説明

金属膜形成方法、金属パターン形成方法、金属膜、金属パターン、新規共重合ポリマー、及びポリマー層形成用組成物

【課題】基板との密着性に優れた金属膜を形成しうる金属膜形成方法を提供する。
【解決手段】(a1)基板上に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造を有し、該基板と直接化学結合したポリマーからなるポリマー層を形成する工程と、(a2)該ポリマー層にめっき触媒又はその前駆体を付与する工程と、(a3)該めっき触媒又はその前駆体に対してめっきを行う工程と、を有することを特徴とする金属膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属膜形成方法及びそれにより得られた金属膜、金属パターン形成方法及びそれにより得られた金属パターン、該金属膜形成方法又は金属パターン形成方法に用いうるポリマー層形成用組成物、及び該ポリマー層形成用組成物に適用しうる新規共重合ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、絶縁性基板の表面に金属パターンによる配線を形成した金属配線基板が、電子部品や半導体素子に広く用いられている。かかる金属パターン材料の作製方法としては、主に、「サブトラクティブ法」が使用される。サブトラクティブ法とは、基板表面に形成された金属膜上に、活性光線の照射により感光する感光層を設け、この感光層を像様露光し、その後現像してレジスト像を形成し、次いで、金属膜をエッチングして金属パターンを形成し、最後にレジストを剥離する方法である。
【0003】
この方法により得られる金属パターンにおいては、基板表面に凹凸を設けることにより生じるアンカー効果により、基板と金属膜との間の密着性を発現させている。そのため、得られた金属パターンの基板界面部の凹凸に起因して、微細な金属配線が形成できず、金属配線として使用する際の高周波特性が悪くなるという問題点があった。また、基板表面に凹凸化処理するためには、クロム酸などの強酸で基板表面を処理するが必要であるため、金属膜と基板との密着性に優れた金属パターンを得るためには、煩雑な工程が必要であるという問題点があった。
【0004】
この問題を解決するため、基板の表面にプラズマ処理を行い、基板表面に重合開始基を導入し、その重合開始基からモノマーを重合させて、基板表面に極性基を有する表面グラフトポリマーを生成させるという表面処理を行うことで、基板の表面を粗面化することなく、基板と金属膜との密着性を改良させる方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、この方法には、プラズマ処理という大掛かりな処理が必要であり、処理には大きなエネルギーが必要である。このため、簡便で、且つ基板と金属膜との密着性をより向上させうる方法が求められていた。
【非特許文献1】Advanced Materials 2000年 20号 1481−1494
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の技術の欠点を考慮してなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の第1の目的は、基板との密着性に優れた金属膜を形成しうる金属膜形成方法、及びそれにより得られた金属膜を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、基板との密着性に優れ且つ精細な金属パターンを形成しうる金属パターン形成方法、及びそれにより得られた金属パターンを提供することにある。
さらに、本発明の第3の目的は、基板上にめっき触媒又はその前駆体に対する吸着性に優れたポリマー層を形成し得るポリマー層形成用組成物を提供することにある。
さらに、本発明の第4の目的は、めっき触媒等の金属に対して充分な吸着性を有し、更に、重合性にも優れた新規共重合ポリマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、以下に示す金属膜形成方法、金属パターン形成方法、及びポリマー層形成用組成物により上記目的を達成しうることを見出した。即ち、前記課題を解決するため手段は以下の通りである。
【0007】
<1>(a1)基板上に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造を有し且つ該基板と直接化学結合したポリマーからなるポリマー層を形成する工程と、
(a2)該ポリマー層にめっき触媒又はその前駆体を付与する工程と、
(a3)該めっき触媒又はその前駆体に対してめっきを行う工程と、
を有することを特徴とする金属膜形成方法。
【0008】
<2> 前記(a3)工程では、無電解めっきが行われることを特徴とする請求項1に記載の金属膜形成方法。
<3> 前記無電解めっきの後に、更に電気めっきが行われることを特徴とする前記<2>に記載の金属膜形成方法。
【0009】
<4> 前記(a1)工程が、基板上に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造及び重合性基を有するポリマーを直接化学結合させることにより行われることを特徴とする前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の金属膜形成方法。
【0010】
<5> 前記(a1)工程が、(a1−1)基材上に、重合開始剤を含有する、又は重合開始可能な官能基を有する重合開始層が形成された基板を作製する工程と、(a1−2)該重合開始層に、該重合開始層に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造及び重合性基を有するポリマーを直接化学結合させる工程と、を含むことを特徴とする前記<4>に記載の金属膜形成方法。
【0011】
<6> 前記(a1−1)工程が、基材上に、重合開始可能な官能基及び架橋性基を有するポリマーを架橋反応により固定化してなる重合開始層が形成された基板を作製する工程であることを特徴とする前記<5>に記載の金属膜形成方法。
【0012】
<7> 前記吸着性基を2以上含む部分構造における一の吸着性基と他の吸着性基との間に存在する原子数が1〜5であることを特徴とする前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の金属膜形成方法。
<8> 前記吸着性基がシアノ基又はエーテル基であることを特徴とする前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の金属膜形成方法。
<9> 前記吸着性基がシアノ基であることを特徴とする前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の金属膜形成方法。
【0013】
<10> 前記<1>〜<9>のいずれか1項の金属膜形成方法により得られたことを特徴とする金属膜。
<11> (a4)前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の金属膜形成方法により得られた金属膜をパターン状にエッチングする工程を有することを特徴とする金属パターン形成方法。
【0014】
<12> (a1’)基板上に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造を有し且つ該基板と直接化学結合したポリマーからなるパターン状のポリマー層を形成する工程と、
(a2)該ポリマー層にめっき触媒又はその前駆体を付与する工程と、
(a3)該めっき触媒又はその前駆体に対してめっきを行う工程と、
を有することを特徴とする金属パターン形成方法。
【0015】
<13> 前記(a1’)工程が、(a1’−1)基材上に、重合開始剤を含有する重合開始層又は重合開始可能な官能基を有する重合開始層が形成された基板を作製する工程と、(a1’−2)該重合開始層に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造及び重合性基を有するポリマーをパターン状に直接化学結合させる工程と、を含むことを特徴とする前記<12>に記載の金属パターン形成方法。
【0016】
<14> 前記(a1’−1)工程が、基材上に、重合開始可能な官能基及び架橋性基を有するポリマーを架橋反応により固定化してなる重合開始層が形成された基板を作製する工程であることを特徴とする前記<13>に記載の金属パターン形成方法。
【0017】
<15> 前記吸着性基がシアノ基又はエーテル基であることを特徴とする前記<12>〜<14>のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法。
<16> 前記吸着性基がシアノ基であることを特徴とする前記<12>〜<14>のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法。
【0018】
<17> 前記<11>〜<16>のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法によりにより得られた金属パターン。
【0019】
<18> 下記一般式(A1)で表されるユニット、及び、下記一般式(A2)で表されるユニットを含む共重合ポリマー。
【0020】
【化1】

【0021】
一般式(A1)及び(A2)中、一般式中、R11〜R15は、各々独立に、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を表す。U、V及びWは、各々独立に、置換若しく無置換の2価の有機基、エステル基、アミド基、又はエーテル基を表す。L11、L12、L13、及びL14は、各々独立に、単結合、又は置換若しくは無置換の2価の有機基を表す。Xは、炭素原子、窒素原子、リン原子、ケイ素原子、ホウ素原子、及び水素原子から選択される原子を含んで構成される連結構造を表す。Y11及びZ11は、各々独立に、チオエーテル基、フォスフィン基、イミダゾール基、水酸基、ピリジン基、アミノ基、ピロリドン基、シアノ基、エーテル基、又は不飽和エチレン基を表す。
【0022】
<19> めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造及び重合性基を有するポリマーと、該ポリマーを溶解しうる溶剤と、を含有することを特徴とするポリマー層形成用組成物。
【0023】
<20> 前記溶剤が、非プロトン性溶剤であることを特徴とするポリマー層形成用組成物。
【0024】
<21> 前記めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造及び重合性基を有するポリマーが、前記<18>に記載の共重合ポリマーであることを特徴とする前記<19>又は<20>に記載のポリマー層形成用組成物。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、基板との密着性に優れた金属膜を形成しうる金属膜形成方法、及びそれにより得られた金属膜を提供することができる。
また、本発明によれば、基板との密着性に優れ且つ精細な金属パターンを形成しうる金属パターン形成方法、及びそれにより得られた金属パターンを提供することができる。
さに、本発明によれば、基板上にめっき触媒又はその前駆体に対する吸着性に優れたポリマー層を形成し得るポリマー層形成用組成物を提供することができる。
さらに、本発明によれば、めっき触媒等の金属に対して充分な吸着性を有し、更に、重合性にも優れた新規共重合ポリマーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0027】
<金属膜形成方法、金属パターン形成方法>
本発明の金属膜形成方法は、(a1)基板上に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造を有し且つ該基板と直接化学結合したポリマーからなるポリマー層を形成する工程と、(a2)該ポリマー層にめっき触媒又はその前駆体を付与する工程と、(a3)該めっき触媒又はその前駆体に対してめっきを行う工程と、を有することを特徴とする。
【0028】
本発明の第1の金属パターン形成方法は、(a4)本発明の金属膜形成方法により得られた金属膜をパターン状にエッチングする工程を有することを特徴とする。つまり、第1の金属パターン形成方法は、前述の金属膜形成方法における(a1)、(a2)、(a3)工程を行った後、形成された金属膜(めっき膜)をパターン状にエッチングする工程〔(a4)工程〕を行うものである。
【0029】
本発明の第2の金属パターン形成方法は、(a1’)基板上に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造を有し且つ該基板と直接化学結合したポリマーからなるパターン状のポリマー層を形成する工程と、(a2)基板上にめっき触媒又はその前駆体を付与する工程と、(a3)該めっき触媒又はその前駆体に対してめっきを行う工程と、を有することを特徴とする。つまり第2の金属パターン形成方法は、前述の金属膜形成方法における(a1)工程におけるポリマー層形成を、パターン状に行った後〔(a1’)工程〕、(a2)、(a3)工程を行うものである。
あることも好ましい態様である。
【0030】
なお、以下の説明では、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造を、適宜「多官能吸着性基ユニット」と称して説明する。
【0031】
本発明の金属膜形成方法及び金属パターン形成方法における特徴の一つは、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造(多官能吸着性基ユニット)を有し、該基板と直接化学結合したポリマーにより、基板上にポリマー層を形成することである。
【0032】
本発明における多官能吸着性基ユニットが奏する作用は未だ明確ではないが、その構造中に存在する2以上の吸着性基が、ポリマー層に付与されるめっき触媒又はその前駆体と相互作用する際にキレート構造を形成して配位しうるため、ポリマー層は付与されためっき触媒又はその前駆体を効率よく吸着することができるものと推測される。また、多官能吸着性基ユニットは、ポリマー層上にめっき膜が形成された場合において、銅などのめっき金属に対してもキレート構造を形成して配位しうることで、金属膜あるいは金属パターンと基板との密着性が向上に寄与するものと推測される。
【0033】
なお、多官能吸着性基ユニットを有し且つ該基板と直接化学結合したポリマーに関する説明は、後述する(a1)工程の説明において行う。
以下、本発明における各工程について説明する。
【0034】
〔(a1)工程〕
本発明の金属属形成方法における(a1)工程では、基板上に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造(多官能吸着性基ユニット)を有し且つ該基板と直接化学結合したポリマーからなるポリマー層を形成する。
【0035】
(a1)工程は、基板上に、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーを直接化学結合させることにより行われることが好ましい。
【0036】
また、(a1)工程は、(a1−1)基材上に、重合開始剤を含有する重合開始層又は重合開始可能な官能基を有する重合開始層が形成された基板を作製する工程と、(a1−2)該重合開始層に、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーを直接化学結合させる工程であることも好ましい態様である。
【0037】
(a1−1)工程は、基材上に、重合開始可能な官能基及び架橋性基を有するポリマーを架橋反応により固定化してなる重合開始層が形成された基板を作製する工程であることも好ましい。
【0038】
(a1−2)工程は、重合開始層上に多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーを接触させた後、エネルギーを付与することにより、基板表面全体(重合開始層表面全体)に当該ポリマーを直接化学結合させる工程であることが好ましい。
【0039】
(表面グラフト)
基板上におけるポリマー層の形成は、一般的な表面グラフト重合と呼ばれる手段を用いる。グラフト重合とは、高分子化合物鎖上に活性種を与え、これによって重合を開始する別の単量体を更に重合させ、グラフト(接ぎ木)重合体を合成する方法である。特に、活性種を与える高分子化合物が固体表面を形成する時には、表面グラフト重合と呼ばれる。
【0040】
本発明に適用される表面グラフト重合法としては、文献記載の公知の方法をいずれも使用することができる。例えば、新高分子実験学10、高分子学会編、1994年、共立出版(株)発行、p135には表面グラフト重合法として光グラフト重合法、プラズマ照射グラフト重合法が記載されている。また、吸着技術便覧、NTS(株)、竹内監修、1999.2発行、p203、p695には、γ線、電子線などの放射線照射グラフト重合法が記載されている。光グラフト重合法の具体的方法としては、特開昭63−92658号公報、特開平10−296895号公報及び特開平11−119413号公報に記載の方法を使用することができる。
【0041】
本発明におけるポリマー層を形成する際には、上記の表面グラフト法以外にも、高分子化合物鎖の末端に、トリアルコキシシリル基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基などの反応性官能基を付与し、これと基板表面に存在する官能基とのカップリング反応により結合させる方法を適用することもできる。これらの方法の中でも、より多くのグラフトポリマーを生成する観点からは、光グラフト重合法を用いてポリマー層を形成することが好ましい。
【0042】
〔基板〕
本発明における「基板」とは、その表面が多官能吸着性基ユニットを有するポリマーが直接化学結合した状態を形成しうる機能を有するものであり、基板自体がこのような表面特性を有するものであってもよく、また、該基材上に別途中間層(例えば、後述する重合開始層)を設け、該中間層がこのような特性を有するものであってもよい。
【0043】
(基材、基板)
本発明に使用される基材は、寸度的に安定な板状物であることが好ましく、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、ポリイミド、エポキシ、ビスマレインイミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン等)、上記の如き金属がラミネート若しくは蒸着された紙又はプラスチックフィルム、等が含まれる。
【0044】
本発明に使用される基材としては、エポキシ樹脂、又はポリイミド樹脂が好ましい。また、これらの樹脂中に、ガラス繊維などを含有させたものも好ましい。
【0045】
なお、これらの基材表面が、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する官能基を有するポリマーが直接化学結合した状態を形成しうる機能を有している場合には、その基材そのものを基板として用いてもよい。
【0046】
本発明における基板としては、特開2005−281350号公報の段落番号[0028]〜[0088]に記載の重合開始部位を骨格中に有するポリイミドを含む基材を用いることもできる。
【0047】
また、本発明の金属パターン材料の作製方法により得られた金属パターン材料は、半導体パッケージ、各種電気配線基板等に適用することができる。このような用途に用いる場合は、以下に示す、絶縁性樹脂を含んだ基板、具体的には、絶縁性樹脂からなる基板、又は、絶縁性樹脂からなる層を基材上に有する基板を用いることが好ましい。
【0048】
絶縁性樹脂からなる基板、絶縁性樹脂からなる層を得る場合には、公知の絶縁性樹脂組成物が用いられる。この絶縁性樹脂組成物には、主たる樹脂に加え、目的に応じて種々の添加物を併用することができる。例えば、絶縁層の強度を高める目的で、多官能のアクリレートモノマーを添加する、絶縁体層の強度を高め、電気特性を改良する目的で、無機、若しくは有機の粒子を添加する、などの手段をとることもできる。
【0049】
なお、本発明における「絶縁性樹脂」とは、公知の絶縁膜や絶縁層に使用しうる程度の絶縁性を有する樹脂であることを意味するものであり、完全な絶縁体でないものであっても、目的に応じた絶縁性を有する樹脂であれば、本発明に適用しうる。
【0050】
絶縁性樹脂の具体例としては、例えば、熱硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂でもまたそれらの混合物でもよく、例えば、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリオレフィン系樹脂、イソシアネート系樹脂等が挙げられる。
【0051】
エポキシ樹脂としては、例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、トリグリシジルイソシアヌレート、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。それにより、耐熱性等に優れるものとなる。
【0052】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、シクロオレフィン系樹脂、これらの樹脂の共重合体等が挙げられる。
【0053】
熱可塑性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニルエーテル、ポリエーテルイミド等が挙げられる。
【0054】
その他の熱可塑性樹脂としては、1,2−ビス(ビニルフェニレン)エタン樹脂(1,2−Bis(vinylphenyl)ethane)、若しくはこれとポリフェニレンエーテル樹脂との変性樹脂(天羽悟ら、Journal of Applied Polymer Science Vol.92,1252-1258(2004)に記載)、液晶性ポリマー(具体的には、クラレ製のベクスターなど)、フッ素樹脂(PTFE)などが挙げられる。
【0055】
熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。これはそれぞれの欠点を補いより優れた効果を発現する目的で行われる。例えば、ポリフェニレンエーテル(PPE)などの熱可塑性樹脂は熱に対しての耐性が低いため、熱硬化性樹脂などとのアロイ化が行われている。たとえば、PPEとエポキシ、トリアリルイソシアネートとのアロイ化、或いは重合性官能基を導入したPPE樹脂とそのほかの熱硬化性樹脂とのアロイ化として使用される。またシアネートエステルは熱硬化性の中ではもっとも誘電特性の優れる樹脂であるが、それ単独で使用されることは少なく、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、熱可塑性樹脂などの変性樹脂として使用される。これらの詳細に関しては、“電子技術”2002/9号、P35に記載されている。また、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂及び/又はフェノール樹脂を含み、熱可塑性樹脂としてフェノキシ樹脂及び/又はポリエーテルスルフォン(PES)を含むものも誘電特性を改善するために使用される。
【0056】
絶縁性樹脂組成物には、架橋を進めるために重合性の二重結合を有する化合物のようなもの、具体的には、アクリレート、メタクリレート化合物を含有していてもよく、特に多官能のものが好ましい。そのほか、重合性の二重結合を有する化合物として、熱硬化性樹脂、若しくは熱可塑性樹脂、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂等に、メタクリル酸やアクリル酸等を用い、樹脂の一部を(メタ)アクリル化反応させた樹脂を用いてもよい。
【0057】
本発明における絶縁性樹脂組成物には、樹脂被膜の機械強度、耐熱性、耐候性、難燃性、耐水性、電気特性などの特性を強化するために、樹脂と他の成分とのコンポジット(複合素材)も使用することができる。複合化するのに使用される材料としては、紙、ガラス繊維、シリカ粒子、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂などを挙げることができる。
【0058】
更に、この絶縁性樹脂組成物には必要に応じて一般の配線板用樹脂材料に用いられる充填剤、例えば、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムなどの無機フィラー、硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリルポリマーなどの有機フィラーを一種又は二種以上配合してもよい。
また、更に、この絶縁性樹脂組成物には、必要に応じて着色剤、難燃剤、接着性付与剤、シランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、などの各種添加剤を一種又は二種以上添加してもよい。
【0059】
これらの材料を絶縁性樹脂組成物に添加する場合は、いずれも、樹脂に対して、1〜200質量%の範囲で添加されることが好ましく、より好ましくは10〜80質量%の範囲で添加される。この添加量が、1質量%未満である場合は、上記の特性を強化する効果がなく、また、200質量%を超えると場合には、樹脂特有の強度などの特性が低下する。
【0060】
このような用途に用いる場合の基板として、具体的には、1GHzにおける誘電率(比誘電率)が3.5以下である絶縁性樹脂からなる基板であるか、又は、該絶縁性樹脂からなる層を基材上に有する基板であることが好ましい。また、1GHzにおける誘電正接が0.01以下である絶縁性樹脂からなる基板であるか、又は、該絶縁性樹脂からなる層を基材上に有する基板であることが好ましい。
【0061】
絶縁性樹脂の誘電率及び誘電正接は、常法により測定することができる。例えば、「第18回エレクトロニクス実装学会学術講演大会要旨集」、2004年、p189、に記載の方法に基づき、空洞共振器摂動法(例えば、極薄シート用εr、tanδ測定器、キーコム株式会社製)を用いて測定することができる。
【0062】
このように、本発明においては誘電率や誘電正接の観点から絶縁樹脂材料を選択することも有用である。誘電率が3.5以下であり、誘電正接が0.01以下の絶縁性樹脂としては、液晶ポリマー、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、シアネートエステル樹脂、ビス(ビスフェニレン)エタン樹脂などが挙げられ、更にそれらの変性樹脂も含まれる。
【0063】
本発明において、基板表面に活性種を与え、それを起点としてグラフトポリマーを生成させる表面グラフト重合法を用いる場合、グラフトポリマーの生成に際しては、基材上に、重合開始剤を含有する、又は重合開始可能な官能基を有する重合開始層を形成した基板を用いることが好ましい。この基板を用いることで、活性点を効率よく発生させ、より多くのグラフトポリマーを生成させることができる。
以下、本発明における重合開始層について説明する。
【0064】
(重合開始層)
本発明における重合開始層としては、高分子化合物と重合開始剤とを含む層や、重合性化合物と重合開始剤とを含む層、重合開始可能な官能基を有する層が挙げられる。
【0065】
本発明における重合開始層は、必要な成分を、溶解可能な溶媒に溶解し、塗布などの方法で基材表面に設け、加熱又は光照射により硬膜することで、形成することができる。
【0066】
本発明における重合開始層に用いられる化合物としては、基材との密着性が良好であり、且つ、活性光線照射などのエネルギー付与により、活性種を発生するものであれば特に制限なく用いることができる。具体的には、多官能モノマーや分子内に重合性基を有する疎水性ポリマーと、重合開始剤とを混合したものが用いることができる。
【0067】
このような分子内に重合性基を有する疎水性ポリマーとしては、具体的には、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリぺンタジエンなどのジエン系単独重合体、アリル(メタ)アクリレー卜、2−アリルオキシエチルメタクリレー卜などのアリル基含有モノマーの単独重合体;
ブタジエン、イソプレン、ペンタジエンなどのジエン系単量体又はアリル基含有モノマーを構成単位として含む、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリルなどの二元又は多元共重合体;
不飽和ポリエステル、不飽和ポリエポキシド、不飽和ポリアミド、不飽和ポリアクリル、高密度ポリエチレンなどの分子中に炭素−炭素二重結合を有する線状高分子又は3次元高分子類;などが挙げられる。
【0068】
なお、本明細書では、「アクリル、メタクリル」の双方或いはいずれかを指す場合、「(メタ)アクリル」と表記することがある。
【0069】
これらの重合性化合物の含有量は、重合性層中、固形分で10〜100質量%の範囲が好ましく、10〜80質量%の範囲が特に好ましい。
【0070】
重合開始層には、エネルギー付与により重合開始能を発現させるための重合開始剤を含有する。ここで用いられる重合開始剤は、所定のエネルギー、例えば、活性光線の照射、加熱、電子線の照射などにより、重合開始能を発現し得る公知の熱重合開始剤、光重合開始剤などを、目的に応じて、適宜選択して用いることができる。中でも、光重合を利用することが製造適性の観点から好適であり、このため、光重合開始剤を用いることが好ましい。
【0071】
光重合開始剤は、照射される活性光線に対して活性であり、これを含む重合開始層から表面グラフト重合が可能なものであれば、特に制限はなく、例えば、ラジカル重合開始剤、アニオン重合開始剤、カチオン重合開始剤などを用いることができるが、反応性の観点からはラジカル重合開始剤が好ましい。
【0072】
そのような光重合開始剤としては、具体的には、例えば、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2’−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンの如きアセトフェノン類;ベンゾフェノン(4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、の如きケトン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルの如きベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの如きベンジルケタール類、などが挙げられる。
重合開始剤の含有量は、重合開始層中、固形分で0.1〜70質量%の範囲が好ましく、1〜40質量%の範囲が特に好ましい。
【0073】
上記重合性化合物及び重合開始剤を塗布する際に用いる溶媒は、それらの成分が溶解するものであれば特に制限されない。乾燥の容易性、作業性の観点からは、沸点が高すぎない溶媒が好ましく、具体的には、沸点40℃〜150℃程度のものを選択すればよい。
具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、3−メトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メトキシプロピルアセテートなどが挙げられる。
これらの溶媒は、単独或いは混合して使用することができる。そして塗布溶液中の固形分の濃度は、2〜50質量%が適当である。
【0074】
重合開始層を基材上に形成する場合の塗布量は、十分な重合開始能の発現、及び、膜性を維持して膜剥がれを防止するといった観点からは、乾燥後の質量で、0.1g/m〜20g/mが好ましく、更に、0.5g/m〜15g/mが好ましい。
【0075】
本発明においては、上記のように、基材上に上記の重合開始層形成用の組成物を塗布などにより配置し、溶剤を除去することにより成膜させて重合開始層を形成するが、この時、加熱及び/又は光照射を行って硬膜することが好ましい。特に、加熱により乾燥した後、光照射を行って予備硬膜しておくと、重合性化合物のある程度の硬化が予め行なわれるので、重合開始層上にグラフトポリマーが生成した後に重合開始層ごと脱落するといった事態を効果的に抑制し得るため好ましい。
【0076】
加熱温度と時間は、塗布溶剤が充分乾燥し得る条件を選択すればよいが、製造適正の点からは、温度が100℃以下、乾燥時間は30分以内が好ましく、乾燥温度40〜80℃、乾燥時間10分以内の範囲の加熱条件を選択することがより好ましい。
【0077】
加熱乾燥後に所望により行われる光照射は、後述するグラフトポリマーの生成反応に用いる光源を用いることができる。引き続き行われるグラフトポリマー生成工程において、エネルギー付与により発生する重合開始層の活性点と、グラフトポリマーの生成を阻害しないという観点からは、重合開始層中に存在する重合開始剤が重合性化合物を硬化する際にラジカル重合しても、完全に消費しない程度に光照射することが好ましい。光照射時間については、光源の強度により異なるが、一般的には30分以内であることが好ましい。このような予備硬化の目安としては、溶剤洗浄後の膜残存率が80%以下となり、且つ、予備硬化後の開始剤残存率が1%以上であることが、挙げられる。
【0078】
また、上記の重合性化合物及び重合開始剤を含有する重合開始層以外に、特開2004−161995公報に記載の重合開始基が側鎖にペンダントしてなるポリマーを用いた重合開始層も好ましい。このポリマーは、具体的には、側鎖に重合開始能を有する官能基(重合開始基)及び架橋性基を有するポリマー(以下、重合開始ポリマーと称する。)であり、このポリマーにより、ポリマー鎖に結合した重合開始基を有し、かつ、そのポリマー鎖が架橋反応により固定化された形態の重合開始層を形成することができる。このようにして形成される重合開始層も、本発明における重合開始層として好適である。
【0079】
ここで用いられる重合開始ポリマーは、特開2004−161995号公報の段落番号〔0011〕〜〔0158〕に記載にものが挙げられる。重合開始ポリマーの特に好ましいものの具体例としては、以下に示すものが挙げられる。
【0080】
【化2】

【0081】
【化3】

【0082】
−重合開始層の成膜−
る重合開始ポリマーを用いてなる重合開始層は、上述の重合開始ポリマーを適当な溶剤に溶解し、塗布液を調製し、その塗布液を基材上に塗布などにより配置し、溶剤を除去し、架橋反応が進行することにより成膜する。つまり、この架橋反応が進行することにより、重合開始ポリマーが固定化される。この架橋反応による固定化には、重合開始ポリマーの自己縮合反応を使用する方法、及び架橋剤を併用する方法があり、架橋剤を用いることが好ましい。重合開始ポリマーの自己縮合反応を使用する方法としては、例えば、架橋性基が−NCOである場合、熱をかけることにより自己縮合反応が進行する性質を利用したものである。この自己縮合反応が進行することにより、架橋構造を形成することができる。
【0083】
また、架橋剤を併用する方法に用いられる架橋剤としては、山下信二編「架橋剤ハンドブック」に掲載されているような従来公知のものを用いることができる。
【0084】
重合開始ポリマー中の架橋性基と架橋剤との好ましい組み合わせとしては、(架橋性基,架橋剤)=(−COOH,多価アミン)、(−COOH,多価アジリジン)、(−COOH,多価イソシアネート)、(−COOH,多価エポキシ)、(−NH,多価イソシアネート)、(−NH,アルデヒド類)、(−NCO,多価アミン)、(−NCO,多価イソシアネート)、(−NCO,多価アルコール)、(−NCO,多価エポキシ)、(−OH,多価アルコール)、(−OH,多価ハロゲン化化合物)、(−OH,多価アミン)、(−OH,酸無水物)が挙げられる。中でも、架橋の後にウレタン結合が生成し、高い強度の架橋が形成可能であるという点で、(官能基,架橋剤)=(−OH,多価イソシアネート)が、更に好ましい組み合わせである。
【0085】
本発明における架橋剤の具体例としては、以下に示す構造のものが挙げられる。
【0086】
【化4】

【0087】
このような架橋剤は、重合開始層の成膜の際、上述の重合開始ポリマーを含有する塗布液に添加される。その後、塗膜の加熱乾燥時の熱により、架橋反応が進行し、強固な架橋構造を形成することができる。より詳細には、下記のex1.で示される脱水反応やex2.で示される付加反応により架橋反応が進行し、架橋構造が形成される。これらの反応における温度条件としては、50℃以上300℃以下が好ましく、更に好ましくは80℃以上200℃以下である。
【0088】
【化5】

【0089】
また、塗布液中の架橋剤の添加量としては、重合開始ポリマー中に導入されている架橋性基の量により変化するが、架橋度合や、未反応の架橋成分の残留による重合反応への影響の観点から、通常、架橋性基のモル数に対して0.01〜50当量であることが好ましく、0.01〜10当量であることがより好ましく、0.5〜3当量であることが更に好ましい。
【0090】
また、重合開始層を塗布する際に用いる溶媒は、上述の重合開始ポリマーが溶解するものであれば特に制限されない。乾燥の容易性、作業性の観点からは、沸点が高すぎない溶媒が好ましく、具体的には、沸点40℃〜150℃程度のものを選択すればよい。
具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、3−メトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メトキシプロピルアセテートなどが挙げられる。
これらの溶媒は、単独或いは混合して使用することができる。そして塗布溶液中の固形分の濃度は、2〜50質量%が適当である。
【0091】
重合開始ポリマーを用いてなる重合開始層の塗布量は、表面グラフト重合の開始能や、膜性の観点から、乾燥後の質量で、0.1g/m〜20g/mが好ましく、更に、1g/m〜15g/mが好ましい。
【0092】
また、本発明において、前述のような、絶縁性樹脂からなる層を基材上に有する基板を用いる場合、この絶縁性樹脂からなる層中に、公知の重合開始剤を含有させて、絶縁性の重合開始層とすることもできる。この絶縁性の重合開始層中に含有させる重合開始剤としては、特に制限はなく、例えば、前述の、熱重合開始剤、光重合開始剤(ラジカル重合開始剤、アニオン重合開始剤、カチオン重合開始剤)や、特開平9−77891号、特開平10−45927号に記載の活性カルボニル基を側鎖に有する高分子化合物、更には、側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基を有するポリマー(重合開始ポリマー)などを用いることができる。
【0093】
絶縁性の重合開始層中に含有させる重合開始剤の量は、一般的には、絶縁層中に固形分で0.1〜50質量%程度であることが好ましく、1.0〜30.0質量%程度であることがより好ましい。
【0094】
(グラフトポリマーの生成)
(a1)工程におけるグラフトポリマーの生成態様としては、前述した如く、基板表面に存在する官能基と、高分子化合物がその末端又は側鎖に有する反応性官能基とのカップリング反応を利用する方法や、光グラフト重合法を用いることができる。
【0095】
本発明においては、基材上に重合開始層が形成された基板を用い、該重合開始層上に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造(多官能吸着性基ユニット)を有し且つ該重合開始層と直接化学結合したポリマーからなるポリマー層を形成する態様〔(a1−2)工程〕が好ましい。
【0096】
(a1−2)工程として、更に好ましくは、重合開始層上に多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーを接触させた後、エネルギーを付与することにより、前記基板表面全体(重合開始層表面全体)に当該ポリマーを直接化学結合させる態様である。即ち、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有する化合物を含有する組成物を、重合開始層表面に接触させながら、当該重合開始層表面に生成する活性種により直接結合させるものである。
【0097】
上記接触は、重合開始層が形成された基板を、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有する化合物を含有する液状の組成物(本発明のポリマー層形成用組成物)中に浸漬することで行ってもよいが、取り扱い性や製造効率の観点からは、後述するように、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有する化合物を含有する組成物(本発明のポリマー層形成用組成物)からなる層を基板表面(重合開始層表面)に、塗布法により形成してもよい。
【0098】
本発明において、表面グラフト重合法により、グラフトポリマーを生成させる場合に用いられる多官能吸着性基ユニットを有する化合物について説明する。
【0099】
多官能吸着性基ユニットを有する化合物は、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有する化合物であることが好ましく、モノマー、マクロモノマー、ポリマーのいずれの形態であってもよい。ポリマー層の形成性と、制御の容易性の観点からは、ポリマーを用いることが好ましい。なお、以下では、本発明におけるポリマー層を形成するグラフトポリマーを、適宜「特定グラフトポリマー」と称する。
【0100】
特定グラフトポリマーにおける多官能吸着性基ユニットは、その構造中に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基(以下、単に「吸着性基」とも称する。)を2以上含んでなる。多官能吸着性基ユニットは、特定グラフトポリマーを構成するモノマー単位中に少なくとも1つ含まれる。つまり、特定グラフトポリマーにおける多官能吸着性基ユニットは、吸着性基を2以上含む1つのモノマーに由来する部分構造である。即ち、ポリマー鎖中に2以上の吸着性基を有している場合であっても、1つのモノマー単位中に1つの吸着性基のみを含む態様は、本発明における特定グラフトポリマーには包含されない。
【0101】
多官能吸着性基ユニットにおける吸着性基としては、例えば、イミダゾール基、イミノ基、イミド基、ウレア基、ピリジン基、1〜3級のアミノ基、アンモニウム基、ピロリドン基、アミド基、アミジノ基、トリアジン環構造、イソシアヌル構造、ウレタン基、ニトロ基、ニトロソ基、アゾ基、ジアゾ基、アジド基、シアノ基、シアネート基(R−O−CN)などの含窒素官能基、水酸基(フェノールも含む)、エーテル基、カルボニル基、エステル基、N−オキシド構造、S−オキシド構造、N−ヒドロキシ構造などの含酸素官能基、チオール基、チオエーテル基、チオウレア基、チオキシ基、スルホキシド基、スルホン基、サルファイト基、スルホキシイミン構造、スルホキシニウム塩構造、スルホン酸エステル構造などの含硫黄官能基、フォスフィン基などの含リン官能基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基などの酸基、塩素、臭素などのハロゲン化合物を含む基、及び不飽和エチレン基、等が挙げられる。
【0102】
吸着性基としては、極性が高く、めっき触媒等への吸着能が高いことから、シアノ基及びエーテル基が好ましく、シアノ基が特に好ましい。
【0103】
多官能吸着性基ユニットとしては、下記一般式(I)で示される部分構造であることが好ましい。一般式(I)で示される部分構造は2官能ユニットを示す。
【0104】
【化6】

【0105】
一般式(I)中、R及びRは、各々独立に、置換もしくは無置換の2価の有機基、又は単結合を表す。Xは、炭素原子、窒素原子、リン原子、ケイ素原子、ホウ素原子、及び水素原子から選択される原子を含んで構成される連結構造を表す。Y及びZは、各々独立に、吸着性基を表す。
【0106】
又はRとしては、無置換の2価の有機基が好ましく、更に好ましくは炭素原子、水素原子、酸素原子、及び窒素原子から選択される1以上の原子を含んで構成される2価の有機基である。
【0107】
又はRで表される炭素原子、水素原子、酸素原子、及び窒素原子から選択される1以上の元素を含んで構成される2価の有機基としては、例えば、−(CH−で表される基(nは1〜9の整数を示す。)、−(CH−O−(CH−で表される基(m及びlは各々独立に1〜5の整数を示す。)、−(CH−NH−(CH−で表される基(j及びkは各々独立に1〜5の整数を示す。)等が挙げられる。
【0108】
又はRで表される2価の有機基の例としては、例えば、−CH−、−(CH−、−(CH−、−O−(CH−、−O−CH−、−O−(CH−、−CH−O−(CH−、−CH−O−CH−、−CH−O−(CH−、−(CH2)−O−(CH−、−(CH−O−CH−、−(CH−O−(CH−などが挙げられる。
【0109】
Xで表される炭素原子、窒素原子、リン原子、ケイ素原子、ホウ素原子、及び水素原子から選択される原子を含んで構成される連結構造としては、例えば、CH、N、B、P=O、SiMe及びこれらを含んで構成される連結構造が挙げられる。
【0110】
Y及びZは、各々独立に、吸着性基を表す。Y又はZで表される吸着性基は、多官能吸着性基ユニットにおける吸着性基として前記したものと同義である。Y及びZで表される吸着性基は同一であることが好ましい。
【0111】
一般式(I)で示される部分構造には、更に、吸着性基を有する1価の有機基(−L−Y)を1以上導入して、3官能以上の吸着性基ユニットにすることもできる。ここで、Lは、前記Lと同義であり、好ましい例も同様である。
【0112】
多官能吸着性基ユニットにおいて、各吸着性基間に存在する原子数としては、1〜10が好ましく、1〜8がより好ましく、1〜5が更に好ましい。ここで、各吸着性基間に存在する原子数とは、多官能吸着性基ユニットにおける一の吸着性基から他の吸着性基に至る迄の間に連結結経路が複数ある場合には、使用される原子数が最も少ない経路を構成する原子の数を意味する。
【0113】
また、多官能吸着性基ユニットとしては、吸着性基と金属とで形成されるキレート構造の安定性の観点から、金属に配位してキレート構造をとった際に、6〜15員環構造を形成しうるものであることが好ましい。
【0114】
多官能吸着性基ユニットは、多官能吸着性基ユニットを有するモノマーを用いることにより特定グラフトポリマーに導入することができる。多官能吸着性基ユニットを有するモノマーをとしては、例えば、下記に示す化合物が挙げられる。
【0115】
【化7】

【0116】
【化8】

【0117】
多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーとしては、多官能吸着性基ユニットを有するモノマーを用いて得られるホモポリマーやコポリマーに、重合性基として、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基などのエチレン付加重合性不飽和基(重合性基)を導入したポリマーであることが好ましい。この重合性基及び相互作用性基を有するポリマーは、少なくとも主鎖末端又は側鎖に重合性基を有するものであり、側鎖に重合性基を有するものが好ましい。
【0118】
多官能吸着性基ユニットを有するポリマーを得る際に用いられるモノマーとしては、例えば、先に例示したごとき化合物が挙げられる。これらのモノマーは、1種を単独で使用してもよい、2種以上を併用してもよい。
【0119】
多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーにおいて、多官能吸着性基ユニットを有するモノマー単位は、めっき触媒又はその前駆体との相互作用形成性の観点から、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマー中に、20〜95モル%の範囲で含有されることが好ましく、20〜80モル%の範囲で含有されることがより好ましい。
【0120】
また、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーを得る際には、吸水性を低下させるため、また、疎水性を向上させるために、上記多官能吸着性基ユニットを有するモノマー以外の他のモノマーを用いてもよい。他のモノマーとしては、一般的な重合性モノマーを用いることができ、例えば、ジエン系モノマー、アクリル系モノマー、等が挙げられる。中でも、他のモノマーとしては、無置換アルキルのアクリル系モノマーが好ましい。具体的には、ターシャリーブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートなどが好ましく使用できる。
【0121】
多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーは、以下のように合成できる。
即ち、合成方法としては、i)多官能吸着性基ユニットを有するモノマーと重合性基を有するモノマーとを共重合する方法、ii)多官能吸着性基ユニットを有するモノマーと二重結合前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、iii)多官能吸着性基ユニットを有するポリマーと重合性基を有するモノマーとを反応させ、二重結合を導入(重合性基を導入する)方法が挙げられる。
好ましいの合成方法は、合成適性の観点から、ii)多官能吸着性基ユニットを有するモノマーと二重結合前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、及び、iii)多官能吸着性基ユニットを有するポリマーと重合性基を有するモノマーとを反応させ、重合性基を導入する方法である。
【0122】
多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーの合成に用いられる、多官能吸着性基ユニットを有するモノマーとしては、多官能吸着性基ユニットを有するモノマーとして前述したモノマーを用いることができる。モノマーは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0123】
多官能吸着性基ユニットを有するモノマーと共重合させる重合性基を有するモノマーとしては、アリル(メタ)アクリレート、2−アリルオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。また、二重結合前駆体を有するモノマーとしては、2−(3−クロロ−1−オキソプロポキシ)エチルメタクリレー卜、2−(3−ブロモ−1−オキソプロポキシ)エチルメタクリレート、などが挙げられる。
【0124】
更に、多官能吸着性基ユニットを有するポリマー中の、カルボキシル基、アミノ基若しくはそれらの塩、水酸基、及びエポキシ基などの官能基との反応を利用して不飽和基を導入するために用いられる重合性基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなどがある。
【0125】
多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーとしては、新規ポリマーである、下記一般式(A1)で表されるユニット、及び、下記一般式(A2)で表されるユニットを含む共重合ポリマーが好ましい。
【0126】
【化9】

【0127】
一般式(A1)及び(A2)中、一般式中、R11〜R15は、各々独立に、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を表す。U、V及びWは、各々独立に、置換若しく無置換の2価の有機基、エステル基、アミド基、又はエーテル基を表す。L11、L12、L13、及びL14は、各々独立に、単結合、又は置換若しくは無置換の2価の有機基を表す。Xは、炭素原子、窒素原子、リン原子、ケイ素原子、ホウ素原子、及び水素原子から選択される原子を含んで構成される連結構造を表す。Y11及びZ11は、各々独立に、チオエーテル基、フォスフィン基、イミダゾール基、水酸基、ピリジン基、アミノ基、ピロリドン基、シアノ基、エーテル基、又は不飽和エチレン基を表す。
【0128】
11〜R15が、置換若しくは無置換のアルキル基である場合、無置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、等が挙げられ、また、置換アルキル基としては、上記記載の官能基が、ハロゲン原子、アルコキシド基、水酸基、エステル基等で置換されたものが挙げられる。
【0129】
11、R12、R15としては、水素原子、メチル基が好ましい。R13、R14としては、水素原子が好ましい。
【0130】
ここで、U、V及びWが、置換若しくは無置換の2価の有機基の場合、該2価の有機基としては、置換若しくは無置換の飽和脂肪族炭素、置換若しくは無置換の不飽和脂肪族炭化水素、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素が挙げられる。また、U、V、Wとしては、エステル基、アミド基、エーテル基が好ましく、更に好ましくは、エステル基、アミド基である。
【0131】
11としては、ウレタン結合又はウレア結合を有する2価の有機基が好ましく、中でも、総炭素数1〜9であるものが好ましい。なお、ここで、L11の総炭素数とは、L11で表される置換若しくは無置換の2価の有機基に含まれる総炭素原子数を意味する。
【0132】
12としては、アルキレン基又は芳香族基であることが好ましい。L12で表されるアルキレン基としては、総炭素数が1〜10のアルキレン基であることが好ましい。なお、ここで、L12の総炭素数とは、L12で表される置換若しくは無置換の2価の有機基に含まれる総炭素原子数を意味する。
【0133】
13又はL14で表される二価の連結基は、前記一般式(I)におけるR又はRとそれぞれ同義であり、好ましい例も同様である。
【0134】
Xで連結構造は、前記一般式(I)におけるXと同義であり好ましい例も同様である。
【0135】
11及びZ11で表されるチオエーテル基、フォスフィン基、イミダゾール基、水酸基、ピリジン基、アミノ基、ピロリドン基、シアノ基、エーテル基、又は不飽和エチレン基は吸着性基であり、これらの中でも、極性が高く、めっき触媒等への吸着能が高いことから、シアノ基及びエーテル基が好ましく、シアノ基が特に好ましい。Y11及びZ11は、同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0136】
11及びZ11は、X、L13及びL14と共に、2官能の吸着性基ユニットを構成する。該2官能の吸着性基ユニットには、更に、吸着性基を有する1価の有機基(−L15−Y11)を1以上導入して、3官能以上の吸着性基ユニットにすることもできる。ここで、L15は、前記L13と同義であり、好ましい例も同様である。
【0137】
前記一般式(A1)で表されるユニットは、下記一般式(A3)で表されるユニットであることが好ましい。
【0138】
【化10】

【0139】
一般式(A3)中、R11及びR12は、各々独立に、水素原子、又は置換若しく無置換のアルキル基を表す。Uは、置換若しくは無置換の二価の有機基、エステル基、アミド基、又はエーテル基を表す。Tは、窒素原子又は酸素原子を表す。L11は、置換若しくは無置換の2価の有機基を表す。
【0140】
一般式(A3)におけるR11及びR12は、前記一般式(A1)におけるR11及びR12と同義であり、好ましい例も同様である。
【0141】
一般式(A3)におけるUは、前記一般式(A1)におけるUと同義であり、好ましい例も同様である。
【0142】
一般式(A3)におけるL11は、前記一般式(A1)におけるL11と同義であり、好ましい例も同様である。
【0143】
前記一般式(A3)で表されるユニットは、下記一般式(A4)で表されるユニットであることが好ましい。
【0144】
【化11】

【0145】
一般式(A4)中、R11及びR12は、各々独立に、水素原子、又は置換若しく無置換のアルキル基を表す。Q及びTは、各々独立に、窒素原子又は酸素原子を表す。L11は、置換若しくは無置換の2価の有機基を表す。
【0146】
一般式(A4)におけるR11及びR12は、前記一般式(A1)におけるR11及びR12と同義であり、好ましい例も同様である。
【0147】
一般式(A4)におけるL11は、前記一般式(A1)におけるL11と同義であり、好ましい例も同様である。
【0148】
一般式(A3)及び一般式(A4)におけるTは、酸素原子であることが好ましい。
【0149】
一般式(A3)及び一般式(A4)におけるL11は、無置換のアルキレン基、或いは、ウレタン結合又はウレア結合を有する2価の有機基が好ましく、これら中でも、総炭素数1〜9であるものが特に好ましい。
【0150】
多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーの重量平均分子量(Mw)は、1000以上70万以下が好ましく、更に好ましくは2000以上30万以下である。また、重合度としては10量体以上のものを使用することが好ましく、更に好ましくは20量体以上のものを使用することが好ましい。また、重合度としては7000量体以下が好ましく、3000量体以下が好ましく、2000量体以下が好ましく、1000量体以下が好ましい。
【0151】
ポリマーの構造はH−NMRにて同定できる。また、ポリマーの分子量は、ポリスチレンを標準物質として用いてGPCにより解析を行うことにより測定できる。
【0152】
以下に、新規共重合ポリマーの具体例を含む、本発明において好適に用いられる多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーの具体例(7−1〜7−22)を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0153】
【化12】

【0154】
【化13】

【0155】
【化14】

【0156】
【化15】

【0157】
本発明におけるポリマー層を形成するためには、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマー等の多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有する化合物を含有する液状組成物、即ち、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有する化合物と、該化合物を溶解しうる溶剤と、を含有する組成物を用いることが好ましい。この組成物は、本発明のポリマー層形成用組成物である。
上記組成物に使用する溶剤としては、組成物の主成分である、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマー等の化合物が溶解可能であり、また、当該化合物中に存在しうるエステル結合やウレタン結合が、溶媒中で経時で加水分解することを防止する観点から、非プロトン性溶剤(活性水素を有しない溶剤)を用いることが好ましい。溶剤には、更に界面活性剤を添加してもよい。
【0158】
使用できる溶剤としては、例えば、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン(MEK)の如きケトン系溶剤、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン(NMP)の如きアミド系溶剤、などが挙げられる。
【0159】
また、例えば、シアノ基及び重合性基を有するポリマーを用いる場合には、該ポリマーを溶解しうる溶剤として、ケトン系、エステル系、ニトリル系の溶剤が好ましい。また、この組成物の塗布のし易さ、取り扱い安さから、沸点が50〜150℃の溶剤が好ましく用いられる。特に、塗布溶剤として、アセトン、MEK、酢酸エチル、アセトニトリルを含んでいることが好ましい。なお、これらの溶剤は単一で使用してもよいし、混合して使用してもよい。
【0160】
本発明において、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有する化合物を含有する組成物を、基板や重合開始層上に塗布する場合、基板や重合開始層の吸溶媒率が5〜25%となる溶剤を選択することができる。この吸溶媒率は、基板や、重合開始層を形成した基材を溶剤中に浸漬し、1000分後に引き上げた場合における質量の変化から求めることができる。
また、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有する化合物を含有する組成物を、基板や重合開始層上に塗布する場合、基板や重合開始層の膨潤率が10〜45%となる溶剤を選択してもよい。この膨潤率は、基板や、重合開始層を形成した基材を溶剤中に浸漬し、1000分後に引き上げた場合の厚さの変化から求めることができる。
【0161】
必要に応じて溶剤に添加することのできる界面活性剤は、溶剤に溶解するものであればよく、そのような界面活性剤としては、例えば、n−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの如きアニオン性界面活性剤や、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドの如きカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル(市販品としては、例えば、エマルゲン910、花王(株)製など)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(市販品としては、例えば、商品名「ツイーン20」など)、ポリオキシエチレンラウリルエーテルの如き非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0162】
多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有する化合物を含有する組成物には、必要に応じて、重合禁止剤を添加することもできる。使用できる重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ジターシャリーブチルハイドロキノン、2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ハイドロキノンなどのハイドロキノン類、p−メトキシフェノール、フェノールなどのフェノール類、ベンゾキノン類、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニロキシ フリーラジカル)、4−ヒドロキシTEMPOなどのフリーラジカル類、フェノチアジン類、N−ニトロソフェニルヒドロキシアミン、そのアルミニウム塩などのニトロソアミン類、カテコール類を使用することができる。
【0163】
多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有する化合物を含有する組成物には、必要に応じて、重合開始層の硬化を進めるために、硬化剤及び/又は硬化促進剤を添加することができる。
【0164】
例えば、硬化剤及び/又は硬化促進剤として、重付加型のものでは、脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミン、ポリアミド、酸無水物、フェノール、フェノールノボラック、ポリメルカプタン、活性水素を2個以上持つ化合物等が挙げられる。また、触媒型のものとしては、脂肪族第三アミン、芳香族第三アミン、イミダゾール化合物、ルイス酸錯体などが挙げられる。また、熱、光、湿気、圧力、酸、塩基などにより硬化開始するものとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ポリアミドアミン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキシスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、m−キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒラジド、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ドデシル無水コハク酸、無水クロレンディック酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメート)、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、無水トリメリット酸、ポリアゼライン酸無水物、フェノールノボラック、キシリレンノボラック、ビスAノボラック、トリフェニルメタンノボラック、ビフェニルノボラック、ジシクロペンタジエンフェノールノボラック、テルペンフェノールノボラック、ポリメルカプタン、ポリサルファイド、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール−トリ−2−エチルヘキシル酸塩、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール2−メチルイミダゾール、、2−エチル−4−メチルイミダゾール2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−(2−メチルイミダゾリル−(1))−エチルS−トリアジン、BFモノエチルアミン錯体、ルイス酸錯体、有機酸ヒドラジド、ジアミノマレオニトリル、メラミン誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアミン塩、アミンイミド化合物、芳香族ジアゾニウム塩、ジアリルヨードニウム塩、トリアリルスルホニウム塩、トリアリルセレニウム塩、ケチミン化合物、などが挙げられる。
【0165】
これらの硬化剤及び/又は効果促進剤は、溶液の塗布性、基板やめっき膜との密着性などの観点から、溶剤を除去した残りの不揮発成分の0〜50重量%程度まで添加することが好ましい。硬化剤及び/又は硬化促進剤は重合開始層に添加してもよく、その場合は、重合開始層に添加した量と重合性ポリマーから形成される層中に添加される総和量で上記範囲を満たすことが好ましい。
【0166】
更に、可塑剤、ゴム成分(例えばCTBN)、難燃化剤(例えばりん系難燃化剤)、希釈剤やチキソトロピー化剤、顔料、消泡剤、レべリング剤、カップリング剤などを添加してもよい。また、これらの添加剤は必要に応じて重合開始層に添加してもよい。
【0167】
これらの多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有する化合物と添加剤を適宜混合することで、形成されたポリマー層の物性、例えば、熱膨張係数、ガラス転移温度、ヤング率、ポアソン比、破断応力、降伏応力、熱分解温度などを最適に設定することができる。特に、破断応力、降伏応力、熱分解温度については、より高い方が好ましい。得られたポリマー層は、温度サイクル試験や熱経時試験、リフロー試験などで熱耐久性を測定することができ、例えば、熱分解に関しては、200℃環境に1時間曝した場合の重量減少が20%以下であると、充分に熱耐久性を有していると評価できる。
【0168】
多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有する化合物を含有する組成物を接触させる場合には、その塗布量は、めっき触媒又はその前駆体との充分な相互作用形成性の観点からは、固形分換算で、0.1g/m〜10g/mが好ましく、特に0.5g/m〜5g/mが好ましい。
【0169】
(エネルギーの付与)
基板表面へのエネルギー付与方法としては、例えば、加熱や露光等の輻射線照射を用いることができる。例えば、UVランプ、可視光線などによる光照射、ホットプレートなどでの加熱等が可能である。光源としては、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、カーボンアーク灯、等がある。放射線としては、電子線、X線、イオンビーム、遠赤外線などがある。またg線、i線、Deep−UV光、高密度エネルギービーム(レーザービーム)も使用される。
一般的に用いられる具体的な態様としては、熱記録ヘッド等による直接画像様記録、赤外線レーザーによる走査露光、キセノン放電灯などの高照度フラッシュ露光や赤外線ランプ露光、高圧水銀灯露光、超高圧水銀灯露光などが好適に挙げられる。
エネルギー付与に要する時間としては、目的とするグラフトポリマーの生成量及び光源により異なるが、通常、10秒〜5時間の間である。
【0170】
なお、エネルギーの付与を露光にて行う場合、その露光パワーは、グラフト重合を容易に進行させるため、また、生成されたグラフトポリマーの分解を抑制するため、200mJ/cm〜5000mJ/cmの範囲であることが好ましい。
【0171】
以上説明した(a1)工程により、基板上には、本発明に係るポリマー層(グラフトポリマー層)を形成することができる。
【0172】
〔(a1’)工程〕
本発明の第2の金属パターン形成方法における(a1’)工程では、基板上に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造を有し且つ該基板と直接化学結合したポリマーからなるポリマー層をパターン状に形成する。
【0173】
(a1’)の工程におけるパターン状のポリマー層の形成方法は、(a1)工程において、ポリマー層を形成する際に付与されるエネルギーをパターン状とすればよく、また、エネルギーを付与しない部分を現像で除去することでパターン状のポリマー層を形成することができる。
【0174】
なお、現像方法としては、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有する化合物などのポリマー層を形成するために用いられる材料を溶解しうる溶剤に浸漬することで行われる。浸漬する時間は1分〜30分が好ましい。
【0175】
また、(a1’)工程は、(a1’−1)基材上に、重合開始剤を含有する重合開始層又は重合開始可能な官能基を有する重合開始層が形成された基板を作製する工程と、(a1’−2)該重合開始層に、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーをパターン状に直接化学結合させる工程であることも好ましい態様である。
【0176】
(a1’−1)工程は、基材上に、重合開始可能な官能基及び架橋性基を有するポリマーを架橋反応により固定化してなる重合開始層が形成された基板を作製する工程であることも好ましい。
【0177】
(a1’−2)工程は、重合開始層上に多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーを接触させた後、パターン状にエネルギーを付与することにより、基板表面(重合開始層表面)に当該ポリマーをパターン状に直接化学結合させる工程であることが好ましい。
【0178】
(a1’−1)工程及び(a1’−2)工程については、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーをパターン状に直接化学結合させる以外は、それぞれ、前記(a1−1)工程及び(a1−2)工程と同様の工程である。
【0179】
〔(a2)工程〕
(a2)工程では、上記(a1)工程において形成されたポリマー層に、めっき触媒又はその前駆体を付与する。本工程においては、ポリマー層を構成するグラフトポリマーが有する多官能吸着性基ユニットが、その機能に応じて、付与されためっき触媒又はその前駆体を吸着する。
【0180】
ここで、めっき触媒又はその前駆体としては、後述する(a3)めっき工程における、めっきの触媒や電極として機能するものが挙げられる。そのため、めっき触媒又はその前駆体は、(a3)めっき工程におけるめっきの種類により決定される。
なお、ここで、本工程において用いられるめっき触媒又はその前駆体は、無電解めっき触媒又はその前駆体であることが好ましい。
【0181】
(無電解めっき触媒)
本発明において用いられる無電解めっき触媒は、無電解めっき時の活性核となるものであれば、如何なるものも用いることができ、具体的には、Pd、Ag、Cu、Ni、Al、Fe、Coなどが挙げられる。中でも、多座配位可能なものが好ましく、特に、配位可能な官能基の種類の数、触媒能の高さから、Pdが特に好ましい。
この無電解めっき触媒は、金属コロイドとして用いてもよい。一般に、金属コロイドは、荷電を持った界面活性剤又は荷電を持った保護剤が存在する溶液中において、金属イオンを還元することにより作製することができる。金属コロイドの荷電は、ここで使用される界面活性剤又は保護剤により調節することができる。
【0182】
(無電解めっき触媒前駆体)
本工程において用いられる無電解めっき触媒前駆体とは、化学反応により無電解めっき触媒となりうるものであれば、特に制限なく使用することができる。主には、上記無電解めっき触媒として挙げた金属の金属イオンが用いられる。無電解めっき触媒前駆体である金属イオンは、還元反応により無電解めっき触媒である0価金属になる。無電解めっき触媒前駆体である金属イオンは、ポリマー層へ付与した後、無電解めっき浴への浸漬前に、別途還元反応により0価金属に変化させて無電解めっき触媒としてもよいし、無電解めっき触媒前駆体のまま無電解めっき浴に浸漬し、無電解めっき浴中の還元剤により金属(無電解めっき触媒)に変化させてもよい。
【0183】
実際には、無電解めっき前駆体である金属イオンは、金属塩を用いてポリマー層上に付与する。使用される金属塩としては、適切な溶媒に溶解して金属イオンと塩基(陰イオン)とに解離されるものであれば特に制限はなく、M(NO、MCln、M2/n(SO)、M3/n(PO)(Mは、n価の金属原子を表す)などが挙げられる。金属イオンとしては、上記の金属塩が解離したものを好適に用いることができる。具体例としては、例えば、Agイオン、Cuイオン、Alイオン、Niイオン、Coイオン、Feイオン、Pdイオンが挙げられ、中でも、多座配位可能なものが好ましく、特に、配位可能な官能基の種類数、及び触媒能の点で、Pdイオンが好ましい。
【0184】
無電解めっき触媒である金属、或いは、無電解めっき前駆体である金属塩をポリマー層に付与する方法としては、金属を適当な分散媒に分散した分散液、或いは、金属塩を適切な溶媒で溶解し、解離した金属イオンを含む溶液を調製し、その分散液又は溶液をポリマー層上に塗布するか、或いは、その分散液又は溶液中にポリマー層が形成された基板を浸漬すればよい。
【0185】
また、(a1)工程において、表面グラフト重合法を用いる場合、基板上に、多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有する化合物を含有する組成物を接触させるが、この組成物中に、無電解めっき触媒又はその前駆体を添加する方法を用いてもよい。多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有する化合物と、無電解めっき触媒又はその前駆体と、を含有する組成物を、基板上に接触させて、表面グラフト重合法を適用することにより、多官能吸着性基ユニットを有し、且つ、基板と直接化学結合したポリマーと、めっき触媒又はその前駆体と、を含有するポリマー層を形成することができる。なお、この方法を用いれば、本発明における(a1)と(a2)工程とが1工程で行えることになる。
【0186】
無電解めっき触媒又はその前駆体の吸着を充分に行なわせるという観点からは、分散液、溶液、組成物中の金属濃度、又は溶液中の金属イオン濃度は、0.01〜50質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜30質量%の範囲であることが更に好ましい。また、接触時間としては、1分〜24時間程度であることが好ましく、1分〜1時間程度であることがより好ましい。
【0187】
(その他の触媒)
本発明において、後述の(a3)工程において、ポリマー層に対して、無電解めっきを行わず直接電気めっきを行うために用いられる触媒としては、0価金属を使用することができる。この0価金属としては、Pd、Ag、Cu、Ni、Al、Fe、Coなどが挙げられ、中でも、多座配位可能なものが好ましく、特に、特に、多官能吸着性基ユニットに対する吸着(付着)性、触媒能の高さから、Pd、Ag、Cuが好ましい。
【0188】
以上説明した(a2)工程を経ることで、ポリマー層中の多官能吸着性基ユニットとめっき触媒又はその前駆体との間に相互作用を形成することができる。
【0189】
〔(a3)めっき工程〕
(a3)工程では、無電解めっき触媒又はその前駆体が付与されたポリマー層に対し、めっきを行うことで、めっき膜が形成される。形成されためっき膜は、優れた導電性、密着性を有する。
【0190】
本工程において行われるめっきの種類は、無電解めっき、電気めっき等が挙げられ、前記(a2)工程において、ポリマー層との間に相互作用を形成しためっき触媒又はその前駆体の機能によって、選択することができる。つまり、本工程では、めっき触媒又はその前駆体が付与されたポリマー層に対し、電気めっきを行ってもよいし、無電解めっきを行ってもよい。中でも、本発明においては、ポリマー層中に発現するハイブリッド構造の形成性及び密着性向上の点から、無電解めっきを行うことが好ましい。また、所望の膜厚のめっき層を得るために、無電解めっきの後に、更に電気めっきを行うことがより好ましい態様である。以下、本工程において好適に行われるめっきについて説明する。
【0191】
(無電解めっき)
無電解めっきとは、めっきとして析出させたい金属イオンを溶かした溶液を用いて、化学反応によって金属を析出させる操作のことをいう。
本工程における無電解めっきは、例えば、無電解めっき触媒が付与された基板を、水洗して余分な無電解めっき触媒(金属)を除去した後、無電解めっき浴に浸漬して行なう。使用される無電解めっき浴としては一般的に知られている無電解めっき浴を使用することができる。
【0192】
また、無電解めっき触媒前駆体が付与された基板を、無電解めっき触媒前駆体がポリマー層に吸着又は含浸した状態で無電解めっき浴に浸漬する場合には、基板を水洗して余分な前駆体(金属塩など)を除去した後、無電解めっき浴中へ浸漬される。この場合には、無電解めっき浴中において、めっき触媒前駆体の還元とこれに引き続き無電解めっきが行われる。ここで使用される無電解めっき浴としても、上記同様、一般的に知られている無電解めっき浴を使用することができる。
【0193】
なお、無電解めっき触媒前駆体の還元は、上記のような無電解めっき液を用いる態様とは別に、触媒活性化液(還元液)を準備し、無電解めっき前の別工程として行うことも可能である。触媒活性化液は、無電解めっき触媒前駆体(主に金属イオン)を0価金属に還元できる還元剤を溶解した液で、0.1%〜50%、好ましくは1%〜30%が良い。還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、ヂメチルアミンボランのようなホウ素系還元剤、ホルムアルデヒド、次亜リン酸などの還元剤を使用することが可能である。
【0194】
一般的な無電解めっき浴の組成としては、溶剤の他に、1.めっき用の金属イオン、2.還元剤、3.金属イオンの安定性を向上させる添加剤(安定剤)が主に含まれている。このめっき浴には、これらに加えて、めっき浴の安定剤など公知の添加物が含まれていてもよい。
【0195】
このめっき浴に用いられる溶剤には、吸水性が低く、疎水性の高いポリマー層(前記1〜4の条件を全て満たすポリマー層)に対して、親和性の高い有機溶剤を含有させることが好ましい。有機溶剤の種類の選択や、含有量は、ポリマー層の物性に応じて調製すればよい。特に、ポリマー層の条件1における飽和吸水率が大きければ大きいほど、有機溶剤の含有率を小さくすることが好ましい。具体的には、以下の通りである。
【0196】
即ち、条件1における飽和吸水率が0.01〜0.5質量%の場合、めっき浴の全溶剤中の有機溶剤の含有量は20〜80%であることが好ましく、同飽和吸水率が0.5〜5質量%の場合、めっき浴の全溶剤中の有機溶剤の含有量は10〜80%であることが好ましく、同飽和吸水率が5〜10質量%の場合、めっき浴の全溶剤中の有機溶剤の含有量は0〜60%であることが好ましく、同飽和吸水率が10〜20質量%の場合、めっき浴の全溶剤中の有機溶剤の含有量は0〜45%であることが好ましい。
めっき浴に用いられる有機溶剤としては、水に可能な溶媒である必要があり、その点から、アセトンなどのケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類が好ましく用いられる。
【0197】
無電解めっき浴に用いられる金属の種類としては、銅、すず、鉛、ニッケル、金、パラジウム、ロジウム等が知られており、中でも、導電性の観点からは、銅、金が特に好ましい。
【0198】
また、上記金属に合わせて最適な還元剤、添加物がある。例えば、銅の無電解めっきの浴は、銅塩としてCuSO、還元剤としてHCOH、添加剤として銅イオンの安定剤であるEDTAやロッシェル塩などのキレート剤、トリアルカノールアミンなどが含まれている。また、CoNiPの無電解めっきに使用されるめっき浴には、その金属塩として硫酸コバルト、硫酸ニッケル、還元剤として次亜リン酸ナトリウム、錯化剤としてマロン酸ナトリウム、りんご酸ナトリウム、こはく酸ナトリウムが含まれている。また、パラジウムの無電解めっき浴は、金属イオンとして(Pd(NH)Cl、還元剤としてNH、HNNH、安定化剤としてEDTAが含まれている。これらのめっき浴には、上記成分以外の成分が入っていてもよい。
【0199】
このようにして形成される無電解めっきによるめっき膜の膜厚は、めっき浴の金属イオン濃度、めっき浴への浸漬時間、或いは、めっき浴の温度などにより制御することができるが、導電性の観点からは、0.5μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。
【0200】
また、めっき浴への浸漬時間としては、1分〜6時間程度であることが好ましく、1分〜3時間程度であることがより好ましい。
【0201】
(電気めっき)
本工程おいては、(a2)工程において付与されためっき触媒又はその前駆体が電極としての機能を有する場合、その触媒又はその前駆体が付与されたポリマー層に対して、電気めっきを行うことができる。
また、前述の無電解めっきの後、形成されためっき膜を電極とし、更に、電気めっきを行ってもよい。これにより基板との密着性に優れた無電解めっき膜をベースとして、そこに新たに任意の厚みをもつ金属膜を容易に形成することができる。このように、無電解めっきの後に、電気めっきを行うことで、金属膜を目的に応じた厚みに形成しうるため、本発明の金属膜を種々の応用に適用するのに好適である。
【0202】
本発明における電気めっきの方法としては、従来公知の方法を用いることができる。なお、本工程の電気めっきに用いられる金属としては、銅、クロム、鉛、ニッケル、金、銀、すず、亜鉛などが挙げられ、導電性の観点から、銅、金、銀が好ましく、銅がより好ましい。
【0203】
また、電気めっきにより得られる金属膜の膜厚については、用途に応じて異なるものであり、めっき浴中に含まれる金属濃度、或いは、電流密度などを調整することでコントロールすることができる。なお、一般的な電気配線などに用いる場合の膜厚は、導電性の観点から、0.5μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。
【0204】
本発明においては、前述のめっき触媒、めっき触媒前駆体に由来する金属や金属塩、及び/又は、無電解めっきにより、ポリマー層中に析出した金属が、該層中でフラクタル状の微細構造体として形成されていることによって、金属膜とポリマー層との密着性を更に向上させることができる。
【0205】
ポリマー層中に存在する金属量は、基板断面を金属顕微鏡にて写真撮影したとき、ポリマー層の最表面から深さ0.5μmまでの領域に占める金属の割合が5〜50面積%であり、ポリマー層と金属界面の算術平均粗さRa(JIS B0633−2001)が0.05μm〜0.5μmである場合に、更に強い密着力が発現されうる。
【0206】
本発明の第1の金属パターン形成方法は、(a1)〜(a3)の工程を経て得られた本発明の金属膜をパターン状にエッチングする工程を有する。
この(a4)エッチング工程について以下に説明する。
【0207】
〔(a4)工程〕
(a4)工程では、上記(a3)工程で形成された金属膜(めっき膜)をパターン状にエッチングする。即ち、本工程では、基板表面全体に形成されためっき膜の不要部分をエッチングで取り除くことで、所望の金属パターンを形成することができる。
この金属パターンの形成には、如何なる手法も使用することができ、具体的には一般的に知られているサブトラクティブ法、セミアディティブ法が用いられる。
【0208】
サブトラクティブ法とは、形成されためっき膜上にドライフィルムレジスト層を設けパターン露光、現像により金属パターン部と同じパターンを形成し、ドライフィルムレジストパターンをマスクとしてエッチング液でめっき膜を除去し、金属パターンを形成する方法である。ドライフィルムレジストとしては如何なる材料も使用でき、ネガ型、ポジ型、液状、フィルム状のものが使用できる。また、エッチング方法としては、プリント配線基板の製造時に使用されている方法が何れも使用可能であり、湿式エッチング、ドライエッチング等が使用可能であり、任意に選択すればよい。作業の操作上、湿式エッチングが装置などが簡便で好ましい。エッチング液として、例えば、塩化第二銅、塩化第二鉄等の水溶液を使用することができる。
【0209】
また、セミアディティブ法とは、形成されためっき膜上にドライフィルムレジスト層を設け、パターン露光、現像により非金属パターン部と同じパターンを形成し、ドライフィルムレジソトパターンをマスクとして電気めっきを行い、ドライフィルムレジソトパターンを除去した後にクイックエッチングを実施し、めっき膜をパターン状に除去することで、金属パターンを形成する方法である。ドライフィルムレジソト、エッチング液等はサブトラクティブ法と同様な材料が使用できる。また、電気めっき手法としては前記記載の手法が使用できる。
【0210】
以上の(a1)〜(a4)工程を経ることにより、所望の金属パターンを有する金属パターン材料が作製される。
【0211】
本発明の第2の金属パターン形成方法は、(a1’)〜(a3)の各工程を経て得られた金属パターンを形成する。パターン状のポリマー層上にめっき膜を形成するための(a2)、及び(a3)工程は、前述の方法と同じである。
【0212】
第2の金属パターン形成方法の例示的な実施態様を以下に挙げる。なお、当然のことながら、第2の金属パターン形成方法は、以下に示す実施態様に限定されるものではない。
ポリイミド基板の上に、ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコート825(液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂)5g、大日本インキ化学工業(株)製のフェノライトLA−7052(トリアジン構造含有フェノールノボラック樹脂のMEKワニス)2g、東都化成(株)製のYP−50EK35(フェノキシ樹脂MEKワニス)10.7g、2−ヒドロキシ−4’―(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルプロピオフェノン2.3g、MEK 5.3g、2−エチル−4−メチルイミダゾール0.053gの溶液を塗布し、170℃で30分乾燥し、更にその上にアセトン溶媒中に化合物7−1(前記した例示化合物)を含む組成物を塗布・乾燥し、フォトマスクを用いて1.5kW高圧水銀灯を用いて1分露光を行い、アセトンに30分浸漬することでグラフトパターンを有する基板が形成できる。また、該基板を硝酸パラジウムの1%アセトン溶液に5分浸漬した後に、アセトンで洗浄し、無電解メッキ液(蒸留水 859g、メタノール 850g、硫酸銅 18.1g、エチレンジアミン四酢酸・2ナトリウム塩 54.0g、ポリオキシエチレングリコール(分子量1000) 0.18g、2,2’ビピリジル 1.8mg、10%エチレンジアミン水溶液 7.1g、37%ホルムアルデヒド水溶液 9.8gを含有)に浸漬することでめっきパターン(金属パターン)が形成できる。
【0213】
<金属膜>
以上の(a1)〜(a3)の工程を経ることで、本発明の金属膜形成方法により金属膜を形成することができる。本発明の金属膜形成方法により得られた金属膜は、基板との密着性に優れた金属膜である。この金属膜は、電気配線用材料、アンテナ形成用材料、電磁波防止膜、等の種々の用途に適用することができる。
【0214】
<金属パターン>
本発明の金属パターンは、前述の本発明の第1又は第2の金属パターン形成方法により得られたものである。
本発明の金属パターン材料は、表面の凹凸が500nm以下(より好ましくは100nm以下)の基板上の全面又は局所的に、金属膜(めっき膜)を設けたものであることが好ましい。また、基板と金属パターンとの密着性が0.2kN/m以上であることが好ましい。即ち、基板表面が平滑でありながら、基板と金属パターンとの密着性に優れることを特徴とする。
【0215】
なお、基板表面の凹凸は、基板を基板表面に対して垂直に切断し、その断面をSEMにより観察することにより測定した値である。
より詳細には、JIS B 0601に準じて測定したRz、即ち、「指定面における、最大から5番目までの山頂のZデータの平均値と、最小から5番目までの谷底の平均値との差」で、500nm以下であることが好ましい。
また、基板と金属膜との密着性の値は、金属膜自体の端部を直接剥ぎ取り、JIS C 6481に基づき90度剥離実験を行って得られた値である。
【0216】
本発明の金属パターンは、例えば、半導体チップ、各種電気配線板、FPC、COF、TAB、アンテナ、多層配線基板、マザーボード、半導体パッケージ、等の種々の用途に適用することができる。
【実施例】
【0217】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」「部」は質量基準である。
【0218】
〔合成例1:多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーAの合成〕
多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーであるポリマーAを以下のように合成した。
【0219】
(モノマーAの合成)
500mlの三口フラスコに、アセトン300mlを加え、3−ヒドロキシグルタロニトリル27.0gを入れ、撹拌した。炭酸カリウム96.6g、p−メトキシフェノール0.1gを添加した後に、氷水を入れた氷浴にて冷却した。混合液温度が5℃以下になった後に、アクリル酸クロライド31.6gを滴下ロートにて30分かけて滴下した。滴下終了後、氷浴を外してさらに3時間撹拌した。反応混合液を水750mlに投入し、水混合液を分液ロートを用いて、酢酸エチル500mlで3回抽出した。有機層を水1L、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液1L、飽和食塩水500mlで順次洗浄した。有機層に硫酸マグネシウム100gを入れ、脱水乾燥した後、濾過した。溶媒を減圧留去し、モノマーA 30gを得た。
【0220】
(ポリマーAの合成)
500ml三口フラスコにN−メチルピロリドン20gを入れ、窒素気流下、75℃まで加熱した。2−ヒドロキシエチルアクリレート3.02g、モノマーA 17.08g、V−601(和光純薬製)0.2993gのN−メチルピロリドン20g溶液を、2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃まで加熱し、更に3時間撹拌した。その後、室温まで、反応溶液を冷却した。
上記の反応溶液にジターシャリーブチルハイドロキノン0.13g、ジブチルチンジラウレート0.28g、カレンズAOI(昭和電工(株)製)8.51g、N−メチルピロリドン8.5gを加え、55℃、6時間反応を行った。その後、反応溶液にメタノールを1.66g加え、更に2時間反応を行った。反応終了後、水により再沈を行い、反応物をを濾取、エタノールで洗浄、乾燥し、ポリマーAを12g得た。
【0221】
〔合成例2:多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーBの合成〕
多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーであるポリマーBを以下のように合成した。
【0222】
(モノマーBの合成)
500mlの三口フラスコに、アセトン300mlを加え、3,3’−イミノジプロピオニトリル30.2gを入れ、撹拌した。炭酸カリウム96.6g、p−メトキシフェノール0.1gを添加した後に、氷水を入れた氷浴にて冷却した。混合液温度が5℃以下になった後に、アクリル酸クロライド31.6gを滴下ロートにて30分かけて滴下した。滴下終了後、氷浴を外してさらに3時間撹拌した。反応混合液を水750mlに投入し、水混合液を分液ロートを用いて、酢酸エチル500mlで3回抽出した。有機層を水1L、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液1L、飽和食塩水500mlで順次洗浄した。有機層に硫酸マグネシウム100gを入れ、脱水乾燥した後、濾過した。溶媒を減圧留去し再結晶することで、モノマーBを19g得た。
【0223】
(ポリマーBの合成)
500ml三口フラスコにN−メチルピロリドン20gを入れ、窒素気流下、75℃まで加熱した。2−ヒドロキシエチルアクリレート3.02g、モノマーB 18.4、V−601(和光純薬製)0.2993gのN−メチルピロリドン20g溶液を、2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃まで加熱し、更に3時間撹拌した。その後、室温まで、反応溶液を冷却した。
【0224】
上記の反応溶液にジターシャリーブチルハイドロキノン0.13g、ジブチルチンジラウレート0.28g、カレンズAOI(昭和電工(株)製)8.51g、N−メチルピロリドン8.5gを加え、55℃、6時間反応を行った。その後、反応溶液にメタノールを1.66g加え、更に2時間反応を行った。反応終了後、水により再沈を行い、反応物をを濾取、エタノールで洗浄、乾燥し、ポリマーBを14g得た。
【0225】
〔合成例3:多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーCの合成〕
多官能吸着性基ユニット及び重合性基を有するポリマーであるポリマーCを以下のように合成した。
【0226】
(モノマーCの合成)
500mlの三口フラスコに、アセトン300mlを加え、1,3−ジエトキシ−2−プロパノール36.3gを入れ、撹拌した。炭酸カリウム96.6g、p−メトキシフェノール0.1gを添加した後に、氷水を入れた氷浴にて冷却した。混合液温度が5℃以下になった後に、アクリル酸クロライド31.6gを滴下ロートにて30分かけて滴下した。滴下終了後、氷浴を外してさらに3時間撹拌した。反応混合液を水750mlに投入し、水混合液を分液ロートを用いて、酢酸エチル500mlで3回抽出した。有機層を水1L、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液1L、飽和食塩水500mlで順次洗浄した。有機層に硫酸マグネシウム100gを入れ、脱水乾燥した後、濾過した。溶媒を減圧留去しカラムで精製することで、モノマーCを23g得た。
【0227】
(ポリマーCの合成)
500ml三口フラスコにN−メチルピロリドン20gを入れ、窒素気流下、75℃まで加熱した。2−ヒドロキシエチルアクリレート3.02g、モノマーC 21.0g、V−601(和光純薬製)0.2993gのN−メチルピロリドン20g溶液を、2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃まで加熱し、更に3時間撹拌した。その後、室温まで、反応溶液を冷却した。
上記の反応溶液にジターシャリーブチルハイドロキノン0.13g、ジブチルチンジラウレート0.28g、カレンズAOI(昭和電工(株)製)8.51g、N−メチルピロリドン8.5gを加え、55℃、6時間反応を行った。その後、反応溶液にメタノールを1.66g加え、更に2時間反応を行った。反応終了後、水により再沈を行い、反応物をを濾取、エタノールで洗浄、乾燥し、ポリマーCを15g得た。
【0228】
〔基板1の作製〕
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量176、ジャパンエポキシレジン(株)製、エピコート825)5g、トリアジン構造含有フェノールノボラック樹脂のMEKワニス(大日本インキ化学工業(株)製、フェノライトLA−7052、不揮発分62%、不揮発分のフェノール性水酸基当量120)2g、フェノキシ樹脂MEKワニス(東都化成(株)製、YP−50EK35、不揮発分35%)10.7g、重合開始剤として2−ヒドロキシ−4’−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルプロピオフェノン2.3g、MEK5.3g、2−エチル−4−メチルイミダゾール0.053gを混合し、攪拌して完全に溶解させて、エポキシ樹脂組成物からなる重合開始層塗布液1を調製した。
【0229】
基材としては、厚さ128μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製、カプトン500H)を用いた。該基材上に、重合開始層塗布液1をバー塗布し、170℃で、30分乾燥させて、重合開始層を形成した。得られた重合開始層の膜厚は10μmであった。以上のようにして基板1を作製した。
【0230】
〔基板2の作製〕
<ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)の合成>
窒素下にてN−メチルピロリドン(30ml)中にジアミン化合物として、4,4'−
ジアミノジフェニルエーテル(28.7mmol)を溶解させ室温にて約30分間撹拌した。この溶液に3,3’,4,4’’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(28.7mmol)を0℃にて加え5時間撹拌した。反応液を再沈してポリイミド前駆体1を得た。生成物は1H−NMR、FT−IRによりその構造を確認した。
上記手法で合成したポリアミック酸をDMAc(和光純薬(株)社製)に溶かし、30質量%の溶液とし重合開始層塗布液2を得た。該重合開始層塗布液2をガラス基板にロッドバー#36を用いて塗布、100℃で5分間乾燥、250℃で30分間加熱して固化させた後、固化物をガラス基板から剥がすことでポリイミド基板である基板2を得た。
【0231】
〔基板3の作製〕
ポリイミドフィルム(製品名:カプトン500H、東レデュポン社製)の上に、下記の重合開始層塗布液3をロッドバー18番を用いて塗布し、110℃で10分乾燥・架橋反応させた。得られた重合開始層の膜厚は9.3μmであった。以上のようにして基板3を作製した。
【0232】
(重合開始層塗布液3)
・下記により得た重合開始ポリマー(1) 0.4g
・TDI(トリレン−2,4−ジイソシアネート) 0.16g
・メチルエチルケトン(MEK) 1.6g
【0233】
−重合開始ポリマー(1)の合成−
300mlの三口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル(MFG)30gを加え75℃に加熱した。そこに、[2−(Acryloyloxy)ethyl](4−benzoylbenzyl)dimethyl ammonium bromide8.1gと、2−Hydroxyethylmethaacrylate9.9gと、isopropylmethaacrylate13.5gと、ジメチル−2,2'−
アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.43gと、MFG30gと、の溶液を2.5時間かけて滴下した。その後、反応温度を80℃に上げ、更に2時間反応させ、重合開始ポリマー(1)を得た。
【0234】
〔実施例1〕
<金属膜1の形成>
基板1に、下記組成からなるポリマー層用塗布液1をロッドバー#18を用いて塗布した。なお、得られた塗膜の膜厚は、0.8μmだった
【0235】
<ポリマー層用塗布液1の組成>
・前記により得たポリマーA 0.25g
・アセトン/アセトニトリル=2/1 3.0g
【0236】
ポリマーAを含む塗膜が形成された基板に、三永電気社製のUV露光機(UVF−502S、ランプ UXM−501MD)を用い、5mWで500mJ(254nm光で測定)になるように露光した。露光後の塗膜をアセトン洗浄し、基板と結合したポリマーAからなるポリマー層を有する基板Aを得た。
【0237】
[めっき触媒の付与]
ポリマー層を有する基板Aを、硝酸パラジウム(II)の1%アセトン溶液に、30分間浸漬した後、アセトンに浸漬して洗浄した。
【0238】
[無電解めっき]
上記のようにして、めっき触媒が付与されたポリマー層を有する基板Aに対し、下記組成の無電解めっき浴を用い、60℃で10分間、無電解めっきを行った。
【0239】
−無電解めっき浴の組成−
・蒸留水 859g
・メタノール 850g
・硫酸銅 18.1g
・エチレンジアミン四酢酸・2ナトリウム塩 54.0g
・ポリオキシエチレングリコール(分子量1000) 0.18g
・2,2’ビピリジル 1.8mg
・10%エチレンジアミン水溶液 7.1g
・37%ホルムアルデヒド水溶液 9.8g
めっき浴のpHは、水酸化ナトリウム及び硫酸で12.5(60℃)に調整した。
【0240】
[電気めっき]
続いて、上記無電解めっきで形成された無電解銅めっき膜を給電層として、下記組成の電気銅めっき浴を用い、3A/dmの条件で、電気めっきを20分間行った。その後、130℃30分間、後加熱を行った。得られた電気銅めっき膜(金属膜)の厚みは18μmであった。
【0241】
−電気めっき浴の組成−
・硫酸銅 38g
・硫酸 95g
・塩酸 1mL
・カッパーグリームPCM(メルテックス(株)製) 3mL
・水 500g
【0242】
以上のようにして実施例の金属膜1を作製した。
【0243】
〔実施例2〕
<金属膜2の形成>
基板2上に、実施例1で用いたものと同一のポリマー層用塗布液をロッドバー#18を用いて塗布した。
次に、基板に実施例1と同様にして全面露光を行った。露光後の塗膜をアセトンにて洗浄し、基板にポリマーAが結合してなるポリマー層を有する基板Bを得た。
【0244】
[めっき触媒の付与]
パターン状のポリマー層を有する基板Bを、硝酸パラジウム(II)の1%アセトン溶液に、5分間浸漬した後、アセトンに浸漬して洗浄した。続いて、実施例1と同じ手法で触媒活性化、無電解めっき、電気メッキ、後加熱を行った。
以上のようにして実施例の金属膜2を作製した。
【0245】
〔実施例3〕
<金属膜3の形成>
基板3を用いた以外は、実施例2と同様にして、実施例の金属膜3を作製した。
【0246】
〔実施例4〕
<金属膜4の形成>
基板1に下記組成からなるポリマー層用塗布液2を実施例1と同様に塗布した。
【0247】
<ポリマー層用塗布液2の組成>
・前記により得たポリマーB 0.25g
・アセトン 3.0g
・DMAc 0.1g
【0248】
ポリマーBを含む塗膜が形成された基板に、実施例1と同様の手法で露光、洗浄、メッキ触媒付与、無電解メッキ、電解メッキを行い、金属膜4を得た。
【0249】
〔実施例5〕
基板1に下記組成からなるポリマー層用塗布液3を実施例1と同様に塗布した。
【0250】
<ポリマー層用塗布液3の組成>
・前記により得たポリマーC 0.25g
・アセトン 3.0g
・DMAc 0.1g
【0251】
ポリマーCを含む塗膜が形成された基板に実施例1と同様の手法で露光、洗浄、メッキ触媒付与、無電解メッキ、電解メッキを行い、金属膜5を得た。
【0252】
〔実施例6〕
<金属パターン1の形成>
実施例1により得られた金属膜1の表面に、感光性ドライフィルム(富士フイルム(株)製)をラミネートし、所望の導体回路パターンが描画されたマスクフィルム(金属パターン部分が開口部、非金属パターン部がマスク部)を通して紫外線露光させ、画像を焼き付け、現像を行った。次に、塩化第二鉄エッチング液を用いてレジストが除去された部分の金属膜(銅薄膜)をエッチングした。その後、ドライフィルムを剥離することにより、基板上に、実施例の金属パターン1(導電パターン)を形成した。
【0253】
〔評価〕
1.金属膜の評価
(密着性)
実施例1〜5で得られた金属膜1〜5について、幅1cmにカッターで傷をつけ、端を剥がし、JIS C 6481に基づき90度剥離実験を行い、金属膜の密着性を評価した(実験器:テンシロン剥離機、(株)オリエンテック製)。その結果、それぞれの金属膜の密着力は、金属膜1は0.73kN/mであり、金属膜2は0.71kN/mであり、金属膜3は0.70kN/mであり、金属膜4は0.72kN/mであり、金属膜5は0.69kN/mであった。いずれの金属膜も基板との密着性の高い金属膜であることが確認された。
【0254】
2.金属パターンの評価
(パターン形状)
実施例6で得られた金属パターン1の最小パターン幅を、光学顕微鏡(ニコン製、OPTI PHOTO−2)にて測定した。その結果、金属パターン1の最小パターン幅は50μmであった。いずれも精細な金属パターンが形成されていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a1)基板上に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造を有し且つ該基板と直接化学結合したポリマーからなるポリマー層を形成する工程と、
(a2)該ポリマー層にめっき触媒又はその前駆体を付与する工程と、
(a3)該めっき触媒又はその前駆体に対してめっきを行う工程と、
を有することを特徴とする金属膜形成方法。
【請求項2】
前記(a3)工程では、無電解めっきが行われることを特徴とする請求項1に記載の金属膜形成方法。
【請求項3】
前記無電解めっきの後に、更に電気めっきが行われることを特徴とする請求項2に記載の金属膜形成方法。
【請求項4】
前記(a1)工程が、基板上に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造及び重合性基を有するポリマーを直接化学結合させることにより行われることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の金属膜形成方法。
【請求項5】
前記(a1)工程が、(a1−1)基材上に、重合開始剤を含有する重合開始層又は重合開始可能な官能基を有する重合開始層が形成された基板を作製する工程と、(a1−2)該重合開始層に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造及び重合性基を有するポリマーを直接化学結合させる工程と、を含むことを特徴とする請求項3に記載の金属膜形成方法。
【請求項6】
前記吸着性基を2以上含む部分構造における一の吸着性基と他の吸着性基との間に存在する原子数が1〜5であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の金属膜形成方法。
【請求項7】
前記吸着性基がシアノ基又はエーテル基であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の金属膜形成方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の金属膜形成方法により得られたことを特徴とする金属膜。
【請求項9】
(a4)請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の金属膜形成方法により得られた金属膜をパターン状にエッチングする工程を有することを特徴とする金属パターン形成方法。
【請求項10】
(a1’)基板上に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造を有し且つ該基板と直接化学結合したポリマーからなるパターン状のポリマー層を形成する工程と、
(a2)該ポリマー層にめっき触媒又はその前駆体を付与する工程と、
(a3)該めっき触媒又はその前駆体に対してめっきを行う工程と、
を有することを特徴とする金属パターン形成方法。
【請求項11】
前記吸着性基がシアノ基又はエーテル基であることを特徴とする請求項10に記載の金属パターン形成方法。
【請求項12】
請求項9〜請求項11のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法により得られたことを特徴とする金属パターン。
【請求項13】
下記一般式(A1)で表されるユニット、及び、下記一般式(A2)で表されるユニットを含む共重合ポリマー。
【化1】

一般式(A1)及び(A2)中、一般式中、R11〜R15は、各々独立に、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を表す。U、V及びWは、各々独立に、置換若しく無置換の2価の有機基、エステル基、アミド基、又はエーテル基を表す。L11、L12、L13、及びL14は、各々独立に、単結合、又は置換若しくは無置換の2価の有機基を表す。Xは、炭素原子、窒素原子、リン原子、ケイ素原子、ホウ素原子、及び水素原子から選択される原子を含んで構成される連結構造を表す。Y11及びZ11は、各々独立に、チオエーテル基、フォスフィン基、イミダゾール基、水酸基、ピリジン基、アミノ基、ピロリドン基、シアノ基、エーテル基、又は不飽和エチレン基を表す。
【請求項14】
めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する吸着性基を2以上含む部分構造及び重合性基を有するポリマーと、該ポリマーを溶解しうる溶剤と、を含有することを特徴とするポリマー層形成用組成物。

【公開番号】特開2009−13463(P2009−13463A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176239(P2007−176239)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】