説明

鉄シリサイドナノワイヤの製造方法

【課題】本発明は、鉄シリサイドナノワイヤの製造方法に関する。
【解決手段】本発明の鉄シリサイドナノワイヤの製造方法は、ヒート炉及び反応室を含む生長装置を提供する第一ステップと、鉄板を提供し、該鉄板を前記反応室に置く第二ステップと、前記反応室に珪素ガスを導入し、該反応室を600℃〜1200℃程度に加熱して、前記鉄板に鉄シリサイドナノワイヤを生長させる第三ステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次元ナノワイヤの製造方法に関し、特に鉄シリサイドナノワイヤの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄シリサイドナノワイヤ(FeSi nanowires)は、独特な磁気特性を有する狭バンドギャップの半導体であり、スピン電子工学の分野に広く応用される(非特許文献1)。
【0003】
鉄シリサイドナノワイヤの製造方法は、下記のステップを含む。シリコン基板を提供し、生長基材とする。該生長基材をヒートパイプ炉における陶磁器製容器に置く。所定の塩化第2鉄(FeCl)粉体を前記陶磁器製容器に置く。ここで、該塩化第2鉄粉体は前記陶磁器製容器の入気口と前記シリコン基板の間に配置される。前記ヒートパイプ炉に窒素ガスを導入すると同時に、該ヒートパイプ炉を生長温度に加熱する。蒸発した塩化第2鉄粉体は窒素ガスによって前記生長基材の上方に達し、該生長基材と接触し、反応を発生させることで、鉄シリサイドナノワイヤを生長させる。該鉄シリサイドナノワイヤは前記生長基材の表面に不規則的に配列されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】By LainOuyang;Elizabeth S. Thrall; Mandar M. Deshmukh; HongkunPark,“Vapor−Phase Synthesis and Characterization of ε−FeSi nanowires”、「Advanced Materials」、2006年、第18巻、第1437頁〜第1440頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記鉄シリサイドナノワイヤを生長する方法において、前記塩化第2鉄粉体とシリコンとの反応が発生しにくいので、高い成長温度を必要とする。つまり、該生長温度は1100℃以上である。これによって、エネルギー消費が大きく、大規模に生産することが難しいという欠点がある。前記鉄シリサイドナノワイヤを生長する方法において、前記生長基材とするシリコン基板を必要とするので、製造コストが高いという欠点もある。
【0006】
従って、本発明は、低い温度で生長基材とするシリコン基板を必要としない鉄シリサイドナノワイヤの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鉄シリサイドナノワイヤの製造方法は、ヒート炉及び反応室を含む生長装置を提供する第一ステップと、鉄板を提供し、該鉄板を前記反応室に置く第二ステップと、前記反応室に珪素ガスを導入し、該反応室を600℃〜1200℃程度に加熱して、前記鉄板に鉄シリサイドナノワイヤを生長させる第三ステップと、を含む。
【0008】
前記鉄板を前記反応室に置く前に、該鉄板を、希釈された酸性溶液に2〜10分間浸漬する。
【0009】
前記反応室に珪素ガスを導入する前に、該反応室に水素ガスを導入する。
【0010】
前記反応室に水素ガスを導入する前に、該反応室に保護ガスを導入する。
【0011】
前記珪素ガスを導入する流量は、10ミリリットル/分〜1000ミリリットル/分である。
【0012】
前記珪素ガスは、シリコンハロゲン化合物、シラン、シラン誘導体、ハロゲン化シランの一種又は幾種である。
【0013】
前記鉄シリサイドナノワイヤを生長させる過程において、前記反応室の気圧を1トル〜15トルに保持する。
【0014】
前記水素ガスを導入する流量は、20ミリリットル/分〜1000ミリリットル/分である。
【0015】
前記保護ガスを導入する流量は、200ミリリットル/分〜2000ミリリットル/分である。
【発明の効果】
【0016】
従来の鉄シリサイドナノワイヤの製造方法と比べると、本発明の鉄シリサイドナノワイヤの製造方法において、鉄が強い還元性を有し、前記鉄板と前記珪素ガスとの反応が行いやすいので、低い生長温度で鉄シリサイドナノワイヤを生長させることができる。従って、前記鉄シリサイドナノワイヤの製造方法は、エネルギー消費が小さく、大規模に生産することができる。また、該鉄シリサイドナノワイヤの製造方法は、直接に鉄板に鉄シリサイドナノワイヤを生長させるので、製造コストが低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る鉄シリサイドナノワイヤの製造方法のフローチャートである。
【図2】本発明の実施形態に係る鉄シリサイドナノワイヤの製造装置の構造を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る鉄シリサイドナノワイヤのSEM写真である。
【図4】本発明の実施形態に係る鉄シリサイドナノワイヤのTEM写真である。
【図5】本発明の実施形態に係る鉄シリサイドナノワイヤのX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【実施例1】
【0019】
図1と図2を参照すると、本実施形態の鉄シリサイドナノワイヤの製造方法は下記のステップを含む。
【0020】
第一ステップでは、ヒート炉302及び反応室304を含む生長装置30を提供する。
【0021】
本実施形態において、前記反応室304は、石英パイプであることが好ましい。前記反応室304は入気口306と排気口308を有する。前記反応室304は前記ヒート炉302に置かれ、移動することができ、その長さが前記ヒート炉302の長さより長いように設けられている。従って、前記石英パイプを移動する場合、一部の石英パイプがヒート炉302の内部に置かれることを保持することができる。
【0022】
前記反応室304に支持体310が設置されている。該支持体310は高温に耐える容器である。本実施形態において、前記支持体310は、陶磁器製容器であり、その形状は制限されず、その大きさは前記反応室304の大きさによって、選択することができる。
【0023】
第二ステップでは、鉄板314を提供し、該鉄板314を前記反応室304に置く。
【0024】
第二ステップにおいて、まず、前記鉄板314の表面の酸化物及び不純物を除去するために、該鉄板314を、希釈された酸性溶液に2〜10分間浸漬する。本実施形態において、前記鉄板314の純度が99.9%であり、前記希釈された酸性溶液が塩酸溶液である。該塩酸溶液で鉄板314を浸漬させることにより、該鉄板314の表面の酸化物及び不純物を除去できるだけではなく、該鉄板314の表面に鉄の塩化物を生成させることができる。該鉄の塩化物が蒸発しやすいので、前記鉄板314の表面活性を高めることができる。
【0025】
次に、前記鉄板314を前記反応室304の支持体310に置く。
【0026】
第三ステップでは、珪素ガスを導入し、前記反応室304を加熱して、前記鉄板314に鉄シリサイドナノワイヤを生長させる。
【0027】
第三ステップにおいて、まず、前記反応室304に保護ガスを導入して、該反応室304の空気を排除する。
【0028】
前記保護ガスを導入する流量は200ミリリットル/分(ml/min)〜2000ミリリットル/分である。該保護ガスは窒素ガス又は不活性ガスである。本実施形態において、前記保護ガスはアルゴンガスであることが好ましい。
【0029】
次に、前記保護ガスを導入することを止めて、前記反応室304を加熱し、水素ガスを導入する。
【0030】
前記保護ガスが前記反応室304の空気を排除してから、該保護ガスを導入することを止めると同時に、前記反応室304を800℃に加熱させる。前記反応室304の昇温速度は20℃/分である。同時に前記反応室304に水素ガスを導入して、該反応室304の内部の気圧を1トル〜15トルに保持させる。前記水素ガスの純度は99.99%以上である。該水素ガスを導入する流量は20ミリリットル/分〜1000ミリリットル/分である。該水素ガスを導入する時間は10分〜20分間である。該水素ガスを導入することにより、前記鉄板314に形成された酸化鉄に対して還元反応を行うことができる。前記反応室304を加熱する前に、前記水素ガスを導入することもできる。
【0031】
その次に、前記反応室304に珪素ガスを導入する。
【0032】
前記水素ガスを10分間導入した後、珪素ガスを導入し始める。前記珪素ガスは、例えば、シリコンハロゲン化合物(silicon halide)、シラン(silane)、シラン誘導体(silane derivative)、ハロゲン化シラン(halogenated silane)の一種又は幾種である。前記珪素ガスの流量は、10ミリリットル/分〜1000ミリリットル/分である。本実施形態において、前記珪素ガスは、四塩化ケイ素ガスであることが好ましく、その流量が100ミリリットル/分であることが好ましい。前記保護ガスと、水素ガスと、珪素ガスとが前記入気口306に接続されたバルブによって、前記反応室304に導入される。
【0033】
最後に、前記反応室304の温度を生長温度に調節し、反応を行なって、前記鉄板314に鉄シリサイドナノワイヤを生長させる。
【0034】
前記鉄シリサイドナノワイヤの生長温度は600℃〜1200℃である。該鉄シリサイドナノワイヤを生長させる過程において、前記反応室304の内部の気圧を1トル〜15トルに保持させる。該鉄シリサイドナノワイヤを生長する時間は30分〜120分である。前記珪素ガスと、鉄板314と、水素ガスとが反応を行なって、該鉄板314に鉄シリサイドナノワイヤが生長する(図3を参照)。
【0035】
本実施形態において、水素ガスを導入させず、直接に珪素ガスを導入して、該珪素ガスと鉄板314との反応を行なわせて、該鉄板314に鉄シリサイドナノワイヤを生長させることもできる。また、前記反応室304を加熱してから、前記水素ガスと前記珪素ガスを導入してもよい。或いは、前記反応室304を加熱するともに、前記水素ガスと前記珪素ガスを導入してもよい。前記保護ガス及び水素ガスを導入することが選択可能である。
【0036】
図3は、800℃の温度で、前記鉄板314に生長された鉄シリサイドナノワイヤのSEM写真である。前記鉄シリサイドナノワイヤは、不規則的に前記鉄板314の表面に配列される。該鉄シリサイドナノワイヤは、直径が10ナノメートル〜50ナノメートルであり、長さが100ナノメートル〜100マイクロメートルである。図4を参照すると、前記鉄シリサイドナノワイヤのTEM写真から、該鉄シリサイドナノワイヤは、[110]の方向に沿って生長することが分かる。前記鉄シリサイドナノワイヤは、独特な磁気特性を有する半導体であり、電子工学の分野に広く応用され、電子素子を製造することができる。
【0037】
図5は、800℃の温度で、前記鉄板314に生長された鉄シリサイドナノワイヤのX線回折図である。該図5から、生長温度が1000℃以下の場合、前記鉄シリサイドナノワイヤは、FeSi相とFeSi相を含むことが分かる。これは、前記珪素ガスと、前記鉄板314と、前記水素ガスとが反応を行なうと、FeSi相の微晶化合物を形成しやすい。FeSi相の微晶化合物における鉄原子がFeSi格子の表面から拡散しやすいと、該鉄原子と、前記珪素ガスと、前記水素ガスとが反応を行なって、鉄シリサイドナノワイヤを生長させる。前記生長温度が1000℃以上の場合、FeSi相の微晶化合物における鉄原子が、FeSi格子の表面から拡散しやすいので、該鉄原子と、前記珪素ガスと、前記水素ガスとが反応を行なって、鉄シリサイドナノワイヤを生長させる。従って、前記生長温度が1000℃以上の場合、該鉄シリサイドナノワイヤは、FeSi相を含み、FeSi相を含まない化合物となる。
【0038】
本実施形態から提供された鉄シリサイドナノワイヤの製造方法において、鉄が強い還元性を有し、前記鉄板314と前記珪素ガスとの反応が行いやすいので、低い生長温度で鉄シリサイドナノワイヤを生長させることができる。従って、前記鉄シリサイドナノワイヤの製造方法は、エネルギー消費が小さく、大規模に生産することができる。また、該鉄シリサイドナノワイヤの製造方法は、直接に鉄板314に鉄シリサイドナノワイヤを生長するので、製造コストが低くなる。
【符号の説明】
【0039】
30 生長装置
302 ヒート炉
304 反応室
306 入気口
308 排気口
310 支持体
314 鉄板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒート炉及び反応室を含む生長装置を提供する第一ステップと、
鉄板を提供し、該鉄板を前記反応室に置く第二ステップと、
前記反応室に珪素ガスを導入し、該反応室を600℃〜1200℃程度に加熱して、前記鉄板に鉄シリサイドナノワイヤを生長させる第三ステップと、
を含むことを特徴とする鉄シリサイドナノワイヤの製造方法。
【請求項2】
前記鉄板を前記反応室に置く前に、該鉄板を、希釈された酸性溶液に2〜10分間浸漬することを特徴とする、請求項1に記載の鉄シリサイドナノワイヤの製造方法。
【請求項3】
前記反応室に珪素ガスを導入する前に、該反応室に水素ガスを導入することを特徴とする、請求項1又は2に記載の鉄シリサイドナノワイヤの製造方法。
【請求項4】
前記反応室に水素ガスを導入する前に、該反応室に保護ガスを導入することを特徴とする、請求項3に記載の鉄シリサイドナノワイヤの製造方法。
【請求項5】
前記珪素ガスを導入する流量が10ミリリットル/分〜1000ミリリットル/分であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の鉄シリサイドナノワイヤの製造方法。
【請求項6】
前記珪素ガスがシリコンハロゲン化合物、シラン、シラン誘導体、ハロゲン化シランの一種又は幾種であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の鉄シリサイドナノワイヤの製造方法。
【請求項7】
前記鉄シリサイドナノワイヤを生長させる過程において、前記反応室の気圧を1トル〜15トルで保持することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の鉄シリサイドナノワイヤの製造方法。
【請求項8】
前記水素ガスを導入する流量が20ミリリットル/分〜1000ミリリットル/分であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の鉄シリサイドナノワイヤの製造方法。
【請求項9】
前記保護ガスを導入する流量が200ミリリットル/分〜2000ミリリットル/分であることを特徴とする、請求項4に記載の鉄シリサイドナノワイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−249277(P2009−249277A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85289(P2009−85289)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(598098331)ツィンファ ユニバーシティ (534)
【出願人】(500080546)鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司 (1,018)
【Fターム(参考)】