説明

金属表面処理剤、金属材の表面処理方法及び表面処理金属材

【課題】 アンモニア臭の問題がなく、耐食性や上塗り塗料との密着性に優れた、塗布型の表面処理技術の提供。
【解決手段】 ジルコニウム、チタン及びバナジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属と、α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類とを含有する塗布型表面処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の金属材{例えば、鉄系、亜鉛系、アルミニウム系及びマグネシウム系等の群の中から選ばれる1種以上の金属から構成される金属材(金属板や金属構成体(例えば、自動車車体や家庭電機製品))}の一時防錆・塗装下地等のために使用される、上塗り塗料との密着性及び耐食性に優れた表面皮膜を形成し得る、ノンクロム表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、家電、建材及び食品容器等の広い分野で使用されてきた亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム又はアルミニウム合金板材の一時防錆や塗装下地方法として、クロム酸、重クロム酸又はクロム酸塩を含む処理剤を用いるクロメート処理が知られている。クロメート処理は、亜鉛メッキやアルミニウム合金表面に対して、防錆性の向上や上塗り塗料との密着性向上を目的として行われている。そして、クロメート処理が施された表面処理亜鉛メッキやアルミニウム合金板材は、高い生産性や表面処理の均一性等の点で優れている。しかしながら、クロメート処理は、環境汚染や人体への悪影響に繋がるという問題を抱えているため、最近ではノンクロム防錆処理に対する要望が高まっている。
【0003】
ここで、クロムを含有しないノンクロメートタイプの表面処理の代表的な技術として、特許文献1には、バナジウム化合物と、チタン塩、ジルコニウム塩及び亜鉛塩の群から選択された少なくとも一種の化合物とを含む水溶液よりなることを特徴とする化成処理液が開示されている。しかしながら、この処理方法は、当該化成処理液中にアルミニウム合金を1〜20分間(好ましくは3〜5分間)浸漬するといった、金属板材の表面処理法としてはあまり合理的とはいえない手法を採用している。
【0004】
また、特許文献2、特許文献3及び特許文献4には、pHを1.5〜4.0に調整した、Vイオンと、Zrイオンと、POイオンと、有効Fイオンとを含有する化成処理剤及びそれを適用する化成処理方法が開示されている。しかしながら、化成処理方式であるため、ライン管理や排水処理等が複雑であり、作業性の観点から非効率的であった。加えて、得られる皮膜付着量にも限界があり、用途によっては耐食性や密着性を確保できないという問題も存する。
【0005】
更に、特許文献5〜9には、水系樹脂と金属化合物を含有する塗布型ノンクロム金属表面処理剤が開示されている。これらの処理剤には、アンモニアやアミン等のアルカリ成分が、アニオン系水系樹脂の中和剤として含まれている。また、別の処理剤には、第1〜3アミノ基や第4アンモニウム塩基が、カチオン性水系樹脂の水溶性官能基として含まれている。更には、水系樹脂の架橋剤としての金属化合物は、アンモニウム錯体やアミン錯体として表面処理剤に添加されているケースが多い。
【0006】
ここで、当該タイプの処理剤が処理対象物に塗布されると、乾燥の過程でアンモニアやアミンが揮発し、フリーになった金属は、樹脂のカルボキシル基や水酸基などの官能基と反応して共重合体間を架橋する。このような金属架橋型共重合体を含有する処理剤は、優れた性質を有する一方、塗布時に多量のアンモニアが揮発するために、アンモニア臭が著しく、塗布作業者からの苦情が多いという問題点がある。また、場合により、アンモニアやアミンなどにより、銅など金属が応力腐食割れを起こす恐れもある。
【0007】
また、金属化合物、例えばジルコニウム化合物に関しては、フッ素含有ジルコニウム化合物が、水溶性Zr供給源として多く使用されている{例えば、ジルコンフッ化水素酸(H2ZrF6)、ジルコンフッ化アンモニウム((NH42ZrF6)、ジルコンフッ化カリウム(K2ZrF6)等}。ここで、反応型金属表面処理剤の分野では、金属素材のエッチングに効くためにフッ素が反応促進剤としてよく使用されているものの、反応処理後の水洗により余計なフッ素が皮膜中に残らないことから、フッ素残存の問題は無い。しかしながら、塗布型ノンクロ表面処理剤の分野では、場合により加熱乾燥中、塗布液中の一部のフッ素が金属素材のエッチングにより消費されるものの、大部分のフッ素は揮発せずに皮膜中に残存するので、フッ素が水溶性の原因となり耐食性と密着性に悪影響を与えるという問題がある。
【0008】
更には、単なるジルコニウム化合物、チタン化合物及びバナジウム化合物等の金属化合物からなる無機皮膜は、クロム皮膜のような薄く緻密な膜にはならないため、水、酸素、塩分に対するバリア性が十分でないという問題がある。加えて、無機膜の硬さや応力により膜の柔軟性を欠くため、クラック等の欠陥を生じ易いという問題もある。
【特許文献1】特開昭56−136978号
【特許文献2】特開平1−246370号
【特許文献3】特開平7−310189号
【特許文献4】特開平11−131254号
【特許文献5】特開2001−081392号
【特許文献6】特開2001−342578号
【特許文献7】特開2002−265821号
【特許文献8】特開2003−201578号
【特許文献9】特開2004−2958号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、アンモニア臭の問題がなく、耐食性や上塗り塗料との密着性に優れた、塗布型の表面処理技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明(1)〜(13)を完成させたものである。
【0011】
本発明(1)は、ジルコニウム、チタン及びバナジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属と、α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類とを含有する塗布型表面処理剤である。
【0012】
本発明(2)は、α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類が、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、メサコン酸、これらの酸無水物、これらの半エステル及びこれらの塩からなる群より選択される、前記発明(1)の塗布型表面処理剤である。
【0013】
本発明(3)は、ジルコニウム化合物、チタン化合物及びバナジウム化合物からなる群より選択される少なくとも一種の金属化合物と、α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類とを添加してなる、前記発明(1)又は(2)の塗布型表面処理剤である。
【0014】
本発明(4)は、前記金属化合物が、炭酸塩、ケイ酸塩、燐酸塩、有機酸塩、酸化物又は水酸化物である、前記発明(3)の塗布型表面処理剤である。
【0015】
本発明(5)は、前記金属化合物が、アンモニウム、フッ素、酢酸、硝酸及び硫酸を含有しない化合物である、前記発明(3)又は(4)の塗布型表面処理剤である。
【0016】
本発明(6)は、α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類の含有量又は添加量は、前記金属の含有量又は添加量に対して、モル比で1〜100である、前記発明(1)〜(5)のいずれか一つの塗布型表面処理剤である。
【0017】
本発明(7)は、ケイ素、セリウム、リチウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム及びマンガンからなる群から選択される少なくとも一種の金属成分並びに水溶性高分子からなる群から選択される、少なくとも一種の成分を更に含有する、前記(1)〜(6)のいずれか一つの塗布型表面処理剤である。
【0018】
本発明(8)は、カルボキシル基反応性基及び/又は不飽和基反応性基を有する成分を更に含有する、前記発明(1)〜(7)のいずれか一つの塗布型表面処理剤である。
【0019】
本発明(9)は、一時防錆剤及び/又は塗装下地剤としての、前記発明(1)〜(8)のいずれか一つの塗布型表面処理剤である。
【0020】
本発明(10)は、前記発明(1)〜(9)のいずれか一つの塗布型表面処理剤を金属材表面に塗布・乾燥することにより皮膜を形成させる工程を含む、表面処理方法である。
【0021】
本発明(11)は、前記金属材が、鉄系、亜鉛系、アルミ系及び/又はマグネシウム系基材である、前記発明(10)の表面処理方法である。
【0022】
本発明(12)は、前記発明(10)又は(11)の表面処理方法により皮膜が形成された表面処理金属材である。
【0023】
本発明(13)は、前記表面処理の皮膜質量が0.01〜5g/mである、前記発明(12)の表面処理金属材である。
【0024】
ここで、本特許請求の範囲及び本明細書における各用語の意義について説明する。「塗布型」とは、液状の表面処理剤を金属材料に塗布した後、乾燥させることにより皮膜を形成させるタイプを指す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の最良形態について説明する。但し、以下の記載は、あくまでも最良形態であり当該記載に限定されるものではない。例えば、数値範囲の上限や下限を好適範囲として記載しているが、当該上限や下限を超えた場合であっても、本発明の構成要件を充足する限り、本発明の技術的範囲内である。
【0026】
はじめに、本最良形態に係る塗布型表面処理剤を説明する。ここで、本表面処理剤は、使用時には水溶液の形態であるが、使用時に水で希釈する濃縮タイプや水を添加する乾燥タイプも本表面処理剤の概念に包含される。以下では、液状の塗布型表面処理剤(処理液)を例に採り説明する。
【0027】
本表面処理剤は、ジルコニウム、チタン及びバナジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属(以下、「成分A」という)と、α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類(以下、「成分B」という)とを含有する。ここで、本表面処理剤は、これらの成分を溶液状態、ゾル状態又は分散状態で均一に含有している。例えば、該当成分がイオンとして液中に存在していたり、コロイドとして液中に存在している態様を挙げることができる。尚、「イオン」とは、該当成分がイオン状態で存在することを意味し、価数(例えば4価)や存在形態(例えば、金属単独イオン、金属含有錯イオン)は問わない。以下、各成分について説明する。
【0028】
まず、成分Aである「ジルコニウム、チタン及びバナジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属」について説明する。ジルコニウム、チタン及び/又はバナジウムの供給源となる金属化合物は、特に限定されないが、例えば、炭酸塩、ケイ酸塩、燐酸塩、有機酸塩、酸化物又は水酸化物を挙げることができ、好適には、アンモニウム、フッ素、酢酸、硝酸及び硫酸等を含有しない化合物、更に好適にはそれらの水難溶性の塩を挙げることができる。ここで、アンモニウム等の成分を含有しないことが好適な理由は、まず、アンモニウムに関しては、本表面処理剤が塗布型であるために水洗工程が無く余分な成分は無い方がよいことに加え、乾燥時の揮発によるアンモニア臭の問題も生じるからである。また、フッ素に関しては、本表面処理剤が塗布型であるためにエッチングの必要がないことに加え、フッ素がキレート成分として膜中に残存してしまうという問題を生じるからである。また、酢酸に関しては、乾燥時の揮発による酢酸臭の問題を生じるからである。また、硝酸及び硫酸に関しては、当該成分の存在により膜形成が妨げられるという問題を生じるからである。但し、これらの問題成分を含有する金属化合物を唯一の金属供給源として用いない限り、これらの問題成分を一部含有していてもよい。また、水難溶性の塩が好適である理由は、一般的に、可溶化成分であるフッ素等の上記非好適成分を当該塩が含有していないケースが多いからである。
【0029】
以下具体例を列記すると、まず、ジルコニウム源としては、水分散性酸化ジルコニウムコロイド、水酸化ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、ケイ酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、チタン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、ジルコニウム酸リチウム、ジルコニウム酸アルミニウム、ジルコニウム酸マグネシウム、ジルコニウム酸ストロンチウム、マレイン酸ジルコニウム、ジマレイン酸ハーフエステルジルコニウム、ジイタコン酸ジルコニウム、乳酸ジルコニウム、オキシオレイン酸ジルコニウム、オキシステアリン酸ジルコニウム、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムテトラn−ブトキシド等が挙げられる。チタン源としては、水分散性酸化チタンコロイド、チタン酸、チタン酸リチウム、チタン酸ジルコニウム、チタンのアルコキシド等が挙げられる。バナジウムとしては、メタバナジン酸、バナジン酸及びこれらの塩(例えば、ナトリウム、カリウム等)、五酸化バナジウム等の酸化バナジウム、五塩化バナジウム等のハロゲン化バナジウム、燐酸バナジウム、重燐酸バナジウム、並びに、バナジウムアセチルアセトネートやバナジルアセチルアセトネート等の有機バナジウム化合物が好ましいものとして挙げられる。
【0030】
次に、成分Bである「α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類」について説明する。まず、「α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類」とは、分子内にエチレン性二重結合を一つ有すると共に、当該二重結合に係る炭素の夫々に一つずつカルボキシル基がペンダントしたジカルボン酸、これらの酸無水物、これらの半エステル及びこれらの塩を指す。ここで、当該ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸(メチルマレイン酸)、イタコン酸(メチリデンコハク酸)、メサコン酸(メチルフマル酸)を挙げることができる。また、半エステルとしては、炭素数1〜18のアルコールのエステル類を挙げることができ、ここで、水溶解性の観点から、炭素数1〜10のアルコールのエステル類が好適であり、特に好適には、メチル、エチル、ベンジル等のアルコールのエステル類である。また、塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、亜鉛塩等のアルカリ土類金属塩が挙げられる。この中では、マレイン酸が、少量で金属化合物を水溶化(又は水分散化)可能という点で好適である。
【0031】
次に、本最良形態に係る表面処理剤は、更に、ケイ素、セリウム、リチウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム及びマンガンからなる群から選択される少なくとも一種の金属成分(以下、「成分C」という)並びに水溶性高分子(以下、「成分D」という)からなる群から選択される、少なくとも一種の成分を含有することが好適である。これらの成分を含有することにより、より耐食性や塗膜密着性を向上させることができる。尚、成分Cの存在形態は、イオン状でも酸化物等の粒子・微粒子状であってもこれらの混合であってもよい。
【0032】
ここで、成分Cの供給源となる金属化合物としては特に限定されず、例えば、水分散性酸化物、水酸化物、炭酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩を挙げることができる。具体的には、例えばケイ素化合物に関しては、水分散性シリカ等のシリカ、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等の水溶性ケイ酸塩化合物、ケイ酸エステル類、ジエチルシリケート等のアルキルシリケート類、シランカップリング剤等を挙げることができる。中でも、皮膜のバリア性を高める効果があることからシリカが好ましく、表面処理液中での分散性が高いことから水分散性シリカがより好ましい。上記水分散性シリカとしては特に限定されず、例えば、「スノーテックス」系(いずれも日産化学工業株式会社製)のコロイダルシリカや、「アエロジル」(日本アエロジル株式会社製)等のヒュームドシリカ等を挙げることができる。
【0033】
次に、成分Dである上記水溶性高分子は、特に限定されず、例えば、水溶性又は水分散性の各種水系樹脂を挙げることができる。中でも、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリグリセリン、水溶性ポリフェノール樹脂、水溶性不飽和ポリエステル樹脂、水溶性エポキシ樹脂、タンニン、ポリマレイン酸等が好適である。
【0034】
ここで、成分Cと成分Dは、α、β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸に対しての、(1)残存カルボキシル基の消去、及び/又は、(2)不飽和基の重合反応による架橋・高分子化、の二つの機能を有することが好適である。前記(1)の機能を有する成分Cとしては、例えば、水酸基を含有する無機成分、具体的には、水分散性酸化物、水酸化物、炭酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩等を挙げることができる。また、前記(1)及び/又は(2)の機能を有する成分Dとしては、例えば、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリグリセリン、水溶性ポリフェノール樹脂、タンニン、ポリマレイン酸等を挙げることができる。尚、成分CとDが上記機能を有することが好適であるが、成分C及びDが上記機能を有していない場合には、別途当該機能を有する成分を添加してもよく、また、成分CとDの少なくとも一部が上記機能を有している場合であっても、重ねて当該機能を有する成分を添加してもよい。
【0035】
尚、本表面処理剤は、必要に応じて、濡れ剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤等の公知の各種添加剤を添加し得る。
【0036】
次に、本最良形態に係る表面処理剤における各成分の含有量や物性について説明する。まず、成分Aの供給源となる金属化合物の添加量は、表面処理剤の全固形分量に対して0.5〜95wt%であることが好適である。これは、添加量が0.5wt%未満では耐食性と塗装後の密着性が不十分となる傾向があり、95wt%を超える場合には皮膜中の金属化合物が過剰となり処理液の安定性が低下する傾向があるからである。ここで、下限値に関しては、5wt%以上がより好適であり、30wt%以上の場合は特に好適である。上限値に関しては、70wt%以下がより好適であり、50wt%以下の場合が特に好適である。
【0037】
次に、成分Bの添加量は、成分Aの供給源となる金属化合物(固形分)100重量部に対して5〜9900重量部であることが好適である。ここで、下限値に関しては、50重量部以上がより好適であり、100重量部以上が特に好適である。上限値に関しては、5000重量部以下がより好適であり、2500重量部以下が特に好適である。
【0038】
次に、成分Cの添加量は、成分Aの供給源となる金属化合物(固形分)100重量部に対して5〜1900重量部であることが好適である。ここで、下限値に関しては、50重量部以上がより好適であり、75重量部以上が特に好適である。上限値に関しては、500重量部以下がより好適であり、特に250重量部以下が特に好適である。
【0039】
次に、成分Dの添加量は、成分Aの供給源となる金属化合物(固形分)100重量部に対して5〜1900重量部であることが好適である。ここで、下限値に関しては、50重量部以上がより好適であり、75重量部以上が特に好適である。上限値に関しては、500重量部以下が好適であり、250重量部以下が特に好適である。
【0040】
ここで、成分B(α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類)は、処理剤調整時には、成分Aに係る金属化合物を溶解(又は分散)させ、また、溶解(又は分散)後は、成分Aの安定化剤として機能する。当該機能を発揮させるためには、α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類の含有量又は添加量は、前記金属の含有量又は添加量に対して、モル比で1〜100であることが好適であり、より好適には5〜50であり、最も好適には10±5である。尚、類似構造の他の酸の中には、濃度を高くすれば成分Aに係る金属化合物を溶解させることも可能なものも存在するが、希釈すると成分Aが凝集してしまう。本発明に係るα,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類は、希釈しても凝集しない点でも類似酸と比較して優れている。
【0041】
本表面処理剤の物性に関しては特に限定されない。尚、使用するα,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類にもよるが、基本的には、アンモニウムやアミン等でpH調整することが無いため、酸性であることが多い。
【0042】
次に、本表面処理剤の製造方法について説明する。本表面処理剤の製造方法は特に限定されず、溶媒に上記各成分を溶解又は分散させて得ることができる。ここで、溶媒は、好適には水である。また、上記各成分に関しては、別個のソースで液中に存在させても同一のソースで液中に存在させてもよい。例えば、マレイン酸ジルコニウム、ジマレイン酸ハーフエステルジルコニウム、ジイタコン酸ジルコニウムを溶媒中に添加した場合には、成分Aと成分Bが同時に液中に提供される。尚、この場合は、当該化合物が、成分A+成分Bに該当する。また、この場合、成分Aの供給源となる金属化合物の添加量と成分Bの添加量の比は、当該化合物における金属部分と当該化合物における成分B部分との比である。また、上記各成分に関しては、溶解させる場合には常温下で行っても加熱(<100℃)下で行ってもよい。
【0043】
次に、本表面処理剤の使用方法(金属材の表面処理方法)について説明する。当該方法は、金属材表面に塗布する工程と、塗布後に乾燥する工程を含む。尚、一般的には、当該方法は、前記塗布工程の前に、脱脂工程と水洗工程を含む。
【0044】
そこで、まず塗布工程について説明する。塗布方法としては、従来の方法がそのまま適用でき、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬、バーコート、刷毛塗り等で行なうことができる。
【0045】
次に、乾燥工程について説明する。まず、乾燥方法としては、従来の方法がそのまま適用でき、加熱乾燥や風乾を挙げることができる。ここで、処理膜乾燥温度(到達板温度)は、60〜300℃が好適であり、100〜250℃がより好適である。水分を揮発乾燥できる範囲であれば特に限定するものではない。但し、100℃〜250で乾燥させるのが、本発明の目的とする防錆性、及び形成した下地処理皮膜の金属表面や上塗り塗膜または接着フィルムとの密着性等の点で特に好ましい。
【0046】
また、対象となる金属材は、冷延鋼板、熱延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、溶融合金化亜鉛メッキ鋼板、アルミニウムメッキ鋼板、アルミ−亜鉛合金メッキ鋼板、スズ−亜鉛合金メッキ鋼板、亜鉛−ニッケル合金メッキ鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、銅板、チタン板、マグネシウム板等、一般に公知の金属材やメッキ板に適用できる。更には、複数種の素材の混在処理にも対応できる。これらの金属材は、処理前に湯洗、アルカリ脱脂等の通常の処理を行っても構わない。
【0047】
次に、前記表面処理により皮膜が形成された金属材について説明する。まず、形成される皮膜の皮膜質量は、0.01〜5g/m(乾燥質量)であることが好適である。皮膜質量が0.01g/m未満では、皮膜質量が少ない為、耐食性が不十分となる傾向がある。逆に、5g/mを超えた場合は、造膜性が悪くなる。更には、密着性が不十分であったりコスト面で不利になる。尚、より好ましい範囲は、0.05g/m以上、1.5g/m以下である。
【0048】
ここで、形成される皮膜は、ジルコニウム等とα,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類とのハイブリッド皮膜であると推定される。具体的には、処理膜の乾燥中、α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類のカルボキシル基とジルコニウム等の金属イオンとの架橋反応と、当該金属が触媒として作用することによるα,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類の重合反応が同時に起こり、より緻密な膜を形成し、耐食性及び塗膜密着性に優れるものと推定される。更に、α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類は揮発し易いので、乾燥中にこれら易揮発成分が膜中から揮発し、当該溶解成分が皮膜中に残らない結果、一層耐食性及び密着性に優れたものとなると推定される。
【0049】
次に、本表面処理剤による皮膜が形成された金属材の利用方法(用途)について説明する。まず、当該金属材を所望の形状に加工することにより、各種金属製品を得ることができる。当該金属製品としては、例えば、家電向けに耐指紋用亜鉛メッキ鋼板、建築向けに住宅用プレコート鋼板、エアコン向けにアルミフィン材、自動車向け各種金属部品等を挙げることができる。また、当該皮膜上に設ける上塗り皮膜は、特に限定されず、例えば、上塗り皮膜としては、電着塗装、溶剤塗装、粉体塗装及び特殊皮膜、例えば、親水性皮膜層、潤滑有機皮膜層、防黴防菌性皮膜等を挙げることができる。また、防錆性レベルによっては、上塗り皮膜を設けなくてもよい(例えば一時防錆)。
【実施例】
【0050】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を説明する。尚、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
1.試験板の作製
冷間圧延鋼板(SPCC−SD)
合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(GA) メッキ付着量片面当たり45g/m(両面メッキ)
溶融亜鉛メッキ鋼板(GI) 亜鉛付着量片面当たり60g/m(両面メッキ)
電解亜鉛メッキ鋼板(EG) 亜鉛付着量片面当たり40g/m(両面メッキ)
55%アルミ亜鉛メッキ鋼板(GL) 亜鉛付着量片面当たり60g/m(両面メッキ)
アルミニウム板(Al)
各供試材の寸法 70mm×150mm×0.8mm
【0051】
2.前処理
供試材をアルカリ脱脂剤のパルクリーンN364S(日本パ−カライジング社製)を用いて、濃度20g/L、温度60℃の水溶液中に10秒間浸漬し、純水で水洗した後、乾燥した。
【0052】
3.表面処理
[実施例1〜39、比較例1〜24]
SPCC材、EG材、GI材、GA材、GL材又はAl材に対して、一時防錆用耐食膜及び/又は一般塗装、プレコート塗装の下地処理膜として、表1に示す組成の表面処理剤を用いてバーコート法により所定の膜厚となるよう塗布し、乾燥炉でPMT120℃まで乾燥した。また、Al材に対して親水性塗剤の下地処理膜として、表1に示す組成の表面処理剤を用いてバーコート法により所定の膜厚となるよう塗布し、乾燥炉でPMT(最高到達板温度)180℃まで乾燥した。
[比較例25〜28(塗布クロメート処理)]
Al材、EG材、GI材又はGL材を使用し、塗布クロメート薬剤としてジンクロム1300AN(日本パ−カライジング社製)を用いて、ロールコート法により、付着量が40mg/mとなるよう塗布し、熱風乾燥炉で到達板温度が80℃となるように乾燥した。
【0053】
4.上塗塗装
下記条件で一般塗装を行った(SPCC材、EG材、GI材、GL材又はAl材)。
塗料:アミラック#1000(関西ペイント社製)
塗装方法:バーコート法 焼き付け:140℃、20分 膜厚:25μm
下記条件でプレコート塗装(プライマー+TOP)を行った(EG材、GI材、GL材又はAl材)。
プライマー: 7μm TQ88(日本油脂社製)
塗装方法:バーコート法 焼き付け:PMT200℃ 膜厚:7μm
トップ: 17μm SRF−05(日本油脂社製)
塗装方法:バーコート法 焼き付け:PMT225℃ 膜厚:17μm
下記条件で親水性塗剤を塗布した(Al材)。
塗料:パーレン5013(日本パ−カライジング社製親水性塗剤)
塗装方法: ロールコーター 焼き付け:PMT200℃ 皮膜量:0.8g/m
【0054】
5.評価
[皮膜質量]
皮膜質量は、蛍光X線分析装置(FXA)を用いて金属(Zr、Ti又はV)の付着量を測定し、処理剤中の配合量から換算して求めた。
[耐食性]
[SST]
EG材、GI材、GL材又はAl材の裸板(上塗塗装をしていない表面処理板)及びAl材の親水塗装板について、JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を240時間実施した。平面部の耐白錆性を目視にて測定し、評価した。
評価基準は以下の通りである。
◎:白錆発生率5%未満 ○:白錆発生率5%以上、10%未満 △:白錆発生率10%以上、50%未満 ×:白錆発生率50%以上
また、SPCC材、EG材、GI材、GL材、Al材の一般塗装板、EG材、GI材、GL材及びAL材のプレコート塗装板について、JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を480時間実施した。Xカット部の両側最大膨れ幅を測定し、評価した。
評価基準を以下に示す。
◎:膨れなし ○:6mm未満 △:6mm以上10mm未満 ×:10mm以上
[塗膜密着性]
[一次密着性]
SPCC材、EG材、GI材、GL材又はAl材の一般塗装板を、塗装面に1mm角の碁盤目をカッターナイフで入れ、塗装面が凸となるようにエリクセン試験機で5mm押し出した後、テープ剥離試験を行った。碁盤目の入れ方、エリクセンの押し出し方法、テープ剥離の方法については、JIS−K5400.8.2、及びJIS−K5400.8.5記載の方法に準じて実施した。評価は塗膜剥離個数にて行った。
評価基準を以下に示す。
◎:剥離無し ○:剥離個数1個以上、10個未満 △:剥離個数11個以上、50個未満 ×:剥離個数51個以上
また、EG材、GI材、GL材及びAL材のプレコート塗装板を、折り曲げ試験(2T)を実施し、テープ剥離後で塗膜剥離面積にて行った。
評価基準を以下に示す。
◎:剥離無し ○:剥離面積5%以下 □:剥離面積10%以下 △:剥離面積50%以下 ×:剥離面積80%以上
また、Al材の親水塗装板の表面に脱イオン水を少量付着させ、ガーゼで20回強く摩擦した後の表面状態を外観観察した。
評価基準を以下に示す。
◎:被験部位の1%未満で素地が露出 ○:被験部位の1%以上5%未満で素地が露出 △:被験部位の5%以上50%未満で素地が露出 ×:被験部位の50%以上で素地が露出
[二次密着性]
SPCC材、EG材、GI材、GL材及びAl材の一般塗装板を沸騰水中に2時間浸漬した後、一次密着性と同様なテストを行い評価した。また、EG材、GI材、GL材及びAL材のプレコート塗装板を沸騰水中に2時間浸漬した後、取り出して24時間後一次密着性と同様なテストを行い評価した。上記の結果を表2及び表3に示す。表2の結果から明らかな通り、本塗装下地処理剤を用いた実施例は、良好な塗装密着性、耐食性が得られた。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム、チタン及びバナジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属と、α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類とを含有する塗布型表面処理剤。
【請求項2】
α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類が、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、メサコン酸、これらの酸無水物、これらの半エステル及びこれらの塩からなる群より選択される、請求項1記載の塗布型表面処理剤。
【請求項3】
ジルコニウム化合物、チタン化合物及びバナジウム化合物からなる群より選択される少なくとも一種の金属化合物と、α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類とを添加してなる、請求項1又は2記載の塗布型表面処理剤。
【請求項4】
前記金属化合物が、炭酸塩、ケイ酸塩、燐酸塩、有機酸塩、酸化物又は水酸化物である、請求項3記載の塗布型表面処理剤。
【請求項5】
前記金属化合物が、アンモニウム、フッ素、酢酸、硝酸及び硫酸を含有しない化合物である、請求項3又は4記載の塗布型表面処理剤。
【請求項6】
α,β−モノエチレン性不飽和ジカルボン酸類の含有量又は添加量は、前記金属の含有量又は添加量に対して、モル比で1〜100である、請求項1〜5のいずれか一項記載の塗布型表面処理剤。
【請求項7】
ケイ素、セリウム、リチウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム及びマンガンからなる群から選択される少なくとも一種の金属成分並びに水溶性高分子からなる群から選択される、少なくとも一種の成分を更に含有する、請求項1〜6のいずれか一項記載の塗布型表面処理剤。
【請求項8】
カルボキシル基反応性基及び/又は不飽和基反応性基を有する成分を更に含有する、請求項1〜7のいずれか一項記載の塗布型表面処理剤。
【請求項9】
一時防錆剤及び/又は塗装下地剤としての、請求項1〜8のいずれか一項記載の塗布型表面処理剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項の塗布型表面処理剤を金属材表面に塗布・乾燥することにより皮膜を形成させる工程を含む、表面処理方法。
【請求項11】
前記金属材が、鉄系、亜鉛系、アルミ系及び/又はマグネシウム系基材である、請求項10記載の表面処理方法。
【請求項12】
請求項10又は11記載の表面処理方法により皮膜が形成された表面処理金属材。
【請求項13】
前記表面処理の皮膜質量が0.01〜5g/mである、請求項12記載の表面処理金属材。

【公開番号】特開2007−138258(P2007−138258A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334763(P2005−334763)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】