説明

金属製触媒担体

【課題】より一層の排ガス浄化効率の向上を図るべく、排気ガス浄化性能を最大限に高め得ることのできる金属製触媒担体を提供する。
【解決手段】薄板の大波板2と平板3を交互に多重に重ねて該各大波板2と平板3との間に排気ガスが通過する多数のセル通路4が形成され、前記大波板2と平板3に多数のスリット孔5,6が形成され、前記大波板2と平板3の表面に触媒成分を混入したスラリーがコーティングされた金属製触媒担体1であって、各スリット孔5,6における排気ガスの流れに対しリーディングエッジとなる排気ガス流入側と対面する開口縁部5a,6aの長さLの合計が、排気ガスの流れに対しリーディングエッジとなる前記大波板2と平板3の排気ガス流入側端縁部の長さの合計の4〜8倍になるように設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジンから排出される排気ガス(反応ガス)の浄化に使用される金属製触媒担体に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の金属製触媒担体は、ステンレスなどからなる金属製薄板の波板(大波板)と平板(または小波板)を重ねて多重に巻回し波板と平板との間に排気ガスが通過する多数のセル通路を形成すると共に、前記波板と平板のうち少なくともいずれか一方に所定間隔のもとに多数のスリット孔を形成することにより、セル通路内を通過する排気ガスに対し乱流を積極的に起こさせ、当該排気ガスを波板と平板の表面にコーティングされた触媒に接触する機会をできるだけ増やし、これにより、排気ガス浄化性能を向上させるようにした構造のものがある(例えば、特許文献1、2など参照。)。
【0003】
通常、一つのセル通路内を流れる排気ガスは、例えば図8の触媒反応プロセス説明図に示すように、入口からその担体壁101に沿って流れの境界層103を形成するため、該担体壁101の表面にコーティングされている触媒層102への反応物質の拡散が阻害されてしまう。この物質移動を改善したのが、図9(排気ガス流れイメージ図)に示すスリット構造である。
【0004】
スリット孔104により形成されるリーディングエッジは、図10(A)に示すように、セル通路内にできた境界層103を途中で寸断し、エッジ先端では境界層103が薄くなって触媒層102への物質移動を活発化させ、その結果、図10(B)に示すように、反応物質移動率が各スリット孔104のリーディングエッジ部において最も高くなる。そのため、上述のように、多数のスリット孔104を形成してリーディングエッジを増やすことにより、平均移動率が高くなり、これにより、全体として排気ガス浄化性能を向上させることができる。
【特許文献1】特開平8−103664号公報
【特許文献2】特開2006−150194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記したように、多数のスリット孔を形成してリーディングエッジの数を増やすことにより、平均移動率が高くなり、これにより、全体として排気ガス浄化性能を向上させ得ることは理論上明らかである。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、触媒の活性化温度まで短時間で昇温させることを目的として排ガス流入側寄りに多くのスリット孔を設けているため、そのスリット孔開口率が担体全体の30〜50%にもなっていることから、反応面積が減少し、最高浄化率の点からみると不利に働く。
【0007】
また、特許文献2に示す技術では、排気ガス浄化性能を最大限に高めるためにはスリット孔の形成個数(リーディングエッジの合計長さ)をある個数に定めたが、これでは未だ十分な排ガス浄化効率を引き出しているといは言えない。
【0008】
そこで、本発明は、上述の実状に鑑みてなされたものであり、より一層の排ガス浄化効率の向上を図るべく、排気ガス浄化性能を最大限に高め得ることのできる金属製触媒担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、薄板の大波板と小波板または平板を交互に多重に重ねて該大波板と小波板または平板との間に排気ガスが通過する多数のセル通路が形成され、前記大波板と小波板または平板に多数のスリット孔が形成され、前記大波板と小波板または平板の表面に触媒成分を混入したスラリーがコーティングされた金属製触媒担体であって、前記各スリット孔における排気ガスの流れに対しリーディングエッジとなる排気ガス流入側と対面する開口縁部の長さの合計が、排気ガスの流れに対しリーディングエッジとなる前記大波板と小波板または平板の排気ガス流入側端縁部の長さの合計の4〜8倍になるように設定することを特徴とする。
【0010】
また、前記スリット孔の前記排気ガスの流れ方向における幅を1.2mm〜4mmとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属製触媒担体では、リーディングエッジの長さを最適化したので排ガス浄化効率が向上する。更に、幅も考慮してスリット孔を最適化したので、より一層の排ガス浄化効率の向上を図ることができ、且つ排気ガス浄化性能を最大限に高め得ることができる。また、本発明の金属製触媒担体によれば、無駄に多くのスリット孔を増やすことなく排ガス浄化性能を高めることができることから、触媒(貴金属)を減らせることができコストダウンを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1は本実施の形態の金属製触媒担体を示す斜視図、図2は大波板と平板を重ねて巻回して金属製触媒担体を製造する途中の状態を示す斜視図である。
【0014】
金属製触媒担体1は、ステンレスなどの金属製薄板からなる大波板2と平板33とを重ね、平板3を外側にしてこれらを多重に巻回することによってハニカム構造としたもので、このハニカム通路4(セル通路)の表面には、アルミナ等からなる触媒担持体層が形成され、この触媒担体層に触媒成分が担持されることにより、排ガス浄化触媒とされ、内燃機関の排気経路に配置されることにより、排気ガス中のHC、CO、NOx等(反応物質)を触媒反応で浄化させ、生成物質(H2O、CO2、N2)として排出させる働きをする。
【0015】
前記大波板2には、波状に成形する前に予め所定間隔のもとに所定長さにて多数のスリット孔5が形成される一方、前記平板3にも所定間隔のもとに多数のスリット孔6が形成されている。
【0016】
すなわち、金属製触媒担体1において、排気ガス浄化性能を向上させるためには、セル通路4内を通過する排気ガスに対し乱流を積極的に起こさせ、排気ガスが触媒に接触する機会をできるだけ増やすことが有効であり、このため、大波板2および平板3にセル通路4に対し直交する方向(排ガスの流れ方向と直交する方向)に長い多数のスリット孔5、6を開けて大波板2と平板3で仕切られたセル通路4相互間の流通を可能とし、セル通路4内における排気ガスの流れを幅方向により多く乱流化させることにより、排気ガス浄化性能を向上させるようになっている。
【0017】
また、スリット孔5、6の開口縁部で形成されるリーディングエッジは、前記した図10(A)に示すように、セル通路4内にできた境界層103を途中で寸断し、エッジ先端では境界層103が薄くなって触媒層102への物質移動を活発化させ、その結果、図10(B)に示すように、反応物質移動率が各スリット孔104のリーディングエッジ部において最も高くなる。従って、上述のように、多数のスリット孔5、6を形成してリーディングエッジの数を増やすことにより、全体として排気ガス浄化性能を向上させることができる。
【0018】
リーディングエッジの数と排気ガス浄化性能(浄化率)との関係、即ち、排気ガス浄化性能を最大限に高めるためにはスリット孔5、6の形成個数(リーディングエッジの合計長さ)を如何ほどに設定し、そのスリット孔5、6の幅をどの程度にすればよいかという点については、いまだ解明されてはいなかった。
【0019】
そこで、本実施の形態では、スリット孔5、6の形成個数(リーディングエッジの合計長さ)と、スリット孔5、6の幅の最適範囲を検証するために以下のような実験を行った。
【0020】
図3(A)はスリット孔パターンを最適化するために実験に供した金属製触媒担体の製造途中工程を示す斜視図、図3(B)はスリット孔パターンを最適化するために実験に供した金属製触媒担体を輪切りにして各担体を所定距離離して配置させた状態を示す斜視図、図4はスリット孔を拡大して示す平面図、図5はリーディングエッジ数と熱の移動量の関係を示す特性図である。
【0021】
実験に使用したサンプルは、図3に示すように、大波板2と平板3を重ねて巻回した後、触媒を塗布した金属製触媒担体を、その長手方向に輪切りにして10個の担体N1〜N10に分割し、これら担体N1〜N10を所定の間隔βを置いて同一線上に配置した。各担体N1〜N10の配置間隔βは、図4に示すスリット孔5、6の前記排気ガスの流れ方向における幅に見立てている。また、10個の担体N1〜N10に分割したことで、リーディングエッジの数を1〜10と見立てている。なお、ここでは、リーディングエッジは、スリット孔5、6における排気ガス流入側と対面する開口縁部(図4の斜線部)5a、6aを指し、その開口縁部5a、6aの長さLをリーディングエッジ長さと定義する。また、N1〜N10をリーディングエッジ数Nと定義する。
【0022】
実験は、触媒表面への物質移動は、空気との熱交換と同じ挙動を示すことが解っている為、空気を通過させ前記間隔βを1mm、1.2mm、2mm、4mm、6mmの5パターンで配置した金属製触媒担体にそれぞれ排気ガスを流し、各担体から排気ガス側に移動する熱量(空気が担体壁面から受け取った総熱量)をシュミュレーションによる計算値で求めて担体性能を評価した。この実験結果を図5及び表1に示す。
【表1】

【0023】
この実験結果から判るように、リーディングエッジの数Nが4〜8で、且つ前記間隔βが1.2〜4mmで最も優れた担体性能が得られていることが判る。つまり、リーディングエッジ長さLに相当するN数は、前記スリット孔5、6の幅βにもよるが、N=4、5、8で何れもスリット孔5、6を形成していない金属製触媒担体に比べて担体性能が向上するため、金属製触媒担体1における排気ガス流入側端縁部7のリーディングエッジ長さを1とした時のエッジの長さは、それぞれ4倍、5倍、8倍とすることが最も担体性能が上がる。前記間隔βが6mmとなると、1.2mm、2mm及び4mmの場合と比べて極端に担体性能が低下する。
【0024】
また、金属製触媒担体1が使われる自動車用エンジンの走行状態での排気ガス流のレイノルズ数が100付近において金属担体の下流側端部(リーディングエッジと対抗する開口縁部から約1.0mm)は剥離部分が残る。この剥離部分の中にリーディングエッジがある場合、リーディングエッジによる層流部を薄くする効果が得られないため浄化性能は低下する。
【0025】
したがって、本実施の形態では、各スリット孔5、6における排気ガスの流れに対しリーディングエッジとなる排気ガス流入側と対面する開口縁部5a,6aの長さLの合計が、排気ガスの流れに対しリーディングエッジとなる前記大波板2と小波板または平板3の排気ガス流入側端縁部7(金属製触媒担体の排気ガス流入端面におけるリーディングエッジの合計長さ)の長さの合計の4〜8倍になるように設定し、且つ、スリット孔5、6の前記排気ガスの流れ方向における幅βを1.2mm〜4mmとする。
【0026】
前記した実験結果により、担体性能が良かったリーディングエッジの長さを8倍、スリット孔5、6の幅βを2mmとしたときのスリット孔5、6のパターンを決め、担体試作を行い性能評価を行った。図6の(A)はそのときのスリット孔のパターン例を示し、(B)はその金属製触媒担体を示す。図7は、担体の体積と車両評価HC転化率を示す。
【0027】
試作した金属触媒担体10は、大波板と平板を巻回し、その直径Dを102mmとし、長さXを61mm、91mm、121mmとした。スリット孔11の長さは5mm、幅は2mmとした。なお、図7の縦軸の車両評価HC転化率は、触媒に入る排ガスと出口での排ガスの浄化量を示し、◆は実施例、●及び○は比較例を示す。実施例◆は触媒の量PMを第1比較例に比べて5/10つまり半分とし、第1比較例●は触媒の量を10/10、第2比較例○は触媒の量を5/10としている。実施例、第1比較例、第2比較例、の特徴は、以下のようになっている。
【0028】
実施例は、上記の直径D102mm、スリット孔11の長さ5mm、幅2mmで、長さXをそれぞれ61mm、91mm、121mmとしたものである。
【0029】
第1比較例は、実施例と同一寸法であるが、大波板と平板にはスリット孔を設けていないものを巻回したものである。
【0030】
第2比較例は、第1比較例と同一寸法、同一構造において、金属触媒担体に担持させた触媒の量を1/2にしたものである。
【0031】
この結果から判るように、担体の体積が同じである場合には、本発明品の方が車両評価HC転化率が高く、しかも触媒の量も少なくても済む。また、従来品と同じ車両評価HC転化率を得る場合には、担体の体積が小さく且つ触媒の量も少なくて済むことから、触媒の量を減らすことができ、コストダウンを図ることができる。また、本発明によれば、金属製触媒担体の小型化も実現できる。
【0032】
以上、本発明を適用した具体的な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に制限されることなく種々の変更が可能である。
【0033】
例えば、上述の実施の形態では、金属製触媒担体1として、大波板2と平板3を巻回した構造としたが、大波板2とこれよりも小さな波形状とした小波板を巻回した構造の金属製触媒担体に本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施の形態の金属製触媒担体を示す斜視図である。
【図2】大波板と平板を重ねて巻回して金属製触媒担体を製造する途中の状態を示す斜視図である。
【図3】図3(A)はスリット孔パターンを最適化するために実験に供した金属製触媒担体の製造途中工程を示す斜視図、図3(B)はスリット孔パターンを最適化するために実験に供した金属製触媒担体を輪切りにして各担体を所定距離離して配置させた状態を示す斜視図である。
【図4】スリット孔を拡大して示す平面図である。
【図5】リーディングエッジ数と熱の移動量の関係を示す特性図である。
【図6】図6(A)はスリット孔を最も最適化したときのスリット孔パターンの一例を示す図、図6(B)はそのときの金属製触媒担体の図である。
【図7】実施例と比較例の担体体積と車両評価HC転化率との関係を示す特性図である。
【図8】触媒反応プロセスを示す説明図である。
【図9】金属製触媒担体における排気ガス流れのイメージ図である。
【図10】境界層の破断状況及び反応物質移動率を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1…金属製触媒担体
2…大波板
3…平板
4…ハニカム通路(セル通路)
5、6…スリット孔
5a、6a…スリット孔の排気ガス流入側と対面する開口縁部
7…排気ガス流入側端縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板の大波板と小波板または平板を交互に多重に重ねて該大波板と小波板または平板との間に排気ガスが通過する多数のセル通路が形成され、前記大波板と小波板または平板に多数のスリット孔が形成され、前記大波板と小波板または平板の表面に触媒成分を混入したスラリーがコーティングされた金属製触媒担体であって、
前記各スリット孔における排気ガスの流れに対しリーディングエッジとなる排気ガス流入側と対面する開口縁部の長さの合計が、排気ガスの流れに対しリーディングエッジとなる前記大波板と小波板または平板の排気ガス流入側端縁部の長さの合計の4〜8倍になるように設定する
ことを特徴とする金属製触媒担体。
【請求項2】
請求項1記載の金属製触媒担体であって、
前記スリット孔の前記排気ガスの流れ方向における幅βを1.2mm〜4mmとした
ことを特徴とする金属製触媒担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−80214(P2008−80214A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261454(P2006−261454)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】