説明

針状体の製造方法

【課題】例えばMEMSデバイス、医療、創薬に用いられている微細なアレイ状の針状体において、任意の長さを持ち、精度良く一体成型することのできる針状体の製造方法を提供する。
【解決手段】シリコンウェハ上に複数の針状体を形成すべき箇所を開口部とするように第一のマスクを施し、結晶異方性エッチングを施すことによって、針状体の先端となる上部斜面を形成する。次に、前記第一のマスクを剥離し、前記上部斜面の針状体を形成すべき箇所に、第二のマスクを施し、前記結晶異方性エッチングを施した面と同方向の面から、エッチングステップとパッシベーションステップを繰り返して、針状体の本体を形成するドライエッチングを施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシリコン基板上に一体成型されたアレイ状の針状体及びその製造方法に関し、例えばMEMSデバイス、医療、創薬に用いる針状体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療、創薬における分野では、痛みを伴わない無痛針として微細な針状体の開発が進められている。この微細な針状体の作成法としては、一般的にシリコンを加工する事により構造を形成する試みが行われている。シリコンは、MEMSデバイスや半導体製造用途にも使用されているように安価で、且つ微細加工に適している。
【0003】
シリコン製の針状体の作成方法としては、シリコンウェハの両面に酸化膜を形成してパターニングを施し、その表面から結晶異方性エッチング加工を施し、裏面からドライエッチング加工を施すようにしたものが提案されている(例えば特許文献1参照)。この方法により、例えば長さ500μm以上、幅200μm以下の針状体を作成することができ、またその針状体をアレイ状にすることによって採血の確実性を増すことができるというものである。
【0004】
また、医療、創薬の分野においては、微細な針状体を用いて薬物を体内に浸透させることが報告されている。(非特許文献1)
【0005】
また、医療、創薬の分野においては、人体への影響を無視することは出来ない。このため人体へ用いる用途においては、人体への影響が低負荷である材料を用いた針状体が望まれる。このような人体の影響が低負荷である材料としてポリ乳酸などを用いた微細な針状体を形成した例が報告されている。(非特許文献2)
【特許文献1】特開2002−369816号公報
【非特許文献1】Henry, S., McAllister, D. V., Allen, M. G., and Prausnitz, M. R., 1998, “Microfabricated Microneedles: A Novel Approach to Transdermal Drug Delivery,” Journal of Pharmaceutical Sciences, Vol. 87, pp. 922−925.
【非特許文献2】Jung−Hwan Park Davis, S. Yong−Kyu Yoon Prausnitz, M.R. Allen, 2003, “Micromachined Biodegradable Microstructures” Micro Electro Mechanical Systems, 2003. MEMS−03 Kyoto. IEEE The Sixteenth Annual International Conference on, pp. 371−374
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば医療の中でも経皮剤として針状体を用いる際には、針状体の長さは表皮長さを超える200μm程度の長さが必要であり、効率よく皮膚内に効果を得るためにアレイ状にして用いられるのが一般的である。
しかしながら、上記従来技術では、ウェハを打ち抜くことによって個々の針状体を形成することになるので、500μm未満の長さのものを形成するのは難しい。
また、アレイ状針を形成する際に、一度形成した個々の針状体を別の工程でアレイ状に配列し直さなくてはならず、工程数が多くなり、歩留まりが悪くなる。
【0007】
そこで本発明は、任意の長さを持ち、アレイ状に一体成型することのできる微細な針状体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の本発明は、アレイ状に一体成型される微細な針状体の製造方法であって、シリコンウェハ上に複数の針状体を形成すべき箇所を開口部とするように第一のマスクを施し、結晶異方性エッチングを施すことによって、針状体の先端となる上部斜面を形成する工程と、前記第一のマスクを剥離し、前記上部斜面の針状体を形成すべき箇所に、第二のマスクを施し、前記結晶異方性エッチングを施した面と同方向の面から、エッチングステップとパッシベーションステップを繰り返して、針状体の本体を形成するドライエッチングを施す工程とを有することを特徴とする針状体の製造方法である。
【0009】
請求項2に記載の本発明は、前記第一のマスクはシリコンウェハの両面を酸化処理によって酸化膜を形成した後、フォトリソグラフィー法およびエッチング処理法によって一列に形成される針状体を含むように形成された、長方形の開口部をもつマスクパターンである請求項1記載の針状体の製造方法である。
請求項3に記載の本発明は、前記開口部は、針状体が並べられた列が複数形成されるように、各列を含む直方形に形成されて複数設けられ、かつ、各開口部の長辺を平行させて配置されていることを特徴とする請求項1記載の針状体の製造方法である。
請求項4に記載の本発明は、前記各開口部の長辺の間に位置する各前記第1のマスク部分同士の間隔は、製造すべき針状体の横断面の設計寸法の二倍の距離となっていることを特徴とする請求項3記載の針状体の製造方法である。
【0010】
請求項5に記載の本発明は、前記上部斜面がシリコン(111)面であることを特徴とすることを特徴とする請求項1記載の針状体の製造方法である。
【0011】
請求項6に記載の本発明は、前記上部斜面によりV字型の溝が形成されており、前記第二のマスクは、前記結晶異方性エッチングを施したシリコンウェハにレジストを塗布し、フォトリソグラフィー法によって形成されたマスクパターンであり、前記V字型の溝の底面を覆うように前記第二のマスクを配置することで、前記ドライエッチングを施す工程において、針状体の先端部にV字型の溝を形成することを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の針状体の製造方法である。
請求項7に記載の本発明は、前記第二のマスクは、前記結晶異方性エッチングを施したシリコンウェハにレジストを塗布し、フォトリソグラフィー法によって形成されたマスクパターンであり、前記マスクパターンは、中央に開口を有する枠状を呈し、前記ドライエッチングを施す工程において、前記開口に対応した箇所に孔を有する針状体が形成されることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の針状体の製造方法である。
請求項8に記載の本発明は、前記上部斜面によりV字型の溝が形成されており、前記第二のマスクは、前記結晶異方性エッチングを施したシリコンウェハにレジストを塗布し、フォトリソグラフィー法によって形成されたマスクパターンであり、前記マスクパターンは、前記V字型の溝を構成する2つの斜面を含む箇所を露出させる開口が中央に形成された枠状を呈し、前記ドライエッチングを施す工程において、前記開口に対応した箇所に孔が形成され、かつ、この孔の先端内周面が前記2つの斜面部分となっている針状体が形成されることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の針状体の製造方法である。
【0012】
請求項9に記載の本発明は、請求項1から8のいずれかに記載の方法で作製した針状体を母型とし、転写加工成形を行うことにより、生体適合性樹脂を用いた針状体を形成することを特徴とする針状体の製造方法である。
【0013】
請求項10に記載の本発明は、アレイ状に一体成型される微細な針状体の製造方法であって、シリコンウェハ上に複数の針状体を形成すべき箇所に機械加工、レーザー加工、またはドライエッチングのいずれかによって溝を形成することによって、針状体の先端となる上部斜面を形成する工程と、前記上部斜面の針状体を形成すべき箇所に、マスクを施し、前記結晶異方性エッチングを施した面と同方向の面から、エッチングステップとパッシベーションステップを繰り返して、針状体の本体を形成するドライエッチングを施す工程と、を有することを特徴とする針状体の製造方法である。
【0014】
請求項11に記載の本発明は、前記上部斜面によりV字型の溝が形成されており、前記マスクは、溝が形成されたシリコンウェハにレジストを塗布し、フォトリソグラフィー法によって形成されたマスクパターンであり、機械加工、レーザー加工、またはドライエッチングのいずれかによって前記V字型の溝の底面を覆うように前記マスクを配置することで、前記ドライエッチングを施す工程において、針状体の先端部にV字型の溝を形成することを特徴とする、請求項10に記載の針状体の製造方法である。
請求項12に記載の本発明は、前記マスクは、前記結晶異方性エッチングを施したシリコンウェハにレジストを塗布し、フォトリソグラフィー法によって形成されたマスクパターンであり、前記マスクパターンは、中央に開口を有する枠状を呈し、前記ドライエッチングを施す工程において、前記開口に対応した箇所に孔を有する針状体が形成されることを特徴とする、請求項10に記載の針状体の製造方法である。
請求項13に記載の本発明は、前記上部斜面によりV字型の溝が形成されており、前記マスクは、前記結晶異方性エッチングを施したシリコンウェハにレジストを塗布し、フォトリソグラフィー法によって形成されたマスクパターンであり、前記マスクパターンは、前記V字型の溝を構成する2つの斜面を含む箇所を露出させる開口が中央に形成された枠状を呈し、前記ドライエッチングを施す工程において、前記開口に対応した箇所に孔が形成され、かつ、この孔の先端内周面が前記2つの斜面部分となっている針状体が形成されることを特徴とする、請求項10に記載の針状体の製造方法である。
【0015】
請求項14に記載の本発明は、請求項10から13のいずれかに記載の方法で作製した針状体を母型とし、転写加工成形を行うことにより、生体適合性樹脂を用いた針状体を形成することを特徴とする針状体の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の針状体の製造方法は、シリコンウェハに結晶異方性エッチング加工もしくは機械加工を施して針状体の先端となる斜面を形成し、その後、同方向からドライエッチング加工を施して針状体を形成するという製造方法であるため、シリコンウェハ上に一体的に任意の高さのアレイ状の針状体を形成できる効果を奏する。また、上部斜面形成を列単位で行うことで、その後の針状体の形成の数的余裕を増やすことができる。
【0017】
また、本発明の針状体の製造方法は、結晶異方性エッチング加工もしくは機械加工によって溝が形成されたシリコンウェハにレジストを塗布し、フォトリソグラフィー法によって形成されたマスクパターンを、V字型に形成した溝の底面を覆うように配置することで、針状体の先端部に、薬効のある物質を保持するのに好適なV字型の溝を形成することが可能となる針状体の製造方法である。
【0018】
また、本発明の針状体の製造方法は、シリコンで作製した微細な針状体を母型とし、転写加工成形を行うことにより、生体適合性樹脂を用いた針状体を形成することを特徴とすることにより、人体に低負荷の樹脂を用いた針状体を作製可能とする針状体の製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態では、以下のような工程で一体成型されたアレイ状の針状体を製造する。
まず、第一の工程として、シリコンウェハの表面に結晶異方性エッチング加工に対応した酸化膜マスクを形成し、次に、前記酸化膜マスクをパターニングするために酸化膜上にレジストマスクを所定の形状に形成し、前記レジストマスクによって前記酸化膜マスクをパターニングし、前記酸化膜に対応して設けられたレジストマスクを除去し、前記酸化膜マスクを用いてシリコンウェハに結晶異方性エッチングを施し針状体の上部斜面を形成する。
また、第一の工程として、針状体の上部斜面を形成する際に結晶異方性エッチング加工ではなく、機械加工、レーザー加工、または、ドライエッチングのいずれかで上部斜面を形成してもよい。
次に、第二の工程として、前記酸化膜マスクを除去し、結晶異方性エッチングによって形成された溝にドライエッチング加工に対応したレジストマスクを形成し、前記レジストマスクを用いてドライエッチング加工を施し、前記ドライエッチング用に設けられたレジストマスクを除去し、針状体を形成する。
【0020】
以上のような本実施の形態において、シリコンウェハは半導体工程などに用いられており、安価で、かつ高い加工精度での成型が可能である。
また、シリコンは結晶異方性エッチング加工に対して、面方位によって大きくエッチング速度が違うため、針の先端形状となる斜めのテーパ面を容易に形成することができる。
【0021】
具体的には、半導体用途に一般的に用いられている表面が(100)面のシリコンウェハに対して、結晶異方性エッチングを施すことにより、エッチング速度の遅い(111)面が(100)面に対して54.7度の角度で形成される。この角度は、シリコンの持つ物性によって必然的に決定される角度である。これにより、針本体の先端角度は35.3度となる。また、ドライエッチング加工と結晶異方性エッチング加工を同方向から施すことによって、シリコン基板上に一体成型されたアレイ状の針状体を形成することができる。
【0022】
また、機械加工、レーザー加工で上部斜面を形成する場合、斜面を形成するためのマスク処理を行う必要がなくなるため工程を簡便化できる。また、結晶異方性エッチング加工以外の方法を用いた場合、溝の角度をシリコンの物性に寄らず形成することが可能となるため、針本体の先端角度を35.3度よりも鋭くさせることが可能となる。
【0023】
以下、本実施の形態による針状体の製造方法について、図1および図2を参照しつつ、工程順に詳細に説明する。
(1)シリコンウェハの表面に結晶異方性エッチング加工に対応した酸化膜マスクを形成する工程(図1(A))。
ここでは、シリコンウェハ10の両面に酸化処理を施して酸化膜11を形成する。また、シリコンウェハ10には、例えば厚さ525μmの(100)面が表面となっているシリコンウェハを用いる。なお、酸化膜の形成には、例えば熱酸化法を用いる。
また、ここで両面に酸化膜を形成する理由としては、後の工程の結晶異方性エッチングによる加工工程で、裏面がエッチングされるのを防ぐためである。
【0024】
(2)酸化膜マスクをパターニングするために酸化膜の上にレジストマスクを形成する工程(図1(B)および(C))。
次に、酸化膜11を形成したシリコンウェハ10の表側の面10aの酸化膜11aを所定の形状にパターニングするために、酸化膜11aの上にレジストマスク12を塗布し、これをパターニングする。
【0025】
また、図6に示すように、針状体15をシリコンウェハ10上にアレイ状に一体に成型するため、例えば図2に示すようにレジストをパターニングする。
この場合のパターンは、被覆部1202と、複数の開口部1204からなり、各開口部1204は、針状体15の列の長手方向に沿った一対の長辺を有する長方形を呈し(厳密にはレジストは厚みを有しているので開口部1204は直方体状を呈し)、複数の開口部1204はその長辺を平行させて並んでいる。
なお、針状体を効率よく作成するために、パターニングするレジスト同士の間隔は、実質的に作成する針状体単体の底面の設計寸法の二倍の距離とすることが好適である。より詳細には、各開口部1204の長辺の間に位置する被覆部部分1202A同士の間隔L(開口部1204の短辺の寸法)は、針状体の横断面の設計寸法(針状体の横断面が矩形である場合には、縦の寸法あるいは横の寸法、針状体の横断面が円形である場合には、直径の寸法)の二倍の距離とすることが好適である。さらに、より多くの針状体を形成するためにレジスト(被覆部部分1202A)の幅Wはできるだけ狭い間隔にするのが好適である。
【0026】
(3)酸化膜マスクをパターニングする工程(図1(D))。
次に、レジストのパターニングによって表面に露出した酸化膜を、レジストの形状に沿ってパターニングする。この酸化膜のパターニングには、例えばCFをエッチングガスとしたドライエッチングを用いるのが好適である。
【0027】
(4)酸化膜のパターン形成のために設けたレジストマスクを除去する工程(図1(E))。
次に、酸化膜11上に設けられたレジストマスク12を除去する。ここでレジストマスクは、例えば酸素プラズマによるアッシングによって除去する。
【0028】
(5)シリコンウェハに結晶異方性エッチングを施し針状体の上部斜面を形成する工程(図1(F))。
酸化膜マスク11cを設けた状態で、表面に露出したシリコンウェハ10aに対して結晶異方性エッチングを施す。結晶異方性エッチングは、いわゆるウェットエッチングを行い、例えばTMAH溶液(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド溶液)を用い、所定の深さまで加工する。上述したように、シリコンウェハ10には、表面が(100)面のものを用い、異方性エッチングにより(111)面が針状体の上部斜面となるようにする。
【0029】
図2で示したパターン形状の場合、ウェットエッチングによって加工される形状は、図1(F)のようにパターンの中間が一番深くなった、斜面14が(111)面となっている、実質的にV字型の溝となる。
【0030】
(6)酸化膜マスクを除去する工程(図1(G))。
次に、結晶異方性エッチングに対応して設けた酸化膜マスク11を除去する。この酸化膜マスクの除去には、例えばHF溶液を用いる。
【0031】
また、(1)から(6)の工程の代わりに、機械加工、レーザー加工、またはドライエッチングのいずれかを用いて、V字型の溝を形成してもよい。このとき、機械加工としては、例えば、ダイジングブレードを用いたダイジングなどが挙げられる。
【0032】
(7)結晶異方性エッチングによって形成されたV字型の溝にドライエッチング加工に対応したレジストマスクを形成しパターニングする工程(図1(H)および(I))。
まず、V字型の溝にドライエッチング加工に対応したレジストマスクを形成し(図1(H))、次に、結晶異方性エッチング加工によって形成されたV字斜面14を持つシリコンウェハ10にレジストを塗布し、図5に示すような配置になるようにフォトリソグラフィー法によりパターニングする(図1(I))。レジストパターン13(a)は円形や多角形、例えば、三角形や四角形や星型の形状で形成してもよい。レジストパターン13(a)を円形や多角形となる形状に形成すると、後述するドライエッチングを施す工程において、円柱や多角柱の形状を有する針状体を製造することが出来る。
【0033】
このとき、位置合わせ露光法によって、レジストパターン13(a)がV字溝の2つの斜面を含む領域にレジストパターンを形成してもよい(図7(1))。この場合、図7(2)、(3)に示すように、針状体15の先端部にV字型の溝1502を残すことが可能となる。また、レジストパターン13(a)の位置についてV字溝の2つの斜面をどの割合で覆うかを制御することにより、針状体15の先端部のV字型の溝1502の深さを制御することが出来る。針状体15の先端部にV字型の溝1502を形成することで、針状体15を薬効のある物質を保持するのに好適な形状に製造することが出来る。
【0034】
また、レジストパターン13(a)を、中央に開口を有する円形や多角形の枠となる形状に形成してもよい。レジストパターン13(a)を枠となる形状に形成すると、後述するドライエッチングを施す工程において、図8(1)乃至(3)に示すように、開口1302に対応した箇所に孔1512が形成され、したがって、中心に孔1512を有する中空の針状体15を形成することが可能となる。針状体15に孔1512を形成することで、例えば、血液の採取、薬液の注入に好適な形状に製造することが出来る。
この場合、マスクパターン13(a)を、図9(1)乃至(3)に示すように、V字型の溝を構成する2つの斜面を含む箇所を露出させる開口1302が中央に形成された枠状にしておくと、後述するドライエッチングを施す工程において、開口1302に対応した箇所に孔1512が形成され、かつ、この孔1512の先端内周面が互いに向かい合う2つの斜面部分となっている中空の針状体15が形成される。
【0035】
(8)レジストマスクを用いてドライエッチング加工を施し針状体を形成する工程(図1(J))。
次に、針状体の本体の形状を出すために、シリコンウェハの表側の面10aからドライエッチング加工を施し、針状体15を形成する。このドライエッチングには、例えば、ICP−RIE(誘導結合型プラズマによる反応性イオンエッチング)装置を用いるのが好適である。
このICP−RIE装置を用い、反応ガスとして、例えば、SFをエッチングガス、Cをパッシベーションガスとして、エッチングステップとパッシベーションステップを交互に繰り返す、いわゆるボッシュプロセスを用いるのが好適である。
この時、ドライエッチング加工によって突出させる針状体15の高さは、エッチングステップとパッシベーションステップを交互に繰り返す回数によって決定される。
【0036】
(9)ドライエッチング用に設けられたレジストマスクを除去する工程(図1(K))。
次に、針状体15の上部斜面に形成されたレジストマスク13aを除去する。レジストマスクは、例えば酸素プラズマによるアッシングによって除去する。
【0037】
以下、シリコン製の針状体の転写加工成形を行い、生体適合性樹脂を用いた針状体の製造方法について説明を行う。
【0038】
(10)針状体を複製するための原版を作製する工程。
シリコン基板を加工して形成した前記針状体を複製する場合、針状体の全面にめっき法によって金属層を一様に形成する。次いでシリコンからなる針状体をKOHやTMAH等の熱アルカリ溶液によるウェットエッチングによって除去し、金属からなる原版を作製する。
【0039】
形成する金属膜の厚さに制限は無いが、少なくとも針状体の高さの2倍以上の厚さに形成することが好ましい。金属の種類には特に制限は無く、例えばニッケルや銅、各種の合金などが好適に用いられる。また、金属以外の材料であるセラミックや樹脂を用いても良い。膜の形成方法としてはめっき法の他に、プラズマ成膜法、スパッタ法、CVD法、蒸着法、焼結法、キャスティング法等も好適に用いることができる。
【0040】
(11)針状体を複製する工程。
前記の原版を用い、インプリント法、ホットエンボス法、射出成形法、キャスティング法などによって、針状体の複製を行う。複製品の材質は特に制限されないが、生体適合性材料であるデキストラン、ポリ乳酸、シリコーン等を用いることで、生体に適用可能な針状体を形成できる。
【実施例1】
【0041】
以下に、具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
ここでは、(100)面を表面にもつ、厚さ525μmの単結晶シリコンウェハ10を準備した。次いで、このシリコンウェハ10の基板の両面を熱酸化して、熱酸化膜層11を形成した。熱酸化膜層11の厚さは表側の面、裏側の面共に3000Åとした。
【0042】
次いで、以下の要領で両面に熱酸化膜層11を形成したシリコンウェハ10に対して、結晶異方性エッチングを施すための、熱酸化膜11aのパターニング処理を施した。すなわち、両面に熱酸化膜層11を形成したシリコンウェハ10の表側の面10aの熱酸化膜11aにレジストマスク12を図1(B)に示すような形に形成し、ドライエッチングによって熱酸化膜11aをシリコンウェハ10の表面10aが露出するまでエッチングを施した。
【0043】
なお、図2のマスクの間隔Lは100μmとした。
また、スピンコーティング法によって厚さ7μmのレジストを、熱酸化膜11aを形成したシリコンウェハ10の表側の面に形成した。さらに、レジストマスクのパターニングにはアライナを用い、現像液に6分間浸漬し、その後2分間、超純水に浸漬するリンス処理を施すことによってマスクパターンを形成した。
また、熱酸化膜11aのドライエッチングには、CFをエッチングガスとして、パターン内の酸化膜が完全に除去されるまでエッチング処理を施した。
【0044】
次いで、酸素プラズマによるアッシングを30分間施すことによって、熱酸化膜11a上に形成されたレジストマスク12を除去した。
そして、このようにして熱酸化膜をパターニングしたシリコンウェハ10に、以下の要領で結晶異方性エッチング処理を施した。
【0045】
まず、エッチング液には12.5%に薄めたTMAH液を6L用意した。
この、12.5%に薄めたTMAH液を80°Cに昇温し、そこに熱酸化膜をパターニングしたシリコンウェハを140分間浸漬し、その後、20分間、超純水に浸漬するリンス処理を施した。
【0046】
シリコンウェハの表面は(100)面であり、TMAH液でエッチングをする場合には、図3(B)に示すように、マスク端部からエッチング速度の遅い(111)面14aが表面に現れ、図3(C)に示すように、(111)面同士がぶつかり合ったところでエッチング速度が急激に落ち、形状が維持される。このようにしてできたV字型の溝1502が針状体の上部斜面となる。
なお、図4に示すように、シリコン単結晶では、(100)面と(111)面のなす角度は54.7度となるため、針状体の先端部分の斜面角度θは35.3度で形成される。
【0047】
このようにして、V字型の溝を形成したシリコンウェハ10を、5%に薄めたHF(フッ化水素酸)に20分間浸漬し、その後10分間、超純水に浸漬するリンス処理を施すことによって熱酸化膜11を除去した。
【0048】
次いで、V字型の溝を形成したシリコンウェハ10を深掘りするためのレジストマスク13をパターニングした。ここで、スピンコーティング法によって厚さ35μmのレジストを、図1(I)に示すようにシリコンウェハのV字型の溝上に形成した。
【0049】
このようにして、V字型の溝上にレジストをパターニングしたシリコンウェハを、ICP−RIE装置を用い、反応ガスとしてSFのエッチングガスと、Cのパッシベーションガスを交互にプラズマ化させて、エッチングステップとパッシベーションステップを繰り返す、いわゆるボッシュプロセスによって深掘り処理を施した。
【0050】
エッチングステップとパッシベーションステップを繰り返して、針状体の高さが200μmに達するまでエッチングを行い、アレイ状の針状体を一体成型した。
このようにして形成した針状体15は、図6に示すようにシリコンウェハ10上にアレイ状に一体に成型される。
【実施例2】
【0051】
実施例1と同様にして、結晶異方性エッチングを施すことによって、針状体の先端となる上部斜面を形成した。
【0052】
次に、V字型の溝を形成したシリコンウェハ10を深掘りするためのレジストマスク13aをパターニングした。ここで、スピンコーティング法によって厚さ35μmのレジストを、図7(1)に示すように、シリコンウェハのV字型の溝の底面を覆うように形成した。
【0053】
このようにして、V字型の溝上にレジストをパターニングしたシリコンウェハを、ICP−RIE装置を用い、反応ガスとしてSFのエッチングガスと、Cのパッシベーションガスを交互にプラズマ化させて、エッチングステップとパッシベーションステップを繰り返す、いわゆるボッシュプロセスによって深掘り処理を施した。
【0054】
エッチングステップとパッシベーションステップを繰り返して、針状体の高さが200μmに達するまでエッチングを行い、アレイ状の針状体を一体成型した。
このようにして形成した針状体15は、シリコンウェハ10上にアレイ状に一体に成型される点は実施例1と同様である。また、このとき、針状体15の先端は図7(3)に示すようなV字型の溝1502が形成された。
【実施例3】
【0055】
実施例1で得られたシリコン製の針状体を母型として転写成形加工を行った。
【0056】
実施例1で得られた針状体の全面にめっき法によってニッケルを厚さ600μm形成した。次いでシリコンからなる実施例1で得られた針状体を90℃に加熱したKOH溶液によるウェットエッチングによって除去し、ニッケルからなる原版を作製した。
【0057】
前記のニッケル原版を用い、インプリント法によって、針状体の複製を行った。ここでは生体適合性材料であるポリ乳酸を用いた。これにより、ポリ乳酸から成る針状体を、図6に示す通りのアレイ状に一体成型された形で形成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態による針状体の製造工程を経時的に説明するための概略断面図である。
【図2】図1に示す実施の形態でシリコンウェハ上に形成した結晶異方性エッチング用レジストのパターン配置を示す説明図である。
【図3】図1に示す実施の形態による結晶異方性エッチングを経時的に説明する概略断面図である。
【図4】図1に示す実施の形態で形成した針状体の単体を示す側断面図である。
【図5】図1に示す実施の形態によるドライエッチングに対応したレジストのパターン配置を示す説明図である。
【図6】図1に示す実施の形態で形成した針状体のアレイを示す斜視図である。
【図7】V字型に形成した溝の底面を覆うようにマスクを配置することで先端部にV字型の溝を形成した針状体の製造方法の説明図である。
【図8】中空状の針状体の製造方法の説明図である。
【図9】中空状の針状体の製造方法の説明図である。
【符号の説明】
【0059】
10、10a、10b……シリコン基板(シリコンウェハ)、11、11a、11c……酸化膜、12……酸化膜エッチングに対応したレジストマスク、13a……シリコン基板エッチングに対応したレジストマスク、14、14a……斜面(111)テーパ面、15……針状体、1502……V字型の溝、θ……先端角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイ状に一体成型される微細な針状体の製造方法であって、
シリコンウェハ上に複数の針状体を形成すべき箇所を開口部とするように第一のマスクを施し、結晶異方性エッチングを施すことによって、針状体の先端となる上部斜面を形成する工程と、
前記第一のマスクを剥離し、前記上部斜面の針状体を形成すべき箇所に、第二のマスクを施し、前記結晶異方性エッチングを施した面と同方向の面から、エッチングステップとパッシベーションステップを繰り返して、針状体の本体を形成するドライエッチングを施す工程と、
を有することを特徴とする針状体の製造方法。
【請求項2】
前記第一のマスクはシリコンウェハの両面を酸化処理によって酸化膜を形成した後、フォトリソグラフィー法およびエッチング処理法によって一列に形成される針状体を含むように形成された、長方形の開口部をもつマスクパターンである請求項1記載の針状体の製造方法。
【請求項3】
前記開口部は、針状体が並べられた列が複数形成されるように、各列を含む直方形に形成されて複数設けられ、かつ、各開口部の長辺を平行させて配置されていることを特徴とする請求項1記載の針状体の製造方法。
【請求項4】
前記各開口部の長辺の間に位置する各前記第1のマスク部分同士の間隔は、製造すべき針状体の横断面の設計寸法の二倍の距離となっていることを特徴とする請求項3記載の針状体の製造方法。
【請求項5】
前記上部斜面がシリコン(111)面であることを特徴とすることを特徴とする請求項1記載の針状体の製造方法。
【請求項6】
前記上部斜面によりV字型の溝が形成されており、前記第二のマスクは、前記結晶異方性エッチングを施したシリコンウェハにレジストを塗布し、フォトリソグラフィー法によって形成されたマスクパターンであり、前記V字型の溝の底面を覆うように前記第二のマスクを配置することで、前記ドライエッチングを施す工程において、針状体の先端部にV字型の溝を形成することを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の針状体の製造方法。
【請求項7】
前記第二のマスクは、前記結晶異方性エッチングを施したシリコンウェハにレジストを塗布し、フォトリソグラフィー法によって形成されたマスクパターンであり、前記マスクパターンは、中央に開口を有する枠状を呈し、前記ドライエッチングを施す工程において、前記開口に対応した箇所に孔を有する針状体が形成されることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の針状体の製造方法。
【請求項8】
前記上部斜面によりV字型の溝が形成されており、前記第二のマスクは、前記結晶異方性エッチングを施したシリコンウェハにレジストを塗布し、フォトリソグラフィー法によって形成されたマスクパターンであり、前記マスクパターンは、前記V字型の溝を構成する2つの斜面を含む箇所を露出させる開口が中央に形成された枠状を呈し、前記ドライエッチングを施す工程において、前記開口に対応した箇所に孔が形成され、かつ、この孔の先端内周面が前記2つの斜面部分となっている針状体が形成されることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の針状体の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の方法で作製した針状体を母型とし、転写加工成形を行うことにより、生体適合性樹脂を用いた針状体を形成することを特徴とする針状体の製造方法。
【請求項10】
アレイ状に一体成型される微細な針状体の製造方法であって、
シリコンウェハ上に複数の針状体を形成すべき箇所に機械加工、レーザー加工、またはドライエッチングのいずれかによって溝を形成することによって、針状体の先端となる上部斜面を形成する工程と、
前記上部斜面の針状体を形成すべき箇所に、マスクを施し、前記結晶異方性エッチングを施した面と同方向の面から、エッチングステップとパッシベーションステップを繰り返して、針状体の本体を形成するドライエッチングを施す工程と、
を有することを特徴とする針状体の製造方法。
【請求項11】
前記上部斜面によりV字型の溝が形成されており、前記マスクは、溝が形成されたシリコンウェハにレジストを塗布し、フォトリソグラフィー法によって形成されたマスクパターンであり、機械加工、レーザー加工、またはドライエッチングのいずれかによって前記V字型の溝の底面を覆うように前記マスクを配置することで、前記ドライエッチングを施す工程において、針状体の先端部にV字型の溝を形成することを特徴とする、請求項10に記載の針状体の製造方法。
【請求項12】
前記マスクは、前記結晶異方性エッチングを施したシリコンウェハにレジストを塗布し、フォトリソグラフィー法によって形成されたマスクパターンであり、前記マスクパターンは、中央に開口を有する枠状を呈し、前記ドライエッチングを施す工程において、前記開口に対応した箇所に孔を有する針状体が形成されることを特徴とする、請求項10に記載の針状体の製造方法。
【請求項13】
前記上部斜面によりV字型の溝が形成されており、前記マスクは、前記結晶異方性エッチングを施したシリコンウェハにレジストを塗布し、フォトリソグラフィー法によって形成されたマスクパターンであり、前記マスクパターンは、前記V字型の溝を構成する2つの斜面を含む箇所を露出させる開口が中央に形成された枠状を呈し、前記ドライエッチングを施す工程において、前記開口に対応した箇所に孔が形成され、かつ、この孔の先端内周面が前記2つの斜面部分となっている針状体が形成されることを特徴とする、請求項10に記載の針状体の製造方法。
【請求項14】
請求項10から13のいずれかに記載の方法で作製した針状体を母型とし、転写加工成形を行うことにより、生体適合性樹脂を用いた針状体を形成することを特徴とする針状体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−260889(P2007−260889A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161235(P2006−161235)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】