説明

金属線の伸線方法

【課題】伸線後の金属線を、脆化等の防止のために適正な温度に制御することができる金属線の伸線方法を提供すること。
【解決手段】伸線ダイス4を通過させて縮径した金属線Mを、線材巻き取り用の胴部11を有する冷却ドラム3によって巻き取る工程を含む、金属線Mの伸線方法であって、冷却ドラム3を冷却する工程と、冷却ドラム3の巻き取り胴部11の温度を測定する工程と、この温度測定の結果に基づいて、冷却ドラム3による金属線Mの巻き取り速度、及び、冷却ドラムの冷却程度の少なくとも一方を制御する工程を含んでおり、冷却ドラム3の冷却を、冷却ドラム3に冷却水を供給することによって行い、冷却ドラム3の冷却程度の制御を、上記冷却水Wの温度、及び、冷却水Wの冷却ドラム3への単位時間当たりの供給量の少なくとも一方によって行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属線の伸線方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、鋼線等の金属製素線を伸線ダイスのダイス孔に通過させることにより、この金属製素線を縮径して伸線する金属線の伸線方法に関する。
【背景技術】
【0002】
伸線加工においては、例えば鋼線が、この鋼線の外径より小径のダイス孔を通過させられる。これにより、鋼線は塑性変形を起こして断面積が減少する。鋼線は、塑性変形によって発熱し、高温化する。ダイス孔を通過した直後の鋼線の温度は、100°C以上になることが多い。鋼線は、長時間高温状態に維持されることにより、歪み時効が加速されて靭性が劣化しやすくなる。すなわち、鋼線は高温化により脆化しやすくなる。また、鋼線は、高温化により、ダイスに焼き付き、その表面に傷が生じたり、断線するおそれがある。この高温化防止のために、伸線された鋼線は冷却される。
【0003】
このような鋼線の伸線方法の一例が、特開平06−320213号公報に開示されている。この公報には、乾式連続伸線装置が開示されている。乾式連続伸線装置は、直列に配列された複数の伸線ダイスと、伸線ダイスごとにその後段に設けられた冷却ブロックとを備えている。処理対象である鋼線は、乾式潤滑剤が塗布された上で、各伸線ダイス及びその後段の冷却ブロックを順次通過させられる。
【0004】
冷却ブロックは、鋼線を巻き取ることにより、ダイスを通して引っ張る力を鋼線に加える。また、冷却ブロックは、伸線ダイスを通過するたびに高温化する鋼線を冷却する。この冷却ブロックは、水冷機構を採用している。この冷却ブロックが鋼線を冷却する目的は、高温化した鋼線が伸線ダイスへ焼き付くことを防止することである。
【0005】
各冷却ブロックの側面下部に対向して、放射温度計が設けられている。この放射温度計は、冷却ブロックに巻き取られた鋼線の表面温度を測定するためのものである。この測定値に基づいて、冷却ブロックの冷却程度等が制御される。
【0006】
特開平11−179426号公報には、上記装置とは異なる伸線装置が開示されている。この伸線装置では、良好な伸線加工を行うために、処理対象の金属線材を加熱炉によって予め加熱したうえで、ダイス孔を通過させる。この装置にも、線材の表面温度を測定するための放射温度計が設置されている。この装置においては、加熱炉から伸線ダイスへ移動する最中の線材の表面温度が測定される。この測定値に基づいて、加熱炉の温度制御がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−320213号公報
【特許文献2】特開平11−179426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開平06−320213号公報に開示された装置のように、処理対象の線材の表面温度を測定する場合、ある一定点に固定された温度計により、高速で周回する金属線の表面温度を測定するため、安定した正確な温度測定が難しい、という問題がある。
【0009】
特開平11−179426号公報に開示された装置のように、加熱炉から伸線ダイスに移動中の線材の表面温度を測定する場合、上記問題があることに加えて、正確な測定が一層難しい。すなわち、線材が振動しつつ高速で移動するので、測定装置の検出部を揺動させたとしても、正確な測定は難しい。
【0010】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、伸線後の金属線を、脆化等の防止のために適正な温度に制御することができる金属線の伸線方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る金属線の伸線方法は、
伸線ダイスを通過させて縮径した金属線を、線材巻き取り胴部を有する冷却ドラムによって巻き取る工程を含む、金属線の伸線方法であって、
冷却ドラムを冷却する工程と、
上記冷却ドラムの巻き取り胴部の温度を測定する工程と、
この温度測定の結果に基づいて、冷却ドラムによる金属線の巻き取り速度、及び、冷却ドラムの冷却程度の少なくとも一方を制御する工程を含んでいる。
【0012】
かかる伸線方法によれば、金属線の温度の安定化のための検出量及び制御量を、冷却ドラムの胴部の温度としているため、その測定が正確且つ安定している。
【0013】
好ましくは、上記冷却ドラムの冷却は、冷却ドラムに冷却水を供給することによって行われ、冷却ドラムの冷却程度の制御は、上記冷却水の温度、及び、冷却水の冷却ドラムへの単位時間当たりの供給量の少なくとも一方によって行われる。
【0014】
好ましくは、上記巻き取り胴部の温度の測定を、巻き取り胴部に形成された穴に挿入された温度計によって行う。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る金属線の伸線方法によれば、金属線の温度を適正な範囲に維持するための制御量及び検出量(測定量)が冷却ドラムの温度であるため、安定且つ正確な測定が可能であり、その結果、効果的な制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る金属線の伸線方法を実施するために採用されうる伸線装置の一例を示す一部断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0018】
図1に示された伸線装置1は、ダイスセット2と冷却ドラム3とを備えている。乾式伸線装置では、ダイスセット2内に乾式潤滑剤が充填されている。金属線Mがダイスを通過するときに、乾式潤滑剤が金属線Mの周囲に付着する。乾式連続伸線装置では、上記ダイスセット2及び冷却ドラム3を含むユニットが、直列に複数ユニット設置される。
【0019】
ダイスセット2は、伸線ダイス(以下、単にダイスという)4がダイスホルダ(ダイスケース、ダイスハウジングともいう)5に装着された状態のものである。金属線の伸線加工時には、外径D1を有する金属素線がダイス孔6に挿通される。この金属素線が伸線されて、その外径がD2に縮小される。伸線による金属素線の減面率(%)は、(D1− D2)/D1 ×100で表される。伸線された金属線Mは、冷却ドラム3によって巻き取られる。冷却ドラム3に巻き取られた金属線Mは、この冷却ドラム3によって冷却される。冷却ドラム3に巻き取られた金属線Mは、図示しない転向プーリによって方向を変えられ、下流側の図示しないダイスに挿通される。このようにして、金属線Mに対して、伸線及び冷却が繰り返される。
【0020】
図1に示されるように、冷却ドラム3には、水冷式の冷却機構が採用されている。冷却ドラム3は、金属線Mを巻き取る切頭円錐状の胴部11、及び、この胴部11を回転可能に支持する支持台12を有している。金属線Mは、胴部11の外周面に巻き取られる。支持台12は、切頭円錐状の静止壁部13、及び、円環状の静止土台部14を有している。静止壁部13は、胴部11と同軸状に胴部11の内側に配置されている。静止土台部14は、胴部11の下端に当接し、これを回転可能に支持している。静止壁部13と静止土台部14とは、一体に連続している。
【0021】
静止壁部13の内側に、胴部11と同軸状に、回転支持部材15が設けられている。この回転支持部材15の上端部近傍から、複数本の梁部材16が放射状に延びている。各梁部材16の先端は、胴部11の内周面に固定されている。梁部材16によって胴部11と回転支持部材15とがしっかりと固定されている。回転支持部材15の下端には、駆動モータ17の出力軸が、減速ギア18を介して連結されている。この駆動モータ17により、回転支持部材15及び胴部11が一体で回転駆動される。このとき、もちろん、支持台部12は回転せずに静止している。
【0022】
胴部11の内周面と静止壁部13の外周面とにより、それらの間に、冷却水Wが充填される水槽部19が形成されている。この水槽部19の底面は、上記静止土台部14の上面の一部分である。胴部11の下面と静止土台部14の上面との間に、液シール用のシール部材20が介装されている。静止壁部13の内側には、この水槽部19に冷却水Wを供給するための給水配管21が設けられている。水槽部19の底部には、水槽部19から冷却水Wを排出するための排水配管22が設けられている。
【0023】
胴部11が回転することにより、水槽部19内の冷却水Wは、胴部11の内周面と静止した静止壁部13の外周面との間でかき混ぜられ、水温の均一化が図られる。これにより、胴部11に巻き取られた金属線Mが効率的に冷却される。特に、水槽部19内に冷却水Wを貯めることには限定されない。たとえば、給水配管21から注水しつつ、排水は嵌22から排水してもよい。胴部11が回転するので、注水された冷却水Wは、胴部11の内周面に効率良く拡散しうる。
【0024】
胴部11には、上下方向に穴23が形成されている。この穴23には、胴部11の温度を測定するための温度測定器24が挿入されている。胴部11の正確な温度を測定するために、穴23の上下両端は封じられているのが好ましい。温度測定器24として、本実施形態では熱電対が使用されている。しかし、本発明では、熱電対に限定されることはなく、例えば、サーミスタを用いた温度計、バイメタルを用いた温度計等が採用されうる。
【0025】
上記温度測定器24による胴部11の温度測定は、胴部11に巻き取られた金属線Mの温度を推測するためのものである。従って、温度測定器24は、熱電対の測定端が胴部11の金属線Mが巻き付けられる範囲に位置するように設置される。熱電対の測定端は、例えば、胴部11における金属線の入線位置に対応する高さ位置に設置されてもよい。また、複数本の熱電対が、胴部11の金属線Mが巻き付けられる範囲に、測定端が上下方向に間隔をおいて配置されるように設置されてもよい。この場合、これら複数本の熱電対は、胴部11の周方向に間隔をおいて形成された複数個の穴に装着されてもよい。胴部11の肉厚方向における熱電対の測定端の位置は、例えば、表面から5mm以上10mm以下の範囲で設定される。この温度測定器24では、測定端が検出対象(測定対象)である胴部11に固定されている。測定端と測定対象である胴部11との間に相対移動が生じない。従って、安定且つ正確な温度測定が可能である。
【0026】
上記伸線装置1には、胴部11の温度制御を行うための図示しない制御装置が装備されている。この制御装置は、冷却水の温度、冷却水の単位時間当たりの供給量(給水流量)、金属線の巻き取り速度等を制御することができる。具体的には、制御装置は、給水源又は給水配管21に設置された図示しない加熱装置及び冷却装置の設定温度を変更する。制御装置は、給水配管21の図示しない給水ポンプの回転数又は流量調整弁の開度を変更する。制御装置は、上記駆動モータ17の回転数を変更する。これらは、上記制御装置による制御対象の一例である。
【0027】
上記装置1を用いた伸線方法の一例が以下に説明される。制御装置には、胴部11の温度の許容範囲が設定されている。この胴部11の測定温度の許容範囲は、金属線の許容温度範囲に基づいて設定される。金属線温度の下限値は例えば20°Cであり、上限値は好ましくは150°Cであり、さらに好ましくは100°Cである。この場合、制御装置に設定される胴部11の温度の許容範囲は、例えば10°C以上80°C以下とするのが好ましい。さらに好ましくは、15°C以上50°C以下である。金属線Mは、胴部11の測定温度が上記範囲に規制されることにより、脆化が防止されうる。
【0028】
上記胴部11の温度の許容範囲は、金属線Mの線径、ダイスによる金属線Mの減面率、金属線Mの材質、伸線速度、胴部11への金属線Mの巻き付け回数等に応じて変更設定されうる。
【0029】
制御装置は、温度測定器による測定温度が80°Cを超えたとき、冷却水の温度を低下させる指令、及び/又は、冷却水の供給量を増加させる指令を発信する。この指令により、例えば、上記冷却装置が作動して冷却水を冷却したり、上記給水ポンプの回転数又は流量調整弁の開度が増大して冷却水の供給量が増加する。上記冷却装置が常時稼働している場合には、上記指令により、冷却装置の設定温度が低下させられる。
【0030】
以上により、測定温度が所定基準値(例えば80°Cより10°C低い70°C)を下回ったとき、制御装置は、例えば、冷却装置の動作を停止する指令を発信したり、給水ポンプの回転数又は流量調整弁の開度を上記増大指令前の回転数及び開度まで低減する指令を発信する。以上の制御に代えて、又は、以上の制御に加えて、制御装置は、測定温度が80°Cを超えたとき、上記駆動モータ17に対して伸線速度(巻き取り速度)を低下させる指令を発信してもよい。以上の制御は一例である。
【0031】
制御装置は、温度測定器による測定温度が10°Cを下回ったとき、冷却水の温度を上昇させる指令、及び/又は、冷却水の供給量を低減させる指令を発信する。この指令により、例えば、上記加熱装置が作動して冷却水を加熱したり、上記給水ポンプの回転数又は流量調整弁の開度が減少して冷却水の供給量が低下する。加熱装置が常時稼働している場合は、上記指令により、加熱装置の設定温度が上昇させられる。
【0032】
以上により、測定温度が所定基準値(例えば10°Cより10°C高い20°C)を超えたとき、制御装置は、例えば、加熱装置の動作を停止する指令を発信したり、給水ポンプの回転数又は流量調整弁の開度を上記減少指令前の回転数及び開度まで増大する指令を発信する。以上の制御に代えて、又は、以上の制御に加えて、制御装置は、測定温度が10°Cを超えたとき、上記駆動モータ17に対して伸線速度を上昇させる指令を発信してもよい。以上の制御は一例である。
【0033】
伸線加工の途中で伸線速度を変化させると、金属線の長手方向で品質が変化する可能性がある。従って、伸線加工中に伸線速度を変更する制御を採用する場合は、予め、試験加工を行い、伸線速度と、金属線Mの線径、ダイスによる金属線Mの減面率、金属線Mの材質等との相関関係を把握しておくのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る金属線の伸線方法は、各種金属線を縮径して伸線する加工に適用される。
【符号の説明】
【0035】
1・・・伸線装置
2・・・ダイスセット
3・・・冷却ドラム
4・・・ダイス
5・・・ダイスホルダ
6・・・ダイス孔
11・・・胴部
12・・・支持台
13・・・静止壁部
14・・・静止土台部
15・・・回転支持部材
16・・・梁部材
17・・・駆動モータ
18・・・減速ギア
19・・・水槽部
20・・・シール部材
21・・・給水配管
22・・・排水配管
23・・・穴
24・・・温度測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸線ダイスを通過させて縮径した金属線を、線材巻き取り胴部を有する冷却ドラムによって巻き取る工程を含む、金属線の伸線方法であって、
冷却ドラムを冷却する工程と、
上記冷却ドラムの巻き取り胴部の温度を測定する工程と、
この温度測定の結果に基づいて、冷却ドラムによる金属線の巻き取り速度、及び、冷却ドラムの冷却程度の少なくとも一方を制御する工程を含む、金属線の伸線方法。
【請求項2】
上記冷却ドラムの冷却を、冷却ドラムに冷却水を供給することによって行い、
冷却ドラムの冷却程度の制御を、上記冷却水の温度、及び、冷却水の冷却ドラムへの単位時間当たりの供給量の少なくとも一方によって行う、請求項1に記載の金属線の伸線方法。
【請求項3】
上記巻き取り胴部の温度の測定を、巻き取り胴部に形成された穴に挿入された温度計によって行う、請求項1又は2に記載の金属線の伸線方法。

【図1】
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