説明

金属線材の熱処理装置

【課題】 本発明の目的は、コンパクトな構成で且つ少ない工数で伸線潤滑剤の炉内への持ち込みを解決し、金属線材の表面疵を防止できる金属線材の熱処理装置を提供することである。
【解決手段】 本発明は、加熱炉と冷却装置とを有し、前記加熱炉と前記冷却装置とに複数の金属線材を並列で連続的に挿入しながら該金属線材を熱処理する金属線材の熱処理装置において、前記加熱炉の前段に前記金属線材の表面を研磨する研磨機と前記金属線材の表面を拭取る拭取り機とが順に配置され、前記金属線材は前記研磨機、前記拭取り機、前記加熱炉、および前記冷却装置の順で通線される金属線材の熱処理装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺の金属線材を通線させて連続熱処理する金属線材の熱処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺の金属線材に所定の性質を得るために行なう、焼なましや焼入れおよび焼戻し等の熱処理は、熱処理炉内にパイプを横設し、該パイプ内を水素ガスや窒素ガスなどの非酸化雰囲気に保持して、長尺の金属線材をパイプ内の長手方向に通線させることにより連続熱処理する方法が一般的に用いられている。この連続熱処理の方法では、前工程の引抜き工程で金属線材表面に塗布されるステアリン酸ナトリウム等の石鹸系、あるいはステアリン酸カルシウム等の金属石鹸系を主成分とする伸線潤滑剤の一部がパイプ内に持ち込まれて溶融分解し、パイプ内面に付着することがある。そして、この付着物とパイプ内を通線する金属線材とが直接接触し、金属線材の表面にスリ疵が発生する場合があった。
【0003】
このような金属線材の表面疵を防止するために、熱処理炉内のパイプ内面の所定周長に亘って耐熱クロスで覆いながら金属線材を通線させて連続熱処理する方法が提案されている(特許文献1)。特許文献1では、熱処理の前段階で金属線材の表面を洗浄する洗浄装置を用いることで伸線潤滑剤を除去するため、付着物に起因するスリ疵のリスクを低減できる。また、熱処理炉内のパイプ内面を耐熱クロスで所定周長覆うことで、パイプ内周面と金属線材とが直接接触することを抑制し、金属線材への表面疵を防止するという効果もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−50645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者の検討によると、特許文献1に開示される熱処理の前段階で行う金属表面の洗浄では、伸線潤滑剤の滓が完全に落ち切らずに炉内へ持ち込まれ、耐熱クロス上に堆積する場合があることを確認した。そして、この堆積した伸線潤滑剤の滓が金属線材表面と直接接触することにより、金属線材の表面疵を誘発するという問題があった。
また、特許文献1で開示される洗浄装置を用いる場合には、金属線材の表面を長時間洗浄槽に浸漬して洗浄し続けなければ伸線潤滑剤を落とすことができず、装置の長大化や工数の増加が重なり経済的に不利である。
本発明の目的は、コンパクトな構成で且つ少ない工数で金属線材表面に付着した伸線潤滑剤を除去でき、伸線潤滑剤の炉内への持ち込みの問題を解決し、金属線材の表面疵を防止できる金属線材の熱処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、伸線潤滑剤の炉内への持ち込みの問題を検討し、加熱炉の前段に前記金属線材の表面を研磨する研磨機と、前記金属線材の表面を拭取る拭取り機とを順に配置する構成を採用することで、伸線潤滑剤の炉内への持ち込みを抑制し、金属線材の表面疵を大きく改善できることを見出し本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明は、加熱炉と冷却装置とを有し、前記加熱炉と前記冷却装置とに複数の金属線材を並列で連続的に挿入しながら該金属線材を熱処理する金属線材の熱処理装置において、前記加熱炉の前段に前記金属線材の表面を研磨する研磨機と前記金属線材の表面を拭取る拭取り機とが順に配置され、前記金属線材は前記研磨機、前記拭取り機、前記加熱炉、および前記冷却装置の順で通線される金属線材の熱処理装置である。
また、前記研磨機は、並列した前記金属線材に駆動可能な回転軸を有する円筒体を接触させながら研磨するものであることが好ましい。
また、前記研磨機においては、前記円筒体が前記金属線材の通線方向に千鳥状に複数本配置されることが好ましく、前記円筒体が回転軸方向に揺動することがより好ましい。
【0008】
また、前記拭取り機は、通線方向に固定された拭取り布または紙で前記金属線材の表面に押圧しながら前記金属線材を通線して拭取るものであることが好ましい。
また、本発明においては、前記研磨機と前記拭取り機との間に、前記金属線材の表面を溶媒により洗浄する洗浄機を配置することが好ましい。
また、前記溶媒は、酸性水を用いることが好ましい。
また、前記溶媒に超音波を印加することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加熱炉の前段に金属線材の表面を研磨する研磨機と金属線材の表面を拭取る拭取り機とを順に配置することで、金属線材表面の塗布されている伸線潤滑剤を効率的に除去できる。これにより本発明は、伸線潤滑剤の炉内への持ち込みの問題を解決し、金属線材の表面疵を飛躍的に改善することができ、金属線材の量産化にとって欠くことのできない技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の熱処理装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の熱処理装置の別の例を示す模式図である。
【図3】本発明の熱処理装置に備えられる研磨機の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の熱処理装置に備えられる拭取り機の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の熱処理装置に備えられる洗浄機の一例を示す模式図である。
【図6】金属線材表面の走査型電子顕微鏡観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の重要な特徴は、金属線材の連続熱処理装置において、加熱炉の前段に金属線材の表面を研磨する研磨機と、金属線材の表面を拭取る拭取り機とを順に配置する構成を採用したことにある。
例えば、前工程で金属線材の表面に付着したステアリン酸カルシウム等の金属石鹸系を主成分とする伸線潤滑剤は、金属線材表面に塊状として固着しているものや、金属線材表面に薄く膜をつくるように付着しているものがある。上記で説明したように、この伸線潤滑剤の塊や薄い膜を除去するために、特許文献1に記載されるような洗浄装置を用いる場合は、金属線材の全面を長時間洗浄槽に浸漬して洗浄し続けなければ完全に落とすことができず、装置の長大化や工数の増加が重なり経済的に不利である。
【0012】
図1は、本発明の熱処理装置の一例を示す模式図である。図1において、複数本のコイル(図示せず)に巻かれた金属線材1は、並列にそれぞれのコイルから連続的に引き出されて研磨機2に入る。そして、前工程の伸線工程で金属線材表面に塗布された伸線潤滑剤が引き剥がされ、次いで拭取り機3により研磨機2で落としきれなかった細かな伸線潤滑剤が拭き取られる。続いて、それぞれの金属線材1は、パイプが並列に複数本横設(図示せず)してある加熱炉4を通り、次いで冷却装置5を通って冷却され、所定の特性を得るための熱処理をされた後に再びそれぞれのコイルに巻き取られる。ここで、加熱炉4と冷却装置5内部の金属線材を通線させるパイプ内部は、非酸化雰囲気に保持され、金属線材1の表面酸化を抑制する。
本発明の金属線材の熱処理装置は、複数本の金属線材を並列で同時に熱処理することにより、生産性を大幅に向上することができる。
【0013】
本発明は、図1に示すように、加熱炉4と冷却装置5で熱処理する前に、金属線材1の表面を研磨する研磨機2を設置することで、短時間で金属線材1の表面に塊や薄い膜で付着している伸線潤滑剤を浮かせ、容易に引き剥がすことができる。そして、研磨機2の後段に配置する拭取り機3で金属線材1の表面を拭取ることにより、引き剥がした伸線潤滑剤の残り滓や研磨粉を完全に除去することができる。これにより、本発明の熱処理装置は、伸線潤滑剤の加熱炉内への持ち込みを効果的に抑制し、金属線材の表面疵を防止できる。
【0014】
本発明で適用できる金属線材の表面を研磨する研磨機の一例を模式的に図3に示す。本発明の研磨機2は、例えば図3に示すように、複数(例えば6本)の金属線材1を並列で同時に通線させながら、並列した金属線材1の上下に、駆動可能な回転軸を有する円筒体7の研磨ブラシを千鳥状に配置する。そして、それぞれの金属線材1の表面に、円筒体7の周面相当部を構成する研磨ブラシを接触させながら通線して擦過することで研磨でき、金属線材1の表面に付着している伸線潤滑剤を容易に引き剥がすことができる。このとき、研磨ブラシの材質は、金属やプラスチック等が適用できる。
また、本発明で適用する研磨機は、ブラシの代わりに砥石を用いることができる。また、研磨機2は、研磨布等で金属線材1を挟み込んで研磨する構造のものであってもよい。
研磨機2としては、図3に示すように、円筒体7を用いることが好ましい。その理由は、円筒体7を回転させることにより、並列した金属線材1の表面に研磨力を付与することができる。円筒体7としては、研磨ブラシの他に、砥石を用いることができる。
本発明の研磨機の好ましい形態としては、金属線材1よりも柔らかい材質であるナイロン毛のブラシを使用することで、金属線材1の表面に疵を付けずに研磨することができる。このとき、円筒体7の研磨ブラシを金属線材1の通線方向と同方向または反対方向に回転させて、金属線材1の通線速度と相対速度差を持たせて金属線材1の表面を研磨することにより、金属線材1の表面に塊状や薄い膜となって固着した伸線潤滑剤を容易に引き剥がすことができる。
また、本発明の研磨機のより好ましい形態としては、複数(例えば3本)の円筒体7の研磨ブラシを回転させながら、それぞれの位相を替えて回転軸方向に揺動させることにより、金属線材1の上下面だけでなく、幅方向にも研磨力を加えることができ、金属線材1の表面全周を清浄にすることが可能となる。
【0015】
本発明の金属線材の熱処理装置は、金属線材の表面を研磨するだけでは、金属線材の表面から引き剥がした伸線潤滑剤の滓や研磨粉が金属線材の表面に再付着することがあるから、研磨機の後段に金属線材の表面を拭取る拭取り機を配置する。
本発明で適用できる金属線材の表面を拭取る拭取り機の一例を模式的に図4に示す。図4に示すように、本発明の拭取り機3は、複数(例えば6本)の金属線材1を並列で同時に通線させながら、それぞれの金属線材1の上下面および/または左右面に拭取り布8aまたは紙8aを固定治具8bで挟持する。そして、金属線材1の表面に拭取り布8aまたは紙8aを押し当て、押圧しながら金属線材1を通線することで、再付着した伸線潤滑剤の滓や研磨粉を拭取ることができる。なお、拭取り布8aまたは紙8aと固定治具8bは、金属線材1を通線したときに、金属線材1とともに移動してしまうのを防ぐために、スリット9で固定することが好ましい。
また、拭取り機3の後段にエアーワイパー(図示しない)を設置することがより好ましく、これにより拭取り布で除去しきれなかった伸線潤滑剤の滓や研磨粉をより確実に除去することができる。
【0016】
上記で説明したように、本発明の金属線材の熱処理装置は、加熱炉に金属線材を挿入する前に予め金属線材の表面を研磨する研磨機と、金属線材の表面を拭取る拭取り機とを順に配置することで、金属線材表面に付着している伸線潤滑剤の滓や研磨粉を容易に除去することができる。
本発明の金属線材の熱処理装置は、より細かな伸線潤滑剤の滓や研磨粉を完全に除去するために、図2に示す研磨機2と拭取り機3の間に、溶媒により金属線材1の表面を洗浄する洗浄機6を配置することが好ましい。
溶媒としては、溶剤以外に水、温水(典型的には30℃以上)を用いることができ、伸線潤滑剤の成分に応じて適宜選択できる。中でも、酸性水(典型的にはpH5以下)は、例えばステアリン酸カルシウム等の金属石鹸系を主成分とする伸線潤滑剤を金属線材表面から落としやすいという性質を有する。したがって、金属線材の表面にステアリン酸カルシウム等の金属石鹸系を主成分とする伸線潤滑剤が付着している場合は、溶媒として酸性水を用いることが好ましい。このとき、金属線材表面の付着物の組成に応じてpHを適宜選択することができる。
ここで、伸線工程を経た金属線材の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果の一例を図6(a)に示す。伸線工程を経た金属線材の表面は、濃灰色で示されるステアリン酸カルシウムを主成分とする伸線潤滑剤が全長に亘って付着している。この金属線材を、図3に示す研磨機2で研磨を行ない、次いで図5に示す洗浄機6で、溶媒としてpH3の酸性水を30℃で用いて、溶媒に後述する超音波振動を印加して金属線材の表面を洗浄すると、図6(b)に示すように、図6(a)にあった濃灰色で示される伸線潤滑剤が除去されたことがわかる。
【0017】
また、溶媒としての温水は、人体への影響が少なく、供給ならびに廃棄といった取扱いが容易である。そして、温水は、例えばステアリン酸ナトリウム等の石鹸系を主成分とする伸線潤滑剤を溶かしやすいという性質を有する。したがって、金属線材の表面にステアリン酸ナトリウム等の石鹸系を主成分とする伸線潤滑剤が付着している場合は、溶媒として温水を用いることが好ましい。
【0018】
本発明の金属線材の熱処理装置で適用できる洗浄機の一例を図5に示す。洗浄機6は、例えば図5に示すような、洗浄タンク11内に溶媒を浸し、溶媒内に複数(例えば6本)の金属線材1を並列で同時に通過させることで金属線材1の表面の伸線潤滑剤等を除去する装置が好適である。
図5に示す洗浄機6は、洗浄タンク11の前面と背面の一部に金属線材1が通過するためのスリット9を設けている。洗浄タンク11のスリット9の隙間から流れ出た溶媒は、戻り配管14を通り、リザーブタンク12に溜まり、ポンプ13によって再び洗浄タンク11に戻る構造となっている。ここで、本発明で適用する洗浄機としては、洗浄タンク11を通過した金属線材1の表面に溶媒をシャワー状に散水することが好ましい。これにより、本発明は、金属線材1の表面の伸線潤滑剤の滓や研磨粉を効果的に除去することもできる。
また、洗浄効果を促進させる補助機構として、洗浄タンク11内の底面には、超音波振動子10を設置し、溶媒に超音波振動を印加できるようにしておくことが好ましい。本発明で適用する洗浄機は、溶媒を振動させることで洗浄効果をより高めることができる。
また、図5に示す洗浄機6の入口および出口には、図4に示す拭取り機3をそれぞれ配置し、金属線材表面に付着している伸線潤滑剤の滓、研磨粉や溶媒を拭取ることがより好ましい。
【符号の説明】
【0019】
1.金属線材、2.研磨機、3.拭取り機、4.加熱炉、5.冷却装置、6.洗浄機、7.円筒体、8a.拭取り布、8b.拭取り布固定治具、9.スリット、10.超音波振動子、11.洗浄タンク、12.リザーブタンク、13.ポンプ、14.戻り配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉と冷却装置とを有し、前記加熱炉と前記冷却装置とに複数の金属線材を並列で連続的に挿入しながら該金属線材を熱処理する金属線材の熱処理装置において、前記加熱炉の前段に前記金属線材の表面を研磨する研磨機と前記金属線材の表面を拭取る拭取り機とが順に配置され、前記金属線材は前記研磨機、前記拭取り機、前記加熱炉、および前記冷却装置の順で通線されることを特徴とする金属線材の熱処理装置。
【請求項2】
前記研磨機は、並列した複数の前記金属線材に駆動可能な回転軸を有する円筒体を接触させながら研磨するものであることを特徴とする請求項1に記載の金属線材の熱処理装置。
【請求項3】
前記円筒体が前記金属線材の通線方向に千鳥状に複数本配置されることを特徴とする請求項2に記載の金属線材の熱処理装置。
【請求項4】
前記円筒体が回転軸方向に揺動することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の金属線材の熱処理装置。
【請求項5】
前記拭取り機は、通線方向に固定された拭取り布または紙で前記金属線材の表面に押圧しながら前記金属線材を通線して拭取るものであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の金属線材の熱処理装置。
【請求項6】
前記研磨機と前記拭取り機の間に、前記金属線材の表面を溶媒により洗浄する洗浄機が配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の金属線材の熱処理装置。
【請求項7】
前記溶媒は、酸性水であることを特徴とする請求項6に記載の金属線材の熱処理装置。
【請求項8】
前記溶媒に超音波を印加することを特徴とする請求項6または請求項7に記載の金属線材の熱処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate