説明

金属疲労識別装置および金属疲労識別方法

【課題】金属に亀裂が発生する前の段階において、疲労の進行状態を定量的に検出でき、かつ亀裂の発生を判断でき、さらに検出のための操作も簡略に行える金属疲労識別装置および金属疲労識別方法を提供する。
【解決手段】 金属疲労識別装置100は、信号発生部10と、信号増幅部20と、検出部30と、検出回路部40と、検出信号処理部50と、表示部60と、出力端子部70とから構成され、検査する際に、信号発生部10からの交流信号を励磁コイルに入力し、誘導コイルで検査試料による磁場の変化を検出して出力し、誘導コイルからの検出信号の位相と、励磁コイルに入力された交流信号の位相とを比較して、励磁コイルに入力された交流信号の位相に対する誘導コイルの検出電圧の位相遅れの余弦値を算出する。そして、検出電圧と余弦値に基づいてMFD値(電磁気代用特性値)を算出し、表示部に表示する。このMFD値で金属疲労損傷度を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の被検査物を励磁コイルによる磁界中に置き、それによる電磁誘導の変化によって金属の被検査物の疲労損傷度の測定を行う金属疲労識別装置および金属疲労識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、金属疲労の検出においては、金属の疲労が進行し破断する前段階の亀裂の発生を危険域として捉え、この亀裂の有無を発見することによって、金属の破断を未然に防止する方法が一般的に行われている。具体的には、X線や超音波による透過、反射などの技術を利用して、金属内部における亀裂を検出したり、あるいは磁力を利用して、金属表面の亀裂を検出したりする方法が用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
中でも特に、非破壊検査において簡単に金属の亀裂を検出する方法として、磁気を用いた渦流式のセンサが広く利用されている。これは、励磁コイルに交流電流を印加して磁場を形成し、検査試料に生じせしめた渦流が、亀裂によって変化することを誘導コイルで検出するものである。
【0004】
近年、強磁性構造材の強度の経年劣化の非破壊測定法が提案された(例えば、特許文献1参照)。この非破壊測定法において、所定の磁界強度で強磁性構造材の帯磁率を求め、これに基づいて強磁性構造材の実質的な引張応力を求め、この実質的な引張応力と強磁性構造材の初期状態での引張応力とを比較して、経年による強磁性構造材の実質的な引張応力を求めることで、強磁性構造材の強度の経年劣化を検査する。
【0005】
【非特許文献1】石井 勇五郎 「新版 非破壊検査工学」 産報出版株式会社 1993年8月 P.456〜460
【特許文献1】特開2001−21538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような渦流式では、亀裂の形状や大きさによって検出できる周波数が異なるため、感度良く検出するためには、検出時に励磁コイルに印加する交流電流の周波数を変化させたり、周波数を複数化したりといった方法が必要であった。そのため、操作や装置構成が複雑になり、特に、非破壊検査を目的として、機動性を有した測定が必要な場合には、装置を小型化したり操作性を向上させたりすることが望まれていた。
【0007】
また、金属疲労の検出において、亀裂が発生した状態というのは破壊の一歩手前の状態であり、その時点で金属疲労を検出しても、余寿命の推定という観点では不十分であった。そのため、亀裂が発生する前のさらに早期の段階で疲労を発見し、疲労の有無だけでなくその度合いも識別できることが望まれていた。
【0008】
本発明は、このような従来の課題を考慮して、検出部の誘導コイルからの検出信号の位相と、励磁コイルに入力された前記交流信号の位相とを比較し、励磁コイルに入力された交流信号の位相に対する誘導コイルの検出電圧の位相遅れの余弦値に基づいて金属疲労損傷度を判断することで、金属に亀裂が発生する前の段階において、疲労の進行状態を定量的に検出でき、かつ亀裂の発生を判断でき、さらに検出のための操作も簡略に行える金属疲労識別装置および金属疲労識別方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る金属疲労識別装置は、金属材料からなる検査試料の疲労を識別する金属疲労測定装置において、交流信号を発生する信号発生手段と、前記交流信号が入力されて磁場を形成する励磁コイルと、励磁コイルにより電磁誘導され前記検査試料による前記磁場の変化を出力する誘導コイルとを備えた検出部と、前記検出部の誘導コイルからの検出信号の位相と、励磁コイルに入力された前記交流信号の位相とを比較し、検出信号を処理する検出信号処理部とを備え、前記検出信号処理部は、励磁コイルに入力された前記交流信号の位相に対する誘導コイルの検出電圧の位相遅れの余弦値に基づいて金属疲労損傷度を判断するものである。
【0010】
例えば、前記金属疲労識別装置において、前記検出信号処理部は、誘導コイルの検出電圧と、前記検出信号処理部により得られた励磁コイルに入力された前記交流信号の位相に対する誘導コイルの検出電圧の位相遅れの余弦値との積を測定値として出力する。
【0011】
また、前記金属疲労識別装置において、前記検出信号処理部により出力される測定値を表示する表示手段をさらに備える。
【0012】
さらに、前記金属疲労識別装置において、金属材料として、磁性材料及び非磁性材料を適用対象とする。
【0013】
本発明に係る金属疲労識別方法は、交流信号を発生する信号発生手段と、前記交流信号が入力されて磁場を形成する励磁コイルと励磁コイルにより電磁誘導され前記検査試料による前記磁場の変化を出力する誘導コイルとを備えた検出部と、前記検出部の誘導コイルからの検出信号の位相と、励磁コイルに入力された前記交流信号の位相とを比較し、検出信号を処理する検出信号処理部とを備える金属疲労測定装置を用いて金属材料からなる検査試料の疲労を識別する金属疲労識別方法において、信号発生手段からの交流信号を励磁コイルに入力し、誘導コイルで前記検査試料による前記磁場の変化を検出して出力し、前記誘導コイルからの検出信号の位相と、励磁コイルに入力された前記交流信号の位相とを比較して、励磁コイルに入力された前記交流信号の位相に対する誘導コイルの検出電圧の位相遅れの余弦値に基づいて金属疲労損傷度を判断することを特徴とする。
【0014】
例えば、前記金属疲労識別方法において、誘導コイルの検出電圧と、前記検出信号処理部により得られた励磁コイルに入力された前記交流信号の位相に対する誘導コイルの検出電圧の位相遅れの余弦値との積を測定値とし、該測定値で金属疲労損傷度を判断することを特徴とする。
【0015】
また例えば、前記金属疲労識別方法において、前記測定値の下降傾向から上昇傾向に変化することを、金属疲労損により塑性変形が発生し、疲労亀裂が発生する前兆と判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、検出部の誘導コイルからの検出信号の位相と、励磁コイルに入力された前記交流信号の位相とを比較し、励磁コイルに入力された前記交流信号の位相に対する誘導コイルの検出電圧の位相遅れの余弦値に基づいて金属疲労損傷度を判断することにより、磁性材料及び非磁性材料を問わずあらゆる金属材料からなる検査試料の疲労損傷度を検出することができる。そのため、金属の疲労損傷度を判別することができる。
【0017】
また、電磁気センサを用いることで、金属疲労識別装置を小型化にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態の金属疲労識別装置および金属疲労識別方法について説明する。
【0019】
図1は、実施の形態としての金属疲労識別装置100の構成を示すブロック図である。図2は、金属疲労識別装置100の構成を示す電気回路概略図である。
【0020】
図1、2に示すように、金属疲労識別装置100は、信号発生部10と、信号増幅部20と、検出部30と、検出回路部40と、標準信号供給部50と、検出信号処理部60と、表示部70とから構成されている。
【0021】
信号発生部10と信号増幅部20とは、信号発生手段を構成し、所定周波数の交流信号、例えば交流電流を発生することができる。信号発生部20において、周波数設定手段を有する。信号増幅部20は、信号発生部10からの信号のレベルを調整するレベル調整手段を有する定電流増幅器である。信号発生部10から出力される交流信号、例えば交流電流は、信号増幅部20で一定電流となり、検出部30の励磁コイル31に供給される。
【0022】
検出部(センサ)30は、交流信号が入力されて磁場を形成する励磁コイル31と、励磁コイルにより電磁誘導され検査試料による磁場の変化を出力する誘導コイル32(32a,32b)と、から構成される。
【0023】
この検出部30は、いわゆる渦流型のセンサ構造を呈しており、図2に示すように、1次側となる励磁コイル31が高透磁性部材である磁芯33に巻回され、この励磁コイル31の磁束に鎖交して電磁誘導されるよう2次側となる誘導コイル32が設けられている。
【0024】
また、誘導コイル32は同一構成の一対の誘導コイル32a、32bが差動で出力されるように接続されている。具体的には励磁コイル31と誘導コイル32の構成としては、例えば磁芯33の外周に励磁コイル31を巻回し、その外周面に誘導コイル32を巻回する構成や、またはその逆の構成や、一列に並設する構成等が挙げられる。磁芯33には、透磁率の高いフェライトが好適であるが、この素材に限定されるものではない。
【0025】
検出部30の磁芯33の一方端に対向する位置で、励磁コイル31が形成する磁場中が、検査可能範囲34となり、ここに試料1が配置される。この試料1は、検査可能範囲34の任意の位置に設置可能であるが、磁芯33に接触(リフトオフ=0)させ、磁芯33の中心線と試料1の接触面とが垂直になるよう設置することが好ましい。これにより、試料1の設置位置による検出誤差が防止されるとともに、検出感度も大幅に向上する。
【0026】
検出回路部40は、増幅器41、信号増幅器42、乗算器43と、増幅器44と、調整器45とを備えており、信号増幅器42は、増幅器41からの信号のレベルを調整するレベル調整手段を有する定電流増幅器である。検出部30から入力された検出信号S1が増幅されて基準信号S0との乗算処理が乗算器43で施される。
【0027】
基準信号供給部50は、増幅器51と、位相調整器52とを備えており、励磁コイル31に印加された信号は、増幅器51で増幅され、位相調整器52で所定位相に調整されて基準信号S2として乗算器43に供給される。
【0028】
検出信号処理部60は、マイクロコンピュータから構成され、誘導コイルからの検出信号の増幅された検出信号S2の位相と励磁コイルに入力された交流信号、即ち基準信号S0の位相とを比較し、位相差を算出する。そして、検出信号処理部60は、励磁コイルに入力された交流信号の位相に対する誘導コイルの検出電圧の位相遅れの余弦値(MFD値:電磁気代用特性値)を算出し、算出された余弦値を表示部70に出力し、この余弦値に基づいて金属疲労損傷度を判断する。
【0029】
表示部70は、検出信号処理部60から送られた余弦値と、調整器45から出力された検出信号とに基づいて、測定値(MFD値)を表示するようになされる。
【0030】
MFD値(電磁気代用特性値)は以下のように定義される。
MFD値=V×COSφ ・・・(1)
式中:Vは検出電圧であり、COSφは励磁コイル側に対する検出側(誘導コイル側)の位相差の余弦である。
【0031】
図3は、透磁率とMFD値の相関関係を示す図である。この図において、S45C材の比最大透磁率とMFD値の相関関係を示している。図3に示すように、MFD値と透磁率とは正相関関係である。
【0032】
上記MFD値と透磁率との関係から、金属疲労が進行するほどMFD値が低下する、即ち透磁率が小さくなる。そのため、金属疲労により位相が遅れることで、位相の遅れは(+)とし、更に金属疲労が進行し疲労亀裂が発生し位相が進むときは(−)とする。
【0033】
図4は、金属疲労に伴う検出電圧・位相の変化を示す図である。図4に示すように、金属疲労が発生した場合、検出電圧の低下ΔV1、位相の遅れΔθ、位相の遅れによる電圧低下ΔV2を検出することができる。
【0034】
また、疲労損傷度とMFD値との関係について説明する。MFD値による疲労損傷度評価方法は次の通りとなる。
【0035】
図5は、疲労損傷度とMFD値との関係を示す図である。図5の横軸は疲労損傷度で、縦軸はMFD値である。図5に示すように、
疲労損傷度(Φ%)=疲労測定対象材MFD値Maの新材MoからのMFD値低下量)÷(疲労破断材MFD値Mfの新材MoからのMFD値低下量)×100
={(Mo−Ma)÷(Mo−Mf)}×100% ・・・(2)
疲労損傷度(Φ%)を用いて金属の疲労損傷度を評価することができる。
【0036】
図6は、疲労損傷度(Φ%)と疲労荷重回数の関係を示す図である。この図6において、S45C疲労試験片の疲労損傷度(Φ%)と疲労荷重回数の関係を示している。図6に示すように、疲労損傷度は、疲労荷重回数に比例する。
【0037】
図7は、金属疲労に伴う検出側の位相の変化を示す図である。図7において、T型試験片(S20C,P1S218)の疲労損傷度に伴う位相変化を示している。図7に示すように、疲労中心部において位相変化が大きく、疲労中心部からの距離が遠くなるほど位相変化が小さくなる傾向があった。
【0038】
図8は、金属疲労から疲労亀裂発生までのMFD値の変化を示すモデル図である。図8に示すように、鉄鋼材料による部品の場合、使用開始直後に製造時の残留応力が先ず緩和されて、少しMFD値が上昇する(区間A)が、継続使用することによる金属疲労で徐々にMFD値は低下する(区間B)。MFD値が低下しきった後しばらく安定期があり(区間C)、最後に表面の塑性流動や疲労亀裂でMFD値は再び上昇し始める(区間D)。区間Dには、MFD値の上昇する変曲点となる区間D1と疲労亀裂によるMFD値が急上昇する区間D2がある。区間D2の最後に疲労亀裂の進展により破断する。
【0039】
また、区間D1のMFD値の再上昇の原因は、試料の塑性変形により透磁率が上昇し位相が進むことによるものである。このMFD値の上昇する変曲点を見つけ、これを金属疲労進行の警鐘と見る。例えば、この段階で部品交換等を行う等の対策を実施することがよい。このようなMFD値の変化は多くの生産設備や施設における部品の金属疲労の過程で見られる。金属疲労識別装置100を用いて、これ等の変化を的確に捕捉しタイミングの良い予知管理が可能である。
【0040】
塑性変形及び疲労亀裂による測定値の変化について、以下の図9および図10に示す結果より明らかである。
【0041】
図9は、金属疲労亀裂がありと無しの場合における位相の変化を示す図である。図9の測定結果において、測定条件として、材質はS25Cである。試験片:疲労亀裂あり、疲労亀裂なしの2つである。疲労試験条件は21.6kg/mm、20Hz片振(塑性変形6.3%)である。荷重回数はN=34,758回である。測定周波数は2kHz、位相設定70°である。
【0042】
図9に示すように、疲労亀裂ありの試験片の場合は、中心位置において位相が大きく変化することが分かった。これにより、被検査物の疲労亀裂の発生を判別することが可能である。
【0043】
図10は、鉄道用レールの頭頂部の塑性流動(塑性変形)部の研磨前と研磨後におけるMFD値の変化を示す図である。この場合、使用済みレール(JR60キロレール)の頭頂面を研磨前と100μm研磨する場合において、レール端部から30mmのT2線上の各測定点(中心より外側5箇所、内側5箇所)の測定を行った。
【0044】
図10に示すように、研磨することにより、レール中心より外側のみ測定値(MFD値)が低下する。この変化がレールの外側のみ見られたのは、中心より外側のみ塑性流動層が約100μmあり、この塑性流動層による引張残留応力(磁気特性増大)が研磨で削除されたため、磁気特性値が低下したものと推定される。一方、レールの内側は塑性流動層が殆どないため、変化が見られなかったものと推定される。
【0045】
図11は、引張および圧縮応力とMFD値の関係を示す図である。図11において、2回の測定値を示している。図11に示すように、引張および圧縮応力とMFD値の関係はほぼ直線関係である。
【0046】
応力測定の原理について、従来から発表されているように、電磁気応用の応力測定は磁歪理論により、磁性体を磁場に置くと伸びる現象があり、また逆に伸ばすと磁性体の透磁率が変化する。この現象を式で表すと、
=Wmech/Wmag=Δλ・E/(ΔB・ΔH) ・・・(3)
式中:K は磁気機械結合係数の2乗であり、Wmechは機械的エネルギーであり、Wmagは磁気エネルギーであり、Δλは伸び率の2乗であり、Eは弾性率であり、ΔBは磁束密度の変化率であり、ΔHは磁界の変化である。
【0047】
また、透磁率の変化Δμ=ΔB/ΔHの関係を式(3)に代入すると、
=(Δλ/ΔH)・E/Δμ
になる。即ち、
Δμ=E・(Δλ/K・ΔH) ・・・(4)
【0048】
式(4)式から材料が伸びると透磁率も大きくなることからMFD値の関係値は透磁率に比例するために大きくなる。また、圧縮も同様にMFD値は小さくなる。(但し、材料によるKは一定とする。)
【0049】
以下、金属疲労識別装置100を用いた測定例について説明する。
図12は、高圧送電線用ダンパーの疲労試験結果を示す図である。図12(a)はMFD値と疲労荷重回数との関係を示している。また、図12(b)は位相と疲労荷重回数との関係を示している。図12に示すように、300万回までは疲労によりMFD値は低下するが、400万回を超えるとMFD値は少し上昇し、位相も少し戻ってくる。即ち、位相が進み疲労亀裂が発生してきていることが判る。
【0050】
図13〜16は、回転曲げ疲労試験結果を示す図である。図13は、回転疲労試験の繰り返し荷重(22kgf/mm2)によるMFD値の変化を示す図である。図14は、回転疲労試験の繰り返し荷重(22kgf/mm2)による位相の変化を示す図である。図15は、回転疲労試験の繰り返し荷重(24kgf/mm2)によるMFD値の変化を示す図である。図16は、回転疲労試験の繰り返し荷重(24kgf/mm2)による位相の変化を示す図である。
【0051】
図13に示すように、回転疲労試験の繰り返し荷重の回数が多くなるとMFD値が低下することが良く判る。また、図14に示すように、繰り返し荷重の回数が多くなる(即ち、疲労が進行する)と、位相は段々遅れてくる状況が良く判る。また、図15に示すように、疲労亀裂が入ると、MFD値が急激に上昇することが判る。さらに、図16に示すように、疲労亀裂が入ると、位相差が急激に減少することが判る。
【0052】
図17は、鍛造金型の鍛造回数と疲労亀裂発生によるMFD値の変化を示す図である。この例においては、自動車用鍛造金型パンチの鍛造回数による疲労を測定した。図17に示すように、亀裂無しの場合、鍛造金型の鍛造回数と共にMFD値が低下する。一方、亀裂が発生した場合、疲労による低下したMFD値が上昇する傾向があった。この例の結果により、疲労による低下したMFD値が上昇する場合は、金属材料に亀裂が発生したことが分かった。
【0053】
次に、金属疲労識別装置100を用いた金属疲労を判別する方法について説明する。
【0054】
まず、基準試料を測定する。次に、同様の方法で検査試料を測定する。この場合、信号発生部10からの交流信号を励磁コイルに入力し、誘導コイルで検査試料による磁場の変化を検出して出力し、誘導コイルからの検出信号の位相と、励磁コイルに入力された交流信号の位相とを比較して、励磁コイルに入力された交流信号の位相に対する誘導コイルの検出電圧の位相遅れの余弦値を算出する。そして、検出電圧と余弦値に基づいてMFD値を算出し、表示部に表示する。このMFD値で金属疲労損傷度を判断する。例えば、新材のMFD値、金属疲労後のMFD値、及び疲労破断後のMFD値から疲労損傷度を求め、金属疲労損傷度を判断する。なお、疲労に伴い降下したMFD値が大きく上昇する場合には、疲労亀裂が発生したと判断される。
【0055】
このように本実施の形態においては、金属疲労識別装置100は、信号発生部10と、信号増幅部20と、検出部30と、検出回路部40と、検出信号処理部50と、表示部60と、出力端子部70とから構成され、検査する際に、信号発生部10からの交流信号を励磁コイルに入力し、誘導コイルで検査試料による磁場の変化を検出して出力し、誘導コイルからの検出信号の位相と、励磁コイルに入力された交流信号の位相とを比較して、励磁コイルに入力された交流信号の位相に対する誘導コイルの検出電圧の位相遅れの余弦値を算出する。そして、検出電圧と余弦値に基づいてMFD値を算出し、表示部に表示する。このMFD値で金属疲労損傷度を判断する。
【0056】
これにより、亀裂が発生する前のさらに早期の段階で疲労を発見し、疲労の有無だけでなくその度合いも識別できる。また、磁性材料及び非磁性材料を問わずあらゆる金属材料からなる検査試料の疲労損傷度を検出することができる。そのため、金属の疲労損傷度を判別することができる。また、電磁気センサを用いることで、金属疲労識別装置を小型化にすることができる。
【0057】
なお、上述実施の形態において、励磁コイルに入力された交流信号を基準信号とした場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、検出側(誘導コイル側)の信号を基準信号としてもよい。
【0058】
以下、図8のバスタブカーブと図5の疲労損傷度の直線グラフの相違について説明する。
【0059】
(1)基本的にバスタブカーブは生産設備やレール,送電線等の実際に使用されている部材における疲労損傷度の経歴である。一方で疲労損傷度のグラフはあくまでも室内に於けるベンチテストであり純粋で出来るだけ他の誤差の要因になる要素を極力避けた測定結果である。この違いが現場に於ける疲労曲線と、実験での疲労損傷度グラフの違いとして出ている。
【0060】
(2)更に詳しく説明すると、バスタブカーブには初期の部材製造時の溶接や熱処理等による残留応力の影響や、疲労破断直前の塑性流動による微細な局部的伸びや結晶粒界のスリップ現象等が多く見られ、更に微細なキレツが見られるようになり、そのキレツが繋がって疲労破断にまでの経過を表している。
【0061】
(3)これ等の現象から残留応力が除去されるとMFD値が上昇することは圧延材料を焼鈍するだけでMFD値が上がることで証明されている(図18参照)。又塑性流動で引張応力が発生して磁歪の計算式から透磁率が上昇してMFD値が上昇する事からでも判る。これは上述した図10のレール(JR60キロレール)の表面研磨による実験で証明されている。更に疲労キレツが入ると漏洩磁束が増大して見掛け上透磁率が上昇するようになり、位相が進みMFD値が上昇する結果となる。この事は、MFD値=ACOSθの式から説明できる。
【0062】
(4)一方疲労損傷度グラフはJIS0564付属書C(規定)コンパクト試験片に基づく試験結果であるから、上記の塑性流動の段階で試験が終る為、疲労試験開始から単純に疲労破断までに透磁率が低下するので、MFD値も疲労損傷度の進行に伴い直線的に低下するだけで終わることになる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、被検査物の電磁特性を利用して、電磁誘導作用によって発生した渦電流の微小な変化を検知することによって、金属材料の疲労損傷度を識別する目的に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施の形態としての金属疲労識別装置100の構成を示すブロック図である。
【図2】金属疲労識別装置100の構成を示す電気回路概略図である。
【図3】透磁率とMFD値の相関関係を示す図である。
【図4】金属疲労に伴う検出電圧・位相の変化を示す図である。
【図5】疲労損傷度とMFD値との関係を示す図である。
【図6】疲労損傷度(Φ%)と疲労荷重回数の関係を示す図である。
【図7】金属疲労に伴う検出側の位相の変化を示す図である。
【図8】金属疲労から疲労亀裂発生までのMFD値の変化を示すモデル図である。
【図9】金属疲労亀裂がありと無しの場合における位相の変化を示す図である。
【図10】鉄道用レールの頭頂部の塑性流動部の研磨前と研磨後におけるMFD値の変化を示す図である。
【図11】引張および圧縮応力とMFD値の関係を示す図である。
【図12】高圧送電線用ダンパーの疲労試験結果を示す図である。
【図13】回転疲労試験の繰り返し荷重(22kgf/mm2)によるMFD値の変化を示す図である。
【図14】回転疲労試験の繰り返し荷重(22kgf/mm2)による位相の変化を示す図である。
【図15】回転疲労試験の繰り返し荷重(24kgf/mm2)によるMFD値の変化を示す図である。
【図16】回転疲労試験の繰り返し荷重(24kgf/mm2)による位相の変化を示す図である。
【図17】鍛造金型の鍛造回数と疲労亀裂発生によるMFD値の変化を示す図である。
【図18】ロール材の焼鈍によるMFD値の上昇を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
10 信号発生部
20 信号増幅部
30 検出部
31 励磁コイル
32 誘導コイル(検出コイル)
33 磁芯
34 検査可能範囲
40 検出回路部
41 増幅器
42 信号増幅器
43 乗算器
44 増幅器
45 調整器
50 基準信号供給部
51 増幅器
52 位相調整器
60 検出信号処理部
70 表示部
100 金属疲労識別装置
S1,S2 検出信号
S0 基準信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなる検査試料の疲労を識別する金属疲労測定装置において、
交流信号を発生する信号発生手段と、
前記交流信号が入力されて磁場を形成する励磁コイルと、励磁コイルにより電磁誘導され前記検査試料による前記磁場の変化を出力する誘導コイルとを備えた検出部と、
前記検出部の誘導コイルからの検出信号の位相と、励磁コイルに入力された前記交流信号の位相とを比較し、検出信号を処理する検出信号処理部とを備え、
前記検出信号処理部は、励磁コイルに入力された前記交流信号の位相に対する誘導コイルの検出電圧の位相遅れの余弦値に基づいて金属疲労損傷度を判断する金属疲労識別装置。
【請求項2】
請求項1記載の金属疲労識別装置において、前記検出信号処理部は、誘導コイルの検出電圧と、前記検出信号処理部により得られた励磁コイルに入力された前記交流信号の位相に対する誘導コイルの検出電圧の位相遅れの余弦値との積を測定値として出力することを特徴とする金属疲労識別装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の金属疲労識別装置において、前記検出信号処理部により出力される測定値を表示する表示手段をさらに備えることを特徴とする金属疲労識別装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3記載の金属疲労識別装置において、金属材料として、磁性材料及び非磁性材料を適用対象とすることを特徴とする金属疲労識別装置。
【請求項5】
交流信号を発生する信号発生手段と、前記交流信号が入力されて磁場を形成する励磁コイルと励磁コイルにより電磁誘導され前記検査試料による前記磁場の変化を出力する誘導コイルとを備えた検出部と、前記検出部の誘導コイルからの検出信号の位相と、励磁コイルに入力された前記交流信号の位相とを比較し、検出信号を処理する検出信号処理部とを備える金属疲労測定装置を用いて金属材料からなる検査試料の疲労を識別する金属疲労識別方法において、
信号発生手段からの交流信号を励磁コイルに入力し、誘導コイルで前記検査試料による前記磁場の変化を検出して出力し、
前記誘導コイルからの検出信号の位相と、励磁コイルに入力された前記交流信号の位相とを比較して、励磁コイルに入力された前記交流信号の位相に対する誘導コイルの検出電圧の位相遅れの余弦値に基づいて金属疲労損傷度を判断することを特徴とする金属疲労識別方法。
【請求項6】
請求項5記載の金属疲労識別方法において、誘導コイルの検出電圧と、前記検出信号処理部により得られた励磁コイルに入力された前記交流信号の位相に対する誘導コイルの検出電圧の位相遅れの余弦値との積を測定値とし、該測定値で金属疲労損傷度を判断することを特徴とする金属疲労識別方法。
【請求項7】
請求項5または6記載の金属疲労識別方法において、前記測定値の下降傾向から上昇傾向に変化することを、金属疲労損により塑性変形が発生し、疲労亀裂が発生する前兆と判断することを特徴とする金属疲労識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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