説明

金属板貼合せ成形加工用フィルム

【課題】優れた成形加工性と密着性を有し、ラミネート後の光沢性、レトルト後外観やゴールド発色性に優れた金属板貼合せ成形加工用積層フィルムを提供する。
【解決手段】A層、B層およびC層をこの順で積層した積層フィルムであって、A層がエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(a)からなり、B層がブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b1)30〜70重量%とエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b2)30〜70重量%とからなる樹脂組成物からなり、C層が染料および/または顔料を含むエポキシ樹脂組成物からなり、フィルムの色差計によるa*値が−10〜10、b*値が20〜40であることを特徴とする金属板貼合せ成形加工用積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板貼合せ成形加工用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属缶には内外面の腐蝕防止として一般に塗装が施されているが、最近、工程簡素化、衛生性向上、公害防止の目的で、有機溶剤を使用せずに防錆性を得る方法の開発が進められ、その一つとして熱可塑性樹脂フィルムによる被覆が試みられている。すなわち、ブリキ、ティンフリースチール、アルミニウム等の金属板に熱可塑性樹脂フィルムをラミネートした後、絞り加工等により製缶する方法の検討が進められている。
【0003】
一方、缶の外観上に高級感を与えるためにゴールド色に発色する塗料が現在でも広く使用されており、これを着色フィルムのラミネートで代替する提案がなされているが、多くの課題がある。例えば特開2001−301025号公報においては、エチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とした着色ポリエステルフィルムが開示されているが、フィルムの融点が高いことから金属板上への良好な密着性を得られるラミネートが難しく、また成形性が低い浅搾り缶程度しか用いることができず、最も広く普及している飲料缶のような成形加工度の高い用途には適応ができないという問題があった。また、特開2003−26823号公報においては、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」ということがある。)を共重合化し、低融点化、低結晶化することにより、熱ラミネート性と成形性の良好な着色ポリエステルフィルムが開示されているが、ラミネート時に溶融して非晶化したフィルムが製罐後のレトルト殺菌処理時に結晶化して白化し美観を損なうという問題があった。これに対して、特開2004−148627号公報、特開2005−314542号公報においては、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルと、ブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルよりなる樹脂組成物に着色剤を添加した着色フィルムが開示されている。このフィルムは比較的低温で熱圧着でき、しかも得られたラミネート金属板は加工性に優れる。また、結晶化速度が速いため、レトルト殺菌処理時にフィルムが結晶化して白化し美観を損なうこともなかった。しかし、これら公報で開示されているフィルムの着色方法は樹脂組成物中に直接着色剤を添加する方法であり、この方法ではフィルムの色調変更が容易ではないため、所望の色調のフィルムを種々製造する場合に色調変更のロスにより製造コストが大幅に上昇するという問題があった。また、着色剤による工程汚染のために他生産品へ悪影響を与えるという問題もあった。さらに、特開2004−148627号公報で開示されている樹脂組成物では、フィルム表面が柔らかくラミネートの熱圧着時にラミネートロール上の付着物やキズを転写してしまうために、フィルム表面に凹凸が生じラミネート金属板の光沢感が損なわれるという問題もあった。これに対し、特開2003−26823号公報ではクリアフィルムに着色剤をコーティングする着色方法が開示されているが、ここで開示されているコーティング剤ではラミネート工程においてコーティング層の硬化が不充分であることから、製罐後のレトルト殺菌処理時にブラッシングが発生し外観を損ねるという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2001−301025号公報
【特許文献2】特開2003−26823号公報
【特許文献3】特開2004−148627号公報
【特許文献4】特開2005−314542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、従来の技術では、ポリエステルからなり、高度な成形加工性および密着性を有し、光沢性、レトルト後の外観やゴールド発色性に優れ、且つ望ましい色調を達成することが容易で、製膜工程を汚染しない、金属板貼合せ成形加工用フィルムはなかった。
【0006】
本発明の目的は、ポリエステルからなり、優れた成形加工性と密着性を有し、光沢性、レトルト後外観やゴールド発色性等に優れた金属缶、例えば飲料缶、食品缶等を製造し得る金属板貼合せ成形加工用積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、A層、B層およびC層をこの順で積層した積層フィルムであって、A層がエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(a)からなり、B層がブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b1)30〜70重量%とエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b2)30〜70重量%とからなる樹脂組成物からなり、C層が染料および/または顔料を含むエポキシ樹脂組成物からなり、フィルムの色差計によるa*値が−10〜10、b*値が20〜40であることを特徴とする金属板貼合せ成形加工用積層フィルムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた成形加工性と密着性を有し、光沢性、レトルト後外観やゴールド発色性等に優れた金属缶、例えば飲料缶、食品缶等を製造し得る金属板貼合せ成形加工用積層フィルムを提供することができる。
【0009】
本発明の金属板貼合せ成形加工用フィルムは、優れた成形加工性と密着性を有し、ラミネート後の光沢性、レトルト後外観やゴールド発色性に非常に優れている。従って、清涼飲料水や食缶用などの金属缶の缶胴部や蓋材部に貼り合せて用いるのに、特に好適である。また、製膜後に着色層を設けることから製膜工程を汚染することもなく、色調の調整も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明においてA層は、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(a)からなる。そしてB層は、ブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b1)とエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b2)とからなる。
【0011】
[エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(a)(b2)]
エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(a)および(b2)には、本発明の効果が損なわれない範囲で他の成分を共重合してもよく、共重合成分はジカルボン酸成分でもジオール成分でもよい。共重合ジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の如き芳香族ジカルボン酸や、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸を例示することができる。また共重合ジオール成分としては、ブタンジオール、ヘキサンジオール等の如き脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオールを例示することができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0012】
共重合成分を用いる場合、その割合は、結果としてポリエステルの融点が210〜256℃、好ましくは215〜256℃、さらに好ましくは220〜256℃の範囲になる割合である。ポリエステルの融点が210℃未満ではポリエステルとしての結晶性が低く、結果としてフィルムの耐熱性が低下して好ましくない。ポリエステルの融点が256℃を越えるとポリマーの結晶性が大きすぎて成形加工性が損なわれて好ましくない。この範囲のポリマーを得るためには、共重合成分の量を全ジカルボン酸成分あたり例えば20モル%以下、好ましくは10モル%以下とすればよい。そのため、「主体」とは全ジカルボン酸成分あたり例えば80モル%以上、好ましくは90モル%以上の成分をいう。
【0013】
これらポリエステル(a)およびポリエステル(b2)の固有粘度は、好ましくは0.50〜0.80、さらに好ましくは0.54〜0.70、特に好ましくは0.57〜0.65である。固有粘度が0.50未満であると実用に供することのできる機械的強度を有したフィルムが得られず好ましくなく、0.80を超えると成形加工性が損なわれて好ましくない。
また、レトルトでのオリゴマー表面析出をブロックする意味においては、ポリエステル(a)はガラス転移温度が高い方が好ましく、共重合成分は嵩高い方が好ましい。
【0014】
ポリエステルの融点は、示差走査熱量計TA Instruments mDSCを用い、昇温速度20℃/分で融解ピークを求める方法により得られる融点である。サンプル量は約20mgとする。また、ポリエステルの固有粘度は、o−クロロフェノールに溶解後、35℃での測定値から求めた値である。
【0015】
[ブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b1)]
本発明において、B層のブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b1)は、テレフタル酸をジカルボン酸成分、1,4−ブタンジオールをジオール成分としてなるポリエステルである。このポリエステルは、好ましくは固相重合したものを用いる。
【0016】
このポリエステル(b1)には、本発明の効果が損なわれない範囲で他成分を共重合してもよく、共重合成分はジカルボン酸成分でもジオール成分でもよい。共重合ジカルボン酸成分としてはイソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の如き芳香族ジカルボン酸や、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸等を例示することができる。これらの中、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジガルボン酸またはアジピン酸が好ましい。また共重合ジオール成分としては、エチレングリコール、ヘキサンジオール等の如き脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオールを例示することができる。これらは単独で用いてもよく、または二種以上を用いてもよい。
【0017】
共重合成分を用いる場合、その割合は、結果としてポリエステルの融点が180〜223℃、好ましくは200〜223℃、さらに好ましくは210〜223℃の範囲になる割合である。ポリマー融点が180℃未満ではポリエステルとしての結晶性が低く、結果としてフィルムの耐熱性が低下する。尚、ポリブチレンテレフタレートホモポリマーの融点は223℃であることから、223℃が融点の上限となる。この範囲のポリマーを得るためには、共重合成分の量を全ジカルボン酸成分あたり例えば20モル%以下、好ましくは10モル%以下とすればよい。そのため、「主体」とは全ジカルボン酸成分あたり例えば80モル%以上、好ましくは90モル%以上の成分をいう。
【0018】
ポリエステル(b1)の固有粘度は、好ましくは0.60〜2.00、さらに好ましくは0.80〜1.70、特に好ましくは0.85〜1.50である。固有粘度が0.60未満であると実用に供することのできる機械的強度を有したフィルムが得られず好ましくない。また、原料ポリエステルおよびフィルムの生産性の面で、固有粘度の上限は2.00であることが好ましい。
【0019】
ポリエステルの融点は、示差走査熱量計TA Instruments mDSCを用い、昇温速度20℃/分で融解ピークを求める方法により得られる融点である。サンプル量は約20mgとする。また、ポリエステルの固有粘度は、o−クロロフェノールに溶解後、35℃での測定値から求めた値である。
【0020】
[樹脂組成物]
B層はブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b1)30〜70重量%とエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b2)30〜70重量%、好ましくはブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b1)40〜60重量%とエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b2)40〜60重量%を溶融混合したポリエステル組成物からなる。
【0021】
ブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b1)が30重量%未満でエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b2)が70重量%を超えると、積層フィルムの最短半結晶化時間が長くなりすぎ、レトルト処理後の外観が斑点状に乳白色に変色し易くなる。他方、ブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b1)が70重量%を越え、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b2)が30重量%未満であると、最短半結晶化時間が1秒以下となり、結晶性が上がりすぎるため製膜性が悪化する。
【0022】
B層の樹脂組成物を構成するブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b1)とエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル(b2)とは、製膜前までに溶融混練させていることが望ましい。
【0023】
[微粒子]
本発明の金属板貼合せ成形加工用積層フィルムは、フィルム製造工程における取扱い性、特に巻取り性を改良するため、好ましくは微粒子を配合する。この微粒子をポリマー100重量部に対して、好ましくは0.01〜1重量部、さらに好ましくは0.01〜0.5重量部含有させるとよい。
【0024】
微粒子は無機微粒子、有機微粒子のいずれを用いてもよく、好ましくは無機微粒子を用いる。無機系微粒子として、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウムを例示することができる。有機系微粒子として、架橋ポリスチレン粒子、架橋シリコーン樹脂粒子を例示することができる。
【0025】
微粒子の平均粒径は、好ましくは2.5μm以下、さらに好ましくは0.01〜1.8μmである。微粒子の平均粒径が2.5μmを超えると成形加工により変形した部分の粗大粒子(例えば10μm以上の粒子)が起点となりピンホールを生じたり、場合によっては破断することもあり好ましくない。特に耐ピンホール性の点で好ましい微粒子は、粒径比(長径/短径)が1.0〜1.2である単分散微粒子である。この微粒子として、真球状シリカ、真球状二酸化チタン、真球状ジルコニウム、真球状架橋シリコーン樹脂粒子を例示することができる。
【0026】
[面配向係数]
本発明の金属板貼合せ成形加工用積層フィルムは、A層の面配向係数が好ましくは0.150以上、さらに好ましくは0.153以上、さらに好ましくは0.155以上である。本発明では、A層が積層フィルムの最外層となるように用いられる。A層の面配向係数が0.150未満であると製罐後のレトルト殺菌処理時にフィルム中のオリゴマー成分が容易にフィルム表面に析出し、缶の外観が損なわれて好ましくない。
【0027】
フィルムの面配向係数は、アッベ式屈折計を用い、ナトリウムD線に対するフィルム長手方向の屈折率nMD、巾方向の屈折率nTD、厚み方向の屈折率nZを室温23℃で測定し下式より求める。封入液にはジヨードメタン、光源にはナトリウムランプを用いる。
【0028】
【数1】

【0029】
本発明では、A層の面配向係数が0.150以上であることによって、製罐後のレトルト殺菌処理時においてC層から着色剤がブリードアウトするのを防ぐことができ、さらに、製罐後のレトルト殺菌処理時にフィルム中のオリゴマー成分が容易にフィルム表面に析出するのを防ぐことができ、フィルム表面がラミネートロール上の付着物やキズを転写しラミネート金属板の光沢性を損なうのを防ぐことができる。
【0030】
[最短半結晶化時間]
本発明において、A層およびB層を構成するポリマーの最短半結晶化時間は、好ましくは1〜100秒、さらに好ましくは1〜80秒、特に好ましくは1〜50秒である。最短半結晶化時間が1秒未満であると結晶性が上がり過ぎるため製膜性が悪化し好ましくない。最短結晶化時間が100秒を超えるとレトルト処理後の外観が斑点状に乳白色に変色するため好ましくない。
【0031】
なお、ここでいう最短半結晶化時間とは、ポリマーの結晶化が生じる温度範囲で半結晶化時間を測定し、該温度範囲の中で最も短かった半結晶化時間であり、ポリマー結晶化速度測定装置(コタキ製作所(株)製、MK−801型)を用いて、直交した偏光板の間に置いた試料の結晶化に伴い増加する光学異方性結晶成分による透過光を各試料温度で測定(脱偏光強度法)し、下記のアブラミ式を用いて結晶化度が1/2となる時間を算出した各試料温度での値の中で最も短い時間である。
【0032】
測定にあたり、試料(試料重量:8mg)は該装置に組み込まれた融解炉でポリマーの最高融点+50℃の温度で窒素中で1分間加熱後、直ちに試料を移動させて、結晶化浴中に浸漬し、10秒以内に試料温度を平衡な測定温度になるようにして測定を開始する。
【0033】
また、ここでの最高融点とは示差走査熱量計(TA Instruments mDSC型)により20℃/分の昇温速度で昇温した時、1つあるいは2つ以上の吸熱ピークが認められるが、それらの吸熱ピークの最大深さを示す温度の中で最高の温度をいう。この脱偏光強度法は、新実験化学講座(丸善)および高分子化学 Vol.29.No.139、323および336(高分子学会)にも記載されているように、早い結晶化速度を測定する時に有効な方法である。
【0034】
なお、試料が熱平衡に達するまでの時間を考慮し、結晶化浴中に試料を移動して10秒経過した時点をt=0秒として測定する。t=0秒で測定した脱偏光透過強度がIo、Log tに対して脱偏光透過強度をプロットして結晶化温度曲線が直線になりはじめた点の脱偏光透過強度をIgとする。
【0035】
【数2】

【0036】
本発明において最短半結晶化時間を上記の範囲とするためには、例えば、ポリエステルのCOOH末端量を以下のようにコントロールするとよい。すなわち、フィルムの最短半結晶化時間は、COOH末端量に大きく関係する。COOH末端量を以下のように適切にコントロールされていないポリエステルでは、ポリマー溶融時の滞留時間を長くしたり滞留温度を高くするとポリマーが熱分解により劣化するという弊害が発生する。
【0037】
ブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b1)のCOOH末端量は好ましくは10〜70当量/トンである。10当量/トン未満であると最短半結晶化時間が長くなり過ぎて、ポリマーの劣化によるフィルムの製膜性が低下し易くなり、またレトルト処理後の外観が斑点状に乳白色に変色するため好ましくない。他方、70当量/トンを超えると最短半結晶化時間が短くなり過ぎて、製膜工程中、特に延伸工程中で結晶化を起こしてしまい、局所的な厚み斑や幅変動の原因となり製膜性が低下し易く好ましくない。
【0038】
エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(a)およびポリエステル(b2)のCOOH末端量は、好ましくは10〜50当量/トンである。この範囲であると最短半結晶化時間を本発明の範囲に制御することができる。10当量/トン未満であると、最短半結晶化時間が長くなり過ぎて、ポリマーの劣化によるフィルムの製膜性が低下し易くなり、またレトルト殺菌処理後の外観が斑点状に乳白色に変色するため好ましくない。他方、50当量/トンを超えるものは最短半結晶化時間が短くなり過ぎて、製膜工程中、特に延伸工程中で結晶化を起こしてしまい、局所的な厚み斑や幅変動の原因となり製膜性が低下し易く好ましくない。
【0039】
なお、COOH末端量は、セイワ技研製COOH自動測定装置を用い、サンプル100mgにベンジルアルコール20mgを加え、窒素雰囲気下にて200℃で4分間加熱した後、常温に冷却し、フェノールレッドを指示薬として0.02N水酸化ナトリウムベンジルアルコール溶液を滴下して、指示薬変色までの滴定量より下記式を用いて求められる。
COOH末端量(当量/トン)=滴定量(cc)×200
【0040】
[エポキシ樹脂]
本発明におけるC層はエポキシ樹脂の組成物から構成される。
エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いることができる。特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好適に使用できる。詳細に説明すると、本発明に用いるエポキシ樹脂はビスフェノールA型ジグリシジルエーテル樹脂で、酸またはアルカリ触媒(リン酸系触媒またはアミノ系触媒など)の存在下で重合して得られる分岐が少ないエポキシ樹脂が望ましい。また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂をダイマー酸等で変性することも可能である。
【0041】
このエポキシ樹脂の数平均分子量は、好ましくは2000〜6000の範囲である。数平均分子量が2000未満であると金属板とのラミネート時の瞬時の熱だけでは硬化が不十分であり、金属板との密着強度が弱いことから、後のレトルト殺菌処理工程で熱水と接触した際に容易に接着界面で剥離してしまい好ましくない。他方、6000を超えると接着性能は十分であるが粘度が大きくなるため有機溶剤での希釈が困難となり、フィルムへの塗布性能が低下して好ましくない。
エポキシ樹脂の数平均分子量が2000〜6000の範囲となるのであれば、2種類以上のエポキシ樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
本発明におけるC層は、上記エポキシ樹脂100質量部に対して、着色剤の他に、架橋剤として高エーテル化アミノ樹脂を1〜10質量部、硬化剤としてブロック化イソシアネート化合物を1〜10質量部、さらにはリン酸変性化合物を0.1〜10質量部含有する、エポキシ樹脂組成物からなることが好ましい。
【0043】
[高エーテル化アミノ樹脂]
高エーテル化アミノ樹脂を用いる場合、エポキシ樹脂100質量部に対して、高エーテル化アミノ樹脂を好ましくは1〜10質量部を用いる。高エーテル化アミノ樹脂が1質量部未満であると接着剤の硬化速度が遅く、ラミネート時の瞬時の熱では硬化の程度が不十分となり、レトルト殺菌処理の際に接着剤のブラッシングが発生し缶の外観を損なう場合があり好ましくない。他方、10質量部を超えると熱硬化反応は十分に速くなるが、加工時の密着性が低下して好ましくない。
【0044】
高エーテル化アミノ樹脂としては、例えば完全アルキル化メラミン樹脂、完全アルキル化ベンゾグアナミン樹脂、好ましくは高度にメチル化されたヘキサメトキシメチル化メラミン樹脂を用いる。
【0045】
[イソシアネート化合物]
ブロック化イソシアネート化合物は、常温では硬化反応を生じないが、金属板へのラミネート時の熱でブロック化剤が解離し硬化する。本発明において、ブロック化イソシアネート化合物を用いる場合、エポキシ樹脂100質量部に対して好ましくは1〜10質量部を用いる。ブロック化イソシアネート化合物の配合量が1質量部未満であるとラミネート時の瞬時の熱だけでは熱硬化が不十分になり金属板との密着強度に劣るだけでなく、加工性が低下して好ましくない。他方、10質量部を越えると硬化過剰になりやはり加工性が低下して好ましくない。
【0046】
ブロック化イソシアネート化合物には、通常はブロック剤を併用する。このブロック化剤は、ラミネート時の接着剤の熱硬化条件に沿って公知のものから自由に選択することができる。常温での塗料安定性を良くするため、ブロック化剤は、解離温度が100℃以上、好ましくは120℃以上のものを用いる。ブロック化剤の解離温度が100℃未満であると接着剤を塗布した後の溶剤乾燥工程において解離する可能性があり、この場合金属板にラミネートされるまでの経時期間によって密着性が大きく変化する可能性があり好ましくない。他方、解離温度が200℃を超えると、接着剤の硬化に高温の熱を要するため、密着性が発現する前にポリエステルフィルムが変質してしまい好ましくない。
【0047】
本発明におけるC層には、上記ブロック化イソシアネート化合物に加えて、さらにブロックフリーイソシアネート化合物を併用してもよい。ブロックフリーイソシアネート化合物は、常温にて硬化反応を生じ接着剤の硬化性を向上させるだけでなく、ポリエステルフィルムとの密着性を向上させることができる。このブロックフリーイソシアネート化合物を用いる場合、C層を構成するエポキシ樹脂組成物の100質量部あたり、好ましくは25質量部以下用いる。25質量部を越えるとラミネート前に接着剤の硬化が進みすぎることによる金属板との密着強度低下が懸念されるため好ましくない。
【0048】
イソシアネート化合物として、上記2つのタイプのイソシアネート化合物を併用する場合は、ブロックフリーイソシアネート化合物を主剤のエポキシ樹脂から分離させた2液型とし、塗布作業直前にこれらを調製する。また、ブロックフリーイソシアネート化合物を併用する場合は、接着剤塗布後にすぐにラミネートする。そうでないとラミネート前に接着剤の硬化が進みすぎることによって金属板との密着強度低下が懸念される。
【0049】
[リン酸変性化合物]
リン酸変性化合物としては、エポキシ樹脂を変性した化合物やエステル化合物等を変性した化合物を使用することができる。リン酸変性化合物を用いる場合、エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部を用いる。この範囲でリン酸変性化合物をエポキシ樹脂組成物に配合することにより、金属板への接着性を大きく向上させることができ、さらに耐熱性、耐水性、硬化性も向上させることができる。0.1質量部未満であると上記性能の発現が小さく好ましくなく、10質量部を越えると接着剤全体の分子量低下を伴いラミネート適性を悪化させる恐れがあり好ましくない。
【0050】
[硬化触媒]
本発明におけるC層のエポキシ樹脂組成物には、硬化を促進させるために触媒を併用してもよい。イソシアネート化合物の硬化触媒としては、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジクロリド、ジオクチルスズジラウレート、オクチル酸スズ等の有機スズ化合物、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、N−エチルホルマリン等のアミンを例示することができる。高エーテル化アミノ樹脂の硬化触媒としては、例えばドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の酸触媒を用いることができる。
【0051】
本発明のおけるC層のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じてブロッキング防止剤、可塑剤、界面活性剤あるいは密着性を向上させるために相溶性の良いその他の樹脂を添加剤として添加してもよい。
【0052】
[顔料]
本発明において、C層を設ける目的の一つは、ポリエステルフィルムを着色することにある。このため、C層のエポキシ樹脂組成物は着色剤を含有する。着色剤としては、染料および/または顔料を用いる。
【0053】
本発明の金属板貼合せ成形加工用積層フィルムは、黄色に着色されていれば金属板に貼り合わせたときに、金属の光沢により金属板がゴールドの輝きを有することになり、金属缶に高級感を付与することができる。そのため、着色剤は、黄色系の染料および/または顔料であることが好ましい。染料は、着色力および透明性には優れるが耐熱性に劣るものが多く、また製罐後のレトルト殺菌処理の際にブリードアウトする場合がある。そのため、着色剤として、好ましくは顔料、特に好ましくはアゾ系有機顔料を用いる。アゾ系有機顔料としては、金属いたに貼り合わせたときに金色の発色を得るために、黄色と赤色のものを用いることが好ましい。
【0054】
[カラー]
上述の目的で着色剤を含有する本発明の金属板貼合せ成形加工用積層フィルムは、色差計によるa*値が−10〜10、b*値が20〜40である色調を有し、好ましくはa*値が−5〜5、b*値が25〜35である色調を有する。a*値、b*値をこの範囲とすることで金属ラミネート後に外観上高級感のあるゴールド発色性を持たせることができる。例えばb*値が20未満であると着色性に乏しく金属ラミネート後に良好なゴールド発色性が得られない。なお、カラー測定はJIS Z−8722に基づき、分光式自動色差計を用いて、白板反射法により測定された値である。
【0055】
カラーをこの範囲とするためには、C層のエポキシ樹脂組成物に着色剤を含有させる。必要な含有量は、顔料の種類や層の厚みによって大きく異なるが、エポキシ樹脂100質量部あたり例えば0.1〜7質量部である。
【0056】
[フィルム硬度]
本発明の金属板貼合せ成形加工用積層フィルムは、最外層となるポリエステルA層の室温におけるフィルム硬度Hが、好ましくは18mgf/μm以上、さらに好ましくは20mgf/μm以上である。室温におけるA層のフィルム硬度Hが18mgf/μm未満であると積層フィルムを金属板に熱圧着する際にラミネートロールの付着物やキズがフィルムに転写し、フィルム表面に凹凸を生じさせるために、ラミネート金属板の光沢感が損なわれ好ましくない。
【0057】
なお、ポリエステルA層の硬度Hは、超微小押し込み硬さ試験機ENT−1100aを用い、室温において、500mgfの試験荷重での押し込み深さhμmより下記の式で求めた値である。
【0058】
【数3】

【0059】
[製造方法]
本発明の金属板貼合せ成形加工用積層フィルムは、上述のポリエステルのA層とポリエステルのB層からなる透明な積層ポリエステルフィルムに、エポキシ樹脂組成物のC層を塗布することで、製造することができる。
【0060】
エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(a)(b2)、ブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b1)は、従来公知の方法で製造することができる。
【0061】
エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(a)(b2)は、例えば、テレフタル酸、エチレングリコールおよび要すれば共重合成分をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させて共重合ポリエステルとする方法、あるいはジメチルテレフタレート、エチレングリコールおよび要すれば共重合成分をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させて共重合ポリエステルとする方法で製造することができる。
【0062】
また、ブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b1)は、例えば、テレフタル酸、テトラメチレングリコールおよび要すれば共重合成分をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させて共重合ポリエステルとする方法、あるいはジメチルテレフタレート、手とレメチレングリコールおよび要すれば共重合成分をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させて共重合ポリエステルとする方法で製造することができる。
必要に応じて、他の添加剤、例えば蛍光増白剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤を配合してもよい。
【0063】
本発明の金属板貼合せ成形加工用積層フィルムは、上述のポリエステルを用いて、従来公知の共押出製膜法に準拠して製造することができる。まず、A層、B層の各ポリエステル原料を必要に応じて乾燥した後、複数台の押出し機、複数層のマルチマニホールドダイ又はフィードブロックを使用し、それぞれのポリエステル層を積層してスリット状のダイから溶融シートを押出し、冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る。このとき、未延伸シートの平面性を向上させるためにシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めるために静電印加密着法または液体塗布密着法を採用すとよい。
【0064】
本発明の金属板貼合せ成形加工用積層フィルムは、未延伸フィルムであってもよいが、二軸配向フィルムであることが好ましい。二軸配向フィルムは、例えば次のように製膜することができる。先ず、ロールまたはテンター方式の延伸機により、前記の未延伸シートを長手方向に延伸する。延伸温度は、例えば50〜100℃、好ましくは60〜90℃とし、延伸倍率は、例えば2.8〜5.0倍、好ましくは3.0〜4.5倍とする。次いで、テンター方式の延伸機により幅方向に延伸を行う。延伸温度は例えば60〜110℃、好ましくは70〜100℃とし、延伸倍率は、例えば3.0〜5.0倍、好ましくは3.2〜4.5倍とする。引続き例えば130〜220℃で20%以内の弛緩下で熱処理を行い二軸延伸フィルムを得る。
【0065】
本発明の金属板貼合せ成形加工用積層フィルムの厚みは、好ましくは6〜55μm、さらに好ましくは8〜45μm、特に好ましくは10〜30μmである。厚みが6μm未満であると成形加工時に破れ等が生じやすくなり好ましくなく、55μmを超えると過剰品質であって不経済であり好ましくない。
【0066】
本発明の金属板貼合せ成形加工用積層フィルムを製造するためには、さらにエポキシ樹脂のC層を設ける。このために、上記製膜工程中、長手方向の延伸後に溶媒に溶解もしくは分散させた着色接着層を塗布するインラインコーティング法、上記製膜後に別工程において溶媒に溶解もしくは分散させた着色接着層を塗布するオフラインコーティング法のいずれを採用してもよく、好ましくはオフラインコーティング法を用いる。
【0067】
コーティング法として、例えば、エアードクターコート法、フレキシブルブレードコート法、ロッドコート法、フローティングナイフコート法、ナイフオーバーブランケットコート法、ナイフオーバーロールコート法、スクイズコート法、含浸コート法、リバースロールコート法、トランスファーロールコート法、グラビアコート法、キスロールコート法、ビードコート法、キャストコート法、スプレイコート法、カーテンコート法、ファウンテンコート法、カレンダーコート法といった公知の方法を採用することができる。
【0068】
エポキシ樹脂のC層の塗布厚さは、乾燥後の厚さとして、好ましくは0.3〜3μm、さらに好ましくは0.5〜2μmである。厚さが0.3μm未満であるとポリエステルフィルムへの連続均一塗布性に難点が生じ、金属板に貼合せた際に接着不良が発生する場合があり好ましくない。3μmを超えると塗布後における溶剤離脱性が大きく低下して作業性が著しく低下するうえに残留溶剤の問題が生じて好ましくない。
【0069】
なお、A層の厚みとB層の厚みの合計は、好ましくは6〜55μm、さらに好ましくは8〜45μm、特に好ましくは10〜30μmである。全体厚みが6μm未満であると成形加工時に破れ等が生じやすくなり好ましくなく、55μmを超えると過剰品質であって不経済であり好ましくない。そして、A層の厚みは好ましくは0.8〜10μm、B層の厚みは好ましくは5〜50μmである。
【0070】
本発明の金属板貼合せ成形加工用積層フィルムは、金属板、特に製缶用金属板に貼り合わせて用いる。貼り合わせられる金属板、特に製缶用金属板としては、ブリキ、ティンフリースチール、ティンニッケルスチール、アルミニウムといった金属板が適切である。本発明の金属板貼合せ成形加工用積層フィルムは、そのC層が金属板と接するように貼り合わせる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を掲げて本発明をさらに説明する。
なお、フィルムの特性は、以下の方法で測定、評価した。
【0072】
(1)融点
示差走査熱量計TA Instruments製 DSC 2920 Modulated DSCを用い、昇温速度20℃/分で融解ピーク温度を求める方法により測定した。なお、サンプル量は約20mgとした。
【0073】
(2)固有粘度
フィルムをο−クロロフェノールに溶解後、遠心分離機により無機成分を取り除き、35℃の温度にて測定した。なお、固有粘度は未延伸フィルムの値である。
【0074】
(3)COOH末端量
セイワ技研製COOH自動測定装置を用い、サンプル100mgにベンジルアルコール20mgを加え、窒素雰囲気下にて、200℃で4分間加熱した後、常温に冷却し、フェノールレッドを指示薬として0.02N水酸化ナトリウムベンジルアルコール溶液を滴下して、指示薬変色までの滴定量より下記式を用いて求めた。
COOH末端量(当量/トン)=滴定量(cc)×200
【0075】
(4)面配向係数
アッベ式屈折率計を用い、室温23℃で測定したナトリウムD線に対するフィルム長手方向の屈折率nMD、巾方向の屈折率nTD、厚み方向の屈折率nZより求めた。封入液はジヨードメタン、光源はナトリウムランプを用いた。
【0076】
(5)最短半結晶化時間
コタキ製作所製ポリマー結晶化速度測定装置MK−801型を用い、サンプル8mgにて40〜150℃の範囲にて測定した。
【0077】
(6)カラー測定
JIS Z 8722に基づき、日本電色工業製自動色差計(SE−Σ90型)を用い、5cm角のサンプル1枚のYI値を測定し、下記の基準でフィルム発色性について評価した。なお、測定の際はフィルム押えとして装置に付属の白色板を使用し、反射法で測定した。
◎:a*値が−5〜5、b*値が25〜35で、ラミネート後、ゴールド発色性に大変優れていた。
○:a*値が−10〜10、b*値が20〜40で、ラミネート後、ゴールド発色性に優れていた。
×:a*値とb*値が上記範囲外で、ラミネート後、ゴールド発色性に乏しかった。
【0078】
(7)フィルム硬度
超微小押し込み硬さ試験機ENT−1100aを用い、室温において、500mgfの試験荷重での押し込み深さhμmより求めた。
◎:フィルム硬度が20mgf/μm以上であり、ラミネート後、光沢感に大変優れていた。
○:フィルム硬度が18mgf/μm以上であり、ラミネート後光沢感に優れていた。
×:フィルム硬度が18mgf/μm未満であり、ラミネート後光沢感に乏しかった。
【0079】
(8)フィルム製膜性
下記の基準で評価した。
○:特に問題なく、製膜できた。
×:フィルム切断が頻発し、製膜できなかった。
【0080】
(9)ゴールド発色性
下記の基準で評価した。
◎:フィルムの黄色味と金属板のメタリック調により良好なゴールド色が得られた。
×:フィルムの黄色味が弱く、ゴールド色が得られなかった。
【0081】
(10)光沢感
下記の基準で評価した。
◎:フィルム表面に凹凸がなく、ラミネート板の光沢感が大変優れていた。
○:フィルム表面の凹凸が少なく、ラミネート板の光沢感が優れていた。
×:フィルム表面に凹凸があり、ラミネート金属板に光沢感がなかった。
【0082】
(11)深絞り加工性
フィルムサンプルを、230℃に加熱した板厚0.25mmのティンフリースチールの両面に貼り合せ、水冷した後、150mm径の円板状に切り取り、絞りダイスとポンチを用いて4段階で深絞り加工し、55mm径の側面無継目容器(以下、「缶」と略す)を作成した。
これらの缶の加工状況を観察して下記の基準で評価した。
○:フィルムに異状なく加工され、フィルムに白化や破断が認められなかった。
△:フィルムの缶上部に白化が認められた。
×:フィルムの一部にフィルム破断が認められた。
【0083】
(12)レトルト後外観(耐白化性)
前記(11)にて深絞り成型が良好であった缶に水を一杯まで充填した後、レトルト釜に入れ、スチームが直接サンプルに当らないようにして125℃の加圧水蒸気で90分レトルト処理を施し、缶底フィルムの表面外観の変化を肉眼で観察し、ブラッシングの有無を確認した。下記の基準で評価した。
○:変化なし。
△:やや白濁した。
×:著しく斑点状に乳白色に変色した。
【0084】
(13)オリゴマー析出耐性
前記(12)と同様の手順で缶にレトルト処理を施し、缶底フィルムの表面外観の変化を肉眼で観察し、析出物の有無を確認した。下記の基準で評価した。
○:オリゴマー析出なし。
△:缶の一部にオリゴマー析出が認められた。
×:缶全面にオリゴマー析出が認められた。
【0085】
(14)密着性
下記の基準で評価した。
○:フィルムの剥離や破断が見られず、密着性が良好であった。
×:フィルムの剥離や破断が発生し、密着性が悪かった。
【0086】
[実施例1〜3]
表1に示すA層、B層のポリエステル組成物を常法により乾燥し、各々280℃、270℃で溶融した後、フィードブロックを使用して二層に積層し、ダイから押出して急冷固化し、未延伸フィルムを作成した。次いで、この未延伸フィルムを68℃で長手方向に3.2倍になるように延伸した後、78℃で幅方向に3.7倍に延伸し、185℃で熱処理を行い二軸配向フィルムを得た。得られたフィルムの厚みは12μmであった。続いてこのフィルムの片面に表1に示す組成のC層(接着層)を設け、積層フィルムを作成した。
【0087】
[比較例1]
表1に示すポリエステル組成物を常法により乾燥、270℃で溶融したあと、ダイから押出して急冷固化し、未延伸フィルムを作成した。次いで、この未延伸フィルムを68℃で長手方向に3.2倍になるように延伸した後、78℃で幅方向に3.7倍に延伸し、185℃で熱処理を行い二軸配向フィルムを得た。得られたフィルムの厚みは12μmであった。続いてこのポリエステルフィルムの片面に表1に示す組成のC層(接着層)を設け、積層フィルムを作成した。
【0088】
[比較例2]
表1に示すポリエステル組成物を常法により乾燥、280℃で溶融したあと、ダイから押出して急冷固化し、未延伸フィルムを作成した。次いで、この未延伸フィルムを105℃で長手方向に3.0倍になるように延伸した後、120℃で幅方向に3.2倍に延伸し、210℃で熱処理を行い二軸配向フィルムを得た。得られたフィルムの厚みは12μmであった。続いてこのフィルムの片面に表1に示す組成のC層(接着層)を設け、積層フィルムを作成した。
【0089】
[比較例3]
比較例1において、A層のポリエステル組成物を表1のとおり変更し、溶融温度を260℃とする以外は同様に製膜を行い、二軸延伸フィルムを得た。製膜時横延伸工程において切断が頻発し製膜性が悪かった。
【0090】
[比較例4]
実施例1において、A層のポリエステル組成物を表2のとおり変更し、溶融温度を270℃とする以外は同様に製膜を行い、二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの厚みは12μmであった。続いてこのフィルムの片面に表2に示す組成のC層(接着層)を設け、積層フィルムを作成した。
【0091】
[比較例5]
表2に示すA層、B層のポリエステル組成物を常法により乾燥し、各々270℃で溶融した後、フィードブロックを使用して二層に積層し、ダイから押出して急冷固化し、未延伸フィルムを作成した。次いで、この未延伸フィルムを68℃で長手方向に3.0倍になるように延伸した後、78℃で幅方向に3.2倍に延伸し、185℃で熱処理を行い二軸配向フィルムを得た。得られたフィルムの厚みは12μmであった。続いてこのフィルムの片面に表1に示す組成のC層(接着層)を設け、積層フィルムを作成した。
【0092】
[比較例6〜9]
実施例1において、A層のポリエステル組成物を表2のとおり変更し、溶融温度を各々270℃とする以外は同様に製膜を行い、二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの厚みは全て12μmであった。続いてこれらのフィルムの片面に表2に示す組成のC層(接着層)を各々設け、積層フィルムを作成した。
評価結果を表3にまとめる。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
なお、表における成分は次の通りである。
IA :イソフタル酸
ホモPET :ホモポリエチレンテレフタレート
IA3PET :イソフタル酸3モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
PBT :ポリブチレンテレフタレート
IA12PET :イソフタル酸12モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
エポキシ樹脂A :大日本インキ化学工業製EXA−8345
エポキシ樹脂B :ジャパンエポキシレジン製エピコート1004
高エーテル化アミノ樹脂:大日本インキ化学工業製スーパーベッカミンL−105−60
ブロック化イソシアネート:大日本インキ化学工業製D−550
リン酸変性化合物 :大日本インキ化学工業製EXP−2
縮合アゾ化合物 :C.I. Yellow 95
組成の欄の「//」は混合物を表わし、例えば40wt%//60%は40重量%と60重量%との混合物を表わす。
【0097】
表3の結果から明らかなように、本発明の金属板貼合せ成形加工用積層フィルムを使用した缶では、優れた深絞り加工性と密着性を有し、ラミネート後の光沢性、レトルト後外観やゴールド発色性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の金属缶貼合せ成形加工用積層フィルムは、金属缶に貼り合せて金属表面に金色の着色を付与することができる。本発明の金属板貼合せ成形加工用積層フィルムは、製膜工程を汚染することもなく、また色調の調整も容易である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A層、B層およびC層をこの順で積層した積層フィルムであって、A層がエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(a)からなり、B層がブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b1)30〜70重量%とエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(b2)30〜70重量%とからなる樹脂組成物からなり、C層が着色剤を含むエポキシ樹脂組成物からなり、フィルムの色差計によるa*値が−10〜10、b*値が20〜40であることを特徴とする金属板貼合せ成形加工用積層フィルム。
【請求項2】
A層の面配向係数が0.150以上である、請求項1記載の金属板貼合せ成形加工用積層フィルム。
【請求項3】
積層フィルムのポリエステルの最短半結晶化時間が1〜100秒である、請求項1記載の金属板貼合せ成形加工用積層フィルム。
【請求項4】
C層が金属板と接するように用いられる、請求項1記載の金属板貼合せ成形加工用積層フィルム。
【請求項5】
C層のエポキシ樹脂の数平均分子量が2000〜6000の範囲にある、請求項1記載の金属板貼合せ成形加工用積層フィルム。
【請求項6】
C層のエポキシ樹脂組成物が、着色剤に他に、エポキシ樹脂100質量部に対して、高エーテル化アミノ樹脂1〜10質量部、ブロック化イソシアネート化合物1〜10質量部およびリン酸変性化合物0.1〜10質量部を含有するエポキシ樹脂組成物である、請求項1記載の金属貼合せ成形加工用積層フィルム。
【請求項7】
エポキシ樹脂組成物の着色剤がアゾ系顔料である、請求項6記載の金属板貼合せ成形加工用積層フィルム。
【請求項8】
A層の厚みとB層の厚みの合計が6〜55μm、C層の厚みが0.3〜3μmである、請求項1記載の金属板貼合せ成形加工用積層フィルム。

【公開番号】特開2007−320237(P2007−320237A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154676(P2006−154676)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】