説明

金属残渣の処理方法及び処理装置

【課題】金属残渣中の六価クロムを適切に除去して処理コストを抑制し、且つ処理済みの金属残渣の価値を高める金属残渣の処理方法及び処理装置を提供する。
【解決手段】
六価クロムを含む金属残渣と、メタノール及び硝酸とを混合反応させる反応処理部1を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六価クロムを含む金属残渣の処理方法及び処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、クロムを含む金属合金を電解加工する際には加工済スラッジ等の金属残渣を生じ、金属残渣中には、電解加工の高い電位により六価クロムが含まれている。
【0003】
このため電解加工により生じた金属残渣を廃棄物処理業者に引き取らせる際には、有害な六価クロムの存在によって廃棄物処理業者へ代金を払い、有償で引き取らせるようになっている。
【0004】
一方で金属残渣中の有害な六価クロムを除去できれば、処理済みの金属残渣を廃棄物処理業者へ引き取らせる際に、無償もしくは逆有償で引き取らせることが可能となるため、六価クロムを無害な三価クロムに還元する種々の方法が検討されている。
【0005】
第一例としては、六価クロムを含む溶液に、加熱したフッ化水素酸を加えて六価クロムを還元する方法があり(例えば、特許文献1参照)、第二例としては、六価クロムを含む還元廃棄物にカーボン粉末等の炭素質原料を加えて1,700〜2,200℃で加熱し、六価クロムを還元する方法があり(例えば、特許文献2参照)、第三例としては、鉄粉と砂とを混合した層に、六価クロムを含む水を通水して六価クロムを還元する方法があり(例えば、特許文献3参照)、第四例としては、六価クロムを含む廃材等に小麦フスマ、米糠等を混合して嫌気的発酵を行い、六価クロムを還元する方法があり(例えば、特許文献4参照)、第五例としては、処理物に対して鉄、硫酸鉄、亜硫酸塩等の還元剤と、硫酸とを混合し、六価クロムを還元する方法がある(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−8491号公報
【特許文献2】特開平11−169814号公報
【特許文献3】特開2004−223472号公報
【特許文献4】特開2005−177740号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】公害防止の技術と法規編集委員会編「公害防止の技術と法規 水質編(5訂)」丸善出版、p248−253
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、第一例の処理方法では、加熱したフッ化水素酸を用いるため、処理を容易に行うことができず、危険も伴うという問題がある。又、第二例の処理方法では1,700〜2,200℃で加熱する必要があるため、非常に膨大なエネルギーを必要とし、処理コストがかかるという問題がある。更に第三例の処理方法では、還元後に砂等の異物が残るため、処理した残渣の品位や価値が低下するという問題がある。更に又、第四例の処理方法では、嫌気的発酵で処理するため、六価クロムの還元に長時間を有するという問題がある。又、第五例の処理方法では、処理物に硫酸を混合して処理するため、処理済みの残渣に硫黄分が残って品位が低下し、処理済みの残渣を廃棄物処理業者へ有償で引き取らせる際に残渣の価値が低下するという問題がある。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、金属残渣中の六価クロムを適切に除去して処理コストを抑制し、且つ処理済みの金属残渣の価値を高める金属残渣の処理方法及び処理装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の金属残渣の処理方法は、六価クロムを含む金属残渣と、メタノール及び硝酸とを混合反応させ、金属残渣中の六価クロムを三価クロムへ還元し、金属残渣から六価クロムを除去するものである。
【0011】
又、本発明の金属残渣の処理方法は、硝酸、メタノールを混合して反応溶液を作成し、六価クロムを含む金属残渣と、前記反応溶液とを混合して、金属残渣中の六価クロムを三価クロムへ還元する反応を行い、金属残渣から六価クロムを除去した混合物を分離手段により固液分離するものである。
【0012】
更に本発明の金属残渣の処理方法において、硝酸の濃度を硝酸/六価クロム[mol/mol]のモル比で100以上600以下にし、メタノールの濃度をメタノール/六価クロム[mol/mol]のモル比で2.5以上15以下にし、反応の際の液中の温度を0℃以上100℃以下にすることが好ましい。
【0013】
更に本発明の金属残渣の処理方法において、硝酸の濃度を硝酸/六価クロム[mol/mol]のモル比で200以上400以下にし、メタノールの濃度をメタノール/六価クロム[mol/mol]のモル比で5以上12.5以下にし、反応の際の液中の温度を5℃以上60℃以下にすることが好ましい。
【0014】
又、本発明の金属残渣の処理方法において、六価クロムを含む金属残渣を、硝酸及びメタノールによる反応溶液の重量に対して5[wt%]以上30[wt%]以下の条件で混合することが好ましい。
【0015】
又、本発明の金属残渣の処理方法において、金属残渣は、クロム含有合金の電解加工から生じた金属残渣であるものである。
【0016】
本発明の金属残渣の処理装置は、六価クロムを含む金属残渣と、メタノール及び硝酸とを混合反応させる反応処理部を備えるものである。
【0017】
又、本発明の金属残渣の処理装置において、メタノールや硝酸を反応処理部へ供給する第一供給ラインと、六価クロムを含む金属残渣を反応処理部へ供給する第二供給ラインと、反応処理部で六価クロムを除去した混合物を固液分離する分離手段と、該分離手段からのメタノール及び硝酸を反応処理部に戻す戻しラインとを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の金属残渣の処理方法及び処理装置によれば、メタノール及び硝酸により金属残渣中の六価クロムを三価クロムへ還元して金属残渣から有害な六価クロムを除去するので、処理済みの金属残渣を廃棄物処理業者へ引き取らせる際に、無償もしくは逆有償で引き取らせることができる。又、加熱したフッ化水素酸を用いることなく、メタノール及び硝酸を用いるので、六価クロムを安全に還元して適切に処理することができる。更に1700〜2200℃で加熱するような処理を不要にするので、膨大なエネルギーを不要にし、低コストで処理することができる。更に又、メタノール及び硝酸を用いるので、還元後に砂等の異物が残ることを抑制し、処理済みの金属残渣の品位や価値が低下することを防止できる。又、メタノール及び硝酸により金属残渣中の六価クロムを処理するので、嫌気的発酵の場合に比べて、六価クロムの還元を短時間で行い、適切に処理することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の金属残渣の処理方法を示すフローである。
【図2】本発明の金属残渣の処理装置を示す全体概念図である。
【図3】硝酸濃度の影響評価結果を示すグラフである。
【図4】メタノール濃度の影響評価結果を示すグラフである。
【図5】反応温度の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態例を図1〜図5を参照して説明する。
【0021】
実施の形態例は、図2に示すように、六価クロムを含む金属残渣を投入し得る反応処理部の反応槽1を備えている。
【0022】
反応槽1は、硝酸(HNO)、メタノール(CHOH)を投入し得る第一供給ライン2と、六価クロムを含む金属残渣を投入し得る第二供給ライン3とを備えており、反応槽1の内部には、金属残渣、硝酸、メタノールを撹拌し得る撹拌翼等の撹拌手段4が備えられている。ここで反応槽1には、反応を早めるために内部を加熱するヒータ等の加熱手段(図示せず)を設けることが好ましい。
【0023】
又、反応槽1には、反応処理した後の処理済みの金属残渣、硝酸、メタノールの混合物を取り出す取出ライン5を備え、取出ライン5には、混合物から、処理済みの金属残渣と、硝酸及びメタノールとを固液分離するフィルタプレス等の分離手段6が配置されている。ここで分離手段6は、処理済みの金属残渣と、硝酸及びメタノールとを固液分離し得るならばフィルタプレスに限定されるものではなく、他の方法や構成でも良い。
【0024】
更に分離手段6には、処理済みの金属残渣を搬送する搬送ライン7と、分離した硝酸、メタノールを反応槽1に戻す戻しライン8とが接続されている。
【0025】
ここで金属残渣は、六価クロムを含むものならば特に制限されるものではないが、クロム含有合金の電解加工から生じた金属残渣であることが好ましい。又、クロム含有金属は、クロムを含有するものならば特に制限されるものではないが、一例を提示すれば、ジェットエンジンの部品に用いられるインコネル718(登録商標)等であり、インコネル718(登録商標)は、ニッケル54%、クロム18%、鉄18.5%等の組成を有している。
【0026】
硝酸は、濃度を、硝酸/六価クロム[mol/mol]のモル比で100以上600以下、好ましくは200以上400以下にしている。又、硝酸には、塩酸等の他の酸が混入しても良いが、硫酸が混入しないことが好ましい。更に酸が弱酸の場合には液中のプロトン濃度が薄いため、反応に長時間を要し、適切に用いることができないため、他の酸が混入しても弱酸とならないことが好ましい。
【0027】
メタノールは、濃度を、メタノール/六価クロム[mol/mol]のモル比で2.5以上15以下、好ましくは5以上12.5以下にしている。又、メタノールには、エタノール、アセトン、トルエン、ベンゼン、ジクロロメタン等の有機物が混入しても良いが、硫黄を有するチオールやスルホン酸等のような有機物が混入しないことが好ましい。
【0028】
以下本発明を実施する形態例の作用を説明する。
【0029】
六価クロムを含む金属残渣を処理する処理方法を、図1に示すように、スラッジが発生する工程から連続的に説明する。
【0030】
最初に、ステップS1のように電解加工によりクロム含有合金等から、六価クロムを含む金属残渣(スラッジ)が発生する。
【0031】
次にステップS2のように金属残渣中の六価クロムの濃度を一般的な定量方法を用いて計測する。ここでインコネル718(登録商標)等の所定材料の電解加工で生じた金属残渣の六価クロムの濃度は、通常一定であるため、濃度が予め判明している場合には、ステップS2の六価クロムの濃度計測を省略しても良い。又、六価クロムの濃度を計測する方法は、特に制限されるものでなく、どのような方法でも良い。更に電解加工の材料が変わって六価クロムの濃度が変動する場合には、六価クロムの濃度を適宜測定して適切に三価クロムへ反応させることが好ましい。
【0032】
続いてステップS3のように金属残渣の六価クロムの濃度に対応して、硝酸、メタノールの薬剤の供給量を決定する。ここで金属残渣中の六価クロムの濃度が予め判明している場合には、金属残渣の量に応じて硝酸及びメタノールの薬剤の供給量を決定しても良いし、他の条件や数式等に基づいて硝酸及びメタノールの薬剤の供給量を決定しても良い。
【0033】
そしてステップS4のように反応槽1へ硝酸を所定量供給し、次にステップS5のように反応槽1へメタノールを所定量供給し、ステップS6で硝酸とメタノールを撹拌手段によって撹拌混合し、反応溶液を作成する。ここで反応槽1へ供給する硝酸とメタノールは、どのような順序で供給しても良いし、同時に供給しても良い。又、必要に応じて水を供給しても良い。更に反応槽1の外部において、硝酸とメタノールを撹拌混合して反応溶液を作成し、その後反応溶液を反応槽1へ供給しても良い。
【0034】
次にステップS7のように六価クロムを含む金属残渣を反応槽1に供給し、ステップS8で所定時間、六価クロムを含む金属残渣と、硝酸及びメタノールの反応溶液とを液中で撹拌混合し、
Cr2−+CHOH+8HNO→2Cr3++6HO+CO+8NO
又は
CrO42−+0.5CHOH+5HNO→Cr3++3.5HO+0.5CO+5NO
の反応を行い、六価クロムを三価クロムにする。
【0035】
ここで反応においては、六価クロムを含む金属残渣を、硝酸及びメタノールによる反応溶液の重量に対し5[wt%]以上30[wt%]以下の条件にしてスラリー状にならないようにし、反応時の液中の温度を0℃以上100℃以下、好ましくは5℃以上60℃以下にし、pHを−1以上1以下、反応時間を2時間以上24時間以下にしている。そして反応の終了を時間経過によって判断している。なお反応の終了は、六価クロムの濃度等を検出して判断しても良いし、他のデータを用いて判断しても良い。
【0036】
続いて反応を終了した後には、ステップS9のように撹拌混合を停止し、処理済みの金属残渣、硝酸、メタノールの混合物を取出ライン5より反応槽1から取り出してフィルタプレス等の分離手段6へ送給し、ステップS10のように分離手段6で処理済みの金属残渣と、硝酸及びメタノールとに固液分離する。
【0037】
分離手段6で分離された処理済みの金属残渣は、固形分となって、搬送ライン7により所定箇所に搬送され、無償もしくは逆有償で引き取られる。ここで図1のステップS11では処理済みの金属残渣(固形分)を逆有償(売却)することを示している。一方、分離手段6で分離された硝酸及びメタノールは、ステップS12のように戻しライン8により反応槽1へ戻される。そしてステップS13のように反応槽1の溶液中の濃度やpHを計測して、ステップS3のように硝酸及びメタノールの供給量を決定し、以下、ステップS4以降の処理を連続的に行う。ここでステップS13の処理後の濃度計測は、戻しライン8等で行っても良いし、他の工程で行っても良い。
【0038】
以下、六価クロムを含む金属残渣と、メタノール及び硝酸とを撹拌混合して反応試験を行い、その結果を示す。
【0039】
[試験1]
処理対象物は、金属残渣中のCr(VI)21,000[mg/kg-dry]であり、メタノールは200g/Lのメタノールを用いると共に酸は10Mの硝酸を用いた。そして処理対象物にメタノール+硝酸を処理対象物/(メタノール+硝酸)=0.3で添加して混合した。
その結果、六価クロムの濃度が
20℃ 2hr加熱後 175[mg/kg-dry]
80℃ 2hr加熱後 0.2[mg/kg-dry]
となった。このことから六価クロムが処理対象物から取り除かれていることが明らかである。
【0040】
[試験2]
処理対象物は、金属残渣中のCr(VI)21,000[mg/kg-dry]であり、メタノールは200g/Lのメタノールを用いると共に酸は10Mの硝酸を用いた。そして処理対象物にメタノール+硝酸を処理対象物/(メタノール+硝酸)=0.3で添加して混合し、常温で放置した。
その結果、六価クロムの濃度が
2hr放置 16[mg/kg-dry]
6hr放置 0.2[mg/kg-dry]
15hr放置 0.2[mg/kg-dry]
となった。このことから六価クロムが処理対象物から取り除かれていることが明らかである。
【0041】
[試験3]
硝酸濃度の影響を評価する試験を行い、数[mg/g-wet]の濃度で六価クロムを含有する金属残渣を、メタノール/六価クロム12.5[mol/mol]、反応温度20℃、反応溶液中の残渣濃度10[wt%]の条件で6時間処理した。
その結果、図3に示す如く硝酸の濃度を硝酸/六価クロムのモル比で100以上にすると、金属残渣中の六価クロムの濃度を0.010[mg/g]以下に低減し、更に硝酸の濃度を硝酸/六価クロムのモル比で200以上にすると、金属残渣中の六価クロムの濃度を0.005[mg/g]以下に低減し、硝酸の濃度が硝酸/六価クロムのモル比で100以上、好ましくは200以上で六価クロムの濃度を適切に低減できることが明らかである。
【0042】
[試験4]
メタノール濃度の影響を評価する試験を行い、数[mg/g-wet]の濃度で六価クロムを含有する金属残渣を、硝酸/六価クロム200[mol/mol]、反応温度20℃、反応溶液中の残渣濃度10[wt%]の条件で6時間処理した。
その結果、図4に示す如くメタノールの濃度をメタノール/六価クロムのモル比で2.5以上にすると、残渣中の六価クロムを0.100[mg/g]以下に低減し、更にメタノールの濃度をメタノール/六価クロムのモル比で5以上にすると、残渣中の六価クロムを0.001[mg/g] 以下に低減し、メタノールの濃度がメタノール/六価クロムのモル比で2.5以上、好ましくは5以上で六価クロムの濃度を低減できることが明らかである。
【0043】
[試験5]
反応温度の影響を評価する試験を行い、数[mg/g]の濃度で六価クロムを含有する金属残渣を、硝酸/六価クロム200[mol/mol]、メタノール/六価クロム10[mol/mol]、反応溶液中の残渣濃度10[wt%]の条件で6時間処理した。
その結果、図5に示す如く反応温度を変化させると、反応溶液の反応温度が低いほど六価クロムの残存量が高くなり、反応温度が高いほど六価クロムの残存量が低くなった。このことから反応温度は、凍結温度の0℃以上、好ましく5℃以上で六価クロムの濃度を低減できることが明らかである。又、反応溶液の温度は、蒸発飛散を防止し得るように100℃以下が好ましく、メタノールの沸点を考慮すれば60℃以下が好ましい。
【0044】
[試験6]
硝酸の濃度、メタノールの濃度と、反応温度及び金属残渣に含まれる初期の六価クロム濃度との関係を試験した。
その結果、5℃、6時間で処理を行う場合、六価クロムが数[wt%]程度含まれる残渣を処理する際に、硝酸/六価クロムは200[mol/mol]以上、メタノール/六価クロムは10[mol/mol]以上を反応場に供給することが六価クロムの低減に有効であった。又、常温20℃、6時間で反応を行う場合、硝酸/六価クロム200[mol/mol]、メタノール/六価クロム5[mol/mol]の条件、もしくは硝酸/六価クロム150[mol/mol]、メタノール/六価クロム10[mol/mol]の条件で反応場に供給することが六価クロムの低減に有効であった。このため、硝酸濃度及びメタノール濃度は、反応温度及び金属残渣に含まれる初期の六価クロム濃度に沿って決定することが必要である。
【0045】
[試験7]
金属残渣の溶液中濃度を1[wt%]から30[wt%]までで試験を行い、溶液中濃度の違いを評価した。その結果、スラリー状になることなく液中で反応し、いずれとも六価クロムの除去率に差はなかった。反応溶液を撹拌混合して残渣を処理することを考えると、10[wt%]程度が有効であった。
【0046】
而して、このように実施の形態例によれば、メタノール及び硝酸により金属残渣中の六価クロムを三価クロムへ還元して金属残渣から有害な六価クロムを除去するので、処理済みの金属残渣を廃棄物処理業者へ引き取らせる際に、無償もしくは逆有償で引き取らせることができる。ここで金属残渣にニッケルを含む場合には逆有償で引き取らせることができ、又、金属残渣に、インジウム等のレアメタルや、金等の貴金属を含む場合には、逆有償で且つ高額な価格で引き取らせることができる。
【0047】
又、従来例と比較しても、加熱したフッ化水素酸を用いることなく、メタノール及び酸を用いるので、六価クロムを安全に還元して適切に処理することができる。更に1,700〜2,200℃で加熱するような処理を不要にするので、膨大なエネルギーを不要にし、処理コストを低減することができる。更に又、メタノール及び酸を用いるので、還元後に砂等の異物が残ることを抑制し、処理済みの金属残渣の品位や価値が低下することを防止できる。又、メタノール及び酸により金属残渣中の六価クロムを処理するので、嫌気的発酵の場合に比べて、六価クロムの還元を短時間で行い適切に処理することができる。
【0048】
実施の形態例において、硝酸、メタノールを混合して反応溶液を作成し、六価クロムを含む金属残渣と、反応溶液とを混合して、金属残渣中の六価クロムを三価クロムへ還元する反応を行い、六価クロムを除去した混合物を分離手段6により固液分離すると、金属残渣から六価クロムを除去した処理済みの金属残渣を容易且つ適切に処理し、処理コストを一層低減することができる。
【0049】
実施の形態例において、硝酸の濃度を硝酸/六価クロム[mol/mol]のモル比で50以上600以下にし、メタノールの濃度をメタノール/六価クロム[mol/mol]のモル比で2.5以上15以下にし、反応の際の液中の温度を0℃以上100℃以下にすること、金属残渣から六価クロムを適切に除去することができる。又、硝酸の濃度を硝酸/六価クロム[mol/mol]のモル比で100以上400以下にし、メタノールの濃度をメタノール/六価クロム[mol/mol]のモル比で5以上12.5以下にし、反応の際の液中の温度を5℃以上60℃以下にすると、金属残渣から六価クロムを好適に除去することができる。特に硝酸の濃度を硝酸/六価クロム[mol/mol]のモル比で100以上、及び、メタノールの濃度をメタノール/六価クロム[mol/mol]のモル比で5以上にした場合には、環境庁告示46号に記載した六価クロムの環境基準に適合するよう、金属残渣を溶液に浸した場合に溶液中に含まれる六価クロム濃度を0.05[mg/L]以下にすることができる。
【0050】
ここで硝酸の濃度を硝酸/六価クロム[mol/mol]のモル比で100より小さく、またはメタノール/六価クロム[mol/mol]のモル比で2.5より小さくした場合には、金属残渣から六価クロムを適切に除去することができないという問題があり、硝酸の濃度を硝酸/六価クロム[mol/mol]のモル比で600より大きく、又はメタノール/六価クロム[mol/mol]のモル比で15より大きくした場合には、六価クロムを除去する作用効果の向上がなく、硝酸、メタノールを無駄に使用し、処理コストが増加するという問題がある。又、硝酸の濃度を硝酸/六価クロム[mol/mol]のモル比で600より大きくした場合には、高濃度の硝酸により取り扱いが困難になるという問題がある。
【0051】
実施の形態例において、六価クロムを含む金属残渣を、硝酸及びメタノールによる反応溶液の重量に対して5[wt%]以上30[wt%]以下の条件で混合すると、スラリー状でなく、液中で適切に反応させるので、六価クロムの還元を容易に行って処理コストを一層低減することができる。ここで六価クロムを含む金属残渣を、硝酸及びメタノールによる反応溶液の重量に対して5[wt%]より小さい条件で混合した場合には、硝酸、メタノールを無駄に使用し、処理コストが増加するという問題がある。又、六価クロムを含む金属残渣を、硝酸及びメタノールによる反応溶液の重量に対して30[wt%]より大きい条件で混合した場合には、混合物がスラリー状になり、六価クロムを反応させる処理が困難になるという問題がある。
【0052】
実施の形態例において、硝酸及びメタノールを用いるので、六価クロムの還元を容易に行って処理コストを一層低減し、処理済みの金属残渣を廃棄物処理業者へ引き取らせる際に、無償もしくは逆有償で引き取らせることができる。又、硫黄を含む有機物が混入することなくメタノールを用いると共に、硫酸が混入することなく硝酸を用いる場合には、処理済みの金属残渣に硫黄分が入ることを抑制し、処理済みの金属残渣の品位や価値が低下することを防止し、処理済みの金属残渣を廃棄物処理業者へ引き取らせる際に、逆有償で引き取らせることができる。更に金属残渣は、クロム含有合金の電解加工から生じた残渣であると、六価クロムを含む金属残渣であっても金属残渣中にレアメタル等の有用な金属が含まれる可能性が高いので、処理済みの金属残渣を廃棄物処理業者へ引き取らせる際に、無償もしくは逆有償で容易に引き取らせることができる。
【0053】
実施の形態例において、六価クロムを含む金属残渣と、メタノール及び硝酸とを撹拌混合し、
Cr2−+14H+6e→2Cr3++7H
又は
CrO42−+8H+3e→Cr3++4H
の液中での反応を行う反応槽1の反応処理部を備えると、六価クロムを含む金属残渣と、メタノール、硝酸との反応を好適に為し得るので、六価クロムの還元を容易に行って処理コストを一層低減し、処理済みの金属残渣を廃棄物処理業者へ引き取らせる際に、無償もしくは逆有償で好適に引き取らせることができる。ここで反応槽1の処理条件では、硝酸の濃度、メタノールの濃度、溶液温度、処理時間が六価クロムの除去率に影響し、実験例1〜7で決定される条件で処理することが必要であり、この条件の範囲で、硝酸の濃度及び/又はメタノールの濃度が高いほど六価クロムの残存濃度を低減し、反応温度が高いほど六価クロムの残存濃度を低減することができる。
【0054】
実施の形態例において、メタノールや硝酸を反応処理部へ供給する第一供給ライン2と、六価クロムを含む金属残渣を反応槽1へ供給する第二供給ライン3と、反応槽1で六価クロムを除去した混合物を固液分離する分離手段6と、分離手段6からのメタノール及び硝酸を反応槽1に戻す戻しライン8とを備えると、金属残渣を反応処理した後、取出ライン5により、処理済みの金属残渣を反応槽1から容易に取り出すと共に、戻しライン8により、メタノール及び硝酸を反応槽1に戻して処理するので、六価クロムの還元を容易に行って処理コストを一層低減し、処理済みの金属残渣を廃棄物処理業者へ引き取らせる際に、無償もしくは逆有償で好適に引き取らせることができる。
【0055】
尚、本発明の金属残渣の処理方法及び処理装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0056】
1 反応槽(反応処理部)
2 第一供給ライン
3 第二供給ライン
6 分離手段
8 戻しライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六価クロムを含む金属残渣と、メタノール及び硝酸とを混合反応させ、金属残渣中の六価クロムを三価クロムへ還元し、金属残渣から六価クロムを除去することを特徴とする金属残渣の処理方法。
【請求項2】
硝酸、メタノールを混合して反応溶液を作成し、六価クロムを含む金属残渣と、前記反応溶液とを混合して、金属残渣中の六価クロムを三価クロムへ還元する反応を行い、金属残渣から六価クロムを除去した混合物を分離手段により固液分離することを特徴とする金属残渣の処理方法。
【請求項3】
硝酸の濃度を硝酸/六価クロム[mol/mol]のモル比で100以上600以下にし、メタノールの濃度をメタノール/六価クロム[mol/mol]のモル比で2.5以上15以下にし、反応の際の液中の温度を0℃以上100℃以下にすることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属残渣の処理方法。
【請求項4】
硝酸の濃度を硝酸/六価クロム[mol/mol]のモル比で200以上400以下にし、メタノールの濃度をメタノール/六価クロム[mol/mol]のモル比で5以上12.5以下にし、反応の際の液中の温度を5℃以上60℃以下にすることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属残渣の処理方法。
【請求項5】
六価クロムを含む金属残渣を、硝酸及びメタノールによる反応溶液の重量に対して5[wt%]以上30[wt%]以下の条件で混合することを特徴とする請求項1又は2に記載の金属残渣の処理方法。
【請求項6】
金属残渣は、クロム含有合金の電解加工から生じた金属残渣であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属残渣の処理方法。
【請求項7】
六価クロムを含む金属残渣と、メタノール及び硝酸とを混合反応させる反応処理部を備えたことを特徴とする金属残渣の処理装置。
【請求項8】
メタノールや硝酸を反応処理部へ供給する第一供給ラインと、六価クロムを含む金属残渣を反応処理部へ供給する第二供給ラインと、反応処理部で六価クロムを除去した混合物を固液分離する分離手段と、該分離手段からのメタノール及び硝酸を反応処理部に戻す戻しラインとを備えたことを特徴とする請求項7に記載の金属残渣の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−131183(P2011−131183A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294868(P2009−294868)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】