説明

金属酸窒化物の製造方法

【課題】微粒でかつ均一組成で、しかも結晶性の高い金属酸窒化物の製造方法を提供する。
【解決手段】金属酸窒化物原料を、超臨界状態または亜臨界状態の水の存在下において、水熱反応させることを特徴とする金属酸窒化物の製造方法。金属酸窒化物原料が、IUPAC周期表における第4族元素および第5族元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む前記の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸窒化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸窒化物は、燃料電池などの各種電気化学システムにおける電極に用いられている資源面で制約のある白金触媒にかわる電極触媒として、その適用が試みられている。このような金属酸窒化物の製造方法として、特許文献1には、金属酸化物粉末およびアンモニアガスを原料として用いて、例えば850℃の高温で熱処理することにより窒化する方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−161203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術においては、微粒化を促進し難く、得られる電極触媒の触媒活性として、未だ改良の余地はある。本発明の目的は、微粒でかつ均一組成で、しかも結晶性の高い金属酸窒化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を重ね、本発明に至った。すなわち、本発明は、下記の発明を提供する。
<1>金属酸窒化物原料を、超臨界状態または亜臨界状態の水の存在下において、水熱反応させることを特徴とする金属酸窒化物の製造方法。
<2>金属酸窒化物原料が、IUPAC周期表における第4族元素および第5族元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む前記<1>記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、微粒でかつ均一組成で、しかも結晶性の高い金属酸窒化物を提供することができる。本発明を用いることにより、資源面で制約のある白金触媒にかわる電極触媒で、燃料電池などの各種電気化学システムの電極に好適な電極触媒を提供することもでき、さらには、光触媒、蛍光体などへの適用も可能であり、本発明は工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の金属酸窒化物の製造方法は、金属酸窒化物原料を、超臨界状態または亜臨界状態の水の存在下において、水熱反応させることを特徴とする。本発明により、微粒でかつ均一組成で、しかも結晶性の高い金属酸窒化物を得ることができる。
【0008】
本発明において、金属酸窒化物原料としては、例えば、金属化合物および窒素含有化合物を用いることができる。金属化合物としては、例えば、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属塩化物等を挙げることができる。また、窒素含有化合物としては、例えば、アンモニア、アンモニウム塩、ヒドラジン、金属アミド、金属アンミン錯体等を挙げることができる。また、金属酸窒化物の生成を促進させる意味で、アルカリ金属の水酸化物を併用することが好ましい。
【0009】
上記の金属酸窒化物原料は、水に溶解できるものであることが好ましい。この場合、金属酸窒化物原料を、水に溶解させて得られる水溶液(以下、原料水溶液ということがある。)を、超臨界状態または亜臨界状態にすることで、本発明の金属酸窒化物を製造することができる。
【0010】
金属酸窒化物原料を水に溶解させる場合、原料水溶液における金属化合物濃度としては、特に制限されるものではないが、例えば、0.01mol/L〜1mol/L程度である。また、原料水溶液における窒素含有化合物濃度は、金属化合物濃度に応じて、適宜調整すればよい。
【0011】
水の超臨界点は、374℃、22MPaである。すなわち、本発明において、超臨界状態の水とは、温度374℃以上でかつ圧力22MPa以上である条件下の水であり、また、亜臨界状態の水としては、温度250℃以上でかつ圧力20MPa以上である条件下の水である。このような水の存在下に、金属酸窒化物原料をおくことにより、水熱反応を促進させ、微粒でかつ均一組成で、しかも結晶性に優れる金属酸窒化物を得ることができる。
【0012】
本発明において、得られる金属酸窒化物の触媒活性を高める意味で、金属酸窒化物原料が、IUPAC周期表における第4族元素および第5族元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含むことが好ましい。第4族元素としては、Ti、Zr、Hfを挙げることができ、第5族元素としては、V、Nb、Taを挙げることができる。中でも、金属酸窒化物原料は、Ti、Zr、NbおよびTaからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素を含むことが、さらに好ましい。また、資源面の制約が少ない観点で、好ましいのはTi、Zrである。
【0013】
本発明の金属酸窒化物の製造方法を実施するための反応装置としては、バッチ式の反応装置や連続式(流通式)の反応装置を用いることができる。バッチ式の反応装置を例にとって説明すると、反応容器内に原料水溶液を入れて密閉し、これを所定温度で所定時間保持した後、冷却し、容器から生成物を回収する。反応容器としては、保持温度に対して充分な耐熱性を持ち、反応時の圧力に対して充分な耐圧性を持ち、用いる原料水溶液や中間体、生成物に対して充分な耐食性を持つ構造、材質のものを選べばよい。反応容器の材質は、原料水溶液の種類や反応温度、圧力などの条件に基づき、適切なものを選択すればよいが、例えばSUS316などのステンレス鋼や、ハステロイ、インコネルなどのニッケル合金、あるいはチタン合金を挙げることができる。また、金などの耐食性の高い材料で容器の内面をライニングしてもよい。所定温度に保持するためには、例えば電気炉を利用することができる。この場合、電気炉は、反応容器の設置、取出しなどの操作を行い易いように、電気炉の加熱部に反応容器を挿入できる構造にすればよい。また、昇温時、所定温度保持時に、内容物の均一性を保つ意味で、反応容器を振盪してもよい。保持する所定温度に応じて、反応容器内に入れる原料水溶液の量を調整して、水熱反応時の反応容器内の圧力を調整する事ができる。所定時間保持した後、反応容器を冷却する方法としては、反応容器ごと水に浸けるなどして急冷する手法が挙げられる。生成物を回収する方法としては、固液分離、洗浄、乾燥し、粉末状態で回収してもよいし、スラリー状態で回収することも出来る。
【0014】
本発明において、金属酸窒化物原料が、IUPAC周期表における第4族元素および第5族元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む場合には、得られる金属酸窒化物は、電極触媒として作用することができ、例えば、酸性電解質中において、可逆水素電極電位に対して0.4V以上の電位で用いることができる。具体的には、該金属酸窒化物を、燃料電池などの電気化学システムにおいて、電極に担持され、酸素を還元するための電極触媒、すなわち酸素還元触媒として用いることができる。酸素還元触媒として用いる場合の電位の上限は、電極の安定性に依存し、通常、酸素が発生する電位である約1.6Vである。また、水素酸化触媒として用いることも可能である。
【0015】
本発明の製造方法により得られる金属酸窒化物を、電極触媒として用いる場合には、酸化タングステン、酸化イリジウムなどの導電性酸化物や炭素材料などの電子導電性の触媒担体に分散させて用いることもできるし、酸化アルミニウムのような耐食性の高い酸化物などの材料と本発明における金属酸窒化物とを混合して用いることもできる。また、該材料を上記の原料水溶液に分散させて、これを超臨界状態または亜臨界状態にして、該材料を構成する粒子の表面に、金属酸窒化物を形成させることもできる。特に、金属酸窒化物原料が、資源量の限られた金属元素を含有する場合には、この形成は有用である。
【0016】
また、電極触媒を、電極に担持させて、酸性電解質溶液中において、水の電気分解、有機物の電気分解などを行う電極にも用いることができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0018】
実施例1
オキシ塩化ジルコニウム水溶液に、水酸化カリウム水溶液およびアンモニア水溶液を添加し、原料水溶液1を調製する。原料水溶液1を反応容器内に入れて密閉(このとき、反応容器の内容積に対する原料水溶液1の体積は30%)した後、これを400℃に加熱した電気炉内に入れ、加熱した後、反応容器を取り出して、容器ごと水冷する。その後、反応容器から、生成物のスラリーを回収し、固液分離、洗浄、乾燥し、ジルコニウム酸窒化物を得る。
【0019】
実施例2
四塩化チタン水溶液に、水酸化カリウム水溶液およびアンモニア水溶液を添加し、原料水溶液2を調製する。原料水溶液2を反応容器内に入れて密閉(このとき、反応容器の内容積に対する原料水溶液2の体積は30%)した後、これを400℃に加熱した電気炉内に入れ、加熱した後、反応容器を取り出して、容器ごと水冷する。その後、反応容器から、生成物のスラリーを回収し、固液分離、洗浄、乾燥し、チタン酸窒化物を得る。
【0020】
〔電気化学システムでの使用例〕
上記により得られるジルコニウム酸窒化物、チタン酸窒化物について、純水と混合したのち、「ナフィオン(登録商標)」溶液(デュポン社製)と混合し、超音波を照射して撹拌して懸濁液とし、この懸濁液をグラッシーカーボン電極に塗布して、窒素気流下で乾燥後、120℃で1時間加熱して、電極触媒をグラッシーカーボン電極上に担持させた電極を得る。この修飾電極を濃度0.1モル/Lの硫酸水溶液中に浸漬し、30℃、大気圧下で、酸素雰囲気下または窒素雰囲気下に、それぞれ可逆水素電極電位に対して0.05〜1.2Vの走査範囲で、50mV/sの走査速度で電位をサイクルして、サイクルごとの各電位における電流値を比較することにより、電極安定性を確認することができる。また、酸素雰囲気下における電流値と窒素雰囲気下におけるそれとを比較して、酸素還元電流を求めて、これらの金属酸窒化物の酸素還元活性を確認することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸窒化物原料を、超臨界状態または亜臨界状態の水の存在下において、水熱反応させることを特徴とする金属酸窒化物の製造方法。
【請求項2】
金属酸窒化物原料が、IUPAC周期表における第4族元素および第5族元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−298601(P2009−298601A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151372(P2008−151372)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】