金属表面のカルボキシル化処理方法、腐食に対する一時的な保護を提供するための前記方法の使用、およびこのようにカルボキシル化された成形鋼板を製造する方法
本発明は、金属に対する酸化条件下で金属表面をカルボキシル化により変換するための方法に関する。この方法は、有機酸の混合物を含む水−有機槽または水槽に金属を接触させることにある。本発明は、有機酸が炭素原子10〜18の飽和直鎖カルボン酸を含むこと、混合物がこのような酸の二元または三元混合物を含むこと、前記酸のそれぞれの比率が、(i)二元混合物x±5%−y±5%では、xおよびyが、モル百分率で、共晶組成の混合物中の2つの酸のそれぞれの比率を示し、(ii)三元混合物x±3%−y±3%−z±3%では、x、yおよびzが、モル分率で、共晶組成の混合物中の3つの酸のそれぞれの比率を示すようになっていること、ならびに槽中の混合物の濃度が20g/l以上であることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛、鉄、アルミニウム、銅、鉛およびこれらの合金から選択される金属表面上に、および亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、アルミニウム処理または銅メッキ鋼上に変換層を形成する方法に関し、この方法により、1〜20μmの非常にサイズが小さい結晶で形成される変換層を高速度で生成することが可能となる。
【背景技術】
【0002】
鋼板(tole)の成形前にこれら変換層を適用した場合、これら金属表面の変換処理は一般に、下記効果のうち少なくとも1つを有する。
【0003】
鉱油を汚染することのない、例えば鋼板の型打ち鍛造(emboutissage)のための、機械への注油に基づく摩擦特性の向上。
【0004】
腐食に対する一時的な保護。変換層がもはや役に立たなくなった場合には、容易に取り除かれる。
【0005】
この第1のタイプの適用では、慣用的にはリン酸塩前処理(pre−phosphatation)と称され、このG.S.M(層重量)が1〜1.5g/m2程度である金属リン酸塩の層を堆積させる処理と同一の処理を使用することができる。
【0006】
これらの種々の変換処理は、表面の金属元素のアノード溶解と、その後の、溶解金属元素が変換槽中に存在する種と反応することによって形成される化合物の、表面への沈殿とから構成される。溶解には、表面の金属に対して酸化条件を作り出すことが必要とされ、溶解は通常は酸性媒体中で起こる。変換層を形成するための金属化合物の沈殿には、十分に高い濃度が必要とされ、金属の溶解作用の下で局所的に酸性度が弱くなっている媒体によって、沈殿は促進される。腐食に対する保護の程度、トライボロジー特性および/または付着力向上の程度、および層の他の特性を決定するのは、処理済表面上に沈殿した化合物の性質および構造である。
【0007】
処理しようとする表面の金属の表面酸化を行うために、およびこの溶解を促進するために、処理溶液に導入される金属の酸化用の化学剤によって、および/または処理溶液を作用させながら表面の電気分極によって化学的または電気化学的に進めることが可能である。
【0008】
任意選択の酸化剤の他に、変換槽は、表面の溶解した金属と共に不溶性の化合物を形成し得るアニオンおよびカチオンを実質的に含む。従って、鋼に適用される主な変換処理は、例えば、亜鉛めっき(漬浸もしくは電気亜鉛めっきによる)またはアルミニウム処理された鋼のクロム酸塩処理(chromatation)、むき出しの非合金鋼またはコーティングされた鋼のリン酸塩処理、ステンレス鋼などの合金鋼のシュウ酸塩処理(oxalatation)である。
【0009】
変換槽と接触させた後、処理済表面全体をすすいで、表面および/または反応しなかった処理溶液の成分を取り除き、次いで、特に変換層を硬化させるために、および/または変換層の特性を向上させるために、表面を乾燥させる。
【0010】
添加剤の適用条件、性質および濃度は、得られる変換層の構造、形態および密度に、従って変換層の特性に多大な影響を与える。
【0011】
変換処理それ自体は、一般に表面の事前の脱脂およびすすぎで構成される前処理から始めることができ、その後、処理しようとする表面に発芽部位(sites de germination)を作り出すおよび/または発芽部位の成長を促進するのに適した前処理溶液によって精製と称される作業を行うことができる。
【0012】
この目的を達成するために、亜鉛めっき表面の精製溶液として、より緻密な層中に小さい結晶を有する変換層を後に得ることを可能にするチタン塩のゾルまたはコロイド懸濁液が一般に使用される。
【0013】
この変換処理の最後に、変換層の特性を向上させるよう後処理を行うことも可能である。従って、リン酸塩処理によって得られる変換層にクロム酸塩処理の後処理を行うことが可能である。
【0014】
クロム酸塩処理、リン酸塩処理、およびシュウ酸塩処理などの先行技術のこれらの種々の処理には、一般に人および環境に対してこれら生成物には毒性があるという重大な欠点がある。加えて、このような変換層を有する鋼板をスポット溶接すると、毒性ガスが排出される。
【0015】
文献WO−A−02/677324では、金属表面を変換するためにカルボキシル化処理を使用することが提案されている。この目的を達成するために、金属表面に対する酸化条件下で少なくとも0.1モル/リットルの濃度で溶液またはエマルション中にカルボン酸を1種以上含む水性、有機または水−有機槽に表面を接触させることによって、変換層が形成される。酸は、飽和または不飽和脂肪族モノカルボン酸またはジカルボン酸である。
【0016】
この後者の技術を利用するこれまで使用された精密な処理は、多くの観点から満足度の高い結果をもたらしたが、幾つかの点でさらに改善する必要がある。
【0017】
これまでに水−有機槽を使用することによって最良の結果が得られている。従って、この水−有機槽は、水に加えて、特に処理溶液の調製を簡略化し、また作業場の衛生状態および安全性を向上させるよう、最も有利には無しで済ますことが望ましい有機共溶媒を含む。次に、混合物は、水、有機酸、任意選択の酸化剤、および界面活性剤、エマルションのみを含む混合物として維持される。
【0018】
さらに、公知のカルボキシル化溶液およびエマルションを用いる処理ラインで、「粉化(poudrage)」と称される現象の出現が観測されている。この現象は、板金のコイルの巻き付け時または成形工具との接触時のコーティングの石けん結晶の脆弱性に起因する。この現象は、これらの作業時に金属表面に加わる著しい摩擦によって生じる。従って、亜鉛めっき鋼板の成形時に、コーティングの劣化によって発生する、亜鉛をベースとする粒子で構成される粉末で後者が覆われる。これらの粒子が成形工具中にまたは成形工具上に蓄積することにより、型上げ棒(picots)の形成または収縮が成形部品に損傷を与えることがある。また、たとえ前もって鋼板の表面に潤滑膜を適用したとしても、成形工具に挟まれた鋼板が不十分にしか滑らない形でこのコーティング劣化が現れた場合には、鋼板破損の危険性もある。
【0019】
最後に、腐食に対する耐性のさらなる改善を得るようユーザからの要望が依然としてある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、金属表面の、特に亜鉛および亜鉛合金コーティングが亜鉛メッキおよび電気亜鉛めっきした鋼板の層の、カルボキシル化による処理を提案し、既存の処理よりも成功裏にこれまで述べた問題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的を達成するために、本発明の対象は、有機酸の混合物を含む水槽または水−有機槽と接触させることによって、金属に対する酸化条件下において、亜鉛、鉄、アルミニウム、銅、鉛およびこれらの合金、亜鉛めっきもしくは電気亜鉛めっき、アルミニウム処理または銅メッキ鋼から選択される金属表面をカルボキシル化することによる変換方法である。
この方法は、
前記有機酸が、炭素原子10〜18の飽和直鎖カルボン酸であり、
前記混合物が、このような酸の二元または三元混合物であり、
酸のそれぞれの比率は、
*二元混合物x±5%−y±5%では、xおよびyが、モル百分率で、共晶組成の混合物中の2つの酸のそれぞれの比率となり、
*三元混合物x±3%−y±3%−z±3%では、x、yおよびzが、モル百分率で、共晶組成の混合物中の3つの酸のそれぞれの比率となり、
前記槽中の前記混合物の濃度は20g/l以上であることを特徴とする。
【0022】
好ましくは、二元混合物では、酸のそれぞれの比率が、x±3%−y±3%である。
【0023】
前記酸化条件は、金属表面用の酸化性化合物が槽中に存在することによって作り出すことができる。
【0024】
前記酸化性化合物は、過酸化水素水であってもよい。
【0025】
前記酸化性化合物は、過ホウ酸ナトリウムであってもよい。
【0026】
前記酸化条件は、槽に電流を流すことによって作り出すことができる。
【0027】
槽は水−有機槽であってもよく、共溶媒を含むことができる。
【0028】
共溶媒は、3−メトキシ−3−メチルブタン−1−オール、エタノール、n−プロパノール、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノンおよびジアセトンアルコールから選択することができる。
【0029】
前記槽は、水槽であってもよく、界面活性剤および/または分散剤を含むことができる。
【0030】
前記界面活性剤は、アルキルポリグリコシド、エトキシ化脂肪アルコール、エトキシ化脂肪酸、エトキシ化油、エトキシ化ノニルフェノールおよびソルビタンのエトキシ化エステルから選択することができる。
【0031】
前記分散剤は、高分子量ポリアルコール、アクリル酸(メタクリル酸)共重合体などカルボン酸の塩、およびポリアミドワックスなどポリアミドの誘導体から選択することができる。
【0032】
前記飽和カルボン酸は、それぞれ偶数個の炭素原子を有することができる。
【0033】
前記飽和カルボン酸は、ラウリン酸およびパルミチン酸であってもよい。
【0034】
前記金属表面は亜鉛めっき鋼板であってもよく、槽はAl3+の錯化剤を含むことができる。
【0035】
好ましくは、前記混合物は共融混合物である。
【0036】
本発明は、この対象として、金属表面の腐食に対する一時的な保護のための方法も有し、この方法に従ってカルボキシル化による前記表面の変換が行われ、この方法は、前記変換が上記の方法によって行われることを特徴とする。
【0037】
前記金属表面は、亜鉛、鉄、アルミニウム、銅、鉛およびこれらの合金、亜鉛めっき、アルミニウム処理および銅メッキ鋼から選択することができる。
【0038】
本発明は、この対象として、亜鉛、鉄、アルミニウム、銅、鉛およびこれらの合金、ならびに亜鉛めっき、アルミニウム処理および銅メッキ鋼から選択される金属表面を有する成形鋼板を作製するための方法も有し、この方法では、前記鋼板のカルボキシル化処理が行われ、前記鋼板が成形され、この方法は、前記カルボキシル化処理が上記の方法によって行われることを特徴とする。
【0039】
前記鋼板は、亜鉛でまたは亜鉛合金でコーティングされた鋼であってもよく、型打ち鍛造によって成形される。
【0040】
理解されるように、本発明は、カルボキシル化溶液またはエマルションを構成するために、C10−C18飽和直鎖脂肪酸の二元または三元共晶を、もしくはこのような共晶の組成を有する混合物を使用することに基礎を置く。好ましくは、使用する酸は全て、偶数個の炭素原子を有する酸である。C12−C16の酸からなる二元共晶が特に有利である。カルボキシル化槽中の共晶のまたは混合物の濃度は、20g/l以上である。
【0041】
本明細書中で使用する用語「共晶」は、共晶組成の単純混合物を、または2種もしくは3種のC10−C18飽和直鎖脂肪酸を含む共晶に近い組成の単純混合物を、または脂肪酸の混合物の溶融によって得られる、この組成を有する真の共晶を指すことを理解されたい。
【0042】
これらの条件下では、必須ではないが、必要な酸化条件が電気化学的手段によって得られる場合には、有機共溶媒なしで済ますことが可能となり、処理槽は共晶もしくは共晶組成の酸の混合物、界面活性剤および水のみを含むことができる。このことは、生態学的な観点から非常に有利である。これらの酸化条件は、化学的手段によって、即ち、過酸化水素水などの酸化性化合物を添加することによって得ることもできる。媒体のpHを下げる1種以上の化合物を添加することが望まれることもあるが、大多数の場合、言及してきた化合物の混合物によって自然に得られるpH3〜5は、特に亜鉛めっき鋼シートのカルボキシル化の状況では十分に酸性である。
【0043】
共晶の最低濃度20g/lが選択される。というのは、この限界に満たない場合、カルボキシル化層の形成速度が、工業上の要件と適合する長さの処理で効果的な変換層を得るにはもはや不十分であるからである。
【0044】
本発明は、添付の図面と共に提供される以下の説明によってより容易に理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
まず、金属表面のカルボキシル化の原理が容易に想定される。
【0046】
中性の通気溶液中の金属(Cu、Fe、Pb、ZnおよびMg)の水腐食を抑制する飽和直鎖脂肪族モノカルボン酸塩の能力は、広く実証されてきた。得られる保護は、金属石けんの結晶および処理する金属の水酸化物で構成される薄膜の存在によるものである。この保護層は、酸化条件下で形成され、炭素鎖長およびカルボン酸塩の濃度に密接に依存する耐腐食性を有する。
【0047】
それ自体公知のカルボキシル化法が、主に亜鉛に、また亜鉛めっきコーティングに適用されてきた。カルボキシル化槽は、水に溶解させた、または水/非水溶媒(エタノール等)の一般に等容量の混合物に溶解させた、HCnと記載されるn≧7である一般式(CH3(CH2)n−2COOH)のCn飽和直鎖カルボン酸を含む。亜鉛/溶液界面で十分な量のZn++カチオンを生成するために、過酸化水素水や過ホウ酸ナトリウムなどの酸化剤を添加する。槽のpHは約5である。変形形態としては、Zn++カチオンを生成する酸化条件を、保護しようとする表面と槽に漬浸させた対電極との間に電流を生じることによって得る。
【0048】
カルボン酸をHCnと記載する場合、亜鉛の表面におけるカルボキシル化層の形成の基礎反応は、
Zn2+2Cn− −> Zn(Cn)2↓である。
【0049】
本発明において使用可能な化合物、酸ならびに界面活性剤は、「環境に優しい(vert)」製品から、即ち、非食用農業製品(ひまわり油、あまに油または菜種油等)からもたらすことができる。これらの製品は、金属表面の潤滑に使用する汚染鉱油、ならびに腐食に対するこれらの同表面の保護に使用するリン酸塩処理溶液およびクロム酸塩処理溶液に有利に取って代わる。
【0050】
カルボキシル化処理の効率は、炭素原子7〜18の飽和直鎖カルボン酸に基づく槽の場合、実質的に検証されており、ステアリン酸HC18はこれまでのところ、亜鉛石けんコーティングの水腐食および大気腐食に対する耐性を最適化するための特に有利な化合物であると思われる。
【0051】
しかしながら、本発明者らは、「C10−C18飽和脂肪酸」と称される2種または3種のC10−C18飽和直鎖カルボン酸からなる共晶組成の共晶または混合物を利用する場合、腐食に対する保護の点でも使用時のカルボキシル化コーティングの挙動(粉化の低減)の点でも、より改善された結果を得ることができることを見出した。このような共晶または混合物により、単一の酸または共晶には近くない組成の酸の混合物によって得られるコーティングと比較して、腐食に対する保護の著しい改善がもたらされる。加えて、本発明によるこれらのコーティングの潤滑特性は優れている。これら潤滑特性により、コーティングされた製品の成形時に油をさす手間を省くことが可能となる。
【0052】
これらの飽和脂肪酸の中で、偶数個の炭素原子を含む飽和脂肪酸が好ましい。
【0053】
本発明の枠組みの内で使用可能な偶数個の炭素原子を有する飽和脂肪酸は、
HC10カプリン酸
HC12ラウリン酸
HC14ミリスチン酸
HC16パルミチン酸
HC10ステアリン酸である。
【0054】
これらの二元混合物の研究により、それぞれ融点曲線における変曲および極小が現れる2つの特定の比率の存在を示すことが可能となる。図1は、温度に依存する脂肪酸AおよびBの混合物の概略平衡状態図を示す。極小eは共晶の形成を示し、点uにおける傾きの変化は通常、式AmBn(mおよびnは、それぞれAおよびBのモル分率を示す)のcとして定義される分子化合物の存在によるものである。
【0055】
一方が他方よりも炭素原子を2つ多く有する、即ち、タイプHCn+HCn+2の飽和脂肪酸の二元混合物について研究が行われている。これらの場合、最も長い鎖を有する酸の1分子対他方の酸の3分子に対応する組成について共晶が常に生じる。同様に、錯体に対応する分岐点(図1、点u)は常に、1/1前後のモル比について現れる。
【0056】
図2bおよび2dは、二元図HC12/HC16およびHC12/HC18を示す。この鎖長が炭素原子2個分だけ異なる酸の混合物(HC10/HC12についての図2aおよびHC16/HC18についての図2c)と同様に、錯体に対応する共晶点eならびに変曲点uはそれぞれ25および50%には現れないことがわかる。共晶は、最も短い脂肪酸のより高いモル濃度に向かって変位する。二元図の形ならびに点uおよびeの位置は、多かれ少なかれ錯体の限られた安定性に依存している。形は、成分の鎖長の差によって、より正確には、これら2種の脂肪酸の融点の差によって決まる。表1は、様々な二元混合物の共晶eの組成および融点Tf(e)を示す。
【0057】
表1に示す共晶eの組成は近似している。刊行物によれば、これら組成は数パーセント変動することがある。これらの差異は、使用する脂肪酸の純度によるものである。
【0058】
【表1】
【0059】
これらの共晶を用いて電気亜鉛めっき鋼シートのカルボキシル化処理を両面に行った。
【0060】
工業的なアルカリリン酸塩処理において使用する鋼板と同様に、鋼板をアルカリ脱脂槽内で脱脂した。次いで、これら鋼板をすすいだ。次いで、化学的に(過酸化水素水や過ホウ酸ナトリウム四水和物などの酸化剤が槽中に存在すること)、または電気化学的にカルボキシル化処理を行った。
【0061】
これらの酸化条件により、Zn2+とCn−との間の高速反応が可能となり、これによりZnカルボン酸塩の微結晶がもたらされる。
【0062】
酸化剤を使用する場合、過酸化水素水および過ホウ酸ナトリウム四水和物は同程度の結果をもたらすことが経験的にわかっている。酸化剤を使用することの利点は、基板/溶液界面で溶解するZn量の増大によって、および/または以下の酸化剤の減少によるpHの局所的な増大によって説明される。
【0063】
BO3−+2H++2e− −> BO2−+H2O
H2O2+2H++2e− −> 2H2O
過酸化水素水の量に関して、カルボン酸塩の結晶によって表面の優れた被覆率を得るためには、この量は大きすぎるべきではない。過剰な過酸化水素水により、過酸によりカルボン酸塩が急速に溶解する。溶液中のH2O2濃度は、例えば、2〜15g/lである。2g/lを下回ると、媒体は通常、溶液中で十分なZn2+を形成するほど十分に酸化性とはならない。この場合、反応の継続時間が、工業上の要件と適合しない可能性が高い。15g/lを超えると、一般に媒体の酸化性が強すぎ、結晶が不十分にしか形成されない。最適な濃度は、溶液中H2O2が約8〜12g/lである。
【0064】
過酸化水素水に関連して、過ホウ酸ナトリウムは、水への溶解度がより低いという欠点を有する。従って、過酸化水素水を使用することにより、酸化剤の濃度の選択においてより高い柔軟性がもたらされる。
【0065】
優れた(privilegie)共溶媒は、3−メトキシ−3−メチルブタン−1−オール(MMB)である。この共溶媒は、「環境に優しい」生分解性の溶媒である。さらに、可燃性となる温度であるこの引火点は71℃であり、例えばエタノールの引火点と比較すると、12℃である。従って、MMBはエタノールよりも安全な条件を提供する。特に、エタノール、n−プロパノール、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノンまたはジアセトンアルコールを使用することも可能である。
【0066】
脂肪酸の共晶の使用に関して、第1の利点は、図2からわかるように、単一の脂肪酸の使用に比べて溶融温度が低下することである。これにより、特に水−有機媒体を使用する際には、多くの場合45℃前後の比較的低い温度でカルボキシル化槽を維持することが可能となる。
【0067】
共晶は、共晶を構成する脂肪酸の混合物の数時間以上にわたる溶融によって調製する。次いで、混合物を周囲温度までゆっくりと冷却する。
【0068】
説明してきた例では、1〜2g/m2のカルボキシル化層重量を得るために、電気亜鉛めっき鋼板(Zn層の厚さ:7.5μm)を処理した。この層は、鋼板の最大被覆率を提供することが経験的にわかっている。
【0069】
このカルボキシル化層の重量は、カルボキシル化基板と超音波、カルボキシル化層の溶解を含む処理によってジクロロエタンで酸洗いした基板との間の質量差の測定によって評価する。
【0070】
腐食電位を追跡し、分極抵抗を測定することによって、3つの電極を有する従来の電気化学セル内で試験試料の水腐食に対する耐性を試験した。使用する電解質は、標準的なASTM D1384−87(Na2SO4が148mg/l、NaHCO3が138mg/l、NaClが165mg/l、pH:7.8)による水である。この腐食性溶液は、実験室で腐食防止剤の効率を評価するのに一般に使用される。
【0071】
試料が鉛直配置され、湿度100%(40℃の脱イオン水)に8時間、次いで外気に16時間さらすことを連続して各々が含む24時間のサイクルにさらされる気候的囲い(enceinte climatique)により、標準的なDIN50017に従って50cm2の試料の大気腐食に対する耐性を検討した。目視観測およびX線回折によってコーティングの劣化を推定した。
【0072】
2本の乾燥ローラ間を連続して通過する前後の基板の質量差の測定によって、試料の粉化を評価した。このように測定した質量損失を、コーティングの粉化の傾向に結び付けることができる。
【0073】
型打ち鍛造時のコーティングの潤滑能力を評価するために、トライボロジー試験を行った。これら試験は、締付力(force de serrage)が制御される平面/平面摩擦計で、締め付けた鋼板の試料を速度1〜100mm/secで通過させることによって、また試料を締め付ける平面工具間の距離の変化(evolution)を測定することによって行われる。従って、締付圧に依存する摩擦係数を決定することが可能である。
【0074】
特に、偶数個の炭素原子を有する以下の脂肪酸の二元共晶について調べた。
【0075】
HC10/HC12
HC12/HC16
HC12/HC18。
【0076】
過酸化水素水の存在下で水−有機媒体に溶解させたこれら3種の共晶により得られたコーティングについて先ず調べた。槽の構成は以下の通りであった。
【0077】
水50体積%と、3−メトキシ−3−メチルブタン−1−オール(MMB)50体積%との媒体
H2O2の濃度5g/l
温度45℃
表2による共晶の組成および濃度ならびにカルボキシル化の継続時間。
【0078】
【表2】
【0079】
槽中の鋼板試料の滞留時間は、重量1〜1.5g/m2のカルボキシル化層が得られるように決定した。
【0080】
走査型電子顕微鏡による目視観測により、これらの堆積物のそれぞれが試料の表面を十分に被覆することがわかる。共晶HC12/HC16およびHC12/HC18については、サイズが5〜10μmの小さい平行六面体(parallelepipediques)結晶が観測された。HC10/HC12については、代わりに結晶が球状または円筒状である。
【0081】
X線回折による堆積物の分析は、これらの堆積物が不十分にしか結晶化されていないことを示す。このことそれ自体は、求める特性にとって欠陥ではないが、堆積物のキャラクタリゼーションを複雑にする。しかしながら、粉末状のZnのカルボン酸塩を合成することによって、形成された化合物がZnCn1Cn2に近い構造を有すると判断することが可能であった。Cn1およびCn2は、n1個およびn2個の炭素原子を有する共晶の組成における混合物の2種の酸に対応するカルボン酸イオンを指す。
【0082】
先に定義し試験した3種のコーティングについて、また参照として、カルボキシル化されていないEG電気亜鉛めっきコーティングについて、図3は、コーティングの分極抵抗Rpの経時変化を示し、図4は、腐食水中における腐食電位Ecorrについてのこの同じく変化を示す。
【0083】
本発明によるコーティングは、単純な電気亜鉛めっきによりもたらされるコーティングの性能よりもはるかに高い性能を示すことがわかるであろう。このため、分極抵抗は2kΩ.cm2程度であり、単一の脂肪酸に基づく水/溶媒溶液により通常生成されるカルボキシル化コーティングは、この値について相対的にわずかな改善しかもたらさない(最大15kΩ.cm2)。一方、本発明によるコーティングは、電気亜鉛めっきのみのコーティングについて観測される値よりも約5〜15倍程度高い値をもたらす。第一にHC12/HC16により、また第二にHC12/HC18により得られるコーティングは、絶対値および経時安定性において最も良い結果をもたらす。腐食電位に関しては、本発明によるコーティングの腐食電位が80〜140mVで、電気亜鉛めっきコーティングについて得られる値を超えている。ここでもやはり、HC12/HC16が最も良い結果をもたらす。水/溶媒の媒体中の単一の脂肪酸により得られるコーティングは通常、−1020〜−1080mV程度の腐食電位をもたらすため、本発明によるコーティングの腐食電位ほど有利ではない。
【0084】
先に定義したように20サイクルさらした後に腐食している試料の表面積の百分率を観測することによって、大気腐食に対する耐性も推測した。
【0085】
電気亜鉛めっき試料の表面積の100%が10サイクル後には腐食していたが、最良の性能を示す混合物HC12/HC16については20サイクル後に劣化は観測されなかった。他の混合物については、20サイクル後に腐食している表面積が、全表面積の7%前後(HC10/HC12について)および10%前後(HC12/HC18について)である。これらの性能は、水/溶媒の有機媒体中の単一の脂肪酸により得られる性能に匹敵する、または単一の脂肪酸により得られる性能よりも優れている。
【0086】
さらには、再結晶化した腐食生成物は、X線回折では観測されなかった。
【0087】
電気亜鉛めっきコーティングとの比較で、HC12/HC16により形成されるコーティングについてトライボロジー試験を行った。結果を図5に示す。図5は、2種のコーティングについての、接触圧に依存するコーティングの摩擦係数を示す図である。コーティングされていない電気亜鉛めっき鋼のトライボロジー挙動は、接触圧の増大に伴い著しく低下するが、このことは本発明によるコーティングには当てはまらず、本発明によるコーティングは、単一の脂肪酸により形成されるコーティングと同程度の低い摩擦係数を常に示す。このコーティングにより、亜鉛または亜鉛合金でコーティングされた鋼板の型打ち鍛造時の潤滑剤としての使用に非常に適していることが証明される。
【0088】
このコーティングは、それほど粉化されないこともわかった。乾燥ローラ上を20回通過させた後、Zn(C7)2の変換層でコーティングされている鋼についての0.4g/m2に対して、層重量損失0.2g/m2を測定した。
【0089】
一般に、共晶組成の脂肪酸の二元混合物により得られるカルボキシル化コーティングは、全ての点において、水/溶媒の媒体中の単一の脂肪酸により得られるコーティングの性能と少なくとも等しい性能、また多くの場合、水/溶媒の媒体中の単一の脂肪酸により得られるコーティングの性能よりも優れた性能を有する。概して、混合物HC12/HC16が、試験した中で最も満足できるものである。
【0090】
相補的な試験により、試料の調製プロセスにおいては、処理しようとする金属表面を活性化することを可能にする精製ステップは、後に続くステップ中に形成されるカルボキシル化コーティングの質の顕著な改善は示さないことを示すことができた。従って、この精製ステップは一般に、重大な欠点なく省略することができ、このとことは、経済的な、また生態学的な観点から非常に有利である。
【0091】
他の試験により、亜鉛めっきコーティングにも本発明を有利に適用することができることもわかった。しかしながら、この場合には、通常コーティングの表面に存在するアルミニウムの層Al2O3を取り除くことが必要である。というのは、これにより表面の反応性が低減し、亜鉛の溶解が抑制されるからである。これは、NaF、ジエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸NTA、クエン酸塩、シュウ酸塩、一部のアミノ酸、シュウ酸とリン酸アルミニウムとの混合物など、Al3+の錯化剤を変換槽に添加することによって実現することができる。
【0092】
別の方法は、Al2O3の層を取り除くことによって、
Al2O3を溶解させるためにアルカリ脱脂(NaOH、界面活性剤、錯化剤)によって、その後、Al2O3の除去を完了し、またFeおよびCoを含み変換時に亜鉛の溶解を高める上質の層を沈殿させるアルカリ性酸化(NaOH、鉄塩およびコバルト塩、錯化剤)によって、
またはNiイオンの存在下で酸攻撃(H2SO4)によって、カルボキシル化の前に表面を準備することにある。Niは金属状態で基板上に沈殿し、変換時に亜鉛の溶解を促進させる。
【0093】
さらに、共晶81−19%からはずれた組成を有する混合物HC12/HC16について試験を行った。77/23%および85/15%混合物は、特に分極抵抗に関し、共晶81/19%に対して既に特性が低下していると思われる。しかしながら、これらの性能は、HC12またはHC16のみを含む溶液により得られる性能よりも依然として優れている。
【0094】
一般に、共晶x%−y%に対する組成(モル%で)のずれは、二元共晶についてはx±5%−y±5%、好ましくはx±3%−y±3%を、三元共晶についてはx±3%−y±3%−z±3%を超えるべきではないと考えられている。
【0095】
さらに、カルボキシル化媒体中の有機溶媒の存在を脂肪酸が必要としない方法が利用可能である必要がある。この目的を達成するために、特に共晶HC12/HC16 81/19%では、有機溶媒を省き、カルボキシル化槽に界面活性剤および/または分散剤を添加することによって優れた結果を得ることが可能であることがわかった。
【0096】
次いで、Znカルボン酸塩の層の疎水性を取り戻し、従って鋼板の腐食を回避するためには、親水性である界面活性剤を取り除くためのすすぎステップを設けることが必要である。
【0097】
界面活性剤としては、一般に非イオン性界面活性剤から、特に、下記から選択される、かなり多様な化合物を使用した。
【0098】
COGNIS社のAgrimul PG 215 CS VPやGlucopon 225 DK/HHなどのアルキルポリグリコシド類(APG)。これらの界面活性剤は糖類に基づき、毒性がなく、アルカリ剤および塩に対して並外れた耐性を有する。
【0099】
ACROS社のBrij58などのエトキシ化脂肪アルコール類。
【0100】
飽和または不飽和エトキシ化脂肪酸類。
【0101】
エトキシ化油類。
【0102】
エトキシ化ノニルフェノール類。
【0103】
ソルビタンのエトキシ化エステル類。
【0104】
分散剤としては、特に、高分子量ポリアルコール類、アクリル酸(メタクリル酸)共重合体などカルボン酸の塩、ポリアミドワックスなどのポリアミド類の誘導体を使用することが可能である。
【0105】
これらの条件下で、過酸化水素水の最適な濃度は2〜8g/lである。
【0106】
単一の脂肪酸を用いる場合、単一の水性エマルションによる有機溶媒なしのカルボキシル化では、腐食に対する最適な保護用コーティングはもたらされない。というのは、カルボキシル化層の重量が比較的低いからである。従って、これらの条件下で脂肪酸の共晶を使用することがより満足できるものであることが証明されるかどうかを判断した。
【0107】
従って、水と、上記界面活性剤APG215と、81/19%の共晶HC12/HC16を含むカルボキシル化エマルションを調製した。
【0108】
45℃では、少なくとも6%のAPG215と、最大4%の共晶を含む少なくとも1時間は安定なエマルションを得ることが可能であることが立証された。界面活性剤および共晶の百分率は、質量百分率である。
【0109】
5または10g/lの過酸化水素水の存在下、3%の共晶および0.1〜3%のAPG215を含むエマルションで、以下の実験を行った。
【0110】
試験したエマルションが以下の組成を有していた。
【0111】
A:水−HC12/HC16 3%−APG215 0.1%−H2O2 5g/l
B:水−HC12/HC16 3%−APG215 1%−H2O2 5g/l
C:水−HC12/HC16 3%−APG215 3%−H2O2 5g/l
D:水−HC12/HC16 3%−APG215 3%−H2O2 10g/l
APG215の濃度が低いエマルションAにより、脂肪酸をより急速に放出することが可能となることがわかった。層重量1.2g/m2が5秒以内に達成されるが、他のエマルションに匹敵する層重量に達するには10秒が必要である。APG215含有量1〜3%では、界面活性剤濃度の著しい効果は観測されなかった。酸化剤濃度も、調査した範囲内ではそれほど目立った効果はなかった。
【0112】
結晶の寸法は、エマルションの組成には関係していないように思われる。ここでもやはり、カルボキシル化の生成物は不十分にしか結晶化されておらず、この組成はZnC12C16に近い。
【0113】
先ほどと同じ条件下で分極抵抗および腐食電位を測定し、これらを電気亜鉛めっきECコーティングについて得た分極抵抗および腐食電位と比較した。結果をそれぞれ、図6および図7に示した。
【0114】
水腐食では、これらのコーティングは全て、漬浸してすぐ数分は電気亜鉛めっきコーティングだけの分極抵抗よりも大きい分極抵抗をもたらし、その後電気亜鉛めっきコーティングの値に等しいまたは電気亜鉛めっきコーティングよりもわずかに高い値で安定するように思われる。界面活性剤がより少ないエマルションが、最良の結果をもたらす。腐食電位については、異なるコーティングが同程度の挙動を有し、電気亜鉛めっき鋼板の腐食電位よりも有利な腐食電位をもたらす。
【0115】
大気腐食については、最良の結果をもたらすのは、界面活性剤が最も多いエマルションCおよびDであり、それぞれ20サイクルの後は表面積の10%および20%が腐食している。トライボロジーについての結果は同様に良好である。
【0116】
それぞれモル比が77%および23%である混合物HC12/HC16(従って、共晶81−19%からはわずかにずれているが、本発明に従っている)も、水/溶媒の媒体(MMB)中で調製した。
【0117】
この混合物を、先ほど示したように溶融によって共晶の形とし、この共晶混合物を用いて2種のカルボキシル化溶液を生成した。
【0118】
溶液1:水50体積%+溶媒50体積%であり、これに共晶4質量%+リン酸Al 0.095g/l+シュウ酸0.105g/l+H2O2 5g/lを加える。
【0119】
溶液2:水50体積%+溶媒50体積%であり、これに共晶4質量%+シュウ酸Al 0.1g/l+H2O2 5g/lを加える。
【0120】
次いで、これらの溶液を、漬浸亜鉛めっき鋼板のカルボキシル化に適用した。亜鉛めっき層の厚さは8μm、Al含有量は0.2〜0.4重量%であった。亜鉛めっきは、450℃のZn槽で行った。次いで行ったトライボロジー試験の結果を、また亜鉛めっき鋼板のカルボキシル化されていない参照試料について得られた結果も図8に示す。
【0121】
この参照試料は、接触圧によって0.13〜0.17μ程度の摩擦係数を有する。
【0122】
本発明によるカルボキシル化鋼板は、0.05μと低くなることができ、等しい接触圧では参照鋼板の摩擦係数よりも常にかなり低くなることができる摩擦係数を有する。リン酸Al+シュウ酸(溶液1)をシュウ酸Al(溶液2)で置き換えてもトライボロジー特性に大きな影響を及ぼすことはないこともわかるであろう。混合物の組成が共晶の組成として与えられている組成からわずかにずれていても(各成分について±5%の範囲内)、良質の結果を危うくすることもない。
【0123】
前もって共晶の形にはしないがこれらと同じ比率の混合物HC12/HC16を使用すると、先の結果に匹敵する結果が得られることもわかった。従って、それぞれ溶液1および2の組成と同一の組成に対応する溶液3および4を試験した。
【0124】
図8からわかるように、溶液3および4により得られたトライボロジー試験の結果は、真の共晶を含む溶液1および2により得られた結果と有意に区別できるものではない。
【0125】
同様に、溶液1〜4は全て、被覆する均質な堆積物を提供した。形成された層の重量は、全ての場合において3〜7秒後に1.2g/m2に達していた。
【0126】
これらのコーティング全てについて、先に確かめた条件下で18サイクルさらした後も腐食は観測されなかった。
【0127】
要約すると、共晶から、または水/溶媒の有機媒体中の共晶組成の混合物から形成されたカルボキシル化コーティングの性能は一般に、水/界面活性剤の媒体中のエマルションによって形成された類似のコーティングの性能よりも優れている。しかしながら、例えば、コーティングした製品を長時間腐食性雰囲気にとどまらせることを目的としていないために、有機溶媒なしで形成されたコーティングの性能で十分であると判断された場合には、有機溶媒なしで形成されたコーティングを使用することが有利である。というのは、取扱い者にとっても環境にとっても毒性リスクがより低いためである。加えて、これらコーティングを使用しても、廃液の点検も後処理もほとんどまたは全く必要ない。
【0128】
説明してきた実験では、酸化条件は過酸化水素水によって得た。しかし、公知のように、他の酸化剤により、または例えば強度10〜25mA/cm2程度の電流をカルボキシル化槽に流すことによって酸化条件を得ることもできた。
【0129】
本発明は、説明してきた例に限定されない。特に、C10−C18飽和直鎖脂肪酸からの他の対の共晶が、これらの酸がそれぞれ偶数個の炭素原子を有するか奇数個の炭素原子を有するかにかかわらず、使用可能なはずである。このような脂肪酸の三元混合物の共晶を使用することも可能である。
【0130】
しかしながら、本発明の好ましい実施形態を構成するのは、偶数個の炭素原子を有する脂肪酸の使用である。これら偶数の脂肪酸は植物性で、一般に「環境に優しい」製品から、即ち再生可能資源から生じる。奇数の脂肪酸は天然には存在せず、合成しなければならない。加えて、奇数の脂肪酸の共晶は、これらを調製するために化学的処理を必要とする。
【0131】
変換槽は、場合により以下を含むことができる。
【0132】
pH調整剤、または表面に変換層を形成する条件を調整するための緩衝剤。
【0133】
界面活性剤など、処理の実施および処理しようとする表面への槽の分配を促進する添加剤(槽が水性エマルションである場合には、界面活性剤の存在が必須であることが理解されよう)。
【0134】
例えば、変換層中に得ることが望ましい化合物以外の化合物の沈殿を遅らせるためのキレート剤や、殺菌剤など、槽の寿命を延ばすことを可能にする添加剤。
【0135】
処理促進剤。
【0136】
水性媒体中に脂肪酸を分散させることを可能にする添加剤。
【0137】
本発明による変換処理は、亜鉛めっき鋼以外の金属表面にも適用可能である。本発明による変換処理は、カルボキシル化できる任意の金属表面、即ち、亜鉛、鉄、アルミニウム、銅、鉛およびこれらの合金、ならびにアルミニウム処理または銅メッキ鋼に関することができる。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】温度に依存する2種の脂肪酸AおよびBの混合物の概略平衡状態図である。
【図2a】水または水−有機媒体への溶解または希釈なしのHC10/HC12(図2a)、HC12/HC16(図2b)、HC16/HC18(図2c)およびHC12/HC18(図2d)飽和直鎖脂肪酸の混合物の二元図である。
【図2b】水または水−有機媒体への溶解または希釈なしのHC10/HC12(図2a)、HC12/HC16(図2b)、HC16/HC18(図2c)およびHC12/HC18(図2d)飽和直鎖脂肪酸の混合物の二元図である。
【図2c】水または水−有機媒体への溶解または希釈なしのHC10/HC12(図2a)、HC12/HC16(図2b)、HC16/HC18(図2c)およびHC12/HC18(図2d)飽和直鎖脂肪酸の混合物の二元図である。
【図2d】水または水−有機媒体への溶解または希釈なしのHC10/HC12(図2a)、HC12/HC16(図2b)、HC16/HC18(図2c)およびHC12/HC18(図2d)飽和直鎖脂肪酸の混合物の二元図である。
【図3】カルボキシル化が水−有機媒体中で行われる種々の共晶および参照用亜鉛めっき鋼板について、分極抵抗の経時変化を示す図である。
【図4】図3の試験と同じ条件下における腐食電位の経時変化を示す図である。
【図5】HC12/HC18共晶によってカルボキシル化した電気亜鉛めっき鋼板の試料について、また参照試料について行ったトライボロジー試験の結果を示す図である。
【図6】水+界面活性剤の媒体中で行った、図3の試験と同様の試験の結果を示す図である。
【図7】水+界面活性剤の媒体中で行った、図4の試験と同様の試験の結果を示す図である。
【図8】HC12/HC16共晶またはHC12/HC16混合物によってカルボキシル化された漬浸亜鉛めっき鋼板の試料について、また参照試料について行ったトライボロジー試験の結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛、鉄、アルミニウム、銅、鉛およびこれらの合金から選択される金属表面上に、および亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、アルミニウム処理または銅メッキ鋼上に変換層を形成する方法に関し、この方法により、1〜20μmの非常にサイズが小さい結晶で形成される変換層を高速度で生成することが可能となる。
【背景技術】
【0002】
鋼板(tole)の成形前にこれら変換層を適用した場合、これら金属表面の変換処理は一般に、下記効果のうち少なくとも1つを有する。
【0003】
鉱油を汚染することのない、例えば鋼板の型打ち鍛造(emboutissage)のための、機械への注油に基づく摩擦特性の向上。
【0004】
腐食に対する一時的な保護。変換層がもはや役に立たなくなった場合には、容易に取り除かれる。
【0005】
この第1のタイプの適用では、慣用的にはリン酸塩前処理(pre−phosphatation)と称され、このG.S.M(層重量)が1〜1.5g/m2程度である金属リン酸塩の層を堆積させる処理と同一の処理を使用することができる。
【0006】
これらの種々の変換処理は、表面の金属元素のアノード溶解と、その後の、溶解金属元素が変換槽中に存在する種と反応することによって形成される化合物の、表面への沈殿とから構成される。溶解には、表面の金属に対して酸化条件を作り出すことが必要とされ、溶解は通常は酸性媒体中で起こる。変換層を形成するための金属化合物の沈殿には、十分に高い濃度が必要とされ、金属の溶解作用の下で局所的に酸性度が弱くなっている媒体によって、沈殿は促進される。腐食に対する保護の程度、トライボロジー特性および/または付着力向上の程度、および層の他の特性を決定するのは、処理済表面上に沈殿した化合物の性質および構造である。
【0007】
処理しようとする表面の金属の表面酸化を行うために、およびこの溶解を促進するために、処理溶液に導入される金属の酸化用の化学剤によって、および/または処理溶液を作用させながら表面の電気分極によって化学的または電気化学的に進めることが可能である。
【0008】
任意選択の酸化剤の他に、変換槽は、表面の溶解した金属と共に不溶性の化合物を形成し得るアニオンおよびカチオンを実質的に含む。従って、鋼に適用される主な変換処理は、例えば、亜鉛めっき(漬浸もしくは電気亜鉛めっきによる)またはアルミニウム処理された鋼のクロム酸塩処理(chromatation)、むき出しの非合金鋼またはコーティングされた鋼のリン酸塩処理、ステンレス鋼などの合金鋼のシュウ酸塩処理(oxalatation)である。
【0009】
変換槽と接触させた後、処理済表面全体をすすいで、表面および/または反応しなかった処理溶液の成分を取り除き、次いで、特に変換層を硬化させるために、および/または変換層の特性を向上させるために、表面を乾燥させる。
【0010】
添加剤の適用条件、性質および濃度は、得られる変換層の構造、形態および密度に、従って変換層の特性に多大な影響を与える。
【0011】
変換処理それ自体は、一般に表面の事前の脱脂およびすすぎで構成される前処理から始めることができ、その後、処理しようとする表面に発芽部位(sites de germination)を作り出すおよび/または発芽部位の成長を促進するのに適した前処理溶液によって精製と称される作業を行うことができる。
【0012】
この目的を達成するために、亜鉛めっき表面の精製溶液として、より緻密な層中に小さい結晶を有する変換層を後に得ることを可能にするチタン塩のゾルまたはコロイド懸濁液が一般に使用される。
【0013】
この変換処理の最後に、変換層の特性を向上させるよう後処理を行うことも可能である。従って、リン酸塩処理によって得られる変換層にクロム酸塩処理の後処理を行うことが可能である。
【0014】
クロム酸塩処理、リン酸塩処理、およびシュウ酸塩処理などの先行技術のこれらの種々の処理には、一般に人および環境に対してこれら生成物には毒性があるという重大な欠点がある。加えて、このような変換層を有する鋼板をスポット溶接すると、毒性ガスが排出される。
【0015】
文献WO−A−02/677324では、金属表面を変換するためにカルボキシル化処理を使用することが提案されている。この目的を達成するために、金属表面に対する酸化条件下で少なくとも0.1モル/リットルの濃度で溶液またはエマルション中にカルボン酸を1種以上含む水性、有機または水−有機槽に表面を接触させることによって、変換層が形成される。酸は、飽和または不飽和脂肪族モノカルボン酸またはジカルボン酸である。
【0016】
この後者の技術を利用するこれまで使用された精密な処理は、多くの観点から満足度の高い結果をもたらしたが、幾つかの点でさらに改善する必要がある。
【0017】
これまでに水−有機槽を使用することによって最良の結果が得られている。従って、この水−有機槽は、水に加えて、特に処理溶液の調製を簡略化し、また作業場の衛生状態および安全性を向上させるよう、最も有利には無しで済ますことが望ましい有機共溶媒を含む。次に、混合物は、水、有機酸、任意選択の酸化剤、および界面活性剤、エマルションのみを含む混合物として維持される。
【0018】
さらに、公知のカルボキシル化溶液およびエマルションを用いる処理ラインで、「粉化(poudrage)」と称される現象の出現が観測されている。この現象は、板金のコイルの巻き付け時または成形工具との接触時のコーティングの石けん結晶の脆弱性に起因する。この現象は、これらの作業時に金属表面に加わる著しい摩擦によって生じる。従って、亜鉛めっき鋼板の成形時に、コーティングの劣化によって発生する、亜鉛をベースとする粒子で構成される粉末で後者が覆われる。これらの粒子が成形工具中にまたは成形工具上に蓄積することにより、型上げ棒(picots)の形成または収縮が成形部品に損傷を与えることがある。また、たとえ前もって鋼板の表面に潤滑膜を適用したとしても、成形工具に挟まれた鋼板が不十分にしか滑らない形でこのコーティング劣化が現れた場合には、鋼板破損の危険性もある。
【0019】
最後に、腐食に対する耐性のさらなる改善を得るようユーザからの要望が依然としてある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、金属表面の、特に亜鉛および亜鉛合金コーティングが亜鉛メッキおよび電気亜鉛めっきした鋼板の層の、カルボキシル化による処理を提案し、既存の処理よりも成功裏にこれまで述べた問題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的を達成するために、本発明の対象は、有機酸の混合物を含む水槽または水−有機槽と接触させることによって、金属に対する酸化条件下において、亜鉛、鉄、アルミニウム、銅、鉛およびこれらの合金、亜鉛めっきもしくは電気亜鉛めっき、アルミニウム処理または銅メッキ鋼から選択される金属表面をカルボキシル化することによる変換方法である。
この方法は、
前記有機酸が、炭素原子10〜18の飽和直鎖カルボン酸であり、
前記混合物が、このような酸の二元または三元混合物であり、
酸のそれぞれの比率は、
*二元混合物x±5%−y±5%では、xおよびyが、モル百分率で、共晶組成の混合物中の2つの酸のそれぞれの比率となり、
*三元混合物x±3%−y±3%−z±3%では、x、yおよびzが、モル百分率で、共晶組成の混合物中の3つの酸のそれぞれの比率となり、
前記槽中の前記混合物の濃度は20g/l以上であることを特徴とする。
【0022】
好ましくは、二元混合物では、酸のそれぞれの比率が、x±3%−y±3%である。
【0023】
前記酸化条件は、金属表面用の酸化性化合物が槽中に存在することによって作り出すことができる。
【0024】
前記酸化性化合物は、過酸化水素水であってもよい。
【0025】
前記酸化性化合物は、過ホウ酸ナトリウムであってもよい。
【0026】
前記酸化条件は、槽に電流を流すことによって作り出すことができる。
【0027】
槽は水−有機槽であってもよく、共溶媒を含むことができる。
【0028】
共溶媒は、3−メトキシ−3−メチルブタン−1−オール、エタノール、n−プロパノール、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノンおよびジアセトンアルコールから選択することができる。
【0029】
前記槽は、水槽であってもよく、界面活性剤および/または分散剤を含むことができる。
【0030】
前記界面活性剤は、アルキルポリグリコシド、エトキシ化脂肪アルコール、エトキシ化脂肪酸、エトキシ化油、エトキシ化ノニルフェノールおよびソルビタンのエトキシ化エステルから選択することができる。
【0031】
前記分散剤は、高分子量ポリアルコール、アクリル酸(メタクリル酸)共重合体などカルボン酸の塩、およびポリアミドワックスなどポリアミドの誘導体から選択することができる。
【0032】
前記飽和カルボン酸は、それぞれ偶数個の炭素原子を有することができる。
【0033】
前記飽和カルボン酸は、ラウリン酸およびパルミチン酸であってもよい。
【0034】
前記金属表面は亜鉛めっき鋼板であってもよく、槽はAl3+の錯化剤を含むことができる。
【0035】
好ましくは、前記混合物は共融混合物である。
【0036】
本発明は、この対象として、金属表面の腐食に対する一時的な保護のための方法も有し、この方法に従ってカルボキシル化による前記表面の変換が行われ、この方法は、前記変換が上記の方法によって行われることを特徴とする。
【0037】
前記金属表面は、亜鉛、鉄、アルミニウム、銅、鉛およびこれらの合金、亜鉛めっき、アルミニウム処理および銅メッキ鋼から選択することができる。
【0038】
本発明は、この対象として、亜鉛、鉄、アルミニウム、銅、鉛およびこれらの合金、ならびに亜鉛めっき、アルミニウム処理および銅メッキ鋼から選択される金属表面を有する成形鋼板を作製するための方法も有し、この方法では、前記鋼板のカルボキシル化処理が行われ、前記鋼板が成形され、この方法は、前記カルボキシル化処理が上記の方法によって行われることを特徴とする。
【0039】
前記鋼板は、亜鉛でまたは亜鉛合金でコーティングされた鋼であってもよく、型打ち鍛造によって成形される。
【0040】
理解されるように、本発明は、カルボキシル化溶液またはエマルションを構成するために、C10−C18飽和直鎖脂肪酸の二元または三元共晶を、もしくはこのような共晶の組成を有する混合物を使用することに基礎を置く。好ましくは、使用する酸は全て、偶数個の炭素原子を有する酸である。C12−C16の酸からなる二元共晶が特に有利である。カルボキシル化槽中の共晶のまたは混合物の濃度は、20g/l以上である。
【0041】
本明細書中で使用する用語「共晶」は、共晶組成の単純混合物を、または2種もしくは3種のC10−C18飽和直鎖脂肪酸を含む共晶に近い組成の単純混合物を、または脂肪酸の混合物の溶融によって得られる、この組成を有する真の共晶を指すことを理解されたい。
【0042】
これらの条件下では、必須ではないが、必要な酸化条件が電気化学的手段によって得られる場合には、有機共溶媒なしで済ますことが可能となり、処理槽は共晶もしくは共晶組成の酸の混合物、界面活性剤および水のみを含むことができる。このことは、生態学的な観点から非常に有利である。これらの酸化条件は、化学的手段によって、即ち、過酸化水素水などの酸化性化合物を添加することによって得ることもできる。媒体のpHを下げる1種以上の化合物を添加することが望まれることもあるが、大多数の場合、言及してきた化合物の混合物によって自然に得られるpH3〜5は、特に亜鉛めっき鋼シートのカルボキシル化の状況では十分に酸性である。
【0043】
共晶の最低濃度20g/lが選択される。というのは、この限界に満たない場合、カルボキシル化層の形成速度が、工業上の要件と適合する長さの処理で効果的な変換層を得るにはもはや不十分であるからである。
【0044】
本発明は、添付の図面と共に提供される以下の説明によってより容易に理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
まず、金属表面のカルボキシル化の原理が容易に想定される。
【0046】
中性の通気溶液中の金属(Cu、Fe、Pb、ZnおよびMg)の水腐食を抑制する飽和直鎖脂肪族モノカルボン酸塩の能力は、広く実証されてきた。得られる保護は、金属石けんの結晶および処理する金属の水酸化物で構成される薄膜の存在によるものである。この保護層は、酸化条件下で形成され、炭素鎖長およびカルボン酸塩の濃度に密接に依存する耐腐食性を有する。
【0047】
それ自体公知のカルボキシル化法が、主に亜鉛に、また亜鉛めっきコーティングに適用されてきた。カルボキシル化槽は、水に溶解させた、または水/非水溶媒(エタノール等)の一般に等容量の混合物に溶解させた、HCnと記載されるn≧7である一般式(CH3(CH2)n−2COOH)のCn飽和直鎖カルボン酸を含む。亜鉛/溶液界面で十分な量のZn++カチオンを生成するために、過酸化水素水や過ホウ酸ナトリウムなどの酸化剤を添加する。槽のpHは約5である。変形形態としては、Zn++カチオンを生成する酸化条件を、保護しようとする表面と槽に漬浸させた対電極との間に電流を生じることによって得る。
【0048】
カルボン酸をHCnと記載する場合、亜鉛の表面におけるカルボキシル化層の形成の基礎反応は、
Zn2+2Cn− −> Zn(Cn)2↓である。
【0049】
本発明において使用可能な化合物、酸ならびに界面活性剤は、「環境に優しい(vert)」製品から、即ち、非食用農業製品(ひまわり油、あまに油または菜種油等)からもたらすことができる。これらの製品は、金属表面の潤滑に使用する汚染鉱油、ならびに腐食に対するこれらの同表面の保護に使用するリン酸塩処理溶液およびクロム酸塩処理溶液に有利に取って代わる。
【0050】
カルボキシル化処理の効率は、炭素原子7〜18の飽和直鎖カルボン酸に基づく槽の場合、実質的に検証されており、ステアリン酸HC18はこれまでのところ、亜鉛石けんコーティングの水腐食および大気腐食に対する耐性を最適化するための特に有利な化合物であると思われる。
【0051】
しかしながら、本発明者らは、「C10−C18飽和脂肪酸」と称される2種または3種のC10−C18飽和直鎖カルボン酸からなる共晶組成の共晶または混合物を利用する場合、腐食に対する保護の点でも使用時のカルボキシル化コーティングの挙動(粉化の低減)の点でも、より改善された結果を得ることができることを見出した。このような共晶または混合物により、単一の酸または共晶には近くない組成の酸の混合物によって得られるコーティングと比較して、腐食に対する保護の著しい改善がもたらされる。加えて、本発明によるこれらのコーティングの潤滑特性は優れている。これら潤滑特性により、コーティングされた製品の成形時に油をさす手間を省くことが可能となる。
【0052】
これらの飽和脂肪酸の中で、偶数個の炭素原子を含む飽和脂肪酸が好ましい。
【0053】
本発明の枠組みの内で使用可能な偶数個の炭素原子を有する飽和脂肪酸は、
HC10カプリン酸
HC12ラウリン酸
HC14ミリスチン酸
HC16パルミチン酸
HC10ステアリン酸である。
【0054】
これらの二元混合物の研究により、それぞれ融点曲線における変曲および極小が現れる2つの特定の比率の存在を示すことが可能となる。図1は、温度に依存する脂肪酸AおよびBの混合物の概略平衡状態図を示す。極小eは共晶の形成を示し、点uにおける傾きの変化は通常、式AmBn(mおよびnは、それぞれAおよびBのモル分率を示す)のcとして定義される分子化合物の存在によるものである。
【0055】
一方が他方よりも炭素原子を2つ多く有する、即ち、タイプHCn+HCn+2の飽和脂肪酸の二元混合物について研究が行われている。これらの場合、最も長い鎖を有する酸の1分子対他方の酸の3分子に対応する組成について共晶が常に生じる。同様に、錯体に対応する分岐点(図1、点u)は常に、1/1前後のモル比について現れる。
【0056】
図2bおよび2dは、二元図HC12/HC16およびHC12/HC18を示す。この鎖長が炭素原子2個分だけ異なる酸の混合物(HC10/HC12についての図2aおよびHC16/HC18についての図2c)と同様に、錯体に対応する共晶点eならびに変曲点uはそれぞれ25および50%には現れないことがわかる。共晶は、最も短い脂肪酸のより高いモル濃度に向かって変位する。二元図の形ならびに点uおよびeの位置は、多かれ少なかれ錯体の限られた安定性に依存している。形は、成分の鎖長の差によって、より正確には、これら2種の脂肪酸の融点の差によって決まる。表1は、様々な二元混合物の共晶eの組成および融点Tf(e)を示す。
【0057】
表1に示す共晶eの組成は近似している。刊行物によれば、これら組成は数パーセント変動することがある。これらの差異は、使用する脂肪酸の純度によるものである。
【0058】
【表1】
【0059】
これらの共晶を用いて電気亜鉛めっき鋼シートのカルボキシル化処理を両面に行った。
【0060】
工業的なアルカリリン酸塩処理において使用する鋼板と同様に、鋼板をアルカリ脱脂槽内で脱脂した。次いで、これら鋼板をすすいだ。次いで、化学的に(過酸化水素水や過ホウ酸ナトリウム四水和物などの酸化剤が槽中に存在すること)、または電気化学的にカルボキシル化処理を行った。
【0061】
これらの酸化条件により、Zn2+とCn−との間の高速反応が可能となり、これによりZnカルボン酸塩の微結晶がもたらされる。
【0062】
酸化剤を使用する場合、過酸化水素水および過ホウ酸ナトリウム四水和物は同程度の結果をもたらすことが経験的にわかっている。酸化剤を使用することの利点は、基板/溶液界面で溶解するZn量の増大によって、および/または以下の酸化剤の減少によるpHの局所的な増大によって説明される。
【0063】
BO3−+2H++2e− −> BO2−+H2O
H2O2+2H++2e− −> 2H2O
過酸化水素水の量に関して、カルボン酸塩の結晶によって表面の優れた被覆率を得るためには、この量は大きすぎるべきではない。過剰な過酸化水素水により、過酸によりカルボン酸塩が急速に溶解する。溶液中のH2O2濃度は、例えば、2〜15g/lである。2g/lを下回ると、媒体は通常、溶液中で十分なZn2+を形成するほど十分に酸化性とはならない。この場合、反応の継続時間が、工業上の要件と適合しない可能性が高い。15g/lを超えると、一般に媒体の酸化性が強すぎ、結晶が不十分にしか形成されない。最適な濃度は、溶液中H2O2が約8〜12g/lである。
【0064】
過酸化水素水に関連して、過ホウ酸ナトリウムは、水への溶解度がより低いという欠点を有する。従って、過酸化水素水を使用することにより、酸化剤の濃度の選択においてより高い柔軟性がもたらされる。
【0065】
優れた(privilegie)共溶媒は、3−メトキシ−3−メチルブタン−1−オール(MMB)である。この共溶媒は、「環境に優しい」生分解性の溶媒である。さらに、可燃性となる温度であるこの引火点は71℃であり、例えばエタノールの引火点と比較すると、12℃である。従って、MMBはエタノールよりも安全な条件を提供する。特に、エタノール、n−プロパノール、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノンまたはジアセトンアルコールを使用することも可能である。
【0066】
脂肪酸の共晶の使用に関して、第1の利点は、図2からわかるように、単一の脂肪酸の使用に比べて溶融温度が低下することである。これにより、特に水−有機媒体を使用する際には、多くの場合45℃前後の比較的低い温度でカルボキシル化槽を維持することが可能となる。
【0067】
共晶は、共晶を構成する脂肪酸の混合物の数時間以上にわたる溶融によって調製する。次いで、混合物を周囲温度までゆっくりと冷却する。
【0068】
説明してきた例では、1〜2g/m2のカルボキシル化層重量を得るために、電気亜鉛めっき鋼板(Zn層の厚さ:7.5μm)を処理した。この層は、鋼板の最大被覆率を提供することが経験的にわかっている。
【0069】
このカルボキシル化層の重量は、カルボキシル化基板と超音波、カルボキシル化層の溶解を含む処理によってジクロロエタンで酸洗いした基板との間の質量差の測定によって評価する。
【0070】
腐食電位を追跡し、分極抵抗を測定することによって、3つの電極を有する従来の電気化学セル内で試験試料の水腐食に対する耐性を試験した。使用する電解質は、標準的なASTM D1384−87(Na2SO4が148mg/l、NaHCO3が138mg/l、NaClが165mg/l、pH:7.8)による水である。この腐食性溶液は、実験室で腐食防止剤の効率を評価するのに一般に使用される。
【0071】
試料が鉛直配置され、湿度100%(40℃の脱イオン水)に8時間、次いで外気に16時間さらすことを連続して各々が含む24時間のサイクルにさらされる気候的囲い(enceinte climatique)により、標準的なDIN50017に従って50cm2の試料の大気腐食に対する耐性を検討した。目視観測およびX線回折によってコーティングの劣化を推定した。
【0072】
2本の乾燥ローラ間を連続して通過する前後の基板の質量差の測定によって、試料の粉化を評価した。このように測定した質量損失を、コーティングの粉化の傾向に結び付けることができる。
【0073】
型打ち鍛造時のコーティングの潤滑能力を評価するために、トライボロジー試験を行った。これら試験は、締付力(force de serrage)が制御される平面/平面摩擦計で、締め付けた鋼板の試料を速度1〜100mm/secで通過させることによって、また試料を締め付ける平面工具間の距離の変化(evolution)を測定することによって行われる。従って、締付圧に依存する摩擦係数を決定することが可能である。
【0074】
特に、偶数個の炭素原子を有する以下の脂肪酸の二元共晶について調べた。
【0075】
HC10/HC12
HC12/HC16
HC12/HC18。
【0076】
過酸化水素水の存在下で水−有機媒体に溶解させたこれら3種の共晶により得られたコーティングについて先ず調べた。槽の構成は以下の通りであった。
【0077】
水50体積%と、3−メトキシ−3−メチルブタン−1−オール(MMB)50体積%との媒体
H2O2の濃度5g/l
温度45℃
表2による共晶の組成および濃度ならびにカルボキシル化の継続時間。
【0078】
【表2】
【0079】
槽中の鋼板試料の滞留時間は、重量1〜1.5g/m2のカルボキシル化層が得られるように決定した。
【0080】
走査型電子顕微鏡による目視観測により、これらの堆積物のそれぞれが試料の表面を十分に被覆することがわかる。共晶HC12/HC16およびHC12/HC18については、サイズが5〜10μmの小さい平行六面体(parallelepipediques)結晶が観測された。HC10/HC12については、代わりに結晶が球状または円筒状である。
【0081】
X線回折による堆積物の分析は、これらの堆積物が不十分にしか結晶化されていないことを示す。このことそれ自体は、求める特性にとって欠陥ではないが、堆積物のキャラクタリゼーションを複雑にする。しかしながら、粉末状のZnのカルボン酸塩を合成することによって、形成された化合物がZnCn1Cn2に近い構造を有すると判断することが可能であった。Cn1およびCn2は、n1個およびn2個の炭素原子を有する共晶の組成における混合物の2種の酸に対応するカルボン酸イオンを指す。
【0082】
先に定義し試験した3種のコーティングについて、また参照として、カルボキシル化されていないEG電気亜鉛めっきコーティングについて、図3は、コーティングの分極抵抗Rpの経時変化を示し、図4は、腐食水中における腐食電位Ecorrについてのこの同じく変化を示す。
【0083】
本発明によるコーティングは、単純な電気亜鉛めっきによりもたらされるコーティングの性能よりもはるかに高い性能を示すことがわかるであろう。このため、分極抵抗は2kΩ.cm2程度であり、単一の脂肪酸に基づく水/溶媒溶液により通常生成されるカルボキシル化コーティングは、この値について相対的にわずかな改善しかもたらさない(最大15kΩ.cm2)。一方、本発明によるコーティングは、電気亜鉛めっきのみのコーティングについて観測される値よりも約5〜15倍程度高い値をもたらす。第一にHC12/HC16により、また第二にHC12/HC18により得られるコーティングは、絶対値および経時安定性において最も良い結果をもたらす。腐食電位に関しては、本発明によるコーティングの腐食電位が80〜140mVで、電気亜鉛めっきコーティングについて得られる値を超えている。ここでもやはり、HC12/HC16が最も良い結果をもたらす。水/溶媒の媒体中の単一の脂肪酸により得られるコーティングは通常、−1020〜−1080mV程度の腐食電位をもたらすため、本発明によるコーティングの腐食電位ほど有利ではない。
【0084】
先に定義したように20サイクルさらした後に腐食している試料の表面積の百分率を観測することによって、大気腐食に対する耐性も推測した。
【0085】
電気亜鉛めっき試料の表面積の100%が10サイクル後には腐食していたが、最良の性能を示す混合物HC12/HC16については20サイクル後に劣化は観測されなかった。他の混合物については、20サイクル後に腐食している表面積が、全表面積の7%前後(HC10/HC12について)および10%前後(HC12/HC18について)である。これらの性能は、水/溶媒の有機媒体中の単一の脂肪酸により得られる性能に匹敵する、または単一の脂肪酸により得られる性能よりも優れている。
【0086】
さらには、再結晶化した腐食生成物は、X線回折では観測されなかった。
【0087】
電気亜鉛めっきコーティングとの比較で、HC12/HC16により形成されるコーティングについてトライボロジー試験を行った。結果を図5に示す。図5は、2種のコーティングについての、接触圧に依存するコーティングの摩擦係数を示す図である。コーティングされていない電気亜鉛めっき鋼のトライボロジー挙動は、接触圧の増大に伴い著しく低下するが、このことは本発明によるコーティングには当てはまらず、本発明によるコーティングは、単一の脂肪酸により形成されるコーティングと同程度の低い摩擦係数を常に示す。このコーティングにより、亜鉛または亜鉛合金でコーティングされた鋼板の型打ち鍛造時の潤滑剤としての使用に非常に適していることが証明される。
【0088】
このコーティングは、それほど粉化されないこともわかった。乾燥ローラ上を20回通過させた後、Zn(C7)2の変換層でコーティングされている鋼についての0.4g/m2に対して、層重量損失0.2g/m2を測定した。
【0089】
一般に、共晶組成の脂肪酸の二元混合物により得られるカルボキシル化コーティングは、全ての点において、水/溶媒の媒体中の単一の脂肪酸により得られるコーティングの性能と少なくとも等しい性能、また多くの場合、水/溶媒の媒体中の単一の脂肪酸により得られるコーティングの性能よりも優れた性能を有する。概して、混合物HC12/HC16が、試験した中で最も満足できるものである。
【0090】
相補的な試験により、試料の調製プロセスにおいては、処理しようとする金属表面を活性化することを可能にする精製ステップは、後に続くステップ中に形成されるカルボキシル化コーティングの質の顕著な改善は示さないことを示すことができた。従って、この精製ステップは一般に、重大な欠点なく省略することができ、このとことは、経済的な、また生態学的な観点から非常に有利である。
【0091】
他の試験により、亜鉛めっきコーティングにも本発明を有利に適用することができることもわかった。しかしながら、この場合には、通常コーティングの表面に存在するアルミニウムの層Al2O3を取り除くことが必要である。というのは、これにより表面の反応性が低減し、亜鉛の溶解が抑制されるからである。これは、NaF、ジエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸NTA、クエン酸塩、シュウ酸塩、一部のアミノ酸、シュウ酸とリン酸アルミニウムとの混合物など、Al3+の錯化剤を変換槽に添加することによって実現することができる。
【0092】
別の方法は、Al2O3の層を取り除くことによって、
Al2O3を溶解させるためにアルカリ脱脂(NaOH、界面活性剤、錯化剤)によって、その後、Al2O3の除去を完了し、またFeおよびCoを含み変換時に亜鉛の溶解を高める上質の層を沈殿させるアルカリ性酸化(NaOH、鉄塩およびコバルト塩、錯化剤)によって、
またはNiイオンの存在下で酸攻撃(H2SO4)によって、カルボキシル化の前に表面を準備することにある。Niは金属状態で基板上に沈殿し、変換時に亜鉛の溶解を促進させる。
【0093】
さらに、共晶81−19%からはずれた組成を有する混合物HC12/HC16について試験を行った。77/23%および85/15%混合物は、特に分極抵抗に関し、共晶81/19%に対して既に特性が低下していると思われる。しかしながら、これらの性能は、HC12またはHC16のみを含む溶液により得られる性能よりも依然として優れている。
【0094】
一般に、共晶x%−y%に対する組成(モル%で)のずれは、二元共晶についてはx±5%−y±5%、好ましくはx±3%−y±3%を、三元共晶についてはx±3%−y±3%−z±3%を超えるべきではないと考えられている。
【0095】
さらに、カルボキシル化媒体中の有機溶媒の存在を脂肪酸が必要としない方法が利用可能である必要がある。この目的を達成するために、特に共晶HC12/HC16 81/19%では、有機溶媒を省き、カルボキシル化槽に界面活性剤および/または分散剤を添加することによって優れた結果を得ることが可能であることがわかった。
【0096】
次いで、Znカルボン酸塩の層の疎水性を取り戻し、従って鋼板の腐食を回避するためには、親水性である界面活性剤を取り除くためのすすぎステップを設けることが必要である。
【0097】
界面活性剤としては、一般に非イオン性界面活性剤から、特に、下記から選択される、かなり多様な化合物を使用した。
【0098】
COGNIS社のAgrimul PG 215 CS VPやGlucopon 225 DK/HHなどのアルキルポリグリコシド類(APG)。これらの界面活性剤は糖類に基づき、毒性がなく、アルカリ剤および塩に対して並外れた耐性を有する。
【0099】
ACROS社のBrij58などのエトキシ化脂肪アルコール類。
【0100】
飽和または不飽和エトキシ化脂肪酸類。
【0101】
エトキシ化油類。
【0102】
エトキシ化ノニルフェノール類。
【0103】
ソルビタンのエトキシ化エステル類。
【0104】
分散剤としては、特に、高分子量ポリアルコール類、アクリル酸(メタクリル酸)共重合体などカルボン酸の塩、ポリアミドワックスなどのポリアミド類の誘導体を使用することが可能である。
【0105】
これらの条件下で、過酸化水素水の最適な濃度は2〜8g/lである。
【0106】
単一の脂肪酸を用いる場合、単一の水性エマルションによる有機溶媒なしのカルボキシル化では、腐食に対する最適な保護用コーティングはもたらされない。というのは、カルボキシル化層の重量が比較的低いからである。従って、これらの条件下で脂肪酸の共晶を使用することがより満足できるものであることが証明されるかどうかを判断した。
【0107】
従って、水と、上記界面活性剤APG215と、81/19%の共晶HC12/HC16を含むカルボキシル化エマルションを調製した。
【0108】
45℃では、少なくとも6%のAPG215と、最大4%の共晶を含む少なくとも1時間は安定なエマルションを得ることが可能であることが立証された。界面活性剤および共晶の百分率は、質量百分率である。
【0109】
5または10g/lの過酸化水素水の存在下、3%の共晶および0.1〜3%のAPG215を含むエマルションで、以下の実験を行った。
【0110】
試験したエマルションが以下の組成を有していた。
【0111】
A:水−HC12/HC16 3%−APG215 0.1%−H2O2 5g/l
B:水−HC12/HC16 3%−APG215 1%−H2O2 5g/l
C:水−HC12/HC16 3%−APG215 3%−H2O2 5g/l
D:水−HC12/HC16 3%−APG215 3%−H2O2 10g/l
APG215の濃度が低いエマルションAにより、脂肪酸をより急速に放出することが可能となることがわかった。層重量1.2g/m2が5秒以内に達成されるが、他のエマルションに匹敵する層重量に達するには10秒が必要である。APG215含有量1〜3%では、界面活性剤濃度の著しい効果は観測されなかった。酸化剤濃度も、調査した範囲内ではそれほど目立った効果はなかった。
【0112】
結晶の寸法は、エマルションの組成には関係していないように思われる。ここでもやはり、カルボキシル化の生成物は不十分にしか結晶化されておらず、この組成はZnC12C16に近い。
【0113】
先ほどと同じ条件下で分極抵抗および腐食電位を測定し、これらを電気亜鉛めっきECコーティングについて得た分極抵抗および腐食電位と比較した。結果をそれぞれ、図6および図7に示した。
【0114】
水腐食では、これらのコーティングは全て、漬浸してすぐ数分は電気亜鉛めっきコーティングだけの分極抵抗よりも大きい分極抵抗をもたらし、その後電気亜鉛めっきコーティングの値に等しいまたは電気亜鉛めっきコーティングよりもわずかに高い値で安定するように思われる。界面活性剤がより少ないエマルションが、最良の結果をもたらす。腐食電位については、異なるコーティングが同程度の挙動を有し、電気亜鉛めっき鋼板の腐食電位よりも有利な腐食電位をもたらす。
【0115】
大気腐食については、最良の結果をもたらすのは、界面活性剤が最も多いエマルションCおよびDであり、それぞれ20サイクルの後は表面積の10%および20%が腐食している。トライボロジーについての結果は同様に良好である。
【0116】
それぞれモル比が77%および23%である混合物HC12/HC16(従って、共晶81−19%からはわずかにずれているが、本発明に従っている)も、水/溶媒の媒体(MMB)中で調製した。
【0117】
この混合物を、先ほど示したように溶融によって共晶の形とし、この共晶混合物を用いて2種のカルボキシル化溶液を生成した。
【0118】
溶液1:水50体積%+溶媒50体積%であり、これに共晶4質量%+リン酸Al 0.095g/l+シュウ酸0.105g/l+H2O2 5g/lを加える。
【0119】
溶液2:水50体積%+溶媒50体積%であり、これに共晶4質量%+シュウ酸Al 0.1g/l+H2O2 5g/lを加える。
【0120】
次いで、これらの溶液を、漬浸亜鉛めっき鋼板のカルボキシル化に適用した。亜鉛めっき層の厚さは8μm、Al含有量は0.2〜0.4重量%であった。亜鉛めっきは、450℃のZn槽で行った。次いで行ったトライボロジー試験の結果を、また亜鉛めっき鋼板のカルボキシル化されていない参照試料について得られた結果も図8に示す。
【0121】
この参照試料は、接触圧によって0.13〜0.17μ程度の摩擦係数を有する。
【0122】
本発明によるカルボキシル化鋼板は、0.05μと低くなることができ、等しい接触圧では参照鋼板の摩擦係数よりも常にかなり低くなることができる摩擦係数を有する。リン酸Al+シュウ酸(溶液1)をシュウ酸Al(溶液2)で置き換えてもトライボロジー特性に大きな影響を及ぼすことはないこともわかるであろう。混合物の組成が共晶の組成として与えられている組成からわずかにずれていても(各成分について±5%の範囲内)、良質の結果を危うくすることもない。
【0123】
前もって共晶の形にはしないがこれらと同じ比率の混合物HC12/HC16を使用すると、先の結果に匹敵する結果が得られることもわかった。従って、それぞれ溶液1および2の組成と同一の組成に対応する溶液3および4を試験した。
【0124】
図8からわかるように、溶液3および4により得られたトライボロジー試験の結果は、真の共晶を含む溶液1および2により得られた結果と有意に区別できるものではない。
【0125】
同様に、溶液1〜4は全て、被覆する均質な堆積物を提供した。形成された層の重量は、全ての場合において3〜7秒後に1.2g/m2に達していた。
【0126】
これらのコーティング全てについて、先に確かめた条件下で18サイクルさらした後も腐食は観測されなかった。
【0127】
要約すると、共晶から、または水/溶媒の有機媒体中の共晶組成の混合物から形成されたカルボキシル化コーティングの性能は一般に、水/界面活性剤の媒体中のエマルションによって形成された類似のコーティングの性能よりも優れている。しかしながら、例えば、コーティングした製品を長時間腐食性雰囲気にとどまらせることを目的としていないために、有機溶媒なしで形成されたコーティングの性能で十分であると判断された場合には、有機溶媒なしで形成されたコーティングを使用することが有利である。というのは、取扱い者にとっても環境にとっても毒性リスクがより低いためである。加えて、これらコーティングを使用しても、廃液の点検も後処理もほとんどまたは全く必要ない。
【0128】
説明してきた実験では、酸化条件は過酸化水素水によって得た。しかし、公知のように、他の酸化剤により、または例えば強度10〜25mA/cm2程度の電流をカルボキシル化槽に流すことによって酸化条件を得ることもできた。
【0129】
本発明は、説明してきた例に限定されない。特に、C10−C18飽和直鎖脂肪酸からの他の対の共晶が、これらの酸がそれぞれ偶数個の炭素原子を有するか奇数個の炭素原子を有するかにかかわらず、使用可能なはずである。このような脂肪酸の三元混合物の共晶を使用することも可能である。
【0130】
しかしながら、本発明の好ましい実施形態を構成するのは、偶数個の炭素原子を有する脂肪酸の使用である。これら偶数の脂肪酸は植物性で、一般に「環境に優しい」製品から、即ち再生可能資源から生じる。奇数の脂肪酸は天然には存在せず、合成しなければならない。加えて、奇数の脂肪酸の共晶は、これらを調製するために化学的処理を必要とする。
【0131】
変換槽は、場合により以下を含むことができる。
【0132】
pH調整剤、または表面に変換層を形成する条件を調整するための緩衝剤。
【0133】
界面活性剤など、処理の実施および処理しようとする表面への槽の分配を促進する添加剤(槽が水性エマルションである場合には、界面活性剤の存在が必須であることが理解されよう)。
【0134】
例えば、変換層中に得ることが望ましい化合物以外の化合物の沈殿を遅らせるためのキレート剤や、殺菌剤など、槽の寿命を延ばすことを可能にする添加剤。
【0135】
処理促進剤。
【0136】
水性媒体中に脂肪酸を分散させることを可能にする添加剤。
【0137】
本発明による変換処理は、亜鉛めっき鋼以外の金属表面にも適用可能である。本発明による変換処理は、カルボキシル化できる任意の金属表面、即ち、亜鉛、鉄、アルミニウム、銅、鉛およびこれらの合金、ならびにアルミニウム処理または銅メッキ鋼に関することができる。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】温度に依存する2種の脂肪酸AおよびBの混合物の概略平衡状態図である。
【図2a】水または水−有機媒体への溶解または希釈なしのHC10/HC12(図2a)、HC12/HC16(図2b)、HC16/HC18(図2c)およびHC12/HC18(図2d)飽和直鎖脂肪酸の混合物の二元図である。
【図2b】水または水−有機媒体への溶解または希釈なしのHC10/HC12(図2a)、HC12/HC16(図2b)、HC16/HC18(図2c)およびHC12/HC18(図2d)飽和直鎖脂肪酸の混合物の二元図である。
【図2c】水または水−有機媒体への溶解または希釈なしのHC10/HC12(図2a)、HC12/HC16(図2b)、HC16/HC18(図2c)およびHC12/HC18(図2d)飽和直鎖脂肪酸の混合物の二元図である。
【図2d】水または水−有機媒体への溶解または希釈なしのHC10/HC12(図2a)、HC12/HC16(図2b)、HC16/HC18(図2c)およびHC12/HC18(図2d)飽和直鎖脂肪酸の混合物の二元図である。
【図3】カルボキシル化が水−有機媒体中で行われる種々の共晶および参照用亜鉛めっき鋼板について、分極抵抗の経時変化を示す図である。
【図4】図3の試験と同じ条件下における腐食電位の経時変化を示す図である。
【図5】HC12/HC18共晶によってカルボキシル化した電気亜鉛めっき鋼板の試料について、また参照試料について行ったトライボロジー試験の結果を示す図である。
【図6】水+界面活性剤の媒体中で行った、図3の試験と同様の試験の結果を示す図である。
【図7】水+界面活性剤の媒体中で行った、図4の試験と同様の試験の結果を示す図である。
【図8】HC12/HC16共晶またはHC12/HC16混合物によってカルボキシル化された漬浸亜鉛めっき鋼板の試料について、また参照試料について行ったトライボロジー試験の結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸の混合物を含む水槽または水−有機槽と接触させることによって、金属に対する酸化条件下において、亜鉛、鉄、アルミニウム、銅、鉛およびこれらの合金、亜鉛めっきもしくは電気亜鉛めっき、アルミニウム処理または銅メッキ鋼から選択される金属表面をカルボキシル化することによる変換方法であって、
前記有機酸が、炭素原子10〜18の飽和直鎖カルボン酸であり、
前記混合物が、このような酸の二元または三元混合物であり、
前記酸のそれぞれの比率は、
*二元混合物x±5%−y±5%では、xおよびyが、モル百分率で、共晶組成の混合物中の2つの酸のそれぞれの比率となり、
*三元混合物x±3%−y±3%−z±3%では、x、yおよびzが、モル百分率で、共晶組成の混合物中の3つの酸のそれぞれの比率となり、
前記槽中の前記混合物の濃度は20g/l以上であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記混合物が二元であること、および前記酸のそれぞれの比率がx±3%−y±3%であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化条件が、金属表面に対する酸化性化合物が槽中に存在することによって作り出されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化性化合物が過酸化水素水であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化性化合物が過ホウ酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化条件が、前記槽に電流を適用することによって作り出されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記槽が水−有機槽で、共溶媒を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記共溶媒が、3−メトキシ−3−メチルブタン−1−オール、エタノール、n−プロパノール、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノンおよびジアセトンアルコールから選択されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記槽が水槽で、界面活性剤および/または分散剤を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記界面活性剤が、アルキルポリグリコシド、エトキシ化脂肪アルコール、エトキシ化脂肪酸、エトキシ化油、エトキシ化ノニルフェノールおよびソルビタンのエトキシ化エステルから選択されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記分散剤が、高分子量ポリアルコール、アクリル酸(メタクリル酸)共重合体などカルボン酸の塩、およびポリアミドワックスなどのポリアミドの誘導体から選択されることを特徴とする、請求項9または請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記飽和カルボン酸は、それぞれ偶数個の炭素原子を有することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記飽和カルボン酸は、ラウリン酸およびパルミチン酸であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記金属表面が亜鉛めっき鋼板であること、および前記槽はAl3+の錯化剤を含むことを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記混合物が共融混合物であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
金属表面の腐食に対する一時的な保護のための方法であって、この方法に従ってカルボキシル化による前記表面の変換が行われ、前記変換が、請求項1〜15のいずれか一項に記載の前記方法によって行われることを特徴とする方法。
【請求項17】
前記金属表面が、亜鉛、鉄、アルミニウム、銅、鉛およびこれらの合金、ならびに亜鉛めっき、アルミニウム処理および銅メッキ鋼から選択されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
亜鉛、鉄、アルミニウム、銅、鉛およびこれらの合金、ならびに亜鉛めっき、アルミニウム処理および銅メッキ鋼から選択される金属表面を有する成形鋼板を作製するための、前記鋼板のカルボキシル化処理が行われ、前記鋼板が成形される方法であって、前記カルボキシル化処理が、請求項1〜15のいずれか一項に従って行われることを特徴とする方法。
【請求項19】
前記鋼板が、亜鉛でまたは亜鉛合金でコーティングされた鋼であること、および前記鋼板が型打ち鍛造によって成形されることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項1】
有機酸の混合物を含む水槽または水−有機槽と接触させることによって、金属に対する酸化条件下において、亜鉛、鉄、アルミニウム、銅、鉛およびこれらの合金、亜鉛めっきもしくは電気亜鉛めっき、アルミニウム処理または銅メッキ鋼から選択される金属表面をカルボキシル化することによる変換方法であって、
前記有機酸が、炭素原子10〜18の飽和直鎖カルボン酸であり、
前記混合物が、このような酸の二元または三元混合物であり、
前記酸のそれぞれの比率は、
*二元混合物x±5%−y±5%では、xおよびyが、モル百分率で、共晶組成の混合物中の2つの酸のそれぞれの比率となり、
*三元混合物x±3%−y±3%−z±3%では、x、yおよびzが、モル百分率で、共晶組成の混合物中の3つの酸のそれぞれの比率となり、
前記槽中の前記混合物の濃度は20g/l以上であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記混合物が二元であること、および前記酸のそれぞれの比率がx±3%−y±3%であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化条件が、金属表面に対する酸化性化合物が槽中に存在することによって作り出されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化性化合物が過酸化水素水であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化性化合物が過ホウ酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化条件が、前記槽に電流を適用することによって作り出されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記槽が水−有機槽で、共溶媒を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記共溶媒が、3−メトキシ−3−メチルブタン−1−オール、エタノール、n−プロパノール、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノンおよびジアセトンアルコールから選択されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記槽が水槽で、界面活性剤および/または分散剤を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記界面活性剤が、アルキルポリグリコシド、エトキシ化脂肪アルコール、エトキシ化脂肪酸、エトキシ化油、エトキシ化ノニルフェノールおよびソルビタンのエトキシ化エステルから選択されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記分散剤が、高分子量ポリアルコール、アクリル酸(メタクリル酸)共重合体などカルボン酸の塩、およびポリアミドワックスなどのポリアミドの誘導体から選択されることを特徴とする、請求項9または請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記飽和カルボン酸は、それぞれ偶数個の炭素原子を有することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記飽和カルボン酸は、ラウリン酸およびパルミチン酸であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記金属表面が亜鉛めっき鋼板であること、および前記槽はAl3+の錯化剤を含むことを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記混合物が共融混合物であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
金属表面の腐食に対する一時的な保護のための方法であって、この方法に従ってカルボキシル化による前記表面の変換が行われ、前記変換が、請求項1〜15のいずれか一項に記載の前記方法によって行われることを特徴とする方法。
【請求項17】
前記金属表面が、亜鉛、鉄、アルミニウム、銅、鉛およびこれらの合金、ならびに亜鉛めっき、アルミニウム処理および銅メッキ鋼から選択されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
亜鉛、鉄、アルミニウム、銅、鉛およびこれらの合金、ならびに亜鉛めっき、アルミニウム処理および銅メッキ鋼から選択される金属表面を有する成形鋼板を作製するための、前記鋼板のカルボキシル化処理が行われ、前記鋼板が成形される方法であって、前記カルボキシル化処理が、請求項1〜15のいずれか一項に従って行われることを特徴とする方法。
【請求項19】
前記鋼板が、亜鉛でまたは亜鉛合金でコーティングされた鋼であること、および前記鋼板が型打ち鍛造によって成形されることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公表番号】特表2009−520879(P2009−520879A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546519(P2008−546519)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【国際出願番号】PCT/FR2006/002814
【国際公開番号】WO2007/077336
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(506166491)アルセロールミタル・フランス (43)
【出願人】(505036674)トータル・ラフィナージュ・マーケティング (39)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【国際出願番号】PCT/FR2006/002814
【国際公開番号】WO2007/077336
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(506166491)アルセロールミタル・フランス (43)
【出願人】(505036674)トータル・ラフィナージュ・マーケティング (39)
【Fターム(参考)】
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