説明

金属酸化物の還元方法

【課題】本発明は、還元剤を用いることなく、金属酸化物を還元する方法を提供する。特に、二酸化炭素の排出を抑制可能な金属酸化物の還元方法を提供する。
【解決手段】本発明の金属酸化物の還元方法は、遷移金属または亜鉛の金属酸化物に導電性を付与することで、導電性金属酸化物を製造する第1工程と、該導電性金属酸化物をマイクロ波加熱することで、該導電性金属酸化物を構成する酸素原子をプラズマ化し、該導電性金属酸化物を還元する第2工程と、を有する金属酸化物の還元方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属酸化物の還元方法に関し、特に、還元剤を必要とせず、二酸化炭素の排出を抑制可能な金属酸化物の還元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材の製造および金属資源の回収等を目的として、金属酸化物を還元する種々の方法が検討されている。酸化チタンから金属チタンを製造する方法としては、粉末酸化チタンを還元剤と混合し、900〜1000℃の温度で加熱処理することにより、チタン粒子を得る方法が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、該方法で製造されるのは、還元剤および副生成物等を含む混合物であり、該混合物からチタン粒子を分離する工程やチタン粒子を洗浄する工程等が必要である。
【0003】
粉状の鉄酸化物から金属鉄粉を製造する方法としては、粉状の鉄酸化物に炭材と炭酸塩とを配合してなる精錬材料を容器に装填し、該容器をマイクロ波が投射されているアプリケータ内に所定の時間滞在させることにより、鉄酸化物を鉄にまで還元する方法が開示されている(特許文献2参照)。この方法においては、還元剤として炭材が用いられており、鉄酸化物の還元に要する当量の2倍以上の炭材が必要であることが記載されている。
【0004】
金属酸化物を完全に還元することで金属材を得る方法のみならず、金属酸化物の還元により、低次の金属酸化物を製造しようとする試みも存在する。例えば、代表的な金属酸化物である二酸化チタンに関しては、炭素粉末を充填した炉内で二酸化チタンを還元焼成し、優れた電気的特性を有する低次の酸化チタンを製造する方法が開示されている(特許文献3参照)。また、黒色顔料等に用いられる低次の酸化チタン粉末を、水素と四塩化チタンとの混合ガス雰囲気下において、800〜1400℃の温度で還元することによって製造する方法が開示されている(特許文献4参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−129250号公報
【特許文献2】特開平6−279824号公報
【特許文献3】特開平8−310858号公報
【特許文献4】特開平6−115938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の技術では、金属酸化物を還元するために還元剤を用いる必要があり、炭素等を還元剤として用いた場合は、該還元剤が金属酸化物を還元する際に二酸化炭素を排出する。また、化石燃料を熱源として用いた還元方法の場合には、多量の排ガスを生成することとなる。環境負荷低減の観点から二酸化炭素排出量の抑制が求められているが、二酸化炭素の排出を抑制しつつ、金属酸化物を効率的に還元することは極めて困難である。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、還元剤を必要とせず、二酸化炭素の排出を抑制可能な金属酸化物の還元方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の金属酸化物の還元方法は、遷移金属または亜鉛の金属酸化物に導電性を付与することで、導電性金属酸化物を製造する第1工程と、該導電性金属酸化物をマイクロ波加熱することで、該導電性金属酸化物を構成する酸素原子をプラズマ化し、該導電性金属酸化物を還元する第2工程と、を有する金属酸化物の還元方法である。
【0009】
第1工程においては、遷移金属または亜鉛の金属酸化物をn型半導体にすることで、該遷移金属または亜鉛の金属酸化物に導電性を付与することができる。
【0010】
第1工程においては、遷移金属または亜鉛の金属酸化物を大気中で熱処理することで、該遷移金属または亜鉛の金属酸化物をn型半導体にすることが好ましい。また、遷移金属または亜鉛の金属酸化物としては、二酸化チタンを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属酸化物の還元方法は、マイクロ波加熱による酸素原子のプラズマ化を利用した還元方法であるため、二酸化炭素を排出することなく、短時間かつ省エネルギーで金属酸化物を還元することができる。また、マイクロ波出力およびマイクロ波加熱時間等を制御することにより、金属酸化物の還元量を自在に制御することができ、還元量に応じた材料の設計を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に本発明の金属酸化物の還元方法の概念図を示す。第1工程において、遷移金属または亜鉛の金属酸化物に導電性を付与し、導電性金属酸化物を製造する。第2工程においては、第1工程で作製した導電性金属酸化物をマイクロ波加熱し、該導電性金属酸化物を還元する。第2工程における還元は、導電性金属酸化物を構成する酸素原子のプラズマ化によって達成されるものであり、炭素等の還元剤による還元とはその還元メカニズムが異なる。第1工程における遷移金属または亜鉛の金属酸化物への導電性の付与により、第2工程におけるマイクロ波加熱を用いた金属酸化物の還元が可能となる。
【0013】
第1工程における遷移金属または亜鉛の金属酸化物への導電性の付与は、遷移金属または亜鉛の金属酸化物をn型半導体にすることで達成される。遷移金属または亜鉛の金属酸化物をn型半導体にする方法としては、例えば、遷移金属または亜鉛の金属酸化物を大気中で熱処理する方法が挙げられる。
【0014】
代表的な金属酸化物である二酸化チタンの表面は不定比構造(TiO2−X)になりやすく、微量ではあるが酸素は抜けやすい。二酸化チタンに加熱処理を施すと、二酸化チタンの表面はより不定比な状態となり、冷却中での酸素との再結合では完全な定比(TiO)には戻り難いため、二酸化チタンをn型半導体にすることができる。不定比構造(TiO2−X)を有する二酸化チタンが酸素と再結合する反応は、酸素分圧に依存し、大気中(PO2=0.2atm)では完全な定比(TiO)には戻り難い。また、真空や還元雰囲気下での加熱処理により、大気中での加熱処理と比較して、二酸化チタンの表面構造をより不定比にすることができる。
【0015】
第2工程における導電性金属酸化物のマイクロ波加熱には、マイクロ波発生器、導波部、加熱器等から構成される一般的なマイクロ波加熱装置を用いることができ、例えば、図2に示すようなマイクロ波加熱システムを用いることができる。該マイクロ波加熱システムは、マイクロ波を発生するマグネトロン10、発生したマイクロ波の特性を測定するパワーメーター12、進行方向が逆の信号の分離やマイクロ波発振の安定化等を図るサーキュレーター14、不要なマイクロ波を熱エネルギーに変換するダミーロード16、インピーダンス整合をとるためのスタブチューナー18および短絡板20を備えている。マイクロ波加熱装置中に導電性金属酸化物22を挿入し、マイクロ波を照射すると、マイクロ波の照射によって導電性金属酸化物22を直接発熱させることができる。この場合、真空炉等を用いた外部加熱と比較して、少ないエネルギーによる均一な加熱が達成される。また、導電性金属酸化物に照射するマイクロ波の出力および照射時間等は適宜設定が可能であり、導電性金属酸化物の還元量は容易に制御することができる。
【0016】
導電性金属酸化物22にマイクロ波を照射することで導電性金属酸化物22に誘導電流が流れ、該誘導電流のエネルギーがジュール熱に変換されることで導電性金属酸化物22が加熱される。また、電流の誘導を介した、導電性金属酸化物22の粒界間や粒子間での放電(電界電子放出現象)によって、導電性金属酸化物22に含まれる酸素原子が励起され、酸素原子がプラズマ化することで、導電性金属酸化物22が還元される。つまり、炭素等の還元剤によって金属酸化物を還元する従来の技術とは異なり、二酸化炭素の排出を伴うことなく導電性金属酸化物22を還元することができる。
【0017】
導電性金属酸化物22の形状は特に制限されず、粉末形状でもマイクロ波の照射によって還元することができる。また、粉末をペレット状に成形することで、マイクロ波の吸収を高めることができ、比較的低いマイクロ波出力でも還元することが可能となる。
【0018】
導電性金属酸化物22へのマイクロ波の照射は、導電性金属酸化物22の粒界間や粒子間での放電(電界電子放出現象)が生じる状態で行うことが好ましい。例えば、二酸化チタンを還元する場合は、減圧状態においてマイクロ波を照射することが好ましい。
【0019】
マイクロ波加熱装置の加熱器には単一モードと多重モードが存在するが、本発明の金属酸化物の還元製造方法においては両モード共に利用可能である。マイクロ波は金属酸化物を加熱し得るものであればよく、波長が1mm(300GHz)から1m(0.3GHz)領域の電磁波を用いることができる。
【実施例】
【0020】
以下に本発明の実施例及び比較例を図面を参照して説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1 「マイクロ波照射による二酸化チタンの還元」
ルチル型の二酸化チタン(TiO)粉末を用い、本発明の効果を検討した。二酸化チタン粉末1gを20MPaで加圧成型し、二酸化チタンのペレットを作成した。その後、マッフル炉を用いて、該ペレットを大気中、1000℃の条件で6時間焼結し、導電性を有する多結晶二酸化チタンペレットを得た。マイクロ波発生部(2.45GHz、TE10モード)、マイクロ波エネルギー(出力・反射電力)測定部、減圧反応管部および冷却ガス供給部からなる定在波シングルモード加熱装置を用い、多結晶二酸化チタンペレットにマイクロ波を照射した。
【0021】
多結晶二酸化チタンペレットを石英反応管内の電界(E場)最大位置に石英ウールを用いて設置後、ロータリーポンプで該石英反応管内を10−1Pa(約10−3Torr)まで減圧した。なお、多結晶二酸化チタンペレットの長辺と電界方向とが平行になるように、多結晶二酸化チタンペレットを設置した。
【0022】
初期マイクロ波出力を900Wとして多結晶二酸化チタンペレットにマイクロ波を照射した後、マイクロ波出力を700Wに下げて約600秒間の加熱を行った。該加熱の後、処理後の多結晶二酸化チタンペレットが再酸化されるのを防止するため、石英反応管内にアルゴンガスを注入して室温まで冷却した。
【0023】
図3にマイクロ波電力とマイクロ波照射時間の関係を示す。マイクロ波照射時間が約50秒以降の領域で、入射電力と比較して反射電力が大幅に低下しているのが確認できる。該結果は、マイクロ波が多結晶二酸化チタンペレットの加熱に利用されていることを意味している。また、図4に示すように、反射電力が大幅に低下した際にプラズマ発光が明瞭に観察された。
【0024】
図5にマイクロ波照射開始から1秒後および30秒後に観測されたプラズマ発光のピークを示す。777nmおよび844nmのピークは酸素原子の遷移に由来する発光ピークであることが報告されており(C. Cvelbar, N. Krstulovic, S. Milosevic, and M. Mozetic, Vacuum, 82, 2008, 224)、これらのピークが存在していることから、石英反応管内において、多結晶二酸化チタンペレットに含まれる酸素原子がプラズマ化して発光していることが確認できる。
【0025】
図6にマイクロ波照射を行った多結晶二酸化チタンペレットの比抵抗の温度依存性を示す。マイクロ波照射後の多結晶二酸化チタンペレットは、半金属‐金属的な比抵抗の温度依存性を有している。該結果は、多結晶二酸化チタンペレットがマイクロ波照射によって還元されていることを意味している。なお、未処理の二酸化チタンは絶縁体であり、比抵抗の温度依存性を測定することはできなかった。
【0026】
実施例2 「マイクロ波照射による二酸化チタンの還元(二酸化チタンへの前処理なし)」
ルチル型の二酸化チタン(TiO)粉末を用い、本発明の効果を検討した。二酸化チタン粉末1gを20MPaで加圧成型し、二酸化チタンのペレットを作成した。マイクロ波発生部(2.45GHz、TE10モード)、マイクロ波エネルギー(出力・反射電力)測定部、減圧反応管部および冷却ガス供給部からなる定在波シングルモード加熱装置を用い、二酸化チタンペレットにマイクロ波を照射した。
【0027】
二酸化チタンペレットを石英反応管内の電界(E場)最大位置に石英ウールを用いて設置後、ロータリーポンプで該石英反応管内を10−1Pa(約10−3Torr)まで減圧した。なお、二酸化チタンペレットの長辺と電界方向とが平行になるように、二酸化チタンペレットを設置した。
【0028】
初期マイクロ波出力を900Wとして二酸化チタンペレットにマイクロ波を照射した後、マイクロ波出力を700Wに下げて約600秒間の加熱を行った。該加熱の後、処理後の二酸化チタンペレットが再酸化されるのを防止するため、石英反応管内にアルゴンガスを注入して室温まで冷却した。
【0029】
図7にマイクロ波電力とマイクロ波照射時間の関係を示す。入射電力と比較して反射電力が大きく低下しておらず、マイクロ波が二酸化チタンペレットの加熱に効果的に利用されていないことが確認できる。また、図8に示すように、マイクロ波照射中にプラズマ発光は観察されなかった。本結果により、マイクロ波照射を用いて二酸化チタンを還元するためには、二酸化チタンに導電性を付与する前処理が必要であることが分かる。
【0030】
実施例3 「マイクロ波照射による酸化亜鉛の還元」
酸化亜鉛(ZnO)粉末を用い、本発明の効果を検討した。酸化亜鉛粉末1gを20MPaで加圧成型し、酸化亜鉛のペレットを作成した。その後、マッフル炉を用いて、該ペレットを大気中、1000℃の条件で6時間焼結し、導電性を有する多結晶酸化亜鉛ペレットを得た。マイクロ波発生部(2.45GHz、TE10モード)、マイクロ波エネルギー(出力・反射電力)測定部、減圧反応管部および冷却ガス供給部からなる定在波シングルモード加熱装置を用い、多結晶酸化亜鉛ペレットにマイクロ波を照射した。
【0031】
多結晶酸化亜鉛ペレットを石英反応管内の電界(E場)最大位置に石英ウールを用いて設置後、ロータリーポンプで該石英反応管内を10−1Pa(約10−3Torr)まで減圧した。なお、多結晶酸化亜鉛ペレットの長辺と電界方向とが平行になるように、多結晶酸化亜鉛ペレットを設置した。
【0032】
初期マイクロ波出力を900Wとして多結晶酸化亜鉛ペレットにマイクロ波を照射した後、マイクロ波出力を700Wに下げて約600秒間の加熱を行った。該加熱の後、処理後の多結晶酸化亜鉛ペレットが再酸化されるのを防止するため、石英反応管内にアルゴンガスを注入して室温まで冷却した。
【0033】
図9にマイクロ波照射中に観測されたプラズマ発光のピークを示す。酸素原子の遷移に由来する発光ピーク(777nmおよび844nm)が存在していることから、石英反応管内において、多結晶酸化亜鉛ペレットに含まれる酸素原子がプラズマ化して発光していることが確認できる。本結果により、本発明の金属酸化物の還元方法は、酸化亜鉛に適用可能であることが分かる。
【0034】
実施例4 「マイクロ波照射による酸化鉄の還元」
酸化鉄(Fe)粉末を用い、本発明の効果を検討した。酸化鉄粉末1gを20MPaで加圧成型し、酸化鉄のペレットを作成した。その後、マッフル炉を用いて、該ペレットを大気中、800℃の条件で6時間焼結し、導電性を有する多結晶酸化鉄ペレットを得た。マイクロ波発生部(2.45GHz、TE10モード)、マイクロ波エネルギー(出力・反射電力)測定部、減圧反応管部および冷却ガス供給部からなる定在波シングルモード加熱装置を用い、多結晶酸化鉄ペレットにマイクロ波を照射した。
【0035】
多結晶酸化鉄ペレットを石英反応管内の電界(E場)最大位置に石英ウールを用いて設置後、ロータリーポンプで該石英反応管内を10−1Pa(約10−3Torr)まで減圧した。なお、多結晶酸化鉄ペレットの長辺と電界方向とが平行になるように、多結晶酸化鉄ペレットを設置した。
【0036】
初期マイクロ波出力を900Wとして多結晶酸化鉄ペレットにマイクロ波を照射した後、マイクロ波出力を700Wに下げて約600秒間の加熱を行った。該加熱の後、処理後の多結晶酸化鉄ペレットが再酸化されるのを防止するため、石英反応管内にアルゴンガスを注入して室温まで冷却した。
【0037】
図10にマイクロ波照射中に観測されたプラズマ発光のピークを示す。酸素原子の遷移に由来する発光ピーク(777nmおよび844nm)が存在していることから、石英反応管内において、多結晶酸化鉄ペレットに含まれる酸素原子がプラズマ化して発光していることが確認できる。本結果により、本発明の金属酸化物の還元方法は、酸化鉄に適用可能であることが分かる。
【0038】
実施例5 「マイクロ波照射によって還元した二酸化チタンの再酸化
ルチル型の二酸化チタン(TiO)粉末を用い、本発明の効果を検討した。二酸化チタン粉末1gを20MPaで加圧成型し、二酸化チタンのペレットを作成した。その後、マッフル炉を用いて、該ペレットを大気中、1000℃の条件で6時間焼結し、導電性を有する多結晶二酸化チタンペレットを得た。マイクロ波発生部(2.45GHz、TE10モード)、マイクロ波エネルギー(出力・反射電力)測定部、減圧反応管部および冷却ガス供給部からなる定在波シングルモード加熱装置を用い、多結晶二酸化チタンペレットにマイクロ波を照射した。
【0039】
多結晶二酸化チタンペレットを石英反応管内の電界(E場)最大位置に石英ウールを用いて設置後、ロータリーポンプで該石英反応管内を10−1Pa(約10−3Torr)まで減圧した。なお、多結晶二酸化チタンペレットの長辺と電界方向とが平行になるように、多結晶二酸化チタンペレットを設置した。
【0040】
初期マイクロ波出力を900Wとして多結晶二酸化チタンペレットにマイクロ波を照射した後、マイクロ波出力を700Wに下げて約600秒間の加熱を行った。該加熱の後、処理後の多結晶二酸化チタンペレットが再酸化されるのを防止するため、石英反応管内にアルゴンガスを注入して室温まで冷却した。冷却後の多結晶二酸化チタンペレットを石英反応管から取り出し、マッフル炉(1000℃、大気中)を用いて6時間の酸化処理を施した。
【0041】
図11に未処理の二酸化チタン粉末、多結晶二酸化チタンペレット、マイクロ波照射後の多結晶二酸化チタンペレットおよび酸化処理を施した多結晶二酸化チタンペレットのX線回折結果を示す。種々の処理によって二酸化チタンの結晶構造に変化は認められず、ルチル型の結晶構造を有することが確認できる。
【0042】
図12に多結晶二酸化チタンペレット、マイクロ波照射後の多結晶二酸化チタンペレットおよび酸化処理を施した多結晶二酸化チタンペレットのX線回折結果((101)メインピークの拡大)を示す。マイクロ波照射後の多結晶二酸化チタンペレットに関して、ピーク幅が非対称にブロードになっており、結晶に酸素欠陥が生じていることが分かる。また、酸化処理を施した二酸化チタンペレットではピーク幅の非対称性が解消されており、酸化処理によって結晶中の酸素欠陥が消失していることが分かる。本結果により、マイクロ波照射によって多結晶二酸化チタンペレットが還元され、還元された多結晶二酸化チタンペレットが、マッフル炉による処理で再酸化されていることが確認できる。
【0043】
図13に未処理の二酸化チタン粉末、多結晶二酸化チタンペレット、マイクロ波照射後の多結晶二酸化チタンペレットおよび酸化処理を施した多結晶二酸化チタンペレットの顕微ラマン分光の結果を示す。多結晶二酸化チタンペレットにマイクロ波照射を行うことにより、ピーク全体の強度が低下すると同時に、ピーク幅が広くなっている。さらに、ルチル特有のラマン散乱である424、610cm−1のピークが低波長側にシフトしている。該ピークシフトは、二酸化チタンに酸素欠陥が存在する場合に観測されることが報告されており(J. C. Parker and R. W. Siegel, Appl. Phys. Lett. 57 (9) 1990およびJ. C. Parker and R. W. Siegel, J. Mater. Res. 5 (6) 1990)、マイクロ波照射によって多結晶二酸化チタンペレットが還元され、低次酸化状態となっていることを示唆している。また、マイクロ波照射後の多結晶二酸化チタンペレットに対する酸化処理によって、マイクロ波照射によって変化したピークがマイクロ波照射前の状態に戻ることから、マイクロ波照射によって生じたピークの変化は、多結晶二酸化チタンペレットの還元に起因するものであることが確認できる。
【0044】
図14に未処理の二酸化チタン粉末、多結晶二酸化チタンペレット、マイクロ波照射後の多結晶二酸化チタンペレットおよび酸化処理を施した多結晶二酸化チタンペレットの紫外‐近赤外吸収スペクトルを示す。多結晶二酸化チタンペレットは白色で、波長400nm以下のみで光を吸収している。これに対し、マイクロ波照射後の多結晶二酸化チタンペレットは、波長400nm以上の可視領域でも光を吸収している。また、酸化処理を施した多結晶二酸化チタンペレットでは、可視光領域での光の吸収が低下し、マイクロ波照射前の多結晶二酸化チタンペレットの状態に近づいている。マイクロ波照射後の多結晶二酸化チタンペレットで確認される長波長側の光の吸収は、酸素欠陥準位およびマグネリ相由来であると考えられる。つまり、多結晶二酸化チタンペレットでは、バンドギャップ内(Eg=3.0eV)に準位を有さないが、マイクロ波照射後の多結晶二酸化チタンペレットでは、無数のマグネリ相が存在するため、バンドギャップ内のエネルギー準位が密な状態になっていると考えられる。
【0045】
図15に多結晶二酸化チタンペレット、マイクロ波照射後の多結晶二酸化チタンペレットおよび酸化処理を施した多結晶二酸化チタンペレットの表面のSEM写真を示す。多結晶二酸化チタンペレットは、結晶粒サイズが約数μmの多結晶体であり、結晶粒間に固溶由来の粒界が存在する。これに対し、マイクロ波照射後の多結晶二酸化チタンペレットにおいては、マイクロ波照射により粒界が消失し、単結晶に近い緻密な表面状態となっている。本結果より、マイクロ波照射は多結晶二酸化チタンペレットの緻密化にも効果的であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によると、低次の金属酸化物を簡便に製造することができる。例えば、低次の酸化チタン(TiO2−X)は、顔料、導電性材料、真空蒸着材料およびブラックマトリックス用の材料等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の金属酸化物の還元方法の概念図である。
【図2】マイクロ波加熱システムの概略図である。
【図3】実施例1におけるマイクロ波電力とマイクロ波照射時間の関係を示した図である。
【図4】実施例1におけるマイクロ波照射中の装置写真である。
【図5】実施例1で観測されたプラズマ発光のピークである。
【図6】比抵抗の温度依存性を示した図である。
【図7】実施例2におけるマイクロ波電力とマイクロ波照射時間の関係を示した図である。
【図8】実施例2におけるマイクロ波照射中の装置写真である。
【図9】実施例3で観測されたプラズマ発光のピークである。
【図10】実施例4で観測されたプラズマ発光のピークである。
【図11】実施例5におけるX線回折結果である。
【図12】実施例5におけるX線回折結果の拡大図である。
【図13】実施例5における顕微ラマン分光の結果である。
【図14】実施例5における紫外‐近赤外吸収スペクトルである。
【図15】実施例5におけるSEM観察結果である。
【符号の説明】
【0048】
10…マグネトロン
12…パワーメーター
14…サーキュレーター
16…ダミーロード
18…スタブチューナー
20…短絡板
22…導電性金属酸化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属または亜鉛の金属酸化物に導電性を付与することで、導電性金属酸化物を製造する第1工程と、
前記導電性金属酸化物をマイクロ波加熱することで、前記導電性金属酸化物を構成する酸素原子をプラズマ化し、前記導電性金属酸化物を還元する第2工程と、
を有する金属酸化物の還元方法。
【請求項2】
前記第1工程において、前記遷移金属または亜鉛の金属酸化物をn型半導体にすることにより、前記遷移金属または亜鉛の金属酸化物に導電性を付与することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物の還元方法。
【請求項3】
前記第1工程において、前記遷移金属または亜鉛の金属酸化物を大気中で熱処理することにより、前記遷移金属または亜鉛の金属酸化物に導電性を付与することを特徴とする請求項1〜2いずれか1項に記載の金属酸化物の還元方法。
【請求項4】
前記遷移金属または亜鉛の金属酸化物が二酸化チタンであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の金属酸化物の還元方法。

【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−138023(P2010−138023A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315077(P2008−315077)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】