説明

釣合錘、および、それを有する圧縮機

【課題】本発明に係る釣合錘は、軸回転する回転体の振動を抑制することができる。
【解決手段】本発明に係る釣合錘は、軸回転する回転体60に発生する不釣合いを相殺する複数の釣合錘54,56である。複数の釣合錘54,56の内の一の釣合錘は、回転体60の回転方向に移動可能である可動釣合錘56である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣合錘、および、それを有する圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸回転する回転体に発生する不釣合いを相殺するために、釣合錘(バランスウェイト)が用いられている。例として、特許文献1(特開2006−57457号公報)に開示される、釣合錘を有する圧縮機について説明する。このロータリー式の圧縮機では、釣合錘が、モータの回転子の端面に取り付けられている。回転子に連結されて軸回転するクランク軸は、圧縮機構内部に偏心軸部を有するので、クランク軸と回転子とからなる回転体の軸回転時において、偏心軸部には不釣合い力が発生する。しかし、回転子に取り付けられている釣合錘には、偏心軸部の不釣合い力を打ち消すような不釣合い力が設定されている。そのため、回転体の不釣合い力に起因する回転体の振動が、釣合錘によって防止される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、鋳造時等における釣合錘の加工誤差等によって、釣合錘の実際の不釣合い力が、偏心軸部の不釣合い力を打ち消すようにあらかじめ設定された不釣合い力と異なってしまうことがある。この場合、偏心軸部の不釣合い力は、釣合錘によって完全に打ち消されず、その結果、回転体に不釣合い力が残留してしまう。そのため、回転体に残留する不釣合い力に起因して、回転体の振動が増大する。
【0004】
本発明に係る釣合錘は、軸回転する回転体の振動を抑制することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1観点に係る釣合錘は、軸回転する回転体に発生する不釣合いを相殺する複数の釣合錘である。複数の釣合錘の内の一の釣合錘は、回転体の回転方向に移動可能である可動釣合錘である。
【0006】
第1観点に係る釣合錘は、モータの回転子等の軸回転する回転体に取り付けられる。釣合錘は、回転体に取り付けられ、軸回転する回転体に発生する不釣合いを相殺する物体である。回転体の不釣合いは、例えば、回転体の偏心部の不釣合い力に起因する。この場合、偏心部の不釣合い力は、偏心部の質量と偏心部の重心半径(回転体の回転軸から偏心部の重心までの距離)との積である不釣合い量を有し、かつ、偏心部の重心に最も近い回転軸上のポイントから偏心部の重心への向きを有するベクトルで表される。また、回転体と共に軸回転する釣合錘には、不釣合い力が発生する。釣合錘の不釣合い力は、釣合錘の質量と釣合錘の重心半径(回転体の回転軸から釣合錘の重心までの距離)との積である不釣合い量を有し、かつ、釣合錘の重心に最も近い回転軸上のポイントから釣合錘の重心への向きを有するベクトルで表される。釣合錘の不釣合い力は、回転体の偏心部の不釣合い力を打ち消すことで、軸回転する回転体に発生する不釣合いを相殺する。
【0007】
第1観点に係る釣合錘を有する回転体が軸回転しているとき、可動釣合錘は、回転体の回転方向に移動することができる。このとき、自動調心作用によって、回転体の不釣合い量が最小となる位置に、可動釣合錘が移動する。従って、第1観点に係る釣合錘は、軸回転する回転体に発生する不釣合い量を最小にすることができるので、軸回転する回転体の振動を抑制することができる。
【0008】
本発明の第2観点に係る釣合錘は、第1観点に係る釣合錘において、可動釣合錘は、複数の釣合錘の中で最大の不釣合い量を有する。
【0009】
本発明の第3観点に係る釣合錘は、第1観点または第2観点に係る釣合錘において、可動釣合錘は、軸回転する回転体に発生する不釣合い量が最小となる位置に移動可能となる程度に、回転体の回転方向に移動可能な範囲が制限されている。
【0010】
本発明の第4観点に係る圧縮機は、第1観点乃至第3観点のいずれか1つに係る釣合錘と、クランク軸と、モータと、圧縮機構と、ケーシングとを備える。モータは、クランク軸に固定して連結された回転子を有する。圧縮機構は、クランク軸に回転可能に連結され、モータによって駆動される。ケーシングは、釣合錘、クランク軸、モータおよび圧縮機構を収容する。可動釣合錘は、クランク軸に取り付けられている。
【0011】
第4観点に係る圧縮機では、クランク軸と回転子とからなる回転体が軸回転しているときに、クランク軸に取り付けられた可動釣合錘が、回転体に発生する不釣合い量が最小となる位置に移動する。これにより、圧縮機の運転中におけるクランク軸および回転子の振動を抑制することができるので、圧縮機から発生する騒音を低減することができる。
【0012】
本発明の第5観点に係る圧縮機は、第1観点乃至第3観点のいずれか1つに係る釣合錘と、クランク軸と、モータと、圧縮機構と、ケーシングとを備える。モータは、クランク軸に固定して連結された回転子を有する。圧縮機構は、クランク軸に回転可能に連結され、モータによって駆動される。ケーシングは、釣合錘、クランク軸、モータおよび圧縮機構を収容する。可動釣合錘は、回転子に取り付けられている。
【0013】
第5観点に係る圧縮機では、クランク軸と回転子とからなる回転体が軸回転しているときに、回転子に取り付けられた可動釣合錘が、回転体に発生する不釣合い量が最小となる位置に移動する。これにより、圧縮機の運転中におけるクランク軸および回転子の振動を抑制することができるので、圧縮機から発生する騒音を低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1観点乃至第3観点に係る釣合錘は、軸回転する回転体の振動を抑制することができる。
【0015】
本発明の第4観点および第5観点に係る圧縮機は、運転中の騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態における、圧縮機の概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態における、回転体に発生する力を表す図である。
【図3】本発明の第1実施形態における、回転体に発生する力を表す図である。
【図4】本発明の第1実施形態における、可動釣合錘が取り付けられたクランク軸の外観図である。
【図5】本発明の第1実施形態における、クランク軸の外観図である。
【図6】本発明の第1実施形態における、可動釣合錘の外観図である。
【図7A】本発明の第1実施形態における、可動釣合錘のクランク軸への取り付け方法を表す図である。
【図7B】本発明の第1実施形態における、可動釣合錘のクランク軸への取り付け方法を表す図である。
【図8A】本発明の第1実施形態における、可動釣合錘が取り付けられたクランク軸の平面図である。
【図8B】本発明の第1実施形態における、可動釣合錘が取り付けられたクランク軸の平面図である。
【図9】本発明の第1実施形態における、自動調心作用が働く前における、回転体に発生する力を表す図である。
【図10】本発明の第1実施形態における、自動調心作用が働いた後における、回転体に発生する力を表す図である。
【図11】本発明の第2実施形態における、可動釣合錘が取り付けられたクランク軸の外観図である。
【図12】本発明の第2実施形態における、クランク軸の外観図である。
【図13】本発明の第2実施形態における、可動釣合錘の外観図である。
【図14A】本発明の第2実施形態における、可動釣合錘のクランク軸への取り付け方法を表す図である。
【図14B】本発明の第2実施形態における、可動釣合錘のクランク軸への取り付け方法を表す図である。
【図15A】本発明の第2実施形態における、可動釣合錘が取り付けられたクランク軸の平面図である。
【図15B】本発明の第2実施形態における、可動釣合錘が取り付けられたクランク軸の平面図である。
【図16】本発明の第3実施形態における、回転子の下端部の外観図である。
【図17】本発明の第3実施形態における、可動釣合錘内部の外観図である。
【図18】本発明の第3実施形態における、可動部材の外観図である。
【図19A】本発明の第3実施形態における、可動釣合錘内部の平面図である。
【図19B】本発明の第3実施形態における、可動釣合錘内部の平面図である。
【図20】本発明の変形例Bにおける、クランク軸の外観図である。
【図21】本発明の変形例Bにおける、クランク軸の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る釣合錘の第1実施形態乃至第3実施形態について説明する。なお、これらの実施形態は、本発明の具体例の一つであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0018】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る釣合錘について、図1乃至図10を参照しながら説明する。本実施形態に係る釣合錘は、空気調和装置等に組み込まれる冷媒回路を構成する圧縮機の内部で使用される。この圧縮機は、モータによって圧縮機構を駆動して、冷媒ガスを圧縮する。
【0019】
(1)圧縮機の構成
図1は、圧縮機1の概略構成図である。圧縮機1は、シリンダ内のピストンを偏心回転させることによってシリンダ内の空間の容積を増減させて冷媒ガスを圧縮するロータリー式の圧縮機である。圧縮機1のケーシング10は、圧縮機構15と、モータ16と、クランク軸17等を収容する。ケーシング10の側面には、吸入管19が気密状に嵌入され、ケーシング10の上面には、吐出管20が気密状に嵌入されている。
【0020】
圧縮機構15は、主として、厚肉の円筒形状を有するシリンダ21と、シリンダ21の上端面および下端面をそれぞれ覆うヘッド22,23と、シリンダ21の内部に配置されるピストン24とを有する。圧縮機構15は、クランク軸17に回転可能に連結されている。圧縮機構15は、吸入管19からケーシング10の内部に吸入した冷媒ガスを圧縮して、吐出管20からケーシング10の外部に吐出する。モータ16は、固定子51と回転子52とを有する。回転子52は、クランク軸17に固定して連結されている。モータ16を起動して回転子52を駆動させると、クランク軸17は回転軸AXを中心に軸回転する。クランク軸17は、圧縮機構15の内部に偏心軸部18を有している。偏心軸部18の外周面にはピストン24が回動可能に連結されている。以下、すべての実施形態において、「偏心軸部18」は、ピストン24が連結された偏心軸部18を表すものとする。クランク軸17の回転運動によって圧縮機構15内部のピストン24が偏心回転すると、冷媒が圧縮される。また、後述するように、回転子52には固定釣合錘54が取り付けられ、クランク軸17には可動釣合錘56が取り付けられている。本実施形態において、ピストン24が連結されたクランク軸17と、回転子52と、固定釣合錘54と、可動釣合錘56とから構成される部材を、回転体60という。
【0021】
回転体60が回転軸AXを中心に軸回転すると、偏心軸部18の不釣合い力が発生する。図2において、偏心軸部18の不釣合い力は、第1ベクトルv1として表される。第1ベクトルv1は、偏心軸部18の質量m1と偏心軸部18の重心半径r1との積である不釣合い量の大きさを有する。偏心軸部18の重心半径r1は、回転体60の回転軸(これは、クランク軸17の回転軸AXと同じである。以下、「回転体60の回転軸AX」と表記する。)から偏心軸部18の重心G1までの距離である。また、第1ベクトルv1は、偏心軸部18の重心G1に最も近い回転軸AX上のポイントS1から偏心軸部18の重心G1への向きを有する。
【0022】
(2)釣合錘の構成
本実施形態では、偏心軸部18の不釣合い力を打ち消す釣合錘として、回転子52に固定釣合錘54が取り付けられ、クランク軸17に可動釣合錘56が取り付けられている。固定釣合錘54は、回転子52の上端面に固定して取り付けられる釣合錘である。可動釣合錘56は、回転子52と圧縮機構15との間の高さ位置において、クランク軸17の回転方向に移動可能に取り付けられる釣合錘である。
【0023】
回転体60が軸回転しているとき、固定釣合錘54および可動釣合錘56には、偏心軸部18の不釣合い力を打ち消す不釣合い力が発生する。図2において、固定釣合錘54に発生する不釣合い力は、第2ベクトルv2として表される力のベクトルであり、可動釣合錘56に発生する不釣合い力は、第3ベクトルv3として表される力のベクトルである。第2ベクトルv2は、固定釣合錘54の質量m2と固定釣合錘54の重心半径r2との積である不釣合い量の大きさを有する。固定釣合錘54の重心半径r2は、回転体60の回転軸AXから固定釣合錘54の重心G2までの距離である。また、第2ベクトルv2は、固定釣合錘54の重心G2に最も近い回転軸AX上のポイントS2から固定釣合錘54の重心G2への向きを有する。同様に、第3ベクトルv3は、可動釣合錘56の質量m3と可動釣合錘56の重心半径r3との積である不釣合い量の大きさを有する。可動釣合錘56の重心半径r3は、回転体60の回転軸AXから可動釣合錘56の重心G3までの距離である。また、第3ベクトルv3は、可動釣合錘56の重心G3に最も近い回転軸AX上のポイントS3から可動釣合錘56の重心G3への向きを有する。
【0024】
図2に示される回転体60を上面視した場合における、偏心軸部18の不釣合い力を表す第1ベクトルv1、固定釣合錘54の不釣合い力を表す第2ベクトルv2、および、可動釣合錘56の不釣合い力を表す第3ベクトルv3の一例を、図3に示す。図3において、第1ベクトルv1および第2ベクトルv2の大きさと向き、および、第3ベクトルv3の大きさは不変である。しかし、本実施形態において、可動釣合錘56はクランク軸17の回転方向に移動可能であるので、第3ベクトルv3の向きは、図3の点線の両矢印で示されるように、回転軸AX上のポイントS3を中心にして、回転体60の回転方向に変化する。第3ベクトルv3の向きが変化可能な範囲は、クランク軸17および可動釣合錘56の構造によって制限されている。そして、本実施形態では、後述するように、第1ベクトルv1と第2ベクトルv2と第3ベクトルv3との和である第4ベクトルv4の大きさが最小となるような第3ベクトルv3の向きが、第3ベクトルv3の向きが変化可能な範囲内に存在する。
【0025】
(3)可動釣合錘の構成
本実施形態における可動釣合錘56の詳細な構成について図4乃至図8を参照しながら説明する。図4は、可動釣合錘56が取り付けられたクランク軸17の外観図である。図5は、クランク軸17の外観図である。図6は、可動釣合錘56を下から見た場合の外観図である。図7Aおよび図7Bは、可動釣合錘56のクランク軸17への取り付け方法を表す図である。図8Aおよび図8Bは、可動釣合錘56が取り付けられたクランク軸17を上から見た場合の平面図である。
【0026】
クランク軸17は、図5に示されるように、外周面に、可動釣合錘56を支持するための突起部17aを有する。可動釣合錘56は、図6に示されるように、クランク軸17が貫通する孔である貫通孔56aと、貫通孔56aの内周面に形成される窪み部56bと、可動釣合錘56の重心G3を有する錘部56cとを有する。窪み部56bは、可動釣合錘56の下端の高さ位置から、可動釣合錘56の下端と上端との間の高さ位置まで形成されている。突起部17aおよび窪み部56bは、可動釣合錘56が回転体60の回転方向に移動可能な範囲を制限するために設けられている。
【0027】
可動釣合錘56は、図7Aに示されるように、窪み部56bが形成されている下端側から、クランク軸17を貫通孔56aに通すことで、クランク軸17に取り付けられる。図7Bに示されるように、可動釣合錘56がクランク軸17に取り付けられた状態では、クランク軸17の突起部17aの上端面17a1は、可動釣合錘56の窪み部56bの上端面56b1に接触している。
【0028】
可動釣合錘56は、クランク軸17に固定されていないので、クランク軸17に対して回転体60の回転方向に移動することができる。すなわち、クランク軸17に対する可動釣合錘56の回転角度を考える場合、可動釣合錘56は、図8Aに示されるように、窪み部56bの左側面56b2が突起部17aの左側面17a2に接触する角度位置から、図8Bに示されるように、窪み部56bの右側面56b3が突起部17aの右側面17a3に接触する角度位置まで、回転軸AXを軸にして回転することができる。
【0029】
(4)可動釣合錘の動作
回転体60が回転しているときにおける可動釣合錘56の動作について、図9および図10を用いて説明する。回転体60が回転しているとき、偏心軸部18には第1ベクトルv1で表される不釣合い力が発生し、固定釣合錘54には第2ベクトルv2で表される不釣合い力が発生し、可動釣合錘56には第3ベクトルv3で表される不釣合い力が発生している。固定釣合錘54および可動釣合錘56は、偏心軸部18に発生する不釣合い力を打ち消す不釣合い力を発生するように、設計されている。
【0030】
しかし、実際の回転体60では、鋳物の品質のバラツキや加工誤差が存在することによって、偏心軸部18、固定釣合錘54および可動釣合錘56は設計上の狙い通りの不釣合い量を有さない。そのため、偏心軸部18の不釣合い力が、固定釣合錘54および可動釣合錘56の不釣合い力によって完全に打ち消されていない状態にある。この場合、図9に示されるように、第1ベクトルv1と第2ベクトルv2と第3ベクトルv3との和である第4ベクトルv4の大きさはゼロではない。すなわち、回転体60には、第4ベクトルv4で表される不釣合い力が残留している。
【0031】
一般に、剛体は、拘束のない状態で自転する場合、その重心を通る回転軸周りに回転する。剛体が2つのジャーナル軸受によって特定された中心軸周りに回転しようとする場合、2つの軸受中心を通る中心軸上に剛体の重心があることが望ましい。しかし、実際には、剛体に残留不釣合いが存在し、中心軸と重心位置に僅かなズレ(ε0)が生じる。この場合、剛体は、軸受隙間と軸受反力とによって許容される範囲内で、重心を通る軸周りに回転しようとするため、結果としての回転軸は中心軸と重心の間に位置することになる。回転軸と重心との距離をεとすると、ε<ε0となる。以下、このεが小さくなる作用を「自動調心作用」という。
【0032】
本実施形態では、可動釣合錘56は、回転軸AXの回転方向に、図8Aに示される角度位置から、図8Bに示される角度位置まで回転することができる。そして、可動釣合錘56が回転して可動釣合錘56の重心G3が移動することによって、回転体60に残留している不釣合い量(第4ベクトルv4の向きと大きさ)が変化する。
【0033】
上述したように、軸回転する回転体には、その重心を中心軸に近づけようとする自動調心作用が働く。そのため、図9に示される回転体60に残留している不釣合い量は、自動調心作用によって最小になろうとする。軸回転する回転体60に働く自動調心作用によって、可動釣合錘56は、回転体60の不釣合い量が最小になる角度位置まで、回転軸AXの回転方向に自動的に移動する。この場合、図10に示されるように、可動釣合錘56の不釣合い力である第3ベクトルv3は、第3aベクトルv3aまで回転し、その結果、回転体60に残留している不釣合い力を表す第4ベクトルv4は、第4aベクトルv4aに変化する。第4aベクトルv4aは、第1ベクトルv1と第2ベクトルv2と第3aベクトルv3aとの和である。
【0034】
本実施形態では、回転体60の不釣合い力である第4ベクトルv4の大きさが最小となるように、可動釣合錘56が回転体60の回転方向に移動することができる。すなわち、可動釣合錘56の移動可能範囲である図8Aに示される角度位置から図8Bに示される角度位置までの範囲には、回転体60に残留している不釣合い力が図10に示される第4aベクトルv4aとなる可動釣合錘56の角度位置が存在する。
【0035】
(5)特徴
回転体に対する位置が固定されている従来の釣合錘では、回転体の偏心軸部に発生する不釣合い力と釣合錘に発生する不釣合い力とのベクトル和がゼロになるように、すなわち、回転体の偏心軸部に発生する不釣合い力が釣合錘に発生する不釣合い力によって打ち消されるように、釣合錘の不釣合い力が設定されている。しかし、上述の通り、鋳物の品質のばらつきや加工誤差が存在することにより、偏心軸部に発生する不釣合い力の向きや大きさに誤差が生じてしまい、結果的に、回転体に発生する不釣合い力が完全に打ち消されずに残留してしまう。そして、回転体に残留する不釣合い力は、軸回転する回転体の振動の原因となる。
【0036】
本実施形態に係る圧縮機1は、偏心軸部18を有するクランク軸17および回転子52からなる回転体60に取り付けられる釣合錘であって、回転体60の回転方向に移動可能な可動釣合錘56を有する。この圧縮機1では、軸回転する回転体60に働く自動調心作用によって、可動釣合錘56は、回転体60に残留している不釣合い力の大きさが最小になる角度位置まで、自動的に回転移動する。その結果、可動釣合錘56を用いることによって、回転体60の不釣合い量を低減して、回転体60の振動を抑制することができる。従って、本実施形態に係る圧縮機1は、運転中の騒音を低減することができる。
【0037】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る釣合錘について、図11乃至図15を参照しながら説明する。本実施形態の基本的な構成、動作および特徴は、第1実施形態に係る釣合錘と同一であるので、第1実施形態との相違点を主に説明する。第1実施形態と同一の構造および機能を有する要素には、同一の参照符号が用いられている。
【0038】
本実施形態に係る釣合錘を有する圧縮機は、第1実施形態のクランク軸17と異なる形状を有するクランク軸117と、第1実施形態の可動釣合錘56と異なる形状を有する可動釣合錘156とを有している。そして、第1実施形態と同様に、クランク軸117の偏心軸部18に発生する不釣合い力を打ち消すために、回転子52に固定釣合錘54が取り付けられ、クランク軸117に可動釣合錘156が取り付けられている。可動釣合錘156は、クランク軸117に対して固定されていない状態で、クランク軸117の回転方向に移動可能に取り付けられる釣合錘である。本実施形態において、ピストン24が連結されたクランク軸117と、回転子52と、固定釣合錘54と、可動釣合錘156とから構成される部材を、回転体160という。回転体160が、クランク軸117の回転軸周りに軸回転しているとき、固定釣合錘54および可動釣合錘156には、偏心軸部18の不釣合い力を打ち消す不釣合い力が発生する。
【0039】
次に、可動釣合錘156の詳細な構成について説明する。図11は、可動釣合錘156が取り付けられたクランク軸117の外観図である。図12は、クランク軸117の外観図である。図13は、可動釣合錘156の外観図である。図14Aおよび図14Bは、可動釣合錘156のクランク軸117への取り付け方法を表す図である。図15Aおよび図15Bは、可動釣合錘156が取り付けられたクランク軸117を上から見た場合の平面図である。
【0040】
クランク軸117は、図12に示されるように、突起部117aと周縁部117bとを有する。周縁部117bは、突起部117aの下方に形成され、クランク軸117の外周面から環状に突き出た部分である。可動釣合錘156は、図13に示されるように、クランク軸117が貫通する孔である貫通孔156aと、貫通孔156aの内周面に形成される窪み部156bと、可動釣合錘156の重心を有する錘部156cとを有する。窪み部156bは、可動釣合錘156の下端から上端まで形成されている。突起部117aおよび窪み部156bは、可動釣合錘156が回転体160の回転方向に移動可能な範囲を制限するために設けられている。なお、突起部117aの上端から周縁部117bの上端までの鉛直方向の長さは、可動釣合錘156の厚みよりも小さい。
【0041】
可動釣合錘156は、図14Aに示されるように、突起部117aが形成されている側からクランク軸117を貫通孔156aに通すことで、クランク軸117に取り付けられる。図14Bに示されるように、可動釣合錘156をクランク軸117に取り付けた状態では、クランク軸117の周縁部117bの上端面117b1は、可動釣合錘156の下端面に接触している。
【0042】
可動釣合錘156は、クランク軸117に固定されていないので、クランク軸117に対して回転体160の回転方向に移動することができる。すなわち、クランク軸117に対する可動釣合錘156の回転角度を考える場合、可動釣合錘156は、図15Aに示されるように、窪み部156bの左側面156b2が突起部117aの左側面117a2に接触する角度位置から、図15Bに示されるように、窪み部156bの右側面156b3が突起部117aの右側面117a3に接触する角度位置まで、回転軸AXを軸にして回転することができる。
【0043】
本実施形態では、第1実施形態と同様に、可動釣合錘156は、回転軸AXの回転方向に、図15Aに示される角度位置から、図15Bに示される角度位置まで回転することができる。そして、可動釣合錘156が回転して可動釣合錘156の重心が移動することによって、回転体160に残留している不釣合い量(不釣合い力の大きさ)が変化する。回転体160に残留している不釣合い量は、回転体160の自動調心作用によって最小になろうとする。すなわち、軸回転する回転体160に働く自動調心作用によって、可動釣合錘156は、回転体160の不釣合い量が最小になる角度位置まで、回転軸AXの回転方向に自動的に移動する。
【0044】
以上より、本実施形態に係る釣合錘を有する圧縮機では、軸回転する回転体160に働く自動調心作用によって、可動釣合錘156は、回転体160に残留している不釣合い量が最小になる角度位置まで、自動的に回転移動する。その結果、可動釣合錘156を用いることによって、回転体160の不釣合い量を低減して、回転体160の振動を抑制することができる。従って、本実施形態に係る圧縮機は、運転中の騒音を低減することができる。
【0045】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態に係る釣合錘について、図16乃至図19を参照しながら説明する。本実施形態の基本的な構成、動作および特徴は、第1実施形態に係る釣合錘と同一であるので、第1実施形態との相違点を主に説明する。第1実施形態と同一の構造および機能を有する要素には、同一の参照符号が用いられている。
【0046】
本実施形態に係る釣合錘を有する圧縮機は、第1実施形態のクランク軸17が有する突起部117aを有さないクランク軸を有している。そして、クランク軸17の偏心軸部18に発生する不釣合い力を打ち消すために、回転子52に固定釣合錘54および可動釣合錘256が取り付けられている。すなわち、本実施形態では、第1実施形態のようにクランク軸17に可動釣合錘56が取り付けられているのではなく、回転子52に可動釣合錘256が取り付けられている。固定釣合錘54は、回転子52の上端面に取り付けられ、可動釣合錘256は、回転子52の下端面に取り付けられる。本実施形態において、ピストン24が連結されたクランク軸17と、回転子52と、固定釣合錘54と、可動釣合錘256とから構成される部材を、回転体260という。回転体260が、クランク軸17の回転軸周りに軸回転しているとき、固定釣合錘54および可動釣合錘256には、偏心軸部18の不釣合い力を打ち消す不釣合い力が発生する。
【0047】
次に、可動釣合錘256の詳細な構成について説明する。図16は、本実施形態における回転子52の下端部の外観図である。図17は、可動釣合錘256内部の外観図である。図18は、可動部材256bの外観図である。図19Aおよび図19Bは、可動釣合錘256内部の平面図である。なお、図16および図17は、回転子52を下から見た場合の外観図であり、図19Aおよび図19Bは、回転子52を下から見た場合の平面図である。
【0048】
可動釣合錘256は、図17に示されるように、回転子端板256aと、可動部材256bと、止め板256cとから構成される。回転子端板256aは、回転子52の下端面に取り付けられ、平面視したときの形状が半円である厚肉部を有する。錘空間256dは、回転子端板256aの厚肉部を扇状にくり抜いて設けられた空間である。可動部材256bは、錘空間256dに嵌め込まれる扇状の部材である。止め板256cは、錘空間256dを塞ぐように、回転子端板256aの厚肉部の端面に取り付けられる半円状の板状部材である。回転子端板256aおよび止め板256cは、ボルトや溶接等によって回転子52に取り付けられている。
【0049】
なお、図18、図19Aおよび図19Bに示されるように、可動部材256bを上面視した場合における形状は、内径および外径が回転子52と同心の円環の一部をなす扇形状である。可動部材256bの扇形状の中心角は、錘空間256dの扇形状の中心角よりも小さい。
【0050】
本実施形態では、可動釣合錘256は、回転子端板256a内部の錘空間256dに可動部材256bが嵌め込まれている構成を有している。可動部材256bは、回転子端板256aに固定されていないので、回転子52に対して回転体260の回転方向に錘空間256d内を移動することができる。すなわち、回転子52に対する可動部材256bの回転角度を考える場合、可動部材256bは、図19Aに示されるように、可動部材256bの左端面256b1が錘空間256dの左端面256d1に接触する角度位置から、図19Bに示されるように、可動部材256bの右端面256b2が錘空間256dの右端面256d2に接触する角度位置まで、回転軸AXを軸にして回転することができる。
【0051】
本実施形態では、第1実施形態と同様に、可動釣合錘256の可動部材256bは、回転軸AXの回転方向に、図19Aに示される角度位置から図19Bに示される角度位置まで回転することができる。そして、可動部材256bが錘空間256dを移動して可動釣合錘256全体の重心が移動することによって、可動釣合錘256の不釣合い力(図9の第3ベクトルv3に相当する。)の向きは、第1実施形態における可動釣合錘56の不釣合い力(第3ベクトルv3)の向きと同じように、回転軸AXを中心に変化する。これにより、回転体260に残留している不釣合い量(不釣合い力の大きさ)が変化する。回転体260に残留している不釣合い量は、回転体260の自動調心作用によって最小になろうとする。すなわち、軸回転する回転体260に働く自動調心作用によって、可動釣合錘256は、回転体260の不釣合い量が最小になる角度位置まで、回転軸AXの回転方向に自動的に移動する。
【0052】
なお、第1実施形態では、可動釣合錘56はクランク軸17に回転可能に連結され、可動釣合錘56が軸回転することで、可動釣合錘56の重心が移動するが、本実施形態では、可動釣合錘256の可動部材256bはクランク軸17に回転可能に連結されず、可動部材256bが錘空間256dを移動することで、可動釣合錘256の重心が移動する。
【0053】
以上より、本実施形態に係る釣合錘を有する圧縮機では、軸回転する回転体260に働く自動調心作用によって、可動釣合錘256は、回転体260に残留している不釣合い量が最小になる角度位置まで、自動的に回転移動する。その結果、可動釣合錘256を用いることによって、回転体260の不釣合い量を低減して、回転体260の振動を抑制することができる。従って、本実施形態に係る圧縮機は、運転中の騒音を低減することができる。
【0054】
<変形例>
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明したが、本発明の具体的構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で変更可能である。以下、本発明の実施形態に係る釣合錘に対する適用可能な変形例について説明する。
【0055】
(1)変形例A
本発明において、可動釣合錘は、回転体に取り付けられる複数の釣合錘の中で最大の不釣合い量を有することが好ましい。例えば、本発明の第1実施形態において、可動釣合錘56の不釣合い量は、偏心軸部18の不釣合い量、および、固定釣合錘54の不釣合い量よりも大きいことが好ましい。可動釣合錘の不釣合い量が大きいほど、可動釣合錘の不釣合い力の向きに応じて、回転体60に残留している不釣合い量が変化しやすい。そのため、軸回転している回転体60の振動をより確実に抑制することができる。
【0056】
(2)変形例B
本発明の第2実施形態において、クランク軸117の突起部117aは、図20および図21に示されるような形状を有していてもよい。図20において、クランク軸317の突起部317aは、第2実施形態の突起部117aと比べてクランク軸317の軸方向に延びている形状を有している。図21において、クランク軸417の突起部417aは、クランク軸417の軸方向下方に延び、周縁部117bと連結している。本変形例においても、可動釣合錘156は回転軸AXの回転方向に移動することができるので、軸回転している回転体160の振動を抑制することができる。
【0057】
(3)変形例C
本発明の第1実施形態乃至第3実施形態において、ロータリー式の圧縮機の内部で使用される可動釣合錘について説明したが、これらの可動釣合錘は、スクロール式の圧縮機など、クランク軸を介してモータが圧縮機構を駆動するタイプの他の圧縮機の内部で使用されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る釣合錘は、軸回転する回転体の振動を抑制することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 圧縮機
10 ケーシング
15 圧縮機構
16 モータ
17 クランク軸
52 回転子
54 固定釣合錘(釣合錘)
56 可動釣合錘(釣合錘)
60 回転体
117 クランク軸
156 可動釣合錘(釣合錘)
160 回転体
256 可動釣合錘(釣合錘)
260 回転体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0060】
【特許文献1】特開2006−57457号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸回転する回転体(60,160,260)に発生する不釣合いを相殺する複数の釣合錘(54,56,156,256)であって、複数の前記釣合錘の内の一の前記釣合錘は、前記回転体の回転方向に移動可能である可動釣合錘(54,56,156,256)である、
釣合錘。
【請求項2】
前記可動釣合錘は、複数の前記釣合錘の中で最大の不釣合い量を有する、
請求項1に記載の釣合錘。
【請求項3】
前記可動釣合錘は、軸回転する前記回転体に発生する不釣合い量が最小となる位置に移動可能となる程度に、前記回転体の回転方向に移動可能な範囲が制限されている、
請求項1または2に記載の釣合錘。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の釣合錘と、
クランク軸(17,117)と、
前記クランク軸に固定して連結された回転子(52)を有するモータ(16)と、
前記クランク軸に回転可能に連結され、前記モータによって駆動される圧縮機構(15)と、
前記釣合錘、前記クランク軸、前記モータおよび前記圧縮機構を収容するケーシング(10)と
を備え、
前記可動釣合錘は、前記クランク軸に取り付けられている
圧縮機(1)。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の釣合錘と、
クランク軸と、
前記クランク軸に固定して連結された回転子(52)を有するモータ(16)と、
前記クランク軸に回転可能に連結され、前記モータによって駆動される圧縮機構(15)と、
前記釣合錘、前記クランク軸、前記モータおよび前記圧縮機構を収容するケーシング(10)と
を備え、
前記可動釣合錘は、前記回転子に取り付けられている
圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−87708(P2013−87708A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230134(P2011−230134)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】