説明

金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法

【課題】液相反応技術を利用して、粒径の大きさと分布の適正化を図ることができるとともに、焼結温度を向上させたニッケルナノ粒子を製造する。
【解決手段】金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、カルボン酸ニッケルおよび1級アミンを含有する混合物を加熱して錯化反応液を得る工程と、錯化反応液にマイクロ波を照射して200℃以上の温度で加熱することにより、ニッケル以上の融点を持つ高融点金属を含有する金属複合ニッケルナノ粒子を生成させる工程と、を備えている。遅くともマイクロ波を照射する前の、混合物を調製する段階、混合物の段階、又は錯化反応液の段階のいずれかにおいて、高融点金属の塩を配合した後、マイクロ波による加熱を行う。カルボン酸ニッケルは酢酸ニッケルであり、1級アミンはオレイルアミンであり、高融点金属塩はタングステン塩またはモリブデン塩である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルナノ粒子は、銀ナノ粒子等の貴金属ナノ粒子よりも安価で、貴金属ナノ粒子よりも化学的に安定であることから、触媒、磁性材料、積層セラミックコンデンサにおける電極等への利用が期待されている。従来、ニッケルナノ粒子は、固相反応または液相反応によって得られていた。固相反応としては、塩化ニッケルの化学気相蒸着やギ酸ニッケル塩の熱分解等が知られている。液相反応としては、塩化ニッケル等のニッケル塩を水素化ホウ素ナトリウム等の強力な還元剤で直接還元する方法、NaOH存在下ヒドラジン等の還元剤を添加して前駆体[Ni(HNNH]SO・2HOを形成した後に熱分解する方法、塩化ニッケル等のニッケル塩や有機配位子を含有するニッケル錯体を溶媒とともに圧力容器に入れて水熱合成する方法等が知られている。
【0003】
ニッケルナノ粒子を、上記した触媒、磁性材料、電極等の用途に好適に供するには、その粒径が例えば150nmを下回る程度に小さくかつ粒径が均一なものに制御できる必要がある。
【0004】
しかし、固相反応のうち化学気相蒸着による方法の場合、粒子がサブミクロンからミクロンオーダーに肥大化する。また、熱分解による方法の場合、反応温度が高いことから、粒子が凝集する。また、これらの固相反応による製造方法は、液相反応による製造方法に比べてニッケルナノ粒子の製造コストが高価になりがちである。
【0005】
一方、液相反応のうち強力な還元剤を使用する方法の場合、即座にニッケルが還元されることから、所望の粒径の粒子を得るために反応を制御することが困難である。また、前駆体を経由させる方法の場合、前駆体がゲル状をなし、その後の還元反応が不均一となること、水熱合成の場合、反応温度が高いことから、いずれも凝集を避けることができない。
【0006】
液相反応の技術に関して、ニッケル前駆物質、有機アミンおよび還元剤を混合した後、加熱することでニッケルナノ粒を得る方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この製造方法で、強力な還元剤を用いると、前記の他の例と同様に反応を制御することが難しく、分散性が高度に優れたニッケルナノ粒子は必ずしも好適には得られない。一方、還元力の弱い還元剤を用いると、酸化還元電位が負電位であるニッケル金属を還元するには高温に加熱する必要があり、それに伴った反応制御も求められる。また、この製造方法により製造されたニッケルナノ粒子の焼結温度は明らかではない。さらに、特許文献1の技術では、還元剤を多量に使用しているため、粒径の制御が難しく、また、分散性に優れたニッケルナノ粒子を得ることは困難であると考えられる。また、ニッケルナノ粒子中に還元剤成分が不純物として残存すると、ニッケルナノ粒子の用途によっては製品の品質に影響を及ぼすことも考えられる。
【0007】
ところで、積層セラミックコンデンサは、セラミック誘電体と内部電極を交互に積層して圧着した後、焼結して一体化したものとして得られる。このとき、例えば1,000℃を超えるセラミック誘電体の焼結温度に比べて内部電極材料であるニッケルナノ粒子の焼結温度は数百℃程度と低いため、両者の焼結時における膨張・収縮による体積変化等の挙動が異なり、層間剥離やクラックを生じるおそれがある。このような焼結時の問題に対して、上記特許文献1等の従来技術では、何ら有効な対策が講じられていない。
【0008】
金属ナノ粒子の粒径とその分布の適正化を図りながら、なおかつ金属ナノ粒子の焼結温度を高める技術として、例えば、銅粉末についてのものではあるが、金属銅微粒子または表面を酸化処理した金属銅微粒子のスラリーに金属塩水溶液を添加し、pH調整をすることで、金属酸化物等を表面に固着させた金属銅微粒子が開示されている(特許文献2)。しかしながら、この技術は、製造工程が煩雑であるため、安価なニッケルナノ粒子を得ることは難しいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−037647号公報
【特許文献2】特開2000−345201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、液相反応技術を利用して、粒径の大きさと分布の適正化を図ることができるとともに、焼結温度を向上させたニッケルナノ粒子を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、ニッケル以上の融点を持つ高融点金属を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法であって、カルボン酸ニッケルおよび1級アミンを含有する混合物を加熱して錯化反応液を得る工程と、前記錯化反応液にマイクロ波を照射して200℃以上の温度で加熱することにより、前記高融点金属を含有する金属複合ニッケルナノ粒子を生成させる工程と、を備え、遅くともマイクロ波を照射する前の、前記混合物を調製する段階、前記混合物の段階、又は前記錯化反応液の段階のいずれかにおいて、前記高融点金属の塩を配合した後、前記マイクロ波による加熱を行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、好ましくは、前記錯化反応液を得る工程において、前記高融点金属の塩を、前記カルボン酸ニッケルおよび1級アミンとともに混合して前記混合物を調製する。
【0013】
また、本発明に係る金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、好ましくは、前記カルボン酸ニッケルが、非環式モノカルボン酸ニッケルである。
【0014】
また、本発明に係る金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、好ましくは、前記非環式モノカルボン酸ニッケルが、酢酸ニッケルである。
【0015】
また、本発明に係る金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、好ましくは、前記1級アミンが脂肪族アミンである。
【0016】
また、本発明に係る金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、好ましくは、前記脂肪族アミンがオレイルアミンである。
【0017】
また、本発明に係る金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、好ましくは、前記1級アミンを、ニッケル1molに対してアミン2mol以上の比率で配合する。
【0018】
また、本発明に係る金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、好ましくは、前記高融点金属塩がタングステン塩、モリブデン塩、バナジウム塩およびニオブ塩からなる群から選ばれるいずれか1つまたは2以上の混合物である。
【0019】
また、本発明に係る金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、好ましくは、前記高融点金属塩がタングステン塩およびモリブデン塩のうちのいずれか1つまたは2つの混合物である。
【0020】
また、本発明に係る金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、好ましくは、前記高融点金属の塩を、金属換算で、前記カルボン酸ニッケル中に含まれるニッケル100質量部に対して高融点金属として1〜30質量部の範囲内で配合する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法によれば、金属複合ニッケルナノ粒子の粒径の大きさと分布の適正化を図ることができるとともに、高融点金属を含有させることによって、特に、焼結温度が高い金属複合ニッケルナノ粒子を得ることができる。焼結温度が高い金属複合ニッケルナノ粒子は、積層セラミックコンデンサの内部電極の材料として好適に用いることができる。なお、本発明において、「焼結温度」とは、ニッケルナノ粒子を加熱したとき、粒子の間に結合が生じて緻密な固体に変化するときの温度を意味し、融点以下の温度である。ここで、厳密な焼結温度を計測することは困難であるため、後記実施例では、ニッケルナノ粒子をプレス成型して得られる成型体を窒素ガス(水素ガス2%含有)の雰囲気下で熱機械分析装置(TMA)により測定されるナノ粒子の熱膨張収縮の挙動によって、焼結温度の向上を推測している。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】各酢酸ニッケル錯体の構造を示す図であり、(a)は二座配位、(b)は単座配位、(c)は外圏にカルボン酸イオンが存在した状態を、それぞれ示す。
【図2】実施例1で得られたニッケル/タングステン複合ナノ粒子のSEM写真を示す図である。
【図3】実施例1で得られたニッケル/タングステン複合ナノ粒子のXRDを示す図である。
【図4】実施例1で得られたニッケル/タングステン複合ナノ粒子の熱膨張収縮の挙動を示す図である。
【図5A】実施例1で得られたニッケル/タングステン複合ナノ粒子におけるニッケル分布のTEM−EDSマッピング像を示す図である。
【図5B】実施例1で得られたニッケル/タングステン複合ナノ粒子におけるタングステン分布のTEM−EDSマッピング像を示す図である。
【図6】実施例2で得られたニッケル/タングステン複合ナノ粒子のSEM写真を示す図である。
【図7】実施例2で得られたニッケル/タングステン複合ナノ粒子のXRDを示す図である。
【図8】実施例2で得られたニッケル/タングステン複合ナノ粒子の熱膨張収縮の挙動を示す図である。
【図9】実施例3で得られたニッケル/タングステン複合ナノ粒子のSEM写真を示す図である。
【図10】比較例1で得られたニッケルナノ粒子のSEM写真を示す図である。
【図11】比較例1で得られたニッケルナノ粒子の熱膨張収縮の挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0024】
本実施の形態に係る金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、ニッケル以上の融点を持つ高融点金属(単に、「高融点金属」と記すことがある)を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法である。この方法は、カルボン酸ニッケルおよび1級アミンを含有する混合物を加熱して錯化反応液を得る工程(錯化反応液形成工程)と、錯化反応液にマイクロ波を照射して200℃以上の温度で加熱することにより、高融点金属を含有する金属複合ニッケルナノ粒子を生成させる工程(金属複合ニッケルナノ粒子生成工程)と、を備えている。そして、遅くともマイクロ波を照射する前の、混合物を調製する段階、混合物の段階、又は錯化反応液の段階のいずれかにおいて、高融点金属の塩(以下、「高融点金属塩」と記すことがある)を配合した後、マイクロ波による加熱を行うものである。
【0025】
<高融点金属塩>
まず、本実施の形態のニッケルナノ粒子の製造方法で使用する高融点金属塩について説明する。高融点金属とは、ニッケルの融点(1455℃)以上の融点を有する金属であり、例えばタングステン、モリブデン、バナジウム、ニオブ等の金属を挙げることができる。このような高融点金属の塩として、例えば、タングステン塩、モリブデン塩、バナジウム塩、ニオブ塩等を用いることができるが、そのなかでも、タングステン塩またはモリブデン塩を好適に用いることができ、さらにタングステン塩がより好適である。高融点金属塩としてハロゲン化物を用いることが好適であり、ハロゲン化物のなかでも塩化物を用いることがより好適である。これらの高融点金属塩はいずれか1種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0026】
高融点金属塩は、マイクロ波を照射する前であれば、カルボン酸ニッケルおよび1級アミンとともに配合して混合物を形成してもよく、高融点金属塩を配合せずに調製した混合物に添加してもよく、あるいは、高融点金属塩を配合せずに調製した混合物を加熱して生成した錯化反応液に対して、例えばマイクロ波による加熱を行う直前に添加してもよい。高融点金属塩がタングステン塩の場合、タングステン塩の反応液中での溶解性及びニッケルとの複合化反応における反応性を向上させるという理由から、カルボン酸ニッケルおよび1級アミンとともに加えて混合物を形成することが好適であり、このようにすることによってタングステン塩は1級アミンとのアミン錯体を容易に形成できると考えられる。高融点金属塩をカルボン酸ニッケルとともに用いることで、得られるニッケルナノ粒子が金属複合粒子となり、高融点金属塩を用いないときに比べて焼結温度を上昇させることができる。
【0027】
金属複合ニッケルナノ粒子における高融点金属の含有量は、使用する高融点金属塩の量によって制御することができる。高融点金属塩は、金属換算で、カルボン酸ニッケル中に含まれるニッケル100質量部に対して、高融点金属として1〜30質量部の比率で配合することが好適である。高融点金属塩の配合量が、金属換算で、カルボン酸ニッケル中のニッケル100質量部に対して1質量部を下回ると焼結温度を向上させる効果が十分に得られない場合があり、一方、30質量部を越えるとコスト的に好ましくなく、また、金属複合ニッケルナノ粒子の粒径が顕著に不均一となることや、金属複合ニッケルナノ粒子の焼結時における熱膨張が大きくなることによって、例えば積層セラミックコンデンサに適用する場合に層間剥離やクラックを生じるおそれがある。
【0028】
<錯化反応液形成工程>
錯化反応液形成工程は、以下のA〜Dのいずれかの方法により錯化反応液を調整できる。
A)高融点金属塩を、カルボン酸ニッケルおよび1級アミンとともに混合して混合物を調製し、加熱して錯化反応液を得る方法:
B)高融点金属塩を配合せずに、カルボン酸ニッケルおよび1級アミンを混合して混合物を調製し、加熱して錯化反応液を得る方法:
C)高融点金属塩を配合せずに、カルボン酸ニッケルおよび1級アミンを混合して混合物を調製し、この混合物に高融点金属塩を配合した後、加熱して錯化反応液を得る方法:
D)カルボン酸ニッケル及び1級アミンの混合物、並びに、高融点金属塩及び1級アミンの混合物を、それぞれ別々に調製して加熱し、得られるそれぞれの錯化反応液を混合する方法。
【0029】
上記方法A〜Dの中でも、カルボン酸ニッケルと高融点金属の塩と1級アミンとの錯形成反応を、ワンポットで行うことが可能であり、ニッケルと高融点金属の錯体を高い収率で得ることができる方法Aが最も好ましい。上記方法Bの場合は、カルボン酸ニッケルおよび1級アミンによって錯化反応液を調製するため、後で錯化反応液に高融点金属塩の添加を行う必要がある。方法Cの場合は、加熱前の混合物に高融点金属塩の添加を行うものであり、高融点金属による錯体形成が可能な点で、方法Bより方法Cの方が好ましい。方法Dはニッケル錯体を含む錯化反応液と高融点金属錯体を含む錯化反応液を別々に調製する点で、錯体を高い収率で得ることができる。ここで、錯化反応液とは、カルボン酸ニッケルと高融点金属の塩と1級アミンの反応によって生成する反応生成液(反応生成物)をいう。
【0030】
(カルボン酸ニッケル)
カルボン酸ニッケル(カルボン酸のニッケル塩)は、カルボン酸の種類を限定するものではなく、例えば、カルボキシ基が1つのモノカルボン酸であってもよく、また、カルボキシ基が2つ以上のカルボン酸であってもよい。また、非環式カルボン酸であってもよく、環式カルボン酸であってもよい。このようなカルボン酸ニッケルとして、非環式モノカルボン酸ニッケルを好適に用いることができ、非環式モノカルボン酸ニッケルのなかでも、酢酸ニッケルを用いることがより好ましい。非環式モノカルボン酸ニッケルを用いることによって、得られるニッケルナノ粒子の形状のばらつきがより抑制され、均一な形状に形成されやすくなる。カルボン酸ニッケルは、無水物であってもよく、また水和物であってもよい。なお、カルボン酸ニッケルに代えて、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等の無機塩を用いることも考えられるが、無機塩の場合、解離(分解)が高温であるため、還元過程で高温での加熱が必要であり好ましくない。また、Ni(acac)(β−ジケトナト錯体)、ステアリン酸ニッケル等の有機配位子により構成されるニッケル塩を用いることも考えられるが、これらのニッケル塩を用いると、原料コストが高くなり好ましくない。
【0031】
(1級アミン)
(1級アミン)
1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成することができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)に対する還元能を効果的に発揮する。一方、2級アミンは立体障害が大きいため、ニッケル錯体の良好な形成を阻害するおそれがあり、3級アミンはニッケルイオンの還元能を有しないため、いずれも使用できない。
【0032】
1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成できるものであれば、特に限定するものではなく、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。常温で液体の1級アミンは、ニッケル錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級アミンであっても、100℃以上の加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0033】
1級アミンは、分散剤としても機能し、ニッケル錯体を反応液中に良好に分散させることができるため、錯体形成後にニッケル錯体を加熱分解して金属複合ニッケルナノ粒子を得る際の粒子同士の凝集を抑えることができる。1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、反応液におけるニッケル錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって生成するナノ粒子の粒径を制御することができ、特に平均粒径が10〜150nmの金属複合ニッケルナノ粒子を製造する場合において有利である。金属複合ニッケルナノ粒子の粒径を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6〜20程度のものから選択して用いることが好適である。炭素数が多いほど得られるナノ粒子の粒径が小さくなる。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。例えばオレイルアミンは、ナノ粒子生成過程に於ける温度条件下において液体状態として存在するため均一溶液での反応を効率的に進行できる。
【0034】
1級アミンは、ナノ粒子の生成時に表面修飾剤として機能するため、1級アミンの除去後においても二次凝集を抑制できる。また、1級アミンは、還元反応後の生成したナノ粒子の固体成分と溶剤又は未反応の1級アミン等を分離する洗浄工程における処理操作の容易性の観点からも好ましい。更に、1級アミンは、ニッケル錯体を還元してニッケルナノ粒子を得るときの反応制御の容易性の観点からは還元温度より沸点が高いものが好ましい。すなわち、脂肪族1級アミンは、沸点が180℃以上のものが好ましく、200℃以上のものがより好ましい。また、脂肪族1級アミンは、炭素数が9以上であることが好ましい。ここで、例えば炭素数が9である脂肪族アミンのC21N(ノニルアミン)の沸点は201℃である。1級アミンの量は、カルボン酸ニッケル中に含まれる金属換算のニッケル1molに対して2mol以上用いることが好ましく、2.2mol以上用いることがより好ましく、4mol以上用いることが望ましい。1級アミンの量が2mol未満では、得られるニッケルナノ粒子の粒子径の制御が困難となり、粒子径がばらつきやすくなる。また、1級アミンの量の上限は特にはないが、例えば生産性の観点からは、カルボン酸ニッケル中に含まれる金属換算のニッケル1molに対して20mol以下程度とすることが好ましい。
【0035】
2価のニッケルイオンは配位子置換活性種として知られており、形成する錯体の配位子は温度、濃度によって容易に配位子交換により変化する可能性がある。例えばカルボン酸ニッケル、高融点金属塩及び1級アミンの混合物を加熱して錯化反応液を得る工程(錯化反応液形成工程)において、用いるアミンの炭素鎖長等の立体障害を考慮すると、例えば、図1に示すように、カルボン酸イオン(RCOO、RCOO)が二座配位(a)又は単座配位(b)いずれかで配位する可能性があり、更にアミンの濃度が大過剰の場合は外圏にカルボン酸イオンが存在する構造(c)をとる可能性がある。反応温度(還元温度)において均一溶液とするには少なくともA、B、C、D、E、Fの配位子のうち少なくとも一箇所は1級アミンが配位している必要がある。その状態をとるには、1級アミンが過剰に反応溶液内に存在していることが好ましく、少なくともニッケルイオン1molに対し2mol以上存在していることが好ましく、2.2mol以上存在していることがより好ましく、4mol以上存在していることが望ましい。
【0036】
高融点金属のイオンについてもニッケルイオンと類似の挙動をとり、錯体を形成するものと考えられる。このため、1級アミンは高融点金属のイオンに対しても過剰量存在することが好ましい。
【0037】
この錯形成反応は室温においても進行させることができるが、反応を確実かつより効率的に行うために、100℃以上の温度で加熱を行う。この加熱は、カルボン酸ニッケルとして、例えば酢酸ニッケル4水和物のようなカルボン酸ニッケルの水和物を用いた場合に特に有利である。すなわち、酢酸ニッケル4水和物を用いた場合、室温では2個の配位水と2座配位子である2個の酢酸イオン、外圏に2つの水分子が存在した錯体構造をとっており、この2つの配位水と1級アミンが配位子置換により効率よく錯形成させるには、100℃より高い温度で加熱することでこの錯体配位子としての水分子を解離させることが望ましい。従って、加熱温度は、好ましくは100℃を超える温度とし、より好ましくは105℃以上の温度とすることで、カルボン酸ニッケルに配位した配位水と1級アミンとの配位子置換反応が効率よく行われ、この錯体配位子としての水分子を解離させることができ、更にその水を系外に出すことができるので効率よく錯体を形成させることができる。また、加熱温度は、後に続くニッケル錯体(又はニッケルイオン)のマイクロ波照射による加熱還元の過程と確実に分離し、前記の錯形成反応を完結させるという観点から、好ましくは175℃以下、より好ましくは160℃以下とすることができる。したがって、加熱温度は105〜175℃が好ましく、125〜160℃がより好ましい。
【0038】
加熱時間は、加熱温度や、各原料の含有量に応じて適宜決定することができるが、錯形成反応を確実に完結させるという観点から、15分以上とすることが好ましい。加熱時間の上限は特にないが、長時間加熱することは、エネルギー消費及び工程時間を節約する観点から無駄である。なお、この加熱の方法は、特に制限されず、例えばオイルバスなどの熱媒体による加熱であっても、マイクロ波照射による加熱であってもよい。
【0039】
カルボン酸ニッケルと1級アミンとの錯形成反応(高融点金属塩も同様)は、カルボン酸ニッケルと1級アミンを混合して得られる溶液を加熱したときに、溶液の色の変化によって確認することができる。また、この錯形成反応は、例えば紫外・可視吸収スペクトル測定装置を用いて、300nm〜750nmの波長領域において観測される吸収スペクトルの吸収極大の波長を測定し、原料の極大吸収波長(例えば酢酸ニッケル四水和物ではその極大吸収波長は710nmである。)に対する反応液のシフトを観測することによって確認することができる。
【0040】
カルボン酸ニッケル(及び高融点金属塩)と1級アミンとの錯形成が行われた後、得られる反応液を、次に説明するように、マイクロ波照射によって加熱することにより、ニッケル錯体のニッケルイオンが還元され、ニッケルイオンに配位しているカルボン酸イオンが同時に分解し、最終的に酸化数が0価のニッケルを含有する金属複合ニッケルナノ粒子が生成する。一般にカルボン酸ニッケルは水を溶媒とする以外の条件では難溶性であり、マイクロ波照射による加熱還元反応の前段階として、カルボン酸ニッケル及び高融点金属塩を含む溶液は均一反応溶液とする必要がある。これに対して、本実施の形態で使用される1級アミンは、使用温度条件で液体であり、かつそれがニッケルイオン(及び高融点金属イオン)に配位することで液化し、均一反応溶液を形成すると考えられる。
【0041】
(有機溶媒)
均一溶液での反応をより効率的に進行させるために、1級アミンとは別の有機溶媒を新たに添加してもよい。有機溶媒を用いる場合、有機溶媒をカルボン酸ニッケル(及び高融点金属塩)及び1級アミンと同時に混合してもよいが、カルボン酸ニッケル(及び高融点金属塩)及び1級アミンをまず混合し錯形成した後に有機溶媒を加えると、1級アミンが効率的にニッケル原子に配位するので、より好ましい。使用できる有機溶媒としては、1級アミンと、ニッケルイオン(及び高融点金属イオン)との錯形成を阻害しないものであれば、特に限定するものではなく、例えば炭素数4〜30のエーテル系有機溶媒、炭素数7〜30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒、炭素数8〜18のアルコール系有機溶媒等を使用することができる。また、マイクロ波照射による加熱条件下でも使用を可能とする観点から、使用する有機溶媒は、沸点が170℃以上のものを選択することが好ましく、より好ましくは200〜300℃の範囲内にあるものを選択することがよい。このような有機溶媒の具体例としては、例えばテトラエチレングリコール、n−オクチルエーテル等が挙げられる。
【0042】
<金属ニッケル複合ナノ粒子生成工程>
本実施の形態に係る金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、錯化反応液にマイクロ波を照射して200℃以上の温度で加熱することにより、前記高融点金属を含有する金属複合ニッケルナノ粒子を生成させる。なお、上記のとおり、本工程において、例えばマイクロ波で加熱する直前の錯化反応液に高融点金属塩を配合することもできる。本工程では、マイクロ波が反応液内(又は混合液内)に浸透するため、均一加熱が行われ、かつ、エネルギーを媒体に直接与えることができるため、急速加熱を行うことができる。これにより、反応液全体を所望の均一な温度にすることができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元、核生成、核成長各々の過程を溶液全体において同時に生じさせ、粒径分布の狭い単分散な粒子を短時間で容易に製造することができる。この製造過程で、錯化反応液中(又は混合液中)に存在する高融点金属錯体(又は高融点金属イオン)は、ニッケル(0価)と複合化するものと考えられる。粒子中に複合化された高融点金属の存在は、X線回折装置(XRD;X‐ray
diffraction)を用いて同定できる。
【0043】
マイクロ波照射による加熱温度は、得られるナノ粒子の形状のばらつきを抑制するという観点から、200℃以上であり、220℃以上が好ましい。加熱温度が200℃を下回るとニッケル錯体や高融点金属錯体(又は高融点金属イオン)の還元反応が良好に行われないおそれがある。加熱温度の上限は特にないが、処理を能率的に行う観点からは例えば250℃以下程度とすることが好適である。加熱時間は特に限定するものではなく、例えば2〜10分程度とすることができる。なお、マイクロ波の使用波長は、特に限定するものではなく、例えば2.45GHzである。
【0044】
均一な粒径を有したニッケルナノ粒子を生成させるには、錯化反応液形成工程(ニッケル錯体の生成が行われる工程)でニッケル錯体を均一にかつ十分に生成させることと、金属複合ニッケルナノ粒子生成工程(マイクロ波照射によって加熱する工程)でニッケル錯体(又はニッケルイオン)、高融点金属錯体(又は高融点金属イオン)の還元により生成するニッケル(0価)や高融点金属の核の同時発生・成長を行う必要がある。すなわち、錯化反応液形成工程の加熱温度を上記の特定の範囲内で調整し、金属複合ニッケルナノ粒子生成工程の加熱温度よりも確実に低くしておくことで、粒径・形状の整った粒子が生成し易い。例えば、錯化反応液形成工程で加熱温度が高すぎるとニッケル錯体の生成とニッケル(0価)への還元反応が同時に進行し、金属複合ニッケルナノ粒子生成工程での粒子形状の整った粒子の生成が困難となるおそれがある。また、金属複合ニッケルナノ粒子生成工程の加熱温度が低すぎるとニッケル(0価)や高融点金属への還元反応速度が遅くなり、核の発生が少なくなるため粒子が大きくなるだけでなく、ナノ粒子の収率の点からも好ましくはない。
【0045】
マイクロ波照射によって加熱して得られる金属複合ニッケルナノ粒子のスラリー(ナノ粒子スラリー)は、例えば、静置分離し、上澄み液を取り除いた後、適当な溶媒を用いて洗浄し、乾燥することで、金属複合ニッケルナノ粒子が得られる。
【0046】
金属複合ニッケルナノ粒子生成工程においては、必要に応じ、錯化反応液に前述の有機溶媒を加えてもよい。なお、前記したように、錯形成反応に使用する1級アミンを有機溶媒としてそのまま用いることが好ましい。
【0047】
本実施の形態の金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、上記工程以外に任意の工程を含むことができる。また、例えば後述するように表面修飾剤の添加などの任意の処理を行うことができる。また、本実施の形態の金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、ニッケルナノ粒子を生成させる金属複合ニッケルナノ粒子生成工程においてマイクロ波加熱による還元方法を採用するため、例えば特許文献1のように多量の還元剤の使用は不要である。ただし、発明の効果を損なわない範囲で、錯形成反応液中に還元作用を有する物質が存在することを妨げるものではない。
【0048】
(表面修飾剤の添加)
本実施の形態に係る金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法において、金属複合ニッケルナノ粒子の粒径を制御すること、且つ、金属複合ニッケルナノ粒子の分散性を向上させることを目的として表面修飾剤を添加することができる。例えばポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド等の高分子樹脂、ミリスチン酸、オレイン酸等の長鎖カルボン酸又はカルボン酸塩等を添加することができる。但し、得られる金属複合ニッケルナノ粒子の表面修飾量が多いと、ニッケル電極用の導電性ペーストに用いる場合、金属複合ニッケルナノ粒子をペーストにして高温で焼成すると充填密度の減少を招き、層間剥離やクラックを生じる可能性があるため、得られるナノ粒子を洗浄した後の表面修飾量は可能な限り少ない方が好ましい。従って、表面修飾剤の添加量は、金属換算のニッケル100質量部に対して0.1以上100質量部以下の範囲内とすることが好ましい。表面修飾剤は、錯化反応液形成工程におけるカルボン酸ニッケル及び1級アミンの混合物の段階で添加してもよく、錯化反応液形成工程で得られる錯化反応液に添加してもよいが、好ましくは、添加タイミングは錯化反応後か、ニッケルナノ粒子の生成後がよい。
【0049】
[金属複合ニッケルナノ粒子]
次に、金属複合ニッケルナノ粒子について説明する。本実施の形態で得られる金属複合ニッケルナノ粒子は、例えば、タングステン、モリブデン、バナジウム、ニオブ等の高融点金属を含有する金属複合ニッケルナノ粒子である。この金属複合ニッケルナノ粒子は、金属換算で、ニッケル100質量部に対し高融点金属を1〜30質量部の範囲内で含有する。この金属複合ニッケルナノ粒子において、高融点金属の割合が過小であると、ナノ粒子の焼結温度を十分に上げることが困難となり、一方、高融点金属の割合が過大であると、ナノ粒子の粒径が顕著に不均一となる。そのため、特に大きな粒径を有する金属複合ニッケルナノ粒子が存在すると、例えば積層セラミックコンデンサに適用する場合に、セラミック誘電体層を突き破り内部電極同士が連結してショートの原因となるおそれがある。
【0050】
金属複合ニッケルナノ粒子の平均粒径は、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極をはじめとする電子部品の電極材料等の用途で使用する場合、好ましくは10nm〜150nmの範囲内、より好ましくは10nm〜120nmの範囲内である。ここで、平均粒径は、SEM(走査電子顕微鏡)により粉末の写真を撮影して、そのなかから無作為に200個を抽出したものの面積平均粒径である。
【0051】
また、粒度分布がシャープであることは、より好ましい態様であるから、金属複合ニッケルナノ粒子のCv値(変動係数)は0.4以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下である。ここで、Cv値は、相対的な散らばりを表す指標であり、この値が小さいほど粒度分布がシャープであることを意味する。なお、Cv値は標準偏差を平均粒径で除することにより算出する。
【0052】
本実施の形態で得られる金属複合ニッケルナノ粒子の形状は、例えば球状、擬球状、長球状、立方体様、切頭四面体様、双角錘状、正八面体様、正十面体様、正二十面体様等の種々の形状であってよいが、例えばナノ粒子を積層セラミックコンデンサの内部電極用途に使用した場合の充填密度の向上という観点から、球状又は擬球状が好ましく、より好ましくは球状がよい。ここで、ナノ粒子の形状は、走査電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認できる。このような金属複合ニッケルナノ粒子は、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極材料をはじめ、電子部品の電極等の形成に利用できる。
【0053】
以上説明したように、本実施の形態に係る金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法により、平均粒径が好ましくは10〜150nm程度でかつ均一であって、また、特に焼結温度が従来のものよりも高いニッケルナノ粒子(金属複合ニッケルナノ粒子)を得ることができる。
【実施例】
【0054】
実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。金属複合ニッケルナノ粒子の粒径は、SEM(走査電子顕微鏡)によりニッケル粉末の写真を撮影して、そのなかから無作為に200個を抽出し、その平均粒径と標準偏差を求めた。Cv値(変動係数)は、(標準偏差)÷(平均粒径)によって算出した。尚、Cv値が小さいほど、粒子径がより均一であることを示す。また、ナノ粒子の熱膨張収縮の挙動は、熱機械分析装置(TMA)(リガク社製、商品名;Thermo plus EVO−TMA8310)を用いて確認した。
【0055】
(実施例1)
オレイルアミン128.4gに酢酸ニッケル四水和物20.18gと塩化タングステン0.51gを加え、窒素フロー下、120℃で20分加熱することによって錯化反応液を得た。次いで、その錯化反応液に1−オクタノールを98.4g加え、マイクロ波を用いて210℃で5分加熱することによってニッケル/タングステン複合ナノ粒子スラリーを得た。
【0056】
ニッケル/タングステン複合ナノ粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、メタノールを用いて3回洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケル/タングステン複合ナノ粒子を得た。
【0057】
得られたニッケル/タングステン複合ナノ粒子のSEM(Scanning Electron Microscope、走査電子顕微鏡)写真を図2に示した。図2より、平均粒径75nmの球形の均一な粒子が形成されていることがわかる。また、ニッケル/タングステン複合ナノ粒子のXRDの測定結果を図3に示した。図3よりニッケルのfcc(面心立方構造)の他にタングステンのfccに由来するピークを確認することができた。さらに、TMAによる測定結果を図4に示した。図4より、5%の熱収縮温度が約330℃であることが確認された。また、TEM―EDS透過型電子顕微鏡によるマッピング像の写真を図5A及び図5Bに示した。図5Aの写真はニッケルの分布を示し、図5Bの写真はタングステンの分布を示す。図5A及び図5Bよりニッケルの分布に対して均一にタングステンが分布していることが確認された。
【0058】
(実施例2)
オレイルアミン128.4gに酢酸ニッケル四水和物20.18gと塩化タングステン1.03gを加え、窒素フロー下、120℃で20分加熱することによって錯化反応液を得た。次いで、その錯化反応液に1−オクタノールを98.4g加え、マイクロ波を用いて210℃で5分加熱することによって、ニッケル/タングステン複合ナノ粒子スラリーを得た。
【0059】
得られたニッケル/タングステン複合ナノ粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、メタノールを用いて3回洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケル/タングステン複合ナノ粒子を得た。
【0060】
得られたニッケル/タングステン複合ナノ粒子のSEM写真を図6に示した。図6より、平均粒径90nmの球形の均一な粒子が形成されていることが確認された。また、XRDの測定結果を図7に示した。図7より、ニッケルのfcc(面心立方構造)の他にタングステンのfccに由来するピークを確認することができた。さらに、TMAによる測定結果を図8に示した。図8より、5%の熱収縮温度が約430℃であることが確認された。
【0061】
(実施例3)
オレイルアミン128.4gに酢酸ニッケル四水和物20.18gと塩化タングステン2.10gを加え、窒素フロー下、120℃で20分加熱することによって錯化反応液を得た。次いで、その錯化反応液に1−オクタノールを98.4g加え、マイクロ波を用いて210℃で5分加熱することによって、ニッケル/タングステン複合ナノ粒子スラリーを得た。
【0062】
得られたニッケル/タングステン複合ナノ粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、メタノールを用いて3回洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケル/タングステン複合ナノ粒子を得た。
【0063】
得られたニッケル/タングステン複合ナノ粒子のSEM写真を図9に示した。図9より、平均粒径70nmの球形の均一な粒子が形成されていることが確認された。また、TMAによる測定結果より、5%の熱収縮温度が約680℃であることが確認された。
【0064】
(比較例1)
オレイルアミン128.4gに酢酸ニッケル四水和物20.02gを加え、窒素フロー下、120℃で20分加熱することによって錯化反応液を得た。次いで、その錯化反応液に1−オクタノールを96.4g加え、マイクロ波を用いて210℃で5分加熱することによって、ニッケルナノ粒子スラリーを得た。
【0065】
ニッケルナノ粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、メタノールを用いて3回洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケルナノ粒子を得た。得られたニッケルナノ粒子のSEM(Scanning Electron Microscope、走査電子顕微鏡)写真を図10に示した。擬球形(ジャガイモ状)の51nmの均一な粒子が形成されていることが確認された。また、TMAによる測定結果を図11に示した。図11より、5%の熱収縮温度が約290℃であることが確認された。この温度は、実施例1よりも約80℃低い。
【0066】
(実施例4)
オレイルアミン128.4gに酢酸ニッケル二水和物20.2gを加え、窒素フロー下、120℃で20分加熱することによって錯化反応液を得た。次に、錯化反応液に塩化モリブデンを0.75g(ニッケルに対してモリブデンが5質量%)加え、さらに1−オクタノールを200.4g加えた。その後、マイクロ波を用いて210℃で5分加熱することによって、ニッケル/モリブデン複合ナノ粒子スラリーを得た。
【0067】
得られたニッケル/モリブデン複合ナノ粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、メタノールを用いて3回洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケル/モリブデン複合ナノ粒子を得た。得られたニッケル/モリブデン複合ナノ粒子は、平均粒径80nmの球形であった。
【0068】
実施例1〜4及び比較例1の結果を表1に示す。表1より、仕込みW/Ni比が高くなるほど5%熱収縮開始温度が高くなることがわかる。
【0069】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル以上の融点を持つ高融点金属を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法であって、
カルボン酸ニッケルおよび1級アミンを含有する混合物を加熱して錯化反応液を得る工程と、
前記錯化反応液にマイクロ波を照射して200℃以上の温度で加熱することにより、前記高融点金属を含有する金属複合ニッケルナノ粒子を生成させる工程と、
を備え、
遅くともマイクロ波を照射する前の、前記混合物を調製する段階、前記混合物の段階、又は前記錯化反応液の段階のいずれかにおいて、前記高融点金属の塩を配合した後、前記マイクロ波による加熱を行うことを特徴とする金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記錯化反応液を得る工程において、前記高融点金属の塩を、前記カルボン酸ニッケルおよび1級アミンとともに混合して前記混合物を調製する請求項1記載の金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記カルボン酸ニッケルが、非環式モノカルボン酸ニッケルである請求項1又は2に記載の金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記非環式モノカルボン酸ニッケルが、酢酸ニッケルである請求項3記載の金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記1級アミンが脂肪族アミンである請求項1から4のいずれか1項に記載の金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記脂肪族アミンがオレイルアミンである請求項5記載の金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記1級アミンを、ニッケル1molに対してアミン2mol以上の比率で配合する請求項1から6のいずれか1項に記載の金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記高融点金属の塩がタングステン塩、モリブデン塩、バナジウム塩およびニオブ塩からなる群から選ばれる1つまたは2以上の混合物である請求項1から7のいずれか1項に記載の金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記高融点金属の塩がタングステン塩およびモリブデン塩のうちのいずれか1つまたは2つの混合物であることを特徴とする請求項8記載の金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記高融点金属の塩を、金属換算で、前記カルボン酸ニッケル中のニッケル100質量部に対して高融点金属として1〜30質量部の範囲内で配合することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法。


【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図2】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−214144(P2011−214144A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56231(P2011−56231)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】