説明

金属粉末の製造方法と、該方法により製造される金属粉末

【課題】サブミクロンオーダー、ミクロンオーダーの領域の平均粒径を有する球状の金属粉末を、金属粉末の目標重量W(金属量)と標準偏差σWの比率:σW/Wが、σW/W≦1/2の範囲であるような、狭い粒径分布で、再現性よく製造する方法の提供。
【解決手段】金属ナノ粒子を有機溶媒に分散させた分散液を、所定の液量の液滴として滴下し、下降する過程において、滴下される金属ナノ粒子分散液の微細な液滴中に含まれる前記有機溶媒を蒸散させ、金属ナノ粒子集合体からなる粒子を形成し、該金属ナノ粒子集合体からなる粒子を着弾させ、さらに、金属ナノ粒子集合体からなる粒子に加熱処理を施すことで、金属ナノ粒子焼結を進行させ、均一な大きさの金属粉末を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末の製造方法と、該方法により製造される金属粉末に関し、特には、金属ナノ粒子の分散液を原料として、該金属ナノ粒子集合体を形成し、さらに低温焼成体を作製するため、加熱処理を施すことで、均一な粒径の金属粉末を製造する方法と、該方法により製造される均一な粒径の金属粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ペーストを作製する際には、その導電性媒体として、所定の平均粒径を有する金属粉末が利用される。所定の平均粒径を有する金属粉末を作製する手段として、溶融した液体状金属(溶湯)をスプレイ噴射し、所望の平均粒径を有する液滴を形成し、気相中で急速冷却し、球形の金属粉末とする方法が知られている。あるいは、不定形の金属粉末を作製する手段として、金属の塊を粉砕し、粉末化する手法も使用されている。
【0003】
さらには、液相において、金属化合物を還元し、生成する金属原子を凝集させることで、微小な金属粒子を形成する方法も報告されている。その際、形成される金属粒子が集合して、二次粒子を構成し、金属粒子からなる塊状の金属粉末の形成が生じる場合もある。
【0004】
上記の従来の金属粉末の製造方法においても、その作製条件を最適化することで、ある平均粒径の範囲内であれば、目的とする平均粒径を有する金属粉末の作製は可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述するように、ある平均粒径の範囲内であれば、従来の金属粉末の製造方法を利用して、目的とする平均粒径を有する金属粉末の作製は可能であるが、その粒径分布は、必ずしも狭いものではない。
【0006】
具体的には、目標とする平均粒径rに対して、その4/5の粒径の金属粉末の重量(金属量)は、粒径rの目標とする金属粉末の重量W(金属量)の、64/125≒0.5となる。目標とする平均粒径rに対して、その6/5の粒径の金属粉末の重量(金属量)は、粒径rの目標とする金属粉末の重量W(金属量)の、216/125≒1.7となる。実際には、金属粉末の個々の重量(金属量)の分布は、ポワソン分布を示すため、目標とする金属粉末の重量W(金属量)の1/2以下の微小粉末の含有比率が相当の水準となっている。従来の金属粉末の製造方法を適用して、例えば、目標とする金属粉末の重量W(金属量)に対する、標準偏差σWの比率:σW/Wが、σW/W≦1/2の範囲、好ましくは、σW/W≦1/3の範囲である、金属粉末の個々の重量(金属量)の分布が狭い、金属粉末の製造を行うことは、相当に困難である。
【0007】
金属粉末の個々の重量(金属量)の分布が目標とする金属粉末の重量W(金属量)に対する、標準偏差σWの比率:σW/Wが、σW/W≦1/2の範囲、好ましくは、σW/W≦1/3の範囲であるような、狭い分布の金属粉末の製造に利用可能な新規な方法の開発が望まれる。特には、金属粉末の平均粒径を、サブミクロンオーダー、あるいは、ミクロンオーダーの領域、例えば、0.5μm〜100μmの範囲に選択する際、目標とする金属粉末の重量W(金属量)に対する、標準偏差σWの比率:σW/Wが、σW/W≦1/2の範囲、好ましくは、σW/W≦1/3の範囲であるような、狭い粒径分布の球状金属粉末の製造に利用可能な新規な方法の開発が望まれる。
【0008】
本発明は、前記の課題を解決するものであり、本発明の目的は、金属粉末の平均粒径を、サブミクロンオーダー、あるいは、ミクロンオーダーの領域、例えば、0.5μm〜100μmの範囲に選択する際、目標とする金属粉末の重量W(金属量)に対する、標準偏差σWの比率:σW/Wが、σW/W≦1/2の範囲、好ましくは、σW/W≦1/3の範囲であるような、狭い粒径分布の球状金属粉末を、再現性よく製造することが可能な、金属粉末の製造方法と、該方法により製造される均一な粒径の金属粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の課題を解決するため、従来の金属粉末の製造に利用される出発原料と異なる、出発原料の利用可能性を検討した。
【0010】
従来の金属粉末の製造方法では、例えば溶融した液体状金属(溶湯)をスプレイ噴射し、所望の平均粒径を有する液滴を形成する手法では、形成される液滴の液量は、スプレイ噴射条件によって決定されるが、その液滴の液量分布は、ポワソン分布を示すことに気付いた。そのため、液滴の液量が小さくなるに従って、相対的な液量の分布:σW/Wは拡大していることを見出した。すなわち、高圧気体を利用するスプレイ噴射によって、相対的に粘性が高い液体状金属(溶湯)を多数の液滴に分離するため、液滴の液量は、その中心値の1/4〜4の範囲に広い分布を示すことを見出した。
【0011】
本発明者らは、相対的に粘性の低い液体状原料を利用し、所定の開口径を有する微細なノズル先端から、該液体状原料を滴下する場合、形成される液滴の液量は、ノズルの開口径、該液体状原料の平均密度、表面張力、粘度に依存して決定されることを見出した。ノズルの開口径、該液体状原料の平均密度、表面張力、粘度を一定に維持すると、形成される液滴の液量は、高い再現性、すなわち、高い均一性を示すことに想到した。
【0012】
この手法を適用する上では、利用される液体状原料の粘度が低いことが不可欠であることを見出した。ノズルの開口部から、液体状原料が流下する際、その表面張力と、平均密度に依存する自重によって、その先端部は球形となり、裾部分が絞り込まれ、最終的に液滴として分離される。
【0013】
その際、液体状原料の粘度が高いと、極端な場合、先端部は球形部の体積よりも、裾部分の体積が大きい状態となり、裾部分の絞り込みの程度にバラツキがある結果、形成される液滴の液量に相当のバラツキを生じる。一方、液体状原料の粘度が低いと、先端部は球形部の体積と比較する、裾部分の体積は1/3程度となり、裾部分の絞り込みの程度にバラツキはあるが、形成される液滴の液量のバラツキは、1/3を超えることはなく、通常は、1/6以下の範囲に留まることを見出した。
【0014】
本発明者らは、該液体状原料の平均密度、表面張力、粘度が、前記の条件を満足可能な、金属含有液体状原料として、表面張力、粘度が一定水準以下の有機溶媒中に、金属ナノ粒子を均一に分散している分散液が利用可能であることを見出した。具体的には、非極性有機溶媒である、炭素数10〜15の脂肪族炭化水素や、低極性有機溶媒である、炭素数10〜12の脂肪族モノアルコールから選択される有機溶媒中に、表面被覆層を有する金属ナノ粒子を均一に分散した分散液を利用した場合、所定の開口径を有する微細なノズル先端から滴下される液滴の液量は、高い再現性、すなわち、高い均一性を示すことを検証した。
【0015】
さらに、滴下された金属ナノ粒子分散液の微小液滴が落下し、回収用のプレート表面に到達するまでの間は、気相中に存在しており、その間に、微小液滴の表面から有機溶媒は蒸散がなされることに想到した。すなわち、滴下後、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tが長くなると、微小液滴の表面から有機溶媒の蒸散が進行し、微小液滴中において、含有される金属ナノ粒子の分散密度は相対的に上昇することを見出した。また、金属ナノ粒子分散液中には、金属ナノ粒子の表面を被覆する被覆剤分子が含まれているが、被覆剤分子の濃度は然程高くなく、また、蒸散性は、有機溶媒よりも相当に劣っている。そのため、滴下後、回収用のプレート表面に到達するまでの間に、被覆剤分子の蒸散は極く僅かに進行するのみであり、滴下後、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightが長くなると、微小液滴中において、含有される被覆剤分子の濃度は上昇することを見出した。
【0016】
すなわち、滴下後、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightが長くなると、有機溶媒の蒸散に伴って、分散質である金属ナノ粒子の分散密度、溶質である被覆剤分子の濃度は相対的に上昇する結果、微小液滴を構成する金属ナノ粒子分散液の液粘度の上昇が引き起こされることを見出した。回収用のプレート表面に到達した時点でも、微小液滴を構成する金属ナノ粒子分散液が流動性を示す限り、気相中では球形である微小液滴は、「着弾」時の衝撃力(力積)によって押しつぶされ、外縁が円形の扁平な液滴形状となる。具体的には、液滴形状は、その外縁部では、回収用のプレート表面に対する、有機溶媒の濡れ性に応じて決定される、接触角でプレート表面と接触する。一方、液滴の中心部は、液滴を構成する金属ナノ粒子分散液の平均密度に依存する自重によって扁平化し、全体の液滴の表面形状は、金属ナノ粒子分散液の表面張力によって決定される。この外縁が円形の扁平な液滴の表面から有機溶媒の蒸散が更に進むと、分散質である金属ナノ粒子の分散密度、溶質である被覆剤分子の濃度は一層上昇するため、全体の液粘度は更に増し、流動性を失うことを確認した。流動性を失った後、毛管現象によって、分散質である金属ナノ粒子相互の狭い隙間に残余している有機溶媒が保持された状態を維持しつつ、液滴の表面から有機溶媒は蒸散される。結果的に、金属ナノ粒子相互が緻密に集積し、接触した状態となり、この金属ナノ粒子の集合体の極く狭い隙間に、高い濃度で被覆剤分子が有機溶媒に溶解している液相が充密された状態となる。その際、全体の形状は、外縁が略円形の平板形状となる。この外縁が略円形の平板形状の金属ナノ粒子の集合体に加熱処理を施すと、金属ナノ粒子の表面を被覆している、被覆剤分子の離脱が進行し、金属ナノ粒子相互がその金属面が直接接する状態となり、金属ナノ粒子の低温焼結が進む。最終的に、金属ナノ粒子の集合体全体において、金属ナノ粒子の低温焼結が進行し、外縁が略円形の平板形状の金属ナノ粒子の低温焼結体粒子が形成される。
【0017】
発明者らは、滴下後、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightを更に長くすることによって、回収用のプレート表面に到達した時点で、既に、金属ナノ粒子分散液が流動性を失った状態とできることを見出した。金属ナノ粒子分散液は流動性を失っている場合、回収用のプレート表面に到達した際、「着弾」時の衝撃力(力積)によって、気相中では球形である微小液滴は、若干押しつぶされるが、その後、全体の形状は、概ね球形に回復される。
【0018】
金属ナノ粒子分散液が流動性を失った状態は、含まれる有機溶媒が減少し、金属ナノ粒子相互が緻密に集積した状態となっており、金属ナノ粒子の集合体の極く狭い隙間に、高い濃度で被覆剤分子が有機溶媒に溶解している液相が充密された状態となっている。その際、金属ナノ粒子の表面は、被覆剤分子で被覆されており、高い濃度で被覆剤分子が有機溶媒に溶解している液は、被覆剤分子層で被覆されている金属ナノ粒子表面に高い親和性(優れた濡れ性)を示す。また、流動性を失った液滴の表面も、高い濃度で被覆剤分子が有機溶媒に溶解している液で覆われており、この液層の総表面積は、該溶液の表面張力によって、最小化される。一方、回収用のプレート表面に対しても、高い濃度で被覆剤分子が有機溶媒に溶解している液が接触している。被覆剤分子層で被覆されている金属ナノ粒子表面と比較すると、回収用のプレート表面に対する、該溶液の親和性(濡れ性)は、劣っている。以上の状況では、金属ナノ粒子相互が緻密に集積した状態となっている液滴は、その自重によって扁平化することなく、該溶液の表面張力に因って、その表面の形状を略球面に保ち、回収用のプレートの表面との接触面積を低減した状態となるため、全体の形状は、概ね球形となることを見出した。
【0019】
この概ね球形の金属ナノ粒子の集合体に加熱処理を施すと、金属ナノ粒子の表面を被覆している、被覆剤分子の離脱が進行し、金属ナノ粒子相互がその金属面が直接接する状態となり、金属ナノ粒子の低温焼結が進む。最終的に、金属ナノ粒子の集合体全体において、金属ナノ粒子の低温焼結が進行し、略球形の金属ナノ粒子の低温焼結体粒子が形成されることを確認した。
【0020】
加えて、滴下後、回収用のプレート表面に到達した時点で、金属ナノ粒子分散液が流動性を有する場合、回収用のプレート表面上で二つの液滴が接触すると、その接触点から二つの液滴の一体化が進行する。具体的には、二つの液滴の接触点において、それぞれの溶液(液相)が混合し、有機溶媒中に溶解している被覆剤分子の濃度の均一化が進行するように、相互拡散が進む。加えて、二つの液滴全体の総表面積を減少させるように、分散質の金属ナノ粒子の移動を含む、二つの液滴の形状の変化(一体化)が進行する。その結果、有機溶媒の蒸散と、二つの液滴の一体化が併行的に進行し、外縁の形状が「瓢箪型」、更には、「楕円形」へと変移した時点で、金属ナノ粒子分散液が流動性を失う自体がしばしば起こる。二つの液滴の一体化が進行した場合、外縁の形状が「瓢箪型」、更には、「楕円形」へと変移した金属ナノ粒子の集合体が形成され、加熱処理を施すと、一体化した形状の金属ナノ粒子の低温焼結体粒子が形成される。すなわち、全体として、二つの液滴中に含まれている金属ナノ粒子の合計の質量を有する低温焼結体粒子が形成される。
【0021】
一方、滴下後、回収用のプレート表面に到達した時点で、金属ナノ粒子分散液が流動性を失っている場合、回収用のプレート表面上で二つの液滴が接触すると、二つの液滴の接触点において、それぞれの溶液(液相)が混合し、有機溶媒中に溶解している被覆剤分子の濃度の均一化が進行するように、相互拡散が進む。一方、金属ナノ粒子分散液全体は流動性を失っているため、分散質の金属ナノ粒子の移動は起こらない結果、二つの液滴の一体化は進まない。その結果、有機溶媒の蒸散が更に進行すると、それぞれの溶液(液相)の接触は解消され、それぞれの液滴から、独立した概ね球形の金属ナノ粒子の集合体が形成される。この独立した概ね球形の金属ナノ粒子の集合体に加熱処理を施すと、それぞれ、略球形の金属ナノ粒子の低温焼結体粒子が形成されることを確認した。すなわち、液滴の一体化が回避されているため、得られる金属ナノ粒子の低温焼結体粒子の質量は、各液滴中に含まれている金属ナノ粒子の合計の質量に相当している。
【0022】
なお、作製される金属ナノ粒子の低温焼結体粒子は、「球形状の金属粉末」と見做せる。具体的には、同じ体積の「真球」の形状の直径(dsphere)を基準として、「球形状」は、その重心を通る断面の形状は、概ね円または楕円で近似でき、楕円形状の断面において、その長軸の径dlongと、短軸の径dshortは、dlong>dsphere>dshortとなるが、少なくとも、2≧dlong/dshort≧1、通常、3/2≧dlong/dshort≧1の範囲に収まっていることを意味している。例えば、少なくとも、4/3dsphere≧dlong>dsphere>dshort≧2/3dsphere、通常、6/5dsphere≧dlong>dsphere>dshort≧4/5dsphereの範囲に収まっていることを意味している。
【0023】
本発明者らは、上記の一連の知見に基づき、本発明を完成させた。
【0024】
すなわち、本発明にかかる金属粉末の製造方法は、
金属ナノ粒子を原料として、球形状の金属粉末を製造する方法であって、
有機溶媒中に前記金属ナノ粒子を分散してなる金属ナノ粒子分散液を、ノズルより滴下して、
下降する過程において、滴下される金属ナノ粒子分散液の微細な液滴中に含まれる前記有機溶媒を蒸散させ、金属ナノ粒子集合体からなる粒子を形成し、
該金属ナノ粒子集合体からなる粒子を着弾させる工程;ならびに
前記金属ナノ粒子集合体からなる粒子を加熱処理し、含有される金属ナノ粒子を焼結してなる金属粉末を形成する工程
を具え、
前記金属ナノ粒子分散液は、前記金属ナノ粒子、有機溶媒、ならびに被覆剤分子を含有してなり、
前記金属ナノ粒子の表面に、前記被覆剤分子を利用して、被覆層が形成されており、
前記有機溶媒として、
炭素数10〜15の脂肪族炭化水素または炭素数10〜12の脂肪族アルコールを用い、滴下される金属ナノ粒子分散液の液滴の液量を均一にすることで、均一な大きさの金属粉末の作製を行う
ことを特徴とする金属粉末の製造方法である。
【0025】
その際、前記金属ナノ粒子分散液中に分散されている、金属ナノ粒子は、
その平均粒子径dnano-av.は、1nm〜1μmの範囲に選択されていることが好ましい。
【0026】
前記有機溶媒は、
炭素数10〜15の脂肪族炭化水素であることが好ましい。
【0027】
また、前記金属ナノ粒子は、炭素数10〜18の脂肪族モノカルボン酸、および炭素数8〜14の脂肪族モノアミンまたはジアミンからなる群から選択される、前記有機溶媒と親和性を有する被覆剤分子を利用して、その表面に被覆層が形成されていることが好ましい。
【0028】
上記の構成を有する本発明にかかる金属粉末の製造方法では、
該金属ナノ粒子分散液中に含まれる、前記被覆剤分子の含有量の合計は、
前記金属ナノ粒子100質量部当たり、2質量部〜20質量部の範囲に選択され、
該金属ナノ粒子分散液中に含まれる、前記有機溶媒の含有量は、
前記金属ナノ粒子100質量部当たり、40質量部〜250質量部の範囲に選択され、
前記第一の有機溶媒の含有量:前記被覆剤分子の含有量の合計の比率は、2:1〜10:1の範囲に選択されることが好ましい。
【0029】
特には、金属ナノ粒子分散液中における、前記金属ナノ粒子の含有比率は、30質量%〜70質量%の範囲に選択されていることが望ましい。
【0030】
前記金属ナノ粒子は、
金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、インジウム、チタン、ケイ素、亜鉛、ビスマス、スズ、鉛、タングステン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウムからなる群から選択される、一種の金属からなる金属ナノ粒子、または、二種以上の金属種からなる金属ナノ粒子混合物、あるいは、二種以上の金属種からなる合金のナノ粒子であることができる。
【0031】
前記金属ナノ粒子の平均粒子径dnano-av.は、
1nm〜100nmの範囲に選択されることが好ましい。
【0032】
前記金属ナノ粒子集合体からなる粒子の加熱処理は、100℃〜220℃で行うことが望ましい。
【0033】
前記金属ナノ粒子分散液の液滴の滴下は、ノズル径が0.5μm〜50μmのノズルを用いて行うことが好ましい。
【0034】
また、本発明にかかる金属粉末は、
金属ナノ粒子分散液を原料として作製される球形状の金属粉末であって、
該金属粉末は、上述の本発明にかかる金属粉末の製造方法によって作製されている、均一な大きさの金属粉末である
ことを特徴とする金属粉末である。
【0035】
その際、前記金属ナノ粒子分散液中に分散されている、金属ナノ粒子は、
その平均粒子径dnano-av.は、1nm〜1μmの範囲に選択されていることが好ましい
前記有機溶媒は、
炭素数10〜15の脂肪族炭化水素であることが好ましい。
【0036】
前記金属ナノ粒子は、炭素数10〜18の脂肪族モノカルボン酸、および炭素数8〜14の脂肪族モノアミンまたはジアミンからなる群から選択される、前記有機溶媒と親和性を有する被覆剤分子を利用して、その表面に被覆層が形成されていることが好ましい。
【0037】
上記の構成を有する本発明にかかる金属粉末では、
該金属ナノ粒子分散液中に含まれる、前記被覆剤分子の含有量の合計は、
前記金属ナノ粒子100質量部当たり、2質量部〜20質量部の範囲に選択され、
該金属ナノ粒子分散液中に含まれる、前記有機溶媒の含有量は、
前記金属ナノ粒子100質量部当たり、40質量部〜250質量部の範囲に選択され、
前記第一の有機溶媒の含有量:前記被覆剤分子の含有量の合計の比率は、2:1〜10:1の範囲に選択されることが好ましい。
【0038】
特に、金属ナノ粒子分散液中における、前記金属ナノ粒子の含有比率は、30質量%〜70質量%の範囲に選択されていることが望ましい。
【0039】
前記金属ナノ粒子は、
金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、インジウム、チタン、ケイ素、亜鉛、ビスマス、スズ、鉛、タングステン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウムからなる群から選択される、一種の金属からなる金属ナノ粒子、または、二種以上の金属種からなる金属ナノ粒子混合物、あるいは、
前記金属ナノ粒子の平均粒子径dnano-av.は、
1nm〜100nmの範囲に選択されることが望ましい。
【0040】
前記金属ナノ粒子集合体からなる粒子の加熱処理は、100℃〜220℃で行うことが好ましい。
【0041】
前記金属ナノ粒子分散液の液滴の滴下は、ノズル径が0.5μm〜50μmのノズルを用いて行うことが望ましい。
【発明の効果】
【0042】
本発明にかかる金属粉末の製造方法を適用することで、外形形状が球状であり、目標とする球状の外形形状の平均粒径dav.が、ミクロンオーダーまたはサブミクロンオーダーの領域の金属粉末を、その平均粒子重量のバラツキが小さく、粒子サイズの均一性が高い金属粉末を、再現性よく作製することができる。特には、前記球状の外形形状の平均粒径dav.を、例えば、0.5μm〜100μmの範囲に選択する際、その平均粒子重量Wav.に対する粒子重量の標準偏差σWの比率:σW/Wav.を、少なくとも、σW/Wav.≦1/2の範囲にする上で、有効な金属粉末の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明にかかる金属粉末の製造方法における、回収用のプレート表面上に金属ナノ粒子分散液の微小液滴の滴下工程;下降中に有機溶媒を蒸散させて、金属ナノ粒子集合体からなる粒子への変換工程の概要を模式的に示す図である。
【図2】図2は、実施例1において、テフロンシート表面に着弾した微小液滴、すなわち、金属ナノ粒子集合体からなる球形粒子を、光学顕微鏡観測したイメージのプリント・アウトである。
【図3】図3は、実施例1において、金属ナノ粒子集合体からなる球形粒子を、220℃、1時間加熱処理して作製される、複数個の焼結体型金属粉末の外形をSEM観測したイメージのプリント・アウトである。
【図4】図4は、実施例1において、金属ナノ粒子集合体からなる球形粒子を、220℃、1時間加熱処理して作製される、焼結体型金属粉末の外形を詳細にSEM観測したイメージのプリント・アウトである。
【図5】図5は、参考例1において、テフロンシート表面に着弾した微小液滴の形状を、光学顕微鏡観測したイメージのプリント・アウトである。
【図6】図6は、参考例1において、テフロンシート表面に着弾した微小液滴を、220℃、1時間加熱処理して作製される、焼結体型金属粉末の外形をSEM観測したイメージのプリント・アウトである。
【図7】図7は、参考例2において、テフロンシート表面に着弾した微小液滴を、220℃、1時間加熱処理して作製される、焼結体型金属粉末の外形をSEM観測したイメージのプリント・アウトである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に、本発明にかかる金属粉末の製造方法を詳しく説明する。
【0045】
上記の本発明にかかる金属粉末の製造方法では、
金属ナノ粒子を原料として、金属粉末を製造する際、原料の金属ナノ粒子は、有機溶媒中に前記金属ナノ粒子を分散してなる金属ナノ粒子分散液の形状とする。該金属ナノ粒子として、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、インジウム、チタン、ケイ素、亜鉛、ビスマス、スズ、鉛、タングステン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウムからなる群から選択される、一種の金属からなる金属ナノ粒子、または、二種以上の金属種からなる金属ナノ粒子混合物、あるいは、二種以上の金属種からなる合金のナノ粒子を利用する。
【0046】
該金属ナノ粒子の平均粒子径dnano-av.は、1nm〜1μmの範囲に選択することが好ましい。一方、金属ナノ粒子分散液中において、金属ナノ粒子同士の融着を防止するため、金属ナノ粒子の表面を被覆剤分子で被覆する形態とすることが好ましい。
【0047】
従って、金属ナノ粒子分散液中では、被覆剤分子の含有量の合計は、金属ナノ粒子100質量部当たり、2質量部〜20質量部の範囲に選択する。
【0048】
一方、金属ナノ粒子分散液の調製を行う際、分散溶媒として利用する、有機溶媒は、前記金属ナノ粒子分散液の滴下に適する、表面張力、粘度を具えている溶媒であることが必要である。加えて、滴下後、回収用のプレート表面に到達するまでの間に、微小な液滴の表面から、該有機溶媒の相当量を蒸散させる必要があり、室温(T=20℃)において、相当の平衡蒸気圧:Psolvent-eq(T)がある水準を超えている必要がある。この有機溶媒として、炭素数10〜15の脂肪族炭化水素または炭素数10〜12の脂肪族アルコールを利用することが好ましい。特に、有機溶媒として、炭素数10〜15の脂肪族炭化水素を利用する形態を選択する事例を下記の実施例に例示する。
【0049】
具体的には、T=20℃において、使用する分散溶媒の平衡蒸気圧:Psolvent-eq(T)は、0.0001kPa≦Psolvent-eq(20℃)≦0.2kPa、単位を換算すると、0.001hPa≦Psolvent-eq(20℃)≦2hPaの範囲であることが好ましい。
【0050】
例えば、デカン(沸点:174.123℃)の20℃における平衡蒸気圧は、2hPaであり、ペンタデカン(沸点:273.63℃)の20℃における平衡蒸気圧は、0.002hPaである。
【0051】
また、1−デカノール(沸点:229℃)の20℃における平衡蒸気圧は、0.01hPaであり、1−ドデカノール(沸点:153.3℃/25mmHg)の20℃における平衡蒸気圧は、0.001hPaである。
【0052】
さらに、金属ナノ粒子分散液中に含まれる被覆剤分子は、炭素数10〜18の脂肪族モノカルボン酸、および炭素数8〜14の脂肪族モノアミンまたはジアミンからなる群から選択される。その際、被覆剤分子は、室温(T=25℃)における平衡蒸気圧:Pcoat-eq(T)は、上記の有機溶媒の室温(T=25℃)における平衡蒸気圧:Psolvent-eq(T)と比較すると、Pcoat-eq(T)/Psolvent-eq(T)<1/2の範囲となるように、選択することが望ましい。
【0053】
良好な分散状態の金属ナノ粒子の分散液中では、前記被覆剤分子は、該有機溶媒中に一部溶解しており、その濃度CL0において、金属ナノ粒子表面を被覆している被覆剤分子の面密度CSoと、解離平衡を達成している。その状態を達成するため、該有機溶媒の含有量は、金属ナノ粒子100質量部当たり、40質量部〜250質量部の範囲に選択することが好ましい。その際、有機溶媒の含有量:被覆剤分子の含有量の合計の比率を、2:1〜10:1の範囲に選択することで、有機溶媒中に、適正な濃度CL0で被覆剤分子が溶存しており、金属ナノ粒子表面の被覆層を維持する状態が達成される。
【0054】
有機溶媒の含有量:被覆剤分子の含有量の合計の比率が前記の範囲に選択されており、平衡蒸気圧の比も上記の範囲に選択することで、室温付近では、金属ナノ粒子の分散液から蒸散する被覆剤分子の蒸散量(体積)は、有機溶媒の蒸散量(体積)と比較すると、少なくとも、被覆剤分子の蒸散量(体積)/有機溶媒の蒸散量(体積)<1/2となる。従って、金属ナノ粒子の分散液から有機溶媒が蒸散すると、その液相中においては、被覆剤分子の濃度が上昇する。
【0055】
該金属ナノ粒子分散液中に含有される、金属ナノ粒子は、均一に分散した状態とした上で、該金属ナノ粒子分散液の液滴を滴下する。
【0056】
前記金属ナノ粒子分散液の液滴の滴下は、ノズル径が0.5μm〜50μmのノズルを用いて行うことができる。滴下される液滴のサイズ(平均径)は、滴下に利用するノズル径を上記の範囲に選択することで、所望の均一な液量を再現性よく達成できる結果、均一なものとできる。また、該滴下される液滴中に含有される金属ナノ粒子の合計量も、所望の均一な液量を再現性よく達成できる結果、均一なものとできる。
【0057】
滴下する液滴のサイズ(平均径)を、ミクロンオーダーの領域に調整する場合、例えば、前記金属ナノ粒子分散液の液滴の滴下は、ノズル径が0.8μm〜40μmのノズルを用いて行うことが好ましい。
【0058】
本発明にかかる金属粉末の製造方法では、金属ナノ粒子分散液を、所定の液量の微小な液滴として滴下し、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightの間に、液滴中に含まれる有機溶媒の相当量を蒸散させ、該液滴を構成する金属ナノ粒子分散液が流動性を失った状態とする。具体的には、滴下する金属ナノ粒子分散液の液量VDrop0の液滴中に含まれる、金属ナノ粒子の体積合計Vnano-total、該金属ナノ粒子表面の被覆層を構成している被覆剤分子の体積の総和VScoat-total0に対して、回収用のプレート表面に到達する時点における、液滴の液量(体積)VDrop1が、3/2(Vnano-total+VScoat-total0)≧VDrop1≧6/5(Vnano-total+VScoat-total0)の範囲となるように、有機溶媒の蒸散を進めることで、該液滴を構成する金属ナノ粒子分散液が流動性を失った状態とする。従って、回収用のプレート表面に到達する時点における、液滴の液量(体積)VDrop1と、滴下する金属ナノ粒子分散液の液量VDrop0との比:VDrop1/VDrop0が、3/2(Vnano-total+VScoat-total0)/VDrop0≧(VDrop1/VDrop0)≧6/5(Vnano-total+VScoat-total0)/VDrop0の範囲となるように、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightを選択する。その際、(Vnano-total+VScoat-total0)/VDrop0は、使用する金属ナノ粒子分散液の組成が一定である場合、一定の値となっている。
【0059】
滴下後、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightの間に減少する液滴の体積:ΔVDropと、滴下する金属ナノ粒子分散液の液量VDrop0との比:ΔVDrop/VDrop0は、ΔVDrop/VDrop0=1−(VDrop1/VDrop0)である。すなわち、ΔVDrop/VDrop0が、1−6/5(Vnano-total+VScoat-total0)/VDrop0≧(ΔVDrop/VDrop0)≧1−3/2(Vnano-total+VScoat-total0)/VDrop0の範囲となるように、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightを選択する。
【0060】
滴下直後、金属ナノ粒子分散液の微小な液滴は、含有されている有機溶媒の表面張力のため、その形状は実質的に球形となっている。従って、滴下する金属ナノ粒子分散液の液量VDrop0は、滴下直後(t=0)の微小な液滴の径(半径)rDrop0を用いて、VDrop0=(4π/3)・(rDrop0)3と表される。一方、回収用のプレート表面に到達する時点における、液滴の液量VDrop1は、着弾直前(t=tflight)の微小な液滴の径(半径)rDrop1を用いて、VDrop1=(4π/3)・(rDrop1)3と表される。滴下後、時間t(0<t<tflight)が経過した時点での液滴の径をrDrop(t)とする。その際、微小な時間幅:δtの間に、該液滴表面から蒸散する有機溶媒の量(体積):δVsolvent(t)は、その時点での液滴の表面積SDrop(t)、温度Tにおける該有機溶媒の単位面積当たりの蒸散速度:vsolvent(T)に比例し、δVsolvent(t)=vsolvent(T)・SDrop(t)・δtと表記できる。液滴の表面積SDrop(t)は、液滴の径:rDrop(t)を用いて、SDrop(t)=4π・(rDrop(t))2と表される。従って、該液滴表面から蒸散する有機溶媒の量(体積):δVsolvent(t)は、δVsolvent(t)=vsolvent(T)・{4π・(rDrop(t))2}・δtと表記できる。
【0061】
一方、温度Tにおける該有機溶媒の単位面積当たりの蒸散速度:vsolvent(T)は、一般に、該有機溶媒の温度Tにおける、平衡蒸気圧:Psolvent-eq(T)と、該有機溶媒の表面が接する気相中に存在する該有機溶媒の蒸気の分圧:Psolvent-vapor(T)に依存する。勿論、気相中に存在する該有機溶媒の蒸気の分圧:Psolvent-vapor(T)が、Psolvent-vapor(T)=Psolvent-eq(T)である場合、気相は、該有機溶媒の蒸気で飽和されており、それ以上の蒸散は進行できない。また、大気圧が、1気圧における、該有機溶媒の沸点Tbpは、平衡蒸気圧:Peq(Tbp)が1気圧となる温度に相当している。該有機溶媒の沸点Tbp(K)よりも、十分に低い温度T(K)、すなわち、(Tbp−T)>(1/6)Tbpを満たす範囲では、温度Tにおける該有機溶媒の単位面積当たりの蒸散速度:vsolvent(T)は、平衡蒸気圧:Psolvent-eq(T)と気相中に存在する該有機溶媒の蒸気の分圧:Psolvent-vapor(T)との差:(Psolvent-eq(T)−Psolvent-vapor(T))に比例すると近似できる。すなわち、vsolvent(T)∝(Psolvent-eq(T)−Psolvent-vapor(T))の比例関係にあると、近似できる。
【0062】
滴下した、液滴が気相中を下降していく段階では、該下降中の液滴表面の近傍の気相中には、該有機溶媒の蒸気は存在していない、すなわち、気相中に存在する該有機溶媒の蒸気の分圧:Psolvent-vapor(T)は、Psolvent-vapor(T)≒0と見做すことが可能である。従って、該下降中の液滴表面から、該有機溶媒が蒸散する過程では、温度Tにおける該有機溶媒の単位面積当たりの蒸散速度:vsolvent(T)は、vsolvent(T)∝(Psolvent-eq(T))の比例関係にあると、近似できる。
【0063】
温度Tにおいて、滴下後、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightの間に、下降する微小な液滴表面から蒸散される有機溶媒の総量(体積):ΔVsolvent(T)は、下記のように表記できる。
ΔVsolvent(T)=∫δVsolvent(t)
=∫vsolvent(T)・{4π・(rDrop(t))2}dt
その際、金属ナノ粒子分散液中、その液相に溶解している、被覆剤分子の濃度CL(t)は、滴下直後(t=0)では、CL(0)=CL0であるが、着弾直前(t=tflight)には、CL(tflight)>CL0と上昇する。被覆剤分子の相当部分は、金属ナノ粒子の表面に被覆層を形成している状態である。そのため、滴下後、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightの間に、下降する微小な液滴表面から蒸散される被覆剤分子の総量(体積):ΔVcoat(T)は、蒸散される有機溶媒の総量(体積):ΔVsolvent(T)と比較して、格段に少なくなる。従って、温度Tにおいて、滴下後、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightの間に減少する液滴の体積:ΔVDrop=(VDrop0−VDrop1)は、近似的に、ΔVDrop≒ΔVsolvent(T)と表記することができる。
【0064】
温度Tにおいて、滴下後、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightの間に蒸散する有機溶媒の体積:ΔVsolvent(T)と、滴下する金属ナノ粒子分散液の液量VDrop0との比:ΔVsolvent(T)/VDrop0は、ΔVsolvent(T)/VDrop0≒ΔVDrop/VDrop0である。従って、上記ΔVDrop/VDrop0に対する要件に代えて、1−6/5(Vnano-total+VScoat-total0)/VDrop0≧(ΔVsolvent(T)/VDrop0)≧1−3/2(Vnano-total+VScoat-total0)/VDrop0の範囲となるように、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightを選択するという条件を採用することができる。
【0065】
微小な時間幅:δtの間に、該液滴表面から蒸散する有機溶媒の量(体積):δVsolvent(t)と、その時点での液滴の体積:VDrop(t)の比:δVsolvent(t)/VDrop(t)は、下記のように表すことができる。
δVsolvent(t)/VDrop(t)
={vsolvent(T)・{4π・(rDrop(t))2}・δt}/{(4π/3)・(rDrop(t))3
={vsolvent(T)・δt}/{1/3・(rDrop(t))}
従って、単位時間(δt)当たりの、相対的な液滴表面から蒸散する有機溶媒の比率(体積):{δVsolvent(t)/VDrop(t)}/δtは、下記のように表すことができる。
{δVsolvent(t)/VDrop(t)}/δt
={vsolvent(T)・δt}/{1/3・(rDrop(t))}/δt
=vsolvent(T)/{1/3・(rDrop(t))}
すなわち、単位時間(δt)当たりの、相対的な液滴表面から蒸散する有機溶媒の比率(体積):{δVsolvent(t)/VDrop(t)}/δtは、液滴の径(半径):rDrop(t)に反比例している。その点を考慮すると、(ΔVsolvent(T)/VDrop0)を一定の値にするに必要とする、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightは、近似的に滴下直後(t=0)の液滴の径(半径):rDrop0にほぼ比例していると見做せる。
【0066】
すなわち、本発明にかかる製造方法では、滴下直後(t=0)の液滴の液量:VDrop0を、250pL≧VDrop0≧0.1fLの範囲、すなわち、液滴の径(半径):rDrop0を、60μm≧rDrop0≧0.8μmの範囲に選択する際、好ましくは、滴下直後(t=0)の液滴の液量:VDrop0を、100pL≧VDrop0≧1fLの範囲に選択する際、(Vnano-total+VScoat-total0)/VDrop0を、4/10≧(Vnano-total+VScoat-total0)/VDrop0≧1/15の範囲に選択する場合、平衡蒸気圧:Psolvent-eq(T)が同じ有機溶媒において、(tflight/rDrop0)を一定にすると、(ΔVsolvent(T)/VDrop0)は略一定となっている。
【0067】
あるいは、平衡蒸気圧:Psolvent-eq(T)が異なる場合には、Psolvent-eq(T)・(tflight/rDrop0)を一定にすると、(ΔVsolvent(T)/VDrop0)は略一定となっている。換言すると、一定の(ΔVsolvent(T)/VDrop0)を達成する際には、Psolvent-eq(T)・(tflight/rDrop0)が一定の範囲になるように、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightを選択するとよい。
【0068】
一方、表面に被覆層を有する金属ナノ粒子が、最密充填状態に達すると、この最密充填状態の金属ナノ粒子の集合体の内部に存在する隙間の体積は、表面に被覆層を有する金属ナノ粒子の体積の総和(Vnano-total+VScoat-total0)に対して、1/3〜1/5程度となる。この最密充填状態では、毛管現象によって、集合体の内部の隙間に含浸されている液体は、気相との接触面積は極く僅かとなっており、その蒸散は極く緩やかに進行するのみとなる。また、最密充填状態に達するまでの間に、有機溶媒が蒸散して、液相中に溶解している被覆剤分子の濃度CL(t)が上昇し、温度Tにおける該有機溶媒中での飽和溶解濃度CLsaturate(T)に達すると、被覆剤分子の析出が開始する。金属ナノ粒子の集合体全体を覆うように、被覆剤分子の析出層が形成されると、集合体の内部の隙間に含浸されている液体は、この被覆剤分子の析出層によって、気相との接触を遮断される。被覆剤分子の析出は、集合体の固相成分の表面で主に進行し、一方、被覆剤分子の濃度の上昇は、集合体全体を覆っている液層の表面でより顕著に進むため、金属ナノ粒子の集合体全体を覆うように、被覆剤分子の析出層の形成がなされる。
【0069】
該液滴表面から、有機溶媒が蒸散する際、気化熱が奪われる。一方、液滴自体は、気相中を下降しており、周囲の気相の気体分子と衝突することに伴って、摩擦力を受ける。この摩擦力によって、下降速度が低減されるため、結果的に、摩擦熱が発生する。一般に、単位時間当たりに奪われる気化熱の熱量は、単位時間当たりに発生する摩擦熱の熱量を超えており、気相中を下降しつつ、有機溶媒が蒸散する際、該液滴の温度Tは徐々に低下する。単位時間(δt)当たりの、相対的な液滴表面から蒸散する有機溶媒の比率(体積):{δVsolvent(t)/VDrop(t)}/δtは、液滴の径(半径):rDrop(t)に反比例しているため、該液滴の温度Tの下降率も、液滴の径(半径):rDrop(t)に反比例している。該液滴の温度Tの下降に伴って、温度Tにおける該有機溶媒中での飽和溶解濃度CLsaturate(T)も低下する。そのため、有機溶媒が蒸散して、液相中に溶解している被覆剤分子の濃度CL(t)が上昇し、温度Tにおける該有機溶媒中での飽和溶解濃度CLsaturate(T)に達すると、被覆剤分子の析出が開始する。その際、この液滴の温度Tの下降に起因する、被覆剤分子の析出は、金属ナノ粒子の集合体の内部に存在する隙間でも進行する。その結果、金属ナノ粒子の集合体の内部においては、隣接する金属ナノ粒子相互が近接する部位に被覆剤分子が析出すると、析出した被覆剤分子は、隣接する金属ナノ粒子相互を固着するバインダー層として機能する。従って、金属ナノ粒子の集合体を形成して、回収用のプレート表面に到達する時点では、金属ナノ粒子の集合体の内部は、析出した被覆剤分子によるバインダー層によって、隣接する金属ナノ粒子相互が固着されている状態となり、更に、金属ナノ粒子の集合体の表面を覆うように、被覆剤分子の析出層の形成がなされている。
【0070】
被覆剤分子の融点Tm-coatよりも、該液滴の温度Tが低下すると、被覆剤分子の析出層の形成はさらに加速される。金属ナノ粒子の集合体全体を覆うように、被覆剤分子の析出層の形成がなされると、金属ナノ粒子の集合体の粒子が、回収用のプレート表面に到達し、「着弾」した際、その衝撃(力積)による変形が抑制さえる。
【0071】
上記の機構の効果は、金属ナノ粒子の平均粒子径dnano-av.が小さくなり、金属ナノ粒子の集合体を形成した際、隣接する金属ナノ粒子の間に形成される隙間の平均サイズが狭くなると、より顕著となる。また、滴下する金属ナノ粒子分散液の液量VDrop0が少なく、滴下直後(t=0)の微小な液滴の径(半径)rDrop0が小さくなるほど、上記の機構の効果はより顕著となる。
【0072】
本発明の製造方法では、該金属ナノ粒子分散液中に含有される、金属ナノ粒子は、均一に分散した状態とした上で、該金属ナノ粒子分散液の液滴を滴下する。
【0073】
その際、滴下する金属ナノ粒子分散液の液量VDrop0の平均値:VDrop0-av.は、使用する金属ナノ粒子分散液中に含まれる、金属ナノ粒子の分散濃度と、作製すべき、金属粒子の平均粒子重量Wav平均粒子重量Wav.に応じて選択される。
【0074】
前記金属ナノ粒子分散液の液滴の滴下は、ノズル径が0.5μm〜50μmのノズルを用いて行うことができる。滴下される液滴のサイズ(平均直径)は、滴下に利用するノズル径(直径)を上記の範囲に選択することで、所望の均一な液量を再現性よく達成できる結果、均一なものとできる。また、該滴下される液滴中に含有される金属ナノ粒子の合計量も、所望の均一な液量を再現性よく達成できる結果、均一なものとできる。
【0075】
滴下する液滴のサイズ(平均直径)を、ミクロンオーダーまたはサブミクロンオーダーの領域に調整する場合、例えば、前記金属ナノ粒子分散液の液滴の滴下は、ノズル径(直径)が0.8μm〜40μmのノズルを用いて行うことが好ましい。
【0076】
本発明にかかる金属粉末の製造方法では、金属ナノ粒子分散液の液滴を滴下して、下降中の金属ナノ粒子分散液の液滴表面から、有機溶媒の蒸散を進めることで、気相中を下降している間に、ほぼ球形の金属ナノ粒子集合体を形成する。形成されたほぼ球形の金属ナノ粒子集合体の粒子は、回収用のプレート表面に到達し、「着弾」される。「着弾」の衝撃によっても、金属ナノ粒子集合体の粒子は、殆ど変形を受けないため、回収用のプレート表面にほぼ球形の金属ナノ粒子集合体の粒子が回収される。回収されるほぼ球形の金属ナノ粒子集合体の粒子の表面には、極く薄い液層が被覆されているが、先に説明したように、極く薄い液層を構成している有機溶媒を蒸散させると、それぞれ、金属ナノ粒子集合体の粒子は、独立した「乾燥粒子」となる。この時点では、「乾燥粒子」は、その表面には、液被膜は存在していないが、金属ナノ粒子の集合体の内部に存在する隙間には、毛管現象によって、その狭い隙間空間に液層が保持されている状態である。
【0077】
金属ナノ粒子の集合体粒子を加熱処理すると、該集合体粒子の内部に残余していた被覆剤分子の除去がなされる。すなわち、該集合体粒子の内部においても、金属ナノ粒子の表面を被覆している被覆剤分子は、解離され、金属ナノ粒子の金属面が接触する状態となる。その結果、金属ナノ粒子相互の低温焼結が、該集合体粒子全体にわたって進行し、金属ナノ粒子の焼結体からなる金属粉末に変換される。
【0078】
以上に説明する、ほぼ球形の金属ナノ粒子集合体を形成する工程では、滴下する液量VDrop0の金属ナノ粒子分散液の微小液滴中に含まれる有機溶媒の大半を蒸散させ、回収用のプレート表面に到達する時点では、液量(体積)VDrop1の金属ナノ粒子の集合体粒子へと変換している。この液量(体積)VDrop1の金属ナノ粒子の集合体粒子は、実質的に、金属ナノ粒子分散液の微小液滴中に含まれている、金属ナノ粒子と被覆剤分子とで構成され、その内部の狭い隙間に僅かに有機溶媒が含浸されている粒子である。液量VDrop0の金属ナノ粒子分散液の微小液滴中に含まれる、金属ナノ粒子の体積の総和:Vnano-totalと、被覆剤分子の体積の総和:Vcoat-total0とを用いて、金属ナノ粒子の集合体粒子の液量(体積)VDrop1は、近似的にVDrop1≒(Vnano-total+Vcoat-total0)と表すこともできる。なお、液量VDrop0の金属ナノ粒子分散液の微小液滴中に含まれる、被覆剤分子の体積の総和:Vcoat-total0は、金属ナノ粒子の表面に被覆層を形成している被覆剤分子の体積の総和:VScoat-total0)と、有機溶媒中に溶解している被覆剤分子の体積の総和:VLcoat-total0)を合計したものである。
【0079】
従って、回収用のプレート表面に到達する時点において、液滴の液量(体積)VDrop1が、3/2(Vnano-total+VScoat-total0)≧VDrop1≧6/5(Vnano-total+VScoat-total0)の範囲となる状態は、実際に、滴下する液量VDrop0の金属ナノ粒子分散液の微小液滴中に含まれる有機溶媒がほぼ全量蒸散している状態に相当している。
【0080】
滴下後、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightは、滴下する液量VDrop0の金属ナノ粒子分散液の微小液滴中に含まれる有機溶媒がほぼ全量蒸散するに要する時間に相当する。
【0081】
液量VDrop0の金属ナノ粒子分散液の微小液滴中に含まれる有機溶媒の総和(体積):Vsolvent-total-0は、金属ナノ粒子分散液中の有機溶媒の体積含有率:Csolvent(体積%)を用いて、(Vsolvent-total-0/VDrop0)=Csolvent/100と表すことができる。温度Tにおける該有機溶媒の単位面積当たりの蒸散速度:vsolvent(T)は、温度Tにおける該有機溶媒の平衡蒸気圧:Psolvent-eq(T)に比例している。
【0082】
従って、微小液滴中に含まれる有機溶媒がほぼ全量蒸散するに要する時間に相当する、時間tflightは、金属ナノ粒子分散液中の有機溶媒の体積含有率:Csolvent(体積%)、温度Tにおける該有機溶媒の平衡蒸気圧:Psolvent-eq(T)、ならびに、滴下される液滴の液量VDrop0に依存している。
【0083】
有機溶媒として、炭素数10〜15の脂肪族炭化水素、例えば、ドデカン(沸点:216℃)を採用し、金属ナノ粒子分散液中の有機溶媒の体積含有率:Csolvent(体積%)を、60体積%に選択する場合、滴下される液滴の液量VDrop0を、250pL≧VDrop0≧5pLの範囲、好ましくは、100pL≧VDrop0≧5pLの範囲に選択する際、温度Tが20℃では、tflight(s)>VDrop0(pl)/160を満たすように、滴下後、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightを選択することで、微小液滴中に含まれる有機溶媒がほぼ全量蒸散することができる。
【0084】
滴下される液滴の液量VDrop0を、250plに選択すると、温度Tが20℃では、tflight(s)>VDrop0(pl)/160の条件は、tflight(s)>1.56sに相当する。
【0085】
滴下される液滴の液量VDrop0を、5plに選択すると、温度Tが25℃では、tflight(s)>VDrop0(pl)/160の条件は、tflight(s)>32msに相当する。
【0086】
T=20℃において、使用する分散溶媒の平衡蒸気圧:Psolvent-eq(T)が、0.0001kPa≦Psolvent-eq(20℃)≦0.2kPaの範囲であり、金属ナノ粒子分散液中の有機溶媒の体積含有率:Csolvent(体積%)を、60体積%に選択する場合、滴下される液滴の液量VDrop0を、滴下される液滴の液量VDrop0が250pL≧VDrop0≧5pLの範囲である場合、滴下後、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightを、5s≧tflight≧75msの範囲に選択することが望ましい。
【0087】
前記の条件において、液滴の液量VDrop0が250pLである際、滴下後、回収用のプレート表面に到達するまでの時間tflightを5sとする場合、その落下距離Δhは、約2mとなる。一方、液滴の液量VDrop0が5pLである際、時間tflightを75msとする場合、その落下距離Δhは、約5cmとなる。
【0088】
本発明にかかる金属粉末の製造方法は、従来の手法では、サイズのバラツキを抑制して、粒子径の高い均一性を達成することが困難である、平均粒子径100nm〜30μmの球状金属粉末の製造に好適に利用することができる。
【0089】
以下に、本発明の好ましい一形態を例に採り、本発明にかかる金属粉末の製造方法において、製造される金属粉末のサイズのバラツキを低減する技術的な原理と、その具体的な形態の構成を説明する。
【0090】
本発明にかかる金属粉末の製造方法では、原料として、金属ナノ粒子分散液を用い、この金属ナノ粒子分散液の微細な液滴を形成し、その液滴中に含まれる有機溶媒を蒸散して、金属ナノ粒子の集合体粒子を一旦作製し、この金属ナノ粒子の集合体粒子に加熱処理を施し、金属ナノ粒子相互の低温焼結を行うことで、金属粉末を作製している。
【0091】
その際、金属ナノ粒子分散液の微細な液滴の液量は、該液滴の滴下条件を一定に保持することで、液滴の液量のバラツキを低減することが可能であるという特徴を利用して、最終的に作製される金属粉末の粒子サイズ、特には、該金属粉末の粒子重量のバラツキを低減している。
【0092】
具体的には、本発明にかかる金属粉末の製造方法では、相対的に粘性の低い液体状原料を利用し、所定の開口径を有する微細なノズル先端から、該液体状原料を滴下する場合、形成される液滴の液量は、ノズルの開口径、該液体状原料の平均密度、表面張力、粘度に依存して決定されるという特徴を利用している。すなわち、ノズルの開口径、該液体状原料の平均密度、表面張力、粘度を一定に維持すると、形成される液滴の液量は、高い再現性、すなわち、高い均一性を示すという特徴を利用している。
【0093】
まず、該液体状原料の平均密度、表面張力、粘度を一定に維持するという要件を満足する原料として、金属ナノ粒子分散液を選択している。
【0094】
この原料の金属ナノ粒子分散液は、所定の平均粒子径の金属ナノ粒子が、その分散溶媒中に所定の分散密度で均一に分散しているものである。従って、該金属ナノ粒子分散液の所定の液量中に含まれる、金属ナノ粒子の重量の総和は、実質的に一定となる。
【0095】
作製される金属粉末は、金属ナノ粒子N個が集合してなる金属ナノ粒子の集合体粒子に加熱処理を施し、金属ナノ粒子相互の低温焼結を行うことで、金属粉末としたものである。作製される金属粉末の外形の平均粒径dav.に対して、金属ナノ粒子の平均粒子径dnano-av.を、dnano-av./dav.≦1/5の範囲、好ましくは、dnano-av./dav.≦1/8の範囲、より好ましくは、dnano-av./dav.≦1/10の範囲に選択することで、前記の金属ナノ粒子の集合体粒子を構成する金属ナノ粒子の個数Nは、N≧53=125の範囲、好ましくは、N≧83=512の範囲、より好ましくは、N≧103=1000の範囲としている。金属ナノ粒子の集合体粒子を構成する金属ナノ粒子の個数Nの標準偏差は、通常、(N)1/2程度である。すなわち、金属ナノ粒子の集合体粒子を構成する金属ナノ粒子の個数Nのバラツキの程度:(N)1/2/N=1/(N)1/2は、N≧53=125の場合、1/(N)1/2≦1/11、好ましくは、N≧83=512の場合、1/(N)1/2≦1/22、より好ましくは、N≧103=1000の場合、1/(N)1/2≦1/32となる。
【0096】
従って、本発明の好ましい一形態において、作製される金属粉末の外形の平均粒径dav.を、0.5μm〜100μmの範囲に選択する場合、上記の比率dnano-av./dav.の範囲内で、金属ナノ粒子の平均粒子径dnano-av.を、3nm〜100nmの範囲、好ましくは、4nm〜50nmの範囲、より好ましくは、4nm〜20nmの範囲に選択することが望ましい。
【0097】
一方、原料である金属ナノ粒子分散液中において、含有される金属ナノ粒子は、凝集せず、均一な分散状態であることが、前記のバラツキの程度に維持するための必須条件となる。そのため、被覆剤分子を利用して、金属ナノ粒子の表面に被覆層を形成している。この被覆剤分子として、有機溶媒との親和性を有する分子を選択することで、該被覆層で表面を覆われた金属ナノ粒子は、有機溶媒中で良好な分散性を示すものとなっている。
【0098】
本発明の好ましい一形態では、有機溶媒として、炭素数10〜15の脂肪族炭化水素、および炭素数10〜12の一価の脂肪族アルコールからなる群から選択される有機溶媒、例えば、炭素数8〜16の脂肪族炭化水素からなる群から選択される有機溶媒を用い、それに対して、炭素数10〜18の脂肪族モノカルボン酸、および炭素数8〜14の脂肪族モノアミンまたはジアミンからなる群から選択される、前記有機溶媒と親和性を有する被覆剤分子を利用している。
【0099】
すなわち、脂肪族モノカルボン酸は、そのカルボキシル基の部分を利用して、金属ナノ粒子の表面に配位することで、被覆剤分子として機能する。脂肪族モノアミンまたはジアミンは、そのアミノ基の窒素原子の孤立電子対を利用して、金属ナノ粒子の表面に配位することで、被覆剤分子として機能する。
【0100】
一方、脂肪族モノカルボン酸中の炭化水素鎖部分は、脂肪族炭化水素、一価の脂肪族アルコールの炭化水素鎖部分との間で、疎水的相互作用をすることで、親和性を示す。脂肪族モノアミンまたはジアミン中の炭化水素鎖部分も、脂肪族炭化水素、一価の脂肪族アルコールの炭化水素鎖部分との間で、疎水的相互作用をすることで、親和性を示す。
【0101】
前記被覆剤分子の含有量は、被覆すべき金属ナノ粒子の表面積の総和に依存して決定される。上述の本発明にかかる金属粉末の製造方法で利用する金属ナノ粒子分散液においては、前記被覆剤分子の含有量の合計は、該金属ナノ粒子分散液中に含有される、金属ナノ粒子100質量部当たり、2質量部〜20質量部の範囲、好ましくは、10質量部〜20質量部の範囲に選択する。
【0102】
一方、分散溶媒として使用される、前記有機溶媒の含有量は、該金属ナノ粒子分散液中に含まれる、金属ナノ粒子の分散密度を決定する。従って、前記有機溶媒の含有量は、該金属ナノ粒子分散液中に含有される、金属ナノ粒子の含有量に依存して決定される。前記有機溶媒の含有量は、該金属ナノ粒子分散液中の金属ナノ粒子100質量部当たり、40質量部〜250質量部の範囲、好ましくは、60質量部〜150質量部の範囲に選択する。
【0103】
金属ナノ粒子分散液中では、前記被覆剤分子は、有機溶媒中にも溶解しており、有機溶媒中に溶解している被覆剤分子と、金属ナノ粒子の表面を被覆している被覆剤分子とは、平衡状態となっている。その平衡状態において、被覆剤分子が、金属ナノ粒子の表面全面を被覆する上では、前記有機溶媒の含有量:前記被覆剤分子の含有量の合計の比率は、少なくとも、10:1〜2:1の範囲、好ましくは、7:1〜3:1の範囲に選択することが望ましい。その結果、金属ナノ粒子分散液の液相は、有機溶媒中に、相当の濃度で前記被覆剤分子が溶解している状態となっている。
【0104】
原料の金属ナノ粒子分散液を、前記金属粉末の平均粒子重量Wav.の金属量に相当する、金属ナノ粒子の量を含む平均液量の液滴として、滴下する。
【0105】
金属ナノ粒子分散液中の金属ナノ粒子の含有比率をCmetal質量%とすると、滴下する液滴の平均重量は、{100・Wav./Cmetal}に選択する。金属ナノ粒子分散液の平均密度をρav. g/cm3とすると、滴下する液滴の平均液量VDrop-0-av.は、{100・Wav./Cmetal}/ρav. mlに選択する。
【0106】
金属ナノ粒子分散液中における、金属ナノ粒子の含有比率:Cmetal質量%は、30質量%〜70質量%の範囲、望ましくは、40質量%〜60質量%の範囲に選択されていることが好ましい。一方、金属ナノ粒子分散液の平均密度:ρav. g/cm3は、金属ナノ粒子分散液の組成、金属ナノ粒子の金属の密度ρmetal、有機溶媒の密度ρ1、前記被覆剤分子の平均密度ρcoatingに依って決まる。有機溶媒の密度ρ1、前記被覆剤分子の平均密度ρcoatingは、いずれも、有機化合物であるので、1前後である。従って、金属ナノ粒子の含有比率:Cmetal質量%が、前記の範囲の場合、金属ナノ粒子分散液の平均密度:ρav. g/cm3は、ρmetal≫ρ1≒ρcoating≒0.8g/cm3の場合、近似的に、
(100/ρav.)≒(Cmetalmetal)+(100−Cmetal)/0.8と表すことができる。すなわち、(ρmetalav.)≒(Cmetal/100)+ρmetal(100−Cmetal)/80と近似できる。
【0107】
使用する金属ナノ粒子の金属の密度ρmetalは、オスミウムの22.57g/cm3(20℃)から、アルミニウムの2.699g/cm3(20℃)の範囲にある。また、金属ナノ粒子の含有比率:Cmetal質量%は、例えば、30質量%〜70質量%の範囲に選択する。従って、使用する金属ナノ粒子の金属の密度ρmetalと金属ナノ粒子の含有比率:Cmetal質量%の選択に伴って、作製される金属ナノ粒子分散液の平均密度:ρav. g/cm3は、900kg/m3≦ρav.≦3600kg/m3の範囲に分布する。
【0108】
例えば、使用する金属ナノ粒子の金属の密度ρmetalが、10g/cm3である場合、本発明にかかる金属ナノ粒子分散液の平均密度:ρav.は、1100kg/m3≦ρav.≦2200kg/m3の範囲、換算すると、平均密度:ρav. g/cm3は、1.1g/cm3≦ρav.≦2.2g/cm3の範囲に選択することが好ましい。
【0109】
金属ナノ粒子分散液の平均密度:ρav.が、1100kg/m3(1.1g/cm3)である場合、例えば、金属ナノ粒子の金属の密度ρmetal、有機溶媒の密度ρ1、被覆剤分子の平均密度ρcoatingを、ρmetal=10 g/cm3、ρ1=0.8 g/cm3、ρcoating=0.8 g/cm3と仮定すると、金属ナノ粒子の含有比率:Cmetal質量%は、約30質量%となり、一方、金属ナノ粒子分散液の平均密度:ρav.が、2200kg/m3(2.2g/cm3)である場合、例えば、金属ナノ粒子の金属の密度ρmetal、有機溶媒の密度ρ1、被覆剤分子の平均密度ρcoatingを、ρmetal=10 g/cm3、ρ1=0.8 g/cm3、ρcoating=0.8 g/cm3と仮定すると、金属ナノ粒子の含有比率:Cmetal質量%は、約70質量%となる。
【0110】
上述の本発明かかる金属粉末の製造方法では、金属ナノ粒子の含有比率:Cmetal質量%が、前記の範囲の場合、金属粉末の平均粒子重量Wav.を、0.1pg〜150ngの範囲、より好ましくは、1pg〜100ngの範囲に選択することが望ましい。
【0111】
それに伴って、金属ナノ粒子分散液の液滴の平均液量VDrop-0-av.を、0.1fl〜100plの範囲、より好ましくは、1fl〜70plの範囲に選択することが望ましい。
【0112】
例えば、金属ナノ粒子分散液の平均密度ρav.を、2g/cm3、金属成分の含有比率を50質量%と仮定すると、金属ナノ粒子分散液の液滴の平均液量VDrop-0-av.が、0.1fl〜100plの範囲である場合、該液滴中に含有される金属成分の平均重量は、0.1pg〜100pgの範囲となる。金属ナノ粒子分散液の液滴の平均液量VDrop-0-av.が、1fl〜70plの範囲である場合、該液滴中に含有される金属成分の平均重量は、1pg〜70ngの範囲になる。
【0113】
金属ナノ粒子分散液の液滴の平均液量VDrop-0-av.を前述の範囲に選択する場合、金属ナノ粒子分散液の粘度を、3mPa・s〜100mPa・sの範囲に選択することが好ましい。すなわち、滴下する液滴の平均径(直径)を1μm〜200μmの範囲に設定する場合、すなわち、金属ナノ粒子分散液の液滴の平均液量VDrop-0-av.を0.56fL〜4.2nLの範囲に設定する場合、粘度が高いと、極端な場合、先端部は球形部の体積よりも、裾部分の体積が大きい状態となり、裾部分の絞り込みの程度にバラツキを生じる要因となる。金属ナノ粒子分散液の粘度を、前記の範囲に選択することで、前記のバラツキの要因を排除できる。
【0114】
また、金属ナノ粒子分散液の粘度を、3mPa・s〜100mPa・sの範囲に選択することで、金属ナノ粒子分散液の液滴の形成手段として、インクジェット法を利用することも可能となる。
【0115】
通常のノズル先端から、液滴を滴下する形態では、液滴の平均径(直径)を1μm〜100μmの範囲に設定する場合、ノズル先端の開口径は、その液滴の平均径(直径)の1/2程度に選択される。金属ナノ粒子分散液の液滴の形成手段として、インクジェット法を利用する形態では、液滴の平均径(直径)を1μm〜100μmの範囲に設定する場合、液滴の吐出に利用するノズル先端の開口径は、0.5μm〜50μmの範囲に選択することが望ましい。
【0116】
通常のノズル先端から、液滴を滴下する形態、液滴の形成手段として、インクジェット法を利用する形態のいずれにおいても、金属ナノ粒子分散液の粘度を、3mPa・s〜100mPa・sの範囲に選択することで、形成される液滴の平均液量VDrop-0-av.に対する、標準偏差σVは、大きくとも、σV/VDrop-0-av.≦1/3の範囲、通常、σV/VDrop-0-av.=1/6程度に制御することが可能である。
【0117】
金属ナノ粒子の集合体粒子を加熱処理すると、該集合体粒子の内部に残余していた被覆剤分子の除去がなされる。すなわち、該集合体粒子の内部においても、金属ナノ粒子の表面を被覆している被覆剤分子は、解離され、金属ナノ粒子の金属面が接触する状態となる。その結果、金属ナノ粒子相互の低温焼結が、該集合体粒子全体にわたって進行し、金属ナノ粒子の焼結体からなる金属粉末に変換される。
【0118】
前記加熱処理の温度は、一般に、100℃〜220℃の範囲、例えば、150℃〜220℃の範囲、好ましくは、180℃〜220℃の範囲に選択される形態とすることができる。その際、金属ナノ粒子の酸化を回避するため、不活性ガス雰囲気、あるいは、還元性雰囲気下において、加熱処理を行うことが好ましい。金属ナノ粒子の集合体粒子中に残余している被覆剤分子の蒸散除去を速やかに行うためには、200℃以上の温度で加熱処理を行うことがより好ましい。
【0119】
本発明にかかる金属粉末の製造方法は、金属ナノ粒子相互の低温焼結を利用するため、利用する金属ナノ粒子は、上記の加熱温度において、焼結可能である限り、その種類に制限はない。
【0120】
従って、金属ナノ粒子は、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、インジウム(融点:156.63℃)、チタン、ケイ素、亜鉛、ビスマス、スズ、鉛、タングステン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウムからなる群から選択される、一種の金属からなるナノ粒子、または、二種以上の金属種からなるナノ粒子混合物、あるいは、二種以上の金属種からなる合金のナノ粒子である形態とすることができる。
【0121】
例えば、作製される金属粉末を、導電性ペースト中に配合する導電性フィラーに使用する場合には、電気伝導率を考慮して、金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウムからなる群から選択される、一種の金属からなるナノ粒子が好適に利用される。特には、作製される金属粉末を、導電性ペースト中に配合する導電性フィラーに使用する場合には、金、銀、銅からなる群から選択される、一種の金属からなるナノ粒子がより好適に利用される。
【実施例】
【0122】
以下に、具体例を示し、本発明をより具体的に説明する。これらの具体例は、本発明にかかる最良の実施形態の一例ではあるものの、本発明は、これら具体例に示す形態に限定されるものではない。
【0123】
(実施例1)
実施例1に、銀ナノ粒子分散液を原料として、サブミクロンオーダーの平均粒径を有する、球形の銀粉末を作製する工程の一例を示す。
【0124】
原料として使用する、銀ナノ粒子分散液は、ナノペースト:NPS−Jである。該銀ナノ粒子分散液は、Ag:64.3%、ドデシルアミン(融点:27℃;沸点:247℃):5.8%、オレイン酸(融点:16.3℃;沸点:223℃ 10mmHg):5.0%、ドデカン(沸点:216℃):24.9%を含んでいる。含有される銀ナノ粒子の平均粒子径は5nmである。該銀ナノ粒子表面の被覆と保護の用途に、オレイン酸、ならびに、ドデシルアミンが利用されている。該銀ナノ粒子分散液の粘度は、9mPa・sであり、インクジェット法による微細な液滴の形成に適合する粘度となっている。該銀ナノ粒子分散液の平均密度ρは、2g/cm3となっている。
【0125】
分散溶媒のドデカンの温度20℃における飽和蒸気圧(平衡蒸気圧)は、0.1hPaである。
【0126】
テフロンシート(表面処理なし)の表面の上方105cmから、銀ナノ粒子分散液の微小な液滴を滴下する。この微小液滴の平均液量VDrop0-av.は、15plであり、その標準偏差σVは、前記平均液量VDrop0-av.の20%であった。従って、滴下される微小液滴の平均径(直径)dDrop0-av.は、35μmであり、その標準偏差σdは、前記平均径(直径)dDrop0-av.の6%である。
【0127】
滴下される微小液滴中に含有される銀ナノ粒子の重量総和の平均:Wparticle-totalは、(VDrop0-av.・ρ・0.643)=15pl×2g/ml×0.643≒19ngと見積もられる。
【0128】
なお、滴下後、テフロンシート(表面処理なし)の表面に着弾するまでの時間tflightを測定し、その平均値:tflight-av.を算出する。算出された時間tflightの平均値は、210msであった。(VDrop0-av./tflight-av.)は、71(pL/s)であった。なお、tflight=210msの時、空気抵抗が無い状況、重力加速度g=9.8m/s2で自由落下させると、その落下距離Δh=1/2g・tflight2は、Δh=1/2・(9.8m)・(0.21)2=0.22mとなる。
【0129】
また、VDrop0-av.=15plにおいて、tflight(s)>VDrop0(pl)/160の条件は、tflight(s)>15/160≒0.094 sという範囲に相当する。まお、tflight=0.094 sの時、空気抵抗が無い状況、重力加速度g=9.8m/s2で自由落下させると、その落下距離Δh=1/2g・tflight2は、Δh=1/2・(9.8m)・(0.094)2=0.043mとなる。
【0130】
なお、該銀ナノ粒子分散液の微小な液滴を、インクジェット法を適用して形成することで、液滴液量のバラツキ:σV/VDrop0-av.を、σV/VDrop0-av.≦1/5の範囲に低減できている。
【0131】
前記テフロンシートの表面に着弾した微小液滴の形状を、光学顕微鏡観察したところ、概ね、球形であることが判った。また、前記テフロンシートの表面において、複数の微小液滴が接している箇所を詳細に光学顕微鏡観察したところ、個々の微小液滴は、それぞれ、概ね、球形であり、複数の球が接触している状態となっていることが判明した。図2に、テフロンシートの表面に着弾した微小液滴の形状を光学顕微鏡観察した一例を示す。
【0132】
テフロンシートの表面に着弾した微小液滴に、オーブン内で、220℃、1時間の加熱処理を施す。加熱処理を施した後の微小な粒子の外観を、SEM観察した。図3、図4に、加熱処理を施した後の微小な粒子の外観を、SEM観察した一例を示す。
【0133】
テフロンシートの表面に着弾した微小液滴に、前記加熱処理を施すと、僅かに、粒子サイズが減少しており、該加熱処理の間に、銀ナノ粒子の低温焼結が進行し、焼結体型金属粉末となっていると判断される。
【0134】
得られた焼結体型金属粉末の外形サイズのバラツキは、平均粒径dpowderに対する、その標準偏差σd-powderは、平均粒径dpowderの7%に相当していた。得られた焼結体型金属粉末の平均重量Wpowder(金属量)は、19ng/個であり、外形サイズのバラツキの基づき、平均重量Wpowder(金属量)に対する標準偏差σW-powderは、σW-powder/Wpowder≦1/4の範囲と推定される。
【0135】
得られた焼結体型金属粉末の平均重量Wpowder(金属量)と、適下される微小液滴中に含有される銀ナノ粒子の重量総和の平均との比率は、19ng/19ngであった。
【0136】
従って、銀ナノ粒子分散液を原料として、サブミクロンオーダーの平均粒径を有する銀粉末が、高い均一性で作製できることが検証される。
【0137】
(参考例1)
参考例1に、銀ナノ粒子分散液を原料として、サブミクロンオーダーの平均粒径を有する平板状の銀粉末を作製する工程の一例を示す。
【0138】
原料として使用する、銀ナノ粒子分散液は、ナノペースト:NPS−Jである。該銀ナノ粒子分散液は、Ag:64.3%、ドデシルアミン:5.8%、オレイン酸:5.0%、ドデカン:24.9%を含んでいる。含有される銀ナノ粒子の平均粒子径は5nmである。該銀ナノ粒子表面の被覆と保護の用途に、オレイン酸、ならびに、ドデシルアミンが利用されている。該銀ナノ粒子分散液の粘度は、9mPa・sであり、インクジェット法による微細な液滴の形成に適合する粘度となっている。該銀ナノ粒子分散液の平均密度ρは、2g/cm3となっている。
【0139】
テフロンシート(表面処理なし)の表面の上方28cmから、銀ナノ粒子分散液の微小な液滴を滴下する。この微小液滴の平均液量Vは、15plであり、その標準偏差σVは、前記平均液量VDrop0-av.の20%であった。従って、滴下される微小液滴の平均径(直径)dDrop0-av.は、35μmであり、その標準偏差σdは、前記平均径(直径)dDrop0-av.の6%である。
【0140】
滴下される微小液滴中に含有される銀ナノ粒子の重量総和の平均:Wparticle-totalは、(VDrop0-av.・ρ・0.643)=15pl×2g/ml×0.643≒19ngと見積もられる。
【0141】
なお、滴下後、テフロンシート(表面処理なし)の表面に着弾するまでの時間tflightを測定し、その平均値を算出する。算出された時間tflightの平均値は、56msであった。(VDrop0-av./tflight-av.)は、268(pL/s)であった。なお、tflight=56msの時、空気抵抗が無い状況、重力加速度g=9.8m/s2で自由落下させると、その落下距離Δh=1/2g・tflight2は、Δh=1/2・(9.8m)・(0.056)2=0.015mとなる。
【0142】
また、VDrop0-av.=15plにおいて、tflight(s)>VDrop0(pl)/160の条件は、tflight(s)>15/160≒0.094 sという範囲に相当する。まお、tflight=0.094 sの時、空気抵抗が無い状況、重力加速度g=9.8m/s2で自由落下させると、その落下距離Δh=1/2g・tflight2は、Δh=1/2・(9.8m)・(0.094)2=0.043mとなる。
【0143】
なお、該銀ナノ粒子分散液の微小な液滴を、インクジェット法を適用して形成することで、液滴液量のバラツキ:σV/VDrop0-av.を、σV/VDrop0-av.≦1/5の範囲に低減できている。
【0144】
前記テフロンシートの表面に着弾した微小液滴の形状を、光学顕微鏡観察したところ、概ね、外縁が略円形の扁平な液滴であることが判った。また、前記テフロンシートの表面において、複数の微小液滴が接した結果、液滴の一体化を起こしている箇所を詳細に光学顕微鏡観察したところ、複数の液滴が一体化し、大きな液滴を構成した状態となっていることが判明した。図5に、テフロンシートの表面に着弾した微小液滴の形状を光学顕微鏡観察した一例を示す。
【0145】
テフロンシートの表面に着弾した微小液滴に、オーブン内で、220℃、1時間の加熱処理を施す。加熱処理を施した後、回収された微小な粒子の外観を、SEM観察した。図6に、加熱処理を施した後、回収された微小な粒子の外観を、SEM観察した一例を示す。
【0146】
テフロンシートの表面に着弾した微小液滴に、前記加熱処理を施すと、外縁が略円形の扁平な平板型粒子となっている。着弾した微小液滴中に残余する有機溶媒は蒸散され、該加熱処理の間に、銀ナノ粒子の低温焼結が進行し、焼結体型金属粉末となっていると判断される。
【0147】
外縁が略円形の扁平な平板型の粒子形状であるため、得られた焼結体型金属粉末の外形サイズのバラツキは、高い確度で評価することが困難である。一方、得られた焼結体型金属粉末の平均重量Wpowder(金属量)は、19ng/個であり、外形サイズのバラツキの基づき、平均重量Wpowder(金属量)に対する標準偏差σW-powderは、σW-powder/Wpowder≦1/4の範囲と推定される。
【0148】
得られた焼結体型金属粉末の平均重量Wpowder(金属量)と、適下される微小液滴中に含有される銀ナノ粒子の重量総和の平均との比率は、19ng/19ngであった。
【0149】
従って、銀ナノ粒子分散液を原料として、サブミクロンオーダーの平均粒径を有する銀粉末が、高い均一性で作製できることが検証される。
【0150】
(参考例2)
参考例2に、銀ナノ粒子分散液を原料として、サブミクロンオーダーの平均粒径を有する平板状の銀粉末を作製する工程の一例を示す。
【0151】
原料として使用する、銀ナノ粒子分散液は、ナノペースト:NPS−Jである。該銀ナノ粒子分散液は、Ag:64.3%、ドデシルアミン:5.8%、オレイン酸:5.0%、テトラデカン(沸点:253.6℃):24.9%を含んでいる。含有される銀ナノ粒子の平均粒子径は5nmである。該銀ナノ粒子表面の被覆と保護の用途に、オレイン酸、ならびに、ドデシルアミンが利用されている。該銀ナノ粒子分散液の粘度は、9mPa・sであり、インクジェット法による微細な液滴の形成に適合する粘度となっている。該銀ナノ粒子分散液の平均密度ρは、2g/cm3となっている。
【0152】
分散溶媒のテトラデカンの温度20℃における飽和蒸気圧(平衡蒸気圧)は、0.01hPaである。
【0153】
テフロンシート(表面処理なし)の表面の上方28cmから、銀ナノ粒子分散液の微小な液滴を滴下する。この微小液滴の平均液量VDrop0-av.は、15plであり、その標準偏差σVは、前記平均液量VDrop0-av.の20%であった。従って、滴下される微小液滴の平均径(直径)dDrop0-av.は、35μmであり、その標準偏差σdは、前記平均径(直径)dDrop0-av.の6%である。
【0154】
滴下される微小液滴中に含有される銀ナノ粒子の重量総和の平均:Wparticle-totalは、(VDrop0-av.・ρ・0.643)=15pl×2g/ml×0.643≒19ngと見積もられる。
【0155】
なお、滴下後、テフロンシート(表面処理なし)の表面に着弾するまでの時間tflightを測定し、その平均値を算出する。算出された時間tflightの平均値は、56msであった。(VDrop0-av./tflight-av.)は、268(pL/s)であった。なお、tflight=56msの時、空気抵抗が無い状況、重力加速度g=9.8m/s2で自由落下させると、その落下距離Δh=1/2g・tflight2は、Δh=1/2・(9.8m)・(0.056)2=0.015mとなる。
【0156】
また、VDrop0-av.=15plにおいて、tflight(s)>VDrop0(pl)/160の条件は、tflight(s)>15/160≒0.094 sという範囲に相当する。まお、tflight=0.094 sの時、空気抵抗が無い状況、重力加速度g=9.8m/s2で自由落下させると、その落下距離Δh=1/2g・tflight2は、Δh=1/2・(9.8m)・(0.094)2=0.043mとなる。
【0157】
なお、該銀ナノ粒子分散液の微小な液滴を、インクジェット法を適用して形成することで、液滴液量のバラツキ:σV/VDrop0-av.を、σV/VDrop0-av.≦1/5の範囲に低減できている。
【0158】
前記テフロンシートの表面に着弾した微小液滴の形状を、光学顕微鏡観察したところ、概ね、外縁が略円形の扁平な液滴であることが判った。また、前記テフロンシートの表面において、複数の微小液滴が接した結果、液滴の一体化を起こしている箇所を詳細に光学顕微鏡観察したところ、複数の液滴が一体化し、大きな液滴を構成した状態となっていることが判明した。
【0159】
テフロンシートの表面に着弾した微小液滴に、オーブン内で、220℃、1時間の加熱処理を施す。加熱処理を施した後、回収された微小な粒子の外観を、SEM観察した。図7に、加熱処理を施した後、回収された微小な粒子の外観を、SEM観察した一例を示す。
【0160】
テフロンシートの表面に着弾した微小液滴に、前記加熱処理を施すと、外縁が略円形の扁平な平板型粒子となっている。着弾した微小液滴中に残余する有機溶媒は蒸散され、該加熱処理の間に、銀ナノ粒子の低温焼結が進行し、焼結体型金属粉末となっていると判断される。
【0161】
外縁が略円形の扁平な平板型の粒子形状であるため、得られた焼結体型金属粉末の外形サイズのバラツキは、高い確度で評価することが困難である。一方、得られた焼結体型金属粉末の平均重量Wpowder(金属量)は、19ng/個であり、外形サイズのバラツキの基づき、平均重量Wpowder(金属量)に対する標準偏差σW-powderは、σW-powder/Wpowder≦1/4の範囲と推定される。
【0162】
得られた焼結体型金属粉末の平均重量Wpowder(金属量)と、適下される微小液滴中に含有される銀ナノ粒子の重量総和の平均との比率は、19ng/19ngであった。
【0163】
従って、銀ナノ粒子分散液を原料として、サブミクロンオーダーの平均粒径を有する銀粉末が、高い均一性で作製できることが検証される。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明にかかる金属粉末の製造方法は、サブミクロンオーダー、あるいは、ミクロンオーダーの領域に選択される平均粒径を有する金属粉末に関して、作製される金属粉末のサイズに関して、高い均一性を達成する際、好適に利用される。また、本発明にかかる金属粉末の製造方法で作製される、球状の外形形状を有し、そのサイズの均一性の高い金属粉末は、例えば、導電性ペーストに配合される導電性媒体として利用可能である。
【符号の説明】
【0165】
1 滴下ノズル
2 金属ナノ粒子分散液の液滴
3 金属ナノ粒子集合体からなる粒子
4 回収用のプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子を原料として、球形状の金属粉末を製造する方法であって、
有機溶媒中に前記金属ナノ粒子を分散してなる金属ナノ粒子分散液を、ノズルより滴下して、
下降する過程において、滴下される金属ナノ粒子分散液の微細な液滴中に含まれる前記有機溶媒を蒸散させ、金属ナノ粒子集合体からなる粒子を形成し、
該金属ナノ粒子集合体からなる粒子を着弾させる工程;ならびに
前記金属ナノ粒子集合体からなる粒子を加熱処理し、含有される金属ナノ粒子を焼結してなる金属粉末を形成する工程
を具え、
前記金属ナノ粒子分散液は、前記金属ナノ粒子、有機溶媒、ならびに被覆剤分子を含有してなり、
前記金属ナノ粒子の表面に、前記被覆剤分子を利用して、被覆層が形成されており、
前記有機溶媒として、
炭素数10〜15の脂肪族炭化水素または炭素数10〜12の脂肪族アルコールを用い、滴下される金属ナノ粒子分散液の液滴の液量を均一にすることで、均一な大きさの金属粉末の作製を行う
ことを特徴とする金属粉末の製造方法。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子分散液中に分散されている、金属ナノ粒子は、
その平均粒子径dnano-av.は、1nm〜1μmの範囲に選択されている
ことを特徴とする請求項1に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒は、
炭素数10〜15の脂肪族炭化水素である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子は、炭素数10〜18の脂肪族モノカルボン酸、および炭素数8〜14の脂肪族モノアミンまたはジアミンからなる群から選択される、前記有機溶媒と親和性を有する被覆剤分子を利用して、その表面に被覆層が形成されている
ことを特徴とする請求項1〜3に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項5】
該金属ナノ粒子分散液中に含まれる、前記被覆剤分子の含有量の合計は、
前記金属ナノ粒子100質量部当たり、2質量部〜20質量部の範囲に選択され、
該金属ナノ粒子分散液中に含まれる、前記有機溶媒の含有量は、
前記金属ナノ粒子100質量部当たり、40質量部〜250質量部の範囲に選択され、
前記第一の有機溶媒の含有量:前記被覆剤分子の含有量の合計の比率は、2:1〜10:1の範囲に選択される
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項6】
金属ナノ粒子分散液中における、前記金属ナノ粒子の含有比率は、30質量%〜70質量%の範囲に選択されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項7】
前記金属ナノ粒子は、
金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、インジウム、チタン、ケイ素、亜鉛、ビスマス、スズ、鉛、タングステン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウムからなる群から選択される、一種の金属からなる金属ナノ粒子、または、二種以上の金属種からなる金属ナノ粒子混合物、あるいは、二種以上の金属種からなる合金のナノ粒子である
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項8】
前記金属ナノ粒子の平均粒子径dnano-av.は、
1nm〜100nmの範囲に選択される
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項9】
前記金属ナノ粒子集合体からなる粒子の加熱処理は、100℃〜220℃で行う
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項10】
前記金属ナノ粒子分散液の液滴の滴下は、ノズル径が0.5μm〜50μmのノズルを用いて行う
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項11】
金属ナノ粒子分散液を原料として作製される球形状の金属粉末であって、
該金属粉末は、請求項1に記載の金属粉末の製造方法によって作製されている、均一な大きさの金属粉末である
ことを特徴とする金属粉末。
【請求項12】
前記金属ナノ粒子分散液中に分散されている、金属ナノ粒子は、
その平均粒子径dnano-av.は、1nm〜1μmの範囲に選択されており、
該金属ナノ粒子の表面は、被覆剤で被覆されている
ことを特徴とする請求項11に記載の金属粉末。
【請求項13】
前記有機溶媒は、
炭素数10〜15の脂肪族炭化水素である
ことを特徴とする請求項11または請求項12に記載の金属粉末。
【請求項14】
前記金属ナノ粒子は、炭素数10〜18の脂肪族モノカルボン酸、および炭素数8〜14の脂肪族モノアミンまたはジアミンからなる群から選択される、前記有機溶媒と親和性を有する被覆剤分子を利用して、その表面に被覆層が形成されている
ことを特徴とする請求項11〜13に記載の金属粉末。
【請求項15】
該金属ナノ粒子分散液中に含まれる、前記被覆剤分子の含有量の合計は、
前記金属ナノ粒子100質量部当たり、2質量部〜20質量部の範囲に選択され、
該金属ナノ粒子分散液中に含まれる、前記有機溶媒の含有量は、
前記金属ナノ粒子100質量部当たり、40質量部〜250質量部の範囲に選択され、
前記第一の有機溶媒の含有量:前記被覆剤分子の含有量の合計の比率は、2:1〜10:1の範囲に選択される
ことを特徴とする請求項11〜14のいずれか一項に記載の金属粉末。
【請求項16】
金属ナノ粒子分散液中における、前記金属ナノ粒子の含有比率は、30質量%〜70質量%の範囲に選択されている
ことを特徴とする請求項11〜15のいずれか一項に記載の金属粉末。
【請求項17】
前記金属ナノ粒子は、
金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、インジウム、チタン、ケイ素、亜鉛、ビスマス、スズ、鉛、タングステン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウムからなる群から選択される、一種の金属からなる金属ナノ粒子、または、二種以上の金属種からなる金属ナノ粒子混合物、あるいは、二種以上の金属種からなる合金のナノ粒子である
ことを特徴とする請求項11〜16のいずれか一項に記載の金属粉末。
【請求項18】
前記金属ナノ粒子の平均粒子径dnano-av.は、
1nm〜100nmの範囲に選択される
ことを特徴とする請求項11〜17のいずれか一項に記載の金属粉末。
【請求項19】
前記金属ナノ粒子集合体からなる粒子の加熱処理は、100℃〜220℃で行う
ことを特徴とする請求項11〜18のいずれか一項に記載の金属粉末。
【請求項20】
前記金属ナノ粒子分散液の液滴の滴下は、ノズル径が0.5μm〜50μmのノズルを用いて行う
ことを特徴とする請求項11〜19のいずれか一項に記載の金属粉末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−117021(P2011−117021A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273651(P2009−273651)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)
【Fターム(参考)】