説明

金属細線の製造方法および金属細線の用途

【課題】超小型集積回路及び量子素子の配線材料などに用いられる、高い直線性、均一な直径、及び長い細線長を有する金属細線を提供する。
【解決手段】金属細線の製造方法は、実質的に均一な径の管状のメソ細孔が一軸方向に配列した細孔構造を有する多孔質薄膜を基板上に形成する工程と、前記多孔質薄膜の細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成する工程と、前記メソ細孔の内部に金属原子を含有するアニオンを導入する工程と、前記金属原子を含有するアニオンを金属に転換する工程から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ電子デバイスのナノ配線材料として期待されている、金属細線の製造方法および金属細線の用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノ構造体は量子サイズ効果のためバルク状物質には見られない特異な性質を示す。そのようなナノ構造体には、電子を2次元に閉じ込めた量子井戸、1次元に閉じ込めた量子細線、0次元に閉じ込めた量子点がある。そのなかでも、金属細線は、クーロンブロッケイド効果により、電子一つ一つを制御しながら輸送することが可能であるため、超小型集積回路及び量子素子の配線材料としての応用が期待されている。
【0003】
このような金属細線を作製する方法としては、例えば、非特許文献1及び特許文献1には、界面活性剤を鋳型として合成されるメソ細孔を有する多孔質シリカの、最密充填された管状の細孔の内部に金属原子を含有するアニオンを導入した後、前記アニオンを金属に転換し、金属細線を合成する方法が掲載されている。
【特許文献1】特開2002−102698号
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society第123巻3373頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、シリカは、その等電点(約2)より高いpHの水溶液中においては、壁面は負に帯電するため、前記金属原子を含有するアニオンの吸着が阻害される。一方、その等電点より低いpHの水溶液中においては、壁面は正に帯電するが、正電荷密度が小さいため、前記アニオンの十分な吸着量を確保することは困難である。そのため、前記アニオンの還元により生成した金属は、特許文献1に記載されているような、アスペクト比の小さい粒子状または柱状、或いは非特許文献1に記載されているような、数珠状となる場合が多く、長い細線長を有する金属細線を得ることは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題に対し鑑みなされたもので、多孔質薄膜の細孔壁面の状態を最適化することで、金属原子を含有するアニオンの吸着量を増大させ、金属細線を良好に作製し得たものである。
【0006】
すなわち、本発明は、実質的に均一な径の管状のメソ細孔が一軸方向に配列した細孔構造を有する多孔質薄膜を基板上に形成する工程と、前記多孔質薄膜の細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成する工程と、前記メソ細孔の内部に金属原子を含有するアニオンを導入する工程と、前記金属原子を含有するアニオンを金属に転換する工程を含むことを特徴とする金属細線の製造方法である。
【0007】
前記多孔質薄膜の細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成する工程が、カチオン部位を有するシランカップリング剤を用いて前記細孔壁面を修飾する工程であることが好ましい。
【0008】
前記多孔質薄膜の細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成する工程が、シリカより等電点の高い酸化物を形成し得る金属を含有する金属塩の水溶液を用いて前記細孔壁面を修飾する工程であることが好ましい。
【0009】
前記シリカより等電点の高い酸化物を形成し得る金属がジルコニウムであることが好ましい。前記多孔質薄膜の細孔壁を構成する物質が、二酸化ケイ素であることが好ましい。
【0010】
前記多孔質薄膜の細孔壁を構成する物質が、1以上の炭素原子を含有する有機基と、前記有機基と2箇所以上で結合する2以上のケイ素原子と、前記ケイ素原子と結合する1以上の酸素原子から構成される、有機シリカハイブリッド材料であることが好ましい。
【0011】
前記メソ細孔のガス吸着法により算出された細孔径分布が単一の極大値を有し、60%以上のメソ細孔が10nmの範囲に含まれることが好ましい。
【0012】
前記細孔の内部に導入されるアニオンを構成する金属原子が、金または白金であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、上記の製造方法により得られることを特徴とする金属細線である。
【0014】
さらにまた、本発明は、上記の金属細線を有することを特徴とするナノ電子デバイスである。
【発明の効果】
【0015】
実質的に均一な径の管状のメソ細孔が一軸方向に配列した細孔構造を有する多孔質薄膜の細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成することにより、金属原子を含有するアニオンをメソ細孔の内部に十分に担持することができ、前記金属原子を含有するアニオンを金属に転換することにより、高い直線性、均一な直径、及び長い細線長を有する金属細線を高密度に作製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、実質的に均一な径の管状のメソ細孔が一軸方向に配列した細孔構造を有する多孔質薄膜の模式図である。11は基板、12は細孔壁、13は細孔を示す。
【0017】
先ず、本発明に用いられる、実質的に均一な径の管状のメソ細孔が一軸方向に配列した細孔構造を有する多孔質薄膜について説明する。
【0018】
前記多孔質薄膜が持つ、実質的に均一な径の管状のメソ細孔とは、IUPACにより定義された、直径2nmから50nmのメソ領域の径を有する細孔を指し、また、ガス吸着法により得られる吸着等温線からBerret−Joyner−Halenda(BJH)法により評価される細孔径分布において、60%以上のメソ細孔が10nmの幅を持つ範囲に含まれることを特徴とする。10nmの幅を持つ範囲とは、例えば、5nmから15nmのように、最小値と最大値の差が10nmである範囲を示す。このような細孔径分布を示す多孔質薄膜は、均一な直径を有する金属細線を作製するために好適に用いられる。
【0019】
また、このようなメソ細孔の配向が制御された細孔構造は、高い直線性を持ち、細線長の長い金属細線を作製するために好適である。前記細孔構造を有する多孔質薄膜は、後述する、表面に異方性を有する基板を用いる方法により、簡便に作製することが可能である。
【0020】
前記多孔質薄膜の細孔壁を構成する材料としては、シリカまたは1以上の炭素原子を含有する有機基と、前記有機基と2箇所以上で結合する2以上のケイ素原子と、前記ケイ素原子と結合する1以上の酸素原子から構成される、有機シリカハイブリッド材料が好ましい。シリカは、表面にシラノール基を有するため、細孔壁面にアニオンを固定化する部位を好適に作製できる。また、有機シリカハイブリッド材料は、シリコン原子の結合手の内、有機基と結合していない少なくとも一つの結合手はシラノール基で終端されているため、細孔壁面には多くのシラノール基が露出しており、アニオンを固定化する部位の形成に好ましい壁面として使用できる。
【0021】
前記実質的に均一な径の管状のメソ細孔が一軸方向に配列した細孔構造を有する多孔質薄膜の作製には、公知の方法を用いることが可能であり、例えば、特開2001−58812号公報に記載されている方法や特開2002−241121号公報に記載されている方法を用いることができる。これらの方法は何れも、基板表面の異方性を利用して、メソ細孔の方向を一方向に制御したものであるが、本発明において、メソ細孔が一軸方向に配列した細孔構造を有する多孔質薄膜を作製できる限りにおいては、これらの方法に限定されるものではない。
【0022】
なお、界面活性剤を除去し、多孔質化する方法としては、シリカ表面のシラノール基の量を減少させず、界面活性剤を除去することが可能な、マイクロ波により分解する方法及び溶剤により抽出する方法が好ましい。ただし、シリカ表面のシラノール基の量を減少させず、界面活性剤を除去することが可能な方法であれば、これに限らない。
【0023】
次に、上記実質的に均一な径の管状のメソ細孔が一軸方向に配列した細孔構造を有する多孔質薄膜を利用した金属細線の製造方法について説明する。
【0024】
図2は、金属細線の製造方法を微視的なスケールで説明するための模式的な流れ図である。本発明の金属細線の製造工程は、前記多孔質薄膜の細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成する工程(工程A)と、メソ細孔の内部に金属原子を含有するアニオンを導入する工程(工程B)と、前記金属原子を含有するアニオンを金属に転換する工程(工程C)を含む。
【0025】
以下、上記工程Aから工程Cより構成される、メソ細孔を有する多孔質薄膜を用いた金属細線の製造方法について、より詳細に説明する。
【0026】
図2は、実質的に均一な径の管状のメソ細孔が一軸方向に配列した細孔構造を有した多孔質薄膜のメソ細孔の一本に着目し、その一部分を拡大して模式的に描いた図である。図2において、12は細孔壁、21は細孔を表している。
【0027】
まず、これに対して、細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成する工程Aを施す。
【0028】
(多孔質薄膜の細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成する工程A)
細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成する方法としては、カチオン部位を有するシランカップリング剤で細孔壁面を修飾する方法と、シリカより等電点の高い酸化物を形成し得る金属を含有する金属塩の水溶液を用いて細孔壁面を修飾する方法が好適に用いられる。
【0029】
先ず、カチオン部位を有するシランカップリング剤で細孔壁面を修飾する方法について説明する。前記シランカップリング剤は、細孔壁面のシラノール基に結合し、アニオン交換サイトを形成する。前記カチオン部位を有するシランカップリング剤としては、アンモニウム基を含むもの、すなわち正に帯電した窒素を有するものが適当である。例えば、N−トリメトキシシリルプロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド(TPTCA)のようなアンモニウム塩酸塩、N−トリメトキシシリルプロピル−N,N,N−トリ−n−ブチルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリル)プロピルアンモニウムクロライド等のアンモニウム塩酸塩、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を使用することが可能である。このようなシランカップリング剤のカチオン部位に由来する正電荷に対して、金属原子を含有するアニオンが固定化される。
【0030】
次に、シリカより等電点の高い酸化物を形成し得る金属を含有する金属塩の水溶液を用いて細孔壁面を修飾する方法について説明する。前記シリカより等電点の高い酸化物を形成し得る金属としては、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズが好ましい。この中でも、より好ましくはジルコニウムである。ただし、細孔壁面の修飾により、アニオンを固定化する部位を形成することができる金属塩の水溶液であれば、前記金属塩を構成する金属は、これらに限定されない。この方法においては、細孔壁面にシリカより等電点の高い金属と酸素の結合を有する物質が、細孔壁面に形成されるため、正電荷密度が増大し、金属原子を含有するアニオンの吸着量が増大する。
【0031】
次に、形成したアニオンを固定化する部位に、目的とする金属細線の原料となる、金属原子を含有するアニオン23を導入する工程Bを施す。
【0032】
(細孔の内部に金属原子を含有するアニオンを導入する工程B)
細孔の内部に金属原子を含有するアニオンを導入する方法としては、金属細線の前駆物質としての金属化合物の溶液に、細孔壁面にアニオンを固定化する部位を有する多孔質薄膜を浸漬する方法が好ましい。
【0033】
本発明において、金属細線を構成する金属元素としては金または白金が好ましい。ただし、目的の金属細線を形成し得るものであれば、これらに限定されるわけではない。また、金属細線の前駆物質としての金属化合物としては、溶液中においてアニオン性を呈するものであること以外には特に制限はないが、例えば、金属の塩または錯塩を用いることができる。また、前記金属化合物を溶解させる溶媒としては、前記金属化合物が溶解するものであれば良く、より具体的には、水、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0034】
最後に、これに対して、工程Cを施し、金属原子を含有するアニオンを金属細線24に転換する。
【0035】
(金属原子を含有するアニオンを金属に転換する工程C)
金属原子を含有するアニオンを金属に転換する方法としては、水素雰囲気下において加熱還元する方法、水素化ホウ素ナトリウム水溶液により還元する方法、光照射により還元する方法が好ましく、例えば、非特許文献1に記載されているように、HPtClを白金化合物として白金細線を作製する場合には、20Torrの水蒸気と100Torrのメタノール蒸気にそれぞれ2時間暴露した後、高圧水銀ランプ(100W、250−600nm)を用いて24時間光照射し、さらに真空下で12時間乾燥することにより、金属細線を得ることができる。
【0036】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
本実施例は、基板表面における不均一核生成−核成長に基づく方法により作製された、実質的に均一な径の管状のメソ細孔が一軸方向に配列した細孔構造を有する多孔質シリカ薄膜を利用して、白金細線を作製した例である。細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成する方法としては、シランカップリング剤により修飾する方法を用いた。
【0038】
アセトン、イソプロピルアルコール、及び純水で洗浄した後、オゾン発生装置中で表面をクリーニングした石英ガラス基板に、スピンコート法によりポリアミック酸AのNMP溶液を塗布し、200℃で1時間焼成して、以下の構造を有するポリイミドA薄膜を形成した。
【0039】
【化1】


【0040】
これに対して、表1に示したような条件でラビング処理を施し、基板として用いた。この基板を以降ラビング処理基板と呼ぶことにする。
【0041】
【表1】

【0042】
このようなラビング処理を施した基板を用いることにより、実質的に均一な径の管状のメソ細孔が一軸方向に配列した細孔構造を有する多孔質シリカ薄膜を作製できることは、特開2001−058812号公報に記載されている。
【0043】
この基板上に、前記多孔質シリカ薄膜を形成した。6.01gの非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン10セチルエーテル(C16EO10)を128mlの純水に溶解し、さらに20.6mlの36wt.%濃塩酸を添加した。この水溶液に、2.20mlのテトラエトキシシラン(TEOS)を添加し、3分間撹拌したものを前駆溶液とした。最終的な前駆溶液の組成(モル比)は、TEOS:HO:HCl:C16EO10 = 0.125:100:3:0.11となるようにした。
【0044】
この前駆溶液に前記ラビング処理基板を、ポリイミドA薄膜が形成されている面を下向きにして浸漬し、80℃で5日間反応させた。所定の反応時間を経過した後、前駆溶液中に浸漬させた基板を引き上げ、純水で十分に洗浄し、室温で乾燥させた。
【0045】
作製された薄膜をX線回折法により評価した結果、面間隔5.2nmのヘキサゴナル構造の(100)面に帰属される強い回折ピークが確認され、この薄膜は管状のメソ細孔がヘキサゴナル配列した細孔構造を有することが確かめられた。また、面内X線回折法により評価したところ、180°周期の強い回折ピークが確認され、前記管状のメソ細孔が一軸方向に配列した細孔構造を有していることが確かめられた。
【0046】
作製された薄膜から、マイクロ波処理により界面活性剤を分解・除去し、多孔質化した。15Mの硝酸と9.3M過酸化水素水の体積比が15:1となるように調製した混合溶液に前記薄膜を浸漬し、周波数2450MHz、電圧220Vのマイクロ波を5分間照射した。界面活性剤除去後の薄膜には、界面活性剤に由来する有機成分は存在していないこと及びシラノール基が十分に残存していることが、赤外分光光度法等により確認された。
【0047】
次に、シランカップリング剤処理により、細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成させた。前記薄膜を50wt.%のTPTCAのメタノール溶液中に浸漬し、室温で12時間保持した後、純水で十分に洗浄し、室温で乾燥した。処理後の薄膜を、赤外分光光度法により評価したところ、TPTCAのシリカ表面への結合が確認された。また、処理後の薄膜をX線回折法により分析の結果、面外及び面内の規則性が共に維持されていることが確認された。
【0048】
窒素吸着法に基づく吸着等温線から、BJH法により、この細孔壁面にイオン交換能を有する化合物層が形成された薄膜中の細孔の平均径は3.8nmと算出された。また、この薄膜中のメソ細孔の60%が、2nmから12nmの範囲内の細孔径分布を有することが確認された。
【0049】
このようにして得られた、前記メソ細孔の壁面にアニオンを固定化する部位を有する多孔質シリカ薄膜を利用し、六塩化白金酸六水和物(HPtClO)を前駆物質として、白金細線を作製した。前記薄膜を10wt.%のHPtCl・6HO水溶液に浸漬し、室温で24時間保持した後、エタノールで十分に洗浄し、室温で乾燥させた。このメソ細孔中にPtCl2−を十分に含有した多孔質薄膜を、水素雰囲気下において500℃に加熱することにより還元し、白金細線を得た。
【0050】
白金細線を含有する薄膜を10wt.%のフッ酸水溶液に浸漬し、シリカの細孔壁を溶解させ、白金細線のみを分離した。作製された白金量子細線においては、透過型電子顕微鏡法により、高い直線性、均一な直径、及び長い細線長を有する白金細線が形成されていることが確認され、また、電子回折法により前記白金細線は単結晶であることが確認された。
【実施例2】
【0051】
本実施例は、ゾル−ゲル法に基づき、ディップコート法により作製された、実質的に均一な径の管状のメソ細孔が一軸方向に配列した細孔構造を有する多孔質有機シリカハイブリッド薄膜を利用して、金細線を作製した例である。細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成する方法としては、オキシ硝酸ジルコニウムにより修飾する方法を用いた。
【0052】
あらかじめ調製された所定量のn−ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(C16TAB)を含むエタノール溶液に、出発物質として1,4−ビス(トリメトキシシリル)エチレン(BTME)を添加し、30分間撹拌した。BTMMを加水分解させるため、この溶液に塩酸と水を添加し、8時間撹拌することにより前駆溶液を得た。前駆溶液の組成(モル比)は、BTME:EtOH:HO:HCl:C16TAB = 0.5:22:5:0.004:0.3014となるようにした。この前駆溶液を上記ラビング処理基板にディップコート法により、引き上げ速度2mm/sで塗布し、25℃、相対湿度50%の環境試験機中で24時間乾燥させた。
【0053】
作製された薄膜を面外X線回折法により評価したところ、面間隔3.8nmのヘキサゴナル構造の(100)面に帰属される強い回折ピークが確認され、この薄膜は管状のメソ細孔がヘキサゴナル配列した細孔構造を有することが確かめられた。また、この薄膜を面内X線回折法により評価したところ、180°周期の強い回折ピークが確認され、前記管状のメソ細孔が一軸方向に配列した細孔構造を有していることが確かめられた。
【0054】
作製された薄膜から、溶剤により界面活性剤を抽出・除去し、多孔質化した。36wt.%の塩酸とエタノールの体積比が15:500となるように調製された混合溶液に前記薄膜を浸漬し、70℃で12時間保持した後、純水で十分に洗浄し、室温で乾燥させた。界面活性剤除去後の多孔質有機シリカハイブリッド薄膜には、界面活性剤に由来する有機成分は存在していないこと、エチレン基が残存していること、及びシラノール基が十分に残存していることが、赤外分光光度法により確認された。また、核磁気共鳴分光法により、界面活性剤除去後もケイ素原子と炭素原子との結合は維持され、エチレン基は細孔壁中に均一に分散していることが確認された。
【0055】
次に、オキシ硝酸ジルコニウム水溶液処理により、細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成した。前記薄膜を10wt.%のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液に浸漬し、12時間保持した後、純水で十分に洗浄し、100℃で1時間乾燥させた。処理後の薄膜をX線回折法により分析した結果、面外及び面内の規則性共に維持されていることが確認された。
【0056】
窒素吸着法に基づく吸着等温線から、BJH法により、この薄膜中の細孔の平均径は3.0nmと算出された。また、この薄膜中の細孔の60%が、2nmから12nmの範囲内の細孔径分布を有することが確認された。
【0057】
このようにして得られた、前記メソ細孔の壁面にアニオンを固定化する部位を有する多孔質有機シリカハイブリッド薄膜を利用し、四塩化金酸四水和物(HAuCl・4HO)を前駆物質として、金細線を作製した。前記薄膜を10wt.%のHPtAuCl・4HO水溶液に浸漬し、室温で24時間保持した後、エタノールで十分に洗浄し、室温で乾燥させた。このメソ細孔中にAuClを十分に含有した多孔質有機シリカハイブリッド薄膜を、0.1M水素化ホウ素ナトリウム水溶液中に浸漬し、AuClを還元し、金細線を作製した。
【0058】
メソ細孔中に金細線を含有する薄膜から、実施例1と同様の方法により、金細線を分離した。作製された金細線においては、透過型電子顕微鏡法により、高い直線性、均一な直径、及び長い細線長を有する金細線が形成されていることが確認され、また、電子回折法により前記金細線は単結晶であることが確認された。
[比較例1]
本比較例は、基板表面における不均一核生成−核成長に基づく方法により作製された、実質的に均一な径の管状のメソ細孔を有する多孔質シリカ薄膜を利用して、白金細線を作製した例である。細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成する方法としては、シランカップリング剤により修飾する方法を用いた。
【0059】
実施例1と同様の方法により作製された前駆溶液に、実施例1と同様の方法によりクリーニングした石英ガラス基板を浸漬し、80℃で5日間反応させた。所定の反応時間を経過した後、前駆溶液中に浸漬させた基板を引き上げ、純水で十分に洗浄し、室温で乾燥させた。
【0060】
作製された薄膜は不透明であり、光学顕微鏡により観察すると、微細な不規則粒子の集合体であることが判明した。これをX線回折法により評価した結果、面間隔5.2nmのヘキサゴナル構造の(100)面に帰属される強い回折ピークが確認され、この薄膜は管状のメソ細孔がヘキサゴナル配列した細孔構造を有することが確かめられた。また、面内X線回折法により評価したところ、基板表面に対して垂直方向の規則性に由来する回折ピークは確認されず、前記管状のメソ細孔の一軸方向への配列した細孔構造は存在しないことが確かめられた。
【0061】
以下、前記管状のメソ細孔を有する多孔質シリカ薄膜を利用して、実施例1と同様の方法により、白金細線を作製した。
【0062】
作製された白金細線においては、透過型電子顕微鏡法により、均一な直径を有するものの、実施例1で作製された白金細線と比較し、低い直線性および短い細線長の白金細線が形成されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
高い直線性、均一な直径、及び長い細線長を有する金属細線が高密度に作製されるので、ナノ電子デバイスのナノ配線材料としての利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る実質的に均一な径の管状のメソ細孔が一軸方向に配列した細孔構造を有する多孔質薄膜の模式図である。
【図2】本発明に係る金属細線の作製方法の模式的な流れ図である。
【図3】本発明に係るメソ細孔内に金属細線が設けられた多孔質薄膜の概念図である。
【符号の説明】
【0065】
11 基板
12 細孔壁
13 細孔
21 管状の細孔
22 アニオンを固定化する部位
23 金属原子を含有するアニオン
24 金属細線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に均一な径の管状のメソ細孔が一軸方向に配列した細孔構造を有する多孔質薄膜を基板上に形成する工程と、前記多孔質薄膜の細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成する工程と、前記メソ細孔の内部に金属原子を含有するアニオンを導入する工程と、前記金属原子を含有するアニオンを金属に転換する工程を含むことを特徴とする金属細線の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質薄膜の細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成する工程が、カチオン部位を有するシランカップリング剤を用いて前記細孔壁面を修飾する工程であることを特徴とする請求項1に記載の金属細線の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質薄膜の細孔壁面にアニオンを固定化する部位を形成する工程が、シリカより等電点の高い酸化物を形成し得る金属を含有する金属塩の水溶液を用いて前記細孔壁面を修飾する工程であることを特徴とする請求項1に記載の金属細線の製造方法。
【請求項4】
前記シリカより等電点の高い酸化物を形成し得る金属がジルコニウムであることを特徴とする請求項3に記載の金属細線の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質薄膜の細孔壁を構成する物質が、二酸化ケイ素であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の金属細線の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質薄膜の細孔壁を構成する物質が、1以上の炭素原子を含有する有機基と、前記有機基と2箇所以上で結合する2以上のケイ素原子と、前記ケイ素原子と結合する1以上の酸素原子から構成される、有機シリカハイブリッド材料であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の金属細線の製造方法。
【請求項7】
前記メソ細孔のガス吸着法により算出された細孔径分布が単一の極大値を有し、60%以上のメソ細孔が10nmの範囲に含まれることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の金属細線の製造方法。
【請求項8】
前記メソ細孔の内部で作製される金属細線を構成する金属元素が、金または白金であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の金属細線の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の製造方法により得られることを特徴とする金属細線。
【請求項10】
請求項9に記載の金属細線を有することを特徴とするナノ電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−83453(P2006−83453A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271806(P2004−271806)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】