説明

金属溶融体から鋳造部品を鋳造する方法および装置

【課題】複雑な形状を有する高品質な鋳造部品を経済的にかつ高い作動信頼性をもって製造できる方法および装置を提供することにある。
【解決手段】本発明の方法の実施中、鋳造部品Gを成形する成形キャビティH、フィードシステムおよび鋳込みチャネル13を有しかつピボット型装着により取付けられた鋳型Fは充填位置に回転され、かつ鋳型Fには金属溶融体が充填される。重力の作用の結果として、溶融体は鋳込みチャネルを通って流れ、このとき溶融体の主流れ方向は重力の作用方向に対して或る角度を形成する。充填は、鋳込みチャネル13を含む鋳型Fが金属溶融体Mで完全に充填されるまで続けられる。次に、鋳型Fが充填開口14内に置かれるストッパ18によりシールされかつ凝固位置まで回転される。この凝固位置で、フィードシステム10内に存在する溶融体Mが、成形キャビティH内に存在する溶融体Mを押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶融体から鋳造部品を鋳造する方法および該方法を実施する適当な装置に関する。本発明にしたがって加工される金属溶融体は、より詳しくは軽金属溶融体、好ましくはアルミニウム溶融体またはアルミニウム合金ベース溶融体である。
【背景技術】
【0002】
鋳造部品の特性は、鋳型内での溶融体の凝固中および収縮の補償に必要なフィーディング中に大きい影響を受ける。したがって、溶融体による鋳型の充填が、鋳型内での溶融体の高速流れを防止する連続プロセスで行われるならば、特性の特に均一な分散が生じ、この場合には、鋳型のフィーダとは反対側での均一な分散を伴う凝固がスタートする。
【0003】
いわゆる回転鋳造により、特に高品質の鋳造製品を作ることができる。下記特許文献1には、高品質の鋳造部品を製造すべく実際に試みられかつ試験されてきたこの鋳造方法の一実施形態が提案されている。この特許文献1によれば、金属溶融体を収容する、上向きの開口を備えたこの溶融体容器は、鋳型の下向きの充填開口とドッキングされる。次に、鋳型は、これに固定連結された溶融体容器と一緒に約180°に亘って回転される。この回転中に、溶融体は、溶融体容器から鋳型へと移動される。ひとたび最終回転位置に到達したならば、溶融体容器が鋳型から取外される。ここでフィーダ領域の頂部に留まる残留溶融体は、重力によって有効に留まることができかつ溶融体の凝固に伴う体積損と効率的に釣り合うことができる。
【0004】
溶融体容器と一緒に鋳型が回転することにより、金属溶融体による鋳型の完全充填が達成される。鋳型を充填する金属溶融体は、鋳型の回転中に、重力を均一に受けるため、溶融体は、鋳造すべき部品を複製する鋳型の成形キャビティの全領域に確実に到達する。また、回転に伴う鋳型の整合によりもたらされる誘導された凝固の結果として、鋳造部品の構造が最適化される。
【0005】
しかしながら、上記方法で実施される回転鋳造では、特に均一な凝固形態が要求される円筒状の内部幾何学的形状の場合に問題が生じる。鋳型が重力に抗して最初に充填され次に冷却のために回転される結果として、鋳型の静かな充填およびこれに伴う改善された凝固が実際に達成される。しかしながら、回転前でも鋳造の欠陥が生じ、この欠陥の殆どは気泡またはコールド・ラン(cold runs)の形態をとる。これらの鋳造欠陥は、溶融体が、鋳型の回転前でも、鋳型内で、制御されない凝固フロント(すなわち「コールド・ラン」)が形成されるか、溶融体が鋳型内で気泡を含んだ状態で収縮する程度まで冷えてしまうという事実により生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第100 19 309(A1)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような背景に対し、本発明の目的は、複雑な形状を有する高品質な鋳造部品を経済的にかつ高い作動信頼性をもって製造できる方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
方法に関しては、上記目的は、特許請求の範囲の請求項1に記載の特徴を有する本発明の方法により達成される。本発明による方法の有利な実施形態は、請求項1に従属する特許請求の範囲に記載されている。
【0009】
装置に関しては、上記目的は、特許請求の範囲の請求項12に記載の特徴を有する本発明の装置により達成される。本発明による装置の有利な実施形態は、請求項12に従属する特許請求の範囲に記載されている。
【0010】
本発明によれば、金属溶融体から鋳造部品を鋳造するため、ピボット型装着により取付けられる鋳型が最初に設けられる(段階a)。この鋳型は、鋳造部品を成形する成形キャビティと、該成形キャビティに金属溶融体を供給するフィードシステムと、鋳込みチャネルとを有し、該鋳込みチャネルを介してフィードシステムが金属溶融体で充填される。ここでフィードシステムは、鋳型が充填位置に回転されると金属溶融体による成形キャビティの充填が重力の作用方向に抗してフィードシステムを介して行われるように、鋳型の成形キャビティに対して配置される。同時に、金属溶融体を充填するために設けられた、鋳込みチャネルの充填開口が、該鋳込みチャネルのフィードシステム内への口から遠隔の鋳型の側面に配置され、これにより、鋳込みチャネルの充填開口が、鋳型のそれぞれの充填位置において、フィードシステム内への口の上方に配置される。
【0011】
充填前に、このようにして設けられた鋳型が充填位置に整合され、この充填位置で、鋳込みチャネル内に充填された金属溶融体が重力の作用の結果として鋳込みチャネルを通って流れ、このとき、金属溶融体の主流れ方向が重力の作用方向に対して或る角度を形成する(段階b)。ここで、金属溶融体の「主流れ方向」とは、充填開口からフィードシステム内への充填チャネルの口までの直接通路をとるために、溶融体が、鋳込みチャネルの実際のコースとは独立して流れなくてはならない流れ方向を意味する。この場合、本発明ににより特定された充填位置での鋳型の整合は、各場合において別々に行われることは自明であるが、鋳型が本発明による手順の条件を満たすように鋳型を設けるときに、鋳型を整合させることも可能である。
【0012】
充填位置に整合された鋳型には、鋳込みチャネルを含む該鋳型が金属溶融体により完全に充填されるまで、金属溶融体が充填される(段階c)。
【0013】
ひとたび鋳型が充分に充填されたならば、鋳型は、鋳込みチャネルの充填開口内に置かれるストッパによりシールされる(段階d)。次に、鋳型は凝固位置に回転され、該凝固位置では、重力の作用の結果として、フィードシステム内に存在する溶融体が成形キャビティ内に存在する溶融体を押圧する(段階e)。鋳型は、該鋳型内に存在する金属溶融体が或る凝固状態に到達するまで、凝固位置に保持される(段階f)。次に、鋳造部品が鋳型から取出される(段階g)。
【0014】
鋳型のフィードシステム内に収容された金属溶融体が鋳造部品を形成する溶融体を押圧するように、充填し、次に鋳型のシーリングおよび維持を行いかつ鋳型を回転させる本発明による方法の結果として、鋳造の欠陥が回避される。特に静かな充填プロセスとは別に、これには、特に、充填の終時からおよび全凝固プロセス中に鋳型内に収容される金属溶融体は金属静水圧下に留まるという事実により更なる寄与がなされる。かくして、シーリング後に鋳込みチャネル内に残留する溶融体のコラム(柱)の結果として、鋳造部品を形成する成形キャビティ内の溶融体の収縮が妨げられる。同時に、鋳型の密封シーリングにより、鋳込み装置自体または他の高価なコンポーネンツを鋳型と一緒に移動させる必要なくして、充填プロセスの完了直後に鋳型の回転を開始させることができる。
【0015】
鋳型の本発明による整合(段階a)〜段階c))および重力の作用方向に対する主流れ方向の角度での関連整合の結果として、金属溶融体は、流れ速度に作用する相応の小さな重力のために、溶融体の主流れ方向と重力の作用方向とが一致すると仮定した場合よりもかなりゆっくりと鋳込みチャネルを通って流れる。本発明の手順により、鋳型には、充填プロセスのスタートから対応する静かさで金属溶融体が充填される。
【0016】
特に既知の回転鋳造方法での充填のスタート時における溶融体の問題の多い乱流および不規則な流れは、本発明の手順により大幅に低減される。この簡素な方法は、鋳造の品質の大幅な改善に寄与する。
【0017】
鋳型は、充填を続ける間、金属溶融体の或る充填レベルに到達後に、鋳込みチャネルを通って流れる金属溶融体の主流れ方向が重力の作用方向に徐々に近づくようにして回転されるので、充填プロセスが進行するときの重力の作用を完全に利用できる。ここで、この時点でフィードシステムまたは鋳込みチャネル内に既に存在している溶融体の量が、鋳型内に流入する溶融体を抑制し、このため重力の方向に徐々に近づく鋳込みチャネルでも、鋳型の静かで均一な充填が確保される。
【0018】
また、充填中に行われる、重力の作用方向への鋳型の回転により、鋳型がシールされる時点での金属静水圧の最適有効性が確保される。したがって、本発明の実用に適した設計は、充填チャネルを通って流れる金属溶融体の主流れ方向が重力の作用方向と一致すると、充填プロセス中に行われる回転が停止するようになっている。
【0019】
一方では充填のスタート時の角度と整合した主流れ方向によりおよび他方では充填プロセス中に行われる次の回転により達成される長所は、供給システム内への鋳込みチャネルの口が鋳型内に充填された金属溶融体のレベルより下になった時、鋳型の回転が最短で開始される場合に特に有効に利用できる。このようにして、重力の作用方向と広範囲に一致する主流れ方向の整合の長所の同時的最適利用により、過度の乱流の危険性および鋳造部品内の気泡形成が最小に低減される。
【0020】
この結果、特に経済的な方法で本発明の方法を使用することにより、既知の鋳造方法より特に低い鋳造部品のスクラップ率を達成できると同時に、厳格な品質条件を満たすことも可能になる。
【0021】
本発明の方法について上述したプロセスにしたがって、金属溶融体から鋳造部品を鋳造する装置は、鋳型を保持するリテーナと、回転軸線の回りで鋳型を回転させる回転駆動装置と、鋳型の充填開口内に金属溶融体を充填する鋳込み装置とを有し、本発明によれば、該鋳込み装置にトラッキング装置が設けられており、該トラッキング装置は、金属溶融体の充填中に鋳型の回転移動により引き起こされる鋳型の充填開口の位置の変化に対する鋳込み装置を追跡する。
【0022】
鋳型の充填には、適当なトラッキング装置により、鋳型の充填開口の対応充填位置に運ばれ、必要ならば、鋳型の回転に伴う充填開口の位置の変化を追跡する慣用の鋳込みスプーンを使用できる。
【0023】
本発明による方法および装置は、内燃機関のエンジンブロックの製造に特に適している。これらの比較的複雑な形状の鋳造部品では、鋳型内に充填された溶融体が鋳型の関連セクションと接触したときに所望の濡れ性または凝固の挙動を呈するように、鋳型の或るセクションを予め熱処理しておく必要がある。このような鋳型セクションの典型的な例として、いわゆる「シリンダライナ」または「シリンダスリーブ」があり、これらは、エンジンブロックのシリンダ開口の領域に充分な耐摩耗性を保証すべく軽金属のエンジンブロック内に鋳造される。これらのライナまたはスリーブ(これらは一般にスチール材料で作られる)は、一般に鋳型の鋳造コアまたは鋳造部品を形成する砂に比べて著しく高い熱伝導率を有している。鋳造部品として鋳造される部品は予熱されるので、鋳造金属との優れた濡れ性が得られ、熱応力の発生および好ましくない構造の形成が防止される。
【0024】
鋳型の回転を通して鋳型およびその鋳込みチャネルの位置決めが行われ、鋳型内に充填される金属溶融体の主流れ方向が本発明の方法により整合されるならば、本発明の方法を実施するときに鋳型が回転される回転軸線の位置は重要ではない。しかしながら、鋳型の回転軸線が水平方向に整合されるならば、本発明の方法の実施に使用される本発明の装置の特に簡単で実用的な設計が得られる。
【0025】
同様に、鋳型の鋳込みチャネルが直線状に形成されているならば、本発明により形成される装置の特に簡単な設計を達成できる。
【0026】
鋳込みチャネルの充填開口が鋳型の下面(この下面は、凝固状態においてフィードシステムとの境界を画する鋳型の上面に対向して配置される)に配置されるならば、簡単で、したがって同時にコスト有効性に優れた装置に更に寄与できる。
【0027】
本発明による装置の最も広い多様性を得るためには、その回転駆動装置は、180°より大きい角度に亘って鋳型を回転できるようにすべきである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
以下、例示実施形態を示す添付図面を参照して、本発明を更に詳細に説明する。
【0029】
【図1】鋳造部品Gを鋳造する装置1の10の作動位置の1つを、装置の長手方向軸線に対して垂直に切断して示す概略断面図である。
【図2】鋳造部品Gを鋳造する装置1の10の作動位置の1つを、装置の長手方向軸線に対して垂直に切断して示す概略断面図である。
【図3】鋳造部品Gを鋳造する装置1の10の作動位置の1つを、装置の長手方向軸線に対して垂直に切断して示す概略断面図である。
【図4】鋳造部品Gを鋳造する装置1の10の作動位置の1つを、装置の長手方向軸線に対して垂直に切断して示す概略断面図である。
【図5】鋳造部品Gを鋳造する装置1の10の作動位置の1つを、装置の長手方向軸線に対して垂直に切断して示す概略断面図である。
【図6】鋳造部品Gを鋳造する装置1の10の作動位置の1つを、装置の長手方向軸線に対して垂直に切断して示す概略断面図である。
【図7】鋳造部品Gを鋳造する装置1の10の作動位置の1つを、装置の長手方向軸線に対して垂直に切断して示す概略断面図である。
【図8】鋳造部品Gを鋳造する装置1の10の作動位置の1つを、装置の長手方向軸線に対して垂直に切断して示す概略断面図である。
【図9】鋳造部品Gを鋳造する装置1の10の作動位置の1つを、装置の長手方向軸線に対して垂直に切断して示す概略断面図である。
【図10】鋳造部品Gを鋳造する装置1の10の作動位置の1つを、装置の長手方向軸線に対して垂直に切断して示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
ここで、鋳造部品Gは、4気筒内燃機関のエンジンブロックである。ここに説明する例示実施形態に使用される鋳造金属は、アルミニウムの鋳造溶融体である。
【0031】
装置1は、図面に断面で示す円筒状の鋳造セルZを有している。該鋳造セルZは2つのローラ2、3上に取付けられかつ駆動装置(図示せず)により回転駆動される。鋳造セルZ内には、平らな取付け床4と、該取付け床4から間隔を隔てて平行に整合しているガイドプレート5とが固定されている。
【0032】
ガイドプレート5に割り当てられた取付け床4の上面上には、ベースプレート6が配置されている。ベースプレート6は、種々の鋳型部品および鋳型コアから作られた鋳型Fの一部である。ベースプレート6は側方シート(側方座)を有し、各側方シートには、これに対応して形成された肩部を備えたフロントスライド7、8が、ベースプレート6内に確実嵌合により座合している。鋳型Fに一般に存在するフロントスライドのうち、明瞭化のため、ベースプレート6の両側で鋳造セルZに割り当てられたスライド7、8のみが示されている。
【0033】
ガイドプレート5において、取付け床4の方向に向けられたガイドプレート5の下面に平行に延びている押圧プレート9は、組立て作業の後、取付け床4の方向に調節して鋳型Fを保持するように、また鋳造プロセスの完了時に該鋳型Fを取外しかつ完成した鋳造部品Gを鋳型から取出すことができるようにするため取付け床から離れる方向に移動できるように支持されている。
【0034】
次に、鋳造すべきエンジンブロック鋳造部品Gの円筒状キャビティを半径方向に包囲する円筒状スリーブBおよびコアKが、既知の態様でフロントスライド7、8の間に挿入される。これにより、鋳造部品G内に、鋳造金属Mにより充填すべきでないチャネルおよびキャビティが形成される。
【0035】
押圧プレート9に割り当てられた鋳型Fの上面には底コアOが配置されており、該底コアOは、ガイドプレート5に割り当てられたフロントスライド7、8の上方セクション内に確実嵌合することによりフロントスライド7、8を保持する。ベースプレート6、フロントスライド7、8、コアK、円筒状スリーブBおよび底コアOは、鋳型Fの成形キャビティHを形成する。
【0036】
最後に、底コアO上には更にフィードコアSが配置されている。フィードコアSは循環大容量フィードチャネル10を備えたフィードシステムを形成し、該フィードシステムは、フィードコアSが完全に組立てられたときに、フロントスライド7、8の上方で作動する。ここで、フィードコアSは開口11を形成しており、円筒状スリーブBにより包囲された各円筒状開口には、前記開口11を介してアクセスできる。フィードチャネル10は、種々の湯口12を介して鋳型Fの成形キャビティHに連結されている。
【0037】
鋳型には、直線状に形成された鋳込みチャネル13(技術的表現では「湯口(sprue)」とも呼ばれる)が形成されており、該鋳込みチャネル13はフロントスライド7と、フロントスライド7に割り当てられかつフロントスライド7と取付け床4の間に配置されたベースプレート6の側方セクションと、フィードコアSとを通って延び、取付け床4に対して垂直方向に整合しており、かつ取付け床4に形成されたファンネル状の充填開口14から直接通路で通じておりかつ直線状にフィードコアSの口15に開口しているフィードチャネル10に通じている。
【0038】
ひとたびフィードコアSが嵌合されたならば、このようにして準備された鋳型F上に押圧プレート9が下降され、鋳型Fの確実に嵌合相互ロックされた部品およびコアの組立て位置を確保する。
【0039】
ここで、ベースプレート6が重力の作用方向WKで見て頂に位置しかつフィードコアSが底に位置するまで、内部に鋳型Fが保持された鋳造セルZが、水平方向に整合されかつ鋳型Fの長手方向軸線と一致した回転軸線Xの回りで180°に亘って回転される。したがって、この位置では、取付け床4に設けられた、鋳込みチャネル13の充填開口14が頂に位置する。
【0040】
ひとたびこの位置に到達すると、誘導加熱装置16の加熱バーが、各円筒状スリーブB内に挿入され、これらの円筒状スリーブBを特定温度に加熱する(図3および図4)。
【0041】
円筒状スリーブBを加熱した後、鋳造セルZは、回転軸線Xの回りで約45°の角度に亘って再び反時計回り方向に回転される。したがって、この「充填位置」では、直線状の鋳込みチャネル13も、重力の作用方向WKに対して約45°の角度に配置される。
【0042】
次に、鋳込みスプーンの形態をなす鋳込み装置17により、鋳造すべき金属溶融体Mが鋳込みチャネル13の充填開口14内に注入される。鋳型Fの角度のため、溶融体Mは鋳込みチャネル13を通って比較的ゆっくりと流れ、かつ対応する小さい運動エネルギでフィードコアSのフィードチャネル10に流入する。ここで、溶融体Mの主流れ方向SRは鋳込みチャネル13と同じ整合(アライメント)を有し、したがって、鋳込みチャネル13を通って流れる溶融体Mの主流れ方向SRは、重力の作用方向WKに対して約45°の角度で整合している。
【0043】
金属溶融体Mによる傾斜鋳型Fの充填は、鋳込みチャネル13の口15が、フィードチャネル10内に集合する金属溶融体Mのレベルより下に位置するまで続けられる(図5)。
【0044】
ひとたびこの状態に到達すると、鋳造セルZは、充填開口14からフィードチャネル10の口15までの鋳込みチャネル13が垂直下方を向くまで、時計回り方向にゆっくりと回転される。
【0045】
金属溶融体Mによる鋳型Fの充填は、回転中に連続的に行われる。この目的のため、鋳込み装置17はトラッキング装置Tにより追跡される。トラッキング装置Tは、例えば鋳込み装置17を吊り下げるアクチュエータ駆動装置またはクレーンで構成され、鋳造セルZの回転に伴う充填開口14の位置の変化を追跡する。ひとたびこの回転の端位置に到達すると、溶融体Mの主流れ方向SRが重力の作用方向と一致し、これにより、重力を最適に利用して鋳型Fの成形キャビティの残余のセクションの充填が行われる(図7および図8)。
【0046】
鋳型F内に充分な量の溶融体Mが充填されるやいなや、充填開口14内にストッパ18が置かれ、充填開口14を密封シールする(図8)。
【0047】
次に、スタート位置(図2)に到達するまで鋳造セルZが再び回転される。このスタート位置では、重力の作用方向WKで見て、フィードコアSが頂に配置されかつベースプレート6が底に配置される。ここでは、ストッパ18が鋳型Fのシールを形成し続け、鋳型Fから溶融体Mが流出しないことを確保する。
【0048】
鋳型Fは、鋳造部品を鋳型から取出すことができるように鋳造部品の凝固が充分に進むまで、この位置に保持される。
【0049】
上記例示実施形態では、鋳型Fは、鋳造すべき該鋳型FのフィーダSが少なくともかなり大きい程度で鋳型Fの成形キャビティHの下に配置され、このため、鋳型Fの成形キャビティHが最初は重力に抗して充填されるように設計されている。最初の充填中に金属溶融体Mの速度を低下させかつ鋳込みチャネル13およびフィードSの均一な充填プロセスを達成するには、充填プロセス時に、鋳型Fの全体をスプルーに対して予め傾斜させておくのが好ましい。鋳込みスプーンの形態をなす鋳込み装置17が充填に使用され、該鋳込み装置17は、前述のように、鋳造プロセス中に鋳型Fの回転に追従することができる。
【0050】
充填プロセスの完了時に、フィーダSから上方を向いている湯口13がシールされると、フィードSおよび成形キャビティH内に存在する溶融体Mに金属静水圧が作用し、溶融体Mの収縮を防止する。
【0051】
本発明の例示実施形態では、連続回転中に、フィーダS内に存在する金属溶融体Mが、成形キャビティH内の金属溶融体Mの溶湯静圧を維持する。これにより、例えば気泡およびコールド・ラン等の鋳造欠陥が排除される。
【符号の説明】
【0052】
1 鋳造部品Gの鋳造装置
2、3 ローラ
4 取付け床
5 ガイドプレート
6 鋳型Fのベースプレート
7、8 フロントスライド
9 押圧プレート
10 フィードコアSのフィードチャネル
11 フィードコアSの開口
12 湯口
13 鋳込みチャネル
14 充填開口
15 鋳込みチャネル13の口
16 加熱装置
17 鋳込み装置
18 ストッパ
B 円筒状スリーブ
F 鋳型
G 鋳造部品
H 鋳型Fの成形キャビティ
K コア
M 金属溶融体
O 底コア
S フィードコア
SR 主流れ方向
T トラッキング装置
WK 重力の作用方向
X 回転軸線
Z 鋳造セル




【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ピボット型装着により取付けられる鋳型(F)を設ける段階を有し、鋳型(F)は、鋳造部品(G)を成形する成形キャビティ(H)と、該成形キャビティ(H)に金属溶融体(M)を供給するフィードシステム(10)と、鋳込みチャネル(13)とを有し、該鋳込みチャネル(13)を介してフィードシステム(10)が金属溶融体で充填され、フィードシステム(10)は、鋳型(F)が充填位置に回転されると金属溶融体(M)による成形キャビティ(H)の充填が重力の作用方向に抗してフィードシステム(10)を介して行われるように、鋳型(F)の成形キャビティ(H)に対して配置され、金属溶融体(M)を充填するために設けられた、鋳込みチャネル(13)の充填開口(14)が、フィードシステム(10)内への口(15)から遠隔の鋳型(F)側面に配置され、これにより、鋳込みチャネル(13)の充填開口(14)が、鋳型(F)のそれぞれの充填位置において、フィードシステム(10)内への口(15)の上方に配置され、
b)鋳込みチャネル(13)内に充填された金属溶融体(M)が重力の作用の結果として鋳込みチャネル(13)を通って流れる充填位置に、鋳型(F)を整合させる段階を有し、金属溶融体(M)の主流れ方向(SR)が重力の作用方向(WK)に対して或る角度を形成し、
c)鋳込みチャネル(13)を含む鋳型(F)が金属溶融体(M)により完全に充填されるまで、充填位置に整合した鋳型(F)に金属溶融体(M)を充填する段階と、
d)鋳込みチャネル(13)の充填開口(14)内に置かれるストッパ(18)により鋳型(F)をシールする段階と、
e)シールされた鋳型(F)を凝固位置に回転させる段階とを有し、凝固位置では、重力の作用の結果として、フィードシステム(10)内に存在する溶融体(M)が成形キャビティ(H)内に存在する溶融体(M)を押圧し、
f)鋳型(F)内に存在する金属溶融体(M)が或る凝固状態に到達するまで、鋳型(F)を凝固位置に保持する段階と、
g)鋳造部品(G)を鋳型(F)から取出す段階とを更に有していることを特徴とする金属溶融体(M)から鋳造部品(G)を鋳造する方法。
【請求項2】
前記金属溶融体(M)の或る充填レベルに到達後に、鋳込みチャネル(13)を通って流れる金属溶融体(M)の主流れ方向(SR)が重力の作用方向(WK)に益々近づくようにして充填を続けながら、鋳型(F)が回転されることを特徴とする請求項1記載の鋳造方法。
【請求項3】
前記充填プロセス中に行われる回転は、鋳込みチャネル(13)を通って流れる金属溶融体(M)の主流れ方向が重力の作用方向(WK)に一致すると停止されることを特徴とする請求項2記載の鋳造方法。
【請求項4】
前記鋳型(F)の回転は、フィードシステム(10)内への鋳込みチャネル(13)の口(15)が、鋳型(F)内に充填された金属溶融体(M)のレベルに到達したらすぐ開始されることを特徴とする請求項2または3記載の鋳造方法。
【請求項5】
前記金属溶融体(M)は、鋳込みスプーン(17)により鋳型(F)内に充填されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の鋳造方法。
【請求項6】
前記鋳込みスプーン(17)は、鋳型(F)の回転を追跡することを特徴とする請求項5および2〜4または3のいずれか1項記載の鋳造方法。
【請求項7】
前記鋳型(F)の少なくとも1つのセクションは、金属溶融体(M)の充填前に熱処理されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の鋳造方法。
【請求項8】
前記鋳造部品(G)は内燃機関のエンジンブロックであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の鋳造方法。
【請求項9】
前記鋳型(F)の回転軸線(X)は水平方向に整合していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の鋳造方法。
【請求項10】
前記鋳型(F)の鋳込みチャネル(13)は直線状に形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載の鋳造方法。
【請求項11】
前記鋳込みチャネル(13)の充填開口(14)は鋳型(F)の下面に割当てられていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項記載の鋳造方法。
【請求項12】
鋳型(F)を保持するリテーナと、回転軸線(X)の回りで鋳型(F)を回転させる回転駆動装置と、鋳型(F)の充填開口(15)内に金属溶融体(M)を充填する鋳込み装置(17)とを有する、金属溶融体(M)から鋳造部品(G)を鋳造する装置において、金属溶融体(M)の充填中に鋳型(F)の回転移動により引き起こされる鋳型(F)の充填開口(14)の位置の変化に対する鋳込み装置(17)を追跡するトラッキング装置(T)を有していることを特徴とする鋳造装置。
【請求項13】
前記鋳込み装置は鋳込みスプーン(17)であることを特徴とする請求項12記載の鋳造装置。
【請求項14】
前記鋳型(F)を180°より大きい角度に亘って自由に回転させる回転駆動装置が設けられていることを特徴とする請求項12または13記載の鋳造装置。
【請求項15】
前記鋳型(F)の回転軸線(X)は水平方向に整合していることを特徴とする請求項12または13記載の鋳造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−509767(P2012−509767A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536886(P2011−536886)
【出願日】平成21年11月23日(2009.11.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065627
【国際公開番号】WO2010/058003
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(509129978)
【氏名又は名称原語表記】Nemak Dillingen GmbH
【住所又は居所原語表記】Industriepark Staustufe 66763 Dillingen Germany
【Fターム(参考)】