説明

金属質表面の表現方法。

【課題】 透明基板に金属質面を表現する。
【解決手段】 透明基板1の裏面に、メタリックインキによってヘアーラインパターンを印刷し、次に、該印刷面に、前記インキと同じインキでべた印刷を施す。インキ層が一層と二層とでは、インキ層の厚み大きく異なるため、一層目と2層目が同じインキで印刷されていても、発色に濃淡が生じて、ヘアーラインパターンが認識でる。パターンも、べた印刷もメタリックインキであるから、被印刷面が金属質であるとの印象を強く与えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷手法により金属ではない基板に金属質面を表現する方法、該方法によって金属質面を表現した樹脂シート等の樹脂部材及び該樹脂部材を貼り付けた立体物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種金属質面の表現方法として、黒系インキによって、透明樹脂板の裏面に図1に示す如く、ヘアーラインパターン(20)を印刷し、次に、該印刷面をメタリックインクでべた印刷して、単色のメタリックインキでは表現できない研磨跡の様な金属質面を表現することが実施されている。
黒インキに代えて、スモークインキ(着色透明インキ)を用い、上記同様の手順で金属質表面を表現することも行われている(特許文献1)。
何れの場合でも、ヘアラインパターン(20)、即ち、同方向に延びる引っ掻き傷の様な筋(ヘアライン)(21)が、密なる間隔を存して略平行に並んだ集合体パターンを印刷する場合、該パターン(20)が研磨跡の微細幅溝の影を表現することになる。
従って、黒系インキ或いはスモークインキの色が濃い場合は、微細幅溝が必要以上に強調されて粗切削跡の様な模様になり、研磨跡の感じからはほど遠い。
そこで、実際には、ヘアーラインパターン(20)の印刷は、網掛け印刷を施してパターンをぼやかし、後工程のメタリックインキによるべた印刷を重ねることによって、研磨跡の残る金属質面を表現している。
【0003】
【特許文献1】特許弟3430069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の如く、ヘアーラインパターンを網掛け印刷する場合、網目の選択と、インキの色の濃さの選択が重要であって、それら選択には熟練を要し、幾度がテスト印刷を繰り返す必要がある。又、網掛け印刷では、網目の目詰まりが生じるので、印刷能率が低下して、生産性が悪い問題がある。
【0005】
本発明は、メタリック系インキのパターン層に、同じインキによるべた印刷層を重ねること、即ち、今までは、この手法では、被印刷面において、パターンを表すインキとパターンの間隙に表れるべた印刷のインキとの境界が判別できず、模様として表れることはないと思われていた業界の常識を打破することにより、技術や熟練を要することなく、ヘアーラインパターン等の緻密なパターンによって、重厚感と高級感のある金属質面を表現する方法、該方法によって金属質面を表現した樹脂シート等の樹脂部材及び該樹脂部材を貼り付けた立体物を明らかにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の金属質面の表現方法は、透明或いは半透明の基板(1)の裏面に、メタリック系インキによってヘアーラインパターン(20)等、インキの付着した部分と付着していない部分が密なる間隔を存して混在しているパターン(2)を印刷し、次に、該印刷面に、前記メタリック系インキと同じインキでべた印刷を施して、基板(1)の裏面にメタリック系インキの層を、べた印刷層(3a)の一層の部分と、パターン印刷層(2a)とべた印刷層(3a)が二層に重なっている部分とを混在させる。
【0007】
請求項2の金属質面の表現方法は、透明或いは半透明の基板(1)の裏面に、メタリック系インキによってヘアーラインパターン(20)等、インキの付着した部分と付着していない部分が密なる間隔を存して混在しているパターン(2)を印刷し、次に、該印刷面に、前記メタリック系インキと同種、同系色のインキでべた印刷を施して、基板(1)の裏面にメタリック系インキの層を、べた印刷層(3a)の一層の部分と、パターン印刷層(2a)とべた印刷層(3a)が二層に重なっている部分とを混在させる。
【0008】
請求項3は、請求項2の金属質面の表現方法において、パターン印刷のインキより、べた印刷のインキの明度が低い。
【0009】
請求項4は、請求項1乃至3の何れかに記載の金属質面の表現方法において、メタリック系インキによるべた印刷層(3a)の上から、不透明インキによってべた印刷を施して隠蔽層(4a)を形成する。
【0010】
請求項5の樹脂シート(50)、樹脂板等の樹脂部材(5)は、請求項1乃至4の何れかに記載の金属質の表現方法で金属質面を表現している。
【0011】
請求項6の金属質面を有する立体物は、請求項5に記載の樹脂部材(5)を、立体基材の凹凸面沿って加熱変形させて接着接合している。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の金属質面の表現方法では、基板(1)の裏面にメタリック系インキによるインキ層が、べた印刷層(3a)の一層の部分と、パターン印刷層(2a)とべた印刷層(3a)が二層に重なっている部分とが混在する。
業界の常識では、パターンを印刷したインキと同じインキでパターンの上からべた印刷を施しても、パターンは識別できないとされ、その様な手法で、模様を印刷することは行われなかった。ところが、実際にはインキ層が一層と二層とでは、インキ層の厚みが2倍程度異なるため、発色に濃淡が生じてパターンが認識できたのである。
パターン印刷もべた印刷も、共にメタリック系インキが用いられるから、従来の様にメタリックインキではないインキによるパターンに、メタリックインキをべた塗りした場合に比べて、基板が金属質である印象をより強く与えることができる。
従来の様に、パターン用インキの色の濃さの選択に迷うこともない。
又、従来の様に、網掛け印刷を行う必要はないから、網目の選択に迷ったり、網目の目詰まりによる印刷トラブルもなく、能率的に印刷できる。更に、幾度も試し刷りする必要はない。
【0013】
請求項2の金属質面の表現方法では、パターン印刷に使用したメタリック系インキと同種、同系色のインキでべた印刷を施すため、請求項1と同様の効果を有し、請求項1よりも金属質表面の凹凸が若干強調される。
べた印刷用のインキは、パターン印刷用インキに、若干の顔料、小量の他の色のインキを混ぜることによって簡単に造ることができ、コスト高を招来しない。
【0014】
請求項3の金属質面の表現方法では、パターン印刷のインキより、べた印刷のインキの明度が低いため、パターン印刷が凸、べた印刷が凹であるかの様に表現される。
【0015】
請求項4の金属質面の表現方法では、基板(1)側からの入射光がメタリック系インキ層を透過して隠蔽層(4a)で反射して、基板(1)の外に出射する際に、インキ層が一層か二層かの違いが強調されて金属質表面をより強調できる。
【0016】
請求項5の樹脂シート(50)、樹脂板等の樹脂部材(5)は、請求項1乃至4の何れかに記載の手法によって金属質表面が表わされているから、樹脂部材(5)そのものが金属体であるかの如き重厚感を付与できる。
【0017】
請求項6の金属質面を有する立体物は、請求項5に記載の樹脂部材を、立体基材の凹凸面沿って加熱変形させて接着接合しているから、金属体を機械加工によって所望の立体形状に形成する場合に比べて、金属質表面を有する立体物を安価且つ軽量に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
透明基板にヘアラインパターンの金属質表面を表現する方法
第1工程
図1、図2イに示す如く、樹脂製或いはガラス製の透明基板(1)の裏面に、メタリック系インキを用い、スクリーン印刷によって所望のパターン(2)を印刷する。実施のパターン(2)はヘアーラインパターン(20)である。
本発明において、メタリック系インキとは、微細なアルミ片、マイカ片等、光を反射する微細片を混入したキラキラ感のあるインキを指し、メタリックインキ、ミラーインキ等を挙げることができる。
実施例のメタリック系インキは、メタリックインキで、色はシルバー系である。
第2工程
図2ロに示す如く、上記パターン印刷層(2a)の上から、該パターン印刷層(2a)と同じインキで、シルク印刷によってべた印刷を施す。
ヘアーラインパターン(20)の各ヘアーライン(21)(21)間に、べた印刷のインキが沈み込んで基板(1)に接する。これによって、基板(1)の裏面にインキ層は、べた印刷の一層の部分と、パターン印刷とべた印刷によって二層に重なっている部分とが混在する。
第3工程
図2ハに示す如く、メタリックインキによるべた印刷面の上から、不透明インキによってべた印刷を施して隠蔽層(4a)を形成する。
不透明インキの色は、上記メタリックインキの、金属色の発色・陰影効果の点で白又はグレーが望ましい。
【0019】
上記手法によって印刷した基板(1)は、基板(1)側からの入射光がメタリック層を透過して隠蔽層(4a)で反射して、基板(1)の外に出射する際に、インキ層が一層か二層かの違い、換言すればインキ層の厚みの相違によって、発色に濃淡が生じ、即ち、一層の部分では明るく、二層の部分では暗く表れて、ヘアーラインパターン(20)が認識できる。
ヘアーラインパターン(20)の印刷及びべた印刷は、共にメタリックインキでなされるから、ヘアーラインパターン(20)が、恰も研磨加工跡の如き印象を与え、輝きのある金属質表面を美しく表現できる。
上記手法は、ヘアーラインパターン(20)に限らず、パターン(2)を印刷したインキと同じインキで、パターンの上からべた印刷を施しても、パターンは識別できないとされていた業界の常識に挑戦した結果、成し遂げることのできた活気的な金属質表面の表現方法である。
【0020】
応用例1
半透明の基板に、上記同様の工程によってメタリック系インキの印刷を行う。
半透明基板は、例えば透明基板の表面を梨地に加工して得ることができる。
半透明基板の裏面に、メタリック系インキが、べた印刷の一層の部分と、パターン印刷とべた印刷によって二層に重なっている部分とが混在していると、基板の表側からは、メタリック系インキの輝きが抑えられた金属質表面を表現できる。
【0021】
応用例2
前記工程と同様の工程で印刷を行うが、べた印刷で用いるインキは、ヘアーライン模様等のパターン印刷を行うメタリック系インキと同じインキではないが、同種(メタリック系インキ)、同系色のインキでべた印刷を施す。
前記同様の効果を有し、前記の場合よりも金属質表面の凹凸(陰影)が若干強調される。
べた印刷用のインキは、パターン印刷用インキに、若干の顔料、小量の他の色のインキを混ぜることによって簡単に造ることができ、コスト高を招来しない。
パターン印刷のインキの色が、べた印刷の色より明度が高ければ、パターンが凸、他の部分が凹の様に表現される。
パターン印刷のインキの色が、べた印刷の色より明度が低くければ、パターンが凹、他の部分が凸の様に表現される。
【0022】
応用例3
樹脂シート(50)又は樹脂板に、上記した各印刷手法を施すことによって、金属質面を表現した樹脂シート、樹脂板等の樹脂部材(5)を製造できる。
【0023】
応用例4
上記金属質面を表現した熱可塑性樹脂シートを、該シートの印刷面を内側にして立体基材の凹凸面沿って加熱変形させて該立体基材に接着接合して、金属質面を有する立体物を形成できる。
金属体を機械加工によって所望の立体形状に形成する場合に比べて、金属質表面を表現したまま、遙かに安価且つ軽量な立体物を製造できる。
上記立体物の表面は樹脂、即ち、耐摩耗性に優れた部材で形成されることなり、手指で振れることとの多い製品に実施しても、長期間に亘って金属質表面の輝きを失うことはない。
【0024】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】印刷を施した基板の正面図である。
【図2】イ図は、基板にパターンを印刷した断面図、ロ図は、パターンの上からべた印刷を施した断面図、ハ図は図1のX−X線断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 基板
2 パターン
20 ヘアーラインパターン
2a パターン印刷層
3a べた印刷層
4a 隠蔽層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明或いは半透明の基板(1)の裏面に、メタリック系インキによってヘアーラインパターン(20)等、インキの付着した部分と付着していない部分が密なる間隔を存して混在しているパターン(2)を印刷し、次に、該印刷面に、前記メタリック系インキと同じインキでべた印刷を施して、基板(1)の裏面にメタリック系インキによる層を、べた印刷層(3a)の一層の部分と、パターン印刷層(2a)とべた印刷層(3a)が二層に重なっている部分とを混在させる、金属質面の表現方法。
【請求項2】
透明或いは半透明の基板(1)の裏面に、メタリック系インキによってヘアーラインパターン(20)等、インキの付着した部分と付着していない部分が密なる間隔を存して混在しているパターン(2)を印刷し、次に、該印刷面に、前記メタリック系インキと同種、同系色のインキでべた印刷を施して、基板(1)の裏面にメタリック系インキによる層を、べた印刷層(3a)の一層の部分と、パターン印刷層(2a)とべた印刷層(3a)が二層に重なっている部分とを混在させる、金属質面の表現方法。
【請求項3】
パターン印刷のインキより、べた印刷のインキの明度が少し低い、請求項2に記載の金属質面の表現方法。
【請求項4】
べた印刷層(3a)の上から、不透明インキによって更にべた印刷を施して隠蔽層(4a)を形成する、請求項1乃至3の何れかに記載の金属質表面の表現方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の金属質の表現方法によって金属質面を表現した樹脂シート(50)、樹脂板等の樹脂部材。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂部材(5)を、立体基材の凹凸面沿って加熱変形させて接着接合した金属質面を有する立体物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−327117(P2006−327117A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156630(P2005−156630)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(505199706)三和マーク工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】