説明

金属製薄板ドラムの切断装置

【課題】環状溝に金属の微粒子が付着することを防止できる金属製薄板ドラムの切断装置を提供する。
【解決手段】金属製薄板ドラムの切断装置1は、ドラム保持手段100と環状溝170とレーザ光照射手段200とを備え、レーザ光照射手段200によりドラムWを切断して金属リングを形成する。環状溝170は、被覆材171が設けられている。被覆材171は、例えば、フッ素樹脂、窒化ホウ素被膜又は銅板からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製薄板ドラムの切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、無段変速機に採用される動力伝達用のベルトにおいては、環状に積層配列された複数のエレメントを一体に結束するために、複数の金属リングを積層してなる積層リングが用いられる。積層リングを構成する金属リングは、矩形状の金属製薄板の両端縁を溶接接合して形成された円筒状のドラムを所定幅で輪切り状に切断することによって形成される。
【0003】
従来、金属リングを形成する装置として、金属製の薄板により円筒状に形成されたドラムを外周面に装着して保持するドラム保持手段と、前記ドラム保持手段の外周面に全周にわたって形成される環状溝と、前記ドラムを介してドラム保持手段に対向する位置に設けられ、前記ドラムにレーザ光を照射するレーザ光照射手段とを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
前記従来の装置によれば、前記レーザ光照射手段から前記ドラムの前記環状溝に対応する位置にレーザ光を照射することにより、前記ドラムを切断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭63−53912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の装置によれば、前記ドラム保持手段に対する前記ドラム又は金属リングの移動が阻害されたり、前記ドラム又は金属リングが傷ついたりするという不都合がある。
【0007】
本発明は、かかる不都合を解消して、金属製の薄板ドラムをドラム保持部材により保持させてその外側からレーザ光照射手段により輪切り状に切断するときに、前記環状溝に前記金属の微粒子が付着することを防止することができる金属製薄板ドラムの切断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記不都合について鋭意検討したところ、前記ドラムをレーザ光の照射により切断する際に飛散する金属の微粒子が、前記環状溝に付着・堆積し、前記ドラム保持手段と、前記ドラム又は金属リングとが接触することが原因であることを知見した。
【0009】
そこで、前記知見に基づいて、かかる目的を達成するために、本発明は、金属製の薄板により円筒状に形成されたドラムを外周面に装着して前記ドラムをその全長にわたって保持するドラム保持手段と、前記ドラム保持手段の外周面に所定間隔を存して全周にわたって形成される環状溝と、前記ドラムを介してドラム保持手段に対向する位置に設けられ、前記ドラムにレーザ光を照射するレーザ光照射手段とを備え、前記レーザ光照射手段により前記ドラムの前記環状溝に対応する位置を切断して所定幅の金属リングを形成する金属製薄板ドラムの切断装置であって、前記環状溝は、表面に、レーザ光により前記ドラムを切断する際に飛散する金属の微粒子の付着を防止する被覆材が設けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明の金属製薄板ドラムの切断装置によってドラムから金属リングを形成するときには、先ず、前記ドラムを、前記ドラム保持手段の外周面に装着して保持させる。次に、環状溝に対応する位置に前記レーザ光照射装置によってレーザ光を照射することにより、ドラムを輪切り状に切断する。
【0011】
前記ドラム保持手段は、前記環状溝を備えているため、レーザ光によりドラムが切断される際に発生する金属の微粒子は、前記環状溝に飛散することになる。このとき、前記環状溝は、表面に被覆材が設けられているため、該金属の微粒子が環状溝内に付着することを防止することができる。従って、前記金属の微粒子が環状溝内に堆積したとしても、該堆積物を容易に除去することができるため、前記ドラム保持手段と、前記ドラム又は金属リングとの接触を防止することができる。
【0012】
前記被覆材としては、例えば、フッ素樹脂、窒化ホウ素被膜、又は銅板を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る金属製薄板ドラムの切断装置の説明的断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る金属製薄板ドラムの切断装置の要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0015】
本実施形態の金属製薄板ドラムの切断装置1は、図1に示すように、円筒状ドラムWを保持してその円筒軸の周りに回転可能な保持部100と、保持部100により回転されるドラムWに対しレーザ光を照射する加工ヘッド200と、保持部100の基端側に連結されたスピンドル300と、スピンドル300を回転させるモータ400とを備える。
【0016】
金属製薄板ドラムの切断装置1はさらに、モータ400及びスピンドル300間における動力伝達を行うタイミングベルト500と、保持部100内部に圧縮エアを、スピンドル300を介して供給するための管継手用ソケット600とを備える。
【0017】
ドラムWは矩形状の金属製薄板の両端を接合して円筒状に形成したものである。これを金属製薄板ドラムの切断装置1によって所定幅毎に切断することにより、CVT用金属ベルトが製造される。金属製薄板としては、例えば、厚さが0.3〜0.4mm程度のマルエージング鋼が用いられる。
【0018】
保持部100は、ドラムWの内面に接してドラムWを支持するほぼ円筒形状の保持部材110と、保持部材110の内壁を押圧するほぼ円筒状の押圧部材120と、押圧部材120の径を変化させるためのテーパ面131及び141をそれぞれ有する第1径変化部材130及び第2径変化部材140と、第1径変化部材130及び第2径変化部材140間の位置を調整するための連結バー150及びコイルスプリング160とを備える。
【0019】
テーパ面131は、保持部材110の基端部側から先端部側に向かって次第に縮径し、テーパ面141は、保持部材110の先端部側から基端部側に向かって次第に縮径している。
【0020】
保持部材110にはその円筒軸方向に沿った図示しない第1スリットが基端側から先端近傍まで形成されている。また、同様の第2スリットが先端側から基端近傍まで形成されている。第1スリット及び第2スリットは同数が交互に配置されており、これにより保持部材110は弾性的に径が伸縮自在となっている。
【0021】
保持部材110にはまた、外周面に所定間隔を存して全周にわたって複数の環状溝170が設けられる。各環状溝170は、上述の第1スリット及び第2スリットと交差する。保持部材110は、スピンドル300の先端に固定された2つの円環状の連結部材701及び702を介してスピンドル300に連結される。連結部材702の保持部材110側の端部には、環状の挿入口702aが設けられる。
【0022】
保持部材110の基端近傍は、ドラムWを支持する支持面よりも径が小さな小径部111となっている。保持部材110は、小径部111が連結部材702の挿入口702aに嵌合され、連結部材702に固定される。一方、保持部材110の先端近傍は、ドラムWを支持する支持面よりも径が大きな大径部112となっている。
【0023】
押圧部材120の外周面は保持部材110の内壁を押圧し得るように、該内壁に対向している。押圧部材120の基端側の内側には、第1径変化部材130のテーパ面131に対向するテーパ面121が設けられている。一方、押圧部材120の先端側の内側には、第2径変化部材140のテーパ面141に対向するテーパ面122が設けられている。
【0024】
押圧部材120には、その円筒軸方向に沿った図示しない基端側スリットが基端側端面から先端近傍まで形成されている。また、同様の先端側スリットが先端側端面から基端近傍まで形成されている。基端側スリット及び先端側スリットは同数、例えば2つずつが交互に配置されており、これにより押圧部材120は弾性的に径が伸縮自在となっている。
【0025】
第1径変化部材130は基端側の円柱状の部分と、その先端側に位置し、テーパ面131を有する円錐台部分とを備える。前記円柱状部分の径と、前記円錐台部分の底面の径は同一であり、両部分は段差なく接続している。第1径変化部材130は中心軸上に連結バー150が貫通されている。第1径変化部材130は基端部に連結バー150の基端部が固定されている。
【0026】
第2径変化部材140は円錐台状の形状を有し、テーパ面141を形成している。第2径変化部材140は中心軸上において連結バー150が貫通されている。コイルスプリング160は第1径変化部材130と、円錐台状の第2径変化部材140との間に介在し、両者を離間する方向に付勢している。コイルスプリング160内には連結バー150が貫通している。
【0027】
円錐台状の第2径変化部材140の底面には、保持部材110の内径に対応する径を有する円盤部材101が固定される。円盤部材101の外側には円盤状のカバー部材102が固定される。カバー部材102の径は保持部材110の内径よりも大きい。したがってカバー部材102は常に保持部材110の端面上に位置する。
【0028】
円盤部材101及びカバー部材102の中心を連結バー150が貫通している。カバー部材102の外側に隣接する連結バー150部分に嵌合する2つのナット103及び104により、カバー部材102に対する第1径変化部材130の位置を調整することができるようになっている。
【0029】
スピンドル300は基盤301上において、支持部材302により支持される。支持部材302とスピンドル300との間にはベアリング303が介在する。これにより、スピンドル300はその回転軸の回りに回転自在となっている。
【0030】
スピンドル300には保持部100にエアを供給するための貫通孔311が中心軸上に設けられる。第1径変化部材130の円柱状部分と、スピンドル300、第1連結部材701、第2連結部材702、及び保持部材110の基端部との間には間隙が形成されている。貫通孔311はこの間隙に連通している。これにより、スピンドル300の貫通孔311から保持部材110の第1スリット及び第2スリットに通じるエア供給路310が形成されている。
【0031】
モータ400の回転軸及びスピンドル300にはそれぞれプーリ401及び304が設けられる。タイミングベルト500はプーリ401及び304間に掛け渡される。これによりスピンドル300はモータ400の回転に応じて回転するようになっている。
【0032】
管継手用ソケット600は、図示しない送気管が管継手610を介して接続される本体部620と、本体部620に接続されたソケット部630とを備える。ソケット部630は、保持部100とは反対側の貫通孔311の端部に挿入される。図示しない送気管は、冷却媒体としての圧縮エアを供給する圧縮エア供給源に接続される。
【0033】
環状溝170は、図2に示すように、表面に被覆材171が設けられている。被覆材171としては、例えば、フッ素樹脂、窒化ホウ素被膜、又は銅板を挙げることができる。前記銅板は、銅合金板であってもよい。
【0034】
次に、本実施形態の金属製薄板ドラムの作動について説明する。
【0035】
ドラムWの切断加工を行う際には、まず、ドラムWに対し、保持部材110を小径部111側から、ドラムWの端部が大径部112に接するまで挿入する。次に、保持部材110を連結部材702に連結させる。これにより、ドラムWが金属製薄板ドラムの切断装置1により保持される。
【0036】
次に、ナット103及び104を回すことにより、第1径変化部材130をカバー部材102の方向に変位させる。これに伴ってコイルスプリング160が圧縮する。これにより、第1径変化部材130及び第2径変化部材140は相互に近接する方向に変位するので、押圧部材120は第1径変化部材130及び第2径変化部材140のテーパ面131及び141を介して径が拡大する方向への力を受けて、径が拡大する。
【0037】
押圧部材120の径が拡大すると、保持部材110の内壁が、押圧部材120の側面により押圧され、保持部材110の径が拡大する。これにより、ドラムWの歪みが矯正される。この後、ナット103及び104を逆方向に回し、コイルスプリング160の反発力により第1径変化部材130及び第2径変化部材140を離間させて、押圧部材120の径を若干元に戻し、又は初期の径に戻すようにしてもよい。
【0038】
次に、モータ400が駆動される。これにより、スピンドル300を介してドラムWが回転される。ドラムWの回転速度は、図示しない制御手段により制御され、例えば30〜200m/分の周方向に沿った速度に設定される。
【0039】
これに応じ、図示しない制御手段は、与えられているドラムWの材料と厚み、及び要求されるドラグラインの傾き、並びに自身が把握しているドラムW(保持部材110)の回転速度に基づき、加工ヘッド200を平行移動させる。
【0040】
次に、加工ヘッド200からドラムWに対し、レーザ光が照射される。レーザ光が照射されたドラムWの部分は温度が上昇して溶融する。これにより、ドラムWの一部分が、金属リングとして、他の部分から切り離される。
【0041】
このレーザ光の照射によりドラムWの一部が、溶融した金属の微粒子となって飛散する。このような溶融した金属の微粒子は、環状溝170の表面に付着して凝固することにより、環状溝170の内側に堆積するおそれがある。
【0042】
しかしながら、本実施形態の金属製薄板ドラムの切断装置1によれば、環状溝170の表面は、被覆材171で覆われている。従って、かかる金属の微粒子は、被覆材171の作用により環状溝170の表面に付着することが防止されるため、エアブロー処理することにより、環状溝170内で凝固した金属の微粒子を容易に除去することができる。その結果、保持部100に対するドラムW又は金属リングの移動が阻害されたり、前記ドラム又は金属リングが傷ついたりすることを防止することができる。
【0043】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
本実施例の金属製薄板ドラムの切断装置1は、環状溝170の表面に、フッ素樹脂プレート(株式会社ミスミ製、商品名:PTFEスタンダード)を貼り付けることにより、フッ素樹脂からなる被覆材171を設けた。
【0045】
次に、本実施例の被覆材171が形成された金属製薄板ドラムの切断装置1を用いて、上述した手順に従い、30ドラム分のドラムWの切断を行った。前記切断後、エアブロー処理を行う前後に、環状溝170の状態を目視により観察した。
【0046】
(実施例2)
本実施例の金属製薄板ドラムの切断装置1は、環状溝170の表面に、窒化ホウ素コーティング剤(オキツモ株式会社製、商品名:ボロンコートA)を常温で吹き付け、常温で5分間乾燥させることにより窒化ホウ素被膜からなる被覆材171を設けたことを除き、実施例1と全く同一の構成を備えている。そして、実施例1と全く同一にして環状溝170の状態を観察した。
【0047】
(実施例3)
本実施例の金属製薄板ドラムの切断装置1は、環状溝170の表面に、無酸素銅板(C1020)を貼り付けることにより銅板からなる被覆材171を設けたことを除き、実施例1と全く同一の構成を備えている。そして、実施例1と全く同一にして環状溝170の状態を観察した。
【0048】
(比較例)
本比較例の金属製薄板ドラムの切断装置1は、環状溝170の表面に、ステンレス鋼板(大同特殊鋼株式会社製、商品名:NAK55)を貼り付けることにより、ステンレス鋼からなる被覆材171を設けたことを除いて、実施例1と全く同一の構成を備えている。そして、実施例1と全く同一にして環状溝170の状態を観察した。
【0049】
前記観察の結果、フッ素樹脂からなる被覆材171を備える実施例1、窒化ホウ素被膜からなる被覆材171を備える実施例2、及び銅板からなる被覆材171を備える実施例3では、エアブロー処理後、環状溝170への金属の微粒子の付着がほとんど見られなかった。特に、フッ素樹脂からなる被覆材171を備える実施例1では、エアブロー処理の前においても環状溝170への金属の微粒子の付着が見られなかった。
【0050】
一方、ステンレス鋼からなる被覆材171を備える比較例では、エアブロー処理後、多くの金属の微粒子が環状溝170の表面に付着していた。
【0051】
従って、フッ素樹脂、窒化ホウ素被膜、銅板からなる被覆材171を設けることにより、環状溝170への溶融した金属の付着を防止することができることが明らかである。
【符号の説明】
【0052】
1…金属製薄板ドラムの切断装置、100…保持部(ドラム保持手段)、170…環状溝、171…被覆材、200…加工ヘッド(レーザ光照射手段)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の薄板により円筒状に形成されたドラムを外周面に装着して前記ドラムをその全長にわたって保持するドラム保持手段と、前記ドラム保持手段の外周面に所定間隔を存して全周にわたって形成される環状溝と、前記ドラムを介してドラム保持手段に対向する位置に設けられ、前記ドラムにレーザ光を照射するレーザ光照射手段とを備え、前記レーザ光照射手段により前記ドラムの前記環状溝に対応する位置を切断して所定幅の金属リングを形成する金属製薄板ドラムの切断装置であって、
前記環状溝は、表面に、レーザ光により前記ドラムを切断する際に飛散する金属の微粒子の付着を防止する被覆材が設けられていることを特徴とする金属製薄板ドラムの切断装置。
【請求項2】
請求項1記載の金属製薄板ドラムの切断装置において、
前記被覆材は、フッ素樹脂からなることを特徴とする金属製薄板ドラムの切断装置。
【請求項3】
請求項1記載の金属製薄板ドラムの切断装置において、
前記被覆材は、窒化ホウ素被膜からなることを特徴とする金属製薄板ドラムの切断装置。
【請求項4】
請求項1記載の金属製薄板ドラムの切断装置において、
前記被覆材は、銅板からなることを特徴とする金属製薄板ドラムの切断装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−166210(P2012−166210A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27755(P2011−27755)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】