説明

針刺し防止装置

【課題】使用済みの注射針の先端部を覆った状態をより確実に維持することができる針刺し防止装置を提供すること。
【解決手段】針刺し防止装置1は、使用可能な針100を、その先端を突出させた状態で保持すると共に、針100が使用済みとなったとき、この使用済みの針100の先端を内部の収容空間9に収容させた状態で保持すことができる筐体2を備える。そして、針100の軸方向への移動を許容するように針100の基端側が通される孔部20が形成される後板体3により針100を先端側に付勢し、針100の先端部101を前板部4に当接させることで針101が筐体2により覆われた状態をより確実に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針刺し防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
使用済みの注射針の誤穿刺を防止するため、使用済みの注射針の先端部を板状体等により覆うことができる針刺し防止装置が、たとえば、特許文献1および特許文献2にプロテクタとして開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−85558号公報
【特許文献2】特開2004−73403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
針刺し防止装置は、使用済みの注射針の先端部を覆った状態を確実に維持する必要がある。この点に関し、特許文献1に開示されるプロテクタの場合は、使用済み注射針のプロテクタの内部に収容されている部分が、プロテクタの内部で移動することができる。このため、プロテクタ内で注射針が移動し、プロテクタを構成する板体の合せ目等から使用済みの注射針が突出する虞がある。また、特許文献2に開示されるプロテクタの場合は、使用済みの注射針の基端側への移動をプロテクタの該注射針を挟み込む部分の摩擦力により阻止している。このため、この摩擦力を超えて該注射針を基端側に移動させる力が働く場合には、針がプロテクタから外れてしまう虞がある。
【0005】
そこで、本発明は、使用済みの注射針の先端部を覆った状態をより確実に維持することができる針刺し防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、針刺し防止装置は、使用可能な針を、その先端を突出させた状態で保持すると共に、針が使用済みとなったとき、この使用済みの針の先端を内部の収容空間に収容させた状態で保持することができる筐体を備え、この筐体は、針の軸方向への移動を許容するように針の基端側が通される孔部が形成される第1の壁部と、使用可能な針の先端側を支持することができると共に、使用済みの針の先端側への移動を阻止することができる第2の壁部と、使用済みの針の先端側を支持する第3の壁部と、使用可能な針に対して、第3の壁部の側と反対側で接触することができる接触部を有し、接触部を介して、使用可能な針を第3の壁部に向けて付勢することができると共に、使用済みの針の少なくとも先端部において第3の壁部と対向する壁部を有する第4の壁部と、使用済みの針を挟んで第3の壁部の両側に配置される第5および第6の壁部と、針に設けられる突起部に係合し、使用済みの針を先端方向に向けて付勢することができる付勢部とを有することとする。
【0007】
このように針刺し防止装置を構成することで、使用済みの注射針の先端部を覆った状態をより確実に維持することができる。
【0008】
上記発明に加えて、針刺し防止装置における第4の壁部には、付勢力を調整するための孔部が形成されていることとしてもよい。
【0009】
このように針刺し防止装置を構成することで、第4の壁部の付勢力を簡易な構成で調整することができる。
【0010】
上記発明に加えて、針刺し防止装置における第4の壁部には、使用済みの針と第5の壁部との間に配置される第7の壁部および使用済みの針と第6の壁部との間に配置される第8の壁部が設けられていることとしてもよい。
【0011】
このように針刺し防止装置を構成することで、使用済みの針が筐体から飛び出してしまうことをより効果的に防止することができる。
【0012】
上記発明に加えて、針刺し防止装置における接触部は、収容空間に面する面部を有することとしてもよい。
【0013】
このように針刺し防止装置を構成することで、第2の壁部に加えて接触部によっても、使用済みの針の前方への移動を阻止することができるため、より確実に、使用済みの針が筐体から飛び出してしまうことを防止することができる。
【0014】
上記発明に加えて、針刺し防止装置における第1の壁部と第3の壁部との間には開口部が形成されていることとしてもよい。
【0015】
このように針刺し防止装置を構成することで、筐体を板体から曲げ加工により形成する際に、板体を支持するための治具を、開口部に挿入することができ、筐体の曲げ加工を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、使用済みの注射針の先端部を覆った状態をより確実に維持することができる針刺し防止装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る針刺し防止装置を前方斜め上方から見たときの概略の構成を示す斜視図であり、針刺し防止装置に使用可能な針が保持されている状態を示している。
【図2】本発明の実施の形態に係る針刺し防止装置を前方斜め上方から見たときの概略の構成を示す斜視図であり、針刺し防止装置に使用済みの針が収容されている状態を示している。
【図3】図1に示す針刺し防止装置を後方から見たときの概略の構成を示す背面図である。
【図4】図1に示す針刺し防止装置を下方から見たときの概略の構成を示す底面図である。
【図5】外針ハブ内に針刺し防止装置が保持されている状態を説明するための図であり、上下方向に沿う面における概略の断面図である。針刺し防止装置に使用可能な針が保持されている状態を示している。
【図6】外針ハブ内に針刺し防止装置が保持されている状態を説明するための図であり、上下方向に沿う面における概略の断面図である。針刺し防止装置に使用済みの針が収容されている状態を示している。
【図7】針刺し防止装置を構成する筐体の概略の展開図である。
【図8】実施の形態に係る針刺し防止装置の変形例を示し、針刺し防止装置を前方斜め上方から見たときの概略の構成を示す斜視図であり一部破断図として示されている。
【図9】図8に示す針刺し防止装置の概略の断面図であり、針刺し防止装置に使用可能な針が保持されている状態を示している。
【図10】図8に示す針刺し防止装置の概略の断面図であり、針刺し防止装置に使用済みの針が収容されている状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施の形態)
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明をする。
【0019】
図1および図2は、本発明の実施の形態に係る針刺し防止装置1を前方斜め上方から見たときの概略の構成を示す斜視図ある。図1には、使用可能な針100の先端部101を突出させた状態で保持している針刺し防止装置1が示されている。一方、図2には、使用済みの針100の先端部101が内部に収容された状態の針刺し防止装置1が示されている。なお、使用可能な針100とは、人体に刺される前の未使用の状態、あるいは、人体に刺され使用中の針のことを示す。また、使用済みの針100とは、人体への輸液等が完了し、人体から抜き取られた後の針のことを示す。
【0020】
以下の説明において、図1に示すX1方向を前方、X2方向を後方とし、また、Y1方向を右方、Y2方向を左方とし、さらに、Z1方向を上方、Z2方向を下方として説明を行う。図3は、図1に示す針刺し防止装置1を後方から見たときの概略の構成を示す背面図である。図4は、図1に示す針刺し防止装置1を下方から見たときの概略の構成を示す底面図である。図5および図6は、外針ハブ200内に針刺し防止装置1が保持されている状態を説明するための図であり、上下方向に沿う面における断面の概略図として描かれている。図5には、使用可能な針100を保持している針刺し防止装置1が、外針ハブ200内に保持されている状態が示されている。図6には、使用済みの針100の先端部101を内部に収容している状態の針刺し防止装置1が、外針ハブ200内に保持されている状態が示されている。なお、図5に示す針刺し防止装置1については、図1に示す切断線A−Aにおける断面が示されている。また、図6に示す針刺し防止装置1については、図2に示す切断線B−Bにおける断面が示されている。
【0021】
図5および図6に示すように、針刺し防止装置1は、留置針300の一部として構成され、内針としての針100の誤穿刺を防止するためのものである。ここで、留置針300について簡単に説明する。留置針300は、中空の外針201と、外針201の基端部202が固定される外針ハブ200と、外針201内に挿入される針100と、針100の基端部102が固定される内針ハブ103とを有し構成される。留置針300を人体に穿刺する際には、図5に示すように、針100を外針201内に挿入し、針100の先端部101を外針201の先端から突出させた状態で穿刺を行う。
【0022】
つまり、針100と共に外針201を血管に穿刺し、外針201の血管内への挿入が確認できた状態で、内針ハブ103を後方移動し、針100を外針201の後端から抜き取る。抜き取られた針100の先端部101が、図6に示すように、針刺し防止装置1内に収容されるように、内針ハブ103を後方に移動させる。さらに、針100が外針201から抜き取られ、針100の先端部101が、針刺し防止装置1内に収容された後も、さらに内針ハブ103を後方に移動することで、針刺し防止装置1を外針ハブ200から取り出すことができる。そして、外針201が血管内に挿入され、針刺し防止装置1が取り出された状態の外針ハブ200に輸液ラインを接続する。これにより、外針ハブ200および外針201を介して人体に輸液を行うことができる。
【0023】
外針201は、長時間血管に挿入された状態が継続しても人体に負荷が少なくなるように、柔軟に撓むことができる樹脂から形成されている。つまり、外針201は柔軟であるため、直接人体に穿刺することができない。そのため、穿刺に際して、上述のように硬質な針100を用いることで、外針201を血管内に挿入することができる。
【0024】
(針刺し防止装置1の全体構成)
針刺し防止装置1は、図1および図2に示すように、全体として前後方向に長い略直方体の筐体2を有し、この筐体2は、第1の壁部としての後板部3と、第2の壁部として前板部4と、第3の壁部として底板部5と、第4の壁部として上板部6と、第5の壁部としての側板部7と、第6の壁部としての側板部8とを有している。後板部3、前板部4、底板部5、上板部6、側板部7および側板部8に囲まれた空間が使用済みの針を収容する収容空間9として形成されている。
【0025】
なお、針刺し防止装置1は、図7に示す形状の板体2Aに対して曲げ加工等を施すことで、1枚の板体2Aから一体的に構成されている。板体2Aの板材としては、たとえば、ステンレス鋼を用いることができる。図7は、図1等に示す筐体2の概略の展開図であり、針刺し防止装置1の各構成部に対応する部分については、同一の符号が付されている。
【0026】
図1等に示すように、側板部7および側板部8は、それぞれ上板部6と連結部10,11において連結されている。また、図3等に示すように、後板部3は、後板部3の上方に延設される左右2つの腕部12,12を介して上板部6と連結部13,14において連結されている。図4等に示すように、底板部5は、右側底板部15と左側底板部16に分割されている。そして、右側底板部15は、側板部7と連結部17において連結されている。また、左側底板部16は、側板部8と連結部18において連結されている。また、図1等に示すように、前板部4は、側板部7と連結部19において連結されている。板体2Aを各連結部において曲げ加工することで、針刺し防止装置1を1枚の板体2Aから構成することができる。針刺し防止装置1を1枚の板体2Aから構成することで、部品点数を減らすことができ、組み立ての工数やコストの低減を図ることができる。板体2Aは、図7に示す点線部で折り曲げられることで、筐体2として形成される。
【0027】
(後板部3の構成)
後板部3は、図3に示すように、後方から見た形状が略矩形を呈し、上方の左右に腕部12,12が形成されている。また、略中央部には、針100が通される孔部20が形成されている。孔部20の孔径は、針100を前後方向、すなわち針100の軸方向にガイドしながらスムーズに移動できる径に設定されている。また、孔部20は、たとえば、バーリング加工により形成され、孔部20の外周には、後方に向かって僅かに立ち上がる円筒部21が形成されている。円筒部21を形成することで、針100を前後方向にスムーズにガイドすることができると共に、針100の先端部101の左右上下方向への振れを抑えることができる。
【0028】
後板部3は、腕部12,12が上板部6に連結される連結部13,14を除いて、筐体2に対して非連結になっている。したがって、後板部3は、腕部12,12を主な撓み部分として、連結部13,14の近傍を支点として後方に弾性的に撓むことができる。つまり、後方に撓んだ状態で、前方に向けて付勢力を生じさせることができる。後板部3が撓んだときの付勢力は、腕部12,12の左右方向の幅Wを変更することで調整することができる。
【0029】
(上板部6の構成)
上板部6は、連結部10,11および連結部13,14が設けられる固定部22と、この固定部22から前方に延設される可動部23とを有している。可動部23は、側板部7,8および前板部4に対して非連結であり、固定部22との連結部24の近傍を支点として上下方向に撓むことができる。すなわち、可動部23は、図1および図5に示す上方位置と、図2および図6に示す下方位置とに変位することができる。そして、可動部23は、上方位置から下方位置に向けて付勢力を有するバネ性を有するように構成されている。
【0030】
上板部6には、固定部22から可動部23に亘って、左右方向略中央の位置に前後方向に長い孔部25が形成されている。上板部6に形成される孔部25の左右には、支持部26,26が形成されている。可動部23の支持部26,26よりも前方部分には、第7の壁部としての内側板部27と第8の壁部としての内側板部28が設けられている。内側板部27,28は、板体2Aの一部として可動部23に一体に形成されている。内側板部27,28は、互いに対向する側板部7と側板部8との内側に配置されている。内側板部27,28は、可動部23の左右縁部から下方に向けて、側板部7および側板部8に略平行に配置されている。内側板部27と内側板部28との間には、開口部29が形成されている。開口部29の前方には、底板部5に対向する壁部としての先端上板部30が設けられている。
【0031】
また、可動部23の前端部、すなわち、先端上板部30の前端部には、接触部としての内前板部31が設けられている。内前板部31は、板体2Aの一部として可動部23と一体に形成されている。内前板部31は、可動部23の前端部から下方に延設され、前板部4の後方に配置されている。また、内前板部31は、収容空間に面する後側面32を有している。
【0032】
開口部29の後端縁には、突起部33が設けられている。突起部33は、板体2Aの一部として可動部23と一体に形成されている。突起部33は、開口部29の内側に形成された舌状片を曲げ加工することにより形成される。
【0033】
(側板部7,8の構成)
側板部7,8は、上板部6の左右に配置される。側板部7,8は、左右対称の形状を呈し、それぞれ、内側板部27,28に対向するガイド部34,35と、このガイド部34,35を固定部22に支持する腕部36,37とを有している。ガイド部34,35は、上下に平行な縁部を有する略長方形を呈している。ガイド部34,35の上下方向の幅T(図1参照)は、腕部36,37の上下方向の幅Pよりも狭く、腕部36,37には固定部22との連結部10,11からガイド部34,35に向かって下方に傾斜する傾斜部38,39が形成されている。つまり、側板部7,8は後方から前方に向かって全体として高さが低くなっている。そして、筐体2は、後方から前方に向かって全体として高さが低くなる形状を呈している。
【0034】
(底板部5の構成)
底板部5は、図4に示すように、右側底板部15と左側底板部16を有している。右側底板部15は連結部17を介して側板部7側に設けられ、左側底板部16は、連結部18を介して側板部8側に設けられている。右側底板部15は、前方から後方に向かって左右方向の幅が狭くなる三角形状を呈し、左側底板部16は、前方から後方に向かって左右方向の幅が広くなる三角形状を呈している。そして、右側底板部15と左側底板部16との合わせ部40の隙間が、針100の太さよりも狭くなるように、右側底板部15および左側底板部16の形状および左右方向の幅が設定されている。底板部5は、下方から見た形状において前後方向に長い略長方形を呈し、その対角線方向に沿って合わせ部40が形成されている。
【0035】
(前板部4の構成)
前板部4は、図1,図2に示すように、前方から見た形状が略矩形を呈し、側板部7の前端縁に位置する連結部19から側板部8の前端縁に向けて設けられている。前板部4は、内前板部31よりも前方に配置されている。前板部4の底板部5からの高さH(図5参照)は、後板部3に形成される孔部20の内周の下側の部分の底板部5からの高さL(図3参照)と略同一になるように設定されている。したがって、図1および図5に示すように、針100は、針刺し防止装置1に保持されたときに、底板部5に対して略平行に配置される。
【0036】
(針刺し防止装置1の動作)
次に上述のように構成される針刺し防止装置1の動作について説明する。
【0037】
先ず、図1および図5を参照して、使用可能な針100が針刺し防止装置1に保持されているときの動作について説明する。
【0038】
使用可能な針100は、基端部102側を孔部20に通されると共に、先端部101側を内前板部31と前板部4との間に通された状態で、針刺し防止装置1に保持される。使用可能な針100が針刺し防止装置1に保持されている状態のとき、内前板部31の下縁部31Aは針100の上面に当接(接触)している。つまり、可動部23は、上方位置に変位している。可動部23は、上方から下方に向かって付勢力を生じている。したがって、針刺し防止装置1に保持されている使用可能な針100は、内前板部31から可動部23の付勢力を受けた状態で、前板部4と内前板部31との間に挟み込まれる。このように、可動部23の付勢力で前板部4と内前板部31の間に針100を挟み込むことにより、たとえば、針刺し防止装置1に対して手指が触れたときに、針刺し防止装置1の前板部4および内前板部31が、針100から容易に外れてしまうことを防止できる。
【0039】
針刺し防止装置1に保持されている使用可能な針100に対して接触する前板部4の上縁部4Aは、図5に示すように後方に向けた折返し部4Bの稜部に形成されている。また、内前板部31の下縁部31Aについても、図5に示すように後方に向けた折返し部31Bの稜部に形成されている。折返し部4Bの稜部は、前板部4を折り曲げたときの折り曲げ部分の側面であり、板体2Aの縁部2B(図7参照)に比べて滑らかな形状となっている。また、折返し部31Bの稜部についても、内前板部31を折り曲げたときの折り曲げ部分の側面であり、板体2Aの縁部2C(図7参照)に比べて滑らかな形状となっている。縁部2B,2Cは、板体2Aが基板から切り出されたときの切り出し部であるため、ばり等があり、エッジが鋭利な状態となっていることがある。そのため、縁部2Bや縁部2Cにより針100を挟み込んだ場合には、針100を損傷する虞がある。これに対し、滑らかな上縁部4Aと下縁部31Aとにより針100を挟み込むことで、針100を挟み込んだ際に針100を損傷してしまうことを防ぐことができる。
【0040】
針刺し防止装置1は、使用可能な針100を保持している状態で、外針ハブ200内に装填されている。そして、針刺し防止装置1に保持されている使用可能な針100は、外針201内に挿入されている。針刺し防止装置1が外針ハブ200に装填されている状態で、使用可能な針100および外針201が血管に穿刺される。
【0041】
次に、図2および図6を参照して、使用可能な針100が、使用済みの針100として針刺し防止装置1の収容空間9に収容されるまでの動作について説明する。
【0042】
針100を用いて外針201を血管へ穿刺した後、内針ハブ103を後方に移動させる。内針ハブ103の後方への移動に伴って、針100が後方に移動する。針100は前板部4と内前板部31とに挟み込まれている。そのため、内針ハブ103の移動は、前板部4と内前板部31とによる挟み込み力(可動部23の付勢力)により生じる摩擦力に抗して行われる。しかしながら、上縁部4Aと下縁部31Aは滑らかな形状であるため、針100は後方に向けてスムーズに移動することができる。
【0043】
外針ハブ200の内周面には、凸条203が設けられている。凸条203は、使用可能な針100を保持している針刺し防止装置1の突起部33の後方に位置している。また、凸条203は、外針ハブ200の内周面の全周に亘って形成されている。凸条203と突起部33とは、針刺し防止装置1を後方に移動させたとき、突起部33が凸条203に係合するように、凸条203および突起部33の配置や上下方向の幅等が設定されている。
【0044】
前板部4と内前板部31は、針100を、可動部23の付勢力により挟み込んでいる。したがって、内針ハブ103を後方に移動することで針100が後方に向けて移動させられると、針刺し防止装置1も一緒に後方に向けて移動しようとする。しかしながら、針刺し防止装置1の突起部33が凸条203に係合することで、針刺し防止装置1の後方への移動が阻止される。針刺し防止装置1の後方への移動が阻止された状態で、内針ハブ103を後方に移動することで、針100を、針刺し防止装置1に対して相対的に後方に向けて移動することができる。
【0045】
内針ハブ103を後方に移動し、針100を後方に移動させていくと、針100の先端が外針201から抜き取られる。さらに、針100が後方に向けて移動させられると、針100の先端部101が上縁部4Aから外れる。そして、可動部23の付勢力により、針100の先端部101は底板部5に向けて移動され、収容空間9内に収容される。さらに、内針ハブ103を後方に移動し、針100の先端部101を、内前板部31よりも後方に位置させる。針100の先端が、内前板部31よりも後方に位置すると、可動部23の付勢力により、内前板部31の下縁部31Aは底板部5に対して当接させられる。
【0046】
ところで、針100の周囲には、フランジ状に形成される突起部104が形成され、後板部3に形成される孔部20は、突起部104の外径よりも小さな内径に形成されている。そして、先端部101が、内前板部31の下縁部31Aを後方に向けて通過するあたりで、突起部104が後板部3の前面に当接するように、突起部104の位置が設定されている。したがって、先端部101が内前板部31よりも後方に位置させられた状態では、後板部3は、連結部13,14の近傍を支点として後方に向けて弾性的に撓んだ状態となる。この状態で、内針ハブ103を後方に移動する力を無くすると、後方に向けて弾性的に撓んだ後板部3は、前方に向かって復元する。すなわち、後板部3は、針100を前方に向けて付勢する付勢部として機能する。
【0047】
針100の突起部104と後板部3とは当接している。したがって、後板部3が、前方に向かって復元すると針100は僅かに前方に移動し、針100の先端部101が、内前板部31の後側面32に当接する。針100の先端部101が、内前板部31の後側面32に当接した状態で、後板部3が、突起部104を介して針100を前方に押す付勢力が作用するように、後板部3と内前板部31との前後方向の間隔が設定されている。針100の先端部101が、内前板部31の後側面32に当接した状態で、針100が前方に向けて付勢されることで、針100の先端部101が、内前板部31に対して押し付けられる。これにより、収容空間9に収容された針100を、収容空間9内で移動し難いものとすることができる。
【0048】
針100が収容空間9に収容され、可動部23が下方に向けて移動すると、突起部33と凸条203との係合が外れる。そのため、針刺し防止装置1を後方に移動することができ、針刺し防止装置1を外針ハブ200から抜き取ることができる。そして、針刺し防止装置1が取り出された外針ハブ200に対して輸液ラインを接続することができる。
【0049】
なお、針100の先端部101を内前板部31よりも後方に移動させずに、後板部3の付勢力により前方に向けて付勢した状態で、前板部4の後側面41に当接させる構成としてもよい。この場合には、内前板部31により針100を底板部5に向けて上方から押さえ付けた状態で、収容空間9に収容することができる。
【0050】
内前板部31の下縁部31Aには折返し部31Bが形成されている。折返し部31Bは、内前板部31の後側面32に当接された針100の先端部101の下側に位置している。また、折返し部31Bは、内前板部31の後側面32よりも後方に向けて突出している。したがって、折返し部31Bは、針100の先端部101の下側に係合することができる。そのため、針100の先端部101が内前板部31の下側を通って前方に抜けてしまうことを防止することができる。
【0051】
また、前板部4の上縁部4Aにも折返し部4Bが形成されている。折返し部4Bは、前板部4の後側面41よりも後方に向けて突出している。したがって、折返し部4Bは、針100の先端部101の上側に係合することができる。そのため、針100の先端部101が内前板部31の下縁部31Aと底板部5との間に挟み込まれる状態であっても、前板部4の上縁部4Aから前方に突出してしまうことを防止することができる。
【0052】
可動部23の支持部26,26よりも前方部分に設けられる内側板部27および内側板部28は、可動部23が下方位置に移動したときに、底板部5に当接することができるように構成されている。したがって、収容空間9に収容された使用済みの針100は、内側板部27,28により左右方向への移動が規制される。また、使用済みの針100の先端部101の上方には、先端上板部30が配置されている。したがって、収容空間9に収容された使用済みの針100は、先端上板部30により上方への移動が規制される。また、使用済みの針100の先端部101の下方には、底板部5が配置されている。したがって、収容空間9に収容された使用済みの針100は、底板部5により下方への移動が規制される。このように、使用済みの針100の先端部101の左右方向および上下方向は、内側板部27,28、先端上板部30および底板部5により囲まれている。つまり、針刺し防止装置1は、収容空間9に収容された使用済みの針100の先端部101が左右あるいは上下に移動した場合であっても、針100の先端部101が筐体2から飛び出してしまわないように構成されている。
【0053】
さらに、内側板部27の右側には、側板部7が配置され、また、内側板部28の左側には、側板部8が配置されている。したがって、万が一、内側板部27,28と底板部5との隙間から針100の先端部101が飛び出したとしても、側板部7,8によって、針100の先端部101が、筐体2から飛び出さない構成となっている。
【0054】
底板部5には、右側底板部15と左側底板部16との合わせ部40が形成され、この合わせ部40は、筐体2の外側に連通している。この合わせ部40の隙間は、針100の太さよりも狭く形成されていると共に、底板部5の対角線方向、すなわち、右後方から左前方に向けて斜めに形成されている。そのため、合わせ部40が、側板部7,8に平行に形成される場合に比べて、針100の先端部101が合わせ部40から筐体2の外側に飛び出し難い構成となっている。なお、合わせ部40は、直線状とする他、右側底板部15の縁部と左側底板部16の縁部とが互いに噛み合うジグザグの形状としてもよい。
【0055】
上板部6の左右方向中央には、孔部25が形成されている。孔部25を上板部6の左右方向中央に形成することで、孔部25の左右方向両側に支持部26,26が形成される。つまり、可動部23は、支持部26,26を介して固定部22に支持されている。そして、孔部25の前後方向の長さおよび左右方向の幅を適宜設定することで、支持部26,26の前後方向の長さや左右方向の幅を設定することができ、可動部23の上方位置から下方位置に向かう付勢力を調整することができる。
【0056】
ところで、上板部6の左右方向の両側を切り取り、中央部に支持部26,26に相当する支持部を形成し、この支持部の左右方向の幅や前後方向の長さを調整することにより、可動部23の付勢力を調整することもできる。しかしながら、左右方向に間隔を空けて配置される支持部26と支持部26とにより可動部23を固定部22に支持することで、中央部に支持部を配置する場合に比べて、可動部23の左右方向への撓みを抑えることができる。可動部23が左右方向に撓み、内側板部27,28が左右方向に移動すると、針100の先端部101が、内側板部27,28の外側に飛び出し易くなる。しかしながら、上述のように、左右に間隔を空けて配置される支持部26と支持部26とにより可動部23を固定部22に支持することで、内側板部27,28の左右方向への移動を抑えることができる。これにより、針100の先端部101が、内側板部27,28の外側に飛び出し難いものとすることができる。
【0057】
上述の構成を有する針刺し防止装置1においては、後板部3と底板部5との間に、開口部42が形成されている。板体2Aを曲げ加工する際に、板体2Aを支持するための治具を、開口部42に挿入することができるため、針刺し防止装置1の曲げ加工を容易に行うことができる。開口部42は、固定部22に対向する位置である。つまり、板体2Aを曲げ加工する際には、治具を固定部22に当てた状態で板体2Aの曲げ加工を行うことになる。針刺し防止装置1は、固定部22を基準にして、後板部3、側板部7,8、可動部23等が配置されている。たとえば、後板部3および可動部23は、固定部22に対して(基準にして)変位したりあるいは撓む。したがって、固定部22に治具をあてがい、板体2Aの曲げ加工を行うことで、板体2Aの曲げ加工の精度を向上させることができる。また、固定部22に治具をあてがうことで、曲げ加工を行う際に、治具を板体2Aにあてがう位置の変更を少なくすることができ、加工作業の効率化を図ることができる。
【0058】
上板部6には、開口部29が形成されている。この開口部29により針刺し防止装置1の外側から収容空間9内を見ることができる。したがって、操作者は、使用済みの針100を収容空間9に収容させる際に、針100の先端部101が完全に収容空間9に収容されたか否かを開口部29を通して確認することができる。
【0059】
(変形例)
以上に説明した針刺し防止装置1の変形例である針刺し防止装置50を、図8,9,10に示す。図8は、針刺し防止装置50を前方斜め上方から見たときの概略の構成を示す斜視図あり一部破断図として示されている。図8には、使用可能な針100の先端部101を突出させた状態で保持している針刺し防止装置50が示されている。図9は、使用可能な針100が保持されているときの針刺し防止装置50の概略の断面図である。図10は、使用済みの針100が収容されているときの針刺し防止装置50の概略の断面図である。なお、上述の針刺し防止装置1と対応する構成部分については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0060】
針刺し防止装置50は、底板部5に替えて、第3の壁部として下側支持部51が設けられている。下側支持部51の針100の先端部101を支持する部分51Aは、前板部4の上縁部4Aよりも下側に位置している。下側支持部51は、側板部7と側板部8の内側の面に設けられている。下側支持部51により、収容空間9に収容された使用済みの針100の先端部101を支持することができる。
【0061】
下側支持部51の前端部には上方に立ち上がる突起部52(図9,10参照)が設けられている。また、後板部3の前方には、上板部6から下方に向けて設けられる付勢部として下垂部53が設けられている。下垂部53は、前後方向に薄い板状体を呈し、前後方向に弾性を有して撓むことができる。下垂部53には下方に向けて開口する凹部54が形成されている。使用済みの針100は、凹部54を通され、突起部104が下垂部53に当接させられると共に、先端部101が突起部52の後面に当接させられる。この状態で、突起部104を介して使用済みの針100を前方に付勢することができるように下垂部53と突起部52との距離等が設定されている。つまり、使用済みの針100は、下垂部53により前方に向けて付勢力されることで、針100の先端部101が、突起部52に対して押し付けられる。これにより、収容空間9に収容された針100を、収容空間9内で移動し難いものとすることができる。
【0062】
なお、使用済み針100の先端部101が、突起部52から前方側に外れた場合に、先端部101は、前板部4に当接する。つまり、前板部4は、突起部52から前方側に外れた使用済み針100の前方への移動を阻止し、先端部101が筐体2から飛び出てしまうことを防止することができる。
【0063】
針刺し防止装置50は、筐体2の上方に開口する開口部55と、下方に開口する開口部56とを型の抜き部とすることで、樹脂成形により一体的に形成することができる。樹脂成形により形成することで、後板部3に形成される円筒部21の前後方向の厚さを容易に長く形成することができる。円筒部21の前後方向の厚さを長くすることで、使用済みの針100を上下左右に振れ難くすることができ、先端部101が筐体2から飛び出してしまうことを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0064】
1,50 … 針刺し防止装置
2 … 筐体
3 … 後板部(第1の壁部、付勢部)
4 … 前板部(第2の壁部)
5 … 底板部(第3の壁部)
6 … 上板部(第4の壁部)
7 … 側板部(第5の壁部)
8 … 側板部(第6の壁部)
9 … 収容空間
20 … 孔部
25 … 孔部
27 … 内側板部(第7の壁部)
28 … 内側板部(第8の壁部)
30 … 壁部(先端上板部)
31 … 内前板部(接触部)
32 … 後側面(面部)
42 … 開口部
53 … 下垂部(付勢部)
100 … 針
101 … 先端部
104 … 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用可能な針を、その先端を突出させた状態で保持すると共に、上記針が使用済みとなったとき、この使用済みの針の先端を内部の収容空間に収容させた状態で保持することができる筐体を備える針刺し防止装置において、
上記筐体は、
上記針の軸方向への移動を許容するように上記針の基端側が通される孔部が形成される第1の壁部と、
上記使用可能な針の先端側を支持することができると共に、上記使用済みの針の先端側への移動を阻止することができる第2の壁部と、
上記使用済みの針の先端側を支持する第3の壁部と、
上記使用可能な針に対して、上記第3の壁部の側と反対側で接触することができる接触部を有し、上記接触部を介して、上記使用可能な針を上記第3の壁部に向けて付勢することができると共に、上記使用済みの針の少なくとも先端部において上記第3の壁部と対向する壁部を有する第4の壁部と、
上記使用済みの針を挟んで第3の壁部の両側に配置される第5および第6の壁部と、
上記針に設けられる突起部に係合し、上記使用済みの針を先端方向に向けて付勢することができる付勢部と、
を有する
ことを特徴とする針刺し防止装置。
【請求項2】
請求項1に記載の針刺し防止装置において、
前記第4の壁部には、付勢力を調整するための孔部が形成されている、
ことを特徴とする針刺し防止装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の針刺し防止装置において、
前記第4の壁部には、前記使用済みの針と前記第5の壁部との間に配置される第7の壁部および前記使用済みの針と前記第6の壁部との間に配置される第8の壁部が設けられている、
ことを特徴とする針刺し防止装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1に記載の針刺し防止装置において、
前記接触部は、前記収容空間に面する面部を有する、
ことを特徴とする針刺し防止装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1に記載の針刺し防止装置において、
前記第1の壁部と前記第3の壁部との間には開口部が形成されている、
ことを特徴とする針刺し防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−161020(P2011−161020A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27499(P2010−27499)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(510038681)株式会社小松プレシジョン (1)
【Fターム(参考)】