金属超微粉の製造方法及びバーナ、並びに金属超微粉製造装置
【課題】幅広い原料を用い、生成する金属粉の粒径を自在にコントロールし、低コストで安全性に優れた金属超微粉の製造方法に用いるバーナを提供する。
【解決手段】有機溶媒に金属化合物を溶解させた液状原料を噴霧する原料噴霧孔11と、前記原料噴霧孔を中心とする円周上に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線と平行に酸素もしくは酸素富化空気を噴出する複数の一次酸素噴出孔22と、前記原料噴霧孔を中心とする円周上に、前記一次酸素噴出孔の外側に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線の延長線上の一点に向かう方向に酸素もしくは酸素富化空気を噴出する複数の二次酸素噴出孔32と、を備えたバーナであって、前記有機溶媒と前記酸素もしくは酸素負荷空気とによって高温還元気流を生成させ、前記金属化合物を還元し、金属超微粉を製造することを特徴とするバーナ。
【解決手段】有機溶媒に金属化合物を溶解させた液状原料を噴霧する原料噴霧孔11と、前記原料噴霧孔を中心とする円周上に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線と平行に酸素もしくは酸素富化空気を噴出する複数の一次酸素噴出孔22と、前記原料噴霧孔を中心とする円周上に、前記一次酸素噴出孔の外側に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線の延長線上の一点に向かう方向に酸素もしくは酸素富化空気を噴出する複数の二次酸素噴出孔32と、を備えたバーナであって、前記有機溶媒と前記酸素もしくは酸素負荷空気とによって高温還元気流を生成させ、前記金属化合物を還元し、金属超微粉を製造することを特徴とするバーナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属超微粉の製造方法及びバーナ、並びに金属超微粉製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯端末等に利用される電子部品の小型化の進行に伴い、これらの部品に利用される金属粉末の小径化のニーズが高まっている。代表的なものとして積層セラミックコンデンサーに利用されるニッケル超微粉がある。これらのニッケル超微粉の製造方法として、蒸気圧の高い塩化物原料をCVD装置内で加熱気化させ、さらに水素を還元剤として装置内に導入し還元することで、1μm以下の金属ニッケル超微粉を製造する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような製造方法は、原料を1000℃程度の比較的低い温度(ニッケルの融点以下)で気化させて還元反応および析出させるために、微粉の製造に適しているとされている。しかし、このような方法は、CVD装置を用いるため、原料の加熱に高価な電気エネルギーを使用すること、さらに還元ガスとして高価な水素を用いるために、高コストな製造方法である。さらに塩化物の水素による還元反応であるため、炉内に有毒な塩素ガスや塩化水素が発生するため、製造装置の腐食やリーク等に十分配慮した高価な設備になるという問題がある。
【0004】
一方、水素含有燃料と酸素含有気体をバーナにより燃焼させ、この気流中に気化させた塩化鉄を導入して高温加水分解を生じさせ鉄微粉を製造する方法がある(例えば、特許文献2参照)。この方法では、還元反応場の雰囲気制御に電気エネルギーを用いず、さらに水素ガスを用いる必要が無いため、比較的安価な製造方法である。しかし、原料として塩化物を用いるため、上述の方法と同様に、発生する塩素ガスや塩化水素等の対策が必要であった。さらに生成した金属粉は、粒径が40〜80μmと幅広く、粒径の制御性に問題があった。また、現在のニーズに合った、1.0μm以下の超微粉の製造には適していないという問題がある。
【0005】
上記従来技術のいずれの方法も、特に微粉の金属粉製造のために蒸気圧の高い塩化物を使用しなくてはならず、原料の形態に制約があった。
【特許文献1】特開平4−365806号公報
【特許文献2】特開昭56−149330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、幅広い原料を用い、生成する金属粉の粒径を自在にコントロールし、低コストで安全性に優れた金属超微粉の製造方法及びバーナ、並びに金属超微粉製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の第一の態様は、有機溶媒に金属化合物を溶解させた液状原料を噴霧する原料噴霧孔と、前記原料噴霧孔を中心とする円周上に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線と平行に酸素もしくは酸素富化空気を噴出する複数の一次酸素噴出孔と、前記原料噴霧孔を中心とする円周上に、前記一次酸素噴出孔の外側に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線の延長線上の一点に向かう方向に、酸素もしく酸素富化空気を噴出する複数の二次酸素噴出孔と、を備えたバーナであって、前記有機溶媒と前記酸素もしくは酸素富化空気によって高温還元気流を生成させ、前記金属化合物を還元し、金属超微粉を製造するバーナである。
前記金属超微粉製造バーナにおいて、液状原料が有機溶媒を含まない場合、前記原料噴霧孔と前記一次酸素噴出孔との間に、前記原料噴霧孔を中心とする円周上に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線と平行に燃料を噴出する複数の燃料噴出孔を更に備えていてもよい。
【0008】
本発明の第二の態様は、上記第一の態様に係るバーナから供給される燃料の部分燃焼により形成した高温還元雰囲気の炉内に、原料の金属元素を含む化合物の溶液を噴霧し、溶液中の金属化合物を加熱・分解・還元することにより、粒径を制御した球状の金属超微粉を生成させることを特徴とする金属超微粉の製造方法である。
前記溶液はバーナから炉内に噴霧してもよい。
前記方法において、前記溶液が有機溶媒であり、前記溶液をバーナの燃料として噴霧し、部分燃焼させることにより高温還元雰囲気を形成し、球状の金属超微粉を生成させることもできる。
【0009】
本発明の第三の態様は、原料を酸化還元雰囲気下で熱処理する炉部と、前記炉部に配置され、燃料と原料とを前記炉部に向けて噴出する、上記第一の態様に係るバーナと、前記バーナに燃料を供給する燃料供給系と、前記バーナに原料を供給する原料供給系と、前記炉部に冷却用ガスを供給する冷却ガス供給系とを備えた金属超微粉製造装置である。
前記金属超微粉製造装置において、前記冷却ガス供給系が、温度制御用のガス供給装置を更に含んでいてもよい。
【0010】
本発明は、高温還元雰囲気を生成できるバーナと炉、炉から発生するガスと粉体とを分離して粉体を回収する装置(例えば、バグフィルター)から構成される。バーナは、炉体に直結され、燃料と燃料を完全燃焼させる量よりも少ない量の支燃性ガスにより炉内に高温還元雰囲気(火炎)を形成する。
【0011】
さらに、本発明では、高温還元雰囲気を生成するためのバーナの燃料として、炭化水素を含んだガス状もしくは液体状の燃料を用い、支燃性ガスとして酸素濃度50%以上の酸素富化空気もしくは純酸素を用いることを特徴としている。炭化水素系の燃料を部分酸化することで、水素と一酸化炭素を生成させ、かつ、支燃性ガスを用いることで、高温強還元雰囲気により、高速で加熱・還元反応を行うことができる。
【0012】
また、原料は、塩化物以外の金属化合物を用いることを特徴としている。これにより、燃焼排ガス中に塩素を含んだ物質が発生することなく金属微粉を製造することが可能となり、装置の安全性を高めることができる。
【0013】
本発明は、電気エネルギーを用いずにバーナにより生成させた高温還元雰囲気により処理を行う方法であり、エネルギーコストの低減ができ、さらにCVD等による電気加熱かつ外熱式の従来方法に比べ、装置の大型化が容易であり、生産性の高い方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生産性が高く、エネルギーコストが低く、さらに多様な原料種に対応して金属微粉を製造できる。また、本発明は、有害な塩素ガスを発生させること無く、安全性に優れた方法である。更に、本発明は、ニッケル以外に、銅、コバルトのような他の金属に関しても適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実験例として、酸化ニッケル粉からニッケル超微粉を生成する方法を、以下に詳細に説明する。
【0016】
図1に本実験例に係る金属超微粉の製造装置の構成を描いた模式図を示す。
本実験例で用いた金属超微粉製造装置100は、原料を搬送するためのフィーダ1、高温還元雰囲気を形成するためのバーナ2及び炉3、粉体と燃焼排ガスとを分離するためのバグフィルタ4、ガスを吸引するためのブロワ5から構成される。炉3は、バーナ2近傍が耐火物で構成され、炉3の中間部から以降は、水冷の炉壁構造とした。また、炉3の耐火物壁に熱電対を設置して、炉内壁温度を計測できるようにした。
【0017】
また、炉3の内壁面には冷却ガス供給配管6が埋設されており、冷却ガス、例えば窒素ガスなどの不活性ガスを炉3の内壁面の接線方向に供給できるようになっている。また、この冷却ガス供給配管6には冷却ガス供給装置7が配設されており、冷却ガス供給配管6に供給する冷却ガスの流量を調節することにより、炉3の壁面付近の温度を測定し、炉内温度を制御できるようになっている。なお、これら冷却ガス供給配管6および冷却ガス供給装置7は省略することもできる。
【0018】
原料である金属の粉体は、フィーダ1で定量的に送り出され、キャリアガスにより搬送されてバーナ2に供給される。本実験例では、キャリアガスとしてバーナ2で燃焼させる燃料ガスを用いた。
【0019】
本実験例で用いたバーナ2の先端部20の構造を図2(A)および図2(B)に示す。図2(A)はバーナ先端部20の正面図であり、図2(B)はバーナ先端部20の構造を示す断面図である。図2(A)および図2(B)に示すように、中心に原料粉体流路11、その外周に一次酸素流路21、さらにその外周に二次酸素流路31がある。原料粉体流路11には、燃料流体をキャリアガスとして流すようにした。したがって、燃料流体と原料粉体は、粉体流として原料粉体流路11から噴出する。一次酸素流路21の先端はマルチホール22とし、酸素ガスが粉体流を包み込むように、かつ、酸素ガスが旋回流となるように噴出させる。二次酸素流路31の先端もマルチホール32とし、二次酸素を噴出させる。
【0020】
本実験例では、粉体のキャリアガスとして燃料ガスを用いたが、燃料ガス専用の流路および噴出孔を設ける場合は、空気等の別のガスによって粉体を搬送しても良い。また、本実験例では、一次および二次酸素はマルチホールにより噴出させたが、中心の燃料ガスおよび原料粉体の流れを包み込むように噴出できれば良く、スリット形状等のものを用いても良い。
【0021】
さらに、本実験例では、原料粉体流路11は一つの孔で構成したが、複数孔(マルチホール)から噴出させることも有効である。また、本実験例では、一次酸素を旋回流、二次酸素を斜向流(斜め直進流)で噴出させる。燃料、一次酸素、および二次酸素の各流量を適宜調節することにより、バーナ直後に形成される火炎長が制御される。この火炎の中に原料を噴出することにより原料が熱処理され、これが炉内で冷却されることにより微粉化される。燃料、一次酸素、二次酸素の各流量、原料の噴出速度、さらに炉内に流す冷却ガスの流量等、各流量を調節することにより、火炎長、火炎に原料が触れる時間が変化し、最終的に得られる微粉の粒径が変化する。
【0022】
なお、上記噴出方法に特に制約は無く、粉体および燃料ガスを噴出させる方法によって、適正な流れを選定して組み合わせることができる。
本実験例では、支燃性ガスの流路は、一次酸素流路21と二次酸素流路31の二系統を設けたが、複数の流路を設けることは、その比率を変えることで火炎長を変えることができ、前述した粒径を制御する方法として、有効な手段となる。
【0023】
表1に燃料流体(LPG)流量、酸素流量、一次酸素と二次酸素の流量比、酸素比、LPG原料粉体供給量などの実験条件を示す。
【表1】
【0024】
なお、原料粉体として、粒径が約1μmの純酸化ニッケル(ニッケル純度78.6%)を用い、バーナ2近傍の温度が1500〜1600℃(金属ニッケルの融点以上)となる条件で実施した。
【0025】
図3に酸素比0.6の条件における、生成物(ニッケル超微粉)の粉体外観のSIM(Scanning Ion Microscope)画像を示す。この場合、粒径4μm程度の球形粒子が多く観察された。
【0026】
図4に酸素比0.8の条件における、生成物のSIM画像を示す。酸素比0.8では、粒径0.2μm程度の球形粒子が多く観察された。
【0027】
図5に酸素比0.8の条件における生成物(ニッケル超微粉)の断面のSIM画像(60°傾斜)を示す。0.2μm以下の球形の超微粉は、それぞれが物理的に分離しており、融着しているものが極めて少ないので、超微粉として利用できるものであった。なお、酸素比0.6および酸素比0.8で得られた超微粉を化学分析した結果、ニッケルの還元率は、両方とも99%以上であった。
【0028】
原料粉体と生成物について粒度分布測定(マイクロトラック:レーザー回折・散乱法)を行った。結果を図6に示す。
【0029】
原料粉体の粒径分布は、約1μmにピークを有しているのに対し、酸素比0.6の場合、生成物の粒径分布は約4μmにピークを有しており、原料粉体の粒径よりも大きい。一方、酸素比0.8の場合、約0.15μmにピークを有する分布となり、酸素比により粒径を制御できることが判明した。
【0030】
なお、本実験例では、原料として酸化ニッケルを用いたが、水酸化ニッケル等の他の金属化合物にも応用することができる。
【0031】
(実験例2)
原料として、粉体状の酸化ニッケル、水酸化ニッケルを用い、燃料、支燃性ガスの種類、供給量等を変え、図1に示す金属超微粉製造装置100において、図2(A)および図2(B)に示す形状のバーナ先端部20を用い、金属ニッケルの球状微粉の生成実験を行なった。表2に実験条件を示す。
【0032】
表2の実験条件の範囲内で、金属ニッケルの球状微粉が生成できることが確認された。また、バーナにおける酸素比、一次/二次酸素比率、支燃性ガス中の酸素濃度、原料に対する燃料の比率、原料・燃料混合気の噴出速度、酸素噴出速度、一次酸素の旋回強度、炉内雰囲気温度等によって、粒径を制御できることが判明した。
【0033】
【表2】
※ 支燃性ガス供給量:純酸素流量をベース。
※2 酸素比:燃料の完全燃焼に必要な酸素量に対する供給した支燃性ガス中の酸素量の比。
【0034】
平均粒径10μmの水酸化ニッケルを原料として得た球状微粉の走査電子顕微鏡写真(SEM(Scanning Electron Microscope)画像)の一例を示す。図7(A)は、原料の水酸化ニッケルのSEM画像であり、図7(B)は、生成した球状微粉のSEM画像である。また、マイクロトラックで平均粒径を分析した結果、平均粒径0.4μmの球状微粉が得られたことが判明した。
【0035】
(実験例3)
炉内温度が球状微粉の粒径に与える影響を示す。図1の金属超微粉製造装置100において、炉内温度制御用ガスとして窒素を用い、その流量を変化させることにより、炉内温度を200〜1600℃となるように制御した。
窒素ガスを流さなかった場合、炉内温度は1600℃近傍になり、平均粒径0.4μmの球状微粉が得られた。窒素ガスを288Nm3/hで流したところ、炉内温度は500℃程度まで下がり、平均粒径0.2μmの球状微粉が得られた。図8(A)に窒素ガスを流さなかった場合、図8(B)に窒素を流した場合に得られた球状微粉のSEM画像を示す。
【0036】
(実験例4)
酸化ニッケル及び水酸化ニッケルを原料とし、バーナの酸素比(燃料を完全燃焼させるに相当する酸素量に対する供給した酸素量の比率)と金属化率の関係を調べた。図9にバーナの酸素比と金属化率の関係を示す。金属化率は、酸素比0.9以下であれば98%以上の高い金属化率が得られることがわかった。
また、本実験例では、燃料として炭化水素系燃料を用いたが、生成する微粉中に煤が残存することが問題になる場合には、燃料として水素を用いることにより容易に解決できる。
【0037】
(実施例1)
硝酸ニッケルを水に溶かした水溶液原料や、硝酸ニッケルをメタノール等の有機溶媒に溶かした有機溶媒原料を用い、金属ニッケルの超微粒子を得る実験を行なった。
水溶液原料や有機溶媒原料等の液体原料を用いる場合に使用するバーナ先端部の構造の例を図10(A)、図10(B)、図11(A)および図11(B)に示す。図10(A)は水溶液原料を用いる場合のバーナ2の先端部210の正面図であり、図10(B)は同バーナ先端部210の構造を示す断面図である。図11(A)は有機溶媒原料を用いる場合のバーナ2の先端部220の正面図であり、図11(B)は同バーナ先端部220の構造を示す断面図である。
【0038】
図10(A)および図10(B)に示したバーナ先端部210では、中心に原料流路211、その外周に燃料流路213(本実施例では、ガス燃料)、さらにその外周に一次酸素を流すための流路である一次酸素流路215が設けられ、さらに一次酸素流路215の外周に二次酸素を流す流路である二次酸素流路217が設けられている。原料流路211の先端には噴霧孔212が設けられ、ここから水溶液原料が霧状に噴出される。燃料流路213の先端には燃料噴出孔214が設けられ、一次酸素流路215の先端には一次酸素噴出孔216が設けられている。図10(B)に示すように、原料流路211、燃料流路213、一次酸素流路215はバーナ先端部210の中心線(図中原料供給方向の一点鎖線)と略同方向に沿って設けられており、水溶液原料、燃料、一次酸素はバーナ先端部210の中心線方向に噴出される。一方、二次酸素流路217の先端に設けられた二次酸素噴出孔218は、バーナ先端部210の中心線に対して斜めに設けられ、中心線の延長線上の一点を向く方向に複数の二次酸素噴出孔218が傾斜して設けられている。
【0039】
図11(A)および図11(B)に示したバーナでは、燃料流路は無く、中心に原料流路221、その外周に一次酸素を流すための流路である一次酸素流路225が設けられ、さらに一次酸素流路225の外周に二次酸素を流す流路である二次酸素流路227が設けられている。有機溶媒原料の場合、有機溶媒自体が燃料として代替利用できるためである。
【0040】
図11(B)に示すように、原料流路221、一次酸素流路225はバーナ先端部220の中心線(図中原料供給方向の一点鎖線)と略同方向に沿って設けられており、有機溶媒原料、および一次酸素はバーナ先端部220の中心線方向に噴出される。一方、二次酸素流路227の先端に設けられた二次酸素噴出孔228は、バーナ先端部220の中心線に対して斜めに設けられ、中心線の延長線上の一点を向く方向に複数の二次酸素噴出孔228が傾斜して設けられている。
【0041】
上記液体原料は、圧力噴霧により霧状に噴霧されるが、噴霧方法は、圧力噴霧の他に圧縮空気あるいはスチームを使った二流体噴霧、あるいは超音波ネブライザーでも可能である。
水溶液原料の場合は、その外周に形成する火炎により、有機溶媒原料の場合は、原料流体そのものの火炎により、噴霧された原料が迅速に処理される。支燃性ガス(ここでは酸素)および燃料の噴出方法は、前述した粉体原料の場合とほぼ同じ形態であるが、原料を包み込むように火炎を形成するために様々な噴出形態をとることができる。
【0042】
図1の装置に、図10(A)と図10(B)、および、図11(A)と図11(B)に示した形状のバーナ先端部210,220をそれぞれ備えた二種類のバーナを用いて実験を行なった。表3に本実施例の実験条件を示す。
【0043】
【表3】
※1 硝酸ニッケル:6水和物
※2 Ni濃度:各溶液中に含まれるニッケル元素濃度。
※3 支燃性ガス供給量:酸素流量ベース。
※4 酸素比:燃料の完全燃焼に必要な酸素量に対する供給した支燃性ガス中の
酸素量の比率。
【0044】
図12に生成した金属超微粉のSEM画像を示す。液体原料を用いた場合、得られる粒子径は固体原料に比べて極めて小さく、ナノスケールの球状粒子を多く得ることができた。また、これら金属超微粉の金属化率は、約97%であった。
液体原料を使用する場合にも、実験例3で述べたように、炉内温度を制御することで、粒径を自在にコントロールできる。さらに、液体中のニッケル元素濃度や霧化粒子径も、粒径制御因子となる。
また、水溶液原料や有機溶媒原料を加熱することで、溶液中のニッケル濃度をより高めることもでき、生産性を高くすることも可能である。また、溶質としては、硝酸塩に限られるわけではなく、水または有機溶媒に溶解することができ、目的とする金属元素を含む物質であればよい。
また、目的とする金属元素を含む有機金属化合物を使用することもできる。さらに目的とする金属元素はニッケルに限られるわけではなく、銅、コバルト等、適用可能な金属全てを対象とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、幅広い原料を用い、生成する金属粉の粒径を自在にコントロールでき、低コストで安全性に優れた金属超微粉の製造に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、本発明の金属超微粉の製造装置の構成を示す模式図である。
【図2】図2(A)はバーナ先端部の正面図であり、図2(B)はバーナ先端部の構造を示す断面図である。
【図3】図3は、酸素比0.6で得られたニッケル超微粉のSIM画像である。
【図4】図4は、酸素比0.8で得られたニッケル超微粉のSIM画像である。
【図5】図5は、酸素比0.8の条件における生成物(ニッケル超微粉)の断面のSIM画像(60°傾斜)である。
【図6】図6は、酸化ニッケルとニッケル超微粉の粒径分布の測定結果である。
【図7】図7(A)は原料の酸化ニッケルのSEM画像であり、図7(B)は生成した球状微粉のSEM画像である。
【図8】図8(A)は炉内に窒素ガスを流さなかった場合に得られた球状微粉のSEM画像であり、図8(B)は炉内に窒素ガスを流した場合に得られた球状微粉のSEM画像である。
【図9】図9は、バーナの酸素比と金属化率の関係を示すグラフである。
【図10】図10(A)は水溶液原料を用いる場合のバーナ先端部の正面図であり、図10(B)は水溶液原料を用いる場合のバーナ先端部の構造を示す断面図である。
【図11】図11(A)は有機溶媒原料を用いる場合のバーナ先端部の正面図であり、図11(B)は有機溶媒原料を用いる場合のバーナ先端部の構造を示す断面図である。
【図12】図12は、液体原料を用いた場合に得られた金属超微粉のSEM画像である。
【符号の説明】
【0047】
1・・・フィーダ
2・・・バーナ
3・・・炉
4・・・バグフィルタ
5・・・ブロワ
11・・・原料粉体流路
20・・・バーナ先端部
21・・・一次酸素流路
31・・・二次酸素流路
22・・・一次酸素噴出孔(マルチホール)
32・・・二次酸素噴出孔(マルチホール)
100・・・金属超微粉製造装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属超微粉の製造方法及びバーナ、並びに金属超微粉製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯端末等に利用される電子部品の小型化の進行に伴い、これらの部品に利用される金属粉末の小径化のニーズが高まっている。代表的なものとして積層セラミックコンデンサーに利用されるニッケル超微粉がある。これらのニッケル超微粉の製造方法として、蒸気圧の高い塩化物原料をCVD装置内で加熱気化させ、さらに水素を還元剤として装置内に導入し還元することで、1μm以下の金属ニッケル超微粉を製造する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような製造方法は、原料を1000℃程度の比較的低い温度(ニッケルの融点以下)で気化させて還元反応および析出させるために、微粉の製造に適しているとされている。しかし、このような方法は、CVD装置を用いるため、原料の加熱に高価な電気エネルギーを使用すること、さらに還元ガスとして高価な水素を用いるために、高コストな製造方法である。さらに塩化物の水素による還元反応であるため、炉内に有毒な塩素ガスや塩化水素が発生するため、製造装置の腐食やリーク等に十分配慮した高価な設備になるという問題がある。
【0004】
一方、水素含有燃料と酸素含有気体をバーナにより燃焼させ、この気流中に気化させた塩化鉄を導入して高温加水分解を生じさせ鉄微粉を製造する方法がある(例えば、特許文献2参照)。この方法では、還元反応場の雰囲気制御に電気エネルギーを用いず、さらに水素ガスを用いる必要が無いため、比較的安価な製造方法である。しかし、原料として塩化物を用いるため、上述の方法と同様に、発生する塩素ガスや塩化水素等の対策が必要であった。さらに生成した金属粉は、粒径が40〜80μmと幅広く、粒径の制御性に問題があった。また、現在のニーズに合った、1.0μm以下の超微粉の製造には適していないという問題がある。
【0005】
上記従来技術のいずれの方法も、特に微粉の金属粉製造のために蒸気圧の高い塩化物を使用しなくてはならず、原料の形態に制約があった。
【特許文献1】特開平4−365806号公報
【特許文献2】特開昭56−149330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、幅広い原料を用い、生成する金属粉の粒径を自在にコントロールし、低コストで安全性に優れた金属超微粉の製造方法及びバーナ、並びに金属超微粉製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の第一の態様は、有機溶媒に金属化合物を溶解させた液状原料を噴霧する原料噴霧孔と、前記原料噴霧孔を中心とする円周上に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線と平行に酸素もしくは酸素富化空気を噴出する複数の一次酸素噴出孔と、前記原料噴霧孔を中心とする円周上に、前記一次酸素噴出孔の外側に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線の延長線上の一点に向かう方向に、酸素もしく酸素富化空気を噴出する複数の二次酸素噴出孔と、を備えたバーナであって、前記有機溶媒と前記酸素もしくは酸素富化空気によって高温還元気流を生成させ、前記金属化合物を還元し、金属超微粉を製造するバーナである。
前記金属超微粉製造バーナにおいて、液状原料が有機溶媒を含まない場合、前記原料噴霧孔と前記一次酸素噴出孔との間に、前記原料噴霧孔を中心とする円周上に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線と平行に燃料を噴出する複数の燃料噴出孔を更に備えていてもよい。
【0008】
本発明の第二の態様は、上記第一の態様に係るバーナから供給される燃料の部分燃焼により形成した高温還元雰囲気の炉内に、原料の金属元素を含む化合物の溶液を噴霧し、溶液中の金属化合物を加熱・分解・還元することにより、粒径を制御した球状の金属超微粉を生成させることを特徴とする金属超微粉の製造方法である。
前記溶液はバーナから炉内に噴霧してもよい。
前記方法において、前記溶液が有機溶媒であり、前記溶液をバーナの燃料として噴霧し、部分燃焼させることにより高温還元雰囲気を形成し、球状の金属超微粉を生成させることもできる。
【0009】
本発明の第三の態様は、原料を酸化還元雰囲気下で熱処理する炉部と、前記炉部に配置され、燃料と原料とを前記炉部に向けて噴出する、上記第一の態様に係るバーナと、前記バーナに燃料を供給する燃料供給系と、前記バーナに原料を供給する原料供給系と、前記炉部に冷却用ガスを供給する冷却ガス供給系とを備えた金属超微粉製造装置である。
前記金属超微粉製造装置において、前記冷却ガス供給系が、温度制御用のガス供給装置を更に含んでいてもよい。
【0010】
本発明は、高温還元雰囲気を生成できるバーナと炉、炉から発生するガスと粉体とを分離して粉体を回収する装置(例えば、バグフィルター)から構成される。バーナは、炉体に直結され、燃料と燃料を完全燃焼させる量よりも少ない量の支燃性ガスにより炉内に高温還元雰囲気(火炎)を形成する。
【0011】
さらに、本発明では、高温還元雰囲気を生成するためのバーナの燃料として、炭化水素を含んだガス状もしくは液体状の燃料を用い、支燃性ガスとして酸素濃度50%以上の酸素富化空気もしくは純酸素を用いることを特徴としている。炭化水素系の燃料を部分酸化することで、水素と一酸化炭素を生成させ、かつ、支燃性ガスを用いることで、高温強還元雰囲気により、高速で加熱・還元反応を行うことができる。
【0012】
また、原料は、塩化物以外の金属化合物を用いることを特徴としている。これにより、燃焼排ガス中に塩素を含んだ物質が発生することなく金属微粉を製造することが可能となり、装置の安全性を高めることができる。
【0013】
本発明は、電気エネルギーを用いずにバーナにより生成させた高温還元雰囲気により処理を行う方法であり、エネルギーコストの低減ができ、さらにCVD等による電気加熱かつ外熱式の従来方法に比べ、装置の大型化が容易であり、生産性の高い方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生産性が高く、エネルギーコストが低く、さらに多様な原料種に対応して金属微粉を製造できる。また、本発明は、有害な塩素ガスを発生させること無く、安全性に優れた方法である。更に、本発明は、ニッケル以外に、銅、コバルトのような他の金属に関しても適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実験例として、酸化ニッケル粉からニッケル超微粉を生成する方法を、以下に詳細に説明する。
【0016】
図1に本実験例に係る金属超微粉の製造装置の構成を描いた模式図を示す。
本実験例で用いた金属超微粉製造装置100は、原料を搬送するためのフィーダ1、高温還元雰囲気を形成するためのバーナ2及び炉3、粉体と燃焼排ガスとを分離するためのバグフィルタ4、ガスを吸引するためのブロワ5から構成される。炉3は、バーナ2近傍が耐火物で構成され、炉3の中間部から以降は、水冷の炉壁構造とした。また、炉3の耐火物壁に熱電対を設置して、炉内壁温度を計測できるようにした。
【0017】
また、炉3の内壁面には冷却ガス供給配管6が埋設されており、冷却ガス、例えば窒素ガスなどの不活性ガスを炉3の内壁面の接線方向に供給できるようになっている。また、この冷却ガス供給配管6には冷却ガス供給装置7が配設されており、冷却ガス供給配管6に供給する冷却ガスの流量を調節することにより、炉3の壁面付近の温度を測定し、炉内温度を制御できるようになっている。なお、これら冷却ガス供給配管6および冷却ガス供給装置7は省略することもできる。
【0018】
原料である金属の粉体は、フィーダ1で定量的に送り出され、キャリアガスにより搬送されてバーナ2に供給される。本実験例では、キャリアガスとしてバーナ2で燃焼させる燃料ガスを用いた。
【0019】
本実験例で用いたバーナ2の先端部20の構造を図2(A)および図2(B)に示す。図2(A)はバーナ先端部20の正面図であり、図2(B)はバーナ先端部20の構造を示す断面図である。図2(A)および図2(B)に示すように、中心に原料粉体流路11、その外周に一次酸素流路21、さらにその外周に二次酸素流路31がある。原料粉体流路11には、燃料流体をキャリアガスとして流すようにした。したがって、燃料流体と原料粉体は、粉体流として原料粉体流路11から噴出する。一次酸素流路21の先端はマルチホール22とし、酸素ガスが粉体流を包み込むように、かつ、酸素ガスが旋回流となるように噴出させる。二次酸素流路31の先端もマルチホール32とし、二次酸素を噴出させる。
【0020】
本実験例では、粉体のキャリアガスとして燃料ガスを用いたが、燃料ガス専用の流路および噴出孔を設ける場合は、空気等の別のガスによって粉体を搬送しても良い。また、本実験例では、一次および二次酸素はマルチホールにより噴出させたが、中心の燃料ガスおよび原料粉体の流れを包み込むように噴出できれば良く、スリット形状等のものを用いても良い。
【0021】
さらに、本実験例では、原料粉体流路11は一つの孔で構成したが、複数孔(マルチホール)から噴出させることも有効である。また、本実験例では、一次酸素を旋回流、二次酸素を斜向流(斜め直進流)で噴出させる。燃料、一次酸素、および二次酸素の各流量を適宜調節することにより、バーナ直後に形成される火炎長が制御される。この火炎の中に原料を噴出することにより原料が熱処理され、これが炉内で冷却されることにより微粉化される。燃料、一次酸素、二次酸素の各流量、原料の噴出速度、さらに炉内に流す冷却ガスの流量等、各流量を調節することにより、火炎長、火炎に原料が触れる時間が変化し、最終的に得られる微粉の粒径が変化する。
【0022】
なお、上記噴出方法に特に制約は無く、粉体および燃料ガスを噴出させる方法によって、適正な流れを選定して組み合わせることができる。
本実験例では、支燃性ガスの流路は、一次酸素流路21と二次酸素流路31の二系統を設けたが、複数の流路を設けることは、その比率を変えることで火炎長を変えることができ、前述した粒径を制御する方法として、有効な手段となる。
【0023】
表1に燃料流体(LPG)流量、酸素流量、一次酸素と二次酸素の流量比、酸素比、LPG原料粉体供給量などの実験条件を示す。
【表1】
【0024】
なお、原料粉体として、粒径が約1μmの純酸化ニッケル(ニッケル純度78.6%)を用い、バーナ2近傍の温度が1500〜1600℃(金属ニッケルの融点以上)となる条件で実施した。
【0025】
図3に酸素比0.6の条件における、生成物(ニッケル超微粉)の粉体外観のSIM(Scanning Ion Microscope)画像を示す。この場合、粒径4μm程度の球形粒子が多く観察された。
【0026】
図4に酸素比0.8の条件における、生成物のSIM画像を示す。酸素比0.8では、粒径0.2μm程度の球形粒子が多く観察された。
【0027】
図5に酸素比0.8の条件における生成物(ニッケル超微粉)の断面のSIM画像(60°傾斜)を示す。0.2μm以下の球形の超微粉は、それぞれが物理的に分離しており、融着しているものが極めて少ないので、超微粉として利用できるものであった。なお、酸素比0.6および酸素比0.8で得られた超微粉を化学分析した結果、ニッケルの還元率は、両方とも99%以上であった。
【0028】
原料粉体と生成物について粒度分布測定(マイクロトラック:レーザー回折・散乱法)を行った。結果を図6に示す。
【0029】
原料粉体の粒径分布は、約1μmにピークを有しているのに対し、酸素比0.6の場合、生成物の粒径分布は約4μmにピークを有しており、原料粉体の粒径よりも大きい。一方、酸素比0.8の場合、約0.15μmにピークを有する分布となり、酸素比により粒径を制御できることが判明した。
【0030】
なお、本実験例では、原料として酸化ニッケルを用いたが、水酸化ニッケル等の他の金属化合物にも応用することができる。
【0031】
(実験例2)
原料として、粉体状の酸化ニッケル、水酸化ニッケルを用い、燃料、支燃性ガスの種類、供給量等を変え、図1に示す金属超微粉製造装置100において、図2(A)および図2(B)に示す形状のバーナ先端部20を用い、金属ニッケルの球状微粉の生成実験を行なった。表2に実験条件を示す。
【0032】
表2の実験条件の範囲内で、金属ニッケルの球状微粉が生成できることが確認された。また、バーナにおける酸素比、一次/二次酸素比率、支燃性ガス中の酸素濃度、原料に対する燃料の比率、原料・燃料混合気の噴出速度、酸素噴出速度、一次酸素の旋回強度、炉内雰囲気温度等によって、粒径を制御できることが判明した。
【0033】
【表2】
※ 支燃性ガス供給量:純酸素流量をベース。
※2 酸素比:燃料の完全燃焼に必要な酸素量に対する供給した支燃性ガス中の酸素量の比。
【0034】
平均粒径10μmの水酸化ニッケルを原料として得た球状微粉の走査電子顕微鏡写真(SEM(Scanning Electron Microscope)画像)の一例を示す。図7(A)は、原料の水酸化ニッケルのSEM画像であり、図7(B)は、生成した球状微粉のSEM画像である。また、マイクロトラックで平均粒径を分析した結果、平均粒径0.4μmの球状微粉が得られたことが判明した。
【0035】
(実験例3)
炉内温度が球状微粉の粒径に与える影響を示す。図1の金属超微粉製造装置100において、炉内温度制御用ガスとして窒素を用い、その流量を変化させることにより、炉内温度を200〜1600℃となるように制御した。
窒素ガスを流さなかった場合、炉内温度は1600℃近傍になり、平均粒径0.4μmの球状微粉が得られた。窒素ガスを288Nm3/hで流したところ、炉内温度は500℃程度まで下がり、平均粒径0.2μmの球状微粉が得られた。図8(A)に窒素ガスを流さなかった場合、図8(B)に窒素を流した場合に得られた球状微粉のSEM画像を示す。
【0036】
(実験例4)
酸化ニッケル及び水酸化ニッケルを原料とし、バーナの酸素比(燃料を完全燃焼させるに相当する酸素量に対する供給した酸素量の比率)と金属化率の関係を調べた。図9にバーナの酸素比と金属化率の関係を示す。金属化率は、酸素比0.9以下であれば98%以上の高い金属化率が得られることがわかった。
また、本実験例では、燃料として炭化水素系燃料を用いたが、生成する微粉中に煤が残存することが問題になる場合には、燃料として水素を用いることにより容易に解決できる。
【0037】
(実施例1)
硝酸ニッケルを水に溶かした水溶液原料や、硝酸ニッケルをメタノール等の有機溶媒に溶かした有機溶媒原料を用い、金属ニッケルの超微粒子を得る実験を行なった。
水溶液原料や有機溶媒原料等の液体原料を用いる場合に使用するバーナ先端部の構造の例を図10(A)、図10(B)、図11(A)および図11(B)に示す。図10(A)は水溶液原料を用いる場合のバーナ2の先端部210の正面図であり、図10(B)は同バーナ先端部210の構造を示す断面図である。図11(A)は有機溶媒原料を用いる場合のバーナ2の先端部220の正面図であり、図11(B)は同バーナ先端部220の構造を示す断面図である。
【0038】
図10(A)および図10(B)に示したバーナ先端部210では、中心に原料流路211、その外周に燃料流路213(本実施例では、ガス燃料)、さらにその外周に一次酸素を流すための流路である一次酸素流路215が設けられ、さらに一次酸素流路215の外周に二次酸素を流す流路である二次酸素流路217が設けられている。原料流路211の先端には噴霧孔212が設けられ、ここから水溶液原料が霧状に噴出される。燃料流路213の先端には燃料噴出孔214が設けられ、一次酸素流路215の先端には一次酸素噴出孔216が設けられている。図10(B)に示すように、原料流路211、燃料流路213、一次酸素流路215はバーナ先端部210の中心線(図中原料供給方向の一点鎖線)と略同方向に沿って設けられており、水溶液原料、燃料、一次酸素はバーナ先端部210の中心線方向に噴出される。一方、二次酸素流路217の先端に設けられた二次酸素噴出孔218は、バーナ先端部210の中心線に対して斜めに設けられ、中心線の延長線上の一点を向く方向に複数の二次酸素噴出孔218が傾斜して設けられている。
【0039】
図11(A)および図11(B)に示したバーナでは、燃料流路は無く、中心に原料流路221、その外周に一次酸素を流すための流路である一次酸素流路225が設けられ、さらに一次酸素流路225の外周に二次酸素を流す流路である二次酸素流路227が設けられている。有機溶媒原料の場合、有機溶媒自体が燃料として代替利用できるためである。
【0040】
図11(B)に示すように、原料流路221、一次酸素流路225はバーナ先端部220の中心線(図中原料供給方向の一点鎖線)と略同方向に沿って設けられており、有機溶媒原料、および一次酸素はバーナ先端部220の中心線方向に噴出される。一方、二次酸素流路227の先端に設けられた二次酸素噴出孔228は、バーナ先端部220の中心線に対して斜めに設けられ、中心線の延長線上の一点を向く方向に複数の二次酸素噴出孔228が傾斜して設けられている。
【0041】
上記液体原料は、圧力噴霧により霧状に噴霧されるが、噴霧方法は、圧力噴霧の他に圧縮空気あるいはスチームを使った二流体噴霧、あるいは超音波ネブライザーでも可能である。
水溶液原料の場合は、その外周に形成する火炎により、有機溶媒原料の場合は、原料流体そのものの火炎により、噴霧された原料が迅速に処理される。支燃性ガス(ここでは酸素)および燃料の噴出方法は、前述した粉体原料の場合とほぼ同じ形態であるが、原料を包み込むように火炎を形成するために様々な噴出形態をとることができる。
【0042】
図1の装置に、図10(A)と図10(B)、および、図11(A)と図11(B)に示した形状のバーナ先端部210,220をそれぞれ備えた二種類のバーナを用いて実験を行なった。表3に本実施例の実験条件を示す。
【0043】
【表3】
※1 硝酸ニッケル:6水和物
※2 Ni濃度:各溶液中に含まれるニッケル元素濃度。
※3 支燃性ガス供給量:酸素流量ベース。
※4 酸素比:燃料の完全燃焼に必要な酸素量に対する供給した支燃性ガス中の
酸素量の比率。
【0044】
図12に生成した金属超微粉のSEM画像を示す。液体原料を用いた場合、得られる粒子径は固体原料に比べて極めて小さく、ナノスケールの球状粒子を多く得ることができた。また、これら金属超微粉の金属化率は、約97%であった。
液体原料を使用する場合にも、実験例3で述べたように、炉内温度を制御することで、粒径を自在にコントロールできる。さらに、液体中のニッケル元素濃度や霧化粒子径も、粒径制御因子となる。
また、水溶液原料や有機溶媒原料を加熱することで、溶液中のニッケル濃度をより高めることもでき、生産性を高くすることも可能である。また、溶質としては、硝酸塩に限られるわけではなく、水または有機溶媒に溶解することができ、目的とする金属元素を含む物質であればよい。
また、目的とする金属元素を含む有機金属化合物を使用することもできる。さらに目的とする金属元素はニッケルに限られるわけではなく、銅、コバルト等、適用可能な金属全てを対象とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、幅広い原料を用い、生成する金属粉の粒径を自在にコントロールでき、低コストで安全性に優れた金属超微粉の製造に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、本発明の金属超微粉の製造装置の構成を示す模式図である。
【図2】図2(A)はバーナ先端部の正面図であり、図2(B)はバーナ先端部の構造を示す断面図である。
【図3】図3は、酸素比0.6で得られたニッケル超微粉のSIM画像である。
【図4】図4は、酸素比0.8で得られたニッケル超微粉のSIM画像である。
【図5】図5は、酸素比0.8の条件における生成物(ニッケル超微粉)の断面のSIM画像(60°傾斜)である。
【図6】図6は、酸化ニッケルとニッケル超微粉の粒径分布の測定結果である。
【図7】図7(A)は原料の酸化ニッケルのSEM画像であり、図7(B)は生成した球状微粉のSEM画像である。
【図8】図8(A)は炉内に窒素ガスを流さなかった場合に得られた球状微粉のSEM画像であり、図8(B)は炉内に窒素ガスを流した場合に得られた球状微粉のSEM画像である。
【図9】図9は、バーナの酸素比と金属化率の関係を示すグラフである。
【図10】図10(A)は水溶液原料を用いる場合のバーナ先端部の正面図であり、図10(B)は水溶液原料を用いる場合のバーナ先端部の構造を示す断面図である。
【図11】図11(A)は有機溶媒原料を用いる場合のバーナ先端部の正面図であり、図11(B)は有機溶媒原料を用いる場合のバーナ先端部の構造を示す断面図である。
【図12】図12は、液体原料を用いた場合に得られた金属超微粉のSEM画像である。
【符号の説明】
【0047】
1・・・フィーダ
2・・・バーナ
3・・・炉
4・・・バグフィルタ
5・・・ブロワ
11・・・原料粉体流路
20・・・バーナ先端部
21・・・一次酸素流路
31・・・二次酸素流路
22・・・一次酸素噴出孔(マルチホール)
32・・・二次酸素噴出孔(マルチホール)
100・・・金属超微粉製造装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒に金属化合物を溶解させた液状原料を噴霧する原料噴霧孔と、前記原料噴霧孔を中心とする円周上に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線と平行に酸素もしくは酸素富化空気を噴出する複数の一次酸素噴出孔と、前記原料噴霧孔を中心とする円周上に、前記一次酸素噴出孔の外側に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線の延長線上の一点に向かう方向に酸素もしくは酸素富化空気を噴出する複数の二次酸素噴出孔と、を備えたバーナであって、
前記有機溶媒と前記酸素もしくは酸素負荷空気とによって高温還元気流を生成させ、前記金属化合物を還元し、金属超微粉を製造することを特徴とするバーナ。
【請求項2】
金属化合物を含む液状原料を噴霧する原料噴霧孔と、
前記原料噴霧孔を中心とする円周上に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線と平行に燃料を噴出する複数の燃料噴出孔と、
前記原料噴霧孔を中心とする円周上に、前記燃料噴出孔の外側に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線と平行に酸素もしくは酸素富化空気を噴出する複数の一次酸素噴出孔と、
前記原料噴出孔を中心とする円周上に、前記一次酸素噴出孔の外側に設けられ、前記原料噴出孔の中心線の延長線上の一点に向かう酸素もしくは酸素富化空気を噴出する複数の二次酸素噴出孔と、を更に備えたバーナであって、
前記燃料と前記酸素もしくは酸素富化空気とによって高温還元気流を生成させ、前記金属化合物を還元し、金属超微粉を生成することを特徴とするバーナ。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたバーナから供給される燃料の部分燃焼により形成した高温還元雰囲気の炉内に、原料の金属元素を含む化合物の溶液を噴霧し、溶液中の金属化合物を加熱・分解・還元することにより、粒径を制御した球状の金属超微粉を生成させることを特徴とする金属超微粉の製造方法。
【請求項4】
前記溶液はバーナから炉内に噴霧されることを特徴とする請求項3に記載の金属超微粉の製造方法。
【請求項5】
前記溶液が有機溶媒であり、前記溶液をバーナの燃料として噴霧し、部分燃焼させることにより高温還元雰囲気を形成し、球状の金属超微粉を生成させることを特徴とする請求項4に記載の金属超微粉の製造方法。
【請求項6】
原料を酸化還元雰囲気下で熱処理する炉部と、
前記炉部に配置され、燃料、酸素もしくは酸素富化空気と原料とを前記炉部に向けて噴出する、請求項1または2に記載されたバーナと、
前記バーナに燃料を供給する燃料供給系と、
前記バーナに原料を供給する原料供給系と、
前記炉部に冷却用ガスを供給する冷却ガス供給系と、を備えた金属超微粉製造装置。
【請求項7】
前記冷却ガス供給系が、温度制御用のガス供給装置を更に含む請求項6に記載の金属超微粉製造装置。
【請求項1】
有機溶媒に金属化合物を溶解させた液状原料を噴霧する原料噴霧孔と、前記原料噴霧孔を中心とする円周上に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線と平行に酸素もしくは酸素富化空気を噴出する複数の一次酸素噴出孔と、前記原料噴霧孔を中心とする円周上に、前記一次酸素噴出孔の外側に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線の延長線上の一点に向かう方向に酸素もしくは酸素富化空気を噴出する複数の二次酸素噴出孔と、を備えたバーナであって、
前記有機溶媒と前記酸素もしくは酸素負荷空気とによって高温還元気流を生成させ、前記金属化合物を還元し、金属超微粉を製造することを特徴とするバーナ。
【請求項2】
金属化合物を含む液状原料を噴霧する原料噴霧孔と、
前記原料噴霧孔を中心とする円周上に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線と平行に燃料を噴出する複数の燃料噴出孔と、
前記原料噴霧孔を中心とする円周上に、前記燃料噴出孔の外側に設けられ、前記原料噴霧孔の中心線と平行に酸素もしくは酸素富化空気を噴出する複数の一次酸素噴出孔と、
前記原料噴出孔を中心とする円周上に、前記一次酸素噴出孔の外側に設けられ、前記原料噴出孔の中心線の延長線上の一点に向かう酸素もしくは酸素富化空気を噴出する複数の二次酸素噴出孔と、を更に備えたバーナであって、
前記燃料と前記酸素もしくは酸素富化空気とによって高温還元気流を生成させ、前記金属化合物を還元し、金属超微粉を生成することを特徴とするバーナ。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたバーナから供給される燃料の部分燃焼により形成した高温還元雰囲気の炉内に、原料の金属元素を含む化合物の溶液を噴霧し、溶液中の金属化合物を加熱・分解・還元することにより、粒径を制御した球状の金属超微粉を生成させることを特徴とする金属超微粉の製造方法。
【請求項4】
前記溶液はバーナから炉内に噴霧されることを特徴とする請求項3に記載の金属超微粉の製造方法。
【請求項5】
前記溶液が有機溶媒であり、前記溶液をバーナの燃料として噴霧し、部分燃焼させることにより高温還元雰囲気を形成し、球状の金属超微粉を生成させることを特徴とする請求項4に記載の金属超微粉の製造方法。
【請求項6】
原料を酸化還元雰囲気下で熱処理する炉部と、
前記炉部に配置され、燃料、酸素もしくは酸素富化空気と原料とを前記炉部に向けて噴出する、請求項1または2に記載されたバーナと、
前記バーナに燃料を供給する燃料供給系と、
前記バーナに原料を供給する原料供給系と、
前記炉部に冷却用ガスを供給する冷却ガス供給系と、を備えた金属超微粉製造装置。
【請求項7】
前記冷却ガス供給系が、温度制御用のガス供給装置を更に含む請求項6に記載の金属超微粉製造装置。
【図1】
【図2】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図12】
【図2】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図12】
【公開番号】特開2009−108414(P2009−108414A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299644(P2008−299644)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【分割の表示】特願2006−549060(P2006−549060)の分割
【原出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【分割の表示】特願2006−549060(P2006−549060)の分割
【原出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】
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