説明

金属表面への放射性種の蓄積を低減する酸化物皮膜の形成方法

【課題】荷電粒子を含有する流体に曝露される金属表面への放射性種の蓄積を低減する酸化物皮膜を形成する方法を提供する。
【解決手段】水中にチタニア及びジルコニアの少なくとも一つを含むナノ粒子約0.5〜約35重量%及び2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(C7145)又はポリフルオロスルホン酸約0.1%〜約10%を含有する水性コロイド懸濁液を調製し、金属表面に水性コロイド懸濁液を堆積させ、水性コロイド懸濁液を乾燥してグリーン皮膜を形成し、その後グリーン皮膜を500℃以下の温度に加熱してグリーン皮膜を緻密化してゼータ電位が荷電粒子の電気的極性以下である酸化物皮膜を形成し、かくして金属表面上への荷電粒子の付着を最小限にする。ナノ粒子の直径は約200nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広義には皮膜及びその堆積方法に関する。具体的には、本発明は、水性環境中での金属表面への付着物の蓄積を防ぐために水性環境中で使用されるセラミック皮膜、並びにコロイド法を用いたセラミック皮膜の形成方法であって、緻密で、制御された厚さを有し、問題とされる主要付着物の電気的極性以下のゼータ電位を示すセラミック皮膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温水環境に曝露される部品、例えば沸騰水型原子炉のジェットポンプアセンブリのノズル及びスロート部、インペラー、復水器管、再循環パイプ及び蒸気発生器部材は、部品の金属表面に付着する、高温冷却剤(普通、約100〜約300℃の水)中の荷電粒子に起因するファウリングを受ける。時間の経過とともに、ファウリングは、部品の曝露表面に厚い、高密度の酸化物「汚損(crud)」層の形成をもたらす。ファウラント(ファウリングの原因物質)の蓄積は、沸騰水型原子炉の深刻な運転及びメンテナンス上の問題となる。例えば、ファウラント蓄積は、冷却剤(水)の流速を著しく低下し、冷却流システムの性能を下げることにより、原子炉の冷却流再循環システムの効率を低減するからである。ファウラント蓄積の他に、部品はまた、放射性物質、例えば冷却剤によって運ばれる放射性種のコバルトを表面に蓄積しやすい。ファウラントは通常、沸騰水型原子炉部品の表面から原子炉の定期停止時に除去される。しかし、この方法は、高コストであり、冷却流再循環システムの効率を次の停止までの間維持するものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、高温水環境に曝露される表面のファウリング速度を最小又はゼロにするのに特に適した皮膜を開発することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、高温水環境に曝露される部品のファウリング速度を最小にするかゼロにするという課題を、水性皮膜と、部品表面に該皮膜を堆積して部品表面への放射性種のファウリング速度を最小にするかなくす方法とを開発することにより解決した。
【0005】
簡潔に述べると、一実施形態に係る方法では、金属表面に酸化物皮膜を形成して荷電粒子を含有する冷却剤に接触する際の金属表面への荷電粒子の付着を低減する。本方法では、チタニア及びジルコニアの少なくとも一つを含むナノ粒子約0.5〜約35重量%を含有する水性コロイド懸濁液を調製し、金属表面に水性コロイド懸濁液を堆積させ、水性コロイド懸濁液を乾燥してグリーン皮膜(未焼成皮膜)を形成し、その後グリーン皮膜を500℃以下の温度で加熱してグリーン皮膜を緻密化し、荷電粒子の電気的極性以下のゼータ電位をもつ酸化物皮膜を生成し、かくして金属表面への荷電粒子の付着を最小限にする。
【0006】
別の態様では、本発明は、上記の方法で形成した皮膜並びにかかる皮膜で保護された部品を提供する。本皮膜は、冷却剤、例えば沸騰水型原子炉に用いる冷却水にしばしば存在する粒子に起因するファウリングから様々な種類の金属表面を保護するのに特に適している。例として、ニッケル基合金、鉄基合金、ステンレス鋼、例えばAISIタイプ304ステンレス鋼で形成した部品などがあり、その具体例としては、沸騰水型原子炉のジェットポンプアセンブリのノズル及びスロート部、インペラー、復水器管、再循環パイプ及び蒸気発生器部材があげられる。
【0007】
本方法及び得られた皮膜の注目すべき態様は、高密度であり、制御された厚さをもち、通常冷却水に存在する放射性種並びにファウラントなどの荷電粒子の皮膜への付着を著しく低減させる表面ゼータ電位をもつ皮膜を製造できることである。コロイドを用いた方法で皮膜を設層できるため、既に使用中の部品に皮膜を容易に設層できるようになる。これは、本発明のコロイドを用いた方法が、化学蒸着(CVD)、物理蒸着(PVD)などの他の堆積方法と比べて高価な装置や極端なプロセスパラメータ、例えば温度及び圧力を必要とせず、CVD法のように直進性の制約や他の幾何形状的な制約を受けないからである。さらに、本発明のコロイドを用いた方法は、同様なセラミック皮膜を堆積するのに普通用いるCVD及び他の典型的な方法と比べてコスト面で大きな利点をもたらすこともできる。
【0008】
1つの態様では、酸化物皮膜を形成する方法は、チタニア及びジルコニアの一方を含むナノ粒子約0.5〜約35重量%を含有する水性コロイド懸濁液を調製し、水性コロイド懸濁液を金属表面に堆積させ、水性コロイド懸濁液を乾燥してグリーン皮膜を形成し、グリーン皮膜を500℃以下の温度に加熱してグリーン皮膜を緻密化し、金属表面に酸化物皮膜を形成する工程を含み、酸化物皮膜のゼータ電位を酸化物皮膜と接触する荷電粒子の電気的極性以下として、金属表面への荷電粒子の付着を最小限にする。
【0009】
別の態様では、金属表面への荷電粒子の付着を抑制する方法は、水中にチタニア及びジルコニアの少なくとも一つを含むナノ粒子約0.5〜約35重量%及び2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(C7145)又はポリフルオロスルホン酸約0.1〜約10%を含有する水性コロイド懸濁液を調製し、金属物品を水性コロイド懸濁液に約1〜約120分間浸漬し、金属物品を水性コロイド懸濁液から約1〜約10cm/分の速度で引き出し、水性コロイド懸濁液を乾燥して金属物品上にグリーン皮膜を形成し、グリーン皮膜を500℃以下の温度に加熱してグリーン皮膜を緻密化し、厚さが約0.1〜約10.0μmで、ゼータ電位が金属物品と接触する荷電粒子の電気的極性以下である酸化物皮膜を形成して金属物品上への荷電粒子の付着を最小限にする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明の上記その他の特徴、態様及び利点は、添付図面を参照にして以下の詳細な説明を読むことで、一層明らかになるであろう。図面全体を通して同じ参照番号は同じ部品を表す。
【図1】図1(a)、(b)及び(c)は、約35重量%のチタニアナノ粒子を含有する水性コロイド懸濁液から製造し、約500℃の温度で焼成した酸化物皮膜の顕微鏡写真である
【図2】図2(a)及び(b)は、約35重量%のチタニアナノ粒子を含有する水性コロイド懸濁液から製造し、約150℃の温度で焼成した酸化物皮膜の顕微鏡写真である。
【図3】図3(a)及び(b)は、約35重量%のチタニアナノ粒子を含有する水性コロイド懸濁液から製造し、約100℃の温度で焼成した酸化物皮膜の顕微鏡写真である。
【図4】図4(a)及び(b)は、約10重量%のチタニアナノ粒子を含有する水性コロイド懸濁液から製造し、約100℃の温度で焼成した酸化物皮膜の顕微鏡写真である。
【図5】図5(a)、(b)及び(c)は、それぞれ約10、20又は35重量%のチタニアナノ粒子を含有する水性コロイド懸濁液を回転している表面に適用し、その後約100℃の温度で加熱することにより製造した酸化物皮膜の顕微鏡写真である。
【図6】沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器に冷却剤を再循環するのに用いる種類のジェットポンプの一部分の断面図である。
【図7】図6のジェットポンプのノズルの部分拡大断面図である。
【0011】
上述の図面は考えられるいくつかの実施形態を説明するが、以下の説明で示すように本発明の別の実施形態も考えられる。すべての場合において、本明細書で図示した本発明の実施形態は、例示のためのものであり、限定するためのものではない。当業者が想起できる多くの他の変更及び実施形態が本発明の原理の技術的範囲及び要旨に入る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
多種多様な化学形態の「汚損層」、例えばFe23、Fe34、NiFe24、Fe2Cr24などがある。原子炉環境で最も重要な放射性種はCo−60であり、これは通常バルク原子炉水中にイオン種として存在する。金属部品の汚損層、即ち酸化物層上にCo−60が付着すると、Co−60は別の汚損/酸化物と反応してCoFe24(放射性汚損層)を形成する。他の金属イオン、例えばFe、Ni、Crなどと比べてCoイオンの拡散は速いので、CoはFe、Ni又はCrと容易に置き換わり、CoFe24を形成する。TiO2皮膜は化学的に安定であるので、上記化学反応を著しく減少し、CoFe24(放射性汚損層)の形成を抑制する。Fe23などのいくつかの他の酸化物即ち、汚損層がTiO2皮膜層上に付着することがあるが、速度論的にTiO2と反応することはない。
【0013】
本発明の1つの態様では、表面へのCo−60などの放射性種の蓄積は、対象の部品の表面、例えば放射性種と接触することのある原子炉の部品の金属表面に堆積される皮膜によって軽減することができる。一実施形態では、皮膜は、制御された厚さ及び放射性種、例えば沸騰水型原子炉を通って流れる冷却剤中に通常存在する放射性種の電気的極性とほぼ同等或いはそれより低いゼータ電位をもつ高密度の酸化物皮膜である。皮膜は、チタン酸化物(チタニア;TiO2)及び/又はジルコニウム酸化物(ジルコニア;ZrO2)からなるか少なくとも含有するナノ粒子の水性コロイド懸濁液から堆積するのが好ましい。コロイド懸濁液を被覆する表面に適用し、その後乾燥し、高温で熱処理して密度及び接着強度を増加させる。制御された厚みをもつ高密度の酸化物皮膜を実現するには、この方法の様々な側面、例えばコロイド懸濁液の化学、適用方法、乾燥条件及び熱処理温度が個々に及び/又は組み合わせて重要になると考えられる。以下に、これらの側面を説明する。
【0014】
定義上、コロイドは、第1物質の大きな分子又は超微細粒子が第2物質に分散してなる均質な非結晶性の物質である。コロイドには、ゲル、ゾル及びエマルジョンがあり、粒子は、沈澱せず、また懸濁液中の粒子のように普通の濾過や遠心力では分離することはできない。換言すれば、コロイド懸濁液(コロイド溶液又は単にコロイドともよばれる)は1つの物質が別の物質全体に均一に分散した種類の化学混合物である。分散物質の粒子は、混合物中に懸濁するだけであり、溶液の場合のように溶解しない。コロイド中の分散粒子は、別の物質(例えば、気体、液体又は固体)に均一に分散して均質な外観を維持するのに十分に小さいが、不溶となるのに十分に大きい。本発明では、分散物質は、チタニア及び/又はジルコニアの(又は含有する)ナノ粒子を含み、好ましい分散媒としての水中に分散される。分散ナノ粒子の直径は、好ましくは約200nm以下、さらに好ましくは150nm未満、最も好ましくは2〜50nmの範囲である。コロイド懸濁液は、約0.5〜約35重量%のナノ粒子、さらに好ましくは約5〜約20重量%のナノ粒子を含有することができる。コロイド懸濁液は、好ましくは約0.1%〜約10%の2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(C7145)又はポリフルオロスルホン酸も水中に含有する。
【0015】
コロイド懸濁液の堆積は、浸漬、スプレー又は様々な他の方法(キャビティの充填など)によって行うことができるが、浸漬方法は、表面形態及び皮膜厚の制御の面から優れた結果が得られ、通常直進的プロセスにより被覆することが困難な表面の被覆を容易にすることを確かめた。好ましい実施形態では、部品を懸濁液中に、所望の厚さの懸濁液皮膜を蓄積するのに十分な時間浸漬することにより懸濁液を堆積させる。適当な時間は約1〜約120分間の範囲である。10cm/分以下の速度、さらに好ましく約1〜約5cm/分の速度で懸濁液から部品を引き出すことにより、懸濁液の層を約0.1〜約10μm、さらに好ましくは約0.5〜約2.0μmの制御された厚みに適用することができる。
【0016】
その後、コロイド懸濁液の層を風乾して部品表面にグリーン皮膜を得る。風乾は、ほぼ室温(約25℃)で約60分間以下、例えば約30秒間〜約30分間、さらに好ましくは約1〜10分間行うことができる。その後、グリーン皮膜を熱処理して皮膜を緻密化し、完全にセラミック(酸化物)化した皮膜を得る。このために、グリーン皮膜を好ましくは約1.0〜10.0℃/分、さらに好ましくは約2〜5℃/分の速度で加熱する。熱処理温度は、500℃以下、例えば100〜500℃、さらに好ましくは150℃以下、最も好ましくは100〜120℃の範囲にすることができる。熱処理温度を約30分間〜約3時間、さらに好ましくは約45分間〜約1時間維持する。熱処理時、高温でナノ粒子の凝固及び沈積が進行する。
【0017】
上記パラメーターは、チタニアナノ粒子を含有するコロイド懸濁液での複数のシリーズの試験により決定された。特に、これらの試験から、比較的低濃度のナノ粒子及び比較的低温の熱処理を用いて最終セラミック皮膜の表面形態、耐クラック性及び密着性を向上することが重要であることがわかった。特に、より低い濃度及び熱処理温度が、皮膜の接着を約10ksi(約70MPa)以上のレベルに向上し、沸騰水型原子炉の冷却水中の放射性種及びファウラントの物理的付着を助長しにくい亀裂のない平滑な皮膜表面の形成を促進することを確認した。
【0018】
第1シリーズの試験では、チタニア皮膜をタイプ304ステンレス鋼試料のホーニング仕上げ表面に次のように堆積した。チタニア皮膜を、約35重量%のチタニアナノ粒子を含有する水性コロイド懸濁液又はチタニア前駆体としてのチタンイソプロポキシドを含有するゾル−ゲル溶液から形成した。それぞれの皮膜タイプから作製した複数の試料により、平滑、高密度及び密着性のチタニア皮膜は、ゾル−ゲル溶液よりもコロイド懸濁液ではるかに容易に得られるという結論が導かれた。
【0019】
第2シリーズの試験では、様々なコロイド懸濁液を水中に粒径150nm未満(公表値)のチタニアナノ粒子約35重量%を含有するコロイド懸濁液から調製した。具体的には、この溶液から、20重量%又は10重量%のチタニアナノ粒子を含有するようにさらに希釈したコロイド懸濁液を調製した。この第1シリーズの試験用のテスト試料は、タイプ304ステンレス鋼試料であり、表面をホーニング仕上げ後に次のように被覆した。
【0020】
第1群の試料を35%コロイド懸濁液に約30分間浸漬し、試料を約1.0cm/分の速度で引き出し、約5分間風乾し、その後得られたグリーン皮膜を約500℃の温度で約60分間加熱することにより第1群の試料にチタニア皮膜を形成した。得られたセラミック皮膜の厚さは約0.5〜約1.0μmであった。図1(a)及び(b)は、それぞれ倍率10kx及び50kxで撮った、1つの皮膜の表面の顕微鏡写真であり、図1(c)は、倍率20kxで撮った、試料の断面を示す顕微鏡写真である。この試料に対して行った接着試験により、皮膜が約11.3ksi(約78MPa)の接着強度をもつことが示された。
【0021】
第2群の試料を35%コロイド懸濁液に約30分間浸漬し、試料を約1.0cm/分の速度で引き出し、皮膜を約5分間風乾し、その後皮膜を約150℃の温度で約60分間加熱することにより第2群の試料にチタニア皮膜を形成した。得られた皮膜の厚さは約0.5〜約1.0μmであった。図2(a)及び(b)は、それぞれ倍率5kx及び25kxで撮った、1つの皮膜の表面及び断面の顕微鏡写真である。比較的低温(500℃に比べて150℃)で依然として許容できる皮膜特性が得られた。この試料に対して行った接着試験により、皮膜が約9.8ksi(約67MPa)の接着強度をもつことが示された。
【0022】
第3群の試料を35%コロイド懸濁液に約30分間浸漬し、試料を約1.0cm/分の速度で引き出し、皮膜を約5分間風乾し、その後皮膜を約100℃の温度で約60分間加熱することにより第3群の試料にチタニア皮膜を形成した。得られた皮膜の厚さは約0.5〜約1.0μmであった。図3(a)及び(b)は、倍率5kxで撮った、1つの皮膜の表面及び断面の顕微鏡写真である。比較的低温(500℃に比べて100℃)で依然として許容できる皮膜特性が得られた。この試料に対して行った接着試験により、皮膜が約11.6ksi(約80MPa)の接着強度をもつことが示された。
【0023】
第4群の試料を10%コロイド懸濁液に約30分間浸漬し、試料を約1.0cm/分の速度で引き出し、皮膜を約5分間風乾し、その後皮膜を約100℃の温度で約60分間加熱することにより第4群の試料にチタニア皮膜を形成した。得られた皮膜の厚さは約0.5〜約1.0μmであった。図4(a)及び(b)は、それぞれ倍率5kx及び50kxで撮った、1つの皮膜の表面及び断面の顕微鏡写真である。比較的低いコロイドの割合(35%に比べて10%)で依然として許容できる皮膜特性が得られた。この試料に対して行った接着試験により、皮膜が約11.5ksi(約79MPa)の接着強度をもつことが示された。
【0024】
第3シリーズの試験は、さらに10重量%、20重量%又は35重量%のチタニアナノ粒子を含有する水性コロイド懸濁液から形成したチタニア皮膜に対して行った100℃の熱処理を評価するために考案した。チタニアナノ粒子の粒径は約30〜40nmであった。このシリーズの試験のテスト試料は、直径約0.75インチ(約19mm)のタイプ304SS管であり、管の内部表面をホーニング仕上げ後に次のように被覆した。
【0025】
10%、20%又は35%コロイド懸濁液を管の内部に供給しながら管を約125rpmの速度で回転させることによりチタニア皮膜を第1群の304SS管に形成した。管は約30分間回転させ、その後得られたコロイド皮膜を約5分間風乾し、次いで約100℃の温度で約1時間焼成した。得られた酸化物皮膜の厚さは約0.5〜約1.0μmであった。図5a、b及びcは、それぞれ10%、20%及び35%コロイド懸濁液から形成した皮膜の表面の顕微鏡写真である。
【0026】
前述したように、高温水環境に曝露される部品、例えば沸騰水型原子炉のジェットポンプアセンブリのノズル及びスロート部、インペラー、復水器管、再循環パイプ及び蒸気発生器部材は、部品の金属表面に付着する、高温冷却剤(普通、約100〜約300℃の水)中の荷電粒子に起因するファウリングを受ける。時間の経過とともに、ファウリングは、部品の曝露表面上に厚い、高密度の酸化物「汚損」層の形成をもたらす。ファウラントの蓄積は、沸騰水型原子炉の深刻な運転及びメンテナンス上の問題となる。例えば、ファウラント蓄積が、冷却剤(水)の流速を著しく低下し、冷却流システムの性能を下げることにより、原子炉の冷却流再循環システムの効率を低減するからである。本発明の方法は金属表面に酸化物皮膜を形成して、金属表面が荷電粒子を含有する冷却剤と接触する際の金属表面への荷電粒子の付着を低減する。
【0027】
図6は、金属表面への放射性種の蓄積を低減する本発明の皮膜の用途の一例として、沸騰水型原子炉の冷却剤再循環システムに用いるタイプのジェットポンプ10の一部分を模式的に示す。ジェットポンプ10は、原子炉圧力容器の壁と原子炉の炉心シュラウド間の環状空間に通常位置する任意の数のジェットポンプの1つとすることができる。環状空間内の冷却剤は、ジェットポンプにより原子炉炉心の周りを循環する。図6では、ジェットポンプ10は、環状空間から冷却剤を引き込む再循環ポンプなどの適当な供給源から冷却剤を引き込む入口ライザー12(仮想線で示す)を有するものとして図示されている。ライザー12は、ノズルアセンブリ18の下流にミキサー16を有するミキサーアセンブリにエルボ14を介して接続されている。ディフューザーアセンブリ20は、ミキサー16の下流に位置し、冷却剤を、例えば、原子炉の下部炉心プレナムに導き、原子炉の燃料棒に届ける。図6には、1つのミキサーアセンブリを示すが、入口ライザー12は一対のミキサーアセンブリに接続してもよく、第2のミキサーアセンブリは同様に構成され、ライザー12の反対側に位置することができる。
【0028】
図6及び図7から明らかなように、ノズルアセンブリ18は複数のノズル22を有し、それぞれがオリフィス24(図7)を画成する。オリフィス24を画成するノズル22の壁は一般に円錐台形であり、直径が冷却剤流れの方向で減少していきミキサー16に入る冷却剤の流速を増加させる。ミキサー16の内部通路は通常、より一定な断面形状及び寸法をもつ。冷却剤に接触するミキサー16及びノズル22の表面は典型的にステンレス鋼で形成され、その例には、AISIタイプ304などがあるが、これらの部品は別の材料、例えば他の鉄基合金並びにニッケル基合金で形成できることは明らかである。ジェットポンプ10の他の詳細や態様及びジェットポンプ10を備え付ける再循環システムは通常、当業者には既知であるため、ここでさらに詳細に説明しない。
【0029】
再循環ポンプによる圧送の結果、冷却剤はライザー12を上向きに流れ、エルボ14を通り、その後ノズルアセンブリ18及びオリフィス24を下向きに流れ、ミキサー16に流れ込む。オリフィス24は、ミキサー16への冷却剤流れを加速し、同時に冷却剤を周囲の環状空間からノズルアセンブリ18を取り囲む環形状入口26を通してミキサー16に引き込み、加速された冷却剤と環状空間から引き込まれた冷却剤とを混合させる。冷却剤は、通常約250〜約350℃の温度で、常にジェットポンプ10を通して循環し、その結果、ジェットポンプ10(及び再循環システムの他の部品)は、部品の表面、特にミキサー16及びノズル22の内部冷却剤通路を画成する表面に付着する傾向がある高温冷却剤(通常、水)中の荷電粒子に起因するファウリングを受ける。かかる付着物の蓄積は最終的に、ファウリング、通常、部品表面への厚い、高密度の酸化物「汚損」層の形成をもたらし、冷却剤流れの効率の低下の結果として運転及びメンテナンス上の問題を引き起こす。本発明の皮膜は、高温水環境に曝露される部品、例えば沸騰水型原子炉のジェットポンプアセンブリのノズル及びスロート部、インペラー、復水器管、再循環パイプ及び蒸気発生器部材上への放射性種を含有する「汚損層」の蓄積を低減するかなくす。
【0030】
以上、本発明を好ましい実施形態について説明したが、別の形態を採用できることは当業者に明らかである。したがって、本発明の要旨は特許請求の範囲以外には限定されない。
【符号の説明】
【0031】
10 ジェットポンプ
12 入口ライザー
14 エルボ
16 ミキサー
18 ノズルアセンブリ
20 ディフューザーアセンブリ
22 ノズル
24 オリフィス
26 環形状入口



【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物皮膜の形成方法であって、当該方法が、
チタニア及びジルコニアの一方を含むナノ粒子0.5〜35重量%を含有する水性コロイド懸濁液を金属表面に堆積させる工程と、
水性コロイド懸濁液を乾燥してグリーン皮膜を形成する工程と、
グリーン皮膜を500℃以下の温度に加熱してグリーン皮膜を緻密化し、金属表面に酸化物皮膜を形成する工程と
を含んでおり、もって、酸化物皮膜のゼータ電位を、酸化物皮膜と接触する荷電粒子の電気的極性以下として、金属表面への荷電粒子の付着を最小限にする、方法。
【請求項2】
前記ナノ粒子の直径が200nm以下である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記水性コロイド懸濁液が、さらに、水中に0.1%〜10%の2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(C7145)又はポリフルオロスルホン酸を含有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記金属表面を水性コロイド懸濁液中に25〜35℃の温度で1分間〜120分間浸漬することにより水性コロイド懸濁液を堆積させる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記金属表面を1.0〜10.0cm/分の速度で水性コロイド懸濁液から引き出す、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記水性コロイド懸濁液を25℃〜35℃の温度で5分間〜60分間風乾する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記グリーン皮膜を100℃〜500℃の温度に30分間〜3時間加熱する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記グリーン皮膜を1.0℃/分〜10.0℃/分の速度で加熱する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記酸化物皮膜が金属表面に対して70MPa以上の接着強度を示す、請求項1記載の方法。
【請求項10】
請求項1記載の方法で形成された酸化物皮膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−255211(P2012−255211A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−128492(P2012−128492)
【出願日】平成24年6月6日(2012.6.6)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】