説明

金属触媒及びその製造方法

【課題】本発明の目的は、担体表面に、触媒としての効率の高い状態、すなわち粒径1nm以下の微小な状態、かつ担持率の高い状態で、触媒金属を担持させる方法及びその方法で製造した金属触媒を提供することである。
【解決手段】触媒の担体と触媒金属粒子が相互作用する温度以上で触媒金属原料を熱分解して触媒金属粒子を担体表面に析出させ、担体表面と触媒金属粒子との相互作用によって担体表面に生成したくぼみに触媒金属粒子が入り込むことにより、粒成長が妨げられることを特徴とする。これにより、金属触媒の粒成長を避けることができ、活性、担持率ともに高い触媒を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属触媒の製造方法およびこの方法によって得られる金属触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池に用いられる金属触媒電極に関して、研究開発が進められているが、主として用いられる白金触媒は、価格が高いこと及び希少資源であることの問題をかかえている。このため、貴金属触媒の使用量を極力少なくする手法の開発や、鉄、ニッケルといった安価な遷移金属の触媒の開発に期待が持たれている。
【0003】
白金の使用量を少なくする手法として、黒鉛の層間に銅、ニッケルの塩化物をインターカレートし、高温で還元して銅、ニッケルの金属微粒子を層間に埋設させた担体を用いて、白金の触媒活性を高める方法(特許文献1)や、メソ位に置換基を持たないコバルトポルフィリンをカーボンに担持させ、白金の触媒活性を高めた触媒を用いたカソード電極(特許文献2)が知られている。
【0004】
一般的な金属触媒の製造方法としては、主として、触媒となる金属の塩化物等の金属化合物と担体となるカーボン等との混合液を作り、ろ過、乾燥、加熱して担体表面に金属を析出させる方法が取られている。また、触媒活性を高めるには、触媒金属の粒径を小さくし、表面積を大きくする、あるいは触媒金属の担持量を増やすことが必要となる。
【0005】
粒径の小さい触媒金属を担持する方法として、特許文献3ではコロイド吸着法によりカーボンに触媒金属粒子を担持させるために保護剤を使用するが、保護剤を熱分解して除去すると金属粒子が凝集して粒径が増大するため、還元剤を添加して保護剤を分解する方法を開示している。特許文献4では、白金等の金属化合物を二酸化炭素の超臨界流体に溶解して加熱処理し、カーボンナノウォールに金属粒子を担持する方法を開示している。また特許文献5では、カーボンナノホーンと金属塩溶液と還元剤を混合、乾燥し、低温で還元処理することでカーボンナノホーンの表面に金属粒子を担持する方法を開示している。
【特許文献1】特開2006−73288号公報
【特許文献2】特開2006−59578号公報
【特許文献3】特開2006−210314号公報
【特許文献4】特開2006−273613号公報
【特許文献5】特許第3826867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
触媒金属の粒径を小さくするためには、核形成の数を増すことが必要となるが、そのために触媒金属のカーボンに対する混合比を増すと、既存の方法では、触媒金属の粒径が大きくなり、触媒としての活性が悪くなる。これらの問題点は、析出した触媒金属がカーボン担体表面を自由に動き回り、互いに凝集して粒成長するために生じる。
【0007】
触媒金属の粒径を小さくするための上記特許文献の方法において、生成された金属粒子の粒径は、特許文献3では実施例1、2とも平均粒径2.5nm、特許文献4では実施例で粒径2.5nm前後、特許文献5では実施例で平均粒径1〜2nmと、いずれも1nmより小さくすることは達成できていない。
【0008】
本発明の目的は、担体表面に、触媒としての効率の高い状態、すなわち粒径1nm以下の微小な状態、かつ担持率の高い状態で、触媒金属を担持させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの視点に係る金属触媒製造方法は、触媒の担体と触媒金属粒子が相互作用する温度以上で触媒金属原料を熱分解して触媒金属粒子を担体表面に析出させ、担体表面と触媒金属粒子との相互作用によって担体表面に生成したくぼみに触媒金属粒子が入り込むことにより、粒成長が妨げられることを特徴とする。
【0010】
本発明の他の視点に係る金属触媒製造方法は、触媒の担体と触媒金属粒子が相互作用する温度以上で触媒金属原料を熱分解して触媒金属粒子を担体表面に析出させ、担体表面に粒径1nm以下の触媒金属粒子が分散して分布することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る金属触媒製造方法において、担体としてカーボン又は二酸化チタンを用いることができる。
【0012】
本発明に係る金属触媒製造方法において、触媒金属原料を熱分解し、触媒金属粒子を析出させる温度が600℃以上の高温であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る金属触媒製造方法において、触媒金属原料が、分解温度600℃以上の金属化合物であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る金属触媒製造方法において、触媒金属原料が、環状構造を持つ有機化合物の金属錯体であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る金属触媒製造方法において、触媒金属原料が、金属フタロシアニン類及び金属ポルフィリン類のうちのいずれか1以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の別の視点は、触媒の担体と触媒金属粒子が相互作用する温度以上で触媒金属原料を熱分解して触媒金属粒子を担体表面に析出させ、担体表面に粒径1nm以下の触媒金属粒子が分散して分布した構造を有する金属触媒である。
【0017】
本発明に係る金属触媒において、担体としてカーボン又は二酸化チタンを用いることができる。
【0018】
本発明に係る金属触媒において、触媒金属原料を熱分解し、触媒金属粒子を析出させる温度が600℃以上の高温であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る金属触媒において、触媒金属原料が、分解温度600℃以上の金属化合物であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る金属触媒において、触媒金属原料が、環状構造を持つ有機化合物の金属錯体であることが好ましい。
【0021】
本発明に係る金属触媒において、触媒金属原料が、金属フタロシアニン類及び金属ポルフィリン類のうちのいずれか1以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、担体表面に触媒金属を、触媒としての活性の高い状態、すなわち粒径1nm以下の微小な状態、かつ担持率の高い状態で、担持させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明による金属触媒の製造方法においては、環状構造を持つ有機化合物の金属錯体を触媒金属原料とし、析出した金属粒子(原子あるいはクラスター)が、担体表面で相互作用する温度で触媒金属原料を熱分解する。例えば、担体がカーボンであれば、600℃以上であればよい。なお、触媒金属原料の熱分解温度もこれと同程度以上であることが好ましい。それより低温で分解して触媒金属粒子が析出すると、担体と相互作用する前に金属粒子同士が凝集して粒径が増大する可能性があるからである。ただしあまり高温に過ぎても触媒金属原料が飛散し、又は担体と過度に相互作用する可能性がある。カーボン担体では600℃〜800℃で良好な結果が得られた。
【0024】
上記熱分解によって、担体表面で析出した金属粒子(原子あるいはクラスター)が、担体表面で担体と相互作用し、くぼみを形成して入り込み、担体表面を自由に動き回れない状態を作り、析出した触媒金属の粒成長を防ぐ。これにより触媒活性が高く、担持率の高い金属触媒を製造することができる。
【0025】
本発明の金属触媒の製造方法においては、始めに、触媒金属原料の溶液を作り、担体(カーボン等)粉末と混ぜて十分攪拌し、ペースト状にする。次に、このペーストを水に分散させることにより触媒金属原料である錯体を担体(カーボン等)上に析出させる。ろ過後、純水で洗浄・乾燥後、窒素雰囲気下で加熱し、金属錯体を分解することにより、粒径1nm以下の金属微粒子が担体(カーボン等)の表面に担持された触媒を得る。
【実施例】
【0026】
次に、本発明の実施例について説明する。始めに、鉄フタロシアニン0.5グラムをピリジン40ミリリットルに溶かし、カーボン粉末0.5グラムと混ぜて12時間攪拌し、ペースト状にした。次に、このペーストを1リットルの水に分散させた。鉄フタロシアニンは非水溶性のためカーボン上に析出した。ろ過後、純水で洗浄し、70℃で乾燥後、窒素雰囲気下で600℃〜800℃の範囲内で温度条件を変えて各2時間加熱し、フタロシアニンを分解した。その結果、いずれの条件においても粒径1nm以下の鉄微粒子が担体であるカーボン表面に担持された鉄触媒を得ることができた。なお、鉄フタロシアニン中の鉄はそのほぼ全量がカーボンに担持された。
【0027】
図1を参照して、この反応過程を説明する。図1は、従来法プロセスと本発明プロセスの両方について、カーボン担体表面付近の断面と表面に析出した金属(化合物)を模式的に表わした図である。従来法プロセス(a)においては、触媒金属原料である金属塩化物等1とカーボンを蒸留水とエタノールの混合液中で還流してカーボン担体2上に析出させる(図1(a)(1)参照)。その後100℃以下の低い温度で加熱すると、金属と塩化物等4に分解する(図1(a)(2)参照)。析出した金属粒子(原子又はクラスター)3は、カーボン担体表面にくぼみを作ることなく、互いに凝集し(図1(a)(2)の実線矢印)、粒成長して大きな触媒金属粒子5を形成する(図1(a)(3)参照)。
【0028】
一方、本発明プロセス(b)によれば、触媒金属原料である金属錯体有機化合物6をカーボン担体上に析出させ(図1(b)(1)参照)、高温処理すると有機化合物8と金属粒子7に分解する(図1(b)(2)参照)。十分高温で析出した金属粒子(原子又はクラスター)7がカーボン担体表面でカーボンと相互作用し、担体表面にくぼみ9を形成して金属粒子(原子又はクラスター)7がそのくぼみに入り込む。この結果、析出した金属粒子(原子又はクラスター)7の粒成長が妨げられ、極めて小さな金属粒子(原子又はクラスター)7がカーボン表面に分散して析出した状態が実現する(図1(b)(3)参照)。
【0029】
図2は、上記実施例で得られたカーボン担体粒子の走査透過電子顕微鏡画像と、画像の白線に沿った部分の断面のエネルギー分散型X線分析スペクトルによる元素分析結果である。画像中央に直径100nm程度のカーボン担体粒子があり、白線に沿ったカーボン担体粒子断面のX線分析スペクトルを2種類の折れ線状の黒線で示している。白線の上部の折れ線Aはカーボンの存在比率を示し、白線の下部の折れ線Bは鉄の存在比率を示す図である。白線の右方向がカーボン担体表面側に相当し、これによると、カーボン担体表面近傍にのみ鉄が分布していることがわかる。
【0030】
図3は、上記実施例で得られた、鉄粒子が表面に付着したカーボン担体粒子の高分解能電子顕微鏡画像を示す。縞状に見えるのはカーボン粒子がグラファイト(黒鉛)構造であることを示している。画像中に分散して見える小さな黒点が鉄粒子であり、これによるとその鉄粒子の粒径は1nm以下であることがわかる。
【0031】
本実施例では鉄フタロシアニンを用いたが、触媒金属と錯体を作る環状有機化合物で、金属と担体とが相互作用する温度以上で分解する化合物の金属錯体であれば、触媒金属原料として適用可能である。具体的には例えば、金属フタロシアニン類、金属ポルフィリン類が比較的入手しやすく、好適に用いられる。ここで金属フタロシアニン類とは、種々の置換基で置換したフタロシアニンを含むフタロシアニンの金属錯体をいう。また金属ポルフィリン類とは、種々の置換基で置換したポルフィリンを含むポルフィリンの金属錯体をいう。またこれらの錯体を形成する金属には鉄以外に、白金、ニッケル、亜鉛、クロム、バナジウム、パラジウム、コバルト、チタン、銀、アンチモン、モリブデン等の多数の金属が存在し、必要な触媒金属及びそれと錯体を形成する環状構造を持つ有機化合物とを適宜組み合わせて選択することが可能である。
【0032】
本発明においては、触媒金属原料である金属錯体有機化合物を複数組み合わせて混合し、原料とすることも可能である。また、担体としてのカーボンはカーボンブラックでも黒鉛でも良く、ナノカーボンでも使用可能である。また、カーボン以外にも二酸化チタン等の金属酸化物が担体として利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、燃料電池などの電極用触媒に適用できる他、種々の金属錯体から原料を選ぶことができるので、さまざまな化学薬品製造に使用できる触媒の製造等、幅広い分野での利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明プロセスと従来法プロセスの金属触媒製造方法における金属の析出過程を示す模式図である。
【図2】本実施例により得られた、カーボン担体粒子の走査透過電子顕微鏡画像とその担体断面のエネルギー分散型X線分析スペクトルによる元素分析結果である。
【図3】本実施例により得られた、鉄粒子が表面に付着したカーボン担体粒子の高分解能電子顕微鏡画像である。
【符号の説明】
【0035】
1 金属塩化物等
2 カーボン担体
3 析出金属粒子(原子又はクラスター)
4 分解した塩化物等
5 触媒金属粒子
6 金属錯体有機化合物
7 析出金属粒子(原子又はクラスター)
8 分解した有機化合物
9 カーボン担体表面のくぼみ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の担体と触媒金属粒子が相互作用する温度以上で触媒金属原料を熱分解して該触媒金属粒子を該担体表面に析出させ、該担体表面と該触媒金属粒子との該相互作用によって該担体表面に生成したくぼみに該触媒金属粒子が入り込むことにより、粒成長が妨げられることを特徴とする、金属触媒製造方法。
【請求項2】
触媒の担体と触媒金属粒子が相互作用する温度以上で触媒金属原料を熱分解して該触媒金属粒子を該担体表面に析出させ、該担体表面に粒径1nm以下の該触媒金属粒子が分散して分布することを特徴とする、金属触媒製造方法。
【請求項3】
前記担体がカーボン又は二酸化チタンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の金属触媒製造方法。
【請求項4】
前記触媒金属原料を熱分解し、前記触媒金属粒子を析出させる温度が600℃以上の高温であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の金属触媒製造方法。
【請求項5】
前記触媒金属原料が、分解温度600℃以上の金属化合物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の金属触媒製造方法。
【請求項6】
前記触媒金属原料が、環状構造を持つ有機化合物の金属錯体であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の金属触媒製造方法。
【請求項7】
前記触媒金属原料が、金属フタロシアニン類及び金属ポルフィリン類のうちのいずれか1以上であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の金属触媒製造方法。
【請求項8】
触媒の担体と触媒金属粒子が相互作用する温度以上で触媒金属原料を熱分解して該触媒金属粒子を該担体表面に析出させ、該担体表面に粒径1nm以下の該触媒金属粒子が分散して分布した構造を有する金属触媒。
【請求項9】
前記担体がカーボン又は二酸化チタンであることを特徴とする、請求項8に記載の金属触媒。
【請求項10】
前記触媒金属原料を熱分解し、前記触媒金属粒子を析出させる温度が600℃以上の高温であることを特徴とする、請求項8又は9に記載の金属触媒。
【請求項11】
前記触媒金属原料が、分解温度600℃以上の金属化合物であることを特徴とする、請求項8〜10のいずれか一に記載の金属触媒。
【請求項12】
前記触媒金属原料が、環状構造を持つ有機化合物の金属錯体であることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか一に記載の金属触媒。
【請求項13】
前記触媒金属原料が、金属フタロシアニン類及び金属ポルフィリン類のうちのいずれか1以上であることを特徴とする、請求項8〜12のいずれか一に記載の金属触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−149280(P2008−149280A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341294(P2006−341294)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】