二軸延伸された積層フィルムであって、ポリエステル層Aが非球状の粒子を0.01〜1.0重量%含有し、ポリエステル層Bが非球状の粒子を0.01〜1.0重量%含有することを特徴とする、金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルム。
【請求項2】
ポリエステル層Bがさらに球状の粒子を0.005〜0.1重量%含有する、請求項1記載の金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルム。
【請求項3】
ポリエステル層Aの厚みTaとポリエステル層Bの厚みTbの比Ta/Tbが1/10〜1/5である、請求項1記載の金属貼り合わせ用積層フィルム。
【請求項4】
ポリエステル層Bが、ポリブチレンテレフタレート(b1)70〜30重量%およびポリエチレンテレフタレート(b2)30〜70重量%からなるポリエステル組成物である、請求項1〜3のいずれかに記載の金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルム。
【請求項5】
層B側が金属と接するように金属に貼り合わせて用いられる、請求項1記載の金属板貼り合わせ成形加工用積層フィルム。

【公開番号】特開2007−203569(P2007−203569A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24311(P2006−24311)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】