鉄合金、鉄合金部材およびその製造方法
【課題】制振部材に用いられる加工性に優れた鉄合金、および、この鉄合金からなり優れた制振性を示す鉄合金部材を提供する。
【解決手段】本発明の鉄合金は、全体を100%としたときに、3〜8%のCrと、3〜8%のGaと、0.3〜2.1%のMnと、残部がFeと不可避不純物および/または改質元素とからなることを特徴とする。
【解決手段】本発明の鉄合金は、全体を100%としたときに、3〜8%のCrと、3〜8%のGaと、0.3〜2.1%のMnと、残部がFeと不可避不純物および/または改質元素とからなることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材料として用いられる鉄合金、その鉄合金からなる鉄合金部材およびその鉄合金部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械的に可動する可動部を有する装置や機器などは、その可動部が加振源となって、各部に多かれ少なかれ振動を生じることが多い。このような振動は様々な騒音の原因となったり、疲労強度の劣化に繋がったり、などして好ましくない。そこで、この振動を抑制する制振材が種々用いられている。たとえば、強度や剛性などの機械的特性があまり要求されず、使用環境(たとえば使用雰囲気)が穏やかな部材であれば、振動を吸収し易い樹脂材や、その樹脂を部分的に用いた素材(たとえば鋼板間に樹脂材を挟持した制振鋼板)が制振材として用いられる。
【0003】
しかし、強度などの機械的特性が要求され、高温雰囲気で使用される部材には、そのような制振材を安易に用いることはできず、金属材料からなる制振材が用いられることが多い。これまでにも、強度などの機械的特性、耐熱性さらには加工性などに優れると共に比較的原料コストが安価な鉄合金が提案されており、具体例として下記の特許文献1および特許文献2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−107135号公報
【特許文献2】特開平5−255813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている鉄合金は、珪素(Si)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)を含む。制振性を高めるためにCrおよびAl、強度確保を目的としてMn、を添加している。また、特許文献2では、加工性の観点から、高延性の達成を目的としてFe−Cr合金に対してMnを10〜27質量%添加している。
【0006】
ところで、これらの特許文献には、どのような領域で制振性に優れる鉄合金なのか、ほとんど明記されていない。本発明者の調査によれば、これらの鉄合金は、比較的大きな歪振幅域または低周波域における制振性を意図したものと思われる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものである。制振部材に用いられる加工性に優れた鉄合金、および、この鉄合金からなり優れた制振性を示す鉄合金部材を提供することを目的とする。また、この鉄合金部材の製造方法を併せて提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述のように、特許文献2では、Mnの添加が高延性(高加工性)を達成すると述べている。しかし、本発明者等の研究によれば、Fe−Cr合金にMnを添加すると、延性は向上しても制振性が低下することがわかった。本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、Fe−Cr合金に対しMnとともにガリウム(Ga)を添加した鉄合金が、高周波域かつ低歪振幅域での制振性を悪化させることなく、延性を大きく向上させられることを新たに見出した。そして、この成果を発展させることで以下に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の鉄合金は、制振部材に用いる加工性に優れた鉄合金であって、全体を100質量%としたときに(以下単に「%」という。)、3〜8%のクロム(Cr)と、3〜8%のガリウム(Ga)と、0.3〜2.1%のマンガン(Mn)と、残部が鉄(Fe)と不可避不純物および/または改質元素とからなることを特徴とする。
【0010】
ここで、図1は、Fe−5Cr−xGa−yMn合金(単位:質量%、x=0または5、y=0または1)について、高周波域および低歪振幅における室温での損失係数と室温での伸びとを示すグラフである。なお、合金の作製手順および評価方法は後述する。Fe−5Cr合金にMnを1質量%添加すると、延性は向上するが、制振性は低下する。一方、Fe−5Cr合金にGaを5質量%添加すると、制振性は大きく向上するが、延性は大きく低下する。ところが、Fe−5Cr−5Ga合金にさらにMnを1質量%添加すると、Gaの添加による制振性の向上効果を悪化させることなく、延性を大きく向上させられることがわかった。
【0011】
なお、図1に示す損失係数は中央加振法により求めた(図2参照)。すなわち、試験片(鉄合金部材)の中央を種々の周波数で加振したときの加振周波数(f0)に対する、試験片の端部で測定した測定周波数(f1、f2)の差分(Δf=f2−f1)の割合(η=Δf/f0=(f2−f1)/f0)である。具体的な測定方法は後述する。
【0012】
本発明者が本発明の鉄合金からなる部材(鉄合金部材)の制振性について調査研究したところ、その鉄合金部材は、低周波域においても振動を効果的に低減することがわかった。たとえば、80Hz以上200Hz以下の低周波域において、歪振幅が5×10−5以上5×10−4以下の減衰性を指標する損失係数(η)が0.03以上、0.04以上、0.05以上さらには0.06以上ともなることがわかった。また、上述のように、低歪振幅(たとえば1×10−6〜1×10−5)の振動をも効果的に低減することがわかった。
【0013】
ちなみに、振動減衰能を示す指標として、本明細書で主に用いた損失係数ηの他に、対数減衰率δや比減衰能W等がある。これらは相互に関係があり、δ=πηまたはW=2πηという関係式により、関連付けられる。従って、振動減衰能の指標が異なる場合でも、それら関係式を用いて換算することにより相互に比較することは可能である。
【0014】
そして本発明の鉄合金では、このような優れた制振性が、低温域や常温域で安定していることはもちろんのこと、高温域でも(低くとも300℃程度まで)安定しており、制振性の高温安定性が高い。したがって、本発明の鉄合金は従来以上に多種多様な部材へ利用可能である。
【0015】
ところで、本発明の鉄合金(「鉄合金部材」を含めて、適宜単に「鉄合金」という。)が上記のような優れた制振性を発現するメカニズムや理由は必ずしも定かではないが、現状では次のように考えられる。
【0016】
先ず、制振性は、振動エネルギーが制振材内部で部分的に吸収されるなどして低下し、振動の伝達が阻害される現象である。ちなみに、吸収された振動エネルギーは主に熱エネルギーに変換されて外部に放出される。このような振動エネルギーの低減メカニズム(制振メカニズム)として、磁壁(磁区の境界)の移動により振動を吸収する強磁性型、金属結晶の転位の運動により振動を吸収する転位型、マルテンサイト的変態で生成した双晶の運動により振動を吸収する双晶型、マトリクス(Feなど)と柔らかい分散粒子(黒鉛など)の界面付近の粘性流動により振動を吸収する複合型などがあるといわれている。
【0017】
本発明の鉄合金は、複数の制振メカニズムが融合して優れた制振性を発現していると思われるが、その成分組成からして主に、磁壁の移動によって振動が吸収される強磁性型であると思われる。もっとも、塑性加工を加えた本発明の鉄合金は、さらに、転位の運動によっても振動を吸収すると考えられる。
【0018】
上記した本発明の鉄合金は、塑性加工などが施されて所望形状が付与された部材(鉄合金部材)の他、加工前の素材(鉄合金素材)をも含む。その用途は必ずしも限定されていないが、上記のような優れた制振性から明らかなように、制振材料として好適であることは当然である。そして、本発明の鉄合金からなる鉄合金素材は延性が高いため、プレス成形、鍛造、圧延などの通常の塑性加工の他、組成によっては深絞り、引き抜き、などの強加工も可能であり、所望形状の鉄合金部材が得られる。なお、本発明の鉄合金の延性および鉄合金部材の制振性の程度は、施される加工や部材の用途に応じて、適切な組成範囲の元で適宜選択されるとよい。
【0019】
なお、本発明の鉄合金は、α相に固溶して結晶粒内を強化する強化元素であるMnを含む鉄合金であり、全体的な添加元素量も適量である。そのため、本発明の鉄合金は、制振性および加工性だけでなく、強度、剛性、靭性などにも優れ、多種多様な部材に利用が可能である。
【0020】
また、本明細書中でいう「改質元素」は、Fe、Cr、GaおよびMn以外であって、鉄合金の特性改善に有効な元素である。改善される特性の種類は問わないが、制振性、軟磁性、強度、靱性、延性、高温安定性などがある。改質元素の具体例として、Cu、Ni、などがある。各元素の組合せは任意である。これらの改質元素の含有量は例示した範囲には限られず、また、通常その含有量は微量である。
【0021】
「不可避不純物」は、原料粉末中に含まれる不純物や各工程時に混入する不純物などであって、コスト的または技術的な理由などにより除去することが困難な元素である。本発明に係る鉄合金の場合であれば、たとえば、炭素(C)、リン(P)、硫黄(S)等がある。なお当然ながら、改質元素や不可避不純物の組成は特に限定されない。
【0022】
また、本発明は、上述した鉄合金または鉄合金部材のみならず、その製造方法としても把握できる。すなわち、本発明の鉄合金からなる鉄合金部材の製造方法は、全体を100%としたときに3〜8%のクロム(Cr)と3〜8%のガリウム(Ga)と0.3〜2.1%のマンガン(Mn)と残部が鉄(Fe)と不可避不純物および/または改質元素とからなる鉄合金素材に再結晶温度以上で塑性加工を施す熱間加工工程と、
前記熱間加工工程後の鉄合金素材を前記再結晶温度以上の焼鈍温度に加熱した後に徐冷する焼鈍工程と、
を備え前記鉄合金素材を所望形状にした制振部材が得られることを特徴とする。
【0023】
なお、特に断らない限り、本明細書でいう「a〜b」は下限aおよび上限bを含む。また、本明細書に記載した下限および上限は任意に組み合わせて「c〜d」のような範囲を構成し得る。
【0024】
本明細書でいう「鉄合金」または「鉄合金部材」はその形態を問わない。特に鉄合金は、たとえば、バルク状、板状、棒状、管状などの素材であってもよいし、最終的な形状またはそれに近い構造部材自体であってもよい。
【0025】
また、それらの素材となる鉄合金素材は、溶製材でも焼結材でもよいが、溶製材であれば、緻密で安定した品質の素材が安価で得られる。一方、焼結材であれば、(ニア)ネットシェイプにより最終製品形状に近い状態の鉄合金素材が得られる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の鉄合金は、高延性を示し加工性に優れる。また、本発明の鉄合金からなる鉄合金部材は、優れた制振性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】Fe−5Cr−xGa−yMn合金(単位:質量%)について、損失係数および伸びを示すグラフである。
【図2】制振性を指標する損失係数の算出方法を示す説明図であって、中央加振法を説明する。
【図3】Fe−5Cr−5Ga−yMn合金(単位:質量%)について、損失係数および伸びを示すグラフである。
【図4】制振性を指標する損失係数の算出方法を示す説明図であって、片持ち梁法を説明する。
【図5】Fe−5Cr−5Ga合金(単位:質量%)の金属組織を示す図面代用写真である。
【図6】Fe−5Cr−5Ga−0.2Mn合金(単位:質量%)の金属組織を示す図面代用写真である。
【図7】Fe−5Cr−5Ga−0.3Mn合金(単位:質量%)の金属組織を示す図面代用写真である。
【図8】Fe−5Cr−5Ga−0.5Mn合金(単位:質量%)の金属組織を示す図面代用写真である。
【図9】Fe−5Cr−5Ga−1Mn合金(単位:質量%)の金属組織を示す図面代用写真である。
【図10】Fe−5Cr−5Ga−1.5Mn合金(単位:質量%)の金属組織を示す図面代用写真である。
【図11】Fe−5Cr−5Ga−2Mn合金(単位:質量%)の金属組織を示す図面代用写真である。
【図12】Fe−5Cr−5Ga−3Mn合金(単位:質量%)の金属組織を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。なお、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、本発明に係る鉄合金のみならず、鉄合金部材およびその製造方法にも適宜適用される。このため、下記から選択される構成は、いずれの発明にも、また、カテゴリーを越えて、重畳的または任意的に、上述した本発明の構成に付加可能である。たとえば、鉄合金の組成に関する構成であれば、鉄合金部材は勿論、その製造方法にも関連する。また、製造方法に関する構成のように見えても、プロダクトバイプロセスとして理解すれば、鉄合金に関する構成ともなり得る。なお、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0029】
<合金組成>
本発明の鉄合金、鉄合金部材および鉄合金素材(以下、単に「鉄合金」という。)は、主成分であるFeと、Cr、GaおよびMnからなる。具体的には、本発明の鉄合金は、全体を100質量%としたときに(以下単に「%」という。)、3〜8%のCrと、3〜8%のGaと、0.3〜2.1%のMnと、残部がFeと不可避不純物および/または改質元素とからなる。改質元素および不可避不純物については前述した通りである。
【0030】
CrおよびGaは、鉄合金の少なくとも制振性を向上させるのに有効な元素である。
【0031】
Crを添加した鉄合金は、磁気特性が高く、優れた制振性を示す。しかし、Cr含有量が3%未満では磁気特性の向上効果が小さく、十分な制振性が得られない。好ましいCr含有量は、4%以上、4.5%以上、4.9%以上さらには4.95%以上である。ただし、Cr含有量が過多では、高温(たとえば750℃以上)にしてもγ相が生成せずα相が安定化する。そのため、Cr含有量が過多では、高温環境下においてα相が粗大化して延性が低下する。また、Crが過多ではコスト高になる。そのため、Cr含有量は8%以下とする。好ましいCr含有量は、7%以下、6%以下、5.5%以下、5.1%以下さらには5.05%以下である。
【0032】
そして、CrとともにGaを含むことで、制振性が相乗的に向上したものと考えられる。しかし、Ga含有量が3%未満では磁気特性の向上効果が小さく、十分な制振性が得られない。好ましいGa含有量は、4%以上、4.5%以上、4.9%以上さらには4.95%以上である。ただし、Ga含有量が過多では、延性を低下させる。また、Gaは非常に高価であるため、添加量が多すぎるとコスト高に繋がる。そのため、Ga含有量は8%以下とする。好ましいGa含有量は、7%以下、6%以下、5.5%以下、5.1%以下さらには5.05%以下である。
【0033】
Mnは、Fe−Cr(−Ga)合金に少量添加することで、延性が向上する。Mnを添加することで、常温ではCr2FeMn化合物からなるσ相がα相の他に生成され、高温ではγ相が安定化する。つまり、介在物の微細分散および相変態を用いた結晶粒微細効果により、延性が向上する。この効果は、Mnが少量でも添加されていれば得られる効果であるが、Mn含有量は0.3%以上、好ましくは0.5%以上である。しかし、Mn含有量が過多ではコスト高となるだけでなく制振性が低下するので好ましくない。そのため、Mn含有量は2.1%好ましくは2%以下、特に1.5%以下さらには1.1%以下とすると、適度な延性と高い制振性が両立するため好ましい。
【0034】
<金属組織>
本発明の鉄合金は、結晶粒微細効果に起因する高延性により、加工性に優れる。加工前の鉄合金(鋳放しの状態の合金素材)または熱間加工後の合金素材において、結晶粒の平均粒径が700μm以下、600μm以下さらには50μm以上500μm以下であるとよい。これら結晶粒は、α相およびσ相からなる。なお、結晶粒径の測定は、断面の各種顕微鏡写真より算出することができる。具体的には、顕微鏡写真から複数個の結晶粒の最大径(粒子を2本の平行線で挟んだとき平行線の間隔の最大値)を測定し、それらの算術平均値を平均粒径とすればよい。
【0035】
加工性の観点では、結晶粒径は小さい方が望ましい。しかし、結晶粒径が大きい方が、制振性は高くなる。したがって、本発明の鉄合金からなる制振部材においては、結晶粒の平均粒径が70〜400μmさらには100〜300μmであるとよい。なお、これら結晶粒は、α相およびσ相からなる。
【0036】
<製造方法>
<1.合金素材>
合金素材は、上述した組成を有するものであれば、溶製材でも焼結材でもよい。もっとも、酸化物等の介在によって鉄合金の制振性、機械的特性などが低下し得るので、鉄合金素材は酸化防止雰囲気さらには真空雰囲気で鋳造や焼結されたものであるのが好ましい。
【0037】
<2.塑性加工>
本発明の製造方法に係る塑性加工として、熱間加工工程と冷間加工工程がある。
【0038】
熱間加工工程は、鉄合金素材を再結晶温度(750℃程度)以上に加熱した状態で塑性加工を施す工程である。再結晶温度以上に加熱するとγ相が生成されるとともに加工の応力負荷により、結晶粒はさらに微細化する。このような塑性加工として、たとえば、熱間圧延、熱間鍛造などが挙げられる。この熱間加工工程を行う温度(熱間温度)は、再結晶温度以上であるが、たとえば、750〜1100℃さらには850〜1050℃であると好ましい。
【0039】
冷間加工工程は、鉄合金素材をその再結晶温度未満の冷間温度で塑性加工を施す工程である。このような冷間加工には、鉄合金部材の仕様に応じて、打ち抜き、曲げ、絞りなど多種多様な加工がある。冷間加工工程は、さらに結晶粒が微細化した熱間加工工程後の鉄合金素材(後述の焼鈍工程前)に対して行われるのが好ましい。しかし、本発明の鉄合金であれば鋳放しの状態であっても30%以上さらには40%以上の高い延性を示すため、鋳放し材に直接冷間加工を行ってもよい。熱間加工工程後に行われる冷間加工工程は、鉄合金素材を最終的な製品(鉄合金部材)の形状かそれに近い形状とする工程である。この場合の冷間加工工程は、本発明の製造方法に必須の工程ではないが、仕様の定まった鉄合金部材を安価に量産する場合に有効な工程である。
【0040】
これらの熱間加工工程や冷間加工工程で行う加工度は、鉄合金素材のサイズや最終的な鉄合金部材のサイズにより異なるため一概に特定できないが、その加工度は鉄合金の制振性にも影響することが解っている。これは、加工度が増加することによって、鉄合金素材または鉄合金部材中に導入される加工歪や転位などが増加し、また、結晶粒径も小さくなって、振動エネルギーを吸収する磁壁の移動性や転位密度などが変化するためと考えられる。熱間加工工程の加工度を指標するものとして、たとえば、圧下率(加工後の厚さの変化分/加工前の厚さ)がある。本発明の鉄合金では、たとえば、この圧下率を50〜90%さらには60〜80%とするとよい。
【0041】
<3.焼鈍工程>
焼鈍工程は、塑性加工後の鉄合金素材を、その再結晶温度以上の焼鈍温度に加熱した後に徐冷する工程である。これにより、それ以前の塑性加工で導入された加工歪や転位などが除去または減少され得る。また、結晶粒が成長して大きくなることで、制振性が向上する。この焼鈍温度は、前述した熱間温度と同様、再結晶温度以上であるが、たとえば、750〜1150℃さらには850〜1100℃であると好ましい。また、加熱時間は、30分〜1.5時間さらには45分〜60分が好ましい。
【0042】
焼鈍温度から鉄合金素材を徐冷することにより焼鈍工程が完了し、制振性に優れた鉄合金部材が得られる。冷却速度が1000℃/分を超える(たとえば水冷または油冷する)と、制振合金部材に歪が入るなどして制振性が低下するため望ましくない。そのため、空冷または加熱炉を用いた炉冷などで行うとよい。冷却速度は、1〜20℃/分さらには1.5〜10℃/分であるのが望ましい。
【0043】
<制振合金部材>
制振部材に係る具体例を挙げると、内燃機関の振動部位に介在させる振動緩衝体がある。より具体的には、エンジンのオイルパンをシリンダブロックへ固定するボルトに介在させるワッシャ、燃料用インジェクタとシリンダヘッドとの間に介在させるワッシャ、エンジンの排気熱を遮蔽するインシュレータやそれを固定するボルトに介在させるワッシャの他、オイルパン、吸気パイプ、ヘッドカバーなどである。
【0044】
なお、本発明の鉄合金部材は耐熱性(制振性の高温安定性)に優れるので、高温となるエンジンの各種部材に使用しても、300℃程度までなら、その制振性はほとんど低下しない。
【0045】
本発明の鉄合金部材は、上述したような制振性の他に、ベースがFeであるから、強度、剛性、靱性、伸びなど、各種の機械的特性にも優れる。たとえば、引張強度は360MPa程度、0.2%耐力は240MPa程度あり、十分に高強度である。
【0046】
このように各種の機械的特性に優れるので本発明の鉄合金は構造部材としても十分利用可能である。従って、従来の構造部材を本発明の鉄合金部材で置換すれば、前述した制振性をも併せもたせることが可能となる。
【実施例】
【0047】
実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0048】
《試験片の製造》
(1)鉄合金素材の溶製
原料として純Fe、純Ga、純Mnおよび純Crの鋳塊を用意して、表1に示す種々の合金組成に配合した。これらの配合原料をアルミナ製坩堝に入れて高周波真空溶解炉で溶解した。この溶解は、0.1〜0.5torr(13.322〜66.661Pa)まで排気した後、100torr(13332.2Pa)までArガスを導入し、さらにその脱ガス後に500torr(66661Pa)までArガスを導入した雰囲気で行った。このときの溶解温度は1530℃とし、一度の溶解で5kgの溶湯を調製した。こうして得られた鉄合金溶湯をアルゴンガス雰囲気の下、鋳鉄製の鋳型へ注湯し、自然冷却により凝固させた。こうして、φ70mm×130mmの円柱形状の試験片素材(鉄合金素材)を得た。
【0049】
(2)熱間加工工程
これらの試験片素材に対して、大気雰囲気の下で熱間圧延(塑性加工)を施した(熱間加工工程)。この圧延前には、予め1000℃×1時間の加熱(予熱)を行っておいた。(圧延前の厚さ−圧延後の厚さ)/(圧延前の厚さ)で表される圧延時の圧下率は、75%とした。
【0050】
(3)焼鈍工程
熱間圧延後の試験片素材を、大気雰囲気の加熱炉中に入れて1050℃で60分加熱した後、6時間かけて常温まで炉冷した。冷却速度は、約5.4℃/minであった。
【0051】
以上の工程を経て、制振性評価用の板状試験片(幅10mm×長さ160mm×厚さ3mm)を得た。
【0052】
《測定》
(I)金属組織の観察
鉄合金素材(試験片素材)の断面を、金属顕微鏡を用いて観察した。結果を図5〜図12に示した。また、これらの顕微鏡写真より、結晶粒径を測定した。結晶粒径は、顕微鏡写真から10個程度の結晶粒の最大径(粒子を2本の平行線で挟んだとき平行線の間隔の最大値)を測定し、それらの算術平均値を求めた。結果を表1に示した。Mn含有量が多いほど、結晶粒が小さくなることがわかった。
【0053】
(II)延性の評価
引張試験を行い、鉄合金素材(試験片素材)の伸びを測定した。伸びの測定は、JISG0567に準じて25℃において試験を行った。結果を、表1、図1および図3に示した。
【0054】
(III)制振性の評価
熱処理後の板状試験片(表1の#01〜#18)の損失係数を測定した。損失係数の測定は、片持ち梁法により行ったが、#01、#02、#11および#15は中央加振法による測定も行った。以下に、測定方法を説明する。
【0055】
(片持ち梁法)
片持ち梁法は、試験片の一端部を万力で固定して所定の自由長をもつ片持ち梁とし、自由振動を発生させて歪減衰曲線を測定する方法である。片持ち梁法の説明図を図4に示す。測定条件として、他端から80mmの位置に歪みゲージを接着し、自由長を130mmとし、他端部をハンマーで加振して自由振動を発生させた。付与した振動は、周波数:100Hz、歪振幅:1×10−4、であった。そして、歪ゲージに接続した動歪計からの信号をオシロスコープにより検出し、歪減衰曲線を得た。
【0056】
歪減衰曲線の概略を図4の右下に示す。損失係数の算出は、減衰自由振動波形から応答変位の振幅を読み取り、図4の式を用いてηを算出した。結果を表1および図3に示した。
【0057】
(中央加振法)
中央加振法は、試験片の中央を三角治具で支持して、その三角治具に所定の振動を付与し、試験片に伝達された振動の周波数を測定する方法である。本実施例で付与した振動は、周波数は1000〜10000Hz(ランダムノイズ)、歪振幅は5.5×10−6とした。
【0058】
周波数を変化させて前記の周波数域内における周波数応答関数を求めた。その周波数応答関数から半値幅法により損失係数を算出した。この算出方法の概要を図2に示した。測定結果を図1に示したが、このグラフに示した損失係数は、周波数が2000Hz付近について解析したものである。
【0059】
つまり、図1に示した損失係数は、高周波数域(1000〜10000Hz)における低歪振幅域(1×10−6〜1×10−5)での損失係数である。#15(Fe−5Cr−5Ga−1Mn)は、高周波数域かつ低歪振幅域であっても、損失係数が0.01以上の高い制振性を示した。
【0060】
図1において、#01(Fe−5Cr)と#11(Fe−5Cr−5Ga)との違いは、Gaの有無である。#01および#11にそれぞれMnを1%添加した#02と#15とで比較すると、Gaの存在により、Mnを添加したときに伸びが大きく向上することがわかった。つまり、#01にMnを添加しても伸びは45%→52%(7%増加)であったが、#11にMnを添加したことで、伸びは23%→48.5%(25.5%増加)となった。
【0061】
図3に示した損失係数は、周波数:100Hzで歪振幅:1×10−4の条件の下で測定および解析された結果である。Mn含有量が多いほど、伸びは向上し、制振性は低下する傾向にあった。Mn量が3%では伸びが悪化するが、Mnを2.1%程度含有しても、十分な延性を示すと考えられる。
【0062】
また、図3に測定結果を示した各試験片は、その金属組織を図5〜図12に示した。図3、図5〜図12および表1から明らかなように、Mn含有量が多いほど結晶粒は小さくなり、結晶粒が小さいほど伸びが高くなる傾向にあった。ただし、前述のように、Mn含有量が多くなると制振性が低下する。Mn量が3%では制振性が大きく低下するが、Mnを2.1%程度含有しても、十分な制振性を示すと考えられる。
【0063】
図3に示した以上の結果は、低周波数域かつ高歪振幅域での制振性である。しかしながら、#15が高周波数域かつ低歪振幅域において優れた制振性を示した(図1)ことから、低周波域かつ高歪振幅域における制振性に優れる#13、#14および#16に関しても、高周波数域かつ低歪振幅域において0.01以上の優れた制振性を示すことが推測できる。
【0064】
なお、本実施例には、CrおよびGaの含有量がそれぞれ5%の合金を示したが、それぞれの含有量が4.5〜5.5%程度であれば、同様の結果が得られると推測される。また、それぞれの含有量が3〜8%の範囲にあれば、制振性および伸びに対して同様の傾向を示すと推測される。
【0065】
【表1】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材料として用いられる鉄合金、その鉄合金からなる鉄合金部材およびその鉄合金部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械的に可動する可動部を有する装置や機器などは、その可動部が加振源となって、各部に多かれ少なかれ振動を生じることが多い。このような振動は様々な騒音の原因となったり、疲労強度の劣化に繋がったり、などして好ましくない。そこで、この振動を抑制する制振材が種々用いられている。たとえば、強度や剛性などの機械的特性があまり要求されず、使用環境(たとえば使用雰囲気)が穏やかな部材であれば、振動を吸収し易い樹脂材や、その樹脂を部分的に用いた素材(たとえば鋼板間に樹脂材を挟持した制振鋼板)が制振材として用いられる。
【0003】
しかし、強度などの機械的特性が要求され、高温雰囲気で使用される部材には、そのような制振材を安易に用いることはできず、金属材料からなる制振材が用いられることが多い。これまでにも、強度などの機械的特性、耐熱性さらには加工性などに優れると共に比較的原料コストが安価な鉄合金が提案されており、具体例として下記の特許文献1および特許文献2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−107135号公報
【特許文献2】特開平5−255813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている鉄合金は、珪素(Si)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)を含む。制振性を高めるためにCrおよびAl、強度確保を目的としてMn、を添加している。また、特許文献2では、加工性の観点から、高延性の達成を目的としてFe−Cr合金に対してMnを10〜27質量%添加している。
【0006】
ところで、これらの特許文献には、どのような領域で制振性に優れる鉄合金なのか、ほとんど明記されていない。本発明者の調査によれば、これらの鉄合金は、比較的大きな歪振幅域または低周波域における制振性を意図したものと思われる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものである。制振部材に用いられる加工性に優れた鉄合金、および、この鉄合金からなり優れた制振性を示す鉄合金部材を提供することを目的とする。また、この鉄合金部材の製造方法を併せて提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述のように、特許文献2では、Mnの添加が高延性(高加工性)を達成すると述べている。しかし、本発明者等の研究によれば、Fe−Cr合金にMnを添加すると、延性は向上しても制振性が低下することがわかった。本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、Fe−Cr合金に対しMnとともにガリウム(Ga)を添加した鉄合金が、高周波域かつ低歪振幅域での制振性を悪化させることなく、延性を大きく向上させられることを新たに見出した。そして、この成果を発展させることで以下に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の鉄合金は、制振部材に用いる加工性に優れた鉄合金であって、全体を100質量%としたときに(以下単に「%」という。)、3〜8%のクロム(Cr)と、3〜8%のガリウム(Ga)と、0.3〜2.1%のマンガン(Mn)と、残部が鉄(Fe)と不可避不純物および/または改質元素とからなることを特徴とする。
【0010】
ここで、図1は、Fe−5Cr−xGa−yMn合金(単位:質量%、x=0または5、y=0または1)について、高周波域および低歪振幅における室温での損失係数と室温での伸びとを示すグラフである。なお、合金の作製手順および評価方法は後述する。Fe−5Cr合金にMnを1質量%添加すると、延性は向上するが、制振性は低下する。一方、Fe−5Cr合金にGaを5質量%添加すると、制振性は大きく向上するが、延性は大きく低下する。ところが、Fe−5Cr−5Ga合金にさらにMnを1質量%添加すると、Gaの添加による制振性の向上効果を悪化させることなく、延性を大きく向上させられることがわかった。
【0011】
なお、図1に示す損失係数は中央加振法により求めた(図2参照)。すなわち、試験片(鉄合金部材)の中央を種々の周波数で加振したときの加振周波数(f0)に対する、試験片の端部で測定した測定周波数(f1、f2)の差分(Δf=f2−f1)の割合(η=Δf/f0=(f2−f1)/f0)である。具体的な測定方法は後述する。
【0012】
本発明者が本発明の鉄合金からなる部材(鉄合金部材)の制振性について調査研究したところ、その鉄合金部材は、低周波域においても振動を効果的に低減することがわかった。たとえば、80Hz以上200Hz以下の低周波域において、歪振幅が5×10−5以上5×10−4以下の減衰性を指標する損失係数(η)が0.03以上、0.04以上、0.05以上さらには0.06以上ともなることがわかった。また、上述のように、低歪振幅(たとえば1×10−6〜1×10−5)の振動をも効果的に低減することがわかった。
【0013】
ちなみに、振動減衰能を示す指標として、本明細書で主に用いた損失係数ηの他に、対数減衰率δや比減衰能W等がある。これらは相互に関係があり、δ=πηまたはW=2πηという関係式により、関連付けられる。従って、振動減衰能の指標が異なる場合でも、それら関係式を用いて換算することにより相互に比較することは可能である。
【0014】
そして本発明の鉄合金では、このような優れた制振性が、低温域や常温域で安定していることはもちろんのこと、高温域でも(低くとも300℃程度まで)安定しており、制振性の高温安定性が高い。したがって、本発明の鉄合金は従来以上に多種多様な部材へ利用可能である。
【0015】
ところで、本発明の鉄合金(「鉄合金部材」を含めて、適宜単に「鉄合金」という。)が上記のような優れた制振性を発現するメカニズムや理由は必ずしも定かではないが、現状では次のように考えられる。
【0016】
先ず、制振性は、振動エネルギーが制振材内部で部分的に吸収されるなどして低下し、振動の伝達が阻害される現象である。ちなみに、吸収された振動エネルギーは主に熱エネルギーに変換されて外部に放出される。このような振動エネルギーの低減メカニズム(制振メカニズム)として、磁壁(磁区の境界)の移動により振動を吸収する強磁性型、金属結晶の転位の運動により振動を吸収する転位型、マルテンサイト的変態で生成した双晶の運動により振動を吸収する双晶型、マトリクス(Feなど)と柔らかい分散粒子(黒鉛など)の界面付近の粘性流動により振動を吸収する複合型などがあるといわれている。
【0017】
本発明の鉄合金は、複数の制振メカニズムが融合して優れた制振性を発現していると思われるが、その成分組成からして主に、磁壁の移動によって振動が吸収される強磁性型であると思われる。もっとも、塑性加工を加えた本発明の鉄合金は、さらに、転位の運動によっても振動を吸収すると考えられる。
【0018】
上記した本発明の鉄合金は、塑性加工などが施されて所望形状が付与された部材(鉄合金部材)の他、加工前の素材(鉄合金素材)をも含む。その用途は必ずしも限定されていないが、上記のような優れた制振性から明らかなように、制振材料として好適であることは当然である。そして、本発明の鉄合金からなる鉄合金素材は延性が高いため、プレス成形、鍛造、圧延などの通常の塑性加工の他、組成によっては深絞り、引き抜き、などの強加工も可能であり、所望形状の鉄合金部材が得られる。なお、本発明の鉄合金の延性および鉄合金部材の制振性の程度は、施される加工や部材の用途に応じて、適切な組成範囲の元で適宜選択されるとよい。
【0019】
なお、本発明の鉄合金は、α相に固溶して結晶粒内を強化する強化元素であるMnを含む鉄合金であり、全体的な添加元素量も適量である。そのため、本発明の鉄合金は、制振性および加工性だけでなく、強度、剛性、靭性などにも優れ、多種多様な部材に利用が可能である。
【0020】
また、本明細書中でいう「改質元素」は、Fe、Cr、GaおよびMn以外であって、鉄合金の特性改善に有効な元素である。改善される特性の種類は問わないが、制振性、軟磁性、強度、靱性、延性、高温安定性などがある。改質元素の具体例として、Cu、Ni、などがある。各元素の組合せは任意である。これらの改質元素の含有量は例示した範囲には限られず、また、通常その含有量は微量である。
【0021】
「不可避不純物」は、原料粉末中に含まれる不純物や各工程時に混入する不純物などであって、コスト的または技術的な理由などにより除去することが困難な元素である。本発明に係る鉄合金の場合であれば、たとえば、炭素(C)、リン(P)、硫黄(S)等がある。なお当然ながら、改質元素や不可避不純物の組成は特に限定されない。
【0022】
また、本発明は、上述した鉄合金または鉄合金部材のみならず、その製造方法としても把握できる。すなわち、本発明の鉄合金からなる鉄合金部材の製造方法は、全体を100%としたときに3〜8%のクロム(Cr)と3〜8%のガリウム(Ga)と0.3〜2.1%のマンガン(Mn)と残部が鉄(Fe)と不可避不純物および/または改質元素とからなる鉄合金素材に再結晶温度以上で塑性加工を施す熱間加工工程と、
前記熱間加工工程後の鉄合金素材を前記再結晶温度以上の焼鈍温度に加熱した後に徐冷する焼鈍工程と、
を備え前記鉄合金素材を所望形状にした制振部材が得られることを特徴とする。
【0023】
なお、特に断らない限り、本明細書でいう「a〜b」は下限aおよび上限bを含む。また、本明細書に記載した下限および上限は任意に組み合わせて「c〜d」のような範囲を構成し得る。
【0024】
本明細書でいう「鉄合金」または「鉄合金部材」はその形態を問わない。特に鉄合金は、たとえば、バルク状、板状、棒状、管状などの素材であってもよいし、最終的な形状またはそれに近い構造部材自体であってもよい。
【0025】
また、それらの素材となる鉄合金素材は、溶製材でも焼結材でもよいが、溶製材であれば、緻密で安定した品質の素材が安価で得られる。一方、焼結材であれば、(ニア)ネットシェイプにより最終製品形状に近い状態の鉄合金素材が得られる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の鉄合金は、高延性を示し加工性に優れる。また、本発明の鉄合金からなる鉄合金部材は、優れた制振性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】Fe−5Cr−xGa−yMn合金(単位:質量%)について、損失係数および伸びを示すグラフである。
【図2】制振性を指標する損失係数の算出方法を示す説明図であって、中央加振法を説明する。
【図3】Fe−5Cr−5Ga−yMn合金(単位:質量%)について、損失係数および伸びを示すグラフである。
【図4】制振性を指標する損失係数の算出方法を示す説明図であって、片持ち梁法を説明する。
【図5】Fe−5Cr−5Ga合金(単位:質量%)の金属組織を示す図面代用写真である。
【図6】Fe−5Cr−5Ga−0.2Mn合金(単位:質量%)の金属組織を示す図面代用写真である。
【図7】Fe−5Cr−5Ga−0.3Mn合金(単位:質量%)の金属組織を示す図面代用写真である。
【図8】Fe−5Cr−5Ga−0.5Mn合金(単位:質量%)の金属組織を示す図面代用写真である。
【図9】Fe−5Cr−5Ga−1Mn合金(単位:質量%)の金属組織を示す図面代用写真である。
【図10】Fe−5Cr−5Ga−1.5Mn合金(単位:質量%)の金属組織を示す図面代用写真である。
【図11】Fe−5Cr−5Ga−2Mn合金(単位:質量%)の金属組織を示す図面代用写真である。
【図12】Fe−5Cr−5Ga−3Mn合金(単位:質量%)の金属組織を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。なお、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、本発明に係る鉄合金のみならず、鉄合金部材およびその製造方法にも適宜適用される。このため、下記から選択される構成は、いずれの発明にも、また、カテゴリーを越えて、重畳的または任意的に、上述した本発明の構成に付加可能である。たとえば、鉄合金の組成に関する構成であれば、鉄合金部材は勿論、その製造方法にも関連する。また、製造方法に関する構成のように見えても、プロダクトバイプロセスとして理解すれば、鉄合金に関する構成ともなり得る。なお、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0029】
<合金組成>
本発明の鉄合金、鉄合金部材および鉄合金素材(以下、単に「鉄合金」という。)は、主成分であるFeと、Cr、GaおよびMnからなる。具体的には、本発明の鉄合金は、全体を100質量%としたときに(以下単に「%」という。)、3〜8%のCrと、3〜8%のGaと、0.3〜2.1%のMnと、残部がFeと不可避不純物および/または改質元素とからなる。改質元素および不可避不純物については前述した通りである。
【0030】
CrおよびGaは、鉄合金の少なくとも制振性を向上させるのに有効な元素である。
【0031】
Crを添加した鉄合金は、磁気特性が高く、優れた制振性を示す。しかし、Cr含有量が3%未満では磁気特性の向上効果が小さく、十分な制振性が得られない。好ましいCr含有量は、4%以上、4.5%以上、4.9%以上さらには4.95%以上である。ただし、Cr含有量が過多では、高温(たとえば750℃以上)にしてもγ相が生成せずα相が安定化する。そのため、Cr含有量が過多では、高温環境下においてα相が粗大化して延性が低下する。また、Crが過多ではコスト高になる。そのため、Cr含有量は8%以下とする。好ましいCr含有量は、7%以下、6%以下、5.5%以下、5.1%以下さらには5.05%以下である。
【0032】
そして、CrとともにGaを含むことで、制振性が相乗的に向上したものと考えられる。しかし、Ga含有量が3%未満では磁気特性の向上効果が小さく、十分な制振性が得られない。好ましいGa含有量は、4%以上、4.5%以上、4.9%以上さらには4.95%以上である。ただし、Ga含有量が過多では、延性を低下させる。また、Gaは非常に高価であるため、添加量が多すぎるとコスト高に繋がる。そのため、Ga含有量は8%以下とする。好ましいGa含有量は、7%以下、6%以下、5.5%以下、5.1%以下さらには5.05%以下である。
【0033】
Mnは、Fe−Cr(−Ga)合金に少量添加することで、延性が向上する。Mnを添加することで、常温ではCr2FeMn化合物からなるσ相がα相の他に生成され、高温ではγ相が安定化する。つまり、介在物の微細分散および相変態を用いた結晶粒微細効果により、延性が向上する。この効果は、Mnが少量でも添加されていれば得られる効果であるが、Mn含有量は0.3%以上、好ましくは0.5%以上である。しかし、Mn含有量が過多ではコスト高となるだけでなく制振性が低下するので好ましくない。そのため、Mn含有量は2.1%好ましくは2%以下、特に1.5%以下さらには1.1%以下とすると、適度な延性と高い制振性が両立するため好ましい。
【0034】
<金属組織>
本発明の鉄合金は、結晶粒微細効果に起因する高延性により、加工性に優れる。加工前の鉄合金(鋳放しの状態の合金素材)または熱間加工後の合金素材において、結晶粒の平均粒径が700μm以下、600μm以下さらには50μm以上500μm以下であるとよい。これら結晶粒は、α相およびσ相からなる。なお、結晶粒径の測定は、断面の各種顕微鏡写真より算出することができる。具体的には、顕微鏡写真から複数個の結晶粒の最大径(粒子を2本の平行線で挟んだとき平行線の間隔の最大値)を測定し、それらの算術平均値を平均粒径とすればよい。
【0035】
加工性の観点では、結晶粒径は小さい方が望ましい。しかし、結晶粒径が大きい方が、制振性は高くなる。したがって、本発明の鉄合金からなる制振部材においては、結晶粒の平均粒径が70〜400μmさらには100〜300μmであるとよい。なお、これら結晶粒は、α相およびσ相からなる。
【0036】
<製造方法>
<1.合金素材>
合金素材は、上述した組成を有するものであれば、溶製材でも焼結材でもよい。もっとも、酸化物等の介在によって鉄合金の制振性、機械的特性などが低下し得るので、鉄合金素材は酸化防止雰囲気さらには真空雰囲気で鋳造や焼結されたものであるのが好ましい。
【0037】
<2.塑性加工>
本発明の製造方法に係る塑性加工として、熱間加工工程と冷間加工工程がある。
【0038】
熱間加工工程は、鉄合金素材を再結晶温度(750℃程度)以上に加熱した状態で塑性加工を施す工程である。再結晶温度以上に加熱するとγ相が生成されるとともに加工の応力負荷により、結晶粒はさらに微細化する。このような塑性加工として、たとえば、熱間圧延、熱間鍛造などが挙げられる。この熱間加工工程を行う温度(熱間温度)は、再結晶温度以上であるが、たとえば、750〜1100℃さらには850〜1050℃であると好ましい。
【0039】
冷間加工工程は、鉄合金素材をその再結晶温度未満の冷間温度で塑性加工を施す工程である。このような冷間加工には、鉄合金部材の仕様に応じて、打ち抜き、曲げ、絞りなど多種多様な加工がある。冷間加工工程は、さらに結晶粒が微細化した熱間加工工程後の鉄合金素材(後述の焼鈍工程前)に対して行われるのが好ましい。しかし、本発明の鉄合金であれば鋳放しの状態であっても30%以上さらには40%以上の高い延性を示すため、鋳放し材に直接冷間加工を行ってもよい。熱間加工工程後に行われる冷間加工工程は、鉄合金素材を最終的な製品(鉄合金部材)の形状かそれに近い形状とする工程である。この場合の冷間加工工程は、本発明の製造方法に必須の工程ではないが、仕様の定まった鉄合金部材を安価に量産する場合に有効な工程である。
【0040】
これらの熱間加工工程や冷間加工工程で行う加工度は、鉄合金素材のサイズや最終的な鉄合金部材のサイズにより異なるため一概に特定できないが、その加工度は鉄合金の制振性にも影響することが解っている。これは、加工度が増加することによって、鉄合金素材または鉄合金部材中に導入される加工歪や転位などが増加し、また、結晶粒径も小さくなって、振動エネルギーを吸収する磁壁の移動性や転位密度などが変化するためと考えられる。熱間加工工程の加工度を指標するものとして、たとえば、圧下率(加工後の厚さの変化分/加工前の厚さ)がある。本発明の鉄合金では、たとえば、この圧下率を50〜90%さらには60〜80%とするとよい。
【0041】
<3.焼鈍工程>
焼鈍工程は、塑性加工後の鉄合金素材を、その再結晶温度以上の焼鈍温度に加熱した後に徐冷する工程である。これにより、それ以前の塑性加工で導入された加工歪や転位などが除去または減少され得る。また、結晶粒が成長して大きくなることで、制振性が向上する。この焼鈍温度は、前述した熱間温度と同様、再結晶温度以上であるが、たとえば、750〜1150℃さらには850〜1100℃であると好ましい。また、加熱時間は、30分〜1.5時間さらには45分〜60分が好ましい。
【0042】
焼鈍温度から鉄合金素材を徐冷することにより焼鈍工程が完了し、制振性に優れた鉄合金部材が得られる。冷却速度が1000℃/分を超える(たとえば水冷または油冷する)と、制振合金部材に歪が入るなどして制振性が低下するため望ましくない。そのため、空冷または加熱炉を用いた炉冷などで行うとよい。冷却速度は、1〜20℃/分さらには1.5〜10℃/分であるのが望ましい。
【0043】
<制振合金部材>
制振部材に係る具体例を挙げると、内燃機関の振動部位に介在させる振動緩衝体がある。より具体的には、エンジンのオイルパンをシリンダブロックへ固定するボルトに介在させるワッシャ、燃料用インジェクタとシリンダヘッドとの間に介在させるワッシャ、エンジンの排気熱を遮蔽するインシュレータやそれを固定するボルトに介在させるワッシャの他、オイルパン、吸気パイプ、ヘッドカバーなどである。
【0044】
なお、本発明の鉄合金部材は耐熱性(制振性の高温安定性)に優れるので、高温となるエンジンの各種部材に使用しても、300℃程度までなら、その制振性はほとんど低下しない。
【0045】
本発明の鉄合金部材は、上述したような制振性の他に、ベースがFeであるから、強度、剛性、靱性、伸びなど、各種の機械的特性にも優れる。たとえば、引張強度は360MPa程度、0.2%耐力は240MPa程度あり、十分に高強度である。
【0046】
このように各種の機械的特性に優れるので本発明の鉄合金は構造部材としても十分利用可能である。従って、従来の構造部材を本発明の鉄合金部材で置換すれば、前述した制振性をも併せもたせることが可能となる。
【実施例】
【0047】
実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0048】
《試験片の製造》
(1)鉄合金素材の溶製
原料として純Fe、純Ga、純Mnおよび純Crの鋳塊を用意して、表1に示す種々の合金組成に配合した。これらの配合原料をアルミナ製坩堝に入れて高周波真空溶解炉で溶解した。この溶解は、0.1〜0.5torr(13.322〜66.661Pa)まで排気した後、100torr(13332.2Pa)までArガスを導入し、さらにその脱ガス後に500torr(66661Pa)までArガスを導入した雰囲気で行った。このときの溶解温度は1530℃とし、一度の溶解で5kgの溶湯を調製した。こうして得られた鉄合金溶湯をアルゴンガス雰囲気の下、鋳鉄製の鋳型へ注湯し、自然冷却により凝固させた。こうして、φ70mm×130mmの円柱形状の試験片素材(鉄合金素材)を得た。
【0049】
(2)熱間加工工程
これらの試験片素材に対して、大気雰囲気の下で熱間圧延(塑性加工)を施した(熱間加工工程)。この圧延前には、予め1000℃×1時間の加熱(予熱)を行っておいた。(圧延前の厚さ−圧延後の厚さ)/(圧延前の厚さ)で表される圧延時の圧下率は、75%とした。
【0050】
(3)焼鈍工程
熱間圧延後の試験片素材を、大気雰囲気の加熱炉中に入れて1050℃で60分加熱した後、6時間かけて常温まで炉冷した。冷却速度は、約5.4℃/minであった。
【0051】
以上の工程を経て、制振性評価用の板状試験片(幅10mm×長さ160mm×厚さ3mm)を得た。
【0052】
《測定》
(I)金属組織の観察
鉄合金素材(試験片素材)の断面を、金属顕微鏡を用いて観察した。結果を図5〜図12に示した。また、これらの顕微鏡写真より、結晶粒径を測定した。結晶粒径は、顕微鏡写真から10個程度の結晶粒の最大径(粒子を2本の平行線で挟んだとき平行線の間隔の最大値)を測定し、それらの算術平均値を求めた。結果を表1に示した。Mn含有量が多いほど、結晶粒が小さくなることがわかった。
【0053】
(II)延性の評価
引張試験を行い、鉄合金素材(試験片素材)の伸びを測定した。伸びの測定は、JISG0567に準じて25℃において試験を行った。結果を、表1、図1および図3に示した。
【0054】
(III)制振性の評価
熱処理後の板状試験片(表1の#01〜#18)の損失係数を測定した。損失係数の測定は、片持ち梁法により行ったが、#01、#02、#11および#15は中央加振法による測定も行った。以下に、測定方法を説明する。
【0055】
(片持ち梁法)
片持ち梁法は、試験片の一端部を万力で固定して所定の自由長をもつ片持ち梁とし、自由振動を発生させて歪減衰曲線を測定する方法である。片持ち梁法の説明図を図4に示す。測定条件として、他端から80mmの位置に歪みゲージを接着し、自由長を130mmとし、他端部をハンマーで加振して自由振動を発生させた。付与した振動は、周波数:100Hz、歪振幅:1×10−4、であった。そして、歪ゲージに接続した動歪計からの信号をオシロスコープにより検出し、歪減衰曲線を得た。
【0056】
歪減衰曲線の概略を図4の右下に示す。損失係数の算出は、減衰自由振動波形から応答変位の振幅を読み取り、図4の式を用いてηを算出した。結果を表1および図3に示した。
【0057】
(中央加振法)
中央加振法は、試験片の中央を三角治具で支持して、その三角治具に所定の振動を付与し、試験片に伝達された振動の周波数を測定する方法である。本実施例で付与した振動は、周波数は1000〜10000Hz(ランダムノイズ)、歪振幅は5.5×10−6とした。
【0058】
周波数を変化させて前記の周波数域内における周波数応答関数を求めた。その周波数応答関数から半値幅法により損失係数を算出した。この算出方法の概要を図2に示した。測定結果を図1に示したが、このグラフに示した損失係数は、周波数が2000Hz付近について解析したものである。
【0059】
つまり、図1に示した損失係数は、高周波数域(1000〜10000Hz)における低歪振幅域(1×10−6〜1×10−5)での損失係数である。#15(Fe−5Cr−5Ga−1Mn)は、高周波数域かつ低歪振幅域であっても、損失係数が0.01以上の高い制振性を示した。
【0060】
図1において、#01(Fe−5Cr)と#11(Fe−5Cr−5Ga)との違いは、Gaの有無である。#01および#11にそれぞれMnを1%添加した#02と#15とで比較すると、Gaの存在により、Mnを添加したときに伸びが大きく向上することがわかった。つまり、#01にMnを添加しても伸びは45%→52%(7%増加)であったが、#11にMnを添加したことで、伸びは23%→48.5%(25.5%増加)となった。
【0061】
図3に示した損失係数は、周波数:100Hzで歪振幅:1×10−4の条件の下で測定および解析された結果である。Mn含有量が多いほど、伸びは向上し、制振性は低下する傾向にあった。Mn量が3%では伸びが悪化するが、Mnを2.1%程度含有しても、十分な延性を示すと考えられる。
【0062】
また、図3に測定結果を示した各試験片は、その金属組織を図5〜図12に示した。図3、図5〜図12および表1から明らかなように、Mn含有量が多いほど結晶粒は小さくなり、結晶粒が小さいほど伸びが高くなる傾向にあった。ただし、前述のように、Mn含有量が多くなると制振性が低下する。Mn量が3%では制振性が大きく低下するが、Mnを2.1%程度含有しても、十分な制振性を示すと考えられる。
【0063】
図3に示した以上の結果は、低周波数域かつ高歪振幅域での制振性である。しかしながら、#15が高周波数域かつ低歪振幅域において優れた制振性を示した(図1)ことから、低周波域かつ高歪振幅域における制振性に優れる#13、#14および#16に関しても、高周波数域かつ低歪振幅域において0.01以上の優れた制振性を示すことが推測できる。
【0064】
なお、本実施例には、CrおよびGaの含有量がそれぞれ5%の合金を示したが、それぞれの含有量が4.5〜5.5%程度であれば、同様の結果が得られると推測される。また、それぞれの含有量が3〜8%の範囲にあれば、制振性および伸びに対して同様の傾向を示すと推測される。
【0065】
【表1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体を100質量%としたときに(以下単に「%」という。)、
3〜8%のクロム(Cr)と、
3〜8%のガリウム(Ga)と、
0.3〜2.1%のマンガン(Mn)と、
残部が鉄(Fe)と不可避不純物および/または改質元素とからなることを特徴とする制振部材に用いる加工性に優れた鉄合金。
【請求項2】
Mnを0.5〜1.5%含む請求項1に記載の鉄合金。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鉄合金からなる鉄合金部材であって、
5×10−5以上5×10−4以下の歪振幅域、80Hz以上200Hz以下の周波数域での制振性を指標する損失係数が0.03以上の制振部材であることを特徴とする鉄合金部材。
【請求項4】
全体を100%としたときに3〜8%のクロム(Cr)と3〜8%のガリウム(Ga)と0.3〜2.1%のマンガン(Mn)と残部が鉄(Fe)と不可避不純物および/または改質元素とからなる鉄合金素材に再結晶温度以上で塑性加工を施す熱間加工工程と、
前記熱間加工工程後の鉄合金素材を前記再結晶温度以上の焼鈍温度に加熱した後に徐冷する焼鈍工程と、
を備え前記鉄合金素材を所望形状にした制振部材が得られることを特徴とする鉄合金部材の製造方法。
【請求項5】
前記鉄合金素材は、平均粒径が700μm以下の結晶粒からなる請求項4に記載の鉄合金部材の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記焼鈍工程前に、前記鉄合金素材を前記再結晶温度未満の冷間温度で塑性加工を施す冷間加工工程を備える請求項4または5に記載の鉄合金部材の製造方法。
【請求項7】
前記鉄合金素材は、真空中で溶製した溶製材である請求項4〜6のいずれかに記載の鉄合金部材の製造方法。
【請求項1】
全体を100質量%としたときに(以下単に「%」という。)、
3〜8%のクロム(Cr)と、
3〜8%のガリウム(Ga)と、
0.3〜2.1%のマンガン(Mn)と、
残部が鉄(Fe)と不可避不純物および/または改質元素とからなることを特徴とする制振部材に用いる加工性に優れた鉄合金。
【請求項2】
Mnを0.5〜1.5%含む請求項1に記載の鉄合金。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鉄合金からなる鉄合金部材であって、
5×10−5以上5×10−4以下の歪振幅域、80Hz以上200Hz以下の周波数域での制振性を指標する損失係数が0.03以上の制振部材であることを特徴とする鉄合金部材。
【請求項4】
全体を100%としたときに3〜8%のクロム(Cr)と3〜8%のガリウム(Ga)と0.3〜2.1%のマンガン(Mn)と残部が鉄(Fe)と不可避不純物および/または改質元素とからなる鉄合金素材に再結晶温度以上で塑性加工を施す熱間加工工程と、
前記熱間加工工程後の鉄合金素材を前記再結晶温度以上の焼鈍温度に加熱した後に徐冷する焼鈍工程と、
を備え前記鉄合金素材を所望形状にした制振部材が得られることを特徴とする鉄合金部材の製造方法。
【請求項5】
前記鉄合金素材は、平均粒径が700μm以下の結晶粒からなる請求項4に記載の鉄合金部材の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記焼鈍工程前に、前記鉄合金素材を前記再結晶温度未満の冷間温度で塑性加工を施す冷間加工工程を備える請求項4または5に記載の鉄合金部材の製造方法。
【請求項7】
前記鉄合金素材は、真空中で溶製した溶製材である請求項4〜6のいずれかに記載の鉄合金部材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−241437(P2011−241437A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113986(P2010−113986)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】
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